膜堆積のための方法および装置
平均直径が3mm以下の複数のスルーチャネルを有するハニカム構造のような基体に、均一な膜コーティングを適用する方法および装置。本方法には、成膜材料を含む液体前駆体を基体に提供する工程と、基体に圧力差を与える工程とが含まれる。圧力差によって、液体前駆体は、スルーチャネルを均一に移動し、成膜材料がスルーチャネルの壁に堆積して、スルーチャネルの壁に成膜がなされる。本装置は、基体を保持し、複数のスルーチャネルに圧力差を維持することのできるチャンバを含む。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、その内容に依拠し、全内容が参照により本明細書に援用される2007年3月29日出願の米国特許出願第11/729732号の優先権の利益を主張する。
【技術分野】
【0002】
本発明は、チャネルのコーティング堆積に関する。特に、本発明は、小直径のハニカムチャネルにおける膜コーティングの堆積に関する。より具体的には、本発明は、小直径のハニカムチャネルに膜コーティングを堆積する方法および装置に関する。
【背景技術】
【0003】
浸漬コーティング、スリップキャスティングおよびスピンコーティングをはじめとする様々なコーティング方法を用いて、材料、特に、膜材料の層が、多孔性基体または支持体構造に堆積されてきた。かかる方法は、平坦な表面、管状構造の外側表面または大直径の管の内側表面のコーティングにはうまく機能している。
【0004】
しかしながら、モノリシック基体または支持体の多数の小さなサイズ(直径≦3mm)のチャネルへの膜コーティングの適用は、前述の方法を用いて克服するには難しい課題である。かかる課題には、粘性コーティング溶液を小さなチャネルに導入し、チャネルの長さおよび周囲に沿って均一なコーティングを与え、滞留時間等の堆積条件を制御することが含まれる。また、上記の方法は、反応プロセス、例えば、無電解めっき、熱水合成等を用いてかかるチャネルをコーティングするのには有効でない。
【0005】
ウォッシュコーティングを用いて、触媒層が小チャネルおよび高密度のハニカム基体に堆積されてきたが、このプロセスはいくつかの理由のために膜コーティングプロセスには適用できない。第1に、ウォッシュコーティングだと、典型的に、数多くの亀裂があり、膜フィルムに望ましいものよりも厚いコーティング層となることである。第2に、ウォッシュコーティングによりコートできるハニカム構造の長さは、約6インチ(約15cm)に限定されることである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
現在利用できるコーティング技術では、より長いハニカム構造の小チャネルに均一な膜コーティングを与えることができない。従って、均一な膜コーティングをかかるハニカム構造のチャネルに適用する方法が必要とされている。また、かかる膜コーティングを、小チャネルのハニカム構造に適用することのできる装置も必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、均一な膜コーティングを、複数のスルーチャネルを有するハニカム構造等の基体に適用する方法および装置を提供することにより、これらおよびその他の必要性を満たすものである。本方法は、成膜材料を含む液体前駆体を基体に提供する工程と、基体に圧力差を与える工程とを含む。圧力差によって、液体前駆体は、スルーチャネルを通して均一に移動し、スルーチャネルの壁に成膜材料を堆積して、スルーチャネルの壁に成膜がなされる。本装置は、液体前駆体を、基体のハニカム構造に均一に分配する入口と、基体を保持し、複数のスルーチャネルに圧力差を維持することのできるチャンバと、出口とを含む。
【0008】
従って、本発明の一態様は、膜を堆積するための装置を提供することである。本装置は、液体前駆体を含有するように構成された液体前駆体源と、チャンバと、チャンバに結合された加圧システムとを含む。チャンバは、第1の端部と、第2の端部と、第1の端部から第2の端部まで基体を通して延在する複数のスルーチャネルとを有する基体を支持するように構成された中間セクションと、基体の第1の端部と接触している中間セクションに近接していて、液体前駆体源および基体の第1の端部と流体連通していて、液体前駆体を基体の第1の端部に均一に分配することのできる入口セクションと、基体の第2の端部に近接して、流体連通していて、基体の第2の端部から流体を均一に放出し、流体をチャンバから結果として除去することのできる出口セクションとを含む。加圧システムが、複数のスルーチャネルを通して、基体の第1の端部と第2の端部との間に圧力差を与える。
【0009】
本発明の第2の態様は、膜を堆積するチャンバを提供することである。チャンバは、第1の端部と、第2の端部と、第1の端部から第2の端部まで基体を通して延在する複数のスルーチャネルとを有する基体を支持するように構成された中間セクションと、基体の第1の端部と接触している中間セクションに近接していて、基体の第1の端部と流体連通していて、液体前駆体を基体の第1の端部に均一に分配することのできる入口セクションと、基体の第2の端部に近接して、流体連通していて、基体の第2の端部から流体を均一に放出し、流体をチャンバから結果として除去することのできる出口セクションとを含み、チャンバは、複数のスルーチャネルを通して、第1の端部と第2の端部との間の圧力差を維持することができる。
【0010】
本発明の第3の態様は、膜を堆積するための装置を提供することであり、本装置は、液体前駆体を含有するように構成された液体前駆体源と、垂直配向チャンバと、チャンバに結合された加圧システムとを含む。チャンバは、第1の端部と、第2の端部と、第1の端部から第2の端部まで基体を通して延在する複数のスルーチャネルとを有する基体を支持するように構成された中間セクションと、チャンバの下部および中間セクションの下に位置し、基体の第1の端部と接触し、液体前駆体源および基体の第1の端部と流体連通していて、液体前駆体を基体の第1の端部に均一に分配することのできる入口セクションと、チャンバの上部および中間セクションの上に位置し、基体の第2の端部と流体連通していて、基体の第2の端部から流体を均一に放出することができ、流体をチャンバから結果として除去することのできる出口セクションとを含む。加圧システムは、複数のスルーチャネルを通して、第1の端部と第2の端部との間に圧力差を与える。
【0011】
本発明の他の態様は、基体に配置された複数のスルーチャネルに成膜する方法を提供することである。本方法は、第1の端部と、第2の端部と、第1の端部から第2の端部まで基体を通して延在する複数のスルーチャネルとを有する基体を、入口セクションと、中間セクションと、出口セクションとを有するチャンバに提供する工程であって、基体は中間セクションに配置されて、第1の端部が入口セクションに近接して、流体連通し、第2の端部が出口セクションに近接して、流体連通するようにする工程と、成膜材料を含む液体前駆体を入口セクションに提供する工程と、入口セクションと出口セクションとの間に、液体前駆体が複数のスルーチャネルを均一に流れるよう圧力差を提供する工程と、複数のスルーチャネルの表面に成膜する工程とを含む。
【0012】
本発明のこれらおよびその他の態様、利点ならびに顕著な特徴は、以下の詳細な説明、添付の図面および添付の特許請求の範囲より明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】膜でコートされた複数のスルーチャネルを有する基体の概略断面図である。
【図2】基体の複数のスルーチャネルの壁に膜を堆積するための装置の概略図である。
【図3】基体の複数のスルーチャネルの壁に膜を堆積するための装置の一実施形態の概略図である。
【図4】基体の複数のスルーチャネルの壁に膜を堆積するための装置の他の実施形態の概略図である。
【図5】モノリシック支持体の直径0.75mmのスルーチャネルの壁に堆積したα−アルミナ膜コーティングの断面の光学顕微鏡画像(倍率4倍)を示す。
【図6a】半径方向位置および長手方向位置に応じた膜コーティング厚さのプロットである。
【図6b】図6aのデータ点に対応するスルーチャネルの位置を示す図である。
【図7a】モノリシック基体のスルーチャネルに堆積したパラジウム膜コーティングの写真である。
【図7b】図7aに示すパラジウム膜の断面の走査電子顕微鏡(SEM)画像(倍率3,000倍)である。
【図8a】図7aおよび7bに示すパラジウム膜のめっき時の表面テクスチャのSEM画像(倍率2,500倍)である。
【図8b】450℃で2日間アニールした後の図7aおよび7bに示すパラジウム膜の表面テクスチャのSEM画像(倍率5,000倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下の説明において、同じ参照文字は、図面に示されたいくつかの図について、同様または対応する部分を示している。また、別記しない限り、「上部」、「下部」、「外側」、「内側」等の用語は、便宜上の言葉であり、限定する用語とは解釈されないものと考える。また、要素の群の少なくとも1つおよびこれらの組み合わせを含むと記載された群は常に、個々に、または互いに組み合わせた、任意の数の列挙された要素を含むと考えられる。同様に、群が、要素の群の少なくとも1つおよびそれらの組み合わせからなると記載されるときは常に、個々に、または互いに組み合わせた、任意の数の列挙された要素からなることがあると考えられる。
【0015】
図面を包括的に、特に、図1を参照すると、図は、本発明の特定の実施形態を説明するためのものであり、本発明を限定しようとするものではないものと考えられる。図1は、膜123でコートされた複数のスルーチャネル122を有する基体120の概略断面図である。膜コーティング123をスルーチャネル122の壁に適用する際に直面する課題のいくつかとしては、各スルーチャネル122が、モノリシック基体120の約3mmまでの直径を有する場合は特に、スルーチャネル122全体にわたる膜コーティング123の不均一分布、各スルーチャネル122の長さに沿った膜コーティング123の不均一性、各スルーチャネル122の断面領域についての膜コーティング123の不均一分布、粘性コーティング溶液を複数のスルーチャネル122に導入する難しさ、および滞留時間等の堆積条件を制御する難しさが挙げられる。
【0016】
各スルーチャネル122の断面領域について均一な膜コーティング123を得るのに関連した問題の概略を図1に示す。膜コーティング122の所定の厚さおよび均一性が望ましいが(図1の(a))、スルーチャネル122をコーティングする先行技術の方法では、典型的に、未制御の厚さの膜コーティング(図1の(b))または膜コーティング122の非対称性(図1の(c))となる。
【0017】
基体210に膜を堆積するための装置200の概略を図2に示す。基体210は、基体210の第1の端部214から第2の端部216まで延在する複数のスルーチャネル212を含む。一実施形態において、各スルーチャネル212の直径は約3mm未満、好ましくは約2mm未満である。他の実施形態において、基体210は、個々のスルーチャネル212の直径が約0.5mm〜約2mmのハニカム構造である。基体210のスルーチャネル212の密度は、1平方インチ(約6.45cm2)当たり約50のチャネル(cpsi)〜約600cpsiの範囲である。
【0018】
装置200は、基体210を収容し、基体を所定の圧力に維持するよう構成されたチャンバ220と、チャンバ220と流体連通している液体前駆体源230と、チャンバ220に結合された加圧システム(図示せず)とを含む。
【0019】
加圧システムは、複数のスルーチャネル212を通して、基体210の第1の端部214と第2の端部216との間に圧力差を与える。加圧システムは、チャンバに正圧または負圧を与える当該技術分野において公知の手段を含んでいてよい。かかる手段としては、これらに限定されるものではないが、メカニカルポンプ、蠕動ポンプ、真空ポンプ、油圧ユニット等が挙げられる。一実施形態において、加圧システムは、入口セクションおよび出口セクションの少なくとも1つと流体連通している。
【0020】
一実施形態において、加圧システムにより提供される圧力差は、複数のモノリシックスルーチャネル212を通して、流体前駆体の所定の直線流速を維持するのに十分なものである。実際の直線流速は、液体前駆体材料の粘度および組成ならびに複数のスルーチャネル212の寸法にある程度依存している。直線流速は、典型的に、約0.01cm/s〜約200cm/sの範囲である。一実施形態において、直線流速は、約1cm/s〜約200cm/sの範囲である。
【0021】
一実施形態において、加圧システムは、入口と出口との間で正圧を維持する。正圧差は、典型的に、約1,000Pa〜約1,000,000Pa(10バール)の範囲である。一実施形態において、正圧差は、約1,000Pa〜約200,000Pa(2バール)の範囲である。特定の実施形態において、圧力差は約1,700Paである。当業者であれば、実際に用いられる圧力差は、スルーチャネル直径および液体前駆体の粘度に少なくともある程度依存することが分かるであろう。圧力差は、入口セクション224において正圧を維持することにより与えられる。限定されない一例において、加圧システムは、入口セクション224において液体前駆体をポンピングすることにより圧力差を形成する。あるいは、圧力差は、出口セクション226の圧力を減じることにより与えてもよい。本実施形態において、加圧システムを用いて、出口セクション226に真空を生成してもよい。
【0022】
液体前駆体源230は、液体前駆体をチャンバ220に与える。液体前駆体は、成膜に必要な材料または養分を含む。液体前駆体は、キャリア液体中で、固体材料の溶液または懸濁液またはスラリーのいずれかであってよい。キャリア液体は水系か有機溶媒系のいずれかであってよい。液体前駆体の材料または成分としては、これらに限定されるものではないが、アルミナまたはその他セラミック材料、金属、分散剤、亀裂防止添加剤、有機テンプレート、膜材料の前駆体等の固体粒子が挙げられる。
【0023】
チャンバ220は、中間セクション222、入口セクション224および出口セクション226を含む。チャンバ220は、ガラス、鋼、または基体210を支持し、基体210の第1の端部214と第2の端部216との間の圧力差を維持することのできるその他任意の材料から形成してよい。中間セクション222は、膜の堆積中に基体210を支持し、基体210の外側周囲に流体シールを提供して、入口セクション224と出口セクション226が、基体210の複数のスルーチャネル212を通してのみ実質的に流体連通し、圧力差が複数のスルーチャネル212に存在するように構成されている。中間セクション222は1より大きなアスペクト比(長さ対直径比)を有している。
【0024】
入口セクション224は、基体210の第1の端部214と接触している中間セクション222の端部に近接している。さらに、入口セクション224は、液体前駆体源230および基体210の第1の端部214と流体連通している。入口セクション224は、分配セクションとして機能し、液体前駆体が、基体210の第1の端部214の断面に均一に分配されることによって、液体前駆体がほぼ同速度で、各複数のモノリシックスルーチャネル212を通して流れる。これを行うために、入口セクションは、空間、プレナム、バッフル、粒子またはビーズの充填床あるいはチャンバまたは空間に均一に流体を分布するのに当該技術分野において公知のその他手段の少なくとも1つを含んでいてよい。
【0025】
外側セクション226は、基体210の第2の端部216と接触している中間セクション222の端部に近接している。出口セクション226はまた、基体210の第2の端部216に近接して、流体連通している。外側セクション226は、基体210の第2の端部216で複数のスルーチャネル212から出る際、流体を均一に放出する。流体の基体210からの均一な放出は、基体210と放出出口227との間の空間により、または基体210と放出出口227との間の領域にテーパを付けることによりなされ得る。出口セクション226はまた、流体をチャンバ220から放出出口227を通して除去する。
【0026】
チャンバ220の配向方法は限定されない。図2に示す好ましい実施形態において、チャンバ220は垂直に配向され、入口セクション224が、チャンバ220の下部および中間セクション222の下に位置し、出口セクションが、チャンバ220の上部および中間セクション222の上に位置するようになっている。この特定の配向によって、さらに、複数のスルーチャネル212の壁にコーティングの堆積、後に成膜が促される。
【0027】
装置200は、チャンバ220および基体210を所定の温度に維持するための熱源をさらに含んでいてもよい。熱源としては、マイクロ波ヒータ、液体熱交換器または抵抗加熱熱源、例えば、これらに限定されるものではないが、加熱テープまたは炉棚、炉等が挙げられる。熱源は、チャンバ120および基体を約500℃の温度まで加熱することができる。
【0028】
装置200の他の実施形態を図3に示す。装置300は、物理堆積プロセスを用いて、基体310に複数のスルーチャネル312の壁を膜に堆積するよう構成されている。かかるプロセスを用いて、例えば、アルミナ等のセラミックを含む膜を堆積する。吸引管332が、液体前駆体源330をチャンバ320に接続している。液体前駆体源330は、液体前駆体を含有し、一実施形態においては、水系溶液、セラミック粒子、分散剤およびポリマー亀裂防止剤を含んでいる。チャンバ320の内側に、真空ポンプ340を用いて真空を引く。真空ポンプ340をチャンバ320の出口セクション326に接続する真空/出口ライン344と流体連通している真空ゲージ342を用いて、真空をモニターする。一実施形態において、真空ポンプ340は、水真空ポンプまたは吸引器であり、約5mmHgの真空を形成する。制御弁334を用いて、液体前駆体を入口セクション324への流量を制御する。入口セクション324の一部に、ビーズの床325を充填して、基体310の第1の端部314の断面への液体前駆体の均一な分布を促し、液体前駆体をほぼ同速度で複数のモノリシックスルーチャネル312を通して流すことができる。一実施形態において、床325の深さは約2インチ(約5cm)であり、それぞれ直径約1mmのアルミナまたはガラスビーズを含む。平坦なステンレス鋼メッシュ323が、床325の上の中間セクション322で基体310を支持している。
【0029】
装置200の他の実施形態を図4に示す。装置400は、例えば、無電解めっきまたは熱水合成等の化学堆積プロセスを用いて、基体410の複数のスルーチャネル412の壁に膜を堆積するように構成されている。かかるプロセスを用いて、例えば、パラジウム等の金属またはゼオライト等のセラミックスを含む膜を堆積する。本実施形態において、基体410は、装置400の中間セクション422として機能する。液体前駆体源430は、反応性成膜材料を保持する2つの別個のチャンバ435および436を有する。液体前駆体は、液体前駆体が混合される任意の混合チャンバ437へ、液体供給ライン432を通して、チャンバ435および436からポンピングされる。入口セクション424は、反応性成膜材料を基体420の複数のスルーチャネル422の全てに均一に分配する空間を有する。液体前駆体は、複数のスルーチャネル422を通して上方へ流れ、反応性成膜材料は組み合わされて、複数のスルーチャネル422の壁に膜(またはプレ膜コーティング)を堆積する。使用済み液体前駆体は、基体420の複数のスルーチャネル422を、出口セクション426へ出て、タンク450に放出される。
【0030】
前述した複数のスルーチャネルを有する基体に膜を堆積するためのチャンバも提供される。
【0031】
本発明はまた、基体に配置された複数のスルーチャネルに成膜する方法も提供する。基体をまずチャンバに入れる。基体は、前述した通り、第1の端部と、第2の端部と、第1の端部から第2の端部まで基体を通して延在する複数のスルーチャネルとを有する。各スルーチャネルの直径は約2mm未満である。チャンバは、前述した通り、入口セクションと、中間セクションと、出口セクションとを有する。基体は、チャンバの中間セクションに配置され、第1の端部が、入口セクションに近接して、流体連通し、第2の端部がチャンバの出口セクションに近接して、流体連通するようにする。
【0032】
第2の工程において、成膜材料を含む液体前駆体を、チャンバの入口セクションに供給する。液体前駆体は、液体中固体材料の溶液または懸濁液またはスラリーのいずれかであってよい。
【0033】
次に、入口セクションと出口セクションとの間に圧力差を与える。圧力差によって、液体前駆体が、複数のスルーチャネルに均一に流れる。一実施形態において、入口セクションと出口セクションとの間に正の圧力差が与えられる。正の圧力差は、典型的に、約1,000Pa〜約1,000,000Pa(10バール)の範囲である。一実施形態において、正の圧力差は、約1,000Pa〜約200,000Pa(2バール)の範囲である。特定の実施形態において、圧力差は、約1,700Paである。圧力差は、入口セクションにおいて正の圧力を維持し、出口セクションは大気圧とすることによって与えてもよい。あるいは、圧力差は、出口セクションの圧力を減じることによって与えてもよい。本実施形態において、圧力差は、出口セクションに真空を生成することにより与えられる。
【0034】
第4の工程において、複数のスルーチャネルの表面に成膜する。膜堆積または成膜は、物理的な方法、化学的な方法または物理的な堆積方法と化学的な堆積方法の両方の組み合わせを用いて行われる。
【0035】
一実施形態において、成膜の第4の工程は、物理堆積を用いて成膜することを含む。液体前駆体は、複数の固体粒子およびキャリア液体を含む懸濁液、スリップまたはスラリーである。固体粒子は、成膜材料を含む。複数の固体粒子は、キャリア液体により、複数のスルーチャネルの少なくとも一部の壁の表面に移動する。成膜材料は、壁の表面に堆積して、キャリア液体が放出された後、無傷の堆積層が残る。基体をチャンバから外し、続いて、堆積層を乾燥および焼成して、成膜する。かかる物理堆積プロセスの一例は、その全内容が参照により本明細書に援用される2007年2月27日出願のZhen P.Songらによる米国仮特許出願「Inorganic Membranes and Method of Making」の明細書に記載されている。
【0036】
他の実施形態において、成膜の第4の工程は、化学堆積を用いて成膜することを含む。ここで、液体前駆体は、互いに、または基体と反応して成膜する成膜材料を含む。成膜材料は、液体前駆体から複数のスルーチャネルの壁に移動し、そこで成膜材料はチャネル壁で化学反応して、膜層を形成する。成膜成分が、壁と、または互いに反応する。かかる化学堆積の限定されない例としては、無電解めっきおよび熱水合成が挙げられる。
【0037】
第3の実施形態において、成膜する第4の工程は、成膜するのに物理的な堆積方法および化学的な堆積方法を組み合わせた方法を含む。成膜材料の一部を、まず、支持体/基体表面に堆積して、プレコーティングを形成する。次に、成膜材料を液体前駆体中でプレコーティングと反応することにより、膜を合成する。
【0038】
堆積した膜フィルムの厚さ、テクスチャおよび均一性は、プロセス条件により制御できる。当業者であれば、かかる膜フィルムの堆積または合成に実際に用いるプロセス条件は、膜フィルムおよび液体前駆体の性質ならびにその他変数に応じて異なることが明白であろう。例えば、複数のスルーチャネルを通る液体前駆体の線速度は、液体前駆体の複数のスルーチャネルの壁への流体力学および物質移動に影響する。一実施形態において、液体前駆体は、所定の線速度で複数のスルーチャネルを流れる。所定の速度は、特定の一実施形態において、約1cm/s〜約10m/sの範囲である。
【0039】
本明細書で用いる「滞留時間」は、流体が、複数のスルーチャネルを通って移動して、基体を行き来するのに必要な時間である。すなわち、液体前駆体が基体に出入りする間の時間である。滞留時間は、基体の長さ(または複数のスルーチャネルの平均長さ)対線速度の比率と定義される。滞留時間は、一実施形態において、約1秒〜約1時間の範囲である。
【0040】
「継続時間」は、複数のスルーチャネルの表面が液体前駆体に露出される時間である。コーティング継続時間は、堆積動力学に依拠し、膜堆積または合成を行うのに必要な時間を決める。コーティング継続時間は、約5秒〜数週間の範囲におよび、均一な膜を得るためには、滞留時間より長いのが好ましい。
【0041】
膜堆積または合成がなされる温度は、ほぼ室温(約20℃)〜約500℃の範囲である。
【0042】
以下の実施例は、本発明の特徴および利点を例示するものであり、本発明を決して限定しようとするものではない。
【実施例】
【0043】
実施例1:多孔性α−アルミナ膜のモノリシックチャネルへの物理的堆積
別記しない限り、外径8.7mm〜9.2mm、長さ約150mmのα−アルミナ製のモノリシック基体(「モノリシック支持体」とも呼ばれる)を本実施例において用いた。各モノリシック支持体は、モノリシック支持体の断面領域に均一に分配された19のスルーチャネルを有していた。スルーチャネルの平均直径は0.75mmであった。
【0044】
モノリシック支持体を、上述したとおり、図3に示す装置に装着した。α−アルミナ粒子、分散剤およびポリマー亀裂防止剤を含有する水系コーティング溶液331を、液体前駆体として用いた。コーティング溶液331をビーカー330に入れた。ビーカー330の上部は空気中へと開いており、ビーカー330の中身は大気圧に露出されていた。
【0045】
吸引管332を、コーティング溶液331に浸漬し、装置300の残りに接続し、水真空蛇口340を用いて、装置300に約5mmHgの真空を引いた。制御弁334を用いて、コーティング溶液331のチャンバ320への流れを制御して、コーティング溶液331が、数秒にわたって徐々にモノリシック支持体320に流れるようにした。
【0046】
モノリシック支持体320をコーティング溶液331に約20秒間浸漬し、その間に、モノリシック支持体320をコーティング溶液331に完全に浸漬した。次に、モノリシック支持体320を装置300から取り出した。複数のスルーチャネル322にある過剰のコーティング溶液331を、モノリシック支持体320を525rpmでスピニングすることにより除去し、スルーチャネル322の壁にコーティングを残した。次に、モノリシック支持体320を120℃で乾燥した。乾燥したモノリシック支持体320を1200℃まで1℃/分の速度で加熱し、120℃で30分間加熱し、約1225℃で5分間加熱して、複数のスルーチャネル322に膜コーティングを形成した。
【0047】
堆積したα−アルミナ膜の断面を、モノリシック支持体のスルーチャネルの半径方向位置と長手方向位置に従って(すなわち、スルーチャネルの長さに沿って)特性を明らかにした。スルーチャネルの「上部」、「中間」および「下部」として得られたものと分類された長手方向試料を、スルーチャネルの上端の1cm以内、スルーチャネルの幾何学的中間、およびスルーチャネルの下端の1cm以内のそれぞれで集めた。図5に、モノリシック支持体520の長さに沿って得られたα−アルミナ膜コーティング523の断面の光学顕微鏡画像を示す。図5の画像(a)は、内側スルーチャネル531の中間セクション(長手方向)に堆積した膜コーティング523の断面を示す。画像(b)は、外側スルーチャネル533の中間セクションに堆積した膜コーティング523の断面を示す。画像(c)および(d)は、中央スルーチャネル532の上部セクションおよび下部セクションにそれぞれ堆積した膜523の断面を示す。
【0048】
図5に示した膜コーティング523の厚さを、図6aに、半径方向位置と長手方向位置に応じてプロットしてある。図6aのデータ点に対応するスルーチャネルの位置を図6bに示す。本明細書に記載した方法および装置を用いて堆積した膜コーティング523の厚さは、概して、半径方向方向および長手方向の両方において均一である。例えば、膜の厚さは、スルーチャネルの上部で約19μm(外側スルーチャネル610)〜約14μm(内側スルーチャネル640)、スルーチャネルの中間で約14μm(外側スルーチャネル610)〜約16μm(外側スルーチャネル650)、約16μm(内側スルーチャネル640)〜約25μm(外側スルーチャネル650)の範囲である。外側スルーチャネル615に堆積した膜は、スルーチャネルの下部で25μm〜スルーチャネルの上部で約14μmの範囲で、厚さの変動が一番大きい。
【0049】
実施例2:堆積したα−アルミナ膜の精密ろ過
実施例1に記載した方法で形成された2組の膜を用いて、乳液/水混合物のろ過を試験した。1組の膜を、4体積%のα−アルミナを含むコーティング溶液を用いて形成し(試料2A)、第2の組の膜を、6体積%のα−アルミナを含むコーティング溶液を用いて形成した(試料2B)。α−アルミナ膜の精密ろ過性能を表1に示す。
【0050】
Nanotrac(商標)光散乱サイズ分析器により測定した際の乳液/水混合物中のタンパク質粒子の0.1%未満のサイズは、0.068μm未満であり、タンパク質粒子の99.9%のサイズは、0.409μm未満であった。
【0051】
膜のろ過機能は、膜の濁度数(NTU)により測定する。NTUは、膜を通過する粒子の量の尺度である。12未満のNTU値であれば、市販の200nm膜について許容範囲と考えられる。
【0052】
両組の膜コーティングは、同様の精密ろ過性能を示した。本実施例で作製した膜のろ過機能は、タンパク質粒子の98〜99%の除去により示されており、12を僅かに超えるNTU値を有するのは、7つの試料のうち2つのみである。結果によれば、本実施例で作製した膜は、予想通りに、市販の膜に匹敵するレベルで機能したことが分かる。
【表1】
【0053】
実施例3a:本明細書に記載した方法および装置を用いたPd薄フィルム膜の無電解堆積
本実施例は、本明細書に記載した方法および装置を用いた膜フィルムの化学堆積を例示するものである。
【0054】
パラジウムおよび銅または銀とのパラジウム合金は、水素分離のための膜材料として周知である。これらの膜は、250℃を超える温度で、高流量および水素透過に対する高い選択性の両方を有する。
【0055】
無電解めっき技術を本方法に用いて、パラジウム膜コーティングをモノリシック支持体に堆積した。液体前駆体またはコーティング溶液は水系前駆体を含んでいた。パラジウムの無電解めっきのために、水系前駆体は、PdCl2(0.04M)、Na2EDTA・2H2O)(0.2M)、NH3・H2O(25重量%)(600ml/L)およびN2H4・H2O(80重量%)(1.2ml/L)を含んでいた。パラジウム膜は、
2Pd(NH3)42++N2H4+4OH ̄→2Pd↓+N2↑+8NH3+4H2O
という化学反応により、支持体表面で合成された。
【0056】
パラジウムの堆積を、γ−アルミナを含むモノリシック支持体で行った。これらの実施例で用いたモノリシック支持体はγ−アルミナを含んでいたが、無電解堆積プロセスを用いて、パラジウムを、少なくとも1つのγ−アルミナコーティング層を有するその他モノリシック支持体に堆積できるものと考えられる。α−アルミナ支持体を、例えば、Pd膜の堆積のために、同じくγ−アルミナフィルムでコートされたα−アルミナ膜でコートすることができる。
【0057】
各モノリシック支持体の外径は9.5mm、長さは50mmであった。各モノリシック支持体は、支持体の断面領域に均一に分配された19のスルーチャネルを有していた。スルーチャネルの平均直径は、1.0mmであった。
【0058】
本明細書に記載した方法および図4に示した装置を用いて、無電解めっきプロセスを実施した。長さ50mmのモノリシック支持体410を、チャンバ420に垂直に置いた。めっき溶液433、436を、供給ライン432を通して、入口セクション424へ、液体前駆体源430からポンピングし、モノリス410を上方へ流した。めっき溶液433、436が全てのスルーチャネル412へ均一に分配されるように、液体前駆体源430からの入口とモノリス410の第1の端部414との間の入口セクション424に、ある程度空間を残した。めっき溶液433、436を、チャンバ420からタンク450へライン440を通して放出した。流速を制御し、60cc/hとした。チャンバ420中のめっき溶液の滞留時間は約2分であった。めっきのための全継続時間を制御し、1時間に制限した。
【0059】
実施例3b:従来の方法を用いたPd薄フィルム膜の無電解めっき堆積(比較例)
比較のために、従来の技術を用いて、無電解めっきを行った。第2のγ−アルミナモノリシック支持体を、めっき溶液433、436と同じ組成を有するめっき溶液を含むビーカーに浸漬した。
【0060】
従来の技術を用いた無電解めっきの結果、モノリシック支持体の外壁のみがパラジウムでめっきされた。
【0061】
従来の技術に対し、本発明の方法および装置を用いたフローコーティングプロセスだと、スルーチャネルが全てパラジウムで均一にコーティングされた。本方法を用いて、モノリシック支持体710のスルーチャネル712に堆積したパラジウム膜コーティング714の光学画像およびSEM画像を、図7aおよび7bにそれぞれ示す。図7aにおいて、モノリシック支持体710の一部を切り欠いて、スルーチャネル712の長さにわたって堆積したPd膜コーティング714を見せてある。Pd膜コーティング714の厚さは、約2〜3μmである。
【0062】
続いて、Pd膜コーティングを有するモノリシック基体を、450℃で2日間アニールした。めっき時およびアニール後のパラジウム膜表面テクスチャのSEM画像を、図8aおよび8bにそれぞれ示す。図8bに示される通り、パラジウム膜は、アニールの結果、緻密なフィルムを形成した。図8bに示すような薄い緻密な膜は、高流量と選択性の両方を与えることが分かっているため、水素分離用途に好ましい。
【0063】
典型的な実施形態を、例示の目的で説明してきたが、上記の説明は、本発明の範囲を限定するものではない。従って、様々な修正、改変および変形を、本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、当業者であれば行えるであろう。
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、その内容に依拠し、全内容が参照により本明細書に援用される2007年3月29日出願の米国特許出願第11/729732号の優先権の利益を主張する。
【技術分野】
【0002】
本発明は、チャネルのコーティング堆積に関する。特に、本発明は、小直径のハニカムチャネルにおける膜コーティングの堆積に関する。より具体的には、本発明は、小直径のハニカムチャネルに膜コーティングを堆積する方法および装置に関する。
【背景技術】
【0003】
浸漬コーティング、スリップキャスティングおよびスピンコーティングをはじめとする様々なコーティング方法を用いて、材料、特に、膜材料の層が、多孔性基体または支持体構造に堆積されてきた。かかる方法は、平坦な表面、管状構造の外側表面または大直径の管の内側表面のコーティングにはうまく機能している。
【0004】
しかしながら、モノリシック基体または支持体の多数の小さなサイズ(直径≦3mm)のチャネルへの膜コーティングの適用は、前述の方法を用いて克服するには難しい課題である。かかる課題には、粘性コーティング溶液を小さなチャネルに導入し、チャネルの長さおよび周囲に沿って均一なコーティングを与え、滞留時間等の堆積条件を制御することが含まれる。また、上記の方法は、反応プロセス、例えば、無電解めっき、熱水合成等を用いてかかるチャネルをコーティングするのには有効でない。
【0005】
ウォッシュコーティングを用いて、触媒層が小チャネルおよび高密度のハニカム基体に堆積されてきたが、このプロセスはいくつかの理由のために膜コーティングプロセスには適用できない。第1に、ウォッシュコーティングだと、典型的に、数多くの亀裂があり、膜フィルムに望ましいものよりも厚いコーティング層となることである。第2に、ウォッシュコーティングによりコートできるハニカム構造の長さは、約6インチ(約15cm)に限定されることである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
現在利用できるコーティング技術では、より長いハニカム構造の小チャネルに均一な膜コーティングを与えることができない。従って、均一な膜コーティングをかかるハニカム構造のチャネルに適用する方法が必要とされている。また、かかる膜コーティングを、小チャネルのハニカム構造に適用することのできる装置も必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、均一な膜コーティングを、複数のスルーチャネルを有するハニカム構造等の基体に適用する方法および装置を提供することにより、これらおよびその他の必要性を満たすものである。本方法は、成膜材料を含む液体前駆体を基体に提供する工程と、基体に圧力差を与える工程とを含む。圧力差によって、液体前駆体は、スルーチャネルを通して均一に移動し、スルーチャネルの壁に成膜材料を堆積して、スルーチャネルの壁に成膜がなされる。本装置は、液体前駆体を、基体のハニカム構造に均一に分配する入口と、基体を保持し、複数のスルーチャネルに圧力差を維持することのできるチャンバと、出口とを含む。
【0008】
従って、本発明の一態様は、膜を堆積するための装置を提供することである。本装置は、液体前駆体を含有するように構成された液体前駆体源と、チャンバと、チャンバに結合された加圧システムとを含む。チャンバは、第1の端部と、第2の端部と、第1の端部から第2の端部まで基体を通して延在する複数のスルーチャネルとを有する基体を支持するように構成された中間セクションと、基体の第1の端部と接触している中間セクションに近接していて、液体前駆体源および基体の第1の端部と流体連通していて、液体前駆体を基体の第1の端部に均一に分配することのできる入口セクションと、基体の第2の端部に近接して、流体連通していて、基体の第2の端部から流体を均一に放出し、流体をチャンバから結果として除去することのできる出口セクションとを含む。加圧システムが、複数のスルーチャネルを通して、基体の第1の端部と第2の端部との間に圧力差を与える。
【0009】
本発明の第2の態様は、膜を堆積するチャンバを提供することである。チャンバは、第1の端部と、第2の端部と、第1の端部から第2の端部まで基体を通して延在する複数のスルーチャネルとを有する基体を支持するように構成された中間セクションと、基体の第1の端部と接触している中間セクションに近接していて、基体の第1の端部と流体連通していて、液体前駆体を基体の第1の端部に均一に分配することのできる入口セクションと、基体の第2の端部に近接して、流体連通していて、基体の第2の端部から流体を均一に放出し、流体をチャンバから結果として除去することのできる出口セクションとを含み、チャンバは、複数のスルーチャネルを通して、第1の端部と第2の端部との間の圧力差を維持することができる。
【0010】
本発明の第3の態様は、膜を堆積するための装置を提供することであり、本装置は、液体前駆体を含有するように構成された液体前駆体源と、垂直配向チャンバと、チャンバに結合された加圧システムとを含む。チャンバは、第1の端部と、第2の端部と、第1の端部から第2の端部まで基体を通して延在する複数のスルーチャネルとを有する基体を支持するように構成された中間セクションと、チャンバの下部および中間セクションの下に位置し、基体の第1の端部と接触し、液体前駆体源および基体の第1の端部と流体連通していて、液体前駆体を基体の第1の端部に均一に分配することのできる入口セクションと、チャンバの上部および中間セクションの上に位置し、基体の第2の端部と流体連通していて、基体の第2の端部から流体を均一に放出することができ、流体をチャンバから結果として除去することのできる出口セクションとを含む。加圧システムは、複数のスルーチャネルを通して、第1の端部と第2の端部との間に圧力差を与える。
【0011】
本発明の他の態様は、基体に配置された複数のスルーチャネルに成膜する方法を提供することである。本方法は、第1の端部と、第2の端部と、第1の端部から第2の端部まで基体を通して延在する複数のスルーチャネルとを有する基体を、入口セクションと、中間セクションと、出口セクションとを有するチャンバに提供する工程であって、基体は中間セクションに配置されて、第1の端部が入口セクションに近接して、流体連通し、第2の端部が出口セクションに近接して、流体連通するようにする工程と、成膜材料を含む液体前駆体を入口セクションに提供する工程と、入口セクションと出口セクションとの間に、液体前駆体が複数のスルーチャネルを均一に流れるよう圧力差を提供する工程と、複数のスルーチャネルの表面に成膜する工程とを含む。
【0012】
本発明のこれらおよびその他の態様、利点ならびに顕著な特徴は、以下の詳細な説明、添付の図面および添付の特許請求の範囲より明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】膜でコートされた複数のスルーチャネルを有する基体の概略断面図である。
【図2】基体の複数のスルーチャネルの壁に膜を堆積するための装置の概略図である。
【図3】基体の複数のスルーチャネルの壁に膜を堆積するための装置の一実施形態の概略図である。
【図4】基体の複数のスルーチャネルの壁に膜を堆積するための装置の他の実施形態の概略図である。
【図5】モノリシック支持体の直径0.75mmのスルーチャネルの壁に堆積したα−アルミナ膜コーティングの断面の光学顕微鏡画像(倍率4倍)を示す。
【図6a】半径方向位置および長手方向位置に応じた膜コーティング厚さのプロットである。
【図6b】図6aのデータ点に対応するスルーチャネルの位置を示す図である。
【図7a】モノリシック基体のスルーチャネルに堆積したパラジウム膜コーティングの写真である。
【図7b】図7aに示すパラジウム膜の断面の走査電子顕微鏡(SEM)画像(倍率3,000倍)である。
【図8a】図7aおよび7bに示すパラジウム膜のめっき時の表面テクスチャのSEM画像(倍率2,500倍)である。
【図8b】450℃で2日間アニールした後の図7aおよび7bに示すパラジウム膜の表面テクスチャのSEM画像(倍率5,000倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下の説明において、同じ参照文字は、図面に示されたいくつかの図について、同様または対応する部分を示している。また、別記しない限り、「上部」、「下部」、「外側」、「内側」等の用語は、便宜上の言葉であり、限定する用語とは解釈されないものと考える。また、要素の群の少なくとも1つおよびこれらの組み合わせを含むと記載された群は常に、個々に、または互いに組み合わせた、任意の数の列挙された要素を含むと考えられる。同様に、群が、要素の群の少なくとも1つおよびそれらの組み合わせからなると記載されるときは常に、個々に、または互いに組み合わせた、任意の数の列挙された要素からなることがあると考えられる。
【0015】
図面を包括的に、特に、図1を参照すると、図は、本発明の特定の実施形態を説明するためのものであり、本発明を限定しようとするものではないものと考えられる。図1は、膜123でコートされた複数のスルーチャネル122を有する基体120の概略断面図である。膜コーティング123をスルーチャネル122の壁に適用する際に直面する課題のいくつかとしては、各スルーチャネル122が、モノリシック基体120の約3mmまでの直径を有する場合は特に、スルーチャネル122全体にわたる膜コーティング123の不均一分布、各スルーチャネル122の長さに沿った膜コーティング123の不均一性、各スルーチャネル122の断面領域についての膜コーティング123の不均一分布、粘性コーティング溶液を複数のスルーチャネル122に導入する難しさ、および滞留時間等の堆積条件を制御する難しさが挙げられる。
【0016】
各スルーチャネル122の断面領域について均一な膜コーティング123を得るのに関連した問題の概略を図1に示す。膜コーティング122の所定の厚さおよび均一性が望ましいが(図1の(a))、スルーチャネル122をコーティングする先行技術の方法では、典型的に、未制御の厚さの膜コーティング(図1の(b))または膜コーティング122の非対称性(図1の(c))となる。
【0017】
基体210に膜を堆積するための装置200の概略を図2に示す。基体210は、基体210の第1の端部214から第2の端部216まで延在する複数のスルーチャネル212を含む。一実施形態において、各スルーチャネル212の直径は約3mm未満、好ましくは約2mm未満である。他の実施形態において、基体210は、個々のスルーチャネル212の直径が約0.5mm〜約2mmのハニカム構造である。基体210のスルーチャネル212の密度は、1平方インチ(約6.45cm2)当たり約50のチャネル(cpsi)〜約600cpsiの範囲である。
【0018】
装置200は、基体210を収容し、基体を所定の圧力に維持するよう構成されたチャンバ220と、チャンバ220と流体連通している液体前駆体源230と、チャンバ220に結合された加圧システム(図示せず)とを含む。
【0019】
加圧システムは、複数のスルーチャネル212を通して、基体210の第1の端部214と第2の端部216との間に圧力差を与える。加圧システムは、チャンバに正圧または負圧を与える当該技術分野において公知の手段を含んでいてよい。かかる手段としては、これらに限定されるものではないが、メカニカルポンプ、蠕動ポンプ、真空ポンプ、油圧ユニット等が挙げられる。一実施形態において、加圧システムは、入口セクションおよび出口セクションの少なくとも1つと流体連通している。
【0020】
一実施形態において、加圧システムにより提供される圧力差は、複数のモノリシックスルーチャネル212を通して、流体前駆体の所定の直線流速を維持するのに十分なものである。実際の直線流速は、液体前駆体材料の粘度および組成ならびに複数のスルーチャネル212の寸法にある程度依存している。直線流速は、典型的に、約0.01cm/s〜約200cm/sの範囲である。一実施形態において、直線流速は、約1cm/s〜約200cm/sの範囲である。
【0021】
一実施形態において、加圧システムは、入口と出口との間で正圧を維持する。正圧差は、典型的に、約1,000Pa〜約1,000,000Pa(10バール)の範囲である。一実施形態において、正圧差は、約1,000Pa〜約200,000Pa(2バール)の範囲である。特定の実施形態において、圧力差は約1,700Paである。当業者であれば、実際に用いられる圧力差は、スルーチャネル直径および液体前駆体の粘度に少なくともある程度依存することが分かるであろう。圧力差は、入口セクション224において正圧を維持することにより与えられる。限定されない一例において、加圧システムは、入口セクション224において液体前駆体をポンピングすることにより圧力差を形成する。あるいは、圧力差は、出口セクション226の圧力を減じることにより与えてもよい。本実施形態において、加圧システムを用いて、出口セクション226に真空を生成してもよい。
【0022】
液体前駆体源230は、液体前駆体をチャンバ220に与える。液体前駆体は、成膜に必要な材料または養分を含む。液体前駆体は、キャリア液体中で、固体材料の溶液または懸濁液またはスラリーのいずれかであってよい。キャリア液体は水系か有機溶媒系のいずれかであってよい。液体前駆体の材料または成分としては、これらに限定されるものではないが、アルミナまたはその他セラミック材料、金属、分散剤、亀裂防止添加剤、有機テンプレート、膜材料の前駆体等の固体粒子が挙げられる。
【0023】
チャンバ220は、中間セクション222、入口セクション224および出口セクション226を含む。チャンバ220は、ガラス、鋼、または基体210を支持し、基体210の第1の端部214と第2の端部216との間の圧力差を維持することのできるその他任意の材料から形成してよい。中間セクション222は、膜の堆積中に基体210を支持し、基体210の外側周囲に流体シールを提供して、入口セクション224と出口セクション226が、基体210の複数のスルーチャネル212を通してのみ実質的に流体連通し、圧力差が複数のスルーチャネル212に存在するように構成されている。中間セクション222は1より大きなアスペクト比(長さ対直径比)を有している。
【0024】
入口セクション224は、基体210の第1の端部214と接触している中間セクション222の端部に近接している。さらに、入口セクション224は、液体前駆体源230および基体210の第1の端部214と流体連通している。入口セクション224は、分配セクションとして機能し、液体前駆体が、基体210の第1の端部214の断面に均一に分配されることによって、液体前駆体がほぼ同速度で、各複数のモノリシックスルーチャネル212を通して流れる。これを行うために、入口セクションは、空間、プレナム、バッフル、粒子またはビーズの充填床あるいはチャンバまたは空間に均一に流体を分布するのに当該技術分野において公知のその他手段の少なくとも1つを含んでいてよい。
【0025】
外側セクション226は、基体210の第2の端部216と接触している中間セクション222の端部に近接している。出口セクション226はまた、基体210の第2の端部216に近接して、流体連通している。外側セクション226は、基体210の第2の端部216で複数のスルーチャネル212から出る際、流体を均一に放出する。流体の基体210からの均一な放出は、基体210と放出出口227との間の空間により、または基体210と放出出口227との間の領域にテーパを付けることによりなされ得る。出口セクション226はまた、流体をチャンバ220から放出出口227を通して除去する。
【0026】
チャンバ220の配向方法は限定されない。図2に示す好ましい実施形態において、チャンバ220は垂直に配向され、入口セクション224が、チャンバ220の下部および中間セクション222の下に位置し、出口セクションが、チャンバ220の上部および中間セクション222の上に位置するようになっている。この特定の配向によって、さらに、複数のスルーチャネル212の壁にコーティングの堆積、後に成膜が促される。
【0027】
装置200は、チャンバ220および基体210を所定の温度に維持するための熱源をさらに含んでいてもよい。熱源としては、マイクロ波ヒータ、液体熱交換器または抵抗加熱熱源、例えば、これらに限定されるものではないが、加熱テープまたは炉棚、炉等が挙げられる。熱源は、チャンバ120および基体を約500℃の温度まで加熱することができる。
【0028】
装置200の他の実施形態を図3に示す。装置300は、物理堆積プロセスを用いて、基体310に複数のスルーチャネル312の壁を膜に堆積するよう構成されている。かかるプロセスを用いて、例えば、アルミナ等のセラミックを含む膜を堆積する。吸引管332が、液体前駆体源330をチャンバ320に接続している。液体前駆体源330は、液体前駆体を含有し、一実施形態においては、水系溶液、セラミック粒子、分散剤およびポリマー亀裂防止剤を含んでいる。チャンバ320の内側に、真空ポンプ340を用いて真空を引く。真空ポンプ340をチャンバ320の出口セクション326に接続する真空/出口ライン344と流体連通している真空ゲージ342を用いて、真空をモニターする。一実施形態において、真空ポンプ340は、水真空ポンプまたは吸引器であり、約5mmHgの真空を形成する。制御弁334を用いて、液体前駆体を入口セクション324への流量を制御する。入口セクション324の一部に、ビーズの床325を充填して、基体310の第1の端部314の断面への液体前駆体の均一な分布を促し、液体前駆体をほぼ同速度で複数のモノリシックスルーチャネル312を通して流すことができる。一実施形態において、床325の深さは約2インチ(約5cm)であり、それぞれ直径約1mmのアルミナまたはガラスビーズを含む。平坦なステンレス鋼メッシュ323が、床325の上の中間セクション322で基体310を支持している。
【0029】
装置200の他の実施形態を図4に示す。装置400は、例えば、無電解めっきまたは熱水合成等の化学堆積プロセスを用いて、基体410の複数のスルーチャネル412の壁に膜を堆積するように構成されている。かかるプロセスを用いて、例えば、パラジウム等の金属またはゼオライト等のセラミックスを含む膜を堆積する。本実施形態において、基体410は、装置400の中間セクション422として機能する。液体前駆体源430は、反応性成膜材料を保持する2つの別個のチャンバ435および436を有する。液体前駆体は、液体前駆体が混合される任意の混合チャンバ437へ、液体供給ライン432を通して、チャンバ435および436からポンピングされる。入口セクション424は、反応性成膜材料を基体420の複数のスルーチャネル422の全てに均一に分配する空間を有する。液体前駆体は、複数のスルーチャネル422を通して上方へ流れ、反応性成膜材料は組み合わされて、複数のスルーチャネル422の壁に膜(またはプレ膜コーティング)を堆積する。使用済み液体前駆体は、基体420の複数のスルーチャネル422を、出口セクション426へ出て、タンク450に放出される。
【0030】
前述した複数のスルーチャネルを有する基体に膜を堆積するためのチャンバも提供される。
【0031】
本発明はまた、基体に配置された複数のスルーチャネルに成膜する方法も提供する。基体をまずチャンバに入れる。基体は、前述した通り、第1の端部と、第2の端部と、第1の端部から第2の端部まで基体を通して延在する複数のスルーチャネルとを有する。各スルーチャネルの直径は約2mm未満である。チャンバは、前述した通り、入口セクションと、中間セクションと、出口セクションとを有する。基体は、チャンバの中間セクションに配置され、第1の端部が、入口セクションに近接して、流体連通し、第2の端部がチャンバの出口セクションに近接して、流体連通するようにする。
【0032】
第2の工程において、成膜材料を含む液体前駆体を、チャンバの入口セクションに供給する。液体前駆体は、液体中固体材料の溶液または懸濁液またはスラリーのいずれかであってよい。
【0033】
次に、入口セクションと出口セクションとの間に圧力差を与える。圧力差によって、液体前駆体が、複数のスルーチャネルに均一に流れる。一実施形態において、入口セクションと出口セクションとの間に正の圧力差が与えられる。正の圧力差は、典型的に、約1,000Pa〜約1,000,000Pa(10バール)の範囲である。一実施形態において、正の圧力差は、約1,000Pa〜約200,000Pa(2バール)の範囲である。特定の実施形態において、圧力差は、約1,700Paである。圧力差は、入口セクションにおいて正の圧力を維持し、出口セクションは大気圧とすることによって与えてもよい。あるいは、圧力差は、出口セクションの圧力を減じることによって与えてもよい。本実施形態において、圧力差は、出口セクションに真空を生成することにより与えられる。
【0034】
第4の工程において、複数のスルーチャネルの表面に成膜する。膜堆積または成膜は、物理的な方法、化学的な方法または物理的な堆積方法と化学的な堆積方法の両方の組み合わせを用いて行われる。
【0035】
一実施形態において、成膜の第4の工程は、物理堆積を用いて成膜することを含む。液体前駆体は、複数の固体粒子およびキャリア液体を含む懸濁液、スリップまたはスラリーである。固体粒子は、成膜材料を含む。複数の固体粒子は、キャリア液体により、複数のスルーチャネルの少なくとも一部の壁の表面に移動する。成膜材料は、壁の表面に堆積して、キャリア液体が放出された後、無傷の堆積層が残る。基体をチャンバから外し、続いて、堆積層を乾燥および焼成して、成膜する。かかる物理堆積プロセスの一例は、その全内容が参照により本明細書に援用される2007年2月27日出願のZhen P.Songらによる米国仮特許出願「Inorganic Membranes and Method of Making」の明細書に記載されている。
【0036】
他の実施形態において、成膜の第4の工程は、化学堆積を用いて成膜することを含む。ここで、液体前駆体は、互いに、または基体と反応して成膜する成膜材料を含む。成膜材料は、液体前駆体から複数のスルーチャネルの壁に移動し、そこで成膜材料はチャネル壁で化学反応して、膜層を形成する。成膜成分が、壁と、または互いに反応する。かかる化学堆積の限定されない例としては、無電解めっきおよび熱水合成が挙げられる。
【0037】
第3の実施形態において、成膜する第4の工程は、成膜するのに物理的な堆積方法および化学的な堆積方法を組み合わせた方法を含む。成膜材料の一部を、まず、支持体/基体表面に堆積して、プレコーティングを形成する。次に、成膜材料を液体前駆体中でプレコーティングと反応することにより、膜を合成する。
【0038】
堆積した膜フィルムの厚さ、テクスチャおよび均一性は、プロセス条件により制御できる。当業者であれば、かかる膜フィルムの堆積または合成に実際に用いるプロセス条件は、膜フィルムおよび液体前駆体の性質ならびにその他変数に応じて異なることが明白であろう。例えば、複数のスルーチャネルを通る液体前駆体の線速度は、液体前駆体の複数のスルーチャネルの壁への流体力学および物質移動に影響する。一実施形態において、液体前駆体は、所定の線速度で複数のスルーチャネルを流れる。所定の速度は、特定の一実施形態において、約1cm/s〜約10m/sの範囲である。
【0039】
本明細書で用いる「滞留時間」は、流体が、複数のスルーチャネルを通って移動して、基体を行き来するのに必要な時間である。すなわち、液体前駆体が基体に出入りする間の時間である。滞留時間は、基体の長さ(または複数のスルーチャネルの平均長さ)対線速度の比率と定義される。滞留時間は、一実施形態において、約1秒〜約1時間の範囲である。
【0040】
「継続時間」は、複数のスルーチャネルの表面が液体前駆体に露出される時間である。コーティング継続時間は、堆積動力学に依拠し、膜堆積または合成を行うのに必要な時間を決める。コーティング継続時間は、約5秒〜数週間の範囲におよび、均一な膜を得るためには、滞留時間より長いのが好ましい。
【0041】
膜堆積または合成がなされる温度は、ほぼ室温(約20℃)〜約500℃の範囲である。
【0042】
以下の実施例は、本発明の特徴および利点を例示するものであり、本発明を決して限定しようとするものではない。
【実施例】
【0043】
実施例1:多孔性α−アルミナ膜のモノリシックチャネルへの物理的堆積
別記しない限り、外径8.7mm〜9.2mm、長さ約150mmのα−アルミナ製のモノリシック基体(「モノリシック支持体」とも呼ばれる)を本実施例において用いた。各モノリシック支持体は、モノリシック支持体の断面領域に均一に分配された19のスルーチャネルを有していた。スルーチャネルの平均直径は0.75mmであった。
【0044】
モノリシック支持体を、上述したとおり、図3に示す装置に装着した。α−アルミナ粒子、分散剤およびポリマー亀裂防止剤を含有する水系コーティング溶液331を、液体前駆体として用いた。コーティング溶液331をビーカー330に入れた。ビーカー330の上部は空気中へと開いており、ビーカー330の中身は大気圧に露出されていた。
【0045】
吸引管332を、コーティング溶液331に浸漬し、装置300の残りに接続し、水真空蛇口340を用いて、装置300に約5mmHgの真空を引いた。制御弁334を用いて、コーティング溶液331のチャンバ320への流れを制御して、コーティング溶液331が、数秒にわたって徐々にモノリシック支持体320に流れるようにした。
【0046】
モノリシック支持体320をコーティング溶液331に約20秒間浸漬し、その間に、モノリシック支持体320をコーティング溶液331に完全に浸漬した。次に、モノリシック支持体320を装置300から取り出した。複数のスルーチャネル322にある過剰のコーティング溶液331を、モノリシック支持体320を525rpmでスピニングすることにより除去し、スルーチャネル322の壁にコーティングを残した。次に、モノリシック支持体320を120℃で乾燥した。乾燥したモノリシック支持体320を1200℃まで1℃/分の速度で加熱し、120℃で30分間加熱し、約1225℃で5分間加熱して、複数のスルーチャネル322に膜コーティングを形成した。
【0047】
堆積したα−アルミナ膜の断面を、モノリシック支持体のスルーチャネルの半径方向位置と長手方向位置に従って(すなわち、スルーチャネルの長さに沿って)特性を明らかにした。スルーチャネルの「上部」、「中間」および「下部」として得られたものと分類された長手方向試料を、スルーチャネルの上端の1cm以内、スルーチャネルの幾何学的中間、およびスルーチャネルの下端の1cm以内のそれぞれで集めた。図5に、モノリシック支持体520の長さに沿って得られたα−アルミナ膜コーティング523の断面の光学顕微鏡画像を示す。図5の画像(a)は、内側スルーチャネル531の中間セクション(長手方向)に堆積した膜コーティング523の断面を示す。画像(b)は、外側スルーチャネル533の中間セクションに堆積した膜コーティング523の断面を示す。画像(c)および(d)は、中央スルーチャネル532の上部セクションおよび下部セクションにそれぞれ堆積した膜523の断面を示す。
【0048】
図5に示した膜コーティング523の厚さを、図6aに、半径方向位置と長手方向位置に応じてプロットしてある。図6aのデータ点に対応するスルーチャネルの位置を図6bに示す。本明細書に記載した方法および装置を用いて堆積した膜コーティング523の厚さは、概して、半径方向方向および長手方向の両方において均一である。例えば、膜の厚さは、スルーチャネルの上部で約19μm(外側スルーチャネル610)〜約14μm(内側スルーチャネル640)、スルーチャネルの中間で約14μm(外側スルーチャネル610)〜約16μm(外側スルーチャネル650)、約16μm(内側スルーチャネル640)〜約25μm(外側スルーチャネル650)の範囲である。外側スルーチャネル615に堆積した膜は、スルーチャネルの下部で25μm〜スルーチャネルの上部で約14μmの範囲で、厚さの変動が一番大きい。
【0049】
実施例2:堆積したα−アルミナ膜の精密ろ過
実施例1に記載した方法で形成された2組の膜を用いて、乳液/水混合物のろ過を試験した。1組の膜を、4体積%のα−アルミナを含むコーティング溶液を用いて形成し(試料2A)、第2の組の膜を、6体積%のα−アルミナを含むコーティング溶液を用いて形成した(試料2B)。α−アルミナ膜の精密ろ過性能を表1に示す。
【0050】
Nanotrac(商標)光散乱サイズ分析器により測定した際の乳液/水混合物中のタンパク質粒子の0.1%未満のサイズは、0.068μm未満であり、タンパク質粒子の99.9%のサイズは、0.409μm未満であった。
【0051】
膜のろ過機能は、膜の濁度数(NTU)により測定する。NTUは、膜を通過する粒子の量の尺度である。12未満のNTU値であれば、市販の200nm膜について許容範囲と考えられる。
【0052】
両組の膜コーティングは、同様の精密ろ過性能を示した。本実施例で作製した膜のろ過機能は、タンパク質粒子の98〜99%の除去により示されており、12を僅かに超えるNTU値を有するのは、7つの試料のうち2つのみである。結果によれば、本実施例で作製した膜は、予想通りに、市販の膜に匹敵するレベルで機能したことが分かる。
【表1】
【0053】
実施例3a:本明細書に記載した方法および装置を用いたPd薄フィルム膜の無電解堆積
本実施例は、本明細書に記載した方法および装置を用いた膜フィルムの化学堆積を例示するものである。
【0054】
パラジウムおよび銅または銀とのパラジウム合金は、水素分離のための膜材料として周知である。これらの膜は、250℃を超える温度で、高流量および水素透過に対する高い選択性の両方を有する。
【0055】
無電解めっき技術を本方法に用いて、パラジウム膜コーティングをモノリシック支持体に堆積した。液体前駆体またはコーティング溶液は水系前駆体を含んでいた。パラジウムの無電解めっきのために、水系前駆体は、PdCl2(0.04M)、Na2EDTA・2H2O)(0.2M)、NH3・H2O(25重量%)(600ml/L)およびN2H4・H2O(80重量%)(1.2ml/L)を含んでいた。パラジウム膜は、
2Pd(NH3)42++N2H4+4OH ̄→2Pd↓+N2↑+8NH3+4H2O
という化学反応により、支持体表面で合成された。
【0056】
パラジウムの堆積を、γ−アルミナを含むモノリシック支持体で行った。これらの実施例で用いたモノリシック支持体はγ−アルミナを含んでいたが、無電解堆積プロセスを用いて、パラジウムを、少なくとも1つのγ−アルミナコーティング層を有するその他モノリシック支持体に堆積できるものと考えられる。α−アルミナ支持体を、例えば、Pd膜の堆積のために、同じくγ−アルミナフィルムでコートされたα−アルミナ膜でコートすることができる。
【0057】
各モノリシック支持体の外径は9.5mm、長さは50mmであった。各モノリシック支持体は、支持体の断面領域に均一に分配された19のスルーチャネルを有していた。スルーチャネルの平均直径は、1.0mmであった。
【0058】
本明細書に記載した方法および図4に示した装置を用いて、無電解めっきプロセスを実施した。長さ50mmのモノリシック支持体410を、チャンバ420に垂直に置いた。めっき溶液433、436を、供給ライン432を通して、入口セクション424へ、液体前駆体源430からポンピングし、モノリス410を上方へ流した。めっき溶液433、436が全てのスルーチャネル412へ均一に分配されるように、液体前駆体源430からの入口とモノリス410の第1の端部414との間の入口セクション424に、ある程度空間を残した。めっき溶液433、436を、チャンバ420からタンク450へライン440を通して放出した。流速を制御し、60cc/hとした。チャンバ420中のめっき溶液の滞留時間は約2分であった。めっきのための全継続時間を制御し、1時間に制限した。
【0059】
実施例3b:従来の方法を用いたPd薄フィルム膜の無電解めっき堆積(比較例)
比較のために、従来の技術を用いて、無電解めっきを行った。第2のγ−アルミナモノリシック支持体を、めっき溶液433、436と同じ組成を有するめっき溶液を含むビーカーに浸漬した。
【0060】
従来の技術を用いた無電解めっきの結果、モノリシック支持体の外壁のみがパラジウムでめっきされた。
【0061】
従来の技術に対し、本発明の方法および装置を用いたフローコーティングプロセスだと、スルーチャネルが全てパラジウムで均一にコーティングされた。本方法を用いて、モノリシック支持体710のスルーチャネル712に堆積したパラジウム膜コーティング714の光学画像およびSEM画像を、図7aおよび7bにそれぞれ示す。図7aにおいて、モノリシック支持体710の一部を切り欠いて、スルーチャネル712の長さにわたって堆積したPd膜コーティング714を見せてある。Pd膜コーティング714の厚さは、約2〜3μmである。
【0062】
続いて、Pd膜コーティングを有するモノリシック基体を、450℃で2日間アニールした。めっき時およびアニール後のパラジウム膜表面テクスチャのSEM画像を、図8aおよび8bにそれぞれ示す。図8bに示される通り、パラジウム膜は、アニールの結果、緻密なフィルムを形成した。図8bに示すような薄い緻密な膜は、高流量と選択性の両方を与えることが分かっているため、水素分離用途に好ましい。
【0063】
典型的な実施形態を、例示の目的で説明してきたが、上記の説明は、本発明の範囲を限定するものではない。従って、様々な修正、改変および変形を、本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、当業者であれば行えるであろう。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体に配置された複数のスルーチャネルに成膜する方法であって、
a.第1の端部と、第2の端部と、前記第1の端部から第2の端部まで前記基体を通して延在する複数のスルーチャネルとを有する前記基体を、入口セクションと、中間セクションと、出口セクションとを有するチャンバに提供する工程であって、前記基体は前記中間セクションに配置されて、前記第1の端部が前記入口セクションに近接して、流体連通し、前記第2の端部が前記出口セクションに近接して、流体連通するようにする工程と、
b.成膜材料を含む液体前駆体を前記入口セクションに提供する工程と、
c.前記入口セクションと前記出口セクションとの間に、前記液体前駆体が前記複数のスルーチャネルを均一に流れるよう圧力差を提供する工程と、
d.前記膜を前記複数のチャネルの表面に形成する工程と、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記液体前駆体が複数の固体粒子を含み、前記複数のチャネルの表面に成膜する工程が、
a.前記前駆体液体の前記複数の固体粒子を、前記複数のスルーチャネルの少なくとも一部の表面に移動する工程と、
b.前記複数の固体粒子を前記表面に堆積して成膜する工程と、
を含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記複数のスルーチャネルの表面に成膜する工程が、
a.前記液体前駆体を、前記複数のスルーチャネルの少なくとも一部の表面に移動する工程と、
b.前記成膜材料を前記表面と、または互いに反応させて成膜する工程と、
を含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
a.液体前駆体源と、
b.チャンバであって、
i.第1の端部と、第2の端部と、前記第1の端部から第2の端部まで基体を通して延在する複数のスルーチャネルとを有する基体を支持するように構成された中間セクションと、
ii.前記基体の前記第1の端部と接触している前記中間セクションに近接していて、前記液体前駆体源および前記基体の前記第1の端部と流体連通していて、液体前駆体を前記基体の前記第1の端部に均一に分配することのできる入口セクションと、
iii.前記基体の前記第2の端部に近接して、流体連通していて、前記基体の前記第2の端部から流体を均一に放出し、前記流体を前記チャンバから結果として除去することのできる出口セクションと、
を含むチャンバと、
c.前記チャンバに結合し、前記入口セクションと前記出口セクションの少なくとも1つと流体連通していて、前記複数のスルーチャネルを通して、前記第1の端部と前記第2の端部との間に圧力差を与える加圧システムと、
を含むことを特徴とする、膜を堆積するための装置。
【請求項5】
前記チャンバが垂直に配向されて、前記入口セクションが前記中間セクションの下の前記チャンバの下部に位置し、前記出口セクションが前記中間セクションの上の前記チャンバの上部に位置していることを特徴とする請求項4に記載の装置。
【請求項1】
基体に配置された複数のスルーチャネルに成膜する方法であって、
a.第1の端部と、第2の端部と、前記第1の端部から第2の端部まで前記基体を通して延在する複数のスルーチャネルとを有する前記基体を、入口セクションと、中間セクションと、出口セクションとを有するチャンバに提供する工程であって、前記基体は前記中間セクションに配置されて、前記第1の端部が前記入口セクションに近接して、流体連通し、前記第2の端部が前記出口セクションに近接して、流体連通するようにする工程と、
b.成膜材料を含む液体前駆体を前記入口セクションに提供する工程と、
c.前記入口セクションと前記出口セクションとの間に、前記液体前駆体が前記複数のスルーチャネルを均一に流れるよう圧力差を提供する工程と、
d.前記膜を前記複数のチャネルの表面に形成する工程と、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記液体前駆体が複数の固体粒子を含み、前記複数のチャネルの表面に成膜する工程が、
a.前記前駆体液体の前記複数の固体粒子を、前記複数のスルーチャネルの少なくとも一部の表面に移動する工程と、
b.前記複数の固体粒子を前記表面に堆積して成膜する工程と、
を含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記複数のスルーチャネルの表面に成膜する工程が、
a.前記液体前駆体を、前記複数のスルーチャネルの少なくとも一部の表面に移動する工程と、
b.前記成膜材料を前記表面と、または互いに反応させて成膜する工程と、
を含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
a.液体前駆体源と、
b.チャンバであって、
i.第1の端部と、第2の端部と、前記第1の端部から第2の端部まで基体を通して延在する複数のスルーチャネルとを有する基体を支持するように構成された中間セクションと、
ii.前記基体の前記第1の端部と接触している前記中間セクションに近接していて、前記液体前駆体源および前記基体の前記第1の端部と流体連通していて、液体前駆体を前記基体の前記第1の端部に均一に分配することのできる入口セクションと、
iii.前記基体の前記第2の端部に近接して、流体連通していて、前記基体の前記第2の端部から流体を均一に放出し、前記流体を前記チャンバから結果として除去することのできる出口セクションと、
を含むチャンバと、
c.前記チャンバに結合し、前記入口セクションと前記出口セクションの少なくとも1つと流体連通していて、前記複数のスルーチャネルを通して、前記第1の端部と前記第2の端部との間に圧力差を与える加圧システムと、
を含むことを特徴とする、膜を堆積するための装置。
【請求項5】
前記チャンバが垂直に配向されて、前記入口セクションが前記中間セクションの下の前記チャンバの下部に位置し、前記出口セクションが前記中間セクションの上の前記チャンバの上部に位置していることを特徴とする請求項4に記載の装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6a】
【図6b】
【図7a】
【図7b】
【図8a】
【図8b】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6a】
【図6b】
【図7a】
【図7b】
【図8a】
【図8b】
【公表番号】特表2010−522827(P2010−522827A)
【公表日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−500959(P2010−500959)
【出願日】平成20年3月25日(2008.3.25)
【国際出願番号】PCT/US2008/003894
【国際公開番号】WO2008/121275
【国際公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【出願人】(397068274)コーニング インコーポレイテッド (1,222)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年3月25日(2008.3.25)
【国際出願番号】PCT/US2008/003894
【国際公開番号】WO2008/121275
【国際公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【出願人】(397068274)コーニング インコーポレイテッド (1,222)
【Fターム(参考)】
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