説明

膜−電極接合体、及びその製造方法

【課題】ガス拡散性を低下させることなく利便性を向上させた膜−電極接合体を提供することを課題とする。
【解決手段】イオン伝導性高分子電解質膜2と、イオン伝導性高分子電解質膜2の両面に形成された触媒層3と、各触媒層3上に形成された接着層5と、接着層5を介して触媒層3上に接着された導電性多孔質基材4と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜−電極接合体、及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、電解質の両面に電極が配置され、水素と酸素の電気化学反応により発電する電池であり、発電時に発生するのは水のみである。このように従来の内燃機関と異なり、二酸化炭素等の環境負荷ガスを発生しないために次世代のクリーンエネルギーシステムとして普及が見込まれている。その中でも特に固体高分子形燃料電池は、作動温度が低く、電解質の抵抗が少ないことに加え、活性の高い触媒を用いるので小型でも高出力を得ることができ、家庭用コージェネレーションシステム等の用途として早期の実用化が見込まれている。
【0003】
この固体高分子形燃料電池は、特許文献1に示されるように、電解質膜の両面に触媒層を有する触媒層−電解質膜積層体が形成され、この触媒層−電解質膜積層体の状態でユーザに供給し、ユーザがこの触媒層−電解質膜積層体の各触媒層上に導電性多孔質基材を積層した積層体を上下からセパレータ等で挟持してスタック化している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−216382号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述したように触媒層−電解質膜積層体の状態で供給すると、ユーザ側において各触媒層上に導電性多孔質基材を積層するという工程が必要となり利便性が悪いという問題がある。また、この問題を解消するために、触媒層−電解質膜積層体の触媒層上に導電性多孔質基材を積層して熱プレスを行うことで導電性多孔質基材を触媒層に接合させてできた膜−電極接合体をユーザに供給することがある。しかしながら、熱プレスを行うことにより、通常10〜200kgf/cm程度の圧力が導電性多孔質基材に掛かるため、導電性多孔質基材中の細孔が潰れてガス拡散性が低下するという問題もある。そこで、本発明は、ガス拡散性を低下させることなく利便性を向上させた膜−電極接合体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る膜−電極接合体は、イオン伝導性高分子電解質膜と、前記イオン伝導性高分子電解質膜の両面に形成された触媒層と、前記各触媒層上に形成された接着層と、前記接着層を介して前記触媒層上に接着された導電性多孔質基材と、を備えている。
【0007】
この膜−電極接合体によれば、導電性多孔質基材が、接着層を介して触媒層上に接着されているために、ユーザ側において触媒層上に導電性多孔質基材を積層するという工程が省略され、利便性のよいものとなる。また、触媒層と導電性多孔質基材との間には接着層が介在しているため、導電性多孔質基材を触媒層に接着させる際の圧力は約1kgf/cm以下で済む。このため、導電性多孔質基材中の細孔が潰れることがなく、ひいてはガス拡散性が低下するおそれもない。
【0008】
上述した接着層は、接着剤又は粘着剤により構成することができ、また、その形成される位置は、触媒層上の中央部とすることが好ましい。このように触媒層上の中央部に接着層を形成することで、接着層として液状の接着剤を用いた場合、接着剤が触媒層の外周縁からはみ出て電解質膜上に接触するおそれがない。この結果、電解質膜に液状の接着剤が接触することで生じる電解質膜の膨潤を防止することができ、ひいては、電解質膜などの寸法変形やこの寸法変形に起因する導電性多孔質基材のはく離を防止することができる。なお、接着層を粘着剤により構成する場合は、粘着剤単体で接着層を形成してもよいし、両面テープの形態で接着層を形成することもできる。
【0009】
また上記接着層は、その接着面積を約0.1mm以上とすることが好ましい。この接着面積を約0.1mm以上とすることで、搬送中などに導電性多孔質基材が触媒層からはがれ落ちることがないよう十分に接着させることができる。また、触媒層に対する接着層の接着面積率を約30%以下とすることで接着層を介在させたことによる発電性能の低下を防止することができる。なお、この接着層の面積は導電性多孔質膜と触媒層を接着する前の状態、すなわち、導電性多孔質基材、若しくは触媒層上に接着層を形成したときの状態で測定したものである。また、上記接着層は、発電性能の低下を確実に防止するために導電性材料を含有させてもよい。
【0010】
また、上記接着層は、層厚を約1〜50μm、好ましくは5〜10μmとすることが好ましい。なお、この層厚は、導電性多孔質膜と触媒層を接着した状態で測定したものである。
【0011】
また、本発明に係る膜−電極接合体の製造方法は、イオン伝導性高分子電解質膜の両面に触媒層が形成された触媒層−電解質膜積層体を準備する工程と、接着層を介して導電性多孔質基材を前記触媒層上に接着する工程と、を含む。
【0012】
この製造方法によれば、接着層を介して導電性多孔質基材を触媒層に接着させているために、完成した膜−電極接合体は、触媒層−電解質膜積層体に導電性多孔質基材が接着されており、ユーザ側において触媒層−電解質膜積層体に導電性多孔質基材を積層する工程を省略することができ利便性を向上させることができる。また、接着層を介して導電性多孔質基材を触媒層上に接着させているために、この接着に必要な圧力は約1kgf/cm以下で済む。このため、導電性多孔質基材中の細孔が潰れることなく、ひいてはガス拡散性が低下することもない。
【0013】
上記接着層は、触媒層上に形成してもよいし、導電性多孔質基材上に形成してもよい。
【0014】
また、上述した接着層は、接着剤又は粘着剤により形成することができ、また、その形成される位置は、各触媒層上の中央部とすることが好ましい。このように触媒層上の中央部にすることによって、接着層として液状の接着剤を用いた場合、接着剤が触媒層の外周縁からはみ出て電解質膜上に接触するおそれがない、この結果、電解質膜に液状の接着剤が接触することで生じる電解質膜の膨潤を防止することができ、ひいては、電解質膜などの寸法変形やこの寸法変形に起因する導電性多孔質基材のはく離を防止することができる。なお、粘着剤により構成した接着層の具体例としては、両面テープなどを挙げることができる。
【0015】
また、接着層は、その接着面積を約0.1mm以上とすることが好ましい。この接着面積を約0.1mm以上とすることで、搬送中などに導電性多孔質基材が触媒層からはがれ落ちることがないよう十分に接着させることができ、また、触媒層に対する接着層の接着面積率を約30%以下とすることにより接着層を介在させたことによる発電性能の低下を防止することができる。なお、この接着層の面積は、導電性多孔質膜と触媒層を接着する前の状態、すなわち、導電性多孔質基材、若しくは触媒層上に接着層を形成したときの状態で測定したものである。
【0016】
また、上記接着層の層厚は約1〜50μm、好ましくは約5〜10μmであることが好ましい。なお、この層厚は、導電性多孔質膜と触媒層を接着した状態で測定したものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ガス拡散性を低下させることなく利便性のよい膜−電極接合体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は本発明に係る膜−電極接合体の実施形態を示す側面図である。
【図2】図2は図1の平面図である。
【図3】図3は本発明に係る膜−電極接合体の製造方法の実施形態を示す説明図である。
【図4】図4は本発明に係る膜−電極接合体の変形例を示す平面図である。
【図5】図5は本発明に係る膜−電極接合体の変形例を示す平面図である。
【図6】図6は本発明に係る膜−電極接合体の変形例を示す平面図である。
【図7】図7は本発明に係る膜−電極接合体の変形例を示す平面図である。
【図8】図8は本発明に係る膜−電極接合体の変形例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る膜−電極接合体及びその製造方法の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
【0020】
[膜−電極接合体]
図1に示すように、膜−電極接合体1は、イオン伝導性高分子電解質膜2の両面に触媒層3が形成されており、各触媒層3上には導電性多孔質基材4が接着層5を介して接着されている。なお、電解質膜2の両面に触媒層3が形成されたものを触媒層−電解質膜積層体10という。
【0021】
[イオン伝導性高分子電解質膜]
イオン伝導性高分子電解質膜2は、図2に示すように、平面視矩形状であって、特に限定されるものではないが、その厚さは通常約20〜250μm程度、好ましくは約20〜80μm程度とすることができる。この電解質膜2は、例えば、基材上に水素イオン伝導性高分子電解質を含有する溶液を塗工し、乾燥することにより形成される。水素イオン伝導性高分子電解質としては、例えば、パーフルオロスルホン酸系のフッ素イオン交換樹脂、より具体的には、炭化水素系イオン交換膜のC−H結合をフッ素で置換したパーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマー(PFS系ポリマー)等が挙げられる。電気陰性度の高いフッ素原子を導入することで、化学的に非常に安定し、スルホン酸基の解離度が高く、高いイオン伝導性が実現できる。このような水素イオン伝導性高分子電解質の具体例としては、デュポン社製の「Nafion」(登録商標)、旭硝子(株)製の「Flemion」(登録商標)、旭化成(株)製の「Aciplex」(登録商標)、ゴア(Gore)社製の「Gore Select」(登録商標)等が挙げられる。水素イオン伝導性高分子電解質含有溶液中に含まれる水素イオン伝導性高分子電解質の濃度は、通常1〜60重量%程度、好ましくは5〜30重量%程度である。なお、上記の水素イオン伝導性高分子電解質膜以外には、水酸化物イオン伝導性固高分子電解質膜や液状物質含浸膜も挙げられる。水酸化物イオン伝導性電解質膜としては炭化水素系樹脂又はフッ素系樹脂等が挙げられ、具体例としては炭化水素系樹脂としては、旭化成(株)製のAciplex(登録商標)A201,211,221や、トクヤマ(株)製のネオセプタ(登録商標)AM−1,AHA等が挙げられ、フッ素系樹脂としては、東ソー(株)製のトスフレックス(登録商標)IE−SF34等が挙げられる。また液状物質含浸膜としては、例えばポリベンゾイミダゾール(PBI)が挙げられる。
【0022】
[触媒層]
触媒層3は、電解質膜2の両面に電解質膜2よりも一回り小さく形成されており、特に限定されるものではないが、その厚さは約1〜200μm、好ましくは約1〜100μmとすることができる。この触媒層3は、公知の白金含有の触媒層(カソード触媒及びアノード触媒)とすることができる。具体的には、触媒粒子を担持させた炭素粒子と、水素イオン伝導性高分子電解質若しくは水酸化物イオン伝導性高分子電解質とを含有する。水素イオン伝導性高分子電解質や水酸化物イオン伝導性高分子電解質としては、上述した電解質膜2に使用されるものと同じ材料を使用することができる。
【0023】
触媒粒子としては、例えば、白金や白金化合物等が挙げられる。白金化合物としては、例えば、ルテニウム、パラジウム、ニッケル、モリブデン、イリジウム、鉄等からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属と、白金との合金等が挙げられる。なお、通常は、カソード触媒層に含まれる触媒粒子は白金であり、アノード触媒層に含まれる触媒粒子は前記金属と白金との合金である。
【0024】
炭素粒子は、導電性を有しているものであれば限定的ではなく、公知又は市販のものを広く使用できる。例えば、カーボンブラックや、黒鉛、活性炭等を1種又は2種以上で用いることができる。カーボンブラックの例としては、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、ランプブラック等を挙げることができる。炭素粒子の算術平均粒子径は通常5nm〜200nm程度、好ましくは20〜80nm程度である。この炭素粒子の平均粒子径は、例えば、粒子径分布測定装置LA−920:(株)堀場製作所製等により測定できる。
【0025】
[導電性多孔質基材]
導電性多孔質基材4は、触媒層3とほぼ同じ大きさで触媒層3上に接着層5を介して接着されており、特に限定されるものではないが、その厚さは約5〜500μm、好ましくは約150〜350μmとすることができる。導電性多孔質基材4としては、公知であり、燃料極、空気極を構成する各種の導電性多孔質基材を使用でき、燃料である燃料ガス及び酸化剤ガスを効率よく触媒層に供給するため、多孔質の導電性基材からなっている。多孔質の導電性基材としては、例えば、カーボンペーパーやカーボンクロス等が挙げられる。
【0026】
[接着層]
接着層5は、触媒層3と導電性多孔質基材4とを接着させるためにこれらの間に介在しており、粘着剤又は接着剤によって形成することができる。この接着層5は、図2に示すように触媒層3のほぼ中央に形成されており、その接着面積は約0.1mm以上とすることができ、好ましくは約0.25mm以上、さらに好ましくは約25mm以上とすることができる。その接着面積を約0.1mm以上とすることで、触媒層3と導電性多孔質基材4との接着を十分とし、導電性多孔質基材4が触媒層3から剥がれ落ちることを防止することができる。また、触媒層3に対する接着層5の接着面積率を約30%以下とすることで接着層5による電池性能の低下を防止することができる。なお、この接着層5の接着面積は、導電性多孔質膜4と触媒層3を接着する前の状態、すなわち接着層5を触媒層3上若しくは導電性多孔質基材4上に形成した直後の状態で測定したものである。また、接着層5の層厚は、約1〜50μm、好ましくは約5〜10μmとすることが好ましい。この接着層5の層厚は、導電性多孔質基材4と触媒層3を接着した状態で測定したものである。
【0027】
接着層5の材料としては、粘着剤で接着層5を形成する場合は、例えば、アクリル系、ゴム系、シリコーン系の粘着剤を使用できる。具体的には、アクリル酸エステル共重合体、メタクリル酸エステル共重合体、天然ゴム(NR)、合成天然ゴム(IR)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、ポリイソブチレン(PIB)、ブチルゴム(IIR)、シリコーンゴム等を挙げることができ、これらを単体で若しくは2種以上を組み合わせて使用することができる。また、接着剤で接着層5を形成する場合は、例えば、酢酸ビニル樹脂系、ポリビニルアルコール系、ポリビニルアセタール系、エチレン・酢酸ビニル樹脂系、塩化ビニル樹脂系、アクリル樹脂系、ポリアミド系、セルロース系、α−オレフィン樹脂系などの熱可塑性樹脂系、又は、ユリア樹脂系、メラミン樹脂系、フェノール樹脂系、レゾルシノール樹脂系、エポキシ樹脂系、ポリエステル樹脂系、ウレタン樹脂系、ポリイミド系、ポリベンズイミダゾール系などの熱硬化性樹脂系、あるいはクロロプレンゴム系、ニトリルゴム系、スチレンブタジエンゴム系、ポリサルファイド系、ブチルゴム系、シリコーン系、アクリルゴム系、ウレタンゴム系などのエラストマー系を挙げることができ、さらに、エステルアクリレート類、エーテルアクリレート類、ウレタンアクリレート類、エポキシアクリレート類、アミノ樹脂アクリレート類、アクリル樹脂アクリレート類、不飽和ポリエステル類などの光硬化樹脂系を挙げることができる。また、その他にもパーフルオロカーボンスルホン酸系のフッ素イオン交換樹脂といったような上記電解質膜2と同様の材料を挙げることができ、具体的には、デュポン社製の「Nafion」(登録商標)、旭硝子(株)製の「Flemion」(登録商標)、旭化成(株)製の「Aciplex」(登録商標)、ゴア(Gore)社製の「Gore Select」(登録商標)等を挙げることができる。この接着剤も同様に、上述した材料を単体若しくは2種以上を組み合わせて使用することができる。なお、接着剤には、導電性材料や紫外線吸収剤などの添加剤を含有させてもよい。また、接着層5として粘着剤を使用する場合は、粘着剤を単独で触媒層3と導電性多孔質基材4との間に介在させてもよいし、両面テープの形態として触媒層3と導電性多孔質基材4との間に介在させてもよい。
【0028】
[製造方法]
次に上述した膜−電極接合体の製造方法について、図3を参照しつつ説明する。
【0029】
図3に示すように、まず、電解質膜2を準備し、この電解質膜3の両面に触媒層3を形成する。この触媒層3の形成方法は種々の方法を採用することができるが、本実施形態では転写法を採用した場合について説明する。まず、上述した材料からなる電解質膜2を準備し、この電解質膜2の両面に触媒層形成用転写シート6を重ねて配置する(図3(a))。この触媒層形成用転写シート6とは、電解質膜2へと転写される触媒層3が転写用基材61に形成されたものである。
【0030】
ここで触媒層形成用転写シート6の製造方法について説明する。まず、上述した触媒粒子を担持させた炭素粒子及び水素イオン伝導性高分子電解質を適当な溶剤に混合、分散して触媒ペーストを作製する。そして、形成される触媒層3が所望の膜厚になるよう、触媒ペーストを転写用基材61上に塗工・乾燥して触媒層3を形成する。必要に応じて離型層を介して触媒ペーストを転写用基材61上に塗工する。各触媒ペーストの塗工方法としては、スクリーン印刷や、スプレーコーティング、ダイコーティング、ナイフコーティングなどの公知の塗工方法を挙げることができる。触媒ペーストを塗工した後、所定の温度及び時間で乾燥することにより転写用基材61上に触媒層3が形成される。乾燥温度は、通常40〜100℃程度、好ましくは60〜80℃程度である。乾燥時間は、乾燥温度にもよるが、通常5分〜2時間程度、好ましくは10分〜1時間程度である。
【0031】
上記各触媒ペーストに使用される溶剤としては、各種アルコール類、各種エーテル類、各種ジアルキルスルホキシド類、水またはこれらの混合物等が挙げられ、これらの中でもアルコール類が好ましい。アルコール類としては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、tert−ブタノール、等の炭素数1〜4の一価アルコール、各種の多価アルコール等が挙げられる。
【0032】
転写用基材61としては、例えば、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリパルバン酸アラミド、ポリアミド(ナイロン)、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテル・エーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリアリレート、ポリエチレンナフタレート等の高分子フィルムを挙げることができる。また、エチレンテトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の耐熱性フッ素樹脂を用いることもできる。さらに転写用基材81は、高分子フィルム以外にアート紙、コート紙、軽量コート紙等の塗工紙、ノート用紙、コピー用紙などの非塗工紙であってもよい。転写用基材61の厚さは、取り扱い性及び経済性の観点から通常6〜100μm程度、好ましくは10〜30μm程度とするのがよい。従って、転写用基材61としては、安価で入手が容易な高分子フィルムが好ましく、ポリエチレンテレフタレート等がより好ましい。
【0033】
図3に戻って、固体高分子形燃料電池の製造方法について説明を続ける。上述したように作製した触媒層形成用転写シート6を触媒層3が電解質膜2に対面するように配置し(図3(a))、転写シート6の背面側から加熱プレスを施して触媒層3を電解質膜2に転写させて、転写シート6の転写用基材61を剥離する(図3(b))。作業性を考慮すると、触媒層3を電解質膜2の両面に同時に積層することが好ましいが片面ずつ触媒層3を形成することもできる。加熱プレスの加圧レベルは、転写不良を避けるために、通常0.5〜20MPa程度、好ましくは1〜10MPa程度がよい。また、この加圧操作の際に、転写不良を避けるために加圧面を加熱するのが好ましい。加熱温度は、電解質膜2の破損、変形等を避けるために、通常200℃以下、好ましくは150℃以下がよい。このように電解質膜2の両面に触媒層3を形成することで触媒層−電解質膜積層体10が形成される(図3(b))。
【0034】
続いて、接着層5を、触媒層3の中央に形成する(図3(c))。この接着層5の形成方法としては、接着層5が接着剤により形成される場合は、接着層5をスクリーン印刷や、スプレーコーティング、ダイコーティング、ナイフコーティング、ディスペンサー、インクジェットなどの公知の塗工方法等によって触媒層3上に形成する。また、接着層5が粘着剤により形成される場合も同様に、接着層5をスクリーン印刷や、スプレーコーティング、ダイコーティング、ナイフコーティング、ディスペンサー、インクジェットなどの公知の塗工方法によって触媒層3上に形成する。また、粘着剤を両面テープの形態で使用する場合は、両面テープを所定の大きさに切断して触媒層3上に貼着する。
【0035】
そして、上述した材料からなる導電性多孔質基材4を触媒層3上に接着層5を介して接着させる。この接着に必要な圧力は、約1kgf/cm以下でよいため、プレス機などを用いる必要が無く、例えば手で導電性多孔質基材4を触媒層3に対して軽く押す程度で導電性多孔質基材4と触媒層3とが接着する。こうして、膜−電極接合体1が完成する(図3(d))。
【0036】
以上、本実施形態の膜−電極接合体1によれば、触媒層3上に接着層5を介して導電性多孔質基材4が接着しているため、ユーザ側において触媒層3上に導電性多孔質基材4を積層するという工程が不要となり利便性のよいものとなる。また、導電性多孔質基材4に大きな圧力を掛けることなく導電性多孔質基材4を触媒層3上に接着させることができるため、導電性多孔質基材4中の微細な孔が潰れることを防止することができ、ガス拡散性が低下することがない。
【0037】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0038】
例えば、上記実施形態では、電解質膜2の両面に触媒層3を形成する方法として転写法を用いて説明したが、その他にも、スクリーン印刷や、スプレーコーティング、ダイコーティング、ナイフコーティング、ディスペンサー、インクジェットなどの公知の塗工方法によって、電解質膜2の両面に触媒層3を形成することができる。
【0039】
また、上記実施形態では、触媒層3上に接着層5を形成してから導電性多孔質基材4を触媒層3に接着させているが、導電性多孔質基材4に接着層5を形成してから触媒層3上に接着層5を介して導電性多孔質基材4を接着させてもよい。
【0040】
また、上記実施形態では、接着層5は、触媒層3の中央部に形成されているが、この接着層5が形成される位置や形成パターンは特に限定されるものではなく、例えば、四隅に接着層5を形成したり(図4)、十字状に形成したり(図5)、触媒層3の中央を延びる線状に形成したり(図6)、触媒層3の外周縁上に沿って形成したり(図7)、触媒層3上に海島状に形成したり(図8)することができる。なお、各接着層5の幅は適宜変更することができる。
【0041】
また、上記実施形態では、触媒層3及び導電性多孔質基材4が電解質膜2よりも一回り小さい形状となっていたが、特にこれに限定されるものではなく、これらを全てほぼ同じ大きさとすることもできる。また、電解質膜2,触媒層3、導電性多孔質基材4は全て平面視矩形状に形成されているが、種々の形状をとることができ、例えば、全て平面視円形とすることもできる。
【実施例】
【0042】
実施例及び比較例を示して、本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0043】
電解質膜2は、50mm×50mmの大きさに切断された膜厚125μmのNafion115(デュポン社製)を使用した。
【0044】
この電解質膜2の両面に、22.3mm×22.3mm、層厚20μmの触媒層3を転写法により形成した。具体的には、白金触媒担持カーボン(白金担持量:45.7wt%、田中貴金属社製、TEC10E50E)2gに、1−ブタノール10g、2−ブタノール10g、フッ素樹脂(5wt%ナフィオンバインダー、デュポン社製)20g及び水6gを加え、これらを分散機にて攪拌混合することにより調製した触媒形成用ペーストを、触媒層乾燥後の白金重量が0.4mg/cmとなるようにポリエステルフィルム(東レ製、X44、25μm)上に塗工して触媒層転写フィルムを作製した。そして、この触媒層転写フィルムを、触媒層3が電解質膜2側を向くように中心を合わせて電解質膜2の両面に配置し、135℃、5.0MPa、150秒の条件で熱プレスして電解質膜2の両面に触媒層3を形成した。
【0045】
以上のように形成された触媒層−電解質膜積層体10の触媒層3上に、実施例1から8では、以下の表1に示すような条件で接着層5を形成し、その接着層5を介して導電性多孔質基材4を触媒層3上に接着した。なお、実施例1、3、6、7では接着層5として粘着剤(両面テープ)を使用し、実施例2,4,5、8では接着層5として接着剤を使用した。また、比較例1では、単に触媒層3上に導電性多孔質基材4を積層しただけであり接着層5は形成していない。なお、実施例1〜8,及び比較例1で使用した導電性多孔質基材4は、22.3mm×22.3mmのカーボンペーパー(東レ社製、TGP−H−090、厚さ280μm)である。
【0046】
実施例1、3、6、7に使用した粘着剤は、一般工業用の両面テープ(寺岡製作所製、751B、アクリル系粘着剤、厚さ160μm)である。また、実施例2、4、5、8には、フッ素樹脂をバインダーとしたデュポン社製のナフィオンバインダーを接着に使用した。なお、表1中の位置の「中央部」とは触媒層3の中央部に接着層5を形成したことを意味しており、「四隅」とは触媒層3の四隅に接着層5をそれぞれ形成したことを意味している。また、接着面積とは、導電性多孔質基材4と触媒層3を接着する前の状態、すなわち、触媒層3上に接着層5を形成した直後の状態で測定したものであり、接着面積率とは、触媒層3に対する接着層5の接着面積の割合を示している。なお、四隅に接着層5を形成している場合、接着面積とは4つの接着層5を合計した面積を表している。
【0047】
以上のように形成された実施例1から8、及び比較例1に係る膜−電極接合体に対して、接着力、及び発電性能の評価を行った。接着力の評価としては、振とう機(TAITEC社製、NR-3)を使用して200r/minの回転速度で3分間振とうさせた結果、触媒層3と導電性多孔質基材4が接着した状態を保持しているものを「○」、導電性多孔質基材4が触媒層3から剥離した状態のものを「×」とした。また、発電性能は、エレクトロケム社製燃料電池セルを用いて、セル温度70℃、メタノール濃度1mol、アノード側メタノール流量1ml/min、カソード側Air流量 150ml/minで電流電圧測定評価を行った。
【0048】
【表1】

【0049】
表1から分かるように、接着層5に両面テープを使用した場合は、接着層5の接着面積が0.3mm×0.3mm以上、接着層5にナフィオンを使用した場合は接着層5の接着面積が0.5mm×0.5mm以上であれば、導電性多孔質基材4が触媒層3に十分に接着していることが分かった。また、接着面積が少なくとも12mm×12mm以下であれば、接着層5を設けても設けなくても発電性能にほぼ変わりがないことも分かった。
【符号の説明】
【0050】
1 膜−電極接合体
2 イオン伝導性高分子電解質膜
3 触媒層
4 導電性多孔質基材
5 接着層
10 触媒層−電解質膜積層体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン伝導性高分子電解質膜と、
前記イオン伝導性高分子電解質膜の両面に形成された触媒層と、
前記各触媒層上に形成された接着層と、
前記接着層を介して前記触媒層上に貼られた導電性多孔質基材と、
を備えた、膜−電極接合体。
【請求項2】
前記接着層は、接着剤又は粘着剤により形成される、請求項1に記載の膜−電極接合体。
【請求項3】
前記接着層は、前記触媒層上の中央部に形成された、請求項1又は2に記載の膜−電極接合体。
【請求項4】
前記接着層は、前記触媒層に対する接着面積率が0.03%〜30%以下である、請求項1から3のいずれかに記載の膜−電極接合体。
【請求項5】
前記接着層は、導電性材料を含有している、請求項1から4のいずれかに記載の膜−電極接合体。
【請求項6】
イオン伝導性高分子電解質膜の両面に触媒層が形成された触媒層−電解質膜積層体を準備する工程と、
接着層を介して導電性多孔質基材を前記触媒層上に接着する工程と、
を含む、膜−電極接合体の製造方法。
【請求項7】
前記接着層は、前記触媒層上に形成される、請求項6に記載の膜−電極接合体の製造方法。
【請求項8】
前記接着層は、前記導電性多孔質基材上に形成される、請求項6に記載の膜−電極接合体の製造方法。
【請求項9】
前記接着層は、接着剤又は粘着剤により形成される、請求項6から8のいずれかに記載の膜−電極接合体の製造方法。
【請求項10】
前記接着層は、前記各触媒層上の中央部に形成される、請求項6から9のいずれかに記載の膜−電極接合体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−216416(P2012−216416A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−80850(P2011−80850)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】