説明

脳卒中後の反射性交感神経性ジストロフィー発症予防剤

【課題】脳卒中後の初発反射性交感神経性ジストロフィー(RSD)に対して予防効果を有する医薬の提供。
【解決手段】ニワトリカルシトニン、ウナギカルシトニン、ヒトカルシトニン及びブタカルシトニン等の天然型カルシトニンまたはカルシトニン誘導体を有効成分として含有する脳卒中後のRSD発症予防剤。また、天然型カルシトニンまたはカルシトニン誘導体を投与して脳卒中後のRSD発症を予防する方法並びに脳卒中後のRSD発症予防剤を製造するための天然型カルシトニンまたはカルシトニン誘導体の使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脳卒中後に発症する反射性交感神経性ジストロフィーに対して発症予防効果を有する天然型カルシトニンまたはカルシトニン誘導体を有効成分として含有する医薬に関する。
【背景技術】
【0002】
反射性交感神経性ジストロフィー(Reflex Sympathetic Dystrophy:以下、RSDと略することがある)は疼痛、痛覚過敏、運動障害、自律神経障害などの臨床症状を特徴とする、主として四肢の外傷・外科的侵襲を契機に発症する疾患であるが、しばしば脳卒中や心筋梗塞など、体幹部における血管障害を契機としても発症する。脳卒中や心筋梗塞後のRSDは、肩手症候群(Shoulder−Hand Syndrome)として発症することが多い(非特許文献1)。
【0003】
肩手症候群はRSDの1種であり、肩関節から手にかけての領域にRSD症状が発生する。すなわち多くの場合、肩の痛みが始まると同時に、または少し遅れて手指における屈曲時の痛みとこわばり、手背の腫脹、手掌の多汗などが発生する(非特許文献1)。上肢における有痛性の運動制限は、脳卒中や心筋梗塞に伴う麻痺を克服するためのリハビリテーションにとって重大な障害因子となるだけでなく、患者のQOL(Quality of Life)、およびADL(Activities of Daily Living)にも深刻な影響を与える(非特許文献2)。疫学調査によれば心筋梗塞患者の10〜20%(非特許文献1、非特許文献3)、脳卒中患者の23〜70%(非特許文献4)にこのような肩手症候群が発症する。本疾患は治療抵抗性であり、重篤な後遺障害を残すことも少なくない。また一度寛解しても再燃し易い(非特許文献1)。
【0004】
RSD、肩手症候群に対する様々な治療方法がこれまでに報告されてきたが、未だ系統だった治療方法は確立されていない(非特許文献2、非特許文献5)。臨床現場では、例えば低用量ステロイドが用いられているが、ステロイドの長期服用による様々な副作用(易感染性、骨密度低下、糖代謝異常、胃潰瘍など)を回避する目的からその使用は短期間に制限され、疾病の長期管理は難しいとされている。交感神経に局所麻酔を繰り返し行う神経ブロックも好んで施行される治療法であるが、注射部位の組織が癒着し、将来その部位に手術が必要になった場合に手術が困難となる点や、脳循環改善剤や血栓溶解剤など抗凝固作用のある薬物治療中には、ブロックによる血腫形成の危険性が存在する点など問題点も多い。
【0005】
このようにRSDは一旦発症すると治療難易度が極めて高いため、RSDの発症そのものを予防することが現状では肝要である。
【0006】
外傷・外科的侵襲を契機に発症するRSDに対してはビタミンCの初発予防効果(非特許文献6)、天然型カルシトニンの再発予防効果(非特許文献7、非特許文献8)がそれぞれ臨床的に実証されている。しかし、脳卒中を契機として発症するRSDに対しては、長期連投が難しいステロイドを除いて、安全、且つ充分な予防効果が実証された医薬は未だ報告されていない。唯一、脳卒中後RSDの発症が、肩や麻痺肢の負荷制限によって8〜18.5%に抑制されたとの報告(非特許文献9、非特許文献10)があるが、この効果は本疾患の重篤性に照らし合わせれば未だ充分なものではない。
【0007】
天然型カルシトニンは哺乳類においては甲状腺細胞から分泌される32個のアミノ酸からなるポリペプチドである。天然型カルシトニンまたはカルシトニン誘導体は、破骨細胞に作用して骨吸収を抑制し、血中カルシウム濃度を低下させることから、高カルシウム血症や骨粗鬆症に対する治療薬および/または予防薬として臨床的に使用されてきた。また、天然型カルシトニンまたはカルシトニン誘導体は骨粗鬆症に伴う腰背部痛、癌性疼痛、炎症性疼痛など、ある種の疼痛に対して鎮痛作用を持つことが広く知られており、また既に発症しているRSDに対しても治療効果が報告されている(非特許文献11、12)。
【0008】
一方、天然型カルシトニンのRSD発症予防効果については、前記のとおり、外傷・外科的侵襲を契機に発症するRSDの既往歴のある患者において再発予防効果が報告されている(非特許文献7、非特許文献8)。一方で、外傷・外科的侵襲後であってRSD既往歴がない対象者のRSD発症に対して初発予防効果が無いことも報告されている(非特許文献13)。
【0009】
こうした状況の中、脳卒中後に発症するRSDを安全、且つ、充分な効果でもって予防する新たな薬剤または治療法の開発が切望されていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】石橋徹“反射性交感神経性ジストロフィー”.整形外科 痛みへのアプローチ5、肩の痛み(寺山和雄、片岡 治監修).183−197.1998年.南江堂
【非特許文献2】山鹿眞紀夫ら“肩手症候群”.痛みと臨床.4(2).115−122.2004
【非特許文献3】CasaleR. et al.: Increased sympathetic tone in the left arm of patients affected bysymptomatic myocardial ischemia., Funct. Neurol., 4, 161-163, 1989.
【非特許文献4】DavietJ C. et al.: Clinical factors in the prognosis of complex regional painsyndrome type I after stroke: a prospective study., Am. J. Phys. Med. Rehabil.,81, 34-39, 2002.
【非特許文献5】山鹿眞紀夫ら“反射性交感神経性ジストロフィーの治療”.神経内科.54.306−314.2001
【非特許文献6】ZollingerP E. et al.: Effect of vitamin C on frequency of reflax sympathetic dystrophyin wrist fractures: a randomized trial., Lancet, 354, 2025-2028, 1999.
【非特許文献7】KisslingR O. et al.: Prevention of recurrence of Sudeck's disease with calcitonin.,Rev. Chir. Orthop. Reparatrice Appar. Mot., 77, 562-567, 1991.
【非特許文献8】MarxC. et al.: Preventing recurrence of reflax sympathetic dystrophy in patientsrequiring an operative intervention at the site of dystrophy after surgery.,Clin. Rheumatol., 20, 114-118, 2001.
【非特許文献9】KondoI. et al.: Protocol to prevent shoulder-hand syndrome after stroke., Arch.Phys. Med. Rehabil., 82, 1619-1623, 2001.
【非特許文献10】BrausD F. et al.: The shoulder-hand syndrome after stroke: a prospective clinical trial.,Ann. Neurol., 36, 728-733, 1994.
【非特許文献11】WadeS. et al.: A critical review of controlled clinical trials for peripheralneuropathic pain and complex regional pain syndromes., PAIN, USA, 73, 123-139,1997.
【非特許文献12】AntonioQuatraro: Calcitonin in painful diabetic neuropathy.,Lancet, 339, 746-747,1992.
【非特許文献13】RiouC. et al.: Can algodystrophy be prevented by thyrocalcitonin?, Rev. Chir.Orthop. Reparatrice Appar. Mot., 77, 208-210, 1991.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、脳卒中後のRSDに対して優れた予防効果を有する新規な医薬を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、本件課題を解決するに際して、大胆にも、外傷・外科的侵襲を契機に発症するRSDの予防と脳卒中後のRSDの予防において薬剤反応性が異なると仮定し、敢えて外傷・外科的侵襲後であってRSD既往歴がない対象者のRSD発症に対して初発予防効果が無いことが報告されているカルシトニン類について鋭意研究した結果、全く意外にも、RSDの初回発症をカルシトニン類が著明に予防したことを示す臨床成績を得た。
【0013】
カルシトニン製剤は外科手術・外傷後のRSDの再発予防に有効との報告があるが初発予防には無効と報告されているので、RSDの再発予防と発症予防は明確に区別する必要がある。
【0014】
また、RSDの発症原因は解明されておらず、外科手術・外傷後と脳卒中後RSDで薬剤の反応性が異なることは予想できない。実際、カルシトニン製剤はもちろん他の薬剤も脳卒中後と外科手術・外傷後RSDで薬剤の反応性が異なるとの報告は全く無い。脳卒中後のRSD発症予防が予想不可能である理由は、上記の様に脳卒中後のRSD発症の発症病因が理解されていないからである。
【0015】
さらに外科手術・外傷後の再発原因や再発しやすい患者の特徴は不明であるし、RSD発症後の治療においては治療に抵抗する症例が多く、カルシトニン製剤による治療が有効な患者の特徴は明らかではない。
従って、先行技術から脳卒中後のRSD発症予防にカルシトニン製剤が有効であることは全く予想できない。
【0016】
むしろ、カルシトニン類は、既に発症しているRSDに対する治療効果や外傷・外科的侵襲後のRSD既往者におけるRSD再発予防効果が知られていたとはいえ、当該RSD既往歴のない対象者に対してはその初発予防効果がないとの報告からすれば、そのようなRSD既往歴のない対象者、とりわけ脳卒中などの外傷・外科的侵襲とは異なる履歴を有する対象者においてカルシトニン類を使用することの意義に関して、従来技術はむしろ否定的だったといえる。
【0017】
しかしながら、驚嘆すべきことに、本発明者は、具体的には、脳卒中による片麻痺患者で、入院時にまだRSDを発症していない患者を対象にウナギ・カルシトニン誘導体(エルカトニン)を連投したところ、投与しなかった患者群に比べて、退院時までの間のRSD発症率が有意かつ著明に抑制されていたことを見出して本発明を完成させるに至った。さらにエルカトニンを連投した患者群では試験期間中、重大・重篤な副作用は全く観察されなかった。このため、本発明は安全性に優れた脳卒中後のRSD発症予防剤、特に脳卒中後の初発RSD発症に対する予防剤として臨床上有用で、且つ極めて画期的なものである。
【0018】
すなわち、本発明は、以下に関する。
(1)天然型カルシトニンまたはカルシトニン誘導体を有効成分として含有する脳卒中後のRSD発症予防剤。
(2)天然型カルシトニンがサケ・カルシトニンである上記(1)記載のRSD発症予防剤。
(3)カルシトニン誘導体がエルカトニンである上記(1)記載のRSD発症予防剤。
(4)脳卒中発作後59日未満に投与を開始し、発作後5ヶ月後まで投与することを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれか一つに記載のRSD発症予防剤。
(5)上肢あるいは手指のブルンストロームステージがIII以下の患者に投与することを特徴とする(1)〜(4)のいずれか一つに記載のRSD発症予防剤。
(6)脳卒中後のRSD発症予防剤が、脳卒中後の初発RSD発症予防剤である(1)〜(5)のいずれか一つに記載のRSD発症予防剤。
(7)天然型カルシトニンまたはカルシトニン誘導体を使用して脳卒中後のRSD発症を予防する方法。
(8)脳卒中後のRSD発症予防剤を製造するための天然型カルシトニンまたはカルシトニン誘導体の使用。
【発明の効果】
【0019】
本発明によって脳卒中後に発症するRSDを安全、且つ効果的に予防することが可能となり、また本発明によって脳卒中に伴う麻痺を克服するためのリハビリテーションが潤滑に施行でき、且つ、患者のQOL、ADLの向上・改善に対して貢献することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本願発明について具体的に説明する。
【0021】
本発明における脳卒中後のRSD発症予防剤の有効成分として有用なカルシトニン類としては、種々の天然型カルシトニン、またはカルシトニン誘導体等が挙げられる。
【0022】
天然型カルシトニンの例としては、ニワトリカルシトニン、ウナギカルシトニン、ヒトカルシトニン、サケカルシトニン、またはブタカルシトニン等が挙げられ、ウナギカルシトニン、サケカルシトニン(Helv.Chim.Acta(1969),52(7),1789−95)が好ましい例として挙げられ、ウナギカルシトニンが特に好ましい例として挙げられる。また、別の態様としては、サケカルシトニンが好ましい場合もある。
【0023】
カルシトニン誘導体としては、天然型カルシトニンのペプチド類似体が挙げられる。具体的には、前述の天然型カルシトニンの構造に基づいて、その1,7位のジスルフィド結合を化学的に修飾した化合物等が挙げられ、より具体的には、[ASU1-7]ニワトリカルシトニン、[ASU1-7]ウナギカルシトニン(特公昭53−41677号公報に記載の化学名1−ブチル酸−7−(L−2−アミノブチル酸)−26−L−アスパラギン酸−27−L−バリン−29−L−アラニンカルシトニン;以下「エルカトニン」と称することもある)等が好ましい例として挙げられ、[ASU1-7]ウナギカルシトニン(エルカトニン)が特に好ましい例として挙げられる。本発明における脳卒中後のRSD発症予防剤の有効成分として有用なカルシトニンとしては、エルカトニン、又はサケカルシトニンが特に好ましく、エルカトニンが最も好ましい。又、サケカルシトニンが最も好ましい別の態様もある。
【0024】
これらのカルシトニンまたはカルシトニン誘導体は極めて低毒性であり、例えばエルカトニンをマウスおよびラットに静脈内、筋肉内、皮下、経口の各経路で13500または7400単位/kg(体重)投与しても致死的毒性は全く観察されなかった。
【0025】
本明細書中で「脳卒中」とは、脳に分布する血管が詰まる、または破裂することで脳組織が障害を受け、または壊死に至る疾患として定義され、これは一般的には「脳血管障害」とも称されるので、本明細書中では両用語が互換可能に用いられる場合がある。
【0026】
やや詳しく言うと、脳卒中は主に、出血性脳血管障害と虚血性脳血管障害の2つの病型に分類され、出血性脳血管障害には脳内出血、くも膜下出血などが含まれる。
【0027】
一方、虚血性脳血管障害には脳梗塞が挙げられ、脳梗塞はさらに脳血栓と脳塞栓の2つに分類される。脳血栓は脳の動脈硬化が進行して血管が狭窄し、狭窄部位から先の脳組織に血液が送られなくなった状態を指し、脳血栓はさらにラクナ梗塞、アテローム血栓性梗塞などに分類される。また脳塞栓は血液や脂肪等のかたまりが、脳に運ばれ、脳血管がつまる状態を指す。脳塞栓では心臓弁膜症、心筋梗塞などの心臓疾患から生じることが多い。
【0028】
脳卒中にはこの他、一過性脳虚血(TIA)、高血圧性脳症、脳動脈硬化症なども含まれる。脳卒中に該当または分類される疾患については、例えば、「脳血管障害の内外分類史と現分類(平井俊策.日本臨床.1993年増刊号.CT、MRI時代の脳卒中学.7−19.(日本臨床社刊))に詳細に記載されている。本発明の投与対象となる疾患は、本明細書に上記で定義された脳卒中の病態を示すものであれば何でも良く、特定の疾患に限定されるものではない。
【0029】
本明細書で使用する「患者」という語は、例えば日本循環器管理研究協議会などで作成された診断基準や、各医療施設・研究施設ごとに設定された診断基準を基に、脳卒中と診断された、生きた脊椎動物、好ましくはヒトを指し、本発明による脳卒中後のRSD発症予防剤を投与することが出来る。
【0030】
本明細書で使用する「反射性交感神経性ジストロフィー(Reflex Sympathetic Dystrophy:RSD)」という語は、1993年のVeldmanらの診断基準(Veldmanら“Signs and Symptoms of reflex sympathetic dystrophy:prospective study of 829 patients”,Lancet,342,1012−1016,1993)、または1994年の国際疼痛学会において複合性局所性疼痛症候群−I型(CRPS−type1(complex regional pain syndrome type I))として、あるいは2005年の国際疼痛学会で提唱されたCRPS(type Iとtype IIの区別は無い)として定義された疾患を示す。
【0031】
もともとRSDとは末梢神経損傷後、あるいは神経損傷とは無関係に発症し、四肢の耐えがたい異常な疼痛や刺激に対する過敏状態を主症状とし、比較的限局性の自律神経症状を伴う症候群として定義されていた(Jani W.:Is the reflex sympathetic dystrophy a neurological disease?,In Reflex sympathetic dystrophy,VCH,New York,1992,pp9−26)が、1994年に国際疼痛学会がCRPSという疾患概念を提唱し、末梢神経損傷後の耐えがたい灼熱痛(カウザルギー;causalgia)を伴うものをCRPS−type 2、それ以外の従来のRSDをCRPS−type 1として分類した。国際疼痛学会によるCRPS−type 1の診断基準としては、1)侵害事象を契機として発症する症候群である。2)自発痛、異痛症(アロディニア)、痛覚過敏をきたす。これらは単一の末梢神経支配領域に限局することがなく、口火となった出来事とも不均衡である。3)契機となった出来事以後、浮腫、皮膚血流異常、異常発汗活動が疼痛と同じ部位に生じる。4)このような疼痛、機能異常を生じ得る他の条件の存在を否定できる。ことが挙げられており、これらの基準に則って適宜、臨床診断される(高橋 昭“反射性交感神経性ジストロフィーの病態と診断”.神経内科.54.292−296.2001)。
【0032】
CRPS−type 1、あるいはCRPSに分類される疾患としては、肩手症候群(Shoulder−hand syndrome)、小外傷性ジストロフィー(Minor traumatic dystrophy)、重症外傷性ジストロフィー(Major traumatic dystrophy)などが挙げられる。肩手症候群は、肩関節から手にかけての有痛性運動制限ならびに手の特有な腫脹、色調異常、熱感などを特徴とする疾患であり、臨床経過に伴って、同側の肩と手の痛み、運動制限、MP関節〜手背部の腫脹、骨萎縮、アロディニア、痛覚過敏、皮膚の萎縮と皮膚温の低下、硬性浮腫、皮下組織の萎縮、関節拘縮、筋萎縮などが進行し、重篤な場合は廃用肢に至る(山鹿眞紀夫ら“肩手症候群”.痛みと臨床.4.115−122.2004)。肩手症候群、小外傷性ジストロフィー、重症外傷性ジストロフィーも本発明による脳卒中後のRSD発症予防剤による予防の対象となる。
【0033】
本発明の脳卒中後のRSD発症予防剤を製造するにあたっては、活性成分である天然型カルシトニンまたはカルシトニン誘導体に、必要により製薬上許容される補助成分を添加して医薬組成物となすことが好ましい。ただし、通常の使用状況下で天然型カルシトニンまたはカルシトニン誘導体の薬学的効力を実質上、低下させるような相互作用がないように、補助成分の選択と活性成分との混合を適合化させる必要がある。また薬学上許容される補助成分は勿論、患者への投与に際して何ら安全上の問題が無いほど、充分に高い純度と充分に低い毒性とを兼ね備えていなければならない。薬学上許容される補助成分としては、ラクトース、グルコース、スクロースなどの糖類、コーンスターチ、ポテトスターチなどのデンプン、セルロースとナトリウムカルボキシメチルセルロース、エチルセルロース、酢酸セルロースなどのセルロース誘導体、粉末トラガカント、ゼラチン、タルク、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、ピーナッツ油、綿実油、ゴマ油、オリーブオイル、コーン油、テオブロマ油などの植物油、プロピレングリコール、グリセリン、ソルビトール、マンニトール、ポリエチレングリコールなどのポリオール類、寒天、アルギン酸、等張液、リン酸緩衝液などの緩衝剤、ラウリル硫酸ナトリウムなどの湿潤剤および滑沢剤、着色剤、香味剤、保存剤、安定剤、酸化防止剤、防腐剤、抗微生物剤などが挙げられる。
【0034】
本発明における天然型カルシトニンまたはカルシトニン誘導体の薬剤形態としては、例えば注射剤、直腸吸収剤、膣吸収剤、経鼻吸収剤、経皮吸収剤、経肺吸収剤、口腔内吸収剤、経口投与剤などが挙げられ、注射剤、経鼻吸収剤、経肺吸収剤、経口投与剤が好ましく、注射剤が特に好ましい。また、経皮吸収剤が好ましい別の態様、経鼻吸収剤が好ましい別の態様、経肺吸収剤が好ましい別の態様、経口投与剤が好ましい別の態様がある。これらの投与形態は何ら限定されるものではない。
【0035】
本発明における天然型カルシトニンまたはカルシトニン誘導体を注射剤として投与する場合には、好ましくは筋肉内投与、皮下投与、皮内投与または静脈内投与のために使用されるもので、直腸吸収剤・膣吸収剤として投与する場合には一般に坐薬の形態で使用され、経鼻吸収剤・経皮吸収剤として投与する場合には適当な吸収促進剤を添加した製剤の形態で使用され、経皮吸収剤として投与する場合には吸収促進剤や電気エネルギーを用いて、または皮膚の擦過等物理的に薬物の透過性を高め、薬剤を含有する貼付剤やテープ剤の形態、或いは、皮膚への貼付面に微細な針を設け、そこから薬剤が染み出るタイプや微細な針に薬剤が塗られているタイプの貼付剤の形態で使用される。さらに経肺吸収剤として投与する場合には適当な分散剤もしくは水、および噴射剤を含有するエアゾール組成物の形態で使用される。口腔内吸収剤として投与する場合には適当な吸収促進剤を添加して例えば舌下錠などの形態で使用され、また経口投与剤として投与する場合にはリボゾーム製剤、マイクロカプセル製剤などの経口用としての形態で使用される。
【0036】
本発明における天然型カルシトニンまたはカルシトニン誘導体を注射剤として処方する場合には、例えばエルカトニンを緩衝剤、等張化剤、pH調節剤を適量溶解した注射用蒸留水に溶解し、除菌フィルターを通して滅菌したものをアンプルに分注することによって調製され得る。直腸吸収剤、膣吸収剤は、例えばエルカトニンをベクチン酸ナトリウムやアルギン酸ナトリウムなどのキレート能を有する吸収促進剤、塩化ナトリウムやグルコースなどの高張化剤を適宜選択使用して、蒸留水または油性溶媒に溶解または分散して直腸・膣注入坐剤または坐剤として調製される(英国特許第2092002号明細書、同第2095994号明細書参照)。
【0037】
本発明における天然型カルシトニンまたはカルシトニン誘導体を経鼻吸収剤として投与する場合には、例えばエルカトニンに水溶性有機酸であるグルクロン酸、コハク酸、酒石酸などの吸収促進剤を添加した液剤あるいは粉末剤として調製される(特開昭63−243033号公報、特開昭63−316737号公報、特開平1−230530号公報、特開平2−000111号公報、特開平2−104531号公報)。更に、例えばエルカトニンに適宜乳剤を加えて経鼻吸収剤を得ることもできる(特開平4−99729号公報)。さらに、キトサンで被覆したナノスフェアを用い、天然型カルシトニンまたはカルシトニン誘導体を処方した水溶液を特公平7−8806号公報に例示されている鼻内投与用メカニカルスプレー噴霧装置適応バイアルに無菌的に充填して経鼻製剤を得ることができる。
【0038】
本発明における天然型カルシトニンまたはカルシトニン誘導体を経皮吸収剤として投与する場合には、例えばサケカルシトニンに、エーゾン(Azone)などの吸収促進剤を添加して皮膚からの吸収を促進させる方法が報告されている(日本薬剤学会第2年会、講演要旨集p57−58)し、またイオントフォレーシスによる方法(Ann.N.Y.Acad.Sci.,507,32,1988)で天然型カルシトニンまたはカルシトニン誘導体の経皮吸収剤を得てもよい。さらに、皮膚への貼付面に微細な針を設け、そこから薬剤が染み出るタイプの貼付製剤を含み、例えば、特表2004−528900号公報に開示されている貼付製剤について、天然型カルシトニンまたはカルシトニン誘導体を処方したものが例示される。また、特許3054175号公報に開示されているようにn−オクチル−β−D−グルコピラノシドなどの吸収促進剤およびベスタチンなどの蛋白分解酵素阻害剤を含み、天然型カルシトニンまたはカルシトニン誘導体を処方したものが例示される。
【0039】
本発明における天然型カルシトニンまたはカルシトニン誘導体を経肺吸収剤として処方する場合には、天然型カルシトニンまたはカルシトニン誘導体を例えばアルラセル、スパン80などの分散剤と共に粉砕研和して均質なペーストとし、次いでこのペーストを冷却したフレオン11、フレオン12などの噴射剤中に分散させた後、弁を備えた容器に充填して得る方法がある(特開昭60−161924号公報)。さらに、経肺吸収剤の例としては、特開2000−143533号公報に開示されているように生分解性ポリマーである乳酸・グルコール酸重合体共重合体の核部分を、粘膜付着性高分子であるキトサンで被覆したナノスフェアを用い、天然型カルシトニンまたはカルシトニン誘導体を処方した製剤が挙げられる。
【0040】
また本発明における天然型カルシトニンまたはカルシトニン誘導体を口腔内吸収剤として処方する場合には、天然型カルシトニンまたはカルシトニン誘導体に例えばアスコルビン酸類、酸性アミノ酸類、クエン酸類、不飽和脂肪酸類、サリチル酸類などを単独、あるいは2種類以上を組み合わせ、グルコースなどの賦形剤、メントールなどの矯味矯臭剤などを添加してトローチ剤、舌下錠、粉末剤などとして得ることができる(特開昭56−140924号公報)。さらに経口投与剤は例えばW/O/Wエマルジョンを用いた方法(Endocrinol.Jpn.,23,493,1976)で天然型カルシトニンまたはカルシトニン誘導体を調剤してもよいし、またリボゾーム製剤の方法 (Hormone Res.,16,249,1982)で天然型カルシトニンまたはカルシトニン誘導体を調剤してもよい。また経口投与剤としては、米国特許5990166に開示されているようにカプリル酸誘導体を吸収促進剤として用い、あるいは特開平11−116499号公報に開示されているようにキトサンで被覆したナノスフェアを用い、天然型カルシトニンまたはカルシトニン誘導体を処方した製剤が挙げられる。また、「Pharmazie、61(2)、106‐111、2006」に開示されているように、ドデシル化したキトサンで被覆したリポゾームを用いて消化管に付着し、吸収性と持続性を向上させ、天然型カルシトニンまたはカルシトニン誘導体を処方された製剤も経口吸収剤の例として挙げられる。ただし、これらに限定されないことは言うまでもない。
【0041】
また本発明における天然型カルシトニンまたはカルシトニン誘導体は、持続投与製剤として処方することも可能である。持続投与とは、薬剤を一定時間以上、連続的に体内へ放出する投与方法を意味し、全身性投与あるいは末梢組織への局所投与であれば投与経路は問わないが、例えば、インフュージョンポンプや輸液ポンプなどの機器を使った投与または手動での投与、生体内で分解される高分子を担体として用いる徐放製剤を例えば皮下、筋肉内への投与あるいは経鼻吸収剤、経肺吸収剤、経口投与剤としての投与などが挙げられる。この場合の持続投与時間としては、8時間以上が好ましく、12時間以上がさらに好ましく、16時間以上が特に好ましい。
【0042】
本発明における脳卒中後のRSD発症予防剤に活性成分として含まれる天然型カルシトニンまたはカルシトニン誘導体は、患者の年齢、体格、性別、片麻痺を始めとする後遺症の程度、投与されるカルシトニン誘導体の比活性、薬剤形態などによって異なるが、例えば筋肉内注射として用いられるエルカトニンの有効投与量は0.5〜5000単位/ヒト/日(週)であり、好ましくは0.7〜1000単位/ヒト/日(週)であり、さらに好ましくは1〜400単位/ヒト/日(週)であるので、これを参考に患者の状態や本発明の予防剤の形態に合わせて適宜調整すればよい。天然型カルシトニンまたはカルシトニン誘導体の投与回数は1日1〜2回でもよく、また毎日または週1〜3回であってもよい。薬剤中における天然型カルシトニンまたはカルシトニン誘導体の量は適宜決められるが、要は1回投与あたりのカルシトニン活性において、エルカトニン注射剤の0.5〜5000単位の相当量に定めれば充分である。例えば、「Calcif Tissue Int.、46、5‐8、1990」に開示されているようにサケカルシトニンの経鼻吸収剤200単位をヒトに投与した場合の投与後の血中濃度は37pg/mLであり、エルカトニン20単位を筋肉内投与した際の最高血中濃度(Biol. Pharm. Bull.、18(6)、900,1995)とほぼ同濃度であること、サケカルシトニンの比活性(J Bone Miner Res 17、1478−1485、2002)とエルカトニンの比活性(現代の診療、20(12)、2217,1978)は同等であることから経鼻吸収剤の投与量は注射剤の投与量の約10倍と見積もることも可能である。また、例えば「J Bone Miner Res 17、1478−1485、2002」に開示されているようにサケカルシトニンの経口投与剤の投与量は点滴静脈内投与との血中濃度比から点滴静脈内投与の約60倍であることと、エルカトニン筋肉内投与で点滴静脈内投与と同等の最高血中濃度を得るためには約1.5倍の投与量が必要であること(社内資料)から経口吸収剤の投与量は注射剤の投与量の約90倍と見積もることも可能である。このように各種投与形態における天然型カルシトニンまたはカルシトニン誘導体の投与量を血中濃度から設定することができる。更に、ソリタT−3などの適当な輸液に天然型カルシトニンまたはカルシトニン誘導体を適量溶解して、例えば1〜数時間以上かけて静脈内に点滴投与してもよい。この場合、天然型カルシトニンまたはカルシトニン誘導体の投与量は血中カルシウム濃度を変動させない投与量であることが望ましく、例えばラットでは0.75ミリ単位/kg/週から75単位/kg/週の間が好ましく、また75単位/kg/週から400単位/kg/週が好ましい態様もあり、ヒトを含めた他の動物種の場合もこの値を参考にして設定することができる。
【0043】
さらに本発明における天然型カルシトニンまたはカルシトニン誘導体は、日常診療でRSD治療薬として使用されている他剤、例えば消炎鎮痛薬、ステロイド、低用量ステロイド、麻薬性鎮痛薬、抗鬱薬、抗痙攣薬、ケタミン、ノイロトロピン、ビスホスホネート製剤、塩酸サルポグレラート、塩酸メキシレチンなどの中から一つ、もしくは複数の薬剤を選択して、併用もしくは合剤として調剤し投与することができる。また交感神経ブロックや末梢神経ブロックなどの各種神経ブロック療法や、理学療法、心理療法などと組み合わせて天然型カルシトニンまたはカルシトニン誘導体を投与することも可能である。
【0044】
本発明の天然型カルシトニンまたはカルシトニン誘導体が投与される対象は全ての脳卒中患者であるが、RSDは脳卒中に伴う片麻痺が重症であるほど発症頻度が多いことが報告されているため、中でも片麻痺の程度が重症である患者に投与されることが望ましい。片麻痺の程度を診断する方法としては、例えばブルンストロームステージ(Brunnstrom Stage)を用いて上肢あるいは手指の片麻痺度を診断することが可能である。該診断で判定されるステージIII以下の重症例(手指:随意的手指の伸展が不可能。上肢:屈筋−伸筋共同運動が出現。など)でRSDの発症が多いことから、本発明の天然型カルシトニンまたはカルシトニン誘導体は、該診断でステージIII以下と判定された片麻痺重症患者に投与されることがさらに大変望ましい。また、SIAS(stroke impairment assessment set)などで麻痺の程度を診断することも可能である。本発明の天然型カルシトニンまたはカルシトニン誘導体は、上肢近位あるいは上肢遠位のSIASが0から2と判定された片麻痺重症患者に投与されることが望ましい場合もある。
【0045】
本発明における天然型カルシトニンまたはカルシトニン誘導体の投与は、試験例から明らかであるように、脳卒中発作後59日以内に投与を開始すればよく、好ましくは発作後59日未満、より好ましくは発作後57日以内、さらに好ましくは発作後55日以内、特に好ましくは発作後50日以内、特に大変好ましくは発作後48日以内に投与を開始するのが望ましい。また、好ましくは発作後30日未満、より好ましくは発作後10日未満に投与を開始する態様もある。
【0046】
また脳卒中後RSD発症例の95%が発作後5ヶ月以内に集中していることから、本発明の天然型カルシトニンまたはカルシトニン誘導体は、脳卒中発作後5ヶ月まで投与することが原則であるが、患者の状態に応じて臨床医の判断により5ヶ月を越えて投与を継続することも、また逆に投与期間を短縮することも可能である。
【0047】
また、本発明の予防剤は、脳卒中後の反射性交感神経性ジストロフィー発症を予防することから、肩手等が廃用性になることで起こる種々の疾病、例えば、骨萎縮等を予防することもできる。このような予防剤、予防方法も本発明の範囲内である。
【実施例】
【0048】
以下に本発明の実施例および参考例を挙げて詳しく説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。
[実施例1]脳卒中後のRSD発症予防試験
脳血管障害(脳卒中)による片麻痺患者で入院時の上肢あるいは手指のブルンストロームステージの何れかがIII以下であった32名を対象とした。入院時にRSD(肩手症候群)を発症していた患者、肩関節痛あるいは麻痺肢の腫脹があった患者は除外した。32名のうち11名に関しては入院直後からエルカトニン20単位(エルシトニン注20S:旭化成ファーマ(株)、以下EL)を週1回、筋肉内投与した(EL投与群)。一方、21名はリハビリ単独群(対照群)としてEL投与群と比較した。全症例とも理学療法、作業療法、物理療法および麻痺肢の管理を徹底して行い、リハビリの内容には両群で差はなかった。EL投与は脳卒中発作後11日〜59日後、平均25.8日から開始し、脳卒中発作から5ヶ月後まで投与した。対照群も同じ観察期間とした。また診断では、肩関節に限局しないびまん性疼痛、色調変化を伴う浮腫、皮膚温度異常および関節可動域制限があり、リハビリ実施が制限された場合をRSD(肩手症候群)発症とした。これらはVeldmanの診断基準あるいは国際疼痛学会によるCRPS−type1の診断基準に合致していた。
【0049】
日常生活動作(ADL)の評価はバーサルインデックス(BI)と肩関節の可動域制限角度を用いた。肩関節の可動域は外転、屈曲を測定し、何れかが制限された場合に、可動域制限ありとした。入院時の感覚障害、失語、および半側空間無視についても調査した。
【0050】
統計解析は対応の無いt検定、Fisherの直接確率検定あるいはWilcoxon検定を使用し、危険率5%以下を有意とした。
【0051】
Table1に示すように年齢、男女比、原疾患の種類、麻痺のステージ、失語の有無、半側空間無視の有無、感覚障害の程度、肩関節の制限の有無、肩の痛みの有無については何れの項目も対照群とEL投与群間で有意な差は認められなかった。さらに入院時のBIも有意な差は認められなかった。
【0052】
【表1】

【0053】
次いで試験後のRSD(肩手症候群)の発症数をTable 2に示した。対照群では21例中11例(52.4%)でRSDが発症していた。一方、EL予防投与群でRSDを発症したのは12例中1例(8.3%)であり、対照群と比較して有意に発症数(人数)が少なかった。これらの発症率を種々の報告と同様に、当施設のおける脳血管障害(脳卒中)による片麻痺患者全体での発症率に変換すると対照群は約8.7%、EL投与群では約1.3%であった。さらに詳細に解析すると、EL予防投与群でRSDを発症した1例は脳卒中後59日目から投与を開始した例であり、他の例、すなわちEL投与を脳卒中後48日以内に開始した場合の発症率は0%であり顕著な予防効果が認められた。
【0054】
RSDの発症過程においては、びまん性疼痛、色調変化を伴う浮腫および皮膚温度異常がほぼ同時に発生し、可動域制限は若干遅れて発生した。しかしながら、各症状が単独で発生した症例は無かった。
【0055】
【表2】

【0056】
[参考例1]脳卒中後のRSD治療試験
脳血管障害(脳卒中)による片麻痺患者で入院時の上肢あるいは手指のブルンストロームステージの何れかがIII以下でRSD(肩手症候群)を発症した患者11名に、発症後、ELを上記実施例1と同様の用法・用量で投与して、これを治療投与群とした。また前記実施例1でのEL投与群を対象として比較した(予防投与群)。両群で観察期間に差はなかった。その結果、治療投与群では、びまん性疼痛と肩関節の痛みおよび可動域制限の進行は若干抑制されたが、RSDの症状を完全に抑制できた症例は無かった(Table 3)。また、EL投与終了時のバーサルインデックスは治療投与群において、予防投与群と比較して有意に低くかった(Table 3)。
【0057】
【表3】

【0058】
従って、脳血管障害(脳卒中)後の片麻痺患者で上肢あるいは手指のブルンストロームステージの何れかがIII以下の重度麻痺患者におけるEL投与の効果としては、RSDの発症後に投与する治療効果(改善効果)よりも、発症前に投与する予防投与の効果が顕著に優れていることが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の天然型カルシトニンまたはカルシトニン誘導体は、反射性交感神経性ジストロフィー(RSD)の発症予防、特に脳卒中後のRSD発症に対する初発予防に極めて有効であるため、当該用途の医薬品を提供するものとして医薬産業分野等において利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然型カルシトニンを有効成分として含有する脳卒中後の初発反射性交感神経性ジストロフィー(RSD)発症予防剤。
【請求項2】
天然型カルシトニンが、ニワトリカルシトニン、ウナギカルシトニン、ヒトカルシトニン及びブタカルシトニンから成る群から選択される、請求項1記載のRSD発症予防剤。
【請求項3】
脳卒中発作後59日未満に投与を開始し、発作後5ヶ月後まで投与することを特徴とする請求項1または2に記載のRSD発症予防剤。
【請求項4】
上肢あるいは手指のブルンストロームステージがIII以下の患者に投与することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のRSD発症予防剤。
【請求項5】
RSDが、複合性局所性疼痛症候群(CRPS)と診断されるRSDである請求項1〜4のいずれか1項に記載のRSD発症予防剤。
【請求項6】
RSDが、肩手症候群(SHS)である請求項1〜5のいずれか1項に記載のRSD発症予防剤。
【請求項7】
脳卒中後の初発RSD発症予防剤を製造するための天然型カルシトニンの使用。
【請求項8】
天然型カルシトニンが、ニワトリカルシトニン、ウナギカルシトニン、ヒトカルシトニン及びブタカルシトニンから成る群から選択される、請求項7記載の天然型カルシトニンの使用。
【請求項9】
RSDが、複合性局所性疼痛症候群(CRPS)と診断されるRSDである請求項7又は8記載の天然型カルシトニンの使用。
【請求項10】
RSDが、肩手症候群(SHS)である請求項9に記載の天然型カルシトニンの使用。

【公開番号】特開2012−51928(P2012−51928A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−232861(P2011−232861)
【出願日】平成23年10月24日(2011.10.24)
【分割の表示】特願2008−536384(P2008−536384)の分割
【原出願日】平成19年9月26日(2007.9.26)
【出願人】(303046299)旭化成ファーマ株式会社 (105)
【Fターム(参考)】