説明

脱塩処理方法

【課題】低い操作圧でも従来以上の膜処理効率を得ることができる効率的な脱塩処理方法を提供して、処理コストのさらなる低減を図る。
【解決手段】 塩類を含む原水中に微細気泡を生成させ、該微細気泡を含んだ原水を濾過膜分離して水を得ることを特徴とする脱塩処理方法において、該微細気泡の表面近傍におけるゼータ電位が−10mV〜−150mVとなるように、該微細気泡を帯電させることにより、従来よりも低い操作圧で実質的に十分な有効圧を膜面に作用させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜分離を利用して不純物を含む液体から該不純物を分離する技術に関し、特に、海水やかん水(低濃度の塩水)の淡水化に適した脱塩処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、不純物を含む液体から特定の物質を選択的に分離する方法として、濾過膜を用いた膜分離法が広く知られている。かかる濾過膜には、孔の大きさが概ね10μm〜5nmの精密濾過膜、孔の大きさが200nm〜2nmの限外濾過膜、孔の大きさが2nm以下の逆浸透膜等の種類がある。これらの濾過膜の素材としては、酢酸セルロースや芳香族ポリアミドが一般的である。これらのうち、特に逆浸透膜(RO膜)は、水は通すがイオンや塩類など水以外の不純物は透過しない性質を持つ膜で、海水やかん水から工業用、農業用、飲用等の淡水(真水)を得る脱塩処理に広く利用されている。逆浸透膜のうち、孔の大きさが1〜2nmでイオンや塩類の阻止率が概ね70%以下のものは、特にナノフィルター又はNF膜とも呼ばれるが、作用や利用法は逆浸透膜と基本的に同様である。
【0003】
逆浸透膜による脱塩処理では、逆浸透膜を隔てて浸透平衡にある原水(例えば、海水等)と水に対して、原水の浸透圧よりも高い圧力(「操作圧」と呼ぶ。)を原水側から加えることにより、原水中の水分子を水側へ移行させる。操作圧と原水の浸透圧との差が「有効圧」となる。
【0004】
逆浸透膜を透過できない塩類は膜面近傍に滞留して、膜面近傍での塩濃度が上昇する。これをそのまま滞留させると、原水側の浸透圧が限りなく上昇して濾過できなくなるので、塩類や不純物が濃縮された水(「濃縮水」と呼ぶ。)を連続的に排出する必要がある。したがって、逆浸透法では、原水の全量を濾過して取り出すことはできない。
【0005】
逆浸透法では、原水の塩濃度が高いほど、また、濃縮水を減らそうとするほど、原水に高い操作圧をかけて濾過する必要がある。例えば、平均的な塩濃度3.5%の海水から日本の飲料水基準に適合する塩濃度0.01%の淡水を、水の回収率40%(残りの60%は濃縮水として捨てる。)で得る場合、近年の技術水準では約5.5〜6.5MPa程度の操作圧が必要とされている。
【0006】
原水に高い操作圧をかけるには、高圧ポンプを運転するための大きな動力エネルギーが必要になり、特にこれが処理コストを押し上げる。現実的には、逆浸透法による海水の淡水化処理において、処理コストの半分程度が高圧ポンプを運転するための電気使用料によって占められると言われている。
【0007】
そこで、例えば特許文献1〜3には、逆浸透膜を収容したモジュールユニットを多段に設けて直列的に接続し、前段の逆浸透膜モジュールユニットから得られる濃縮水をさらに昇圧して後段の逆浸透膜モジュールユニットに供給することにより、ポンプの運転エネルギーを節約して処理コストを低減させようとする技術が提案されている。
【0008】
また、特許文献4には、逆浸透膜モジュールユニットの上流側で原水中に微細気泡を混合することにより膜面近傍の原水を攪拌し、その攪拌作用によって膜面に懸濁物質が付着するのを防ぎ、あるいは膜面に付着した懸濁物質を除去して、膜処理効率を向上させようとする技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平9−276663号公報
【特許文献2】特開2000−051663号公報
【特許文献3】特開2001−252659号公報
【特許文献4】実開昭58−53203号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記特許文献1〜3に記載されたように逆浸透膜モジュールユニットを多段配置するとなると、必然的に処理装置全体が大型化、複雑化せざるを得ない。また、逆浸透膜モジュールユニットを多段配置しても、後段のモジュールユニットには一層大きな操作圧(上記文献記載の実施例では7〜9MPa程度)が作用することになるので、上記特許文献3でも指摘されている逆浸透膜モジュールユニットの耐圧負担といった問題は十分に解決されない。
【0011】
上記特許文献4に記載された原水中に微細気泡を生成する膜処理方法も、本出願人らの検証実験によると、微細気泡の攪拌作用によって膜面における懸濁物質の付着状態が多少は改善されるものの、透過流量の増大や、操作圧の低下によるポンプ運転エネルギーの節約といったコスト改善効果が、十分満足できる程度に得られるとは言い難い。
【0012】
そこで、本発明は、低い操作圧でも従来以上の膜処理効率を得ることができる、より効率的な脱塩処理方法を提供し、処理コストをさらに低減させようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
水中に存在する微細気泡は、その表面にマイナスの電荷を帯びて、プラスの電荷を帯びたイオンを周囲に引き寄せることが知られている。本発明者らは、この現象に着目し、膜分離する原水中に微細気泡を発生させると、微細気泡の周囲にプラスの電荷を持つイオンが集合して部分的にイオン濃度が高まり、反対に微細気泡から離れた位置ではイオン濃度が相対的に低下して、その低濃度部分が濾過膜近傍での浸透圧を低下させるのに寄与することを見出した。そして、この作用効果は、微細気泡の表面電位がプラスマイナスゼロから乖離するほど大きくなることを検証した。
【0014】
すなわち、本発明の脱塩処理方法は、塩類を含む原水中に微細気泡を生成させ、該微細気泡を含んだ原水を濾過膜分離して水を得ることを特徴とする脱塩処理方法において、該微細気泡の表面近傍におけるゼータ電位が−10mV〜−150mVとなるように、該微細気泡を帯電させることを特徴とする。
【0015】
微細気泡の表面電位は、電気泳動法などを利用してゼータ電位を測定・算出することにより確認される。ゼータ電位とは、水中に分散している微粒子の周囲に形成される電気二重層中の「すべり面」(不動層と拡散層との間に存在する境界)における電位をいうが、微細気泡については気泡と共に移動する水の層が極めて薄いため、ゼータ電位の値をもって気泡表面の電気的特性を論じても特に大きな問題はない。
【0016】
かかるゼータ電位を、特にマイナス帯電の強い−10mV〜−150mV(より好ましくは−40mV〜−100mV)の範囲に誘導すると、微細気泡の近傍にプラスの電荷を帯びたイオンが効率よく引き寄せられて、その結果、相対的にイオン濃度の低下した部分が優先的に濾過膜を透過することとなる。こうして、系全体では、従来よりも低い操作圧でも実質的に十分な有効圧が膜面に作用して、従来と同等以上の淡水回収率を得たり、あるいは従来と同等の操作圧で従来以上の淡水回収率を得たりすることが可能になる。
【0017】
微細気泡のゼータ電位は、原水の水質によって変化し、特に原水の水素イオン濃度指数(pH)に大きく影響される。そこで、本発明の脱塩処理方法は、微細気泡の表面近傍におけるゼータ電位を−10mV〜−150mVとなるように帯電させる方法として、原水の水素イオン濃度指数をpH8〜pH12の範囲に調整することをさらなる特徴とする。
【0018】
原水の水素イオン濃度指数をpH8〜pH12の範囲に調整する手段としては、水質や濾過膜に悪影響を及ぼさない範囲で、公知一般のpH調整剤を添加する方法が利用できる。pH値を大きくするほど膜処理効率を上げることができるが、回収された淡水のアルカリ処理が面倒になるおそれもあるので、実用面では、水素イオン濃度指数の調整範囲をpH8〜pH10程度とするのが好ましい。なお、pH処理としては、微細気泡を発生させ続けることでpHを中性に近づけることも可能なので、この方法を回収後の水の中和に利用してもよい。
【0019】
また、本発明の脱塩処理方法は、微細気泡を、そのゼータ電位が−10mV〜−150mVとなるように帯電させるのに適した気泡生成手段として、原水中に配置した本体パイプ内に気体供給管を接続し、本体パイプ内に送り込む原水の流速によって生じる負圧を利用して上記気体供給管から本体パイプ内の原水中に気体を混入し、その気液混合体中の気体塊を本体パイプ内の流路変化による気液界面でのせん断効果によって粉砕しつつ、本体パイプに形成した複数箇所のスリットから微細気泡を放出させるように構成した気泡生成装置を推奨する。
【0020】
かかる気泡生成装置を用いることにより、微細気泡のゼータ電位を、よりマイナス側に帯電させやすくなる。また、この気泡生成装置によれば、例えば旋回流方式など他の方式の気泡生成装置と比較して、気泡吐出部位(本装置にあってはスリット、他方式の装置にあってはノズルなど)を通過する際の圧力損失が小さくなるので、低動力で効率的に微細気泡を発生できる。その結果、微細気泡を高濃度に発生させることが比較的容易にでき、結果的にポンプ運転エネルギーも節約することができる。
【発明の効果】
【0021】
上述のように構成される本発明の脱塩処理方法は、塩類を含む原水中に、ゼータ電位が−10mV〜−150mVとなるようなマイナス電荷を帯びた微細気泡を生成させて、その微細気泡を含んだ原水を濾過膜分離すると、プラスの電荷を持つイオンが微細気泡の周囲に引き寄せられて、膜面近傍における浸透圧を実質的に低下させる、という作用を利用するものである。この作用により、膜面近傍における実質的な有効圧が上昇し、従来よりも低い操作圧で従来と同等以上の淡水回収率を得たり、あるいは従来と同等の操作圧で従来以上の淡水回収率を得たりすることが可能になる。また、実質的な有効圧が上昇することから、ポンプ運転エネルギーの節約や濾過膜の耐圧負担の軽減など、処理コストの改善効果も得られることとなる。
【0022】
そして、かかる脱塩処理方法は、濾過膜分離の直前に、マイナス電荷を帯びた微細気泡を原水中に生成させるのみで実質的な有効圧を上昇させることができるので、貯留された原水を加圧して膜モジュールを透過させるように構成された従来一般の濾過膜分離装置においても、濾過膜分離工程の上流側に気泡生成手段を追加するだけで経済的に実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の検証に使用した実験装置の構成を示す概要図である。
【図2】図1の実験装置における圧力容器の内部構成を示す概略図である。
【図3】圧力容器内に収容される気泡生成装置の要部断面図である。
【図4】微細気泡のゼータ電位を測定する方法の例を示す概略図である。
【図5】本発明の検証実験における透過率の時間変化を示すグラフである。
【図6】本発明の検証実験におけるpHとゼータ電位との関係を示すグラフである。
【図7】本発明の検証実験におけるpHの相違と透過率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。
【0025】
まず、本発明の脱塩処理方法に利用される濾過膜としては、逆浸透膜(RO膜又はNF膜)が特に好適である。また、本発明の脱塩処理方法にて好適に利用される微細気泡とは、直径数十μm以下のマイクロバブル、又はマイクロバブルよりもさらに小径(1μm以下)のナノバブルである。気泡の直径が数十μm以下であれば、短時間では上昇して消泡することなく、原水中に長時間残存するので、より好ましい。
【0026】
図1は、本発明の検証に使用した実験装置の概略構成を示す。実験装置は、後述する気泡生成装置6を内部に収容した圧力容器1、この圧力容器1に窒素ガスを用いて圧力をかける加圧制御ユニット2、圧力容器1の一端に接続された高圧ポンプ3、圧力容器1の他端に接続された膜モジュールユニット4、及び濾過膜付近の塩濃度の上昇を防ぐためのスターラー(攪拌装置)5等で構成される。
【0027】
図2は、圧力容器1の内部の概略構成を示す。また、図3は、圧力容器1内に収容される気泡生成装置6の要部断面を示す。例示の気泡生成装置6は、高圧ポンプ3を介して加圧された原水(処理水)を送り込む原水供給管61に接続された本体パイプ62と、この本体パイプ62に接続された気体供給管63と、この気体供給管63よりも下流側にて本体パイプ62に形成した複数箇所のスリット64と、スリット64よりもさらに下流側にて本体パイプ62の端部を閉じる衝突壁65とを備えている。本体パイプ62は、原水中に沈められた状態で配置される。気体供給管63は、本体パイプ62の上流端寄りに、本体パイプ62と略直交する向きに接続されている。気体供給管63の先端部は本体パイプ62の中心付近まで進入しており、その側面には、本体パイプ62の下流側に向かって開口する気体放出孔66が形成されて、気体供給管63に送り込まれる気体(例示形態では窒素、但し空気でも可)が、この気体放出孔66から本体パイプ62内へと放出される。気体放出孔66の形状については、図示のようなスリット状、あるいは丸孔状、矩形孔状、または単純に管端部が閉塞されることなく解放された形状などを適宜選択することができる。
【0028】
本体パイプ62に形成されるスリット64は、本体パイプ62内で生成される微細気泡の吐出部位となる。例示形態にあっては、本体パイプ62の周面の略半分にわたる開口幅を有する10ヶ所のスリット64が、本体パイプ62の長さ方向に沿って略等間隔で、かつ互いに平行となるように形成されている。
【0029】
上記のように構成される気泡生成装置6の基本的な作用は次のとおりである。すなわち、原水供給管61から本体パイプ62内に加圧状態で送り込まれた原水は、気体供給管63の先端部付近における流速変化によって負圧を生じる。この負圧によって、気体供給管63の先端部に形成された気体放出孔66から原水中に、気体が自吸的に導入される。気体が混入した原水(気液混合体)は本体パイプ62の下流端を塞ぐ衝突壁65に衝突し、その衝撃や流速変化によって気体塊が粉砕され、微小化した気体はスリット64から原水とともに本体パイプ62外に排出される。
【0030】
なお、上記の負圧により本体パイプ62内は2相流となり、この2相流はスリット64域に達すると二つの流れに別れる。一つは下流方向への流れであり、もう一つはスリット64への流れであり、この流れの分岐により気泡はせん断力を受け微細化される。さらにスリット64に自体よる絞り効果や、スリット64を通過する時とスリット64から放出された直後の流れの間の速度勾配によるせん断力によっても気泡が微細化される。
【0031】
上記の構成において、スリット64は、本体パイプ62の軸芯と直交するように形成されてもよいが、該直交状態よりも若干傾斜するほうが、水流の分岐によるせん断作用が強まって気泡の微細化には有利である。具体的には、本体パイプ62の軸心に対するスリット64の上流側の傾斜角θを30°〜80°、より好ましくは50°〜70°程度に設定するとよい。スリット64の個数も気泡の生成状況を見ながら適宜増減されればよいが、スリット64の開口面積の合計を、本体パイプ62の有効断面積の0.5〜3.0倍程度、より好ましくは0.8〜2.0倍程度に設定するとよい。また、気泡の微細化には、本体パイプ62の肉厚を薄くするのも有利である。さらに、スリット64を本体パイプ62の下側に開口させることで、生成した微細気泡が原水中に広く拡散しやすくなる。
【0032】
かかる気泡生成装置6を用いることにより、効率的に微細気泡を生成することができるとともに、微細気泡のゼータ電位を、よりマイナス側に帯電させやすくなる。また、この気泡生成装置6によれば、例えば旋回流方式など他の方式の気泡生成装置と比較して、気泡吐出部位における圧力損失を小さく抑えることもできる。
【0033】
次に、微細気泡のゼータ電位を、電気泳動法を用いて測定、算出する方法について説明する。図4は、該測定方法の一例を示す概略図である。
【0034】
水槽7内に気泡生成装置6を配置して、水槽7内の原水中に微細気泡を発生させ、微細気泡を含んだ原水を電気泳動セル8に導く。電気泳動セル8内には、薄い銀板からなる2つの電極81、82を対向配置し、各電極81、82には定電圧発生装置9を接続して、一定時間(例えば1秒)毎に、パルス的に正負を逆転させた150V程度の直流電圧を両電極81、82間に印加する。電荷を帯びた微細気泡は、この電場内で水平方向に移動する。その動きをハイスピードカメラ101で撮影し、撮影した画像をパソコン102で画像処理して気泡径と移動速度を測定する。こうして測定された水平方向の移動速度から、スモルコフスキー(Smoluchowski )の方程式により、ゼータ電位を算出する。
【実施例】
【0035】
上記のような実験装置を用いて実施した検証実験の概要は以下の通りである。
【0036】
原水として濃度1%の塩水を使用し、この塩水が入った圧力容器1内を窒素ガスで加圧した。高圧ポンプ3を駆動させて、微細気泡を塩水中に発生させた。そして、3分間毎に回収された真水の重さと塩濃度を同時に測定し、その測定を連続5回繰り返して合計15分間にわたり実施した。
【0037】
透過率の時間変化を図5に示す。ここで「透過率」とは、微細気泡を発生させない状態で回収された真水の重さに対する、微細気泡を発生させた状態で回収された真水の重さの割合と定義する。つまり、透過率とは、微細気泡の作用によって膜処理効率が実質的にどれだけ上昇したかを示す値である。
【0038】
原水の塩濃度1%、圧力0.95MPa、pH=7で実験を行ったところ、最初の3分間は透過率が140%以上にまで上昇し、その後もさらに153%ほどにまで徐々に上昇した。
【0039】
続いて、微細気泡の表面電位(ゼータ電位)が透過率に及ぼす影響をみるために、微細気泡のゼータ電位を変化させて、上記と同様の膜濾過を実施した。pHの違いによるゼータ電位の変化を図6に示す。
【0040】
pH調整剤には、HClとNaOHを使用した。pHが高くなると、微細気泡は高いマイナスの電荷を帯び、低くなるとプラスの電荷を帯びることがわかる。pH=11の場合、ゼータ電位は−80mV付近であるのに対し、pH=3の場合、ゼータ電位はほぼ0mV付近である。この微細気泡の特性を利用し、pH=3の場合と、pH=11の場合で、透過率に影響が見られるかを調べた。pHの相違による透過率の時間変化を図7に示す。濾過条件は上記pH=7の場合と同じく塩濃度1%、圧力0.95MPaであり、透過率は、pHをそれぞれ同一にして微細気泡を発生させない場合に対しての割合である。
【0041】
pH=3の場合、透過率は最初から低く、時間とともに増加はしたものの、最大でも133%にとどまった。一方、pH=11の場合は、最初から透過率が180%を超え、最大で211%ほどにまで上昇した。図5に示したpH=7の場合の透過率と比較しても格段に大きな値となっており、明らかにpH値がアルカリ側に高くなるほど透過率が上昇している。つまり、微細気泡の表面電位がマイナス側に高くなるほど透過率も高くなり、このことから、透過率は微細気泡の表面電位(ゼータ電位)の影響を受けているといえる。
【0042】
以上の実験から、原水中に微細気泡を発生させると、発生させない場合よりも膜処理効率が向上することに加え、微細気泡のゼータ電位をマイナス側に高く誘導するほど、上記微細気泡による膜処理効率の向上効果がさらに増大することが裏付けられた。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の脱塩処理方法は、海水の淡水化のほか、湖水、河川水、雨水などの自然水や、種々無機塩類等の混合溶液から水以外の不純物を除去して、工業用、農業用、飲用等の真水を得る技術に幅広く利用することができる。
【符号の説明】
【0044】
1 圧力容器
3 高圧ポンプ
6 気泡生成装置
62 本体パイプ
63 気体供給管
64 スリット
65 衝突壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩類を含む原水中に微細気泡を生成させ、該微細気泡を含んだ原水を濾過膜分離して水を得ることを特徴とする脱塩処理方法において、該微細気泡の表面近傍におけるゼータ電位が−10mV〜−150mVとなるように、該微細気泡を帯電させることを特徴とする脱塩処理方法。
【請求項2】
微細気泡の表面近傍におけるゼータ電位を−10mV〜−150mVとなるように、該微細気泡を帯電させる方法が、原水の水素イオン濃度指数をpH8〜pH12の範囲に調整することである請求項1記載の脱塩処理方法。
【請求項3】
微細気泡の表面近傍におけるゼータ電位を−10mV〜−150mVとなるように、該微細気泡を帯電させる方法が、原水中に配置した本体パイプ内に気体供給管を接続し、本体パイプ内に送り込む原水の流速によって生じる負圧を利用して上記気体供給管から本体パイプ内の原水中に気体を混入し、その気液混合体中の気体塊を本体パイプ内の流路変化による気液界面でのせん断効果によって粉砕しつつ、本体パイプに形成した複数箇所のスリットから微細気泡を放出させることである請求項1又は2記載の脱塩処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−201310(P2010−201310A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−48137(P2009−48137)
【出願日】平成21年3月2日(2009.3.2)
【出願人】(504409543)国立大学法人秋田大学 (210)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】