説明

腐食抑制処理剤

【課題】 公知技術に係る封孔処理剤(腐食抑制剤)において、より高い耐食性を維持しつつ、はんだリフローなどによる熱負荷後の接触抵抗をより安定させると共に、溶媒に揮発性の高い有機溶剤を使用しないことによって、環境汚染の面及び作業環境の防災面での安全性を高めること。
【解決手段】 本発明に係る腐食抑制処理剤は、油に関しては熱負荷、温度衝撃に対して安定なものを選び、腐食抑制剤はそれらの油に容易に溶解するものを選択したのである。具体的には、ポリエーテル系合成油とポリオキシエチレンひまし油エーテルを油として選び、オキサゾール系化合物を腐食抑制剤として、各々を水または水系溶媒に溶解して水溶性の腐食抑制処理剤を調合したものであり、抵触圧力デバイス、及びプリント基板の回路部のめっき接点部の処理に適用することにより、高い耐食性と安定した接触信頼性を確保しつつ、環境汚染や作業環境の防災面においても大幅な改善に寄与することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコネクタ、スイッチ、リレーなどの電子デバイスや、プリント基板の回路部のめっき接点部に応用し、耐食性を向上させると共に熱負荷後の接触信頼性を向上させる水または水系溶媒を使用した腐食抑制処理剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の処理剤として、第1の公知技術、例えば、フッ素系界面活性剤およびパーフルオロ基含有有機ケイ素化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の含フッ素系化合物を含有する溶射被膜の封孔処理剤が公知になっている(特許文献1)。
【0003】
この封孔処理剤においては、フッ素系界面活性剤として、アニオン性、カチオン性、ノニオン性及び両性のフッ素系系面活性剤を使用できるとし、パーフルオロ基含有有機ケイ素化合物として、含フッ素シラザン化合物又は含フッ素シラン化合物が使用できるとし、これらを有機溶媒剤に溶解させというものであり、有機溶剤として、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類、アセトンメチルエチルケトン等のケトン類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、ベンゾトリフロリド、メタ(又はパラ)キシレンヘキサフルオリド等のフッ素系溶剤を使用すること、さらに、一般的に使用されているエポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、フッ素樹脂等の合成樹脂を添加することができるとしている。
【0004】
また、第2の公知技術として、例えば、インヒビターと、界面活性剤と、アミン化合物とを含む水系封孔処理剤が公知になっている(特許文献2)。
【0005】
この封孔処理剤は、インヒビターとして、ベンゾトリアゾール系化合物、メルカプトベンゾチアゾール系化合物、トリアジンチオール系化合物からなる群から選んだ少なくとも1種で、封孔処理液中に合計で10〜5000mg/l含有されるとしており、その封孔処理剤の使用については、封孔剤を含有する水系めっき浴を使って、上記金めっき物を陽極として電解を行いその上に封孔被膜、即ち腐食防止膜を形成するというものであって、要するに、一種のめっき浴に相当するものである。
【0006】
【特許文献1】特開平10−68086号公報
【特許文献1】特開2003−129257号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、最近の電子デバイス(コネクタ・スイッチ)では回路基盤の小型化、狭ピッチ化、薄膜化が進み、接点部の接触圧力は条件的にますます小さくなってきている。
一方、半田がPbフリーになったことにより、リフロー温度が上昇して接点部への熱負荷が大きくなり、それによる腐食抑制処理剤の粘度上昇も無視できなくなってきた。つまり、上記条件下での接触信頼性を確保することが、従来の腐食抑制処理剤では困難なケースが増えてきている。
前記第1の公知技術においては、封孔処理剤を溶射被膜に対してスプレーガンによる吹きつけ、刷毛塗りまたは浸漬などによって塗布するものであって、溶射被膜に塗布した後に、揮発して含フッ素化合物を残存させるようにするために、アルコール類、ケトン類、芳香族系溶剤、エステル類及びフッ素系溶剤等の揮発性の高い有機溶剤を使用しているので、環境汚染の面及び作業環境の防災面での安全性に問題を有している。
【0008】
また、前記第2の公知技術においては、インヒビター含有水溶液に界面活性剤とアミン化合物を添加した封孔処理剤中で、めっき材を陽極として直流電解することにより、基礎金属、ニッケルまたはニッケルを含んだ合金めっきとインヒビターとを結合させて封孔被膜を均一に形成させて防錆効果を得るとしている。
【0009】
つまり、封孔処理剤は、電解めっき液として使用するものであり、処理されるべき電子デバイスにおける小型化および狭ピッチ化された回路基盤の複雑な接点部おいて、全ての部分に通電を必要とするものであるが、通電のための厄介な配線を必要とし通電を確保して全てに封孔被膜を形成することが困難なケースもあって、実質的に小型・狭小化された電子デバイスには適用出来ないという問題点を有している。
【0010】
従って、前記開発品または第1及び第2の公知技術に係る封孔処理剤においては、より高い耐食性を維持しつつ、はんだリフローなどによる熱負荷後の接触抵抗をより安定させると共に、溶媒に揮発性の高い有機溶剤を使用しないことによって、環境汚染の面及び作業環境の防災面での安全性を高めること、および厄介な通電を必要としないことに解決しなければならない課題を有している。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る第1の発明は、ポリエーテル系合成油を1〜20g/lに腐食抑制剤としてオキサゾール系化合物を0.1〜0.5g/lを溶解し、溶媒として水または水系溶媒を用いることを特徴とする腐食抑制処理剤を提供するものである。
【0012】
本発明に係る第2の発明は、ポリエーテル系合成油を1〜20g/lとポリオキシエチレンひまし油エーテルを0.1〜2g/lとを含み、腐食抑制剤としてオキサゾール系化合物を0.1〜0.3g/lを溶解し、溶媒として水または水系溶媒を用いることを特徴とする腐食抑制処理剤を提供するものである。
【0013】
上記第1〜第2の発明において、水系溶媒は、プロピレングリコール系化合物またはアルコールを50%以下に水で希釈したものであること、を付加的な要件としてそれぞれ含むものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る第1〜第2の腐食抑制処理剤を、抵触圧力デバイス、及びプリント基板の回路部のめっき接点部の処理に適用することにより、高い耐食性と安定した接触信頼性を確保しつつ、環境汚染や作業環境の防災面においても大幅な改善に寄与することができるという優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
腐食抑制処理剤の成分は油と腐食抑制剤とで構成されているが、本発明においては、油に関しては熱負荷、温度衝撃に対して安定なものを選び、腐食抑制剤はそれらの油に容易に溶解するものを選択したのである。具体的には、ポリエーテル系合成油とポリオキシエチレンひまし油エーテルとを油として選び、オキサゾール系化合物を腐食抑制剤として、各々を水または水系溶媒に溶解して水溶性の腐食抑制処理剤を調合したのである。
なお、水系溶媒としてアルコールもしくはプロピレングリコール系化合物を水で50%に希釈したものが使用され、特に、ポリエーテル系合成油に、オキサゾール系化合物を腐食抑制剤として加えたものについては、その水系溶媒に溶解して腐食抑制処理剤を調合した方が好ましい。ところで、水系溶媒は、アルコールもしくはプロピレングリコール系化合物を水で50%に希釈してあるため、成分の揮発性が大幅に抑制されており、環境に影響を及ぼすことは極めて少ないのである。
【0016】
[実施例]
次に本発明を具体的な幾つかの好ましい実施例を挙げて説明する。
【0017】
・実施例1
ポリエーテル系合成油…6g/l
(日油(株)製:50MB-26)
2−メルカプトベンゾオキサゾール…0.2g/l
溶媒…水
【0018】
・実施例2
ポリエーテル系合成油…10g/l
(日油(株)製:50MB-26)
ポリオキシエチレンひまし油エーテル…1.5g/l
(共栄社化学(株)製:OK-20)
2−メルカプトベンゾオキサゾール…0.2g/l
溶媒…水
【0019】
・実施例3
ポリエーテル系合成油…15g/l
(日油(株)製:50MB-26)
ポリオキシエチレンひまし油エーテル…0.5g/l
(共栄社化学(株)製:OK-20)
2−メルカプトベンゾオキサゾール…0.1g/l
水系溶媒…水50%+プロピレングリコール系化合物50%
(旭化成(株)製:エリーズ2800)
【0020】
性能評価する試験片としては銅板にNiめっき1μ+Auめっき0.1μを施し、各々の腐食処理液に浸漬した後熱風にて乾燥したものを使用した。
[試験1]
亜硫酸ガス腐食テスト
[テスト方法]
亜硫酸ナトリウム252gとりん酸水素2カリウム110g、りん酸2水素カリウム230gを1リットルの水に溶かしたものを密封された容器に入れて、同時に各々のサンプルを処理した試験片をその容器の上部に固定しておく。
その容器のSO2濃度が10ppm前後であることを確認してから容器を40℃の恒温層の中に放置する。
24時間経過するごとに試験片を取り出して表面の腐食の状態を観察して、それぞれ違いを確認する。
[テスト結果]
テスト結果を下記表1に示す。









【表1】

5…腐食無し
4…全体の10%以下腐食
3…全体の20%以下腐食
2…全体の30%以下腐食
1…全体の30%以上が腐食
【0021】
[試験2]
塩水噴霧テスト
[テスト方法]
35℃の環境下において、5%NaCl水溶液を各々の試験片に連続的に噴霧して72時間後の表面の腐食の状態を比較する。
[テスト結果]
テスト結果を下記表2に示す。
【表2】

5…腐食無し
4…全体の10%以下腐食
3…全体の20%以下腐食
2…全体の30%以下腐食
1…全体の30%以上が腐食
【0022】
[試験3]
低接触圧力(5g)と(10g)での熱負荷前後での接触抵抗
[テスト方法]
(株)山崎精機研究所製の電気接点シミュレータCRS−113−AU型を使用して、各試験片の表面の接触抵抗を無作為に5箇所ずつ測定する。
その際の接触圧力が10gのときと5gのときの測定値を記録してその平均値を比較する。
[テスト結果]
テスト結果を下記表3に示す。
【表3】

5…1〜3mΩ
4…2〜4mΩ
3…4〜6mΩ
2…6〜8mΩ
1…8mΩ以上
【0023】
なお、前記実施例1〜3においては、各成分についてそれぞれ好適な範囲の量を示したが、その範囲の下限値及び上限値についても実施できることを確認済なのである。即ち、各成分については、ポリエーテル系合成油の下限値は1g/lで上限値が20g/lであり、オキサゾール系化合物の下限値は0.1g/lで上限値が0.5g/lであり、ポリオキシエチレンひまし油エーテルの下限値は0.1g/lで上限値が2g/lである。そして、各成分について下限値以下であると効果が充分ではなくなり、上限値以上使用しても予定した効果以上にはならず、経済的な面で好ましくないのである。
また、前記実施例1、2において、溶媒として水を使用した例を示したが、実施例3のような水とプロピレングリコール系化合物または水とアルコールとの希釈液である水系溶媒が使用できるし、実施例3においても溶媒として水のみであっても良い。
いずれにしても、前記実施例1〜3と同様の試験をしても同様のテスト結果が得られたのである。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明に係る腐食抑制処理剤は、コネクタ、スイッチ、リレーなどの電子デバイスや、プリント基板の回路部のめっき接点部に限らず、防錆処理を必要とする種々の加工金属部分にも広く利用できるのである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエーテル系合成油を1〜20g/lに腐食抑制剤としてオキサゾール系化合物を0.1〜0.5g/lを溶解し、溶媒として水または水系溶媒を用いることを特徴とする腐食抑制処理剤。
【請求項2】
ポリエーテル系合成油を1〜20g/lとポリオキシエチレンひまし油エーテルを0.1〜2g/lとを含み、腐食抑制剤としてオキサゾール系化合物を0.1〜0.3g/lを溶解し、溶媒として水または水系溶媒を用いることを特徴とする腐食抑制処理剤。
【請求項3】
水系溶媒は、プロピレングリコール系化合物またはアルコールを50%以下に水で希釈したものである請求項1乃至2に記載の腐食抑制処理剤。

【公開番号】特開2010−70817(P2010−70817A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−240678(P2008−240678)
【出願日】平成20年9月19日(2008.9.19)
【出願人】(598164418)株式会社ケミトロン (3)
【Fターム(参考)】