説明

腰椎牽引装置

【課題】椅子状の架台をリクライニングして牽引位にし、腰椎を牽引する腰椎牽引装置において、骨盤固定をより確実にして治療効果を向上させるとともに、介助者の手間を省力化する。
【解決手段】骨盤を固定するベルトと、当該ベルトの一端を座部に係止する係止部と、当該ベルトの他端を巻き取るベルト巻取部と、ベルトの張力を検出するベルト張力検出部とを設けて、ベルトを患者の骨盤部に装着してその一端を座席部に係止し、ベルト巻取部を作動させて当該ベルトの他端を巻取ってベルトの張力が所定値になるようにして、骨盤を確実に固定するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腰椎の牽引治療に使用する腰椎牽引装置に関するものであり、特に、牽引時の腰部(骨盤)の固定を確実にし、省力化された効果的な牽引治療を行うことができる牽引装置を提供することを目的とする。
【背景技術】
【0002】
腰椎牽引療法は、脇を支持して腰椎を牽引して、腰椎疾患を治療するもので、整形外科やリハビリテーションなどの分野で広く用いられている。脇を支持して腰椎を牽引するには、腰椎の疾患部位よりも下肢側に力を作用させる必要があるが、実際には骨盤に腰装具を装着して牽引する。つまり腰装具は骨盤に牽引力を作用させるものである。
【0003】
従来の腰椎牽引装置の例を図3に示す。装置は、牽引用ベッド50と牽引器本体51から構成され、治療の補助として腰装具53と脇装具54を使用する。
ベッド50は、マットを2つに分割して、そのフレーム57に載置して構成されている。上半身が載る側のマット55はフレーム57にほぼ固定され、下肢側マット56はフレーム57に沿ってベッドの長さ方向(患者の身長方向)移動自在にしてある。
【0004】
患者は、治療前にベッドに載り、仰臥位になり、腰装具53を腰(骨盤部)に装着し、牽引用ワイヤ52を介して牽引装置51に接続する。また、脇装具54を脇に当てて牽引時に体がずれないように固定する。この状態で牽引装置51を作動させると、脇が支持されているため上半身は移動せず、臀部と下肢は下肢側マット56とともに移動するので、腰椎を牽引することができる。
【0005】
治療を開始すると、図6に示すように、所定時間だけ休止を行い(休止モードと称する。休止する時間を休止時間と称する。)、休止時間が終了すると、所定の牽引力になるまで牽引する(牽引モードと称する)。牽引力は、牽引器本体51のモータを駆動して牽引用ワイヤ(52)巻き取って、発生する。牽引力が設定値になるとモータを停止して所定時間だけその牽引力を維持する(持続モードと称する。持続する時間を持続時間と称する。)。持続モードが終了するとモータを逆回転させて牽引力を緩め(緩和モードと称する)、牽引力がゼロ又は所定値以下になると再度休止モードになる。これを治療時間が終了するまで繰り返す。このように、繰り返し牽引を行うものを間欠牽引と称する。
場合によっては、休止〜牽引の後、設定値まで牽引したままこの牽引力を治療時間だけ持続することもある。これを持続牽引と称する。これは、間欠牽引で持続時間を治療時間にしたものと考えることができる。
【0006】
牽引力や治療時間、持続時間、休止時間等の牽引条件は、通常、治療前に、装置の操作パネルの操作部(例えば図5の40)に設けたキースイッチやボリュームなどを操作しておこなう。メモリカードなどの記憶媒体を用いるものもある。
この操作部からの情報は装置の制御部に送られ、牽引用モータ、治療に関する時間その他、装置全体の制御に利用される。牽引治療時には、設定した牽引条件や治療経過時間、実際の牽引力等を参照し、装置の制御をおこなうとともに、パネル面に設けた表示器に表示される。
【0007】
図3の装置は長期間の実績もあり効果も確認されているが、問題もある。
この装置では、治療前に、患者はベッドに乗り、装具を装着し、仰臥位になり、膝の下に脚台を入れる。治療後には、これと逆の動作をおこなう。これらの動作は、腰痛を有する患者にとって、肉体的に大きな苦痛となっていた。
また、装具の装着に手間がかかり、患者だけでなく、介助者の手も煩わせていた。
これらの課題を解決するものとして、図4に示すような装置が開発されている。これは、治療前後にはベッドを椅子状にしておき、この椅子に患者を座らせ、腰装具61を締めるだけで、治療を開始すると、後は全ての牽引治療を自動的におこなうようにし、装置への乗り降り時の患者の苦痛を軽減し、介助者の手間を省力化する(例えば特許文献1参照)。
【0008】
図4は特許文献1の実施例である。
装置は、患者を載せる臥台75と、臥台75を載置する基台64と、臥台75を頃動(リクライニング)させる頃動機構部33で構成している。
治療前には、図4(A)のように椅子状にして、患者が楽に装置に乗ることができるようにしている。
ベルト61を締め、治療を開始すると、頃動機構部33が作動し、図4(B)に示すような牽引位(牽引治療をおこなう状態)にする。
治療終了時には図4(A)の椅子状にし、患者は装置から楽に下りることができる。
また、臥台75は、患者の背部から頭部までの上半身を載せる背凭部65と、臀部から下肢までの下半身を載せる座席部69とで構成し、牽引機構部72で座席部69と背凭部65を離間させるようにしている。図4の例では、座席部69が座席部フレーム71に沿って移動させるようにしている。
背凭部65には脇用アーム63を設けて患者の脇を支持し、座席部69にはベルト61を設けて骨盤を支持するようにしている。
【0009】
患者が装置に乗り、図4)C)のようにベルト61を締めて面ファスナ86で固定し、牽引条件を設定すると治療の入ることができる、
治療を開始すると、頃動機構部33が作動し、臥台75が頃動し、図4(B)に示す牽引位になる。頃動の間に脇用アーム駆動部74が作動して脇用アーム63で患者の脇を支持する。
臥台75が図4(B)に示す牽引位になると、図6の休止モードになる。
休止時間が終了すると、図6の牽引モードになり、牽引機構部72が作動し、座席部69が座席部フレーム71に沿って移動し、腰椎が牽引される。
牽引力が設定値になると、図6の持続モードになり、牽引機構部72を停止し、その牽引力を持続する。
所定の持続時間が終了すると、図6の緩和モードになり、牽引機構部72を牽引時と逆方向に作動させ、牽引力を緩和する。
牽引力がゼロ又は所定値以下になると、図6の休止モードに移る。
牽引時間が終了するまで、この動作を繰り返す。
なお、背凭フレーム70は背凭部65や脇用アーム63、脇用アーム駆動部74を設けたフレームで、基台64に頃動自在に接続されている。
【0010】
腰当部66と着座部67、下腿載置部68は座席部69を構成し、患者の臀部から下肢までの下半身を載置する。Fは牽引力の作用方向で、座席部69の移動方向と一致する。
ベルト61で骨盤を固定する様子を図4(C)に示す。腰当部66は腰部下方の骨盤部の形状に合うように凹状にして体との接触面積を大きくして、牽引するとき、下半身がずれ難くなるようにしている。また、ベルトを締めた時、体を両側から締め付けるように、柔軟な補助ベルト81と82を設け、その体側にはクッション材83と84を設け、ベルト61の締め付けを確実にしている。また、補助ベルト82にはバックル85を設け、これを通してベルト61を反転させて強く締め付けることができるようにしている。さらに、ベルト61の先端部には面ファスナ86を設け、締め付けたベルト61を固定するようにしている。
骨盤の固定に、図4の方法と異なる技術も開示されている(例えば特許文献2)。図5の装置では、バックル85を使用しないで、ベルトを巻きつけた状態で面ファスナを固定する例が示されている。この引用特許には、ベルトを固定した後、ベルトの内側に設けた空気袋(図5の18)に空気を供給して膨張させ、ベルトの固定をより確実にする方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2006−87853
【特許文献2】特開2008−79872
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1の装置は、前述のように、患者の装置への乗り降りに伴う肉体的な苦痛を軽減し、介助者の手間を省力化することができる。
しかし、下半身を座席部69に確実に固定し、骨盤牽引を確実におこなうには、ベルトを強く締め付けなければならず、介助者の大きな労力が必要となる。
【0013】
また、通常は、図4(A)のような座位でベルト61を固定するが、治療を開始して図4(B)のように牽引位になると、腰部から腹部にかけての脂肪や筋肉が体の上方に逃げるため、ベルトが緩む。特に太った患者ではベルト61の緩みが大きく、腰部の固定が甘くなり、このまま牽引すると、体がずれて、効果的な牽引治療ができないこともある。ベルト61と腰部がずれると、不快な摩擦が生じたり、衣服が乱れたりする不都合も生じる。
【0014】
特許文献2の装置は、ベルトを固定した後、ベルト内部に設けた空気袋を膨張させるので、この問題は解決できる。
しかし、一旦、ベルトを固定した後、ベルト内部に設けた空気袋を膨張させるので、牽引位になった時に腹囲が大きく変化する患者では、再度、ベルトを締めなおさなければならなくなるという不都合があった。
本発明は、このようなベルト固定の不都合を解消し、どのような体格の患者であっても、確実に、自動的に骨盤を固定できるようにして、より治療効果を向上させ、しかも介助者の労力をより省力化することができるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
これを解決するために、請求項1記載の発明では、
患者の背部から頭部をまでを支持する背凭部5と、
患者の臀部から下肢までを支持する座席部9と、
背凭部5と座席部9を載置する椅子状の臥台11と、
前記臥台11を載置する基台10と、
臥台11を座位と所定角度背面側へ傾倒した牽引位の間で頃動させる頃動機構部と、
座席部9と背凭部5を所定方向に移動させて牽引力を発生させる牽引機構部と、
座席部9に設けて臀部(骨盤)を座席部9に固定する腰部固定部3と、
背凭部5に設けて牽引時に患者の体がずれないように脇を支持する脇固定部4と、
を有し、
座位にした臥台11に患者を座らせて、頃動機構部を作動させて臥台11を頃動させて牽引位にし、腰部固定部3で骨盤を座席部9に固定し、脇固定部4で脇を支持し、牽引機構部を作動させて腰椎牽引を行う腰椎牽引装置において、
腰部固定部3は、
座席部9の左右の一方に設けてベルトの一端を係止するベルト係止部2と、
座席部9の左右の他方から引き出したベルト27と、
ベルト27の一端に設けたベルト係止端部31と、
ベルト27の他端を接続しベルト27を巻き取るベルト巻取部30を設け、
ベルト27を患者の骨盤に部に装着してベルト係止端部31をベルト係止部2に接続し、ベルト巻取部30を作動させてベルト27を巻き取り、患者の骨盤部を座席部9に固定するようにした。
このようにすることで、どのような体格の患者にも、また、座位と仰臥位(牽引位)で腹囲が大きく変化する患者でも、確実に骨盤を固定できる。このため、治療効果を向上させることができる。しかも、ベルトの巻き取りは自動でおこなうので、介助者の手間を省力化できる。
【0016】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の腰椎牽引装置に、ベルト27の張力を検出する張力検出手段を設け、
ベルト巻取部30を駆動してベルト27を巻き取るとき、張力検出手段でベルト27の張力を検出し、ベルト27の張力が所定の値になるようにベルト巻取部(30)を制御するようにした。
このため、常にベルト27の張力を所定の値にすることができ、臀部(骨盤)を確実に固定することができ、さらに治療効果を高くすることができる。
【0017】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の腰椎牽引装置において、治療時の休止、牽引、持続、緩和の4つのモードと同期させてベルト巻取部(30)を制御し、ベルト(27)の張力がそれぞれのモードで指定した値になるようにした。
このため、牽引モードと持続モード、緩和モードでは必要な強さで骨盤固定を行い、休止モードではベルト3を緩め、患者の圧迫感を緩和し、苦痛をより軽減することができる。さらに、牽引モードと緩和モードでは、その時の牽引力に応じたベルト張力に制御できるので、より患者の苦痛を軽減することが可能になる。
【発明の効果】
【0018】
請求項1記載の発明により、臥台11に患者を座らせて、ベルト部1(27)を引き出し、図2(C)に示すように、ベルト部1で患者を臥台11に押し付けるようにベルトを装着して、ベルト巻取部30をベルト係止部2に接続し、ベルト巻取部30を駆動してベルト部1を巻き取って患者の骨盤部を座席部9に固定する。このため、どのような体格の患者にも、また、座位と仰臥位(牽引位)で腹囲が大きく変化する患者にも使用でき、確実に骨盤を固定できる。このため、治療効果を向上させることができ、しかも、ベルトの巻き取りは自動でおこなうので、介助者の手間を省力化できる。
【0019】
請求項2記載の発明では、請求項1記載の腰椎牽引装置に、ベルト部1の張力を検出する張力検出手段を設け、ベルト巻取部30を駆動してベルト部1を巻き取るとき、張力検出手段でベルト部1の張力を検出し、ベルト部1の張力が所定の値になるようにベルト巻取部30を制御するようにした。
このため、体格が大きく異なる患者でも、また、座位と牽引位に腹囲が大きく変化する患者でも、常に設定した力で確実に骨盤を固定でき、このため、治療効果をより向上させることができ、しかも、骨盤保持力が大きく変動することは無いため不快感を与えることも無い。また、体動や、牽引の繰り返しなどにより、万一、ベルトの保持力が変化しても、常に確実にベルトの張力を設定値に維持することができるため、骨盤を座席部9に確実に固定することができる。
【0020】
請求項3載の発明により、請求項1又は2記載の発明において、
治療時の休止、牽引、持続、緩和の4つのモードと同期させてベルト巻取部30を制御し、ベルト27の張力がそれぞれのモードで所定の値になるようにすることができる。牽引時と持続時には腰を固定しておく必要があるので、このときは確実に腰を固定することができる。また、休止時にはベルト部(1)の張力を解除することができるので、その間、無用な圧迫が無いため、患者はさらに楽に治療を受けることができる。このとき、ベルト部1の張力は100%解除しなくても、10〜50%程度解除すれば、実質的に不快な圧迫感を減少させることができる。
また、牽引時と緩和時には、その時の牽引力に応じて、ベルト部1の張力を設定しておくこともできる。このようにすると、必要以上に強い張力がかからないため、患者の苦痛をよる低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施例の外観図である。
【図2】本発明のベルト巻取部30の実施例である。
【図3】従来の牽引装置の例である。
【図4】従来の椅子型牽引装置の例である。
【図5】従来の椅子型牽引装置の別の例である。
【図6】牽引治療の流れを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、主に、椅子型の腰椎牽引装置において、どのような体格の患者であっても、また、座位と仰臥位で福井が大きく異なる患者であっても、骨盤(腰部)の固定を確実におこない、より治療効果を向上させ、患者の不快感を減少させ、介助者の手間を省力化するものである。
これを実現するために、骨盤固定用の装具をベルト状にし、ベルトの出し入れを自在にして、どのようなサイズの骨盤周囲の人にも使用できるようにするものである。
しかも、ベルトの張力をセンサで検出して、腹囲のサイズがどのように変動しても、常に所定の張力で骨盤を固定するものである。
これを自動化し、より治療効果を向上させ、患者の不快感をより少なくし、しかも介助者の手間を省力化することができる。
【実施例】
【0023】
請求項1記載の発明は、
患者の背部から頭部までの上半身を載置する背凭部5と、
患者の臀部から下肢までの下半身を載置する座席部9と、
背凭部5と座席部9載置する臥台11と、
前記臥台11を椅子状から後方に頃動した牽引位まで頃動自在に載置する基台10と、
基台10と臥台11の間に設けて臥台11を座位牽引位の間で頃動させる頃動機構部と、
座席部9と背凭部5の間に設けて座席部9と背凭部5を所定方向に離間(移動)させて牽引力を発生させる牽引機構部と、
座席部9に設けて骨盤(臀部)を座席部9に固定する骨盤固定部3と、
背凭部5に設けて牽引時に患者の体がずれないように脇を支持する脇固定部4と、
を有し、
臥台11を座位にして患者を座らせて、治療を開始すると、頃動機構部を作動させて臥台11を牽引位にし、腰部固定部3で腰部を座席部9に固定し、脇固定部4で脇を支持し、牽引機構部を作動させて腰椎牽引を行う腰椎牽引装置において、
腰部固定部3は、
座席部9の左右の一方に設けてベルトの一端を係止するベルト係止部2と、
座席部9の左右の他方から引き出したベルト27と、
ベルト27の一端に設けたベルト係止端部31と、
ベルト27の他端を接続しベルト27を巻き取るベルト巻取部30を設け、
ベルト27を患者の骨盤に部に装着してベルト係止端部31をベルト係止部2に接続し、ベルト巻取部30を作動させてベルト27を巻き取り、患者の骨盤部を座席部9に固定するようにした。
【0024】
請求項1記載の発明の実施例を図1に示す。図1は装置の外観例で、図の1はベルト部、2はベルト係止部、3はベルト部1とベルト係止部2とを有する腰部固定部、4は脇固定部、5は背凭部、6は腰支持部、7は着座部、8は下腿載部、9は座席部、10は基台、11は臥台である。28と29は腰部の固定をより確実にするためのパッドである。
パッド28と29は、柔軟なベルト27よりも幅広のベルトに柔らかいゲル又はスポンジを設けたもので、ベルト27の力を分散して、力が局所に集中しないで痛みが生じないように、広い面で腰を押さえて、固定を確実にすることができる。
この実施例では、座席部9の、患者から見て右側にベルト部1を、患者の左側にベルト係止部2を、それぞれ、パッド29と28の先端に設けている。このようにすることで、ベルト部1を装着して骨盤を固定した時、骨盤部を体側から確実に締め付けることができる。
【0025】
臥台11を座位にして患者を座らせて、治療を開始すると、頃動機構部(図示は無し)が作動し、臥台11を牽引位にし、腰部固定部3が作動しで骨盤部を座席部9に固定し、脇固定部4が作動して脇を支持し、牽引機構部(図示は無し)を作動させて腰椎牽引を行う。腰部固定部3以外は、構成及び動作とも、図4の装置と同様である。
【0026】
腰部固定部3の実施例を図2に示す。図1では、腰部固定部3はベルト部1とベルト係止部2とパッド29と28とを有するように記載しているが、実際には、図2に示すように、ベルト巻取部30も含む。つまり、腰部固定部3は、ベルト部1とベルト係止部2と、パッド29及び28と、ベルト巻取部30とで構成し、ベルト部1はベルト27とベルト係止端部31から構成される。
【0027】
ベルト巻取部30はベルト巻取バネ機構部23とベルト巻取りモータ21とで構成し、ベルト巻取バネ機構部23は、図示はしていないが、回転自在のドラムとこのドラムを1方向に回転させるバネを設けている。また、ベルト巻取バネ機構部23とベルト巻取りモータ21はクラッチで結合し、クラッチ結合が無い場合は、ベルト部1を自由に引き出すことができるし、引き出したベルト部1の張力を緩めると、ベルト巻取バネ機構部23に設けたバネによって、ドラムに巻き取ることができ、つまり、ベルト部1を自由に出し入れできる。一方、ベルト巻取バネ機構部23とベルト巻取りモータ21の結合をおこなってモータ21を回転させるとベルト27を巻取ることができ、ベルト係止部2にベルト係止端部31を係止しておれば、患者の骨盤を座席部9に固定させることができ、ベルト部1にかかる張力は、ベルトの巻取り量に依存する。
図2(C)の例では、ベルト巻取部30は、座席部9内に設けている。
【0028】
図2(A)はベルト部1を係止する係止手段の例である。図の1はベルト部で、ベルト27とその先端に設けたベルト係止端部31とで構成する。2はベルト係止部である。
ベルト部1はパッド29に設けたベルトガイドを通して、ベルト巻取バネ機構部23に接続されている。ベルト係止部2はパッド28の先端部に設けられている。
この実施例では、係止端部31にタングを、ベルト係止部にバックル用いているが、係止手段としては、面ファスナやフックなど、どのような手段を用いても良い。
図2(B)はベルト巻取部30の実施例である。この構成や作用等は前述のとおりである。
モータ21とベルト巻取ドラム23は、クラッチを用いて接続と解除を行うようにした例を説明したが、どのような手段を用いても良い。
【0029】
ベルト巻取バネ機構部23は回転自在にしておき、ベルト27の一端をベルト巻取バネ機構部23に接続し、ベルト巻取バネ機構部23にはベルト27を巻き取るバネを入れ、ベルト27の張力が小さい場合は、ベルト27を巻き取るようにし、これとは別に、ベルト巻取り部22を設け、ベルト巻取り部22にはベルト27を通す孔を設け、ベルト巻取りモータ21とベルト巻取り部22を接続して、ベルト巻取りモータ21でベルト巻取り部22を回転させると、ベルト部1を巻き取ることができるようにしても良い。ただし、この場合は、ベルト部1を自由に出し入れしたい場合は、ベルト巻取り部22の孔が所定の位置に来て、ベルトがスムースに出入りするように、孔の位置を制御する必要がある。
要するに、ベルト部1を自由に引き出すことができて、かつ、ベルト巻取ドラム22を作動させてベルト部1を巻き取ることができればよい。
【0030】
図2(C)は、腰部固定部3の例で、人Mを座席部9に固定している様子を示す。
座席部9に患者Mを座らせ、ベルト部1を引き出して、患者(M)の腰部を座席部9に固定することができるようにベルト部1をかけてベルト係止端部31をベルト係止部2に接続している。
一方、ベルト部1の他端はベルト巻取ドラム22に接続している。
ドラム駆動部21を駆動すると、ベルト巻取ドラム22がベルト部1を巻き取って、患者(M)を座席部9に固定する。
この例では腰部の固定をより確実にするために、パッド28と29を用いている。パッドは柔軟で、ベルトの力を分散して、力が局所に集中しないで(痛みが生じないように)、広い面で腰を押さえて、固定を確実にすることができる。
腰支持部6は、人の腰部の形状にして、接触面積を大きくして体がずれないようにし、ベルト部1による腰部(M)の固定をより確実にしている。
この図では、腰部(M)を腰支持部6に固定している様子を示しているが、図1に示すように、腰支持部6と着座部7の境界近傍に、腰支持部6と着座部7のなす角度(90度程度)をおおよそ2分する角度で設けると、腰支持部6と着座部7の両方向に固定する力が作用し、牽引時に、腰部を座席部(9)に確実に固定することができる。
請求項1記載の発明の特長は腰部固定部3にあり、ベルト部1と、ベルト部1を係止する手段、ベルト部2を巻き取る手段を備えておればよく、手段は問わず、その他の牽引装置の構成は図4や5と同じであっても良い。
【0031】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の腰椎牽引装置に、ベルト部1の張力を検出する張力検出手段を設け、ドラム駆動部21を制御してベルト巻取ドラム22を駆動し、ベルト部1を巻き取るとき、張力検出手段でベルト部1の張力を検出し、ベルト部1の張力が所定の値になるようにベルト巻取部30を制御するようにするものである。
ドラム駆動部21に電動モータを使用すると、ベルト部1の張力が変化すると、電動モータの電源電流も変化するため、ベルト部1の張力を電動モータの電源電流で検出することができる。ベルト部1を巻き取っているとき、電動モータの電源電流を一定にすると、ベルト部1に一定の張力を与えることができる。つまり、腰部を座席部9に一定の力で固定することができる。
ベルト部1の張力を検出する張力検出手段として、ドラム駆動部21に電動モータを用いて、その電源電圧を使用する例を述べたが、その手段は問わない。例えば、ベルト部1又はベルト26、3のいずれかに張力センサを設置してもよいし、ベルトガイドKを移動可能にしておき、この移動を妨げるバネをおき、このバネの変移を検出しても良い。この場合は、バネの伸びと力の関係を校正しておく必要がある。
【0032】
牽引時に腰部を座席部9に固定する力が弱いと、腰部が座席部9からずれる。
牽引しても腰部が座席部9からずれない最低の力f1があり、力が強すぎて不快な圧迫感を感じる力f2もあり、f1とf2の間の、腰部がずれず、不快な圧迫感もない、最適な力f0が存在する。この力f0に対するベルト部1の張力T0を求めておき、この張力T0に対する電動モータの電源電流i0を求めておき、この電源電流になるように、モータをフィードバック制御するようにすればよい。
これにより、腰部を座席部9に固定する力を常に最適値にすることができる。
このため、牽引をおこなっても体が座席部9からずれることは無く、効果的な治療をおこなうことができる。また、体がずれることによって生じる不快感や痛み、衣服の乱れも無くなる。
【0033】
請求項3記載の発明は、治療時の休止、牽引、持続、緩和の4つのモードと同期させてベルト巻取部30を制御し、ベルト27の張力がそれぞれのモードで指定した値になるようにするものである。
休止時に指定するベルト27の張力は、圧迫感を感じない程度に小さく、又はゼロにすれば良い。
牽引時には牽引力は徐々に増加するが、ある牽引力に対して、腰部が座席部(9)からずれない、不快な圧迫感を感じない最適な力が存在する。牽引時には、ベルト巻取部30を制御し、ベルト27の張力を牽引力に対応させて徐々に増加させながら、最適な力で腰部を座席部9に固定すればよい。
【0034】
持続時には、最初は腰部が座席部9からずれない、強すぎない最適の力で腰部を座席部9に固定すればよい。
緩和モードでは、牽引時と逆にすればよい。
このように、休止、牽引、持続、緩和の4つのモードと同期させてベルト巻取部30を制御し、ベルト27の張力がそれぞれのモードで指定した値になるようにした。
本請求項記載の発明により、腰部は座席部9からずれないため、効果的な牽引治療が可能であり、体がずれることによって生じる不快感や痛み、衣服の乱れも無くなる。
さらに、治療の進行による牽引力の変化に対応して、常に弱すぎない、強すぎない、最適の力で腰部を座席部9に固定するため、治療時の腰部固定による圧迫感や不快感を大幅に減少させることができる。
【0035】
以下に、本発明による腰椎牽引装置を用いた治療を説明する。
治療開始前に、操作部から、患者に適した牽引力、治療時間、休止時間、牽引持続時間などの治療条件を入力する。
装置は、臥台11を椅子状(座位)にして、脇固定部4を邪魔にならない位置に退避させておく。
座席部9に患者を座らせ、ベルト部1を引き出し、図2(C)に示すように、患者の腰部を座席部9に固定することができるようにベルト係止端部31を係止部2と接続する。
治療を開始すると、操作部から入力した治療条件を基に、制御部で装置全体を制御して、牽引治療をおこなう。
【0036】
まず、頃動機構部が作動して、臥台11を座位から、所定角度背面側へ傾倒した牽引位にし、休止モードになり、休止タイマーがスタートする。
頃動機構部が作動している間に又は休止モードの間に、腰部固定部3と脇固定部4を操作して、腰部を座席部9に固定し、脇を支持する。
腰部の固定では、ドラム駆動部(モータ)21を制御し、ベルト巻取バネ機構部23を駆動して、ベルト部1を巻き取って、休止時の力として設定した力で腰部を固定する。
治療中、常に、設定牽引力に対応した力で腰部の固定をおこなう場合、治療開始前に、座席部9に患者を座らせたときにおこなっても良いが、臥台11を牽引位にした状態で、確実に行った方が良い。つまり、座位で腰部を固定しても、牽引位にすると、腹部の脂肪や筋肉が上半身側に移動するため、ベルトの固定が甘くなるためである。
【0037】
脇固定部4として、図1には脇用アームを用いる例を示している。これは、図4(A)のように、患者が乗り降りするときは脇用アームを邪魔にならない位置に退避させておき、牽引位になったとき、図4(C)のように、脇の近傍にセットする。さらに、患者の身長は様々であるため、脇用アームを患者の身長方向に移動させて、脇の位置にあわせる。このような脇用アームの操作を自動的に行う技術は確立している。
脇固定部4には、ここで説明している脇用アームだけでなく、従来から用いられている背凭部5に固定したベルトを用いるなど、どのような手段を用いても良い。
【0038】
設定した休止時間が終了すると、牽引モードに入る。牽引機構部を作動させて牽引をおこなう。牽引力が上昇するに連れて、そのときの牽引力に対して最適な力で腰部を座席部9に固定するように、ドラム駆動部21を制御し、ベルト巻取バネ機構部23を駆動して、ベルト部1を巻き取る。
【0039】
牽引力が設定した値になると、持続モードになり、牽引機構部を停止して、持続タイマーがスタートし、持続の間、設定した牽引力を維持する。このとき、牽引力に対して最適な力で腰部を座席部9に固定するように、ドラム駆動部21を制御する。その後、持続モード終了時には腰部を座席部9に固定する最低の力になるまでドラム駆動部21を制御して、ベルト部1の張力を減少させるようにしてもよい。
【0040】
持続時間が終了すると、牽引時と逆方向に牽引機構部を作動させ、牽引力を緩和させる。
このときのベルト巻取部30の制御は、牽引時と逆にすればよい。
牽引力がゼロ又は設定値以下になると、牽引機構部を停止して、休止モードになる。
以上のサイクルを、全治療時間に間、繰り返す。
治療が終了すると、頃動機構部が作動して、臥台11を牽引位から座位に戻す。この間、脇用アームを解除し、最後に、ベルト部1をベルト係止部(2)から外し、装置から降りて、治療を終える。
請求項1記載の発明は、腰椎牽引時に腰椎を座席部に固定して体がずれないようにするもので、特に、固定を自動化し、どのような患者に対しても、骨盤固定を最適な値にするものである。請求項2記載の発明は、ベルト部1の張力を検出し、ベルト部1の張力(骨盤固定力)が常に性格に設定値になるように制御するものである。さらに、請求項3記載の発明は、固定する力は各治療モードに最適な値に変化させるものである。
本発明により、どのような体格の患者でも、座位と仰臥位で大きく腹囲が変化する患者でも、適切な力で、骨盤を固定することができる。また、骨盤固定用のベルトの張力を測定してそれを制御することで、最適な力で骨盤固定をおこなうことができる。さらに、牽引時のモードに応じて、最適な、より患者の負担が少ない牽引をおこなうことができる。これらを自動的に実現するため、より効果的で不快感の少ない治療を可能にし、しかも介助者の手間をさらに省力化することができる。
【符号の説明】
【0041】
1:ベルト部
2:ベルト係止部
3:腰部固定部
4:脇用アーム
5:背凭部
6:腰支持部
7:着座部
8:下腿載置部
9:座席部
10:基台
11:臥台
21:ドラム駆動部
22:ベルト巻取ドラム
23:ベルト巻取バネ機構部
M:人
K:ベルトガイド
27:ベルト
28、29:パッド
30:ベルト巻取部
31:ベルト係止端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の背部から頭部までの上半身を支持する背凭部(5)と、
当該患者の臀部から下肢までの下半身を支持する座席部(9)と、
背凭部(5)と座席部(9)を載置する椅子状の臥台(11)と、
臥台(11)を載置する基台(10)と、
臥台(11)を座位と牽引位の間で頃動させる頃動機構部と、
座席部(9)と背凭部(5)を離間させて牽引力を発生させる牽引機構部と、
腰部を座席部(9)に固定する腰部固定部(3)と、
背凭部(5)に設けて脇を支持する脇固定部(4)と、
を設け、
臥台(11)を座位にして患者を座らせ、頃動機構部を作動させて臥台(11)を牽引位にし、腰部固定部(3)で腰部を座席部(9)に固定し、脇固定部(4)で脇を支持し、牽引機構部を作動させて腰椎牽引を行う腰椎牽引装置において、
腰部固定部(3)は、
腰部を座席部(9)に固定するベルト(1)と、
ベルト(1)の端部を係止するベルト係止部(2)と、
ベルト(1)の他端を巻き取るベルト巻取部(30)を有し、
患者の腰部に装着したベルト部(1)の一端をベルト係止部(2)に係止し、ベルト巻取部(30)を駆動してベルト部(1)の他端を巻き取って患者の腰部を座席部(9)に固定するようにした腰部固定部(3)であることを特長とする、腰椎牽引装置。
【請求項2】
請求項1記載の腰椎牽引装置に、ベルト(1)の張力を検出する張力検出手段を設け、ベルト(1)の張力が所定の値になるようにベルト巻取部(30)を制御するようにしたことを特徴とする、請求項1記載の腰椎牽引装置。
【請求項3】
牽引治療時の休止、牽引、持続、緩和の各モードと同期させてベルト巻取部(30)を制御し、ベルト部(1)の張力がそれぞれのモードで指定した値になるようにした、請求項2記載の腰椎牽引装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−12249(P2010−12249A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−148087(P2009−148087)
【出願日】平成21年5月31日(2009.5.31)
【出願人】(000114190)ミナト医科学株式会社 (31)
【Fターム(参考)】