脊椎湾曲症判定支援装置
【課題】体表面の形状より脊椎湾曲症を簡易判定する。
【解決手段】横断面データ形成手段5iは、人体背面の三次元データより複数の人体の横断面の少なくとも一部を含むデータを形成する。単一楕円近似手段5jは、前記横断面の少なくとも一部を含むデータを近似演算処理することにより、単一楕円を特定する。識別手段5kは、前記横断面データと前記単一楕円との誤差が予め設定した閾値以上となる脊椎湾曲部位を識別して識別出力を発する。脊椎湾曲症候補取得手段は、識別出力の発生に基づき脊椎湾曲症の候補を取得する。
【解決手段】横断面データ形成手段5iは、人体背面の三次元データより複数の人体の横断面の少なくとも一部を含むデータを形成する。単一楕円近似手段5jは、前記横断面の少なくとも一部を含むデータを近似演算処理することにより、単一楕円を特定する。識別手段5kは、前記横断面データと前記単一楕円との誤差が予め設定した閾値以上となる脊椎湾曲部位を識別して識別出力を発する。脊椎湾曲症候補取得手段は、識別出力の発生に基づき脊椎湾曲症の候補を取得する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、脊椎側湾症の判定を簡易にするための脊椎湾曲症判定支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
脊椎側湾症は、特許文献1のように、体の前後方向と左右方向のレントゲン写真を用いて脊椎の立体的な配列を確認することにより、診断が為される。
【0003】
しかし、レントゲン撮像は被曝のリスクを伴うため、発症率の少ない脊椎湾曲症の患者を集団検診で抽出する為に、受診者全員に複数枚のレントゲン撮像を行うことは、コスト面でも安全面でも望ましい方法ではない。
【0004】
そこで、集団検診では、医師の目視による判断に頼って脊椎湾曲症の可能性のある患者を見付け出さざるを得ないが、視覚診断では軽度の脊椎湾曲症の患者を見逃すことが多く、症状の軽いうちに早期発見ができないとう問題もある。
【0005】
そこで、特許文献2に記載するように、脊椎湾曲症の受診者の背中の起伏が非対称になる症状を、人体背面にモアレ縞を投射してモアレの模様から、医師が脊椎湾曲症の可能性を診断し易いようした診断補助装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−290217号公報
【特許文献2】特開2005−137462号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献2の装置は、モアレを判定者が視認して体表面の非対称性を判定する関係上、判定基準が一定ではなく、客観的な判定が困難となる場合があった。
【0008】
また、装置が高価な為、本来必要とされる小中学校への普及が進みにくく、定期健康診断で検診を受けられない為に発見が遅れて症状が進行し、発見された時点では症状の改善が極めて困難となるケースが多かった。
【0009】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、体の非対称性を客観的かつ自動的に判定する装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のある態様は、脊椎湾曲証診断支援装置である。この装置は、人体背面の三次元データより人体の横断面の少なくとも一部を含む複数の横断面データを形成する横断面データ形成手段と、前記横断面データを近似演算処理することにより、単一楕円を特定する単一楕円近似手段と、前記横断面データと前記単一楕円との誤差が予め設定した閾値以上となる脊椎湾曲部位を識別して識別出力を発する識別手段と、識別出力の発生に基づき脊椎湾曲症の候補を取得する脊椎湾曲症候補取得手段とを含む。
【0011】
また、本発明は、前記横断面データを分割してそれぞれ近似演算処理することにより、二個の楕円を特定する二重楕円近似手段と、正常部位において前記単一楕円の短軸上に脊椎の中心位置を推定して特定すると共に、前記脊椎湾曲部位において前記二個の楕円の交点を結ぶ直線上から脊椎の中心位置を推定する脊椎位置推定手段と、前記脊椎の中心位置に基づいて推定脊椎ラインを特定する推定脊椎ラインデータ形成手段と、前記推定脊椎ラインと表示手段に供給する表示データ発生手段とを追加配置してもよい。
【0012】
加えて、前記脊椎位置推定手段は、健常であることが既知である被験者から取得した前記脊椎の中心位置と脊椎湾曲症であることが既知である被験者から取得した前記脊椎の中心位置とを少なくとも含むデータベースを参照することにより前記脊椎の中心位置を取得してもよい。
【0013】
更に本発明は、人体背面にドットパターンを投射する投射手段と、前記ドットパターンが投射されている状態の人体背面を異なる2方向から撮影した画像を出力する撮像手段と、同時に撮像された前記画像よりドットパターンを構成する各ドットの空間位置を、三次元データとして出力する背面三次元化手段とを追加配置してもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、医師の勘に頼ることなく、体の非対称性を客観的かつ自動的に判定する装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施の形態の静止画撮像装置の配置説明図である。
【図2】図1の静止画撮像装置の配置と人体の横断面との関係を示す図である。
【図3】正常部位の人体の横断面と計測ラインとの関係を示す図である。
【図4】脊椎湾曲部位の人体の横断面と計測ラインとの関係を示す図である。
【図5】正常部位において人体の横断面の計測ラインに楕円を近似させた図である。
【図6】脊椎湾曲部位の人体横断面の計測ラインに1個の楕円を近似させた図である。
【図7】脊椎湾曲部位の人体横断面の計測ラインに2個の楕円を近似させた図である。
【図8】近似する楕円を特定するための式を導き出すためのサンンプリング点と楕円の関係を示す図である。
【図9】実施の形態にかかるPCの機能ブロック図である。
【図10】実施の形態にかかるPCの動作を示すフローチャートである。
【図11】体表部分の閉曲線の近似楕円の一例を図示したものである。
【図12】健常者の脊椎中心位置を格納したデータベースの構造の一例を示した図である。
【図13】脊椎湾曲症患者の脊椎湾曲症部位について、体表部の閉曲線を二重楕円で近似した結果の一例を図示したものである。
【図14】脊椎湾曲症部位があることが既知である患者の脊椎湾曲症部位における脊椎の脊椎中心を格納したデータベースの構造の一例を示した図である。
【図15】実施の形態にかかる脊椎位置推定手段の内部構成を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明を実施するための形態について説明する。
【0017】
脊椎側湾症の患者は脊椎の一部が左または右に曲がると共に捩じれた状態となる。その結果、曲がって捩じれた脊椎湾曲部位で肋骨も歪み、人体背面が左右非対称になる。
【0018】
発明者は、正常部位の人体の横断面を単一楕円で近似するとその誤差は小さく、脊椎湾曲部位の人体横断面を単一楕円で近似するとその誤差が大きくなり、その脊椎湾曲部位の人体横断面を左右別々の楕円で近似すると、その誤差が小さくなることを発見した。
【0019】
また、正常部位では単一楕円の短軸半径上に脊椎の中心があり、脊椎湾曲部位では、2個の楕円の交点を結ぶ直線上に脊椎の中心位置がほぼ位置するということを発見した。
【0020】
更に、楕円で近似することにより、ある程度体が斜めを向いた状態の人体横断面を撮像しても楕円を回転させて近似させれば、脊椎湾曲証か否かの判定に殆ど支障が少ないというメリットがあることも確認した。
【0021】
加えて、発明者は、人体表面全周の三次元データを求める場合、計測装置が大掛かりになる為、人体背面側だけを計測して得られる人体背面の三次元データのみを用いても、左程支障なく脊椎側湾症の判定が行えることを確認した。
【0022】
≪実施の形態≫
実施の形態の概要を述べる。実施の形態は、人体背面部分を多段分割した各横断面の計測ラインに単一楕円を近似させ、その単一楕円と横断面の計測ラインとの平均二乗誤差が連続する複数断面に亘って大きくなる状態を脊椎湾曲症の候補と簡易判定すると共に、更に平均二乗誤差が小さい正常部位の横断面については単一楕円の短軸半径上に脊椎の中心位置を推定し、平均二乗誤差が大きい脊椎湾曲部位の横断面については左右二つの楕円を近似させ、二つの楕円の交点を結ぶ直線状に脊椎の中心位置を推定し、推定した中心位置を結んで脊椎ラインを形成して簡易判定結果と共にモニタ上に脊椎の湾曲状態を表示する。
【0023】
図1に示すように、本実施の形態では、人体背面の三次元データを、構成の簡単な静止画撮像装置を利用し測定している。
【0024】
この静止画撮像装置は、固定板1中央にプロジェクタ2を固定すると共に、固定板1の左右両側に第1カメラ3と第2カメラ4とを固定する。
【0025】
プロジェクタ2はドットパターンを人体背面の真後ろから投射し、第1カメラ3と第2カメラ4とは、投射されたドットパターンを左右に離れた位置からドットパターンを撮像するように、それぞれ内側に向けて固定されている。
【0026】
プロジェクタ2と第1カメラ3と第2カメラ4はPC(Personal Computer)5に接続され、PC5にはモニタ6が接続されている。なお、PC5にはキーボードやマウス等、図示しないユーザからの入力装置も接続されている。
【0027】
判定に際しては、まずPC5の指令に同期して、プロジェクタ2から人体背面にドットパターンを瞬間投射する。
【0028】
このドットパターンは、上下一定間隔で格子の目状に配された多数のドットより成り、各ドットは位置を混同することなく正しく識別するために、色の異なるドットを配列している。
【0029】
その結果、本実施の形態では後の処理で、各ドットを混同することなく識別することができる。
【0030】
尚、位置の識別の為には、色配列を異ならせる以外に、各ドットの光強度を異ならせるか、各ドットの形状を異ならせることによっても、ドットの混同を防止することが可能となる。
【0031】
PC5は、人体背面にドットパターンが投射された瞬間における第1カメラ3と第2カメラ4との静止画像を捉える。
【0032】
第1カメラ3と第2カメラ4とで撮像された各ドットは、色配列に基づいて識別され、ドット毎の撮像位置を2次元の撮像位置データとして正しくPC5に記憶される。
【0033】
起伏のある人体表面上のドットの3次元の空間位置データは、第1カメラ3における撮像位置データと第2カメラ4における撮像位置データとを演算すれば、三角測量の原理で特定することができる。
【0034】
この特定原理は、例えば特開2007−101276号公報等にも開示され利用されている公知の原理につき、更に詳しい説明は割愛する。
【0035】
本実施の形態では、この原理を利用して、ドット毎に、第1カメラ3における撮像位置データと第2カメラ4における撮像位置データとから、ドットの空間位置データを算出している。
【0036】
本実施の形態の場合、この算出により、特定される三次元データは、ドットの間隔を1cmとしたとき、起伏誤差を1mm以内に収めることができた。
【0037】
従って、下着を着用した状態で撮像しても、多少の誤差は発生するが、判定に大きな支障をもたらすことはなく、本実施の形態において、人体表面(背面)の三次元データとは、皮膚表面の三次元データのみではなく下着表面の三次元データも含む。
【0038】
図2に示すように、第1カメラ3と第2カメラ4の撮像範囲が異なることにより、横断面外周で計測できる範囲(計測ライン)は共通の撮像範囲に限られる。
【0039】
図3は、正常部位の人体の横断面と計測範囲(計測ライン)との関係を示し、破線が人体表面を示し、実線が計測ラインを示している。
【0040】
図4は、脊椎湾曲部位の人体の横断面と計測範囲(計測ライン)との関係を示し、破線が人体表面を示し、実線が計測ラインを示している。
【0041】
図5は、正常部位において人体の横断面の計測ラインに近似楕円を近似させた図を示す。図5より明らかなように、正常部位の場合、計測ラインに近似した近似楕円のラインとの差分は、ハッチングで示すように僅かであることが分かる。
【0042】
図6は、脊椎湾曲部位の人体横断面の計測ラインに単一の近似楕円を近似させた図を示す。図6より明らかなように、脊椎湾曲部位の場合、計測ラインと計測ラインに近似した近似楕円のラインとの差分は、ハッチングで示すように大きくなることが分かる。
【0043】
図7は、脊椎湾曲部位の人体横断面の計測ラインに2個の近似楕円を近似させた図を示す。
【0044】
図7より明らかなように、脊椎湾曲部位の場合、計測ラインに2個の近似楕円を近似すると計測ラインとの差分は、ハッチングで示すように、1個の近似の場合より小さくなることが分かる。
【0045】
図8に示すように、三次元データより得られる横断面の二次元データから図示するような近似楕円を特定する場合、近似楕円の中心座標を(X0,Y0)、長軸とX軸の成す角をθ、長軸の半径をa、短軸の半径をb(ただしa≠b)、近似楕円上の点の座標を(Xi,Yi)とすると、楕円の数式は以下のようになる。
【数1】
【0046】
この数式を、展開すると以下の式となる。
【数2】
【0047】
この数式を簡略化する為、Xiの二乗の係数を1として、残る項の係数および定数にA、B、C、D、Eを当て嵌めると以下の式となる。
【数3】
【0048】
この数式に、横断面のデータ数をn、横断面データの各座標(Xi,Yi)(i=0,1,・・・,n−1)を代入してその二乗値をeとすると以下の式となる。
【数4】
この数式を前述の5つの定数A、B、C、D、Eでそれぞれ偏微分した式の値を0とし、定数A、B、C、D、Eに依存しない項を右辺に移項すると以下の数式を得る。
【数5】
【0049】
この式を変換して定数A、B、C、D、Eを求めると、以下の数式になる。
【数6】
【0050】
この式で求めた定数A、B、C、D、Eについて、(X0,Y0)を求めるには以下の数式を用いる。
【数7】
【0051】
更に、θを求めるには、以下の数式を求める。
【数8】
【0052】
同様に、長軸半径aは、以下の数式で求める。
【数9】
【0053】
更に、短軸半径bは、以下の数式で求める。
【数10】
【0054】
これらの数式で求めた乗数を当て嵌めた楕円の式を、以下の数式で示すように二乗した式にn個の横断面データを代入して積算した上で、横断面データの数nで割ると平均二乗誤差εが得られる。尚、積算値は横断面データの横断面データの数nにより変化するが、全ての横断面に関してデータの数は一定とは限らないので、誤差評価のためには積算値を横断面データの数nで割り算した平均二乗誤差(1データ当たりの誤差)εを求める必要がある。
【数11】
【0055】
上記の数式により、最小二乗法によって、すなわち平均二乗誤差が最小となる意味において横断面データに最も近い楕円を求めることができ、その平均二乗誤差についても前述の数式11により求めることができる。
【0056】
図9は、実施の形態にかかるPC5の機能ブロック図である。PC5には、プロジェクタ2、第1カメラ3、第2カメラ4、およびモニタ6が接続している。
【0057】
PC5内部の表示データ発生手段5bは、PC5に付設されているモニタ6以外に、外部出力端子を介してプロジェクタ2に接続されている。このプロジェクタは、投射手段としても表示手段としても機能する。
【0058】
また、PC5内部の第1メモリ5cと第2メモリ5dとは、PC5の外部入力端子を介して第1カメラ3と第2カメラ4とにそれぞれ接続されている。
【0059】
表示データ発生手段5bは、プロジェクタ2が人体背面上で1cm間隔となる格子の目状のドットパターンを人体背面に瞬間的に投射するように、表示データをプロジェクタ2に供給する。
【0060】
第1メモリ5cと第2メモリ5dとは、それぞれ第1カメラ3と第2カメラ4から画像データを入力し、ドットパターン投射タイミングにおける画像データを記憶する。
【0061】
タイミングパルス発生手段5aは、ドットパターンの表示タイミングと画像データの記憶タイミングとを同期させるため、表示データ発生手段5bと第1メモリ5cと第2メモリ5dとに、それぞれタイミングパルスを供給する。
【0062】
二次元化手段5eは、第1メモリ5cと第2メモリ5dとにそれぞれ記憶された画像データより、ドットの色配列を手掛かりに、対応関係にあるドットを二次元座標としてデータ化し、それぞれ一対の二次元データを形成する。
【0063】
三次元化手段5fは、この一対の二次元データより、各ドットの空間位置を特定するために三次元座標としてデータ化し、三次元データを第3メモリ5gに記憶する。
【0064】
ドロネー図化手段5hは、三次元化手段5fがデータ化した三次元座標において隣接する三点のデータにより特定される三角形の傾斜状態に応じ、三角形が形成する面に濃淡の着色を施して人体背面を見易い立体面として表示するため、ドロネー図化データを形成する。
【0065】
具体的には、ドロネー図化手段5hは、第3メモリ5gより読み出した三次元データから隣接する三点を組み合わせて小三角形を特定し、その小三角形の傾斜を算出して傾斜に合わせた着色を施したドロネー図化データを、表示データ発生手段5bに供給する。
【0066】
表示データ発生手段5bは、ドロネー図化手段5hから供給されたドロネー図化データを入力してPC5に付設されたモニタ6にドロネー図画像情報を供給する。
【0067】
尚、ドロネー図化データの位置情報は、第3メモリ5gにも記憶され、正確な横断面データ算出に供される。
【0068】
横断面データ形成手段5iは、人体背面を人体の頭部側から1cm間隔で切断した場合の各横断面を特定するため、第3メモリ5gに記憶されているドロネー図画像と三次元データとを演算処理することにより、二次元の横断面データを順次出力する。
【0069】
単一楕円近似手段5jは、各段の横断面データを単一の楕円で近似する演算をすると共に、単一楕円の短軸半径の線分を特定する。
【0070】
識別手段5kは、近似された単一楕円と各横断面データとの誤差の二乗値を積算した上で、その積算値を横断面データの数nで割算した平均二乗誤差が、あらかじめ設定した閾値以上である場合に識別出力を発する。この閾値は後述するデータベース作成のためのデータ等に基づいて、実験的に定めればよい。
【0071】
二重楕円近似手段5lは、横断面データを入力として横断面を二つの楕円で近似し、近似した二つの楕円(以下、「二重楕円」という。)の交点を結ぶ線分を特定する。
【0072】
脊椎位置推定手段5mは、単一楕円近似手段5jで特定される短軸半径上から正常部位における脊椎中心として第1推定位置を求めて第4メモリ5nに記憶させ、識別手段5kから単一楕円で近似できない場合に発せられる識別出力が入力された場合には、二重楕円の交点を結ぶ線分から脊椎湾曲部位における脊椎中心として第2推定位置を求め、第1推定位置に代えて第2推定位置を第4メモリ5nに記憶する。なお、詳細は後述するが、脊椎位置推定手段5mは、あらかじめ作成されたデータベースを参照することにより、正常部位における脊椎中心および脊椎湾曲部位における脊椎中心を特定する。
【0073】
第4メモリ5nは、結果的に正常部位と脊椎湾曲部位とに応じて推定される脊椎の中心を推定位置として記憶する。
【0074】
推定脊椎ラインデータ形成手段5oは、第4メモリ5nに記憶されている二次元の推定位置を一旦結んで、三次元のラインデータを形成する。
【0075】
次に、推定脊椎ラインデータ形成手段5oは、正常部位と脊椎湾曲部位の境界に生じるラインの不連続部分を、なだらかに修正して連続的な三次元のラインデータを形成する。
【0076】
更に、推定脊椎ラインデータ形成手段5oは、表示に際して脊椎湾曲部位を、色又は輝度又はラインの形態で識別表示する為の情報を付加した推定脊椎ラインデータを、表示データ発生手段5bに供給する。
【0077】
理想脊椎ラインデータ形成手段5pは、第4メモリ5nに記憶されている二次元の推定位置のうち、正常部位の第1推定位置のみを選択して三次元のラインデータを一旦形成する。
【0078】
次に、理想脊椎ラインデータ形成手段5pは、ラインデータが欠落している脊椎湾曲部位を直線とみなしてラインデータを補間して脊椎ラインデータを形成する。
【0079】
更に、理想脊椎ラインデータ形成手段5pは、正常部位と脊椎湾曲部位との境界に生じるラインの不自然な不連続部分を、なだらかに修正して連続的な三次元の理想脊椎ラインデータを形成して、表示データ発生手段5bに供給する。
【0080】
ここで、第4メモリ5nは、第1推定値と第2推定位置とを記憶するに際しては、識別する情報を付加して記憶する。
【0081】
従って、推定脊椎ラインを表示する場合には、第2推定位置を脊椎湾曲部位として識別表示できる。
【0082】
また、理想脊椎ラインを表示する場合には、正常部位と判断された第1推定位置のみを選択できる。
【0083】
表示データ発生手段5bは、推定脊椎ラインデータ形成手段5oが形成した推定脊椎ラインデータと理想脊椎ラインデータ形成手段5pが形成した理想脊椎ラインデータとを入力し、モニタ6の画面上に推定脊椎ラインと理想脊椎ラインとの2本のラインを立体的に表示させる。
【0084】
また、表示データ発生手段5bは、プロジェクタ2に対しても推定脊椎ラインデータと理想脊椎ラインデータとの二本のラインを人体背面投射するための画像情報を供給する。
【0085】
その結果、ドットパターンの投射直後に、人体背面に脊椎をなぞる推定脊椎ラインが表示されると共に、脊椎湾曲部位については色や明るさやラインの表示形態を異にした識別表示が為される。
【0086】
更に、表示の切換操作により、人体背面には理想脊椎ラインも推定脊椎ラインと同時に表示され、脊椎湾曲部の位置と湾曲の状態が分かり易く表示され、触診によって湾曲の起伏状態も確認できる。
【0087】
また、表示データ発生手段5bは、必要に応じて横断面データに基づく横断面や、近似した単一楕円や二重楕円をモニタ6に表示させるべく画像情報を供給する。
【0088】
比較演算手段5qは、推定脊椎ラインデータと理想脊椎ラインデータとを入力してその差分を演算し所定量以上ズレが生じている範囲(推定脊椎ラインにおける長さ)やズレの方向やズレ量等の脊椎湾曲症の症状を判定するために有益な数値を算出する。
【0089】
判定手段5rは、識別出力が連続して発生したか否かを根拠に、脊椎湾曲症の候補か否かを判定すると共に、比較演算手段5qで求められた数値に基づいて症状の程度を推定する。
【0090】
この判定結果や推定結果は表示データ発生手段5bに入力され、モニタ6に表示される。
【0091】
以上はPC5の機能ブロックとして説明したが、上記の機能ブロックは、ハードウェア的には、任意のプロセッサ、メモリ、その他のLSI(Large Scale Integration)で実現でき、ソフトウェア的にはメモリにロードされたプログラムなどによって実現される。したがって、これらの機能ブロックがハードウェアのみ、ソフトウェアのみ、またはそれらの組み合わせによっていろいろな形で実現できることは、当業者には理解されるところである。
【0092】
図10は、本実施の形態にかかるPC5によって実行される判定動作のフローチャートである。
【0093】
プロジェクタ2は、ドットパターンを人体背面に瞬間的に投射する(S10)。
【0094】
第1カメラ3と第2カメラ4は、人体背面に投射したドットパターンを撮像し、撮像画面をそれぞれ第1メモリ5cと第2メモリ5dとに記憶させる(S12)。
【0095】
二次元化手段5eは、第1メモリ5cと第2メモリ5dとに記憶された第1カメラ3と第2カメラ4との撮像画面のドットパターンから、色配列を手掛かりに各ドットの位置を対応づけて特定し、ドット毎に各撮像画面中の位置を算出して1対の2次元データを形成する(S14)。
【0096】
三次元化手段5fは、撮像範囲内にある全てのドットについて、二次元化手段5eが対応付けた各1対の2次元データより、空間位置を特定する三次元データを演算により算出して第3メモリ5gに記憶する(S16)。
【0097】
ドロネー図化手段5hは、各ドットの三次元データからドロネー図を形成するために、三次元化手段5fが特定した三次元データにおいて近接する3点を1組とする小三角形を特定し、三角形の傾斜の方向を演算して傾斜に応じた色付けを行い、人体背面の三次元画像を形成し、撮像した人体背面を表示データ発生手段5bを介してモニタ6に立体化して表示させる(S18)。
【0098】
横断面データ形成手段5iは、人体背面を1cm刻みで輪切りにしたときの横断面を特定するため、ドロネー図化手段5hが特定した小三角形表面上の指定した高さにおける位置を1cm間隔で特定し、2次元の横断面データ(図2以降に示す計測ラインの位置データに相当)を演算により算出する(S20)。
【0099】
尚、前述する横断面データ形成ステップS20は、データの精度をアップするためのステップであり、多少の誤差を許容する場合は、ドットパターンの中で同じ高さに投射したドットの三次元データをそのまま利用して二次元の横断面データとすることも可能であり、本発明において必須のステップではない。
【0100】
単一楕円近似手段5jは、人体の頭部側を上側とした場合における最上段の横断面データを読み出し、前述した最小二乗法で近似楕円を特定した上で、特定した近似楕円の短軸半径の線分を求め、その線分の所定位置を脊椎の中心位置とみなし、演算により求めた中心位置を第1推定位置としてメモリに記憶すると共に、特定した近似楕円と横断面データの距離の二乗値を積算し、その結果をデータ数で割って、単一楕円の近似に伴う平均二乗誤差を算出する(S22)。
【0101】
識別手段5kは、単一楕円近似手段5jが求めた平均二乗誤差と予め定めた閾値とを比較し、平均二乗誤差が閾値より大きい部位は、捩じれ(湾曲)が生じている脊椎湾曲部位と判断し(S24Y)、逆に小さい場合は、正常部位と判断する(S24N)。
【0102】
二重楕円近似手段5lは、脊椎湾曲部位と判断された場合は、横断面データの中央付近でへこんだ位置を不連続点として特定する(S26)。これは例えば隣り合う横断面データの座標の差分を計算し、その差分が予め定めた所定の閾値を超えた場合に不連続点として特定することで実現できる。
【0103】
二重楕円近似手段5lはさらに、特定した不連続点で区分される左右の横断面データを利用して、前述の最小二乗法を用いて二つの近似楕円を特定し、脊椎位置推定手段5mは、二つの近似楕円の交点を結ぶ線分の所定位置を脊椎湾曲部位における脊椎の中心位置とみなし、演算により求めたその中心位置を第2推定位置として、ステップS12で求めて記憶した1つの近似楕円に基づく脊椎の第1推定位置と置換えて第4メモリ5nに記憶する(S28)。
【0104】
前述したステップS28によって、最上段の横断面データにおいて脊椎の推定位置が特定される。
【0105】
すなわち、人体背面が一つの近似楕円で近似できる場合は第1推定位置が、また1つの近似楕円で近似できない場合は、第1推定位置に代えて第2推定位置が、脊椎の中心の推定位置として第4メモリ5nに記憶される。
【0106】
前述した推定作業が最下段における横断面データに基づく推定であったか否かを判断した結果、推定作業が最下段に達していない場合(S30N)は、横断面データ形成手段5iは、横断面を1cm下段に更新する(S32)。
【0107】
更新後に、横断面データ形成手段5iは、前述のS22に進み、次段(下段)の横断面データを第3メモリ5gから読み出して、前述したステップS22からステップS30を繰り返す。
【0108】
本実施の形態では、横断面の数nだけ推定演算を繰り返し、各横断面の脊椎の中心の推定位置を特定して記憶しながら、前述のステップS30によって横断面の最下段で推定脊椎位置が特定されたと判断すると(S30Y)、推定作業を終了して、次のステップS34に進む。
【0109】
推定脊椎ラインデータ形成手段5oは、求められた脊椎の中心の推定位置を上下に結ぶ推定脊椎ラインを形成し、理想脊椎ラインデータ形成手段5pは、正常部位の推定位置から想定される理想の脊椎ラインとを形成し、表示データ発生手段5bは2本の脊椎ラインをモニタ6とプロジェクタ2とに表示させる(S34)。
【0110】
比較演算手段5qは、両ラインを比較してその差分を演算し所定量以上ズレが生じている範囲(推定脊椎ラインの長さ)やズレの方向やズレ量等を数値化する(S36)。
【0111】
判定手段5rは、数値化されたズレの範囲やズレ量、ズレの方向に基づき、脊椎側湾症の判定と症状の程度を判定するためのデータを取得し、その結果をモニタ6に表示させる(S38)。
【0112】
尚、脊椎湾曲症の判定に供するデータにおいては、少なくとも平均二乗誤差が閾値を所定回数連続して上回れば、脊椎湾曲症候補と判定するが、更にその精度をアップするには、必要に応じてその他の要素も加味することは有益である。
【0113】
また、下着を着用して撮像した場合、背中中央のへこみが、不連続として検出できなくなることも予想されるが、その場合は計測ラインの中央を不連続点とみなして二重楕円の近似を行う。また、下着のシワを検出して不連続点と誤認することが危惧されるので、必要に応じて細かな起伏を抑制するために三次元データを事前に平滑化フィルタ等を用いて処理してもよい。
【0114】
本実施の形態では、更にモニタ6に供給される画像情報と、プロジェクタ2が人体背面に投影した推定脊椎ラインや理想脊椎ラインを第1カメラで撮像した画像情報とを、PC5に対して固体メモリ等の着脱自在のレコード手段5sに記録しており、モニタ6に表示される画像と、人体背面に投影した両脊椎ラインの画像とを、別のPCでも表示することも可能である。
【0115】
また、レコード手段5sに記録される画像情報は、通信網を介して病院に伝送する以外に、前述のレコード手段5sを直接病院に持ち込むことによっても再生することもできる。
【0116】
以下、脊椎位置推定手段5mによる正常部位における脊椎中心および脊椎湾曲部位における脊椎中心を特定するための方法について説明する。その概要は、あらかじめ作成してあるデータベースを参照することにより、正常部位および脊椎湾曲部位における脊椎中心を特定するというものである。
【0117】
脊椎湾曲症部位が存在することが既知である複数の患者と、脊椎湾曲症部位が存在しないことが既知である複数の健常者とについて、少なくとも腰部から頸部を含む範囲のアキシャル方向の断面画像を用意する。断面画像としては、例えばX線CT(Computed Tomography)やMRI(Magnetic Resonance Imaging;核磁気共鳴画像法)等を用いて作成する。ここで、患者および健常者(以下、両者を含む場合は「被験者」と総称する。)のそれぞれについては、その特徴が既知であるものとする。特徴とは、例えば性別、年齢、居住地域、身長、体重、腹囲、およびBMI等である。
【0118】
ここで、各断面画像に撮像されている脊椎の番号も既知であるものとする。脊椎の番号とは、24個ある脊椎を上から順に通し番号を付したものである。これは例えば脊椎番号は各断面画像ファイルのヘッダ部分に格納されるか、データベース5vに各断面画像ファイルの名前に紐づけられたリスト(図示せず)として格納することによって実現できる。後述するが、データベース5vは脊椎位置推定手段5mの内部に存在する。あるいは、脊椎位置推定手段5mの外側に独立して配置してもよい。
【0119】
健常者の断面画像をもとに、体表部分の閉曲線についての前述の最小二乗法による近似楕円を求める。あるいは、ユーザが目視で楕円を当て嵌めてもよい。図11は、そのようにして求めた体表部分の閉曲線の近似楕円の一例を図示したものである。ここで、楕円の短軸の腹部側の端点を点A、背面側の端点を点Bとする。ユーザは断面画像を観察し、端軸上において脊椎中心である点Cを特定する。ユーザは、用意した健常者の画像すべてについて近似楕円と、点A、点B、および点Cとを特定する。
【0120】
求めた楕円を短軸を用いて規格化する。具体的には、短軸の長さが全て等しくなるように近似楕円を相似変換する。ここでは、短軸の長さを仮に1とする。短軸の長さを1としたときの脊椎中心である点Cの位置は、例えば短軸の背面側の端点である点Bからの相対的な距離である相対距離r(0<r<1)を用いて特定できる。
【0121】
図12は、健常者の脊椎中心位置を格納したデータベース5v内の構造の一例を示した図である。データベース5vには、前述した特徴と脊椎中心の相対位置とが、画像のIDやデータベースの通し番号、長軸の相対的な長さa(a>1)と共に格納される。
【0122】
図13は、脊椎湾曲症患者の脊椎湾曲症部位について、体表部の閉曲線を二重楕円で近似した結果の一例を図示したものである。脊椎湾曲症患者の正常部位における脊椎中心については健常者の場合と同様の手法で求め、そのデータベースの構造も同じである。そこで、以下脊椎湾曲部位を中心に説明する。
【0123】
脊椎湾曲部位については、二重楕円を上述の最小二乗法を用いて特定してもよいし、ユーザが目視で特定してもよい。二重楕円のふたつの交点のうち、腹部側の交点を点D、背面側の交点を点Eとする。ユーザは断面画像を観察し、ふたつの交点を結ぶ線分上において脊椎湾曲部位における脊椎中心である点Fを特定する。ユーザは、用意した脊椎湾曲症であることが既知である患者の画像すべてについて、二重楕円と、点D、点E、および点Fとを特定する。
【0124】
求めた二重楕円について二重楕円のふたつの交点を結ぶ線分の長さを用いて規格化する。具体的には、線分の長さが全て等しくなるように二重楕円を相似変換する。ここでは、健常者の場合と同様に、線分の長さを1とする。線分の長さを1としたときの脊椎湾曲部位における脊椎中心である点Fは、ふたつの線分の背面側の交点である点Eからの相対的な距離s(0<s<1)を用いて特定できる。二重楕円、点D、点E、点F、相対距離sは、患者の特徴等と共に健常者の脊椎中心位置を格納したデータベースと同一のデータベース5vに格納される。
【0125】
図14は、脊椎湾曲症部位が存在することが既知である患者の脊椎湾曲症部位における脊椎中心を格納したデータベース5vの構造の一例を示した図である。データベース5vには、前述した特徴と脊椎中心の相対位置とが、画像のIDやデータベースの通し番号、長軸の相対的な長さaと共に格納される。健常者のデータベースとの相違は、二重楕円を再現できるように、ふたつの楕円の中心点の座標、それぞれの長軸および短軸の長さ、ふたつ目の楕円の傾き角θが格納されている点である。ここで座標や角度の計測に際しては任意の座標系を用いればよく、例えば規格化後の二重楕円について、ひとつ目の楕円の中心を原点、長軸を含む直線をX軸、短軸を含む直線をY軸とした座標系を用いればよい。
【0126】
図15は、実施の形態にかかる脊椎位置推定手段5mの内部構成を模式的に示した図である。脊椎位置推定手段5mは、データベース5v、パラメータ取得手段5t、およびデータベース検索手段5uを含む。パラメータ取得手段5tは、図示しない入出力装置を介してユーザから検索に用いる特徴をパラメータとして取得する。データベース検索手段5uは、パラメータ取得手段5tが取得したパラメータを検索の鍵として、識別手段5kの発した識別出力をもとに正常部位または脊椎湾曲部位における脊椎中心をデータベース5vから検索して取得する。
【0127】
例えば、パラメータ取得手段5tが検索の鍵として年齢、性別、および腹囲を取得したとする。データベース検索手段5uは、識別出力がない場合、すなわち正常部位の場合には、データベース5vに格納されている正常部位のデータのうち、検索の鍵として入力された年齢、性別、および腹囲と合致するデータを検索して、それらの相対距離rの平均値r’を計算して取得する。続いて、データベース検索手段5uは、単一楕円近似手段5jから入力された楕円の短軸の長さlを取得し、短軸の背面側の短点からl×r’離れた点を脊椎中心として第4メモリ5nに出力する。
【0128】
識別出力がある場合、すなわち脊椎湾曲部位の場合には、データベース検索手段5uはデータベース5vから脊椎湾曲部位のデータのうち、検索の鍵と合致する患者の相対距離sの平均値s’を計算して取得する。続いて、データベース検索手段5uは、二重楕円近似手段5lから入力されたふたつの楕円の交点を結ぶ線分の長さl’を取得し、短軸の背面側の交点からl’×s’離れた点を脊椎湾曲部位における脊椎中心として第4メモリ5nに出力する。
【0129】
なお、データベース検索手段5uは、検索の鍵として設定された値のみならず、その値に近い値を持つデータを取得するようにしてもよい。例えば身長を鍵として145cmが設定された場合に、140cmから150cmの範囲を検索して取得するようにしてもよい。この場合、合致するデータが増えるので、平均値の精度を向上させうる点で有利である。また、検索の鍵としては、例えば身長が140cm〜145cmを含まないとの条件のように、条件を否定形式で設定して検索することもできる。データベース検索手段5uは、パラメータ取得手段5tが取得した検索の鍵に換えて、予め定めてある所定の条件を検索の鍵としてもよい。
【0130】
データベース検索手段5uはまた、検索の際に脊椎番号が同一のデータを検索対象としてもよい。例えば18番の脊椎が写っている断面画像の脊椎中心を取得する場合には、データベース検索手段5uは、18番の脊椎のデータのみを検索対象としてもよい。これにより、実際に取得したい脊椎中心が存在する部位における特有の症状や傾向等を検索対象データに反映させることができるので、推定精度を向上できる点で有利である。脊椎番号が同一のデータだけでなく、脊椎番号が近傍のデータ(例えば17番、18番、19番のデータ)を検索対象としてもよい。
【0131】
以上説明したように実施の形態によれば、推定脊椎ラインデータを形成する理想脊椎ラインデータ形成手段5pを備えており、理想脊椎ラインデータを表示データ発生手段5bに入力し、プロジェクタ2(表示手段)により撮像直後の人体背面に脊椎湾曲部位を識別表示した推定脊椎ラインを投影することにより、脊椎湾曲部位の状態を人体背面で確認することができる。汎用性の高い機器が利用できるため、体表も円の非対称の度合いを安価に自動判定することが可能となる。湾曲度合いを定量的に求めるため、脊椎湾曲症の候補を客観的かつ正確に判定することができる。
【0132】
以上、本発明を実施の形態をもとに説明した。これらの実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組み合わせにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0133】
1)本実施の形態では、下着を着用した場合に横断面に下着のシワによる多数の小突起が現れることもあるが、このような小突起に基づくデータは平滑化フィルタ処理等により解消できる。また下着の張りにより脊椎部分の凹みが現れないが横断面の計測ラインの中央で二分することにより二重化楕円の形成ができるので、本実施の形態において「人体背面」とは人体背面の皮膚表面に限るものではない。
【0134】
2)本実施の形態では、脊椎湾曲部位を単一楕円と横断面の平均二乗誤差が閾値を超えた部分と定めている関係で、正常部位と脊椎湾曲部位の境界付近の脊椎推定ラインが不自然に変化(不連続化)するが、変化の著しい部分はフィルタリング(平坦化)処理によりなだらかな推定脊椎ラインに修正することができ、このような構成が本実施の形態に含まれる。
【0135】
3)本実施の形態では、人体背面をドロネー図として表現しているので、このドロネー図データを利用して横断面データの精度を上げることができたが、ドロネー図化を行わない場合は、水平に並んで投射されているドットの位置から横断面データを特定することも可能であり、本発明に於いてドロネー図化は横断面データの形成にとって必須ではない。
【0136】
4)本実施の形態では1cm間隔で横断面データを形成したが、精度を問わない場合はその間隔を広げて段数を減らすことも可能であるが、そのような場合には、複数回の識別出力の発生に基づくことなく1回でも識別出力が発生した場合には、脊椎湾曲症と判定する必要があり、そのような構成も本実施の形態に含まれる。
【0137】
5)本実施の形態では、人体背面に投射されたドットパターンを2台のカメラで離れた位置から同時撮像して三次元データを形成する場合について説明したが、三次元データの形成方法や三次元データの範囲は問わない。従って、精度を求めないのであれば、1台のステレオカメラで撮像して二枚の画像データを得ることも可能である。更に、精度を問わないのであれば一台のカメラの撮像データであっても、ドットパターンの投射位置と撮像位置から横断面データの形成は可能である。
【0138】
6)本実施の形態では、人体背面のドットパターンを同一タイミングで異なる位置から撮像して得られる撮像画面から人体背面の三次元データを求める。ここで「背面三次元化手段」は、本実施の形態において、第1メモリ5c、第2メモリ5d、二次元化手段5e、三次元化手段5fより成る。
【0139】
7)本実施の形態では、単一楕円近似手段5jおよび二重楕円近似手段5lがそれぞれ単一楕円および二重楕円を最小二乗法を用いて特定する場合について説明したが、前述のデータベース5vを参照して特定してもよい。この場合、データベース検索手段5uか、あるいは専用の楕円検索手段(図示せず)を用意して検索する。具体的には、ユーザから被験者の特徴を取得し、その特徴を鍵としてデータベース5v内の楕円の長軸や短軸を取得するようにすればよい。
【0140】
8)本実施の形態では、データベース5vはあらかじめ作成してある場合について説明したが、データベース5vに格納されるデータは、被験者の同意が得られていることを前提として、新しい被験者のデータを取得する都度、あるいは任意のタイミングで追加して更新するようにしてもよい。これは、図示しないデータベース更新手段を用いて行うようにする。データベース5vが蓄積するデータを増やすことができるため、データベースの信頼性を高められる点で有利である。また、データベース5vに格納されたデータを消去するために、データ消去手段(図示せず)を用意してもよい。これにより、例えば特定の地域のデータが偏ることを防止する等、データベースの質を維持できる点で有利である。
【符号の説明】
【0141】
5a タイミングパルス発生手段、 5b 表示データ発生手段、 5e 二次元化手段、 5f 三次元化手段、 5h ドロネー図化手段、 5i 横断面データ形成手段、 5j 単一楕円近似手段、 5k 識別手段、 5l 二重楕円近似手段、 5m 脊椎位置推定手段、 5o 推定脊椎ラインデータ形成手段、 5p 理想脊椎ラインデータ形成手段、 5q 比較演算手段、 5r 判定手段、 5s レコード手段、 5t パラメータ取得手段、 5u データベース検索手段、 5v データベース。
【技術分野】
【0001】
この発明は、脊椎側湾症の判定を簡易にするための脊椎湾曲症判定支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
脊椎側湾症は、特許文献1のように、体の前後方向と左右方向のレントゲン写真を用いて脊椎の立体的な配列を確認することにより、診断が為される。
【0003】
しかし、レントゲン撮像は被曝のリスクを伴うため、発症率の少ない脊椎湾曲症の患者を集団検診で抽出する為に、受診者全員に複数枚のレントゲン撮像を行うことは、コスト面でも安全面でも望ましい方法ではない。
【0004】
そこで、集団検診では、医師の目視による判断に頼って脊椎湾曲症の可能性のある患者を見付け出さざるを得ないが、視覚診断では軽度の脊椎湾曲症の患者を見逃すことが多く、症状の軽いうちに早期発見ができないとう問題もある。
【0005】
そこで、特許文献2に記載するように、脊椎湾曲症の受診者の背中の起伏が非対称になる症状を、人体背面にモアレ縞を投射してモアレの模様から、医師が脊椎湾曲症の可能性を診断し易いようした診断補助装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−290217号公報
【特許文献2】特開2005−137462号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献2の装置は、モアレを判定者が視認して体表面の非対称性を判定する関係上、判定基準が一定ではなく、客観的な判定が困難となる場合があった。
【0008】
また、装置が高価な為、本来必要とされる小中学校への普及が進みにくく、定期健康診断で検診を受けられない為に発見が遅れて症状が進行し、発見された時点では症状の改善が極めて困難となるケースが多かった。
【0009】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、体の非対称性を客観的かつ自動的に判定する装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のある態様は、脊椎湾曲証診断支援装置である。この装置は、人体背面の三次元データより人体の横断面の少なくとも一部を含む複数の横断面データを形成する横断面データ形成手段と、前記横断面データを近似演算処理することにより、単一楕円を特定する単一楕円近似手段と、前記横断面データと前記単一楕円との誤差が予め設定した閾値以上となる脊椎湾曲部位を識別して識別出力を発する識別手段と、識別出力の発生に基づき脊椎湾曲症の候補を取得する脊椎湾曲症候補取得手段とを含む。
【0011】
また、本発明は、前記横断面データを分割してそれぞれ近似演算処理することにより、二個の楕円を特定する二重楕円近似手段と、正常部位において前記単一楕円の短軸上に脊椎の中心位置を推定して特定すると共に、前記脊椎湾曲部位において前記二個の楕円の交点を結ぶ直線上から脊椎の中心位置を推定する脊椎位置推定手段と、前記脊椎の中心位置に基づいて推定脊椎ラインを特定する推定脊椎ラインデータ形成手段と、前記推定脊椎ラインと表示手段に供給する表示データ発生手段とを追加配置してもよい。
【0012】
加えて、前記脊椎位置推定手段は、健常であることが既知である被験者から取得した前記脊椎の中心位置と脊椎湾曲症であることが既知である被験者から取得した前記脊椎の中心位置とを少なくとも含むデータベースを参照することにより前記脊椎の中心位置を取得してもよい。
【0013】
更に本発明は、人体背面にドットパターンを投射する投射手段と、前記ドットパターンが投射されている状態の人体背面を異なる2方向から撮影した画像を出力する撮像手段と、同時に撮像された前記画像よりドットパターンを構成する各ドットの空間位置を、三次元データとして出力する背面三次元化手段とを追加配置してもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、医師の勘に頼ることなく、体の非対称性を客観的かつ自動的に判定する装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施の形態の静止画撮像装置の配置説明図である。
【図2】図1の静止画撮像装置の配置と人体の横断面との関係を示す図である。
【図3】正常部位の人体の横断面と計測ラインとの関係を示す図である。
【図4】脊椎湾曲部位の人体の横断面と計測ラインとの関係を示す図である。
【図5】正常部位において人体の横断面の計測ラインに楕円を近似させた図である。
【図6】脊椎湾曲部位の人体横断面の計測ラインに1個の楕円を近似させた図である。
【図7】脊椎湾曲部位の人体横断面の計測ラインに2個の楕円を近似させた図である。
【図8】近似する楕円を特定するための式を導き出すためのサンンプリング点と楕円の関係を示す図である。
【図9】実施の形態にかかるPCの機能ブロック図である。
【図10】実施の形態にかかるPCの動作を示すフローチャートである。
【図11】体表部分の閉曲線の近似楕円の一例を図示したものである。
【図12】健常者の脊椎中心位置を格納したデータベースの構造の一例を示した図である。
【図13】脊椎湾曲症患者の脊椎湾曲症部位について、体表部の閉曲線を二重楕円で近似した結果の一例を図示したものである。
【図14】脊椎湾曲症部位があることが既知である患者の脊椎湾曲症部位における脊椎の脊椎中心を格納したデータベースの構造の一例を示した図である。
【図15】実施の形態にかかる脊椎位置推定手段の内部構成を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明を実施するための形態について説明する。
【0017】
脊椎側湾症の患者は脊椎の一部が左または右に曲がると共に捩じれた状態となる。その結果、曲がって捩じれた脊椎湾曲部位で肋骨も歪み、人体背面が左右非対称になる。
【0018】
発明者は、正常部位の人体の横断面を単一楕円で近似するとその誤差は小さく、脊椎湾曲部位の人体横断面を単一楕円で近似するとその誤差が大きくなり、その脊椎湾曲部位の人体横断面を左右別々の楕円で近似すると、その誤差が小さくなることを発見した。
【0019】
また、正常部位では単一楕円の短軸半径上に脊椎の中心があり、脊椎湾曲部位では、2個の楕円の交点を結ぶ直線上に脊椎の中心位置がほぼ位置するということを発見した。
【0020】
更に、楕円で近似することにより、ある程度体が斜めを向いた状態の人体横断面を撮像しても楕円を回転させて近似させれば、脊椎湾曲証か否かの判定に殆ど支障が少ないというメリットがあることも確認した。
【0021】
加えて、発明者は、人体表面全周の三次元データを求める場合、計測装置が大掛かりになる為、人体背面側だけを計測して得られる人体背面の三次元データのみを用いても、左程支障なく脊椎側湾症の判定が行えることを確認した。
【0022】
≪実施の形態≫
実施の形態の概要を述べる。実施の形態は、人体背面部分を多段分割した各横断面の計測ラインに単一楕円を近似させ、その単一楕円と横断面の計測ラインとの平均二乗誤差が連続する複数断面に亘って大きくなる状態を脊椎湾曲症の候補と簡易判定すると共に、更に平均二乗誤差が小さい正常部位の横断面については単一楕円の短軸半径上に脊椎の中心位置を推定し、平均二乗誤差が大きい脊椎湾曲部位の横断面については左右二つの楕円を近似させ、二つの楕円の交点を結ぶ直線状に脊椎の中心位置を推定し、推定した中心位置を結んで脊椎ラインを形成して簡易判定結果と共にモニタ上に脊椎の湾曲状態を表示する。
【0023】
図1に示すように、本実施の形態では、人体背面の三次元データを、構成の簡単な静止画撮像装置を利用し測定している。
【0024】
この静止画撮像装置は、固定板1中央にプロジェクタ2を固定すると共に、固定板1の左右両側に第1カメラ3と第2カメラ4とを固定する。
【0025】
プロジェクタ2はドットパターンを人体背面の真後ろから投射し、第1カメラ3と第2カメラ4とは、投射されたドットパターンを左右に離れた位置からドットパターンを撮像するように、それぞれ内側に向けて固定されている。
【0026】
プロジェクタ2と第1カメラ3と第2カメラ4はPC(Personal Computer)5に接続され、PC5にはモニタ6が接続されている。なお、PC5にはキーボードやマウス等、図示しないユーザからの入力装置も接続されている。
【0027】
判定に際しては、まずPC5の指令に同期して、プロジェクタ2から人体背面にドットパターンを瞬間投射する。
【0028】
このドットパターンは、上下一定間隔で格子の目状に配された多数のドットより成り、各ドットは位置を混同することなく正しく識別するために、色の異なるドットを配列している。
【0029】
その結果、本実施の形態では後の処理で、各ドットを混同することなく識別することができる。
【0030】
尚、位置の識別の為には、色配列を異ならせる以外に、各ドットの光強度を異ならせるか、各ドットの形状を異ならせることによっても、ドットの混同を防止することが可能となる。
【0031】
PC5は、人体背面にドットパターンが投射された瞬間における第1カメラ3と第2カメラ4との静止画像を捉える。
【0032】
第1カメラ3と第2カメラ4とで撮像された各ドットは、色配列に基づいて識別され、ドット毎の撮像位置を2次元の撮像位置データとして正しくPC5に記憶される。
【0033】
起伏のある人体表面上のドットの3次元の空間位置データは、第1カメラ3における撮像位置データと第2カメラ4における撮像位置データとを演算すれば、三角測量の原理で特定することができる。
【0034】
この特定原理は、例えば特開2007−101276号公報等にも開示され利用されている公知の原理につき、更に詳しい説明は割愛する。
【0035】
本実施の形態では、この原理を利用して、ドット毎に、第1カメラ3における撮像位置データと第2カメラ4における撮像位置データとから、ドットの空間位置データを算出している。
【0036】
本実施の形態の場合、この算出により、特定される三次元データは、ドットの間隔を1cmとしたとき、起伏誤差を1mm以内に収めることができた。
【0037】
従って、下着を着用した状態で撮像しても、多少の誤差は発生するが、判定に大きな支障をもたらすことはなく、本実施の形態において、人体表面(背面)の三次元データとは、皮膚表面の三次元データのみではなく下着表面の三次元データも含む。
【0038】
図2に示すように、第1カメラ3と第2カメラ4の撮像範囲が異なることにより、横断面外周で計測できる範囲(計測ライン)は共通の撮像範囲に限られる。
【0039】
図3は、正常部位の人体の横断面と計測範囲(計測ライン)との関係を示し、破線が人体表面を示し、実線が計測ラインを示している。
【0040】
図4は、脊椎湾曲部位の人体の横断面と計測範囲(計測ライン)との関係を示し、破線が人体表面を示し、実線が計測ラインを示している。
【0041】
図5は、正常部位において人体の横断面の計測ラインに近似楕円を近似させた図を示す。図5より明らかなように、正常部位の場合、計測ラインに近似した近似楕円のラインとの差分は、ハッチングで示すように僅かであることが分かる。
【0042】
図6は、脊椎湾曲部位の人体横断面の計測ラインに単一の近似楕円を近似させた図を示す。図6より明らかなように、脊椎湾曲部位の場合、計測ラインと計測ラインに近似した近似楕円のラインとの差分は、ハッチングで示すように大きくなることが分かる。
【0043】
図7は、脊椎湾曲部位の人体横断面の計測ラインに2個の近似楕円を近似させた図を示す。
【0044】
図7より明らかなように、脊椎湾曲部位の場合、計測ラインに2個の近似楕円を近似すると計測ラインとの差分は、ハッチングで示すように、1個の近似の場合より小さくなることが分かる。
【0045】
図8に示すように、三次元データより得られる横断面の二次元データから図示するような近似楕円を特定する場合、近似楕円の中心座標を(X0,Y0)、長軸とX軸の成す角をθ、長軸の半径をa、短軸の半径をb(ただしa≠b)、近似楕円上の点の座標を(Xi,Yi)とすると、楕円の数式は以下のようになる。
【数1】
【0046】
この数式を、展開すると以下の式となる。
【数2】
【0047】
この数式を簡略化する為、Xiの二乗の係数を1として、残る項の係数および定数にA、B、C、D、Eを当て嵌めると以下の式となる。
【数3】
【0048】
この数式に、横断面のデータ数をn、横断面データの各座標(Xi,Yi)(i=0,1,・・・,n−1)を代入してその二乗値をeとすると以下の式となる。
【数4】
この数式を前述の5つの定数A、B、C、D、Eでそれぞれ偏微分した式の値を0とし、定数A、B、C、D、Eに依存しない項を右辺に移項すると以下の数式を得る。
【数5】
【0049】
この式を変換して定数A、B、C、D、Eを求めると、以下の数式になる。
【数6】
【0050】
この式で求めた定数A、B、C、D、Eについて、(X0,Y0)を求めるには以下の数式を用いる。
【数7】
【0051】
更に、θを求めるには、以下の数式を求める。
【数8】
【0052】
同様に、長軸半径aは、以下の数式で求める。
【数9】
【0053】
更に、短軸半径bは、以下の数式で求める。
【数10】
【0054】
これらの数式で求めた乗数を当て嵌めた楕円の式を、以下の数式で示すように二乗した式にn個の横断面データを代入して積算した上で、横断面データの数nで割ると平均二乗誤差εが得られる。尚、積算値は横断面データの横断面データの数nにより変化するが、全ての横断面に関してデータの数は一定とは限らないので、誤差評価のためには積算値を横断面データの数nで割り算した平均二乗誤差(1データ当たりの誤差)εを求める必要がある。
【数11】
【0055】
上記の数式により、最小二乗法によって、すなわち平均二乗誤差が最小となる意味において横断面データに最も近い楕円を求めることができ、その平均二乗誤差についても前述の数式11により求めることができる。
【0056】
図9は、実施の形態にかかるPC5の機能ブロック図である。PC5には、プロジェクタ2、第1カメラ3、第2カメラ4、およびモニタ6が接続している。
【0057】
PC5内部の表示データ発生手段5bは、PC5に付設されているモニタ6以外に、外部出力端子を介してプロジェクタ2に接続されている。このプロジェクタは、投射手段としても表示手段としても機能する。
【0058】
また、PC5内部の第1メモリ5cと第2メモリ5dとは、PC5の外部入力端子を介して第1カメラ3と第2カメラ4とにそれぞれ接続されている。
【0059】
表示データ発生手段5bは、プロジェクタ2が人体背面上で1cm間隔となる格子の目状のドットパターンを人体背面に瞬間的に投射するように、表示データをプロジェクタ2に供給する。
【0060】
第1メモリ5cと第2メモリ5dとは、それぞれ第1カメラ3と第2カメラ4から画像データを入力し、ドットパターン投射タイミングにおける画像データを記憶する。
【0061】
タイミングパルス発生手段5aは、ドットパターンの表示タイミングと画像データの記憶タイミングとを同期させるため、表示データ発生手段5bと第1メモリ5cと第2メモリ5dとに、それぞれタイミングパルスを供給する。
【0062】
二次元化手段5eは、第1メモリ5cと第2メモリ5dとにそれぞれ記憶された画像データより、ドットの色配列を手掛かりに、対応関係にあるドットを二次元座標としてデータ化し、それぞれ一対の二次元データを形成する。
【0063】
三次元化手段5fは、この一対の二次元データより、各ドットの空間位置を特定するために三次元座標としてデータ化し、三次元データを第3メモリ5gに記憶する。
【0064】
ドロネー図化手段5hは、三次元化手段5fがデータ化した三次元座標において隣接する三点のデータにより特定される三角形の傾斜状態に応じ、三角形が形成する面に濃淡の着色を施して人体背面を見易い立体面として表示するため、ドロネー図化データを形成する。
【0065】
具体的には、ドロネー図化手段5hは、第3メモリ5gより読み出した三次元データから隣接する三点を組み合わせて小三角形を特定し、その小三角形の傾斜を算出して傾斜に合わせた着色を施したドロネー図化データを、表示データ発生手段5bに供給する。
【0066】
表示データ発生手段5bは、ドロネー図化手段5hから供給されたドロネー図化データを入力してPC5に付設されたモニタ6にドロネー図画像情報を供給する。
【0067】
尚、ドロネー図化データの位置情報は、第3メモリ5gにも記憶され、正確な横断面データ算出に供される。
【0068】
横断面データ形成手段5iは、人体背面を人体の頭部側から1cm間隔で切断した場合の各横断面を特定するため、第3メモリ5gに記憶されているドロネー図画像と三次元データとを演算処理することにより、二次元の横断面データを順次出力する。
【0069】
単一楕円近似手段5jは、各段の横断面データを単一の楕円で近似する演算をすると共に、単一楕円の短軸半径の線分を特定する。
【0070】
識別手段5kは、近似された単一楕円と各横断面データとの誤差の二乗値を積算した上で、その積算値を横断面データの数nで割算した平均二乗誤差が、あらかじめ設定した閾値以上である場合に識別出力を発する。この閾値は後述するデータベース作成のためのデータ等に基づいて、実験的に定めればよい。
【0071】
二重楕円近似手段5lは、横断面データを入力として横断面を二つの楕円で近似し、近似した二つの楕円(以下、「二重楕円」という。)の交点を結ぶ線分を特定する。
【0072】
脊椎位置推定手段5mは、単一楕円近似手段5jで特定される短軸半径上から正常部位における脊椎中心として第1推定位置を求めて第4メモリ5nに記憶させ、識別手段5kから単一楕円で近似できない場合に発せられる識別出力が入力された場合には、二重楕円の交点を結ぶ線分から脊椎湾曲部位における脊椎中心として第2推定位置を求め、第1推定位置に代えて第2推定位置を第4メモリ5nに記憶する。なお、詳細は後述するが、脊椎位置推定手段5mは、あらかじめ作成されたデータベースを参照することにより、正常部位における脊椎中心および脊椎湾曲部位における脊椎中心を特定する。
【0073】
第4メモリ5nは、結果的に正常部位と脊椎湾曲部位とに応じて推定される脊椎の中心を推定位置として記憶する。
【0074】
推定脊椎ラインデータ形成手段5oは、第4メモリ5nに記憶されている二次元の推定位置を一旦結んで、三次元のラインデータを形成する。
【0075】
次に、推定脊椎ラインデータ形成手段5oは、正常部位と脊椎湾曲部位の境界に生じるラインの不連続部分を、なだらかに修正して連続的な三次元のラインデータを形成する。
【0076】
更に、推定脊椎ラインデータ形成手段5oは、表示に際して脊椎湾曲部位を、色又は輝度又はラインの形態で識別表示する為の情報を付加した推定脊椎ラインデータを、表示データ発生手段5bに供給する。
【0077】
理想脊椎ラインデータ形成手段5pは、第4メモリ5nに記憶されている二次元の推定位置のうち、正常部位の第1推定位置のみを選択して三次元のラインデータを一旦形成する。
【0078】
次に、理想脊椎ラインデータ形成手段5pは、ラインデータが欠落している脊椎湾曲部位を直線とみなしてラインデータを補間して脊椎ラインデータを形成する。
【0079】
更に、理想脊椎ラインデータ形成手段5pは、正常部位と脊椎湾曲部位との境界に生じるラインの不自然な不連続部分を、なだらかに修正して連続的な三次元の理想脊椎ラインデータを形成して、表示データ発生手段5bに供給する。
【0080】
ここで、第4メモリ5nは、第1推定値と第2推定位置とを記憶するに際しては、識別する情報を付加して記憶する。
【0081】
従って、推定脊椎ラインを表示する場合には、第2推定位置を脊椎湾曲部位として識別表示できる。
【0082】
また、理想脊椎ラインを表示する場合には、正常部位と判断された第1推定位置のみを選択できる。
【0083】
表示データ発生手段5bは、推定脊椎ラインデータ形成手段5oが形成した推定脊椎ラインデータと理想脊椎ラインデータ形成手段5pが形成した理想脊椎ラインデータとを入力し、モニタ6の画面上に推定脊椎ラインと理想脊椎ラインとの2本のラインを立体的に表示させる。
【0084】
また、表示データ発生手段5bは、プロジェクタ2に対しても推定脊椎ラインデータと理想脊椎ラインデータとの二本のラインを人体背面投射するための画像情報を供給する。
【0085】
その結果、ドットパターンの投射直後に、人体背面に脊椎をなぞる推定脊椎ラインが表示されると共に、脊椎湾曲部位については色や明るさやラインの表示形態を異にした識別表示が為される。
【0086】
更に、表示の切換操作により、人体背面には理想脊椎ラインも推定脊椎ラインと同時に表示され、脊椎湾曲部の位置と湾曲の状態が分かり易く表示され、触診によって湾曲の起伏状態も確認できる。
【0087】
また、表示データ発生手段5bは、必要に応じて横断面データに基づく横断面や、近似した単一楕円や二重楕円をモニタ6に表示させるべく画像情報を供給する。
【0088】
比較演算手段5qは、推定脊椎ラインデータと理想脊椎ラインデータとを入力してその差分を演算し所定量以上ズレが生じている範囲(推定脊椎ラインにおける長さ)やズレの方向やズレ量等の脊椎湾曲症の症状を判定するために有益な数値を算出する。
【0089】
判定手段5rは、識別出力が連続して発生したか否かを根拠に、脊椎湾曲症の候補か否かを判定すると共に、比較演算手段5qで求められた数値に基づいて症状の程度を推定する。
【0090】
この判定結果や推定結果は表示データ発生手段5bに入力され、モニタ6に表示される。
【0091】
以上はPC5の機能ブロックとして説明したが、上記の機能ブロックは、ハードウェア的には、任意のプロセッサ、メモリ、その他のLSI(Large Scale Integration)で実現でき、ソフトウェア的にはメモリにロードされたプログラムなどによって実現される。したがって、これらの機能ブロックがハードウェアのみ、ソフトウェアのみ、またはそれらの組み合わせによっていろいろな形で実現できることは、当業者には理解されるところである。
【0092】
図10は、本実施の形態にかかるPC5によって実行される判定動作のフローチャートである。
【0093】
プロジェクタ2は、ドットパターンを人体背面に瞬間的に投射する(S10)。
【0094】
第1カメラ3と第2カメラ4は、人体背面に投射したドットパターンを撮像し、撮像画面をそれぞれ第1メモリ5cと第2メモリ5dとに記憶させる(S12)。
【0095】
二次元化手段5eは、第1メモリ5cと第2メモリ5dとに記憶された第1カメラ3と第2カメラ4との撮像画面のドットパターンから、色配列を手掛かりに各ドットの位置を対応づけて特定し、ドット毎に各撮像画面中の位置を算出して1対の2次元データを形成する(S14)。
【0096】
三次元化手段5fは、撮像範囲内にある全てのドットについて、二次元化手段5eが対応付けた各1対の2次元データより、空間位置を特定する三次元データを演算により算出して第3メモリ5gに記憶する(S16)。
【0097】
ドロネー図化手段5hは、各ドットの三次元データからドロネー図を形成するために、三次元化手段5fが特定した三次元データにおいて近接する3点を1組とする小三角形を特定し、三角形の傾斜の方向を演算して傾斜に応じた色付けを行い、人体背面の三次元画像を形成し、撮像した人体背面を表示データ発生手段5bを介してモニタ6に立体化して表示させる(S18)。
【0098】
横断面データ形成手段5iは、人体背面を1cm刻みで輪切りにしたときの横断面を特定するため、ドロネー図化手段5hが特定した小三角形表面上の指定した高さにおける位置を1cm間隔で特定し、2次元の横断面データ(図2以降に示す計測ラインの位置データに相当)を演算により算出する(S20)。
【0099】
尚、前述する横断面データ形成ステップS20は、データの精度をアップするためのステップであり、多少の誤差を許容する場合は、ドットパターンの中で同じ高さに投射したドットの三次元データをそのまま利用して二次元の横断面データとすることも可能であり、本発明において必須のステップではない。
【0100】
単一楕円近似手段5jは、人体の頭部側を上側とした場合における最上段の横断面データを読み出し、前述した最小二乗法で近似楕円を特定した上で、特定した近似楕円の短軸半径の線分を求め、その線分の所定位置を脊椎の中心位置とみなし、演算により求めた中心位置を第1推定位置としてメモリに記憶すると共に、特定した近似楕円と横断面データの距離の二乗値を積算し、その結果をデータ数で割って、単一楕円の近似に伴う平均二乗誤差を算出する(S22)。
【0101】
識別手段5kは、単一楕円近似手段5jが求めた平均二乗誤差と予め定めた閾値とを比較し、平均二乗誤差が閾値より大きい部位は、捩じれ(湾曲)が生じている脊椎湾曲部位と判断し(S24Y)、逆に小さい場合は、正常部位と判断する(S24N)。
【0102】
二重楕円近似手段5lは、脊椎湾曲部位と判断された場合は、横断面データの中央付近でへこんだ位置を不連続点として特定する(S26)。これは例えば隣り合う横断面データの座標の差分を計算し、その差分が予め定めた所定の閾値を超えた場合に不連続点として特定することで実現できる。
【0103】
二重楕円近似手段5lはさらに、特定した不連続点で区分される左右の横断面データを利用して、前述の最小二乗法を用いて二つの近似楕円を特定し、脊椎位置推定手段5mは、二つの近似楕円の交点を結ぶ線分の所定位置を脊椎湾曲部位における脊椎の中心位置とみなし、演算により求めたその中心位置を第2推定位置として、ステップS12で求めて記憶した1つの近似楕円に基づく脊椎の第1推定位置と置換えて第4メモリ5nに記憶する(S28)。
【0104】
前述したステップS28によって、最上段の横断面データにおいて脊椎の推定位置が特定される。
【0105】
すなわち、人体背面が一つの近似楕円で近似できる場合は第1推定位置が、また1つの近似楕円で近似できない場合は、第1推定位置に代えて第2推定位置が、脊椎の中心の推定位置として第4メモリ5nに記憶される。
【0106】
前述した推定作業が最下段における横断面データに基づく推定であったか否かを判断した結果、推定作業が最下段に達していない場合(S30N)は、横断面データ形成手段5iは、横断面を1cm下段に更新する(S32)。
【0107】
更新後に、横断面データ形成手段5iは、前述のS22に進み、次段(下段)の横断面データを第3メモリ5gから読み出して、前述したステップS22からステップS30を繰り返す。
【0108】
本実施の形態では、横断面の数nだけ推定演算を繰り返し、各横断面の脊椎の中心の推定位置を特定して記憶しながら、前述のステップS30によって横断面の最下段で推定脊椎位置が特定されたと判断すると(S30Y)、推定作業を終了して、次のステップS34に進む。
【0109】
推定脊椎ラインデータ形成手段5oは、求められた脊椎の中心の推定位置を上下に結ぶ推定脊椎ラインを形成し、理想脊椎ラインデータ形成手段5pは、正常部位の推定位置から想定される理想の脊椎ラインとを形成し、表示データ発生手段5bは2本の脊椎ラインをモニタ6とプロジェクタ2とに表示させる(S34)。
【0110】
比較演算手段5qは、両ラインを比較してその差分を演算し所定量以上ズレが生じている範囲(推定脊椎ラインの長さ)やズレの方向やズレ量等を数値化する(S36)。
【0111】
判定手段5rは、数値化されたズレの範囲やズレ量、ズレの方向に基づき、脊椎側湾症の判定と症状の程度を判定するためのデータを取得し、その結果をモニタ6に表示させる(S38)。
【0112】
尚、脊椎湾曲症の判定に供するデータにおいては、少なくとも平均二乗誤差が閾値を所定回数連続して上回れば、脊椎湾曲症候補と判定するが、更にその精度をアップするには、必要に応じてその他の要素も加味することは有益である。
【0113】
また、下着を着用して撮像した場合、背中中央のへこみが、不連続として検出できなくなることも予想されるが、その場合は計測ラインの中央を不連続点とみなして二重楕円の近似を行う。また、下着のシワを検出して不連続点と誤認することが危惧されるので、必要に応じて細かな起伏を抑制するために三次元データを事前に平滑化フィルタ等を用いて処理してもよい。
【0114】
本実施の形態では、更にモニタ6に供給される画像情報と、プロジェクタ2が人体背面に投影した推定脊椎ラインや理想脊椎ラインを第1カメラで撮像した画像情報とを、PC5に対して固体メモリ等の着脱自在のレコード手段5sに記録しており、モニタ6に表示される画像と、人体背面に投影した両脊椎ラインの画像とを、別のPCでも表示することも可能である。
【0115】
また、レコード手段5sに記録される画像情報は、通信網を介して病院に伝送する以外に、前述のレコード手段5sを直接病院に持ち込むことによっても再生することもできる。
【0116】
以下、脊椎位置推定手段5mによる正常部位における脊椎中心および脊椎湾曲部位における脊椎中心を特定するための方法について説明する。その概要は、あらかじめ作成してあるデータベースを参照することにより、正常部位および脊椎湾曲部位における脊椎中心を特定するというものである。
【0117】
脊椎湾曲症部位が存在することが既知である複数の患者と、脊椎湾曲症部位が存在しないことが既知である複数の健常者とについて、少なくとも腰部から頸部を含む範囲のアキシャル方向の断面画像を用意する。断面画像としては、例えばX線CT(Computed Tomography)やMRI(Magnetic Resonance Imaging;核磁気共鳴画像法)等を用いて作成する。ここで、患者および健常者(以下、両者を含む場合は「被験者」と総称する。)のそれぞれについては、その特徴が既知であるものとする。特徴とは、例えば性別、年齢、居住地域、身長、体重、腹囲、およびBMI等である。
【0118】
ここで、各断面画像に撮像されている脊椎の番号も既知であるものとする。脊椎の番号とは、24個ある脊椎を上から順に通し番号を付したものである。これは例えば脊椎番号は各断面画像ファイルのヘッダ部分に格納されるか、データベース5vに各断面画像ファイルの名前に紐づけられたリスト(図示せず)として格納することによって実現できる。後述するが、データベース5vは脊椎位置推定手段5mの内部に存在する。あるいは、脊椎位置推定手段5mの外側に独立して配置してもよい。
【0119】
健常者の断面画像をもとに、体表部分の閉曲線についての前述の最小二乗法による近似楕円を求める。あるいは、ユーザが目視で楕円を当て嵌めてもよい。図11は、そのようにして求めた体表部分の閉曲線の近似楕円の一例を図示したものである。ここで、楕円の短軸の腹部側の端点を点A、背面側の端点を点Bとする。ユーザは断面画像を観察し、端軸上において脊椎中心である点Cを特定する。ユーザは、用意した健常者の画像すべてについて近似楕円と、点A、点B、および点Cとを特定する。
【0120】
求めた楕円を短軸を用いて規格化する。具体的には、短軸の長さが全て等しくなるように近似楕円を相似変換する。ここでは、短軸の長さを仮に1とする。短軸の長さを1としたときの脊椎中心である点Cの位置は、例えば短軸の背面側の端点である点Bからの相対的な距離である相対距離r(0<r<1)を用いて特定できる。
【0121】
図12は、健常者の脊椎中心位置を格納したデータベース5v内の構造の一例を示した図である。データベース5vには、前述した特徴と脊椎中心の相対位置とが、画像のIDやデータベースの通し番号、長軸の相対的な長さa(a>1)と共に格納される。
【0122】
図13は、脊椎湾曲症患者の脊椎湾曲症部位について、体表部の閉曲線を二重楕円で近似した結果の一例を図示したものである。脊椎湾曲症患者の正常部位における脊椎中心については健常者の場合と同様の手法で求め、そのデータベースの構造も同じである。そこで、以下脊椎湾曲部位を中心に説明する。
【0123】
脊椎湾曲部位については、二重楕円を上述の最小二乗法を用いて特定してもよいし、ユーザが目視で特定してもよい。二重楕円のふたつの交点のうち、腹部側の交点を点D、背面側の交点を点Eとする。ユーザは断面画像を観察し、ふたつの交点を結ぶ線分上において脊椎湾曲部位における脊椎中心である点Fを特定する。ユーザは、用意した脊椎湾曲症であることが既知である患者の画像すべてについて、二重楕円と、点D、点E、および点Fとを特定する。
【0124】
求めた二重楕円について二重楕円のふたつの交点を結ぶ線分の長さを用いて規格化する。具体的には、線分の長さが全て等しくなるように二重楕円を相似変換する。ここでは、健常者の場合と同様に、線分の長さを1とする。線分の長さを1としたときの脊椎湾曲部位における脊椎中心である点Fは、ふたつの線分の背面側の交点である点Eからの相対的な距離s(0<s<1)を用いて特定できる。二重楕円、点D、点E、点F、相対距離sは、患者の特徴等と共に健常者の脊椎中心位置を格納したデータベースと同一のデータベース5vに格納される。
【0125】
図14は、脊椎湾曲症部位が存在することが既知である患者の脊椎湾曲症部位における脊椎中心を格納したデータベース5vの構造の一例を示した図である。データベース5vには、前述した特徴と脊椎中心の相対位置とが、画像のIDやデータベースの通し番号、長軸の相対的な長さaと共に格納される。健常者のデータベースとの相違は、二重楕円を再現できるように、ふたつの楕円の中心点の座標、それぞれの長軸および短軸の長さ、ふたつ目の楕円の傾き角θが格納されている点である。ここで座標や角度の計測に際しては任意の座標系を用いればよく、例えば規格化後の二重楕円について、ひとつ目の楕円の中心を原点、長軸を含む直線をX軸、短軸を含む直線をY軸とした座標系を用いればよい。
【0126】
図15は、実施の形態にかかる脊椎位置推定手段5mの内部構成を模式的に示した図である。脊椎位置推定手段5mは、データベース5v、パラメータ取得手段5t、およびデータベース検索手段5uを含む。パラメータ取得手段5tは、図示しない入出力装置を介してユーザから検索に用いる特徴をパラメータとして取得する。データベース検索手段5uは、パラメータ取得手段5tが取得したパラメータを検索の鍵として、識別手段5kの発した識別出力をもとに正常部位または脊椎湾曲部位における脊椎中心をデータベース5vから検索して取得する。
【0127】
例えば、パラメータ取得手段5tが検索の鍵として年齢、性別、および腹囲を取得したとする。データベース検索手段5uは、識別出力がない場合、すなわち正常部位の場合には、データベース5vに格納されている正常部位のデータのうち、検索の鍵として入力された年齢、性別、および腹囲と合致するデータを検索して、それらの相対距離rの平均値r’を計算して取得する。続いて、データベース検索手段5uは、単一楕円近似手段5jから入力された楕円の短軸の長さlを取得し、短軸の背面側の短点からl×r’離れた点を脊椎中心として第4メモリ5nに出力する。
【0128】
識別出力がある場合、すなわち脊椎湾曲部位の場合には、データベース検索手段5uはデータベース5vから脊椎湾曲部位のデータのうち、検索の鍵と合致する患者の相対距離sの平均値s’を計算して取得する。続いて、データベース検索手段5uは、二重楕円近似手段5lから入力されたふたつの楕円の交点を結ぶ線分の長さl’を取得し、短軸の背面側の交点からl’×s’離れた点を脊椎湾曲部位における脊椎中心として第4メモリ5nに出力する。
【0129】
なお、データベース検索手段5uは、検索の鍵として設定された値のみならず、その値に近い値を持つデータを取得するようにしてもよい。例えば身長を鍵として145cmが設定された場合に、140cmから150cmの範囲を検索して取得するようにしてもよい。この場合、合致するデータが増えるので、平均値の精度を向上させうる点で有利である。また、検索の鍵としては、例えば身長が140cm〜145cmを含まないとの条件のように、条件を否定形式で設定して検索することもできる。データベース検索手段5uは、パラメータ取得手段5tが取得した検索の鍵に換えて、予め定めてある所定の条件を検索の鍵としてもよい。
【0130】
データベース検索手段5uはまた、検索の際に脊椎番号が同一のデータを検索対象としてもよい。例えば18番の脊椎が写っている断面画像の脊椎中心を取得する場合には、データベース検索手段5uは、18番の脊椎のデータのみを検索対象としてもよい。これにより、実際に取得したい脊椎中心が存在する部位における特有の症状や傾向等を検索対象データに反映させることができるので、推定精度を向上できる点で有利である。脊椎番号が同一のデータだけでなく、脊椎番号が近傍のデータ(例えば17番、18番、19番のデータ)を検索対象としてもよい。
【0131】
以上説明したように実施の形態によれば、推定脊椎ラインデータを形成する理想脊椎ラインデータ形成手段5pを備えており、理想脊椎ラインデータを表示データ発生手段5bに入力し、プロジェクタ2(表示手段)により撮像直後の人体背面に脊椎湾曲部位を識別表示した推定脊椎ラインを投影することにより、脊椎湾曲部位の状態を人体背面で確認することができる。汎用性の高い機器が利用できるため、体表も円の非対称の度合いを安価に自動判定することが可能となる。湾曲度合いを定量的に求めるため、脊椎湾曲症の候補を客観的かつ正確に判定することができる。
【0132】
以上、本発明を実施の形態をもとに説明した。これらの実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組み合わせにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0133】
1)本実施の形態では、下着を着用した場合に横断面に下着のシワによる多数の小突起が現れることもあるが、このような小突起に基づくデータは平滑化フィルタ処理等により解消できる。また下着の張りにより脊椎部分の凹みが現れないが横断面の計測ラインの中央で二分することにより二重化楕円の形成ができるので、本実施の形態において「人体背面」とは人体背面の皮膚表面に限るものではない。
【0134】
2)本実施の形態では、脊椎湾曲部位を単一楕円と横断面の平均二乗誤差が閾値を超えた部分と定めている関係で、正常部位と脊椎湾曲部位の境界付近の脊椎推定ラインが不自然に変化(不連続化)するが、変化の著しい部分はフィルタリング(平坦化)処理によりなだらかな推定脊椎ラインに修正することができ、このような構成が本実施の形態に含まれる。
【0135】
3)本実施の形態では、人体背面をドロネー図として表現しているので、このドロネー図データを利用して横断面データの精度を上げることができたが、ドロネー図化を行わない場合は、水平に並んで投射されているドットの位置から横断面データを特定することも可能であり、本発明に於いてドロネー図化は横断面データの形成にとって必須ではない。
【0136】
4)本実施の形態では1cm間隔で横断面データを形成したが、精度を問わない場合はその間隔を広げて段数を減らすことも可能であるが、そのような場合には、複数回の識別出力の発生に基づくことなく1回でも識別出力が発生した場合には、脊椎湾曲症と判定する必要があり、そのような構成も本実施の形態に含まれる。
【0137】
5)本実施の形態では、人体背面に投射されたドットパターンを2台のカメラで離れた位置から同時撮像して三次元データを形成する場合について説明したが、三次元データの形成方法や三次元データの範囲は問わない。従って、精度を求めないのであれば、1台のステレオカメラで撮像して二枚の画像データを得ることも可能である。更に、精度を問わないのであれば一台のカメラの撮像データであっても、ドットパターンの投射位置と撮像位置から横断面データの形成は可能である。
【0138】
6)本実施の形態では、人体背面のドットパターンを同一タイミングで異なる位置から撮像して得られる撮像画面から人体背面の三次元データを求める。ここで「背面三次元化手段」は、本実施の形態において、第1メモリ5c、第2メモリ5d、二次元化手段5e、三次元化手段5fより成る。
【0139】
7)本実施の形態では、単一楕円近似手段5jおよび二重楕円近似手段5lがそれぞれ単一楕円および二重楕円を最小二乗法を用いて特定する場合について説明したが、前述のデータベース5vを参照して特定してもよい。この場合、データベース検索手段5uか、あるいは専用の楕円検索手段(図示せず)を用意して検索する。具体的には、ユーザから被験者の特徴を取得し、その特徴を鍵としてデータベース5v内の楕円の長軸や短軸を取得するようにすればよい。
【0140】
8)本実施の形態では、データベース5vはあらかじめ作成してある場合について説明したが、データベース5vに格納されるデータは、被験者の同意が得られていることを前提として、新しい被験者のデータを取得する都度、あるいは任意のタイミングで追加して更新するようにしてもよい。これは、図示しないデータベース更新手段を用いて行うようにする。データベース5vが蓄積するデータを増やすことができるため、データベースの信頼性を高められる点で有利である。また、データベース5vに格納されたデータを消去するために、データ消去手段(図示せず)を用意してもよい。これにより、例えば特定の地域のデータが偏ることを防止する等、データベースの質を維持できる点で有利である。
【符号の説明】
【0141】
5a タイミングパルス発生手段、 5b 表示データ発生手段、 5e 二次元化手段、 5f 三次元化手段、 5h ドロネー図化手段、 5i 横断面データ形成手段、 5j 単一楕円近似手段、 5k 識別手段、 5l 二重楕円近似手段、 5m 脊椎位置推定手段、 5o 推定脊椎ラインデータ形成手段、 5p 理想脊椎ラインデータ形成手段、 5q 比較演算手段、 5r 判定手段、 5s レコード手段、 5t パラメータ取得手段、 5u データベース検索手段、 5v データベース。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
人体背面の三次元データより人体の横断面の少なくとも一部を含む複数の横断面データを形成する横断面データ形成手段と、
前記横断面データを近似演算処理することにより、単一楕円を特定する単一楕円近似手段と、
前記横断面データと前記単一楕円との誤差が予め設定した閾値以上となる脊椎湾曲部位を識別して識別出力を発する識別手段と、
識別出力の発生に基づき脊椎湾曲症の候補を判定して取得する脊椎湾曲症候補取得手段とを含むことを特徴とする脊椎湾曲症判定支援装置。
【請求項2】
前記横断面データを分割してそれぞれ近似演算処理することにより、二個の楕円を特定する二重楕円近似手段と、
正常部位において前記単一楕円の短軸上に脊椎の中心位置を推定して特定すると共に、前記脊椎湾曲部位において前記二個の楕円の交点を結ぶ直線上から脊椎の中心位置を推定する脊椎位置推定手段と、
前記脊椎の中心位置に基づいて推定脊椎ラインを特定する推定脊椎ラインデータ形成手段と、
前記推定脊椎ラインと表示手段に供給する表示データ発生手段とを含むことを特徴とする請求項1に記載の脊椎湾曲症判定支援装置。
【請求項3】
前記脊椎位置推定手段は、健常であることが既知である被験者から取得した前記脊椎の中心位置と脊椎湾曲症であることが既知である被験者から取得した前記脊椎の中心位置とを少なくとも含むデータベースを参照することにより前記脊椎の中心位置を取得することを特徴とする請求項2に記載の脊椎湾曲症判定支援装置。
【請求項4】
人体背面にドットパターンを投射する投射手段と、
前記ドットパターンが投射されている状態の人体背面を異なる2方向から撮影した画像を出力する撮像手段と、
同時に撮像された前記画像よりドットパターンを構成する各ドットの空間位置を、三次元データとして出力する背面三次元化手段とを含むことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の脊椎湾曲症判定支援装置。
【請求項1】
人体背面の三次元データより人体の横断面の少なくとも一部を含む複数の横断面データを形成する横断面データ形成手段と、
前記横断面データを近似演算処理することにより、単一楕円を特定する単一楕円近似手段と、
前記横断面データと前記単一楕円との誤差が予め設定した閾値以上となる脊椎湾曲部位を識別して識別出力を発する識別手段と、
識別出力の発生に基づき脊椎湾曲症の候補を判定して取得する脊椎湾曲症候補取得手段とを含むことを特徴とする脊椎湾曲症判定支援装置。
【請求項2】
前記横断面データを分割してそれぞれ近似演算処理することにより、二個の楕円を特定する二重楕円近似手段と、
正常部位において前記単一楕円の短軸上に脊椎の中心位置を推定して特定すると共に、前記脊椎湾曲部位において前記二個の楕円の交点を結ぶ直線上から脊椎の中心位置を推定する脊椎位置推定手段と、
前記脊椎の中心位置に基づいて推定脊椎ラインを特定する推定脊椎ラインデータ形成手段と、
前記推定脊椎ラインと表示手段に供給する表示データ発生手段とを含むことを特徴とする請求項1に記載の脊椎湾曲症判定支援装置。
【請求項3】
前記脊椎位置推定手段は、健常であることが既知である被験者から取得した前記脊椎の中心位置と脊椎湾曲症であることが既知である被験者から取得した前記脊椎の中心位置とを少なくとも含むデータベースを参照することにより前記脊椎の中心位置を取得することを特徴とする請求項2に記載の脊椎湾曲症判定支援装置。
【請求項4】
人体背面にドットパターンを投射する投射手段と、
前記ドットパターンが投射されている状態の人体背面を異なる2方向から撮影した画像を出力する撮像手段と、
同時に撮像された前記画像よりドットパターンを構成する各ドットの空間位置を、三次元データとして出力する背面三次元化手段とを含むことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の脊椎湾曲症判定支援装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2011−160824(P2011−160824A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−23117(P2010−23117)
【出願日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【出願人】(508236240)公立大学法人公立はこだて未来大学 (16)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【出願人】(508236240)公立大学法人公立はこだて未来大学 (16)
【Fターム(参考)】
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