説明

脱リン装置

【課題】 リン含有排水中のリンを流動床式晶析法で除去する脱リン装置において、流動床を均一に展開させて、或いは流動床内のpHを適正に制御して効率的な脱リン処理を行う。
【解決手段】 塔下部にリン含有排水の導入口が設けられ、塔上部に処理水の取り出し口が設けられ、塔内にリン酸カルシウムを含有するリン吸着材の流動床5が形成された反応塔4を有し、導入口から導入されたリン含有排水中のリンを、カルシウム化合物及び/又はアルカリ剤の添加により反応塔4内でリン酸カルシウム結晶として除去する脱リン装置。導入口から導入されたリン含有排水を流動床に均一に導入するためのディストリビュータ6を流動床5下部に有し、流動床5の展開を抑えるための押さえ板7を流動床5上部に有する脱リン装置。カルシウム化合物及び/又はアルカリ剤を流動床5内に供給する薬剤添加手段15を有し、添加手段15の供給口15Aが流動床5内で上下動可能に設けられている脱リン装置。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は脱リン装置に係り、特に、下水処理水等のリン含有排水中のリンを晶析脱リン反応によりリン酸カルシウムとして効率的に除去する脱リン装置に関する。
【0002】
【従来の技術】下水処理水等のリン含有排水の処理方法としては、次のような方法が知られている。
■ 原水にAl塩又は鉄塩等の凝集剤を添加して凝集処理し、固液分離する凝集沈殿法■ 原水にマグネシウム化合物と必要に応じてアンモニウム化合物を添加してpH調整し、リンをMAP(リン酸アンモニウムマグネシウム)として除去するMAP法■ 原水にカルシウム化合物を添加して種晶の固定床又は流動床に通水することにより、リンをリン酸カルシウムの結晶として除去する晶析法(特公平2−33435号公報)
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、凝集沈殿法では沈殿槽を必要とするため用地面積が大きく、また、汚泥として除去されるリンの純度が低く、リンの再利用に不利であり、含水率の高い汚泥の脱水処理が必要である上に、得られる脱水ケーキの含水率も80%以上と高いという欠点がある。
【0003】これに対して、MAP法や晶析法では沈殿槽が不要であるために用地面積が小さくて足り、また、リンを肥料として有効利用可能なMAP又はリン酸カルシウムの結晶として回収することができ、更に結晶化させるために回収物の容量も小さいという利点があるが、MAP法ではそのリン回収率が高々70%程度と低く、また、リンとマグネシウムとアンモニアの化合物であるために結晶を析出させるために必要とされる化合物が高価となる上に、pH調整用のアルカリ剤の使用量も多く、薬剤コストが高くつくという欠点がある。
【0004】これに対して晶析法であれば、リンをリン酸カルシウムの結晶として安価にかつ比較的高い回収率で除去することができ、得られるリン酸カルシウム結晶は、肥料として有効利用することができるが、晶析法のうち、種晶の固定床を用いる固定床式晶析法では処理能力が低く、通水SVとしてSV2hr−1以下での処理しかできない上に、浮遊物で固定床が閉塞するため定期的に固定床の逆洗が必要であり、逆洗排水の処理の問題がある。
【0005】種晶の流動床を用いる流動床式晶析法ではこのような問題はないが、反応速度の増加、リン除去率の向上、生成する結晶の粒径の均一化のためには、種晶がより一層均一に展開した流動床を形成することが望まれる。また、流動床内の適正な領域に結晶を析出させて、晶析反応を安定化させ、反応効率の向上を図ることが望まれる。
【0006】本発明は上記従来の問題点を解決し、リン含有排水中のリンを流動床式晶析法で除去する脱リン装置において、流動床を均一に展開させて、或いは流動床内のpHを適正に制御して効率的な脱リン処理を行うことができる脱リン装置を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】請求項1の脱リン装置は、塔下部にリン含有排水の導入口が設けられ、塔上部に処理水の取り出し口が設けられ、塔内にリン酸カルシウムを含有するリン吸着材の流動床が形成された反応塔を有し、該導入口から導入されたリン含有排水中のリンを、カルシウム化合物及び/又はアルカリ剤の添加により反応塔内でリン酸カルシウム結晶として除去する脱リン装置において、該導入口から導入されたリン含有排水を流動床下部に均一に導入するためのディストリビュータを有し、該流動床の展開を抑制するための押さえ板を有することを特徴とする。
【0008】請求項2の脱リン装置は、塔下部にリン含有排水の導入口が設けられ、塔上部に処理水の取り出し口が設けられ、塔内にリン酸カルシウムを含有するリン吸着材の流動床が形成される反応塔を有し、該導入口から導入されたリン含有排水中のリンを、カルシウム化合物及び/又はアルカリ剤の添加により反応塔内でリン酸カルシウム結晶として除去する脱リン装置において、該カルシウム化合物及び/又はアルカリ剤を該流動床内に供給する薬剤添加手段を有し、該添加手段の供給口が流動床内で上下動可能に設けられていることを特徴とする。
【0009】請求項1の脱リン装置であれば、ディストリビュータによりリン含有排水(原水)を流動床に均一に導入させることができると共に、押さえ板で流動床の過度な展開が抑えられるため、リン吸着材(種晶)が流動床内で均一に展開するようになる。このため、流動床内での晶析反応が均一に起こるようになり反応生成物の粒径の均一化を図ることができ、特にリン濃度が1〜10mg/L程度の排水を処理する場合であっても晶析反応の反応速度の増加、リン除去率の向上を図ることができる。
【0010】また、請求項2の脱リン装置であれば、カルシウム化合物及び/又はアルカリ剤の供給口が流動床内で上下動するため、流動床内の適正な領域でリン酸カルシウムの結晶を析出させることにより晶析反応を安定化させ、反応効率の向上を図ることができる。
【0011】請求項1の脱リン装置にあっても、このようにカルシウム化合物及び/又はアルカリ剤添加手段の供給口を流動床内で上下動可能に設けることが好ましい。
【0012】また、本発明では反応塔の前段にカルシウム化合物及び/又はアルカリ剤添加手段を備える調整槽を設け、カルシウム化合物及び/又はアルカリ剤の添加を調整槽と反応塔との2段階で行うことが好ましい。
【0013】また、流動床への供給口は複数個設けられていることが流動床内へカルシウム化合物及び/又はアルカリ剤を均一に供給できることから好ましい。
【0014】このように構成することで、反応塔前段でリンの不溶化物が生成し、SSの発生による運転障害を防止すると共に、反応塔入口での急激なpHの低下、反応領域の偏在を防止して効率的な晶析反応を行える。
【0015】
【発明の実施の形態】以下に図面を参照して本発明の脱リン装置の実施の形態を詳細に説明する。
【0016】図1は本発明の脱リン装置の実施の形態を示す系統図である。
【0017】なお、以下においてはカルシウム化合物として水酸化カルシウム(Ca(OH))を用いた場合を例示するが、本発明で用いるカルシウム化合物はCa(OH)に限定されるものではなく、塩化カルシウム等の他のカルシウム化合物を用いることもできる。ただし、アルカリ剤としての機能を兼用できることから、カルシウム化合物としてはCa(OH)を用いることが望ましい。
【0018】図1の脱リン装置では、原水槽1の原水(リン含有排水)をまず配管11よりpH調整槽3に導入し、このpH調整槽3において、Ca(OH)貯槽2から配管12より供給されるCa(OH)を添加してpH調整する。このpH調整槽3においては、pH計3Aの測定値に基いて、槽内のpHが好ましくは9以下、特に8.8〜9.0となるようにpH調整する。
【0019】このpH調整槽3でpH調整した液は配管13より反応塔4に塔下部から導入する。
【0020】この反応塔4は塔下部に導入口を有し、塔上部に処理水の排出口を有し、塔内に種晶(リン吸着材)の流動床5が形成されたものである。
【0021】この種晶としては、リン酸カルシウムを含むものが好ましく、例えば骨炭、リン酸カルシウム、リン鉱石等を用いることができ、特に、リン鉱石が好適である。また、その粒径は0.15〜0.3mm程度であることが好ましい。
【0022】この流動床5の下部に対し、配管13から導入された液を均一に流入させるためのディストリビュータ6が設けられており、また、流動床5の上部には流動床5の過大な展開を抑えるための押さえ傾斜板7が設けられているため、種晶は流動床5内に均一に展開する。
【0023】また、反応塔4には、Ca(OH)貯槽2からCa(OH)を供給する配管15が流動床5内で上下動可能に設けられている。配管15は、例えば、支持棒17と接続した上で支持棒17を反応塔4上部に設けた位置調整板18にセットボルトで固定する構造とし、位置調整板18に所定の間隔でボルト孔19を設けておけば、支持棒17の固定位置を変えることにより流動床5内で上下動させることができる。この配管15の供給位置には、複数の供給口が設けられ、Ca(OH)を流動床5内に均一に供給することができるように構成されている。
【0024】このような反応塔4の下部に配管13より導入された液は、流動床5内で晶析反応を起こし、液中のリンがリン酸カルシウムとして除去され、処理水は配管16より抜き出される。また、処理水の一部は配管14より反応塔4の下部に循環される。
【0025】この反応塔4内での晶析反応は、pH調整槽3での調整pHよりも0.2〜1.0高いpH、例えば、pH8〜10、特にpH9〜10で行うのが好ましく、反応塔4内のpHがこの範囲となるようにCa(OH)供給配管15の流量が反応塔4に設けられたpH計4Aに連動して制御される。
【0026】また、カルシウムイオン量は、除去するリンに対して3〜6重量倍程度であることが好ましく、従って、上記pH範囲内において、このようなカルシウムイオン量となるようにCa(OH)添加量を制御する。
【0027】また、反応塔4内の通水条件は、流動床5の種晶の流動化のために、LV8m/hr以上、特に10〜12m/hrであることが好ましく、また、SVは反応効率の面から5〜10hr−1、或いはそれ以上であることが好ましい。
【0028】なお、処理水の循環は必ずしも必要とされないが、反応塔4の通水LVの確保のために、或いは、原水リン濃度が高い場合において、原水の希釈の面で、処理水の一部、好ましくは0〜100%を循環させるのが望ましい。
【0029】また、反応塔4には、流動床5のスライム発生を防止すると共に滅菌を図るために、塩素剤を添加しても良い。
【0030】このような本発明の脱リン装置によれば、リン濃度数mg/L程度の排水を効率的に処理して迅速にリン濃度0.5mg/L以下の低濃度にまで処理することができ、リンを肥料として有効利用可能なリン酸カルシウム結晶として高い回収率で粒径のばらつきの少ないリン酸カルシウム結晶を回収することができる。
【0031】
【実施例】以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0032】実施例1図1に示す脱リン装置により下水処理水(平均PO−P濃度:3mg/L)を100m/日の水量で処理した。カルシウム化合物としてはCa(OH)を用い、pH調整槽3での調整pHは9とし、反応塔4内の調整pHは9.5とした。このときのCa(OH)の添加量はCa換算で10mg−Ca/Lであった。また、反応塔4には種晶としてリン鉱石(平均粒径0.15mm)を0.42m投入し、循環水量0m/日で反応塔4の通水LVは10m/h、SVは10hr−1とした。
【0033】また、反応塔4へのCa(OH)供給管15は支持棒17と接続し、支持棒17を反応塔4上部に設けた位置調整板18にセットボルトで固定して、供給位置15Aが流動床5の底部から上方5cmの位置とし、ここには供給口を8個均一に設けた。なお、位置調整板18には3cm間隔でボルト孔19を10個設け、供給管15が流動床5の底部から上方5〜32cmの範囲で上下動可能な構造とした。また、押さえ傾斜板7は反応塔3の水面より10cm下方の位置に設け、反応塔3内には高さ130cmの流動床5を形成した。
【0034】その結果、反応塔4からは平均PO−P濃度0.4mg/Lの処理水が得られ、使用薬品としてCa(OH)を用いるのみでリン除去率86%で安定かつ効率的な処理を行えた。
【0035】
【発明の効果】以上詳述した通り、本発明の脱リン装置によれば、リン含有排水中のリンを流動床式晶析法で除去する脱リン装置において、流動床を均一に展開させて、生成されるリン酸カルシウム結晶の粒径の均一化を図り、或いは流動床内のpHを適正に制御して効率的な脱リン処理を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の脱リン装置の実施の形態を示す系統図である。
【符号の説明】
1 原水槽
2 Ca(OH)貯槽
3 pH調整槽
4 反応塔
5 流動床
6 ディストリビュータ
7 押さえ傾斜板

【特許請求の範囲】
【請求項1】 塔下部にリン含有排水の導入口が設けられ、塔上部に処理水の取り出し口が設けられ、塔内にリン酸カルシウムを含有するリン吸着材の流動床が形成される反応塔を有し、該導入口から導入されたリン含有排水中のリンを、カルシウム化合物及び/又はアルカリ剤の添加により反応塔内でリン酸カルシウム結晶として除去する脱リン装置において、該導入口から導入されたリン含有排水を流動床の下部に均一に導入するためのディストリビュータを有し、該流動床の展開を抑制するための押さえ板を有することを特徴とする脱リン装置。
【請求項2】 塔下部にリン含有排水の導入口が設けられ、塔上部に処理水の取り出し口が設けられ、塔内にリン酸カルシウムを含有するリン吸着材の流動床が形成される反応塔を有し、該導入口から導入されたリン含有排水中のリンを、カルシウム化合物及び/又はアルカリ剤の添加により反応塔内でリン酸カルシウム結晶として除去する脱リン装置において、該カルシウム化合物及び/又はアルカリ剤を該流動床内に供給する薬剤添加手段を有し、該添加手段の供給口が流動床内で上下動可能に設けられていることを特徴とする脱リン装置。
【請求項3】 請求項1において、該カルシウム化合物及び/又はアルカリ剤を該流動床内に供給する薬剤添加手段を有し、該添加手段の供給口が流動床内で上下動可能に設けられていることを特徴とする脱リン装置。
【請求項4】 請求項1又は3において、該反応塔の前段にカルシウム化合物及び/又はアルカリ剤添加手段を備える調整槽を有し、かつ、流動床内への薬剤添加手段は複数の供給口を有することを特徴とする脱リン装置。

【図1】
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【公開番号】特開2001−198582(P2001−198582A)
【公開日】平成13年7月24日(2001.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−10563(P2000−10563)
【出願日】平成12年1月19日(2000.1.19)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】