腎癌の診断薬および治療薬
【課題】腎癌の診断薬および治療薬の提供。
【解決手段】抗TLR3抗体を含有する腎癌診断薬、およびTLR3アゴニストを有効成分とする腎癌治療薬を提供する。
【解決手段】抗TLR3抗体を含有する腎癌診断薬、およびTLR3アゴニストを有効成分とする腎癌治療薬を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗TLR3抗体を利用した腎癌の診断薬およびTLR3アゴニストを利用した腎癌の治療薬に関する。
【背景技術】
【0002】
腎細胞癌(renal cell carcinoma;RCC)は成人悪性腫瘍の2−3%を占め、日本およびアメリカでは罹患率・死亡率ともに増加傾向にある(非特許文献1,2)。腎細胞癌の主な組織型としては、(1)Clear cell RCC(約80%)、(2)Papillary RCC(10−15%)、(3)Chromophobe RCC(約5%)、(4)Collecting duct carcinoma(約1%)がある(非特許文献3)。また、分化が悪くなり癌細胞が肉腫様に変化するsarcomatoid changeは全ての組織型に伴いうる。
【0003】
腎癌に対しては、画像検査技術の進歩により早期発見症例が増えた反面、いまだに遠隔転移を有する症例が減っていないのが現状である。すなわち、腎癌については、発見の遅滞あるいは従来適切な治療法が無かったことを意味する。従って、腎癌の簡便かつ的確な早期発見技術および有効な治療法の開発が望まれている。近年多くの癌種において癌特異的に発現されているタンパク質をターゲットとした、診断方法および治療方法の研究が盛んであるが、多くは遺伝子レベルでの解析に止まり、進展していないのが現状である。
【0004】
腎細胞癌の現状での治療法としては早期外科的切除が有効とされているが、根治的切除不能例や再発例のような進行性腎細胞癌には、有効な治療法がない。すなわち、これら進行性腎細胞癌に対する治療としては、他の癌腫で通常行われる化学療法や放射線療法はほとんど効果を示さないとされている(非特許文献4,5)。その反面、一部の症例に対してインターフェロンα(IFNα)やインターロイキン2といった免疫療法が奏効することが腎細胞癌の特徴であり、日本では進行性腎細胞癌の治療には広くIFNαが用いられている。しかし、進行性腎細胞癌症例に対するIFNαの奏功率は10−20%程度に過ぎない(非特許文献6,7)。ゆえに、進行性腎細胞癌に対する有効な治療法の開発が望まれている。
【0005】
toll−like receptor(TLR)は、病原体からの刺激に対して自然免疫担当細胞を活性化させることで感染防御に働く分子である。TLRは現在までに13種類が知られており(ヒトでは10種類)、その大部分はリガンドが同定されており(非特許文献8)、それらには細菌細胞壁成分であるLPS、リポタイコ酸、ペプチドグリカン、細菌鞭毛成分フラジェリン、細菌あるいはウイルス由来CpG DNA、ウイルス由来1本鎖RNA、ウイルス由来2本鎖RNA、ウイルス由来タンパク質がある。多くのTLRsはリガンド結合後アダプター分子であるMyD88依存的な経路を介して転写因子NF−κBを核に移行させることでサイトカインであるTNFIαやIL−6と同様な炎症性作用を示すことにより、病原体の侵入に対して感染防御に働くことにその主な役割があると従来考えられていた。しかし、ある種のTLRは癌細胞にも発現しており、TLRが癌細胞の増殖に有利な環境を作り出しているということも最近になって考えられるようになってきている(非特許文献9)。その一方で、TLRアゴニストが癌の治療に用いられる可能性も考えられる(非特許文献10)。いわばTLRは癌にとって有利にも不利にも働きうる、「諸刃の剣」的な存在と言える(非特許文献11)。
【0006】
TLR3は、1998年のRock,F.L.による発見後(非特許文献12)、多くの文献が報告され、自然免疫に関与することが明らかにされた。すなわち、TLR3は他のTLRsとは異なり、ウイルスが産生する二本鎖RNA(dsRNA)がリガンドであり、リガンド結合後MyD88非依存的なTRIF経路で、IFNの産生を誘導することにより抗ウイルス作用を発揮することおよびNFκBの活性化が知られている(非特許文献13)。
【0007】
TLR3が自然免疫に関与することから、炎症および癌に応用可能との推論のもと、医療に関与する文献が多数報告されている(特許文献1〜4)。それらは、TLR3の生理機能としてのIFN−β、IFN誘導性遺伝子群および炎症性サイトカインへの影響を想定したアンタゴニストまたはアゴニスト作用を示す特許文献である。
【0008】
TLR3の発現は、細胞としては樹状細胞、線維芽細胞、腸上皮細胞、グリア細胞、臍帯静脈血管内皮細胞に、正常組織では子宮内膜、腎臓、癌組織では大腸癌(特許文献5)および腎臓癌(非特許文献14)組織においてTLR3が高発現していることが示されている。しかしながら、特許文献5および非特許文献14はマイクロアレイによる遺伝子発現解析のみであり、タンパク質発現については明らかにされていない。
【0009】
TLR3と癌の診断および治療に関する文献として、特許文献5で乳癌、大腸癌、肺癌、胃癌、前立腺癌、子宮癌、子宮頸部癌、子宮内膜癌、皮膚癌、および白血病に対する、抗体による診断と治療が特許請求の範囲に記載されているが、大腸癌における結果を示しているに過ぎず、腎癌に対する実施例はない。さらに、特許文献4においては、腎癌を含む多種類の癌の抗TLR3抗体による診断・治療が特許請求の範囲に記載されているが、乳癌について記載されているだけで、腎癌に関する実施例は全くない。
【非特許文献1】Int J Urol.2001;8:359−65
【非特許文献2】JAMA.1999;281:1628−31
【非特許文献3】J Pathol.1997;183:131−3
【非特許文献4】J Urol.2000;163:408−17
【非特許文献5】Lancet.1998;352:1691−6
【非特許文献6】J Urol.1999;161:381−7
【非特許文献7】Lancet.1999;353:14−7
【非特許文献8】Nat Rev Immunol.2004;4:499−51
【非特許文献9】Cancer Res.2005;65:5009−14
【非特許文献10】Nat Rev Drug Discov.2006;5:471−84
【非特許文献11】Br J Cancer.2006;95:247−52
【非特許文献12】Proc.Nat.Acad.Sci.1998;95:588−593
【非特許文献13】Nature.2001;413:732−8
【非特許文献14】BMC Cancer.2003;3:1−19
【特許文献1】国際公開第2006/060513号パンフレット
【特許文献2】米国特許出願公開第20060147456号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第20060115475号明細書
【特許文献4】国際公開第2006/054177号パンフレット
【特許文献5】国際公開第2005/026735号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
腎癌の治療としては早期外科的切除が有効とされているが、手術による治療は、転移巣の治療が困難であるばかりなく、侵襲と合併症の併発を伴うことが多い。根本的切除不能例や再発例のような進行性癌には、有効な治療法がないゆえに、初期の腎癌を早期に診断する必要がある。従って、腎癌に対する早期診断法および治療法の開発が望まれている。
【0011】
本発明の目的は、精度良く、早期腎癌を診断する方法と、効果的な治療方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
腎癌特異的に高発現している細胞表面分子の探索をマイクロアレイ解析により実施した結果、Clear cell RCCにおいては自然免疫応答に関与する遺伝子群が特徴的に高発現していることが明らかとなり、自然免疫応答がClear cell RCCの病因に繋がる可能性が考えられた。また、自然免疫応答に関与することが報告されているTLR3が遺伝子レベルでClear cell RCC特異的に高発現していることが認められ、併せてRT−PCRによりClear cell RCC特異的に高発現が確認できた。
次いで、Clear cell RCC組織に対し抗TLR3抗体による組織免疫染色を検討した結果、Clear cell RCC組織では細胞質に細顆粒状として189症例中184例においてTLR3タンパク質が染色された。そのうち139例において強く染色されることが確認できたのに対し、Chromophobe RCCでは全く染色されなかった。さらに、腎癌の肺転移8症例中6例においてもTLR3陽性像が確認できた。
一方、複数の腎癌細胞株へのリガンドまたはsiRNAの添加により、TLR3発現量に比例した増殖抑制効果が認められた。さらに、腎癌細胞株へのリガンドの添加により抗腫瘍効果が期待できるIFNβの発現が誘導された。この結果は、TLR3発現腎癌細胞を直接的に治療する方法であり、従来の自然免疫担当細胞である樹上細胞等のリガンドによる活性化を介した癌の治療とは異なることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、抗TLR3抗体を含有する腎癌の診断薬を提供するものである。
また、本発明は、被験者から採取された試料に抗TLR3抗体を反応させ、あるいは被験者に抗TLR3抗体を投与して、TLR3タンパク質を検出することを特徴とする腎癌の診断方法を提供するものである。
さらに、本発明は、TLR3アゴニストを投与することを特徴とする腎癌の治療方法、およびTLR3アゴニストを含有する腎癌の治療薬を提供するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、特異的に検出できる分子イメージング(PET)で行う方法および血液診断ならびにバイオプシーにより採取した組織を用いた腎癌の早期診断(生検)が可能となり、早急に新たな腎癌治療計画の策定が可能となる。また、手術を伴わず、患者に負担をかけない腎癌の非侵襲的な治療の実施が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明により、診断および治療される疾患は、腎癌である。診断および治療の対象となる動物は、ヒトであることが好ましいが、イヌ、ネコ、ウサギ、マウス、ラット、モルモット等のヒト以外の哺乳類でも良い。
【0016】
本発明において腎癌の診断を行う場合、被験者の血液中および臓器組織にTLR3タンパク質が検出された場合に、被験者が腎癌である可能性が高いと判定される。また、腎癌と診断された患者の血液あるいは組織中TLR3タンパク質濃度を測定することにより、その患者が治療対象患者か否かを判定すること(治療対象患者の選択)ができる。さらに、腎癌の治療後、TLR3タンパク質測定において、タンパク質の量が術前より減少した場合、治療の経過が良好であると判定される。一方、治療後のTLR3タンパク質の量が低下しないあるいは増加する場合には、再発および転移があると判定される。腎癌診断は、画像診断、生検および血液診断により行うことができる。
【0017】
画像診断においては、標識した抗TLR3抗体を投与後画像診断によりTLR3タンパク質を検出することにより行うことができる。より具体的には、抗TLR3抗体に、標識物質として放射性同位元素で標識したプローブを被験者に投与し、PETまたはSPECTで腎癌組織を検出することができる。使用する放射性同位元素は、当業者に公知の物質を用いることができるが、好ましくは陽電子放出放射性同位元素であり、さらに好ましくは11C、13N、18F、15O、94mTc、124Iである。抗TLR3抗体への放射性同位元素の標識は、当業者に公知の方法により行うことができる。
【0018】
生検により腎癌診断を行う方法として、被験者から得られた臓器組織を試料として、免疫学的測定法を行うことができる。例えば、ラジオイムノアッセイ、エンザイムイムノアッセイ、蛍光イムノアッセイ、発光イムノアッセイ、免疫沈降法、免疫比濁法、ウェスタンブロット、免疫染色、免疫拡散法などを挙げることができるが、好ましくは免疫染色である。免疫染色などの上述した免疫学的方法は当業者に公知の方法により行うことが可能である。
【0019】
生検により腎癌診断を行う他の様態として、抗TLR3抗体を一次抗体として使用した免疫組織学的染色法を行うことができる。具体的には、被験者から得られた検体を公知の方法によりパラフィンや凍結等により固定し、切片を作製する。次いで、切片を一次抗体として抗TLR3抗体、二次抗体としてIgGを認識するビオチン標識抗体をそれぞれ用いて処理する。二次抗体は、IgGを認識する公知の抗体を用いることができ、例えばウサギ抗IgG抗体などを挙げることができる。二次抗体に標識物質を結合させ、それぞれの標識物質に適した公知の方法により、切片中のタンパク質の有無を検出する。また、二次抗体を使用せず、抗TLR3抗体に標識物質を結合させ、免疫組織学的染色法を行うこともできる。標識物質は当業者公知の物質を用いることができるが、例えばペルオキシターゼ、FITCなどを挙げることができる。抗体と標識物質の結合は、当業者に公知の方法で行うことができ、具体的には、ストレプトアビジンとビオチンを利用した結合方法を挙げることができる。
【0020】
腎癌診断を行う他の様態として、被験者から得られた血液、血清、または血漿を試料として、免疫学的測定法を行うことができる。例えば、ラジオイムノアッセイ、エンザイムイムノアッセイ、蛍光イムノアッセイ、発光イムノアッセイ、免疫沈降法、免疫比濁法、ウェスタンブロット、免疫拡散法などを挙げることができるが、好ましくはエンザイムイムノアッセイであり、特に好ましいのは酵素結合免疫吸着定量法(enzyme-linked immunosorbent assay:ELISA)(例えば、sandwich ELISA)である。ELISAなどの上述した免疫学的方法は当業者に公知の方法により行うことが可能である。
【0021】
血液、血清、または血漿を検体とした腎癌診断方法としては、例えば、抗TLR3抗体を支持体に固定し、ここに被検試料を加え、インキュベートを行い抗TLR3抗体とタンパク質を結合させた後に洗浄して、抗TLR3抗体を介して支持体に結合したTLR3タンパク質の検出を行う方法を挙げることができる。
【0022】
本発明において抗TLR3抗体を固定するために用いられる支持体としては、例えば、アガロース、セルロースなどの不溶性の多糖類、シリコン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアクリルアミド樹脂、ナイロン樹脂、ポリカーボネイト樹脂などの合成樹脂や、ガラス、フェライトなどの不溶性の支持体を挙げることができる。これらの支持体は、ビーズやプレートなどの形状で用いることが可能である。ビーズの場合、これらが充填されたカラムなどを用いることができる。プレートの場合、マルチウェルプレート(96穴マルチウェルプレート等)、やバイオセンサーチップなどを用いることができる。抗TLR3抗体と支持体との結合は、化学結合や物理的な吸着などの通常用いられる方法により結合することができる。これらの支持体はすべて市販のものを用いることができる。
【0023】
抗TLR3抗体と試料中のTLR3タンパク質との結合は、通常、緩衝液中で行われる。緩衝液としては、例えば、リン酸緩衝液、Tris 緩衝液、クエン酸緩衝液、ホウ酸塩緩衝液、炭酸塩緩衝液などが使用され、通常用いるpHの範囲であればよい。また、インキュベーションの条件としては、すでによく用いられている条件、例えば、4℃〜37℃にて1時間〜24時間のインキュベーションが行われる。インキュベート後の洗浄は、抗TLR3抗体とTLR3タンパク質の結合を妨げないものであれば何でもよく、例えば、Tween−20等の界面活性剤を含む緩衝液などが使用される。
【0024】
本発明によるTLR3タンパク質の検出方法においては、TLR3タンパク質を検出したい被検試料の他に、コントロール試料を設置してもよい。コントロール試料としては、TLR3タンパク質を含まない陰性コントロール試料やTLR3タンパク質を含む陽性コントロール試料などがある。この場合、TLR3タンパク質を含まない陰性コントロール試料で得られた結果と、TLR3タンパク質を含む陽性コントロール試料で得られた結果と比較することにより、被検試料中のTLR3タンパク質を検出することが可能である。また、濃度を段階的に変化させた一連のコントロール試料を調製し、各コントロール試料に対する検出結果を数値として得て、標準曲線を作成し、被検試料の数値から標準曲線に基づいて、被検試料に含まれるTLR3タンパク質を定量的に検出することも可能である。
【0025】
抗TLR3抗体を介して支持体に結合したTLR3タンパク質の検出の好ましい態様として、標識物質で標識された抗TLR3抗体を用いる方法を挙げることができる。例えば、支持体に固定された抗TLR3抗体に被検試料を接触させ、洗浄後に、TLR3タンパク質を特異的に認識する標識抗体を用いて検出する。
【0026】
抗TLR3抗体の標識は通常知られている方法により行うことが可能である。標識物質としては、蛍光色素、酵素、補酵素、化学発光物質、放射性物質などの当業者に公知の標識物質を用いることが可能であり、具体的な例としては、ラジオアイソトープ(32P、14C、125I、3H、131Iなど)、フルオレセイン、ローダミン、ダンシルクロリド、ウンベリフェロン、ルシフェラーゼ、ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、β-グルコシダーゼ、ホースラディッシュパーオキシダーゼ、グルコアミラーゼ、リゾチーム、サッカリドオキシダーゼ、マイクロペルオキシダーゼ、ビオチン、ルテニウムなどを挙げることができる。標識物質としてビオチンを用いる場合には、ビオチン標識抗体を添加後に、ペルオキシダーゼなどの酵素を結合させたストレプトアビジンをさらに添加することが好ましい。標識物質と抗TLR3抗体との結合には、グルタルアルデヒド法、マレイミド法、ピリジルジスルフィド法、過ヨウ素酸法、などの公知の方法を用いることができる。
【0027】
具体的には、抗TLR3抗体を含む溶液をプレートまたはビーズなどの支持体に加え、抗TLR3抗体を支持体に固定する。プレート、またはビーズを洗浄後、タンパク質の非特異的な結合を防ぐため、例えばBSA、ゼラチン、アルブミンなどでブロッキングする。再び洗浄し、被検試料をプレートまたはビーズに加える。インキュベートの後、洗浄し、標識抗TLR3抗体を加える。適度なインキュベーションの後、プレートまたはビーズを洗浄し、支持体に残った標識抗TLR3抗体を検出する。検出は当業者に公知の方法により行うことができ、例えば、放射性物質による標識の場合には液体シンチレーションやRIA法により検出することができる。酵素による標識の場合には基質を加え、基質の酵素的変化、例えば発色を吸光度計により検出することができる。基質の具体的な例としては、2,2−アジノビス(3−エチルベンゾチアゾリン−6−スルホン酸)ジアンモニウム塩(ABTS)、1,2−フェニレンジアミン(オルソ−フェニレンジアミン)、3,3',5,5'−テトラメチルベンジジン(TMB)などを挙げることができる。蛍光物質または化学発光物質の場合にはルミノメーターにより検出することができる。
【0028】
本発明のTLR3タンパク質検出方法の特に好ましい態様として、ビオチンで標識された抗TLR3抗体と、ストレプトアビジンを用いる方法を挙げることができる。
【0029】
具体的には、抗TLR3抗体を含む溶液をプレートなどの支持体に加え、抗TLR3抗体を固定する。プレートを洗浄後、タンパク質の非特異的な結合を防ぐため、例えばBSAなどでブロッキングする。再び洗浄し、被検試料をプレートに加える。インキュベートの後、洗浄し、ビオチン標識抗TLR3抗体を加える。適度なインキュベーションの後、プレートを洗浄し、アルカリホスファターゼ、ペルオキシダーゼなどの酵素と結合したアビジンを加える。インキュベーション後、プレートを洗浄し、アビジンに結合している酵素に対応した基質を加え、基質の酵素的変化などを指標にTLR3タンパク質を検出する。
【0030】
本発明のTLR3タンパク質検出方法の他の態様として、TLR3タンパク質を特異的に認識する一次抗体を一種類以上、および該一次抗体を特異的に認識する二次抗体を一種類以上用いる方法を挙げることができる。
【0031】
例えば、支持体に固定された一種類以上の抗TLR3抗体に被検試料を接触させ、インキュベーションした後、洗浄し、洗浄後に結合しているTLR3タンパク質を、一次抗TLR3抗体、および該一次抗体を特異的に認識する一種類以上の二次抗体により検出する。この場合、二次抗体は好ましくは標識物質により標識されている。
【0032】
本発明のTLR3タンパク質の検出方法の他の態様としては、凝集反応を利用した検出方法を挙げることができる。該方法においては、抗TLR3抗体を感作した担体を用いてTLR3タンパク質を検出することができる。抗体を感作する担体としては、不溶性で、非特異的な反応を起こさず、かつ安定である限り、いかなる担体を使用してもよい。例えば、ラテックス粒子、ベントナイト、コロジオン、カオリン、固定羊赤血球等を使用することができるが、ラテックス粒子を使用するのが好ましい。ラテックス粒子としては、例えば、ポリスチレンラテックス粒子、スチレン−ブタジエン共重合体ラテックス粒子、ポリビニルトルエンラテックス粒子等を使用することができるが、ポリスチレンラテックス粒子を使用するのが好ましい。感作した粒子を試料と混合し、一定時間攪拌する。試料中にTLR3タンパク質が高濃度で含まれるほど粒子の凝集度が大きくなるので、凝集を肉眼でみることによりTLR3タンパク質を検出することができる。
また、凝集による濁度を分光光度計等により測定することによっても検出することが可能である。
【0033】
本発明のタンパク質の検出方法の他の態様としては、例えば、表面プラズモン共鳴現象を利用したバイオセンサーを用いた方法を挙げることができる。表面プラズモン共鳴現象を利用したバイオセンサーはタンパク質−タンパク質間の相互作用を微量のタンパク質を用いてかつ標識することなく、表面プラズモン共鳴シグナルとしてリアルタイムに観察することが可能である。例えば、BIAcore(Biacore International AB社製)等のバイオセンサーを用いることにより抗TLR3抗体とTLR3タンパク質との結合をそれぞれ検出することが可能である。具体的には抗TLR3抗体を固定化したセンサーチップに、被検試料を接触させ抗TLR3抗体に結合するTLR3タンパク質を共鳴シグナルの変化としてそれぞれ検出することができる。
【0034】
本発明の検出方法は、種々の自動検査装置を用いて自動化することもでき、一度に大量の試料について検査を行うことも可能である。
【0035】
本発明の腎癌診断薬は、キットの形態であってもよい。本発明の腎癌診断薬は少なくとも抗TLR3抗体を含む。該診断薬がELISA法等のEIA法に基づく場合は、抗体を固相化する担体を含んでいてもよく、抗体があらかじめ担体に結合していてもよい。該診断薬がラテックス等の担体を用いた凝集法に基づく場合は抗体が吸着した担体を含んでいてもよい。また、該診断薬は、適宜、ブロッキング溶液、反応溶液、反応停止液、試料を処理するための試薬等を含んでいてもよい。
【0036】
本発明の生検組織および血液などの試料を用いる診断用抗TLR3抗体は、TLR3タンパク質にそれぞれ特異的に結合すればよく、その由来、種類(モノクローナル、ポリクローナル)および形状を問わない。具体的には、マウス抗体、ラット抗体、トリ抗体、ヒト抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体などの公知の抗体を用いることができる。抗体はポリクローナル抗体でもよいが、モノクローナル抗体であることが好ましく、高感度で特異的な測定が可能であれば、市販されている抗体を使用してもよい。
【0037】
また、支持体に固定される抗TLR3抗体と標識物質で標識される抗TLR3抗体は、TLR3タンパク質の同じエピトープを認識してもよいが、異なるエピトープを認識することが好ましく、部位は特に制限されない。
【0038】
本発明の画像診断に用いられる抗体は、TLR3タンパク質と特異的に結合する限り、モノクローナル抗体であればキメラ抗体、ヒト化(CDR移植)抗体、ヒト抗体のいずれであっても良い。また、それら抗体は、癌に対する結合が認められれば、市販されている抗体を使用してもよい。
【0039】
本発明で使用される抗TLR3抗体は、公知の手段を用いてポリクローナルまたはモノクローナル抗体として得ることができる。本発明で使用される抗TLR3抗体として、哺乳動物由来あるいはトリ由来モノクローナル抗体が好ましい。特に、哺乳動物由来のモノクローナル抗体が好ましい。哺乳動物由来のモノクローナル抗体は、ハイブリドーマにより産生されるもの、および遺伝子工学的手法により抗体遺伝子を含む発現ベクターで形質転換した宿主に産生されるものを含む。
【0040】
モノクローナル抗体産生ハイブリドーマは、基本的には公知技術を使用し、以下のようにして作製できる。すなわち、TLR3タンパク質を感作抗原として使用して、これを通常の免疫方法にしたがって免疫し、得られる免疫細胞を通常の細胞融合法によって公知の親細胞と融合させ、通常のスクリーニング法により、モノクローナルな抗体産生細胞をスクリーニングすることによって作製できる。
具体的には、モノクローナル抗体を作製するには次のようにすればよい。
【0041】
まず、抗体取得の感作抗原として使用されるTLR3タンパク質はGenBank番号(NM_003265)に開示された遺伝子/アミノ酸配列を発現することによって得る。すなわち、TLR3タンパク質をコードするそれぞれの遺伝子配列を公知の発現ベクター系に挿入して適当な宿主細胞を形質転換させた後、その宿主細胞中または培養上清中から目的のヒトTLR3タンパク質を公知の方法で精製する。また、天然のTLR3タンパク質を精製して用いることもできる。
【0042】
次に、この精製TLR3タンパク質を感作抗原として用いる。あるいは、TLR3タンパク質の部分ペプチドを感作抗原として使用することもできる。この際、部分ペプチドはヒトTLR3タンパク質のアミノ酸配列より化学合成により得ることもできるし、ヒトTLR3遺伝子の一部を発現ベクターに組込んで得ることもでき、さらに天然のヒトTLR3タンパク質をタンパク質分解酵素により分解することによっても得ることができる。部分ペプチドとして用いるヒトTLR3タンパク質の部分および大きさは限定されない。
【0043】
感作抗原で免疫される哺乳動物としては、特に限定されるものではないが、細胞融合に使用する親細胞との適合性を考慮して選択するのが好ましく、一般的にはげっ歯類の動物、例えば、マウス、ラット、ハムスター、あるいはトリ、ウサギ、サル等が使用される。
【0044】
感作抗原を動物に免疫するには、公知の方法にしたがって行われる。例えば、一般的方法として、感作抗原を哺乳動物の腹腔内または皮下に注射することにより行われる。具体的には、感作抗原をPBS(Phosphate-Buffered Saline)や生理食塩水等で適当量に希釈、懸濁したものに所望により通常のアジュバント、例えばフロイント完全アジュバントを適量混合し、乳化後、哺乳動物に4〜21日毎に数回投与する。また、感作抗原免疫時に適当な担体を使用することもできる。特に分子量の小さい部分ペプチドを感作抗原として用いる場合には、アルブミン、キーホールリンペットヘモシアニン等の担体タンパク質と結合させて免疫することが望ましい。
【0045】
このように哺乳動物を免疫し、血清中に所望の抗体レベルが上昇するのを確認した後に、哺乳動物から免疫細胞を採取し、細胞融合に付されるが、好ましい免疫細胞としては、特に脾細胞が挙げられる。
【0046】
前記免疫細胞と融合される他方の親細胞として、哺乳動物のミエローマ細胞を用いる。このミエローマ細胞は、公知の種々の細胞株、例えば、P3(P3x63Ag8.653)(J. Immnol.(1979)123, 1548-1550)、P3x63Ag8U.1(Current Topics in Microbiology and Immunology(1978)81, 1-7)、 NS-1(Kohler. G. and Milstein, C. Eur. J. Immunol.(1976)6, 511-519)、MPC-11(Margulies. D.H. et al., Cell(1976)8, 405-415)、SP2/0 (Shulman, M. et al., Nature(1978)276, 269-270)、FO(de St. Groth, S. F. et al., J. Immunol. Methods(1980)35, 1-21)、S194(Trowbridge, I. S. J. Exp. Med.(1978)148, 313-323)、R210(Galfre, G. et al., Nature(1979)277, 131-133)等が好適に使用される。
【0047】
前記免疫細胞とミエローマ細胞との細胞融合は、基本的には公知の方法、たとえば、ケーラーとミルステインらの方法(Kohler. G. and Milstein, C.、Methods Enzymol.(1981)73, 3-46)等に準じて行うことができる。
【0048】
より具体的には、前記細胞融合は、例えば細胞融合促進剤の存在下に通常の栄養培養液中で実施される。融合促進剤としては、例えばポリエチレングリコール(PEG)、センダイウイルス(HVJ)等が使用され、さらに所望により融合効率を高めるためにジメチルスルホキシド等の補助剤を添加使用することもできる。
【0049】
免疫細胞とミエローマ細胞との使用割合は任意に設定することができる。例えば、ミエローマ細胞に対して免疫細胞を1〜10倍とするのが好ましい。前記細胞融合に用いる培養液としては、例えば、前記ミエローマ細胞株の増殖に好適なRPMI1640培養液、MEM培養液、その他、この種の細胞培養に用いられる通常の培養液が使用可能であり、さらに、牛胎児血清(FCS)等の血清補液を併用することもできる。
【0050】
細胞融合は、前記免疫細胞とミエローマ細胞との所定量を前記培養液中でよく混合し、予め37℃程度に加温したPEG溶液(例えば平均分子量1000〜6000程度)を通常30〜60%(w/v)の濃度で添加し、混合することによって目的とする融合細胞(ハイブリドーマ)を形成する。続いて、適当な培養液を逐次添加し、遠心して上清を除去する操作を繰り返すことによりハイブリドーマの生育に好ましくない細胞融合剤等を除去する。
【0051】
このようにして得られたハイブリドーマは、通常の選択培養液、例えばHAT培養液(ヒポキサンチン、アミノプテリンおよびチミジンを含む培養液)で培養することにより選択される。上記HAT培養液での培養は、目的とするハイブリドーマ以外の細胞(非融合細胞)が死滅するのに十分な時間(通常、数日〜数週間)継続する。ついで、通常の限界希釈法を実施し、目的とする抗体を産生するハイブリドーマのスクリーニングおよび単一クローニングを行う。
【0052】
目的とする抗体のスクリーニングおよび単一クローニングは、公知の抗原抗体反応に基づくスクリーニング方法で行えばよい。例えば、ポリスチレン等でできたビーズや市販の96ウェルのマイクロタイタープレート等の担体に抗原を結合させ、ハイブリドーマの培養上清と反応させ、担体を洗浄した後に酵素標識二次抗体等を反応させることにより、培養上清中に感作抗原と反応する目的とする抗体が含まれるかどうか決定できる。目的とする抗体を産生するハイブリドーマを限界希釈法等によりクローニングすることができる。この際、抗原としては免疫に用いたものを用いればよい。
【0053】
また、ヒト以外の動物に抗原を免疫して上記ハイブリドーマを得る他に、ヒトリンパ球をin vitroで、TLR3タンパク質に感作し、感作リンパ球をヒト由来の永久分裂能を有するミエローマ細胞と融合させ、TLR3タンパク質への結合活性を有する所望のヒト抗体を得ることもできる(特公平1−59878号公報参照)。さらに、ヒト抗体遺伝子の全てのレパートリーを有するトランスジェニック動物に抗原となるTLR3タンパク質を投与して抗TLR3抗体産生細胞を取得し、これを不死化させた細胞からTLR3タンパク質に対するヒト抗体をそれぞれ取得してもよい(国際特許出願公開番号WO 94/25585号公報、WO 93/12227号公報、WO 92/03918号公報、WO 94/02602号公報参照)。
【0054】
このようにして作製されるモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは、通常の培養液中で継代培養することが可能であり、また、液体窒素中で長期保存することが可能である。
【0055】
当該ハイブリドーマからモノクローナル抗体を取得するには、当該ハイブリドーマを通常の方法に従い培養し、その培養上清として得る方法、あるいはハイブリドーマをこれと適合性がある哺乳動物に投与して増殖させ、その腹水として得る方法などが採用される。前者の方法は、高純度の抗体を得るのに適しており、一方、後者の方法は、抗体の大量生産に適している。
【0056】
本発明では、モノクローナル抗体として、抗体遺伝子をハイブリドーマからクローニングし、適当なベクターに組み込んで、これを宿主に導入し、遺伝子組換え技術を用いて産生させた組換え型のものを用いることができる(例えば、Vandamme, A. M. et al., Eur.J. Biochem.(1990)192, 767-775, 1990参照)。
具体的には、抗TLR3抗体を産生するハイブリドーマから、抗TLR3抗体の可変(V)領域をコードするmRNAを単離する。mRNAの単離は、公知の方法、例えば、グアニジン超遠心法(Chirgwin, J. M. et al., Biochemistry(1979)18, 5294-5299)、APGC法(Chomczynski, P.et al., Anal. Biochem.(1987)162, 156-159)等により行って全RNAを調製し、mRNA Purification Kit (Pharmacia製)等を使用して目的のmRNAを調製する。また、QuickPrep mRNA Purification Kit(Pharmacia製)を用いることによりmRNAを直接調製することもできる。
【0057】
得られたmRNAから逆転写酵素を用いて抗体V領域のcDNAを合成する。cDNAの合成は、AMV Reverse Transcriptase First-strand cDNA Synthesis Kit(生化学工業社製)等を用いて行う。また、cDNAの合成および増幅を行うには、5'−Ampli FINDER RACE Kit(Clontech製)およびPCRを用いた5'−RACE法(Frohman, M. A. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA(1988)85, 8998-9002、Belyavsky, A.et al., Nucleic Acids Res.(1989)17, 2919-2932)等を使用することができる。
【0058】
得られたPCR産物から目的とするDNA断片を精製し、ベクターDNAと連結する。さらに、これより組換えベクターを作製し、大腸菌等に導入してコロニーを選択して所望の組換えベクターを調製する。そして、目的とするDNAの塩基配列を公知の方法、例えば、ジデオキシヌクレオチドチェインターミネーション法等により確認する。
【0059】
目的とする抗TLR3抗体のV領域をコードするDNAをそれぞれ得たのち、これを、所望の抗体定常領域(C領域)をコードするDNAを含有する発現ベクターへ組み込む。
【0060】
本発明で使用される抗TLR3抗体を製造するには、抗体遺伝子を発現制御領域、例えば、エンハンサー、プロモーターの制御のもとで発現するよう発現ベクターに組み込む。次に、この発現ベクターにより、宿主細胞を形質転換し、抗体を発現させる。
【0061】
抗体遺伝子の発現は、抗体重鎖(H鎖)または軽鎖(L鎖)をコードするDNAを別々に発現ベクターに組み込んで宿主細胞を同時形質転換させてもよいし、あるいはH鎖およびL鎖をコードするDNAを単一の発現ベクターに組み込んで宿主細胞を形質転換させてもよい(WO 94/11523 号公報参照)。
【0062】
また、組換え型抗体の産生には上記宿主細胞だけではなく、トランスジェニック動物を使用することができる。例えば、抗体遺伝子を、乳汁中に固有に産生されるタンパク質(ヤギβカゼインなど)をコードする遺伝子の途中に挿入して融合遺伝子として調製する。抗体遺伝子が挿入された融合遺伝子を含むDNA断片をヤギの胚へ注入し、この胚を雌のヤギへ導入する。胚を受容したヤギから生まれるトランスジェニックヤギまたはその子孫が産生する乳汁から所望の抗体を得る。また、トランスジェニックヤギから産生される所望の抗体を含む乳汁量を増加させるために、適宜ホルモンをトランスジェニックヤギに使用してもよい(Ebert, K.M. et al., Bio/Technology(1994)12, 699-702)。
【0063】
本発明で使用される抗体は、抗体の全体分子に限られず、TLR3タンパク質に結合する限り、抗体の断片またはその修飾物であってもよく、二価抗体も一価抗体も含まれる。例えば、抗体の断片としては、Fab、F(ab')2、Fv、1個のFabと完全なFcを有するFab/c、またはH鎖若しくはL鎖のFvを適当なリンカーで連結させたシングルチェインFv(scFv)が挙げられる。具体的には、抗体を酵素、例えばパパイン、ペプシンで処理し抗体断片を生成させるか、または、これら抗体断片をコードする遺伝子を構築し、これを発現ベクターに導入した後、適当な宿主細胞で発現させる(例えば、Co, M.S. et al., J. Immunol.(1994)152, 2968-2976、Better, M. & Horwitz, A.H. Methods in Enzymology(1989)178, 476-496, Academic Press, Inc.、Plueckthun, A. & Skerra, A. Methods in Enzymology(1989)178, 476-496, Academic Press, Inc.、Lamoyi, E., Methods in Enzymology(1989)121, 652-663、Rousseaux, J. et al., Methods in Enzymology(1989)121, 663-669、Bird, R. E. et al., TIBTECH(1991)9, 132-137参照)。
【0064】
scFvは、抗体のH鎖V領域とL鎖V領域とを連結することにより得られる。このscFvにおいて、H鎖V領域とL鎖V領域は、リンカー、好ましくはペプチドリンカーを介して連結される(Huston, J. S. et al.、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A.(1988)85, 5879-5883)。scFvにおけるH鎖V領域およびL鎖V領域は、本明細書に抗体として記載されたもののいずれの由来であってもよい。V領域を連結するペプチドリンカーとしては、例えばアミノ酸12〜19残基からなる任意の一本鎖ペプチドが用いられる。
【0065】
scFvをコードするDNAは、前記抗体のH鎖またはH鎖V領域をコードするDNA、およびL鎖またはL鎖V領域をコードするDNAのうち、それらの配列のうちの全部または所望のアミノ酸配列をコードするDNA部分を鋳型とし、その両端を規定するプライマー対を用いてPCR法により増幅し、次いで、さらにペプチドリンカー部分をコードするDNA、およびその両端が各々H鎖、L鎖と連結されるように規定するプライマー対を組み合せて増幅することにより得られる。
【0066】
また、一旦scFvをコードするDNAが作製されると、それらを含有する発現ベクター、および該発現ベクターにより形質転換された宿主を常法に従って得ることができ、また、その宿主を用いることにより、常法に従ってscFvを得ることができる。
【0067】
これら抗体の断片は、前記と同様にしてその遺伝子を取得し発現させ、宿主により産生させることができる。本発明における「抗体」にはこれらの抗体の断片も包含される。
【0068】
抗体の修飾物として、標識物質等の各種分子と結合した抗TLR3抗体を使用することもできる。本発明における「抗体」にはこれらの抗体修飾物も包含される。このような抗体修飾物は、得られた抗体に化学的な修飾を施すことによって得ることができる。なお、抗体の修飾方法はこの分野においてすでに確立されている。
【0069】
さらに、本発明で使用される抗体は、二重特異性抗体(bispecific antibody)であってもよい。二重特異性抗体は分子上の異なるエピトープを認識する抗原結合部位を有する二重特異性抗体であってもよいし、一方の抗原結合部位がTLR3タンパク質を認識し、他方の抗原結合部位が標識物質等を認識してもよい。二重特異性抗体は2種類の抗体のHL対を結合させて作製することもできるし、異なるモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを融合させて二重特異性抗体産生融合細胞を作製し、得ることもできる。さらに、遺伝子工学的手法により二重特異性抗体を作製することも可能である。
【0070】
前記のように構築した抗体遺伝子は、公知の方法により発現させ、取得することができる。哺乳類細胞の場合、常用される有用なプロモーター、発現させる抗体遺伝子、その3'側下流にポリAシグナルを機能的に結合させて発現させることができる。例えばプロモーター/エンハンサーとしては、ヒトサイトメガロウイルス前期プロモーター/エンハンサー(human cytomegalovirus immediate early promoter/enhancer)を挙げることができる。
【0071】
また、その他に本発明で使用される抗体発現に使用できるプロモーター/エンハンサーとして、レトロウイルス、ポリオーマウイルス、アデノウイルス、シミアンウイルス40(SV40)等のウイルスプロモーター/エンハンサー、あるいはヒトエロンゲーションファクター1α(HEF1α)などの哺乳類細胞由来のプロモーター/エンハンサー等が挙げられる。
【0072】
SV40プロモーター/エンハンサーを使用する場合はMulliganらの方法(Nature(1979)277, 108)により、また、HEF1αプロモーター/エンハンサーを使用する場合はMizushimaらの方法(Nucleic Acids Res.(1990)18, 5322)により、容易に遺伝子発現を行うことができる。
【0073】
大腸菌の場合、常用される有用なプロモーター、抗体分泌のためのシグナル配列および発現させる抗体遺伝子を機能的に結合させて当該遺伝子を発現させることができる。プロモーターとしては、例えばlacZプロモーター、araBプロモーターを挙げることができる。lacZプロモーターを使用する場合はWardらの方法(Nature(1098)341, 544-546 ; FASEBJ.(1992)6, 2422-2427)により、あるいはaraBプロモーターを使用する場合はBetterらの方法(Science(1988)240, 1041-1043)により発現することができる。
【0074】
抗体分泌のためのシグナル配列としては、大腸菌のペリプラズムに産生させる場合、pelBシグナル配列(Lei, S. P. et al J. Bacteriol.(1987)169, 4379)を使用すればよい。そして、ペリプラズムに産生された抗体を分離した後、抗体の構造を適切に組み直して(refold)使用する。
【0075】
複製起源としては、SV40、ポリオーマウイルス、アデノウイルス、ウシパピローマウイルス(BPV)等の由来のものを用いることができ、さらに、宿主細胞系で遺伝子コピー数増幅のため、発現ベクターは、選択マーカーとしてアミノグリコシドトランスフェラーゼ(APH)遺伝子、チミジンキナーゼ(TK)遺伝子、大腸菌キサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(Ecogpt)遺伝子、ジヒドロ葉酸還元酵素(dhfr)遺伝子等を含むことができる。
【0076】
本発明で使用される抗体の製造のために、任意の発現系、例えば真核細胞または原核細胞系を使用することができる。真核細胞としては、例えば樹立された哺乳類細胞系、昆虫細胞系、真糸状菌細胞および酵母細胞などの細胞等が挙げられ、原核細胞としては、例えば大腸菌細胞等の細菌細胞が挙げられる。
【0077】
好ましくは、本発明で使用される抗体は、哺乳類細胞、例えばCHO、COS、ミエローマ、BHK、Vero、HeLa細胞中で発現される。
【0078】
次に、形質転換された宿主細胞をin vitroまたはin vivoで培養して目的とする抗体を産生させる。宿主細胞の培養は公知の方法に従い行う。例えば、培養液として、DMEM、MEM、RPMI1640、IMDMを使用することができ、牛胎児血清(FCS)等の血清補液を併用することもできる。
【0079】
前記のように発現、産生された抗体は、細胞、宿主動物から分離し均一にまで精製することができる。本発明で使用される抗体の分離、精製はアフィニティーカラムを用いて行うことができる。例えば、プロテインAカラムを用いたカラムとして、HyperD、POROS、Sepharose FF(Pharmacia製)等が挙げられる。その他、通常のタンパク質で使用されている分離、精製方法を使用すればよく、何ら限定されるものではない。例えば、上記アフィニティーカラム以外のクロマトグラフィーカラム、フィルター、限外濾過、塩析、透析等を適宜選択、組み合わせることにより、抗体を分離、精製することができる(Antibodies: A Laboratory Manual. Ed Harlow, David Lane, Cold Spring Harbor Laboratory, 1988)。
【0080】
また、本発明により、TLR3タンパク質はClear Cell RCCに特異的に発現していることが明らかになったことから、本発明における診断および治療の対象となる腎細胞癌(RCC)としては、Clear Cell RCCおよびClear Cell RCC転移癌が特に好ましい。
【0081】
本発明の腎癌治療薬に使用されるTLR3アゴニストとしては、二本鎖RNAおよびTLR3に対してアゴニスト作用を示す抗体が挙げられる。
【0082】
本発明の腎癌治療薬は、TLR3アゴニストを当該技術分野においてよく知られる薬学的に許容しうる担体とともに、混合、溶解、顆粒化、錠剤化、乳化、カプセル封入、凍結乾燥等により、製剤化することができる。
【0083】
経口投与用には、TLR3アゴニストを、薬学的に許容しうる溶媒、賦形剤、結合剤、安定化剤、分散剤等とともに、錠剤、丸薬、糖衣剤、軟カプセル、硬カプセル、溶液、懸濁液、乳剤、ゲル、シロップ、スラリー等の剤形に製剤化することができる。
【0084】
非経口投与用には、TLR3アゴニストを、薬学的に許容しうる溶媒、賦形剤、結合剤、安定化剤、分散剤等とともに、注射用溶液、懸濁液、乳剤、クリーム剤、軟膏剤、吸入剤、坐剤等の剤形に製剤化することができる。注射用の処方においては、抗TLR3抗体を水性溶液、好ましくはハンクス溶液、リンゲル溶液、または生理的食塩緩衝液等の生理学的に適合性の緩衝液中に溶解することができる。さらに、組成物は、油性または水性のベヒクル中で、懸濁液、溶液、または乳濁液等の形状をとることができる。あるいは、治療剤を粉体の形態で製造し、使用前に滅菌水等を用いて水溶液または懸濁液を調製してもよい。吸入による投与用には、TLR3アゴニストを粉末化し、ラクトースまたはデンプン等の適当な基剤とともに粉末混合物とすることができる。坐剤処方は、TLR3アゴニストをカカオバター等の慣用の坐剤基剤と混合することにより製造することができる。さらに、本発明の腎癌治療剤は、ポリマーマトリクス等に封入して、持続放出用製剤として処方することができる。
【0085】
投与量および投与回数は、剤形および投与経路、ならびに患者の症状、年齢、体重によって異なるが、一般に、TLR3アゴニストは、1日あたり体重1kgあたり、約0.001mgから1000mgの範囲、好ましくは約0.01mgから10mgの範囲となるよう、1日に1回から数回投与することができる。
【0086】
本発明の腎癌治療薬は通常非経口投与経路で、例えば注射剤(皮下注、静注、筋注、腹腔内注など)、経皮、経粘膜、経鼻、経肺などで投与するのが好ましい。
また、本発明の腎癌治療薬はTLR3アゴニストに加えて、インターフェロン、特にインターフェロンαを併用するのが特に好ましい。TLR3アゴニストをインターフェロンと併用する場合、インターフェロンαの投与はC型肝炎の治療方法に準ずる。すなわち、インターフェロンαを600〜1,000万IU筋注にて2週間連続、さらに22週間、週あたり3回投与するのが好ましい。
【実施例】
【0087】
以下に実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0088】
実施例1 腎細胞癌の網羅的遺伝子発現解析
(1−1)対象症例
2000年から2004年にかけて東京大学医学部附属病院にて手術的に切除された腎細胞癌臨床検体30症例および同一症例の正常腎組織9例を対象として、オリゴヌクレオチドマイクロアレイであるGeneChip(Affymetrix)による網羅的遺伝子発現解析を行った。全ての症例はインフォームドコンセントおよび文書による同意がなされ、また本研究における臨床検体を用いた実験プロトコールの全ては倫理委員会の承認を受けている。手術による切除後、癌部あるいは正常腎組織の一部をメスで切り取り、液体窒素中で急速凍結した。凍結組織はRNA抽出時まで、液体窒素タンクないし−80℃のdeep freezer内で保存された。対象症例群における臨床病理学的因子のまとめを表1に記載する。TNM分類に関しては、American Joint Committee on Cancerの基準に従った。Nuclear Gradeに関しては、Furhmannによる分類に従った。
【0089】
【表1】
【0090】
(1−2)Total RNAの抽出
凍結検体を液体窒素で満たした乳鉢の中ですり棒を用いてすり潰し、Trizol(Invitrogen)1mLを加えホモジナイズした。Total RNAの抽出はTrizolのプロトコールに従い行った。
【0091】
(1−3)オリゴヌクレオチドマイクロアレイ解析
GeneChipの説明書に従い、各サンプルのTotal RNA3μgより、T7promoterのついたoligo−dT(24mer)primerを使用して、SuperScriptTMII reverse transcriptase(Invitrogen)による逆転写反応により2本鎖cDNA合成を行った。ついで、T7 RNA polymerase(ENZO)によるin vitro transcription反応によりビオチンラベル化されたcDNAを合成した。断片化を行い、GeneChip 1枚あたり5μgのcRNAを用いて、54675プローブを有するGeneChipHG−U133 plus2.0に対してハイブリダイゼーションを16時間行った。洗浄後、Strepyoavidine Phycoerythrin染色、ビオチン化抗体処理、Strepyoavidine Phycoerythrinの再染色によりシグナルを増強後、スキャナーで読み込み、Affymetrix社のMicroarray Analysis Suite5.0(MAS 5.0)で画像を解析した。その後、各GeneChip上の各遺伝子に対して、MAS 5.0によって表示されたシグナル値を発現量として用い、各GeneChipにおける遺伝子発現量の平均が100になるようにデータの標準化を行った。
【0092】
(1−4)遺伝子発現解析
(1−4−1)クラスター解析
GeneChipより得られた54675プローブのシグナル値をもとに、GeneSpring(Agilent)を用いてプローブと症例による階層的クラスター解析を行い、39検体 (Clear cell RCC 27例、Chromophobe RCC 2例、Sarcomatoid RCC1例および非癌部正常腎9例)を分類した。まず、それぞれのプローブについて、39検体中少なくとも1検体でシグナル値が200を超えるものを選出し、プローブセットとした。次にこのプローブセットの発現量を用いて、遺伝子間についてピアソン相関係数を求め、クラスター解析を行った。症例間についても同様にピアソン相関係数を求め、クラスター解析を行った。このように、遺伝子間と症例間の二方向についてクラスター解析を行い、症例の類似性の比較を行った。まず、GeneChipの全てのプローブ(54675プローブ)の中から、シグナル値が全ての症例で200以下のプローブを除外することによって、17512プローブのセットを選出した。このプローブセットで階層的クラスター解析を行ったところ、Clear cell RCC(Sarcomatoid RCCを含む)の群と、正常腎およびChromophobe RCCを含む群の2群に大きく分けられた(図1)。また、正常腎9例およびChromophobe RCC2例はそれぞれまとまったクラスターを形成した。
【0093】
(1−4−2)組織型特異的に高発現している遺伝子の選定
クラスター解析に使用したプローブセットの発現値を用いて、Clear cell RCCあるいはChromophobe RCCで特異的に高発現している遺伝子の選出を行った。選出の条件は以下の通りである。
【0094】
i)Clear cell RCC特異的高発現遺伝子
Clear cell RCC 27例の中央値/正常腎9例の中央値>5かつ、
Clear cell RCC 27例の中央値/Chromophobe RCC 2例の最大値>5
ii)Chromophobe RCC特異的高発現遺伝子
Chromophobe RCC 2例の最小値/正常腎9例の中央値>5かつ、
Chromophobe RCC 2例の最小値/Clear cell RCC 27例の中央値>5
【0095】
Clear cell RCCあるいはChromophobe RCCで特異的に高発現している遺伝子として、それぞれ315、196プローブが選出された。なお、正常腎に比べてClear cell RCCで5倍以上発現亢進している遺伝子と、正常腎に比べてChromophobe RCCで5倍以上発現亢進している遺伝子で共通しているものは認められなかった。すなわち、この2つの組織型では全く異なる遺伝子群が発現亢進していた。
選出されたプローブセットを用いて、NIHが提供しているソフトウェアEXPRESSION ANALYSIS SYSTEMATIC EXPLORERによって解析を行い、各組織型特異的に発現亢進している遺伝子群にどのような機能の遺伝子が多く含まれるかを調べた。表2、表3に示す通り、Clear cell RCCでは免疫応答や生体防御・免疫応答などに関わる遺伝子群が特徴的に高発現していた。また、Chromophobe RCCではイオン輸送やホメオスタシスなどに関与する遺伝子群が特徴的に高発現していることが明らかとなった。各組織型で特異的に高発現していた遺伝子、上位50プローブを次ページ以下、表4および表5に示す。
【0096】
【表2】
【0097】
【表3】
【0098】
【表4】
【0099】
【表5】
【0100】
(1−4−3)組織型特異的に高発現している遺伝子のgene ontology解析
上記(1−4−2)において選出された遺伝子群にどのような機能の遺伝子が多く含まれるかについて、NIHが提供しているソフトウェアEXPRESSION ANALYSIS SYSTEMATIC EXPLORERによって解析を行った。
これは、各プローブに付されている各gene ontology(遺伝子の機能)が、全プローブ中の頻度に対し、目的の遺伝子群でどの程度濃縮されているかをmodified Fisher's exact testにより検定するものである。検定値はEase Scoreとして表され、この数値が低いほど、目的の遺伝子群で濃縮されている、すなわち、その機能を持つ遺伝子が目的の遺伝子群に多く含まれていると評価される。
【0101】
(1−4−4)腎細胞癌治療標的遺伝子の選定
今回解析した腎細胞癌、正常腎の発現データと、以前東京大学先端研ゲノムサイエンス部門にてGeneChip HG−U133 plus2.0による解析が行われた15種の正常臓器(Brain,Muscle,Heart,Skin,Lung,Liver,Stomach,Colon,Pancreas,Kidney,Bladder,Bone marrow,Peripheral blood,Ovary,Testis)の発現データを用い、正常臓器で発現が低く、Clear cell RCC特異的に発現が亢進している遺伝子の選出を行った。選出の基準は以下の通りである。
【0102】
Clear cell RCC 27例の中央値/正常腎9例の中央値>5かつ、
Clear cell RCC 27例の中央値>500(シグナル値)かつ、
15種類の正常臓器の最大値<500(シグナル値)
【0103】
その結果、表6に示すように36プローブ(既知遺伝子数としては23個)が選出された。
それら36プローブのうち、TLR3に着目してさらに検討を行った。TLR3の遺伝子発現値(GeneChipシグナル値)を図2に示す。
オリゴヌクレオチドマイクロアレイ解析により、TLR3遺伝子が正常腎および各種正常組織に比べClear cell RCCで発現亢進していることがわかった。
【0104】
【表6】
【0105】
実施例2 Clear cell RCCにおける定量的RT−PCRによるTLR3遺伝子の発現亢進
Clear cell RCCおよび同一患者の正常腎組織7ペアにおけるTLR3遺伝子の発現を定量的RT−PCRで測定した。cDNAの合成は,1μgのtotal RNAにDNase I Amp grade(Invitrogen)を添加し、室温で15分間静置することによりゲノムDNAの分解を行った。ついで、Oligo(dT)プライマーおよびSuperScriptTMIII 逆転写酵素(Invitrogen)を用いて50℃で60分間逆転写反応を行った。その後、RNase Hを加えて鋳型RNA鎖の分解を行った。合成されたcDNA溶液をnuclease free waterで希釈し、PCR反応に用いた。合成されたcDNAを鋳型としてPCRバッファー(50mM KCl、10mM Tris−HCl,pH8.3、2mM MgCl2、0.01%ゼラチン)、200 μM dNTPs(TaKaRa)、0.2μMプライマー、Taq Polymerase、SYBR Green(BMA)を用いて定量的RT−PCRを行った。尚、TLR3のForward primerは配列番号1、Reverse primerは配列番号2を使用して、PCR条件:94℃3分、(94℃15秒、60℃15秒、72℃30秒)×45サイクルで実施した。また、内部標準遺伝子としてのACTBについては、Forward primerは配列番号3、Reverse primerは配列番号4を使用して、PCR条件:94℃3分、(94℃15秒、62℃15秒、72℃30秒)×35サイクルで実施し、SYBR Greenが発する蛍光量を測定することで初期鋳型cDNA量を求めた。さらに、ACTBの初期鋳型cDNA量を求め、その値で目的遺伝子の初期鋳型cDNA量を割って補正を行い、得られた数値を目的遺伝子のmRNAの相対量とした。それぞれ同じサンプルについて50μLの系を3本用意して行い、その平均の値を結果として使用した。図3に示す通り、全ての症例において正常腎に比べてClear cell RCCでTLR3遺伝子の発現亢進を認めた。
【0106】
実施例3 TLR3cDNAのクローニング、全長強制発現細胞抽出物の調製
TLR3のコーディング領域に対してプライマーを設計し、上記実施例2で得られたcDNAを鋳型としてPCR反応を行った。DNAポリメラーゼとしては、KOD−plus−ver.2(TOYOBO)を用いた。尚、PCR条件は以下のとおりである。Foward primer として配列番号5、Reverse primer として配列番号6を用い、PCR条件:94℃2分、(94℃15秒、55℃30秒、68℃3分)×25サイクルにておこなった。得られたPCR産物をアガロースゲルにて電気泳動して切り出し、QIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN)を用いて回収した。回収したDNAおよびZero Blunt TOPO PCR Cloning Reagents(Invitrogen)を用いてベクターへの組み込みを行った。コンピテント細胞としてTOPO10(Invitrogen)を用い、クローニングを行った。コロニーPCRおよびシークエンシングにより、正しいTLR3 cDNAの配列が組み込まれていることが確認されたコンストラクトを、EcoRIおよびSmaI(TaKaRa Bio)により制限酵素処理して、TLR3のコーディング領域をプラスミドから切り出し、QIAquick Gel Extraction Kitを用いてDNAフラグメントを回収した。同様に制限酵素処理した動物細胞発現用ベクターであるphCMV vector(Genlantis)に、得られたTLR3のコーディング領域を組み込んだ。ライゲーション試薬としてはT4 DNA Ligase(Promega)を用いた。得られたコンストラクトを、TOP10へトランスフォーメーションした。QIAGENのMidPrep kitを用いてプラスミドDNAを精製回収した。
【0107】
次に、精製されたプラスミドDNAをCHO細胞(大日本住友製薬)に、FuGENE Transfection reagent(Roche)を用いて導入した。細胞は、トランスフェクション前日に、10cm dishに8×105個播種した。トランスフェクション時には、OptiMEM培地(Invitrogen)400μL、FuGENE試薬16μL、プラスミドDNA8μgを混合し、15分間室温にて静置した。その後、混合液を10cm dishに添加した。48時間後に限外希釈を行い、クローニングを開始した。セレクション薬剤にはG418(Invitrogen)を1mg/mLの濃度で使用した。クローニング後の細胞を10cm dishで培養し、コンフルエントになった時点で、プロテアーゼ阻害剤を加えたRIPAバッファーを用いてタンパク質を回収した。
【0108】
実施例4 TLR3の免疫用抗原の調製
TLR3の細胞外領域(1−700aa)に対してC末端側にヒスチジンタグを付加したプライマーを設計し、上記実施例3で得られたTLR3のコーディング領域のDNAを鋳型としてPCR反応を行った。DNAポリメーラーゼとしては、KOD−plus−ver.2(TOYOBO)を用いた。尚、PCR条件は以下のとおりである。Foward primerとして配列番号7、Reverse primerとして配列番号8を用い、PCR条件:94℃2分、(94℃15秒、55℃30秒、68℃3分)×25サイクルにておこなった。得られたPCR産物をアガロースゲルにて電気泳動して切り出し、QIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN)を用いて回収した。回収したDNAおよびZero Blunt TOPO PCR Cloning Reagents(Invitrogen)を用いてベクターへの組み込みを行った。コンピテント細胞としてTOPO10(Invitrogen)を用い、クローニングを行った。コロニーPCRおよびシークエンシングにより、正しいTLR3 cDNAの配列が組み込まれていることが確認されたコンストラクトを、NotIおよびXbaI(TaKaRa Bio)により制限酵素処理して、TLR3の細胞外領域をプラスミドから切り出し、QIAquick Gel Extraction Kitを用いてDNAフラグメントを回収した。同様に制限酵素処理した動物細胞発現用ベクターであるpNOWベクター(イムノ・ジャパン)に、得られたTLR3の細胞外領域を組み込んだ。ライゲーション試薬としてはT4 DNA Ligase(Promega)を用いた。得られたコンストラクトを、TOP10へトランスフォーメーションした。QIAGENのMidPrep kitを用いてプラスミドDNAを精製回収した。
【0109】
続いて精製回収されたプラスミドDNAをCHO細胞(大日本住友製薬)に、FuGENE Transfection reagent(Roche)を用いて導入した。細胞は、トランスフェクション前日に、10cm dishに8×105個播種した。トランスフェクション時には、OptiMEM培地(Invitrogen)400μL、FuGENE試薬16μL、プラスミドDNA8μgを混合し、15分間室温にて静置した。その後、混合液を10cm dishに添加した。48時間後に限外希釈を行い、クローニングを開始した。セレクション薬剤にはG418(Invitrogen)を1mg/mLの濃度で使用した。クローニング後の細胞を無血清培地CHO−SFM−II(Invitrogen)を使用しローラーボトル(Falcon)にて培養を行い、培養上清を回収した。得られた培養上清からHis Trap HPカラム(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)を用いてTLR3の細胞外領域(1−700aa)−His tag融合タンパク質の精製を行った。この精製された融合タンパク質をPBSに対し透析し、免疫用抗原として用いた。
【0110】
実施例5 抗TLR3モノクローナル抗体の作製
PBSに溶解した50μgのTLR3の細胞外領域(1−700aa)−His tag融合タンパク質とTiter−MAX(TiterMax USA,Inc.)を等量混合してMRL/Iprマウス(三共ラボサービス)に腹腔内注射することにより初回免疫を行った。2回目以降の免疫は同様に調製した25μgタンパク質量相当のTLR3の細胞外領域(1−700aa)−His tag融合タンパク質とTiter−MAXを混合して腹腔内注射することにより実施した。最終免疫から3日後にマウスから脾臓細胞を無菌的に調製し、ポリエチレングリコール法によってマウスミエローマ細胞NS1との細胞融合を行った。
ハイブリドーマ培養上清中の抗TLR3抗体のスクリーニングは、TLR3の細胞外領域(1−700aa)−His tag融合タンパク質を固相化したELISAによって実施した。
【0111】
実施例6 腎癌組織抽出液TLR3のイムノブロティング
凍結組織およびTLR3強制発現CHO細胞を液体窒素で満たした乳鉢の中ですり棒を用いてすり潰し、プロテアーゼ阻害剤(SIGMA)を加えたRIPAバッファー(10mM Tris−HCl,pH7.4、150mM NaCl、5mM EDTA、1%Triton X−100、1%デオキシコール酸ナトリウム、0.1% SDS)を加えた。30分間氷上に静置し、4℃、10分、10,000rpmで遠心して上清をチューブに回収し、等量のサンプルバッファー(2×SDSバッファー、10%メルカプトエタノール)を加えて、95℃で15分加熱した。加熱後遠心上清を12%アクリルアミドゲル上に電気泳動した。電気泳動は100Vで10分間、200Vで50分間行った。2%スキムミルク/TBS−T(Triton X−100)にてブロッキングを60分間行った後、一次抗体と室温で60分間反応させた。一次抗体としては抗TLR3モノクローナル抗体(2.5μg/mL,IMGENEX)および抗β−actinモノクローナル抗体(0.3μg/mL,Sigma)を用いた。TBS−Tによる洗浄を行った後、二次抗体と室温で45分間反応させた。二次抗体としてはHRPラベルされた抗マウスIgG抗体(Amersham Biosciences)を1/10,000に希釈したものを用いた。TBS−Tによる洗浄を行った後に、化学発光検出試薬であるECL−PLUS(Amersham Biosciences)によってHRPの発光を行い、LAS 3000イメージアナライザー(富士フィルム)でバンドを検出した。
【0112】
図4に示すように、TLR3を強制発現させたCHO細胞から回収したタンパク質においては、TLR3タンパク質の予想サイズである120kDa付近に単一のバンドが得られたが、コントロールのCHO細胞から回収したタンパク質の場合バンドは認められなかった。一方で、定量的RT−PCRによって癌部でのTLR3遺伝子の発現亢進が確認された検体(9T)でも同じ位置に単一のバンドを認めた。同一患者の正常腎(9N)でも同じ位置にごく弱いバンドを認めた。
【0113】
実施例7 腎細胞癌におけるTLR3タンパク質の局在、および各組織型における発現頻度、ならびに臨床病理学的データとの相関性
(7−1)TMAブロックの作製
1993年から2004年にかけて東京大学医学部附属病院にて手術的に切除された腎腫瘍216例のパラフィンブロックからTissue micro array(TMA)ブロックを作製した。まず、各症例のスライドガラスを鏡検し、組織型の評価を行うとともに、腫瘍の代表的な部分2箇所に印をつけた。次いで、印をつけたスライドガラスと照らし合わせながら、各症例のパラフィンブロックから2箇所を直径2mmの針で打ち抜き、TMAブロックに移植した。1ブロックにつき24症例48箇所の組織を移植したTMAブロックを9個作成した。TMAブロックを4μmの厚さに薄切し、シランコートガラスに貼り付け、免疫染色用の標本とした。なお、連続切片の1枚に対してはHE(ヘマトキシリン・エオジン)染色を行い、組織型の評価を行った。
【0114】
(7−2)染色方法
まず、4μmに薄切された切片に対し、キシレン・エタノール系列で脱パラフィン化と親水化を行った。次に、切片をpH6.0クエン酸バッファーに浸した状態で10分間オートクレーブ処理(121℃)することにより抗原賦活化を行った。一次抗体として、抗TLR3モノクローナル抗体(IMGENEX)を抗体希釈液(ChemMate Antibody Diluent,DakoCytomation)で10倍に希釈し(希釈後濃度2.5μg/mL)、室温で60分間反応させた。TBSで洗浄した後、二次抗体として、ENVISION+/HRP(DAKO)を室温で30分間反応させ、TBSで洗浄した。Diaminobenzidine tetrahydrochloride(DAB)で発色を行い、最後にヘマトキシリンで核染色を行い、エタノール、キシレン系列で脱水、透徹して封入した。陰性コントロールとして、全ての切片に対して一次抗体のみを省いて同様の染色工程を行った。陰性コントロール切片では、陽性シグナルは認められなかった。
【0115】
染色の強度は0(陰性)、1+(弱陽性)、2+(中等度陽性)、3+(強陽性)の4段階で評価した。染色強度の判定は2人の病理医が独立して行った。TMAに対する免疫染色では、Clear cell RCC 189例、Papillary RCC 11例、Chromophobe RCC 8例、計208例を対象として評価した。
【0116】
TMAに対する染色の結果、正常腎では、大部分の尿細管および集合管の細胞質に弱陽性像(1+)がみられた(図5(A))。稀に、中等度陽性(2+)を示す尿細管も散見された(図5(B))。また、稀にボウマン嚢上皮にも弱陽性像が観察された。
【0117】
Clear cell RCCでは189例中184例(97.4)に陽性像が得られた。正常尿細管よりも強い発現を示すもの(2+および3+)は189例中139例(73.5%)であった。癌部では癌細胞の細胞質に細顆粒状の染色像を認めた(図5(D,E))。間質との境界部で特に発現が増強している症例も認められた(図5(F))。癌部では癌細胞特異的に染色され、癌細胞以外の血管内皮細胞や炎症細胞には陽性像は観察されなかった。
Papillary RCCではClear cell RCCと同様に高頻度に発現を認めたが(図6(A)、表7)、Chromophobe RCCでは、8例中全てが完全に陰性だった(図6(B)、表7)。
【0118】
【表7】
【0119】
(7−3)臨床病理学的データとの相関の検討
Clear cell RCC 189例についての、TLR3染色強度と臨床病理学的因子との相関を表8に示す。TLR3高発現群では、低発現群に比べて静脈侵襲が少ない傾向があったものの、TLR3の染色強度と、年齢・性別・核異型度・pT・静脈侵襲との間に有意差は見られなかった。
【0120】
【表8】
【0121】
実施例8 Clear cell RCCの肺転移巣におけるTLR3タンパク質の発現
Clear cell RCCの肺転移巣8例のパラフィン包埋検体を用いて実施例7と同様に免疫染色を行った。
Clear cell RCC の肺転移巣では、8例中6例(75%)で、50%以上の癌細胞に中等度(2+)以上の陽性像を認めた(図6(C,D))。なお、正常肺胞上皮や終末細気管支上皮では殆どTLR3の発現はみられなかった。
【0122】
実施例9 Poly I:C単剤による細胞増殖抑制
腎癌細胞株8種を東北大学加齢研(Caki−1、ACHN、SW839、VMRC−RCW)、理研セルバンク(OS−RC−2、TUHR10−TKB、TUHR14−TKB)およびAmerican Type Culture Collection(Caki−2)より入手した。細胞は10%FBSおよび抗生物質(ペニシリン・ストレプトマイシン)を含む培地を培養液として、5% CO2通気下、37℃にて培養した。使用した培地は、ACHN、SW839、VMRC−RCW、OS−RC−2、TUHR10−TKB、TUHR14−TKBについてはRPMI1640 medium(SIGMA)、Caki−1、Caki−2についてはMacoy 5A modified medium(Invitrogen)である。各細胞をそれぞれ10cm dishで培養し、70〜80%のコンフルエントになった時点でRNAを回収した。1μgのRNAをテンプレートとしてcDNA合成を行い、定量的RT−PCRで目的遺伝子の発現量を測定した。TLR3遺伝子の発現は全ての細胞株で認められた(図7(A))。発現量には細胞株によってばらつきがあり、最も高発現していたTUHR10−TKBでは、最も発現が低かったCaki−2の9.9倍の発現量を示した。それら腎癌細胞株8種に対してPoly I:C(Invitrogen)を投与し、細胞増殖の程度を測定した。各細胞を96−well plateに1ウェルあたり2×103個あるいは4×103個となるように播種した(播種細胞の個数は増殖速度に応じて調整した)。24時間後、培地を除去し、各種濃度のPoly I:Cを含む培地を添加し、さらに培養を行った。Poly I:Cを添加してから一定時間経過後に、WST−8 assay Kit(同仁)を用いて生細胞数の比較を行った。プレートリーダーにて450nmの吸光度を測定し、その値からバックグラウンドとして630nmの吸光度を差し引いた値を結果として用いた。それぞれ同じ条件について4ウェルの測定を行い、その平均の値を結果として使用した。10μg/mLのPoly I:Cを投与し、72時間後に吸光度を測定した場合、8個中5個の細胞株(TUHR10−TKB、OS−RC−2、TUHR14−TKB、SW839、VMRC−RCW)で有意(p<0.01)な増殖抑制効果が観察された(図7(B))。そして、TLR3遺伝子の発現が高い細胞株ほどより強い増殖抑制効果を示す傾向があった。すなわち、10μg/mLのPoly I:C投与では、TLR3遺伝子の発現が最も高いTUHR10−TKBに対して最大の増殖抑制効果を示した。そして、10μg/mLのPoly I:C添加で有意な増殖抑制効果を示さなかった3株(ACHN、Caki−1、Caki−2)ではTLR3遺伝子の発現は低かった(図7(A))。
Poly I:Cによる増殖抑制効果は用量依存性であった。すなわち、TLR3遺伝子の発現が最も高かったTUHR10−TKBに各種濃度のPoly I:Cを投与したところ、Poly I:Cの濃度が高いほど強い増殖抑制効果を示した(図7(C))。
【0123】
実施例10 Poly I:C添加によるアポトーシス誘導
Poly I:Cによる増殖抑制効果にアポトーシスが寄与しているかどうかを、Annexin−V染色にて検討した。腎癌細胞株TUHR10−TKBを、4−well組織培養用カルチャースライド(BDbiosciences)に1ウェルあたり5×104個となるように播種した。24時間後、培地を除去し、0または50μg/mLのPoly I:Cを含む培地を添加し、5時間培養を行った。その後、Annexin−V−FLUOS Staining Kit(Roche)のプロトコールに従い、アポトーシスに陥った細胞の観察を行った。すなわち、培養終了後、培地を除去し、HEPESバッファーで2回洗浄した。次に、Annexin−V−FLUOS labeling solutionを1ウェルあたり100μL添加し、室温で15分間反応させた。カバーガラスで封入し、蛍光顕微鏡にて488nmの波長で観察した。Poly I:C添加群では約10%の細胞が陽性を示したのに対し、対照のPoly I:C非添加群では、陽性細胞は稀(1%程度)であった(図8)。すなわち、Poly I:C添加によって細胞アポトーシスが誘導されることがわかった。
【0124】
実施例11 定量的RT−PCRによるPoly I:C投与時TLR3下流遺伝子の発現変化の解析
腎癌細胞株TUHR10−TKBおよびCaki−1の培養後、50μg/mLのPoly I:Cを投与し、0、2、6、12、24時間後に細胞をPBSで2回洗浄した後、Trizolを加えホモジナイズした。回収した1μgのRNAをテンプレートとしてcDNA合成を行い、定量的RT−PCRで目的遺伝子の発現変化を測定した。cDNA合成および定量的RT−PCRは前述の通り行った。内部標準遺伝子としてACTBの初期鋳型cDNA量を求め、その値で目的遺伝子の初期鋳型cDNA量を割って補正を行い、得られた数値を目的遺伝子のmRNAの相対量とした。それぞれ同じサンプルについて50μLの系を3本用意して行い、その平均の値を結果として使用した。使用した各サイトカインおよびケモカインのForward primer(F)およびReverse primer(R)を以下に示す。各PCR条件はサイクル数を除きIFNβと同条件である。
【0125】
<IFNβ>:F(配列番号9)、R(配列番号10);94℃3分、(94℃15秒、60℃15秒、72℃30秒)×38サイクル
<IL6>:F(配列番号11)、R(配列番号12);×40サイクル
<IL8>:F(配列番号13)、R(配列番号14);×40サイクル
<IP10(CXCL10)>:F(配列番号15)、R(配列番号16);×35サイクル
<RANTES(CCL5)>:F(配列番号17)、R(配列番号18);×35サイクル
【0126】
まず、TLR3シグナルにおいて最も重要な役割を果たすIFNβの発現について検討した。TUHR10−TKBおよびCaki−1はいずれも定常状態ではほとんどIFNβの発現はみられなかったが、poly I:C添加によって発現が著明に増加した(図7(D))。IFNβの発現増強は、TLR3発現の高いTUHR10−TKB株でより顕著であった。また、TUHR10−TKB株について、TLR3の下流遺伝子として知られているIL6、IL8、IP10(CXCL10)、RANTES(CCL5)のpoly I:C添加による経時的な発現変化を調べた。いずれの遺伝子も定常状態ではほとんど発現はなかったが、poly I:C添加の2時間後には発現の上昇がみられ、さらに時間の経過とともに発現が上昇していった(図9(A−D))。TLR3の発現も、poly I:C添加から6時間後より上昇した(図9(E))。
【0127】
実施例12 siRNAによるTLR3遺伝子の発現抑制
腎癌細胞株OS−RC−2について、TLR3を標的としたsiRNAによるTLR3の発現抑制解析を行った。siRNAの導入はHiPerFect(QIAGEN)のプロトコールに従い、リバーストランスフェクション法を用いて行った。OptiMEM培地(Invitrogen)に、HiPerFectおよびsiRNAを最終濃度20nMとなるように混合し、抗生物質を含まない細胞懸濁液を添加した。6−well plateで48時間培養した後RNAを回収した。1μgのRNAをテンプレートとしてcDNA合成を行い、定量的RT−PCRで目的遺伝子の発現変化を測定した。siRNAの配列は配列番号19に示した。陰性コントロールとして、Stealth RNAi Negative Control Kit with Medium GC(GC 48%)(Invitrogen)を使用した。さらに、上記と同様に、腎癌細胞株OS−RC−2に対して最終濃度20nMのsiRNAを導入し、96−well plateで72時間培養した。その後、0または50μg/mLのpoly I:C溶液(抗生物質を含む)を添加し、さらに48時間培養した後、前述の通り、WST−8 assay Kitを用いて生細胞数の比較を行った。それぞれ同じ条件について4ウェルの測定を行い、その平均の値を結果として使用した。その結果、TLR3を標的としたsiRNAによって、陰性コントロールと比較してTLR3遺伝子の著明な発現抑制がみられた(図10(A))。次いで、siRNAによってTLR3遺伝子の発現を抑制したときの細胞増殖に与える変化およびpoly I:Cによる増殖抑制効果ならびにIFNβ遺伝子発現の変化を検討した。まず、TLR3遺伝子の発現を抑制すること自体は細胞増殖に変化を与えなかった(図10(B))。しかし、TLR3遺伝子の発現を抑制することにより、poly I:Cによる増殖抑制効果は有意に減弱した。すなわち、コントロール株ではpoly I:C添加によって37%の増殖抑制効果(poly I:C非投与群の吸光度に対する投与群の吸光度の減少割合を示す)を示したのに対し、TLR3遺伝子の発現を抑制したものでは増殖抑制効果が17%に半減した(図10(B))。すなわち、poly I:Cによる増殖抑制効果はTLR3の発現に依存しているということが示された。また、TLR3遺伝子の発現を抑制することにより、poly I:CによるIFNβの発現誘導が抑制された(図10(C))。すなわち、poly I:CによるIFNβの発現誘導もTLR3の発現に依存しているということが示された。
【0128】
実施例13 poly I:CおよびIFNαの併用による感受性試験
腎癌細胞株Caki−1に対して、poly I:CおよびIFNαを併用することによる増殖の変化を測定した。まず、96−well plateに1ウェルあたり2×103個となるように細胞を播種した。播種後24時間で培地を除去し、IFNα(0、100、1000、10000U/mL)を含む培地を添加した。IFNα添加24時間後、培地を除去し、poly I:C(0、10、50μg/mL)を含む培地を添加した。さらに48時間培養を行った後、WST−8 assay Kitを用いて生細胞数の比較を行った。それぞれ同じ条件について4ウェルの測定を行い、その平均の値を結果として使用した。
Caki−1に対して、IFNαとpoly I:Cは相乗的な増殖抑制効果を示した(図11(A))。すなわち、IFNαを加えなかった場合、poly I:Cのみによる増殖抑制効果は乏しかったが(poly I:C 50μg/mLのものは、poly I:Cなしのものに比べて17%の増殖抑制効果)、IFNαの投与により、poly I:Cによる増殖抑制効果が著明に増強した。具体的には、IFNαを100、1000、10000U/mL加えた場合(それぞれ単独では11、19、23%の増殖抑制効果を示すにすぎない)、さらにpoly I:C 50μg/mLを加えたときの増殖抑制効果(poly I:C、IFNαのいずれも添加しなかった群の吸光度に対する目的群の吸光度の減少割合を示す。以下同じ。)はそれぞれ50、71、76%に増強した。また、IFNα単独の場合増殖抑制効果は乏しかったが(IFNα 10000U/mLのものは、IFNαなしのものに比べて23%の増殖抑制効果)、IFNα添加培養のpoly I:Cを加えた場合、IFNαによる増殖抑制効果が著明に増強した。具体的には、poly I:Cを10あるいは50μg/mL加えた場合(それぞれ単独では9、17%の増殖抑制効果を示すにすぎない)、IFNα 10000U/mLを加えたものの増殖抑制効果はそれぞれ57、76%に増強した。
【0129】
実施例14 IFNα添加によるTLR3遺伝子の発現変化
実施例13と同様に腎癌細胞株Caki−1に、IFNα(0,100,1000,10000U/mL)を添加し、6時間後にRNAを回収した。1μgのRNAをテンプレートとしてcDNA合成を行い、定量的RT−PCRでTLR3遺伝子の発現変化を測定した。IFNα投与により、TLR3遺伝子の発現上昇がみられた。定常状態と比較し、TLR3遺伝子の発現量はIFNα 100U/mL添加により3.4倍、10000U/mL添加により4.8倍に増加した(図11(B))。
【0130】
実施例15 IFNαおよびpoly I:C添加によるTLR3下流遺伝子の発現変化
実施例13と同様に、腎癌細胞株Caki−1に、0、100、1000、10000U/mLのIFNαを投与して24時間培養した後、0あるいは50μg/mLのpoly I:Cを投与し、6時間後にRNAを回収した。1μgのRNAをテンプレートとしてcDNA合成を行い、定量的RT−PCRで目的遺伝子の発現変化を測定した。IFNβ、IL6、IL8、IP10、RANTESのいずれも、poly I:Cを添加しなかった場合は、プレインキュベートしたIFNαの濃度に関わらず、発現はほとんどみられなかった(IFNβ、IL6、IL8、RANTESについて図10(D−F)に示す。IP10については省略)。poly I:C添加により、全ての遺伝子の発現が上昇した。そして、遺伝子発現上昇の程度はIFNαの濃度に依存していた。すなわち、同じ濃度(50μg/mL)のpoly I:Cを添加した場合、プレインキュベートしたIFNαの濃度が高いほど、TLR3下流遺伝子の発現量は高くなった(図10(C−F))。
【図面の簡単な説明】
【0131】
【図1】腎癌症例および遺伝子の2方向による階層的クラスター解析の結果を示す。
【図2】腎癌および正常組織のGeneChip解析によるTLR3の遺伝子発現量を示す。
【図3】腎癌および正常組織における定量的RT−PCRによるTLR3遺伝子の発現量を示す。
【図4】Clear cell RCC、正常腎組織ペア検体およびにTLR3強制発現CHO細胞おける腎癌組織抽出液TLR3のイムノブロティング結果を示す。
【図5】腎癌におけるTLR3タンパク質の局在を示す。
【図6】腎癌各組織型および転移巣における発現頻度を示す。
【図7】Poly I:C単剤による細胞増殖抑制効果結果を示す。
【図8】Poly I:C添加によるアポトーシス誘導結果を示す。
【図9】定量的RT−PCRによるPoly I:C投与時TLR3下流遺伝子の発現変化の解析結果を示す。
【図10】siRNAによるTLR3遺伝子の発現抑制結果を示す。
【図11】poly I:CおよびIFNαの併用による細胞増殖に対する相乗効果結果を示す。
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗TLR3抗体を利用した腎癌の診断薬およびTLR3アゴニストを利用した腎癌の治療薬に関する。
【背景技術】
【0002】
腎細胞癌(renal cell carcinoma;RCC)は成人悪性腫瘍の2−3%を占め、日本およびアメリカでは罹患率・死亡率ともに増加傾向にある(非特許文献1,2)。腎細胞癌の主な組織型としては、(1)Clear cell RCC(約80%)、(2)Papillary RCC(10−15%)、(3)Chromophobe RCC(約5%)、(4)Collecting duct carcinoma(約1%)がある(非特許文献3)。また、分化が悪くなり癌細胞が肉腫様に変化するsarcomatoid changeは全ての組織型に伴いうる。
【0003】
腎癌に対しては、画像検査技術の進歩により早期発見症例が増えた反面、いまだに遠隔転移を有する症例が減っていないのが現状である。すなわち、腎癌については、発見の遅滞あるいは従来適切な治療法が無かったことを意味する。従って、腎癌の簡便かつ的確な早期発見技術および有効な治療法の開発が望まれている。近年多くの癌種において癌特異的に発現されているタンパク質をターゲットとした、診断方法および治療方法の研究が盛んであるが、多くは遺伝子レベルでの解析に止まり、進展していないのが現状である。
【0004】
腎細胞癌の現状での治療法としては早期外科的切除が有効とされているが、根治的切除不能例や再発例のような進行性腎細胞癌には、有効な治療法がない。すなわち、これら進行性腎細胞癌に対する治療としては、他の癌腫で通常行われる化学療法や放射線療法はほとんど効果を示さないとされている(非特許文献4,5)。その反面、一部の症例に対してインターフェロンα(IFNα)やインターロイキン2といった免疫療法が奏効することが腎細胞癌の特徴であり、日本では進行性腎細胞癌の治療には広くIFNαが用いられている。しかし、進行性腎細胞癌症例に対するIFNαの奏功率は10−20%程度に過ぎない(非特許文献6,7)。ゆえに、進行性腎細胞癌に対する有効な治療法の開発が望まれている。
【0005】
toll−like receptor(TLR)は、病原体からの刺激に対して自然免疫担当細胞を活性化させることで感染防御に働く分子である。TLRは現在までに13種類が知られており(ヒトでは10種類)、その大部分はリガンドが同定されており(非特許文献8)、それらには細菌細胞壁成分であるLPS、リポタイコ酸、ペプチドグリカン、細菌鞭毛成分フラジェリン、細菌あるいはウイルス由来CpG DNA、ウイルス由来1本鎖RNA、ウイルス由来2本鎖RNA、ウイルス由来タンパク質がある。多くのTLRsはリガンド結合後アダプター分子であるMyD88依存的な経路を介して転写因子NF−κBを核に移行させることでサイトカインであるTNFIαやIL−6と同様な炎症性作用を示すことにより、病原体の侵入に対して感染防御に働くことにその主な役割があると従来考えられていた。しかし、ある種のTLRは癌細胞にも発現しており、TLRが癌細胞の増殖に有利な環境を作り出しているということも最近になって考えられるようになってきている(非特許文献9)。その一方で、TLRアゴニストが癌の治療に用いられる可能性も考えられる(非特許文献10)。いわばTLRは癌にとって有利にも不利にも働きうる、「諸刃の剣」的な存在と言える(非特許文献11)。
【0006】
TLR3は、1998年のRock,F.L.による発見後(非特許文献12)、多くの文献が報告され、自然免疫に関与することが明らかにされた。すなわち、TLR3は他のTLRsとは異なり、ウイルスが産生する二本鎖RNA(dsRNA)がリガンドであり、リガンド結合後MyD88非依存的なTRIF経路で、IFNの産生を誘導することにより抗ウイルス作用を発揮することおよびNFκBの活性化が知られている(非特許文献13)。
【0007】
TLR3が自然免疫に関与することから、炎症および癌に応用可能との推論のもと、医療に関与する文献が多数報告されている(特許文献1〜4)。それらは、TLR3の生理機能としてのIFN−β、IFN誘導性遺伝子群および炎症性サイトカインへの影響を想定したアンタゴニストまたはアゴニスト作用を示す特許文献である。
【0008】
TLR3の発現は、細胞としては樹状細胞、線維芽細胞、腸上皮細胞、グリア細胞、臍帯静脈血管内皮細胞に、正常組織では子宮内膜、腎臓、癌組織では大腸癌(特許文献5)および腎臓癌(非特許文献14)組織においてTLR3が高発現していることが示されている。しかしながら、特許文献5および非特許文献14はマイクロアレイによる遺伝子発現解析のみであり、タンパク質発現については明らかにされていない。
【0009】
TLR3と癌の診断および治療に関する文献として、特許文献5で乳癌、大腸癌、肺癌、胃癌、前立腺癌、子宮癌、子宮頸部癌、子宮内膜癌、皮膚癌、および白血病に対する、抗体による診断と治療が特許請求の範囲に記載されているが、大腸癌における結果を示しているに過ぎず、腎癌に対する実施例はない。さらに、特許文献4においては、腎癌を含む多種類の癌の抗TLR3抗体による診断・治療が特許請求の範囲に記載されているが、乳癌について記載されているだけで、腎癌に関する実施例は全くない。
【非特許文献1】Int J Urol.2001;8:359−65
【非特許文献2】JAMA.1999;281:1628−31
【非特許文献3】J Pathol.1997;183:131−3
【非特許文献4】J Urol.2000;163:408−17
【非特許文献5】Lancet.1998;352:1691−6
【非特許文献6】J Urol.1999;161:381−7
【非特許文献7】Lancet.1999;353:14−7
【非特許文献8】Nat Rev Immunol.2004;4:499−51
【非特許文献9】Cancer Res.2005;65:5009−14
【非特許文献10】Nat Rev Drug Discov.2006;5:471−84
【非特許文献11】Br J Cancer.2006;95:247−52
【非特許文献12】Proc.Nat.Acad.Sci.1998;95:588−593
【非特許文献13】Nature.2001;413:732−8
【非特許文献14】BMC Cancer.2003;3:1−19
【特許文献1】国際公開第2006/060513号パンフレット
【特許文献2】米国特許出願公開第20060147456号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第20060115475号明細書
【特許文献4】国際公開第2006/054177号パンフレット
【特許文献5】国際公開第2005/026735号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
腎癌の治療としては早期外科的切除が有効とされているが、手術による治療は、転移巣の治療が困難であるばかりなく、侵襲と合併症の併発を伴うことが多い。根本的切除不能例や再発例のような進行性癌には、有効な治療法がないゆえに、初期の腎癌を早期に診断する必要がある。従って、腎癌に対する早期診断法および治療法の開発が望まれている。
【0011】
本発明の目的は、精度良く、早期腎癌を診断する方法と、効果的な治療方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
腎癌特異的に高発現している細胞表面分子の探索をマイクロアレイ解析により実施した結果、Clear cell RCCにおいては自然免疫応答に関与する遺伝子群が特徴的に高発現していることが明らかとなり、自然免疫応答がClear cell RCCの病因に繋がる可能性が考えられた。また、自然免疫応答に関与することが報告されているTLR3が遺伝子レベルでClear cell RCC特異的に高発現していることが認められ、併せてRT−PCRによりClear cell RCC特異的に高発現が確認できた。
次いで、Clear cell RCC組織に対し抗TLR3抗体による組織免疫染色を検討した結果、Clear cell RCC組織では細胞質に細顆粒状として189症例中184例においてTLR3タンパク質が染色された。そのうち139例において強く染色されることが確認できたのに対し、Chromophobe RCCでは全く染色されなかった。さらに、腎癌の肺転移8症例中6例においてもTLR3陽性像が確認できた。
一方、複数の腎癌細胞株へのリガンドまたはsiRNAの添加により、TLR3発現量に比例した増殖抑制効果が認められた。さらに、腎癌細胞株へのリガンドの添加により抗腫瘍効果が期待できるIFNβの発現が誘導された。この結果は、TLR3発現腎癌細胞を直接的に治療する方法であり、従来の自然免疫担当細胞である樹上細胞等のリガンドによる活性化を介した癌の治療とは異なることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、抗TLR3抗体を含有する腎癌の診断薬を提供するものである。
また、本発明は、被験者から採取された試料に抗TLR3抗体を反応させ、あるいは被験者に抗TLR3抗体を投与して、TLR3タンパク質を検出することを特徴とする腎癌の診断方法を提供するものである。
さらに、本発明は、TLR3アゴニストを投与することを特徴とする腎癌の治療方法、およびTLR3アゴニストを含有する腎癌の治療薬を提供するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、特異的に検出できる分子イメージング(PET)で行う方法および血液診断ならびにバイオプシーにより採取した組織を用いた腎癌の早期診断(生検)が可能となり、早急に新たな腎癌治療計画の策定が可能となる。また、手術を伴わず、患者に負担をかけない腎癌の非侵襲的な治療の実施が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明により、診断および治療される疾患は、腎癌である。診断および治療の対象となる動物は、ヒトであることが好ましいが、イヌ、ネコ、ウサギ、マウス、ラット、モルモット等のヒト以外の哺乳類でも良い。
【0016】
本発明において腎癌の診断を行う場合、被験者の血液中および臓器組織にTLR3タンパク質が検出された場合に、被験者が腎癌である可能性が高いと判定される。また、腎癌と診断された患者の血液あるいは組織中TLR3タンパク質濃度を測定することにより、その患者が治療対象患者か否かを判定すること(治療対象患者の選択)ができる。さらに、腎癌の治療後、TLR3タンパク質測定において、タンパク質の量が術前より減少した場合、治療の経過が良好であると判定される。一方、治療後のTLR3タンパク質の量が低下しないあるいは増加する場合には、再発および転移があると判定される。腎癌診断は、画像診断、生検および血液診断により行うことができる。
【0017】
画像診断においては、標識した抗TLR3抗体を投与後画像診断によりTLR3タンパク質を検出することにより行うことができる。より具体的には、抗TLR3抗体に、標識物質として放射性同位元素で標識したプローブを被験者に投与し、PETまたはSPECTで腎癌組織を検出することができる。使用する放射性同位元素は、当業者に公知の物質を用いることができるが、好ましくは陽電子放出放射性同位元素であり、さらに好ましくは11C、13N、18F、15O、94mTc、124Iである。抗TLR3抗体への放射性同位元素の標識は、当業者に公知の方法により行うことができる。
【0018】
生検により腎癌診断を行う方法として、被験者から得られた臓器組織を試料として、免疫学的測定法を行うことができる。例えば、ラジオイムノアッセイ、エンザイムイムノアッセイ、蛍光イムノアッセイ、発光イムノアッセイ、免疫沈降法、免疫比濁法、ウェスタンブロット、免疫染色、免疫拡散法などを挙げることができるが、好ましくは免疫染色である。免疫染色などの上述した免疫学的方法は当業者に公知の方法により行うことが可能である。
【0019】
生検により腎癌診断を行う他の様態として、抗TLR3抗体を一次抗体として使用した免疫組織学的染色法を行うことができる。具体的には、被験者から得られた検体を公知の方法によりパラフィンや凍結等により固定し、切片を作製する。次いで、切片を一次抗体として抗TLR3抗体、二次抗体としてIgGを認識するビオチン標識抗体をそれぞれ用いて処理する。二次抗体は、IgGを認識する公知の抗体を用いることができ、例えばウサギ抗IgG抗体などを挙げることができる。二次抗体に標識物質を結合させ、それぞれの標識物質に適した公知の方法により、切片中のタンパク質の有無を検出する。また、二次抗体を使用せず、抗TLR3抗体に標識物質を結合させ、免疫組織学的染色法を行うこともできる。標識物質は当業者公知の物質を用いることができるが、例えばペルオキシターゼ、FITCなどを挙げることができる。抗体と標識物質の結合は、当業者に公知の方法で行うことができ、具体的には、ストレプトアビジンとビオチンを利用した結合方法を挙げることができる。
【0020】
腎癌診断を行う他の様態として、被験者から得られた血液、血清、または血漿を試料として、免疫学的測定法を行うことができる。例えば、ラジオイムノアッセイ、エンザイムイムノアッセイ、蛍光イムノアッセイ、発光イムノアッセイ、免疫沈降法、免疫比濁法、ウェスタンブロット、免疫拡散法などを挙げることができるが、好ましくはエンザイムイムノアッセイであり、特に好ましいのは酵素結合免疫吸着定量法(enzyme-linked immunosorbent assay:ELISA)(例えば、sandwich ELISA)である。ELISAなどの上述した免疫学的方法は当業者に公知の方法により行うことが可能である。
【0021】
血液、血清、または血漿を検体とした腎癌診断方法としては、例えば、抗TLR3抗体を支持体に固定し、ここに被検試料を加え、インキュベートを行い抗TLR3抗体とタンパク質を結合させた後に洗浄して、抗TLR3抗体を介して支持体に結合したTLR3タンパク質の検出を行う方法を挙げることができる。
【0022】
本発明において抗TLR3抗体を固定するために用いられる支持体としては、例えば、アガロース、セルロースなどの不溶性の多糖類、シリコン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアクリルアミド樹脂、ナイロン樹脂、ポリカーボネイト樹脂などの合成樹脂や、ガラス、フェライトなどの不溶性の支持体を挙げることができる。これらの支持体は、ビーズやプレートなどの形状で用いることが可能である。ビーズの場合、これらが充填されたカラムなどを用いることができる。プレートの場合、マルチウェルプレート(96穴マルチウェルプレート等)、やバイオセンサーチップなどを用いることができる。抗TLR3抗体と支持体との結合は、化学結合や物理的な吸着などの通常用いられる方法により結合することができる。これらの支持体はすべて市販のものを用いることができる。
【0023】
抗TLR3抗体と試料中のTLR3タンパク質との結合は、通常、緩衝液中で行われる。緩衝液としては、例えば、リン酸緩衝液、Tris 緩衝液、クエン酸緩衝液、ホウ酸塩緩衝液、炭酸塩緩衝液などが使用され、通常用いるpHの範囲であればよい。また、インキュベーションの条件としては、すでによく用いられている条件、例えば、4℃〜37℃にて1時間〜24時間のインキュベーションが行われる。インキュベート後の洗浄は、抗TLR3抗体とTLR3タンパク質の結合を妨げないものであれば何でもよく、例えば、Tween−20等の界面活性剤を含む緩衝液などが使用される。
【0024】
本発明によるTLR3タンパク質の検出方法においては、TLR3タンパク質を検出したい被検試料の他に、コントロール試料を設置してもよい。コントロール試料としては、TLR3タンパク質を含まない陰性コントロール試料やTLR3タンパク質を含む陽性コントロール試料などがある。この場合、TLR3タンパク質を含まない陰性コントロール試料で得られた結果と、TLR3タンパク質を含む陽性コントロール試料で得られた結果と比較することにより、被検試料中のTLR3タンパク質を検出することが可能である。また、濃度を段階的に変化させた一連のコントロール試料を調製し、各コントロール試料に対する検出結果を数値として得て、標準曲線を作成し、被検試料の数値から標準曲線に基づいて、被検試料に含まれるTLR3タンパク質を定量的に検出することも可能である。
【0025】
抗TLR3抗体を介して支持体に結合したTLR3タンパク質の検出の好ましい態様として、標識物質で標識された抗TLR3抗体を用いる方法を挙げることができる。例えば、支持体に固定された抗TLR3抗体に被検試料を接触させ、洗浄後に、TLR3タンパク質を特異的に認識する標識抗体を用いて検出する。
【0026】
抗TLR3抗体の標識は通常知られている方法により行うことが可能である。標識物質としては、蛍光色素、酵素、補酵素、化学発光物質、放射性物質などの当業者に公知の標識物質を用いることが可能であり、具体的な例としては、ラジオアイソトープ(32P、14C、125I、3H、131Iなど)、フルオレセイン、ローダミン、ダンシルクロリド、ウンベリフェロン、ルシフェラーゼ、ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、β-グルコシダーゼ、ホースラディッシュパーオキシダーゼ、グルコアミラーゼ、リゾチーム、サッカリドオキシダーゼ、マイクロペルオキシダーゼ、ビオチン、ルテニウムなどを挙げることができる。標識物質としてビオチンを用いる場合には、ビオチン標識抗体を添加後に、ペルオキシダーゼなどの酵素を結合させたストレプトアビジンをさらに添加することが好ましい。標識物質と抗TLR3抗体との結合には、グルタルアルデヒド法、マレイミド法、ピリジルジスルフィド法、過ヨウ素酸法、などの公知の方法を用いることができる。
【0027】
具体的には、抗TLR3抗体を含む溶液をプレートまたはビーズなどの支持体に加え、抗TLR3抗体を支持体に固定する。プレート、またはビーズを洗浄後、タンパク質の非特異的な結合を防ぐため、例えばBSA、ゼラチン、アルブミンなどでブロッキングする。再び洗浄し、被検試料をプレートまたはビーズに加える。インキュベートの後、洗浄し、標識抗TLR3抗体を加える。適度なインキュベーションの後、プレートまたはビーズを洗浄し、支持体に残った標識抗TLR3抗体を検出する。検出は当業者に公知の方法により行うことができ、例えば、放射性物質による標識の場合には液体シンチレーションやRIA法により検出することができる。酵素による標識の場合には基質を加え、基質の酵素的変化、例えば発色を吸光度計により検出することができる。基質の具体的な例としては、2,2−アジノビス(3−エチルベンゾチアゾリン−6−スルホン酸)ジアンモニウム塩(ABTS)、1,2−フェニレンジアミン(オルソ−フェニレンジアミン)、3,3',5,5'−テトラメチルベンジジン(TMB)などを挙げることができる。蛍光物質または化学発光物質の場合にはルミノメーターにより検出することができる。
【0028】
本発明のTLR3タンパク質検出方法の特に好ましい態様として、ビオチンで標識された抗TLR3抗体と、ストレプトアビジンを用いる方法を挙げることができる。
【0029】
具体的には、抗TLR3抗体を含む溶液をプレートなどの支持体に加え、抗TLR3抗体を固定する。プレートを洗浄後、タンパク質の非特異的な結合を防ぐため、例えばBSAなどでブロッキングする。再び洗浄し、被検試料をプレートに加える。インキュベートの後、洗浄し、ビオチン標識抗TLR3抗体を加える。適度なインキュベーションの後、プレートを洗浄し、アルカリホスファターゼ、ペルオキシダーゼなどの酵素と結合したアビジンを加える。インキュベーション後、プレートを洗浄し、アビジンに結合している酵素に対応した基質を加え、基質の酵素的変化などを指標にTLR3タンパク質を検出する。
【0030】
本発明のTLR3タンパク質検出方法の他の態様として、TLR3タンパク質を特異的に認識する一次抗体を一種類以上、および該一次抗体を特異的に認識する二次抗体を一種類以上用いる方法を挙げることができる。
【0031】
例えば、支持体に固定された一種類以上の抗TLR3抗体に被検試料を接触させ、インキュベーションした後、洗浄し、洗浄後に結合しているTLR3タンパク質を、一次抗TLR3抗体、および該一次抗体を特異的に認識する一種類以上の二次抗体により検出する。この場合、二次抗体は好ましくは標識物質により標識されている。
【0032】
本発明のTLR3タンパク質の検出方法の他の態様としては、凝集反応を利用した検出方法を挙げることができる。該方法においては、抗TLR3抗体を感作した担体を用いてTLR3タンパク質を検出することができる。抗体を感作する担体としては、不溶性で、非特異的な反応を起こさず、かつ安定である限り、いかなる担体を使用してもよい。例えば、ラテックス粒子、ベントナイト、コロジオン、カオリン、固定羊赤血球等を使用することができるが、ラテックス粒子を使用するのが好ましい。ラテックス粒子としては、例えば、ポリスチレンラテックス粒子、スチレン−ブタジエン共重合体ラテックス粒子、ポリビニルトルエンラテックス粒子等を使用することができるが、ポリスチレンラテックス粒子を使用するのが好ましい。感作した粒子を試料と混合し、一定時間攪拌する。試料中にTLR3タンパク質が高濃度で含まれるほど粒子の凝集度が大きくなるので、凝集を肉眼でみることによりTLR3タンパク質を検出することができる。
また、凝集による濁度を分光光度計等により測定することによっても検出することが可能である。
【0033】
本発明のタンパク質の検出方法の他の態様としては、例えば、表面プラズモン共鳴現象を利用したバイオセンサーを用いた方法を挙げることができる。表面プラズモン共鳴現象を利用したバイオセンサーはタンパク質−タンパク質間の相互作用を微量のタンパク質を用いてかつ標識することなく、表面プラズモン共鳴シグナルとしてリアルタイムに観察することが可能である。例えば、BIAcore(Biacore International AB社製)等のバイオセンサーを用いることにより抗TLR3抗体とTLR3タンパク質との結合をそれぞれ検出することが可能である。具体的には抗TLR3抗体を固定化したセンサーチップに、被検試料を接触させ抗TLR3抗体に結合するTLR3タンパク質を共鳴シグナルの変化としてそれぞれ検出することができる。
【0034】
本発明の検出方法は、種々の自動検査装置を用いて自動化することもでき、一度に大量の試料について検査を行うことも可能である。
【0035】
本発明の腎癌診断薬は、キットの形態であってもよい。本発明の腎癌診断薬は少なくとも抗TLR3抗体を含む。該診断薬がELISA法等のEIA法に基づく場合は、抗体を固相化する担体を含んでいてもよく、抗体があらかじめ担体に結合していてもよい。該診断薬がラテックス等の担体を用いた凝集法に基づく場合は抗体が吸着した担体を含んでいてもよい。また、該診断薬は、適宜、ブロッキング溶液、反応溶液、反応停止液、試料を処理するための試薬等を含んでいてもよい。
【0036】
本発明の生検組織および血液などの試料を用いる診断用抗TLR3抗体は、TLR3タンパク質にそれぞれ特異的に結合すればよく、その由来、種類(モノクローナル、ポリクローナル)および形状を問わない。具体的には、マウス抗体、ラット抗体、トリ抗体、ヒト抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体などの公知の抗体を用いることができる。抗体はポリクローナル抗体でもよいが、モノクローナル抗体であることが好ましく、高感度で特異的な測定が可能であれば、市販されている抗体を使用してもよい。
【0037】
また、支持体に固定される抗TLR3抗体と標識物質で標識される抗TLR3抗体は、TLR3タンパク質の同じエピトープを認識してもよいが、異なるエピトープを認識することが好ましく、部位は特に制限されない。
【0038】
本発明の画像診断に用いられる抗体は、TLR3タンパク質と特異的に結合する限り、モノクローナル抗体であればキメラ抗体、ヒト化(CDR移植)抗体、ヒト抗体のいずれであっても良い。また、それら抗体は、癌に対する結合が認められれば、市販されている抗体を使用してもよい。
【0039】
本発明で使用される抗TLR3抗体は、公知の手段を用いてポリクローナルまたはモノクローナル抗体として得ることができる。本発明で使用される抗TLR3抗体として、哺乳動物由来あるいはトリ由来モノクローナル抗体が好ましい。特に、哺乳動物由来のモノクローナル抗体が好ましい。哺乳動物由来のモノクローナル抗体は、ハイブリドーマにより産生されるもの、および遺伝子工学的手法により抗体遺伝子を含む発現ベクターで形質転換した宿主に産生されるものを含む。
【0040】
モノクローナル抗体産生ハイブリドーマは、基本的には公知技術を使用し、以下のようにして作製できる。すなわち、TLR3タンパク質を感作抗原として使用して、これを通常の免疫方法にしたがって免疫し、得られる免疫細胞を通常の細胞融合法によって公知の親細胞と融合させ、通常のスクリーニング法により、モノクローナルな抗体産生細胞をスクリーニングすることによって作製できる。
具体的には、モノクローナル抗体を作製するには次のようにすればよい。
【0041】
まず、抗体取得の感作抗原として使用されるTLR3タンパク質はGenBank番号(NM_003265)に開示された遺伝子/アミノ酸配列を発現することによって得る。すなわち、TLR3タンパク質をコードするそれぞれの遺伝子配列を公知の発現ベクター系に挿入して適当な宿主細胞を形質転換させた後、その宿主細胞中または培養上清中から目的のヒトTLR3タンパク質を公知の方法で精製する。また、天然のTLR3タンパク質を精製して用いることもできる。
【0042】
次に、この精製TLR3タンパク質を感作抗原として用いる。あるいは、TLR3タンパク質の部分ペプチドを感作抗原として使用することもできる。この際、部分ペプチドはヒトTLR3タンパク質のアミノ酸配列より化学合成により得ることもできるし、ヒトTLR3遺伝子の一部を発現ベクターに組込んで得ることもでき、さらに天然のヒトTLR3タンパク質をタンパク質分解酵素により分解することによっても得ることができる。部分ペプチドとして用いるヒトTLR3タンパク質の部分および大きさは限定されない。
【0043】
感作抗原で免疫される哺乳動物としては、特に限定されるものではないが、細胞融合に使用する親細胞との適合性を考慮して選択するのが好ましく、一般的にはげっ歯類の動物、例えば、マウス、ラット、ハムスター、あるいはトリ、ウサギ、サル等が使用される。
【0044】
感作抗原を動物に免疫するには、公知の方法にしたがって行われる。例えば、一般的方法として、感作抗原を哺乳動物の腹腔内または皮下に注射することにより行われる。具体的には、感作抗原をPBS(Phosphate-Buffered Saline)や生理食塩水等で適当量に希釈、懸濁したものに所望により通常のアジュバント、例えばフロイント完全アジュバントを適量混合し、乳化後、哺乳動物に4〜21日毎に数回投与する。また、感作抗原免疫時に適当な担体を使用することもできる。特に分子量の小さい部分ペプチドを感作抗原として用いる場合には、アルブミン、キーホールリンペットヘモシアニン等の担体タンパク質と結合させて免疫することが望ましい。
【0045】
このように哺乳動物を免疫し、血清中に所望の抗体レベルが上昇するのを確認した後に、哺乳動物から免疫細胞を採取し、細胞融合に付されるが、好ましい免疫細胞としては、特に脾細胞が挙げられる。
【0046】
前記免疫細胞と融合される他方の親細胞として、哺乳動物のミエローマ細胞を用いる。このミエローマ細胞は、公知の種々の細胞株、例えば、P3(P3x63Ag8.653)(J. Immnol.(1979)123, 1548-1550)、P3x63Ag8U.1(Current Topics in Microbiology and Immunology(1978)81, 1-7)、 NS-1(Kohler. G. and Milstein, C. Eur. J. Immunol.(1976)6, 511-519)、MPC-11(Margulies. D.H. et al., Cell(1976)8, 405-415)、SP2/0 (Shulman, M. et al., Nature(1978)276, 269-270)、FO(de St. Groth, S. F. et al., J. Immunol. Methods(1980)35, 1-21)、S194(Trowbridge, I. S. J. Exp. Med.(1978)148, 313-323)、R210(Galfre, G. et al., Nature(1979)277, 131-133)等が好適に使用される。
【0047】
前記免疫細胞とミエローマ細胞との細胞融合は、基本的には公知の方法、たとえば、ケーラーとミルステインらの方法(Kohler. G. and Milstein, C.、Methods Enzymol.(1981)73, 3-46)等に準じて行うことができる。
【0048】
より具体的には、前記細胞融合は、例えば細胞融合促進剤の存在下に通常の栄養培養液中で実施される。融合促進剤としては、例えばポリエチレングリコール(PEG)、センダイウイルス(HVJ)等が使用され、さらに所望により融合効率を高めるためにジメチルスルホキシド等の補助剤を添加使用することもできる。
【0049】
免疫細胞とミエローマ細胞との使用割合は任意に設定することができる。例えば、ミエローマ細胞に対して免疫細胞を1〜10倍とするのが好ましい。前記細胞融合に用いる培養液としては、例えば、前記ミエローマ細胞株の増殖に好適なRPMI1640培養液、MEM培養液、その他、この種の細胞培養に用いられる通常の培養液が使用可能であり、さらに、牛胎児血清(FCS)等の血清補液を併用することもできる。
【0050】
細胞融合は、前記免疫細胞とミエローマ細胞との所定量を前記培養液中でよく混合し、予め37℃程度に加温したPEG溶液(例えば平均分子量1000〜6000程度)を通常30〜60%(w/v)の濃度で添加し、混合することによって目的とする融合細胞(ハイブリドーマ)を形成する。続いて、適当な培養液を逐次添加し、遠心して上清を除去する操作を繰り返すことによりハイブリドーマの生育に好ましくない細胞融合剤等を除去する。
【0051】
このようにして得られたハイブリドーマは、通常の選択培養液、例えばHAT培養液(ヒポキサンチン、アミノプテリンおよびチミジンを含む培養液)で培養することにより選択される。上記HAT培養液での培養は、目的とするハイブリドーマ以外の細胞(非融合細胞)が死滅するのに十分な時間(通常、数日〜数週間)継続する。ついで、通常の限界希釈法を実施し、目的とする抗体を産生するハイブリドーマのスクリーニングおよび単一クローニングを行う。
【0052】
目的とする抗体のスクリーニングおよび単一クローニングは、公知の抗原抗体反応に基づくスクリーニング方法で行えばよい。例えば、ポリスチレン等でできたビーズや市販の96ウェルのマイクロタイタープレート等の担体に抗原を結合させ、ハイブリドーマの培養上清と反応させ、担体を洗浄した後に酵素標識二次抗体等を反応させることにより、培養上清中に感作抗原と反応する目的とする抗体が含まれるかどうか決定できる。目的とする抗体を産生するハイブリドーマを限界希釈法等によりクローニングすることができる。この際、抗原としては免疫に用いたものを用いればよい。
【0053】
また、ヒト以外の動物に抗原を免疫して上記ハイブリドーマを得る他に、ヒトリンパ球をin vitroで、TLR3タンパク質に感作し、感作リンパ球をヒト由来の永久分裂能を有するミエローマ細胞と融合させ、TLR3タンパク質への結合活性を有する所望のヒト抗体を得ることもできる(特公平1−59878号公報参照)。さらに、ヒト抗体遺伝子の全てのレパートリーを有するトランスジェニック動物に抗原となるTLR3タンパク質を投与して抗TLR3抗体産生細胞を取得し、これを不死化させた細胞からTLR3タンパク質に対するヒト抗体をそれぞれ取得してもよい(国際特許出願公開番号WO 94/25585号公報、WO 93/12227号公報、WO 92/03918号公報、WO 94/02602号公報参照)。
【0054】
このようにして作製されるモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは、通常の培養液中で継代培養することが可能であり、また、液体窒素中で長期保存することが可能である。
【0055】
当該ハイブリドーマからモノクローナル抗体を取得するには、当該ハイブリドーマを通常の方法に従い培養し、その培養上清として得る方法、あるいはハイブリドーマをこれと適合性がある哺乳動物に投与して増殖させ、その腹水として得る方法などが採用される。前者の方法は、高純度の抗体を得るのに適しており、一方、後者の方法は、抗体の大量生産に適している。
【0056】
本発明では、モノクローナル抗体として、抗体遺伝子をハイブリドーマからクローニングし、適当なベクターに組み込んで、これを宿主に導入し、遺伝子組換え技術を用いて産生させた組換え型のものを用いることができる(例えば、Vandamme, A. M. et al., Eur.J. Biochem.(1990)192, 767-775, 1990参照)。
具体的には、抗TLR3抗体を産生するハイブリドーマから、抗TLR3抗体の可変(V)領域をコードするmRNAを単離する。mRNAの単離は、公知の方法、例えば、グアニジン超遠心法(Chirgwin, J. M. et al., Biochemistry(1979)18, 5294-5299)、APGC法(Chomczynski, P.et al., Anal. Biochem.(1987)162, 156-159)等により行って全RNAを調製し、mRNA Purification Kit (Pharmacia製)等を使用して目的のmRNAを調製する。また、QuickPrep mRNA Purification Kit(Pharmacia製)を用いることによりmRNAを直接調製することもできる。
【0057】
得られたmRNAから逆転写酵素を用いて抗体V領域のcDNAを合成する。cDNAの合成は、AMV Reverse Transcriptase First-strand cDNA Synthesis Kit(生化学工業社製)等を用いて行う。また、cDNAの合成および増幅を行うには、5'−Ampli FINDER RACE Kit(Clontech製)およびPCRを用いた5'−RACE法(Frohman, M. A. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA(1988)85, 8998-9002、Belyavsky, A.et al., Nucleic Acids Res.(1989)17, 2919-2932)等を使用することができる。
【0058】
得られたPCR産物から目的とするDNA断片を精製し、ベクターDNAと連結する。さらに、これより組換えベクターを作製し、大腸菌等に導入してコロニーを選択して所望の組換えベクターを調製する。そして、目的とするDNAの塩基配列を公知の方法、例えば、ジデオキシヌクレオチドチェインターミネーション法等により確認する。
【0059】
目的とする抗TLR3抗体のV領域をコードするDNAをそれぞれ得たのち、これを、所望の抗体定常領域(C領域)をコードするDNAを含有する発現ベクターへ組み込む。
【0060】
本発明で使用される抗TLR3抗体を製造するには、抗体遺伝子を発現制御領域、例えば、エンハンサー、プロモーターの制御のもとで発現するよう発現ベクターに組み込む。次に、この発現ベクターにより、宿主細胞を形質転換し、抗体を発現させる。
【0061】
抗体遺伝子の発現は、抗体重鎖(H鎖)または軽鎖(L鎖)をコードするDNAを別々に発現ベクターに組み込んで宿主細胞を同時形質転換させてもよいし、あるいはH鎖およびL鎖をコードするDNAを単一の発現ベクターに組み込んで宿主細胞を形質転換させてもよい(WO 94/11523 号公報参照)。
【0062】
また、組換え型抗体の産生には上記宿主細胞だけではなく、トランスジェニック動物を使用することができる。例えば、抗体遺伝子を、乳汁中に固有に産生されるタンパク質(ヤギβカゼインなど)をコードする遺伝子の途中に挿入して融合遺伝子として調製する。抗体遺伝子が挿入された融合遺伝子を含むDNA断片をヤギの胚へ注入し、この胚を雌のヤギへ導入する。胚を受容したヤギから生まれるトランスジェニックヤギまたはその子孫が産生する乳汁から所望の抗体を得る。また、トランスジェニックヤギから産生される所望の抗体を含む乳汁量を増加させるために、適宜ホルモンをトランスジェニックヤギに使用してもよい(Ebert, K.M. et al., Bio/Technology(1994)12, 699-702)。
【0063】
本発明で使用される抗体は、抗体の全体分子に限られず、TLR3タンパク質に結合する限り、抗体の断片またはその修飾物であってもよく、二価抗体も一価抗体も含まれる。例えば、抗体の断片としては、Fab、F(ab')2、Fv、1個のFabと完全なFcを有するFab/c、またはH鎖若しくはL鎖のFvを適当なリンカーで連結させたシングルチェインFv(scFv)が挙げられる。具体的には、抗体を酵素、例えばパパイン、ペプシンで処理し抗体断片を生成させるか、または、これら抗体断片をコードする遺伝子を構築し、これを発現ベクターに導入した後、適当な宿主細胞で発現させる(例えば、Co, M.S. et al., J. Immunol.(1994)152, 2968-2976、Better, M. & Horwitz, A.H. Methods in Enzymology(1989)178, 476-496, Academic Press, Inc.、Plueckthun, A. & Skerra, A. Methods in Enzymology(1989)178, 476-496, Academic Press, Inc.、Lamoyi, E., Methods in Enzymology(1989)121, 652-663、Rousseaux, J. et al., Methods in Enzymology(1989)121, 663-669、Bird, R. E. et al., TIBTECH(1991)9, 132-137参照)。
【0064】
scFvは、抗体のH鎖V領域とL鎖V領域とを連結することにより得られる。このscFvにおいて、H鎖V領域とL鎖V領域は、リンカー、好ましくはペプチドリンカーを介して連結される(Huston, J. S. et al.、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A.(1988)85, 5879-5883)。scFvにおけるH鎖V領域およびL鎖V領域は、本明細書に抗体として記載されたもののいずれの由来であってもよい。V領域を連結するペプチドリンカーとしては、例えばアミノ酸12〜19残基からなる任意の一本鎖ペプチドが用いられる。
【0065】
scFvをコードするDNAは、前記抗体のH鎖またはH鎖V領域をコードするDNA、およびL鎖またはL鎖V領域をコードするDNAのうち、それらの配列のうちの全部または所望のアミノ酸配列をコードするDNA部分を鋳型とし、その両端を規定するプライマー対を用いてPCR法により増幅し、次いで、さらにペプチドリンカー部分をコードするDNA、およびその両端が各々H鎖、L鎖と連結されるように規定するプライマー対を組み合せて増幅することにより得られる。
【0066】
また、一旦scFvをコードするDNAが作製されると、それらを含有する発現ベクター、および該発現ベクターにより形質転換された宿主を常法に従って得ることができ、また、その宿主を用いることにより、常法に従ってscFvを得ることができる。
【0067】
これら抗体の断片は、前記と同様にしてその遺伝子を取得し発現させ、宿主により産生させることができる。本発明における「抗体」にはこれらの抗体の断片も包含される。
【0068】
抗体の修飾物として、標識物質等の各種分子と結合した抗TLR3抗体を使用することもできる。本発明における「抗体」にはこれらの抗体修飾物も包含される。このような抗体修飾物は、得られた抗体に化学的な修飾を施すことによって得ることができる。なお、抗体の修飾方法はこの分野においてすでに確立されている。
【0069】
さらに、本発明で使用される抗体は、二重特異性抗体(bispecific antibody)であってもよい。二重特異性抗体は分子上の異なるエピトープを認識する抗原結合部位を有する二重特異性抗体であってもよいし、一方の抗原結合部位がTLR3タンパク質を認識し、他方の抗原結合部位が標識物質等を認識してもよい。二重特異性抗体は2種類の抗体のHL対を結合させて作製することもできるし、異なるモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを融合させて二重特異性抗体産生融合細胞を作製し、得ることもできる。さらに、遺伝子工学的手法により二重特異性抗体を作製することも可能である。
【0070】
前記のように構築した抗体遺伝子は、公知の方法により発現させ、取得することができる。哺乳類細胞の場合、常用される有用なプロモーター、発現させる抗体遺伝子、その3'側下流にポリAシグナルを機能的に結合させて発現させることができる。例えばプロモーター/エンハンサーとしては、ヒトサイトメガロウイルス前期プロモーター/エンハンサー(human cytomegalovirus immediate early promoter/enhancer)を挙げることができる。
【0071】
また、その他に本発明で使用される抗体発現に使用できるプロモーター/エンハンサーとして、レトロウイルス、ポリオーマウイルス、アデノウイルス、シミアンウイルス40(SV40)等のウイルスプロモーター/エンハンサー、あるいはヒトエロンゲーションファクター1α(HEF1α)などの哺乳類細胞由来のプロモーター/エンハンサー等が挙げられる。
【0072】
SV40プロモーター/エンハンサーを使用する場合はMulliganらの方法(Nature(1979)277, 108)により、また、HEF1αプロモーター/エンハンサーを使用する場合はMizushimaらの方法(Nucleic Acids Res.(1990)18, 5322)により、容易に遺伝子発現を行うことができる。
【0073】
大腸菌の場合、常用される有用なプロモーター、抗体分泌のためのシグナル配列および発現させる抗体遺伝子を機能的に結合させて当該遺伝子を発現させることができる。プロモーターとしては、例えばlacZプロモーター、araBプロモーターを挙げることができる。lacZプロモーターを使用する場合はWardらの方法(Nature(1098)341, 544-546 ; FASEBJ.(1992)6, 2422-2427)により、あるいはaraBプロモーターを使用する場合はBetterらの方法(Science(1988)240, 1041-1043)により発現することができる。
【0074】
抗体分泌のためのシグナル配列としては、大腸菌のペリプラズムに産生させる場合、pelBシグナル配列(Lei, S. P. et al J. Bacteriol.(1987)169, 4379)を使用すればよい。そして、ペリプラズムに産生された抗体を分離した後、抗体の構造を適切に組み直して(refold)使用する。
【0075】
複製起源としては、SV40、ポリオーマウイルス、アデノウイルス、ウシパピローマウイルス(BPV)等の由来のものを用いることができ、さらに、宿主細胞系で遺伝子コピー数増幅のため、発現ベクターは、選択マーカーとしてアミノグリコシドトランスフェラーゼ(APH)遺伝子、チミジンキナーゼ(TK)遺伝子、大腸菌キサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(Ecogpt)遺伝子、ジヒドロ葉酸還元酵素(dhfr)遺伝子等を含むことができる。
【0076】
本発明で使用される抗体の製造のために、任意の発現系、例えば真核細胞または原核細胞系を使用することができる。真核細胞としては、例えば樹立された哺乳類細胞系、昆虫細胞系、真糸状菌細胞および酵母細胞などの細胞等が挙げられ、原核細胞としては、例えば大腸菌細胞等の細菌細胞が挙げられる。
【0077】
好ましくは、本発明で使用される抗体は、哺乳類細胞、例えばCHO、COS、ミエローマ、BHK、Vero、HeLa細胞中で発現される。
【0078】
次に、形質転換された宿主細胞をin vitroまたはin vivoで培養して目的とする抗体を産生させる。宿主細胞の培養は公知の方法に従い行う。例えば、培養液として、DMEM、MEM、RPMI1640、IMDMを使用することができ、牛胎児血清(FCS)等の血清補液を併用することもできる。
【0079】
前記のように発現、産生された抗体は、細胞、宿主動物から分離し均一にまで精製することができる。本発明で使用される抗体の分離、精製はアフィニティーカラムを用いて行うことができる。例えば、プロテインAカラムを用いたカラムとして、HyperD、POROS、Sepharose FF(Pharmacia製)等が挙げられる。その他、通常のタンパク質で使用されている分離、精製方法を使用すればよく、何ら限定されるものではない。例えば、上記アフィニティーカラム以外のクロマトグラフィーカラム、フィルター、限外濾過、塩析、透析等を適宜選択、組み合わせることにより、抗体を分離、精製することができる(Antibodies: A Laboratory Manual. Ed Harlow, David Lane, Cold Spring Harbor Laboratory, 1988)。
【0080】
また、本発明により、TLR3タンパク質はClear Cell RCCに特異的に発現していることが明らかになったことから、本発明における診断および治療の対象となる腎細胞癌(RCC)としては、Clear Cell RCCおよびClear Cell RCC転移癌が特に好ましい。
【0081】
本発明の腎癌治療薬に使用されるTLR3アゴニストとしては、二本鎖RNAおよびTLR3に対してアゴニスト作用を示す抗体が挙げられる。
【0082】
本発明の腎癌治療薬は、TLR3アゴニストを当該技術分野においてよく知られる薬学的に許容しうる担体とともに、混合、溶解、顆粒化、錠剤化、乳化、カプセル封入、凍結乾燥等により、製剤化することができる。
【0083】
経口投与用には、TLR3アゴニストを、薬学的に許容しうる溶媒、賦形剤、結合剤、安定化剤、分散剤等とともに、錠剤、丸薬、糖衣剤、軟カプセル、硬カプセル、溶液、懸濁液、乳剤、ゲル、シロップ、スラリー等の剤形に製剤化することができる。
【0084】
非経口投与用には、TLR3アゴニストを、薬学的に許容しうる溶媒、賦形剤、結合剤、安定化剤、分散剤等とともに、注射用溶液、懸濁液、乳剤、クリーム剤、軟膏剤、吸入剤、坐剤等の剤形に製剤化することができる。注射用の処方においては、抗TLR3抗体を水性溶液、好ましくはハンクス溶液、リンゲル溶液、または生理的食塩緩衝液等の生理学的に適合性の緩衝液中に溶解することができる。さらに、組成物は、油性または水性のベヒクル中で、懸濁液、溶液、または乳濁液等の形状をとることができる。あるいは、治療剤を粉体の形態で製造し、使用前に滅菌水等を用いて水溶液または懸濁液を調製してもよい。吸入による投与用には、TLR3アゴニストを粉末化し、ラクトースまたはデンプン等の適当な基剤とともに粉末混合物とすることができる。坐剤処方は、TLR3アゴニストをカカオバター等の慣用の坐剤基剤と混合することにより製造することができる。さらに、本発明の腎癌治療剤は、ポリマーマトリクス等に封入して、持続放出用製剤として処方することができる。
【0085】
投与量および投与回数は、剤形および投与経路、ならびに患者の症状、年齢、体重によって異なるが、一般に、TLR3アゴニストは、1日あたり体重1kgあたり、約0.001mgから1000mgの範囲、好ましくは約0.01mgから10mgの範囲となるよう、1日に1回から数回投与することができる。
【0086】
本発明の腎癌治療薬は通常非経口投与経路で、例えば注射剤(皮下注、静注、筋注、腹腔内注など)、経皮、経粘膜、経鼻、経肺などで投与するのが好ましい。
また、本発明の腎癌治療薬はTLR3アゴニストに加えて、インターフェロン、特にインターフェロンαを併用するのが特に好ましい。TLR3アゴニストをインターフェロンと併用する場合、インターフェロンαの投与はC型肝炎の治療方法に準ずる。すなわち、インターフェロンαを600〜1,000万IU筋注にて2週間連続、さらに22週間、週あたり3回投与するのが好ましい。
【実施例】
【0087】
以下に実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0088】
実施例1 腎細胞癌の網羅的遺伝子発現解析
(1−1)対象症例
2000年から2004年にかけて東京大学医学部附属病院にて手術的に切除された腎細胞癌臨床検体30症例および同一症例の正常腎組織9例を対象として、オリゴヌクレオチドマイクロアレイであるGeneChip(Affymetrix)による網羅的遺伝子発現解析を行った。全ての症例はインフォームドコンセントおよび文書による同意がなされ、また本研究における臨床検体を用いた実験プロトコールの全ては倫理委員会の承認を受けている。手術による切除後、癌部あるいは正常腎組織の一部をメスで切り取り、液体窒素中で急速凍結した。凍結組織はRNA抽出時まで、液体窒素タンクないし−80℃のdeep freezer内で保存された。対象症例群における臨床病理学的因子のまとめを表1に記載する。TNM分類に関しては、American Joint Committee on Cancerの基準に従った。Nuclear Gradeに関しては、Furhmannによる分類に従った。
【0089】
【表1】
【0090】
(1−2)Total RNAの抽出
凍結検体を液体窒素で満たした乳鉢の中ですり棒を用いてすり潰し、Trizol(Invitrogen)1mLを加えホモジナイズした。Total RNAの抽出はTrizolのプロトコールに従い行った。
【0091】
(1−3)オリゴヌクレオチドマイクロアレイ解析
GeneChipの説明書に従い、各サンプルのTotal RNA3μgより、T7promoterのついたoligo−dT(24mer)primerを使用して、SuperScriptTMII reverse transcriptase(Invitrogen)による逆転写反応により2本鎖cDNA合成を行った。ついで、T7 RNA polymerase(ENZO)によるin vitro transcription反応によりビオチンラベル化されたcDNAを合成した。断片化を行い、GeneChip 1枚あたり5μgのcRNAを用いて、54675プローブを有するGeneChipHG−U133 plus2.0に対してハイブリダイゼーションを16時間行った。洗浄後、Strepyoavidine Phycoerythrin染色、ビオチン化抗体処理、Strepyoavidine Phycoerythrinの再染色によりシグナルを増強後、スキャナーで読み込み、Affymetrix社のMicroarray Analysis Suite5.0(MAS 5.0)で画像を解析した。その後、各GeneChip上の各遺伝子に対して、MAS 5.0によって表示されたシグナル値を発現量として用い、各GeneChipにおける遺伝子発現量の平均が100になるようにデータの標準化を行った。
【0092】
(1−4)遺伝子発現解析
(1−4−1)クラスター解析
GeneChipより得られた54675プローブのシグナル値をもとに、GeneSpring(Agilent)を用いてプローブと症例による階層的クラスター解析を行い、39検体 (Clear cell RCC 27例、Chromophobe RCC 2例、Sarcomatoid RCC1例および非癌部正常腎9例)を分類した。まず、それぞれのプローブについて、39検体中少なくとも1検体でシグナル値が200を超えるものを選出し、プローブセットとした。次にこのプローブセットの発現量を用いて、遺伝子間についてピアソン相関係数を求め、クラスター解析を行った。症例間についても同様にピアソン相関係数を求め、クラスター解析を行った。このように、遺伝子間と症例間の二方向についてクラスター解析を行い、症例の類似性の比較を行った。まず、GeneChipの全てのプローブ(54675プローブ)の中から、シグナル値が全ての症例で200以下のプローブを除外することによって、17512プローブのセットを選出した。このプローブセットで階層的クラスター解析を行ったところ、Clear cell RCC(Sarcomatoid RCCを含む)の群と、正常腎およびChromophobe RCCを含む群の2群に大きく分けられた(図1)。また、正常腎9例およびChromophobe RCC2例はそれぞれまとまったクラスターを形成した。
【0093】
(1−4−2)組織型特異的に高発現している遺伝子の選定
クラスター解析に使用したプローブセットの発現値を用いて、Clear cell RCCあるいはChromophobe RCCで特異的に高発現している遺伝子の選出を行った。選出の条件は以下の通りである。
【0094】
i)Clear cell RCC特異的高発現遺伝子
Clear cell RCC 27例の中央値/正常腎9例の中央値>5かつ、
Clear cell RCC 27例の中央値/Chromophobe RCC 2例の最大値>5
ii)Chromophobe RCC特異的高発現遺伝子
Chromophobe RCC 2例の最小値/正常腎9例の中央値>5かつ、
Chromophobe RCC 2例の最小値/Clear cell RCC 27例の中央値>5
【0095】
Clear cell RCCあるいはChromophobe RCCで特異的に高発現している遺伝子として、それぞれ315、196プローブが選出された。なお、正常腎に比べてClear cell RCCで5倍以上発現亢進している遺伝子と、正常腎に比べてChromophobe RCCで5倍以上発現亢進している遺伝子で共通しているものは認められなかった。すなわち、この2つの組織型では全く異なる遺伝子群が発現亢進していた。
選出されたプローブセットを用いて、NIHが提供しているソフトウェアEXPRESSION ANALYSIS SYSTEMATIC EXPLORERによって解析を行い、各組織型特異的に発現亢進している遺伝子群にどのような機能の遺伝子が多く含まれるかを調べた。表2、表3に示す通り、Clear cell RCCでは免疫応答や生体防御・免疫応答などに関わる遺伝子群が特徴的に高発現していた。また、Chromophobe RCCではイオン輸送やホメオスタシスなどに関与する遺伝子群が特徴的に高発現していることが明らかとなった。各組織型で特異的に高発現していた遺伝子、上位50プローブを次ページ以下、表4および表5に示す。
【0096】
【表2】
【0097】
【表3】
【0098】
【表4】
【0099】
【表5】
【0100】
(1−4−3)組織型特異的に高発現している遺伝子のgene ontology解析
上記(1−4−2)において選出された遺伝子群にどのような機能の遺伝子が多く含まれるかについて、NIHが提供しているソフトウェアEXPRESSION ANALYSIS SYSTEMATIC EXPLORERによって解析を行った。
これは、各プローブに付されている各gene ontology(遺伝子の機能)が、全プローブ中の頻度に対し、目的の遺伝子群でどの程度濃縮されているかをmodified Fisher's exact testにより検定するものである。検定値はEase Scoreとして表され、この数値が低いほど、目的の遺伝子群で濃縮されている、すなわち、その機能を持つ遺伝子が目的の遺伝子群に多く含まれていると評価される。
【0101】
(1−4−4)腎細胞癌治療標的遺伝子の選定
今回解析した腎細胞癌、正常腎の発現データと、以前東京大学先端研ゲノムサイエンス部門にてGeneChip HG−U133 plus2.0による解析が行われた15種の正常臓器(Brain,Muscle,Heart,Skin,Lung,Liver,Stomach,Colon,Pancreas,Kidney,Bladder,Bone marrow,Peripheral blood,Ovary,Testis)の発現データを用い、正常臓器で発現が低く、Clear cell RCC特異的に発現が亢進している遺伝子の選出を行った。選出の基準は以下の通りである。
【0102】
Clear cell RCC 27例の中央値/正常腎9例の中央値>5かつ、
Clear cell RCC 27例の中央値>500(シグナル値)かつ、
15種類の正常臓器の最大値<500(シグナル値)
【0103】
その結果、表6に示すように36プローブ(既知遺伝子数としては23個)が選出された。
それら36プローブのうち、TLR3に着目してさらに検討を行った。TLR3の遺伝子発現値(GeneChipシグナル値)を図2に示す。
オリゴヌクレオチドマイクロアレイ解析により、TLR3遺伝子が正常腎および各種正常組織に比べClear cell RCCで発現亢進していることがわかった。
【0104】
【表6】
【0105】
実施例2 Clear cell RCCにおける定量的RT−PCRによるTLR3遺伝子の発現亢進
Clear cell RCCおよび同一患者の正常腎組織7ペアにおけるTLR3遺伝子の発現を定量的RT−PCRで測定した。cDNAの合成は,1μgのtotal RNAにDNase I Amp grade(Invitrogen)を添加し、室温で15分間静置することによりゲノムDNAの分解を行った。ついで、Oligo(dT)プライマーおよびSuperScriptTMIII 逆転写酵素(Invitrogen)を用いて50℃で60分間逆転写反応を行った。その後、RNase Hを加えて鋳型RNA鎖の分解を行った。合成されたcDNA溶液をnuclease free waterで希釈し、PCR反応に用いた。合成されたcDNAを鋳型としてPCRバッファー(50mM KCl、10mM Tris−HCl,pH8.3、2mM MgCl2、0.01%ゼラチン)、200 μM dNTPs(TaKaRa)、0.2μMプライマー、Taq Polymerase、SYBR Green(BMA)を用いて定量的RT−PCRを行った。尚、TLR3のForward primerは配列番号1、Reverse primerは配列番号2を使用して、PCR条件:94℃3分、(94℃15秒、60℃15秒、72℃30秒)×45サイクルで実施した。また、内部標準遺伝子としてのACTBについては、Forward primerは配列番号3、Reverse primerは配列番号4を使用して、PCR条件:94℃3分、(94℃15秒、62℃15秒、72℃30秒)×35サイクルで実施し、SYBR Greenが発する蛍光量を測定することで初期鋳型cDNA量を求めた。さらに、ACTBの初期鋳型cDNA量を求め、その値で目的遺伝子の初期鋳型cDNA量を割って補正を行い、得られた数値を目的遺伝子のmRNAの相対量とした。それぞれ同じサンプルについて50μLの系を3本用意して行い、その平均の値を結果として使用した。図3に示す通り、全ての症例において正常腎に比べてClear cell RCCでTLR3遺伝子の発現亢進を認めた。
【0106】
実施例3 TLR3cDNAのクローニング、全長強制発現細胞抽出物の調製
TLR3のコーディング領域に対してプライマーを設計し、上記実施例2で得られたcDNAを鋳型としてPCR反応を行った。DNAポリメラーゼとしては、KOD−plus−ver.2(TOYOBO)を用いた。尚、PCR条件は以下のとおりである。Foward primer として配列番号5、Reverse primer として配列番号6を用い、PCR条件:94℃2分、(94℃15秒、55℃30秒、68℃3分)×25サイクルにておこなった。得られたPCR産物をアガロースゲルにて電気泳動して切り出し、QIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN)を用いて回収した。回収したDNAおよびZero Blunt TOPO PCR Cloning Reagents(Invitrogen)を用いてベクターへの組み込みを行った。コンピテント細胞としてTOPO10(Invitrogen)を用い、クローニングを行った。コロニーPCRおよびシークエンシングにより、正しいTLR3 cDNAの配列が組み込まれていることが確認されたコンストラクトを、EcoRIおよびSmaI(TaKaRa Bio)により制限酵素処理して、TLR3のコーディング領域をプラスミドから切り出し、QIAquick Gel Extraction Kitを用いてDNAフラグメントを回収した。同様に制限酵素処理した動物細胞発現用ベクターであるphCMV vector(Genlantis)に、得られたTLR3のコーディング領域を組み込んだ。ライゲーション試薬としてはT4 DNA Ligase(Promega)を用いた。得られたコンストラクトを、TOP10へトランスフォーメーションした。QIAGENのMidPrep kitを用いてプラスミドDNAを精製回収した。
【0107】
次に、精製されたプラスミドDNAをCHO細胞(大日本住友製薬)に、FuGENE Transfection reagent(Roche)を用いて導入した。細胞は、トランスフェクション前日に、10cm dishに8×105個播種した。トランスフェクション時には、OptiMEM培地(Invitrogen)400μL、FuGENE試薬16μL、プラスミドDNA8μgを混合し、15分間室温にて静置した。その後、混合液を10cm dishに添加した。48時間後に限外希釈を行い、クローニングを開始した。セレクション薬剤にはG418(Invitrogen)を1mg/mLの濃度で使用した。クローニング後の細胞を10cm dishで培養し、コンフルエントになった時点で、プロテアーゼ阻害剤を加えたRIPAバッファーを用いてタンパク質を回収した。
【0108】
実施例4 TLR3の免疫用抗原の調製
TLR3の細胞外領域(1−700aa)に対してC末端側にヒスチジンタグを付加したプライマーを設計し、上記実施例3で得られたTLR3のコーディング領域のDNAを鋳型としてPCR反応を行った。DNAポリメーラーゼとしては、KOD−plus−ver.2(TOYOBO)を用いた。尚、PCR条件は以下のとおりである。Foward primerとして配列番号7、Reverse primerとして配列番号8を用い、PCR条件:94℃2分、(94℃15秒、55℃30秒、68℃3分)×25サイクルにておこなった。得られたPCR産物をアガロースゲルにて電気泳動して切り出し、QIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN)を用いて回収した。回収したDNAおよびZero Blunt TOPO PCR Cloning Reagents(Invitrogen)を用いてベクターへの組み込みを行った。コンピテント細胞としてTOPO10(Invitrogen)を用い、クローニングを行った。コロニーPCRおよびシークエンシングにより、正しいTLR3 cDNAの配列が組み込まれていることが確認されたコンストラクトを、NotIおよびXbaI(TaKaRa Bio)により制限酵素処理して、TLR3の細胞外領域をプラスミドから切り出し、QIAquick Gel Extraction Kitを用いてDNAフラグメントを回収した。同様に制限酵素処理した動物細胞発現用ベクターであるpNOWベクター(イムノ・ジャパン)に、得られたTLR3の細胞外領域を組み込んだ。ライゲーション試薬としてはT4 DNA Ligase(Promega)を用いた。得られたコンストラクトを、TOP10へトランスフォーメーションした。QIAGENのMidPrep kitを用いてプラスミドDNAを精製回収した。
【0109】
続いて精製回収されたプラスミドDNAをCHO細胞(大日本住友製薬)に、FuGENE Transfection reagent(Roche)を用いて導入した。細胞は、トランスフェクション前日に、10cm dishに8×105個播種した。トランスフェクション時には、OptiMEM培地(Invitrogen)400μL、FuGENE試薬16μL、プラスミドDNA8μgを混合し、15分間室温にて静置した。その後、混合液を10cm dishに添加した。48時間後に限外希釈を行い、クローニングを開始した。セレクション薬剤にはG418(Invitrogen)を1mg/mLの濃度で使用した。クローニング後の細胞を無血清培地CHO−SFM−II(Invitrogen)を使用しローラーボトル(Falcon)にて培養を行い、培養上清を回収した。得られた培養上清からHis Trap HPカラム(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)を用いてTLR3の細胞外領域(1−700aa)−His tag融合タンパク質の精製を行った。この精製された融合タンパク質をPBSに対し透析し、免疫用抗原として用いた。
【0110】
実施例5 抗TLR3モノクローナル抗体の作製
PBSに溶解した50μgのTLR3の細胞外領域(1−700aa)−His tag融合タンパク質とTiter−MAX(TiterMax USA,Inc.)を等量混合してMRL/Iprマウス(三共ラボサービス)に腹腔内注射することにより初回免疫を行った。2回目以降の免疫は同様に調製した25μgタンパク質量相当のTLR3の細胞外領域(1−700aa)−His tag融合タンパク質とTiter−MAXを混合して腹腔内注射することにより実施した。最終免疫から3日後にマウスから脾臓細胞を無菌的に調製し、ポリエチレングリコール法によってマウスミエローマ細胞NS1との細胞融合を行った。
ハイブリドーマ培養上清中の抗TLR3抗体のスクリーニングは、TLR3の細胞外領域(1−700aa)−His tag融合タンパク質を固相化したELISAによって実施した。
【0111】
実施例6 腎癌組織抽出液TLR3のイムノブロティング
凍結組織およびTLR3強制発現CHO細胞を液体窒素で満たした乳鉢の中ですり棒を用いてすり潰し、プロテアーゼ阻害剤(SIGMA)を加えたRIPAバッファー(10mM Tris−HCl,pH7.4、150mM NaCl、5mM EDTA、1%Triton X−100、1%デオキシコール酸ナトリウム、0.1% SDS)を加えた。30分間氷上に静置し、4℃、10分、10,000rpmで遠心して上清をチューブに回収し、等量のサンプルバッファー(2×SDSバッファー、10%メルカプトエタノール)を加えて、95℃で15分加熱した。加熱後遠心上清を12%アクリルアミドゲル上に電気泳動した。電気泳動は100Vで10分間、200Vで50分間行った。2%スキムミルク/TBS−T(Triton X−100)にてブロッキングを60分間行った後、一次抗体と室温で60分間反応させた。一次抗体としては抗TLR3モノクローナル抗体(2.5μg/mL,IMGENEX)および抗β−actinモノクローナル抗体(0.3μg/mL,Sigma)を用いた。TBS−Tによる洗浄を行った後、二次抗体と室温で45分間反応させた。二次抗体としてはHRPラベルされた抗マウスIgG抗体(Amersham Biosciences)を1/10,000に希釈したものを用いた。TBS−Tによる洗浄を行った後に、化学発光検出試薬であるECL−PLUS(Amersham Biosciences)によってHRPの発光を行い、LAS 3000イメージアナライザー(富士フィルム)でバンドを検出した。
【0112】
図4に示すように、TLR3を強制発現させたCHO細胞から回収したタンパク質においては、TLR3タンパク質の予想サイズである120kDa付近に単一のバンドが得られたが、コントロールのCHO細胞から回収したタンパク質の場合バンドは認められなかった。一方で、定量的RT−PCRによって癌部でのTLR3遺伝子の発現亢進が確認された検体(9T)でも同じ位置に単一のバンドを認めた。同一患者の正常腎(9N)でも同じ位置にごく弱いバンドを認めた。
【0113】
実施例7 腎細胞癌におけるTLR3タンパク質の局在、および各組織型における発現頻度、ならびに臨床病理学的データとの相関性
(7−1)TMAブロックの作製
1993年から2004年にかけて東京大学医学部附属病院にて手術的に切除された腎腫瘍216例のパラフィンブロックからTissue micro array(TMA)ブロックを作製した。まず、各症例のスライドガラスを鏡検し、組織型の評価を行うとともに、腫瘍の代表的な部分2箇所に印をつけた。次いで、印をつけたスライドガラスと照らし合わせながら、各症例のパラフィンブロックから2箇所を直径2mmの針で打ち抜き、TMAブロックに移植した。1ブロックにつき24症例48箇所の組織を移植したTMAブロックを9個作成した。TMAブロックを4μmの厚さに薄切し、シランコートガラスに貼り付け、免疫染色用の標本とした。なお、連続切片の1枚に対してはHE(ヘマトキシリン・エオジン)染色を行い、組織型の評価を行った。
【0114】
(7−2)染色方法
まず、4μmに薄切された切片に対し、キシレン・エタノール系列で脱パラフィン化と親水化を行った。次に、切片をpH6.0クエン酸バッファーに浸した状態で10分間オートクレーブ処理(121℃)することにより抗原賦活化を行った。一次抗体として、抗TLR3モノクローナル抗体(IMGENEX)を抗体希釈液(ChemMate Antibody Diluent,DakoCytomation)で10倍に希釈し(希釈後濃度2.5μg/mL)、室温で60分間反応させた。TBSで洗浄した後、二次抗体として、ENVISION+/HRP(DAKO)を室温で30分間反応させ、TBSで洗浄した。Diaminobenzidine tetrahydrochloride(DAB)で発色を行い、最後にヘマトキシリンで核染色を行い、エタノール、キシレン系列で脱水、透徹して封入した。陰性コントロールとして、全ての切片に対して一次抗体のみを省いて同様の染色工程を行った。陰性コントロール切片では、陽性シグナルは認められなかった。
【0115】
染色の強度は0(陰性)、1+(弱陽性)、2+(中等度陽性)、3+(強陽性)の4段階で評価した。染色強度の判定は2人の病理医が独立して行った。TMAに対する免疫染色では、Clear cell RCC 189例、Papillary RCC 11例、Chromophobe RCC 8例、計208例を対象として評価した。
【0116】
TMAに対する染色の結果、正常腎では、大部分の尿細管および集合管の細胞質に弱陽性像(1+)がみられた(図5(A))。稀に、中等度陽性(2+)を示す尿細管も散見された(図5(B))。また、稀にボウマン嚢上皮にも弱陽性像が観察された。
【0117】
Clear cell RCCでは189例中184例(97.4)に陽性像が得られた。正常尿細管よりも強い発現を示すもの(2+および3+)は189例中139例(73.5%)であった。癌部では癌細胞の細胞質に細顆粒状の染色像を認めた(図5(D,E))。間質との境界部で特に発現が増強している症例も認められた(図5(F))。癌部では癌細胞特異的に染色され、癌細胞以外の血管内皮細胞や炎症細胞には陽性像は観察されなかった。
Papillary RCCではClear cell RCCと同様に高頻度に発現を認めたが(図6(A)、表7)、Chromophobe RCCでは、8例中全てが完全に陰性だった(図6(B)、表7)。
【0118】
【表7】
【0119】
(7−3)臨床病理学的データとの相関の検討
Clear cell RCC 189例についての、TLR3染色強度と臨床病理学的因子との相関を表8に示す。TLR3高発現群では、低発現群に比べて静脈侵襲が少ない傾向があったものの、TLR3の染色強度と、年齢・性別・核異型度・pT・静脈侵襲との間に有意差は見られなかった。
【0120】
【表8】
【0121】
実施例8 Clear cell RCCの肺転移巣におけるTLR3タンパク質の発現
Clear cell RCCの肺転移巣8例のパラフィン包埋検体を用いて実施例7と同様に免疫染色を行った。
Clear cell RCC の肺転移巣では、8例中6例(75%)で、50%以上の癌細胞に中等度(2+)以上の陽性像を認めた(図6(C,D))。なお、正常肺胞上皮や終末細気管支上皮では殆どTLR3の発現はみられなかった。
【0122】
実施例9 Poly I:C単剤による細胞増殖抑制
腎癌細胞株8種を東北大学加齢研(Caki−1、ACHN、SW839、VMRC−RCW)、理研セルバンク(OS−RC−2、TUHR10−TKB、TUHR14−TKB)およびAmerican Type Culture Collection(Caki−2)より入手した。細胞は10%FBSおよび抗生物質(ペニシリン・ストレプトマイシン)を含む培地を培養液として、5% CO2通気下、37℃にて培養した。使用した培地は、ACHN、SW839、VMRC−RCW、OS−RC−2、TUHR10−TKB、TUHR14−TKBについてはRPMI1640 medium(SIGMA)、Caki−1、Caki−2についてはMacoy 5A modified medium(Invitrogen)である。各細胞をそれぞれ10cm dishで培養し、70〜80%のコンフルエントになった時点でRNAを回収した。1μgのRNAをテンプレートとしてcDNA合成を行い、定量的RT−PCRで目的遺伝子の発現量を測定した。TLR3遺伝子の発現は全ての細胞株で認められた(図7(A))。発現量には細胞株によってばらつきがあり、最も高発現していたTUHR10−TKBでは、最も発現が低かったCaki−2の9.9倍の発現量を示した。それら腎癌細胞株8種に対してPoly I:C(Invitrogen)を投与し、細胞増殖の程度を測定した。各細胞を96−well plateに1ウェルあたり2×103個あるいは4×103個となるように播種した(播種細胞の個数は増殖速度に応じて調整した)。24時間後、培地を除去し、各種濃度のPoly I:Cを含む培地を添加し、さらに培養を行った。Poly I:Cを添加してから一定時間経過後に、WST−8 assay Kit(同仁)を用いて生細胞数の比較を行った。プレートリーダーにて450nmの吸光度を測定し、その値からバックグラウンドとして630nmの吸光度を差し引いた値を結果として用いた。それぞれ同じ条件について4ウェルの測定を行い、その平均の値を結果として使用した。10μg/mLのPoly I:Cを投与し、72時間後に吸光度を測定した場合、8個中5個の細胞株(TUHR10−TKB、OS−RC−2、TUHR14−TKB、SW839、VMRC−RCW)で有意(p<0.01)な増殖抑制効果が観察された(図7(B))。そして、TLR3遺伝子の発現が高い細胞株ほどより強い増殖抑制効果を示す傾向があった。すなわち、10μg/mLのPoly I:C投与では、TLR3遺伝子の発現が最も高いTUHR10−TKBに対して最大の増殖抑制効果を示した。そして、10μg/mLのPoly I:C添加で有意な増殖抑制効果を示さなかった3株(ACHN、Caki−1、Caki−2)ではTLR3遺伝子の発現は低かった(図7(A))。
Poly I:Cによる増殖抑制効果は用量依存性であった。すなわち、TLR3遺伝子の発現が最も高かったTUHR10−TKBに各種濃度のPoly I:Cを投与したところ、Poly I:Cの濃度が高いほど強い増殖抑制効果を示した(図7(C))。
【0123】
実施例10 Poly I:C添加によるアポトーシス誘導
Poly I:Cによる増殖抑制効果にアポトーシスが寄与しているかどうかを、Annexin−V染色にて検討した。腎癌細胞株TUHR10−TKBを、4−well組織培養用カルチャースライド(BDbiosciences)に1ウェルあたり5×104個となるように播種した。24時間後、培地を除去し、0または50μg/mLのPoly I:Cを含む培地を添加し、5時間培養を行った。その後、Annexin−V−FLUOS Staining Kit(Roche)のプロトコールに従い、アポトーシスに陥った細胞の観察を行った。すなわち、培養終了後、培地を除去し、HEPESバッファーで2回洗浄した。次に、Annexin−V−FLUOS labeling solutionを1ウェルあたり100μL添加し、室温で15分間反応させた。カバーガラスで封入し、蛍光顕微鏡にて488nmの波長で観察した。Poly I:C添加群では約10%の細胞が陽性を示したのに対し、対照のPoly I:C非添加群では、陽性細胞は稀(1%程度)であった(図8)。すなわち、Poly I:C添加によって細胞アポトーシスが誘導されることがわかった。
【0124】
実施例11 定量的RT−PCRによるPoly I:C投与時TLR3下流遺伝子の発現変化の解析
腎癌細胞株TUHR10−TKBおよびCaki−1の培養後、50μg/mLのPoly I:Cを投与し、0、2、6、12、24時間後に細胞をPBSで2回洗浄した後、Trizolを加えホモジナイズした。回収した1μgのRNAをテンプレートとしてcDNA合成を行い、定量的RT−PCRで目的遺伝子の発現変化を測定した。cDNA合成および定量的RT−PCRは前述の通り行った。内部標準遺伝子としてACTBの初期鋳型cDNA量を求め、その値で目的遺伝子の初期鋳型cDNA量を割って補正を行い、得られた数値を目的遺伝子のmRNAの相対量とした。それぞれ同じサンプルについて50μLの系を3本用意して行い、その平均の値を結果として使用した。使用した各サイトカインおよびケモカインのForward primer(F)およびReverse primer(R)を以下に示す。各PCR条件はサイクル数を除きIFNβと同条件である。
【0125】
<IFNβ>:F(配列番号9)、R(配列番号10);94℃3分、(94℃15秒、60℃15秒、72℃30秒)×38サイクル
<IL6>:F(配列番号11)、R(配列番号12);×40サイクル
<IL8>:F(配列番号13)、R(配列番号14);×40サイクル
<IP10(CXCL10)>:F(配列番号15)、R(配列番号16);×35サイクル
<RANTES(CCL5)>:F(配列番号17)、R(配列番号18);×35サイクル
【0126】
まず、TLR3シグナルにおいて最も重要な役割を果たすIFNβの発現について検討した。TUHR10−TKBおよびCaki−1はいずれも定常状態ではほとんどIFNβの発現はみられなかったが、poly I:C添加によって発現が著明に増加した(図7(D))。IFNβの発現増強は、TLR3発現の高いTUHR10−TKB株でより顕著であった。また、TUHR10−TKB株について、TLR3の下流遺伝子として知られているIL6、IL8、IP10(CXCL10)、RANTES(CCL5)のpoly I:C添加による経時的な発現変化を調べた。いずれの遺伝子も定常状態ではほとんど発現はなかったが、poly I:C添加の2時間後には発現の上昇がみられ、さらに時間の経過とともに発現が上昇していった(図9(A−D))。TLR3の発現も、poly I:C添加から6時間後より上昇した(図9(E))。
【0127】
実施例12 siRNAによるTLR3遺伝子の発現抑制
腎癌細胞株OS−RC−2について、TLR3を標的としたsiRNAによるTLR3の発現抑制解析を行った。siRNAの導入はHiPerFect(QIAGEN)のプロトコールに従い、リバーストランスフェクション法を用いて行った。OptiMEM培地(Invitrogen)に、HiPerFectおよびsiRNAを最終濃度20nMとなるように混合し、抗生物質を含まない細胞懸濁液を添加した。6−well plateで48時間培養した後RNAを回収した。1μgのRNAをテンプレートとしてcDNA合成を行い、定量的RT−PCRで目的遺伝子の発現変化を測定した。siRNAの配列は配列番号19に示した。陰性コントロールとして、Stealth RNAi Negative Control Kit with Medium GC(GC 48%)(Invitrogen)を使用した。さらに、上記と同様に、腎癌細胞株OS−RC−2に対して最終濃度20nMのsiRNAを導入し、96−well plateで72時間培養した。その後、0または50μg/mLのpoly I:C溶液(抗生物質を含む)を添加し、さらに48時間培養した後、前述の通り、WST−8 assay Kitを用いて生細胞数の比較を行った。それぞれ同じ条件について4ウェルの測定を行い、その平均の値を結果として使用した。その結果、TLR3を標的としたsiRNAによって、陰性コントロールと比較してTLR3遺伝子の著明な発現抑制がみられた(図10(A))。次いで、siRNAによってTLR3遺伝子の発現を抑制したときの細胞増殖に与える変化およびpoly I:Cによる増殖抑制効果ならびにIFNβ遺伝子発現の変化を検討した。まず、TLR3遺伝子の発現を抑制すること自体は細胞増殖に変化を与えなかった(図10(B))。しかし、TLR3遺伝子の発現を抑制することにより、poly I:Cによる増殖抑制効果は有意に減弱した。すなわち、コントロール株ではpoly I:C添加によって37%の増殖抑制効果(poly I:C非投与群の吸光度に対する投与群の吸光度の減少割合を示す)を示したのに対し、TLR3遺伝子の発現を抑制したものでは増殖抑制効果が17%に半減した(図10(B))。すなわち、poly I:Cによる増殖抑制効果はTLR3の発現に依存しているということが示された。また、TLR3遺伝子の発現を抑制することにより、poly I:CによるIFNβの発現誘導が抑制された(図10(C))。すなわち、poly I:CによるIFNβの発現誘導もTLR3の発現に依存しているということが示された。
【0128】
実施例13 poly I:CおよびIFNαの併用による感受性試験
腎癌細胞株Caki−1に対して、poly I:CおよびIFNαを併用することによる増殖の変化を測定した。まず、96−well plateに1ウェルあたり2×103個となるように細胞を播種した。播種後24時間で培地を除去し、IFNα(0、100、1000、10000U/mL)を含む培地を添加した。IFNα添加24時間後、培地を除去し、poly I:C(0、10、50μg/mL)を含む培地を添加した。さらに48時間培養を行った後、WST−8 assay Kitを用いて生細胞数の比較を行った。それぞれ同じ条件について4ウェルの測定を行い、その平均の値を結果として使用した。
Caki−1に対して、IFNαとpoly I:Cは相乗的な増殖抑制効果を示した(図11(A))。すなわち、IFNαを加えなかった場合、poly I:Cのみによる増殖抑制効果は乏しかったが(poly I:C 50μg/mLのものは、poly I:Cなしのものに比べて17%の増殖抑制効果)、IFNαの投与により、poly I:Cによる増殖抑制効果が著明に増強した。具体的には、IFNαを100、1000、10000U/mL加えた場合(それぞれ単独では11、19、23%の増殖抑制効果を示すにすぎない)、さらにpoly I:C 50μg/mLを加えたときの増殖抑制効果(poly I:C、IFNαのいずれも添加しなかった群の吸光度に対する目的群の吸光度の減少割合を示す。以下同じ。)はそれぞれ50、71、76%に増強した。また、IFNα単独の場合増殖抑制効果は乏しかったが(IFNα 10000U/mLのものは、IFNαなしのものに比べて23%の増殖抑制効果)、IFNα添加培養のpoly I:Cを加えた場合、IFNαによる増殖抑制効果が著明に増強した。具体的には、poly I:Cを10あるいは50μg/mL加えた場合(それぞれ単独では9、17%の増殖抑制効果を示すにすぎない)、IFNα 10000U/mLを加えたものの増殖抑制効果はそれぞれ57、76%に増強した。
【0129】
実施例14 IFNα添加によるTLR3遺伝子の発現変化
実施例13と同様に腎癌細胞株Caki−1に、IFNα(0,100,1000,10000U/mL)を添加し、6時間後にRNAを回収した。1μgのRNAをテンプレートとしてcDNA合成を行い、定量的RT−PCRでTLR3遺伝子の発現変化を測定した。IFNα投与により、TLR3遺伝子の発現上昇がみられた。定常状態と比較し、TLR3遺伝子の発現量はIFNα 100U/mL添加により3.4倍、10000U/mL添加により4.8倍に増加した(図11(B))。
【0130】
実施例15 IFNαおよびpoly I:C添加によるTLR3下流遺伝子の発現変化
実施例13と同様に、腎癌細胞株Caki−1に、0、100、1000、10000U/mLのIFNαを投与して24時間培養した後、0あるいは50μg/mLのpoly I:Cを投与し、6時間後にRNAを回収した。1μgのRNAをテンプレートとしてcDNA合成を行い、定量的RT−PCRで目的遺伝子の発現変化を測定した。IFNβ、IL6、IL8、IP10、RANTESのいずれも、poly I:Cを添加しなかった場合は、プレインキュベートしたIFNαの濃度に関わらず、発現はほとんどみられなかった(IFNβ、IL6、IL8、RANTESについて図10(D−F)に示す。IP10については省略)。poly I:C添加により、全ての遺伝子の発現が上昇した。そして、遺伝子発現上昇の程度はIFNαの濃度に依存していた。すなわち、同じ濃度(50μg/mL)のpoly I:Cを添加した場合、プレインキュベートしたIFNαの濃度が高いほど、TLR3下流遺伝子の発現量は高くなった(図10(C−F))。
【図面の簡単な説明】
【0131】
【図1】腎癌症例および遺伝子の2方向による階層的クラスター解析の結果を示す。
【図2】腎癌および正常組織のGeneChip解析によるTLR3の遺伝子発現量を示す。
【図3】腎癌および正常組織における定量的RT−PCRによるTLR3遺伝子の発現量を示す。
【図4】Clear cell RCC、正常腎組織ペア検体およびにTLR3強制発現CHO細胞おける腎癌組織抽出液TLR3のイムノブロティング結果を示す。
【図5】腎癌におけるTLR3タンパク質の局在を示す。
【図6】腎癌各組織型および転移巣における発現頻度を示す。
【図7】Poly I:C単剤による細胞増殖抑制効果結果を示す。
【図8】Poly I:C添加によるアポトーシス誘導結果を示す。
【図9】定量的RT−PCRによるPoly I:C投与時TLR3下流遺伝子の発現変化の解析結果を示す。
【図10】siRNAによるTLR3遺伝子の発現抑制結果を示す。
【図11】poly I:CおよびIFNαの併用による細胞増殖に対する相乗効果結果を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗TLR3抗体を含有する腎癌診断薬。
【請求項2】
腎癌がClear cell RCCである請求項1記載の腎癌診断薬。
【請求項3】
腎癌がClear cell RCC転移癌である請求項1または2記載の腎癌診断薬。
【請求項4】
抗TLR3抗体がTLR3タンパク質と結合する抗体である請求項1〜3のいずれか1項記載の腎癌診断薬。
【請求項5】
血液中、血清中、血漿中または臓器組織に抗TLR3抗体を反応させてTLR3タンパク質を検出することにより使用されるものである請求項1〜4のいずれか1項記載の腎癌診断薬。
【請求項6】
腎癌患者のうち、治療対象患者を選択するための診断薬である請求項1〜5のいずれか1項記載の腎癌診断薬。
【請求項7】
被験者から採取された試料に抗TLR3抗体を反応させ、当該試料中のTLR3タンパク質を検出することを特徴とする腎癌の診断方法。
【請求項8】
被験者から採取された試料が血液、血清、血漿または臓器組織である請求項6記載の腎癌の診断方法。
【請求項9】
TLR3アゴニストを有効成分とする腎癌治療薬。
【請求項10】
腎癌がClear cell RCCである請求項9記載の腎癌治療薬。
【請求項11】
腎癌がClear cell RCC転移癌である請求項9または10記載の腎癌治療薬。
【請求項12】
TLR3アゴニストが、二本鎖RNAまたは抗TLR3抗体である請求項9〜11のいずれか1項記載の腎癌治療薬。
【請求項13】
TLR3アゴニストを投与することを特徴とする腎癌治療方法。
【請求項14】
腎癌がClear cell RCCである請求項13記載の腎癌治療方法。
【請求項15】
TLR3アゴニストが、二本鎖RNAまたは抗TLR3抗体である請求項13または14記載の腎癌治療方法。
【請求項16】
TLR3アゴニストとインターフェロン併用投与による腎癌治療方法。
【請求項1】
抗TLR3抗体を含有する腎癌診断薬。
【請求項2】
腎癌がClear cell RCCである請求項1記載の腎癌診断薬。
【請求項3】
腎癌がClear cell RCC転移癌である請求項1または2記載の腎癌診断薬。
【請求項4】
抗TLR3抗体がTLR3タンパク質と結合する抗体である請求項1〜3のいずれか1項記載の腎癌診断薬。
【請求項5】
血液中、血清中、血漿中または臓器組織に抗TLR3抗体を反応させてTLR3タンパク質を検出することにより使用されるものである請求項1〜4のいずれか1項記載の腎癌診断薬。
【請求項6】
腎癌患者のうち、治療対象患者を選択するための診断薬である請求項1〜5のいずれか1項記載の腎癌診断薬。
【請求項7】
被験者から採取された試料に抗TLR3抗体を反応させ、当該試料中のTLR3タンパク質を検出することを特徴とする腎癌の診断方法。
【請求項8】
被験者から採取された試料が血液、血清、血漿または臓器組織である請求項6記載の腎癌の診断方法。
【請求項9】
TLR3アゴニストを有効成分とする腎癌治療薬。
【請求項10】
腎癌がClear cell RCCである請求項9記載の腎癌治療薬。
【請求項11】
腎癌がClear cell RCC転移癌である請求項9または10記載の腎癌治療薬。
【請求項12】
TLR3アゴニストが、二本鎖RNAまたは抗TLR3抗体である請求項9〜11のいずれか1項記載の腎癌治療薬。
【請求項13】
TLR3アゴニストを投与することを特徴とする腎癌治療方法。
【請求項14】
腎癌がClear cell RCCである請求項13記載の腎癌治療方法。
【請求項15】
TLR3アゴニストが、二本鎖RNAまたは抗TLR3抗体である請求項13または14記載の腎癌治療方法。
【請求項16】
TLR3アゴニストとインターフェロン併用投与による腎癌治療方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2008−209369(P2008−209369A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−48964(P2007−48964)
【出願日】平成19年2月28日(2007.2.28)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度および平成18年度科学研究費補助金「がん特定領域研究−発現情報に基づく癌個性診断法の開発」
【出願人】(503196776)株式会社ペルセウスプロテオミクス (25)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年2月28日(2007.2.28)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度および平成18年度科学研究費補助金「がん特定領域研究−発現情報に基づく癌個性診断法の開発」
【出願人】(503196776)株式会社ペルセウスプロテオミクス (25)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】
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