説明

脂質代謝改善用組成物

【課題】効率良く脂質代謝を改善することができる剤または飲食品の提供。更に、副次的には、脂質代謝効果のある大豆たん白を含有する酸性風味の剤または飲食品の提供。
【解決手段】酸性可溶の大豆たん白を含む脂質代謝改善用組成物。pH4.0での溶解率が60%以上の大豆たん白質が好ましい。
【効果】従来の大豆たん白に比べてより少量の摂取で脂質代謝を改善することができ、副次的には従来にない酸性風味の大豆たん白を含有する飲食品及び剤を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
脂質代謝改善効果のある酸性可溶の大豆たん白を含む組成物である。
【背景技術】
【0002】
近年、心臓血管疾患による死亡率が急増しており、その発症の危険率と血中コレステロール濃度の相関が指摘されている。このような中、食品素材により脂質代謝を改善し、コレステロール濃度を低下させようという試みがなされてきた。こうした食品素材の一つとして、優れた栄養価をもつ植物性たん白である大豆たん白がある。大豆たん白の持つ血中の中性脂肪低下能は、大豆たん白が体脂肪率を下げる効果などから既に確認されており、そのメカニズムは肝臓での脂肪酸合成酵素の活性を抑えるためであるとの報告もある(非特許文献1)。しかし食生活が多様化したため、豆腐等の伝統食品の摂取量が減り、大豆たん白を日々の食事で必要量取ることが難しくなってきている。そのため大豆たん白を効率よく美味しく摂取するために、例えば剤として或いは風味良好な新規な飲食品を提供する方法が模索されている。
【0003】
こうした中で全大豆グロブリンのみならず、7Sグロブリン、11Sグロブリンの各々についても血中及び肝臓脂質に与える影響が検討されており、それらが動物性たん白質であるカゼインに比べて、血中のコレステロールや中性脂肪を低減する脂質代謝改善効果において総じて優れているという報告がある(非特許文献2,非特許文献3)。また、大豆たん白加水分解物(非特許文献4)およびレシチン結合大豆たん白(非特許文献5)にも同様の効果があることが示されている。
【0004】
このため大豆たん白、その分画物、あるいはそれらの分解物等を含む、脂質代謝改善を目的とした飲食品の開発が試みられてきた。血中コレステロール低減作用を訴求した大豆たん白の特定保健用食品が市販されており、その作用を期待する大豆たん白の摂取量は6g/日以上とされる。この様に従来の分離大豆たん白を有効量含むように飲食品又は剤を加工した場合、比較的多量に必要とする。また従来の分離大豆たん白は酸性にした場合に不溶化するため、中性のものしかできずに風味のヴァリエーションに乏しいという課題がある。このため酸性での溶解性の高い加水分解物を用いた場合も、苦味、えぐ味等が生じるため、風味を損ない飲食品中に十分な量を加えることができなかった。投与量の減少を目的に、大豆たん白の7Sグロブリンを有効成分とする中性脂肪低減用組成物もあるが、分画等をしない大豆たん白とは異なる(特許文献1)。
【0005】
【特許文献1】国際公開WO2002/026243号公報
【非特許文献1】J.Nutr.,126,380,1996
【非特許文献2】J.Nutr.,27,379,1981
【非特許文献3】Atherosclerosis,72,115
【非特許文献4】J.Nutr.,120,977,1990
【非特許文献5】Ann.Nutr.Metab., 29 348,1985
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって本発明は、効率良く脂質代謝を改善できる剤または飲食品を提供することを課題とする。副次的には、酸性風味の大豆たん白を含有する剤または飲食品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らはこれらの問題点を鑑み、少量で脂質代謝改善効果があり、なおかつ風味良好な大豆たん白を得るため鋭意、研究を進めたところ、酸性で優れた溶解性を有す大豆たん白を用いることにより従来の大豆たん白に比べてより少量の摂取で脂質代謝を改善できること、副次的には従来にない酸性風味の大豆たん白を含有する飲食品及び剤を提供できることを見出した。
【0008】
すなわち本発明は、
(1).酸性可溶大豆たん白を有効成分とする脂質代謝改善用組成物、
(2).組成物が剤又は飲食品である(1)記載の組成物、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の酸性可溶大豆たん白を含む脂質代謝改善用組成物を摂取することにより、従来の大豆たん白に比べてより効率よく脂質代謝を改善でき、副次的には脂質代謝改善効果のある大豆たん白を含有する酸性の飲食品及び剤を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明における酸性可溶大豆たん白は、pH4.0での溶解率が60%以上、このましくは80%以上、より好ましくは90%以上のものが適している。
【0011】
酸性可溶大豆たん白の製造法は特に問わないが、例えばWO2002/67690号公報や特公昭53−19669号公報等に公開されている製造法を利用できる。
例えば、大豆たん白を含む溶液において、酸性域における大豆たん白粒子のプラスの表面電荷を増加させる処理、又は/及び酸性域において加熱処理を行うことが特徴である。詳しくは酸性域において、
(A)大豆たん白を含む溶液中の原料たん白由来のフィチン酸のようなポリアニオン物質を除去するか不活性化する処理、例えば大豆中のフィチン酸をフィターゼ等で除去する処理、
(B)大豆たん白を含む溶液中にキトサンのようなポリカチオン物質を添加する処理、
(C)大豆たん白を含む溶液を該たん白の等電点のpHより酸性域で、100℃を超える温度で加熱する処理、
等を単独又は組み合わせて行うことにより、大豆たん白の酸性下における溶解率を高め、酸性下における凝集を防止し、分散安定化することができ、酸性飲食品の保存中における沈殿も抑制することができる。
【0012】
いずれの処理を行った酸性可溶大豆たん白を選択するかは、飲食品のpHや形態によっても異なるが、(C)単独での処理はpH2〜3.5程度の酸性域の中でも比較的低pH側でのたん白の溶解率を高めることができるが、より広いpH域においてたん白を分散安定化するには(A)又は/及び(B)の処理を行った大豆たん白を選択することが好ましい。
【0013】
さらに広いpH域において溶解性が高い酸性可溶大豆たん白を得たい場合には、上記(A)又は/及び(B)の処理を行った後に(C)の処理を行うことが好ましい。これにより、酸性下での溶解率および透明性がより高く、酸性飲食品に使用したときの保存中の沈殿も少ない酸性可溶大豆たん白を得ることができる。
【0014】
ここで酸性可溶大豆たん白の原料は、大豆たん白を含むものであれば特に限定されず、豆乳(全脂、脱脂を問わない。以下同じ。)、豆乳の酸沈殿カード、分離大豆たん白、大豆粉、または大豆磨砕物等を必要により加水して適宜選択することができる。
【0015】
また本発明の酸性可溶大豆たん白は、部分加水分解物であってもよい。部分加水分解物を得るには、(C)の処理を行う場合は、その前に分解反応を行っておくのがよい。又、(A)又は/及び(B)の処理を行う場合は、それらの処理と同時かまたはその前後に分解を行うことができる。使用するプロテアーゼや分解反応の条件、プロテアーゼ添加量などは、特に制限されない。
【0016】
本発明における酸性可溶大豆たん白の部分加水分解物の分解度は、0.22MのTCA可溶化率(分析法は後に記載)を尺度とした場合、0.22MのTCA可溶化率が80%以下、好ましくは60%以下、より好ましくは、40%以下、最も好ましくは20%以下である。尚、加水分解反応を行わない場合、前述の製造法で得られる酸性可溶大豆たん白の0.22MのTCA可溶化率は、20%未満となる。
【0017】
本発明の脂質代謝改善用組成物は、剤または飲食品をいうが、剤の場合は種々の投与形態の製剤とすることができる。すなわち、錠剤、硬カプセル剤、軟カプセル剤、粒剤もしくは丸剤等の固形製剤や、溶液、エマルジョンもしくはサスペンジョンなどの液剤の形態等で投与することができる。これらの製剤の調製にあたっては製剤化のために許容される添加剤、例えば賦形剤、安定剤、防腐剤、湿潤剤、乳化剤、滑沢剤、甘味料、着色料、香料、張度調製剤、緩衝剤、酸化防止剤、PH調整剤等を併用して製剤化することができる。常法に従い、粉末剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、ドリンク剤などに製剤化して用いることもできる。さらにこれを栄養剤や飲食品などに配合して、脂質代謝改善を図ることも可能である。
【0018】
また本発明の組成物が飲食品の場合は、一般的な食品の形態である清涼飲料、乳製品、豆乳、発酵豆乳、大豆たん白飲料、豆腐、納豆、油揚げ、厚揚げ、がんもどき、ハンバーグ、ミートボール、唐揚げ、ナゲット、各種総菜、焼き菓子、シリアル、飴、ガム、ゼリー等の菓子類、タブレット、パン類、米飯類など、様々な食品に配合または加工することができる。さらに、食品の場合には酸性可溶大豆たん白を有効成分(関与する成分)として食品の包装やパンフレット等に血中コレステロールの低減に関連する各種効能・効果を有する旨を記載した、健康用途の食品(特定保健用食品等)にもすることができる。
【0019】
また本発明における酸性可溶大豆たん白は、従来の大豆たん白が不溶化する酸性においても良好な溶解度を有す。このため本発明の脂質代謝改善用組成物は、従来の大豆たん白と異なりその液性を問わず、喉越しや舌触りの良好な酸性の飲食品として提供できる。
【0020】
本発明の脂質代謝改善用組成物の摂取量は、年齢、病態などにより異なる。ラットを用いた動物実験によると、本発明における酸性可溶大豆たん白は,従来の分離大豆たん白に比べてより速やかに中性脂肪低減効果を示し、従来の分離大豆たん白と同等の効果をその約1/4乃至1/2量の摂取量で示した。尚、本発明において粗たん白とは各たん白に含まれるたん白質を意味し、その分析法は後に記載した。血中コレステロール低減作用を訴求した大豆たん白の特定保健用食品が市販されており、その作用を期待する大豆たん白の摂取量は6g/日以上とされる。これらを参考にすれば、本発明における脂質代謝改善用組成物の成人一人当たりの有効摂取量は、組成物中の酸性可溶大豆たん白中の粗たん白として、一日約1.5g以上を、好ましくは3g以上をひとつの目安とできる。
【0021】
本発明の組成物中における酸性可溶大豆たん白の含有量は、組成物の形態・量によっても異なり、適宜設定することができる。通常は1日あたりの有効成分の摂取量を摂取できるように、1日あたりの組成物の摂取量を考慮し、組成物中の含有量を当業者が設定すればよい。例えば、酸性可溶大豆たん白の粗たん白含量が80%であって、1食あたりの粗たん白摂取量を5gと設定した場合、1食あたりの組成物の摂取量が10gである場合は、組成物中の酸性可溶大豆たん白の含有量を62.5重量%とすれば良い。本発明の組成物中における酸性可溶大豆たん白の含有量は特に限定されないが、他の食品の摂取も考慮すれば1食当たりの含有量が粗たん白換算で0.5g以上6g未満、好ましくは1.5g以上6g未満、より好ましくは3g以上6g未満が適当である。
【0022】
以下に本発明で用いた分析法を記す。
中性脂肪および総コレステロール測定:ドライケム5500(富士フィルム(株)製)により分析を行った。
粗たん白含量(%):ケールダール法に基づき試料の窒素含量を求め、係数6.25を掛けてたん白質量を求め、これを試料の粗たん白含量とした。
溶解率(%):たん白が5.0重量%になるように水に分散させ十分撹拌した溶液を、必要に応じてpHを調整した後、10,000G×5分間遠心分離した上清たん白の全たん白に対する割合をケルダール法により測定した。
TCA可溶化率(%):たん白が1.0重量%になるように水に分散させ十分撹拌した溶液に対し、全たん白に対する0.22Mトリクロロ酢酸(TCA)可溶性たん白の割合をケルダール法により測定したものである。
フィチン酸含量:溶液中のフィチン酸含量はAlii Mohamedの方法(Cereal Chemistry 63,475,1986)に準拠して、直接測定することにより求めた。
【0023】
以下、この発明の実施例を示すが、本発明がこれらによってその技術範囲が限定されるものではない。
<製造例>
【0024】
大豆を圧扁し、n-ヘキサンを抽出溶媒として油を抽出分離除去して得られた低変性脱脂大豆(窒素可溶指数(NSI):91)5kgに35kgの水を加え、希水酸化ナトリウム溶液でpH7に調整し、室温で1時間攪拌しながら抽出後、4,000Gで遠心分離しオカラおよび不溶分を分離し、脱脂豆乳を得た。この脱脂豆乳をリン酸にてpH4.5に調整後、連続式遠心分離機(デカンター)を用い2,000Gで遠心分離し、不溶性画分(酸沈殿カード)および可溶性画分(ホエー)を得た。酸沈殿カードを固形分10重量%になるように加水し酸沈殿カードスラリーを得た。これをリン酸でpH4.0に調整後、40℃になるように加温した。この溶液に固形分100gあたり8unit相当のフィターゼ(NOVO社製)を加え、30分間酵素作用を行った(フィチン酸含量0.04重量%/固形分100g、TCA可溶化率は実質的に変化なし)。反応後、pH3.5に調整して連続式直接加熱殺菌装置にて120℃15秒間加熱した。これを噴霧乾燥し酸性可溶大豆たん白粉末1.5kgを得た。このたん白の溶解率はpH4.3で95%であった。又、粗たん白含量は90.5%であった。
<試験例>
【0025】
AIN-93G組成(Reeves P.G.ら:J.Nutr.,123,1939-1951, 1993.)に基づき、たん白源として上記製造例で得た酸性可溶大豆たん白「T」(以下、Tと記載する)、分離大豆たん白(「フジプロPR-F」不二製油(株)製。粗たん白含量90.1%、以下「SPI」と記載する)、又はカゼイン「ビタミンフリーカゼイン」粗たん白含量86.6%(オリエンタル酵母(株)製、以下「カゼイン」と記載する)を用いた。これらを飼料中の粗たん白含量で20重量%となるよう、配合した試験食(表1)を以下の方法で動物に摂取させた。
モデル動物は5週齢のWistar系雄ラット(日本SLC(株)販)を42匹使用した。1週間の市販固形食による予備飼育後、群間の平均体重がほぼ同等となるようにカゼイン(20重量%)群、75C-25T(カゼイン(15重量%)+T(5重量%))群、50C-50T(カゼイン(10重量%)+T(10重量%))群、T(20重量%)群、75C-25S((カゼイン(15重量%)+SPI(5重量%))群、50C-50S(カゼイン(10重量%)+SPI(10重量%))群及びSPI(20重量%)群に群分け(1群あたり6匹)を行い、2週間の試験食飼育を行い、たん白として約3.0g/day摂取させた。群間で摂食量に差はなかった。その結果、2週間後の体重増加量は、カゼイン群に比べてT群で減少傾向が認められ、体脂肪量はカゼイン群に比べてT群およびSPI群でそれぞれ減少していた。
【0026】
(表1)
試験食組成

* TBHQを0.002%含む。
** AIN-93G組成
【0027】
(表2)
ラットの成長および脂肪重量

【0028】
試験期間終了後、朝8:00より6時間絶食の後にネンブタール麻酔下で開腹し、腹部大動脈より採血した。血液はヘパリン処理後、3000rpmで15分間遠心分離し、得られた血漿は直ちに凍結して血液サンプルとした。
【0029】
血液成分は中性脂肪(TG)および総コレステロール(TC)についてドライケム5500(富士フィルム(株)製)により分析を行った。各測定値は平均値±標準誤差(SEM)で示した。血中中性脂肪は、T群、SPI群で共に減少し、カゼイン群に比べて差が明らかであった。しかし、SPIを摂取した75C-25S群、50C-50S群に比べて、酸性可溶大豆たん白を摂取した75C-25T群及び50C-50T群ではその減少がより顕著であった。このことは酸性可溶大豆たん白が通常の分離大豆たん白に比べて、少量で脂質代謝改善効果があることを示している。また総コレステロールは、T群、SPI群で共に減少し、カゼイン群に比べて差が明らかであった。
【0030】
(表3)
血漿脂質濃度

【実施例1】
【0031】
タブレット
製造例で調製した酸性可溶大豆たん白40部と粉末マルトース(ファイントース/株式会社林原商事製)60部の混合物に、水6部、エタノール14部を加え混練した。この混合物を60℃の乾燥器にて10時間乾燥させた後、1mm目のふるいを通した。この処理の後、シュガーエステル(DK-エステル/第一工業製薬株式会社製)3部、粉末オレンジ果汁(小川香料株式会社製)2部を加え、打錠器にて一錠当り1gの酸性可溶大豆たん白(粗たん白量0.91g)を含むタブレット(2.63g/タブレット)を得た。
【実施例2】
【0032】
ゼリー飲料
製造例で示した酸性可溶大豆たん白4.25重量部、ステビア製剤(守田化学工業株式会社:レバウディオACK250)を0.03重量部、ホワイトグレープフルーツ濃縮混濁果汁(小川香料株式会社製)2重量部、グレープフルーツ香料(小川香料株式会社製)0.25重量部を水に添加し、TKホモミキサー(特殊機化工業株式会社、4000rpm、5分間)を用いて溶解させた。これに全体で70.2重量部になるよう水を添加し、さらに攪拌(4000rpm、5分間)溶解させた(溶液1)。また、果糖ぶどう糖液糖9重量部、水20重量部、クエン酸ナトリウム0.1重量部に寒天0.7重量部を加熱溶解させた溶液を調製し(溶液2)、溶液1と混合して85℃で15分間加熱殺菌して、スタンディングパウチにホット充填して流水にて冷却し100gのゼリー飲料(pH3.8)を得た。ゼリー飲料は、酸性可溶大豆たん白を4.25g(粗たん白量3.85g)含有するゼリー飲料であり、喉越しが良好で、適度な酸味を有し、風味に優れるものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸性可溶大豆たん白を有効成分とする脂質代謝改善用組成物。
【請求項2】
組成物が剤又は飲食品である請求項1記載の組成物。

【公開番号】特開2007−210943(P2007−210943A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−32511(P2006−32511)
【出願日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【出願人】(000236768)不二製油株式会社 (386)
【Fターム(参考)】