説明

脱脂性に優れる溶融亜鉛系めっき鋼板の製造方法

【課題】脱脂性に優れる溶融亜鉛系めっき鋼板の製造方法を提供すること。
【解決手段】溶融亜鉛系めっき鋼板を調質圧延する、調質圧延工程と、調質圧延工程において調質圧延された鋼板のめっき表面に、ピロリン酸根を0.1mmol/L以上50mmol/L以下含有する水溶液を接触させる、接触工程と、接触工程の後、鋼板を乾燥させる、乾燥工程と、を備えることを特徴とする溶融亜鉛系めっき鋼板の製造方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱脂性に優れる溶融亜鉛系めっき鋼板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車車体用鋼板として、防錆性に優れる溶融亜鉛系めっき鋼板が用いられてきた。溶融亜鉛系めっき鋼板のうち、特に合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、プレス成形性に優れるため、自動車車体のドア等の車体外装用鋼板として使用されている。自動車メーカーにおける代表的な車体製造工程は、鋼板材料のブランキング工程、鋼板を油で洗浄する油洗工程、プレス成形工程、接合(接着、スポット溶接)工程、脱脂工程、化成処理工程、及び塗装工程を備えている。
【0003】
車体製造の各工程のうち、脱脂工程は、表面にプレス油(又は防錆油若しくはこれらの混合物)が付着している鋼板をアルカリ脱脂液で洗浄する工程であり、このときの脱脂、洗浄が不十分であると、その後の化成処理性、塗装性に悪影響を及ぼす。しかしながら、近年においては、環境保護の観点から、脱脂工程で使用される脱脂液の種類が限定されており、このような脱脂液の脱脂性能は従来のものと比較して必ずしも高くない。そのため、脱脂性に劣る脱脂液を用いて鋼板表面の油を洗浄した場合であっても、表面の油が容易に洗浄される鋼板、即ち脱脂性のよい鋼板とするよう、鋼板側の性能を改善する要求がある。加えて、自動車メーカーでの旺盛な需要を背景に、プレス成形後から脱脂及び化成処理ラインを通すまで、1ヶ月以上放置される場合がある。そのような場合、塗油後間もなくの脱脂性が良好であっても、放置後の脱脂性が著しく劣化することがあった。従って、塗油後間もなくの脱脂性だけでなく、塗油後ある程度の期間放置された後の脱脂性が重要となる。脱脂性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板を得る方法としては、特許文献1のような、合金化溶融亜鉛めっき鋼板にテフロン(登録商標)粒子を離散的に付着させる方法が開示されている。
【0004】
また、めっき鋼板の摺動性の向上を目的として、めっき鋼板表面に酸化物層を形成させる場合において、脱脂性を向上させる技術が開示されている。例えば、特許文献2〜4には、調質圧延の後、鋼板表面を酸性溶液と接触させることで、鋼板表面に酸化物層を形成する方法が開示されている。具体的には、特許文献2に、特定の酸のナトリウム塩又はカリウム塩を含有するpH7.0〜12.0の水溶液で水洗する方法が、特許文献3に、リン濃度が0.5〜5000ppmであるリン含有水溶液で水洗する方法が、特許文献4に、pH7を超えpH10未満である水溶液と接触させる方法が開示されている。
【特許文献1】特開2000−38648号公報
【特許文献2】特開2007−16266号公報
【特許文献3】特開2007−16267号公報
【特許文献4】特開2007−92093号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記いずれの方法によっても、本発明の目指す脱脂性を十分満足する性能は得られなかった。加えて、特許文献1のように、テフロン(登録商標)粒子を鋼板表面に付着させた場合は、脱脂液で鋼板表面の油を洗浄する際、油とともにテフロン(登録商標)粒子も脱落し、脱脂液を汚染してしまうという問題があった。
【0006】
また、特許文献2〜4の方法においては、酸性溶液を用いて、鋼板表面に酸化物層を形成することが前提となっており、当該酸性溶液が鋼板表面に残存することによって、鋼板の脱脂性が低下する場合があった。そのため、酸化物層を形成させた後、鋼板表面に残存する酸性溶液を洗浄・中和しなければならなかった。鋼板表面に酸化物層を形成させない場合において、鋼板の脱脂性を優れたものとする溶融亜鉛系めっき鋼板の製造方法については、従来技術においては何ら開示されていない。
さらに、上述のような状況で鋼板が長期にわたり放置された場合は、めっきの表面にステインと呼ばれるムラのある錆びが発生し、表面外観が著しく損なわれることもある。表面に酸化物を積極的に形成させない場合は、ステインがより発生しやすいという問題が生じ得る。
【0007】
そこで、本発明は、溶融亜鉛系めっき鋼板の表面状態に関わらず、脱脂性と耐ステイン性に優れる溶融亜鉛系めっき鋼板を製造可能な、溶融亜鉛系めっき鋼板の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の脱脂性と製造工程との関係を調査したところ、調質圧延後に鋼板表面を洗浄する水が、脱脂性に影響を及ぼすことがわかった。より詳しくは、従来のように調質圧延直後にイオン交換水等のいわゆる純水を用いて水洗した場合には、鋼板の脱脂性は良好とはならず、かえってピロリン酸を含む水溶液で鋼板を水洗する方が脱脂性は良好であり、さらに耐ステイン性も良好となるという知見を得た。
この理由は以下のように考えられる。調質圧延後のめっき表面には、調質圧延の圧延ロールと接触することにより出現する活性面とロールと接触しない非活性面とが混在する。このようなめっき表面に防錆油若しくはプレス洗浄油が塗布されると、油中に含まれる極圧添加剤等が特に活性面に強く吸着する。ここで、塗油前のめっき表面をピロリン酸含有水溶液で処理すれば、めっき表面にピロリン酸根に由来する成分が吸着して油中成分の吸着が抑制され、脱脂性が向上する。更にピロリン酸を含む水溶液のpHが弱アルカリ域に調整されていると、めっき面が均一化され、安定して耐ステイン性が改善される。
本発明はかかる知見、及び推定に基づいてなされたものである。
【0009】
以下、本発明について説明する。なお、本発明の理解を容易にするため、添付図面の参照符号を括弧書きにて付記するが、それにより本発明が図示の形態に限定されるものではない。
【0010】
第1の本発明は、溶融亜鉛系めっき鋼板を調質圧延する、調質圧延工程(S1)と、調質圧延工程において調質圧延された鋼板のめっき表面に、ピロリン酸根を0.1mmol/L以上50mmol/L以下含有する水溶液を接触させる、接触工程(S2)と、当該接触工程の後、鋼板を乾燥させる、乾燥工程(S3)と、を備えることを特徴とする溶融亜鉛系めっき鋼板の製造方法(10)である。
【0011】
ここに、「調質圧延」とは、微少の圧下率で圧延する一般的なめっき鋼板の調質圧延をいい、めっき鋼板の形状制御、機械特性付与、光沢調整、粗さ付与等の目的で行われる。本発明においては、調質圧延後、酸水溶液処理を施さず、酸化物層を形成しなくてもよい。接触工程において「水溶液を接触させる」とは、溶融亜鉛系めっき鋼板のめっき表面と水溶液とが接触する状態をいい、接触方法としては特に限定されず、鋼板を水溶液に浸すことにより鋼板のめっき表面と水溶液とを接触させてもよいし、鋼板に水溶液を吹き付け、塗布すること等により接触させてもよい。「ピロリン酸根を0.1mmol/L以上50mmol/L以下含有する水溶液」とは、水溶液中にピロリン酸根を、P換算量で、0.1mmol/L以上50mmol/L以下含むことを意味する。水溶液中には、ピロリン酸根以外に、空気中で不可避的に混入する微細な分散粒子や微量の炭酸塩等を含んでいても良い。乾燥工程において「鋼板を乾燥させる」とは、接触工程の後、鋼板のめっき表面に存在する水分を乾燥させることを意味する。乾燥方法については鋼板を乾燥可能であれば特に限定されず、熱風装置、各種赤外線装置、電磁誘導装置、マイクロ波装置等による乾燥や、自然乾燥等、適宜選択される。
【0012】
第1の本発明において、調質圧延工程と接触工程との間に、鋼板のめっき表面に酸化物層を意図的に形成する工程を含まないことが好ましい。
【0013】
ここに、「酸化物層を意図的に形成する工程」とは、摺動性付与等、特定の目的を持って、鋼板のめっき表面に酸化物層を形成させる工程を意味する。
【0014】
第1の本発明において、接触工程において使用される水溶液のpHが6以上12以下であることが好ましい。
【0015】
ここに、「水溶液のpHが6以上12以下である」とは、接触工程において溶融亜鉛系めっき鋼板の脱脂性が損なわれない範囲の量でアルカリ成分等を適宜含ませることで、水溶液のpHが6以上12以下へと調整されることを意味する。
【0016】
第1の本発明において、接触工程の際、水溶液の液温度が5℃以上50℃以下であるとともに、鋼板のめっき表面と、水溶液とを、1秒以上50秒以下接触させることが好ましい。
【0017】
また、第1の本発明において、乾燥工程の後、鋼板の表面に防錆油を塗布する、防錆油塗布工程(S4)を備えることが好ましい。
【0018】
さらに、第1の本発明において、溶融亜鉛系めっき鋼板が、合金化溶融亜鉛めっき鋼板であることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
第1の本発明によれば、接触工程において、溶融亜鉛系めっき鋼板のめっき表面と、所定量のピロリン酸根を含有する水溶液とを接触させることによって、純水と接触させる場合と比較して、脱脂性に優れる溶融亜鉛系めっき鋼板とされるので、脱脂性に劣る脱脂液を用いて洗浄することができる。また、耐ステイン性も向上させることができる。
【0020】
第1の本発明において、接触工程に用いられる水溶液のpHを、所定の範囲とすることで、安定して鋼板の耐ステイン性が向上する。また、接触工程に用いられる水溶液の液温、接触工程におけるめっき鋼板と水溶液との接触時間を所定の範囲とすることによっても、安定して耐ステイン性が向上する。
【0021】
さらに、第1の本発明において溶融亜鉛系めっき鋼板をプレス成形性に優れる合金化溶融亜鉛めっき鋼板とすることで、自動車外装材等に好適に使用される、脱脂性に優れた溶融亜鉛めっき鋼板を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
溶融亜鉛系めっき鋼板の製造においては、まず、製鋼、熱間圧延、冷間圧延、及び焼鈍等を経て製造された母材コイルを、連続炉にて加熱後、亜鉛を含むポット中に含浸させることで、亜鉛成分を鋼板表面に付着させ、その後空冷すること等によって、母材表面に亜鉛めっき被膜を形成させる。また必要に応じ600℃程度に再加熱してめっきの合金化処理を行う。そして、表面に亜鉛めっき被膜を有する母材(以下、「めっき鋼帯」という。)を製造したのち、調質圧延や表面処理等を含む工程を経て、脱脂性に優れた溶融亜鉛系めっき鋼板とされる。本発明に係る溶融亜鉛系めっき鋼板の製造方法は、めっき鋼帯の調質圧延以後の工程を備えるものである。
【0023】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、以下に示す形態においては、合金化溶融亜鉛めっき鋼板について説明するが、本発明はこれに限定されず、種々の溶融亜鉛系めっき鋼板に適用可能である。たとえば、溶融亜鉛めっき鋼板(合金化されないていないもの)、Zn−Al系めっき鋼板、Zn−Al−Mg系めっき鋼板等に適用してもよい。
【0024】
<1.合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法10>
図1は、実施形態にかかる合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法10(以下、「製造方法10」という。)の各工程についてのフローチャートを示している。製造方法10は、めっき鋼帯を調質圧延する、調質圧延工程S1と、調質圧延された鋼板のめっき表面に、ピロリン酸根を含有する水溶液を接触させる、接触工程S2と、当該接触工程S2の後、鋼板表面の水分を飛ばし、鋼板を乾燥させる、乾燥工程S3とを備えており、これらの工程を経ることで、脱脂性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板が製造される。その後、合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、防錆油塗布工程S4にて、その表面に防錆油が塗布され、錆びの発生が防止される。
【0025】
図2は、製造方法10の各工程を備えた合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造ライン20(以下、「製造ライン20」という。)を概略的に示す図である。製造ライン20には、調質圧延機2、テンションレベラー3、後処理手段4、乾燥手段5、出側ルーパー6、フライングシャー7、及び油塗布手段8が備えられている。これら2〜8を備える製造ライン20上には合金化溶融亜鉛めっき鋼帯1(以下、「めっき鋼帯1」という。)が走行しており、各工程を経て、脱脂性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板30(以下、「めっき鋼板30」という。)とされる。
以下、図1、図2を参照しつつ、製造方法10の各工程について、製造ライン20とともに説明する。
【0026】
(1.1.調質圧延工程S1)
調質圧延工程S1においては、めっき鋼帯1が調質圧延機2により圧延される。製造ライン20においては、調質圧延機2としてスキンパスミルを用いている。めっき鋼帯1は、調質圧延機2により軽圧延されることで、機械的特性や表面の光沢等が適切なものに調整される。また、調質圧延工程S1においては、めっき鋼帯1のめっき被膜が調質圧延機2のロールに転着しないようにするため、調圧水(調圧液)が使用される場合もある。この調質圧延工程で、ロールと接触した表面には活性面が出現した状態となる。
【0027】
(1.2.接触工程S2)
接触工程S2(および乾燥工程S3)は、調質圧延S1から塗油工程S4の間のどのタイミングで行ってもよい。通常の連続溶融めっき鋼板製造ラインでは、調質圧延機2から油塗布手段8までの間に複数の水洗設備および乾燥設備を備えているが、本発明の接触工程および乾燥工程はこのような水洗および乾燥設備を利用することができる。例えば、調質圧延機2直後や後処理手段4内又は直後の水洗設備の一部または全部を利用して、本発明に係る水溶液をスプレーする等により(鋼板表面の洗浄目的も兼ねて)鋼板表面に接触させることができる。また、ある水洗設備で本発明に係る水溶液を使用した後の水洗設備では純水を使ってもよい。以下では、接触工程S2が、調質圧延機2直後においてなされる場合を説明する。
調質圧延後のめっき鋼板表面の洗浄水としては、従来においては、イオン交換水等の純水が使用されていた。製造方法10においては、洗浄水として、ピロリン酸根を含む水溶液を使用している。
【0028】
本実施形態にて使用されるピロリン酸根含有水溶液は、水溶液中のピロリン酸根濃度が、P換算で、0.1mmol/L以上50mmol/L以下、好ましくは0.2mmol/L以上25mmol/L以下、特に好ましくは0.3mmol/L以上10mmol/L以下含有される。水溶液中のピロリン酸根濃度が低い場合、めっき鋼板の脱脂性が劣る場合がある。一方、ピロリン酸根濃度が50mmol/Lを超える場合は、脱脂性の向上が飽和し、経済的に無駄となるだけでなく、薬液の安定性が低下したり、活性面に過剰に吸着して耐ステイン性が低下することがある。
【0029】
本実施形態において使用される水溶液のpHは、好ましくは6以上12以下、より好ましくは6以上11以下、特に好ましくは7以上10.5以下とする。亜鉛は両性金属であるから、pHが高すぎても低すぎても合金化溶融亜鉛めっき鋼板の溶出が起こる。合金化溶融亜鉛めっき鋼板の表面で亜鉛の溶出が起こると、リン成分がめっき表面に吸着することを妨げると考えられる。耐ステイン性を良好とするには水溶液を弱アルカリ性とすることが好ましい。また、ピロリン酸根含有水溶液のpHを調整するにあたっては、pH調整剤として、アンモニウムイオンや、アルカリ金属イオン等の各種金属イオン等を含む水溶液を使用することが好ましい。
【0030】
また、本実施形態において使用される水溶液の液温は5℃以上50℃以下であることが好ましく、5℃以上40℃以下であることがより好ましい。50℃以上を超えるとピロリン酸が過剰に反応して耐ステイン性が低下する場合がある。また、5℃未満では活性面が残存して脱脂性が低下する場合がある。
【0031】
上記のように調整されたピロリン酸根含有水溶液でめっき表面を洗浄することにより、めっき表面にリン成分を残存させることができると考えられる。脱脂工程において脱脂液によりめっき表面に付着しているプレス油や防錆油を洗浄した場合、めっき表面に残存しているリン成分により活性面への極圧添加成分の吸着が阻害されるとともに、当該リン成分がプレス油や防錆油等とともに容易に脱離するため、純水でめっき表面を洗浄した場合と比較し、めっき鋼板の脱脂性を良好なものとすることができる。
【0032】
接触工程S2では、上述したように、めっき鋼帯1のめっき表面にリン成分を残存させることで脱脂性等を向上させると考えられる。そのため、調圧水成分の洗浄時間(めっき表面とピロリン酸根含有水溶液との接触時間)を1秒以上50秒以下とすることが好ましい。1秒未満である場合、めっき表面に十分な量のリン成分を存在させることができないと考えられる。また、50秒以上としても、めっき表面の表面調整効果は飽和し、脱脂性の改善についても一定となるため、効率が悪い。
【0033】
また、めっき表面にリン成分を残存させるにあたって、鋼材表面にリン酸亜鉛処理を施すために用いられる、ピロリン酸を含有する表面処理液を用いることもできる。リン酸亜鉛処理は、一般的に、鋼材のめっき表面にリン酸亜鉛被膜を緻密に形成する目的で施される処理であり、用いられる表面処理液は、ピロリン酸を主成分とし、チタニアやジルコニア等の微細粒子を分散させたものを含んでいる。接触工程S2においては、このような表面調整液として用いられる市販の薬剤について、濃度やpHを所定の範囲に調整することで、本発明にかかる接触工程S2の水溶液として使用することができる。
【0034】
接触工程S2後にめっき表面を乾燥した後は、めっき鋼板表面に、上述した脱脂性を良好とするために必要な成分以外の成分が残存していないことが好ましい。そのため、水溶液中には、所定量のピロリン酸根とpH調整剤以外の成分については、極力含有されないことが好ましい。ただし、本実施形態にかかるピロリン酸根含有水溶液中には、めっき鋼板の脱脂性や耐ステイン性を損なわない限り、上述のチタニア、ジルコニア等の微細粒子や、空気中で不可避的に混入する微量の炭酸塩、炭酸水素塩等が混入していても支障ない。
【0035】
接触工程S2における接触手段としては、めっき鋼帯1と水溶液とを接触させることができるものであれば特に限定されず、水溶液をめっき鋼帯1に吹き付ける手段や、めっき鋼帯1を水溶液中に浸漬する手段等を挙げることができる。
【0036】
(1.3.乾燥工程S3)
接触工程S2において、水溶液とめっき鋼帯1とを接触させた後、乾燥工程S3を経ることで、めっき鋼帯1表面から水溶液の水分は飛ばされ、めっき鋼帯1表面には、脱脂性に優れるめっき鋼板30とする成分が残存した状態となる。乾燥工程S3においては乾燥装置が用いられ、当該乾燥装置は、製造ライン20における乾燥手段5に相当する。乾燥手段5としては、熱風装置、各種赤外線装置、電磁誘導装置、マイクロ波装置等、一般的に使用される乾燥装置が用いられる。また、乾燥手段5を用いず、自然乾燥としてもよい。
【0037】
めっき鋼帯1は、製造ライン20において、乾燥工程S3の後、出側ルーパー6を経由し、フライングシャー7により走間せん断され、コイル状に巻き取られて、脱脂性に優れるめっき鋼板30が製造される。尚、製造ライン20において、出側ルーパー6はコイルを交換する際、めっき鋼帯1を一時的に留めておくことが可能な形態であれば、図示されたような形態でなくてもよい。また、製造ライン20においてはシャーとしてフライングシャー8を例示したが、シャーリング可能な装置であれば特に限定されず、例えばストップカットシャーとしてもよい。
【0038】
(1.4.防錆油塗布工程S4)
製造方法10においては、めっき鋼板30の錆びを防ぐため、さらに、防錆油塗布工程S4において、めっき鋼板30の表面に防錆油が塗布されることが好ましい。防錆油塗布に使用される装置(製造ライン20における油塗布手段8)としては、めっき鋼板30の表面に防錆油を塗布することができる装置であれば特に限定されず、フォワードロール、リバースロール、グラビア、ドクターブレード、スロットダイやスプレーコート装置等を用いることができる。製造方法10により製造されためっき鋼板30は脱脂性に優れているため、防錆油塗布工程S4において、めっき鋼板30表面に防錆油が塗布されても、ピロリン酸に由来成分等の吸着、不動態化により極圧成分等の吸着を抑制でき、当該防錆油は脱脂液により容易に洗浄される。
【0039】
また、上記説明においては、製造方法10にかかる接触工程S2が、テンションレベラー3を経ためっき鋼帯1に施されるものとして説明したが、接触工程S2は調質圧延工程S1と乾燥工程S3との間にあれば特に制限されない。例えば、めっき鋼帯1が接触工程S2を経た後にテンションレベラー3を通過する形態であってもよい。
【0040】
本発明にかかる製造方法10によれば、溶融亜鉛系めっき鋼板表面の酸化物層の有無に関わらず、脱脂性に優れた溶融亜鉛系めっき鋼板を製造することができる。また、製造方法10は、脱脂性を付与する工程と洗浄工程とを一体化することができるので、工程数が削減され、プロセス全体の効率がよい。製造方法10により製造された溶融亜鉛系めっき鋼板、特に合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、長期間放置された場合でも脱脂性に優れるため、自動車製造工程における脱脂工程において、容易に鋼板表面の油を脱脂することができ、また、上述の耐ステイン性も同時に改善可能となり、後に続く化成処理工程や塗装工程における、化成処理性、塗装性を良好なものとすることができる。
【実施例】
【0041】
実施例においては、ピロリン酸水溶液等によって表面処理されていない、無塗油で活性面が残存している合金化溶融亜鉛めっき鋼板を用いて、70mm×150mmの合金化溶融亜鉛めっき鋼板供試材(以下、単に「供試材」という。)を複数用意し、それぞれ表1のように成分調整された水溶液に浸漬した。浸漬された各供試材について以下の性能を評価した。
【0042】
(脱脂性評価)
各供試材に防錆油(パーカー興産株式会社製550S)を1.5g/m塗油した。塗油後は、大気雰囲気の乾燥機中に入れ、60℃で4日間養生した。なお、60℃で4日間養生することは、おおよそ常温で約1ヶ月放置することに相当する。
【0043】
養生終了後、市販のアルカリ脱脂液(日本ペイント株式会社製SD280Z、pH=10.5、脱脂液温度40℃)に2分間浸漬した。浸漬後、引き上げて直ちに水道水で30秒間水洗した。水洗された供試材を略垂直に保ち、10秒経過後の表面の水濡れ状態を目視で観察し、濡れている面積の割合(以下、水濡れ面積率(%)という。)を脱脂性の指標とした。水濡れ面積率が90%以上であれば脱脂性が良好といえる。
【0044】
(耐ステイン性評価)
耐ステイン性は、各供試材に防錆油(パーカー興産株式会社製550S)を1.5g/m塗油した。その後、各鋼板を5枚重ねして、5Nmトルクにより締め上げスタックを作製した。スタックを作成後、50℃、湿度95%で30日間放置し、放置後各鋼板の外観を調査して、変色状況を調査した。また、耐ステイン性を鋼板の外観により目視で判定した。判定結果を下記に示す。
◎:変色無し(極めて良好)
○:部分的に変色(ほぼ良好)
×:極めて不芳
【0045】
供試材と接触させた水溶液の成分、及び、脱脂性、耐ステイン性の評価結果を表1に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
表1の結果より、水溶液中のピロリン酸濃度が0.1mmol/L〜50mmol/Lの範囲にある実施例1〜実施例22にかかる水溶液と供試材とを接触させた場合、供試材の水濡れ率がいずれも90%を超えるものとなり、脱脂性が改善され、耐ステイン性も良好であった。またピロリン酸根濃度が0.1mmol/Lを下回る場合は、脱脂性に悪影響を及ぼし(比較例1〜比較例7)、ピロリン酸根濃度が50mmol/Lを上回る場合は、耐ステイン性に悪影響を及ぼす場合があることが分かった(比較例8)。
【0048】
以上、現時点において、最も実践的であり、かつ、好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨あるいは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う溶融亜鉛系めっき鋼板の製造方法もまた本発明の技術範囲に包含されるものとして理解されなければならない。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の製造方法10に備えられる工程を示すフローチャートである。
【図2】本発明の製造方法10が適用される製造ライン20について概略的に示す図である。
【符号の説明】
【0050】
S1 調質圧延工程
S2 接触工程
S3 乾燥工程
S4 防錆油塗布工程
1 めっき鋼帯
2 調質圧延機
3 テンションレベラー
4 後処理手段
5 乾燥手段
6 出側ルーパー
7 フライングシャー
8 油塗布手段
10 めっき鋼板の製造方法
20 製造ライン
30 めっき鋼板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融亜鉛系めっき鋼板を調質圧延する、調質圧延工程と、
前記調質圧延工程において調質圧延された鋼板のめっき表面に、ピロリン酸根を0.1mmol/L以上50mmol/L以下含有する水溶液を接触させる接触工程と、
前記接触工程の後、前記鋼板を乾燥させる、乾燥工程と、を備えることを特徴とする溶融亜鉛系めっき鋼板の製造方法。
【請求項2】
前記調質圧延工程と前記接触工程との間に、前記鋼板のめっき表面に酸化物層を意図的に形成する工程を含まないことを特徴とする、請求項1に記載の溶融亜鉛系めっき鋼板の製造方法。
【請求項3】
前記接触工程において使用される前記水溶液のpHが6以上12以下であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の溶融亜鉛系めっき鋼板の製造方法。
【請求項4】
前記接触工程において、前記水溶液の液温度が5℃以上50℃以下であるとともに、前記鋼板のめっき表面と、前記水溶液とを、1秒以上50秒以下接触させることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の溶融亜鉛系めっき鋼板の製造方法。
【請求項5】
前記乾燥工程の後、前記鋼板の表面に防錆油を塗布する、防錆油塗布工程を備えることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の溶融亜鉛系めっき鋼板の製造方法。
【請求項6】
前記溶融亜鉛系めっき鋼板が、合金化溶融亜鉛めっき鋼板であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の溶融亜鉛系めっき鋼板の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2009−191317(P2009−191317A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−33470(P2008−33470)
【出願日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】