説明

腐食抑制方法

【課題】 燃焼装置の停止時の腐食を効率的に防止し、その設備コストや運転コストを低減させることができるような炭素綱の腐食抑制方法を提供する。
【解決手段】 この腐食抑制方法は、鉄鋼材料で構成された廃棄物燃焼装置において、塩素を含む廃棄物を処理することにより装置構成材料に生成した塩化鉄を、加熱保持によって酸化鉄に変えることで、塩化鉄の潮解による腐食を抑制する。これにより、簡便且つ低コストで廃棄物燃焼装置の構成材料の腐食を抑制する方法を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃棄物燃焼装置(ガス化溶融を含む)において、都市ゴミや廃プラスチック等の塩素を含む廃棄物を燃焼することにより発生する装置構成材料の腐食を抑制する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
塩酸露点腐食を回避する方法としては、以下の(1)〜(4)がある。
(1)排ガス中の塩化水素を除去する。
(2)生成した塩酸を洗い流す。
(3)生成した塩酸に対して耐食性のある材料を用いる。
(4)材料の温度を露点以上に保持する。
しかし、(1)〜(4)には次のような問題がある。
(1)の脱塩化水素という方法は、原料廃棄物中の塩素量や燃焼の温度条件によって、消石灰等薬品の添加量を調整しなければならず手間がかかる上、薬品を添加した分だけ灰の量が増えるため、灰処理装置および排ガス処理装置の負荷が増し、薬品の使用量が増えればランニングコストの上昇を招く。
(2)の洗い流しは、対象となる箇所が露出している場合しか適用できない。
(3)については、耐食性高級材料は価格が高いので、イニシャルコストが大幅に上昇する。
(4)の材料を露点温度以上の温度に保持することで、熱回収効率が落ちたり、加熱のためのエネルギーが必要となる。
(4)の温度保持は一般的に行われている対策であるが、例えば装置停止時の腐食を回避したい場合には、装置停止期間中にわたって腐食を生じない状態に保つためのエネルギーを必要とするため、停止期間が長くなるほどコストが嵩んでしまう等の問題がある(特許文献1参照)。
【0003】
特に塩化水素が多く含まれる廃棄物を燃焼する場合には、ガス平衡から計算される塩酸露点(70〜80℃程度)よりも実際には高い温度で装置構成材料の腐食が確認されている。これに対し、この理論的な塩酸露点以上の温度で腐食が起こる機構については不明のまま、塩酸露点による腐食として、やや高い温度(露点温度+数十℃)での温度保持による腐食対策がとられてきた。
発明者らは、塩素を含有する廃棄物の燃焼によって生成した塩化鉄が潮解することで、著しい腐食が起こることを見出し、この現象を「潮解腐食」と呼ぶことにした(特許文献2参照)。
潮解腐食を明らかにするために行った実験につき、以下に説明する。
【0004】
図1に、暴露試験装置を示す。電気炉10内に石英管12が配置され、さらにその内部に試験片台16が設置されている。石英管12には、試験排ガスの導入及び導出配管が設けられており、試験片台16上に置いた試験片18を試験排ガスに暴露させるしくみとなっている。試験片台16には、二重管14が接続されており、冷却空気を流して試験片18の裏面を冷却することで、試験片18の温度を試験排ガスの温度より低く保持している。
【0005】
試験片18と試験排ガスの温度をパラメータとして、暴露試験を行った。試験排ガスとして、ゴミ焼却時の一般的な排ガス組成を模擬したもの(10%O2−20%H2O−10%CO2−1000ppmHCl−50ppmSO2-N2バランス)を用いた。試験片18の寸法は、70mm×120mm(厚み約1mm)である。試験片18の温度は、その表面に貼り付けた熱電対により測定し、試験排ガスの温度は、試験片18の直上に設置した熱電対により測定した。それぞれの温度が所定値になるよう、電気炉10の温度および冷却空気の流量を調節した。
【0006】
試験時間100時間の暴露試験を実施した後、試験片18を取り出し、恒温恒湿槽にて25℃、湿度60%RH(RHは相対湿度)で2週間保持した。暴露試験直後の試験片の重量測定は、乾燥状態を保ちながら迅速に行った。恒温恒湿槽で保持した後、再び重量測定を行い、恒温恒湿槽における保持試験前後での重量変化を算出した。この重量増加を潮解腐食によるものとして、腐食速度を下式によって算出した。本式は、重量増加が酸化鉄(Fe2O3)の形成によるものであると仮定している。
腐食速度(mm/y)=ΔM÷3MO×2MFe÷ρFe÷S÷t×Yh÷10
ここで、ΔM:潮解腐食による重量増加量(g)
O:酸素Oの原子量16.0
Fe:鉄Feの原子量55.85
ρFe:鉄の密度7.87(g/cm3
S:試験片暴露面積(83cm2
t:高温での暴露時間100(時間)
Yh:1年間24×365=8760(時間)
【0007】
図2に、試験排ガス温度と試験片温度による潮解腐食量の違いを示す。図2では、潮解腐食が顕著なもの(腐食速度1mm/y以上)を×、軽微なもの(腐食速度0.2mm/y以下)を●で示している。なお、試験片温度が90℃近くであっても塩酸露点腐食は生じていない。図2中の●および×の点において、重量測定および腐食速度の算出を行ったが、目視によって、試験片温度が140℃より低い場合に著しい潮解腐食を生じることを確認した。この実験から、廃棄物燃焼装置の実機において、装置を構成する鉄鋼材料の温度が90℃〜140℃となっている箇所で潮解腐食が生じていると考えられる。
【0008】
最近では、焼却炉の廃熱ボイラーのチューブにおいて、塩化鉄が付着することにより、露点温度よりも80〜90℃高い温度で液相が形成され、酸性湿式腐食環境が形成されるとした報告例もあり、潮解腐食現象が一般に認識されつつある(非特許文献1参照)。
しかしながら、潮解腐食への対策としては、露点温度よりも数十℃高い温度で運転するといった防食方法しか知られていないのが現状である。
【0009】
この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては以下のものがある。
【特許文献1】特開平8-75104号公報
【非特許文献1】「腐食原因調査等の事例紹介 5 焼却炉廃熱ボイラーチューブの腐食原因調査」、[online]、日鉄環境エンジニアリング株式会社 環境テクノ事業本部、[平成20年11月6日検索]インターネット、<URL:http://www.nske.co.jp/ske_kagaku/contents/fushoku/index_fushoku.html> また、未公開であるが関連する出願として、以下のものがある。
【特許文献2】特願 2007-183178 号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
発明者らは、潮解腐食のメカニズムを解明することにより、防食方法の適正化が可能であることを見出した。本発明の目的は、簡便且つ低コストで廃棄物燃焼装置の構成材料の腐食を抑制する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するために、請求項1に記載の腐食抑制方法は、塩素を含む廃棄物を燃焼により処理する装置において、該装置の運転を停止する際に、該装置を構成する鉄鋼材料の表面温度が、(1)140℃より低い場合には140℃以上400℃以下となるよう、(2)140℃以上の場合には該温度以上400℃以下となるよう加熱し、30分以上6時間以下の時間保持した後に運転停止することを特徴とする、廃棄物燃焼装置を構成する鉄鋼材料の腐食抑制方法である。
【0012】
都市ゴミや廃プラスチック等の塩素を含む廃棄物を、燃焼により処理する装置において、装置を停止する際に一時的に加熱することにより、長時間の高温保持を必要とすることなく、装置を構成する鉄鋼材料の腐食を防止することができる。装置を構成する鉄鋼材料は、安価で加工性や溶接性に優れることから、一般的に炭素鋼が用いられるが、ステンレス鋼等の合金鋼を用いる場合もある。装置を構成する材料の表面温度が140℃より低い箇所では、そのまま装置停止によって温度を低下させた場合、前述の図2に示したように、塩酸露点腐食及び/または潮解腐食が発生する。140℃以上400℃以下となるよう加熱し、30分以上6時間以下の時間保持することにより、温度を低下させた場合の腐食を抑制することが可能となる。
【0013】
ここで、140℃というのは、腐食抑制に最低限必要な温度であり、好ましくは160℃以上である。加熱温度を400℃以下としたのは、炭素鋼の機械強度を考慮したからである。実際に、実機のエコノマイザ入口のガス温度は最高で400℃である。加熱時間が30分以上というのは、腐食抑制に最低限必要な時間であり、好ましくは2時間以上である。長時間の加熱が腐食抑制処理には望ましいが、加熱時間が長すぎると装置の熱回収効率が低下する。ここで、腐食抑制処理の加熱時間を6時間以下としたのは、次の理由による。すなわち、熱媒体であるボイラ水の循環を止め、装置停止時の燃焼ガスによって160℃以上の加熱を行う場合を考えると、装置停止時にエコノマイザの入口ガス温度が160℃まで低下するのに要する時間は6時間程度であり、加熱可能時間は最長で6時間と推定されるためである。
【0014】
熱回収装置等の比較的表面温度が低温となる箇所以外、例えば筐体等においても本発明を適用し、装置を構成する鉄鋼材料の腐食を抑制することができる。装置を構成する材料の表面温度が140℃以上の箇所については、本発明による加熱をしない状態においても140℃以上という腐食抑制に必要な温度となっているが、該表面温度以上に加熱することにより、腐食抑制の効果がある。
【0015】
請求項2に記載の腐食抑制方法は、請求項1に記載の腐食抑制方法において、塩素を含む廃棄物の燃焼により前記装置を構成する鉄鋼材料に生成した塩化鉄を、前記加熱保持によって酸化鉄に変えることを特徴とする腐食抑制方法である。
【0016】
本発明における加熱、温度保持の目的は、塩素を含む廃棄物の燃焼により装置を構成する鉄鋼材料に生成した塩化鉄を酸化鉄に変化させることにより、潮解腐食を抑制することである。
【0017】
請求項3に記載の腐食抑制方法は、塩素を含む廃棄物を燃焼により処理する装置において、スートブローを行う際に、同時または並行して、該装置を構成する鉄鋼材料の表面温度が、(1)140℃より低い場合には140℃以上400℃以下となるよう、(2)140℃以上の場合には該温度以上400℃以下となるよう加熱し、30分以上2時間以下の時間保持することを特徴とする、廃棄物燃焼装置を構成する鉄鋼材料の腐食抑制方法である。
【0018】
伝熱管等に堆積する灰を除去するために水蒸気等を噴射するスートブローは、ボイラの水蒸気の一部を用いることが多く、実施中は雰囲気中の水蒸気濃度が増加する。詳細なメカニズムは現段階では不明であるが、この際に塩化鉄の生成量が増加し、その結果、潮解腐食量が増加する。そこで、請求項3に記載の発明では、これを避けるため、スートブローと加熱処理を同時または並行して行うものとした。実装置において、一度のスートブローは30〜60分程度を要するが、この前後を含め30分以上2時間以下の時間を加熱保持することで、腐食を抑制することができる。スートブロー時に、加熱保持を1回のみ実施することもできるが、好ましくは、複数回、さらに好ましくは、スートブロー毎に加熱保持することで、効果的な腐食抑制が可能である。
【0019】
請求項4に記載の腐食抑制方法は、請求項1乃至3のいずれかに記載された腐食抑制方法において、前記廃棄物燃焼装置のうち、熱回収媒体を循環させて熱回収を行う箇所では、該熱回収媒体の供給または循環を停止することにより、前記加熱保持を行うことを特徴とする腐食抑制方法である。
【0020】
熱回収媒体を循環させて熱回収を行う箇所、例えばボイラ、エコノマイザ、空気予熱器等において、水、水蒸気、空気等の熱回収媒体の供給または循環を停止することで、装置構成材料の加熱を行うことができる。
装置運転時、これらの熱回収を行う箇所では高温のガスが流れているため、新たに外部からのエネルギー供給を必要とせずに、加熱することができる。
熱回収媒体の供給または循環を停止しても本発明の腐食抑制に必要な温度に達しない場合、および熱回収媒体を循環させて熱回収を行う箇所以外の場所では、別途熱源(例えば高温のボイラー水蒸気や高温排ガス等)を用いて加熱を行えばよい。
【発明の効果】
【0021】
請求項1ないし請求項4に記載の発明によれば、塩素を含有する廃棄物の燃焼によって鉄鋼材料表面に生成する塩化鉄が原因の潮解腐食に対して、短時間の加熱処理によって塩化鉄を酸化鉄に変えることにより、簡便且つ低コストで潮解腐食を抑制し、装置の長寿命化を図ることができ、さらには、廃棄物燃焼装置全体の熱効率向上を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面を参照して、本発明による腐食抑制方法を具体的に説明する。
図3は、廃棄物燃焼装置における排ガスおよびボイラ水のフローを示す図である。廃棄物は廃棄物焼却炉40で焼却され、排ガスは、ボイラ42、エコノマイザ44を経た後、さらに減温塔46(図示せず)で除熱されて、集塵機48、脱塩化水素装置50、再加熱器52及び触媒反応塔54からなる排ガス処理部56へ送られ、有害成分を除去してから大気放出される。一方、ボイラ水は、復水タンク58から給水加熱器60、脱気器62、およびエコノマイザ44を経てボイラ42に供給される。図3において、実線は排ガスの流れを示し、破線はボイラ水の流れを示す。また、矢印の上に表示される温度は、その箇所における排ガス又はボイラ水の温度である。
【0023】
廃棄物焼却炉40には、流動床炉をはじめ、流動床炉以外のストーカ炉、キルン炉、シャフト炉等、様々な炉型式を用いることができる。これらの炉の組み合わせの他、灰溶融炉との組み合わせも利用可能である。また、ガス化溶融炉も適用可能である。
本発明は、廃プラスチックや、都市ごみ等の塩素を多く含む廃棄物を燃焼する装置に好適であるが、その他の塩素を含む廃棄物、および塩素を含む廃棄物とその他の廃棄物との混合物を燃焼する装置にも適用可能である。
【0024】
鉄鋼材料を使用した廃棄物燃焼装置を定期点検や保守のために停止すると、運転中に塩化水素を含む燃焼排ガスとの接触で生じた塩化鉄が、温度の低下により相対湿度が上昇することで潮解し、装置構成材料の腐食が進行する。装置を停止する際に、本発明を適用することにより、装置を構成する鉄鋼材料の潮解腐食を抑制することが可能となる。すなわち、装置を構成する材料の表面温度が140℃より低い箇所では、140℃以上400℃以下となるよう、表面温度が140℃以上の箇所では、該表面温度以上400℃以下となるよう加熱し、30分以上6時間以下の時間保持することにより、生成した塩化鉄を酸化鉄に変化させる。その後は、運転停止によって温度が低下しても、潮解性のある塩化鉄ではなく、酸化鉄に変化しているため、潮解腐食を抑制することができる。長時間高温で保持し続ける必要はない。
【0025】
熱回収媒体を循環させて熱回収を行うエコノマイザ44を対象とする場合、加熱保持は、その熱回収媒体である水の供給量を低下させるか、一時的に停止させることで達成できる。これにより熱回収量が低下するので、エコノマイザ44を通過する排ガス温度が上昇し、材料の表面温度を上げることが可能となる。
【0026】
熱媒体の送給を止めただけでは材料の表面温度を十分に上げることが出来ない場合は、別途熱源を用いて加熱する。図の実施の形態では、ボイラからの高温の水蒸気の一部を弁70を介してエコノマイザ44の水ラインに戻すことによりエコノマイザを加熱するライン72を設けている。このとき、エコノマイザ44に供給する水は停止するか流量を減少させる。場合によっては、前段のボイラ42での熱回収量を減らすことにより高温の排ガスをエコノマイザに供給してもよい。
【0027】
本廃棄物燃焼装置において、エコノマイザ44以降の排ガス処理部56等のような熱回収を行わない箇所に塩化鉄が生成しているような場合も、適当な熱源を用いて加熱すればよい。例えば、該当部の適当な箇所にヒータを設置してもよい。また、装置が稼働中に腐食抑制処理を行う場合は、高温のボイラ水蒸気を用いることができる。
【0028】
次に、腐食抑制処理の条件を検討する。発明者らは、腐食抑制処理には、装置構成材料の加熱温度とその温度での保持時間が図4の関係を満たす必要のあることを見出した。
加熱温度には、
(1)塩化鉄の生成量によらず、短時間(好ましくは2時間程度)で効果が得られる温度
(2)塩化鉄の生成量によって、時間を長くすることで効果が得られる必要最低温度
があると考えられる。
図4の温度B以上では比較的短時間C(好ましくは2時間程度)で塩化鉄を酸化鉄に変えることができる。温度B以下の温度でも加熱保持時間を時間Cより長くすることで、塩化鉄を酸化鉄に変えることができる。ただし、最低必要温度Aが存在し、また、これに対応して必要な加熱時間Dがある。
発明者らは、試験を行うことにより、ごみ処理装置の一般的な排ガス環境においては、最低必要温度Aが140℃、比較的短時間で効果が得られる温度Bが160℃、時間Cが30分以上(好ましくは2時間以上)であることを見出した。
時間Dは、塩化鉄の生成量や運転時の環境で大きく異なる。発明者らは、図4に示すように、温度Aから温度Bに至るまで、必要な加熱時間は、加熱温度に対し直線的に変化すると考えている。
【0029】
塩化鉄の生成量と暴露時間の関係を図5に示す。ガス温度200℃、試験片温度120℃とし、暴露時間は6、24、72時間とした(実験方法、装置は図1の場合と同じ)。暴露試験後、湿度60%RHとし、恒温恒湿槽において2週間保持したことによる2週間後の重量増加を全て酸化鉄(Fe2O3)の生成と見なし、減肉量を算出した。
図5より、暴露時間が長いほど潮解腐食による減肉量が増加した。すなわち、塩化鉄の生成量は運転時間に比例して増加する。これより、運転時間が長く、塩化鉄の生成量が多い場合には、それに応じて加熱時間Dを長くする必要があることがわかった。
装置運転中に本発明による腐食抑制処理を行う場合、エコノマイザや空気予熱器などの熱回収装置では、使用される水、水蒸気、空気などの熱媒体の供給を一時的に停止させるか流量を下げると良い。
【0030】
運転が継続している場合、エコノマイザや空気予熱器には高温の排ガスが流れているので、塩化鉄を生じた箇所を加熱できる。この方法ならば、新たに外部からエネルギーを供給する必要はない。また、温度B以上にできる場合は短時間で効果が得られるので、例え熱媒体の供給を短時間止めても熱回収効率の低下を少なくできる。
熱回収部において、熱媒体の送給を止めただけでは、温度A以上になるものの温度B以下となる場合には、加熱保持時間を長くしたり加熱する頻度を増やすことで対応することができる。
温度Aに達しない場合には、別途熱源を用いて加熱するとよい。例えば、ボイラからの高温の水蒸気を用いればよい。
装置運転中に、煙道や排煙処理装置のような非熱回収部に対し、本発明による腐食抑制処理を行う場合は、高温のボイラ水蒸気等、別の熱源を用いて加熱すればよい。
【0031】
本発明による潮解腐食防止のメカニズムは、次のように考えられる。
一般ゴミを焼却した時の代表的な排ガス組成(10%O2−20%H2O−10%CO2−1000ppmHCl−50ppmSO2-N2バランス)のうち、水蒸気と塩化水素と酸素の3成分を基に熱力学的計算を行なうと、図6の状態図が得られる(排ガスにはSが存在しないため、熱力学的計算ではSOxは考慮していない)。
この図は、横軸に酸素分圧、縦軸に塩化水素分圧を対数でとったもので、温度を変えた場合の安定相を示している。上記のガス組成で安定となるのは、点線の交点より酸化第二鉄(Fe2O3)である。
現段階では、生成した塩化鉄および加熱により塩化鉄から変化した酸化鉄の化学式は特定できていないが、次のようなメカニズムと考えられる。
生成するのは塩化第一鉄(FeCl2)であり、これが水蒸気、酸素と反応してマグネタイト(Fe3O4)に変化する。
3FeCl2 + 3H2O +1/2O2 → Fe3O4 + 6HCl
本反応の熱力学的計算を行なうと図7が得られる。横軸に温度、縦軸に塩化水素の分圧と酸素の分圧の1/12乗の比をとり、水蒸気分圧をパラメータとした時の塩化鉄と酸化鉄の境界をプロットしたものである。加熱処理をすることで塩化鉄安定領域から酸化鉄安定領域へ移行することがわかる。
【実施例】
【0032】
以下、本発明の効果を調べるための実験結果について説明する。
図1で示した装置を用いて暴露試験を行い、燃焼装置における稼動時の状態を再現した後、本発明の腐食抑制方法である加熱処理を行った。その後、試験片を低温の恒温恒湿槽に保持して、装置停止時の状態を再現した後、腐食量を測定した。一方、暴露試験後の試験片をそのまま低温の恒温恒湿槽に保持したものを比較例とした。それぞれの腐食量から、腐食速度を算出した。
暴露試験の試験片温度は、図2において、塩化鉄の生成量が多く著しい潮解腐食が見られた100℃を基準とした。試験排ガスは一般ゴミ焼却の際の平均的排ガス組成(10%O2−20%H2O−10%CO2−1000ppmHCl−50ppmSO2-
N2バランス)を模擬したものとし、温度は200℃とした。暴露時間は50時間である。
【0033】
腐食抑制処理として、暴露試験終了直後のガス雰囲気はそのままで、冷却空気流量を調節して試験片温度を140−200℃の間で固定し、2時間加熱処理を施した。装置停止時の状態を再現するため、恒温恒湿槽にて25℃、湿度80%RHで1週間保持した。暴露試験直後の試験片重量、および恒温恒湿槽で保持した後の試験片重量を測定し、保持試験前後の重量変化を求めた。この重量増加を潮解腐食によるものとして、腐食速度を下式によって算出した。なお、重量増加は酸化鉄(Fe2O3)の形成によるものであると仮定した。
炭素鋼の腐食速度(mm/y)=ΔM÷3MO×2MFe÷ρFe÷S÷t×Yh÷10
ΔM:潮解腐食による重量増加量(g)
O:酸素Oの分子量16.0
Fe:鉄Feの原子量55.85
ρFe:鉄の密度7.87(g/cm3
S:試験片暴露面積(83cm2
t:高温での暴露時間50(時間)
Yh:1年間24×365=8760(時間)
【0034】
図8に結果を示す。横軸に腐食抑制処理における試験片の加熱温度、縦軸に年間換算の腐食速度を示す。図中の加熱温度100℃に示す×印は、加熱処理を行わない場合の腐食速度である。加熱温度が160℃以上では、腐食速度はかなり小さくなり、好適に腐食を抑制できる。一方、160℃に満たない場合、加熱温度が高いほど腐食速度は小さかった。150℃程度の加熱温度の場合、2時間の保持で腐食抑制効果はあるものの、加熱時間を2時間より長くするのが望ましい。また、腐食速度を2.0mm/yとするために必要な最低処理温度は140℃であった。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】暴露試験装置を示す図である。
【図2】潮解腐食現象を明らかにした試験の結果を示す図である。
【図3】本発明の腐食抑制処理を実行するのに好適な廃棄物燃焼装置の構成を示す図である。
【図4】本発明の腐食抑制処理の条件を説明する図である。
【図5】潮解腐食のメカニズムを解明する試験結果を示す図である。
【図6】本発明のメカニズムを説明するための状態図である。
【図7】本発明のメカニズムを説明するための図である。
【図8】本発明の効果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩素を含む廃棄物を燃焼により処理する装置において、該装置の運転を停止する際に、該装置を構成する鉄鋼材料の表面温度が、(1)140℃より低い場合には140℃以上400℃以下となるよう、(2)140℃以上の場合には該温度以上400℃以下となるよう加熱し、30分以上6時間以下の時間保持した後に運転停止することを特徴とする、廃棄物燃焼装置を構成する鉄鋼材料の腐食抑制方法。

【請求項2】
請求項1に記載の腐食抑制方法において、塩素を含む廃棄物の燃焼により前記装置を構成する鉄鋼材料に生成した塩化鉄を、前記加熱保持によって酸化鉄に変えることを特徴とする腐食抑制方法。

【請求項3】
塩素を含む廃棄物を燃焼により処理する装置において、スートブローを行う際に、同時または並行して、該装置を構成する鉄鋼材料の表面温度が、(1)140℃より低い場合には140℃以上400℃以下となるよう、(2)140℃以上の場合には該温度以上400℃以下となるよう加熱し、30分以上2時間以下の時間保持することを特徴とする、廃棄物燃焼装置を構成する鉄鋼材料の腐食抑制方法。

【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載された腐食抑制方法において、前記廃棄物燃焼装置のうち、熱回収媒体を循環させて熱回収を行う箇所では、該熱回収媒体の供給または循環を停止することにより、前記加熱保持を行うことを特徴とする腐食抑制方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−117095(P2010−117095A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−291589(P2008−291589)
【出願日】平成20年11月14日(2008.11.14)
【出願人】(000000239)株式会社荏原製作所 (1,477)
【Fターム(参考)】