説明

腸内菌叢改善剤及び食品

【課題】腸内菌叢の改善剤及び食品を提供すること。
【解決手段】食用担子菌類の有機酸含有親水性溶媒抽出物からなる腸内菌叢改善剤。担子菌類抽出物を食品の形態に加工し、これにより経口投与で容易に腸内菌叢を改善し、体臭・口臭・便臭を低減出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腸内菌叢改善剤に関し、特に、腸内菌叢を改善し、便臭の消臭を可能にする経口投与の食用担子菌類抽出物を有効成分とする腸内菌叢改善剤及びこれを含む食品に関する。
【背景技術】
【0002】
食用担子菌類の中で、世界的に広く食されているマッシュルームから有機酸含有親水性溶媒を用いて、口臭などの消臭に有効な成分が抽出されている(特許文献1)。この抽出物は、熱安定性が良くて、20年近く広く経口投与で使用されているが、これまでに報告された副作用は皆無である。しかしながら、その活性本体および消臭のメカニズムについては、まだ確定したものはわかっていない。
【0003】
食用の茸としては、マッシュルームのほかに、わが国では椎茸やエノキが多く栽培され、近年にいたって、エノキ、マイタケ、エリンギなども一般に食されるようになってきている。海外ではヒラタケが爆発的にその市場を伸ばしている。そこでわれわれは、これら食用茸の有機酸含有親水性溶媒抽出物を製造して、その消臭活性および活性成分の要素であるポリフェノール含量を調べ、メカニズムの解明を試みた。
【0004】
マッシュルーム抽出物の活性としては、口臭や、体臭、便臭の低減が知られている。これらの消臭活性を詳細に調べてみると、即効的な消臭作用の他に、持続性のある消臭効果があることをわれわれは見出した。すなわち、抽出物を経口で単回投与すると、便臭が数日から1週間にわたって連続して消失することを見出した。
【0005】
ヒトの腸内菌叢については、これまでに各種の菌が同定されて、その割合が乳幼児から老年にいたるまで解析され報告されている(非特許文献1)。ヒト腸内の菌叢は、非特許文献1の図3に見られるように、生後間もなく感染により急速に増え、成年期で安定な菌叢になり、老年期に入って、またその様相を変える。そのために老年期において体臭や便臭が強くなり、免疫能も弱くなり、腸内における微生物の同化・合成作用が変化するので、ガンにかかりやすくなり、糖尿病、高血圧も必然的に増えてくるといわれている。このような加齢による変化は、腸内菌叢の変化、特に変動の大きい2種類の菌、ビフィズス菌とクロストリジウム菌の増減と強い関連があるのではないかと考えられている。
【0006】
これらの菌叢のバランスを、良好な方向に持っていくことが出来れば、成人病の予防になり、健康で快適な老後が約束される可能性が高くなると考えられる。また、ダイエットも可能になり、健康な体調を維持することが出来ると考えられる。さらに、腸内菌叢の改善はアトピー性皮膚炎や花粉症などのアレルギー性疾患の治療にも有効であるという報告がある(特許文献2)。
【0007】
【特許文献1】特開平2-277456(第7ページ、第7表)
【特許文献2】特開平7-265064(第8ページ、第2表)
【非特許文献1】光岡知足、腸内細菌学雑誌19:179-192. 2005. 第5ページ、図3
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、腸内菌叢のバランスを、良好な方向に変化させることができる腸内菌叢改善剤を提供することである。
本発明の他の目的は、菌叢のなかでも老年期になって変動の大きい2種類の菌、ビフィズス菌とクロストリジウム菌のバランスを、良好な方向に変化させることができる腸内菌叢改善剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決するために種々検討し、担子菌類抽出物が腸内菌叢に及ぼす影響について調べてみた。その結果、食用担子菌類の有機酸抽出物が腸内菌叢の改善に大きな影響を及ぼすことを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明は、以下に示す腸内菌叢改善剤及び食品を提供するものである。
1.食用担子菌類の有機酸含有親水性溶媒抽出物を有効成分として含有する腸内菌叢改善剤。
2.食用担子菌類が、マッシュルーム、椎茸、マイタケ、シメジ、エリンギ及びエノキからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の腸内菌叢改善剤。
3.有機酸が、クエン酸、リンゴ酸、酢酸及びアスコルビン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1又は2に記載の腸内菌叢改善剤。
4.腸内細菌叢改善がビフィズス菌増殖促進作用とクロストリジウム菌増殖抑制作用である請求項1〜3のいずれか1項記載の腸内菌叢改善剤。
5.請求項1〜4のいずれか1項記載の腸内菌叢改善剤を含有する食品。
6.食用担子菌類(マッシュルームを除く)の有機酸含有親水性溶媒抽出物を有効成分として含有する食品。
【発明の効果】
【0010】
本発明の腸内菌叢改善剤はこれを経口投与することにより、腸内菌叢を顕著に改善することができる。特に老年期になって変動の大きい2種類の菌、ビフィズス菌とクロストリジウム菌に関し、ビフィズス菌に対しては増殖促進作用をクロストリジウム菌に対しては増殖抑制作用を有し、これにより腸内菌叢バランスを改善し、口臭や便臭を根本的にかつ持続的に低減させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の有効成分である抽出物の原料となる食用担子菌類としては、マッシュルーム、椎茸、マイタケ、シメジ、エリンギ、ヒラタケ、ブナシメジ、エノキ、ヤマブシタケ、ヒメマッタケ、等が挙げられる。これらの食用担子菌類は、その子実体、菌糸体、胞子、を、そのまま、あるいは冷凍し解凍したものを抽出原料として使用できる。
抽出には有機酸含有親水性溶媒を使用する。有機酸としては、クエン酸、リンゴ酸、酢酸及びアスコルビン酸等が挙げられる。なかでもリンゴ酸とクエン酸が価格、熱安定性の点で特に好ましい。親水性溶媒としては水、メタノール、エタノール等の低級脂肪族アルコール、アセトン、DMS、等が挙げられるが、水、エタノール、及び含水エタノールが最終製品の安全性の観点から特に好ましい。
【0012】
有機酸含有親水性溶媒中の有機酸の濃度は通常0.5〜30質量%、好ましくは1〜10質量%、特に好ましくは2〜4質量%である。
抽出には、例えば、特許文献1に記載された方法を使用することができる。さらに具体的には、有機酸含有親水性溶媒100質量部に対して、食用担子菌類原料を乾燥質量で5〜50質量部加え、温度40〜100℃で1〜5時間程度抽出を行えば良い。
抽出物を濾紙等により濾過し、抽出液を得る。抽出液は本発明の腸内菌叢改善剤としてそのまま使用しても良いが、予めデキストリン、オリゴ糖、等を抽出液中の固形分100質量部に対して例えば、3〜30質量部、好ましくは5〜20質量部配合して、スプレードライまたはフリーズドライした粉末の形態として使用しても良い。
【0013】
本発明の腸内菌叢改善剤の形態としては、上記形態の他、飲料(ドリンク剤)、タブレット、ハードカプセル、顆粒、等が挙げられる。また、ゼリー、グミ、キャンディー、ヨーグルト、調味料、等の食品の形態も挙げられる。
添加剤としては、グラニュー糖、ブドウ糖、果糖、糖アルコール、オリゴ糖、等の糖類、重曹、クエン酸、アスコルビン酸、リン酸、等のpH調整剤、結合剤、崩壊剤、香料、着色料、矯味料、酸味料等を加えることができる。
本発明の腸内菌叢改善剤は、抽出物を固形分として好ましくは0.1質量%以上、さらに好ましくは0.5質量%〜10質量%含有する。
【0014】
本発明の腸内菌叢改善剤の摂取量は特に限定されないが、例えば、成人に対しては抽出物の固形分として好ましくは0.1〜20mg/1日/kg、さらに好ましくは1〜10mg/1日/kgが適当である。摂取は1日1回でもよく、2〜4回に分けて摂取してもよい。
食用担子菌類抽出物の食品への用途例と摂取量の目安をマッシュルーム抽出物について以下に示す。椎茸抽出物を使用する場合は、分量を約2倍程度にするのが好ましい。
【0015】
【表1】

以下、本発明をさらに具体的に説明する。
【0016】
製造例1
新鮮なマッシュルーム(ホワイト種、傘開かず)100gを根切し、かるく水洗いした後、冷凍し、約3mm幅にスライスして300gの0.5質量%リンゴ酸水溶液に浸漬し、80℃で3時間抽出し、ろ紙でろ過して淡黄色の抽出液(1)250gを得た。
製造例2
新鮮なマッシュルーム(ホワイト種、傘開かず)1kgを根切し、0.5質量%リンゴ酸水溶液で洗條した後、約3mmにスライスして、0.5質量%リンゴ酸を含む5質量%果糖水溶液3kgに投入して80℃で、3時間抽出し、抽出液をろ紙でろ過し、2700gの淡黄色の抽出液(2)を得た。エバポレーターで濃縮してから70gのデキストリンを加え、凍結乾燥を行い、100gの粉末を得た。
製造例3
製造例2においてマッシュルームの代わりに椎茸、マイタケ、エリンギ、ヒラタケ、ブナシメジ又はエノキを使用した他は同様にしてそれぞれ、200g、50g、50g、150g、200g、30gの粉末を得た。
【0017】
製剤例4
製造例1で製造した抽出液(1)を用いて、タブレット(1錠5g)を製造した。
タブレットは、100g中に、本発明抽出液30g、グラニュー糖10g、重曹48g、クエン酸12gを含んでいる。タブレット1錠は、本発明の抽出液1.5gを含む。
製造例5
製造例2で製造した粉末0.5g、ブドウ糖6g、果糖6g、クエン酸0.2g、アスコルビン酸0.1g、フレーバー0.1gを精製水に加えてドリンク剤100gを製造した。
製造例6
製造例3で製造した椎茸抽出物粉末4g、グラニュー糖60g、糖アルコール20g、酸味料0.5g、精製水15.5g、着色料・果実系香料2gを混合し、キャンディー100g(1粒3g)を製造した。 タブレットは5g、ドリンク剤は100g、キャンディーは3gを1回の投与量とした。
【0018】
試験例1
本発明の食用担子菌類抽出物その消臭活性を調べた。製造例2及び3で製造した抽出液の一定量を取り、その消臭活性をFPD装備GCにより、ヘッドスペース法で測定した。消臭活性は、単位質量当たりに換算して、マッシュルームが最も強く、次いで、椎茸、マイタケ、エリンギ、ヒラタケ、ブナシメジ、エノキの順であった。
【0019】
試験例2
腸内ビフィズス菌の増殖とクロストリジウム菌の抑制
マッシュルーム(A. bisporus)の消臭活性が最も強かったので、腸内菌叢の実験ではマッシュルーム抽出物を用いた。
ビフィズス菌優勢の腸内環境バランスが、ガン、動脈硬化などの生活習慣病の予防や老化防止に重要な役割を持つことが知られている。被験者8名に製造例5で製造した本発明のドリンク剤100g(マッシュルーム抽出物0.5g含有)を1日3回経口投与し、投与後7日後と14日後に腸内細菌叢を調べたところ有益なビフィズス菌が増えて、有害なクロストリジウム菌が減少傾向を示した。
【0020】
糞便中の菌叢の測定は、光岡知足の方法(感染症学会雑誌45巻第9号、406頁〜)に準じて行った。すなわち、採取した糞便1gを乳鉢に取り、嫌気希釈液9mLを加えて均質化した後、嫌気希釈液を用いて10倍段階希釈した。この希釈液を、BL培地及びネオマイシンNagler寒天培地(NN培地)に塗布して、嫌気下、37℃で培養し、ビフィズス菌、クロストリジウム菌の数を測定した。なお、上記嫌気希釈液は、蒸留水に、KH2PO4を4.5g、Na2HPO4を6.0g、L-システイン塩酸塩を0.5g、Tween80を0.5g加え、全量を1000mLに調製したものである。ビフィズス菌は、BL培地に出現したコロニーを釣菌し、グラム染色と検鏡により同定した。クロストリジウム菌は、NN培地を使用し、コロニー周囲のレシチナーゼ反応陽性のものをクロストリジウム菌と判定した。そして、糞便1g中に含まれるビフィズス菌数及びクロストリジウム菌数の食用担子菌類抽出物投与後の変化を表2と図1に示した。
【0021】
【表2】

【0022】
本発明のマッシュルーム抽出物の経口投与により、善玉菌であるビフィズス菌は投与前に比べて約2倍に増え、悪玉菌のクロストリジウム菌は投与前の15分の1以下に減少した。すなわち、本発明の食用担子菌類抽出物摂取で腸内菌叢のバランスが改善された。
【0023】
試験例3
被験者8名に本発明の製造例2で製造した椎茸抽出物1gを1日3回、経口投与した。腸内有害細菌によって食べ物が分解されて産生される典型的な悪臭成分であるアンモニア、インドール、フェノール、硫化水素を機器分析によって調べた。なお、本発明の椎茸抽出物はマッシュルーム抽出物に比べて活性が約1/2であるため、マッシュルーム抽出物の2倍量を使用した。単位は糞便1gあたりの悪臭成分の量(μg)である。
悪臭成分の測定には、サンプルとして糞便1gを125mlのバイアルビンにとり、密栓し、バイアルビン上部のガスを1ml抜き取り、これをガスクロマトグラフィーで定量した。ほとんどの悪臭成分がほぼ半分以下に減少した。結果を表3に示す。
【0024】
【表3】

【0025】
試験例4
椎茸抽出物添加ドリンク剤による消臭効果
椎茸抽出物を加えた飲料を製造し、その直接的な消臭効果を検定した。
悪臭成分の測定には、サンプルとして中和したドリンク剤6gを125mlのバイアルビンにとり、これにメルカプタン1000ppbを加えて密栓し、バイアルビン上部のガスを1ml抜き取り、これをガスクロマトグラフィーで定められた時間に定量した。結果を表4に示す。椎茸抽出物を含むドリンク剤にも強力な直接消臭作用があることがわかった。
【0026】
【表4】

【0027】
試験例5
各種担子菌類抽出物を加えたゼリーを製造し、それぞれの消臭効果を検定した。
ゼリー1は140gあたり200mgのマイタケ抽出物を含む。
ゼリー2は140gあたり200mgの椎茸抽出物を含む。
ゼリー3は140gあたり200mgのマッシュルーム抽出物を含む。
悪臭成分の測定には、サンプルとして中和したゼリー20gを125mlのバイアルビンにとり、メルカプタン500ppbを加えて密栓し、バイアルビン上部のガスを定められた時間に1ml抜き取り、これをガスクロマトグラフィーで定量した。結果を表5に示す。
【0028】
【表5】

このように担子菌類抽出物をゼリーに混ぜて消臭効果のある食品を製造することができる。
【0029】
試験例6
各種担子菌類子実体抽出物のポリフェノール含有量
製造例1で製造した担子菌類抽出物の100μLをとり、蒸留水400μLを加えて撹拌し、さらにFolin-Ciocalteau試薬2.5mlを加えて撹拌する。5分後に7.5%のNa2CO3溶液2.00mlを加えて撹拌、暗所に1時間以上静置する。標準物質として、カテキン、ガリック酸の100〜500μg/mlの100μL(10〜50μg相当)を用い、分光光度計で755nmの吸光度を測定した。
【0030】
【表6】

【0031】
腸内菌叢の改善マーカーのひとつといわれているポリフェノールの値を測定した結果を図2に示す。この結果は、消臭成分の本体の一部はポリフェノールであることを示唆している。ただし、この測定値はポリフェノールの値を正確に示すものではなくて、その一部を代表しているに過ぎないことも明記しておかなければならない。食用担子菌類抽出物の成分の中には、ポリフェノール呈色反応の阻害作用を示すものがかなり多く含まれているからである。
【0032】
マッシュルームばかりでなく、日本や東南アジアで広く食用に用いられている椎茸の子実体にもマッシュルームと同様に消臭活性が見出されたことは、この消臭組成物がさらに広く用いられる可能性を開いたものである。
また、ポリフェノールがこれら消臭活性の一翼を担う可能性があることが証明された。さらにまた消臭活性と関連して腸内菌叢の改善が証明された。これらのことは、担子菌抽出物が、有用な生理活性を持っていること、従って、成人病予防などの保健薬としての広範な使用を可能にすることを示している。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】マッシュルーム抽出物が、ビフィズス菌及びクロストリジウム菌の増殖に及ぼす影響を示す図面である。グラフ縦軸の単位は、ビフィズス菌は109個/g便、クロストリジウム菌は104個/g便を表している。
【図2】各種食用担子菌類抽出物の消臭活性とポリフェノール含有量の関係を示す図面である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
食用担子菌類の有機酸含有親水性溶媒抽出物を有効成分として含有する腸内菌叢改善剤。
【請求項2】
食用担子菌類が、マッシュルーム、椎茸、マイタケ、シメジ、エリンギ及びエノキからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の腸内菌叢改善剤。
【請求項3】
有機酸が、クエン酸、リンゴ酸、酢酸及びアスコルビン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1又は2に記載の腸内菌叢改善剤。
【請求項4】
腸内細菌叢改善がビフィズス菌増殖促進作用とクロストリジウム菌増殖抑制作用である請求項1〜3のいずれか1項記載の腸内菌叢改善剤。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載の腸内菌叢改善剤を含有する食品。
【請求項6】
食用担子菌類(マッシュルームを除く)の有機酸含有親水性溶媒抽出物を有効成分として含有する食品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−161502(P2009−161502A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−3168(P2008−3168)
【出願日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【出願人】(591163546)株式会社リコム (7)
【Fターム(参考)】