説明

脈波測定装置および脈波の測定方法

【課題】生体の鼓動以外の状態および測定対象の生体内における深さを考慮して脈波の測
定を行う脈波測定装置を提供する。
【解決手段】主波長が互いに異なる複数種類の光のうち、選択された1種類の光を体表面
から体内の血管に向けて照射しその反射光に基づいて容積脈波を検出する生体センサー部
と、前記生体センサー部によって検出される前記容積脈波に応じた振動を前記体内の血管
に付与する振動付与部とを有する。このように、心臓の拍動とは異なる振動が与えられた
血管の挙動を複数種類の光のそれぞれに対応した測定深度ごとに把握することができるの
で、分析対象として用いることができる新たなデータを得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電容積脈波の測定を行う脈波測定装置および脈波の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体の状態を把握するために、種々の医療機器がある。非侵襲的に生体の状態を把握す
るものの1つに、循環器機能に関する数値を測定するものがある。例えば、生体の皮膚面
から光を照射して、その反射光を受光し、血管を流れる血液の流量を検出することで脈波
を測定する脈波測定装置がある。このような脈波測定装置は、例えば検出された血流量の
値を微分し、循環動態の1つである加速度脈波を算出する。得られた加速度脈波は生体の
状態を把握することに用いられる。例えば、血管弾性特性を評価することで、生体の状態
を把握することが行われている。
【0003】
上述の測定機器としては、例えば、超音波と光電容積脈波を用いた加速度脈波測定装置
が考えられている(特許文献1参照)。この加速度脈波測定装置は、第1の循環センサー
手段(超音波やレーザ)を用いて血流速を検出し、第2の循環センサー手段(レーザやL
ED(Light Emitting Diode)などの光)で光電脈拍信号を検出し、血流速から循環情報
を測定して、測定条件が同一になるよう補正を行う機能を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−275184号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、生体の鼓動は、精神状態や運動前後等の状況によって変動するため、脈
波を測定する際、この鼓動の影響を受けた測定結果が得られることになる。そうすると、
精神状態や運動前後等の状況によっては、その測定結果である脈波にばらつきが生じるこ
とになり、この脈波から得られる血管の弾性特性にも影響が生じる。また、生体が感じる
暖かさや寒さによっても、血管の緊張・弛緩度合いが変動するため、測定結果に影響が生
じることも考えられる。従って、このような心臓の心拍機能以外での血管の弾性特性を得
られることが望ましい。また、生体内部へ向けて照射される光が単一種類であると、その
光が到達する深さも一定であるため、測定・診断が一面的になる傾向もある。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、その目的は、生体の鼓動以外の状
態および測定対象の生体内における深さを考慮して脈波の測定を行う脈波測定装置および
脈波の測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するため、本発明に係る脈波測定装置は、体内に波動を送信して当
該体内の血管に心臓の拍動と異なる振動を付与する振動付与部と、前記振動付与部により
前記体内の血管に前記振動が付与された状態で、主波長が互いに異なる複数種類の光のう
ち、選択された1種類の光を体表面から前記血管に向けて照射しその反射光に基づいて容
積脈波を検出する生体センサー部とを有することを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る脈波測定装置は、体内に波動を送信して当該体内の血管に心臓の拍
動と異なる振動を付与する振動付与部と、前記振動付与部により前記血管に前記振動が付
与された状態で、主波長が互いに異なる複数種類の光を体表面から前記血管に向けて照射
しその各反射光に基づいて当該複数種類の光の各々に対応した容積脈波をそれぞれ検出す
る生体センサー部とを有することを特徴とする。
【0009】
好ましくは、上述の態様において、前記生体センサー部は、前記振動が付与された状態
に加え、当該振動が付与されていない状態で、前記容積脈波を検出し、前記振動付与部は
、前記振動付与部により前記体内の血管に前記振動が付与されていない状態で前記生体セ
ンサー部によって検出される前記容積脈波に応じた振動を前記血管に付与するとよい。
【0010】
また、好ましくは、上述の態様において、心電図モニター装置装置から出力される心電
図データを受信する受信部を有し、前記振動付与部は、前記受信部が受信した心電図デー
タにおけるR波の検出時期から予め決められた時間遅延した時期に前記振動を前記血管に
付与するとよい。
【0011】
また、本発明に係る脈波の測定方法は、主波長が互いに異なる複数種類の光のうち、選
択された1種類の光を体表面から体内の血管に向けて照射しその反射光に基づいて容積脈
波を検出し、前記検出される前記容積脈波に応じた波動を前記体内に送信して当該体内の
血管に心臓の拍動と異なる振動を付与し、前記波動が送信された場合に前記体内の血管の
容積脈波を検出することを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、体内の血管に振動を与える波動を送信し、この波動の影響を受けた血
管の状態に応じた容積脈波を生体センサー部によって検出するようにしたので、心臓の拍
動とは異なる振動が与えられた血管の挙動を把握することができ、分析対象として用いる
ことができる新たなデータを得ることができる。
このように、エネルギー波を送信して血管の動態変化を光電容量脈波で検出することに
より、生体の鼓動に依存しない測定を行うことができる。
また、主波長が互いに異なる複数種類の光を選択して照射するので、測定対象となる組
織の生体内における深さごとに血管の挙動を解析することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1実施形態に係る脈波測定装置の構成を示す図である。
【図2】2つの発光部がそれぞれ照射する光の主波長と、その光が生体内部に到達する深さについて説明するための図である。
【図3】指尖容積脈波と加速度脈波との関係を説明する図である。
【図4】指尖容積脈波と加速度脈波との関係を説明する図である。
【図5】脈波測定装置の動作について説明するフローチャートである。
【図6】同期タイミングについて説明する図である。
【図7】波動部によって波動を与えていない場合と、この波動を与えた場合のそれぞれにおける各容積脈波を表す波形を示す図である。
【図8】第2実施形態に係る脈波測定装置の構成を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の第1実施形態に係る脈波測定装置について図面を参照して説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係る脈波測定装置1の構成を示す概略ブロック図であ
る。
脈波測定装置1は、生体センサー部10と、振動付与部20と、データ処理部30と、
操作部40とを有する。ここでは、外部に心電図モニター装置2が接続可能に構成されて
いる。
生体センサー部10は、発光部11a,11b(以下、特に区別の必要がない場合は、
これらを総称して「発光部11」と記す)と、駆動部12と、受光部13と、増幅部14
とを有する。発光部11a,11bは、発光することにより、生体の体表面から体内に向
けて主波長が互いに異なる光をそれぞれ照射する。
【0015】
図2は、発光部11aおよび発光部11bがそれぞれ照射する光の主波長と、その光が
生体内部に到達する深さについて説明するための図である。ヒトのような生体の体表面に
近い部分、すなわち生体組織の浅い部分には、毛細血管が横たわる毛細血管床と呼ばれる
領域が存在している。一方、体表面から遠い部分、すなわち生体組織の深い部分には、細
動静脈や動静脈吻合等が横たわる血管床と呼ばれる領域が存在している。毛細血管とは、
動脈と静脈とを結ぶ網目状の血管で最も細い血管である。細動静脈とは、細動脈と細静脈
であり、細動脈とは、動脈のうち毛細血管を介して静脈に繋がっている部分であり、細静
脈とは、静脈のうち毛細血管を介して動脈に繋がっている部分である。動静脈吻合とは、
動脈の抹消が毛細血管を経ずに直接静脈に続くものである。すなわち動静脈吻合とは、毛
細血管を迂回するバイパスとして機能する。
【0016】
毛細血管床における脈波と、血管床における脈波とは異なることがあり、特に、動静脈
吻合がある部位においては、その動静脈吻合の状態に応じてそれぞれの脈波が異なること
がある。したがって、毛細血管床における脈波と、血管床における脈波とをそれぞれ測定
し、解析することにより、動静脈吻合に流れ込む血液の割合や血流変化等の動静脈吻合の
状態を示す情報を取得することができる。
【0017】
光の主波長とは、その光のうち最も多く含まれている光の波長をいう。光の主波長が長
いほど、その光は生体組織の深い部分まで到達し、その部分において反射される傾向があ
る。例えば、発光部11aが照射する光の主波長は、発光部11bが照射する光の主波長
よりも長い。そして、発光部11bから照射される光は毛細血管床で反射され、発光部1
1aから照射される光は血管床で反射されるように、それぞれの発光部11が設計されて
いる。
【0018】
図1に戻る。操作部40は発光部11aまたは発光部11bのいずれかを選択するため
の操作ボタン(図示せず)を備えており、ユーザーによる操作を受け付けてその操作内容
に応じた操作信号を駆動部12に供給する。駆動部12は、操作部40からの操作信号に
基づいて発光部11aまたは発光部11bのいずれかを選択し、選択したその発光部11
をデータ処理部30からの制御信号に基づいて発光させる。受光部13は、発光部11か
ら照射され生体によって反射される反射光を検出する。すなわち、駆動部12により発光
部11aが選択された場合には、受光部13は、血管床で反射された反射光を検出し、駆
動部12により発光部11bが選択された場合には、受光部13は、毛細血管床で反射さ
れた反射光を検出する。このように、操作信号により、脈波を測定する組織の深さ(測定
深度)が選択される。
増幅部14は、受光部13からの検出結果を増幅する。例えば、検出結果を表す電気信
号を増幅し、脈波処理部31に出力する。
【0019】
振動付与部20は、振動発振部21と、波動送信部22と、波動部23とを有する。振
動発振部21は、データ処理部30から指示に基づいて、振動発振させる信号を波動送信
部22に出力する。振動発振部21は、脈波処理部31によって検出される容積脈波に基
づいて、心臓の拍動とは異なる振動を与える制御信号を生成し、波動送信部22に出力す
る。
【0020】
また、この振動発振部21は、心電図モニター装置2が外部に接続されていない場合に
は、容積脈波信号のピーク値(またはボトム値)を検出し、その値に対応する時刻から予
め決められた時間を遅延させて、波動部23に波動を送信させるための制御信号を生成す
る。
【0021】
一方、心電図モニター装置2が外部に接続されている場合には、振動発振部21は、デ
ータ演算部32が受信した心電図データにおけるR波から予め決められた時間を遅延させ
て、波動部23に波動を送信させるための制御信号を生成する。
波動送信部22は、振動発振部21が生成した制御信号を波動部23に送り、波動部2
3を駆動させる。制御信号を受けた波動部23は、この制御信号に応じて体内の血管に振
動を与えるための波動をその体内に向けて送信する。この波動は、例えば、音波である。
【0022】
データ処理部30は、脈波処理部31と、データ演算部32とを有する。
脈波処理部31は、波動部23によって血管に振動が与えられた場合の容積脈波を受光
部13によって検出する。
データ演算部32は、外部に設けられる心電図モニター装置2から出力される心電図デ
ータを受信する受信部を備えている。また、データ演算部32は、脈波処理部31によっ
て得られた容積脈波に基づいて、各種解析処理を行い、血管の状態診断を行う。ここでは
、一例として、光電式指尖容積脈波による血管の状態診断を行う。
【0023】
ここで、光電式指尖容積脈波においては、加速度脈波を用いる。加速度脈波とは光電式
指尖容積脈波(photoplethysmogram;PTG)の二次微分波(sec
ond derivative of photoplethysmogram;SDP
TG)である。加速度脈波は、元波形である指尖容積脈波の変曲点を、より明確にするた
めに利用されており、加速度脈波を用いた検査法は、現在では独立した検査法として確立
している。この加速度脈波は、記録が簡単で時間もかからず、被験者に与える苦痛がない
という利点がある。また、波形の解釈、意義といった点についても十分臨床応用できるよ
うになってきている。ここでは、加速度脈波は、元波形である指尖容積脈波を2回微分(
加速度)したものであり、血流の速度あるいは加速度とは直接関係ない。
【0024】
図3は、指尖容積脈波と加速度脈波との関係を説明する図である。図3(a)は、生体
センサー部10によって得られる指尖容積脈波の測定結果を表す波形の一例を表す図であ
る。図3(b)は、指尖容積脈波を1回微分して得られる速度脈波の一例を表す図である
。図3(c)は、指尖容積脈波を2回微分して得られる加速度脈波の一例を表す図である
。データ演算部32は、微分回路を備えており、生体センサー部10によって得られる指
尖容積脈波に対して2回微分を行い、加速度脈波を得る。
【0025】
図4は、指尖容積脈波と加速度脈波との関係を説明する図である。図4(a)は、指尖
容積脈波の波形の一例であり、図4(b)は、加速度脈波の波形の一例である。図4(a
)において、縦軸は、脈波の大きさを表し、横軸は時間を表す。区間(A)は、収縮期前
方成分を表す区間であり、心臓が収縮した時の血液の駆出によって生ずる駆動圧波を表し
ている。区間(B)は、収縮期後方成分を表す区間であり、駆動圧が末梢に伝搬し、反射
して戻ってきた再上昇圧波を表している。区間(A)の終わりの時間に対応する脈波の大
きさを表す値をPT、区間(B)の終わりの時間に対応する脈波の大きさを表す値をP
で表す。
【0026】
図4(b)において、縦軸は、脈波の大きさを表し、横軸は時間を表す。図に例示した
加速度脈波には、波高a、b、c、d、eで表す5つの変曲点がある。加速度脈波の波高
比(b/a、c/a、d/a、e/a)について、加速度脈波の波高成分には厳密な意味
でのキャリブレーションはない。従って、波高の比較には、各波形成分を収縮初期陽性波
である波高aの値で除したb/a、c/a、d/a、e/aといった波高比を用いる。こ
の加速度脈波の各波高比が加齢に伴って変化が見られる。この変化から血管の状態を診断
することが可能である。例えば、加速度脈波の各波高比と年齢との関係を表すデータを過
去の事例等に基づいて生成してテーブル情報として記憶しておき、得られた波高比に対応
する年齢を、このテーブル情報を参照することによって得る。また、加速度脈波の各波高
比と血管弾性特性との関係を表すデータを過去の事例等に基づいて生成してテーブル情報
として記憶しておき、得られた波高比に対応する血管弾性特性を得る。このようにして、
血管の状態診断を行う。
【0027】
次に、脈波測定装置1の動作について説明する。図5は、脈波測定装置1の動作につい
て説明するフローチャートである。
まず、ユーザーが操作部40を介して、発光部11aまたは発光部11bのいずれを発
光させるかについて選択する操作を行うと、操作部40は、このユーザーによる操作を受
け付けてその操作内容に応じた操作信号を駆動部12に供給する。駆動部12は、この操
作信号に応じて、発光部11aまたは発光部11bのいずれかを選択する(ステップS1
1)。データ処理部30は、生体センサー部10の駆動部12に、駆動指示を出力する。
この駆動指示に従い、駆動部12は、ステップS11で選択した発光部11を発光させ、
生体に光を照射する。光が照射されると、受光部13は、この反射光を受光し反射光の強
度に応じた信号を出力する。脈波処理部31は、受光部13によって出力され、増幅部1
4によって増幅された信号を入力する。これにより、容積脈波が検出され(ステップS1
2)、検出結果は振動発振部21に出力される。
一方、心電図モニター装置2から心電図データが送信されると、データ演算部32は、
この心電図データを受信し、振動発振部21に出力する。
【0028】
振動発振部21は、データ演算部32から出力される心電図データに基づいて、R波の
タイミングを検出し、検出されたR波から、振動を与えるタイミングである同期タイミン
グを検出して(ステップS13)、R波から予め決められた時間を遅延させて波動を送信
する制御信号を生成する。例えば、振動発振部21は、心電図データを解析し、R波が到
来する時刻を検出し、R波が到来した時点からタイマーでカウントを開始し、カウント値
に基づいて、所定の時間を経過したことを検出した場合に、同期タイミングであることを
検出する。そして、振動発振部21は、この同期タイミングを検出した際に、制御信号を
生成して、波動送信部22に出力する(ステップS14)。
波動送信部22は、振動発振部21から制御信号が出力されると、この制御信号を波動
部23に送り、波動部23を駆動させる。制御信号を受けた波動部23は、この制御信号
に応じて体内の血管に振動を与えるための波動をその体内に向けて出力(送信)する(ス
テップS15)。これにより生体に振動が付与される。
【0029】
受光部13は、生体に振動が付与された場合の反射光を検出する(ステップS16)。
脈波処理部31は、受光部13によって反射光が検出された検出結果を、増幅部14を介
して得る。データ演算部32は、脈波処理部31によって得られたこの検出結果に基づい
て診断を行う(ステップS17)。
【0030】
図6は、図5におけるステップS13の同期タイミングについて説明する図である。図
6(a)は、心電図データとして得られる心電図波形を表す。縦軸が心電図データの値を
表し、横軸は時間を表す。振動発振部21は、この心電図波形に含まれるR波のピーク値
を検出し、このピーク値の時刻を検出する。そして、振動発振部21は、この時刻から予
め決められた時間だけ遅延させたタイミング(時刻)を検出する。図6(b)は、容積脈
波の波形を表す図であり、縦軸が容積脈波を表す値、横軸が時間である。この図において
、時間t1は、R波が発生した時刻T0から、容積脈波のピーク値mが発生した時刻T1
までの時間である。この時間t1の値は、心臓から脈波測定装置1の測定部位までの距離
に応じて異なる。振動発振部21は、時刻T0を起点とし、時刻T0から時刻T1までの
間のいずれかの時刻までの時間または、時刻T1が到来した後に所定の時間が経過した時
間をメモリー内に記憶しており、R波が検出された時刻R0からこの時間を経過したとき
に、振動(パルス振動)を発生させる。
【0031】
図6(c)は、図6(b)に示す容積脈波を2回微分した場合の値を表す図である。縦
軸が2回微分された後の値を表し、横軸が時間を表す。データ演算部32は、脈波処理部
31から得られる検出結果の値を2回微分し、波高a、b、c、d、eの値を検出する。
【0032】
図7は、波動部23によって波動を与えていない場合と、この波動を与えた場合のそれ
ぞれにおける各容積脈波を表す波形を示す図である。縦軸は、容積脈波の値を表し、横軸
は時間を表す。区間Taの容積脈波の波形が、波動部23から振動が与えられていない場
合の波形であり、区間Tbの容積脈波の波形が、波動部23から振動が与えられている場
合の波形である。ここでは、時刻T10において、波動部23から振動を与えた場合、符
号kで表すように、容積脈波が変化した。この変化が生じた容積脈波を検出し、データ演
算部32が2回微分を行うことにより、診断を行う。
【0033】
振動を与えた場合における容積脈波を2回微分した値は、振動を与えていない場合にお
ける容積脈波を2回微分した値とは異なる。このような、振動を与えた場合と与えていな
い場合における2回微分した値の関係と、血管弾性特性とのデータを測定深度ごとに収集
して相関関係を分析し、その分析結果を求めて診断用データとして予め記憶装置に記憶し
ておく。そして、脈波測定装置1によって、振動を与えていない場合における容積脈波と
振動を与えた場合における容積脈波との2回微分した場合の値を得て、この診断用データ
を参照し、診断を行うことができる。
【0034】
なお、図7に示すように、脈波測定装置1が、振動を与えていないときの容積脈波を測
定した場合に、脈波測定装置1の振動付与部20により、その次の鼓動に対応する心臓の
拍動に対して振動を与え、これら2つの測定結果から、診断を行うようにしてもよい。こ
のように、連続する心臓の拍動を利用して診断することにより、生体が受ける精神的な変
動や温度の相違等による拍動の変動を低減させて測定をすることができる。
【0035】
図8は、第2実施形態に係る脈波測定装置1aの構成を表す図である。図1に対応する
部分に同一の符号を付し、その説明を省略する。第2実施形態において、脈波測定装置1
aは振動付与部20に替えて振動付与部20aを備え、データ処理部30に替えてデータ
処理部30aを備える。
【0036】
振動付与部20aにおいて、受信部24は、血管中を流れる血液に反射した波動を受信
する。この波動は、例えば、光または振動である。波動増幅部25は、受信部24が受信
した結果を表す電気信号を増幅する。波動送信部22aは、第1の実施形態において説明
をした振動の他に、予め決められた周波数の超音波を波動部23によって生体に送信する

【0037】
データ処理部30aにおいて、血流計測部33は、波動増幅部25を介して得られる受
信部24の受信結果に基づいて、血流速度を計測する。例えば、波動送信部22aによっ
て送信された超音波の周波数と、受信部24で受信した測定結果から得られる周波数とを
比較することにより、血流のドップラー効果を算出する。そして、その周波数の変化によ
り生体の血管に流れる血流速度を算出し、その速度の時間変化を求める。
【0038】
データ演算部32aは、脈波処理部31によって得られる容積脈波を、血流計測部33
によって得られる血液速度に基づいて補正する。例えば、受光部13によって受光した拍
動成分の波形を積分した値を算出することによって得られる値を、血液レオロジー補正用
係数Kとする。そして、血液レオロジーの特徴成分の1つである最大血流速度Vmaxが
、血液レオロジーと相関関係にあることから、血液レオロジーを表す指標をTとすると、
Tは、最大血流速度Vmaxと血液レオロジー補正用係数Kとの積(Vmax×K)で表
される。この式に基づいて、血管の緊張による影響を補正する。そして、この補正を行う
ことにより、血管緊張の影響を低減させることができ、測定精度を向上させることができ
る。
また、血流速度を検出してエネルギー波の状態を決定することも可能である。
【0039】
なお、上述した実施形態において、生体センサー部10は、2つの発光部11a,11
bを有していたが、主波長が互いに異なる光を照射する3つ以上の発光部11を有してい
てもよい。この場合、各発光部11の照射する照射光の主波長ごとに、その照射光が反射
される生体組織の深さ、すなわち測定深度の情報をデータ演算部32が取得し、その測定
深度ごとに血管の状態診断を行えばよい。
【0040】
また、発光部11は、複数種類の光を含んだ光を発生させて、その光をプリズムやフィ
ルター等の分光手段により、主波長が互いに異なる複数種類の光に分光し、そのうちの選
択された1種類の光を照射するようにしてもよい。この場合、駆動部12は、データ処理
部30からの制御信号に基づいて、発光部11の分光手段を駆動させることにより、選択
された1種類の光を照射させる。
【0041】
また、駆動部12は、主波長が互いに異なる複数種類の光のうち選択された1種類の光
を発光部11a,11bのいずれかにより照射させていたが、駆動部12は、発光部11
により2種類以上の光を同時に照射させてもよい。生体組織により反射されても、その反
射光の主波長は、照射光の主波長とほとんど同じである。したがって、この場合、受光部
13は、主波長が互いに異なる複数種類の光を含んだ光からそれぞれの光を分光する分光
手段、すなわち、例えばプリズム等を有していればよく、この分光手段により、複数種類
の照射光に対応する複数種類の反射光をそれぞれ分光すればよい。増幅部14は、分光さ
れた複数種類の反射光の検出結果をそれぞれ増幅し、脈波処理部31に個別に出力する。
脈波処理部31は、受光部13によって検出されて増幅部14によって増幅された複数種
類の検出結果を個別に入力し、上記の複数種類の反射光ごとに容積脈波をそれぞれ検出し
、各検出結果のうちのいずれかを振動発振部21に出力すればよい。
【0042】
なお、上述した実施形態において、振動発振部21は、心電図モニター装置2が外部に
接続されていない場合には、容積脈波信号のピーク値(またはボトム値)を検出し、その
値に対応する時刻から予め決められた時間を遅延させた時刻(送信時刻)に、波動部23
に波動を送信させるための制御信号を生成し、心電図モニター装置2が外部に接続されて
いる場合には、データ演算部32が受信した心電図データにおけるに基づいて、R波から
予め決められた時間を遅延させて、波動部23に波動送信部22から波動を送信させるた
めの制御信号を生成していたが、振動発振部21は、上記の送信時刻にのみ、波動部23
に波動を送信させるための制御信号を生成するのではなく、波動部23に連続的な波動を
送信させるための制御信号を生成してもよい。この場合、波動部23は、連続的な波動を
送信することにより、図7に示したようなパルス振動ではなく、連続的な振動を体内の血
管に付与する。要するに、振動付与部20および振動付与部20aは、体内の血管に振動
を付与すればよく、また、生体センサー部10は、振動付与部により体内の血管に振動が
付与された状態で、主波長が互いに異なる複数種類の光を体表面から体内に向けて照射し
その各反射光に基づいて当該複数種類の光の各々に対応した容積脈波をそれぞれ検出すれ
ばよい。
【0043】
なお、上述した実施形態において、波動部23から与える振動の強さや、その振動パタ
ーンを変えて、それぞれの場合における各測定深度における容積脈波を測定して2回微分
した値を求め、この求められた複数の結果の組み合わせから、診断を行うようにしてもよ
い。例えば、測定深度を毛細血管床、血管床の2種類とし、波動の強さをA10、A11
の2種類とし、振動パターンをB10、B11の2種類とする。そして、これらの組み合
わせである8パターンによってそれぞれ容積脈波の測定を行って2回微分した値をそれぞ
れ求め、8パターンの各結果の相関関係から診断を行うようにしてもよい。
【0044】
例えば、第1パターンと第2パターンが基準値以内の範囲に収まる場合には、血管の老
化度合いが最も若いことを表していると診断結果を出力したり、血管弾性特性が、もっと
も弾性特性が高いことを表す診断結果を出力したりしてもよい。なお、この相関関係は、
多数の測定を行うことによって、予め分析して記憶装置内に記憶しておく。
【0045】
なお、このようにして得られた診断結果から、循環器系の診断や血管の老化度合い及び
動脈硬化度合いの評価を行ったり、動静脈吻合に流れ込む血液の割合や血流変化等の動静
脈吻合の状態を示す情報を取得したりすることが可能になる。
【0046】
なお、上述した実施形態において、生体センサー部10が、受光部13によって受光し
た結果に基づいて容積脈波を検出し、検出された容積脈波を直接、データ演算部32に出
力するようにしてもよい。この場合、生体センサー部10は、脈波処理部31を含んでも
よい。
【0047】
なお、上述した実施形態においては、心電図モニター装置2が外部に接続される場合に
ついて説明したが、接続しない場合であってもよい。なお、心電図モニター装置2を接続
した場合には、波動を送信するタイミングをより正確に決定することができる。
【0048】
また、図1における脈波測定装置1および脈波測定装置1aの機能を実現するためのプ
ログラムをコンピューター読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録され
たプログラムをコンピューターシステムに読み込ませ、実行することにより容積脈波の検
出を行ってもよい。なお、ここでいう「コンピューターシステム」とは、OS(Operatin
g System)や周辺機器等のハードウェアを含むものとする。
【0049】
また、「コンピューターシステム」は、WWW(World Wide Web)システムを利用して
いる場合であれば、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)も含むものとする。
また、「コンピューター読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁
気ディスク、ROM(Read Only Memory)、CD−ROM等の可搬媒体、コンピューター
システムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ
ー読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信
回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラ
ムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピューターシステム内部
の揮発性メモリーのように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。
また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良く、さら
に前述した機能をコンピューターシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合
わせで実現できるものであってもよい。
【0050】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこ
の実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれ
る。
【符号の説明】
【0051】
1,1a…脈波測定装置
2…心電図モニター装置装置
10…生体センサー部
11,11a,11b…発光部
12…駆動部
13…受光部
14…増幅部
20,20a…振動付与部
21…振動発振部
22,22a…波動送信部
23…波動部
24…受信部
25…波動増幅部
30,30a…データ処理部
31…脈波処理部
32,32a…データ演算部
33…血流計測部
40…操作部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
体内に波動を送信して当該体内の血管に心臓の拍動と異なる振動を付与する振動付与部
と、
前記振動付与部により前記体内の血管に前記振動が付与された状態で、主波長が互いに
異なる複数種類の光のうち、選択された1種類の光を体表面から前記血管に向けて照射し
その反射光に基づいて容積脈波を検出する生体センサー部と
を有することを特徴とする脈波測定装置。
【請求項2】
体内に波動を送信して当該体内の血管に心臓の拍動と異なる振動を付与する振動付与部
と、
前記振動付与部により前記血管に前記振動が付与された状態で、主波長が互いに異なる
複数種類の光を体表面から前記血管に向けて照射しその各反射光に基づいて当該複数種類
の光の各々に対応した容積脈波をそれぞれ検出する生体センサー部と
を有することを特徴とする脈波測定装置。
【請求項3】
前記生体センサー部は、前記振動が付与された状態に加え、当該振動が付与されていな
い状態で、前記容積脈波を検出し、
前記振動付与部は、前記振動付与部により前記体内の血管に前記振動が付与されていな
い状態で前記生体センサー部によって検出される前記容積脈波に応じた振動を前記血管に
付与する
ことを特徴とする請求項1または2に記載の脈波測定装置。
【請求項4】
心電図モニター装置装置から出力される心電図データを受信する受信部を有し、
前記振動付与部は、前記受信部が受信した心電図データにおけるR波の検出時期から予
め決められた時間遅延した時期に前記振動を前記血管に付与する
ことを特徴とする請求項1または2に記載の脈波測定装置。
【請求項5】
主波長が互いに異なる複数種類の光のうち、選択された1種類の光を体表面から体内の
血管に向けて照射しその反射光に基づいて容積脈波を検出し、
前記検出される前記容積脈波に応じた波動を前記体内に送信して当該体内の血管に心臓
の拍動と異なる振動を付与し、
前記波動が送信された場合に前記体内の血管の容積脈波を検出する
ことを特徴とする脈波の測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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