説明

腸の治療

Y1レセプター及びY2レセプターよりもY4レセプターに選択的であるY4レセプターアゴニストは、放射線療法、放射線曝露、細胞毒性化学療法、炎症又は腸粘膜の虚血‐再潅流に起因する腸機能損傷の予防及び/又は治療に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線療法、放射線曝露、細胞毒性化学療法、炎症又は腸粘膜の虚血‐再潅流に起因する腸機能損傷の予防及び/又は治療における、Y1レセプター及びY2レセプターと比較してY4レセプターに選択的であるY4レセプターアゴニストの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
PP折り畳みファミリーのペプチド − NPY(ニューロペプチドY)(ヒト配列−配列番号1)、PYY(ペプチドYY)(ヒト配列−配列番号2)、及びPP(膵ポリペプチド)(ヒト配列−配列番号3)は、天然に分泌される、相同な36アミノ酸の、C末端がアミド化されたペプチドであり、これらは共通の三次元構造−PP折り畳み(PP-fold)(これは希水溶液中でさえも驚くほど安定であり、当該ペプチドのレセプター認識に重要である)−により特徴付けられる。
【0003】
NPY、PYY及びPPに共通のPP折り畳み構造は、
(1)N末端ポリプロリン様ヘリックス(Pro2、Pro5及びPro8を有する残基1〜8に相当する)の後に
(2)タイプI β‐ターン領域(残基9〜12に相当する)、その後に
(3)ポリプロリンヘリックスに対して、らせん軸間約152°の角度で逆平行に存在する両親媒性α‐ヘリックス(残基13〜30)、そして
(4)C末端ヘキサペプチド(残基31〜36)からなる。
折り畳まれた構造は、3つの疎水性プロリン残基と密接に噛み合う両親媒性α‐ヘリックスの側鎖間の疎水的相互作用を通して安定化される(Schwartzら、1990)。C末端ヘキサペプチドを認識するレセプター内の重要な残基のほかに、PP折り畳み構造を安定化させる中核の疎水性残基があり、これらは、PP折り畳みペプチドファミリーの全体に広く保存される。
【0004】
NPYは、ヒトにおいて多くの異なるレセプターサブタイプ(Y1、Y2、Y4、及びY5)を通じて作用する中枢神経系及び末梢神経系の両方の種々の部分で複数の作用を有する非常に広範に散在するニューロペプチドである。主要なNPYレセプターは、概してNPYニューロンの「作用」を伝えるシナプス後レセプターであるY1レセプター、及び概してシナプス前の抑制性レセプターであるY2レセプターである。これは、NPYニューロン−これはメラノコルチンレセプターアンタゴニスト/逆アゴニストAgRP(アグーチ関連ペプチド)も発現する−が弓状核の刺激性分枝における一次「感覚」ニューロンとして作用する視床下部でも当てはまる。したがって、食欲及びエネルギー消費を制御するこの「センサー核(sensor nucleus)」では、NPY/AgRPニューロンが、抑制性POMC/CARTニューロンと共に、身体のホルモン状態及び栄養状態を監視している。なぜなら、これらのニューロンは、レプチン及びインスリンのような長期レギュレーター、並びにグレリン及びPYYのような短期レギュレーターの両方の標的であるからである(下記参照)。刺激性NPY/AgRPニューロンは、例えば室傍核−これもまた視床下部である−に突出する。そこでは、シナプス後の標的レセプターはY1レセプター及びY5レセプターであると考えられている。NPYの脳室内(ICV)注射に際してげっ歯類は文字通り破裂するまで食べるので、NPYは食物摂取の増大に関して公知の最も強力な化合物である。NPY/AgRPニューロンからのAgRPは、主としてメラノコルチンレセプタータイプ4(MC-4)に対してアンタゴニストとして作用し、このレセプターに対するPOMC由来ペプチド−主にaMSH−の作用を遮断する。MC4レセプターシグナルは食物摂取のインヒビターとして作用するので、AgRPの作用は、−ちょうどNPY作用のように−食物摂取の刺激性シグナル(すなわち、抑制の抑制)である。NPY/AGRPニューロン上に、抑制性−シナプス前−Y2レセプターが見出されている。このレセプターは、局所的に放出されるNPY及び腸ホルモンPYY−別のPP折り畳みペプチド−の両方の標的である。
【0005】
PYYは、食事の間に−食事のカロリー含量に比例して−遠位小腸及び結腸の腸内分泌細胞から放出され、末梢ではGI管機能に対して作用し、中枢では満腹シグナルとして作用する。末梢では、PYYは、例えば上部GI管の自動運動性、胃酸及び膵外分泌性分泌に対してインヒビター−「回腸遮断(illeal break)」−として機能すると考えられる。中枢では、PYYは、主として、弓状核(血液からアクセスされると考えられている)のNPY/AgRPニューロン上のシナプス前抑制性Y2レセプターに対して作用すると考えられる(Batterhamら、2002 Nature 418: 650-4)。このペプチドはPYY1-36として放出されるが、或る割合−約50%−は、ジペプチジルペプチダーゼ-IV(3つの全てのPP折り畳みペプチド−PP、PYY、及びNPY−と同様にPro又はAlaが2位に見出されるペプチドのN末端からジペプチドを取り除く酵素)による分解産物であるPYY3-36として循環する(Eberleinら、1989 Peptides 10: 797-803)。したがって、循環中のPYYは、PYY1-36(これはY1レセプター及びY2レセプターの両方に対して作用し、Y4及びY5にも種々の親和性で作用する)とPYY3-36(Y2レセプターに関する親和性より低い親和性をY1レセプター、Y4レセプター及びY5レセプターに対して有する非常に強力なY2アゴニスト)の混合物である。下記のYレセプター効力アッセイにおいて、PYY3-36は、Y4レセプターに対してよりも、Y2レセプターに対して10,000倍を超えて、より強力である。
【0006】
PPは、特に食物摂取により誘発される迷走神経のコリン作動性刺激によってほぼ独占的に支配される膵島の内分泌細胞から放出されるホルモンである(Schwartz 1983 Gastroenterology 85:1411-25)。PPは胃腸管に対して種々の効果を有するが、これらのいずれも単離した細胞及び器官では観察されず、全てが無傷の迷走神経供給に依存しているようである(Schwartz 1983 Gastroenterology 85:1411-25)。このことと一致して、PPレセプター(Y4レセプターと呼ばれる)は脳幹に位置し、迷走運動ニューロン−この活性化はPPの末梢効果を生じる−及び孤束核(NTS)−この活性化は満腹ホルモンとしてのPPの効果を生じる−で強力に発現する(Whitecombら、1990 Am.J.Physiol. 259: G687-91;Larsen & Kristensen 1997 Brain Res.Mol.Brain Res 48: 1-6)。血液脳関門は末梢からの種々のホルモンが感知されるこの領域で「漏れやすい(leaky)」ので、血液からのPPは脳のこの領域に自由に出入りできることに留意すべきである。最近、食物摂取に対するPPの効果の一部は、弓状核のニューロン−特にPOMC/CARTニューロン−に対する作用を通じて媒介されていると主張されている(Batterhamら、2004 Abstract 3.3 International NPY Symposium in Coimbra, Portugal)。PPはY4レセプターを通じて作用し、このレセプターに対してナノモルの親和性を有するPYY及びNPYとは対照的にPPはナノモル未満の親和性を有する(Michelら、1998 Pharmacol. Rev. 50: 143-150)。PPはまた、Y5レセプターに対して相当の親和性を有するが、このことは、このレセプターが特に発現しているCNSの細胞へのアクセスを欠いているため、及びPPに関する比較的低い親和性のために、循環PPに関しては生理学的に重要である可能性は低い。
【0007】
PP折り畳みペプチドレセプター
ヒトには、4つの十分に確立されたタイプのPP折り畳みペプチドレセプター:Y1、Y2、Y4及びY5が存在し、これらは全て100倍の親和性の範囲内でNPY1-36及びPYY1-36を認識する。かつては、PYYよりNPYを嗜好するとされたY3レセプタータイプが示唆されたが、今日ではこれは真のレセプターサブタイプとして受け入れられていない(Michelら、1998 Pharmacol.Rev. 50: 143-150)。Y6レセプターサブタイプがクローニングされており、これは、ヒトで、TM-VII並びにレセプターテイルを欠くトランケート型で発現され、その結果少なくともそのままでは機能的レセプター分子を形成しないようである。
【0008】
Y1レセプター − 親和性研究により、Y1はNPY及びPYYと等しく親密に結合し、基本的にはPPに結合しないことが示唆されている。Y1についての親和性は、PP折り畳み分子(NPY/PYY)の両端の配列の同一性‐例えば残基Tyr1及びPro2が必要である‐に依存し、ちょうど正しい方式で提示されている両ペプチド末端に依存している。C末端において、いくつかの残基の側鎖が必須であり、Y1レセプターは、‐Y2レセプターではなくY5レセプター及びY4レセプターのように‐34位(通常Gln)におけるある種の置換(例えばPro)を寛容する(Fuhlendorffら、1990 J.Biol.Chem. 265: 11706-12、Schwartzら、1990 Annals NY Acad.Sci. 61: 35-47)。Y1レセプター及びY2レセプターに必要とされる要件に関する、いくつかの構造‐機能の研究が報告されている(Beck-Sickingerら、1994 Eur.J.Biochem. 225: 947-58; Beck-Sickinger及びJung 1995 Biopolymers 37: 123-42; Sollら、2001 Eur.J.Biochem. 268: 2828-37)。
【0009】
Y2レセプター − 親和性研究により、Y2はNPY及びPYYと等しく親密に結合し、基本的にはPPに結合しないことが示唆されている。Y2レセプターは、特にPP折り畳みペプチド(NPY/PYY)のC末端を必要とする。したがって、長いC末端フラグメント‐例えばNPY13-36まで(全α‐ヘリックス+C末端ヘキサペプチド)‐は、比較的高い親和性で、すなわち完全長ペプチドの親和性の10倍以内までで認識される(Sheikhら、1989 FEBS Lett. 245: 209-14, Sheikhら、1989 J.Biol.Chem. 264: 6648-54)。したがって、Y1レセプターへの結合を排除する様々なN末端の欠失は、なおY2レセプターへの結合をある程度保存する。しかしながら、C末端フラグメントの親和性は、NPY/PYYと比較して、比較的長いフラグメントに関してでさえ、約10倍減少する。NPY及びPYYの34位のGln残基は、Y2レセプターのリガンド認識に大いに重要である(Schwartzら、1990 Annals NY Acad.Sci. 611: 35-47)。
【0010】
Y4レセプター − 親和性研究により、Y4はPPに血漿中で見出される濃度に相当するナノモル未満の親和性で結合する一方、NPY及びPYYはよりずっと低い親和性で認識されることが示唆されている。このような研究は、Y4レセプターが、PP折り畳みペプチドのC末端に大いに依存していること、及び比較的短いN末端の欠失がリガンドの親和性を損なうことを示唆する。Y4レセプターに関するいくつかの構造活性の研究が報告されている(Gehlertら、1996 Mol.Pharmacol.50: 112-18; Walkerら、1997 Peptides 18: 609-12)。
【0011】
Y5レセプター − 親和性研究により、Y5はNPY及びPYYに等しく親密に結合し、PPにもより低い(が、このホルモンの通常の循環レベルを下回る)親和性で結合することが示唆されている。PYY3-36もまた、Y5レセプターによって十分に認識されるが、このレセプターは、このペプチドが末梢に投与されたときに容易に該レセプターにアクセスできないCNSにおいてかなりの程度で発現される。
【0012】
上記の要約から、天然のPP折り畳みYレセプターペプチドアゴニストが様々なYレセプターについての種々の選択性プロフィールを有することが明らかである。国際特許出願WO 2005/089786及びWO 2007/038942は、Y1レセプター及びY2レセプターよりもY4レセプターにて有利な選択性プロフィールを有する改変PP折り畳みペプチドを作製できることを示す。例えば、それら公開の開示に従って、Y1レセプターよりもY4レセプターにて少なくとも200倍より大きな効力、及びY2レセプターよりもY4レセプターにて少なくとも1000倍より大きな効力を有するYレセプターペプチドアゴニストが作製されている。この関係において、物質の特定レセプターへの結合親和性は、通常、当該レセプターにおける物質の効力を予見させるものでも、当該レセプターにおける物質の機能を予見させるものでもなく、すなわち、物質がアゴニスト、アンタゴニスト、部分的アゴニスト又はその他の機能を有するかどうかを予見させるものではないことに注意すべきである。
【0013】
特定レセプターへのペプチドの親和性は、例えば、IC50値又はKi若しくはKd値として与えられ、特定の限定しない例として、アッセイ、例えば競争結合アッセイで測定される。IC50値は、‐所与の関連するレセプターについて‐、Kdよりもはるかに低い量で用いられる放射活性リガンドを、当該放射性リガンドについて50%まで置換するペプチドの濃度に相当する。
【0014】
インビトロでの化合物の効力は、EC50値、すなわち、所与のレセプターに関連するシグナル伝達アッセイ、例えば本明細書に記載される効力アッセイで決定される最大限達成可能な効果の50%をもたらす濃度によって定義される。
【0015】
粘膜機能への損傷
粘膜は、胃腸管の最も内側の層であり、管腔又は管状器官の空間を取り巻く。この層は、食物(又は食塊)と直接接触する役割を有し、吸収を担い、消化の重要なプロセスである。
【0016】
粘膜は、胃腸管の各器官に高度に特化されており、胃で低pHに直面し、小腸(上部の腸)で多数の異なった物質を吸収し、大腸(下部の腸)で一定量の水も吸収する。
【0017】
化学療法は、悪性障害を罹患する患者の生存を改善するのに寄与している。末梢血幹細胞レスキューは、抗ガン剤治療の用量の制限を改善できるが、腸粘膜の細胞毒性は、ガン治療について用量制限毒性であり得る。放射線及び高用量の抗ガン剤は、重篤な粘膜炎を引き起こし、これは、患者に疼痛及び下痢の苦痛を与えるだけでなく、感染症のリスクをも増加させる。
粘膜炎は、通常、ガンについての細胞毒性化学療法及び放射線療法による治療の有害効果としての、疼痛性の炎症及び消化器系の被蓋粘膜の潰瘍形成である。
【0018】
小腸への急性放射線損傷は、腹部の放射線曝露後の動物モデルにおいて、広く文献で立証されている。それは前駆細胞区画における細胞消失(上皮再生障害、絨毛萎縮)、微小血管の内皮細胞死(局所虚血)及び粘膜炎症(バリア性の喪失、上皮異型/粘膜の潰瘍形成)によって特徴づけられる。
【0019】
急性放射線性腸炎又は放射線誘導性腸管機能不全は、放射線治療を行っている患者の75%で起こり、典型的には、治療の二週目又は三週目に起こる。症状は、不十分なガン治療及び/若しくは一日当たりの用量低下を原因とする全治療期間の増加又は治療中止及び生活の質の低下、そして死すらもたらし得る深刻かつ恐ろしい副作用である腹部痙攣及び下痢によって特徴付けることができる。5〜15%の患者において、状態は慢性的となる。不快感に加えて、これら副作用は、全治療期間の増加によって、放射線治療からの療法的恩恵を減少させる(MacNaughton, W.K.Aliment. Pharmacol. Ther. 2000, 14, 523-528; Nguyen, N.P.; Antoine, J.E.; Dutta, S.; Karlsson, U.; Sallah, S. Cancer 2002, 95, 1151-1163; Gwede, C.K. Sem. Nursing Oncol. 2003, 19, 6-10.)。
【0020】
放射線への曝露は、いくつかの他の手段によって起こり得る。該手段は、通常のバックグラウンドレベルの放射線への曝露(例えば宇宙線又は地球上に存在する、自然に発生するアイソトープによる放射線)又は環境的な放射線の上昇(医療施設又は原子力発電所内の人物の職業上の曝露及び医療診断の間のX線への曝露)を含む。別の潜在的な、ある種の放射線への曝露源は、偶発的又は意図的な放射活性物質の放出、例えば事故、又はテロリストの活動の結果、例えばいわゆる「ダーティー・ボム」(ある領域を汚染するために放射活性物質を拡散することを意図する起爆装置)のような核兵器の結果である。
【0021】
例えば潰瘍性大腸炎又はクローン病が原因の腸の炎症並びに虚血及びその後の腸粘膜の再潅流は、結腸の適切な機能への損傷ももたらす。
【0022】
下痢は、放射線療法、放射線曝露、細胞毒性化学療法、炎症又は腸粘膜の虚血‐再潅流に起因する腸機能への損傷の主な徴候である。
【0023】
Yレセプターペプチド及び粘膜
腸の分泌過多
インビボの研究は、健常なヒト対象へのPYY又はNPYの輸注が、プロスタグランジンE2又は血管作用性小腸ポリペプチド(VIP)のいずれかによって予め刺激された結腸の分泌過多を和らげることを示している(Holzer-Petsche U, Petritsch W, Hinterleitner T, Eherer A, Sperk G, Krejs GJ. Gastroenterology 1991; 101:325-30 及び Playfold RJ, Domin J, Parmar KB, Tatemoto K, Bloom SR, Calam J. Lancet 1990;335:1555-7)。最近の研究は、PYY、PYY(3-36)、NPY及びPPが抗分泌性であり、これらペプチドが、ヒト及びマウスの組織において、同一のレパートリーのYレセプター(Y1、Y2及びY4)を刺激することを示している(Cox HM, Pollock EL, Tough IR, Herzog H. Peptides 2001;22:445-52; Cox HM, Tough IR. Br J Pharmacol 2002; 135: 1505-12.; Hyland NP, Sjoberg F, Tough IR, Herzog H, Cox HM. Br J Pharmacol 2003; 139: 863-71)。これは、主に、単一のYレセプター(Y1、Y2若しくはY4)又は単一のペプチドKO(「ノックアウト」)組織のいずれかを欠損している遺伝子改変マウスから単離した組織を利用した機能研究によって証明されている。例えば、PPは、ヒト組織及びマウス結腸において、唯一上皮に位置するY4レセプターを通して抗分泌性効果を媒介する。
【0024】
EP 1902730は、分泌過多性下痢の治療において、天然のY2レセプター選択性アゴニストであるNPYの使用に関する。
上述のように、Y1レセプター及びY2レセプターと比較してY4レセプターに選択的なアゴニストであるPP折り畳みペプチドに関する国際特許出願WO 2005/089786及びWO 2007/038942は、それらY4選択性ペプチドの抗分泌性効果及び分泌過多性下痢の治療におけるそれらの必然的な使用についても言及する。
【0025】
放射線療法、放射線曝露、細胞毒性化学療法、炎症又は腸粘膜の虚血‐再潅流に起因する粘膜消失及び粘膜機能への損傷も下痢をもたらすが、根本的な原因は粘膜の分泌過多ではない。YレセプターのPP折り畳みペプチドアゴニストの抗分泌性効果は、放射線療法、放射線曝露、細胞毒性化学療法、炎症又は虚血‐再潅流が原因の粘膜細胞消失及び粘膜機能への損傷を治療するためのそれら物質の能力を予見させるものではない。
【0026】
しかしながら、国際特許出願WO 03/105763は、炎症性腸疾患に関する動物モデルにおいて、結腸損傷を減少させる、PYY[3-36]、Y2レセプター特異的アゴニスト(上記を参照されたい)の能力を証明する。これは、Y2レセプターの刺激が、根本的な原因が腸における正常細胞の回復機能の減少である粘膜消失及び粘膜機能喪失に対する保護のための戦略であり得ることを示唆する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0027】
発明の簡単な要約
本発明は、Y1レセプター及びY2レセプターと比較してY4レセプターに選択的であるY4レセプターアゴニストが、放射線療法、放射線曝露、細胞毒性化学療法、炎症又は腸粘膜の虚血‐再潅流に起因する腸(intestine)(すなわち腸(bowel))機能の喪失に対する保護効果を有するという発見に基づいている。
【課題を解決するための手段】
【0028】
本発明の詳細な説明
ある観点では、本発明は、放射線療法、放射線曝露、細胞毒性化学療法、炎症又は腸粘膜の虚血‐再潅流に起因する腸機能への損傷の予防及び/又は治療或いは該損傷の治療のための組成物の製造において、Y1レセプターよりもY4レセプターにて少なくとも50倍より大きな効力を有し、Y2レセプターよりもY4レセプターにて少なくとも1000倍より大きな効力を有するY4レセプターアゴニストの使用を提供する。
腸機能への損傷は、炎症性腸疾患、例えば潰瘍性結腸炎又はクローン病に起因し得る。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明に従って用いられるY4レセプターアゴニストは、Y1レセプター及びY2レセプターと比較してY4レセプターを選択的に刺激するものである。本発明の目的のために、適するY4選択性アゴニストは、Y1レセプターよりもY4レセプターにて少なくとも50倍、好ましくは100倍、そしてより好ましくは200倍より大きな効力を有し、Y2レセプターよりもY4レセプターにて少なくとも1000倍より大きな効力を有する。Yレセプターでのアゴニストの効力の測定のためのアッセイは公知であるが、下記の実施例の節に記載される効力アッセイは、所与のY4レセプターアゴニストが本明細書に明記される選択性の基準を満たすかどうかの決定のために意図されたアッセイである。
【0031】
好ましくは、本発明に従って用いられるY4レセプターアゴニストは、Y1レセプターよりもY4レセプターにて少なくとも200倍より大きな効力を有し、Y2レセプターよりもY4レセプターにて少なくとも1000倍より大きな効力を有する。
【0032】
本発明は、任意の特定のY4選択性レセプターアゴニストの使用に制限されない。本明細書の選択性の定義を満たしている任意のこのようなアゴニストが用いられ得る。国際特許出願WO 2005/089786(この開示は、参照により本明細書中に組み込まれる)は、特徴においてペプチド性であるY4選択性レセプターアゴニストの設計に関する原理及び指示を与え、本明細書のY4レセプター選択性効力の定義を満たすそれら原理及び指示に従って作製された任意のペプチドアゴニストが用いられ得る。
【0033】
WO 2005/089786の開示によれば、天然のhPP Y4レセプターアゴニストの改変は、本明細書の選択性の定義を満たすY4レセプターアゴニストを生じることができる。
【0034】
以下の考察について:
本明細書中で使用する表記 hPP は、hPP配列(配列番号3)をいう。よって、「[Ala30]hPP」の名称は、30位でロイシンに代えてアラニンに置換されているヒトPP配列(配列番号3)を明記する。
本明細書中で使用する表記 PP2-36 は、最初のN末端アミノ酸(Ala)が欠失したPP配列(配列番号3)をいう。しかし、PP2-36の位置の番号付けでは、完全長PP (配列番号3)を参照する。よって、「[Ala30]PP2-36」の名称は、Ala1を欠失し、配列番号3の30位でロイシンに代えてアラニンに置換されているヒトPP配列(配列番号3)を明記する。
本明細書で使用する表記PP3-36は、最初の2つのN末端アミノ酸残基(Ala及びPro)を欠失したPP配列(配列番号3)をいう。しかし、PP3-36の位置の番号付けでは、完全長PP(配列番号3)を参照する。よって、「[Ala30]PP3-36」の名称は、Ala1及びPro2を欠失し、配列番号3の30位でロイシンに代えてアラニンに置換されているヒトPP配列(配列番号3)を明記する。
【0035】
本明細書中で、アミノ酸への言及は、一般名又は略称により、例えばバリン(Val)、ロイシン(Leu)、イソロイシン(Ile)、メチオニン(Met)、フェニルアラニン(Phe)、アスパラギン(Asn)、グルタミン酸(Glu)、グルタミン(Gln)、ヒスチジン(His)、リジン(Lys)、アルギニン(Arg)、アスパラギン酸(Asp)、グリシン(Gly)、アラニン(Ala)、セリン(Ser)、スレオニン(Thr)、チロシン(Tyr)、トリプトファン(Trp)、システイン(Cys)及びプロリン(Pro)によりなされる。立体異性体型を特定せずに一般名又は略称で言及する場合、問題のアミノ酸は、L体として理解されるべきである。
【0036】
本発明で使用されるY4選択性レセプターアゴニストは、本明細書の配列番号3〜35のもの及びそれらの保存的置換されたアナログを含む。本明細書中で使用される用語「保存的置換」は、1又はそれより多いアミノ酸が生物学的に類似する別の残基により置換されることを指称する。例としては、類似する特徴を有するアミノ酸残基同士(例えば小さいアミノ酸、酸性アミノ酸、極性アミノ酸、塩基性アミノ酸、疎水性アミノ酸、及び芳香族アミノ酸)の置換が挙げられる。本発明における使用に適切な保存的アミノ酸置換の限定的でない例としては、下記の表に記載のもの、及び元の残基に類似する特徴を有する非天然αアミノ酸による同類置換(analogous substitution)が挙げられる。例えば、下記に論ずるように、Met残基は、Metの生物学的同配体であるが−Metとは対照的に−容易には酸化されないノルロイシン(Nle)で置換され得る。内因性の哺乳動物ペプチド及びタンパク質では通常は見出されない残基での保存的置換の別の例は、Arg又はLysの、例えばオルニチン、カナバニン、アミノエチルシステイン、又はその他の塩基性アミノ酸での保存的置換である。ペプチド及びタンパク質における表現型的にサイレントな置換に関する更なる情報については、例えばBowieら、Science 247, 1306-1310, 1990を参照。
【0037】
【表1】

【0038】
本発明の保存的置換アナログは、例えば10までの保存的置換を有していてもよく、別の実施態様では5までの保存的置換を、なお別の実施態様では3又はそれより少ない保存的置換を有していてもよい。好ましくは、配列番号3〜35の保存的置換アナログは、それら配列の5つのN末端アミノ酸及びC末端アミノ酸を維持する。
【0039】
hPP配列において、Asp10は特に、溶液中で環化して、サイクリックイミデートを形成する傾向にあり、サイクリックイミデートの環が開裂して、立体化学の組換えに伴ってα‐アスパルテート及びβ‐アスパルテートの混合物を形成する。例えばペプチド内で静電ポテンシャル分布を保存する残基による、この位置でのAspの保存的置換は、したがって、ペプチドの全体的な安定性及び可溶性がそれによって保存されるので、有益である。Gluは、Aspの適切な置換である。10位において、Gluは類似の環化/環開裂をせず、γ‐Gluを形成する。これは、その対照物であるAsp10と比べて、薬剤としてペプチドのかさ及び溶液安定性を改善する有益な効果を有する。溶液安定性の改善は、合成収率の増加をもたらし、密接に関連するβ‐Asp不純物からの、面倒で、高価で、無駄な生成物を生ずる、所望の生成物の精製のための要件を減らす。
【0040】
通常のhPP配列内のMet17及びMet30残基は、溶液中での貯蔵の際に、潜在的に酸化することができる。Met30は、したがって、この変化の傾向にない残基、例えばThr、Asn、Glu又はNleで保存的置換され得る。Met17は、この位置での酸化を妨げ、脂肪族側鎖構造を保存するLeu又はNleで保存的に置き換えられ得る。
【0041】
通常のhPP配列内のAla1-Pro2モチーフの存在は、ペプチドにβ‐ケトピペラジン分解経路への固有の不安定性を与える。β‐ケトピペラジン分解経路では、末端アミノ官能基がターン誘導性Proにより安定化される6員環遷移状態により「かみ返す(bite back)」ことができ、分子内のアミド基転移をプロリンカルボキサミド官能基の位置で受けて、β‐ケトピペラジン及びhPP3-36の形成が導かれる。この経路は、凍結乾燥物の蓄積によって形成された分解生成物、及び溶液中のAla1-Pro2配列を含むペプチドの著しい分解をもたらす。したがって、本発明で使用される好ましいY4選択性アゴニストにおいて、このことは、PP配列からのAla1の除去によって妨げられる。このことは、これらペプチドの安定性を、溶液中で及び凍結乾燥物としての両方において改善し、したがって、医薬としてのそれらの特性を改善する有益な効果を有する。
更に、PP配列からのAla1の除去は、Y1レセプターへのペプチドの効力を減少させ、したがって、Y1レセプターとY4レセプターとの間の選択性を増加させる。
【0042】
上記の理由のために、本発明で使用される好ましいY4選択性アゴニストは、hPP、hPP2-36又はhPP3-36配列を有するが、上記で考察された10位、17位及び30位の1つ又はそれ以上における目的にかなう保存的改変を伴う。
【0043】
本発明による使用に適切な、WO 2005/089786及びWO 2007/038942において言及された特定のY4選択性レセプターアゴニストは以下を含む:
hPP(配列番号3)、hPP2-36(配列番号4)及びhPP3-36(配列番号5)
[Ala30]hPP2-36(配列番号6)及び[Ala30]hPP(配列番号7)及び[Ala30]hPP3-36(配列番号8)
[Thr30]hPP2-36(配列番号9)及び[Thr30h]PP(配列番号10)及び[Thr30]hPP3-36(配列番号11)
[Asn30]hPP2-36(配列番号12)及び[Asn30]hPP(配列番号13)及び[Asn30]hPP3-36(配列番号14)
[Gln30]hPP2-36(配列番号15)及び[Gln30]hPP(配列番号16)及び[Gln30]hPP3-36(配列番号17)
[Glu10]hPP2-36(配列番号18)及び[Glu10]hPP(配列番号19)及び[Glu10]hPP3-36(配列番号20)
[Glu10, Leu17, Thr30]hPP2-36(配列番号21)及び[Glu10, Leu17, Thr30]hPP(配列番号22)及び[Glu10, Leu17, Thr30]hPP3-36(配列番号23)
[Nle17, Nle30]hPP2-36(配列番号24)及び[Nle17, Nle30]hPP(配列番号25)及び[Nle17, Nle30]hPP3-36(配列番号26)
[Glu10, Nle17, Nle30]hPP2-36(配列番号27)及び[Glu10, Nle17, Nle30]hPP(配列番号28)及び[Glu10, Nle17, Nle30]hPP3-36(配列番号29)
[Leu17; Thr30]hPP2-36(配列番号30)及び[Leu17; Thr30]hPP(配列番号31)及び[Leu17; Thr30]hPP3-36(配列番号32)
[Leu17; Ser30]hPP2-36(配列番号33)及び[Leu17; Ser30]hPP(配列番号34)及び[Leu17; Ser30]hPP3-36(配列番号35)。
【0044】
本発明による使用のための、一般に好ましいY4選択性レセプターアゴニストは、PP2-36(配列番号4)である。
ペプチド療法化合物の技術分野で公知のように、基礎ペプチド構造の様々な改変が、それらの安定性又はインビボ特性を改変する目的でなされ得る。本発明における使用のためにY4選択性アゴニストに存在し得るこのような改変の例は、上記の配列番号3〜35のもの、上記で論じられる保存的置換、下記で論じられるものを含む。
【0045】
N-アシル化アナログ
本発明に係るY4選択性アゴニストは、アミノペプチダーゼに対する耐性を付与するためにN末端でアシル化されてもよい。例えば、アシル化は、2〜24炭素原子を有する炭素鎖を用いるものであってもよく、N末端アセチル化は特定の例である。
【0046】
共有結合性機能モチーフを有するアナログ
種々の改変が、薬物動態学的特性、薬力学的特性及び代謝特性の改善を目的として、本発明に係るY4選択性アゴニストになされ得る。このような改変としては、アゴニストを、それ自体はペプチド又はタンパク質医薬分野で公知の機能集団(functional groupings)(モチーフとしても知られる)に連結することが含まれ得る。本発明に係るアゴニストの場合に特に有益な3つの特定の改変は、血清アルブミン結合モチーフ又はグリコサミノグリカン(GAG)結合モチーフとの連結、又はPEG化である。
【0047】
血清アルブミン結合モチーフ
血清アルブミン結合モチーフは、代表的には、投与の際に体内で延長された滞留を可能にするため又は他の理由で組み込まれる親油性基であり、これは、種々の公知の方法で、ペプチド性又はタンパク質性の分子に、例えばi)共有結合性連結を介して、例えば側鎖アミノ酸残基上に存在する官能基に、ii)当該ペプチド又は適切な誘導体化ペプチド中に挿入された官能基を介して、iii)当該ペプチドの一体化部分(integrated part)として、カップリングされ得る。例えば、WO 96/29344 (Novo Nordisk A/S)及びP. Kurtzhalsら、1995 Biochemical J. 312: 725-31は、本発明に係るアゴニストの場合に用いることができる多くの適切な親油性改変を記載している。
【0048】
適切な親油性基には、任意に置換されていてもよい、飽和又は不飽和の、直鎖又は分枝鎖の10〜24炭素原子の炭化水素基が挙げられる。このような基は、例えばアゴニストの主鎖中のアミノ酸残基の側鎖への又はPP折り畳み模擬体アゴニストの主鎖中の非ペプチド性リンカー基の主鎖炭素若しくは主鎖炭素からの分枝へのエーテル結合、チオエーテル結合、アミノ結合、エステル結合又はアミド結合により、アゴニストの主鎖に対する側鎖を形成していてもよいし、そのような側鎖の一部を形成していてもよい。親油性基の付着のための化学ストラテジーは、重要でないが、親油性基を含む以下の側鎖が、アゴニストの主
鎖炭素又はそれからの適切な分枝に連結できる例である:
【0049】
CH3(CH2)nCH(COOH)NH-CO(CH2)2CONH- (式中、nは9〜15の整数である)、
CH3(CH2)rCO-NHCH(COOH)(CH2)2CONH- (式中、rは9〜15の整数である)、
CH3(CH2)sCO-NHCH((CH2)2COOH)CONH- (式中、sは9〜15の整数である)、
CH3(CH2)mCONH- (式中、mは8〜18の整数である)、
-NHCOCH((CH2)2COOH)NH-CO(CH2)pCH3 (式中、pは10〜16の整数である)、
-NHCO(CH2)2CH(COOH)NH-CO(CH2)qCH3 (式中、qは10〜16の整数である)、
CH3(CH2)nCH(COOH)NHCO- (式中、nは9〜15の整数である)、
CH3(CH2)pNHCO- (式中、pは10〜18の整数である)、
-CONHCH(COOH)(CH2)4NH-CO(CH2)mCH3 (式中、mは8〜18の整数である)、
-CONHCH(COOH)(CH2)4NH-COCH((CH2)2COOH)NH-CO(CH2)pCH3 (式中、pは10〜16の整数である)、
-CONHCH(COOH)(CH2)4NH-CO(CH2)2CH(COOH)NH-CO(CH2)qCH3 (式中、qは10〜16の整数である)、及び
部分的又は完全に水素化されたシクロペンタノフェナントレン骨格。
【0050】
1つの化学合成ストラテジーにおいて、親油性基含有側鎖は、アゴニストの主鎖の残基の側鎖に存在するアミノ基をアシル化するC12、C14、C16又はC18のアシル基、例えばテトラデカノイル基である。
【0051】
記載のように、改善された血清結合性特徴を提供するために使用されるアゴニストの改変は、一般に(特には上記に列挙した特定のアゴニストの場合に)適用され得るストラテジーである。したがって、適切な改変アゴニストとしては、[N-(N'-テトラデカノイル)-γグルタモイル-Lys13,Ala30]PP2-36及び[Glu10,N-(N'-ヘキサデカノイル)-γグルタモイル-Lys13,Leu17,Thr30]PP2-36並びにこれらの保存的置換アナログが挙げられる。
【0052】
GAG結合
上記の親油性血清結合モチーフの場合と同様に、本発明に係るアゴニストは、アゴニストの主鎖に対する側鎖として又はそのような側鎖の一部としてGAG結合モチーフを組み込むことによって改変されていてもよい。この方法での組込みのための公知のGAG結合モチーフとしては、アミノ酸配列XBBXBX及び/又はXBBBXXBX (式中、Bは塩基性アミノ酸残基であり、Xは任意のアミノ酸残基である)が挙げられる。複数、例えば3つのこのような配列が、コンカテマー(直鎖)又はデンドリマー(分枝鎖)の様式で組み込まれていてもよい。具体的なコンカテマーGAGモチーフとしては、Ala-Arg-Arg-Arg-Ala-Ala-Arg-Ala-Ala-Arg-Arg-Arg-Ala-Ala-Arg-Ala及びAla-Arg-Arg-Arg-Ala-Ala-Arg-Ala-Ala-Arg-Arg-Arg-Ala‐Ala-Arg-Ala-Ala-Arg-Arg-Arg-Ala-Ala-Arg-Alaが挙げられる(この両方が、例えばコンカテマーGAG結合モチーフのC末端とアゴニストの主鎖アミノ酸の側鎖中のアミノ基、例えばアゴニスト[Lys13,Ala30]PP2-36又は[Glu10,Lys13,Leu17,Thr30]PP2-36のεアミノ基との間に形成されるアミド結合を通じてカップリングされ得る)。
【0053】
主鎖残基に対する側鎖として又はそのような側鎖の一部としてアゴニストに付着する代わりに、GAGモチーフは、アゴニストのC末端又は(好ましくは)N末端に、直接にか又はリンカー基を介してかのいずれかで共有結合的に連結していてもよい。ここでまた、GAG結合モチーフは、アミノ酸配列XBBXBX及び/又はXBBBXXBX (式中、Bは塩基性アミノ酸残基であり、Xは任意のアミノ酸残基である)、例えば配列[XBBBXXBX]n (式中、nは1〜5であり、Bは塩基性アミノ酸残基であり、Xは任意のアミノ酸残基である)を含んでなってもよい。このようなコンカテマー反復は、GAGに結合すると、αヘリックスを形成する傾向にあり、その結果、C末端ヘキサペプチド/最後のαヘリックスターンと融合すると
、当該ターンを安定化することができ、そのことによりY4レセプター認識に最適な方法でこの組合せ構造を提示することができる。このタイプのアゴニストの具体例は、[XBBBXXBX-XBBBXXBX]PP又は[XBBBXXBX-XBBBXXBX-XBBBXXBX]PP (式中、Bは塩基性アミノ酸残基であり、Xは任意のアミノ酸残基である)、特には、Ala-Arg-Arg-Arg-Ala-Ala-Arg-Ala-Ala-Arg-Arg-Arg-Ala-Ala-Arg-Ala-Ala-Arg-Arg-Arg-Ala-Ala-Arg-Ala-[Ala30]PP2-36である。
【0054】
本発明に係るY4選択性アゴニストは、とりわけ、延長した曝露が望ましい適応症において有用である。このような適応症のためには、具体的には、アゴニストは、好ましくは、上記のようなグリコサミノグリカン(GAG)結合モチーフを含んでなる。このようなモチーフにより、確実に、アゴニストは細胞外マトリクス中のGAGに結合し、そのことにより、その組織中のY4レセプターの延長された局所的曝露を確実にする。成長因子、ケモカインなどがパッチ状の塩基性アミノ酸(これがGAGの酸性糖鎖と相互作用する)を介してGAGに結合する。成長因子上のこれらの正に荷電したエピトープは、通常、塩基性残基の側鎖から構成されている。塩基性残基の側鎖は、必ずしも配列中で連続して位置していないが、二次構造要素(例えばαヘリックス又はターン)により、又は当該タンパク質の三次元構造全体により近接して提示されることが多い。上記のような或る種のGAG結合性直線配列、例えばXBBXBX及びXBBBXXBX (式中、Bは塩基性残基を表す)が記載されている(Hilemanら、Bioassays 1998, 20: 156-67)。これらセグメントは、GAGへの結合に際してαヘリックスを形成することが円偏光二色性により示されている。このような配列が、例えばコンカテマー又はデンドリマーの構築物(ここでは、例えば3つのこのような配列、例えば各々ARRRAARA配列が提示されている)で配置されている場合、得られる24マーペプチド、例えば、ARRRAARA-ARRRAARA-ARRRAARAにより、高分子量ポリリジンに類似する細胞外マトリクス中での保持が確実にされる。すなわち、これは、4時間の灌流期間の間に洗い流されない(Sakharovら、FEBS Lett 2003, 27: 6-10)。
【0055】
よって、成長因子及びケモカインは、当然、2つのタイプの結合モチーフを有して構築される:1つは、シグナル伝達の達成を介するレセプターの結合モチーフであり、1つは、付着及び長期持続性局所活性の達成を介するGAGの結合モチーフである。PYY及びNPYのようなペプチドはニューロペプチド及びホルモンであり、これらは組織からかなり迅速に洗い流され、長期持続性局所活性に最適化されていない。GAG結合モチーフを本発明によるY4選択性アゴニストに付着させることにより、成長因子及びケモカインに類似する二機能性分子が、PP折り畳みペプチド部分のレセプター結合エピトープ及びGAG結合モチーフの両方を有して構築される。このようなアゴニストの例は、[N-[(Ala-Arg-Arg-Arg-Ala-Ala-Ala-Arg-Ala)3]-Lys13,Ala30]PP2-36である。
【0056】
PEG化
PEG化において、ポリアルキレンオキシド基は、投与後の身体内での実効半減期を改善するために、ペプチド性又はタンパク質性の薬物に共有結合的にカップリングされる。この用語は、このようなプロセスで使用される好ましいポリアルキレンオキシドに由来する。すなわち、この用語は、エチレングリコール−ポリエチレングリコール、又は「PEG」に由来する。
【0057】
適切なPEG基は、任意の好都合な化学により、アゴニストに、例えば当該アゴニストの主鎖アミノ酸残基を介して、付着されてもよい。例えば、例えばPEGのような分子に関しては、頻繁に使用される付着基は、リジンのε-アミノ基又はN末端アミノ基である。その他の付着基としては、遊離カルボン酸基(例えば、C末端アミノ酸残基のもの又はアスパラギン酸若しくはグルタミン酸残基のもの)、適切に活性化されたカルボニル基、メルカプト基(例えば、システイン残基のもの)、芳香族酸残基(例えば、Phe、Tyr、Trp)、ヒドロキシ基(例えば、Ser、Thr又はOH-Lysのもの)、グアニジン(例えばArg)、イミダゾール(例えばHis)、及び酸化した炭水化物部分が挙げられる。
【0058】
アゴニストは、PEG化されている場合、通常、1〜5のポリエチレングリコール(PEG)分子、例えば、1、2又は3のPEG分子を含んでなる。各PEG分子は、約5kDa(キロダルトン)〜約100kDaの分子量、例えば約10kDa〜約40kDaの分子量、例えば約12kDaの分子量、好ましくは上限約20kDaの分子量を有し得る。本発明の特定の実施態様では、PEG 40kDa(別名としてPEG40000とも呼ばれる)がPEG化剤である。
【0059】
適切なPEG分子は、Shearwater Polymers, Inc.及びEnzon, Inc.から入手可能であり、SS-PEG、NPC-PEG、アルデヒド-PEG、mPEG-SPA、mPEG-SCM、mPEG-BTC、SC-PEG、トレシル化mPEG(米国特許第5,880,255号)、又はオキシカルボニル-オキシ-N-ジカルボキシイミド-PEG(米国特許第5,122,614号)から選択してもよい。
本発明のPEG化アゴニストの特定の例は、[N-PEG5000-Lys13,Ala30]PP2-36及び[Glu10,N-PEG5000-Lys13,Leu17,Thr30]PP2-36及び[N-PEG20000Lys13]PP2-36、[N-PEG2000Lys13]PP2-36及び[N-PEG40000Lys13]PP2-36である。
【0060】
血清アルブミン、GAG及びPEG
アゴニストに対する改変が血清結合、GAG結合又はPEG化を介する向上した安定性を促進するための基の付着である場合、血清アルブミン結合モチーフ若しくはGAG結合モチーフ又はPEG基は、以下の位置:1位、3位、6位、7位、10位、11位、12位、13位、15位、16位、18位、19位、21位、22位、23位、25位、26位、28位、29位及び32位のいずれかに相当するアゴニストの主鎖炭素の側鎖であってもよいし、又はそのような側鎖の一部を形成していてもよい(しかし、ペプチド[Glu10]PP2-36及び[Glu10,Leu17,Thr30]PP2-36の場合には、10位は利用可能でない)。
【0061】
より大きな生体分子との接合
Y4選択性レセプターアゴニストは、例えばアルブミン又は有益な薬力学的特性若しくは他の型の特性(例えば、減少した腎排泄のような特性)を提供する別のタンパク質若しくは担体分子と連結された融合タンパク質として使用し得る。当該分野で公知のこのような共有結合性付着に使用できる多数の化学的改変及びリンカーが存在する。同様に、使用可能な多数のタンパク質又は担体が存在する。特に、Y4選択性ペプチドアゴニストのアルブミンへの共有結合性付着が好ましく、それは、種々のモチーフを伴う改変に関して本明細書中の他で指摘したPP折り畳み構造中の位置の1つにおいてである。このような融合タンパク質は、種々の半合成技法(ペプチドを本明細書中に記載のようなペプチド合成により作り、生体分子を組換え技術により作ってもよい)により製造することができる。融合タンパク質はまた、全体が、例えばGly-Lys-Arg配列により伸長された前駆体分子(これは、真核細胞で分泌性タンパク質として発現すると生合成酵素により切断され、GlyはC末端Y4レセプター認識配列のC末端Tyr残基上のカルボキシアミドに転換される)として発現される組換え分子として作られてもよい。
【0062】
ヘリックス誘導性ペプチド
本発明に係るアゴニストのN末端のアシル化は、アミノペプチダーゼの作用に対してアゴニストを安定化する手段として言及されている。別の安定化改変として、4〜20アミノ酸残基の安定化ペプチド配列をN末端及び/又はC末端、好ましくはN末端で共有結合性に付着することが挙げられる。このようなペプチド中のアミノ酸残基は、Ala、Leu、Ser、Thr、Tyr、Asn、Gln、Asp、Glu、Lys、Arg、His、Metなどからなる群より選択される。興味深い実施態様において、N末端ペプチド付着は4、5又は6のLys残基を含んでなり、例えばLys-Lys-Lys-Lys-Lys-Lys-[Ala30]PP2-36である。これらは、PP折り畳みペプチドアゴニストのN末端で連結することができる。このような安定化ペプチド伸長の一般的な記載は、WO 99/46283 (Zealand Pharmaceuticals)(参照により本明細書中に組み込まれる)に与えられる。
【0063】
本発明に係るレセプターアゴニストは、周知の方法、例えば合成法、半合成法及び/又は組換え法のような方法により製造されてもよい。このような方法としては、標準的なペプチド製造技法、例えば、溶液合成及び固相合成が挙げられる。当該分野の教科書及び一般的知識に基づいて、当業者は、本アゴニスト及びその誘導体又は改変体を取得するための手順を理解する。
【0064】
効用
本発明によれば、Y4選択性レセプターアゴニスト(例えばPP2-36)が、小腸上皮内のリーベルキューン陰窩内で細胞増殖の増進を誘導できることが見出されている。この観察結果は、Y4選択性レセプターアゴニストの腸機能への恩恵の、少なくとも部分的に根底にあり得るメカニズムを特定する。結腸の上皮質量又は表面積を増加させる物質が、(バリア機能及び腸全体の完全性を回復又は維持すること、感染症、下痢及び敗血症を予防することによって)腸機能の損傷の予防又は治療に用いるために記載されている。したがって、Y4選択性レセプターアゴニストは、例えば、腸粘膜内で起こる潰瘍形成、潰瘍性大腸炎及びクローン病を予防又は治療するのに用いられ得る。上皮の刺激も、腸の切除後及び短腸症候群の場合に有用な処置であり、増殖増進の結果は、栄養の消化及び吸収を改善できる分化した細胞集合の増加である。増殖増進のメカニズムも、腸の再潅流による損傷を予防又は治療するためのY4選択性レセプターアゴニストの使用を示唆する。
【0065】
ある特定の関係において、本発明に従って用いられるY4レセプターアゴニストは、放射線療法、放射線曝露、細胞毒性化学療法、炎症又は腸粘膜の虚血‐再潅流に起因する腸機能の損傷を緩和できる。粘膜細胞消失によって特徴付けられる損傷の場合に、腸細胞の回復を助長することによって、そうなるようである。それゆえ、Y4選択性アゴニストは、細胞毒性損傷の前に、及び/又は細胞毒性損傷と同時に、及び/又は粘膜機能損傷が起こった後に投与されてもよい。別の特定の関係において、本発明による治療は、腸粘膜炎(消化管を裏打ちする粘膜の炎症及び潰瘍形成)、並びにその状態に付随する腹部痙攣及び下痢を緩和する。更に別の関係において、Y4選択性レセプターアゴニストは、腸の虚血/再潅流による損傷の治療に用いられ得る。
【0066】
下痢は、放射線療法、放射線曝露、細胞毒性化学療法、炎症又は腸粘膜の虚血‐再潅流に起因する腸機能の損傷の主な徴候であるから、本発明に従って用いられるY4アゴニストは、一般に下痢の治療への使用に公知の他の物質と組み合わせて投与されてもよい。そのような物質は:ロペラミド、オクトレオチド、アトロピン、アヘンチンキ、ジフェノキシレート、オオバコ、メチルセルロース、ペクチン、活性炭、プロバイオティクス(例えばラクトバシラス・アシドフィラス(Lactobacillus acidophillus))、ラセカドトリル(アセトルファン)、グルタミン、セレコキシブ、抗生物質、漢方、経口アルカリ化物質、サリドマイド、GLP-2アゴニスト、Y2レセプターアゴニスト、5-HT4結合親和性を示さない5-HT1レセプターリガンド、5-HT2レセプターリガンド及び/又は5-HT7レセプターリガンド、CFTRのLPA2レセプターアゴニストのインヒビター、A2Bアデノシンレセプターの選択性アンタゴニスト、トリプトファンヒドロキシラーゼ(TPH)のインヒビター、オピオイドレセプター機能を強化できる化合物、硫化水素(H2S)を放出する部分を含む誘導体、ボンベシン2(BB2)レセプターアンタゴニスト、プロキネクチン2レセプター(PK2)アンタゴニスト、プロキネクチン1レセプター(PK1)アンタゴニスト、セロトニン再取込みのインヒビター(SSRI)、血管内皮成長因子(VEGF)選択性レセプターのチロシンキナーゼインヒビター、バニロイドVR1レセプターのモジュレーター、5HT4レセプターリガンド、δオピオイドレセプターモジュレーター、カリウムチャネルレギュレーター、ホスホリパーゼインヒビター、クロニジン誘導体、テガセロド塩、7,8-飽和-4,5-エポキシ-モルヒナニウ(morphinaniu)の類似体、カルシウムレセプター調節物質、フェニルプロピオンアミド化合物、リファキシミン、5-クロロ-6-(2-イミノピロリジン-1-イル)メチル-2,4(1H,3H)-ピリミジンジオン又はその類似体、硫化水素塩を含む医薬組成物、メチルナルトレキソンの立体異性体、パンテチン、ヒスチジン又はその誘導体、フドステイン、カンナビジオールの非天然(+)-エナンチオマーの合成誘導体、N-(シクロプロピルメチル)-アザシクロアルカン及びそれらを含む組成物、トラマドール、クロトリマゾール及び関連化合物、消化不可能なオリゴ糖を含む。
【0067】
Y4選択性レセプターアゴニストは、経腸(例えば、直腸坐剤投与、又は経口投与‐この場合、アゴニストは、胃を通過して腸内で崩壊することを可能にする腸溶コーティングで被覆されていてもよい)、局所又は非経口経路を含む任意の経路によって投与できる。ある特定の実施態様において、非経口経路が好ましく、静脈内、動脈内、腹腔内、皮下、筋肉内、胸骨内への注射及び注入、並びに舌下、経皮、局所、鼻腔内経路を含む経粘膜によるか、又は例えば肺吸入のような吸入による投与を含む。皮下及び/又は鼻腔内投与、及び/又は直腸坐剤を介した投与、及び/又は経口腸溶コーティングされた剤形の投与は、すべて使用可能な経路である。
【0068】
Y4選択性レセプターアゴニストは、適切なビヒクル中に分散されたそれ自体、又は特定の化合物とともに1つ又はそれ以上の生理学的若しくは医薬的に許容される賦形剤を含む、適切な医薬組成物若しくは化粧用組成物の形態で投与できる。特定の投与経路に適した組成物は、各患者個々について、医療従業者によって容易に決定される。様々な医薬的に許容される担体及びそれらの製剤は、標準的な製剤の論文、例えばE. W. MartinによるRemington's Pharmaceutical Sciencesに記載される。
【0069】
本発明による化合物を含む医薬組成物は、固体組成物、半固体組成物又は流体組成物の形態にあってもよい。非経口的な使用について、組成物は、通常、流体組成物の形態にあるか、又は移植のために半固体若しくは固体の形態にある。
【0070】
滅菌溶液又は分散液である流体組成物は、例えば静脈内、筋肉内、髄腔内、硬膜外、腹腔内又は皮下注射又は注入により利用することができる。本化合物はまた、投与前又は投与時に、例えば滅菌水、生理食塩水又は他の適切な滅菌注射可能な媒体を用いて溶解又は分散され得る滅菌固体組成物として製造されてもよい。
【0071】
流体形態の組成物は、溶液、エマルジョン(ナノエマルジョンを含む)、懸濁液、分散液、リポソーム組成物、混合液、スプレー、又はエアロゾルであり得る(最後の2つのタイプは鼻腔内投与に特に該当する)。
【0072】
溶液又は分散液用の適切な媒体は、通常、水、或いは医薬的に許容される溶媒、例えば油(例えばごま油又はピーナッツ油)、又は例えばプロパノール若しくはイソプロパノールのような有機溶媒をベースにする。本発明による組成物は、医薬的に許容される賦形剤、例えばpH調整剤、(例えば組成物の等張性を生理学的に許容されるレベルに合わせるための)浸透圧的に活性な物質、粘性調整剤、懸濁剤、乳化剤、安定化剤、防腐剤、抗酸化剤などを更に含んでなり得る。好ましい媒体は水である。
【0073】
鼻腔内投与用の組成物はまた、適切な非刺激性ビヒクル、例えばポリエチレングリコール、グリコフロール(glycofurol)などのようなビヒクル、並びに当業者に周知の吸収増強剤(例えば、Remington's Pharmaceutical Scienceを参照)を含有してもよい。
【0074】
非経口投与には、1つの実施態様で、本レセプターアゴニストは、一般には、注射可能な単位剤形(溶液、懸濁液、又はエマルジョン)で所望純度の当該レセプターアゴニストを、医薬的に許容される賦形剤又は担体(すなわち、用いる投薬量及び濃度でレシピエントに対して非毒性であり、組成物の他の成分と適合性であるもの)と混合することにより製剤化することができる。
【0075】
本組成物は、より少ない頻度の投与計画を得るために、投与後の本レセプターアゴニストが制御又は延長された送達をされるように設計されてもよい。通常、1日1〜2回の投与を含む投薬計画が適切であると考えられるが、他の投薬計画、例えばより頻繁な投薬計画及びより頻度の少ない投薬計画もまた本発明の範囲に含まれる。本レセプターアゴニストの延長された送達を達成するためには、投与部位でデポー(ここから、本レセプターアゴニストが循環系中にゆっくりと放出される)を形成するために例えば脂質又は油を含む適切なビヒクルを用いてもよいし、又はインプラントを使用してもよい。この点に関して適切な組成物としては、その中に本レセプターアゴニストが組み込まれているリポソーム及び生物分解性粒子が挙げられる。
【0076】
固体組成物が必要とされる状況では、固体組成物は、錠剤、例えば慣用の錠剤、沸とう錠、コーティング錠、融解錠(melt tablet)又は舌下錠、ペレット、散剤、顆粒剤(granules、granulates)、粒子状物質(particulate material)、固体分散剤又は固溶体の形態にあってもよい。
【0077】
半固体形態の組成物は、チューインガム、軟膏、クリーム、リニメント剤、パスタ剤、ゲル又はヒドロゲルであり得る。
本発明による医薬組成物の他の適切な剤形は、膣坐剤(vagitory)、坐剤、プラスター剤、パッチ剤、錠剤、カプセル剤、薬袋剤(sachet)、トローチ剤、デバイスなどであり得る。
剤形は、本化合物を自由に又は制御された様式で(例えば錠剤に関しては適切なコーティングによって)放出するように設計されてもよい。
【0078】
本発明の医薬組成物中の本発明のY4アゴニストの含有量は、例えば、医薬組成物の約0.1〜約100% w/wであるが、最適投薬量は、当該分野の法令によって必要とされるように、臨床試験によって決定される。
【0079】
以下の実施例は、本発明の観点を説明する。
1. ペプチド効力を決定するためのインビトロアッセイ
ヒトY2レセプター効力アッセイ
ヒトY2レセプターに対する試験化合物の効力を、ヒトY2レセプターcDNA及び無差別Gタンパク質Gqi5(これは、Y2レセプターがGq経路を通じて共役してイノシトールリン酸代謝回転の増加を導くことを確実にする)で一過性にトランスフェクトしたCOS-7細胞において用量-応答実験を実施することにより決定する。
【0080】
ホスファチジルイノシトール代謝回転 − トランスフェクションの1日後、COS-7細胞を、10%胎仔ウシ血清、2mMグルタミン及び0.01mg/mlゲンタマイシンを補充したウェルあたり1mlの培地中で5μCiの[3H]-myo-inositol(Amersham、PT6-271)と24時間インキュベートする。細胞を、140mM NaCl、5mM KCl、1mM MgSO4、1mM CaCl2、10mMグルコース、0.05%(w/v)ウシ血清を補充した緩衝液(20mM HEPES、pH7.4)中で2回洗浄し;10mM LiClを補充した37℃の0.5ml緩衝液中で30分間インキュベートする。種々の濃度のペプチドで45分間37℃にての刺激後、細胞を10%氷冷過塩素酸で抽出し、続いて氷上で30分間インキュベートする。得られる上清をHEPES緩衝液中のKOHで中和し、生成された[3H]-イノシトールリン酸をBio-Rad AG 1-X8アニオン交換樹脂上で精製し、ベータカウンターでカウントする。測定は2連(in duplicates)で行う。EC50値を、標準的な薬理学的データの処理ソフトウェアPrism 3.0 (graphPad Sofware、San Diego、米国)を用いて算出した。
【0081】
ヒトY4レセプター効力アッセイ
COS-7細胞をヒトY4レセプターcDNAで一過的にトランスフェクトする以外はY2効力アッセイと同様なプロトコル。
ヒトY1レセプター効力アッセイ
COS-7細胞をヒトY1レセプターcDNAで一過的にトランスフェクトする以外はY2効力アッセイと同様なプロトコル。
【0082】
ヒトY5レセプター効力アッセイ
COS-7細胞をヒトY5レセプターcDNAで一過的にトランスフェクトする以外はY2効力アッセイと同様なプロトコル。
【0083】
本明細書中の配列番号3〜35のY4アゴニストは全て、上記のアッセイで試験されるとき、Y1レセプターよりもY4レセプターにて少なくとも50倍(実際には少なくとも200倍)より大きな効力、及びY2レセプターよりもY4レセプターにて少なくとも1000倍より大きな効力を有する。
【0084】
2. Y4選択性レセプターアゴニストの腸粘膜細胞消失への効果
以下の実験は、皮下へのPP[2-36](配列番号4)でのマウスの処置が、放射線照射曝露後に、生きている小腸の陰窩の数を増加させることを示す。
【0085】
方法:
24匹の8〜10週齢の雄性C57/B6マウスを、それぞれ8匹の動物の3つのグループにランダム化した。動物は、皮下へのPP[2-36](0.1 mg/kg)を、1日に2回、3日間、照射前又は照射後のいずれかに受けた。対照は、ビヒクルを照射前及び照射後の両方に受けた。
グループ1(前処理):‐3、‐2、‐1日目にPP[2-36](0.1 mg/kg)を1日2回;0日目に照射;0、1、2、3日目にビヒクル。
グループ2(後処理):‐3、‐2、‐1日目にビヒクルを1日2回;0日目に照射;0、1、2、3日目にPP[2-36](0.1 mg/kg)を1日2回。
グループ3(対照):‐3、‐2、‐1日目にビヒクルを1日2回;0日目に照射;0、1、2、3日目にビヒクルを1日2回。
全ての動物を、一回当たり13 Gyの全身X線照射に(0日目に)曝露した。
照射を、Pantak HF320 X-ray set(Agfa NDT Ltd, Reading, UK)を用いて行った。機械を、300 kV、10 mAで操作した。X線管に、更なる濾過装置に取り付けて、半価層(HVL)2.3 mm Cuの質の放射線を得た。マウスをジグで拘束し、X線管の焦点から700 mmの距離に置いた。照射を、75.5 cGy/分の線量率で運搬した。照射による損傷の4日後に、マウスを頸椎脱臼により犠牲にした。小腸を切除し、カルノア固定液で固定し、パラフィンに包埋し、切片にし、H&E染色した。各動物について、10個の小腸の周囲長を解析した‐周囲長は、腸の所定の長さ、よって長さの簡便なベースライン単位に等しい。周囲長当たりの生きている陰窩の数を評点し、グループ当たりの平均を決定した。10以上の強くH&E染色された細胞(パネート細胞を除く)を含む陰窩だけを、及びパイエル板を含まない無傷の周囲長だけをスコアした(パイエル板は、正常な周囲長内の陰窩の数と、損傷で生存する陰窩の能力との両方に影響する)。
【0086】
結果:
放射線照射前のPP[2-36]での動物の治療は、ビヒクルのコントロールと比べて、陰窩の生存及び/又は再生に有益な効果を有した。結果は図1に要約されており、これは、放射線照射後の各治療グループにおける、腸の周囲長当たりの生存している陰窩の平均数を示す。放射線照射前の3日間の1日2回皮下への0.1 mg/kg PP[2-36]でのマウスの前処理は、生きている腸の陰窩の数を、放射線照射後4日目に分析されたときのビヒクルのコントロールと比べて2倍まで増加させた(有意;p<0.05)。放射線照射後の4日間の1日2回皮下への0.1 mg/kg PP[2-36]でのマウスの処理は、生きている陰窩の数を、放射線照射後4日目に分析されたときのビヒクルのコントロールと比べて47%まで増加させる(有意でない;p>0.05)。データは平均±SDとして表される(Tukey-Kramer HSD; * p<0.05)。
【0087】
3. Y4選択性レセプターアゴニストの腸粘膜細胞増殖への効果
第2節で観察された陰窩の生存及び再生への有益な効果は、少なくとも部分的には、Y4選択性レセプターアゴニスト物質での治療が原因の細胞陰窩増殖増進が原因であり得ると仮定した。この仮定を試験するために、以下の実験を行った。
【0088】
方法:
3グループの8匹の8〜10週齢のC57/B6マウスを、グループ1:ビヒクル、グループ2:PP(2-36) 0.1 mg/kgの単独皮下注射、グループ3:PP(2-36) 1.0 mg/kgの単独皮下注射で処理した。動物をいずれかの用量の単独注射後12時間で安楽死させた。ビヒクルをコントロールとして用いた。全ての動物にBrdU(ブロモデオキシウリジン)‐細胞増殖マーカーを腹腔内投与し、その後安楽死させた。小腸及び腸をその後切除し、カルノア溶液中に固定した。カルノア固定された小腸の材料から、パラフィンブロックを生成し、切片にした。スライドを免疫標識してBrdUの取り込みを明らかにし、細胞位置基準(すなわち、陰窩中の細胞の階層における個々の細胞位置)を解析し、任意の誘導された増殖の変化(BrdU結合及び有糸分裂の数)を特定した。マウス当たり50.5(Fifty half)の陰窩を細胞位置基準に対して評点し、8匹の動物のグループ当たり400回の評点を生じた。これから平均を出し、効果を測定した。
【0089】
結果:
結果を図2a及び2bに要約する。PP(2-36)での処理(dose)後12時間で、小さい陰窩の増殖レベルに統計的に有意な増加があった。0.1 mg/kgは、細胞位置6-13(幹細胞領域及び早期移行性増殖性細胞領域)において増殖を増進させた。幹細胞は、増殖、自己メンテナンス、多数の分化した機能的後代の生産、損傷後の組織の再生及びこれら選択肢の使用における柔軟性が可能な未分化細胞と定義される。幹細胞の娘細胞は、これらすべての能力を発現しないが、極度の環境下にそのようにする可能性を有する。それらはポテンシャル幹細胞と名付けられており、幹細胞とともに、クローン形成性細胞と名付けられている。如何なるクローン形成性機能も果たさず、単に終末分化に付される細胞は、移行性増殖性細胞と呼ばれる。移行性増殖性細胞は比較的短命な細胞であり、腸の管腔に流入する前に、最終的に分化し、絨毛に対して機能を提供する。用量を1 mg/kgに増加させたとき、刺激は増殖域全体にわたって顕性であった。
【0090】
要約すると、これらの結果は、単独皮下注射で投与されるY4選択性レセプターアゴニスト PP(2-36)(配列番号4)でのマウスの治療が陰窩内で細胞増殖を増進させることを示す。
【図1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線療法、放射線曝露、細胞毒性化学療法、炎症又は腸粘膜の虚血‐再潅流に起因する腸機能損傷の予防及び/又は治療における、Y1レセプターよりもY4レセプターにて少なくとも50倍より大きな効力及びY2レセプターよりもY4レセプターにて少なくとも1000倍より大きな効力を有するY4レセプターアゴニストの使用。
【請求項2】
放射線療法、放射線曝露、細胞毒性化学療法、炎症又は腸粘膜の虚血‐再潅流に起因する腸機能損傷の予防及び/又は治療のための組成物の製造における、Y1レセプターよりもY4レセプターにて少なくとも50倍より大きな効力及びY2レセプターよりもY4レセプターにて少なくとも1000倍より大きな効力を有するY4レセプターアゴニストの使用。
【請求項3】
前記Y4レセプターアゴニストが、Y1レセプターよりもY4レセプターにて少なくとも100倍より大きな効力を有する請求項1又は2に記載の使用。
【請求項4】
前記Y4レセプターアゴニストが、Y1レセプターよりもY4レセプターにて少なくとも200倍より大きな効力を有する請求項1又は2に記載の使用。
【請求項5】
前記Y4レセプターアゴニストが、本明細書の配列番号3〜35から選択される請求項4に記載の使用。
【請求項6】
前記腸機能損傷が、炎症性腸疾患、例えば潰瘍性結腸炎又はクローン病に起因する請求項1〜5のいずれか1項に記載の使用。
【請求項7】
前記使用が、下痢の予防及び/又は治療のための別の物質と組み合わされる請求項1〜6のいずれか1項に記載の使用。
【請求項8】
放射線療法、放射線曝露、細胞毒性化学療法、炎症又は腸粘膜の虚血‐再潅流に起因する腸機能損傷の状態を罹患する患者に、Y1レセプターよりもY4レセプターにて少なくとも50倍より大きな効力及びY2レセプターよりもY4レセプターにて少なくとも1000倍より大きな効力を有するY4レセプターアゴニストを、前記状態を緩和するのに有効な量で投与することを含む、前記対象者における前記腸機能損傷を予防及び/又は治療する方法。
【請求項9】
前記Y4レセプターアゴニストが、Y1レセプターよりもY4レセプターにて少なくとも100倍より大きな効力を有する請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記Y4レセプターアゴニストが、Y1レセプターよりもY4レセプターにて少なくとも200倍より大きな効力を有する請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記Y4レセプターアゴニストが、本明細書の配列番号3〜35から選択される請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記腸機能損傷が、炎症性腸疾患、例えば潰瘍性結腸炎又はクローン病に起因する請求項8〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記Y4レセプターアゴニスト及び少なくとも1つの他の下痢治療剤が対象者に投与される請求項8〜12のいずれか1項に記載の方法。

【公表番号】特表2013−504517(P2013−504517A)
【公表日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−527236(P2011−527236)
【出願日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際出願番号】PCT/EP2009/006604
【国際公開番号】WO2010/031521
【国際公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(506312478)7ティーエム ファーマ エイ/エス (12)
【氏名又は名称原語表記】7TM PHARMA A/S
【住所又は居所原語表記】Fremtidsvej 3,DK−2970 Hoersholm,DENMARK
【Fターム(参考)】