説明

膜蒸留式造水システム

【課題】エネルギーの入手や大きな資本投下が困難なインフラ未整備地域においても、容易に導入することができる安価な膜蒸留式造水システムを提供する。
【解決手段】原水タンク2から原水搬送パイプ3を介して複数の熱交換パイプ4を並列に配置して構成された加熱装置に搬送された原水は、太陽光により、所定の温度に加温され温原水となる。その後、温原水は、温原水搬送パイプ6を介して、原水タンク2に配置された自重式膜蒸留装置7に搬送されて、中空糸膜束22を構成する各中空糸膜の中心部の空間に供給され、中空糸膜の内部を自重により自然流下する。自然流下の間に発生した温原水の水蒸気は、中空糸膜を通過した後、冷却壁23に至り、冷却されて水滴29を生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜蒸留式造水システムに関し、特にエネルギーの入手や大きな資本投下が困難なインフラ未整備地域においても導入可能な膜蒸留式造水システムに関する。
【背景技術】
【0002】
世界的な水需要の増大に伴って、工場や家庭からの排水、海水、地下水などから飲用可能なレベルにまで浄化された水を得る造水システムの開発が検討されており、エネルギーの入手や大きな資本投下が困難なインフラ未整備地域においては、特に安価な造水システムの導入が強く望まれている。
【0003】
従来、具体的な造水システムとして、RO法(逆浸透法)を用いたRO式造水システムが一般的に用いられている。
【0004】
RO式造水システムは、排水、海水、地下水などの原水に圧力をかけることにより、RO膜(逆浸透膜)で濾過して浄化水を得て造水を行う方法である。
【0005】
しかし、このRO式造水システムには、原水に圧力をかけるための高圧ポンプや原水を前処理するための巨大な設備などを設置する必要があるため、大きな資本投下や大きな運転エネルギーを必要とする。
【0006】
そこで、このRO式造水システムに替えて、インフラ未整備地域にも導入可能な造水システムとして、近年、膜蒸留法を用いた膜蒸留式造水システムが検討されている。
【0007】
膜蒸留式造水システムは、水蒸気のみを透過する疎水性の多孔質膜を用いて、加温された原水(温原水)から多孔質膜を通過して発生する水蒸気を凝縮して純水を得るものであり、RO法のように高圧を必要としないためコンパクトなシステムとすることができる。また、60〜80℃程度の低温で蒸留を行うことができるためエネルギー消費が小さい。
【0008】
このような膜蒸留式造水システムとして、特許文献1に太陽熱を利用して原水を加熱することによりランニングコストを抑制した膜蒸留式造水システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3450939号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1に記載された膜蒸留式造水システムは、原水を加熱するための設備として、高価な蓄熱池を設置する必要がある。
【0011】
このため、コンパクトでエネルギー消費が小さい膜蒸留式造水システムといえども、従来の太陽熱利用技術を用いた膜蒸留式造水システムは、容易に導入できるものではなく、特にインフラ未整備地域への導入は困難であった。
【0012】
そこで、本発明は、エネルギーの入手や大きな資本投下が困難なインフラ未整備地域においても、容易に導入することができる安価な膜蒸留式造水システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、鋭意検討の結果、以下に記載する手段により前記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
請求項1に記載の発明は、
膜蒸留装置、前記膜蒸留装置に供給する原水を貯蔵する原水タンク、前記原水を加熱する加熱装置、およびこれらを連結する配管を備えた膜蒸留式造水システムであって、
前記加熱装置は、複数本の熱交換パイプが配置された太陽熱を利用する加熱装置であり、
前記膜蒸留装置は、前記原水タンク内に配置されており、
前記原水タンクと前記加熱装置の原水流入口、および前記加熱装置の原水流出口と前記膜蒸留装置が前記配管により連結されている
ことを特徴とする膜蒸留式造水システムである。
【0015】
熱交換パイプにより構成された太陽熱を利用する加熱装置は、構造が簡単で安価であり、熱交換パイプに塩化ビニルなどを用いることなどにより安価に作製することができる。
【0016】
そして、太陽熱は、インフラ未整備地域において、最も容易にかつ安価に入手しうるエネルギーであり、熱交換パイプのみで60〜80℃程度の温原水を容易に得ることができる。このため、加温に要するエネルギーコストを十分に低く抑えることができる。
【0017】
また、本請求項の発明においては、膜蒸留装置が原水タンク内に配置されている。このため、温原水から蒸発した水蒸気を、原水タンク内の海水等を用いて冷却することができ、冷却のために特別なエネルギーや設備を準備する必要がなく、この面からも、コストを十分に低く抑えることができる。
【0018】
このように、本請求項の発明にかかる膜蒸留式造水システムは、設備コストやエネルギーコストを十分に低く抑えることができるため、インフラ未整備地域においても容易に導入することができる。
【0019】
熱交換パイプとしては、効率的に太陽熱を吸収して、原水と十分に熱交換を行えるだけの伝熱性を有しており、耐久性に優れたものであれば材質は特に限定はされず、金属製パイプや合成樹脂製パイプを適宜選択して用いることができる。これらの内でも塩化ビニル製パイプは、安価でありながら、60〜80℃程度の温原水を容易に得ることができるため好ましい。
【0020】
そして、熱交換パイプの径や長さそして本数などは、所望する造水量に応じて適宜設定される。
【0021】
膜蒸留装置は、特に限定されないが、温原水が膜蒸留モジュール内を自然流下する自重式膜蒸留装置であれば、温原水の流下に際してエネルギーが不要であるため好ましい。
【0022】
自重式膜蒸留装置に用いられる膜蒸留モジュールとしては、平膜タイプ、スパイラル膜タイプ、中空糸膜タイプなど、いずれのタイプの膜蒸留モジュールも採用することができるが、これらの内でも、中空糸膜タイプの膜蒸留モジュールを用いた装置が、コンパクトで造水能力が高いため好ましい。
【0023】
なお、海水などの原水を原水タンクに取り込む際に、濾過膜を用いて、予め、原水の濁質を除去しておくことが好ましい。
【0024】
請求項2に記載の発明は、
さらに、前記加熱装置に太陽電池パネルが設けられていることを特徴とする請求項1に記載の膜蒸留式造水システムである。
【0025】
本請求項の発明においては、熱交換パイプにより太陽エネルギーを熱エネルギーとして利用することに加えて、加熱装置に太陽電池パネルも設けて、太陽エネルギーを電気エネルギーとしても利用しているため、より効率的に膜蒸留式造水システムを運用することができる。
【0026】
具体的には、太陽電池パネルが発電した電力は、原水や温原水を搬送するポンプの動力源として用いることができる。
【0027】
太陽電池パネルを加熱装置の熱交換パイプと交互に配置して1枚のパネルを形成してもよいが、膜蒸留式造水システムのコンパクト化の観点からは、太陽電池パネルを熱交換パイプの上側に配置して設置面積の増加を抑制することが好ましい。熱交換パイプは、太陽電池パネルの下側に配置されていても十分機能させることができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、エネルギーの入手や大きな資本投下が困難なインフラ未整備地域においても、容易に導入することができる安価な膜蒸留式造水システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の膜蒸留式造水システムの構成の一例を説明する図である。
【図2】本発明の膜蒸留式造水システムの構成の他の一例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明を実施するための形態について、図を参照しながら説明する。
【0031】
(第1の実施の形態)
1.膜蒸留式造水システム
はじめに、膜蒸留式造水システムの構成について説明する。図1は、本実施の形態における膜蒸留式造水システムの構成を説明する図である。なお、図1において、左側には膜蒸留式造水システムの全体構成を示し、右側には膜蒸留式造水システムの原水タンクから取り出した自重式膜蒸留装置を示している。
【0032】
図1において、1は膜蒸留式造水システム、2は原水タンク、3は原水搬送パイプ、4は熱交換パイプ、5はポンプ、6は温原水搬送パイプ、7は自重式膜蒸留装置、8は原水供給パイプである。
【0033】
そして、22は多数本の中空糸膜を束ねた中空糸膜束、23は中空糸膜束22を収納するモジュール容器である。なお、モジュール容器23は原水から発生した水蒸気を凝縮させる冷却壁を兼ねている。また、25は原水タンク2の壁面、26は原水であり、29は水蒸気の凝縮により生成した水滴である。
【0034】
(1)原水タンク
原水タンク2には、原水供給パイプ8を経由して各種廃水、地下水、海水等の原水が供給されて貯蔵される。なお、供給される原水は予め膜濾過器により濁質が除去されていることが好ましい。
【0035】
(2)原水搬送パイプ
原水搬送パイプ3の一端は原水タンク2に接続され、他端は閉じられている。そして中間部には熱交換パイプ4の本数と同数の接続用の孔が設けられている。
【0036】
(3)熱交換パイプ
加熱装置は、複数の熱交換パイプ4を並列に配置して構成され、太陽光を十分に受けるように傾斜して設置されている。熱交換パイプ4は、例えば塩化ビニル製のパイプである。熱交換パイプ4の外径、内径および本数は、所望する造水量、熱交換パイプ4の伝熱性、原水の流れ易さ、強度等を考慮して適宜設定される。
【0037】
熱交換パイプ4の上端は、それぞれ原水搬送パイプ3の接続用の孔に接続されている。また、原水タンク2と加熱装置には原水タンク2の方が高くなるように高低差が設けられており、原水タンク2から流出した原水は、原水搬送パイプ3の中を自然流下して熱交換パイプ4に搬送される。その後、原水は、熱交換パイプ4の上端から下端に向かって自然流下する。原水は、熱交換パイプ4の中を流下する間に、太陽熱によって加熱された熱交換パイプ4と熱交換を行い、所定の温度、例えば60〜80℃の温原水となる。
【0038】
(4)温原水搬送パイプおよびポンプ
熱交換パイプ4の下端は、それぞれ温原水搬送パイプ6に設けられた接続用の孔に接続されている。温原水搬送パイプ6の中間部にはポンプ5が設けられている。熱交換パイプ4から温原水搬送パイプ6に流出した温原水は、ポンプ5により、温原水搬送パイプ6を経由して自重式膜蒸留装置7に搬送される。なお、温原水搬送パイプ6には保温性の良い塩化ビニル製のパイプに発泡性ポリウレタンで保護したものなどが好ましく用いられる。
【0039】
(5)自重式膜蒸留装置
本実施の形態においては、中空糸膜タイプの自重式膜蒸留装置が採用されている。そして、自重式膜蒸留装置7は、原水タンク25内に配置されている。
【0040】
自重式膜蒸留装置7に搬送された温原水は、中空糸膜束22を構成する各中空糸膜の中心部の空間に供給され、その後、中空糸膜の中心部の空間を自重により自然流下する。自然流下の間に、中空糸膜の外側に向けて温原水の水蒸気が発生する。発生した水蒸気は冷却壁23に至り、原水タンク25内の原水26により冷却されて、水滴29を生成する。水滴29は図示しない回収装置により回収され、飲料水タンクなどに貯えられる。蒸留水を生成した後の原水(鹹水)は、再利用しても、そのまま廃棄しても良い。
【0041】
2.造水量の試算
次に、本実施の形態における膜蒸留式造水システムを用いて、日照条件が異なる4つの地域を例に採って、以下に示す条件で海水の淡水化を行うことを想定し、各造水量につき試算を行った。なお、試算に際しては蒸発潜熱を550cal/gとした。
【0042】
まず、10m×10m(100m)の広さに、50mmφの塩化ビニル製の熱交換パイプを2000m敷設して加熱装置を作製する。なお、塩化ビニル製の熱交換パイプ2000mを用いた加熱装置の作製費用は約10万円であり、従来の蓄熱器などを用いた加熱装置の1/10程度である。
【0043】
次に、原水を自重で原水タンクから熱交換パイプに流す。このとき、得られる温原水の温度が約80℃となるように流量を調整する。次に、約80℃の温原水を自重式膜蒸留装置に通す。自重式膜蒸留装置のモジュール容器としては、ステンレス管を用いた。温原水から発生した水蒸気は、このステンレス管の内側で凝集し、蒸留水を生成する。
【0044】
試算の結果を表1に示す。
【0045】
【表1】

【0046】
表1に示した試算結果から、例えば、赤道直下であれば、100mの加熱装置により、1日当たり約1100kg(11.10kg/m/日×100m)の水を造水できることが分かる。同様に、南部諸国では、約730kgの水を造水できることが分かる。
【0047】
このように、本実施の形態の膜蒸留式造水システムは、塩化ビニル製の熱交換パイプなどを用いることにより安価に構成されているにも拘わらず、大量の造水が可能である。また、本実施の形態の膜蒸留式造水システムにおいて使用するエネルギーは、ポンプによる原水搬送のエネルギーだけであり、小さな消費エネルギーで運転することができる。このため、本実施の形態の膜蒸留式造水システムは、インフラ未整備地域においても容易に導入することができる。
【0048】
(第2の実施の形態)
本実施の形態は、前記第1の実施の形態に、さらに、太陽電池パネルが設けられた膜蒸留式造水システムである。
【0049】
図2に、本実施の形態における膜蒸留式造水システムの構成を説明する図を示す。図2において、9は太陽電池パネルであり、10は太陽電池パネル9により得られた電気エネルギーを貯蔵するエネルギー貯蔵器である。その他の符号は、図1と同様であるので、説明は省略する。
【0050】
本実施の形態においては、加熱装置の熱交換パイプ4と接するように太陽電池パネル9が加熱装置の上面側に設けられている。このような構成としても、膜蒸留式造水システムとしての大きさは高さが若干高くなる程度で済むため、第1の実施の形態と同様のコンパクトさを保つことができる。
【0051】
太陽光は、先ず太陽電池パネル9に至り、その光エネルギーにより太陽電池パネル9で発電を行う。発電された電力は、一旦蓄電池等のエネルギー貯臓器10に貯えられ、ポンプ5を作動させる動力などとして利用される。
【0052】
太陽電池パネル9を透過した太陽光は、続いて、加熱装置の熱交換パイプ4に至り、今度は、その熱エネルギーにより原水との熱交換が行われる。太陽光の熱エネルギーは、太陽電池パネル9を透過しても殆ど低下しないため、原水との熱交換を十分に行うことができる。
【0053】
このように、本実施の形態においては、太陽電池パネル分の設置費用は必要となるものの、ポンプの動力までも太陽により得ることができるため、外部からのエネルギーを要することなく運転することができる。
【0054】
以上、本発明の実施の形態を示したが、本発明は、上記の実施の形態に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲内において、種々の変更を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0055】
1 膜蒸留式造水システム
2 原水タンク
3 原水搬送パイプ
4 熱交換パイプ
5 ポンプ
6 温原水搬送パイプ
7 自重式膜蒸留装置
8 原水供給パイプ
9 太陽電池パネル
10 エネルギー貯蔵器
22 中空糸膜束
23 モジュール容器(冷却壁)
25 原水タンクの壁面
26 原水
29 水滴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜蒸留装置、前記膜蒸留装置に供給する原水を貯蔵する原水タンク、前記原水を加熱する加熱装置、およびこれらを連結する配管を備えた膜蒸留式造水システムであって、
前記加熱装置は、複数本の熱交換パイプが配置された太陽熱を利用する加熱装置であり、
前記膜蒸留装置は、前記原水タンク内に配置されており、
前記原水タンクと前記加熱装置の原水流入口、および前記加熱装置の原水流出口と前記膜蒸留装置が前記配管により連結されている
ことを特徴とする膜蒸留式造水システム。
【請求項2】
さらに、前記加熱装置に太陽電池パネルが設けられていることを特徴とする請求項1に記載の膜蒸留式造水システム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−167597(P2011−167597A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−31573(P2010−31573)
【出願日】平成22年2月16日(2010.2.16)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】