説明

腫瘍抗原由来最適化潜在性ペプチドで構成される免疫原性ポリペプチド及びその使用

本発明は、抗癌ワクチンの分野に関する。より具体的には、本発明は、抗癌ワクチンで用いるための、免疫原性が増進された3つの潜在性腫瘍ペプチドを含み、かつアミノ酸配列YLQVNSLQTVYLEYRQVPVYLEEITGYLを含む最適化ポリペプチドに関する。このようなポリペプチドをコードする核酸、並びにこのポリペプチド又はこれをコードする核酸を用いて工学的に作製された複合体及び樹状細胞も、本発明の一部分である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗癌ワクチンの分野に関する。より具体的には、本発明は、抗癌ワクチンで用いるための、免疫原性が増強された3つの潜在性(cryptic)腫瘍ペプチドを含む最適化されたポリペプチドに関する。
【背景技術】
【0002】
抗腫瘍細胞傷害性Tリンパ球(CTL)により標的にされる腫瘍関連抗原が最近同定されたことにより、腫瘍特異的CTLレパトアを刺激することを目的とする癌ワクチンアプローチへの道が開かれた。
【0003】
実験的抗腫瘍ワクチンは、遊離のペプチド、ペプチド又は腫瘍可溶化物が装填された(loaded)樹状細胞、及びDNAを含む多くの形をとる。ペプチドに基づくワクチンは、実行可能性の点で他の形に比べて非常に魅力的であるが、優性(dominant)腫瘍ペプチドを用いた多くの研究が、患者間の多様性が大きいこととともに、わずかな免疫及び臨床応答しか惹起されないことを見出している(Rosenbergら, 2004)。いくつかの因子は、これらの比較的残念な結果を説明し得る。まず、ほとんどの腫瘍抗原は、胸腺を含む正常な組織によっても発現される非変異自己タンパク質である。このことは、潜在的ペプチドよりもむしろ優性ペプチドに関係する(Cibottiら, 1992; Nanda及びSercarz, 1995; Restifo, 2001)腫瘍特異的CTLレパトアの寛容の問題を提起する(Restifo, 2001; Van Pelら, 1995)。実際に、潜在性ペプチドが、優性ペプチドよりも効率的に抗腫瘍免疫を誘導したことが最近示された(Grossら, 2004)。
【0004】
第二に、単一エピトープに基づくアプローチは、1つの抗原に対してのみHLA拘束CTL応答を誘導するが、該抗原は、腫瘍の遺伝子不安定性のために、全ての腫瘍細胞によっては発現されない(Brasseurら, 1995; Lehmannら, 1995)。複数の抗原に対してCTL応答を惹起するアプローチは、いくつかの可能性のある利点を有するであろう。特に、少なくとも1つの標的抗原の発現は細胞毒性を引き起こすのに充分であり、問題の抗原が細胞生存及び腫瘍成長に必須である場合は特に、腫瘍細胞が全ての標的抗原を同時に失う可能性は低い。このアプローチは、強い免疫応答を惹起し得る(Oukkaら, 1996)。
【0005】
最後に、広いスペクトルの癌免疫療法は、多様な腫瘍により過剰発現されるTERT、HER-2/neu、MUC-1、MAGE-Aのような普遍的な腫瘍抗原を標的にするべきである(Minevら, 2000; Ofujiら, 1998; Ogataら, 1992; Reese及びSlamon, 1997; Slamonら, 1987; Van den Eynde及びvan der Bruggen, 1997; Vonderheideら, 1999)。これらの抗原のほとんどは、腫瘍細胞生存及び腫瘍形成性に関係し、免疫応答から逃れるためのそれらのダウンレギュレーションは、よって、腫瘍の成長に有害な影響を与え得る。
【0006】
上記の問題の少なくとも一部分に応答するために、本発明者らは、3つの普遍的腫瘍抗原由来の最適化潜在性ペプチド(TERT988Y、HER-2/neu402Y及びMAGE-A248V9)をいくつかの28アミノ酸ポリペプチドに組み合わせ、得られたポリペプチドが、全ての3つのペプチドに対して同時に免疫応答を誘導する能力について、HLA-A*0201トランスジェニック(HHD)マウスにおいてインビボで、及び健常なヒトドナーにおいてインビトロで評価した。3つのペプチドのそれぞれは、インビボ及びインビトロにおいて抗腫瘍応答を惹起することが、以前に示されている(Grossら, 2004; Scardinoら, 2002)。興味深いことに、MAGE-A248V9により惹起されたCTLは、全てのMAGE-A抗原を標的にした(-A1、-A2、-A3、-A4、-A6、-A10、-A12) (Graff-Duboisら, 2002)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以下に記載するように、本発明者らは、a) TERT988Y、HER-2/neu402Y及びMAGE-A248V9からなるポリペプチドが、3つのペプチドの単純な混合物とは逆に、多特異性CTL応答を惹起すること;b) 該ポリペプチドが多特異性CTL応答を誘導する能力は、その内部の構成に依存することを示している。3つのペプチドの全ての可能な組み合わせに対応する6つの変異型のうち、1つだけが、マウス及びヒトの細胞を用いるほとんど全ての実験において3特異性(trispecific) CTL応答を生み出した。
【課題を解決するための手段】
【0008】
よって、本発明の第1の態様は、配列YLQVNSLQTVX1X2X3YLEYRQVPVX1X2X3YLEEITGYL (配列番号1)を含むポリペプチドである。この配列において、TERT988Y、MAGE-A248V9及びHER-2/neu402Yエピトープは、スペーサーX1X2X3 (式中、X1、X2及びX3は、任意のアミノ酸又は存在しない)により分けられている。ポリペプチドは、よって、少なくとも28アミノ酸長である。その長さは、エピトープ間のスペーサーの付加により、及び/又はそのプロセシングに好ましいそのN-末端及び/又はC-末端の先端(extremities)でのシグナルの付加により、増加し得る。特に、本発明によるポリペプチドは、そのN-末端の先端で小胞体転位(translocating)シグナル配列をさらに含み得る。いくつかの小胞体転位シグナル配列は、科学文献に記載されており、本発明の関係において用い得る。例えば、Igカッパ鎖シグナル配列(Ishiokaら, 1999)、及びE3/19-kDタンパク質シグナル配列(Andersonら, 1991)を、本発明によるペプチドのN-末端の先端に付加し得る。代わりに、又はさらに、本発明によるポリペプチドは、そのC-末端の先端でユビキチンを含み得る。なぜなら、タンパク質のユビキチン化は、タンパク質溶解を増進させるからである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明によるポリペプチドの好ましい実施形態において、X1=X2=X3=存在しない。このことは、3つのエピトープが、互いに直接結合することを意味する。よって、ユビキチンもER転位シグナルも存在しない場合、ポリペプチドは、以下の実施例に示されるPoly-6ポリペプチドであり、その配列はYLQVNSLQTVYLEYRQVPVYLEEITGYL (配列番号2)である。
【0010】
別の実施形態によると、エピトープ間のスペーサーはAAYであり、これは、X1=X2=A及びX3=Yを意味する。
【0011】
本発明のポリペプチドにおいて、アミノ酸は、L-又はD-アミノ酸のいずれかであり得る。
【0012】
本発明によるポリペプチドは、良好な免疫原性を表す以下の特性の一方又は両方を示すことが好ましい。
- それは、該ポリペプチドをワクチン接種されたHHDマウスの大多数において、TERT988Y、MAGE-A248V9及びHER-2/neu402Yに対する3特異性CD8+ T細胞応答を誘導する;
- それは、健常なHLA-A*0201ドナーからのヒトPBMCを用いるインビトロアッセイにおいて、TERT988Y、MAGE-A248V9及びHER-2/neu402Yに対する3特異性CD8+ T細胞応答を誘導する:この3特異性応答は、健常なHLA-A*0201ドナーの大多数、より好ましくは少なくとも70%からのPBMCを用いて得られることが好ましい。
これらの特性は、以下の実験部分に記載されるプロトコル及びアッセイを用いて当業者により容易に試験され得る。
【0013】
本発明の別の目的は、上記のようなポリペプチドをコードする核酸分子である。好ましい実施形態において、核酸分子は、発現ベクターである。「発現ベクター」により、哺乳動物細胞に導入されたときに、該コードされたポリペプチドの発現を可能にする分子を意味する。その目的のために、当業者は、適切な転写プロモーター(例えばCMVプロモーター)、ヒト細胞における発現について最適にされたコドンを有するコーディング配列、適切な転写終結配列、任意にコザックコンセンサス配列などを選択できる。核酸分子は、好ましくは、DNA分子である。
【0014】
本発明の第3の態様は、上記のポリペプチドが装填されたか、又はそのようなポリペプチドをコードする核酸分子が形質導入された単離された樹状細胞である。本発明の関係において、「単離された」とは、該樹状細胞が、患者の体の外部にあることを意味する。細胞は、好ましくは、エクスビボで装填又は形質導入される。例えば、樹状細胞は、Vonderheideらにより記載された技術(Vonderheideら, 2004)によりポリペプチドが装填されるか、又はFiratらにより記載されたプロトコル(Firatら, 2002)を用いて発現ベクターが形質導入され得る。
【0015】
本発明は、ペプチド送達ベクターと上記のポリペプチドとを含む複合体にも関する。本発明に従って用い得るペプチド送達ベクターの例は、細胞浸透性(cell-penetrating)ペプチド、細菌毒素、例えばB. pertussisのアデニル酸シクラーゼ(Fayolleら, 1999)、ジフテリア毒素(Fayolleら, 1999)、炭疽菌毒素(Dolingら, 1999)、シガトキシンのBサブユニット(Haicheurら, 2000)、及びその他のベクター、例えば蜂毒PLA2 (Babonら, 2005)、リポソーム、ウイロソーム(Bungenerら, 2002)などである。
【0016】
本発明による別の種類の複合体は、遺伝子送達ベクターと上記の核酸分子とを含む。非常に広い範囲の遺伝子送達ベクターが今日までに記載されており、当業者は、意図される投与の様式(エクスビボ、腫瘍内、全身など)、標的細胞の型などに応じて選択できる。本発明に従って用い得る遺伝子送達ベクターの限定しない例は、非ウイルスベクター、例えばリポソーム、細胞浸透性ペプチド、ナノ粒子(遺伝子銃投与用の金粒子のような)、細菌(Vassauxら, 2005)、及びウイルスベクター、例えばMVA (Mesedaら, 2005)、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レトロウイルス、レンチウイルスなどであり、これらは、科学文献に豊富に記載されている。
【0017】
本発明は、上記のポリペプチド、及び/又は核酸分子、及び/又は複合体、及び/又は工学的に作製された(engineered)樹状細胞を含む医薬組成物にも関する。特に、本発明によるポリペプチド、核酸分子、複合体及び樹状細胞は、抗癌免疫療法用の免疫原性組成物の製造のために用い得る。これらの組成物は、特に、MAGE-Aファミリー、HERファミリー及びTERTからなる群より選択される少なくとも1つの抗原を発現する腫瘍の免疫療法に、特に、HLA-A*0201個体の治療のために有用である。
【0018】
本発明によるポリペプチド、及び/又は核酸分子、及び/又は複合体を、必要とする患者にインビボで、又は該患者からの細胞にエクスビボで投与する工程を含む、癌のワクチン接種又は治療の方法、並びに上記の工学的に作製された樹状細胞を個体に投与する工程を含むワクチン接種又は治療の方法も、本発明の一部分である。
【0019】
本発明は、以下の図面及び実施例により、さらに説明される。
図面の説明
図1:最適化された潜在性ペプチドにより誘導されたマウスCTLによる、同種天然ペプチドの認識。
CTL系統は、材料及び方法に記載されるように、最適化された潜在性ペプチドに対して免疫されたHHDマウスの脾細胞に由来した。CTL系統を、10/1のリンパ球の標的細胞に対する比で、無関係のペプチド(HIVgag76)又は潜在性天然ペプチドが装填されたRMAS/HHD標的に対する細胞毒性について試験した。
【実施例】
【0020】
実施例1:材料及び方法
1.1. 動物
HLA-A*0201トランスジェニックHHDマウスは、他のところに記載されている(Pascoloら, 1997)。
【0021】
1.2. 細胞
マウスRMAS/HHD細胞は、他のところに記載されている(Pascoloら, 1997)。HLA-A*0201-発現ヒト腫瘍T2細胞は、TAP1/2-欠損である。全ての細胞は、10%ウシ胎児血清(FCS)を補充したRPMI 1640又はDMEM培地で成長させた。
【0022】
1.3. ペプチド
ペプチドは、Epytop (Nimes, France)により合成された。
【0023】
1.4. ペプチド/HLA-A*0201相対的親和性及び安定性の測定
相対的親和性(RA)を測定するのに用いるプロトコルは、他のところに詳細に記載されている(Tourdotら, 2000)。簡単に、T2細胞を、種々のペプチド濃度(0.1〜100μM)で16時間インキュベートし、次いで、mAb BB7.2で標識して、HLA-A*0201発現を定量した。各ペプチド濃度において、HLA-A*0201特異的標識を、100μMで用いた参照ペプチドHIVpol589 (IVGAETFYV)を用いて得られた標識化のパーセンテージとして算出した。相対的親和性は、20%のHLA-A*0201発現を誘導する試験ペプチド濃度を、参照ペプチド濃度で除して計算した。ペプチド/HLA-A*0201複合体安定性を測定するために、T2細胞を、100μMの各ペプチドと、37℃にて一晩インキュベートした。次いで、細胞を、ブレフェルジン(Brefeldin) Aで1時間処置し、洗浄し、37℃にて0、2、4及び6時間インキュベートし、mAb BB7.2で標識した。DC50は、以前に記載されるようにして(Tourdotら, 2000)、HLA-A*0201の50%損失に必要な時間と定義した。
【0024】
1.5. HHDマウスでのCTLの作製
HHDマウスに、100μgのノナマー/デカマーペプチド、及び240μgのフロイント不完全アジュバント(IFA)で乳化したポリペプチド+150μgのI-Ab拘束HBVcore128 Tヘルパーエピトープを皮下注射した。11日後に、免疫したマウスからの脾臓細胞(10 ml中に5×107細胞)を、インビトロにて、RPMI 1640+10% FCS中のペプチド(10μM)で5日間刺激した。CTL系統を、インビトロにて、漸減するペプチド濃度(1〜0.1μM)及び50 U/ml IL-2 (Proleukin, Chiron Corp., Emeryville, CA)の存在下で、照射した脾臓細胞で毎週再刺激することにより確立した。
【0025】
1.6. 細胞毒性アッセイ
マウスRMAS/HHD細胞を、他のところに記載されているようにして(Tourdotら, 1997)、標的として用いた。簡単に、2.5×10351Cr-標識標的を、37℃にて60分間、ペプチドでパルスした。次いで、100μlの培地中のエフェクター細胞を加え、37℃にて4時間インキュベートした。インキュベーションの後に、100μlの上清を回収し、放射活性をγカウンターで測定した。特異的溶解のパーセンテージは、次のようにして決定した:溶解= (実験的放出−自発的放出)/(最大放出−自発的放出)×100。
【0026】
1.7. フローサイトメトリ免疫蛍光分析
テトラマーの標識のために、免疫したマウスの鼠蹊及び大動脈周囲リンパ節(LN)を、15μg/ml PE-結合HLA-A2/TERT988Y、HLA-A2/MAGE-A248V9及びHLA-A2/HER-2/neu402Yテトラマー(Proimmune, Oxford, UK)で、20μlのPBS、2% FCS中の抗Fc受容体抗体(クローン2.4 G2)の存在下に、室温にて1時間染色した。細胞をPBS、2% FCS中で1回洗浄し、次いで、50μlのPBS、2% FCS中の抗CD44-FITC (クローン1M.178)、抗TCRβ-サイクロム(cychrome) (clone H57)、及び抗CD8α-APC (クローン53.6.7) (BD Biosciences, Le Pont de Claix, France)で、4℃にて30分間染色した。細胞を、次いで、PBS、2% FCS中で1回洗浄し、すぐにFACSCalibur (登録商標)フローサイトメータ(Becton Dickinson, San Jose, CA, USA)で分析した。
【0027】
1.8. ヒト末梢血単核細胞(PBMC)からのCD8細胞の作製
PBMCを、健常なHLA-A*0201有志からの白血球除去血輸血により回収した。樹状細胞(DC)を、完全培地(10%熱不活化ヒトAB血清、2μM L-グルタミン及び抗生物質を補充したRPMI 1640)中の500 IU/ml GM-CSF (Leucomax (登録商標), Schering-Plough, Kenilworth, NJ)、及び500 IU/ml IL-4 (R&D Systems, Minneapolis, MN)とともに7日間培養した付着細胞(2×106細胞/ml)から得た。第7日に、DCを10μMペプチド又はポリペプチドで2時間パルスした。100 ng/mlの成熟化剤(maturation agents)ポリI:C (Sigma, Oakville, Canada)、及び2μg/mlの抗-CD40 mAb (クローンG28-5, ATCC, Manassas, VA)を、培養に加え、DCを37℃にて一晩又は48時間までさらにインキュベートした。次いで、成熟DCを照射した(3500ラド)。CD8+細胞を、製造者の指示書に従ってCD8 MicroBeads (Miltenyi Biotec, Auburn, CA)で陽性選択(positive selection)により精製した。CD8+細胞(2×105)+CD8-細胞(6×104)を、1000 IU/ml IL-6及び5 IU/ml IL-12 (R&D Systems, Minneapolis, MN)を補充した完全培地中の2×104個のペプチドでパルスしたDCで、96ウェル丸底プレート中で刺激した。第7日から、培養を、ペプチドを装填したDCで、20 IU/ml IL-2 (Proleukin, Chiron Corp., Emeryville, CA)及び10 ng/ml IL-7 (R&D Systems, Minneapolis, MN)の存在下に、毎週再刺激した。3回目の再刺激の後に、CD8細胞を、IFN-γ放出アッセイにおいて試験した。
【0028】
1.9. 細胞内IFN-γ標識
T細胞(105)を、刺激ペプチドを装填した2×105 T2細胞とともに、20μg/ml ブレフェルジン-A (Sigma, Oakville, Canada)の存在下でインキュベートした。6時間後にこれらを洗浄し、PBS中のr-フィコエリスリンコンジュゲート抗CD8抗体(Caltag Laboratories, Burlingame, CA)で、4℃にて25分間染色し、再び洗浄し、4% PFAで固定した。細胞を、次いで、PBS、0.5% BSA、0.2%サポニン(Sigma, Oakville, Canada)で透過にし、アロフィコシアニンコンジュゲート抗IFNγmAb (PharMingen, Mississauga, Canada)で、4℃にて25分間標識した後に、FACSCalibur (商標)フローサイトメータ(Becton Dickinson, Mountain View, CA)で分析した。
【0029】
実施例2:ポリペプチドの作製に用いたペプチドの免疫原性
3つのペプチドを、ポリペプチドに含めるために選択した。HER-2/neu402Y及びTERT988Yは、低-HLA-A*0201-親和性潜在性ペプチドであるHER-2/neu402及びTERT988の最適化された変異型であり、それら自体は広く発現される腫瘍抗原であるHER-2/neu及びTERTに由来する(Scardinoら, 2002)。これらは、1位において天然ペプチドとは異なり、ここで、天然の残基がYで置き換えられている。この置換は、HLA-A*0201-拘束潜在性ペプチドの親和性を増進させる(Tourdotら, 2000)。MAGE-A248V9は、全てのMAGE-A分子に共通である低-HLA-A*0201-親和性MAGE-A248D9/G9の最適化された変異型である。これは、9位において天然ペプチドとは異なり、ここで、アミノ酸D/Gが主要なアンカー残基Vで置き換えられている。この置換も、HLA-A*0201親和性を増進させる(Graff-Duboisら, 2002)。
【0030】
全ての3つのペプチドは、高いHLA-A*0201結合親和性(RA<5)を示し、安定なHLA/ペプチド複合体を形成した(DC50>2 h) (Graff-Duboisら, 2002; Scardinoら, 2002) (表1)。以前に示されたように、全ての3つのペプチドは、HLA-A*0201トランスジェニックHHDマウスにおいて免疫原性であった(Graff-Duboisら, 2002; Scardinoら, 2002)。より重要なことには、マウスCTL系統は、適切な天然ペプチドが装填されたRMAS/HHD標的を認識して、死滅させた(図1)。
【0031】
【表1】

【0032】
実施例3:ペプチド混合物に対する免疫応答
多特異性CTL応答をインビボで刺激する最も単純な様式は、関係するペプチドの混合物を注射することであろう。よって、本発明者らは、ペプチドHER-2/neu402Y、TERT988Y及びMAGE-A248V9の等モル混合物をワクチン接種したHHDマウスが、多特異性応答をインビボで発生したかを調べた。免疫応答は、特異的テトラマーを用いて、ワクチン接種の7日後に注射部位を排液する(draining)リンパ節中のペプチド特異的CD8 T細胞の頻度を測定することにより評価した。使用前に、各テトラマーは、以前に記載されたようにして(Miconnetら, 2002)、ペプチド特異的CTL系統を用いて確認した。陽性の応答は、テトラマー陽性CD8細胞が6匹のナイーブマウスにおけるテトラマー陽性CD8細胞の平均パーセンテージ+3標準偏差より高いときに記録された(MAGE-A248V9について0.16%、HER-2/neu402Yについて0.13%、及びTERT988Yについて0.16%)。8匹のマウスに、2つの独立した実験においてペプチド混合物をワクチン接種した(表2)。8匹のマウスは、いずれも、全ての3つのペプチドに同時に応答しなかった。3匹のマウスは1つのペプチドに応答し、5匹は2つのペプチドに応答した。MAGE-A248V9に対する応答は、HER-2/neu402Y (4/8匹のマウス)又はTERT988Y (3/8匹のマウス)に対する応答よりも頻度が高かった(6/8匹のマウス)。
【0033】
【表2】

【0034】
ペプチド混合物が3特異性CD8 T細胞応答を刺激できないことを、ヒト細胞を用いてインビトロで確認した。3人のHLA-A*0201ドナーからのPBMCを、MAGE-A248V9、HER-2/neu402Y及びTERT988Yの混合物でインビトロにて刺激し、4サイクルの再刺激の後に、各ペプチドが装填された刺激細胞を認識し、かつそれらにより活性化される能力について試験した。PBMC活性化は、細胞内標識によりIFNγ-産生CD8細胞のパーセンテージを測定することにより評価した。陽性応答は、活性PBMCのパーセンテージが無関係のペプチドを用いて得られるものの少なくとも2倍であるときに記録された。3人のドナーのいずれも、全ての3つのペプチドに対する特異的CD8 T細胞応答を生じなかった(表3)。ドナー#D5725はMAGE-A248V9/HER-2/neu402Yに応答し、ドナー#D7241はHER-2/neu402Yに応答し、ドナー#D7225はMAGE-A248V9/TERT988Yに応答した。
【0035】
【表3】

【0036】
これらの結果は、免疫原性ペプチドの単純な混合物でのワクチン接種が、多特異性応答を生じなかったことを示す。
【0037】
実施例4:ポリペプチド免疫原性
次に、本発明者らは、MAGE-A248V9、HER-2/neu402Y及びTERT988Yで構成されるポリペプチドを用いるワクチン接種が、3特異性CD8 T細胞応答を惹起するかについて調べた。ポリペプチドは、まず、各ペプチドのC-末端位置でのプロセシング、及びHLA-A*0201に対する高い親和性を有する接合ペプチド(junctional peptides)の発生を考慮に入れて最適化した。C-末端位置でのプロセシングは、プロテアソーム切断の2つのオンライン予測モデルを用いて評価した(Netchop: http://www.cbs.dtu.dk/services/NetChop/、PAProc: http://www.uni-tuebingen.de/uni/kxi/) (Kesmirら, 2002; Kuttlerら, 2000; Nussbaumら, 2001)。ペプチドは、その切断が両方のモデルにより予測される場合は、プロセシングされると任意にみなした。新しい接合ペプチドの親和性は、Bimas予測モデル(Parkerら, 1994)を用いて評価した。Poly-1〜Poly-6とよばれる6つのポリペプチド変異型は、全ての可能なペプチドの組み合わせを含んでいた(表4)。6つの変異型のいずれも、予測モデル内の全ての3つのペプチドの切断に関連しなかった(表5)。さらに、Poly-1、Poly-3、Poly-4及びPoly-5は、HLA-A*0201への結合についての高い予測スコアを有する接合ペプチドを生じた(表4)。これらのペプチドの1つ(YLYLQVNSL; Poly-1及び-3)は、ヒト免疫グロブリンの可変重鎖領域に由来する自己ペプチドに匹敵した。
【0038】
【表4】

【0039】
【表5】

【0040】
この予測アプローチは、最も高い理論的効率を有するポリペプチド変異型を同定することができなかったので、インビボ(HHDマウス)及びインビトロ(健常なHLA-A*0201ドナー)において3特異性CD8 T細胞応答を生じる能力について、変異型を実験により試験した。
【0041】
HHDマウスに各ポリペプチドをワクチン接種し、個別のペプチドについて特異的なCD8 T細胞を、特異的テトラマーを用いることにより排液リンパ節で同定した。全ての6つのポリペプチド変異型は、HHDマウスにおいて免疫原性であったが(すなわち、これらは少なくとも1つのペプチドに対して応答を生じた)、応答するマウスの頻度は、それぞれの変異型で変動していた。最も免疫原性である変異型は、Poly-1、Poly-3及びPoly-6であり、それぞれ応答するマウスが100%、87%及び83%であった(表6)。Poly-2、Poly-4及びPoly-5は、ワクチン接種されたマウスのそれぞれ57%、62%及び62%で応答を誘導した。強い応答の頻度(カットオフ値の少なくとも2倍のテトラマー陽性CD8細胞の%;++と表す)は、Poly-6 (全応答の41%)、Poly-3 (全応答の30%)、及びPoly-1 (全応答の25%)を用いた場合に最高であった。応答は、応答するマウスの74%でMAGE-A248V9に、71%でHER-2/neu402Yに、そして55%でTERT988Yに指向されていた。個別のマウスにおける免疫応答の分析は、Poly-6が、ワクチン接種したマウスの67%において3特異性応答を誘導し、Poly-4 (37.5%)、Poly-1 (28.5%)、Poly-5 (25%)及びPoly-3 (12.5%)が続くことを示した。Poly-2は、いずれのマウスにおいても3特異性応答を誘導しなかった。
【0042】
【表6】

表6: 異なるポリペプチドで免疫した個別のマウスにおけるMAGE-A248V9、HER-2/neu402Y及びTERT988Yに対するCD8 T 細胞応答。免疫応答は、ワクチン接種されたマウスの排液リンパ節中のテトラマー陽性CD8 T細胞の%の測定により評価した。「-」: 材料及び方法で定義するように、カットオフ未満のテトラマー陽性CD8 T細胞のパーセンテージ(MAGE-A248v9について0.16%、HER-2/neu402Yについて0.13%、及びTERT988Yについて0.16%)。「+」: カットオフの1〜2倍のパーセンテージ。「++」: カットオフの2倍を超えるパーセンテージ。影をつけた行は、全ての3つのペプチドに応答するマウスに相当する。
【0043】
これらの結果は、ヒト細胞を用いてインビトロで確認された。各ポリペプチド(HHDマウスにおいて免疫原性が非常に弱かったPoly-2以外)は、2〜5人の健常なドナーからの細胞を用いて試験した。インビトロ免疫応答は、特異的ペプチド活性化の後にIFNγを産生するCD8細胞のパーセンテージを測定することにより評価した。全ての5つのポリペプチドは、T細胞を刺激して、ドナーの80%〜100%において少なくとも1つのペプチドに対して応答した。しかし、Poly-6とPoly-1だけが、3特異性CTL応答を誘導した。Poly-1を用いるとドナーの25%でしかなかったのに比較して、Poly-6は、80%のドナーにおいて全ての3つのペプチドに対して応答を誘導した(表7)。Poly-6は、また、最も高い応答を惹起した(ドナー#D7017及び#D7225においてMAGE-A248V9に対して;そしてドナー#D7744においてHER-2/neu402Yに対して)。
【0044】
【表7】

【0045】
まとめると、これらの結果は、Poly-6が、頻度が高くかつ強い3特異性CD8 T細胞応答を、インビボ(HHDマウス)及びインビトロ(ヒトPBMC)の両方において誘導したことを示した。
【0046】
考察
普遍的な腫瘍抗原であるhTERT、HER-2/neu及びMAGE-Aに由来する3つのHLA-A*0201拘束最適化潜在性ペプチドからなるポリペプチドのこの研究は、HLA-A*0201発現トランスジェニックHHDマウス及び健常なヒトドナー細胞の両方において、全ての3つの構成要素ペプチドに対するCTL応答を誘導するPoly-6 (配列番号2)と命名されたポリペプチドを同定した。
【0047】
全ての構成要素ペプチドの適切な切断を理想的には許容し、関係するHLA分子に対する高い親和性を有する新しい接合ペプチドの創出を避けるべきであるという、ポリペプチドの構成(ペプチドの組み合わせ、スペーサーの付加)の影響については広い合意がある。いくつかの研究により、ペプチド間にスペーサーが存在することは、個別のペプチドの切断を促進することによりワクチン効率を増加させることが示されている(Livingstonら, 2002; Veldersら, 2001; Wangら, 2004)。さらに、Ishiokaらは、ポリペプチド内のペプチドの位置がその免疫原性に影響し得ることを見出した。このことは、ポリエピトープの全体的な配置の重要性を強調する(Ishiokaら, 1999)。試験した6つのポリペプチドの組み合わせのうちの1つが非常に免疫原性であり、その他は最小限に効率があったので、今回の結果はこれらの発見を支持している。このことは、最大限の免疫原性を得るためには、ポリペプチドの構成が最適化されなければならないことを示す最初の直接的な証明である。これらの結果は、この最適な構成が、プロテアソーム切断の現在の予測モデルを用いては予測できないことも示す。実際に、6つの候補ポリペプチドのいずれも、他のものより効率的に切断されると予測されなかった。さらに、多特異性応答を惹起できなかったPoly-2は、Bimasモデルシステムにおいて、HLA-A*0201に対して高い親和性を有すると予測される接合ペプチドを生じなかった。
【0048】
本発明者らは、3つのペプチドの混合物を用いるワクチン接種が、多特異性応答の惹起について、ポリペプチドワクチン接種よりもはるかに効率が低かったことも見出した。興味深いことに、ヒトドナーD7225からの細胞は、Poly-6でのエクスビボの刺激の後に全ての3つのペプチドに応答したが、ペプチド混合物での刺激の後にはHER-2/neu402Yにのみ応答した。外因性ペプチドの使用は、外因性ペプチド濃度と同じ速度論でいくつかのペプチド/MHC I複合体が減衰するという問題点を有する(Wangら, 2004)。これらの複合体の短い半減期は、初回抗原刺激効率の著しい損失を導き得る(Gettら, 2003)。対照的に、APCによる長いペプチドの交差提示は、より遅くかつより遅延した速度論でペプチドの内因性の起源を確実にし得る。この長いペプチドの理論は、対応する短いペプチドの使用よりもより免疫原性であることが示されている(Zwavelingら, 2002)。
【0049】
上記に示したように、普遍的腫瘍抗原(HER-2/neu402Y、TERT988Y及びMAGE-1A248V9)に由来する3つの最適化潜在性腫瘍ペプチドからなる配列番号2のPoly-6ポリペプチドは、HLA-A*0201を発現するHHDマウス及びエクスビボでのヒト細胞において多特異性応答を誘導する。このポリペプチドは、がん患者の広いスペクトルの腫瘍ワクチン接種についての可能性を有する。
【0050】
【表8−1】

【0051】
【表8−2】

【0052】
【表8−3】

【0053】
【表8−4】

【0054】
【表8−5】

【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】最適化された潜在性ペプチドにより誘導されたマウスCTLによる、同種天然ペプチドの認識。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列YLQVNSLQTVX1X2X3YLEYRQVPVX1X2X3YLEEITGYL (配列番号1)(ここで、TERT988Y (配列番号8)、MAGE-A248V9 (配列番号9)、及びHER-2/neu402Y (配列番号10)エピトープが、スペーサーX1X2X3 (式中、X1、X2及びX3は任意のアミノ酸であるか、又は存在しない)により分けられている)を含むことを特徴とするポリペプチド。
【請求項2】
そのN-末端の先端に、小胞体転位シグナル配列をさらに含む請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項3】
そのC-末端の先端に、ユビキチンをさらに含む請求項1又は2に記載のポリペプチド。
【請求項4】
X1=X2=X3=存在しない、請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリペプチド。
【請求項5】
X1=X2=Aであり、X3=Yである請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリペプチド。
【請求項6】
前記ポリペプチドをワクチン接種したHHDマウスの大多数において、TERT988Y、MAGE-A248V9、及びHER-2/neu402Yに対する3特異性CD8+ T細胞応答を誘導することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のポリペプチド。
【請求項7】
健常なHLA-A*0201ドナーからのヒトPBMCを用いるインビトロアッセイにおいて、TERT988Y、MAGE-A248V9、及びHER-2/neu402Yに対する3特異性CD8+ T細胞応答を誘導することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のポリペプチド。
【請求項8】
前記3特異性CD8+ T細胞応答が、健常なHLA-A*0201ドナーの大多数、好ましくは少なくとも70%からのPBMCを用いて得られる請求項7に記載のポリペプチド。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のポリペプチドをコードする核酸分子。
【請求項10】
発現ベクターである請求項9に記載の核酸分子。
【請求項11】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のポリペプチドが装填されているか、又は請求項9若しくは10に記載の核酸分子が形質導入された単離された樹状細胞。
【請求項12】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のポリペプチドと、ペプチド送達ベクターとを含む複合体。
【請求項13】
請求項8又は9に記載の核酸分子と、遺伝子送達ベクターとを含む複合体。
【請求項14】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のポリペプチド、及び/又は請求項9若しくは10に記載の核酸分子、及び/又は請求項11に記載の樹状細胞、及び/又は請求項12若しくは13に記載の複合体を含む医薬組成物。
【請求項15】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のポリペプチド、及び/又は請求項9若しくは10に記載の核酸分子、及び/又は請求項11に記載の樹状細胞、及び/又は請求項12若しくは13に記載の複合体の、抗癌免疫療法用の免疫原性組成物の製造のための使用。
【請求項16】
前記組成物が、MAGE-Aファミリー、HERファミリー及びTERTからなる群より選択される少なくとも1つの抗原を発現する腫瘍の免疫療法を意図する請求項15に記載の使用。
【請求項17】
前記組成物が、HLA-A*0201個体を治療することを意図する請求項15又は16に記載の使用。

【図1】
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【公表番号】特表2009−520472(P2009−520472A)
【公表日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−546143(P2008−546143)
【出願日】平成17年12月23日(2005.12.23)
【国際出願番号】PCT/EP2005/014212
【国際公開番号】WO2007/073768
【国際公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【出願人】(507370817)
【氏名又は名称原語表記】VAXON BIOTECH
【住所又は居所原語表記】Genopole,2 rue Gaston Cremieux,F−91057 Evry Cedex,FRANCE
【Fターム(参考)】