説明

脈波伝播速度測定装置および脈波伝播速度測定プログラム

【課題】1箇所の測定部位の脈波から脈波伝播速度をより正確に求めることができる脈波伝播速度測定装置を提供する。
【解決手段】この脈波伝播速度測定装置10は、基準時間検出部2で脈波Sの駆出波成分S1,反射成分S2の基準時間T1,T2を検出すると共に脈波振幅検出部3で駆出波成分S1,反射成分S2の基準時間T1,T2に対応する脈波Sの振幅W1,W2を検出する。そして、伝播速度検出部5は駆出波成分S1,反射波成分S2の基準時間T1,T2と駆出波成分S1,反射波成分S2の基準時間T1,T2に対応する脈波Sの振幅W1,W2とに基づいて、脈波Sの伝播速度PWV1を求める。したがって、駆出波成分S1の振幅と反射成分S2の振幅との相違による駆出波と反射波の脈波伝播速度の相違を考慮に入れて高い精度で脈波伝播速度を測定できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、生体の脈波を測定することで、脈波の伝搬する速度を算出する脈波伝播速度測定装置および脈波伝播速度測定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、脈波は生体の循環器系の状態を把握する上で様々な重要な情報を有していることが知られている。特に生体の2箇所を脈波が伝播する速度および時間は動脈硬化状態などが把握できる可能性が指摘され、医療現場でも注目されている生体指標であり、それぞれ脈波伝播速度(PWV:Pulse Wave Velocity)、脈波伝播時間(PTT:Pulse Transit Time)などと呼ばれている。
【0003】
この脈波伝播速度には、測定箇所に応じて複数の測定手法が提案されており、例えば、頚動脈と大腿動脈間の脈波伝播速度は、cfPWV(carotid -femoral PWV)と呼ばれ、脈波伝播速度(PWV)におけるゴールドスタンダードとして利用されている。
【0004】
一般的に、脈波伝播速度(PWV)を求めるには、2箇所の脈波測定点が必要である。
【0005】
しかしながら、生体上のいずれの部位で測定された脈波であっても、心臓からの駆出波と生体内の様々な箇所から反射された反射波との合成波であることが知られている。そして、この駆出波と反射波とを分離することで、脈波の測定部位が1箇所でも、脈波伝播速度あるいは脈波伝播時間を求めることができる可能性がある。
【0006】
そこで、非特許文献1では、駆出波と反射波を分離するための技術が開示されている。また、特許文献1や特許文献2では、駆出波と反射波を分離することによって、脈波の測定部位が1箇所であっても、脈波伝播速度あるいは脈波伝播時間を求めるための技術が開示されている。
【0007】
一般的に、脈波は生体内の各所において反射が発生している。この脈波の反射は、血管のインピーダンス不整合が主因であり、例えば、血管の分岐や血管の弾性力の変化などが在る箇所において脈波の反射が発生する。
【0008】
ここで、特許文献1にも記述されているように、駆出波と反射波を分離する際には、主たる反射点が腸骨動脈あるいは腹部大動脈周辺にあると仮定すると、生体各部で測定された脈波に対して、駆出波と反射波の分離がうまく行く。
【0009】
また、特許文献2には、脈波伝播速度あるいは脈波伝播時間は血圧と相関があり、1箇所の測定部位から得られた脈波から脈波伝播速度あるいは脈波伝播時間を算出し、血圧を同定するための技術が開示されている。また、非特許文献2には、2箇所の測定部位から得られた脈波から脈波伝播速度あるいは脈波伝播時間を算出し、血圧を同定するための技術が開示されている。
【0010】
ところで、上述の特許文献1および2のいずれにおいても、1箇所の測定部位の脈波から脈波伝播速度あるいは脈波伝播時間を求めることができるとされているが、その前提として駆出波と反射波それぞれの脈波伝播速度が同じであることを前提にしている。この前提にしたがって、(1)1つの脈波を駆出波と反射波に分離して両者の時間差を求め、(2)駆出波と反射波それぞれの脈波が伝播する距離の差を求めている。これにより、脈波伝播速度あるいは脈波伝播時間を求めている。
【0011】
しかしながら、実際には、駆出波と反射波の脈波伝播速度は一致しない。何故ならば、駆出波と反射波の振幅は異なっているからである。前述の特許文献2に記載されている通り、脈波伝播速度は血圧と相関があるが、血圧は脈波の振幅に関係している。つまり、脈波伝播速度は脈波の振幅に関係しているのである。
【0012】
上述の通り、反射波は反射点を腹部大動脈周辺と想定することで脈波の波形形状をうまく説明できる。脈波の反射が起こる理由は、大動脈と腹部大動脈におけるインピーダンス不整合があるためであるが、この不整合の度合いは人によって異なり、また同一人物においても、体調・血管状態によって異なる。その結果、反射波の振幅は進行波とは異なり、また人によってもその異なり具合は異なる。このため、駆出波と反射波の脈波伝播速度は異なることとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2003−010139号公報
【特許文献2】特開2007−007075号公報
【非特許文献1】Takazawa K et al.”Underestimation of vasodilator effects of nitroglycerin by upper limb blood pressure”, Hypertension 1995; 26:520−3
【非特許文献2】McCombie,Devin “Development of a wearable blood pressure monitor using adaptive calibration of peripheral pulse transit time measurements”,Ph.D. Thesis, Massachusetts Institute of Technology,Dept. of Mechanical Engineering,2008.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
そこで、この発明の課題は、1箇所の測定部位の脈波から脈波伝播速度をより正確に求めることができる脈波伝播速度測定装置および脈波伝播速度測定プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するため、この発明の脈波伝播速度測定装置は、生体の或る一部位における脈波を検出する脈波検出部と、
上記脈波検出部で検出した上記一部位における脈波に含まれる駆出波成分を特定するための基準時間と上記脈波に含まれる反射波成分を特定するための基準時間とを検出する基準時間検出部と、
上記基準時間検出部で検出した上記駆出波成分の基準時間に対応する上記脈波の振幅を検出すると共に上記基準時間検出部で検出した上記反射波成分の基準時間に対応する上記脈波の振幅を検出する脈波振幅検出部と、
上記基準時間検出部で検出した上記駆出波成分の基準時間および上記反射波成分の基準時間と、上記脈波振幅検出部で検出した上記駆出波成分の基準時間に対応する脈波の振幅および上記反射波成分の基準時間に対応する脈波の振幅とに基づいて、上記脈波の伝播速度を求める伝播速度検出部とを備えることを特徴としている。
【0016】
この発明の脈波伝播速度測定装置は、上記基準時間検出部で脈波の駆出波成分および反射成分の基準時間を検出すると共に、上記脈波振幅検出部で上記駆出波成分および反射波成分の基準時間に対応する脈波の振幅を検出する。そして、上記伝播速度検出部は、上記駆出波成分,反射波成分の基準時間とこの駆出波成分,反射波成分の基準時間に対応する脈波の振幅とに基づいて、上記脈波の伝播速度を求める。したがって、駆出波成分の振幅と反射波成分の振幅との相違による駆出波と反射波の脈波伝播速度の相違を考慮に入れて高い精度で脈波伝播速度を測定できる。
【0017】
また、一実施形態の脈波伝播速度測定装置では、上記脈波振幅検出部は、
上記反射波成分の基準時間に対応する上記脈波の振幅に含まれている駆出波成分を求め、上記反射波成分の基準時間に対応する上記脈波の振幅から上記脈波の振幅に含まれている駆出波成分を除去して、上記反射波成分の基準時間に対応する上記反射波成分の振幅を求める駆出波成分除去部を有し、
上記伝播速度検出部は、
上記基準時間検出部で検出した上記駆出波成分の基準時間および上記反射波成分の基準時間と、上記脈波振幅検出部で検出した上記駆出波成分の基準時間に対応する脈波の振幅、および、上記駆出波成分除去部で求めた上記反射波成分の振幅とに基づいて、上記脈波の伝播速度を求める。
【0018】
この実施形態によれば、上記駆出波成分除去部で上記反射波成分の基準時間に対応する上記脈波の振幅から上記脈波の振幅に含まれている駆出波成分を除去して、上記反射波成分の基準時間に対応する上記反射波成分の振幅を求めるので、上記反射波成分の基準時間に対応する上記反射波成分の振幅をより正確に求めることができる。よって、伝播速度検出部によって、上記脈波の伝播速度をより正確に求めることができる。
【0019】
また、一実施形態の脈波伝播速度測定装置では、上記伝播速度検出部は、
上記基準時間検出部で検出した上記駆出波成分の基準時間と上記反射波成分の基準時間との時間差と、上記脈波振幅検出部で検出した上記駆出波成分の基準時間に対応する脈波の振幅と上記駆出波成分除去部で求めた上記反射波成分の振幅との振幅差とに基づいて、上記脈波の伝播速度を求める。
【0020】
この実施形態によれば、上記基準時間検出部で検出した上記駆出波成分の基準時間と上記反射波成分の基準時間との時間差と、上記脈波振幅検出部で検出した上記駆出波成分の基準時間に対応する脈波の振幅と上記駆出波成分除去部で求めた上記反射波成分の振幅との振幅差とに基づいて、上記脈波の伝播速度をより正確に求めることができる。
【0021】
また、一実施形態の脈波伝播速度測定プログラムでは、生体の或る部位における脈波に含まれる駆出波成分を特定するための基準時間と上記脈波に含まれる反射波成分を特定するための基準時間とを求める基準時間導出機能と、
上記駆出波成分の基準時間に対応する上記脈波の振幅を求めると共に上記反射波成分の基準時間に対応する上記脈波の振幅を求める脈波振幅導出機能と、
上記駆出波成分の基準時間および上記反射波成分の基準時間と、上記駆出波成分の基準時間に対応する脈波の振幅および上記反射波成分の基準時間に対応する脈波の振幅とに基づいて、上記脈波の伝播速度を算出する伝播速度導出機能とをコンピュータに実行させる。
【0022】
この実施形態の脈波伝播速度測定プログラムによれば、コンピュータに上記基準時間導出機能を実行させて、脈波の駆出波成分と反射成分を特定するための基準時間を求めると共に、上記脈波振幅導出機能で上記駆出波成分および反射成分を特定するための基準時間に対応する脈波の振幅を求める。そして、上記伝播速度導出機能で、上記駆出波成分,反射成分を特定するための基準時間と上記駆出波成分,反射成分を特定するための基準時間に対応する脈波の振幅とに基づいて、上記脈波の伝播速度を算出する。したがって、駆出波成分の振幅と反射成分の振幅との相違による駆出波と反射波の脈波伝播速度の違いを考慮に入れて脈波伝播速度をより高い精度で検出できる。
【0023】
また、一実施形態の脈波伝播速度測定プログラムでは、上記脈波振幅導出機能は、
上記反射波成分の基準時間に対応する上記脈波の振幅に含まれている駆出波成分を求め、上記反射波成分の基準時間に対応する上記脈波の振幅から上記脈波の振幅に含まれている駆出波成分を除去して、上記反射波成分の基準時間に対応する上記反射波成分の振幅を求める駆出波成分除去機能を含み、
上記伝播速度導出機能は、
上記駆出波成分の基準時間および上記反射波成分の基準時間と、上記駆出波成分の基準時間に対応する脈波の振幅、および、上記駆出波成分除去機能で求めた上記反射波成分の振幅とに基づいて、上記脈波の伝播速度を算出する。
【0024】
この実施形態の脈波伝播速度測定プログラムによれば、上記駆出波成分除去機能で上記反射波成分の基準時間に対応する上記脈波の振幅から上記脈波の振幅に含まれている駆出波成分を除去して、上記反射波成分の基準時間に対応する上記反射波成分の振幅を求める。これにより、上記反射波成分の基準時間に対応する上記反射波成分の振幅をより正確に求めることができる。よって、伝播速度導出機能によって、上記脈波の伝播速度をより正確に求めることができる。
【0025】
また、一実施形態の脈波伝播速度測定プログラムでは、上記伝播速度導出機能は、
上記駆出波成分の基準時間と上記反射波成分の基準時間との時間差と、上記駆出波成分の基準時間に対応する脈波の振幅と上記駆出波成分除去機能で求めた上記反射波成分の振幅との振幅差とに基づいて、上記脈波の伝播速度を求める。
【0026】
この実施形態によれば、上記駆出波成分の基準時間と上記反射波成分の基準時間との時間差と、上記駆出波成分の基準時間に対応する脈波の振幅と上記駆出波成分除去機能で求めた上記反射波成分の振幅との振幅差とに基づいて、上記脈波の伝播速度をより正確に求めることができる。
【発明の効果】
【0027】
この発明の脈波伝播速度測定装置によれば、駆出波成分,反射成分を特定するための基準時間とこの駆出波成分,反射成分を特定するための基準時間に対応する脈波の振幅とに基づいて、脈波の伝播速度を求めるので、駆出波成分の振幅と反射成分の振幅の相違による駆出波と反射波の脈波伝播速度の違いを考慮に入れて脈波伝播速度を高精度に検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】この発明の実施形態の脈波伝播速度測定装置のブロック図である。
【図2A】上記実施形態の脈波検出部で検出した脈波の波形を(A)欄に示し、上記脈波の加速度波形を(B)欄に示す波形図である。
【図2B】上記脈波検出部で検出した脈波の3回微分波形を(A)欄に示し、上記脈波の4回微分波形を(B)欄に示す波形図である。
【図3】上記脈波の波形および上記脈波の基準点Q1,Q2での脈波の振幅W1,W2を示す波形図である。
【図4】上記脈波の波形および上記脈波の駆出波成分S1と反射波成分S2を示す波形図である。
【図5】上記脈波Sの駆出波成分S1が人の生体内を伝播する経路dと反射波成分S2が人の生体内を伝播する経路hを模式的に示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、この発明を図示の実施の形態により詳細に説明する。
【0030】
図1のブロック図に、この発明の実施形態である脈波伝播速度測定装置10を示す。この脈波伝播速度測定装置10は脈波検出部1を備え、この脈波検出部1は、人間の生体の或る一部位における脈波を検出する。この脈波検出部1としては、例えば、発光素子から出力される赤外光が血管内の血液量に応じて反射あるいは吸収される度合いを受光素子で測定するものがある(光電容積脈波法)が、その他に、血管内の血液が血管を押す圧力の変化を電気信号として取り出す圧脈波法で脈波を検出するものなどでもよい。また、上記脈波検出部1で脈波を測定する生体部位は、特に大きな制限事項があるわけではないが、できるならば、非侵襲・非拘束の部位であることが望ましく、例えば、指尖・手首・耳朶などが好ましい。
【0031】
また、この脈波伝播速度測定装置10は、上記脈波検出部1で検出した上記脈波に含まれる駆出波成分,反射波成分のそれぞれを特定するための基準時間と上記基準時間に対応する上記脈波の振幅を検出する駆出波・反射波情報抽出部6と、この駆出波・反射波情報抽出部6からの上記基準時間および上記振幅を表す情報に基づいて、上記脈波の伝播速度を求める脈波伝播速度検出部5を備える。
【0032】
上記駆出波・反射波情報抽出部6は、上記脈波検出部1で検出した上記脈波に含まれる駆出波成分を特定するための基準時間と上記脈波に含まれる反射波成分を特定するための基準時間とを検出する基準時間検出部2を有する。
【0033】
この基準時間検出部2が上記基準時間を求める過程の一例を以下に説明する。まず、図2Aの(A)欄に、上記脈波検出部1で検出した脈波の波形の一例を示す。図2Aの(A)欄における縦軸は脈波の振幅(mmHg)に対応する測定電圧値(V)である。この実施形態の脈波伝搬速度測定装置10では、一例として、一般的なカフ式血圧計で測定される血圧(mmHg)でもって、脈波検出部1で測定した電圧値(V)が脈波の振幅(mmHg)にどう対応するかの補正(キャリブレーション)を行っている。なお、この補正(キャリブレーション)は、最初の使用開始時に行えばよく、その後の測定では上記キャリブレーションの結果を用いればよい。
【0034】
上記基準時間検出部2は、例えば、上記脈波が、Murgoらによる血圧波形分類のTypeCの場合は、図2Aの(A)欄に示される脈波の波形における収縮期の極大点Q1の時間T1を駆出波成分の基準時間T1として検出する。図2Aの(B)欄には、上記脈波の加速度波を示し、図2Bの(A)欄には、上記脈波の3回微分波を示している。そして、上記基準時間検出部2は、例えば、上記脈波が、Murgoらによる血圧波形分類のTypeCの場合は、図2Bの(B)欄に示される脈波の4次微分波の第3ゼロクロスポイントQ2を反射波成分の基準時間T2として検出する。なお、この第3ゼロクロスポイントQ2は、図2A(A)に示す脈波が極小値になった以降に、図2B(B)に示す4回微分波形が3回目に下向きにゼロクロスするポイントを意味する。
【0035】
尚、上述の説明では、上記検出した脈波が上記血圧波形分類のTypeCである場合について説明したが、上記検出した脈波が上記血圧波形分類のTypeC以外の波形形状である場合には、より好適に脈波の駆出波成分の基準時間と反射波成分の基準時間を特定できる手法があればそれを採用してもよい。例えば、脈波は、大きな血圧変動がなければ、基本的にそれほど大きな波形変化を示すわけではないので、測定した複数の脈波を重ね合わせる(加算平均)ことで、脈波検出精度の改善を図ることが可能になる。
【0036】
また、脈波は、ノイズレベル、年齢・性別・疾病の有無・体調などに応じて、様々な波形形状を示すことから、より好適に脈波の駆出波成分の基準時間と反射波成分の基準時間を特定できる手法があればそれを採用してもよい。例えば、検出した脈波を、その時点の被測定者の状態と合わせて履歴として残すことで、脈波の駆出波成分の基準時間と反射波成分の基準時間を特定する精度の改善を図れる。
【0037】
また、上記駆出波・反射波情報抽出部6は、脈波振幅検出部3を有する。この脈波振幅検出部3は、図3の波形図に例示するように、上記基準時間検出部2で検出した上記駆出波成分の基準時間T1に対応する上記脈波Sの振幅W1を検出すると共に上記基準時間検出部2で検出した上記反射波成分の基準時間T2に対応する上記脈波Sの振幅W2を検出する。
【0038】
さらに、上記駆出波・反射波情報抽出部6は、駆出波成分除去部4を有する。この駆出波成分除去部4は、図4に示すように、上記反射波成分S2の基準時間T2に対応する上記脈波Sの振幅W2から上記脈波Sの振幅W2に含まれている駆出波成分S1を除去して、上記反射波成分S2の基準時間T2に対応する上記反射波成分S2の振幅W3を求める。この反射波成分S2の基準時間T2に対応する上記反射波成分S2の振幅W3を求める手法としては、例えば、Windkesselモデル等を用いて、脈波における駆出波の減少度合いをモデル化し、反射波成分S2の基準時間T2の周辺で測定された脈波振幅から駆出波S1の残存成分を減算する方法等が考えられる。当然ながら、より正確に駆出波S1の残存成分を特定できる手法があれば採用してもよい。
【0039】
そして、上記駆出波・反射波情報抽出部6は、上記基準時間検出部2で検出した上記駆出波成分の基準時間T1および上記反射波成分の基準時間T2を表す情報を上記脈波伝播速度検出部5に入力すると共に、上記脈波振幅検出部3で検出した上記駆出波成分の基準時間T1に対応する脈波Sの振幅W1および上記反射波成分の基準時間T2に対応する上記脈波Sの反射波成分S2の振幅W3を表す情報を、上記脈波伝播速度検出部5に入力する。すると、上記脈波伝播速度検出部5は、上記駆出波成分の基準時間T1と、反射波成分の基準時間T2と、上記駆出波成分の基準時間T1に対応する脈波Sの振幅W1と、上記反射波成分S2の基準時間T2に対応する上記脈波Sの反射波成分S2の振幅W3とに基づいて、上記脈波Sの伝播速度を求める。
【0040】
次に、上記脈波伝播速度検出部5が、上記脈波Sの伝播速度PWVを求める過程を説明する。
【0041】
一般的に、脈波伝播速度と言うのは、生体部位の2箇所それぞれの脈波を測定し、それぞれの脈波の駆出波成分が伝播する速度を求めるものであるが、その根本原理は、Moens‐Kortewegの原理に基づく。また、非特許文献2では、脈波伝播速度と血圧の関係を、Moens‐Kortewegの関係から導出しており、次式(1)で表される。
(PWV) =α・exp(β×P) … (1)
【0042】
上式(1)において、PWVは、脈波伝播速度(m/秒)、Pは血圧(mmHg)、α、βは、個人毎、個人内においても測定時間毎に若干変化する定数である。
【0043】
ここで、駆出波S1の脈波伝播速度PWV1(m/秒)と反射波S2の脈波伝播速度PWV2(m/秒)のそれぞれに対して、上式(1)を当て嵌めると次式(2)、(3)が得られる。
(PWV1) =α・exp(β×W1) … (2)
(PWV2) =α・exp(β×W3) … (3)
【0044】
上式(2)において、W1は駆出波S1の脈波振幅つまり図4の駆出波S1の基準時間T1に対応する脈波Sの振幅W1であり、この振幅W1は駆出波S1の脈波圧力に対応している。また、W3は反射波S2の脈波振幅つまり図4の反射波S2の基準時間T2に対応する反射波S2の振幅W3であり、この振幅W3は反射波S2の脈波圧力に対応している。
【0045】
一方、図5に示すように、人体の心臓51から脈波測定部位52までの距離をd(m)とし、心臓51から反射点53までの距離をh(m)とし、心臓51の拍動時から駆出波S1の基準時間T1までの時間をΔT1(秒)とし、駆出波S1の基準時間T1と反射波S2の基準時間T2との時間差(T2−T1)をΔT2(秒)とすると、次式(4)、(5)が得られる。
(PWV1) =(d/ΔT1) … (4)
(PWV2) =((2h+d)/(ΔT1+ΔT2)) … (5)
【0046】
上式(2)と上式(4)から次式(6)が得られ、上式(3)と上式(5)から次式(7)が得られる。
α・exp(β×W1)=(d/ΔT1) … (6)
α・exp(β×W3)=((2h+d)/(ΔT1+ΔT2)) … (7)
【0047】
上式(6)と上式(7)とから、時間ΔT1を消去できる。すなわち、上式(7)から、次式(8)が得られる。
(ΔT1+ΔT2) = (2h+d)/α・exp(β×W3)
ΔT1+ΔT2 =(2h+d)/ {α・exp(β×W3)}1/2
ΔT1=(2h+d)/{α・exp(β×W3)}1/2 −ΔT2 … (8)
【0048】
この式(8)を上式(4)に代入して、次式(9)が得られる。
(PWV1) =d×[(2h+d)/{α・exp(β×W3)}1/2−ΔT2]−2
PWV1=d×[(2h+d)/α・exp(β×W3)}1/2−ΔT2]−1 …(9)
【0049】
つまり、駆出波S1の脈波伝播速度PWV1を、既知の定数α、βと、既知の測定値である距離d、hと、基準時間検出部2で求めた基準時間T2とT1との差(T2−T1)=ΔT2と、駆出波成分除去部4で求めた反射波S2の基準時間T2に対応する反射波S2の振幅W3と、から算出可能となる。
【0050】
すなわち、上記脈波伝播速度検出部5は、上述のような式(4)〜(7)に基づいて導出される上式(9)により、上記駆出波成分S1,反射成分S2の基準時間T1,T2の差ΔT2と上記反射波成分S2の基準時間T2に対応する脈波Sの駆出波成分S1,反射成分S2の振幅W1,W3とに基づいて、上記脈波Sの駆出波S1の伝播速度PWV1を求める。したがって、駆出波成分S1の振幅W1と反射成分S2の振幅W3との相違による駆出波と反射波の脈波伝播速度の相違を考慮に入れて高い精度で脈波伝播速度を測定できる。
【0051】
尚、上記実施形態では、脈波振幅検出部3が駆出波成分除去部4を有する場合を説明したが、上記脈波振幅検出部3が駆出波成分除去部4を有しない場合は、上式(3)において、反射波S2の基準時間T2に対応する反射波S2の振幅W3に替えて、反射波S2の基準時間T2に対応する脈波Sの振幅W2を採用した次式(10)を用いる。
(PWV2) =α・exp(β×W2) … (10)
【0052】
この場合、上式(10)と上式(5)から次式(11)が得られる。
α・exp(β×W2)=((2h+d)/(ΔT1+ΔT2)) … (11)
【0053】
よって、前述の式(6)と上式(11)から、時間ΔT1を消去して、次式(12)が得られる。
ΔT1=(2h+d)/{α・exp(β×W2)}1/2 −ΔT2 … (12)
【0054】
この式(12)を前述した式(4)に代入して、次式(13)が得られる。
(PWV1) =d×[(2h+d)/{α・exp(β×W2)}1/2−ΔT2]−2
PWV1=d×[(2h+d)/α・exp(β×W2)}1/2−ΔT2]−1 … (13)
【0055】
つまり、駆出波S1の脈波伝播速度PWV1を、既知の定数α、βと、既知の測定値である距離d、hと、基準時間検出部2で求めた基準時間T2とT1との差(T2−T1)=ΔT2と、脈波振幅検出部3で求めた反射波S2の基準時間T2に対応する脈波Sの振幅W2と、から算出可能となる。
【0056】
すなわち、上記脈波伝播速度検出部5は、上述のように導出された上式(13)により、上記駆出波成分S1,反射成分S2の基準時間T1,T2の差ΔT2と上記反射波成分S2の基準時間T2に対応する脈波Sの基準時間T2の振幅W2とに基づいて、上記脈波Sの駆出波S1の伝播速度PWV1を求める。したがって、脈波Sの駆出波S1と反射波S2の脈波伝播速度の相違を考慮に入れて高い精度で脈波伝播速度を測定できる。
【0057】
なお、上記実施形態では、脈波伝播速度を測定する装置を説明したが、上式(1)から明らかなように、上記実施形態で測定した脈波伝播速度から血圧を測定することも可能である。すなわち、上記脈波伝播速度測定装置を利用者が使用する場合、この装置で得られた脈波伝播速度をそのまま表示する替わりに血圧値として表示してもよい。上記脈波伝播速度は医療関係者には極めて馴染みの深い生体指標ではあるが、非医療関係者には脈波伝播速度よりも血圧の方が馴染み易い生体指標であるからである。
【0058】
カフを用いた一般的な血圧計は、数十秒かけて一組の最高血圧・最低血圧・平均血圧・脈拍数などを利用者に提示するが、本発明の実施形態に基づいた血圧計によれば、1拍毎に血圧を検出できるので、生体の状態をより詳細に把握できる可能性がある。また、数拍単位の加算平均・移動平均などを取ることによって、脈波伝播速度,血圧をより高精度で検出できる。
【0059】
また、上述のように、上記基準時間検出部2が上記基準時間T1とT2を求める基準時間導出機能と、上記脈波振幅検出部3が上記基準時間T1,T2に対応する脈波Sの振幅W1,W2を求める脈波振幅導出機能と、上記駆出波成分除去部4が上記反射波成分S2の基準時間T2に対応する上記反射波成分S2の振幅W3を求める駆出波成分除去機能と、上記脈波伝播速度検出部5が、上記駆出波成分S1,反射成分S2の基準時間T1,T2の差ΔT2と上記反射波成分S2の基準時間T2に対応する脈波Sの反射成分S2の振幅W3とに基づいて、上記脈波Sの駆出波S1の伝播速度PWV1を求める機能とを、脈波伝播速度測定プログラムによってコンピュータに実行させてもよい。
【0060】
また、上述のように、上記基準時間検出部2が上記基準時間T1とT2を求める基準時間導出機能と、上記脈波振幅検出部3が上記基準時間T1,T2に対応する脈波Sの振幅W1,W2を求める脈波振幅導出機能と、上記脈波伝播速度検出部5が、上記駆出波成分S1,反射成分S2の基準時間T1,T2の差ΔT2と上記反射波成分S2の基準時間T2に対応する脈波Sの振幅W2とに基づいて、上記脈波Sの駆出波S1の伝播速度PWV1を求める機能とを、脈波伝播速度測定プログラムによってコンピュータに実行させてもよい。
【符号の説明】
【0061】
1 脈波検出部
2 基準時間検出部
3 脈波振幅検出部
4 駆出波成分除去部
5 脈波伝播速度検出部
6 駆出波・反射波情報抽出部
10 脈波伝播速度測定装置
Q1 極大点
Q2 4次微分波の第3ゼロクロスポイント
S 脈波
S1 駆出波
S2 反射波
T1 駆出波成分の基準時間
T2 反射波成分の基準時間
W1 基準時間T1に対応する脈波Sの振幅
W2 基準時間T2に対応する脈波Sの振幅
W3 基準時間T2に対応する反射波S2の振幅
PWV1 駆出波S1の伝播速度
PWV2 反射波S2の伝播速度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体の或る一部位における脈波を検出する脈波検出部と、
上記脈波検出部で検出した上記一部位における脈波に含まれる駆出波成分を特定するための基準時間と上記脈波に含まれる反射波成分を特定するための基準時間とを検出する基準時間検出部と、
上記基準時間検出部で検出した上記駆出波成分の基準時間に対応する上記脈波の振幅を検出すると共に上記基準時間検出部で検出した上記反射波成分の基準時間に対応する上記脈波の振幅を検出する脈波振幅検出部と、
上記基準時間検出部で検出した上記駆出波成分の基準時間および上記反射波成分の基準時間と、上記脈波振幅検出部で検出した上記駆出波成分の基準時間に対応する脈波の振幅および上記反射波成分の基準時間に対応する脈波の振幅とに基づいて、上記脈波の伝播速度を求める伝播速度検出部とを備えることを特徴とする脈波伝播速度測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の脈波伝播速度測定装置において、
上記脈波振幅検出部は、
上記反射波成分の基準時間に対応する上記脈波の振幅に含まれている駆出波成分を求め、上記反射波成分の基準時間に対応する上記脈波の振幅から上記脈波の振幅に含まれている駆出波成分を除去して、上記反射波成分の基準時間に対応する上記反射波成分の振幅を求める駆出波成分除去部を有し、
上記伝播速度検出部は、
上記基準時間検出部で検出した上記駆出波成分の基準時間および上記反射波成分の基準時間と、上記脈波振幅検出部で検出した上記駆出波成分の基準時間に対応する脈波の振幅、および、上記駆出波成分除去部で求めた上記反射波成分の振幅とに基づいて、上記脈波の伝播速度を求めることを特徴とする脈波伝播速度測定装置。
【請求項3】
請求項2に記載の脈波伝播速度測定装置において、
上記伝播速度検出部は、
上記基準時間検出部で検出した上記駆出波成分の基準時間と上記反射波成分の基準時間との時間差と、上記脈波振幅検出部で検出した上記駆出波成分の基準時間に対応する脈波の振幅と上記駆出波成分除去部で求めた上記反射波成分の振幅との振幅差とに基づいて、上記脈波の伝播速度を求めることを特徴とする脈波伝播速度測定装置。
【請求項4】
生体の或る一部位における脈波に含まれる駆出波成分を特定するための基準時間と上記脈波に含まれる反射波成分を特定するための基準時間とを求める基準時間導出機能と、
上記駆出波成分の基準時間に対応する上記脈波の振幅を求めると共に上記反射波成分の基準時間に対応する上記脈波の振幅を求める脈波振幅導出機能と、
上記駆出波成分の基準時間および上記反射波成分の基準時間と、上記駆出波成分の基準時間に対応する脈波の振幅および上記反射波成分の基準時間に対応する脈波の振幅とに基づいて、上記脈波の伝播速度を算出する伝播速度導出機能とをコンピュータに実行させることを特徴とする脈波伝播速度測定プログラム。
【請求項5】
請求項4に記載の脈波伝播速度測定プログラムにおいて、
上記脈波振幅導出機能は、
上記反射波成分の基準時間に対応する上記脈波の振幅に含まれている駆出波成分を求め、上記反射波成分の基準時間に対応する上記脈波の振幅から上記脈波の振幅に含まれている駆出波成分を除去して、上記反射波成分の基準時間に対応する上記反射波成分の振幅を求める駆出波成分除去機能を含み、
上記伝播速度導出機能は、
上記駆出波成分の基準時間および上記反射波成分の基準時間と、上記駆出波成分の基準時間に対応する脈波の振幅、および、上記駆出波成分除去機能で求めた上記反射波成分の振幅とに基づいて、上記脈波の伝播速度を算出することを特徴とする脈波伝播速度測定プログラム。
【請求項6】
請求項5に記載の脈波伝播速度測定プログラムにおいて、
上記伝播速度導出機能は、
上記駆出波成分の基準時間と上記反射波成分の基準時間との時間差と、上記駆出波成分の基準時間に対応する脈波の振幅と上記駆出波成分除去機能で求めた上記反射波成分の振幅との振幅差とに基づいて、上記脈波の伝播速度を求めることを特徴とする脈波伝播速度測定プログラム。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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