説明

腹膜透析装置

本発明は、透析液を供給及び回収する標準的な装置を有する腹膜透析装置に関する。腹膜透析装置は、カテーテルを有する導管と、透析液が導入される測定バッグと、カテーテルと測定バッグとの間の導管内の静圧を測定する第1の手段と、透析液を測定バッグの中に一定時間導入する第2の手段とを備える。本発明では更に、測定バッグの中に導入された透析液の容積を決定する第3の手段、第1から第3の手段によって決定された値に基づいてカテーテル抵抗を計算する第4の手段を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透析液を排出及び回収する標準的な装置を有し、カテーテルを含む導管を備えた、腹膜透析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
腹膜透析とは、人工的な血液透析の一種である。腹膜透析においては、患者の腹膜が、身体自身の透析膜として使用される。この腹膜には、血液が豊富に供給されている。透析液は、カテーテルによって腹腔内に導入される。すると、浸透原理に従って、尿の成分が血液中から除去されて、腹腔内に浸入する。そして、数時間後に、尿の成分が含まれる透析液を腹腔から排出する。
【0003】
一般的に、腹膜透析を行う場合、いくつかの選択肢がある。持続的携行式腹膜透析(CAPD)の場合には、患者自身が透析液を1日に約4、5回交換しなくてはならない。一方、自動腹膜透析(APD)の場合には、サイクラーと呼ばれる装置が、夜中に、自動的に袋交換を行うため、日中には、患者は自立することができる。
【0004】
自動腹膜透析においては、サイクラーによって透析液が腹腔に充填され、充填される容積を制御して、最大の充填容積のみが患者に供給される。例えば、平均的な大人での最大の充填容積は3,500mlである。一般的に、各々の患者固有の充填容積を実験的に求めることは避けられており、充填容積としては標準値が用いられている。
【0005】
腹膜透析においては、患者自身が自分の身体の腹腔にアクセスしなくてはならない。すなわち、いわゆる患者カテーテルを用いて、透析液の交換を行う必要がある。この患者カテーテルの一方の端部は、患者の腹腔内へ開口しており、他方の端部(患者の外側)には、患者コネクタが備えられていて、導管システムに接続できるようになっている。時間が経つと、患者カテーテルが堆積物で詰まり、その機能が低下する。
【0006】
患者カテーテルの機能低下を防ぐため、従来は、主治医が手作業で、カテーテル抵抗を操作していた。カテーテル抵抗のための特性値は、一定容積の流体が排出されるのに要する時間から計算される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、カテーテル抵抗を自動的に決定することができる腹膜透析装置を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、この課題は、請求項1の各構成の組み合わせによって解決することができる。すなわち、そこには、透析液の排出及び回収を行う標準的な腹膜透析用の装置(いわゆるサイクラー)と、カテーテルを有する導管とが備えられている。本発明では更に、サイクラーに測定バッグが設けられ、この測定バッグに透析液が導入される。また、本発明には、カテーテルと測定バッグとの間の導管内の静圧を決定する第1の手段が備えられている。さらに、一定時間、透析液を測定バッグに導入する第2の手段が備えられている。そして、本発明には、測定バッグに導入された透析液の容積を決定する第3の手段、及び、第1から第3の手段によって決定された値に基づいてカテーテル抵抗を実際に計算する第4の手段が備えられている。
【0009】
本発明の好ましい観点は、メインクレームに従属するサブクレームから得ることができる。
【0010】
すなわち、第1の手段は圧力センサを有し、これにより静圧を決定することができる。
【0011】
第2の手段は、有利には、少なくとも一つの時間制御可能な弁を有し、弁の自動調整手段により、所定の測定時間の間、測定バッグに透析液を導入する。
【0012】
第3の手段は、ポンプ及び安定装置を有していることが好ましい。第3の手段は、透析液を測定バッグから排出して安定装置内を通過させることにより、測定バッグに集められた透析液の容積を決定する。
【0013】
有利には、第1弁、圧力センサ、ポンプ、第2弁が、カテーテルと測定バッグとの間の導管に、直列に配置されている。
【0014】
特に有利には、第3弁が配置されたバイパス導管が、第1弁の上流側の導管から分岐している。このバイパス導管は、第2弁の下流側において再度導管に接続されている。
【0015】
本発明の装置を用いることにより、カテーテル抵抗を自動的に測定することができる。以前決定された期待値からのずれに対応するため、処理開始時のカテーテル抵抗をチェックすることが考えられる。また、測定した数回分のカテーテル抵抗を蓄積しておくことにより、カテーテルの性能変化に関する情報を得ることができる。これは、例えば、処理前に各々決定された一連の測定値であってもよい。このような一連の測定値を患者カードに記録しておけば、各処置前に、実際の測定値と比較することができる。
【0016】
本発明の装置を用いることにより、カテーテル抵抗は、重量測定法により以下のように決定される。
【0017】
第1工程:患者を略水平にし、患者の静圧を決定する。
【0018】
第2工程:患者を測定バッグの上方に位置させて、重力により、患者から前記測定バッグへ透析液を排出する。
【0019】
第3工程:一定時間の経過後、透析液の流出を止めて、前記測定バッグを略水平にし、前記測定バッグの静圧を決定する。
【0020】
第4工程:前記測定バッグから排出するときに、当該測定バッグの内容物の容積を計測する。
【0021】
第5工程:決定された容積及び時間に関するパラメータから、カテーテル抵抗を計算する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の装置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明のさらなる詳細及び利点は、図示された実施形態を参照して詳述される。
【0024】
図は、本発明にかかる装置を概略的に示しているだけであり、装置の説明にとって機能的に必要な構成要素のみが象徴で示されている。
【0025】
図示された実施形態において、患者Pには、十分量の透析液が充填されており、その量は、例えば、2,000mlである。
【0026】
患者Pは、透析液を排出及び回収するための標準的な装置である、いわゆるサイクラー10に接続されている。サイクラー10には、容積の知られた測定バッグ12が接続されている。測定バッグ12は、患者よりも下側(低い位置)に配置されている。図示された実施形態において、測定開始時の測定バッグ12の容積は、0mlである。測定バッグ12は、導管14を介して患者カテーテル114に接続されている。この導管システムの流れ抵抗は既知である。図示された実施形態において、この流れ抵抗(患者カテーテル114の流れ抵抗を除く)は、Rsystem=0.2mbar・min/mlである。
【0027】
以下の実施形態において説明される測定が行われる間、測定バッグ12に対する患者Pの位置は、一定であることが好ましい。
【0028】
まず最初に、患者Pの静圧が決定される。そのために、第2弁18及び第3弁20を閉じた状態で第1弁16が開かれる。図示された実施形態において、この患者Pの静圧はPpat stat=30mbarである。
【0029】
抵抗を決定するため、重量測定法によって、すなわち重力に従って、患者Pから測定バッグ12へ、一定時間Xだけ透析液が排出される。これは、第1弁16、導管に配置されたポンプ22のポンプ室、及び、その他方に配置された第2弁18を経由して行われるか、又は、バイパス導管24、及びこの導管に配置された第3弁20を経由して行われる。このとき、患者の腹腔が完全に空にならないような時間Xが選択される。図示された実施形態においては、最大の体積流量として300ml/minが想定されている。良好な測定結果を得るためには、測定時間Xは3分とするのがよい。これより、約900mlの測定バッグの好ましい総容積が導かれ、患者の腹腔が完全に空になるのを阻止できる。
【0030】
次の工程では、測定バッグの静圧が決定される。そのために、第1弁16及び第3弁20を閉じた状態で第2弁18が開かれる。導管14に配置された圧力センサ24を用いて、測定バッグ12の静圧が測定される(その前に患者の静圧は測定されている。)。図示された実施形態において、静圧は、Pbag stat=70mbarである。
【0031】
排出された透析液の容積を求めるため、ポンプ22を用い、測定バッグ12から流路(不図示)を通じて排出口D(不図示、矢印を参照)へ透析液を排出し、そして、安定装置(不図示)を用いて計測する。本実施形態において、実際に測定バッグ12から計測された容積Vbagは、600mlである。
【0032】
測定及び決定された値から、患者カテーテル114の抵抗が、以下のようにして計測装置(不図示)を用いて計算される。
【0033】
第1ステップ:患者と測定バッグとの間の圧力差の計算
Pstat total=Ppat stat+|Pbag stat|=30mbar+|-70mbar|=100mbar
第2ステップ:流速の計算
Q=Vbag/T=600ml/3min=200ml/min
第3ステップ:患者カテーテルの抵抗を含む系全体の導管抵抗の計算
R=Pstat total/Q=100mbar/200ml/min=0.5mbar・min/ml
第4ステップ:患者カテーテルの抵抗の計算
Rcatheter=R-Rsystem=0.5mbar・min/ml-0.2mbar・min/ml
Rcatheter=0.3mbar・min/ml

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透析液を排出及び回収する装置を有する腹膜透析装置であって、
カテーテルを有する導管と、
透析液が導入される測定バッグと、
前記カテーテルと前記測定バッグとの間の前記導管内の静圧を測定する、第1の手段と、
透析液を一定時間、前記測定バッグへ導入する、第2の手段と、
前記測定バッグに導入された透析液の容積を決定する、第3の手段と、
前記第1から第3の手段によって求められた値に基づいてカテーテル抵抗を計算する、第4の手段と、
を備えることを特徴とする、腹膜透析装置。
【請求項2】
請求項1に記載の腹膜透析装置であって、
前記第1の手段は、圧力センサを有することを特徴とする、腹膜透析装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の腹膜透析装置であって、
前記第2の手段は、少なくとも一つの、時間制御可能な弁を有することを特徴とする、腹膜透析装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の腹膜透析装置であって、
前記第3の手段は、ポンプと、透析液の容積を決定する安定装置と、を有することを特徴とする、腹膜透析装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の腹膜透析装置であって、
前記カテーテルと前記測定バッグとの間の前記導管に、第1弁と、圧力センサと、ポンプと、第2弁と、が配置されていることを特徴とする、腹膜透析装置。
【請求項6】
請求項5に記載の腹膜透析装置であって、
第3弁が配置されたバイパス導管を有し、
前記バイパス導管は、前記第1弁の上流側の前記導管から分岐し、前記第2弁の下流側で前記導管に連通していることを特徴とする、腹膜透析装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の腹膜透析装置を用いて、カテーテル抵抗を自動的に決定する方法であって、
患者を略水平にし、患者の静圧を決定する工程と、
重力により、患者から前記測定バッグへ透析液を排出する工程と、
一定時間の経過後、透析液の流出を止めて、前記測定バッグを略水平にし、前記測定バッグの静圧を決定する工程と、
前記測定バッグから排出するときに、当該測定バッグの内容物の容積を計測する工程と、
決定された容積及び時間に関するパラメータから、カテーテル抵抗を計算する工程と、
を備えることを特徴とする、方法。
【請求項8】
請求項7に記載の方法であって、
患者の静圧を決定するときに、第2弁(18)及び第3弁(20)が閉じられた状態で第1弁(16)が開けられることを特徴とする、方法。
【請求項9】
請求項7又は8に記載の方法であって、
第1弁(16)と、前記導管内に配置されたポンプ(22)のポンプ室と、第2弁(18)とを経由するか、又は、バイパス導管(24)と、当該バイパス導管に配置された第3弁(20)とを経由することにより、一定の時間(x)、重力によって透析液が患者から排出されることを特徴とする、方法。
【請求項10】
請求項9に記載の方法であって、
重力による排出のための前記時間(x)は、完全に排出されないように選択されることを特徴とする、方法。
【請求項11】
請求項7〜10のいずれか一項に記載の方法であって、
前記第1弁(16)及び前記第3弁(20)が閉じられた状態で、前記第2弁(18)が開けられ、前記測定バッグの静圧が圧力センサ(24)によって測定されることを特徴とする、方法。
【請求項12】
請求項7〜10のいずれか一項に記載の方法であって、
ポンプ手段(22)によって透析液が前記測定バッグから排出口(d)へ排出され、安定装置によって安定化及び測定されることにより、透析液の容量が決定されることを特徴とする、方法。

【図1】
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【公表番号】特表2011−526175(P2011−526175A)
【公表日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−515232(P2011−515232)
【出願日】平成21年6月30日(2009.6.30)
【国際出願番号】PCT/EP2009/004722
【国際公開番号】WO2010/000447
【国際公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【出願人】(599117152)フレゼニウス メディカル ケアー ドイチュラント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (50)
【氏名又は名称原語表記】Fresenius Medical Care Deutschland GmbH
【Fターム(参考)】