脳への送達のための抗体および免疫複合体のバインダーとしてのプロテインAをディスプレイする繊維状バクテリオファージ
本発明は、プロテインAまたは抗体のFc部分に結合することができるそのフラグメントもしくは変異体を非繊維状バクテリオファージ分子としてその表面にディスプレイする繊維状バクテリオファージ、ならびにプロテインAまたはそのフラグメントもしくは変異体にそのFc部分により結合した抗体または抗原−抗体免疫複合体を含む、ファージディスプレイビヒクルに関する。このファージディスプレイビヒクルは、医薬組成物に処方されそして脳の疾患、障害または状態を処置/抑制または診断するのに使用することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脳への抗体および免疫複合体の送達のための繊維状バクテリオファージディスプレイビヒクルならびに診断および治療におけるその使用に関する。
【0002】
関連技術の説明
ファージディスプレイ
コンビナトリアルファージディスプレイペプチドライブラリーは、タンパク質:タンパク質相互作用を研究するための効率的な手段を提供する。この技術は、対応する遺伝子的青写真と関連したランダムペプチドの非常に大きいコレクションの産生に頼る(Scott et al, 1990; Dower, 1992; Lane et al, 1993; Cortese et al, 1994; Cortese et al, 1995; Cortese et al, 19956)。ランダムペプチドの提示は、M13、fdおよびf1などの繊維状バクテリオファージの外側表面に発現されたキメラタンパク質を構築することによりしばしば達成される。この提示は、所望の結合性を有するペプチドのアフィニティー単離および同定をもたらす結合アッセイを受けやすいレパートリーおよび特異化されたスクリーニングスキーム(バイオパニングと呼ばれる(Parmley et al, 1988))を作る。この方法において、レセプターに結合するペプチド(Koivunen et al, 1995; Wrighton et al, 1996; Sparks et al, 1994; Rasqualini et al,1996)、酵素に結合するペプチド(Matthews et al, 1993; Schmitz et al, 1996)または抗体に結合するペプチド(Scott et al, 1990; Cwirla et al, 1990; Felici et al, 1991; Juzzago et al, 1993; Hoess et al, 1993; Bonnycastle et al, 1966)は効果的に選ばれた。
【0003】
繊維状バクテリオファージは、Fエピソームを担持するEscherichia coli細胞に感染する非溶菌性雄特異的バクテリオファージである(概説として、Model et al, 1988参照)。繊維状ファージ粒子は、環状一本鎖DNAゲノム(+鎖)を含有する900nm長および10nmの細い管状構造のように見える。ファージのライフサイクルは、バクテリアのF線毛へのファージの結合、次いでホストへの一本鎖DNAゲノムの侵入を含む。環状一本鎖DNAは、ホスト複製装置により認識されそして相補性第2DNA鎖の合成はファージori(−)構造において開始される。二本鎖DNA複製形体は、ori(+)構造で開始する一本鎖DNA環状ファージゲノムの合成のためのテンプレートである。これらは、最終的にビリオンにパッケージされそしてファージ粒子は溶菌またはホストへの見かけの損傷を引き起こさないでバクテリアから押し出される。
【0004】
ペプチドディスプレイシステムは、ファージの2つの構造タンパク質:pIII(P3)タンパク質およびpVIIIタンパク質を利用した。pIIIタンパク質は、ファージ当たり5コピーで存在しそしてビリオンの1つの先端に排他的に見出される(Goldsmith et al, 1977)。pIIIタンパク質のN末端ドメインは、感染プロセスのために必要なノブ様構造を形成する。(Gray et al, 1981)。それは、F線毛の先端へのファージの吸着および次いでバクテリアホスト細胞への一本鎖DNAの透過およびトランスロケーションを可能とする(Holliger et al, 1997)。pIIIタンパク質は、広範な改変を許容することができ、したがってそのN末端にペプチドを発現するのに使用された。外来ペプチドは、65までのアミノ酸残基の長さであったが(Bluthner et al, 1996; Kay et al, 1993)、ある場合には、pIII機能に顕著に影響を与えることなく完全長タンパク質と同じ大きさですらあった(McCafferty et al, 1990; McCafferty et al, 1992)。
【0005】
一本鎖ファージDNAを取り囲んでいる円筒形タンパク質エンベロープは、2700コピーの主要コートタンパク質、pVIII、50アミノ酸残基からなるα−ヘリカルサブユニットからなる。pVIIIタンパク質それ自体は、タンパク質のαヘリックスがビリオンの長軸に対して浅い角度で位置して、ヘリカルパターンで配置されている(Marvin et al, 1994)。このタンパク質の一次構造は、3つの別々のドメイン:(1)酸性アミノ酸に富みそして外側環境に暴露されたN末端部分;(2)(i)ファージ粒子におけるサブユニット:サブユニット相互作用および(ii)ホスト細胞における膜貫通機能の責任を担う中心疎水性ドメイン;および(3)ファージの内部に埋め込まれておりそしてファージDNAと関連しているC末端でクラスター化された塩基性アミノ酸を含有する第3ドメインを含有する。pVIIIは、23アミノ酸リーダーペプチドを含有するプレコートタンパク質として合成され、該リーダーペプチドはバクテリアの内側膜を横切ってトランスロケーションされると開裂されて成熟50残基膜貫通タンパク質を生じさせる(Sugimoto et al, 1977)。ディスプレイスカフォールドとしてのpVIIIの使用は、それがそのN末端に6より長くない残基のペプチドの付加を許容するという事実により妨害される。より大きいインサートはファージアセンブリーを妨害する。しかしながら、より大きいペプチドの導入は、リコンビナントペプチド含有pVIIIタンパク質を野生型pVIIIとin vivo混合することにより、混合モザイクファージが産生されるシステムにおいて可能である(Felicit et al, 1991; Greenwood et al, 1991; Willis et al, 1993) 。これは、ファージ粒子のアセンブリー期間中野生型コートタンパク質を点在させたファージ表面で低密度(粒子につき10〜数100コピー)でキメラpVIIIタンパク質の組み込みを可能とする。モザイクファージ゛の発生を可能とする2つのシステムが使用された:Smith(Smith, 1993)により命名された「タイプ8+8」および「タイプ88」システム。
【0006】
「タイプ8+8」はシステムは、2つの異なる遺伝子単位において別々に位置した2つのpVIII遺伝子を有することに基づいている(Felicit et al, 1991; Greenwood et al, 1991; Willis et al, 1993)。リコンビナントpVIII遺伝子は、ファージミド、即ち、その自身の複製起点に加えて、ファージの複製起点およびパッケージングシグナルを含有するプラスミド上に位置している。野生型pVIIIタンパク質は、ファージミドを抱えるバクテリアにヘルパーファージを重複感染させることにより供給される。更に、ヘルパーファージは、ファージミドおよびヘルパーゲノムの両方をビリオンにパッケージするファージ複製およびアセンブリー装置を与える。したがって、2つのタイプの粒子は、このようなバクテリア、ヘルパーおよびファージミドにより分泌され、その両方がリコンビナントpVIIIタンパク質および野生型pVIIIタンパク質の混合物を組み込んでいる。
【0007】
「タイプ88」システムは、1つのおよび同じ感染性ファージゲノムにおいて2つのpVIII遺伝子を含有することにより恩恵を受ける。したがって、これはヘルパーファージおよび重複感染を不要にする。更にたった1つのタイプのモザイクファージが産生される。
【0008】
ファージゲノムは、10のタンパク質をコードし(PI〜PX)、そのすべては感染性子孫の産生のために必須である(Felicit et al, 1991)。タンパク質のための遺伝子は、2つの非コード領域により分離された2つの堅く詰め込まれた転写単位において構成される(Van Wezenbeek et al, 1980)。「遺伝子間領域」(pIVとpII遺伝子間に位置しているものとして定義された)と呼ばれる1つの非コード領域は、DNA複製の(+)および(−)起点およびカプシド形成の開始を可能とするファージのパッケージングシグナルを含有する。この遺伝子間領域の一部は必須ではない(Kim et al, 1981; Dotto et al, 1984)。更に、この領域は、いくつかの部位で外来DNAの挿入を許容することができことが見出された(Messing, 1983; Moses et al, 1980; Zacher et al, 1980)。ファージの第2非コード領域は、pVIIIとpIII遺伝子間に位置し、そしてPluckthun(Krebber et al, 1995)により例示されたとおり外来リコンビナント遺伝子を組み込むためにも使用された。
【0009】
ファージディスプレイによる免疫化
エピトープからなる低分子合成ペプチドは、ペプチドの化学合成を必要とする一般に不十分な抗原でありそして大きな担体にカップリングされる必要があるが、その場合ですら、それらは低アフィニティー免疫応答を誘導する可能性がある。抗原としてEFRHペプチドのみをディスプレイする繊維状ファージを使用して抗AβP抗体を生じさせるための免疫感作の方法が本発明者の研究所で開発された(Frenkel et al., 2000 and 2001)。繊維状バクテリオファージは、ファージコートタンパク質をコードする遺伝子の5’端部にランダムなオリゴヌクレオチドをクローニングすることにより発生したペプチドの大きなレパートリーのそれらの表面での「ディスプレイ」のために近年広範に使用されている(Scott and Smith, 1990; Scott, 1992)。最近報告されたとおり、繊維状バクテリオファージは、種々の生物学的製剤における外来ペプチドの発現および提示のための優れたビヒクルである(Greenwood et al., 1993; Medynski, 1994)。繊維状ファージの投与は、ファージ効果システムに対する強い免疫学的応答を誘導する(Willis et al., 1993; Meola et al., 1995)。上記したファージコートタンパク質pIIIおよびpVIIIは、ファージディスプレイのためにしばしば使用されてきたタンパク質である。
【0010】
その線状構造により、繊維状ファージは、異なる種類の膜に対する高い透過性を有し(Scott et al., 1990)そして、嗅索に続いて、大脳辺縁系を介して海馬区域に到達して疾患のある部位をターゲティングする。クロロホルムによる繊維状ファージの処理は、線状構造を環状構造に変え、環状構造は脳へのファージの送達を阻止する。
【0011】
抗体エンジニアリング
抗体エンジニアリング法は、mAbsの生物学的活性を維持しながらmAbsのサイズ(135〜900kDa)を最小化するために適用された(Winter et al., 1994)。これらの技術およびPCR技術を適用して大きな抗体遺伝子レパートリーを作り出すことは、抗体ファージディスプレイを一本鎖Fv(scFv)抗体の単離および特徴付けのための多様なツールとする(Hoogenboom et al., 1998)。scFvは更なる操作のためにファージの表面にディスプレイすることができ、または可溶性scFv(〜25kd)フラグメントとして放出されうる。本発明者の研究所は、親IgM分子に類似した抗凝集性を示すscFvを工学的に作成した(Frenkel et al., 2000a)。scFv構築のために、抗AβP IgM 508ハイブリドーマからの抗体遺伝子をクローニングした。分泌された抗体は、AβP分子に対して、培養されたPC12細胞に対するその毒性効果を阻止することにおいて、特異的活性を示した。部位特異的一本鎖Fv抗体は、細胞内または細胞外アプローチを介して脳に治療抗体をターゲティングための第1段階である。
【0012】
プロテインA:
Staphylococcus aureusのプロテインAは、免疫グロブリン、特にIgGクラスのFc部分へのそのアフィニティーにより特徴付けられた細胞壁構成成分である(Goding, 1978)。それはヒト、マウス、ブタ、モルモットおよびウサギのIgG抗体に結合する。マウスにおいては、プロテインAは高いアフィニティーでIgG2aおよびIgG2b抗体に結合するが、IgG1およびIgG3抗体にはあまりよく結合しない(Goudswaard et al., 1978)。プロテインAは、アスパラギン酸およびグルタミン酸に富むかシステインを欠いた4つの反復ドメインを有する42kDaタンパク質である。IgG結合ドメイン(ドメインB)は、3つの逆平行αヘリックスからなり、その第3はこのタンパク質がFcと複合体化されるとき分裂する(disrupted)(Graille et al., 2000)。
【0013】
プラーク形成疾患
プラーク形成疾患は、脳におけるアミロイドプラーク沈着の存在およびニューロン変性により特徴付けられる。アミロイド沈着物は、不溶性塊に凝集したペプチドにより形成される。ペプチドの性質は異なる疾患において変わるが、多くの場合に、凝集物はβひだ状シート構造(beta-pleated sheet structure)を有しそしてコンゴーレッド染料で染まる。早期発症アルツハイマー病、後記発症アルツハイマー病および前兆アルツハイマー病を含むアルツハイマー病(AD)の他に、アミロイド沈着により特徴付けられる他の疾患は、例えば、SAAアミロイドーシス、遺伝性アイスランド症候群、多発性ミエローマおよびプリオン病である。動物において最もよくあるプリオン病は、ヒツジおよびヤギのスクラピーおよびウシ海綿状脳症(BSE)である(Wilesmith and Wells, 1991)。4つのプリオン病:(i)クールー病、(ii)クロイツフェルト−ヤコブ症候群、(iii)ゲルストマン−ストロイスラー−シヤインカー病(Gerstmann-Streussler-Sheinker Disease(GSS)および(iv)致死的家族性不眠症(fatal familial insomnia(FEI)(Gajdusek, 1977; and Tritschler et al. 1992)が同定された。
【0014】
プリオン病は、正常細胞プリオンタンパク質(PrPC)の対応するスクラピーアイソフォーム(scrapie isogorm)(PrPSc)への転換を含む。顕微鏡的測定は、PrPCのスクラピーアイソフォーム(PrPSc)への転換が主要コンフォメーション転移(major conformation transition)を伴うことを示しており、これは、他のアミロイドゲニック病(amyloidogenic diseases)と同様に、プリオン病がタンパク質コンフォメーションの障害であることを示唆している。PrPCからPrPScへの転移は、α−ヘリカル二次構造の減少(42%から30%)およびβシート含有率の顕著な増加(3%から43%)により伴われる(Caughey et al, 1991; and Pan et al, 1993)。この再構成(rearrangement)は、非変性性洗剤中への不溶性およびプロテオリシスに対する部分的抵抗を含む異常な物理化学的性質と関連している。これまでの研究は、ヒトPrPの残基106〜126(Prp106〜126)と相同性の合成ペプチドは、PrPScの病原性および物理化学的性質のいくらかを示すことを示した(Selvaggini et al, 1993; Tagliavini et al, 1993; and Forloni et al, 1993)。このペプチドは、種々の環境において異なる二次構造を獲得する、顕著なコンフォメーション多型を示す(De Gioia et al, 1994)。それは、緩衝化溶液中でβシートコンフォメーションを採る傾向がありそしてプロテアーゼによる消化に対して部分的に抵抗性であるアミロイドフィブリルに凝集する傾向がある。抗体3F4とそのペプチドエピトープ(PrP104〜113)の複合体のX線結晶学的研究は、プリオン病の進展に必須のコンフォメーション再構成(conformational rearrangement)の成分であると考えられるこの柔軟性領域の構造的な見解を示した。(Kanyo et al, 1999)。
【0015】
アルツハイマー病(AD)は、老人性痴呆をもたらす進行性疾患である。広く言えば、この疾患は2つの種類:老齢(典型的には65歳以上)で起こる後期発症および老年期の前、例えば35〜60歳でよく発生する早期発症に属する。両タイプの疾患において、病態は同様であるが、異常は、より早齢で始まる場合により重篤でありそして広がる傾向がある。疾患は、脳における2つのタイプの損傷、老人斑および神経原繊維変化(neurofibrillary tangles)により特徴付けられる。老人班は、脳組織の切片の顕微鏡解析により見ることができる、中心での細胞外アミロイド沈着物の直径で150mmまでの解体した好中球の区域である。神経原繊維変化はペアにおいてお互いのまわりに撚り合わされた2つのフィラメントからなるタウタンパク質の細胞内沈着物である。
【0016】
老人斑の主成分は、アミロイドベータ(Aβ)またはベータアミロイドペプチド(βAPまたはβA)と呼ばれるペプチドである。アミロイドベータペプチドは、アミロイド前駆体タンパク質(APP)と呼ばれる前駆体タンパク質の39〜43アミノ酸の内部フラグメントである。APPタンパク質内のいくつかの突然変異は、アルツハイマー病の存在と相関していた(Goate et al,(1991)、バリン717 がイソロイシンに; Chartier Harlan et al, (1991),バリン 717 がグリシンに; Murrell et al, (1991), バリン 717 がフェニルアラニンに; Mullan et al, (1992), リシン595−メチオニン596をアスパラギン595−ロイシン596に変える二重突然変異)。
【0017】
このような突然変異は、APPのベータアミロイドへの増加したもしくは変化したプロセシング、特にAPPの増加した量の長い形態のベータアミロイドへのプロセシング(即ち、Aβ1−42およびAβ1−43)によりアルツハイマー病を引き起こすと考えられる。プレセニリン遺伝子、PS1およびPS2などの他の遺伝子における突然変異は、APPのプロセシングに間接に影響を与えて増加した量の長い形態のベータアミロイドを発生させると考えられる(Hardy, TINS 20, 154,1997参照)。これらの観察は、ベータアミロイドおよび特にその長い形態がアルツハイマー病における原因的エレメントであることを示す。
【0018】
アミロイド繊維に関する刊行物は、円筒形ベータシートがX線および電子顕微鏡データのいくらかと合致した唯一の構造でありそしてアルツハイマーAβフラグメントおよび変異体の繊維は、多分、2つまたは3つの同心円筒形βシートからなることを示す(Perutz et al., 2002)。完全なAβペプチドは、42残基、丁度円筒形シェルの核を形成する(nucleate)ための正しい数、を含有し;この発見および、プロリンの不存在下にAβペプチドからなるβシートにおける多くの可能な強い静電気的相互作用は、Aβペプチドのアルツハイマー患者において見出された細胞外アミロイドプラークを形成する傾向の原因となる。もしこの解釈が正しいとすれば、アミロイドは、中心が水で充填されたキャビティーを有する細いチユ−ブ(ナノチューブ)からなる。in−vitroアミロイドプラーク成長の可逆性は、プラーク中のβAと溶液中のβAとの定常状態平衡を示唆する(Maggio and Mantyh, 1996)。βひだ状シートフィブリルを形成するためのペプチド−ペプチド相互作用に対するβA重合の依存性、および反応に対する他のタンパク質の刺激的影響は、アミロイド形成がモデュレーションを受けることができることを示唆する。アミロイド形成を妨害することができる物質を発見するための多くの試みがなされた。中でも最も研究された化合物は、抗体、プロリンのようなベータブレーカーアミノ酸からなるペプチド、認識モチーフへの帯電した基の付加および構築ブロックとしてのN−メチル化アミノ酸の使用である(Gazit, 2002により概説された)。
【0019】
患者におけるアミロイド凝集により特徴付けられた疾患の予防または処置のための方法が提唱され、これは、アミロイド沈着物のペプチド成分に対する抗体が凝集したアミロイドまたは可溶性アミロイドと接触することを引き起こすことを含む。SchenkのWO99/27944およびSolomonのU. S. Patent5,688,651参照。各々の全内容は参照により本明細書に組み込まれる。抗体を、能動的ワクチン接種または受動的ワクチン接種により可溶性アミロイドもしくは凝集されたアミロイドと接触させることができる。能動的ワクチン接種においては、可溶性アミロイドおよび/または凝集したアミロイドに結合する抗体をin vivoで高めるために、全体アミロイドペプチドまたはその一部であることができるペプチドが投与される。受動的ワクチン接種は、アミロイドペプチドに特異的な抗体を直接投与することを含む。これらの方法は、アミロイドプラークを減少させるかまたはこのようなプラークの沈着速度を遅くすることによりアルツハイマー病の処置のために好ましくは使用される。
【0020】
このような方法を試験するためのワクチンの臨床試験がElan CorporationおよびWyeth-Ayerst Laboratoriesにより着手されたことが報告された。試験されている化合物は、AN−1792であった。この製品は、βアミロイド42の形態であることが報告されている。
【0021】
本明細書における任意の文献の引用は、このような文献が適切な先行技術であるという承認または本願の特許請求の範囲の特許性に重要であると考えられることの承認であることを意図しない。任意の文献の内容または日付に関する任意の陳述は、出願時点で本出願人に入手可能な情報に基づいておりそしてこのような陳述の正しさに関する承認を構成しない。
【0022】
発明の要約
本発明は、プロテインAまたは抗体のFc部分に結合することができるそのフラグメントもしくは変異体を非ネイティブな繊維状バクテリオファージ分子としてその表面にディスプレイする繊維状バクテリオファージ、ならびにプロテインAまたはそのフラグメントもしくは変異体に抗体のFc部分により結合した抗体または抗原−抗体免疫複合体、を含有するファージディスプレイビヒクルを提供する。
【0023】
本発明は、治療剤または診断剤として使用するための本発明のファージディスプレイビヒクルを含有する医薬組成物も提供する。
【0024】
脳の疾患、障害または状態を処置/抑制することまたは診断することを必要としている被検体に本発明のファージディスプレイビヒクルを鼻腔内に投与することにより、脳の疾患、障害または状態を処置/抑制するためまたは診断するための方法が本発明により更に提供される。
【0025】
発明の詳細な説明
繊維状バクテリオファージは、鼻腔内に投与されるとき脳を透過することを可能とする線形構造を有する。それらはそれらのコートタンパク質上に選別されたタンパク質またはペプチドを提示するように工学的に作成されうるので、それらを使用して抗体または分子(それらの特異的抗体との免疫複合体の形態にある)を哺乳動物被検体の脳に送達することができる。P3は、ファージがバクテリアEscherichia coliにそれを通って侵入するファージコートの先端の1つをアセンブリする構造タンパク質である。
【0026】
本発明の1つの局面は、プロテインAまたは抗体のFc部分に結合することができるそのフラグメントもしくは変異体を非ネイテイブな繊維状バクテリオファージ分子として その表面にディスプレイする繊維状バクテリオファージを含み、そして更にプロテインAまたはそのフラグメントもしくは変異体にそのFc部分により結合した抗体または抗原−抗体免疫複合体を含む、ファージディスプレイビヒクルに関する。好ましい態様では、繊維状バクテリオファージは、薬物にリンカーを介してまたは直接にコンジュゲーションされておらず、そして抗体または抗原−抗体免疫複合体も固体担体上に固定化されていない。他の好ましい態様では、繊維状バクテリオファージ上にディスプレイされたプロテインAまたはそのフラグメントもしくは変異体に結合した抗体は、細胞表面上にターゲツトとして提示されていない分子に対して特異的でありそして抗体は固体担体上に固定化されていない。
【0027】
本発明者の研究所では、構造的レベルおよび遺伝子レベルでよく理解されている繊維状ファージM13、f1およびfd(Greenwood et al., 1991)が使用された。この研究所は、繊維状バクテリオファージが、ベクターの不活性および外来分子を担持する能力を保存しながら、中枢神経系への透過性を示すことを最初に示した(Frenkel and Solomon, 2002)。
【0028】
繊維状バクテリオファージは、環状一本鎖DNAゲノムを含有する構造的に関連したウイルスのグループである。それらは、生産的感染期間中それらのホストを殺さない。Fプラスミドを含有するEscherichia coliに感染するファージは、まとめてFfバクテリオファージと呼ばれる。それらは哺乳動物細胞を殺さない。
【0029】
繊維状バクテリオファージは、DNAコアを取り囲んでいるタンパク質サブユニットのヘリカルシェルを有する、約1〜2ミクロン長さおよび直径6nmの柔軟性ロッドである。2つの主コートタンパク質、タンパク質pIIIおよび主要コートタンパク質pVIIIは、ディスプレイされたタンパク質のコピーの数において異なる。pIIIは4〜5コピーにおいて提示されるが、pVIIIは〜3000コピーにおいて見出される。約50残基の主要コートタンパク質pVIIIサブユニットは、主としてαヘリカルでありそしてαヘリックスの軸は、ビリオンの軸と小さな角をなす。タンパク質シェルは、3つの区域:取り囲んでいる溶媒と相互作用しそして低等電点をビリオンに与える酸性残基に富んだサブユニットのN末端領域により占められた外側表面;タンパク質サブユニットが主としてお互いに相互作用する極性側鎖の19残基ストレッチを含むシェルの内側;およびDNAコアと相互作用する塩基性残基に富んだサブユニットのC末端領域により占められた内側表面;とみなされる。実質的にすべてのタンパク質側鎖相互作用は、サブユニット内よりはむしろコートタンパク質アレイにおける異なるサブユニット間にあるという事実は、これを高分子アセンブリにおけるαヘリカルサブユニット間の相互作用の研究のための有用なモデルシステムとする。繊維状バクテリオファージは約16.3MDの質量を有しているが、その独特の構造は、脳へのその透過を可能とし、そして、ファージ構造はアミロイドフィブリルそれ自体に似ているので、βAフィブリル化を妨害するその能力に寄与することができる。
【0030】
繊維状バクテリオファージは、M13、f1またはfdなどの任意の繊維状バクテリオファージであることができる。M13は下記の実施例で使用されたけれども、任意の他の繊維状バクテリオファージが、同様な方式で機能しそして挙動することが予想される。何故ならば、それらは同様な構造を有しておりそしてそれらのゲノムは95%より高いゲノム同一性を有するからである。
【0031】
本発明に従うファージディスプレイビヒクルにおいて、プロテインAまたはそのフラグメントもしくは変異体は、繊維状バクテリオファージの表面にディスプレイされる。このファージディスプレイは、ファージコートタンパク質との融合タンパク質としてプロテインAまたはそのフラグメントもしくは変異体のcDNAクローンの発現を伴う。従って、繊維状バクテリオファージゲノムは、その表面に非ネイティブポリペプチドをディスプレイするように遺伝子的に改変される。ファージコートタンパク質との融合としての外来タンパク質またはペプチドをディスプレイする繊維状バクテリオファージは当技術分野で周知である。M13タンパク質III、M13タンパク質VIII、M13タンパク質VI、M13タンパク質VI、M13タンパク質IX、およびfd少量コートタンパク質pIIIを含むがそれらに限定されない種々のファージおよびコートタンパク質を使用することができる(Saggio et al., 1995; Uppala and Koivunen, 2000)。ベクターの大きなアレイが入手可能である(Kay et al., 1996; Berdichevsky et al., 1999; and Benhar, 2001)。好ましい態様では、プロテインAまたはそのフラグメントもしくは変異体は、繊維状ファージの少ないコートタンパク質(タンパク質III)へのその融合によりディスプレイされる。ファージ遺伝子に外来コード配列を挿入するための方法は周知である(例えば、Sambrook et al., 1989; and Brent et al., 2003)。
【0032】
Staphylococcus aureusのプロテインAは周知であり、そして抗体のFc部分に結合するために当技術分野でよく使用される。結合ドメイン(1つまたは複数)を含有するタンパク質のフラグメントも当技術分野でよく認識されている。抗体(免疫グロブリン)のFc部分への改良された結合(または異なるIgクラスおよびサブクラスからのFcへのディファレンシャルな結合)を有するプロテインAの変異体に関する多数の知見もある。好ましくはプロテインAまたはそのフラグメントもしくは変異体に結合される抗体はIgGクラスである。プロテインA変異体の最も好ましい態様は、配列番号4のアミノ酸配列を有する変異体である。
【0033】
抗体のFc部分に結合することができるプロテインAまたはそのフラグメントもしくは変異体は、繊維状バクテリオファージの表面にディスプレイされて脳への送達のために抗体または抗原−抗体免疫複合体に結合する。
【0034】
本発明は、脳にファージ送達ビヒクルを導入することにより脳の疾患、障害または状態(condition)を抑制または処理するための方法を提供する。更に本方法は、検出されうる、即ち標識されうるファージディスプレイビヒクルを脳に導入することにより脳の疾患、障害または状態を診断するための方法を提供する。本方法は、有効量の本発明のファージディスプレイヒビクルを、導入/投与することを必要としている被検体に導入/投与することを含む。
【0035】
本明細書および特許請求の範囲の目的で、用語「患者」、「被検体」および「レシピエント」は相互交換可能に使用される。それらは、予防処置もしくは治療処置または診断の目的であるヒトおよび他の哺乳動物を含む。
【0036】
本明細書および特許請求の範囲の目的で、用語「ベータアミロイドペプチド」は、「βアミロイドペプチド」、「アミロイドβペプチド」、「βAP」、「βA」および「Aβ」と同義である。これらの用語のすべては、アミロイド前駆体タンパク質に由来するプラーク形成ペプチドを指す。好ましい態様では、ファージ表面にディスプレイされたプロテインA(またはそのフラグメントもしくは変異体)に結合した抗体は、アミロイドβペプチドに対して特異的である(特異的に結合する)。アミロイドβペプチドは、好ましくはAβ1−42またはAβ1−40である。
【0037】
本明細書で使用された、「PrPタンパク質」、「Prp」、「プリオン」は、適当な条件下に、プラーク形成疾患の原因となる凝集物の形成を誘導することができるポリペプチドを指す。例えば、正常な細胞プリオンタンパク質(PrPC)は、このような条件下で、ウシ海綿状脳症(BSE)、または狂犬病、ネコのネコ海綿状脳症、クールー病、クロイツフェルト−ヤコブ病(CJD)、ゲルストマン−ストロイスラー−シャインカー病(GSS)および致死的家族性不眠症(FFI)などの(それらに限定されない)プラーク形成疾患の原因となる対応するスクラピーアイソフォーム(PrPSc)に転換される。他の好ましい態様では、抗体は病原性PrPScアイソフォームに対して特異的である。
【0038】
用語「処置する」は、疾患、障害または状態の進行を実質的に抑制すること、遅くすることまたは逆転させること、疾患、障害または状態の臨床的症候を実質的に改善することまたは、疾患、障害または状態の臨床的症候の出現を実質的に予防することを意味することを意図する。
【0039】
本発明のファージ送達ビヒクルおよび方法は、脳の疾患、障害または状態を指向する。好ましくは、脳の疾患、障害または状態は「プラーク形成疾患」である。
【0040】
用語「プラーク形成疾患」は、早期発症アルツハイマー病(AD)、後期発症アルツハイマー病、前兆アルツハイマー病、SAAアミロイドーシス、遺伝性アイスランド症候群、老衰、多発性ミエローマならびに例えば、クールー病、クロイツフェルト−ヤコブ病(CJD)、ゲルストマン−ストロイスラー−シャインカー病(GSS)および致死的家族性不眠症(FFI)などの(それらに限定されない)ヒトを冒すことが知られているプリオン病および例えば、スクラピーおよびウシ海綿状脳症(BSE)などの動物を冒すことが知られているプリオン病などの(それらに限定されない)疾患における、βアミロイド、血清アミロイドA、シスタチンC、IgGκ軽鎖またはプリオンタンパク質などの(それらに限定されない)凝集性タンパク質(プラーク形成ペプチド)によるプラークの形成により特徴付けられた疾患を指す。
【0041】
前記したプラーク形成疾患と関連したアミロイドプラーク(アミロイド沈着物としても知られている)の大部分は、脳内に位置しているので、任意の提唱された処置様式は、血液脳関門(BBB)を横切る能力およびアミロイドプラークを溶解する能力を示さなければならない。普通は、BBBを通過することができる分子の平均サイズは約2kDaである。
【0042】
増加する数の証拠は、中枢嗅覚経路における嗅覚欠失および変性的変化は、ADの臨床的経過において早期に影響されることを示す。更に、ADに関与した解剖学的パターンは、嗅覚経路がADの進展における初期の段階でありうることを示唆する。
【0043】
嗅覚レセプターニューロンは、鼻腔の上皮ライニングにある二極性細胞である。それらの軸索は、篩状プレート(cribriform plate)を横断しそして脳の嗅球における嗅覚経路の第1シナプスに突き出す。鼻上皮からの嗅覚ニューロンの軸索は1000のミエリンのない繊維の束を形成する。この構成は、それらを、ウイルスまたは他の輸送された物質が血液脳関門(BBB)を横切ってCNSにアクセスすることができるハイウエイとする。
【0044】
前に示されたとおり、鼻腔内投与(Mathison et al, 1998; Chou et al, 1997; Draghia et al, 1995)は、脳脊髄液(CSF)またはCNSへのウイルスおよび高分子の直接侵入を可能とする。
【0045】
脳へのアデノウイルスベクターのための送達点として嗅覚レセプターニューロンの使用は、文献に報告されている。この方法は、報告によれば、見かけの毒性なしに12日間脳におけるレポーター遺伝子の発現を引き起こす(Draghia et al, 1995)。
【0046】
抗体または免疫複合体の直接脳送達は、脳への輸送体として嗅覚ニューロンを使用することによりBBBを横切ることを克服する。嗅覚上皮において、一次嗅覚ニューロンの樹状細胞は、鼻内腔と接触しており、そしてこれらのニューロンは、軸索を介して脳の嗅球にも接続されている。嗅覚上皮と接触しているファージは、一次嗅覚ニューロンに取り込まれることができ、嗅球に輸送されることができ、そして脳の他の区域にすら輸送されうる。
【0047】
脳腫瘍および脳炎症性疾患、障害または状態も、本発明に従う処置され/抑制されまたは診断される脳の疾患、障害または状態に含まれる。脳炎症は、インタクトな海馬形成における新しいニューロンの基礎的な連続的形成および脳発作に応答して増加した神経組織発生(neurogenesis)の両方において神経組織発生の抑制を引き起こす。神経組織発生の悪化(impairment)は、取り囲んでいる組織に損傷があるかないかにかかわらず、ミクログリア活性化の程度に依存する。脳炎症は、多分、パーキンソン病、リューイ小体痴呆(Lewy Body Dementia)、AIDS痴呆コンプレツクス、外傷性脳損傷、緑内障等のようなAβP病理学的効果を含む、ADのほかの他の慢性神経変性障害の病原において多分重要な役割を演じる。
【0048】
外傷性脳損傷(TBI)は、βアミロイド沈着および痴呆の早期発症を含む。このような記述にもかかわらず、これらの変化が起こる機構に関しては殆ど知られていない。TBIにおけるβアミロイドペプチドの発生について提唱された1つのソースは、外傷により損傷された軸索内の悪化した軸索原形質輸送の部位に蓄積することが示されたβアミロイド前駆体タンパク質(APP)の異常なタンパク分解開裂である。事実、βA免疫反応性は、TBIのブタモデルにおける膨潤した軸索と共に最近見出され(Smith et al., 1999)、これは、外傷的に損傷された軸索におけるAPPの蓄積がTBIにおけるβアミロイドペプチド形成のためのソースでありうることを示唆する。
【0049】
神経変性疾患および障害の非限定的例は、アルツハイマー病(AD)、パーキンソン病、リューイ小体痴呆、AIDS痴呆コンプレツクス、発作、並びに閉鎖性頭部損傷および外傷性脳損傷、例えば、弾丸傷、出血発作(hemorrhagic stroke)、虚血性発作、脳虚血、毒素、毒物、化学(細菌戦)剤、などの神経損傷剤により引き起こされる損傷または腫瘍切除などの外科手術により引き起こされる損傷を含む。
【0050】
好ましい態様では、ファージディスプレイされたプロテインA(またはそのフラグメントもしくは変異体)に結合した抗体は、アミロイドβペプチドおよびPrPScなどの、脳の疾患、障害または状態と関連したターゲット分子に対して特異的なモノクローナル抗体である。抗体は、発作、脳損傷または他の神経変性疾患もしくは障害の結果としての脳炎症を抑制/処置するための、TNFα、IL6等などの脳における炎症性サイトカインに対する抗体であることもできる。脳の疾患、障害または状態として脳腫瘍を診断するための方法の場合に、抗体は、脳腫瘍に特徴的なターゲット分子に対して特異的でありそしてその存在は特定の脳腫瘍の診断となる。
【0051】
あるいは、抗体のFc部分により抗原−抗体免疫複合体に結合したプロテインA(またはそのフラグメントもしくは変異体)をディスプレイするファージ送達ビヒクルは、脳に免疫複合体を送達するために使用されうる。免疫複合体における抗体により結合された抗原は、脳の疾患、障害または状態を処置することができる分子である。抗体により結合された抗原の非限定的例は、インスリン、ニューロン損傷および細胞死を減少させることができるエリスロポエチン(EPO)、インターフェロンおよび他の抗炎症性サイトカイン、例えばIL10、および血液脳関門を通過しないニューロン保護分子を含む。
【0052】
本発明に従う脳の疾患、障害または状態を診断するための方法は、本発明のファージディスプレイビヒクルを鼻腔内に投与することを必要としている被検体に、本発明のファージディスプレイビヒクルを鼻腔内に投与することを含む。その抗体成分を有するファージディスプレイビヒクルが、脳の疾患、障害または状態と関連したターゲットに結合されると、脳の疾患、障害または状態の存在が検出される。繊維状バクテリオファージの表面にディスプレイされたプロテインA(または抗体のFc部分に結合することができるそのフラグメントもしくは変異体)に結合した抗体は、検出可能に標識されうる。
【0053】
標識される抗体は、好ましくは脳腫瘍に対する治療または診断放射線像形成において使用するために放射能標識される。標識のための放射性核種の非限定的例は、111In、125I、131Iおよび99mTcを含む。好ましくは放射性ヨウ素化抗体である放射能標識された抗体は、ペプチドおよびタンパク質を放射能標識するための標準方法により調製され、次いで繊維状バクテリオファージの表面にディスプレイされたプロテインA(またはそのフラグメントもしくは変異体)に結合させられる。
【0054】
他の適当な検出可能な標識は、エンハンスドダイナミックMRI(enhanced dynamic MRI)のための好ましい試薬であるガドリニウム(Gd)などの造影剤および重元素(例えば、Pt、AuおよびTl)の有機または無機化合物を含む。
【0055】
本発明に従う医薬製剤は、有効成分として、本発明のファージディスプレイビヒクルを含む。医薬製剤は、異なる繊維状バクテリオファージからのファージディスプレイビヒクルの混合物であることもできる。
【0056】
本発明に従う製剤は、生物それ自体に投与されうるかまたはそれが適当な担体もしくは賦形剤と混合されている医薬組成物において投与されうる。
【0057】
本明細書で使用された「医薬組成物」は、生理学的に適当な担体および賦形剤などの他の化学成分と本明細書に記載の1つ以上の有効成分の製剤を指す。医薬組成物の目的は、生物への化合物の投与を容易にすることである。
【0058】
用語「有効成分」は、生物学的効果の原因となる製剤を指す。診断用途に使用するための医薬組成物の状況において、用語「有効成分」は、脳の疾患、障害または状態と関連した分子をターゲティングする抗体であることを意図する。
【0059】
以後、相互交換可能に使用されうる語句「生理学的に許容されうる担体」および「薬学的に許容されうる担体」は、生物に対する有意な刺激を引き起こさずそして投与された化合物の生物学的活性および性質を妨げない担体または希釈剤を指す。
【0060】
用語「賦形剤」は、有効成分の投与を更に容易にするために医薬組成物に加えられた不活性物質を指す。賦形剤の非限定的例は、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、種々の糖および種々のタイプのデンプン、セルロース誘導体、ゼラチン、植物油およびポリエチレングリコールを含む。
【0061】
薬物の処方および投与のための技術は、"Remington's Pharmaceutical Sciences," Mack Publishing Co., Easton, PA, latest editionにおいて見出され得、これは参照により本明細書に組み込まれる。
【0062】
本発明の医薬組成物は、当技術分野で周知の方法、例えば、慣用の混合、溶解、顆粒化、糖剤製造(dragee-making)、研和、乳化、カプセル化、エントラッピングまたは凍結乾燥によって製造されうる。
【0063】
従って、本発明に従って使用するための医薬組成物は、薬学的に使用されうる製剤への有効成分の加工を容易にする、賦形剤または佐剤を含む1つ以上の生理学的に
許容されうる担体を使用して慣用の方式で処方されうる。
【0064】
鼻吸入による投与のために、本発明に従って使用するための有効成分を、適当な推進剤、例えば、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロ−テトラフルオロエタンまたは二酸化炭素、の使用により加圧されたパックまたはネブライザーからのエアゾル噴霧組成物の形態で便利に送達される。吸入スプレーにおけるように加圧されたパックまたはネブライザーを必要としない鼻中スプレーが替わりに鼻腔内投与のために使用されうる。加圧されたエアゾルの場合に、投薬単位は、弁を設けて計量された量を送達することにより決定されうる。化合物と適当な粉末基剤、例えばラクトースまたはデンプンの粉末混合物を含有する、ディスペンサーにおいて使用するための例えばゼラチンのカプセル剤およびカートリッジ剤が処方されうる。
【0065】
本発明の状況において使用するために適当な医薬組成物は、有効成分が意図した目的を達成するのに有効な量において含有される組成物を含む。更に詳しくは、治療的有効量は、疾患、障害または状態の症状を予防、軽減または改善するのにまたは処置さされるべき被検体の生存を延長するのに有効な有効成分の量を意味する。
【0066】
治療的もしくは診断的有効量の決定は、特に、本明細書に与えられた詳細な開示に照らして、当業者の能力の十分に範囲内にある。
【0067】
投薬量および間隔は、特定の脳疾患、障害または状態を処置または診断するのに十分なファージディスプレイビヒクルの脳レベル(最少有効濃度、MEC)を与えるように個々に調節されうる。MECは、各製剤について変わるであろうが、in−vitroデータから評価されうる。MECを達成するのに必要な投薬量は個々の特徴に依存するであろう。
【0068】
投薬間隔は、MEC値を使用して決定することもできる。製剤は、間隔時間の10〜90%、好ましくは30〜90%、最も好ましくは50〜90%の間MECより高い脳レベルを維持する方式を使用して投与されるべきである。
【0069】
処置されるべき状態の重篤さおよび応答性に依存して、投薬は、数日もしくは数週間続くまたは治癒が達成されるまでもしくは疾患状態の減退が達成されるまで続く処置のクール(cource)で、1回または複数回の投与であることができる。
【0070】
投与されるべき組成物の量は、もちろん、処置もしくは診断されるべき被検体、苦痛の重篤さ、処方する医師の判断等に依存するであろう。
【0071】
本発明の組成物は、所望により、有効成分を含有する1つ以上の単位剤形を含有することができるパックまたはディスペンサー装置、例えばFDAで認可されたキットにおいて提供されうる。パックは、例えば、金属もしくはプラスチックフォイル、例えばブリスターパックを含むことができる。パックまたはディスペンサー装置は、投与のためのインストラクションを伴うことができる。パックまたはディスペンサーは、医薬の製造、使用または販売を規制する政府機関により規制された形態にある容器と関連した通達により適応させることができ、該通達は、組成物またはヒトもしくは獣医学的投与の形態について政府機関による認可の反映である。このような通達は、例えば、処方箋薬物についてU.S,Food and Drug Administrationにより認可されたラベリングまたは認可された製品インサート(product insert)であることができる。適合性薬学的担体において処方された本発明の製剤を含む組成物を調製し、適当な容器中に入れ、そしてさらに上記したとおり、指示された状態の処置についてラベリングすることができる。
【0072】
今や本発明を一般的に説明してきたが、本発明は、説明として与えられそして本発明の限定であることを意図しない下記の実施例を参照することにより容易に理解されるであろう。
【0073】
実施例
P3上にプロテインAの変異体をディスプレイする繊維状ファージをこの研究において構築した。以前の研究はこの基本的なアイデアを使用したが、異なる方法で使用した:即ち、Li et al. (1998)は、scFv分子に融合したプロテインAのBドメインをディスプレイするファージを使用した。Djojonegoro et al. (1994)は、M13ファージ上にディスプレイされたプロテインAのBドメインのみを使用し、そしてSampath et al.(1997)は、Bドメインを使用して、繊維状ファージをクローニングツールとして使用することができることを示した。すべてのこれらの以前の研究は、プロテインAIgG結合ドメインをヒトIgGsに結合させることにより、ファージディスプレイ技術を使用してファージ上にディスプレイされたプロテインAの改良された形体の容易な選択を可能とした。この研究において下記に示した実験は、プロテインA変異体をディスプレイするファージが主としてIgG1型のマウス抗体およびそれらのリガンドに結合することを示す。これらの複合体は、鼻腔内適用によりhAPPtgマウスに投与された。それらは、マウス脳に入りそして下記で講じる効果を奏した。
【0074】
物質および方法
プロテインA変異体の合成
使用されたプロテインAの一部は、ドメインBを含む4つの反復ドメインを含有する。2つのプライマー:ATGコドンおよびNcoI制限部位を有するフォワードプライマーおよび停止コドンを持たずそしてNotI制限部位を有するリバースプライマーを合成した(図1A)。下記のプロトコールを使用してPCRを行った:Staphylococcus aureusのゲノムDNA2μgを、Qiagen Taqポリメラーゼの1×バッファー中の各プライマー20μMと一緒にした。dNTPs(0.2mM)およびポリメラーゼ2.5単位を100μl反応容積に加えた PCR条件は:94℃での3分間の初期変性、次いで94℃での30秒間の変性30サイクル、55℃で1分間のアニーリングおよび72℃で1分間の重合であった。PCR産物をNcoIおよびNotIで消化し、ゲル精製しそして、NcoIおよびNotIで前もって線状化されたベクターpCANTAB 5Eにクローニングした。このベクターにおけるプロテインA遺伝子のこの部分のクローニングは、繊維状ファージ(M13)の遺伝子3とのプロテインAの翻訳融合を発生させた。ヘルパーファージを使用して、ファージProtAと命名されたプロテインA−P3融合物をディスプレイするファージを産生した。
【0075】
ELISA
異なるIgG抗体へのファージプロテインAの結合を、ELISAにより測定した:プロテインAをディスプレイする1011ファージを、0.1Mリン酸ナトリウム、pH8.5中の抗体10μg(15ナノモル)と混合した。混合物を37℃で30分間穏やかに振とうさせ、次いで50μlアリクォートを、ウサギ抗ファージ抗体で前もってコーティングされそして3%ミルクでブロックされたELISAウェルに四重で(in tetraplicates)加えた。ヤギ抗マウス−HRPコンジュゲーションされた抗体を二次抗体として使用した。HRP反応をOPDおよびペルオキシドで行った。結果を492nmでのODとして示す。
【0076】
抗原結合後のファージ−プロテインA−抗体複合体の安定性を下記の方法によりチェックした:プロテインAをディスプレイする1011ファージを、0.1Mリン酸ナトリウム、pH8.5中の抗体10μg(15ナノモル)と混合した。混合物を37℃で30分間穏やかに振とうさせ、そしてついで抗原(0.32ナノモルのビオチニル化Aβ1−16)を、抗体に有利に50:1のモル比で、ファージ−プロテインAと抗体の混合物に更に30分間加えた。アリクォート(50μl)をウサギ抗ファージ抗体で前もってコーティングされそして3%ミルクでブロックされたELISAウェルに四重で加えた。アビジン−HRPコンジュゲートを使用してELISAプレートに結合した複合体を検出した。まだ抗原に結合しているファージ−抗体複合体のみがアビジン−HRPコンジュゲートと反応するであろう。1:1000の希釈率でこれらの実験で使用された血清は、ERFHエピトープに対する力価を有するマウスから抜き取られた。
【0077】
異なる量の抗体に結合するのに必要なファージの数を力価測定するために、プロテインAへの最善の結合能力を示した抗体196を使用して、3つの異なる濃度で(50、100および250ng/ウェル)ELISAプレートをコーティングし、次いで3%ミルクでウェルをブロックした。異なる濃度(109/ml~1012/ml)におけるファージ−プロテインAを加えそして結合したファージをウサギ抗ファージ抗体およびヤギ抗ウサギ−HRP抗体により検出した。
【0078】
ファージ−プロテインAへの抗体−抗原複合体の結合を下記のとおりに力価測定した: 109/ml〜1012/mlのファージを、2つの別々の濃度の抗体2H3、10ngまたは50ngおよび1:2モル比の抗体:抗原(抗体分子に対して2つの抗原分子)と一緒にした。混合物を、37℃で30分間穏やかに振とうさせ、そしてウサギ抗ファージ抗体で前もってコーティングされそしてPBS中の3%ミルクでコーティングされたELISAウェルに加えた。結合したファージの検出は、ビオチニル化抗原にのみ結合することができるアビジン−HRPコンジュゲートでなされた。
【0079】
ファージ−プロテイン抗体複合体のPEG沈殿がそれらの解離を引き起こすか起こさないかもチェックした:ELISAウェルを20μg/mlアビジンで40℃で一夜コーティングし、次いで1μg/mlビオチニル化Aβ1−16ペプチドで室温にて30分間コーティングした。ウェルをPBS中の3%ミルクでブロックした。1012ファージを、0.1M Na2HPO41ml中の1μgまたは5μgの抗体196と一緒にし、そして37℃で1時間穏やかに振とうさせた。混合物の半分をPEG−NaClを使用して沈澱させ、次いで前と同じく0.1M Na2HPO4 500μl中に再懸濁させ、そして他の半分を沈殿させないで使用した。両混合物を前に述べたELISAプレートに37℃で1時間適用した(50μl混合物/ウェル)。結合したファージの検出をマウス抗ファージおよびヤギ抗マウス−HRPコンジュゲートにより行った。
【0080】
ファージプロテインAは、抗インスリンIgGとの複合体を発生することについてもチェックされた。ファージプロテインA(1012/ml)を異なる濃度の抗インスリン抗体と一緒にしそして37℃で30分間穏やかに振とうさせた。複合体をPEG沈澱させ、次いで0.25mg/mlインスリンで4℃で一夜コーティングされたELISAプレートに適用した。結合したファージを、マウス抗ファージおよびヤギ抗マウス抗体によりまたはヤギ抗マウスのみで検出した。この第2の検出法は、抗インスリン抗体がファージプロテインAとともに複合体において実際に存在することを証明するために使用された。
【0081】
in vivo研究
9か月齢PDAPPマウスに、ファージ−プロテインA複合体(Ab196とのまたは抗インスリンAb+インスリンとの)を2週間毎に(4回の処置)、次いで次の6回の処置について1か月毎に、合計10回の処置のために与えた。複合体を、2つの鼻孔により分けて20マイクリットルを鼻腔内適用により与えた。処置の終りに、マウスを安楽死させそして殺した。各マウスからの左脳半球を液体窒素中で凍結させた。各半球をホモジナイズしそして可溶性画分と不溶性画分に分けた。不溶性画分を後でグアニジン−HClで可溶化した。両画分を分析されるまで凍結して保った。βアミロイド1−42は、捕捉抗体およびAβ1−42に対して特異的な検出抗体を使用して、サンドイッチELISAにより行った。サイトカインレベルの決定は、IL1βまたはIL10(R&Dシステム)のための特異的キットにより行った。
【0082】
結果および討論
プロテインA変異体を図1Aに示されたプライマーを使用して合成した。PCR産物を配列決定してその完全性(integrity)を証明し、次いでpCANTAB5Eにクローニングした。ファージのpIIIに融合したプロテインA変異体を発現するファージを産生しそしてELISAにおいて使用した。
【0083】
プロテインA変異体をディスプレイするするファージは主としてIgG1抗体に結合する。
protAファージを、IgGタイプ抗体へのそれらの結合についてELISAによりチェックした。
図2において15ナノモルの異なる抗体への1011ファージ粒子の結合が示される。
【0084】
ファージ−protA結合抗体はそれらがその抗原に結合した後ファージから離脱しない。
抗体は、それらがその抗原への結合の後ファージから解離するかしないかについてチェックされた。抗原として、βアミロイドペプチドのN末端からのアミノ酸残基1−16のビオチニル化ペプチドを使用した。この実験の結果は、図2に要約される。この実験について、プロテインAをディスプレイする1011ファージを、0.1M リン酸ナトリウム、pH8.5中の10μg(15ナノモル)の抗体と混合した。混合物を、37℃で30分間振とうし、次いで抗体に有利に50:1のモル比の抗原(0.32モルのビオチニル化Aβ1−16)を、追加の30分間ファージ−プロテインAと抗体の混合物に加えた。複合体を、ウサギ抗ファージ抗体で前もってコーティングされそして3%ミルクでブロツクされたELISAウェルに加えた。コンジュゲーションされたアビジン−HRPを使用して、ELISAプレートに結合した複合体を検出した。抗原の結合後まだ結合しているファージ−抗体複合体のみがアビジン−HRPコンジュゲートと反応するであろう。これらの実験で使用された血清はERFHエピトープに対する力価を有するマウスから抜き取られた。
【0085】
図3は、プロテインAが結合した抗体が、それらが認識する抗原に結合するとき、それらはプロテインAから離脱しないことを示す。プレートに結合したファージ−プロテインAから離脱する抗体−抗原複合体は、洗浄除去されそしてアビジン−HPRと反応しないであろう。図2に示されたとおり、12B4はファージ−プロテインAに弱く結合した。それはペプチド1−16に結合しないので、ここでは反応せず、そして他のネガティブコントロールとして使用された。結合結果は、ELISAプレートがpH6.0のPBSバッファーで洗浄されるとき、変化しなかった。より低いpHは、ファージ−ProtAからの抗体−抗原複合体の解離を引き起こさなかった。
【0086】
mAb196へのプロテインAの結合の力価測定
異なる量の抗体に結合するのに必要なファージの数は、結合が特異的であることを証明するために力価測定された。この実験において、プロテインAへの最善の結合能力を示した抗体196を使用して3つの異なる濃度でELISAプレートをコーティングし、次いで3%ミルクでウェルをブロックした。異なる濃度のファージ−プロテインAを加えそして結合したファージをウサギ抗ファージ抗体により検出した(図4)。図4から、抗体196へのファージ−プロテインAの結合は特異的であることは明らかであり;それはファージ数および抗体濃度の関数として高められる。この実験セッティングにおいて、飽和した結合は観察されなかた。プロテインAをディスプレイするファージの数を評価するために、ELISAウェルを高められたファージ濃度でコーティングしそして抗ファージ抗体と反応させた(示されていない)。この分析と図4に示された以前の分析を492におけるODを比較することにより、ファージの約30%〜36%がプロテインAをディスプレイすることが決定され得た。
【0087】
ある量のファージ(結合される抗原の量も示すであろう)に結合するのに必要な抗体の量を決定するために、高められた数のファージを2つの別々の濃度の抗体(2H3)と一緒にしそして抗体:抗原のモル比を1:2とした(各抗体分子について2つの抗原分子)他の実験を行った(図5A)。混合物を、前もってウサギ抗ファージ抗体でコーティングさされそしてPBS中の3%ミルクでコーティングされたELISAウェルに加えた。結合したファージの検出を、ビオチニル化抗原にのみ結合することができるアビジン−HRPコンジュゲートにより行った。
【0088】
各抗体濃度に対する結合について観察された値は異なるファージ濃度間であまり異ならないので、結果は「平均の平均」として要約することもできそして図5Bに示されたとおりプロットすることもできる。
【0089】
これらの結果は、抗体濃度がこの実験セッティングにおける限定因子であり、ファージ濃度ではないことを証明する:109/mlファージ−プロテインA(ELISAウェル当たり使用された50μl当たり5×107ファージ)で、約70ピコモルである50ngに結合するのに十分なプロテインA分子があり、そしてそれらは5×ファージ−プロテインA分子を飽和させるのに十分ではない。
【0090】
PEG−NaCl沈澱は、甚だしいファージ−抗体解離を引き起こさなかった
ファージ−タンパク質A−抗体複合体のPEG沈殿がそれらの解離を引き起こすか引き起こさないかもチェックした。ELISAウェルをアビジンおよび1μg/mlビオチニル化1−16ペプチドでコーティングした。ウェルをPBS中の3%ミルクでブロックした。1012ファージを0.1M Na2HPO4中の1μgまたは5μg抗体196と一緒にしそして37℃で1時間穏やかに振とうした。混合物の半分をPEG−NaClを使用して沈澱させ、次いで同じバッファーおよび前と同じ容積において再懸濁させ、そして他の半分を沈殿させないで使用した。両混合物を前に記載されたELISAプレート(50μl混合物/ウェル)に37℃で1時間適用した。結合したファージの検出をマウス抗ファージおよびやぎ抗マウス−HRPコンジュゲートで行った。図6は、PEG沈澱が、ファージプロテインA−抗体複合体の約20%を解離させたことを示す。
【0091】
ファージプロテインAは、抗インスリン抗体とインスリンの免疫複合体に結合する
ファージ−プロテインAを抗インスリンIgGと一緒にしそして複合体を、0.25mg/mlインスリンでコーティングされたELISAプレート上で使用した。複合体をELISAプレートに適用される前にPEG沈澱させた。結合したファージをマウス抗ファージおよびヤギ抗マウス抗体で検出するか(図7A)またはヤギ抗マウスのみで検出した(図7B)。この第2の検出法を使用して抗インスリン抗体が実際にファージプロテインAとの複合体中に存在することを証明した。
【0092】
ファージ−プロテインA(1012/ml)を異なる濃度の抗インスリン抗体と一緒にしそして37℃で30分間穏やかに振とうした。複合体を、ELISAプレートに適用される前にPEG沈澱させた。結合したファージをマウス抗ファージで検出し次いでやぎ抗マウス抗体で検出した。
【0093】
図7Aに示されたのと同様な、しかしヤギ抗マウス抗体のみで検出されたアッセイの結果は、図7Bに示される。
【0094】
要約すると、IgGタイプの抗体に結合することができるプロテインAの変異体をディスプレイする繊維状ファージを発生させた。マウスIgG2aおよびIgG2bに強く結合するStaphylococcus aureusのネイティブなプロテインAとは反対に、このリコンビナントプロテインAは、最も豊富なタイプであるマウスIgG1分子によりよく結合する。これらのファージは、抗体を精製するためにin−vitroで使用することができるか、または例えばある種の抗体を脳に送達するのにin vivoで使用することができる。
【0095】
in vivo研究
ファージ−protA−196
ファージ−protA−196複合体を、物質および方法の節で説明したとおり、PDAPPトランスジェニックマウスに適用した。可溶性画分および不溶性画分(凝集したペプチドおよびグアニジン−HClで可溶化された膜)中のβアミロイドペプチド1−42のレベル、ならびに不溶性画分中のAβ1−40のレベルをチェックした。トランスジェニック非処理コントロールと比較して、可溶性画分中のおよび不溶性画分中のAβ1−42の量の約20%減少が処理されたマウスにおいて観察された。しかしながら、結果は有意ではなかった(図8)。Aβ1−40において、コントロール非処理サマウスに比較してファージ複合体で処理されたマウス間で差は観察されなかった。
【0096】
ファージ−protA−抗インスリン−インスリン
PDAPPマウスをファージ−抗体−インスリン複合体で処理した。図9Aにおいて、不溶性Aβ1−42のレベルのより劇的な差、Tg非処理マウスまたはファージ−196複合体で処理されたマウスと比較して、複合体で処理されたマウスにおける約63%の減少が観察された。ファージのみで処理されたマウスは、Aβ1−42レベルの平均23%減少を伴うにすぎなかった。処理されたマウスにおける可溶性Aβ1−42のレベルの減少は、より劇的ですらありそしてコントロールと比較して80%に達した(図9B)。
【0097】
IL1β、プロ炎症性サイトカインおよびIL10、抗炎症性サイトカインのレベルをチェックした。トランスジェニック非処理マウスにおけるIL1βのレベルは、非トランスジェニックマウスにおけるIL1βのレベルより約36%高かったが(図10A)、これは、この疾患がより高いIL1β濃度で現れる炎症を引き起こすことを意味している。しかしながら、複合体処理されたマウスは、非トランスジェニックマウスにおけるIL1βのレベルと同様なレベルを含有していたが、これは処理されたマウスが脳の炎症を発生しなかったことを示唆する。抗炎症性サイトカイン、IL10の濃度において同じ現象が観察された(図10B)。ここで再び、平均して18%未満のIL10を含有していたトランスジェニックコントロールマウスに比較して、非トランスジェニックマウスおよびトランスジェニック処理マウスにおいてIL10のレベルは同様であった。ファージ−protA−196を受け取ったPDAPPマウスにおけるサイトカインレベルは、処理されたマウスとトランスジェニックコントロール間で差はなことを示した(データは示されていない)。
【0098】
以前の研究は、脳脊髄液区画への物質の直接のアクセスを与えることが知られているインスリン投与の鼻腔内経路により記憶機能に対するインスリンの効果を急激に改善する効果を示唆した(Strachan, 2005)。先の結果は、辺縁および海馬領域におけるインスリンレセプターの普及、ならびに全身系インスリンによる記憶の改善を示す。インスリンをファージと組み合わせて、増加した数のファージが脳に導入されてアミロイドの過酷な負荷(amyloid burden)の有効な減少をもたらすことを証明した。この効果は、脳におけるサイトカインプロフィルの改善を伴う。この蓄積効果は、ファージの抗凝集性+ADの保護的処理としてインスリンを介するより良好な透過を得るのに有効な方法であることができる。
【0099】
今や本発明を完全に記述してきたが、本発明は、本発明の精神および範囲から逸脱することなくかつ過度の実験なしに、広い範囲の同等なパラメーター、濃度および状態の範囲内で同じことが行われうることは、当業者により認められるであろう。
【0100】
本発明は、その特定の態様に関して述べられたが、それは更に改変されうることは理解されるであろう。本願は、一般に、本発明の原理に従う、そして本発明が属する技術分野内の既知の実施または慣用の実施内に入るような、そして特許請求の範囲に示された本質的な特徴に適用されうるような、本発明の開示からの逸脱を含む、本発明の任意の変更、使用または適応を包含することを意図する。
【0101】
引用された文献中に提示されたすべてのデータ、表、図面およびテキストを含む、雑誌論文またはアブストラクト、公開されたもしくは対応するU.S.もしくは外国特許出願、発行されたU.S.特許もしくは外国特許、または任意の他の文献を含む本明細書で引用されたすべての参考文献は、参照により本明細書に完全に組み込まれる。更に、本明細書に引用された参考文献内に引用された参考文献の全体の内容も、参照により完全に組み込まれる。
【0102】
既知の方法の工程、慣用の方法の工程、既知の方法もしくは慣用の方法の参照は、本発明のいかなる局面、説明または態様も、当該技術において開示され、教示されまたは示唆されていることを承認するものでは決してない。
【0103】
特定の態様の前記説明は、本発明の一般的性質を、他の人々が、当技術分野の熟練内の知識(本明細書に引用された参考文献の内容を含む)を適用することにより、過度の実験なしに、本発明の一般的概念から逸脱することなく、このような特定の態様を、種々の用途のために容易に改変および/または適合させることができるように、完全に本発明の一般的性質を明らかにするであろう。したがって、このような適合および改変は、本明細書に提示された教示および手引きに基づいて開示された態様の均等物の意味および範囲内にあることを意図する。本明細書における語句および用語は、説明の目的であって限定の目的ではなく、したがって、本明細書の用語または語句は、当業者の知見と組み合わせて、本明細書に提示された教示および手引きに照らして当業者により解釈されるべきであることは理解されるべきである。
【0104】
【表1】
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1A】プロテインA変異体のPCR合成のために使用された、プライマーProtA−fwd(配列番号1)およびProtA−rev(配列番号2)を示す。図1Bは、プロテインA変異体のヌクレオチド配列(配列番号3)を示す。図1Cは、プロテインA変異体のアミノ酸オープンリーディングフレームを示す(配列番号4)。
【図1B】プロテインA変異体のPCR合成のために使用された、プライマーProtA−fwd(配列番号1)およびProtA−rev(配列番号2)を示す。図1Bは、プロテインA変異体のヌクレオチド配列(配列番号3)を示す。図1Cは、プロテインA変異体のアミノ酸オープンリーディングフレームを示す(配列番号4)。
【図1C】プロテインA変異体のPCR合成のために使用された、プライマーProtA−fwd(配列番号1)およびProtA−rev(配列番号2)を示す。図1Bは、プロテインA変異体のヌクレオチド配列(配列番号3)を示す。図1Cは、プロテインA変異体のアミノ酸オープンリーディングフレームを示す(配列番号4)。
【図2】ファージ−プロテインAがIgG1タイプの抗体(196、10D5、6C6および2H3)に結合することを示すグラフである。それはIgG2a(3D6)にも結合しそしてIgG2b(12B4)にも弱く結合する。
【図3】Aβ1−16に対するファージ−ProtA結合抗体は、一旦それらがAβ1−16に結合するとプロテインAから離脱しないことを示すグラフである。
【図4】mAb196に結合しているファージ−ProtA1の力価測定を示すグラフである。
【図5A】図5Aおよび5Bは2つの別々の濃度の抗体2H3によるファージの力価測定を示すグラフである。
【図5B】図5Aおよび5Bは2つの別々の濃度の抗体2H3によるファージの力価測定を示すグラフである。
【図6】PEG沈殿の後の抗体196からのファージプロテインA解離をチェックするためのELISAの結果を示すグラフである。処理は、1、5μg196と組み合わせたファージ−プロテインAおよびPEG沈殿;2、PEG沈澱なしで1と同じ;3、抗体196のみ−PEG沈澱;4、3における同じであるが、PEG沈殿なし;4、抗体なしかつPEG沈澱なしのファージ−プロテインAのみ。
【図7A】図7Aおよび7Bは、インスリンに対するファージ−PrtA−抗インスリンの結合(図7A)およびヤギ抗マウス抗体で検出されたファージ−PrtA−インスリン−抗インスリン免疫複合体の結合(図7B)を示すグラフである。
【図7B】図7Aおよび7Bは、インスリンに対するファージ−PrtA−抗インスリンの結合(図7A)およびヤギ抗マウス抗体で検出されたファージ−PrtA−インスリン−抗インスリン免疫複合体の結合(図7B)を示すグラフである。
【図8】ファージ複合体で処理されたマウスおよびコントロール非処理マウスにおける可溶性および不溶性Aβ1−42および不溶性Aβ1−40のレベルを比較するグラフである。
【図9A】図9Aおよび9Bは、非処理コントロールマウスと比較したファージ−196複合体で処理されたPDAPPマウスにおける不溶性および可溶性Aβ1−42のレベルを示すグラフである。
【図9B】図9Aおよび9Bは、非処理コントロールマウスと比較したファージ−196複合体で処理されたPDAPPマウスにおける不溶性および可溶性Aβ1−42のレベルを示すグラフである。
【図10A】図10Aおよび10Bは、複合体で処理されたマウスおよび非トランスジェニックマウスおよびトランスジェニックコントロールマウスにおけるIL1βおよびIL10のサイトカインレベルを示すグラフである。
【図10B】図10Aおよび10Bは、複合体で処理されたマウスおよび非トランスジェニックマウスおよびトランスジェニックコントロールマウスにおけるIL1βおよびIL10のサイトカインレベルを示すグラフである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、脳への抗体および免疫複合体の送達のための繊維状バクテリオファージディスプレイビヒクルならびに診断および治療におけるその使用に関する。
【0002】
関連技術の説明
ファージディスプレイ
コンビナトリアルファージディスプレイペプチドライブラリーは、タンパク質:タンパク質相互作用を研究するための効率的な手段を提供する。この技術は、対応する遺伝子的青写真と関連したランダムペプチドの非常に大きいコレクションの産生に頼る(Scott et al, 1990; Dower, 1992; Lane et al, 1993; Cortese et al, 1994; Cortese et al, 1995; Cortese et al, 19956)。ランダムペプチドの提示は、M13、fdおよびf1などの繊維状バクテリオファージの外側表面に発現されたキメラタンパク質を構築することによりしばしば達成される。この提示は、所望の結合性を有するペプチドのアフィニティー単離および同定をもたらす結合アッセイを受けやすいレパートリーおよび特異化されたスクリーニングスキーム(バイオパニングと呼ばれる(Parmley et al, 1988))を作る。この方法において、レセプターに結合するペプチド(Koivunen et al, 1995; Wrighton et al, 1996; Sparks et al, 1994; Rasqualini et al,1996)、酵素に結合するペプチド(Matthews et al, 1993; Schmitz et al, 1996)または抗体に結合するペプチド(Scott et al, 1990; Cwirla et al, 1990; Felici et al, 1991; Juzzago et al, 1993; Hoess et al, 1993; Bonnycastle et al, 1966)は効果的に選ばれた。
【0003】
繊維状バクテリオファージは、Fエピソームを担持するEscherichia coli細胞に感染する非溶菌性雄特異的バクテリオファージである(概説として、Model et al, 1988参照)。繊維状ファージ粒子は、環状一本鎖DNAゲノム(+鎖)を含有する900nm長および10nmの細い管状構造のように見える。ファージのライフサイクルは、バクテリアのF線毛へのファージの結合、次いでホストへの一本鎖DNAゲノムの侵入を含む。環状一本鎖DNAは、ホスト複製装置により認識されそして相補性第2DNA鎖の合成はファージori(−)構造において開始される。二本鎖DNA複製形体は、ori(+)構造で開始する一本鎖DNA環状ファージゲノムの合成のためのテンプレートである。これらは、最終的にビリオンにパッケージされそしてファージ粒子は溶菌またはホストへの見かけの損傷を引き起こさないでバクテリアから押し出される。
【0004】
ペプチドディスプレイシステムは、ファージの2つの構造タンパク質:pIII(P3)タンパク質およびpVIIIタンパク質を利用した。pIIIタンパク質は、ファージ当たり5コピーで存在しそしてビリオンの1つの先端に排他的に見出される(Goldsmith et al, 1977)。pIIIタンパク質のN末端ドメインは、感染プロセスのために必要なノブ様構造を形成する。(Gray et al, 1981)。それは、F線毛の先端へのファージの吸着および次いでバクテリアホスト細胞への一本鎖DNAの透過およびトランスロケーションを可能とする(Holliger et al, 1997)。pIIIタンパク質は、広範な改変を許容することができ、したがってそのN末端にペプチドを発現するのに使用された。外来ペプチドは、65までのアミノ酸残基の長さであったが(Bluthner et al, 1996; Kay et al, 1993)、ある場合には、pIII機能に顕著に影響を与えることなく完全長タンパク質と同じ大きさですらあった(McCafferty et al, 1990; McCafferty et al, 1992)。
【0005】
一本鎖ファージDNAを取り囲んでいる円筒形タンパク質エンベロープは、2700コピーの主要コートタンパク質、pVIII、50アミノ酸残基からなるα−ヘリカルサブユニットからなる。pVIIIタンパク質それ自体は、タンパク質のαヘリックスがビリオンの長軸に対して浅い角度で位置して、ヘリカルパターンで配置されている(Marvin et al, 1994)。このタンパク質の一次構造は、3つの別々のドメイン:(1)酸性アミノ酸に富みそして外側環境に暴露されたN末端部分;(2)(i)ファージ粒子におけるサブユニット:サブユニット相互作用および(ii)ホスト細胞における膜貫通機能の責任を担う中心疎水性ドメイン;および(3)ファージの内部に埋め込まれておりそしてファージDNAと関連しているC末端でクラスター化された塩基性アミノ酸を含有する第3ドメインを含有する。pVIIIは、23アミノ酸リーダーペプチドを含有するプレコートタンパク質として合成され、該リーダーペプチドはバクテリアの内側膜を横切ってトランスロケーションされると開裂されて成熟50残基膜貫通タンパク質を生じさせる(Sugimoto et al, 1977)。ディスプレイスカフォールドとしてのpVIIIの使用は、それがそのN末端に6より長くない残基のペプチドの付加を許容するという事実により妨害される。より大きいインサートはファージアセンブリーを妨害する。しかしながら、より大きいペプチドの導入は、リコンビナントペプチド含有pVIIIタンパク質を野生型pVIIIとin vivo混合することにより、混合モザイクファージが産生されるシステムにおいて可能である(Felicit et al, 1991; Greenwood et al, 1991; Willis et al, 1993) 。これは、ファージ粒子のアセンブリー期間中野生型コートタンパク質を点在させたファージ表面で低密度(粒子につき10〜数100コピー)でキメラpVIIIタンパク質の組み込みを可能とする。モザイクファージ゛の発生を可能とする2つのシステムが使用された:Smith(Smith, 1993)により命名された「タイプ8+8」および「タイプ88」システム。
【0006】
「タイプ8+8」はシステムは、2つの異なる遺伝子単位において別々に位置した2つのpVIII遺伝子を有することに基づいている(Felicit et al, 1991; Greenwood et al, 1991; Willis et al, 1993)。リコンビナントpVIII遺伝子は、ファージミド、即ち、その自身の複製起点に加えて、ファージの複製起点およびパッケージングシグナルを含有するプラスミド上に位置している。野生型pVIIIタンパク質は、ファージミドを抱えるバクテリアにヘルパーファージを重複感染させることにより供給される。更に、ヘルパーファージは、ファージミドおよびヘルパーゲノムの両方をビリオンにパッケージするファージ複製およびアセンブリー装置を与える。したがって、2つのタイプの粒子は、このようなバクテリア、ヘルパーおよびファージミドにより分泌され、その両方がリコンビナントpVIIIタンパク質および野生型pVIIIタンパク質の混合物を組み込んでいる。
【0007】
「タイプ88」システムは、1つのおよび同じ感染性ファージゲノムにおいて2つのpVIII遺伝子を含有することにより恩恵を受ける。したがって、これはヘルパーファージおよび重複感染を不要にする。更にたった1つのタイプのモザイクファージが産生される。
【0008】
ファージゲノムは、10のタンパク質をコードし(PI〜PX)、そのすべては感染性子孫の産生のために必須である(Felicit et al, 1991)。タンパク質のための遺伝子は、2つの非コード領域により分離された2つの堅く詰め込まれた転写単位において構成される(Van Wezenbeek et al, 1980)。「遺伝子間領域」(pIVとpII遺伝子間に位置しているものとして定義された)と呼ばれる1つの非コード領域は、DNA複製の(+)および(−)起点およびカプシド形成の開始を可能とするファージのパッケージングシグナルを含有する。この遺伝子間領域の一部は必須ではない(Kim et al, 1981; Dotto et al, 1984)。更に、この領域は、いくつかの部位で外来DNAの挿入を許容することができことが見出された(Messing, 1983; Moses et al, 1980; Zacher et al, 1980)。ファージの第2非コード領域は、pVIIIとpIII遺伝子間に位置し、そしてPluckthun(Krebber et al, 1995)により例示されたとおり外来リコンビナント遺伝子を組み込むためにも使用された。
【0009】
ファージディスプレイによる免疫化
エピトープからなる低分子合成ペプチドは、ペプチドの化学合成を必要とする一般に不十分な抗原でありそして大きな担体にカップリングされる必要があるが、その場合ですら、それらは低アフィニティー免疫応答を誘導する可能性がある。抗原としてEFRHペプチドのみをディスプレイする繊維状ファージを使用して抗AβP抗体を生じさせるための免疫感作の方法が本発明者の研究所で開発された(Frenkel et al., 2000 and 2001)。繊維状バクテリオファージは、ファージコートタンパク質をコードする遺伝子の5’端部にランダムなオリゴヌクレオチドをクローニングすることにより発生したペプチドの大きなレパートリーのそれらの表面での「ディスプレイ」のために近年広範に使用されている(Scott and Smith, 1990; Scott, 1992)。最近報告されたとおり、繊維状バクテリオファージは、種々の生物学的製剤における外来ペプチドの発現および提示のための優れたビヒクルである(Greenwood et al., 1993; Medynski, 1994)。繊維状ファージの投与は、ファージ効果システムに対する強い免疫学的応答を誘導する(Willis et al., 1993; Meola et al., 1995)。上記したファージコートタンパク質pIIIおよびpVIIIは、ファージディスプレイのためにしばしば使用されてきたタンパク質である。
【0010】
その線状構造により、繊維状ファージは、異なる種類の膜に対する高い透過性を有し(Scott et al., 1990)そして、嗅索に続いて、大脳辺縁系を介して海馬区域に到達して疾患のある部位をターゲティングする。クロロホルムによる繊維状ファージの処理は、線状構造を環状構造に変え、環状構造は脳へのファージの送達を阻止する。
【0011】
抗体エンジニアリング
抗体エンジニアリング法は、mAbsの生物学的活性を維持しながらmAbsのサイズ(135〜900kDa)を最小化するために適用された(Winter et al., 1994)。これらの技術およびPCR技術を適用して大きな抗体遺伝子レパートリーを作り出すことは、抗体ファージディスプレイを一本鎖Fv(scFv)抗体の単離および特徴付けのための多様なツールとする(Hoogenboom et al., 1998)。scFvは更なる操作のためにファージの表面にディスプレイすることができ、または可溶性scFv(〜25kd)フラグメントとして放出されうる。本発明者の研究所は、親IgM分子に類似した抗凝集性を示すscFvを工学的に作成した(Frenkel et al., 2000a)。scFv構築のために、抗AβP IgM 508ハイブリドーマからの抗体遺伝子をクローニングした。分泌された抗体は、AβP分子に対して、培養されたPC12細胞に対するその毒性効果を阻止することにおいて、特異的活性を示した。部位特異的一本鎖Fv抗体は、細胞内または細胞外アプローチを介して脳に治療抗体をターゲティングための第1段階である。
【0012】
プロテインA:
Staphylococcus aureusのプロテインAは、免疫グロブリン、特にIgGクラスのFc部分へのそのアフィニティーにより特徴付けられた細胞壁構成成分である(Goding, 1978)。それはヒト、マウス、ブタ、モルモットおよびウサギのIgG抗体に結合する。マウスにおいては、プロテインAは高いアフィニティーでIgG2aおよびIgG2b抗体に結合するが、IgG1およびIgG3抗体にはあまりよく結合しない(Goudswaard et al., 1978)。プロテインAは、アスパラギン酸およびグルタミン酸に富むかシステインを欠いた4つの反復ドメインを有する42kDaタンパク質である。IgG結合ドメイン(ドメインB)は、3つの逆平行αヘリックスからなり、その第3はこのタンパク質がFcと複合体化されるとき分裂する(disrupted)(Graille et al., 2000)。
【0013】
プラーク形成疾患
プラーク形成疾患は、脳におけるアミロイドプラーク沈着の存在およびニューロン変性により特徴付けられる。アミロイド沈着物は、不溶性塊に凝集したペプチドにより形成される。ペプチドの性質は異なる疾患において変わるが、多くの場合に、凝集物はβひだ状シート構造(beta-pleated sheet structure)を有しそしてコンゴーレッド染料で染まる。早期発症アルツハイマー病、後記発症アルツハイマー病および前兆アルツハイマー病を含むアルツハイマー病(AD)の他に、アミロイド沈着により特徴付けられる他の疾患は、例えば、SAAアミロイドーシス、遺伝性アイスランド症候群、多発性ミエローマおよびプリオン病である。動物において最もよくあるプリオン病は、ヒツジおよびヤギのスクラピーおよびウシ海綿状脳症(BSE)である(Wilesmith and Wells, 1991)。4つのプリオン病:(i)クールー病、(ii)クロイツフェルト−ヤコブ症候群、(iii)ゲルストマン−ストロイスラー−シヤインカー病(Gerstmann-Streussler-Sheinker Disease(GSS)および(iv)致死的家族性不眠症(fatal familial insomnia(FEI)(Gajdusek, 1977; and Tritschler et al. 1992)が同定された。
【0014】
プリオン病は、正常細胞プリオンタンパク質(PrPC)の対応するスクラピーアイソフォーム(scrapie isogorm)(PrPSc)への転換を含む。顕微鏡的測定は、PrPCのスクラピーアイソフォーム(PrPSc)への転換が主要コンフォメーション転移(major conformation transition)を伴うことを示しており、これは、他のアミロイドゲニック病(amyloidogenic diseases)と同様に、プリオン病がタンパク質コンフォメーションの障害であることを示唆している。PrPCからPrPScへの転移は、α−ヘリカル二次構造の減少(42%から30%)およびβシート含有率の顕著な増加(3%から43%)により伴われる(Caughey et al, 1991; and Pan et al, 1993)。この再構成(rearrangement)は、非変性性洗剤中への不溶性およびプロテオリシスに対する部分的抵抗を含む異常な物理化学的性質と関連している。これまでの研究は、ヒトPrPの残基106〜126(Prp106〜126)と相同性の合成ペプチドは、PrPScの病原性および物理化学的性質のいくらかを示すことを示した(Selvaggini et al, 1993; Tagliavini et al, 1993; and Forloni et al, 1993)。このペプチドは、種々の環境において異なる二次構造を獲得する、顕著なコンフォメーション多型を示す(De Gioia et al, 1994)。それは、緩衝化溶液中でβシートコンフォメーションを採る傾向がありそしてプロテアーゼによる消化に対して部分的に抵抗性であるアミロイドフィブリルに凝集する傾向がある。抗体3F4とそのペプチドエピトープ(PrP104〜113)の複合体のX線結晶学的研究は、プリオン病の進展に必須のコンフォメーション再構成(conformational rearrangement)の成分であると考えられるこの柔軟性領域の構造的な見解を示した。(Kanyo et al, 1999)。
【0015】
アルツハイマー病(AD)は、老人性痴呆をもたらす進行性疾患である。広く言えば、この疾患は2つの種類:老齢(典型的には65歳以上)で起こる後期発症および老年期の前、例えば35〜60歳でよく発生する早期発症に属する。両タイプの疾患において、病態は同様であるが、異常は、より早齢で始まる場合により重篤でありそして広がる傾向がある。疾患は、脳における2つのタイプの損傷、老人斑および神経原繊維変化(neurofibrillary tangles)により特徴付けられる。老人班は、脳組織の切片の顕微鏡解析により見ることができる、中心での細胞外アミロイド沈着物の直径で150mmまでの解体した好中球の区域である。神経原繊維変化はペアにおいてお互いのまわりに撚り合わされた2つのフィラメントからなるタウタンパク質の細胞内沈着物である。
【0016】
老人斑の主成分は、アミロイドベータ(Aβ)またはベータアミロイドペプチド(βAPまたはβA)と呼ばれるペプチドである。アミロイドベータペプチドは、アミロイド前駆体タンパク質(APP)と呼ばれる前駆体タンパク質の39〜43アミノ酸の内部フラグメントである。APPタンパク質内のいくつかの突然変異は、アルツハイマー病の存在と相関していた(Goate et al,(1991)、バリン717 がイソロイシンに; Chartier Harlan et al, (1991),バリン 717 がグリシンに; Murrell et al, (1991), バリン 717 がフェニルアラニンに; Mullan et al, (1992), リシン595−メチオニン596をアスパラギン595−ロイシン596に変える二重突然変異)。
【0017】
このような突然変異は、APPのベータアミロイドへの増加したもしくは変化したプロセシング、特にAPPの増加した量の長い形態のベータアミロイドへのプロセシング(即ち、Aβ1−42およびAβ1−43)によりアルツハイマー病を引き起こすと考えられる。プレセニリン遺伝子、PS1およびPS2などの他の遺伝子における突然変異は、APPのプロセシングに間接に影響を与えて増加した量の長い形態のベータアミロイドを発生させると考えられる(Hardy, TINS 20, 154,1997参照)。これらの観察は、ベータアミロイドおよび特にその長い形態がアルツハイマー病における原因的エレメントであることを示す。
【0018】
アミロイド繊維に関する刊行物は、円筒形ベータシートがX線および電子顕微鏡データのいくらかと合致した唯一の構造でありそしてアルツハイマーAβフラグメントおよび変異体の繊維は、多分、2つまたは3つの同心円筒形βシートからなることを示す(Perutz et al., 2002)。完全なAβペプチドは、42残基、丁度円筒形シェルの核を形成する(nucleate)ための正しい数、を含有し;この発見および、プロリンの不存在下にAβペプチドからなるβシートにおける多くの可能な強い静電気的相互作用は、Aβペプチドのアルツハイマー患者において見出された細胞外アミロイドプラークを形成する傾向の原因となる。もしこの解釈が正しいとすれば、アミロイドは、中心が水で充填されたキャビティーを有する細いチユ−ブ(ナノチューブ)からなる。in−vitroアミロイドプラーク成長の可逆性は、プラーク中のβAと溶液中のβAとの定常状態平衡を示唆する(Maggio and Mantyh, 1996)。βひだ状シートフィブリルを形成するためのペプチド−ペプチド相互作用に対するβA重合の依存性、および反応に対する他のタンパク質の刺激的影響は、アミロイド形成がモデュレーションを受けることができることを示唆する。アミロイド形成を妨害することができる物質を発見するための多くの試みがなされた。中でも最も研究された化合物は、抗体、プロリンのようなベータブレーカーアミノ酸からなるペプチド、認識モチーフへの帯電した基の付加および構築ブロックとしてのN−メチル化アミノ酸の使用である(Gazit, 2002により概説された)。
【0019】
患者におけるアミロイド凝集により特徴付けられた疾患の予防または処置のための方法が提唱され、これは、アミロイド沈着物のペプチド成分に対する抗体が凝集したアミロイドまたは可溶性アミロイドと接触することを引き起こすことを含む。SchenkのWO99/27944およびSolomonのU. S. Patent5,688,651参照。各々の全内容は参照により本明細書に組み込まれる。抗体を、能動的ワクチン接種または受動的ワクチン接種により可溶性アミロイドもしくは凝集されたアミロイドと接触させることができる。能動的ワクチン接種においては、可溶性アミロイドおよび/または凝集したアミロイドに結合する抗体をin vivoで高めるために、全体アミロイドペプチドまたはその一部であることができるペプチドが投与される。受動的ワクチン接種は、アミロイドペプチドに特異的な抗体を直接投与することを含む。これらの方法は、アミロイドプラークを減少させるかまたはこのようなプラークの沈着速度を遅くすることによりアルツハイマー病の処置のために好ましくは使用される。
【0020】
このような方法を試験するためのワクチンの臨床試験がElan CorporationおよびWyeth-Ayerst Laboratoriesにより着手されたことが報告された。試験されている化合物は、AN−1792であった。この製品は、βアミロイド42の形態であることが報告されている。
【0021】
本明細書における任意の文献の引用は、このような文献が適切な先行技術であるという承認または本願の特許請求の範囲の特許性に重要であると考えられることの承認であることを意図しない。任意の文献の内容または日付に関する任意の陳述は、出願時点で本出願人に入手可能な情報に基づいておりそしてこのような陳述の正しさに関する承認を構成しない。
【0022】
発明の要約
本発明は、プロテインAまたは抗体のFc部分に結合することができるそのフラグメントもしくは変異体を非ネイティブな繊維状バクテリオファージ分子としてその表面にディスプレイする繊維状バクテリオファージ、ならびにプロテインAまたはそのフラグメントもしくは変異体に抗体のFc部分により結合した抗体または抗原−抗体免疫複合体、を含有するファージディスプレイビヒクルを提供する。
【0023】
本発明は、治療剤または診断剤として使用するための本発明のファージディスプレイビヒクルを含有する医薬組成物も提供する。
【0024】
脳の疾患、障害または状態を処置/抑制することまたは診断することを必要としている被検体に本発明のファージディスプレイビヒクルを鼻腔内に投与することにより、脳の疾患、障害または状態を処置/抑制するためまたは診断するための方法が本発明により更に提供される。
【0025】
発明の詳細な説明
繊維状バクテリオファージは、鼻腔内に投与されるとき脳を透過することを可能とする線形構造を有する。それらはそれらのコートタンパク質上に選別されたタンパク質またはペプチドを提示するように工学的に作成されうるので、それらを使用して抗体または分子(それらの特異的抗体との免疫複合体の形態にある)を哺乳動物被検体の脳に送達することができる。P3は、ファージがバクテリアEscherichia coliにそれを通って侵入するファージコートの先端の1つをアセンブリする構造タンパク質である。
【0026】
本発明の1つの局面は、プロテインAまたは抗体のFc部分に結合することができるそのフラグメントもしくは変異体を非ネイテイブな繊維状バクテリオファージ分子として その表面にディスプレイする繊維状バクテリオファージを含み、そして更にプロテインAまたはそのフラグメントもしくは変異体にそのFc部分により結合した抗体または抗原−抗体免疫複合体を含む、ファージディスプレイビヒクルに関する。好ましい態様では、繊維状バクテリオファージは、薬物にリンカーを介してまたは直接にコンジュゲーションされておらず、そして抗体または抗原−抗体免疫複合体も固体担体上に固定化されていない。他の好ましい態様では、繊維状バクテリオファージ上にディスプレイされたプロテインAまたはそのフラグメントもしくは変異体に結合した抗体は、細胞表面上にターゲツトとして提示されていない分子に対して特異的でありそして抗体は固体担体上に固定化されていない。
【0027】
本発明者の研究所では、構造的レベルおよび遺伝子レベルでよく理解されている繊維状ファージM13、f1およびfd(Greenwood et al., 1991)が使用された。この研究所は、繊維状バクテリオファージが、ベクターの不活性および外来分子を担持する能力を保存しながら、中枢神経系への透過性を示すことを最初に示した(Frenkel and Solomon, 2002)。
【0028】
繊維状バクテリオファージは、環状一本鎖DNAゲノムを含有する構造的に関連したウイルスのグループである。それらは、生産的感染期間中それらのホストを殺さない。Fプラスミドを含有するEscherichia coliに感染するファージは、まとめてFfバクテリオファージと呼ばれる。それらは哺乳動物細胞を殺さない。
【0029】
繊維状バクテリオファージは、DNAコアを取り囲んでいるタンパク質サブユニットのヘリカルシェルを有する、約1〜2ミクロン長さおよび直径6nmの柔軟性ロッドである。2つの主コートタンパク質、タンパク質pIIIおよび主要コートタンパク質pVIIIは、ディスプレイされたタンパク質のコピーの数において異なる。pIIIは4〜5コピーにおいて提示されるが、pVIIIは〜3000コピーにおいて見出される。約50残基の主要コートタンパク質pVIIIサブユニットは、主としてαヘリカルでありそしてαヘリックスの軸は、ビリオンの軸と小さな角をなす。タンパク質シェルは、3つの区域:取り囲んでいる溶媒と相互作用しそして低等電点をビリオンに与える酸性残基に富んだサブユニットのN末端領域により占められた外側表面;タンパク質サブユニットが主としてお互いに相互作用する極性側鎖の19残基ストレッチを含むシェルの内側;およびDNAコアと相互作用する塩基性残基に富んだサブユニットのC末端領域により占められた内側表面;とみなされる。実質的にすべてのタンパク質側鎖相互作用は、サブユニット内よりはむしろコートタンパク質アレイにおける異なるサブユニット間にあるという事実は、これを高分子アセンブリにおけるαヘリカルサブユニット間の相互作用の研究のための有用なモデルシステムとする。繊維状バクテリオファージは約16.3MDの質量を有しているが、その独特の構造は、脳へのその透過を可能とし、そして、ファージ構造はアミロイドフィブリルそれ自体に似ているので、βAフィブリル化を妨害するその能力に寄与することができる。
【0030】
繊維状バクテリオファージは、M13、f1またはfdなどの任意の繊維状バクテリオファージであることができる。M13は下記の実施例で使用されたけれども、任意の他の繊維状バクテリオファージが、同様な方式で機能しそして挙動することが予想される。何故ならば、それらは同様な構造を有しておりそしてそれらのゲノムは95%より高いゲノム同一性を有するからである。
【0031】
本発明に従うファージディスプレイビヒクルにおいて、プロテインAまたはそのフラグメントもしくは変異体は、繊維状バクテリオファージの表面にディスプレイされる。このファージディスプレイは、ファージコートタンパク質との融合タンパク質としてプロテインAまたはそのフラグメントもしくは変異体のcDNAクローンの発現を伴う。従って、繊維状バクテリオファージゲノムは、その表面に非ネイティブポリペプチドをディスプレイするように遺伝子的に改変される。ファージコートタンパク質との融合としての外来タンパク質またはペプチドをディスプレイする繊維状バクテリオファージは当技術分野で周知である。M13タンパク質III、M13タンパク質VIII、M13タンパク質VI、M13タンパク質VI、M13タンパク質IX、およびfd少量コートタンパク質pIIIを含むがそれらに限定されない種々のファージおよびコートタンパク質を使用することができる(Saggio et al., 1995; Uppala and Koivunen, 2000)。ベクターの大きなアレイが入手可能である(Kay et al., 1996; Berdichevsky et al., 1999; and Benhar, 2001)。好ましい態様では、プロテインAまたはそのフラグメントもしくは変異体は、繊維状ファージの少ないコートタンパク質(タンパク質III)へのその融合によりディスプレイされる。ファージ遺伝子に外来コード配列を挿入するための方法は周知である(例えば、Sambrook et al., 1989; and Brent et al., 2003)。
【0032】
Staphylococcus aureusのプロテインAは周知であり、そして抗体のFc部分に結合するために当技術分野でよく使用される。結合ドメイン(1つまたは複数)を含有するタンパク質のフラグメントも当技術分野でよく認識されている。抗体(免疫グロブリン)のFc部分への改良された結合(または異なるIgクラスおよびサブクラスからのFcへのディファレンシャルな結合)を有するプロテインAの変異体に関する多数の知見もある。好ましくはプロテインAまたはそのフラグメントもしくは変異体に結合される抗体はIgGクラスである。プロテインA変異体の最も好ましい態様は、配列番号4のアミノ酸配列を有する変異体である。
【0033】
抗体のFc部分に結合することができるプロテインAまたはそのフラグメントもしくは変異体は、繊維状バクテリオファージの表面にディスプレイされて脳への送達のために抗体または抗原−抗体免疫複合体に結合する。
【0034】
本発明は、脳にファージ送達ビヒクルを導入することにより脳の疾患、障害または状態(condition)を抑制または処理するための方法を提供する。更に本方法は、検出されうる、即ち標識されうるファージディスプレイビヒクルを脳に導入することにより脳の疾患、障害または状態を診断するための方法を提供する。本方法は、有効量の本発明のファージディスプレイヒビクルを、導入/投与することを必要としている被検体に導入/投与することを含む。
【0035】
本明細書および特許請求の範囲の目的で、用語「患者」、「被検体」および「レシピエント」は相互交換可能に使用される。それらは、予防処置もしくは治療処置または診断の目的であるヒトおよび他の哺乳動物を含む。
【0036】
本明細書および特許請求の範囲の目的で、用語「ベータアミロイドペプチド」は、「βアミロイドペプチド」、「アミロイドβペプチド」、「βAP」、「βA」および「Aβ」と同義である。これらの用語のすべては、アミロイド前駆体タンパク質に由来するプラーク形成ペプチドを指す。好ましい態様では、ファージ表面にディスプレイされたプロテインA(またはそのフラグメントもしくは変異体)に結合した抗体は、アミロイドβペプチドに対して特異的である(特異的に結合する)。アミロイドβペプチドは、好ましくはAβ1−42またはAβ1−40である。
【0037】
本明細書で使用された、「PrPタンパク質」、「Prp」、「プリオン」は、適当な条件下に、プラーク形成疾患の原因となる凝集物の形成を誘導することができるポリペプチドを指す。例えば、正常な細胞プリオンタンパク質(PrPC)は、このような条件下で、ウシ海綿状脳症(BSE)、または狂犬病、ネコのネコ海綿状脳症、クールー病、クロイツフェルト−ヤコブ病(CJD)、ゲルストマン−ストロイスラー−シャインカー病(GSS)および致死的家族性不眠症(FFI)などの(それらに限定されない)プラーク形成疾患の原因となる対応するスクラピーアイソフォーム(PrPSc)に転換される。他の好ましい態様では、抗体は病原性PrPScアイソフォームに対して特異的である。
【0038】
用語「処置する」は、疾患、障害または状態の進行を実質的に抑制すること、遅くすることまたは逆転させること、疾患、障害または状態の臨床的症候を実質的に改善することまたは、疾患、障害または状態の臨床的症候の出現を実質的に予防することを意味することを意図する。
【0039】
本発明のファージ送達ビヒクルおよび方法は、脳の疾患、障害または状態を指向する。好ましくは、脳の疾患、障害または状態は「プラーク形成疾患」である。
【0040】
用語「プラーク形成疾患」は、早期発症アルツハイマー病(AD)、後期発症アルツハイマー病、前兆アルツハイマー病、SAAアミロイドーシス、遺伝性アイスランド症候群、老衰、多発性ミエローマならびに例えば、クールー病、クロイツフェルト−ヤコブ病(CJD)、ゲルストマン−ストロイスラー−シャインカー病(GSS)および致死的家族性不眠症(FFI)などの(それらに限定されない)ヒトを冒すことが知られているプリオン病および例えば、スクラピーおよびウシ海綿状脳症(BSE)などの動物を冒すことが知られているプリオン病などの(それらに限定されない)疾患における、βアミロイド、血清アミロイドA、シスタチンC、IgGκ軽鎖またはプリオンタンパク質などの(それらに限定されない)凝集性タンパク質(プラーク形成ペプチド)によるプラークの形成により特徴付けられた疾患を指す。
【0041】
前記したプラーク形成疾患と関連したアミロイドプラーク(アミロイド沈着物としても知られている)の大部分は、脳内に位置しているので、任意の提唱された処置様式は、血液脳関門(BBB)を横切る能力およびアミロイドプラークを溶解する能力を示さなければならない。普通は、BBBを通過することができる分子の平均サイズは約2kDaである。
【0042】
増加する数の証拠は、中枢嗅覚経路における嗅覚欠失および変性的変化は、ADの臨床的経過において早期に影響されることを示す。更に、ADに関与した解剖学的パターンは、嗅覚経路がADの進展における初期の段階でありうることを示唆する。
【0043】
嗅覚レセプターニューロンは、鼻腔の上皮ライニングにある二極性細胞である。それらの軸索は、篩状プレート(cribriform plate)を横断しそして脳の嗅球における嗅覚経路の第1シナプスに突き出す。鼻上皮からの嗅覚ニューロンの軸索は1000のミエリンのない繊維の束を形成する。この構成は、それらを、ウイルスまたは他の輸送された物質が血液脳関門(BBB)を横切ってCNSにアクセスすることができるハイウエイとする。
【0044】
前に示されたとおり、鼻腔内投与(Mathison et al, 1998; Chou et al, 1997; Draghia et al, 1995)は、脳脊髄液(CSF)またはCNSへのウイルスおよび高分子の直接侵入を可能とする。
【0045】
脳へのアデノウイルスベクターのための送達点として嗅覚レセプターニューロンの使用は、文献に報告されている。この方法は、報告によれば、見かけの毒性なしに12日間脳におけるレポーター遺伝子の発現を引き起こす(Draghia et al, 1995)。
【0046】
抗体または免疫複合体の直接脳送達は、脳への輸送体として嗅覚ニューロンを使用することによりBBBを横切ることを克服する。嗅覚上皮において、一次嗅覚ニューロンの樹状細胞は、鼻内腔と接触しており、そしてこれらのニューロンは、軸索を介して脳の嗅球にも接続されている。嗅覚上皮と接触しているファージは、一次嗅覚ニューロンに取り込まれることができ、嗅球に輸送されることができ、そして脳の他の区域にすら輸送されうる。
【0047】
脳腫瘍および脳炎症性疾患、障害または状態も、本発明に従う処置され/抑制されまたは診断される脳の疾患、障害または状態に含まれる。脳炎症は、インタクトな海馬形成における新しいニューロンの基礎的な連続的形成および脳発作に応答して増加した神経組織発生(neurogenesis)の両方において神経組織発生の抑制を引き起こす。神経組織発生の悪化(impairment)は、取り囲んでいる組織に損傷があるかないかにかかわらず、ミクログリア活性化の程度に依存する。脳炎症は、多分、パーキンソン病、リューイ小体痴呆(Lewy Body Dementia)、AIDS痴呆コンプレツクス、外傷性脳損傷、緑内障等のようなAβP病理学的効果を含む、ADのほかの他の慢性神経変性障害の病原において多分重要な役割を演じる。
【0048】
外傷性脳損傷(TBI)は、βアミロイド沈着および痴呆の早期発症を含む。このような記述にもかかわらず、これらの変化が起こる機構に関しては殆ど知られていない。TBIにおけるβアミロイドペプチドの発生について提唱された1つのソースは、外傷により損傷された軸索内の悪化した軸索原形質輸送の部位に蓄積することが示されたβアミロイド前駆体タンパク質(APP)の異常なタンパク分解開裂である。事実、βA免疫反応性は、TBIのブタモデルにおける膨潤した軸索と共に最近見出され(Smith et al., 1999)、これは、外傷的に損傷された軸索におけるAPPの蓄積がTBIにおけるβアミロイドペプチド形成のためのソースでありうることを示唆する。
【0049】
神経変性疾患および障害の非限定的例は、アルツハイマー病(AD)、パーキンソン病、リューイ小体痴呆、AIDS痴呆コンプレツクス、発作、並びに閉鎖性頭部損傷および外傷性脳損傷、例えば、弾丸傷、出血発作(hemorrhagic stroke)、虚血性発作、脳虚血、毒素、毒物、化学(細菌戦)剤、などの神経損傷剤により引き起こされる損傷または腫瘍切除などの外科手術により引き起こされる損傷を含む。
【0050】
好ましい態様では、ファージディスプレイされたプロテインA(またはそのフラグメントもしくは変異体)に結合した抗体は、アミロイドβペプチドおよびPrPScなどの、脳の疾患、障害または状態と関連したターゲット分子に対して特異的なモノクローナル抗体である。抗体は、発作、脳損傷または他の神経変性疾患もしくは障害の結果としての脳炎症を抑制/処置するための、TNFα、IL6等などの脳における炎症性サイトカインに対する抗体であることもできる。脳の疾患、障害または状態として脳腫瘍を診断するための方法の場合に、抗体は、脳腫瘍に特徴的なターゲット分子に対して特異的でありそしてその存在は特定の脳腫瘍の診断となる。
【0051】
あるいは、抗体のFc部分により抗原−抗体免疫複合体に結合したプロテインA(またはそのフラグメントもしくは変異体)をディスプレイするファージ送達ビヒクルは、脳に免疫複合体を送達するために使用されうる。免疫複合体における抗体により結合された抗原は、脳の疾患、障害または状態を処置することができる分子である。抗体により結合された抗原の非限定的例は、インスリン、ニューロン損傷および細胞死を減少させることができるエリスロポエチン(EPO)、インターフェロンおよび他の抗炎症性サイトカイン、例えばIL10、および血液脳関門を通過しないニューロン保護分子を含む。
【0052】
本発明に従う脳の疾患、障害または状態を診断するための方法は、本発明のファージディスプレイビヒクルを鼻腔内に投与することを必要としている被検体に、本発明のファージディスプレイビヒクルを鼻腔内に投与することを含む。その抗体成分を有するファージディスプレイビヒクルが、脳の疾患、障害または状態と関連したターゲットに結合されると、脳の疾患、障害または状態の存在が検出される。繊維状バクテリオファージの表面にディスプレイされたプロテインA(または抗体のFc部分に結合することができるそのフラグメントもしくは変異体)に結合した抗体は、検出可能に標識されうる。
【0053】
標識される抗体は、好ましくは脳腫瘍に対する治療または診断放射線像形成において使用するために放射能標識される。標識のための放射性核種の非限定的例は、111In、125I、131Iおよび99mTcを含む。好ましくは放射性ヨウ素化抗体である放射能標識された抗体は、ペプチドおよびタンパク質を放射能標識するための標準方法により調製され、次いで繊維状バクテリオファージの表面にディスプレイされたプロテインA(またはそのフラグメントもしくは変異体)に結合させられる。
【0054】
他の適当な検出可能な標識は、エンハンスドダイナミックMRI(enhanced dynamic MRI)のための好ましい試薬であるガドリニウム(Gd)などの造影剤および重元素(例えば、Pt、AuおよびTl)の有機または無機化合物を含む。
【0055】
本発明に従う医薬製剤は、有効成分として、本発明のファージディスプレイビヒクルを含む。医薬製剤は、異なる繊維状バクテリオファージからのファージディスプレイビヒクルの混合物であることもできる。
【0056】
本発明に従う製剤は、生物それ自体に投与されうるかまたはそれが適当な担体もしくは賦形剤と混合されている医薬組成物において投与されうる。
【0057】
本明細書で使用された「医薬組成物」は、生理学的に適当な担体および賦形剤などの他の化学成分と本明細書に記載の1つ以上の有効成分の製剤を指す。医薬組成物の目的は、生物への化合物の投与を容易にすることである。
【0058】
用語「有効成分」は、生物学的効果の原因となる製剤を指す。診断用途に使用するための医薬組成物の状況において、用語「有効成分」は、脳の疾患、障害または状態と関連した分子をターゲティングする抗体であることを意図する。
【0059】
以後、相互交換可能に使用されうる語句「生理学的に許容されうる担体」および「薬学的に許容されうる担体」は、生物に対する有意な刺激を引き起こさずそして投与された化合物の生物学的活性および性質を妨げない担体または希釈剤を指す。
【0060】
用語「賦形剤」は、有効成分の投与を更に容易にするために医薬組成物に加えられた不活性物質を指す。賦形剤の非限定的例は、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、種々の糖および種々のタイプのデンプン、セルロース誘導体、ゼラチン、植物油およびポリエチレングリコールを含む。
【0061】
薬物の処方および投与のための技術は、"Remington's Pharmaceutical Sciences," Mack Publishing Co., Easton, PA, latest editionにおいて見出され得、これは参照により本明細書に組み込まれる。
【0062】
本発明の医薬組成物は、当技術分野で周知の方法、例えば、慣用の混合、溶解、顆粒化、糖剤製造(dragee-making)、研和、乳化、カプセル化、エントラッピングまたは凍結乾燥によって製造されうる。
【0063】
従って、本発明に従って使用するための医薬組成物は、薬学的に使用されうる製剤への有効成分の加工を容易にする、賦形剤または佐剤を含む1つ以上の生理学的に
許容されうる担体を使用して慣用の方式で処方されうる。
【0064】
鼻吸入による投与のために、本発明に従って使用するための有効成分を、適当な推進剤、例えば、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロ−テトラフルオロエタンまたは二酸化炭素、の使用により加圧されたパックまたはネブライザーからのエアゾル噴霧組成物の形態で便利に送達される。吸入スプレーにおけるように加圧されたパックまたはネブライザーを必要としない鼻中スプレーが替わりに鼻腔内投与のために使用されうる。加圧されたエアゾルの場合に、投薬単位は、弁を設けて計量された量を送達することにより決定されうる。化合物と適当な粉末基剤、例えばラクトースまたはデンプンの粉末混合物を含有する、ディスペンサーにおいて使用するための例えばゼラチンのカプセル剤およびカートリッジ剤が処方されうる。
【0065】
本発明の状況において使用するために適当な医薬組成物は、有効成分が意図した目的を達成するのに有効な量において含有される組成物を含む。更に詳しくは、治療的有効量は、疾患、障害または状態の症状を予防、軽減または改善するのにまたは処置さされるべき被検体の生存を延長するのに有効な有効成分の量を意味する。
【0066】
治療的もしくは診断的有効量の決定は、特に、本明細書に与えられた詳細な開示に照らして、当業者の能力の十分に範囲内にある。
【0067】
投薬量および間隔は、特定の脳疾患、障害または状態を処置または診断するのに十分なファージディスプレイビヒクルの脳レベル(最少有効濃度、MEC)を与えるように個々に調節されうる。MECは、各製剤について変わるであろうが、in−vitroデータから評価されうる。MECを達成するのに必要な投薬量は個々の特徴に依存するであろう。
【0068】
投薬間隔は、MEC値を使用して決定することもできる。製剤は、間隔時間の10〜90%、好ましくは30〜90%、最も好ましくは50〜90%の間MECより高い脳レベルを維持する方式を使用して投与されるべきである。
【0069】
処置されるべき状態の重篤さおよび応答性に依存して、投薬は、数日もしくは数週間続くまたは治癒が達成されるまでもしくは疾患状態の減退が達成されるまで続く処置のクール(cource)で、1回または複数回の投与であることができる。
【0070】
投与されるべき組成物の量は、もちろん、処置もしくは診断されるべき被検体、苦痛の重篤さ、処方する医師の判断等に依存するであろう。
【0071】
本発明の組成物は、所望により、有効成分を含有する1つ以上の単位剤形を含有することができるパックまたはディスペンサー装置、例えばFDAで認可されたキットにおいて提供されうる。パックは、例えば、金属もしくはプラスチックフォイル、例えばブリスターパックを含むことができる。パックまたはディスペンサー装置は、投与のためのインストラクションを伴うことができる。パックまたはディスペンサーは、医薬の製造、使用または販売を規制する政府機関により規制された形態にある容器と関連した通達により適応させることができ、該通達は、組成物またはヒトもしくは獣医学的投与の形態について政府機関による認可の反映である。このような通達は、例えば、処方箋薬物についてU.S,Food and Drug Administrationにより認可されたラベリングまたは認可された製品インサート(product insert)であることができる。適合性薬学的担体において処方された本発明の製剤を含む組成物を調製し、適当な容器中に入れ、そしてさらに上記したとおり、指示された状態の処置についてラベリングすることができる。
【0072】
今や本発明を一般的に説明してきたが、本発明は、説明として与えられそして本発明の限定であることを意図しない下記の実施例を参照することにより容易に理解されるであろう。
【0073】
実施例
P3上にプロテインAの変異体をディスプレイする繊維状ファージをこの研究において構築した。以前の研究はこの基本的なアイデアを使用したが、異なる方法で使用した:即ち、Li et al. (1998)は、scFv分子に融合したプロテインAのBドメインをディスプレイするファージを使用した。Djojonegoro et al. (1994)は、M13ファージ上にディスプレイされたプロテインAのBドメインのみを使用し、そしてSampath et al.(1997)は、Bドメインを使用して、繊維状ファージをクローニングツールとして使用することができることを示した。すべてのこれらの以前の研究は、プロテインAIgG結合ドメインをヒトIgGsに結合させることにより、ファージディスプレイ技術を使用してファージ上にディスプレイされたプロテインAの改良された形体の容易な選択を可能とした。この研究において下記に示した実験は、プロテインA変異体をディスプレイするファージが主としてIgG1型のマウス抗体およびそれらのリガンドに結合することを示す。これらの複合体は、鼻腔内適用によりhAPPtgマウスに投与された。それらは、マウス脳に入りそして下記で講じる効果を奏した。
【0074】
物質および方法
プロテインA変異体の合成
使用されたプロテインAの一部は、ドメインBを含む4つの反復ドメインを含有する。2つのプライマー:ATGコドンおよびNcoI制限部位を有するフォワードプライマーおよび停止コドンを持たずそしてNotI制限部位を有するリバースプライマーを合成した(図1A)。下記のプロトコールを使用してPCRを行った:Staphylococcus aureusのゲノムDNA2μgを、Qiagen Taqポリメラーゼの1×バッファー中の各プライマー20μMと一緒にした。dNTPs(0.2mM)およびポリメラーゼ2.5単位を100μl反応容積に加えた PCR条件は:94℃での3分間の初期変性、次いで94℃での30秒間の変性30サイクル、55℃で1分間のアニーリングおよび72℃で1分間の重合であった。PCR産物をNcoIおよびNotIで消化し、ゲル精製しそして、NcoIおよびNotIで前もって線状化されたベクターpCANTAB 5Eにクローニングした。このベクターにおけるプロテインA遺伝子のこの部分のクローニングは、繊維状ファージ(M13)の遺伝子3とのプロテインAの翻訳融合を発生させた。ヘルパーファージを使用して、ファージProtAと命名されたプロテインA−P3融合物をディスプレイするファージを産生した。
【0075】
ELISA
異なるIgG抗体へのファージプロテインAの結合を、ELISAにより測定した:プロテインAをディスプレイする1011ファージを、0.1Mリン酸ナトリウム、pH8.5中の抗体10μg(15ナノモル)と混合した。混合物を37℃で30分間穏やかに振とうさせ、次いで50μlアリクォートを、ウサギ抗ファージ抗体で前もってコーティングされそして3%ミルクでブロックされたELISAウェルに四重で(in tetraplicates)加えた。ヤギ抗マウス−HRPコンジュゲーションされた抗体を二次抗体として使用した。HRP反応をOPDおよびペルオキシドで行った。結果を492nmでのODとして示す。
【0076】
抗原結合後のファージ−プロテインA−抗体複合体の安定性を下記の方法によりチェックした:プロテインAをディスプレイする1011ファージを、0.1Mリン酸ナトリウム、pH8.5中の抗体10μg(15ナノモル)と混合した。混合物を37℃で30分間穏やかに振とうさせ、そしてついで抗原(0.32ナノモルのビオチニル化Aβ1−16)を、抗体に有利に50:1のモル比で、ファージ−プロテインAと抗体の混合物に更に30分間加えた。アリクォート(50μl)をウサギ抗ファージ抗体で前もってコーティングされそして3%ミルクでブロックされたELISAウェルに四重で加えた。アビジン−HRPコンジュゲートを使用してELISAプレートに結合した複合体を検出した。まだ抗原に結合しているファージ−抗体複合体のみがアビジン−HRPコンジュゲートと反応するであろう。1:1000の希釈率でこれらの実験で使用された血清は、ERFHエピトープに対する力価を有するマウスから抜き取られた。
【0077】
異なる量の抗体に結合するのに必要なファージの数を力価測定するために、プロテインAへの最善の結合能力を示した抗体196を使用して、3つの異なる濃度で(50、100および250ng/ウェル)ELISAプレートをコーティングし、次いで3%ミルクでウェルをブロックした。異なる濃度(109/ml~1012/ml)におけるファージ−プロテインAを加えそして結合したファージをウサギ抗ファージ抗体およびヤギ抗ウサギ−HRP抗体により検出した。
【0078】
ファージ−プロテインAへの抗体−抗原複合体の結合を下記のとおりに力価測定した: 109/ml〜1012/mlのファージを、2つの別々の濃度の抗体2H3、10ngまたは50ngおよび1:2モル比の抗体:抗原(抗体分子に対して2つの抗原分子)と一緒にした。混合物を、37℃で30分間穏やかに振とうさせ、そしてウサギ抗ファージ抗体で前もってコーティングされそしてPBS中の3%ミルクでコーティングされたELISAウェルに加えた。結合したファージの検出は、ビオチニル化抗原にのみ結合することができるアビジン−HRPコンジュゲートでなされた。
【0079】
ファージ−プロテイン抗体複合体のPEG沈殿がそれらの解離を引き起こすか起こさないかもチェックした:ELISAウェルを20μg/mlアビジンで40℃で一夜コーティングし、次いで1μg/mlビオチニル化Aβ1−16ペプチドで室温にて30分間コーティングした。ウェルをPBS中の3%ミルクでブロックした。1012ファージを、0.1M Na2HPO41ml中の1μgまたは5μgの抗体196と一緒にし、そして37℃で1時間穏やかに振とうさせた。混合物の半分をPEG−NaClを使用して沈澱させ、次いで前と同じく0.1M Na2HPO4 500μl中に再懸濁させ、そして他の半分を沈殿させないで使用した。両混合物を前に述べたELISAプレートに37℃で1時間適用した(50μl混合物/ウェル)。結合したファージの検出をマウス抗ファージおよびヤギ抗マウス−HRPコンジュゲートにより行った。
【0080】
ファージプロテインAは、抗インスリンIgGとの複合体を発生することについてもチェックされた。ファージプロテインA(1012/ml)を異なる濃度の抗インスリン抗体と一緒にしそして37℃で30分間穏やかに振とうさせた。複合体をPEG沈澱させ、次いで0.25mg/mlインスリンで4℃で一夜コーティングされたELISAプレートに適用した。結合したファージを、マウス抗ファージおよびヤギ抗マウス抗体によりまたはヤギ抗マウスのみで検出した。この第2の検出法は、抗インスリン抗体がファージプロテインAとともに複合体において実際に存在することを証明するために使用された。
【0081】
in vivo研究
9か月齢PDAPPマウスに、ファージ−プロテインA複合体(Ab196とのまたは抗インスリンAb+インスリンとの)を2週間毎に(4回の処置)、次いで次の6回の処置について1か月毎に、合計10回の処置のために与えた。複合体を、2つの鼻孔により分けて20マイクリットルを鼻腔内適用により与えた。処置の終りに、マウスを安楽死させそして殺した。各マウスからの左脳半球を液体窒素中で凍結させた。各半球をホモジナイズしそして可溶性画分と不溶性画分に分けた。不溶性画分を後でグアニジン−HClで可溶化した。両画分を分析されるまで凍結して保った。βアミロイド1−42は、捕捉抗体およびAβ1−42に対して特異的な検出抗体を使用して、サンドイッチELISAにより行った。サイトカインレベルの決定は、IL1βまたはIL10(R&Dシステム)のための特異的キットにより行った。
【0082】
結果および討論
プロテインA変異体を図1Aに示されたプライマーを使用して合成した。PCR産物を配列決定してその完全性(integrity)を証明し、次いでpCANTAB5Eにクローニングした。ファージのpIIIに融合したプロテインA変異体を発現するファージを産生しそしてELISAにおいて使用した。
【0083】
プロテインA変異体をディスプレイするするファージは主としてIgG1抗体に結合する。
protAファージを、IgGタイプ抗体へのそれらの結合についてELISAによりチェックした。
図2において15ナノモルの異なる抗体への1011ファージ粒子の結合が示される。
【0084】
ファージ−protA結合抗体はそれらがその抗原に結合した後ファージから離脱しない。
抗体は、それらがその抗原への結合の後ファージから解離するかしないかについてチェックされた。抗原として、βアミロイドペプチドのN末端からのアミノ酸残基1−16のビオチニル化ペプチドを使用した。この実験の結果は、図2に要約される。この実験について、プロテインAをディスプレイする1011ファージを、0.1M リン酸ナトリウム、pH8.5中の10μg(15ナノモル)の抗体と混合した。混合物を、37℃で30分間振とうし、次いで抗体に有利に50:1のモル比の抗原(0.32モルのビオチニル化Aβ1−16)を、追加の30分間ファージ−プロテインAと抗体の混合物に加えた。複合体を、ウサギ抗ファージ抗体で前もってコーティングされそして3%ミルクでブロツクされたELISAウェルに加えた。コンジュゲーションされたアビジン−HRPを使用して、ELISAプレートに結合した複合体を検出した。抗原の結合後まだ結合しているファージ−抗体複合体のみがアビジン−HRPコンジュゲートと反応するであろう。これらの実験で使用された血清はERFHエピトープに対する力価を有するマウスから抜き取られた。
【0085】
図3は、プロテインAが結合した抗体が、それらが認識する抗原に結合するとき、それらはプロテインAから離脱しないことを示す。プレートに結合したファージ−プロテインAから離脱する抗体−抗原複合体は、洗浄除去されそしてアビジン−HPRと反応しないであろう。図2に示されたとおり、12B4はファージ−プロテインAに弱く結合した。それはペプチド1−16に結合しないので、ここでは反応せず、そして他のネガティブコントロールとして使用された。結合結果は、ELISAプレートがpH6.0のPBSバッファーで洗浄されるとき、変化しなかった。より低いpHは、ファージ−ProtAからの抗体−抗原複合体の解離を引き起こさなかった。
【0086】
mAb196へのプロテインAの結合の力価測定
異なる量の抗体に結合するのに必要なファージの数は、結合が特異的であることを証明するために力価測定された。この実験において、プロテインAへの最善の結合能力を示した抗体196を使用して3つの異なる濃度でELISAプレートをコーティングし、次いで3%ミルクでウェルをブロックした。異なる濃度のファージ−プロテインAを加えそして結合したファージをウサギ抗ファージ抗体により検出した(図4)。図4から、抗体196へのファージ−プロテインAの結合は特異的であることは明らかであり;それはファージ数および抗体濃度の関数として高められる。この実験セッティングにおいて、飽和した結合は観察されなかた。プロテインAをディスプレイするファージの数を評価するために、ELISAウェルを高められたファージ濃度でコーティングしそして抗ファージ抗体と反応させた(示されていない)。この分析と図4に示された以前の分析を492におけるODを比較することにより、ファージの約30%〜36%がプロテインAをディスプレイすることが決定され得た。
【0087】
ある量のファージ(結合される抗原の量も示すであろう)に結合するのに必要な抗体の量を決定するために、高められた数のファージを2つの別々の濃度の抗体(2H3)と一緒にしそして抗体:抗原のモル比を1:2とした(各抗体分子について2つの抗原分子)他の実験を行った(図5A)。混合物を、前もってウサギ抗ファージ抗体でコーティングさされそしてPBS中の3%ミルクでコーティングされたELISAウェルに加えた。結合したファージの検出を、ビオチニル化抗原にのみ結合することができるアビジン−HRPコンジュゲートにより行った。
【0088】
各抗体濃度に対する結合について観察された値は異なるファージ濃度間であまり異ならないので、結果は「平均の平均」として要約することもできそして図5Bに示されたとおりプロットすることもできる。
【0089】
これらの結果は、抗体濃度がこの実験セッティングにおける限定因子であり、ファージ濃度ではないことを証明する:109/mlファージ−プロテインA(ELISAウェル当たり使用された50μl当たり5×107ファージ)で、約70ピコモルである50ngに結合するのに十分なプロテインA分子があり、そしてそれらは5×ファージ−プロテインA分子を飽和させるのに十分ではない。
【0090】
PEG−NaCl沈澱は、甚だしいファージ−抗体解離を引き起こさなかった
ファージ−タンパク質A−抗体複合体のPEG沈殿がそれらの解離を引き起こすか引き起こさないかもチェックした。ELISAウェルをアビジンおよび1μg/mlビオチニル化1−16ペプチドでコーティングした。ウェルをPBS中の3%ミルクでブロックした。1012ファージを0.1M Na2HPO4中の1μgまたは5μg抗体196と一緒にしそして37℃で1時間穏やかに振とうした。混合物の半分をPEG−NaClを使用して沈澱させ、次いで同じバッファーおよび前と同じ容積において再懸濁させ、そして他の半分を沈殿させないで使用した。両混合物を前に記載されたELISAプレート(50μl混合物/ウェル)に37℃で1時間適用した。結合したファージの検出をマウス抗ファージおよびやぎ抗マウス−HRPコンジュゲートで行った。図6は、PEG沈澱が、ファージプロテインA−抗体複合体の約20%を解離させたことを示す。
【0091】
ファージプロテインAは、抗インスリン抗体とインスリンの免疫複合体に結合する
ファージ−プロテインAを抗インスリンIgGと一緒にしそして複合体を、0.25mg/mlインスリンでコーティングされたELISAプレート上で使用した。複合体をELISAプレートに適用される前にPEG沈澱させた。結合したファージをマウス抗ファージおよびヤギ抗マウス抗体で検出するか(図7A)またはヤギ抗マウスのみで検出した(図7B)。この第2の検出法を使用して抗インスリン抗体が実際にファージプロテインAとの複合体中に存在することを証明した。
【0092】
ファージ−プロテインA(1012/ml)を異なる濃度の抗インスリン抗体と一緒にしそして37℃で30分間穏やかに振とうした。複合体を、ELISAプレートに適用される前にPEG沈澱させた。結合したファージをマウス抗ファージで検出し次いでやぎ抗マウス抗体で検出した。
【0093】
図7Aに示されたのと同様な、しかしヤギ抗マウス抗体のみで検出されたアッセイの結果は、図7Bに示される。
【0094】
要約すると、IgGタイプの抗体に結合することができるプロテインAの変異体をディスプレイする繊維状ファージを発生させた。マウスIgG2aおよびIgG2bに強く結合するStaphylococcus aureusのネイティブなプロテインAとは反対に、このリコンビナントプロテインAは、最も豊富なタイプであるマウスIgG1分子によりよく結合する。これらのファージは、抗体を精製するためにin−vitroで使用することができるか、または例えばある種の抗体を脳に送達するのにin vivoで使用することができる。
【0095】
in vivo研究
ファージ−protA−196
ファージ−protA−196複合体を、物質および方法の節で説明したとおり、PDAPPトランスジェニックマウスに適用した。可溶性画分および不溶性画分(凝集したペプチドおよびグアニジン−HClで可溶化された膜)中のβアミロイドペプチド1−42のレベル、ならびに不溶性画分中のAβ1−40のレベルをチェックした。トランスジェニック非処理コントロールと比較して、可溶性画分中のおよび不溶性画分中のAβ1−42の量の約20%減少が処理されたマウスにおいて観察された。しかしながら、結果は有意ではなかった(図8)。Aβ1−40において、コントロール非処理サマウスに比較してファージ複合体で処理されたマウス間で差は観察されなかった。
【0096】
ファージ−protA−抗インスリン−インスリン
PDAPPマウスをファージ−抗体−インスリン複合体で処理した。図9Aにおいて、不溶性Aβ1−42のレベルのより劇的な差、Tg非処理マウスまたはファージ−196複合体で処理されたマウスと比較して、複合体で処理されたマウスにおける約63%の減少が観察された。ファージのみで処理されたマウスは、Aβ1−42レベルの平均23%減少を伴うにすぎなかった。処理されたマウスにおける可溶性Aβ1−42のレベルの減少は、より劇的ですらありそしてコントロールと比較して80%に達した(図9B)。
【0097】
IL1β、プロ炎症性サイトカインおよびIL10、抗炎症性サイトカインのレベルをチェックした。トランスジェニック非処理マウスにおけるIL1βのレベルは、非トランスジェニックマウスにおけるIL1βのレベルより約36%高かったが(図10A)、これは、この疾患がより高いIL1β濃度で現れる炎症を引き起こすことを意味している。しかしながら、複合体処理されたマウスは、非トランスジェニックマウスにおけるIL1βのレベルと同様なレベルを含有していたが、これは処理されたマウスが脳の炎症を発生しなかったことを示唆する。抗炎症性サイトカイン、IL10の濃度において同じ現象が観察された(図10B)。ここで再び、平均して18%未満のIL10を含有していたトランスジェニックコントロールマウスに比較して、非トランスジェニックマウスおよびトランスジェニック処理マウスにおいてIL10のレベルは同様であった。ファージ−protA−196を受け取ったPDAPPマウスにおけるサイトカインレベルは、処理されたマウスとトランスジェニックコントロール間で差はなことを示した(データは示されていない)。
【0098】
以前の研究は、脳脊髄液区画への物質の直接のアクセスを与えることが知られているインスリン投与の鼻腔内経路により記憶機能に対するインスリンの効果を急激に改善する効果を示唆した(Strachan, 2005)。先の結果は、辺縁および海馬領域におけるインスリンレセプターの普及、ならびに全身系インスリンによる記憶の改善を示す。インスリンをファージと組み合わせて、増加した数のファージが脳に導入されてアミロイドの過酷な負荷(amyloid burden)の有効な減少をもたらすことを証明した。この効果は、脳におけるサイトカインプロフィルの改善を伴う。この蓄積効果は、ファージの抗凝集性+ADの保護的処理としてインスリンを介するより良好な透過を得るのに有効な方法であることができる。
【0099】
今や本発明を完全に記述してきたが、本発明は、本発明の精神および範囲から逸脱することなくかつ過度の実験なしに、広い範囲の同等なパラメーター、濃度および状態の範囲内で同じことが行われうることは、当業者により認められるであろう。
【0100】
本発明は、その特定の態様に関して述べられたが、それは更に改変されうることは理解されるであろう。本願は、一般に、本発明の原理に従う、そして本発明が属する技術分野内の既知の実施または慣用の実施内に入るような、そして特許請求の範囲に示された本質的な特徴に適用されうるような、本発明の開示からの逸脱を含む、本発明の任意の変更、使用または適応を包含することを意図する。
【0101】
引用された文献中に提示されたすべてのデータ、表、図面およびテキストを含む、雑誌論文またはアブストラクト、公開されたもしくは対応するU.S.もしくは外国特許出願、発行されたU.S.特許もしくは外国特許、または任意の他の文献を含む本明細書で引用されたすべての参考文献は、参照により本明細書に完全に組み込まれる。更に、本明細書に引用された参考文献内に引用された参考文献の全体の内容も、参照により完全に組み込まれる。
【0102】
既知の方法の工程、慣用の方法の工程、既知の方法もしくは慣用の方法の参照は、本発明のいかなる局面、説明または態様も、当該技術において開示され、教示されまたは示唆されていることを承認するものでは決してない。
【0103】
特定の態様の前記説明は、本発明の一般的性質を、他の人々が、当技術分野の熟練内の知識(本明細書に引用された参考文献の内容を含む)を適用することにより、過度の実験なしに、本発明の一般的概念から逸脱することなく、このような特定の態様を、種々の用途のために容易に改変および/または適合させることができるように、完全に本発明の一般的性質を明らかにするであろう。したがって、このような適合および改変は、本明細書に提示された教示および手引きに基づいて開示された態様の均等物の意味および範囲内にあることを意図する。本明細書における語句および用語は、説明の目的であって限定の目的ではなく、したがって、本明細書の用語または語句は、当業者の知見と組み合わせて、本明細書に提示された教示および手引きに照らして当業者により解釈されるべきであることは理解されるべきである。
【0104】
【表1】
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1A】プロテインA変異体のPCR合成のために使用された、プライマーProtA−fwd(配列番号1)およびProtA−rev(配列番号2)を示す。図1Bは、プロテインA変異体のヌクレオチド配列(配列番号3)を示す。図1Cは、プロテインA変異体のアミノ酸オープンリーディングフレームを示す(配列番号4)。
【図1B】プロテインA変異体のPCR合成のために使用された、プライマーProtA−fwd(配列番号1)およびProtA−rev(配列番号2)を示す。図1Bは、プロテインA変異体のヌクレオチド配列(配列番号3)を示す。図1Cは、プロテインA変異体のアミノ酸オープンリーディングフレームを示す(配列番号4)。
【図1C】プロテインA変異体のPCR合成のために使用された、プライマーProtA−fwd(配列番号1)およびProtA−rev(配列番号2)を示す。図1Bは、プロテインA変異体のヌクレオチド配列(配列番号3)を示す。図1Cは、プロテインA変異体のアミノ酸オープンリーディングフレームを示す(配列番号4)。
【図2】ファージ−プロテインAがIgG1タイプの抗体(196、10D5、6C6および2H3)に結合することを示すグラフである。それはIgG2a(3D6)にも結合しそしてIgG2b(12B4)にも弱く結合する。
【図3】Aβ1−16に対するファージ−ProtA結合抗体は、一旦それらがAβ1−16に結合するとプロテインAから離脱しないことを示すグラフである。
【図4】mAb196に結合しているファージ−ProtA1の力価測定を示すグラフである。
【図5A】図5Aおよび5Bは2つの別々の濃度の抗体2H3によるファージの力価測定を示すグラフである。
【図5B】図5Aおよび5Bは2つの別々の濃度の抗体2H3によるファージの力価測定を示すグラフである。
【図6】PEG沈殿の後の抗体196からのファージプロテインA解離をチェックするためのELISAの結果を示すグラフである。処理は、1、5μg196と組み合わせたファージ−プロテインAおよびPEG沈殿;2、PEG沈澱なしで1と同じ;3、抗体196のみ−PEG沈澱;4、3における同じであるが、PEG沈殿なし;4、抗体なしかつPEG沈澱なしのファージ−プロテインAのみ。
【図7A】図7Aおよび7Bは、インスリンに対するファージ−PrtA−抗インスリンの結合(図7A)およびヤギ抗マウス抗体で検出されたファージ−PrtA−インスリン−抗インスリン免疫複合体の結合(図7B)を示すグラフである。
【図7B】図7Aおよび7Bは、インスリンに対するファージ−PrtA−抗インスリンの結合(図7A)およびヤギ抗マウス抗体で検出されたファージ−PrtA−インスリン−抗インスリン免疫複合体の結合(図7B)を示すグラフである。
【図8】ファージ複合体で処理されたマウスおよびコントロール非処理マウスにおける可溶性および不溶性Aβ1−42および不溶性Aβ1−40のレベルを比較するグラフである。
【図9A】図9Aおよび9Bは、非処理コントロールマウスと比較したファージ−196複合体で処理されたPDAPPマウスにおける不溶性および可溶性Aβ1−42のレベルを示すグラフである。
【図9B】図9Aおよび9Bは、非処理コントロールマウスと比較したファージ−196複合体で処理されたPDAPPマウスにおける不溶性および可溶性Aβ1−42のレベルを示すグラフである。
【図10A】図10Aおよび10Bは、複合体で処理されたマウスおよび非トランスジェニックマウスおよびトランスジェニックコントロールマウスにおけるIL1βおよびIL10のサイトカインレベルを示すグラフである。
【図10B】図10Aおよび10Bは、複合体で処理されたマウスおよび非トランスジェニックマウスおよびトランスジェニックコントロールマウスにおけるIL1βおよびIL10のサイトカインレベルを示すグラフである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロテインAまたは抗体のFc部分に結合することができるそのフラグメントもしくは変異体を非ネイティブな繊維状バクテリオファージ分子としてその表面にディスプレイする繊維状バクテリオファージ、ならびに該プロテインAまたはそのフラグメントもしくは変異体にそのFc部分により結合した抗体または抗原−抗体免疫複合体、を含むファージディスプレイビヒクルであって、但し、該繊維状バクテリオファージは薬物にリンカーを介してまたは直接コンジュゲーションされておらず、そして該抗体または免疫複合体も固体担体上に固定化されていない、ファージディスプレイビヒクル。
【請求項2】
繊維状バクテリオファージがM13、f1およびfdバクテリオファージおよびそれらの任意の混合物からなる群より選ばれる、請求項1に記載のファージディスプレイビヒクル。
【請求項3】
繊維状バクテリオファージがM13である、請求項1に記載のファージディスプレイビヒクル。
【請求項4】
抗体がIgGクラスである、請求項1に記載のファージディスプレイビヒクル。
【請求項5】
前記プロテインAまたはそのフラグメントもしくは変異体に結合した抗体がモノクローナル抗体である、請求項1に記載のファージディスプレイビヒクル。
【請求項6】
前記モノクローナル抗体が、Aβ1−42またはAβ1−40のアミロイドβペプチドに対して生じたモノクローナル抗体または該アミロイドβペプチドに対して特異的なモノクローナル抗体である、請求項5に記載のファージディスプレイビヒクル。
【請求項7】
前記モノクローナル抗体が、脳の疾患、障害または状態と関連したターゲット分子に対して特異的である、請求項5に記載のファージディスプレイビヒクル。
【請求項8】
前記脳の疾患、障害または状態がプラーク形成疾患または障害である、請求項7に記載のファージディスプレイビヒクル。
【請求項9】
前記モノクローナル抗体が標識されている、請求項7に記載のファージディスプレイビヒクル。
【請求項10】
前記プロテインAまたはそのフラグメントもしくは変異体に結合した前記免疫複合体が、インスリンと抗インスリン抗体の免疫複合体である、請求項1に記載のファージディスプレイビヒクル。
【請求項11】
前記繊維状バクテリオファージの表面にディスプレイされた前記非ネイティブな繊維状バクテリオファージ分子が、抗体または抗原−抗体免疫複合体に結合した、プロテインAまたは抗体のFc部分に結合することができるそのフラグメントもしくはその変異体からなる、請求項1に記載のファージディスプレイビヒクル。
【請求項12】
プロテインAまたは抗体のFc部分に結合することができるそのフラグメントもしくは変異体を非ネイティブな繊維状バクテリオファージ分子としてその表面にディスプレイする繊維状バクテリオファージ、ならびに該プロテインAまたはそのフラグメントもしくは変異体にそのFc部分により結合した抗体、を含むファージディスプレイビヒクルであって、該抗体が細胞表面にターゲットとして提示されていない分子に対して特異的であり、但し、該抗体は固体担体上に固定化されてもいない、ファージディスプレイビヒクル。
【請求項13】
繊維状バクテリオファージがM13、f1およびfdバクテリオファージおよびそれらの任意の混合物からなる群より選ばれる、請求項12に記載のファージディスプレイビヒクル。
【請求項14】
繊維状バクテリオファージがM13である、請求項12に記載のファージディスプレイビヒクル。
【請求項15】
抗体がIgGクラスである、請求項12に記載のファージディスプレイビヒクル。
【請求項16】
前記プロテインAまたはそのフラグメントもしくは変異体に結合した抗体がモノクローナル抗体である、請求項12に記載のファージディスプレイビヒクル。
【請求項17】
前記モノクローナル抗体が、Aβ1−42またはAβ1−40のアミロイドβペプチドに対して生じたモノクローナル抗体または該アミロイドβペプチドに対して特異的なモノクローナル抗体である、請求項16に記載のファージディスプレイビヒクル。
【請求項18】
前記モノクローナル抗体が、脳の疾患、障害または状態と関連したターゲット分子に対して特異的である、請求項16に記載のファージディスプレイビヒクル。
【請求項19】
前記脳の疾患、障害または状態がプラーク形成疾患または障害である、請求項18に記載のファージディスプレイビヒクル。
【請求項20】
請求項1または請求項12に記載のファージディスプレイビヒクルと、薬学的に許容される担体、賦形剤、希釈剤または佐剤を含む医薬組成物。
【請求項21】
脳の疾患、障害または状態を処置または抑制することを必要としている被検体に有効量の請求項1または請求項12のファージディスプレイビヒクルを鼻腔内に投与して、脳の疾患、障害または状態を抑制または処置することを含む、脳の疾患、障害または状態を処置または抑制するための方法。
【請求項22】
前記脳の疾患、障害または状態がプラーク形成疾患または障害である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
プラーク形成疾患または障害がアルツハイマー病である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
ファージディスプレイビヒクル上にディスプレイされた前記プロテインAまたはそのフラグメントもしくは変異体に結合した抗体が、アミロイドβペプチドに対して特異的な抗体である、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記抗体がアミロイドβペプチド1−42または1−40に対して特異的である、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
プラーク形成疾患がプリオン病である、請求項22に記載の方法。
【請求項27】
前記脳の疾患、障害または状態が脳腫瘍である、請求項21に記載の方法。
【請求項28】
前記脳の疾患、障害または状態が、脳炎症性疾患、障害または状態である、請求項21に記載の方法。
【請求項29】
被検体が哺乳動物である、請求項21に記載の方法。
【請求項30】
被検体がヒトである、請求項21に記載の方法。
【請求項31】
前記プロテインAまたはそのフラグメントもしくは変異体に結合した前記免疫複合体が、インスリンと抗インスリン抗体の免疫複合体である、請求項21に記載の方法。
【請求項32】
脳の疾患、障害または状態を診断することを必要としている被検体に請求項1または請求項12に記載のファージディスプレイビヒクルを鼻腔内に投与し;そして
ファージディスプレイビヒクルを、脳の疾患、障害または状態と関連したターゲット分子に結合したその抗体成分により検出して、脳の疾患、障害または状態の存在を診断する、
ことを含む、脳の疾患、障害または状態を診断するための方法。
【請求項33】
抗体が検出可能に標識される、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
抗体が、放射性核種により検出可能に標識されている、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
抗体が造影剤で検出可能に標識されている、請求項33に記載の方法。
【請求項1】
プロテインAまたは抗体のFc部分に結合することができるそのフラグメントもしくは変異体を非ネイティブな繊維状バクテリオファージ分子としてその表面にディスプレイする繊維状バクテリオファージ、ならびに該プロテインAまたはそのフラグメントもしくは変異体にそのFc部分により結合した抗体または抗原−抗体免疫複合体、を含むファージディスプレイビヒクルであって、但し、該繊維状バクテリオファージは薬物にリンカーを介してまたは直接コンジュゲーションされておらず、そして該抗体または免疫複合体も固体担体上に固定化されていない、ファージディスプレイビヒクル。
【請求項2】
繊維状バクテリオファージがM13、f1およびfdバクテリオファージおよびそれらの任意の混合物からなる群より選ばれる、請求項1に記載のファージディスプレイビヒクル。
【請求項3】
繊維状バクテリオファージがM13である、請求項1に記載のファージディスプレイビヒクル。
【請求項4】
抗体がIgGクラスである、請求項1に記載のファージディスプレイビヒクル。
【請求項5】
前記プロテインAまたはそのフラグメントもしくは変異体に結合した抗体がモノクローナル抗体である、請求項1に記載のファージディスプレイビヒクル。
【請求項6】
前記モノクローナル抗体が、Aβ1−42またはAβ1−40のアミロイドβペプチドに対して生じたモノクローナル抗体または該アミロイドβペプチドに対して特異的なモノクローナル抗体である、請求項5に記載のファージディスプレイビヒクル。
【請求項7】
前記モノクローナル抗体が、脳の疾患、障害または状態と関連したターゲット分子に対して特異的である、請求項5に記載のファージディスプレイビヒクル。
【請求項8】
前記脳の疾患、障害または状態がプラーク形成疾患または障害である、請求項7に記載のファージディスプレイビヒクル。
【請求項9】
前記モノクローナル抗体が標識されている、請求項7に記載のファージディスプレイビヒクル。
【請求項10】
前記プロテインAまたはそのフラグメントもしくは変異体に結合した前記免疫複合体が、インスリンと抗インスリン抗体の免疫複合体である、請求項1に記載のファージディスプレイビヒクル。
【請求項11】
前記繊維状バクテリオファージの表面にディスプレイされた前記非ネイティブな繊維状バクテリオファージ分子が、抗体または抗原−抗体免疫複合体に結合した、プロテインAまたは抗体のFc部分に結合することができるそのフラグメントもしくはその変異体からなる、請求項1に記載のファージディスプレイビヒクル。
【請求項12】
プロテインAまたは抗体のFc部分に結合することができるそのフラグメントもしくは変異体を非ネイティブな繊維状バクテリオファージ分子としてその表面にディスプレイする繊維状バクテリオファージ、ならびに該プロテインAまたはそのフラグメントもしくは変異体にそのFc部分により結合した抗体、を含むファージディスプレイビヒクルであって、該抗体が細胞表面にターゲットとして提示されていない分子に対して特異的であり、但し、該抗体は固体担体上に固定化されてもいない、ファージディスプレイビヒクル。
【請求項13】
繊維状バクテリオファージがM13、f1およびfdバクテリオファージおよびそれらの任意の混合物からなる群より選ばれる、請求項12に記載のファージディスプレイビヒクル。
【請求項14】
繊維状バクテリオファージがM13である、請求項12に記載のファージディスプレイビヒクル。
【請求項15】
抗体がIgGクラスである、請求項12に記載のファージディスプレイビヒクル。
【請求項16】
前記プロテインAまたはそのフラグメントもしくは変異体に結合した抗体がモノクローナル抗体である、請求項12に記載のファージディスプレイビヒクル。
【請求項17】
前記モノクローナル抗体が、Aβ1−42またはAβ1−40のアミロイドβペプチドに対して生じたモノクローナル抗体または該アミロイドβペプチドに対して特異的なモノクローナル抗体である、請求項16に記載のファージディスプレイビヒクル。
【請求項18】
前記モノクローナル抗体が、脳の疾患、障害または状態と関連したターゲット分子に対して特異的である、請求項16に記載のファージディスプレイビヒクル。
【請求項19】
前記脳の疾患、障害または状態がプラーク形成疾患または障害である、請求項18に記載のファージディスプレイビヒクル。
【請求項20】
請求項1または請求項12に記載のファージディスプレイビヒクルと、薬学的に許容される担体、賦形剤、希釈剤または佐剤を含む医薬組成物。
【請求項21】
脳の疾患、障害または状態を処置または抑制することを必要としている被検体に有効量の請求項1または請求項12のファージディスプレイビヒクルを鼻腔内に投与して、脳の疾患、障害または状態を抑制または処置することを含む、脳の疾患、障害または状態を処置または抑制するための方法。
【請求項22】
前記脳の疾患、障害または状態がプラーク形成疾患または障害である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
プラーク形成疾患または障害がアルツハイマー病である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
ファージディスプレイビヒクル上にディスプレイされた前記プロテインAまたはそのフラグメントもしくは変異体に結合した抗体が、アミロイドβペプチドに対して特異的な抗体である、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記抗体がアミロイドβペプチド1−42または1−40に対して特異的である、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
プラーク形成疾患がプリオン病である、請求項22に記載の方法。
【請求項27】
前記脳の疾患、障害または状態が脳腫瘍である、請求項21に記載の方法。
【請求項28】
前記脳の疾患、障害または状態が、脳炎症性疾患、障害または状態である、請求項21に記載の方法。
【請求項29】
被検体が哺乳動物である、請求項21に記載の方法。
【請求項30】
被検体がヒトである、請求項21に記載の方法。
【請求項31】
前記プロテインAまたはそのフラグメントもしくは変異体に結合した前記免疫複合体が、インスリンと抗インスリン抗体の免疫複合体である、請求項21に記載の方法。
【請求項32】
脳の疾患、障害または状態を診断することを必要としている被検体に請求項1または請求項12に記載のファージディスプレイビヒクルを鼻腔内に投与し;そして
ファージディスプレイビヒクルを、脳の疾患、障害または状態と関連したターゲット分子に結合したその抗体成分により検出して、脳の疾患、障害または状態の存在を診断する、
ことを含む、脳の疾患、障害または状態を診断するための方法。
【請求項33】
抗体が検出可能に標識される、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
抗体が、放射性核種により検出可能に標識されている、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
抗体が造影剤で検出可能に標識されている、請求項33に記載の方法。
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図10A】
【図10B】
【図1B】
【図1C】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図10A】
【図10B】
【公表番号】特表2009−529320(P2009−529320A)
【公表日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−555489(P2008−555489)
【出願日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際出願番号】PCT/US2007/062238
【国際公開番号】WO2007/095616
【国際公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【出願人】(502435775)ラモット・アット・テルアビブ・ユニバーシティ (3)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際出願番号】PCT/US2007/062238
【国際公開番号】WO2007/095616
【国際公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【出願人】(502435775)ラモット・アット・テルアビブ・ユニバーシティ (3)
【Fターム(参考)】
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