説明

腫瘍細胞活性を調節する方法及び組成物

癌細胞の上皮間葉転換に関与するタンパク質であるクラステリンを標的とする抗体が、同定及び特徴づけられる。当該抗体は、クラステリンへの結合を介して腫瘍細胞活性を調節するのに使用されてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クラステリンを結合する抗体、ペプチド及び小分子、並びに腫瘍細胞活性の調節におけるそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
最も一般的なヒト悪性腫瘍である癌腫は、上皮細胞から生じる。上皮癌の進行は、細胞間接触の破壊及び移動性(間葉様)表現型の獲得から始まる。上皮間葉転換(EMT)と呼ばれるこの現象は、後期の腫瘍進行及び腫瘍転移における重大な事象であると考えられる。
【0003】
分泌タンパク質TGF−βは、主として上皮起源の腫瘍細胞に対するその増殖阻害作用により、最初に腫瘍成長を抑制し、次に後期で腫瘍細胞進行及び転移を促進する。TGF−βが腫瘍進行を促進することができる1つのメカニズムはEMTの誘導によるものである。
【0004】
TGF−βが発癌において果たす2重の役割により、TGF−βの直接的な阻害剤が後期腫瘍には役立つかもしれないが、その一方で前癌病変部を促進する可能性があるので、リスクが大きいかもしれない。よりよい治療薬は、TGF−βの腫瘍抑制因子の増殖阻害作用に影響を与えないままである一方、TGF−βの発癌性を支持する(pro-oncogenic)EMTを促進する作用が阻害されるものであり得る。そのような阻害剤を開発するために、経路の1つの支流におけるメディエータがEMT反応に関与するが、TGF−βに対する増殖阻害反応に関与しないように、TGF−βシグナル伝達経路の分岐のある点を同定することが必要だろう。TGF−βシグナル伝達経路のEMTを促進する支流にのみにあるメディエータを阻害する治療薬は、前癌病変部の亢進に対する効果がほとんど又はまったくないが、転移を減少させるだろう。
【0005】
TGF−βのEMT促進作用を促進又は媒介するが、TGF−βの増殖阻害作用に関与しないTGF−βシグナル経路特異的な構成要素は、一般には同定されていない。
【0006】
対照的に、腫瘍抑制作用(増殖阻害)はそのままであるが、TGF−βの腫瘍形成性を支持する(protumorigenic)EMT作用を妨害(促進に対立するものとして)することができる内因性タンパク質(YY1核因子)が同定された(Kurisaki他, 2004)。
【0007】
TGF−βリガンド、TGF−β受容体及びSmadシグナル伝達タンパク質を標的とする阻害剤は既知である。具体的には、可溶性受容体の外部ドメイン、抗体及び他の結合タンパク質は、TGF−βリガンドと相互作用し、それらを細胞表面受容体から遠ざけて隔離することによって、アンタゴニストとして作用することができる。I型TGF−β受容体のキナーゼ活性を阻害する小分子が利用可能であり、Smadシグナル伝達タンパク質の内因性阻害剤もまた既知である。これらのシグナル伝達経路の構成要素のすべてがTGF−βの発癌を支持する作用及び抗発癌作用(pro- and anti-carcinogenic actions)の両方に関与するので、それらを標的とするこれらの阻害剤は後期腫瘍に役立つかもしれないが、前癌病変部を促進する可能性もある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の第1の目的は、TGF−βの腫瘍抑制活性を阻害せずに、腫瘍細胞においてEMTを阻害する方法を同定することである。
【0009】
本発明のさらなる目的は、TGF−βの腫瘍抑制(supressing)活性を阻害せずに、腫瘍細胞においてTGF−β誘導性EMTを阻害し得る分子又は組成物を同定することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の態様は、クラステリンへの薬剤の結合が癌細胞において上皮間葉転換を阻害する、クラステリンへの結合親和性を有する薬剤を提供する。特に、薬剤はクラステリンのβ−サブユニットに結合してもよく、より具体的には、薬剤はクラステリンβ−サブユニットのC末端部分に結合してもよい。薬剤は、例えばモノクローナル抗体又はポリクローナル抗体を含む抗体であってもよい。
【0011】
本発明の第2の態様は、クラステリンへの結合親和性を有する薬剤に細胞を曝露する工程を含む、癌細胞の活性を調節する方法を提供する。
【0012】
本発明のさらなる態様は、配列が配列番号4又はその一部分を含む、クラステリンへの結合親和性を有する薬剤の生成におけるアミノ酸配列の使用を提供する。特にこの配列は、配列番号1、配列番号2、配列番号3、及び配列番号5を含む配列番号4のより短い部分を含んでもよい。
【0013】
本発明のさらなる態様は、癌細胞における上皮間葉転換に関与するクラステリン又はその一部分及び薬学的に許容される担体を含むワクチンを提供する。クラステリンの一部分は配列番号4又はその一部分を含んでもよい。
【0014】
本発明のさらなる態様は、配列が配列番号4又はその一部分を含む、ワクチンの調製におけるアミノ酸配列の使用を提供する。特にこの配列は、配列番号1、配列番号2、配列番号3、及び配列番号5を含む配列番号4のより短い部分を含んでもよい。
【0015】
本発明のさらなる態様は、配列番号1〜配列番号30のうちの少なくとも1つをコードする核酸配列を提供する。
【0016】
本発明のさらなる態様は、クラステリンへの薬剤の結合が癌細胞における上皮間葉転換を阻害する、診断ツールとしてクラステリンへの結合親和性を有する薬剤の使用を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
クラステリンが治療の標的であり、その阻害はTGF−βの抗増殖的な腫瘍抑制作用を妨げずにEMTを妨害することが本明細書において開示される。
【0018】
クラステリンは、トランスクリプトーム解析を使用して、おそらくEMTに関与するタンパク質として最初に同定され、次にクラステリン中の潜在的な結合部位を同定するために分析された。合成ペプチドをそれに応じて作製し、これらのペプチドに対する抗体調製物を作製又は購入した。さらに12個のモノクローナル抗体が、抗原として全長組換えクラステリンを使用して単離された。抗ペプチド抗体調製物及び12個のモノクローナル抗体の両方は、組換えクラステリンに結合することが確認された。抗ペプチドポリクローナル抗体調製物及び12個のモノクローナル抗体のうちの5つはEMTを阻害することが示された。これらの5つの中和モノクローナル抗体が抗ペプチド抗体と同じペプチドエピトープと相互作用することが示された。
【0019】
半定量的RT−PCR、ウェスタンブロット及び免疫蛍光顕微鏡分析を使用して、マイクロアレイ分析によって検出されたEMTに関連する転写の変化のいくつかが、メッセージ(message)及びタンパク質の存在量の変化に反映されていたことが確認された(クラステリン及びカベオリンは図3に示される)。抗ペプチド抗体は、クラステリンがTGF−βの増殖阻害経路に関与しない必須のEMTメディエータであることを実証するために使用された(図4〜図6)。これらの結果は、クラステリンが接近可能な治療の標的であり、その阻害がTGF−βの抗増殖的な腫瘍抑制作用を妨げずにEMTをブロックすることを示す。
【0020】
EMTを阻害する薬剤の生成に重要なクラステリン中のエピトープは、中和アッセイにおいて抗ペプチド抗体調製物を使用して解明された。クラステリンβサブユニットのC末端部に対応する合成ペプチドに対して製造された2つの異なる市販のポリクローナル抗体調製物が使用された。第1の抗体(RDI Research Diagnostics Inc.製)は、クラステリンのアミノ酸421〜437(VEVSRKNPKFMETVAEK、配列番号1)に対応する合成ペプチドに対して製造され(RDIと名付けられる)、第2の抗体(Santa Cruz Biotechnology Inc.製)は、クラステリンのアミノ酸432〜443(ETVAEKALQEYR、配列番号2)に対応する合成ペプチドに対して製造された(C−18と名付けられる)。同じペプチド(配列番号2)に対する抗ペプチドモノクローナル抗体も購入した(B5と名付けられる)。これらの2つのエピトープの間の重複は以下で示される。これらの抗体調製物がEMTをブロックする能力は、EMTの誘導におけるクラステリンβサブユニットのC末端部分の重要性を示す(図4〜図6、C−18の結果が示され、同じような結果がRDIで得られた)。
【0021】
【化1】

【0022】
構造的なバイオインフォマティクスに基づいたクラステリン中の推定上の機能的なサブドメインの予測
一般に、クラステリンはモルテングロビュール断片を含み、部分的にのみ構造化されるタンパク質であると考えられる。さらに、それは本質的に無秩序なタンパク質として分類されている。クラステリンは多数の他の結合パートナーと相互作用することができるいくつかの独立したクラスの結合部位を含むことが想定される。
【0023】
クラステリンの配列はバイオインフォマティクスプログラム、すなわち
PredictProtein(Rost, 1996)、
GenTHREADER(Jones, 1999)、
COILS(Lupas, 1996)、
PONDR(Li他, 1999)
を使用して試験した。
【0024】
β−サブユニットのC末端断片が推定上の結合領域として同定された。第2のコイルドコイル領域後に始まる断片(アミノ酸375〜449、配列番号4)は、おそらく折畳まれないが、β−シート形成についてはある程度の傾向がある。
【0025】
市販の抗体1調製物(RDI)に類似するBRIでポリクローナル抗体調製物を生成するために、クラステリンのアミノ酸421〜437に対応する合成ペプチドが作製された(これらの新しいポリクローナル抗体調製物はpAb#9及びpAb#10と名付けられる)。さらに、全長ヒトクラステリンが293細胞において発現され、全長ヒトクラステリンに対するモノクローナル抗体を生成させる抗原として使用するために精製した。12個のモノクローナル抗体が全長のクラステリンに対して作製され、ELISAによってクラステリンと相互作用することが実証された。これらの12個の抗体は、6E12、7B7、21B12、20G3、20E11、18F4、16C11、16B5、11E2、8F6、7D6、7C12と命名される。
【0026】
アミノ酸421〜437のエピトープに対して作製されたポリクローナル抗体調製物(pAb#9及びpAb#10)は、EMTを阻害することが確認された(図8)。
【0027】
全長ヒトクラステリンに対して作製された12個のモノクローナル抗体調製物はすべて、クラステリンを免疫沈降させるそれらの能力によって証明されるように、組換えヒトクラステリンと相互作用することが確認された(図9A)。12個のモノクローナル抗体のうちの5つは、黒インク細胞運動性アッセイ(図9B)及び創傷治癒細胞運動性アッセイ(図示せず)においてクラステリンのEMT促進作用を中和することができることが示された。中和する5つのモノクローナル抗体は、11E2、21B12、20E11、16C11、16B5である。
【0028】
2つの表面プラズモン共鳴(SPR)に基づいたバイオセンサーエピトープマッピングアッセイ(図10)は、全長クラステリンを使用して作製された5つの中和モノクローナル抗体が、抗ペプチド抗体調製物と同じクラステリンペプチドエピトープと相互作用したか否かを決定するのに使用された。
【0029】
使用された2つのアプローチは以下のように記述される:
1)モノクローナル抗体(antibodes)は、ラビット抗マウスFc抗体が共有結合で固定されたCM5センサーチップ表面に別々に捕捉された(捕捉された場合、このmAbはこの実験的なアプローチにおいてmAb1と名付けられる)。次にmAb1にクラステリンを結合させた。次に、5つのモノクローナル抗体はすべて、mAb1及びmAb2の両方がクラステリンと同時に相互作用することができるか否かを決定するために、mAb1に結合したクラステリンの上に連続して注入された(注入されたmAbはこの実験的なアプローチにおいてmAb2と名付けられる)(図11)。すべての5つの中和mAb(いくつかの場合における20E11を除く)は、互いにクラステリンへの結合を競合する(mAb1又はmAb2の両方として使用された場合)ことが見出された。さらにそれらの抗体は、C18、pAb#10及びB5抗ペプチド抗体と競合することが見出され、5つの中和mAbがpAb#10、pAbC18及びmAb B5の重複ペプチドエピトープと相互作用することを示唆する。Ab 20E11は、いくつかの場合において(mAb1又はmAb2のいずれかとして使用された場合)、異なるエピトープを有すると思われたが、この結論は第2の実験的なアプローチの結果によって支持されなかったことは留意されるべきである。
2)モノクローナル抗体は、別々にアミンカップリングを使用して、CM5センサーチップ表面に共有結合で固定された(固定されたとき、このmAbはこの実験的なアプローチにおいてmAb1と名付けられる)。次に、クラステリンへの結合についての競合を実証するために、Ab(このアプローチにおいてAb2名付けられる)は、mAb1表面上への複合体の注入に先立ってクラステリンと共にインキュベートされた(図11)。すべての5つの中和mAbが、クラステリンへの結合に関して互いに、並びにC18抗ペプチド抗体、pAb#10抗ペプチド抗体及びB5抗ペプチド抗体と競合したことが確認された。これにより、5つの中和mAbがpAb#10、pAbC18及びmAb B5の重複ペプチドエピトープと相互作用することが確認される。
【0030】
12個のすべてモノクローナルAbの超可変相補性決定領域(CDR)がシークエンシングされた。哺乳類の軽鎖Ig及び重鎖IgはCDRに隣接する保存領域を含んでおり、CDRは適切に設計されたオリゴヌクレオチドプライマーセットの使用によって、PCRを用いて特異的に増幅することができた(図12)。次に、これらの産物は直接シークエンシングされた(配列番号8〜配列番号30、図13を参照)。
【0031】
5つの中和モノクローナル抗体のうちの4つのCDR配列(11E2、21B12、20E11、16C11)をアライメントさせることによって、これらの抗クラステリン抗体のVH CDR1及びVH CDR2についてのコンセンサス配列を決定することができた(図14を参照)。以下のコンセンサス配列が決定された:CDR−1:G−Y−S/T−F−T−X−Y−X(配列番号6)及びCDR−2:I−N/D−P/T−Y/E−X−G−X−P/T(配列番号7)。
【0032】
本明細書において明らかにされたクラステリンのエピトープと相互作用する抗体又はペプチドは、治療薬として適用されてもよく、すなわちそれらは、クラステリンのEMT促進活性を中和するそれらの固有の能力によりそれら自体で、治療薬として作用することができる。さらに、これらの抗体及びペプチドは、分泌されたクラステリンとのそれらの相互作用を通して、腫瘍細胞の近辺への抗腫瘍活性を有する、毒素、自殺遺伝子又は他の薬剤を標的とするそれらの能力により、治療薬として使用され得る。
【0033】
本明細書において明らかにされたクラステリンのエピトープと相互作用する小分子も、クラステリンのEMT促進活性をブロックすることによって治療薬として作用し得る。クラステリンのすべての活性を除去する他の薬剤(すなわちアンチセンス薬剤又はRNAi薬剤)と比較して、このクラステリンエピトープの相互作用によってそれらの治療活性を発揮するこれらの抗体、ペプチド及び小分子は、このエピトープがブロックされる場合、クラステリンのEMT活性が中和されているが、クラステリンの他の活性が損なわれない可能性があるので、より少ない毒性又は副作用を示し得る。
【0034】
本明細書において明らかにされたクラステリンのエピトープと相互作用する抗体及びペプチドの他の用途は、1)非画像診断(すなわちそれらは、癌における診断及び予後の用途のために、バイオマーカーとしてクラステリンを接近可能な体液又は組織/腫瘍サンプル中に検出してもよい)及び2)画像診断(すなわちそれらは、分泌されたクラステリンとの相互作用により、in vivoにおける画像化用の腫瘍に対する造影剤の標的化に使用されてもよい)であり得る。
【0035】
本明細書において同定された重鎖配列及び軽鎖配列を含む抗体、本明細書において同定されたCDR(相補性決定領域)を含む抗体(図13)、及びコンセンサス配列を含む抗体(図14)が、上述の目的に役立つと予想される。
【0036】
クラステリン自体、又は上で論じられた抗体及びペプチドによって認識されるエピトープを含むその一部分は、ワクチンとして使用されてもよい。好ましくは、クラステリンは薬学的に許容される担体と組み合わせる必要がある。クラステリン又はクラステリンのエピトープ含有部分もワクチンの生成に使用されてもよい。同様に、配列番号4又は本明細書において同定されたクラステリンエピトープと少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列も、それらが本明細書において同定された特異的配列に対して同様の機能性を有すると思われるので、有用である。
【0037】
細胞培養、抗体及び薬剤
記述されるように、BRI−JM01細胞は単離され特徴づけられた(Lenferink他, Breast Cancer Res., 6, R514-30 (2004))。細胞を加湿された5%CO環境中で37℃で維持し、且つDF/5% FBS(5%のウシ胎仔血清(FBS)及び抗生物質/抗真菌剤(anti-micotics)(共にWisent Inc.)を添加したハムF12及びダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)の1:1混合物)中で維持した。ヒト組換えTGF−β1及びpan−TGF−β中和抗体1D11は、製造業者の説明書(R&D Systems)に従って再構成された。精製ヒト血清クラステリンは、MR Wilson博士によって快く提供された(Wilson and Easterbrook-Smith, 1992)。精製ヒト組換えクラステリンは、HEK−293細胞において産生された(Durocher他, 2002中で記述される一般的な発現系)。以下のタンパク質に対する抗体を購入し、示された容積/容積希釈で使用した:E−カドヘリン(E−cad、抗ウボモルリンクローンDecma−1、Sigma)、閉鎖帯−1(ZO−1、Chemicon))、ヒトクラステリンβ鎖のC末端に対して作製されたポリクローナル抗体(cluβ、RDI及びSanta Cruz)、及びカベオリン−1(cav−1、Santa Cruz)。ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)結合抗体はJackson ImmunoResearch Laboratories Incから得られ、アレクサ−488(Alexa-488)標識抗体及びテキサスレッド標識ファロイジンはMolecular Probesから購入された。すべての実験は、DF/5%中で75〜80%コンフルエントのBRI−JM01細胞の単層で行なわれた。指示された場合には、細胞は、それぞれ100pM又は200nMの最終濃度のTGF−β1又は精製クラステリンにより24時間又は48時間処理された。
【0038】
RNAの単離及び標識
BRI−JM01細胞の単層を、TGF−β1非存在下又は存在下において30分間、1時間、2時間、4時間、6時間、12時間又は24時間増殖させた。PolyA+mRNAは、FastTrack(商標)2.0キット(Invitrogen)を使用して、製造業者の説明書に従って抽出された(1時点当たり4×150mmディッシュ)。RNAは、Schade他, 2004に従って単離及び標識された。
【0039】
ハイブリダイゼーション及びデータ分析
cDNAマイクロアレイ(15,264配列が確認されたマウスEST、http://lgsun.grc.nia.nih.gov/cDNA/15k.html)はトロントの大学ヘルスネットワークマイクロアレイセンター(University Health Network Microarray Center in Toronto)(http://www.microarrays.ca/)から得られた。スライドは、記述されるようにCy3又はCy5で標識されたcDNAとハイブリダイズされ(Enjalbert他, 2003)、10ミクロンの解像度でScanArray 5000(Perkin Elmer、v2.11)を使用してスキャンし、16ビットTIFFファイルがQuantArrayソフトウェア(Perkin Elmer、v3.0)を使用して定量化された。記述されるように、マイクロアレイのデータ正規化及び分析が実行された(Enjalbert他, 2003)。
【0040】
ノーザンブロット及び半定量RT−PCR(SQ−RT−PCR)アッセイ
SQ−RT−PCRのために、3〜5μgの全RNAは、修飾をともなう製造業者のガイドラインに従って、50UのSuperScript II(Invitrogen)を使用して、20μlのファーストストランドRT−PCR反応中で増幅された。サンプルをSuperScript IIの追加前にプレインキュベートし(2分、42℃)、RNaseOUT処理は省略した。サンプルをインキュベートし(90分、42℃)、次に氷上で冷却した。2μlのファーストストランド反応物は、50μlの最終容積中でPCRミックス(2.5UのTaqポリメラーゼ(New England Biolabs)、10μMのフォワード/リバースプライマー)に添加され、PCR増幅に先立って加熱された(2分、94℃)。ノーザンブロット及びSQ−RT−PCRに使用されたプローブの生成のためのプライマーは、表1において列記される。
【0041】
ウェスタンブロット解析
35mmのディッシュ中で増殖させたBRI−JM01細胞を、TGF−β1により処理した(24時間)。細胞は熱した2%のSDS中で溶解した。50μgの総タンパク質又は30μlの馴化培地を、還元条件下でSDS−PAGE(10%)によって分離した。タンパク質はニトロセルロース膜に転写され、膜は5%の脱脂粉乳を含むTBS−T(20mM Tris−HCl(pH 7.6)、137mM NaCl、0.1%のTween20(容積/容積))中で一次抗体(cluβ、cav−1、1/500)によりインキュベートされた(一晩、4℃)。膜をTBS−Tにより洗浄し、TBS−T+5%ミルク(milk)中のHRP結合二次抗体(1/20,000)によりインキュベートし(1時間)、TBS−Tにより洗浄した。免疫反応性のバンドは、増強化学発光(Enhanced Chemiluminescence)(ECL、Perkin Elmer)を使用して可視化された。
【0042】
免疫蛍光顕微鏡検査法
BRI−JM01細胞を、ガラスチャンバースライド(Lab-Tek)に播種し、cluβ抗体(8μg/ml)又は1D11(100nM)の存在下又は非存在下でプレインキュベートした(30分)精製クラステリン又はTGF−β1で処理した。処理していないBRI−JM01細胞及びTGF−β1処理したBRI−JM01細胞(24時間)から得られた馴化培地を、処理していないBRI−JM01細胞とのインキュベートに先立って、これらの抗体でプレインキュベートした(30分)。24時間の曝露後に、細胞を4%パラホルムアルデヒドで固定し(10分)、2度すすぎ(PBS)、透過性にし(2分、PBS中の0.2%トリトンX−100)、再びすすぎ、及び非特異的部位をPBS中の10%FBSでブロックした(40分)。細胞をパラホルムアルデヒドで固定し、次にPBS/10% FBS中の一次抗体(E−cad、1/200、ZO−1、1/100、cluβ、cav−1、1/50)でインキュベートし(1時間)、すすぎ(PBS中で4回)、蛍光的に結合した二次抗体(Molecular Probes)で最終的にインキュベートした。同時にF−アクチンフィラメントを、テキサスレッド標識ファロイジン(1/100)で標識し、核を0.4μg/ml 4,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI、Sigma)で対比染色した。スライドをすすぎ(PBS)、プロロングアンチフェード(Prolong anti-fade)(Molecular Probes)を使用してマウントした。蛍光画像は、Leitzのアリストプラン(Aristoplan)顕微鏡に取り付けたPrinceton InstrumentのクールスナップCCDデジタルカメラを使用して撮影し、エクリプス(Eclipse)(Empix Imaging Inc.)及びフォトショップ(Photoshop)(Adobe)ソフトウェアを使用して分析した。
【0043】
細胞増殖アッセイ
BRI−JM01細胞(2.5×10細胞/ウェル)は24ウェルプレート中に播種した。翌日培地を交換し、精製クラステリン、TGF−β1、又は1D11抗体(100nM)若しくはcluβ抗体(8μg/ml)により30分間プレインキュベートしたTGF−β1を細胞に添加した。24時間後に、細胞を0.5μCi/mlの[H]チミジン(Amersham)によりパルス標識し、すすぎ(PBS、4℃)、トリプシン処理し、[H]チミジン取り込みを液体シンチレーションカウンタによって評価した。
【0044】
細胞運動性アッセイ
細胞(2×10細胞/ウェル)を、TGF−β1、TGF−β1+cluβ抗体、又は精製クラステリンの非存在下又は存在下において、Al-Moustafa他(1999)に記載のインクをコートした12ウェルプレート中に播種した。画像をLeitzのアリストプラン顕微鏡に取り付けた株式会社ニコンのクールピクス995(Coolpix 995)デジタルカメラを使用して24時間後に撮影し、粒子の無い軌跡をImageJフリーウェア(http://rsb.info.nih.gov/ij/)を使用して定量化した。
【0045】
黒インク運動性アッセイ
細胞(2×10細胞/ウェル)を、TGF−β1、TGF−β1+cluβ抗体、又は精製クラステリンの非存在下又は存在下において、Al-Moustafa他(1999)に記載のインクをコートした12ウェルプレート中に播種した。画像をLeitzのアリストプラン顕微鏡に取り付けた株式会社ニコンのクールピクス995デジタルカメラを使用して24時間後に撮影し、粒子の無い軌跡をImageJフリーウェア(http://rsb.info.nih.gov/ij/)を使用して定量化した。
【0046】
創傷治癒運動性アッセイ
コンフルエント細胞単層(12ウェルプレート)を2μLピペットチップを使用して「傷つけた」。次に培地を細胞残屑を除去するために交換し、抗クラステリンmAb(4μg/mLの最終濃度)を、100pMのTGF−βの非存在下又は存在下において添加した。創傷の画像は、Leitzのアリストプラン顕微鏡に取り付けた株式会社ニコンのクールピクス995デジタルカメラを使用して、インキュベート前に、及び24時間のインキュベート後に撮影された。
【0047】
ポリクローナル抗体産生
ペプチド(クラステリンタンパク質のうちのアミノ酸421〜437)は、カルガリー大学(University of Calgary)(http://peplab.myweb.med.ucalgary.ca/)で産生及び精製された。表面プラズモン共鳴(SPR、ビアコア(Biacore)(商標)2000)によるウサギ抗血清のスクリーニングに使用されたCM−5センサーチップの表面に対する配向結合を容易にするために、余剰のシステインをペプチドのC末端に追加した。ペプチドは、グルタルアルデヒド(Sigma)又は1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドHCL(Pierce)のいずれかを使用して、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH、イムジェクト・マリカルチャー(Imject Mariculture) KLH、Pierce)に結合され、PBSに対して透析された(4℃で一晩)。2つの方法によって結合したペプチド調製物を混合した(1:1)。免疫前血清を2羽のメスのニュージーランドホワイトウサギ(10ml)から採取し、次にKLH結合ペプチド調製物(1脚当たり1.25μgペプチド/0.5mlフロインド不完全アジュバント又はPBS)を注射した。動物は3週ごとに追加免疫し(1脚当たり1.25μgのペプチド/0.5mlフロインド不完全アジュバント又はPBS)、血清を各追加免疫後10日ごとに採取し(6ml/kg)、抗体価が増加しなくなった時点で動物を安楽死させ放血させた。
【0048】
血清をSPRを使用して、抗体活性について検査した。このために、ペプチドはチオール結合方法(製造業者によって記述されたように)を使用して、CM−5センサーチップ(Biacore Inc.)に結合し、免疫前血清、抗体含有血清及び市販の抗クラステリン抗体(Santa Cruz)の希釈物(1/50)を、ペプチド表面上に流した。
【0049】
モノクローナル抗体産生
4匹のBALB/cマウスに、タイターマックス(TiterMax)アジュバント(Pierce)中で乳化した35μgの精製ヒトクラステリンを皮下(s.c.)及び腹腔内(i.p.)に注射した。3週後に動物をi.p.で再注射し、血清力価を10日後に評価した。10週後に、反応の良いマウスは、i.p.注射(50μg精製クラステリン)によって追加免疫し、3日後に犠牲にした。脾臓細胞を採取し、NS0ミエローマ細胞と融合し、直ちに20%FBS、100μMヒポキサンチン、0.4μMアミノプテリン及び16μMチミジン(HAT培地)、マウスIL−6(1ng/ml)、ペニシリン(50U/ml)及びストレプトマイシン(50μg/ml)を添加したイスコフ培地中で平板培養した(96ウェルマイクロプレート中に5×10細胞/ウェル、Costar)。上清(融合後10〜20日)を、酵素免疫測定法(ELISA)によって、固定化した精製クラステリンに対する抗クラステリン活性について検査した。抗体産生細胞をクローニングし、抗クラステリン活性に対して2度再検査した。13個の抗クラステリン抗体を産生するクローンを生成し、凍結されたストックを調製し、大規模抗体産生を開始した。
SPRに基づいたバイオセンサ(Biacore)エピトープマッピング
【0050】
アプローチ1:
●ランニングバッファー:
○HBS(20mM Hepes(pH7.4)、150mM NaCl、3.4mM EDTA、0.005%Tween20)
○実験はすべて5μL/分で実行された。
●抗マウスFc免疫グロブリンの標準的アミンカップリング:
○0.05M NHS及び0.2M EDCの混合物の35μLを注入する。
○適切な量が捕捉されるまで、30μg/mLの濃度で10mM NaAc、pH5.0中で希釈された抗体を注入する。
○35μLの1Mエタノールアミン−HCL、pH8.5を注入する。
●エピトープマッピング:
○25μg/mL又は50μg/mLの濃度でmAb1の25μLを注入する。
○IgG1、IgG2a、IgG2b及びIgG3の混合物の25μLを、25μg/mLの濃度で各々注入する。
○30μg/mLの濃度でヒト組換えクラステリンの25μLを注入する。
○25μg/mL又は50μg/mLの濃度で25μLのmAb2を注入する。
●対照:
○各組の抗体に対し、mAb2の非特異的な結合は、エピトープマッピングの項において記述されている注入すべての繰り返しであるが、クラステリンの代わりにランニングバッファーを注入することによって決定された。
○対照においてmAb2注入の終了20秒後に得られた反応(RU)は、クラステリンの存在下において得られた反応から差引かれた。
●表面の再生:
○各サイクルの終わりで、10μLの20mMグリシンpH1.7、続いて10μLの100mM HClを注入する。
【0051】
アプローチ2:
●ランニングバッファー:
○HBS(20mM Hepes(pH7.4)、150mM NaCl、3.4mM EDTA、0.005%Tween20)
●抗体の標準的アミンカップリング:
○0.05M NHS及び0.2M EDCの混合物の35μLを注入する。
○適切な量が捕捉されるまで、20〜80μg/mLにわたる(raging)濃度で10mM NaAc(pH4.5又はpH5.0)中で希釈された抗体を注入する。
○35μLの1Mエタノールアミン−HCl、pH8.5を注入する。
●対照表面の調製
○0.05MのNHS及び0.2MのEDCの混合物の35μLを注入する。
○35μLの1Mエタノールアミン−HCl、pH8.5を注入する。
●競合
○50nMのヒト組換えクラステリンをPBS(Mg++及びCa++無し)中で250nM又は500nMの抗体と混合する。
○抗体単独のチューブを準備する。
○25μLのクラステリン単独、抗体単独、又は抗体表面及び対照表面の上に抗体とプレインキュベートされたクラステリンを、5μL/分のフローで注入する。
○抗体とプレインキュベートされたクラステリンに対して得られた反応から、同じ抗体単独の溶液に対して得られた反応を引く。
○抗体とプレインキュベートされたクラステリンに対して得られた反応を、クラステリン単独に対して得られた反応で割ることによって、%結合阻害を算出する。
●再生溶液
○各サイクルの終わりで、20μL/分の流量で10mM HClの10μLを注入する。
【0052】
免疫沈降
50ng又は100ngの様々なモノクローナル抗体又はポリクローナル抗体調製物(C18)を、20μLのプロテインGスラッシュ(PBS中で1:1)と4℃で一晩インキュベートした。次に500ngのヒト組換えクラステリンを添加し、混合物を4℃でさらに2時間インキュベートした。免疫複合体を、1mLのバッファー(150nM NaCl、50mMトリス(pH 8.0)、0.55%NP−40、50mMフッ化Na)により3回洗浄し、20μLの還元サンプルバッファーを添加した。サンプルを12%SDS−PAGEに載せる前に5分間煮沸した。次に分離されたタンパク質をニトロセルロース膜に転写し、膜は記述されたような抗クラステリン抗体によりプロービングされた(were probed)。
【0053】
モノクローナル抗体の可変領域のシークエンシング
全RNAは12個のハイブリドーマから単離され、ファーストストランドcDNAは逆転写酵素及びIg−3定常領域プライマーにより調製され、その後適切なIg−5’プライマーにより増幅された。KODホットスタートDNAポリメラーゼと併用して使用されるこれらのプライマーセットは、軽鎖及び重鎖cDNAの可変領域を特異的に増幅する。PCR産物は、NovagenのpSTBlue−1のパーフェクトリー・ブラント(Perfectly Blunt)(商標)クローニングキットにより直接クローニングするか、又はシングルdA(Single dA)(商標)テーリングキットにより処理し、pSTBlue−1 AccepTor(商標)ベクターへクローニングすることができる。詳細については、図13を参照。
【0054】
【表1】

【0055】
参照の包含は、本明細書において開示されたものすべての特許性に関連する承認及び提案のどちらでもない。
【0056】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】TGF−βは、JM01細胞における上皮間葉転換(EMT)を誘導する。(A)この転換は、伸長した形態、マーカーのE−カドヘリン(E−cad)、β−カテニン(β−Cat)及びF−アクチンの再局在化並びにマーカーの閉鎖帯−1(ZO−1)のダウンレギュレーションによって特徴づけられる。(B)この形態変化には、「引っ掻いた(scratch:スクラッチ)」領域へ移動する細胞の能力がTGF−βの非存在下又は存在下でモニタリングされる創傷治癒のアッセイに示されるような細胞運動性の増大が伴う。(C)相補的な黒インク運動性アッセイも、TGF−βの非存在下又は存在下における個々のJM01細胞の運動性を可視化及び定量するのに使用された。プラスチックをコートする黒インクは移動細胞に付着し、それによって白色の軌跡を生じさせる。両方のアッセイは、TGF−βの存在がJM01細胞の運動性を増大させることを示す。
【図2】マイクロアレイ技術を使用する、TGF−β誘導性の遺伝子発現変化の分析。(A)転換の初期段階(0.5時間、1時間)、転換の中期段階(2時間、4時間、6時間)又は転換の後期段階(12時間、24時間)の間に調節される328個の遺伝子を同定させる、JM01細胞EMTのTGF−βによる誘導の間の7時点(0.5時間、1時間、2時間、4時間、6時間、12時間、及び24時間)から得られたマイクロアレイデータの広範囲の分析。(B)これらの遺伝子のうちの5つのみが時間経過の全体にわたって影響される。(C)本発明者らの遺伝子リストを、NCI−60細胞株パネル(これらの細胞株のうちのいくつかは間葉の表現型を示す)の基礎遺伝子発現プロファイルに対するデータ、及び臨床的なサンプルからの発現プロファイリングデータと比較することによって、間葉腫瘍細胞表現型及び臨床的な腫瘍進行に関連する、リストから15個の遺伝子を同定した。
【図3】選択された遺伝子発現及びタンパク質レベルのTGF−β調節の検証。(A)半定量的PCRにより、TGF−β誘導性のクラステリンのアップレギュレーション及びカベオリン−1のダウンレギュレーションを確認し、それによってマイクロアレイ分析を検証した(PCR結果の下に示されたマイクロアレイデータ)。(B)TGF−βにより24時間処理されたJM01細胞の全細胞溶解物のウェスタンブロット解析により、これらの転写の変化が、クラステリン(p−clu=プレクラステリン、s−clu=分泌された成熟クラステリン)タンパク質レベルの増加及びカベオリン−1(Cav−1)タンパク質レベルの減少をもたらすことが実証された。(C)TGF−βにより24時間処理されたJM01細胞の免疫蛍光顕微鏡検査により、未処理細胞中のクラステリンタンパク質及びカベオリン−1タンパク質の視覚化を通して、クラステリンタンパク質レベル及びカベオリン−1タンパク質レベルの変化がさらに確認された。核は青く染色され、カベオリン−1及びクラステリンは緑に染色され、F−アクチン線維は赤く染色される。
【図4】TGF−β誘導性EMTのメディエータとして分泌されたクラステリンの同定。(A)免疫蛍光顕微鏡検査は、クラステリンがJM01細胞の分泌経路に局在化することを示し、馴化培地(CM)のウェスタンブロット解析は、クラステリンが分泌される(s−clu)ことを示した。(B、C)JM01細胞は、クラステリンβ鎖のC末端に対して作製された抗体(抗clu)の非存在下又は存在下で、TGF−β、又はTGF−βで処理されたJM01細胞から得られたCMにより24時間処理された。EMTのマーカーとしてZO−1の免疫蛍光顕微鏡法を使用して、クラステリン抗体がTGF−β及びCMによるEMTの誘導の両方をブロックすることが明らかにされ、分泌されたクラステリンがTGF−β EMT経路の必要なメディエータであることが示された。精製されたクラステリン単独でも、EMTを促進することが明らかにされ、クラステリンはEMT誘導の必要条件であるだけではなく、十分条件であることが示された。(D)クラステリン単独によるEMTの誘導は、上皮マーカーのE−カドヘリンのFACSアッセイを使用してEMTをモニタリングすることによって、さらに確認された。
【図5】クラステリンはJM01細胞以外の細胞株でEMTメディエータとして作用することを示した図である。4T1腫瘍細胞(乳房)及びDU145腫瘍細胞(前立腺)は、TGF−β刺激のない状態においてクラステリンを分泌し、運動性表現型を示すことが観察された。創傷治癒アッセイを使用して4T1細胞及びDU145細胞の運動性をモニタリングすることにより、クラステリン抗体(抗clu)がこれらの細胞の運動性を阻害することが観察され、クラステリンがこれらの細胞のTGF−β非依存性の間葉表現型の維持に重要であることが示された。
【図6】クラステリンは、TGF−βによる増殖阻害をもたらす経路においてではなく、EMTのTGF−βによる誘導をもたらす経路において極めて重要なメディエータである。(A)黒インク運動性アッセイを使用してJM01細胞のEMTをモニタリングすることにより、クラステリン抗体がTGF−β誘導性EMTをブロックすること、及びクラステリン単独でEMTを促進することが確認された。(B)この結果は、1個の細胞当たりのインクの取り除かれた領域として運動性変化を定量することによってさらに確認された。(C)対照的に、トリチウム標識チミジンの取り込みによってモニタリングされるように、クラステリン抗体がTGF−βに誘導された増殖阻害をブロックせず、クラステリンが単独で増殖阻害を促進しないことが明らかにされ、クラステリンはTGF−βの増殖阻害経路においてはメディエータではないことが示された。
【図7】クラステリンは、TGF−βにより腫瘍を抑制する経路においてではなく、TGF−βにより腫瘍を促進する経路において不可欠なメディエータである。TGF−βはクラステリンの分泌を誘導し、クラステリンβ鎖のC末端に対して作製された抗体は、TGF−βに対する細胞の増殖阻害反応ではなく、TGF−β1誘導性EMTをブロックする。これらの結果は、クラステリンがTGF−βのEMT経路において必要なメディエータであることを示すが、他のTGF−β誘導性メディエータが、EMTを誘導するためにクラステリンと協調して作用するか否かについては焦点を当てない。すなわち、クラステリンが単独でEMTを仲介するか否かという問題には焦点を当てない。TGF−β非存在下において、精製されたクラステリンがさらにEMTを促進するという事実は、クラステリンがこの転換を誘導するのに十分であることを示す。
【図8】BRIで産生された抗クラステリンポリクローナル抗体の中和活性の分析。クラステリンペプチド(アミノ酸421〜437)により免疫された2羽のウサギ(#9及び#10)から回収された血清は、表面プラズモン共鳴(データ不掲載)を使用して、ペプチドと相互作用する抗体を含むことが確認され、創傷治癒アッセイにおいて細胞運動性を阻害するこれらの能力について試験された(ウサギ血清の1/25希釈)。マウス乳房上皮細胞株、4T1(上部)はクラステリンを分泌し、TGF−β非存在下において運動性であるが、JM01細胞株(下部)はクラステリン産生及び細胞運動性を誘導するためにTGF−βによる刺激を必要とする。ウサギ#9及び#10の両方の血清は運動性を阻害し、#10血清がより有効であった。予想通りに、両方のウサギの免疫前の血清は運動性に影響しない。市販のクラステリン抗体が陽性対照(抗clu、Santa Cruz)として示される。
【図9】BRIで産生された抗クラステリンモノクローナル抗体の活性の分析。(A)12個のBRIが産生したモノクローナル抗体(市販のポリクローナル抗体(C18)及び市販のモノクローナル抗体(B5)は陽性対照として使用された)の各々の50ng又は100ngのいずれかを使用する、組換えヒトクラステリン(500ng)の免疫沈降。サンプルを12%の還元SDS−PAGEで分析した。すべての抗体は、組換えクラステリンと相互作用することが免疫沈降によって観察された。(B)黒インク運動性アッセイ(市販のポリクローナル抗体(C18)及び市販のモノクローナル抗体(B5)は陽性対照として使用された)を使用する、12個のBRIが産生したモノクローナル抗体がJM01細胞のTGF−βに誘導された運動性を阻害する能力の評価。棒グラフは、様々な抗体の存在下においてTGF−β処理されたBRI−JM01細胞の運動性の相対値を示す。BRIが産生した5個のモノクローナル抗体(21B12、20E11、16C11、16B5及び11E2)は、BRI−JM01細胞のTGF−βに誘導された運動性を阻害する。値は、TGF−βで処理された(対照)細胞の値と比較してクリアランス/細胞/24時間として表わされる。*は、中和能を評価する場合、使用したカットオフ値を示す。黒インク運動性アッセイにおいてこのカットオフ値を使用する場合、創傷治癒運動性アッセイを使用するときのモノクローナル抗体の中和能の評価に良好に一致した(データ不掲載)。
【図10】抗体のエピトープ間の関係の分析に対する2つのSPRバイオセンサー(Biacore)アプローチ。(A)第1のアプローチにおいて、ウサギ抗マウスFc抗体(RAMFc)は、センサーチップに共有結合で固定され、1つのモノクローナル抗体(Ab1と名付けられる)が表面に捕捉される。クラステリンがAb1と結合した後に、第2のモノクローナル抗体(Ab2と名付けられる)は表面の上に流される。2つの抗体のエピトープが重なり合っていれば、Ab2はAb1に結合されたクラステリンに結合することができないだろう。2つの抗体に関連性のないエピトープが存在すれば、Ab2はAb1に結合されたクラステリンに結合することができるだろう。(B)第2のアプローチにおいて、1つのモノクローナル抗体(Ab1と名付けられる)は、センサーチップ表面に共有結合で固定される。次に、クラステリンは溶液中で第2の抗体(Ab2と名付けられるモノクローナル抗体又はポリクローナル抗体)によりインキュベートされ、次に複合体はAb1の上に流される。2つの抗体のエピトープが重なり合っていれば、Ab2に結合されたクラステリンはAb1に結合することができないだろう。
【図11】5個のEMTを中和するBRIが産生した抗クラステリンモノクローナル抗体のエピトープとの互いの関係、並びにC18抗体、pAb#10抗体及びB5抗体のペプチドエピトープとの関係の分析結果。この表は、2つのSPRバイオセンサ(Biacore)アプローチを使用して得られたエピトープマッピングの結果をすべて要約する。青色の+は、Ab1が第1のBiacoreアプローチにおいてAb2とクラステリンへの結合を競合したことを示す(すなわち、結合したクラステリンのRUに対するAb2のRUの比率は、0.1以下であった)。赤色の+又は+/−は、Ab2が第2のBiacoreアプローチにおいてAb1とクラステリンへの結合を競合したことを示す(すなわち、Ab2でプレインキュベートされたときに、Ab1へのクラステリンの結合は、+については30〜100%、及び+/−については10〜30%阻害された)。5個の中和モノクローナル(monolconal)抗体(21B12、20E11、16C11、16B5及び11E2)がすべて互いに、並びにpAb#10、pAbC18及びmAb B5に対して競合するので、これら5個の中和モノクローナル抗体はすべて、pAb#10、pAbC18及びmAb B5の重複ペプチドエピトープと相互作用することは明白である。* Ab20E11が(Ab1又はAb2のいずれかとして)使用された場合、第1のアプローチからのすべての陰性の結果(青色の−)が生じたことは留意されるべきであり、このAbはその実験的セットにおいて良好に作用しないことが示される。したがって、抗体20E11については、結論は主として第2の実験的アプローチから得られる。
【図12】Ig可変領域cDNAの単離。流れ図表示は、単離についての工程、シークエンシングについての工程、モノクローナル抗体の可変領域の配列アッセイについての工程である。
【図13】モノクローナル抗体のアミノ酸配列。
【図14】クラステリンIg VHのCDR1及びCDR2のアライメント。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クラステリンへの結合親和性を有する薬剤であって、クラステリンへの該薬剤の結合が、癌細胞における上皮間葉転換を阻害する、クラステリンへの結合親和性を有する薬剤。
【請求項2】
前記薬剤がクラステリンのβ−サブユニットへの結合親和性を有する、請求項1に記載の薬剤。
【請求項3】
前記薬剤が前記クラステリンβ−サブユニットのC末端部分への結合親和性を有する、請求項2に記載の薬剤。
【請求項4】
前記クラステリンβ−サブユニットのC末端部分への特異的な結合親和性を有する、請求項3に記載の薬剤。
【請求項5】
前記薬剤が、前記クラステリンβ−サブユニットのC末端部分のアミノ酸375〜449の部位に結合する、請求項3に記載の薬剤。
【請求項6】
クラステリンへの前記薬剤の結合が、前記クラステリンβ−サブユニットのC末端部分中にコンフォメーション変化をもたらす、請求項1に記載の薬剤。
【請求項7】
前記薬剤が抗体である、請求項1に記載の薬剤。
【請求項8】
前記薬剤がモノクローナル抗体又はポリクローナル抗体である、請求項7に記載の薬剤。
【請求項9】
前記抗体が、配列番号6を含むアミノ酸配列を有する、請求項7に記載の薬剤。
【請求項10】
前記抗体が、配列番号7を含むアミノ酸配列を有する、請求項7に記載の薬剤。
【請求項11】
前記モノクローナル抗体が、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、配列番号20、配列番号21、配列番号22、配列番号23、配列番号24、配列番号25、配列番号26、配列番号27、配列番号28、配列番号29及び配列番号30から成る群から選択される少なくとも1つの配列を含む、請求項8に記載の薬剤。
【請求項12】
前記モノクローナル抗体が、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、配列番号20、配列番号21、配列番号22、配列番号23、配列番号24、配列番号25、配列番号26、配列番号27、配列番号28、配列番号29又は配列番号30のうちの少なくとも1つの相補性決定領域に対応するアミノ酸配列を含む、請求項8に記載の薬剤。
【請求項13】
癌細胞の活性を調節する方法であって、クラステリンへの結合親和性を有する薬剤に該細胞を曝露する工程を含む、癌細胞の活性を調節する方法。
【請求項14】
前記薬剤が、クラステリンの前記β−サブユニットへの結合親和性を有する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記薬剤が、前記クラステリンβ−サブユニットのC末端部分への結合親和性を有する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記薬剤が、前記クラステリンβ−サブユニットのC末端部分への特異的な結合親和性を有する、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記薬剤が、前記クラステリンβ−サブユニットのC末端部分のアミノ酸375〜449間の部位に結合する、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
クラステリンへの前記薬剤の結合が、前記クラステリンβ−サブユニットのC末端部分中にコンフォメーション変化をもたらす、請求項13に記載の方法。
【請求項19】
前記薬剤が、抗体である、請求項13に記載の方法。
【請求項20】
前記薬剤が、モノクローナル抗体又はポリクローナル抗体である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記抗体が、配列番号6を含むアミノ酸配列を有する、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記抗体が、配列番号7を含むアミノ酸配列を有する、請求項19に記載の方法。
【請求項23】
前記モノクローナル抗体が、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、配列番号20、配列番号21、配列番号22、配列番号23、配列番号24、配列番号25、配列番号26、配列番号27、配列番号28、配列番号29及び配列番号30から成る群から選択される少なくとも1つの配列を有する、請求項20に記載の方法。
【請求項24】
前記モノクローナル抗体が、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、配列番号20、配列番号21、配列番号22、配列番号23、配列番号24、配列番号25、配列番号26、配列番号27、配列番号28、配列番号29又は配列番号30のうちの少なくとも1つの相補性決定領域に対応するアミノ酸配列を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項25】
クラステリンへの結合親和性を有する薬剤の生成におけるアミノ酸配列の使用であって、該配列が、配列番号4又はその一部分を含む、クラステリンへの結合親和性を有する薬剤の生成におけるアミノ酸配列の使用。
【請求項26】
前記配列が、配列番号1、配列番号2、配列番号3又は配列番号5を含む、請求項25に記載のアミノ酸配列の使用。
【請求項27】
前記配列が、配列番号4に対して少なくとも90%の同一性を有する配列を含む、請求項25に記載のアミノ酸配列の使用。
【請求項28】
前記配列が、配列番号1、配列番号2、配列番号3又は配列番号5に対して少なくとも90%の同一性を有する配列を含む、請求項25に記載のアミノ酸配列の使用。
【請求項29】
癌細胞における上皮間葉転換に関与するクラステリン又はその一部分及び薬学的に許容される担体を含むワクチン。
【請求項30】
配列番号4又はその一部分及び薬学的に許容される担体を含む、請求項29に記載のワクチン。
【請求項31】
癌腫の治療における使用のための、請求項29に記載のワクチン。
【請求項32】
ワクチンの調製におけるアミノ酸配列の使用であって、該配列が、配列番号4又はその一部分を含む、ワクチンの調製におけるアミノ酸配列の使用。
【請求項33】
前記配列が、配列番号1、配列番号2、配列番号3又は配列番号5を含む、請求項32に記載のアミノ酸配列の使用。
【請求項34】
前記配列が、配列番号4に対して少なくとも90%の同一性を有する配列を含む、請求項32に記載のアミノ酸配列の使用。
【請求項35】
前記配列が、配列番号1、配列番号2、配列番号3又は配列番号5に対して少なくとも90%の同一性を有する配列を含む、請求項32に記載のアミノ酸配列の使用。
【請求項36】
配列番号1〜配列番号30のうちの少なくとも1つをコードする核酸配列。
【請求項37】
診断ツールとしてのクラステリンへの結合親和性を有する薬剤の使用であって、クラステリンへの該薬剤の結合が、癌細胞における上皮間葉転換を阻害する、診断ツールとしてのクラステリンへの結合親和性を有する薬剤の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13−1】
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【図13−2】
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【図13−3】
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【図13−4】
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【図13−5】
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【図13−6】
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【図13−7】
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【図13−8】
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【図13−9】
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【図13−10】
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【図13−11】
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【図13−12】
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【図13−13】
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【図13−14】
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【図13−15】
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【図13−16】
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【図13−17】
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【図13−18】
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【図13−19】
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【図13−20】
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【図14】
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【公表番号】特表2009−507476(P2009−507476A)
【公表日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−529439(P2008−529439)
【出願日】平成18年9月13日(2006.9.13)
【国際出願番号】PCT/CA2006/001505
【国際公開番号】WO2007/030930
【国際公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【出願人】(506175792)ナショナル リサーチ カウンシル オブ カナダ (9)
【Fターム(参考)】