説明

膜電極接合体および燃料電池

【課題】白金系触媒を有する燃料電池において、触媒の利用率を向上させる。
【解決手段】燃料電池10は、セパレータ34とセパレータ36との間に狭持された平板状の膜電極接合体50を備える。膜電極接合体50は、固体高分子電解質膜20、アノード22、およびカソード24を有する。カソード24は、カソード触媒層30とカソードガス拡散層32とからなる積層体を有する。イオノマーと、担体粒子と、白金系触媒金属と、SiO成分とから構成される。SiO成分は、触媒金属および担体粒子の周囲の少なくとも一部を被覆する。SiO成分の含有量は、基準質量(担体粒子、触媒金属およびSiO成分各質量を合計した質量)に対して1〜15質量%であり、かつ、カソード触媒層30の体積抵抗率は1〜100Ω・cm以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素と酸素の電気化学反応により発電する燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エネルギー変換効率が高く、かつ、発電反応により有害物質を発生しない燃料電池が注目を浴びている。こうした燃料電池の一つとして、100℃以下の低温で作動する固体高分子形燃料電池が知られている。
【0003】
固体高分子形燃料電池は、電解質膜である固体高分子膜をアノード(燃料極)とカソード(空気極)との間に配した基本構造を有し、アノードに水素を含む燃料ガス、カソードに酸素を含む酸化剤ガスを供給し、以下の電気化学反応により発電する装置である。
アノード:H→2H+2e・・・(1)
カソード:1/2O+2H+2e→HO・・・(2)
【0004】
アノードおよびカソードは、それぞれ触媒層とガス拡散層が積層した構造からなる。各電極の触媒層が固体高分子膜を挟んで対向配置され、膜電極接合体が構成される。触媒層は、触媒を担持した炭素粒子がイオノマーにより結着されてなる層である。ガス拡散層は酸化剤ガスや燃料ガスの通過経路となる。
【0005】
アノードにおいては、供給された燃料中に含まれる水素が上記式(1)に示されるように水素イオンと電子に分解される。このうち水素イオンは固体高分子電解質膜の内部を空気極に向かって移動し、電子は外部回路を通って空気極に移動する。一方、カソードにおいては、カソードに供給された酸化剤ガスに含まれる酸素が燃料極から移動してきた水素イオンおよび電子と反応し、上記式(2)に示されるように水が生成する。このように、外部回路では燃料極から空気極に向かって電子が移動するため、電力が取り出される(特許文献1参照)。
【0006】
従来、触媒層に用いられる触媒として白金触媒が知られている。特に、カソードにおける反応は反応速度が比較的遅いため、カソード触媒層において白金触媒が多用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−357857号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の電気化学反応は、燃料と、触媒を担持した担体粒子と、固体電解質膜との三相界面で発生している。このため、燃料電池の発電性能を向上させるために、触媒層に形成された三相界面における反応性向上が重要であり、これを実現するためには、触媒の利用率を向上させることが必要である。
【0009】
本発明はこうした課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、白金系触媒を有する燃料電池において、触媒の利用率を向上させる技術の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のある態様は、膜電極接合体である。当該膜電極接合体は、電解質膜と、電解質膜の一方の面に設けられているカソード触媒層と、電解質膜の一方の面に設けられているアノード触媒層と、を備え、カソード触媒層、アノード触媒層のうち、少なくとも一方の触媒層が、Ptを含む触媒金属と、触媒金属を担持する導電性の担体粒子と、触媒金属および担体粒子の周囲の少なくとも一部を被覆するSiO成分と、プロトン伝導性を有するイオノマーと、を備え、触媒層における、触媒金属、担体粒子およびSiO成分の各質量を合計した基準質量に対するSiO成分の含有量が1〜15質量%(体積比率1〜20%に相当。体積比率=シリカ体積/(カーボン体積+シリカ体積))であり、触媒層の体積抵抗率が1〜100Ω・cmであることを特徴とする。
【0011】
この態様の膜電極接合体によれば、白金系の触媒金属を上記範囲の適量のSiO成分で部分的に被覆することにより、白金系の触媒金属の利用率を高め、触媒層に形成した三相界面における反応性の向上を図ることができる。
【0012】
上記態様の膜電極接合体において、触媒金属の濃度(100×基準質量に対する触媒金属の質量%/(基準質量に対する触媒金属の質量%+基準質量に対する担体粒子の質量%))が10〜80%であってもよい。担体粒子が、カーボンブラック、導電性金属酸化物系のいずれかもしくは両者の混合物であってもよい。担体粒子のBET比表面積が10〜1500m/gであってもよい。担体粒子のメジアン径が30nm〜1μmであってもよい。膜電極接合体の有効面積に対する、触媒層における触媒金属の量が0.05〜2mg/cmであってもよい。触媒層における、担体粒子の量に対するイオノマーの量(イオノマー比率)が0.2〜3であってもよい。
【0013】
本発明の他の態様は、燃料電池である。当該燃料電池は、上述したいずれかの態様の膜電極接合体と、カソード触媒層に酸化剤を供給するための酸化剤流路を有するカソード側セパレータと、アノード触媒層に燃料を供給するための燃料流路を有するアノード側セパレータと、を備えることを特徴とする。
【0014】
なお、上述した各要素を適宜組み合わせたものも、本件特許出願によって特許による保護を求める発明の範囲に含まれうる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、白金系触媒を有する燃料電池において、触媒の利用率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施の形態に係る燃料電池の構造を模式的に示す斜視図である。
【図2】図1のA−A線上の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。なお、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0018】
(実施の形態)
図1は、実施の形態に係る燃料電池10の構造を模式的に示す斜視図である。図2は、図1のA−A線上の断面図である。燃料電池10は、平板状の膜電極接合体50を備え、この膜電極接合体50の両側にはセパレータ34およびセパレータ36が設けられている。セパレータ34やセパレータ36を介して複数の燃料電池10が積層されることにより、燃料電池スタックを構成する積層体が形成される。
【0019】
膜電極接合体50は、固体高分子電解質膜20、アノード22、およびカソード24を有する。アノード22は、アノード触媒層26とアノードガス拡散層28とからなる積層体を有する。一方、カソード24は、カソード触媒層30とカソードガス拡散層32とからなる積層体を有する。アノード触媒層26とカソード触媒層30は、固体高分子電解質膜20を挟んで対向するように設けられている。アノードガス拡散層28は、固体高分子電解質膜20とは反対側のアノード触媒層26の面に設けられている。また、カソードガス拡散層32は、固体高分子電解質膜20とは反対側のカソード触媒層30の面に設けられている。
【0020】
アノード22側に設けられるセパレータ34にはガス流路38が設けられている。燃料供給用のマニホールド(図示せず)から改質ガスがガス流路38に分配され、ガス流路38を通じて膜電極接合体50に改質ガスが供給される。同様に、カソード24側に設けられるセパレータ36にはガス流路40が設けられている。酸化剤供給用のマニホールド(図示せず)から酸化剤として空気がガス流路40に分配され、ガス流路40を通じて膜電極接合体50に空気が供給される。
【0021】
固体高分子電解質膜20は、湿潤状態において良好なイオン伝導性を示し、アノード22およびカソード24の間でプロトンを移動させるイオン交換膜として機能する。固体高分子電解質膜20は、含フッ素重合体や非フッ素重合体等の固体高分子材料によって形成され、例えば、スルホン酸型パーフルオロカーボン重合体、ポリサルホン樹脂、ホスホン酸基又はカルボン酸基を有するパーフルオロカーボン重合体等を用いることができる。スルホン酸型パーフルオロカーボン重合体の例として、ナフィオン(デュポン社製:登録商標)などが挙げられる。また、非フッ素重合体の例として、スルホン化された、芳香族ポリエーテルエーテルケトン、ポリスルホンなどが挙げられる。
【0022】
本実施の形態のカソード触媒層30は、イオノマーと、担体粒子と、触媒金属と、SiO成分とから構成される。イオノマーは、カソード触媒層30中の触媒金属と固体高分子電解質膜20を接続し、両者間においてプロトンを伝達する役割を持つ。イオノマーは、固体高分子電解質膜20と同様の高分子材料から形成されてよい。
【0023】
担体粒子として、アセチレンブラック、ケッチェンブラックなどのカーボンブラックのような導電性の炭素粒子、酸化チタン,酸化スズなどの導電性金属酸化物系、またはこれらの混合物が挙げられる。
【0024】
担体粒子のBET比表面積は、50〜2000m/gであることが好ましい。担体粒子のBET比表面積が50m/gより小さいと、触媒金属を均一に担持させることが難しくなる。このため、触媒表面の利用率が低下し、触媒性能の低下を招く。担体粒子のBET比表面積が2000m/gより大きいとSiO成分による担体粒子の被覆が均一にならないため、白金系の触媒金属の利用率の向上を図ることができなくなる。
【0025】
また、担体粒子のメジアン径は30nm〜1μmであることが好ましい。担体粒子のメジアン径が30nmより小さいと触媒金属(数nm)を十分に担持することができない。また、担体粒子のメジアン径が1μmより大きいと比表面積が小さくなるため、触媒金属を十分に担持することができない。
【0026】
触媒金属は、上述した担体粒子に担持される。本実施の形態の触媒金属は、白金系触媒であり、PtまたはPtとFe、CoまたはNi等の金属とのPt合金である。触媒金属の濃度(100×基準質量に対する触媒金属の質量%/(基準質量に対する触媒金属の質量%+基準質量に対する担体粒子の質量%))は、10〜80%であることが好ましい。なお、「基準質量」は、担体粒子、触媒金属およびSiO成分各質量を合計した質量である。触媒金属の濃度が10%より低いと、十分な発電性能が得られなくなる。触媒金属の濃度が80%より高いと、触媒金属を担体粒子上に均一に担持させることが難しくなる。
【0027】
SiO成分は、上述した触媒金属および担体粒子の周囲の少なくとも一部を被覆する。ここで、SiO成分は、具体的には、シリカである。SiO成分の含有量は、上述した基準質量に対して1〜15質量%(体積比率1〜20%に相当。体積比率=シリカ体積/(カーボン体積+シリカ体積))である。SiO成分の含有量が1質量%より少ないと、触媒金属を十分に被覆することができない。また、SiO成分の含有量が15質量%より多いと、カソード触媒層において導電パスが形成されにくくなり、発電性の低下を招く。
【0028】
カソード触媒層30の体積抵抗率は1Ω・cm以上100Ω・cm以下である。カソード触媒層30の体積抵抗率が1Ω・cmより低い場合には、カソード触媒層30の抵抗が小さい利点はあるがSiO成分による触媒金属の被覆量が十分でないため、十分な発電性能を得ることができない。カソード触媒層30の体積抵抗率が100Ω・cmより高いと、カソード触媒層30の抵抗が大きすぎるため、十分な発電性能を得ることができない。
【0029】
また、膜電極接合体の有効面積に対する、カソード触媒層330における触媒金属の量は、0.05mg/cm〜2mg/cmであることが好ましい。触媒金属の量が0.05mgより少ないと、十分な発電性能を得ることができない。触媒金属の量が2mg/cmより多いと、触媒金属に要するコストが必要以上に高くなり、燃料電池10の製造コストが増大する。また、触媒金属の量が2mg/cmより多いと、カソード触媒層330における酸素拡散性やプロトン移動性が悪くなるため、カソード触媒層330の内部の触媒金属を有効に利用することができなくなる。
【0030】
また、カソード触媒層30における、担体粒子の量に対するイオノマーの量(イオノマー比率)は0.2以上3以下であることが好ましい。イオノマーの量が0.2未満であると、カソード触媒層30内のプロトン移動性が低下するため、発電性能が低下する。イオノマーの量が3より大きいと、カソード触媒層30内の酸素拡散性が低下するため、発電性能が低下する。
【0031】
カソードガス拡散層32は、カソードガス拡散基材により形成される。カソードガス拡散基材は、電子伝導性を有する多孔体で構成されることが好ましく、たとえば、金属板、金属フィルム、導電性高分子、カーボンペーパー、カーボンの織布または不織布などを用いることができる。
【0032】
一方、アノード触媒層26は、イオノマーと、導電性材料と、白金触媒などから構成される。イオノマーは、アノード触媒層26中の触媒金属と固体高分子電解質膜20を接続し、両者間においてプロトンを伝達する役割を持つ。イオノマーは、固体高分子電解質膜20と同様の高分子材料から形成されてよい。導電性材料として、アセチレンブラック、ケッチェンブラックなどの炭素粒子が挙げられる。
【0033】
アノードガス拡散層28は、アノードガス拡散基材により形成される。アノードガス拡散基材は、電子伝導性を有する多孔体で構成されることが好ましく、たとえば金属板、金属フィルム、導電性高分子、カーボンペーパー、カーボンの織布または不織布などを用いることができる。
【0034】
以上説明した燃料電池によれば、SiO成分の含有量を適量とすることで、白金系の触媒金属の利用率を向上させ、ひいては燃料電池の発電性能を向上させることができる。
【実施例】
【0035】
ここで、各実施例および各比較例の燃料電池の作製方法について説明する。
<電極触媒の作製>
(電極触媒A)
カーボンブラックとして、ケッチェン・ブラック・インターナショナル社製ケッチェンブラックEC(BET比表面積=800m/g)を、所定量の塩化白金酸を溶解した2−ブタノール中に混合し、超音波スターラーを用いて1時間超音波撹拌分散を行った。その後、60℃で蒸発乾固し、さらに250℃で水素還元処理を5時間行うことにより、白金担持カーボンを得た。なお、この白金担持カーボンにおける白金濃度が50wt%になるようにした。
【0036】
(電極触媒B〜H)
電極触媒Aを、純水300mlにトリメチルアミン7mlを添加した溶液中に分散(pH=10になるよう調整)させた。得られた分散溶液に60℃の温浴中で超音波を5分間照射した。その後、分散溶液に3−アミノプロピルエトキシシラン(APTES)を添加し、30分間撹拌した。さらに、分散溶液にテトラエトキシシラン(TEOS)を添加し、2時間撹拌した。得られた混合溶液を、遠心分離機を用いて30分間遠心分離した。得られた混合溶液を60℃で一晩乾燥させた後、350℃で水素還元して、ケッチェンブラックに担持されたPtがシリカ(SiO成分)で被覆されたSiO/Pt/ケッチェンブラックEC触媒を得た。以上の手法により、シリカ量が1質量%になるよう調整したものを電極触媒B、シリカ量が3質量%になるよう調整したものを電極触媒C、シリカ量が6質量%になるよう調整したものを電極触媒D、シリカ量が9質量%になるよう調整したものを電極触媒E、シリカ量が12質量%になるよう調整したものを電極触媒F、シリカ量が15質量%になるよう調整したものを電極触媒G、シリカ量が17質量%になるよう調整したものを電極触媒Hとした。
【0037】
(電極触媒I)
カーボンブラックとして、デンカ社製デンカブラック(BET比表面積=69m/g)を、所定量の塩化白金酸を溶解した2−ブタノール中に混合し、超音波スターラーを用いて1時間超音波撹拌分散を行った。その後、60℃蒸発乾固し、さらに250℃で5時間水素還元処理を行うことにより、白金担持カーボンを得た。なお、この白金担持カーボンにおける白金濃度が50wt%になるようにした。
【0038】
その白金担持カーボンを、純水300mlにトリメチルアミン7mlを添加した溶液中に分散(pH=10になるよう調整)させた。得られた分散溶液に60℃の温浴中で超音波を5分間照射した。その後、分散溶液に3−アミノプロピルエトキシシラン(APTES)を添加し、30分間撹拌した。さらに、分散溶液にテトラエトキシシラン(TEOS)を添加し、2時間撹拌した。得られた混合溶液を、遠心分離機を用いて30分間遠心分離した。得られた混合溶液を60℃で一晩乾燥させた後、350℃で水素還元して、デンカブラックに担持されたPtがシリカ(SiO成分)で被覆されたSiO/Pt/デンカブラック触媒を得た。以上の手法により、シリカ量が6質量%になるよう調整したものを電極触媒Iとした。
【0039】
(電極触媒J)
電極触媒Gの手法において、カーボンブラックとして、デンカブラックではなくCabot社製Vulcan XC−72(BET比表面積=280m/g)を用いて、SiO/Pt/Vulcan XC−72触媒を得た。以上の手法により、シリカ量が6質量%になるよう調整したものを電極触媒Jとした。
【0040】
(電極触媒K)
電極触媒Gの手法において、カーボンブラックとして、Vulcan XC−72ではなくケッチェン・ブラック・インターナショナル社製ケッチェンブラックEC600JD(BET比表面積=1270m/g)を用いて、SiO/Pt/ケッチェンブラックEC600JD触媒を得た。以上の手法により、シリカ量が6質量%になるよう調整したものを電極触媒Kとした。
【0041】
(電極触媒L)
電極触媒Gの手法において、カーボンブラックとして、ケッチェンブラックEC600JDではなくCabot社製ブラックパール2000(BET比表面積=2000m/g)を用いて、SiO/Pt/ブラックパール2000触媒を得た。以上の手法により、シリカ量が6質量%になるよう調整したものを電極触媒Lとした。
【0042】
<電極触媒スラリーの作製>
電極触媒A〜Lを用いて、以下の手順で電極触媒スラリーA〜Lを作製した。
【0043】
電極触媒5gに対し、10mlの超純水を添加し撹拌した後に、15mlエタノールを添加した。この触媒分散溶液について、超音波スターラーを用いて1時間超音波撹拌分散を行った。
【0044】
一方で、旭化成ケミカルズ製イオノマー溶液Aciplex(登録商標)SS700C(濃度=20%、Ew=780、含水率=36wt%)を等量の超純水で希釈を行い、ガラス棒で3分間撹拌した。この後、超音波洗浄機を用いて1時間超音波分散を行い、イオノマー水溶液を得た(以下、SS700水溶液と略す)。
【0045】
次に、超音波スターラーを用いて触媒分散溶液を撹拌しながらSS700水溶液を触媒分散溶液にゆっくりと滴下した。
【0046】
さらに、SS700水溶液を滴下した触媒分散溶液に、1−プロパノールと1−ブタノールの混合溶液10g(重量比1:1)を滴下した。このとき、触媒分散溶液の温度を60℃に保ち、エタノールを蒸発、除去し、触媒スラリーを得た。以上の手法により得られた触媒スラリーにおけるイオノマー比率が1となるよう調整したものを電極触媒スラリーとした。
【0047】
<カソード電極触媒層の作製>
電極触媒スラリーA〜Lを用いて、面積25cmのカーボンペーパーに、電極触媒層の有効面積に対する白金の量(目付け量)が後述の表1および表2に記載された量になるよう塗布した後、一晩乾燥させて、電極触媒層を作製した。
【0048】
<アノード電極触媒層の作製>
電極触媒スラリーAを、面積25cmのカーボンペーパーに、電極触媒層の有効面積に対する白金の量(目付け量)が0.5mg/cmになるよう塗布した後、一晩乾燥させて、電極触媒層を作製した。
【0049】
<膜電極接合体の作製>
上記の方法で作製したカソード電極触媒層とアノード電極触媒層の間に固体高分子電解質膜としてデュポン社製Nafion212(登録商標)を挟持した状態で、120℃、5MP、160秒の接合条件でホットプレスすることによって膜電極接合体を作製した。
【0050】
<燃料電池の作製>
上記の方法で作製した膜電極接合体のアノード面、カソード面に、それぞれ燃料流路が設けられた燃料セパレータを、酸化剤流路が設けられたセパレータを配設し、燃料電池を作製した。
【0051】
<性能評価>
実施例1〜8、比較例1〜4の燃料電池について、下記条件にてそれぞれ電流密度値を測定した。なお、燃料流路および酸化剤流路は、ともに1流路のサーペンタイン型流路であり、燃料流路および酸化剤流路は並行流とした。
膜電極接合体の有効面積:25cm
燃料ガス:H、流量300ml/min
酸化剤ガス:O、流量300ml/min
セル温度:70℃
燃料ガス用バブラー温度:70℃
酸化剤ガス用バブラー温度:70℃
【0052】
(シリカ量による性能への影響)
実施例1〜6、比較例1、2の燃料電池における電流密度値の測定結果を表1に示す。
実施例1〜6は、いずれも300mA/cm時における電圧値は、燃料電池システムの実用上望まれる700mVを超えている。さらに実施例2〜5においては、300mA/cm時におけるより好ましき電圧値750mVを超えている。
【0053】
一方、シリカ量が0、すなわちSiO成分を含有していない比較例1は、白金目付け量が実施例1〜6と同等で、体積抵抗率は実施例1〜6より低いにも関わらず、発電性能が低く、実用上十分な発電性能を発揮していない。
【0054】
また、実施例1〜4、比較例1、2の中で最もシリカ量が多い、つまり体積抵抗率が最も高い比較例2も発電性能が低く、実用上十分な発電性能を発揮していない。SiO成分の含有量が1質量%より少ないと、触媒金属を十分に被覆することができず、また、SiO成分の含有量が15質量%より多いと、カソード触媒層において導電パスが形成されにくくなるためである。
【0055】
【表1】

【0056】
(BET比表面積による性能への影響)
実施例3、7、8、比較例3、4の燃料電池における電流密度値の測定結果を表2に示す。最もBET比表面積が小さい比較例3は、表1のSiO成分を含有していない比較例1よりさらに300mA/cm時における電圧値が小さい。BET比表面積が小さすぎると触媒金属を均一に担持させることが難しいため、触媒表面の利用率が低下する一方で、SiO成分による体積抵抗率の上昇による影響をより強く受けてしまい、発電性能の低下を招く。
【0057】
最もBET比表面積が大きい比較例4も、表1のSiO成分を含有していない比較例1より300mA/cm時における電圧値が小さい。BET比表面積が大きすぎるとSiO成分による担体粒子の被覆が均一にならないため、白金系の触媒金属の利用率の向上を図ることができなくなり、発電性能の低下を招く。
【0058】
【表2】

【0059】
本発明は、上述の実施の形態に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて各種の設計変更等の変形を加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれうるものである。
【0060】
例えば、上述の実施の形態では、カソード触媒層に担体粒子に担持された触媒金属がSiO成分で部分的に被覆された触媒複合体が用いられているが、当該触媒複合体をアノード触媒層に用いてもよい。アノード触媒層に用いる場合は、PtまたはPtとRu等の金属とのPt合金を用いてもよい。
【符号の説明】
【0061】
10 燃料電池、20 固体高分子電解質膜、22 アノード、24 カソード、26 アノード触媒層、28 アノードガス拡散層、30 カソード触媒層、32 カソードガス拡散層、50 膜電極接合体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜と、
前記電解質膜の一方の面に設けられているカソード触媒層と、
前記電解質膜の一方の面に設けられているアノード触媒層と、
を備え、
前記カソード触媒層、前記アノード触媒層のうち、少なくとも一方の触媒層が、
Ptを含む触媒金属と、
前記触媒金属を担持する導電性の担体粒子と、
前記触媒金属および前記担体粒子の周囲の少なくとも一部を被覆するSiO成分と、
プロトン伝導性を有するイオノマーと、
を備え、
前記触媒層における、前記触媒金属、前記担体粒子およびSiO成分の各質量を合計した基準質量に対するSiO成分の含有量が1〜15質量%であり、
前記触媒層の体積抵抗率が1〜100Ω・cmであることを特徴とする膜電極接合体。
【請求項2】
前記触媒金属の濃度(100×基準質量に対する触媒金属の質量%/(基準質量に対する触媒金属の質量%+基準質量に対する担体粒子の質量%))が10〜80%である請求項1に記載の膜電極接合体。
【請求項3】
前記担体粒子が、カーボンブラック、導電性金属酸化物系のいずれかもしくは両者の混合物である請求項1または2に記載の膜電極接合体。
【請求項4】
前記担体粒子のBET比表面積が100〜1500m/gである請求項1乃至3のいずれか1項に記載の膜電極接合体。
【請求項5】
前記担体粒子のメジアン径が30nm〜1μmである請求項1乃至4のいずれか1項に記載の膜電極接合体。
【請求項6】
膜電極接合体の有効面積に対する、前記触媒層における前記触媒金属の量が0.05〜2mg/cmである請求項1乃至5のいずれか1項に記載の膜電極接合体。
【請求項7】
前記触媒層における、前記担体粒子の量に対する前記イオノマーの量(イオノマー比率)が0.2〜3である請求項1乃至6のいずれか1項に記載の膜電極接合体。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の膜電極接合体と、
前記カソード触媒層に酸化剤を供給するための酸化剤流路を有するカソード側セパレータと、
前記アノード触媒層に燃料を供給するための燃料流路を有するアノード側セパレータと、
を備えることを特徴とする燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−22960(P2012−22960A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−161451(P2010−161451)
【出願日】平成22年7月16日(2010.7.16)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】