説明

脱アルコール飲料の香りを富化するためのプロセス

本発明は、パーベーパレーションを用いた原料飲料からアロマを抽出し、抽出した該アロマを完全又は部分脱アルコール飲料へ添加することにより、特にビールやワイン等の飲料のアロマプロフィールを富化するプロセスに関する。原料飲料(1)は、真空ポンプ(12)が提供する真空下で、分離膜モジュール(4)の透過側(5)に供給される。供給液は、膜面と接触し、アロマは、膜の透過側に選択的に透過され、蒸発される。蒸気透過ストリーム(5)は、適切な極低温で凝縮(10)される。アロマを抽出した後、ノンアルコール飲料(15)を取得するため、飲料(6)は、脱アルコール処理ユニット(14)に供給される。しかしながら、アロマ化合物の枯渇が生じる。最後に、抽出したアロマ(10)は、脱アルコール飲料に添加され、アルコール含有量を増やすことなく、香りが富化された製品(16)が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビールやワイン等のアルコール飲料からアロマ化合物を抽出/回復し、該アロマ化合物を、アロマ化合物が欠如している飲料へ添加することに関し、パーベーパレーション技術を用いるものである。
【背景技術】
【0002】
〔発明の背景〕
今日、食品業界では、アロマ化合物の分離のために、パーベーパレーションは非常に有望なプロセスだとされている。それは、高選択性の膜分離プロセスである(非特許文献1参照)。さらに、このプロセスは、蒸留等の他のプロセスとは対照的に、低温下で行うことができる。パーベーパレーションのこの特徴は、その目的が、発酵により得られたアルコール飲料のいくつかのアロマ化合物等の熱に敏感な化合物の分離であるときに、有利である。
【0003】
〔先行技術〕
ジュースや、ワイン、ビール等の発酵飲料からのアロマの回復は、食品処理業界においてますます重要な操作である。ジュース、ビール、ワイン等の飲料のアロマは、揮発性有機化合物(VOCs)の大集団で構成されていて、該揮発性化合物は、飲料の香りや味の原因となっている。前記揮発性化合物の濃度は低く、通常ppmレベルである(非特許文献1〜4参照)。これらのアロマ化合物は、アルコール、エステル、アルデヒド、ラクトン、カルボン酸、フェノール、エーテル等の異なる化学官能基に所属している(非特許文献2,3参照)。アロマ化合物の各官能基は、典型的な香りや味の原因となっている。例えば、エステルは、飲まれると、甘くてフルーティーな香りを与える一方、アルデヒドは、飲料の新鮮さ(未成熟さ)に関与している。その一方で、アルコールは、アルコール性とフルーティーで未成熟な風味とを提供する。前記アルコールは、ビールやワイン等の発酵飲料中のアロマ化合物の主要な官能基であり、該発酵飲料ではエタノールが支配的な官能基である。
【0004】
過去数年の間、低アルコール飲料市場では大幅な生産増加が観測されている。この傾向は、主に、健康と民事上の責任との理由によるものである。しかし、前記市場で入手可能である一部のノンアルコール飲料は、アロマ化合物の欠如のために、消費者により限定的にしか受容されていない。実際に、発酵中断により得られた製品は、アルコール飲料の典型的なアロマプロフィールを有していない。その一方で、脱アルコールプロセスは、消費者に結果的に受け入れられるために、製品を、品質に最も寄与する原料アロマの損失をもたらす可能性がある強烈な条件に従わせている(非特許文献1〜4参照)。前記飲料処理は、特に高温で実行される場合には、アロマ組成を大幅に変更することができる。この変更は、物理的な損失、又は、原料アロマを変化させる化学的反応に起因する(非特許文献1,2,6,7参照)。結果として、製品の官能的品質は、最初の飲料の官能的品質とは大幅に異なるようにすることができる。従って、脱アルコール飲料の成功は、原料アロマプロフィールの再生の可能性に依存する。
【0005】
飲料の官能的プロフィールの変更を克服するために、アルコール含有量を低くするための飲料処理中に失われたアロマ化合物を回復すること、或いは、脱アルコール処理と、加熱に基づく処理との前に、これらのアロマ化合物を抽出し、続いて、最終的な製品に添加することが考えられる。これらは、この用途にとっては利用可能ないくつかの効果的な処理であり、パーベーパレーション等の膜プロセスは最も魅力的である。パーベーパレーションは、その高い選択性に加えて、熱に敏感なアロマの処理に適している低温で行うことができる(非特許文献1〜4参照)。さらに、パーベーパレーションは、低エネルギー消費と、溶媒抽出等でのように何も添加物を必要としない物理的分離処理であり、国際的な食品法により支持されている(非特許文献3,4,8,9参照)。パーベーパレーションは、これらの利点に加えて、天然、非合成、アロマ化合物の性質のために重要な商業的価値を有する原料アロマの抽出/回復を可能にするプロセスである。
【0006】
パーベーパレーション技術は、特に脱水用途に関して、過去10年の間に飛躍的に改良されてきたが、熱に敏感な化合物、共沸混合物、異性体混合物の分離での適用が探究されている(非特許文献10,11参照)。要約すると、パーベーパレーションの用途は、3つの主要なグループ、a)有機水溶液混合物の脱水、b)水溶液からの有機化合物の除去、c)有機溶媒混合物の分離、に分類することができる。パーベーパレーションの第1の主要な産業用途は、溶媒の脱水であり、今でも最も重要な用途である(非特許文献11参照)。これらの用途では、親水性膜が必要とされる。水溶液からの有機化合物の除去に関するパーベーパレーションの運用は、産業レベルで使用されているが、狭い範囲である(非特許文献10参照)ので、最近さらに発展してきた。最近では、パーベーパレーションは、化学、石油化学産業で有機混合物の分離に広く使用されている(非特許文献11参照)。
【0007】
今日では、食品用途、特にフルーツジュース等のアロマの回復及び濃縮のためにパーベーパレーションの使用が増加傾向にあることが観測することができる。殺菌等のジュースの加熱処理は、原料アロマの損失を引き起こし、その結果、処理された製品の品質の損失を引き起こす(非特許文献1,6,7参照)。フルーツジュース産業でのパーベーパレーションの使用に加えて、ビールやワイン等の発酵飲料からのアロマの回復に関して、パーベーパレーションの使用が報告されている(非特許文献4,12参照)。それは、これらの飲料の加熱処理の間に、もっと言えば脱アルコール処理で生じたアロマ損失が原因である。
【0008】
非常に多くの科学系出版物が、アルコール飲料からのアロマ回復でのパーベーパレーションに使用することに言及しているにもかかわらず、本発明で開示しているようなパーベーパレーションの使用については言及されていない。本発明の核心は、例えば部分又は完全脱アルコールビール等のアロマが激減された飲料に添加されるためのアロマ濃縮物を得ることに関する。これは、富化されたアロマプロフィールのビールや原料ビールに似たビールを取得することを目的としている。この操作モードは、以前に開示されたものとは明らかに異なる。
【0009】
特許文献1は、飲料中の水含有量に対する高額な負担金による輸送コストを削減するために、逆浸透を用いる脱水手段によりアルコール飲料を濃縮するプロセスを開示している。特許文献1は、特許文献2で世界的に開示された特許文献3に対応している。このプロセスでは、原料ビールは逆浸透し、そこでは膜が水を透過し、部分的又は完全にエタノール及びアロマ化合物を透過することができるかもしれない。逆浸透からの未透過物―濃縮飲料―は、操作モードがバッチ又は連続であるかによって、それぞれ供給タンクに再循環してもよく、再循環しなくてもよい。飲料アロマのプロフィールを著しく変えないために、ほとんど水である逆浸透からの透過ストリームは、エタノールとアロマ化合物とに分離するために、(真空)蒸留装置に導かれる。蒸留カラムは、一般的にカラム又は充填カラムからなり、下部の蒸気ストリッピング部と頂部の蒸気精留部とを含み、透過ストリームが各部の交差部に供給される。透過物は、前記ストリッピング部を通って流れ落ちる。下部では、透過物が沸騰し、蒸気が、傾斜透過物からエタノールとアロマとを吸収した前記ストリッピング部を通る。次に、アルコールとアロマとを含む蒸気は、分離蒸留が行われる精留部まで流れ続ける。前記蒸気は、少量の水を伴って前記カラムから離れ、凝縮後に、濃縮された飲料に添加される。前記飲料は、最終的には、脱気水により所望の濃度(エタノール量及び密度)に再構成されることができる。このプロセスは、主に、特許文献1ではアロマ化合物を回復するために蒸留を行う一方、本発明ではパーベーパレーションを行うことにより、本発明で報告されるプロセスとは異なる。特許文献1の主となる目的は、簡易な輸送を実現するための、脱水によるアルコール飲料の濃縮であり、本発明の目的は、脱アルコール飲料のアロマを富化することにある。
【0010】
特許文献4には、液体ストリームからの有機化合物の回復のためのプロセスが記載されている。この方法は、2つの分離プロセス:パーベーパレーション及びデカンテーションを組み合わせたものである。特許文献4の一部の継続出願―特許文献5―が提出され、特許文献6が特許文献4の一部の継続出願として提出された。これらの特許文献で報告されているプロセスは、産業廃液からの有機化合物の分離及び回復に関する。操作モードの選択は、供給液ストリームの性質に依存する。供給液が、単相溶液を形成する、有機物濃度の低い水溶液である場合には、最初にパーベーパレーションを使用するのが都合がよい。この実施例では、パーベーパレーションユニットからの透過ストリームは、水溶解度以上の有機物濃度を含み、2相を形成する。前記2相は、(凝縮後に)デカンターで分離される。概して有機化合物で飽和された水相は、パーベーパレーションユニットに再循環される。供給液ストリームが2つの相を含むとき、該相を分離するためにまずデカンターに供給され、水相がパーベーパレーションシステムに供給される。残った未透過物は、2相を形成し、デカンターに再循環される。2つの実施例では、2相が形成されている。前記2相は、有機化合物の残留濃縮物を含む水性ストリームと、回復され再利用される、高純度に濃縮された有機物ストリームである。本発明では、処理されようとする溶液は、アロマ、エッセンス、他の有機化合物を含む、食品加工又は飲料加工からの産業廃液又は汚水とすることができる。このプロセスは、ジュースの香りや味に寄与するアロマ化合物を有する、フルーツジュース(リンゴジュース等)の濃縮に用いられる蒸発器からのストリームを処理するのに特に有益である。前記処理の後で、アロマ濃度が非常に高い有機相はジュースに添加されることができるが、一方で、アロマ及び芳香剤産業に使用することができる。本発明のプロセスは、特許文献6の目的が、産業排水からの有機化合物(例えばアロマ)の回復であり、一方、本発明は、脱アルコール処理の後に、同一のストリームにアロマ化合物を添加するために、主となるストリームからのアロマ化合物の抽出を含んでいるという理由で、特許文献6で開示されたものとは異なる。その一方で、特許文献6では、水性及び有機ストリームが形成されており、本発明では、該ストリームは発生していない。
【0011】
特許文献7は、重要な栄養化合物の量を大きく変更することなく、柑橘類のジュースからの苦味因子を除去するための膜分離プロセスを開示している。この方法は、2つの膜接触器モジュールを通った分離からなる。前記モジュールでは、前記化合物は、選択膜によりストリームの間に移動される。第1のモジュールでは、苦味因子は、ジュースから抽出液(例えば有機液体)へ、半透過膜を透過する。苦味因子が富化された液体は、第2の膜接触器に供給される。前記接触器では、苦味因子が第2の膜を透過し、前記膜の反対側を流れる第2の液体により、(カルボン酸からエステルへ)加水分解される。このストリームは、これらの化合物が激減していて、透過側に沿って流すために第1のモジュールに再循環される。苦味の除去が所望のレベルに達するまで行われ、第1の膜はこれらの化合物を透過させない膜であるので、重要な栄養素(アスコルビン酸等)は柑橘類のジュースに保持される。特許文献7のプロセスは、2つの膜接触器が望ましくない化合物(苦味因子)の抽出及び除去に用いられるという理由で、本発明とは異なる。
【0012】
特許文献8は、疎水性吸着剤への吸着と、抽出された相の蒸留とにより、ノンアルコールビール及び濃縮されたビールアロマを製造するプロセスを開示している。特許文献8は、特許文献9に対応している。前記プロセスは、ゼオライト等の疎水性吸着剤でのエタノール及びアロマ化合物の共吸着に基づく。その結果、水性溶離液相と吸着相とが形成される。前記プロセスの第2の部分は、アルコールと香りとで満たされた吸着剤からの水層の分離からなる。次に回復のために、脱着が必要となる。脱着後に、脱着された相が蒸留ユニットに供給され、高級アルコールストリームと濃縮されたアロマストリームとに分割される。最後に、脱アルコール溶離液と芳香族抽出物とを混合し、二酸化炭素で加圧することにより、ノンアルコールビールが再構成される。特許文献8のプロセスは、アロマ抽出と、水性低級アルコール相、及び、脱アルコールビールに添加されるアロマ濃縮物を製造するための蒸留とによる吸着プロセスを用いるとの理由で、本発明に記載されたプロセスとは異なる。
【0013】
特許文献10は、通常のアルコールビールのパーベーパレーションによる脱アルコール処理によりノンアルコールビールを製造するためのプロセスを開示している。このプロセスでは、膜の真空側に適用される圧力と凝縮器の温度は、アロマ化合物を超えてエタノールの選択的透過を可能にする。その一方で、アロマ化合物の回復が必要とされるとき、極限条件(より低い凝縮温度)下で作動する第2の凝縮器は、第1の凝縮器に連続して配置される。本発明の実施例では、第2の凝縮器からの透過物は、脱アルコール処理中のアロマ化合物の損失を克服するために、未透過物ストリームに添加される。特許文献10のプロセスは、脱アルコール処理後のビールに添加するためのアロマ抽出に代えて、ビールの脱アルコール処理を目的とする点で、本発明で開示されたプロセルとは異なる。
【0014】
特許文献11は、発酵飲料からのエタノール除去のための膜分離(制御された吸着を伴う透析)に基づく。このプロセスでは、アルコール醸造物は疎水性膜の表面に接触する。膜の下流側では、供給液からエタノール(及びいくつかのアロマ化合物)を抽出するために、ストリップ溶液が流れる。その結果、アルコール化されたストリップ溶液とノンアルコール製造物とが得られる。一般的に、前記ストリップ溶液は、炭酸の膜の透過と、それにより結果として生じる飲料の脱炭酸とを避けるために、脱気水と、優先的に二酸化炭素が飽和した水とからなる。これに続く脱アルコール処理では、少なくとも、該脱アルコール処理で得られた、脱アルコール飲料の画分又はストリップ溶液の画分が、(両方のストリームがアロマ化合物を含むので)ストリップ溶液として使用することができる。従って、ストリップ溶液側でのアロマ化合物の濃度(エタノールを除く)は高く維持され、膜の両側の透過駆動力が減少しているので、膜を通る透過物を最小化する。その結果、このプロセス中のアロマ損失が最小化される。特許文献11のプロセスは、飲料を脱アルコール処理するために膜接触器(透析)を使用する一方、本発明では、アロマ抽出と、脱アルコール飲料への添加とのために、パーベーパレーションを行う点で、本発明で報告されたプロセスとは異なる。
【0015】
特許文献12は、アロマ化合物を通常のアルコールビールから市販のノンアルコールビールに移動させるために透析を用いる、膜分離プロセスを開示している。特許文献13は、特許文献12の継続出願として、提出された。このプロセスでは、固体又は液体の膜である疎水性膜が、供給液と、富化されることになるストリーム(ピックアップ溶液)との間に配置されている。この場合、前記ストリームは、市場で価値のある通常のアルコールビール等の、アロマ化合物が抽出された溶液に相当する。前記ピックアップ溶液は、低いアロマ濃縮物を有するか又はアロマ濃縮物を有していない(例えば蒸留又は透析により製造された)市販のノンアルコールビールから成る。従って、アロマ化合物は、前記飲料を改良するために、濃縮物のプロフィールにしたがって膜を選択的に透過する。前記分離プロセスは、膜の両側でアロマ化合物濃縮物が平衡に達するまで、実行される。前記プロセスの最後では、両方の飲料は、膜の透過性が他のアロマ化合物よりも低いエタノールを除いて、同一のアロマプロフィールを示し、結果的に、このプロフィールは、原料ビールのプロフィールよりもわずかに少なく濃縮される。この発明によれば、供給液は、水や二酸化炭素等の、アロマが吸収又は溶解されている透過物のために抽出されうる、望まれない化合物(例えばエタノール等)を含むビールとすることができ、結果として、所望のアロマを含み、望まれないアロマが激減された飲料が得られる。従って、供給ストリーム及び透過ピックアップ液体を適切に選択し、所望のアロマの含有量を増加させるか、或いは、望まれない含有物を減少させるかのいずれかにより、富化された飲料を得ることができる。特許文献13のプロセスは、アルコール及び富化されたアロマを含むビールからノンアルコールビールへアロマ化合物を透析するための膜接触器を使用し、アロマの香りを激減させるが、一方、本発明は、原料アルコールビールからアロマを抽出するパーベーパレーションと、それに引き続いて、脱アルコール処理の後の同一のビールへの該アロマの添加とを行う点で、本発明に記載されたプロセスから分かれたプロセスである。
【0016】
特許文献14は、真空下で作動する真空蒸発装置と、フレイバーテック(特許文献15)により供給された回転円錐カラムを用いる蒸留とを用いて、濃縮された柑橘系アロマや、柑橘系アロマ及び芳香剤を製造するためのプロセスを開示している。この装置は、主に、飲料の脱アルコール処理と、アロマ抽出とに使用される。ここで開示された前記プロセスは、その組成がアロマ及び香りの製造のための原材料として使用されるのに適した、柑橘系アロマ濃縮物を製造するために使用される。濃縮されたアロマを製造するための方法は、真空下での連続蒸発により、原料ジュースを100〜150倍に達するまで濃縮することを含む。次に、アロマ化合物を含む浮遊エッセンシャルオイルを、前記回復された溶液から分離するために、濾過工程が行われる。濃縮された柑橘物の残留回収溶液は、アロマ又は香り化合物を分離するために、回転円錐カラムに導かれる。最後に、これらの化合物は、ジュース又はデザートに添加される。特許文献14のプロセスは、(回転円錐カラムを用いた)真空蒸発及び真空蒸留により、フルーツジュースのアロマ濃縮を考慮している点で、本発明とは異なっている。
【0017】
特許文献16は、ワイン等の発酵醸造蒸留物の副生成物からのアロマ化合物を製造するとともに、パーベーパレーションにより各アロマ抽出するためのプロセスを開示している。
この特許の出願が特許文献17である。ワインの蒸留は、エタノール又はアロマが蒸留により除去されるので、酵母等の微生物を成長させるための多くの必須栄養素を含む副生成物を産出する。微生物は、基質と最低化された成長条件とにより、ワイン蒸留副生成物に基づくアロマや香りのような化合物を産出することができる。パーベーパレーション等の有益な分離プロセスは、培地からの貴重な生成物を抽出するために使用されることができる。特許文献16のプロセスは、脱アルコール処理後に、アロマのバランスを回復することなく、基質から特定のアロマを抽出するためにパーベーパレーションを用いる点で、本発明で開示されているプロセスとは異なる。本発明では、パーベーパレーションプロセスが、主要なプロセスのストリーム(例えばビール)からアロマ化合物を抽出するために用いられ、アロマプロフィールの損失につながるため、脱アルコール処理した後に、抽出されたアロマ化合物は脱アルコールビールに再合流される。
【0018】
特許文献18は、より望ましい化合物に対する選択性を改善するために、パーベーパレーションと透過物の分縮(還流濃縮)とを用いた、水と有機化合物とを含む混合物を分離するためのプロセスを開示している。特許文献18では、供給液(抽出される化合物を含む)は、パーベーパレーションモジュールに向かう。このユニットの膜は、除去される化合物の性質に応じて、親水性又は疎水性とすることができる。前記パーベーパレーション工程からの透過液は、蒸気相中で、部分的濃縮のための分縮器に送られる。そのユニット(充填カラム等)の構造は、上昇する蒸気流と下降する濃縮流との間で、熱と質量とを移動させることができる必要がある。この方法では、所望の分離に応じて、上部の蒸気生成物は、揮発性が高い化合物に富んでいて、下部の濃縮生成物は、揮発性が低い化合物に富んでいる。透過ストリームを部分的に濃縮するこの方法は、最も望まれる化合物の分離を向上させることができる。このプロセスは、ジュース、ワイン、ビール等の飲料加工、アロマの抽出、発酵培養液中の高含有エタノールによる酵母の抑制を避けるための発酵反応器からのエタノール連続除去といった食品産業に適用することができる。特許文献18のプロセスは、分縮に組み合わされたパーベーパレーションを用いる一方、本発明のプロセスは、脱アルコール処理される主となるストリームからアロマ化合物を抽出するためのパーベーパレーションを用い、これによりアロマプロフィールの損失が生じる点で、本発明のプロセスとは異なっている。その一方で、本発明では、抽出されたアロマは、脱アルコール処理された後に、原料飲料に再合流される。
【0019】
特許文献19は、ナノ濾過と、透過物からの蒸留によるアルコール除去と、処理された飲料への該アルコールの添加とにより、飲料のエタノール含有量を低減させるためのプロセスを開示していて、特許文献19のPCT出願が特許文献20に対応している。前記開示されたプロセスは、飲料から完全に又は部分的にエタノールを除去するために、ナノ濾過膜を用いる。結果として得られた透過物(主に、水とエタノールと僅かな塩とである)が、エタノール除去のための蒸留装置に送られる。下部の生成物(エタノールを除く)が、官能特性を維持するために、ナノ濾過飲料に添加される。特許文献19のプロセスは、ワインの脱アルコール処理のためのナノ濾過と、ナノ濾過された透過物ストリームからのアロマ化合物の回復のための蒸留とを用いる点で、本発明で開示するプロセスとは異なる。対照的に、本発明は、脱アルコール処理の後に、アロマを抽出するためにパーベーパレーションと、それに続いて、原料飲料へ該アロマの添加とを行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】米国特許出願公開第1988/4792402号明細書
【特許文献2】国際公開第1984/8403102号パンフレット
【特許文献3】欧州特許出願公開第1984/0116462号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第1991/5030356号明細書
【特許文献5】米国特許出願公開第1992/5169533号明細書
【特許文献6】米国特許出願公開第1993/5266206号明細書
【特許文献7】米国特許出願公開第1993/5263409号明細書
【特許文献8】米国特許出願公開第1994/5308631号明細書
【特許文献9】欧州特許出願公開第1991/0486345号明細書
【特許文献10】米国特許出願公開第1995/5385647号明細書
【特許文献11】米国特許出願公開第1998/5817359号明細書
【特許文献12】米国特許出願公開第2000/6162360号明細書
【特許文献13】米国特許出願公開第2002/6419829号明細書
【特許文献14】米国特許出願公開第2001/6287618号明細書
【特許文献15】米国特許出願公開第1991/4995945号明細書
【特許文献16】米国特許出願公開第2003/6518050号明細書
【特許文献17】国際公開第1999/9954432号パンフレット
【特許文献18】米国特許出願公開第2004/6755975号明細書
【特許文献19】ポルトガル特許出願公開第2004/102976号明細書
【特許文献20】国際公開第2004/113489号パンフレット
【非特許文献】
【0021】
【非特許文献1】Pereira, C.C., Rufino, J.R.M., Habert. A.C., Nobrega, R., Cabral, L.M.C., Borges, C.P., “Aroma compounds recovery of tropical fruit juice by pervaporation: membrane material selection and process evaluation”, Journal of Food Engineering, 66, 77-87, 2005
【非特許文献2】Karlsson, H.O.E., Tragardh,G., “Aroma recovery during beverage processing”, Journal of Food Engineering, 34, 159-178, 1997
【非特許文献3】Trifunovic, O., Tragardh, G., “Transport of dilute volatile organic compounds through pervaporation membranes”, Desalination, 149, 1-2, 2002
【非特許文献4】Tan, S., Li, L., Xiao, Z., Wu, Y., Zhang, Z., “Pervaporation of alcoholic beverages - the coupling effects between ethanol and aroma compounds”, Journal of Membrane Science, 264, 129-136, 2005
【非特許文献5】Sampranpiboon, P., Jiraratananon, R., Uttapap, D., Feng, X., Huang, R.Y.M., “Pervaporation separation of ethyl butyrate and isopropanol with polyether block amide (PEBA) membranes”, Journal of Membrane Science, 173, 53-59, 2000
【非特許文献6】Boerjesson, J., Karlsson, H.O.E., Tragardh, G., “Pervaporation of a model apple juice aroma solution: comparison of membrane performance”, Journal of Membrane Science, 119, 229-239, 1996
【非特許文献7】Pereira, C.C., Rufino, J.R.M., Habert. A.C., Nobrega, R., Cabral, L.M.C., Borges, C.P., “Membrane for processing tropical fruit juice”, Desalination 148, 57-60, 2002
【非特許文献8】Lipnizki, F., Olsson, J., Tragardh G., “Scale-up of pervaporation for the recovery of natural aroma compounds in the food industry. Part 1: Simulation and performance.” Journal of Food Engineering, 54, 183-195, 2002
【非特許文献9】Shepherd, A., Habert, A.C., Borges, C.P., “Hollow fibre modules for orange juice aroma recovery using pervaporation”, Desalination, 148, 111-114, 2002
【非特許文献10】Jiraratananon, R., Sampranpiboon, P., Uttapap, D., Huang, R.Y.M., “Pervaporation separation and mass transport of ethylbutanoate solution by polyether block amide (PEBA) membranes”, Journal of Membrane Science, 210, 389-409, 2002
【非特許文献11】Smitha, B., Suhanya, D., Sridhar, S., Ramakrishna, M., “Separation of organic-organic mixtures by pervaporation - a review”, Journal of Membrane Science, 241, 1-21, 2004
【非特許文献12】Karlsson, H.O.E., Loureiro, S., Tragardh, G., “Aroma compound recovery with pervaporation - temperature effects during pervaporation of a muscat wine”, Journal of Food Engineering, 26, 177-19, 1995
【発明の概要】
【0022】
本発明は、エタノールを完全にまたは部分的に除去し、飲料本来のアロマプロフィールを完全にまたは部分的に回復するためのプロセスを開示している。この開示されたプロセスは、原料飲料から目的のアロマ化合物を抽出するために、パーベーパレーション技術を採用している。前記アロマ化合物は、脱アルコールにより官能的レベルで激減している飲料に添加される。
【0023】
上記のプロセスでは、原料アルコール飲料(例えばビールやワイン)のアロマ化合物は、抽出され、パーベーパレーションユニットの膜分離モジュールに供給される。膜モジュールでは、供給画分(アロマ化合物)は、膜を選択的に透過し、真空下に維持されている該膜の透過側から離れる時に蒸発する。透過したアロマは、熱交換器で凝縮した後に収集される。凝縮温度は、揮発性アロマ化合物の損失を避けるために十分に低くし、−80℃より低い温度又は極低温(−196℃)にする必要がある。その一方で、透過圧もまた、透過流量を高くするとともに、重い化合物を選択的に透過させるために、十分低くする必要がある。透過圧は、用途によって、100Paから10kPaの範囲とする必要がある。膜を透過していない供給画分(未透過物)は、膜モジュールを離れ、原料アロマ化合物が減少した溶液を構成する。パーベーパレーションユニットからの未透過物ストリームは、残留しているアロマ化合物を抽出して、脱アルコール飲料に加えるために、再循環されることができる。或いは、濃縮されたアロマが添加されることになる予定の脱アルコール飲料を得るために、脱アルコールシステムに送られることができる。
【0024】
抽出したアロマ化合物のプロフィールは、プロセスの操作及び設計条件を調整することによって操作することができる。これらの条件は、膜の厚さ及び組成、供給液温度、供給液流速、真空圧力を含んでいる。前記膜の厚さ及び組成は、主に透過流量とアロマ化合物の選択透過性とにそれぞれ影響される。前記供給液温度は、透過後の蒸発速度の結果として、異なるアロマ化合物に関する膜透過性と、膜を通る化学種の駆動力とに影響する(なぜならば、透過側の蒸発圧もまた影響されるからである)。前記供給液流速は、濃度分極を最小限に抑えるために、十分に高くする必要がある。透過側で適用される前記真空圧力は、選択性と透過流量に影響する。しかし、アロマ選択性の透過圧力の効果は、化合物の揮発度により、異なる挙動を示す。揮発性アロマに関する蒸発選択性は、透過圧の増加に伴って増加する(真空以下)一方、重い化合物の場合には減少する。膜流量については、恒久的溶存ガスが存在しない場合には、透過流速は、主に、供給液温度と、第1の操作変数により増加し第2の操作変数により減少する透過圧とに依存する。その一方で、未透過物の圧力は、膜の流量及び選択性にわずかな影響を与える。二酸化炭素等の恒久的溶存ガスの存在下では、温度上昇がガス放出量の増加につながる。その結果、透過側の圧力が、ヘッドロス又は真空ポンプの制限により増加する可能性がある。凝縮温度は、プロセス上の重要な要素であるゆえに、慎重に選択されることによって、最も望まれるアロマ化合物の全体又は一部を凝縮できるはずである。
【0025】
〔一般的に述べられること〕
a)膜は、生産性向上のため、できるだけ薄くする必要があるが、膨張による選択性の劣化を避けるとともに機械的耐久力を維持するために、薄すぎてはならない。
【0026】
b)供給液温度は、飲料の感度が許す限り高くすべきである。これは、温度に伴って膜流量が指数関数的増加することで、生産性を高めるためである。その一方で、供給液温度は、PEI(ポリエーテルイミド)に支持されているPOMS(ポリオクチルメチルシロキサン)膜で得られる、高級アルコール、高級エステル(エタノールに対して)等の最も望まれる化合物に関する選択性についてバランスをとるために、可能な限り低くする必要がある。温度上昇が、エタノールと比較して、透過側での高級アルコール濃度の増加をもたらす。結果的に、温度に伴って高級アルコールの選択性が高くなる。その一方で、エステルでは、温度が上昇するにつれて、透過側での濃度の減少に加え、選択性の減少が観測されている。
【0027】
c)供給液流量速度は、濃度分極を最小限に抑える膜表面上の乱流型を保証するために、十分に大きくする必要がある。
【0028】
d)透過圧は、生産性を高めるためにできるだけ低くする必要があるが、真空に要する費用を減らすために、低すぎてはならない。その一方で、低透過圧では、重い化合物の多く(例えばアミルアルコール等)が回復される。これにより、凝縮器は、真空ポンプにより駆動される膜モジュールの透過側を十分に低い圧力に保つために、ヘッドロスがわずかとなるようにすべきである。真空ダクト、主にモジュールから凝縮器(ここは、体積流量速度が非常に大きい)までの真空ダクトは、ヘッドロスを非常に小さく維持するように設計する必要がある。
【0029】
e)凝縮温度は、アロマ濃縮を最大限に行うとともに、真空に要する費用を減らすために、可能な限り低くすべきであるが、冷却コストを考慮して、低すぎてはならない。その一方で、凝縮温度が低いほど、最終製品での軽いアロマの濃度は高くなる。
【0030】
最後に、PEI(ポリエーテルイミド)に支持されたPOMS(ポリオクチルメチルシロキサン)からなる複合膜は、キーとなるビールアロマ化合物に対する優れた選択性及び透過性を示すことが観察される。
【0031】
従って、本発明の提案によれば、発酵アルコール飲料のアロマプロフィールに、非常に大きく寄与する高級アルコール、高級エステル等のアロマ化合物は、パーベーパレーション工程を用いて、疎水性膜を選択的に透過させることができる。その結果、アロマ化合物の高濃度透過物が得られる。前記透過物の比率は、原料飲料に対して、高級アルコールの場合には10倍であり、高級エステルの場合には100倍である。前記透過物は、エタノール含有量を大いに増加させることなく官能的品質を改良するために、脱アルコール飲料に添加され、その結果、アロマ化合物から消耗される。飲料に添加されるのに必要なアロマ濃縮量は、全容積のごく一部に相当する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】脱アルコール飲料の処理工程を含み、アロマ含有量がパーベーパレーションからの未透過物ストリームにより釣り合いが取られる、ビールアロマ化合物を抽出するための産業用パーベーパレーションユニット及び脱アルコール処理ユニットの流れ図。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明は、標準的なエタノール含有量を有する飲料をパーベーパレーションすることにより濃縮されたアロマを得るためのプロセスを開示している。この濃縮されたアロマは、良好な官能的刺激性を有するノンアルコールビール(エタノール含有量が0.5%v/v未満である)を製造するために、脱アルコールビール等の、アロマが激減したプロフィールの飲料に添加される。
【0034】
本発明は、原料アルコール飲料のプロフィールに似ているか又は似ていない、富化されたアロマプロフィールを備える、ビール、ワイン等のノンアルコール飲料又は低アルコール飲料を製造するためのプロセスを開示する。
【0035】
従って、アルコール濃度が目標値以上である原料飲料が、エタノール含有量の全部又は一部を除去するためのプロセスに付されるのは、当然のことである。このアルコール除去プロセスは、飲料アロマ化合物の重要な画分の損失を、多かれ少なかれ引き起こす。
【0036】
本発明は、原料飲料のアロマプロフィールを完全にまたは一部を回復するためのプロセスについて説明する。
【0037】
このプロセスは、原料飲料のパーベーパレーションに基づいて、アロマ化合物の抽出と、脱アルコール飲料への添加とを目的とする。
【0038】
〔1.アロマ化合物の抽出〕
原料アルコール飲料は、パーベーパレーションユニットの膜分離モジュールに送られ、選択膜の表面に接線方向に接触する。
【0039】
この用途で使用される膜は複合膜である。前記複合膜では、選択フィルムが0.1〜2μmの範囲の厚さを備えていて、選択層が、ポリエーテルイミド(POMS/PEI)に支持されているポリジメチルシロキサン(PDMS)又はポリオクチルメチルシロキサンからなる。
【0040】
透過物に対する対象とするアロマプロフィールによれば、原料飲料は、膜パーベーパレーションモジュールの入口前で、5〜40℃の範囲の温度で加熱される。透過側は真空下に保持されていて、透過側の圧力は優先的に100Paから10kPaの範囲に保持されている。
【0041】
前述のパーベーパレーションプロセスでは、原料飲料は、通常、大気圧または僅かに高圧(例えば0.4MPaの絶対圧力)下で、膜モジュールに供給される。
【0042】
〔2.透過物の回収〕
透過されたアロマ化合物は、膜から離れて気相中に移動し、平行に配置された熱交換器の系内で、凝縮した後に、収集される。前記熱交換器は、アロマの透過物を半連続収集することができるように交互に作動する。
【0043】
この凝縮器システムでは、交互モードで作動する1対の熱交換器が使われている。その一方の凝縮器は、サイクルの半分の間、透過物ストリームの揮発性化合物を凝縮するために使用される。他方の凝縮器は、真空から切り離され、揮発性の凝縮物を液化し、収集するのに十分な温度に加熱される。
【0044】
凝縮温度は、−80℃未満とするべきであり、極低温(−196℃)にすることができる。この場合、極端な条件で作動している2つの凝縮器の組は、原料飲料のアロマプロフィールの更なる揮発性画分の凝縮を可能にするために、先の凝縮システムと連続して配置する必要がある。
【0045】
〔3.透過していない供給画分の回収〕
透過していない供給画分(未透過物)は、膜透過モジュールから離れ、抽出されたアロマが僅かに減少した溶液を構成する。
【0046】
未透過物画分の再循環は、膜表面上の液体流れの流速を高めるために重要であり、無視可能な濃度分極を許すことができる。これらの条件下で、未透過物ストリームは、残留アロマ化合物を回収するために、第2の供給液として使用することができる。
【0047】
その一方で、パーベーパレーションユニットからの未透過物流れは、個別の脱アルコール飲料を製造し、該飲料に濃縮されたアロマを添加するために、脱アルコール処理機構に向かう。
【0048】
〔4.飲料の脱アルコール処理〕
本発明の実施形態にしたがって、パーベーパレーションによってアロマ化合物が抽出された原料飲料は、脱アルコール処理ユニットに供給される。
【0049】
アルコール除去処理は、真空下での飲料とストリームとの間の向流の接触、又は、逆浸透により、行うことができる。飲料の処理中、アルコールは蒸気相を通って、連続的に除去され、最終製品の要求に応じてノンアルコール飲料及び低アルコール飲料が得られる。
【0050】
脱アルコール処理の間、飲料のアロマ/味のバランスに不可欠な化合物のほとんどが、通常失われる。これらの条件では、アロマ化合物の添加が必要とされる。
【0051】
〔5.香りが富化された飲料〕
パーベーパレーションユニットからの透過物ストリームは、原料アルコール飲料のアロマ化合物が濃縮された水溶液である。交互モードで作動する凝縮器システムによる凝縮、液化の後、透過物液は、脱アルコール飲料への添加の前に、このプロセスの最後で中間タンクに収集される。アロマ抽出物は、飲料を富化するために必要な透過物の正確な必要量を、投与ポンプによって、脱アルコール飲料ストリームに直接添加される。
【0052】
このアロマの量は、飲料全容積のごく一部の画分を示していて、意図されているアロマプロフィールと、最終的な飲料のために法律で許可されるエタノールの制限の要求とにより選択される。
【実施例1】
【0053】
〔実験用パーベーパレーションユニットを使用する、通常アルコール含有ビールからのアロマ化合物の抽出実験〕
供給タンクに収容された原料ビール(アルコール含有量が約5.5%v/v)が、107.46cmの有効膜面積を備える膜モジュールに送られる。使用される膜は、平坦なPOMS複合膜であり、1.5μm程度の厚さを備え、PEIの多孔質層で支持されている。供給液ストリームは、遠心ポンプで汲み上げられる。膜モジュール内に入る前に、供給液ストリームは分画され、一部の供給画分は、プレート式熱交換器(実効面積が2000cmである)を通じて、供給液貯蔵器に再循環される。他の供給画分は膜モジュールに向かい、アロマ化合物は選択的に膜を透過する。ここでは、駆動力は、名目上の最小真空圧力が0.2Paであるとともに最大蒸気流量が0.22kg・h−1である真空ポンプによる大気以下の圧力に起因する。
【0054】
透過物は、膜から気相に離れ、コールドトラップで凝縮され、液体窒素中に浸漬される。前記コールドトラップは、ステンレス鋼製であり、この用途向けに特別に設計された2つの同心円シリンダから成る。前記コールドトラップは、液体窒素(−196℃)が満たされた分離デュワーフラスコ中に配置されている。前記−196℃は、揮発性のアロマ化合物でさえも完全凝縮を可能とするためである。コールドトラップは、ステンレス鋼製の柔軟性のあるチューブにより、膜モジュールと真空ポンプの下流とに接続している。これらすべてのチューブは、容易に接続の解除と透過物の収集とを行うために、クランプタイプのコネクタで接続されている。アロマは、液化後、コールドトラップから収集される。前記液化は、多くの揮発性アロマ化合物の損失を避けるために、約0℃のグリコール水混合液中に浸漬することにより行われる。液化後、アロマはガラスフラスコに収集される。
【0055】
モジュールに供給されるビールの画分は、膜を透過しない場合は、未透過物出口を通ってモジュールから離れ、プレート式熱交換器を通って供給タンクに再循環される。未透過物流量は、浮子式流量計を使用して測定され、ニードルバルブで制御される。
【0056】
供給液圧力は、モジュールの入り口に配置された圧力計を用いて測定され、ニードルバルブで制御される。この供給液の配置は、供給液/未透過物流速及び初期のストリーム圧力を独立して調節することを可能にする。
【0057】
透過流速は所定の透過時間が終了した後に、透過物流速が重量測定法により測定される。下流の圧力(浸透側)は、センサー/トランスミッタにより監視され、絞り弁を調整することにより制御されている。
【0058】
供給液の温度は、5℃に維持され、絶対圧力は約0.4MPaに維持された。透過圧は約100Paに維持された。この実験機構は、アロマ濃縮物の製造を行うことができ、回転円錐蒸留分離管により製造された脱アルコールビール(エタノール含有量が0.0%v/v)に添加されるときには、エタノール含有量が0.05%未満である(0.0%アルコールビールと呼ばれる)とともにアロマが富化されたプロフィールを備える最終的なビールを得ることができる。濃縮されたアロマの添加量は約0.4%であり、最終的なビールは、原料ビールとよく似たアロマ濃度を示し、主にエステル合成物のプロフィールが全体的に回復された。さらに、製造物の官能分析は、限定されたグループの被験者により、原料ビールとよく似た良好なアロマプロフィールと味とを備えるビールであることが判明した。
【実施例2】
【0059】
〔原料アロマ化合物の再合流を伴う、アルコールビールからのノンアルコールビールの産業的製造〕
アロマ化合物が抽出される原料ビール(1)は、約6%v/vのアルコール含有量と、3.8g・L−1の残余二酸化炭素とを備えている。前記ビールは、40mの有効面積を有し、PEIに支持されたPOMS複合膜を備える膜モジュール(4)に供給される。前記原料ビールの前記モジュールへの移動は、供給液と前記モジュールの未透過物側との間における最小圧力降下を0.2MPaに維持するように、0.25MPaの絶対圧力で、遠心ポンプ(2)により行われる。供給液流速は、2000L・h−1である。膜の生産性を高めるとともに、最も望まれる化合物に対する選択性を改良するために、前記ビールは、分離モジュールに入る前に、5〜40℃の範囲の温度で加熱されてもよい。前記ビールストリームを温め、安定した温度に維持するために、熱交換器(3)の内側での絶えず続く循環に、水が用いられてもよい(図1参照)。
【0060】
前記膜モジュールの透過側では、圧力は、回転羽根真空ポンプ(12)によって大気圧下(100Pa〜10kPaの範囲)に維持される。真空により、アロマ組成物の、供給液から透過側への大量な移動と、膜の透過側での蒸発とを行うことができる。高濃度のアロマ化合物を含む、気相(5)中の透過物ストリームは、第1の凝縮器(7)に供給される。循環機(9)は、前記透過物を凝縮させるために、−80℃の温度の冷却液(18)を前記凝縮器に供給する。前記凝縮器(7)は、アロマの半連続回収を行うために、第2の凝縮器(8)と交互モードで作動する。極度温度条件で作動する第2の凝縮器システムは、前記の凝縮器(7及び8)で凝縮されなかったアロマの完全凝縮を保証するために、透過列に連続して配置されることができる。−196℃の液体窒素等のような極低温流体が、最後の凝縮器で使用されてもよい。二酸化炭素などの非凝縮性化合物は、真空ポンプ孔(19)を通って排出される。
【0061】
凝縮されたら、透過物ストリーム(10)は、タンク(11)に収容される。透過物の流出が、投与ポンプ(13)により行われる。投与ポンプ(13)は、最終的なビールに添加するのに必要とされるアロマ化合物の流速(約8L・h−1)に設定されている。
【0062】
膜を透過しない供給画分(6)―未透過物―は、アロマが僅かに減少したビールに相当する。このストリームは、脱アルコール処理ユニット(14)に供給され、該ユニットで、アルコール含有量が0.5%未満、もっと言えば0.05%未満のビールを得ることができる。
【0063】
前記プロセスの最後で、パーベーパレーションユニットからの透過物は、凝縮(10)後に、前記エタノール除去プロセスで、エタノールとともに揮発性アロマ化合物のほとんどが失われた脱アルコールビール(15)に添加される。この結果、原料ビールからの味のプロフィールがほとんど保存されている、ノンアルコールビール(16)が得られる。
【符号の説明】
【0064】
1…供給液ストリーム又は原料飲料の接続、 2…供給液ポンプ、 3…供給液熱交換器、 4…パーベーパレーション膜モジュール、 5…モジュールからの透過蒸気流れ、 6…膜を透過しない供給画分―未透過物―の接続、 7,8…2つの凝縮器、 9…循環機、 10…凝縮された透過物の接続、 11…液体中の透過物を収集するためのタンク、 12…真空ポンプ、 13…投与ポンプ、 14…最終的な処理システムを含む脱アルコール処理システム、 15…脱アルコール飲料ストリームの接続、 16…最終製品ストリームの接続、 17…熱水の接続、 18…冷却液の接続、 19…凝縮されていない化合物を排出するための真空ポンプ孔。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
富化され/バランスのとれたアロマプロフィールを有する飲料を得るプロセスであって、
原料飲料からのアロマパーベーパレーションによるアロマを抽出する工程と、抽出した該アロマを、完全又は部分脱アルコール飲料に添加する工程とを備えることを特徴とするプロセス。
【請求項2】
請求項1記載のプロセスにおいて、
a)原料飲料が存在する貯蔵タンクから飲料ストリームを得て、パーベーパレーションユニットに供給する工程と、
b)熱交換器により、パーベーパレーション膜モジュールへの供給温度を作り出す工程と、
c)パーベーパレーション膜モジュールで、供給液ストリームを分画する工程と、
d)分画された供給液ストリーム(未透過物)を、原料飲料の一部がいまだに存在する前記貯蔵タンクに再循環させる工程と、
e)前記貯蔵タンクに再循環されていない未透過物の残余画分を、脱アルコール処理ユニットに供給する工程と、
f)膜モジュールから離れた透過蒸気を凝縮する工程と、
g)前記アロマ抽出物を、脱アルコール飲料に添加する工程とを備えることを特徴とするプロセス。
【請求項3】
請求項1記載のプロセスにおいて、
a)原料飲料が存在する貯蔵タンクから飲料ストリームを、パーベーパレーションユニットに供給する工程と、
b)熱交換器により、パーベーパレーション膜モジュールへの供給温度を作り出す工程と、
c)パーベーパレーション膜モジュールで、供給液ストリームを分画する工程と、
d)パーベーパレーションユニットの膜モジュールから離れた未透過物の流れを再循環させることなく、該未透過物の流れの全てを脱アルコール処理ユニットへ供給する工程と、
e)膜モジュールから離れた透過蒸気を凝縮する工程と、
f)前記アロマ抽出物を、脱アルコール飲料に添加する工程とを備えることを特徴とするプロセス。
【請求項4】
請求項2又は請求項3記載のプロセスにおいて、
前記飲料は、好ましくはアルコール飲料であって、ビール、ワインに限定されないことを特徴とするプロセス。
【請求項5】
請求項2又は請求項3記載のプロセスにおいて、
前記透過は、0.1〜2μmの厚さを備える選択的フィルムからなるポリジメチルシロキサン(PDMS)複合膜か、又は、0.1〜2μmの厚さを備える選択的フィルムからなるポリオクチルメチルシロキサン(POMS)膜を通して行われることを特徴とするプロセス。
【請求項6】
請求項2又は請求項3記載のプロセスにおいて、
前記透過は、0.1〜2μmの厚さを備える選択的フィルムからなるポリオクチルメチルシロキサン/ポリエーテルイミド(POMS/PEI)複合膜を通して行われることを特徴とするプロセス。
【請求項7】
請求項2又は請求項3記載のプロセスにおいて、
前記凝縮は、77〜193Kの範囲の温度で、100Paから10kPaの透過圧で行われ、前記膜モジュールでの操作温度は278〜313Kの範囲の温度で変えられることを特徴とするプロセス。
【請求項8】
請求項2又は請求項3記載のプロセスにおいて、
前記脱アルコール飲料への前記アロマの添加は、投与ポンプにより直接行われ、
該投与ポンプの流速は、所望のアロマプロフィールと、製造されるノンアルコール飲料に対して許容される最大エタノール含有量とにより取り決められることを特徴とするプロセス。

【図1】
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【公表番号】特表2010−517559(P2010−517559A)
【公表日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−548791(P2009−548791)
【出願日】平成20年2月11日(2008.2.11)
【国際出願番号】PCT/IB2008/050482
【国際公開番号】WO2008/099325
【国際公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【出願人】(509226978)ウニベルシダージ ド ポルト (1)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSIDADE DO PORTO
【住所又は居所原語表記】Rua D.Manuel II,P−4050−345 Porto PORTUGUL
【Fターム(参考)】