説明

脱銅スラグの処理方法

【課題】硫化物系の脱銅スラグからより効率的に銅を回収し、有効利用できるようにするための脱銅スラグの処理方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る脱銅スラグの処理方法は、ナトリウム、鉄、硫黄を主成分とする硫化物系の脱銅スラグの処理方法であって、該脱銅スラグを大気雰囲気下において600℃以上800℃以下の温度で熱処理する熱処理工程と、該熱処理工程後に脱銅スラグに含まれる可溶成分を水に溶解して不可溶成分と分離する可溶成分分離工程と、該不可溶成分中に含まれる磁性を有する鉱物を磁力選鉱にて除去する磁力選鉱工程とを備えてなることを特徴とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナトリウム、鉄、硫黄を主成分とする硫化物系の脱銅スラグの処理方法に関する。
本明細書において、硫化物系の脱銅スラグとは、FeS−NaS系フラックスなどの硫化物フラックスを用いて鉄鋼スクラップなどの溶鉄から銅を除去する際に生成されるスラグをいう。
【背景技術】
【0002】
製鋼過程で使用する鉄源は、鉄鉱石を高炉で還元して得られる溶銑が主体であるが、鉄鋼材料の加工工程で発生する鋼屑や、建築物及び機械製品などの老朽化に伴って発生する鋼屑も、かなり使用されている。
高炉での溶銑の製造には、鉄鉱石を還元し、且つ溶融するための多大なエネルギーを要するのに対し、鋼屑は溶解熱のみを必要としており、製鋼過程で鋼屑を利用した場合には、鉄鉱石の還元熱分のエネルギー使用量を少なくすることが出来るという利点がある。
したがって、省エネルギーの観点及びCO削減による地球温暖化防止の観点からも、鋼屑利用の促進が望まれている。
【0003】
しかし、鋼屑を利用する際、銅及び錫に代表されるトランプエレメントが溶解過程で不可避的に溶鉄中に混入する。トランプエレメントは鋼の性質を損なう成分であり、一定の濃度以下に保つ必要がある。このため、高級鋼を製造する鉄源として、銅や錫を含む恐れのある低級鋼屑を使用することは困難であった。
他方、近年の鋼屑発生量の増加及びCO発生削減のための鋼屑使用の要請を勘案すると、低級屑の再生利用を進める必要がある。もっとも、現状では電化製品、自動車などのシュレッダーダスト等、銅を多く含む鋼屑は、溶解前に磁選等を行っても、銅成分を完全に除去することは出来ておらず、溶鉄に混入した脱銅処理技術の開発が望まれている。
【0004】
溶鉄に混入した後の脱銅方法に関しては、含銅高炭素溶鉄とFeS−NaS系フラックスとを接触させ、溶鉄中の銅成分をCuSとしてフラックス中に分離除去する原理的技術知見が、非特許文献1及び非特許文献2に報告されている。
また、工業的に入手容易な硫化鉄および炭酸ナトリウムをフラックスとして用いた脱銅方法が非特許文献3に報告されている。
【0005】
一方、脱銅処理によって発生するスラグからの銅回収方法としては、鋼スクラップからの銅除去方法として、例えば、特許文献1に酸化物系のフラックスを用いて銅の融点以上の温度で銅の融液として回収する技術が公開されている。
また、銅製錬など、銅を多く含むスラグからの銅回収方法としては、例えば、特許文献2にカルシウムフェライト系のスラグを形成して回収する技術が公開されている。いずれの技術にしても、酸化物系のスラグからの銅回収方法に関するものである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「鉄と鋼」、Vol.74、1988、No.4、p.640-647
【非特許文献2】「鉄と鋼」、Vol.77、1991、No.4、p.504-511
【非特許文献3】「材料とプロセス」、Vol.23、2010、No.1、p.32
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平4−354831号公報
【特許文献2】特許第3709728号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のように、硫化物フラックスによる溶銑から銅を除去する技術が提案されているが、このような処理を行うことによって生成される硫化物系の脱銅スラグの処理に関しては、何らの提案もないのが現状である。
【0009】
硫化物系の脱銅スラグは、ナトリウム成分を含むため、脱銅スラグが雨水などに接触するとナトリウム成分が溶出する。このため、通常のスラグ(鉄鋼スラグや酸化物系のスラグ)のように路盤材、土工用砕石、セメント原料等へ利用することができない。
また、硫化物系の脱銅スラグに含まれる銅濃度は1〜2質量%程度と低く、銅精錬用原料として利用することもできない。
このように、酸化物系の脱銅スラグに対し、硫化物系の脱銅スラグは、硫化物フラックスが高価であるためそのコストが高いにもかかわらず、脱銅スラグからの銅回収はおろか、回収後のスラグの用途についても目処が立っていない状況である。
【0010】
本発明はかかる課題を解決するためになされたものであり、硫化物系の脱銅スラグを銅精錬用原料として有効利用できるようにするための脱銅スラグの処理方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために発明者は硫化物系脱銅スラグについて、その成分分析や熱処理による鉱物相変化についての調査・研究を行った。
その結果、硫化物系脱銅スラグは、成分としてナトリウム、鉄、硫黄を含んでおり、熱処理時の温度、雰囲気により、生成する鉱物相が異なることを発見した。
さらに、硫化物系脱銅スラグに含まれる可溶成分を水に溶解して残渣中の銅の含有量を増量しようとしても、可溶成分から予想される含有率以上には銅を回収できないことも判明した。
【0012】
発明者は、硫化物系脱銅スラグの鉱物相を、熱処理条件を制御することにより磁性を有する鉱物を含むように変化させ、該鉱物を、磁力を用いて磁性を持たない銅、および/または銅含有鉱物から分離、除去することによって、上記の問題を解決できるとの着想を得て、より効率よく銅を回収すべく検討を重ねて本発明を完成したものである。
【0013】
(1)本発明に係る脱銅スラグの処理方法は、ナトリウム、鉄、硫黄を主成分とする硫化物系の脱銅スラグの処理方法であって、該脱銅スラグを大気雰囲気下において600℃以上800℃以下の温度で熱処理する熱処理工程と、該熱処理工程後に脱銅スラグに含まれる可溶成分を水に溶解して不可溶成分と分離する可溶成分分離工程と、該不可溶成分を磁力選鉱して銅成分を含まない磁着物を分離する磁力選鉱工程とを備えてなることを特徴とするものである。
【0014】
(2)また、上記(1)に記載のものにおいて、前記熱処理工程は、常温状態の前記脱銅スラグを、600℃以上800℃以下の温度に加熱することを特徴とするものである。
【0015】
(3)また、上記(1)に記載のものにおいて、前記熱処理工程は、脱銅処理後に排出された高温状態の脱銅スラグを、600℃以上800℃以下の温度で保持することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明においては、脱銅スラグを600℃以上800℃以下の温度で、かつ大気雰囲気下で熱処理する熱処理工程と、該熱処理工程後に脱銅スラグに含まれる可溶成分を水に溶解して不可溶成分と分離する可溶成分分離工程と、該不可溶成分を磁力選鉱して銅成分を含まない磁着物を分離する磁力選鉱工程を備えたことにより、非晶質の脱銅スラグを、主としてナトリウム、鉄及び硫黄の化合物である鉱物、硫酸ナトリウム、磁鉄鉱などの鉱物組み合わせにして可溶成分であるナトリウムを水に溶解して分離し、残渣中の鉄と銅を固相として回収、濃化することが出来る。
さらに、本発明においては、可溶成分分離工程の後に、不可溶成分を磁力選鉱して銅成分を含まない磁着物を分離する磁力選鉱工程を備えることにより、磁性を有する磁鉄鉱を分離することで、さらなる銅回収率の向上を達成する。
したがって、本発明によれば、固液分離後の残渣中の銅含有量を増量し、銅精錬用原料に利用可能とすることで資源化に貢献することができる。回収した磁着物は磁鉄鉱の他、硫黄分を含む鉱物を含む場合がある。その場合には、脱硫などすれば焼結に再利用することも可能である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の一実施の形態に係る脱銅スラグの処理方法は、硫化物フラックスを用いて鉄鋼スクラップなどの溶鉄の脱銅処理を行った際に生成されるナトリウム、鉄、硫黄を主成分とする脱銅スラグの処理方法であって、該脱銅スラグを600℃以上800℃以下の温度で、かつ大気雰囲気下で熱処理する熱処理工程と、該熱処理工程後に脱銅スラグに含まれる可溶成分を水に溶解して不可溶成分と分離する可溶成分分離工程と、該不可溶成分を磁力選鉱して銅成分を含まない磁着物を分離する磁力選鉱工程と、固液を分離する固液分離工程とを備えてなることを特徴とするものである。
以下、本発明の主な構成について詳細に説明する。
【0018】
<脱銅スラグ>
脱銅スラグは、FeS―NaS系フラックスなどの硫化物フラックスを用いて鉄鋼スクラップなどの溶鉄から銅を除去する硫化物フラックス精錬法によって発生するスラグであって、ナトリウム、鉄、硫黄を含有するものである。その組成の一例を挙げれば、ナトリウム21質量%、鉄26質量%、硫黄33質量%、銅1.8質量%である。
【0019】
<熱処理工程>
大気雰囲気下での熱処理工程を経ることによって、処理前の不安定な鉱物相(NaFe)を、主としてナトリウム、鉄及び硫黄の化合物である鉱物(NaFeS)、硫酸ナトリウム(NaSO)、磁鉄鉱(Fe)などの鉱物組み合わせにすることができる。
大気雰囲気下で熱処理をするのは、磁鉄鉱がより生成しやすいようにするためである。
熱処理の方法は、常温で保管された状態の脱銅スラグを、電気炉を用いて加熱処理する方法でもよい。
あるいは脱銅処理後に排出された高温状態の脱銅スラグを、600℃以上800℃以下の温度で保持する方法でもよい。この時、空気、または酸素を含む気体を吹きつけながら処理しても良い。なお、600℃以上800℃以下の温度で保持する場合には、上記範囲内の一定温度で保持するのでもよいが、徐々に温度を下げるような方法でもよい。
【0020】
なお、熱処理温度として、600℃以上としたのは、脱銅スラグの結晶化が促進されやすい温度が適正であるとの知見に基づくものである。また、800℃以下としたのは脱銅スラグが溶融しないようにするためである。なお、磁鉄鉱がより生成しやすいようにするため上記温度範囲の中ではより高い方が好適である。
【0021】
<可溶成分分離工程>
可溶成分分離工程は、熱処理工程後に脱銅スラグに含まれる可溶成分を水に溶解して不可溶成分と分離する工程である。
<磁力選鉱工程>
磁力選鉱工程は、不可溶成分のうち、磁性を有する磁鉄鉱を磁石により分離、除去する工程である。磁力選鉱工程は、可溶成分分離工程後に連続して、または、可溶成分分離工程中に行うのが好ましい。その理由は、可溶成分分離工程では粒径100μm以下の脱銅スラグが水に分散している状態となり、このため、固液分離工程後に磁力選鉱を行うと脱銅スラグが凝集、固化してしまい、磁力選鉱が困難となるからである。
【0022】
<固液分離工程>
固液分離工程における、具体的な方法としては、例えば遠心分離による方法やフィルタープレスによる方法が挙げられる。
【0023】
本発明においては、結晶化が促進されやすいスラグの液相生成開始温度以下の温度(600℃以上800℃以下)でスラグを大気雰囲気下で熱処理することにより、非晶質のスラグを、主としてナトリウム、鉄及び硫黄の化合物である鉱物(NaFeS)、硫酸ナトリウム(NaSO)、磁鉄鉱(Fe)などの鉱物組み合わせにする。そして、可溶成分であるナトリウムを水に溶解することでナトリウムを分離し、残渣中の鉄と銅を固相として濃化、回収することが出来る。
さらに不可溶成分から磁性を有する磁鉄鉱(Fe)を、磁石を用いて分離、除去することにより銅回収率を向上させる。
これによって、残渣中の銅含有量を増量し、資源化に貢献することが可能である。回収した磁着物は磁鉄鉱の他、硫黄を含む鉱物を含む場合がある。場合によっては脱硫することで、焼結に再利用することも可能である。
【実施例】
【0024】
本発明の効果を確認するための実験を行ったので、以下これについて説明する。
銅含有量1.8質量%の硫化物系脱銅スラグについて、熱処理工程における温度条件として、600℃と800℃の2種類について、効果確認実験を以下に示す実施例1〜4、比較例1〜3として行った。なお、脱銅スラグの熱処理は電気炉を用いて行い、熱処理温度はスラグ表面近傍の雰囲気温度に基づいて得られた値である。
【0025】
<熱処理工程>
実施例1および実施例2は、銅含有量1.8質量%の脱銅スラグを600℃の温度で3時間大気焼成(酸化雰囲気)したものである。
実施例3および実施例4は、同じく銅含有量1.8質量%の脱銅スラグを800℃の温度で3時間大気焼成(酸化雰囲気)したものである。
比較例1は、同じく銅含有量1.8質量%の脱銅スラグを600℃の温度で3時間大気焼成(酸化雰囲気)したものである。
比較例2および比較例3は、同じく銅含有量1.8質量%の脱銅スラグを800℃の温度で3時間コークスブリーズ中焼成(還元雰囲気)したものである。
【0026】
<可溶成分分離工程>
実施例1〜4については熱処理後の脱銅スラグ2gと水200mLを容器に入れ、プロペラ式攪拌機にて200rpmで2時間攪拌した。
比較例1〜3についても同様に行った。
【0027】
<磁力選鉱工程>
実施例1、実施例3については、プロペラ式攪拌機にて攪拌後、マグネチックスターラーにて200rpmで5分間攪拌、スターラーをイオン交換水にて洗浄し、付着した磁着物を除去した。その後、再度マグネチックスターラーにて200rpmで5分間攪拌し、スターラーに付着した磁着物を除去した。
実施例2、実施例4、比較例3については、プロペラ式攪拌機にて攪拌後、マグネチックスターラーにて200rpmで5分間攪拌、スターラーをイオン交換水にて洗浄し、付着した磁着物を除去した。
比較例1、比較例2については、プロペラ式攪拌機にて攪拌したのみで、マグネチックスターラーによる磁力選鉱は行わなかった。
【0028】
<固液分離工程>
実施例1〜4及び比較例1〜3について、容器内に残った水溶液及び非磁着物を遠心分離機に20分間かけて固液分離した。
【0029】
固液分離後の固相についてSEM分析を行った。
実施例1〜4についての分析結果をまとめたものを表1に、また比較例1〜3についての分析結果をまとめたものを表2にそれぞれ示す。
【0030】
【表1】

【0031】
【表2】

【0032】
実施例1〜4では、いずれも熱処理工程後の銅含有量よりも固液分離工程後の銅含有量の方が高く、このことから大気雰囲気下で熱処理を行った場合においては、磁力選鉱を行ったことによる銅回収率の向上が見られる。
また、実施例1と実施例2、実施例3と実施例4を比較すると、磁力選鉱回数が2回の実施例1、実施例3の方が、磁力選鉱回数が1回の実施例2、実施例4よりも固液分離工程後の銅含有量が高く、このことから磁力選鉱の回数が多いことが銅回収効率を向上させる効果があることが分かる。
【0033】
また、実施例1および実施例2と比較例1を比較すると、同じ600℃で大気熱処理した場合でも、磁力選鉱工程を行わなかった比較例1では固液分離工程後の銅含有量が実施例1および実施例2よりも低く、磁力選鉱工程を行うことで銅回収率を大きく向上させる効果があることが分かる。
【0034】
磁力選鉱回数が1回の比較例3と磁力選鉱回数が0回の比較例2とを比較すると、固液分離工程後の銅含有量においてほとんど差異がなく、このことからコークス中(還元雰囲気)で熱処理を行った場合においては、磁力選鉱を行うことは銅回収効率の向上に寄与しないことが分かる。
【0035】
また、実施例4と比較例3を比較すると、大気中で熱処理した実施例4の方がコークス中で熱処理を行った比較例3よりも固液分離工程後の銅含有量が向上していることから、大気中で熱処理することによって磁鉄鉱が生成され、それが磁力選鉱によって除去されたものと推察される。
【0036】
以上の検討から、大気雰囲気下での熱処理と磁力選鉱を組み合わせることで、銅回収効率を向上させることができることが実証された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナトリウム、鉄、硫黄を主成分とする硫化物系の脱銅スラグの処理方法であって、該脱銅スラグを、大気雰囲気下において600℃以上800℃以下の温度で熱処理する熱処理工程と、該熱処理工程後に脱銅スラグに含まれる可溶成分を水に溶解して不可溶成分と分離する可溶成分分離工程と、該不可溶成分に含まれる磁性を有する鉱物を磁力選鉱して除去する磁力選鉱工程を備えてなることを特徴とする脱銅スラグの処理方法。
【請求項2】
前記熱処理工程は、常温状態の前記脱銅スラグを、600℃以上800℃以下の温度に加熱することを特徴とする請求項1記載の脱銅スラグの処理方法。
【請求項3】
前記熱処理工程は、脱銅処理後に排出された高温状態の脱銅スラグを、600℃以上800℃以下の温度で保持することを特徴とする請求項1記載の脱銅スラグの処理方法。


【公開番号】特開2011−241467(P2011−241467A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−117024(P2010−117024)
【出願日】平成22年5月21日(2010.5.21)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、経済産業省、エネルギー使用合理化技術戦略的開発 エネルギー有効利用基盤技術先導研究開発 難利用鉄系スクラップの利用拡大のための先導的研究委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】