説明

腎臓疾患の治療方法

ヒトまたはヒト以外の動物の腎障害を予防および治療する方法が開示される。本方法は20−HETEまたは20−HETEアゴニストをヒトまたはヒト以外の動物に腎障害を予防または治療するのに十分な量投与することを含む。さらには虚血性急性腎不全を予防または治療するための方法も開示され、特に該方法は20−HETEまたは20−HETEアゴニストをヒトまたはヒト以外の動物に虚血性急性腎不全を予防または治療するのに十分な量投与することを含む。再灌流の際の生体外保存腎臓への損傷の深刻さを予防または軽減する方法も開示される。本方法は再灌流の際の腎臓への損傷の深刻さを予防または軽減するのに十分な量の20−HETEまたは20−HETEアゴニストを含んだ保存溶液で生体外で腎臓を保存することを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2004年9月16日に出願された米国仮出願第60/610,465号の利益を主張する、2005年9月16日に出願された米国特許出願第11/229,241号に基づく一部継続出願である。両先行出願はその全体が参照により本明細書に組み込まれるものとする。
【0002】
連邦政府による資金提供を受けた研究開発の記載
本発明は次の機関により授与された米国政府補助金により行われた:NIH HL−36279。米国は本発明において一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
糖尿病および高血圧は末期腎疾患(ESRD)の主要な原因である。薬物療法が有効であるにも関わらず、コンプライアンスおよび薬剤費は深刻な問題であり、わずかな割合の患者だけが適切な生涯にわたる血圧または糖尿病のコントロールを達成する。結果としてESRDの発生率は、母集団が加齢し、また肥満になるにつれて増加する。ESRD治療のための米国連邦政府の負担は1年あたり150億ドルを超える。
【0004】
ESRDのための現在の治療の選択肢としては腎臓透析および移植等が挙げられる。これら2種の治療には高額費用がかかることに加え、透析は濾過作用のみの提供で腎臓の他の機能は提供せず、また腎臓移植は臓器の不足および拒絶反応の問題を有する。
【0005】
最近、糖尿病性(diabetes-induced)および高血圧性(hypertension-induced)腎症の治療のためのターゲットとしてTGF−βが同定された。これは、これらの疾患の患者および動物モデルの腎臓においてTGF−βの発現がアップレギュレートされていることが見出されたためである(Noble NA & Border WA, Sem Nephrol 17:455-466, 1997; Reeves WB & Anderoli TE, Proc Natl Acad Sci 97:7667-7669, 2000; Sharma K & McGowan T. Cytokine Growth Factor Rev 11:115-123, 2000; Sharma K et. al., Diabetes 46:854-859, 1997; Yamamoto T et. al., Proc Nat’l Acad Sci 90:1814-1818, 1993; Yamamoto T et. al., Kidney Int 49:461-469, 1996)。糖尿病性および高血圧性腎症は初期にタンパク尿を発症し、これが例えば糸球体病変(糸球体硬化症等)の発症を促すことによって腎疾患の進行を速めることを特徴とし、TGF−βの過剰発現がこの過程において重要なファクターであると信じられている(Dahly AJ et. al., Am J Physiol Regul Integr Comp Physiol 283:R757-767, 2002; Border WA et. al., N Engl J Med 331:1286-1292, 1994; Sanders PW Hypertension 43:142-146, 2004; McCarthy ET et. al., J Am Soc Nephrol 14:84A, 2003; Bottinger EP et. al., J Am Soc Nephrol 10:2600-2610, 2002; August P et. al., Kidney Int Suppl 87:S99-104, 2003; Ziyadeh FN et. al., Proc Nat'l Acad Sci USA 97:8015-8020, 2000; 175, 202, 218, 265, 266)。例えば、TGF−βは単離糸球体のアルブミンに対する透過性を直接増加させることが見出されており(Sharma R et. al., Kidney Int 58:131-136, 2000)、タンパク尿の誘発においてTGF−βが直接的な役割を担っていることが示されている。また、TGF−βは細胞外マトリクスの産生を増加させ、糸球体硬化症および腎間質線維化の発症を促すことも見出されている(Pavenstadt H et. al., Physiol Rev 83:253-307, 2003; Border WA et. al., N Engl J Med 331 : 1286-1292, 1994; および Sanders PW Hypertension 43:142-146, 2004)。重要なことには、TGF−β抗体またはアンチセンスオリゴヌクレオチドのいずれかによりTGF−βの活性を阻害すると、タンパク尿および糸球体の損傷の度合いが減少することが示されている(Dahly AJ et. al., Am J Physiol Regul Integr Comp Physiol 283:R757-767, 2002; Ziyadeh FN et. al., Proc Nat’l Acad Sci USA 97:8015-8020, 2000; Chen s et. al., Biochem Biophys Res Commun 300:16-22, 2003; および Han DC et. al., Am J Physiol 278F628-F634, 2000)。
【0006】
腎臓におけるTGF−β発現の増加は、腎移植拒絶反応(Shihab FS et. al., Kidney Int 50:1904-1913, 1996; Shihab FS et. al., J Am Soc Nephrol 6:286-294, 1995);各種形態の糸球体硬化症(Yamamoto T et. al., Kidney Int 49:461-469, 1996; Yoshioka K et. al., Lab Invest 68:154-163, 1993);ヘイマン腎炎(Shankland SJ et. al., Kidney Int 50:116-124, 1996);残存腎臓(remnant kidney)(Lee L et. al., J Clin Invest 96:953-964, 1995; Wu LL et. al., Kidney Int 51:1553-1567, 1997);尿管閉塞(Kaneto H et. al., Kidney Int 44:313-321, 1993);放射線並びにシクロスポリン、ピューロマイシン、シスプラチン、および重金属等の免疫抑制性および腎毒性薬剤によって引き起こされた腎疾患(Oikawa T et. al., Kidney Int 51:164-172, 1997; Sharma VK et. al., Kidney Int 49:1297-1303, 1996; Shihab FS et. al., Kidney Int 49:1141-1151, 1996; Jones CL et. al., Am J Path 141:1381-1396, 1992; Ma LJ et. al., Kidney Int 65:106-115, 2004);さらには試験された腎損傷の動物モデル全て(Noble NA & Border WA, Sem Nephrol 17:455-466, 1997)とも関連している。シクロスポリンおよびピューロマイシンにより誘導された腎症においてはTGF−β活性のその抗体による阻害が有益な効果をもたらした(Ling H et. al., J Am Soc Nephrol 14:377-388, 2003; Ma LJ et. al., Kidney Int 65:106-115, 2004)。
【0007】
TGF−βがタンパク尿および腎損傷の進行を開始するメカニズムは明らかではない。これと関連しては、TGF−βの下流側応答因子(respondent)の同定が、腎臓におけるTGF−βの発現量の上昇と関連した腎疾患を治療するための更なる、および新規の標的をもたらすであろう。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、20−ヒドロキシエイコサテトラエン酸(20−HETE)またはそのアゴニストをヒトまたはヒト以外の動物に腎疾患を予防または治療するのに十分な量投与することにより、該ヒトまたはヒト以外の動物における腎疾患を予防または治療する方法を提供する。
【0009】
本発明はさらに、20−HETEまたはそのアゴニストをヒトまたはヒト以外の動物に虚血性急性腎不全を予防または治療するのに十分な量投与することにより、該ヒトまたはヒト以外の動物における虚血性急性腎不全を予防または治療する方法も提供する。
【0010】
本発明はさらに、再灌流の際の腎臓への損傷の深刻さを予防または軽減させるのに十分な量の20−HETEまたはそのアゴニストを含んだ保存溶液中で生体外で腎臓を保存することにより、再灌流の際の生体外保存腎臓への損傷の深刻さ予防または軽減させる方法も提供する。
【発明の詳細な説明】
【0011】
腎臓のTGF−βのアップレギュレーションが、20−HETEの糸球体における産生を阻害することを通じて、糸球体濾過障壁のアルブミンおよび他の高分子に対する透過性を増加させることが本明細書に開示される。このようなアルブミンに対する糸球体の透過性の増加はタンパク尿およびさらに他の糸球体損傷(例えば糸球体硬化症および腎間質線維化)を引き起こすことから、本発明はTGF−βと関連した腎疾患並びにその物理的および病理学的症状を予防および治療するための新たな手段を提供する。
【0012】
一局面において、本発明は、ヒトおよびヒト以外の動物にけるTGF−βと関連した腎疾患を予防または治療する方法に関する。本方法は該腎疾患を予防または治療するのに十分な量の20−HETEまたは20−HETEアゴニストを該ヒトまたはヒト以外の動物に投与することを含む。TGF−βと関連した腎疾患とは、ここではTGF−β発現がアップレギュレートされている腎疾患並びにその物理的および病理学的症状を意味する。このような疾患の例としては、タンパク尿;糖尿病および高血圧(食塩感受性高血圧等)によって誘起された腎症;腎移植拒絶反応;ヘイマン腎炎;残存腎臓腎症(remnant kidney nephropathy);尿管閉塞性腎症(ureteral obstruction nephropathy);また放射線並びにシクロスポリン、ピューロマイシン、シスプラチン、および重金属等の免疫抑制性および腎毒性薬剤によって引き起こされた腎疾患が挙げられるがこれらに限定されない。一態様においては、本発明の方法はタンパク尿またはタンパク尿と関連した腎疾患を予防または治療するために用いられる。タンパク尿と関連した腎疾患とは、ここではタンパク尿が検出される腎疾患を意味する。他の態様においては、本発明の方法は糖尿病性または高血圧性腎症を予防または治療するために用いられる。
【0013】
本発明で用いることが出来る20−HETEの例としては、米国特許第6,395,781号; Yu M et. al., Eur J Pharmacol. 486:297-306, 2004; Yu M et. al., Bioorg Med Chem. 11:2803-2821, 2003;およびAlonso-Galicia M et. al., Am J Physiol. 277:F790-796, 1999(これらは全てその全体が本明細書に組み入れられたものとする)に開示されているものが挙げられるがこれらに限定されない。例えば、米国特許第6,395,781号において提供されている下記式により定義される20−HETEアゴニストを本発明において用いることが出来る:
【化1】

[式中、
はカルボン酸、フェノール、アミド、イミド、スルホンアミド、スルホンアミド、活性メチレン、1,3−ジカルボニル、アルコール、チオール;アミン、テトラゾールおよび他のヘテロアリール基からなる群より選択され;
はカルボン酸、フェノール、アミド、イミド、スルホンアミド、スルホンアミド、活性メチレン、1,3−ジカルボニル、アルコール、チオール;アミン、テトラゾールおよび他のヘテロアリールからなる群より選択され;
Wは炭素鎖(C〜C25)であり、直鎖状、環状または分岐状であってもよく、かつヘテロ原子を含んでいてもよく;
Yは炭素鎖(C〜C25)であり、直鎖状、環状または分岐状であってもよく、かつヘテロ原子を含んでいてもよく;
sp<3 Centerはビニル、アリール、ヘテロアリール、シクロプロピル、およびアセチレン部分からなる群より選択され;
Xは直鎖状、分岐状、環状または多環式であってもよいアルキル鎖であり、かつヘテロ原子を含んでいてもよく;
mは0、1、2、3、4または5であり;そして
nは0、1、2、3、4または5である]。
【0014】
好ましくは、上記式により定義された20−HETEアゴニストはRまたはRのいずれかにカルボキシル基または他のイオン性基を有し、該イオン性基から14〜15炭素に等しい距離で二重結合または他の官能基を有する(米国特許第6,395,781号)。より好ましくは、該20−HETEアゴニストは20〜21炭素の長さを有し、カルボキシル基または他のイオン性基をRまたはRのいずれかに有し、二重結合または他の官能基を該イオン性基から14〜15炭素に等しい距離で有し、水酸基をRまたはRのいずれかの20または21炭素上に有する(米国特許第6,395,781号)。
【0015】
一形態においては、本発明は次の20−HETEアゴニストのうちの1または複数種の使用を意図している:20−ヒドロキシエイコサン酸、20−ヒドロキシエイコサ−5(Z),14(Z)−ジエン酸(WIT003)、およびN−メチルスルホニル−20−ヒドロキシエイコサ−5(Z),14(Z)−ジエンアミド。
【0016】
タンパク尿、糖尿病性腎症、および高血圧性腎症等の腎臓TGF−β発現量の上昇と関連した慢性腎疾患に対する有益な効果に加え、本願発明者らは動物を20−HETEまたは20−HETEアゴニストで治療すると虚血によって引き起こされた急性腎損傷を軽減することが出来ることも見出した(下記実施例2を参照)。
【0017】
虚血は臓器に対する血液および酸素の供給不足と定義される。腎臓への血液の供給が中断または減少した場合、尿細管細胞が壊死またはアポトーシスを起こし、急性腎不全が発症することがある。虚血には、心臓手術、失血、重症の下痢または熱傷による体液の喪失、ショック、および移植前のドナー腎の保存と関連した虚血等の多くの原因がある。これらの状況においては、腎臓への血流が危険なほど低い水準にまで低下し、その時間の長さが、尿細管上皮細胞に虚血性傷害を引き起こし、該上皮細胞が尿細管内腔へと剥がれ落ち、尿細管の流れの障害となって糸球体濾過の喪失および急性腎不全を引き起こすのに十分なまでになる場合がある。
【0018】
急性腎不全とは、尿がほとんどまたは全く生成されず、通常は腎臓が除去するはずの物質が体内に残留してしまうほどの低い水準まで糸球体濾過速度が突然低下することを言う。虚血は腎臓への血流の減少により急性腎不全を引き起こし、排泄が不十分となる。血流の減少はまた高度に代謝的に活発な尿細管細胞への不十分な酸素供給をもたらし、該細胞は高エネルギーリン酸塩を使い果たして不可逆性の虚血性傷害を被り、壊死および/またはアポトーシスが起こる。そして該細胞は破裂するかまたは基底膜から剥がれ落ち、尿細管内腔を詰まらせて、詰まった尿細管内の圧力をせき止め、腎灌流が回復した際、あるいはときにおいても濾過を妨げる。
【0019】
20−HETEは強力な腎血管収縮剤であることから、20−HETEまたはそのアゴニストが虚血により損傷を被った腎臓に対して有益な効果を有するであろうことは驚くべきことである。理論により限定されることなく、本願発明者らは、腎虚血性傷害の予防における20−HETEの有益な効果は、20−HETEが尿細管上皮細胞中のナトリウム輸送を阻害する直接的な効果を有し、また細胞の増殖および生存に関与する多くの細胞内経路を活性化するために、虚血性傷害を被った尿細管上皮細胞の生存に対して効果を有することによるものであろうと信じる。これと関連して、本発明は、ヒトまたはヒト以外の動物に対し虚血性急性腎不全を予防または治療するのに十分な量の20−HETEおよび/または20−HETEアゴニストを投与することにより、該ヒトまたはヒト以外の動物における虚血性急性腎不全を予防または治療する方法を提供する。任意に、本方法は20−HETEおよび/またはそのアゴニストを用いた治療により改善されると期待される尿生成能等の腎臓の機能を監視する工程も伴っていてもよい。例えば、20−HETEまたはそのアゴニストは心臓手術または腎移植手術の前、最中、および/または直後に急性腎不全を予防または治療するために患者に投与されてもよい。好ましいものを含む20−HETEアゴニストの例は上記の通りである。
【0020】
本発明は特定の経路の投与により限定されるものではない。20−HETEまたは20−HETEアゴニストの適した投与経路としては、経口投与、静脈内投与、皮下投与、筋肉内投与、および腎臓への直接送達等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。特定の投与経路を介した特定の腎疾患を予防または治療するための20−HETEまたは特定の20−HETEアゴニストの最適な投与量は当業者により容易に決定され得る。
【0021】
20−HETEおよび/またはそのアゴニストは生体外で腎臓を保存するためにも用いることが出来る。移植に用いられる臓器には、該臓器が取り出された瞬間から移植の時点まで、効果的な生体外での保存が必要である。低温保存溶液は、冷阻血時間中に代謝活性および毒性物質の蓄積を減少させることにより組織の生存能力を維持するために開発された。移植のために用いられる臓器は血液供給から外された後、長期にわたり冷阻血保存される場合があり、この場合再灌流時に障害を受けやすくなる。臨床腎移植において低温保存の時間が長いことが移植片機能の遅延と強く関わっていることが多くの研究により示されており、これがその後の短期および長期の移植片の生存に影響しうる。本発明は、再灌流の際の腎臓への損傷の深刻さを予防または軽減するのに十分な量の20−HETEおよび/または20−HETEアゴニストを含んだ保存溶液中で腎臓を生体外保存することにより、再灌流の際の該生体外保存腎臓への損傷の深刻さを予防または軽減する方法を提供する。一態様においては、このような量は約0.1μMないし約10μMである。任意に、20−HETEおよび/またはそのアゴニストは、回収の時点から移植の時点までに腎臓が接触する1または複数種の他の溶液中にも含まれている。この移植手術を行う医師および/または前記腎臓を受け入れる患者は、再灌流の際の腎臓の損傷の深刻さを予防または軽減するための条件下で該腎臓が保存されたものであることを知らされてもよい。
【実施例】
【0022】
本発明は次の限定されない実施例を考慮することにより、より完全に理解されるであろう。
【0023】
実施例1:20−HETEアゴニストはTGF−βにより誘起された糸球体傷害と拮抗する
この実施例では、トランスフォーミング増殖因子ベータ(TGF−β)が、20−ヒドロキシエイコサテトラエン酸(20−HETE)の糸球体における産生を阻害することにより糸球体透過性を変えることを示す。TGF−βの腎臓発現は高塩食を7日間与えたDahl食塩感受性(Dahl S)ラットにおいて倍加し、これはアルブミンに対する透過性(Palb)の0.19±0.04から0.75±0.01への顕著な上昇と関連しており、糸球体濾過障壁の超微細構造における変化を伴っていた。TGF−βを中和する抗体でDahl Sラットを長期間処理すると、Palbの増加が阻止され、また糸球体毛細血管の構造が保存されたことから、高血圧性腎疾患がTGF−βの生成および活性の増加に依存していることが示された。高塩食により生じた血圧の上昇に対しては効果が無かった。Sprague Dawley(SD)ラットより単離された糸球体をTGF−β1(10ng/ml)とともに15分間プレインキュベートすると、Palbが0.01±0.01から0.60±0.02へと上昇した。これは20−HETEの糸球体における産生が221±11から3.4+0.5μg/30分間/mgタンパク質へと抑制されたことと関連していた。20−HETEの安定なアナログである20−ヒドロキシエイコサ−5(Z),14(Z)−ジエン酸でSDの糸球体を前処理したところ、ベースラインのPalbが減少し、Palbを上昇させるTGF−βの効果と拮抗した。
【0024】
材料および方法
Dahl食塩感受性ラットモデル:Dahl食塩感受性(S)ラットはヒトにおける食塩感受性高血圧と関連した数多くの特徴を示す(Campese VM. Hypertension 78:531-550, 1994; および Grimm CE et. al., Hypertension 15:803-809, 1990)。これらは食塩感受性(Iwai, J. Hypertension 9:I18-I20, 1987; および Rapp J.P. Hypertension 4:753-763, 1982)、インシュリン抵抗性(Reft, GM et. al., Hypertension 18:630-635, 1991)および脂質異常症(Raji, L et. al., Kidney Int. 41:801-806, 1984; および O’Donnell, MP et. al., Hypertension 20:651-658, 1992)であり、高塩(HS)食による負荷を与えると速やかにタンパク尿および糸球体硬化症を発症する(O’Donnell, MP et. al., Hypertension 20:651-658, 1992; Roman RJ et. al., Hypertension 12:177-183, 1988; Roman RJ et. al., Hypertension 21:985-988, 1988; Roman RJ et. al., Am J Hypertens 10:63S-67S, 1997; および Tolins JP et. al., Hypertension 16:452-461, 1990)。発症する糸球体病変は高血圧性および糖尿病性腎症を有する患者に見られるものと類似している(McClellan W et. al., Am J Kidney Dis 12:285-290, 1987; Ronstand GS et. al., N Engl J Med 306:1276-1279, 1982; および Tierney WM et. al., Am J Kidney Dis 13:485-493, 1989)。トランスフォーミング増殖因子β(TGF−β)の腎臓発現は高塩(HS)食を与えたDahl Sラットにおいて上昇し、TGF−β中和抗
体(Ab)によりDahl Sラットを3週間長期処理すると、タンパク尿並びに糸球体硬化症および線維症の度合いが軽減する(Dahly AJ et. al., Am J Physiol Regul Integr Comp Physiol 283:R757-767, 2002)。
【0025】
概要:1%NaClを含んだ正常食塩食(#5010, Purina)を与えた7週齢のSprague Dawley(Taconic Labs)ラット、およびMedical College of Wisconsinにおいて維持される本願発明者らのコロニーから得たDahl食塩感受性/John Rappラットに対して実験を行った。ラットに0.4%(低塩、LS)または8.0% NaCl(高塩、HS)のいずれかを含んだ、Dytes, Incより購入した精製飼料(AIN76)を与えた。高血圧発症中にタンパク尿およびPalbを変化させるTGF−βの役割を評価するため、HS食を与えたDahl Sラットの群をマウス抗TGF−βモノクローナルAb(0.5mg/kg;1D11;Genzyme Corp)または対照マウスモノクローナルAb(13C4;抗ベロ毒素)の隔日での腹腔内投与により処理した(Dasch JR et. al., J Immunol 10:2109-2119, 1989)。処理期間の最後にラットを代謝ケージ中に一晩置いてタンパク質およびアルブミンの排泄を測定した(Dahly AJ et. al., Am J Physiol Regul Integr Comp Physiol 283:R757-767, 2002)。次にこれらをハロセンにより麻酔し、腎臓を回収して、ウェスタンブロット法によりTGF−βタンパク質の発現量を測定し(Hoagland KM et. al., Hypertension 43:860-865, 2004)、また糸球体を単離してPalbおよび20−HETEの産生量を測定した。無線テレメトリー送信機(Data Science Inc.)に接続したカテーテルを10個体のさらなる対照および10個体の1D11処理Dahl Sラットの大腿動脈に挿入し、高血圧発症時の抗TGF−β療法の効果を測定した。平均動脈圧(MAP)を、ラットにLS食を与えた対照期間の間、およびHS食を7日間与えた後に、午前9時と正午(12PM)との間の毎日3時間測定した。
【0026】
アルブミン透過性(Palb)の測定:糸球体を、Sharma R et. al.(Kidney Int 58:131-136, 2000)およびSavin VJ et. al.(J Am Soc Nephrol 3:1260-1269, 1992)に記載のふるい分け法(sieving method)を用いて、5g/dlのウシ血清アルブミン(BSA)を含む培地中で単離した。各実験条件下で、槽を1g/dLアルブミンを含んだ培地と交換した後の糸球体容積の変化(ΔV)からPalbを測定した。Palbは1−(ΔVexperimental/ΔVcontrol)として計算され、ここで正常食塩食を与えたSprague Dawleyラットからの糸球体を各実験の対照値を提供するために用いた。Dahl SラットにおけるΔVの欠如が糸球体の機械的な性質の変化ではなくPalbの変化と関連するものであったことを確認するため、糸球体を高分子量デキストランの5%溶液に暴露する追加実験を行った。これらの条件下におけるDahl S糸球体のサイズの変化は、1%アルブミンに対する反応の欠如がPalbの増加に起因するものであったことを示唆する(Savin VJ et. al., J Am Soc Nephrol 3:1260-1269, 1992)。
【0027】
他の実験においては、Sprague Dawleyラットと、LS食またはHS食のいずれかを4日間与えたDahl Sラットとから単離された糸球体における、TGF−βおよび20−HETEのPalbに対する相互作用を試験した。糸球体を溶媒またはTGF−β1(10ng/ml)とともに15分間37℃でプレインキュベートし、Palbの変化を測定した。また、糸球体を安定な20−HETEアゴニスト、20−ヒドロキシエイコサ−5(Z),14(Z)−ジエン酸(WIT003;1μmol/L;Taisho Pharmaceutical)(Alonso-Galicia, M et al, Am. J. Physiol. 277:F790-F796, 1999; および Yu, M et. al., Bioorg. Med. Chem. 11:2803-2821, 2003)とともに15分間37℃で前処理し、TGF−β1(10ng/ml)に対するPalbの応答を再測定した。各ラットで最低5個の糸球体を分析し、これらの実験を各処理群で5個体以上のラットを用いて行った。
【0028】
電子顕微鏡法:LS食を与えたDahl SラットおよびHS食を1週間与えて1D11または溶媒で処理したDahl Sラットからの腎臓を回収し、4%グルタルアルデヒド溶液中で固定した。薄いエポン切片を調製し、酢酸ウラニルおよびクエン酸鉛により染色し、透過型電子顕微鏡(Hitachi H600)を用いて16,000Xで観察した。
【0029】
ウェスタンブロット法:対照のSprague DawleyラットおよびLSまたはHS食を7日間与えたDahl Sラットの腎臓からホモジネートを調製した。ホモジネートの一部(30μgタンパク質)を12.5%ドデシル硫酸ナトリウムゲル上で分離し、ニトロセルロース膜に転写し、1次TGF−β1 Ab(SC:146;Santa Cruz Biotechnology)、続いて2次Ab(SC:2004; Santa Cruz Biotechnology)とともにインキュベートし、Hoagland KM et. al., Hypertension 43:860-865, 2004に記載の通り増感化学発光を用いて現像した。メンブレンをクマシーブルーで後染色し、試料のローディング量の潜在的な違いに対して結果を標準化した。
【0030】
糸球体における20−HETE産生量の液体クロマトグラフィー/質量分析測定:糸球体(約20μgタンパク質)を、1mmol/L NADPHを含んだ0.1mol/L KPO緩衝液中で37℃の下、TGF−β1(10ng/ml)の存在および不在下で30分間インキュベートした。インキュベーションをギ酸による酸性化で停止し、ホモジナイズし、10ngの内部標準、14,15−エポキシエイコサ−5(Z)−エン酸−メチルスルホニルイミド(EEZE)の添加後にホモジネートをクロロホルム:メタノール(2:1)で抽出した。試料を50%アセトニトリル中で再構成(reconstitute)し、オンライン逆相高速液体クロマトグラフィー(HPLC)トラッピングカラムを用いて精製し、続いて18C−RP 2X250mmマイクロボアHPLC(BetaBasic18 150x21 3μm, Thermo.Hypersil-Keystone)上の定組成ステップグラジエント(isocratic step gradient)を用い、HETEを分離するためのアセトニトリル:水:酢酸(57:43:0.1)からなる移動相を20分間、続いてEETを分離するためのアセトニトリル:水:酢酸(63:37:0.1)からなる移動相を15分間用い、試料中のHETEおよびエポキシエイコサトリエン酸(EET)を分離した。陰イオンエレクトロスプレーを用いて試料をイオン化し、質量電荷比(m/z)319(HETEおよびEET)または323(内部標準)で溶出されるピークを、Agilent LSDイオントラップ質量分析計(Agilent Technologies 1100)を用いて選択的イオン質量分析(MS)モードにて分離およびモニタした。目的とするピーク(HETEおよびEET、m/z 319)の、近傍で溶出する内部標準に該当するピーク(EEZE、m/z 323)に対するイオン存在比を決定し、各バッチの試料で0.1ないし2ngの20−HETEおよびEETの範囲にわたって生成された標準曲線と比較した。
【0031】
統計:平均値±1標準誤差を示す。平均値間の差の有意性をANOVAとそれに続くStudent−Newman−Keuls事後検定を用いて決定した。P<0.05を有意とみなした。
【0032】
結果
高塩食のTGF−β1腎臓発現に対する影響:これらの実験の結果を図1に示す。腎臓におけるTGF−β1の発現量は、HS食を1週間与えたDahl Sラットにおいて、LS食を与えたDahl Sラットで見られた量と比べて2倍超となった。
【0033】
高塩食のPalbに対する影響:Sprague Dawleyラット並びにLSおよびHS食を1週間までの様々な期間与えたDahl SラットにおけるPalbの比較を図2に示す。ベースラインPalbはLS食で維持されたDahl Sラットにおいて対照のSprague Dawleyラットにおけるよりも有意に高かった。PalbはHS食を与えたDahl Sラットにおいてわずか4日間後に増加し、7日間後にピークに達した。HSを1週間与えたDahl SラットにおけるこのPalbの増加は、121±2から136±3mm Hgへと血圧が有意に増加したこと(n=10)、およびタンパク質の排泄が47±8mg/日から217±31mg/日へと顕著に増加したこと(n=14)と関連していた。同様に、Dahl SラットにHS食を7日間与えた後、アルブミンの排泄が27±9mg/日から129±26mg/日へと増加した。
【0034】
Dahl SラットのPalbの変化に対するTGF−βの役割:Sprague DawleyおよびDahl Sラットから単離された糸球体のPalbに対するTGF−β1(10ng/mL)の外因性投与の影響の比較も図2にまとめる。TGF−β1はPalbを、Sprague Dawleyラットから単離された糸球体において0.01±0.01から0.56±0.02に増加させ、LS食を与えたDahl Sラットから単離された糸球体において0.19±0.01から0.75±0.01に増加させた。TGF−β1は4日間HS食を与えたDahl SラットのPalbも増加させたが、7日間HS食を与えたDahl SラットのPalbには影響を与えなかった。後者のラットのベースラインPalbはすでに最大に近かったためである。
【0035】
HS食を与えたDahl SラットをTGF−β中和Abで長期間処理すると、ベースラインPalbの増加が抑制された。TGF−β1をこれらの糸球体へ投与するとまだPalbが増加し、これは対照Sprague DawleyラットおよびLS食を与えたDahl Sラットから単離された糸球体に見られた場合と同様であった。TGF−β1 Ab療法は血圧の上昇には効果を示さなかった。血圧は、HS食を与えて1D11で7日間処理したDahl Sラットにおいて123±4から136±3mm Hg(n=10)へと上昇した。
【0036】
電子顕微鏡法:LSまたはHS食を与えたDahl Sラット、およびTGF−β Abで1週間処理したこれらラットにおける糸球体毛細血管の超微細構造の電子顕微鏡写真を得た。LS食を与えたDahl Sラットは正常な外観の糸球体限外濾過障壁を示した。HS食を7日間与えたDahl Sラットにおいては、足細胞の足突起の退縮および融合並びに基底膜部分の暴露が認められた。また、糸球体毛細血管を裏打ちする内皮細胞の腫脹も認められ、それらの形状が扁平なものからより立方内皮(cubodial endothelium)状へと変化していた。HS食を与えたDahl Sラットにおける糸球体濾過障壁の超微細構造のこれらの変化はTGF−β Abの投与により抑制された。
【0037】
20−HETEの糸球体における産生に対するTGF−βの影響:単離された糸球体によるアラキドン酸(AA)の産生および代謝に対するTGF−βの影響を図3に示す。AAとともにインキュベートした糸球体は、20−HETE、15−HETE、12−HETE、5−HETE並びに14,15−EET、11,12−EET、8,9−EET、および5,6−EET標準と共溶出する319のm/zを示すいくつかの大きなピークを生じた(図3A)。さらに、フラグメンテーションの16分後に溶出する最大のピークが、20−HETE標準に見られるものと同一の301、273、257、および245のm/zにおいて顕著な二次イオンのMS/MSスペクトルを生成することが確認された。糸球体をTGF−β1で前処理したところ、15−、12−若しくは5−HETEまたはEETの生成に影響を与えることなく(図3A)、20−HETEの生成が選択的に97%減少した(図3B)
【0038】
albに対する20−HETEアゴニストの影響:TGF−β1により生じたPalbの変化に対する20−HETEアゴニストの添加の影響を図4にまとめる。糸球体を20−HETEアゴニストで前処理したところ、ベースラインPalbが減少し、TGF−β1により生じたPalbの増加が著しく弱まった。同様な結果が、LS食で維持したまたはHS食を4日間与えたDahl Sラットで得られた。例えば、TGF−β1はHS食を4日間与えたDahl Sラットから単離された糸球体においてPalbを0.58±0.04(n=25糸球体;ラット5個体)から0.87±0.02(n=25;ラット5個体)へと増加させた。糸球体を20−HETEアゴニストで前処理した後、TGF−β1 Palbは0.25±0.01(n=25;ラット5個体)から0.40±0.01(n=25;ラット5個体)へと増加しただけであった。
【0039】
実施例2:20−HETEおよび20−HETEアゴニストによる、虚血性傷害からの腎臓の保護
材料および方法
ペントバルビタール(50mg/Kg)を用いて麻酔したオスのSprague Dawleyラットで実験を行った。正中切開により腎臓を露出させ、腎動脈を分離した。右および左腎動脈の両方に調節式血管オクルーダー(adjustable vascular occluder)を設置し、腎臓への血流を30分間完全に閉塞した。完全な腎虚血の時間の後、鉗子を除き、腎臓を再灌流させた。外科的切開を2−0絹縫合で閉じ、ラットを麻酔から完全に回復させた。24時間後、このラットをペントバルビタールで再麻酔し、大動脈から血液試料を採取し、血漿クレアチニン濃度を自動分析器を用いて測定した。腎臓を回収し、10%ホルマリン溶液中で固定し、パラフィン切片を調製してヘマトキシリン・エオジン染色を行い、尿細管の壊死および傷害の度合いを評価した。3群のラットを分析した。第1群のラットは溶媒で処理し、対照個体とした。第2群のラットは20−HETEの合成の阻害剤であるHET0016(5mg/Kg、皮下注射)で腎虚血の30分前に処理した。第3群のラットは20−HETEアゴニストであるWIT003(10mg/Kg、皮下注射)を腎虚血の30分前に静脈注射により投与した。
【0040】
結果
図5に示すのは、腎臓の虚血および再灌流後の腎損傷の度合いに対するHET0016(20−HETEの合成の阻害剤)およびWIT003(20−HETEアゴニスト)の効果を試験したin vivo実験の結果である。Sprague Dawleyラットの腎臓を30分間の完全な虚血にし、続いて24時間の再灌流を行ってから24時間後に、血漿クレアチニン濃度は0.5から約3.0mg/dlに上昇した。血漿クレアチニン濃度に反映される傷害の程度は、虚血の30分前にHET016(5mg/Kg、皮下注射)投与で処理したラットにおいて有意に大きかった。再灌流の30分前にWIT003(10mg/Kg、皮下注射)を投与すると、血漿クレアチニン濃度に反映される腎障害の程度は有意に減少した。対照個体における虚血再灌流後の血漿クレアチニン濃度は近位尿細管のS3セグメントの深刻な壊死と関連している。尿細管のこのセグメントの組織学的障害の度合いは20−HETEアゴニストで処理したラットにおいて減少している(データ示さず)。
【0041】
他の実験において、20分間の虚血再灌流を行ったDahl Sラット(20−HETE欠損系統)に見られる腎傷害の程度を、腎臓において20−HETEを産生する酵素をコードするLewisラットからのCYP4A遺伝子を導入した、2X4と呼ばれるDahl Sラットのコンジェニック系統に見られる腎傷害の程度と比較した。この遺伝子を移入すると腎臓におけるCYP4Aタンパク質の発現および腎臓における20−HETEの産生がアップレギュレートされる。図6に見られるように、LewisラットからのCYP4A遺伝子のDahl S遺伝的背景への移入により、虚血および再灌流の24時間後の血漿クレアチニン濃度のより少ない上昇に反映される腎損傷の程度の有意な軽減が認められた。従ってこのデータは、20−HETEの内生的形成のアップレギュレーションまたは20−HETEアゴニストの投与が腎臓を虚血性腎傷害から保護し、一方で20−HETEの腎臓における生成の阻害が傷害の程度を悪化させるという、Sprague Dawleyラットにおいて得られた結果と矛盾が無い。
【0042】
本発明は前述の実施例に限定されることを意図するものではなく、添付の特許請求の範囲内に入る全てのこのような改変および変形を含むものである。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】図1は、Sprague Dawley(SD)並びにLSおよび7日間のHSを与えたDahl Sラット(食塩感受性高血圧および高血圧性腎疾患の遺伝モデル)の腎臓におけるTGF−β1の発現量を示した図である。SD(レーン1−3)、LS食を与えたDahl Sラット(レーン4−7)、およびHS食(8% NaCl)を7日間与えたDahl Sラット(レーン8−11)から単離された腎臓ホモジネート。各レーンには異なる個体(各群でn=3ないし4)から単離されたホモジネート(30μgタンパク質/レーン)をロードした。はLS食を与えたDahl Sラットに見られた値に対する有意差を表す。HS−7、7日間のHS食。
【図2】図2は、SDラット並びにLSおよび7日間のHS食を与えたDahl Sラットから単離された糸球体における、またはHS食を与えてTGF−β Ab(1D11−7)で処理したDahl Sラットにおける、アルブミンに対する透過性(Palb)へのHS食の影響およびTGF−βの役割を示した図である。用いたTGF−β AbはTGF−βの3種のアイソフォーム全てを効果的に中和する。糸球体を溶媒または10ng/mlのTGF−β1とともに15分間37℃でプレインキュベートし、Palbを測定した。括弧内の数字は群あたりの分析された糸球体の数およびラットの数を表す。はLS食を与えたDahl Sラットに見られた値に対する有意差を表す。†は対応するコントロール値からの有意差を表す。HS−4、4日間のHS。HS−7、7日間のHS。
【図3】図3は、単離糸球体による20−HETEの産生に対するTGF−β1(10ng/ml)の影響を示した図である。典型的なLC/MSクロマトグラムをパネル4Aに示す。TGF−β1は、16分間の保持時間で溶出する319のm/zを示す20−HETEのピークの形成を阻害した。パネルBに、6つの実験から得られた結果の要約を示す。†は対応するコントロール値からの有意差を表す。
【図4】図4は、TGF−β1により生じたPalbの変化に対する20−HETEアゴニストの影響を示した図である。糸球体を溶媒またはTGF−β1(10ng/ml)とともに15分間37℃でプレインキュベートし、Palbの変化を測定した。糸球体を安定な20−HETEアゴニスト、20−ヒドロキシエイコサ−5(Z),14(Z)−ジエン酸(WIT003)とともに15分間37℃で前処理し、TGF−β1(10ng/ml)に対するPalbの応答を再測定した。括弧内の数字は群あたりの分析された糸球体の数およびラットの数を表す。†は対応するコントロール値からの有意差を表す。
【図5】図5は、腎臓の30分間の虚血および24時間の再灌流の後におけるSprague Dawleyラットの血漿クレアチニン濃度の比較を示した図である。ラットを、溶媒、20−HETE形成阻害剤N−ヒドロキシ−N’−(4−ブチル−2−メチルフェノール)−ホルムアミジン(HET0016、5mg/Kg)、またはWIT003(10mg/Kg)とともに、虚血開始30分前に処理した。
【図6】図6は、Dahl Sラット(20−HETE欠損系統)と、20−HETEを腎臓において産生するCYP4A遺伝子を過剰発現するDahl Sラットの2X4コンジェニック系統とにおける、腎臓の20分間の虚血および24時間の再灌流後の血漿クレアチニン濃度の比較を示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトまたはヒト以外の動物における虚血性急性腎不全を予防または治療する方法であって、20−HETEおよび20−HETEアゴニストからなる群より選択される薬剤を、ヒトまたはヒト以外の動物に虚血性急性腎不全を予防または治療するのに十分な量投与する工程を含んでなる、方法。
【請求項2】
ヒトにおける虚血性急性腎不全を予防または治療する方法である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
薬剤が20−HETEアゴニストである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
20−HETEアゴニストが下記式により定義される、請求項3に記載の方法:
【化1】

[式中、
はカルボン酸、フェノール、アミド、イミド、スルホンアミド、スルホンアミド、活性メチレン、1,3−ジカルボニル、アルコール、チオール、アミン、テトラゾール、および他のヘテロアリール基からなる群より選択され;
はカルボン酸、フェノール、アミド、イミド、スルホンアミド、スルホンアミド、活性メチレン、1,3−ジカルボニル、アルコール、チオール、アミン、テトラゾール、および他のヘテロアリールからなる群より選択され;
Wは炭素鎖(C〜C25)であり、直鎖状、環状または分岐状であってもよく、かつヘテロ原子を含んでいてもよく;
Yは炭素鎖(C〜C25)であり、直鎖状、環状または分岐状であってもよく、かつヘテロ原子を含んでいてもよく;
sp<3 Centerはビニル、アリール、ヘテロアリール、シクロプロピル、およびアセチレン部分からなる群より選択され;
Xは直鎖状、分岐状、環状または多環式であってもよいアルキル鎖であり、かつヘテロ原子を含んでいてもよく;
mは0、1、2、3、4または5であり;そして
nは0、1、2、3、4または5である]。
【請求項5】
化合物がRまたはRのいずれかにカルボキシル基または他のイオン性基を有し、かつ前記化合物が前記イオン性基から14〜15炭素に等しい距離で二重結合または他の官能基を有する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
化合物が20〜21炭素の長さを有し、カルボキシル基または他のイオン性基をRまたはRのいずれかに有し、二重結合または他の官能基を前記イオン性基から14〜15炭素に等しい距離で有し、かつ水酸基をRまたはRのいずれかの20または21炭素上に有する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
20−HETEアゴニストが20−ヒドロキシエイコサン酸、20−ヒドロキシエイコサ−5(Z),14(Z)−ジエン酸(WIT003)、およびN−メチルスルホニル−20−ヒドロキシエイコサ−5(Z),14(Z)−ジエンアミドからなる群より選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項8】
20−HETEアゴニストが20−ヒドロキシエイコサ−5(Z),14(Z)−ジエン酸(WIT003)である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
腎臓の尿生成能を監視する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
再灌流の際の生体外保存腎臓への損傷の深刻さを予防または軽減させる方法であって、再灌流の際の腎臓への損傷の深刻さを予防または軽減させるのに十分な量の薬剤を含んでなる保存溶液中で生体外で腎臓を保存する工程を含んでなり、薬剤が20−HETEおよび20−HETEアゴニストからなる群より選択される方法。
【請求項11】
腎臓がヒト腎臓である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
薬剤が20−HETEアゴニストである、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
20−HETEアゴニストが下記式により定義される、請求項12に記載の方法:
【化2】

[式中、
はカルボン酸、フェノール、アミド、イミド、スルホンアミド、スルホンアミド、活性メチレン、1,3−ジカルボニル、アルコール、チオール、アミン、テトラゾール、および他のヘテロアリール基からなる群より選択され;
はカルボン酸、フェノール、アミド、イミド、スルホンアミド、スルホンアミド、活性メチレン、1,3−ジカルボニル、アルコール、チオール、アミン、テトラゾール、および他のヘテロアリールからなる群より選択され;
Wは炭素鎖(C〜C25)であり、直鎖状、環状または分岐状であってもよく、かつヘテロ原子を含んでいてもよく;
Yは炭素鎖(C〜C25)であり、直鎖状、環状または分岐状であってもよく、かつヘテロ原子を含んでいてもよく;
sp<3 Centerはビニル、アリール、ヘテロアリール、シクロプロピル、およびアセチレン部分からなる群より選択され;
Xは直鎖状、分岐状、環状または多環式であってもよいアルキル鎖であり、かつヘテロ原子を含んでいてもよく;
mは0、1、2、3、4または5であり;そして
nは0、1、2、3、4または5である]。
【請求項14】
化合物がRまたはRのいずれかにカルボキシル基または他のイオン性基を有し、かつ化合物が前記イオン性基から14〜15炭素に等しい距離で二重結合または他の官能基を有する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
化合物が20〜21炭素の長さを有し、カルボキシル基または他のイオン性基をRまたはRのいずれかに有し、二重結合または他の官能基を前記イオン性基から14〜15炭素に等しい距離で有し、水酸基をRまたはRのいずれかの20または21炭素上に有する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
20−HETEアゴニストが20−ヒドロキシエイコサン酸、20−ヒドロキシエイコサ−5(Z),14(Z)−ジエン酸(WIT003)、およびN−メチルスルホニル−20−ヒドロキシエイコサ−5(Z),14(Z)−ジエンアミドからなる群より選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
20−HETEアゴニストが20−ヒドロキシエイコサ−5(Z),14(Z)−ジエン酸(WIT003)である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
医師または患者に、再灌流の際の障害の深刻さを予防または軽減するための条件下で腎臓が保存されたことを知らせる工程をさらに含んでなる、請求項10に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2009−539985(P2009−539985A)
【公表日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−515445(P2009−515445)
【出願日】平成19年6月12日(2007.6.12)
【国際出願番号】PCT/US2007/013740
【国際公開番号】WO2007/146262
【国際公開日】平成19年12月21日(2007.12.21)
【出願人】(508220283)エムシーダブリュ、リサーチ、ファウンデーション、インコーポレーテッド (2)
【氏名又は名称原語表記】MCW RESEARCH FOUNDATION, INC.
【Fターム(参考)】