説明

膜電極接合体の製造方法及び電解質用膜

【課題】膜電極接合体の製造方法及び電解質用膜に関し、製造効率を向上できる膜電極接合体の製造方法及び取り扱いが容易な電解質用膜を提供する。
【解決手段】ポリマー中間体をフィルム化は、ポリマー中間体から保護基を脱離させた後に行う。しかしながら、製造方法に用いられるポリマーは、側鎖にホスホン酸基が導入された構造であるため水和しやすい。故に、保護基を脱離させた状態でフィルム化すると、フィルムがベタベタしてしまい取り扱いが難しくなる。この点、ポリマー中間体の段階でフィルム化すると、フィルムの取り扱いが容易となる。したがって、膜電極接合体の製造に際し、フィルムを電極触媒層と効率的に接合できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、膜電極接合体の製造方法及び電解質用膜に関し、より詳細には、側鎖にホスホン酸エステル基を有する芳香族ポリエーテルを用いた膜電極接合体の製造方法及び該ポリエーテルを用いた電解質用の膜に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1には、多孔質膜の空孔内に、ポリスチレンの側鎖にホスホン酸基が導入されたポリマーを担持させた燃料電池用の電解質膜が開示されている。この電解質膜は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)やポリエチレン(PE)といった強度に優れる多孔質膜の空孔内で、耐熱性を備える上記ポリマーの三次元的なネットワークを形成させたものである。
【0003】
上記電解質膜は、次のように製造される。先ず、上記多孔質膜の両面に、ベンゼン環上にホスホン酸エステル基が導入されたスチレンモノマー、架橋剤、重合開始剤等を含む溶液を塗布し、乾燥させる。続いて、上記スチレンモノマーを重合して上記ポリマーの前駆体を得る。最後に、得られたポリマー前駆体に塩基を添加して、ホスホン酸エステル基を加水分解する。ここで、上記スチレンモノマーの重合反応は、架橋反応と同時に進行する。したがって、上記製造方法によれば、多孔質膜の空孔内で、三次元的なネットワークを形成させた上記ポリマーを得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−257238号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の電解質膜は、PTFEやPEを多孔質膜に用いている。このため、多孔質膜の疎水性が高く、同一サイズの他の電解質膜と比較した場合に、特許文献1の電解質膜は、プロトンを伝導可能な領域が少ない。したがって、ポリスチレンの側鎖にホスホン酸基が導入されたポリマーを担持しているとはいえ、このポリマー単独で電解質膜を形成した燃料電池と比べた場合、プロトン伝導性が低くなってしまう。
【0006】
また、特許文献1の電解質膜は、多孔質膜上でモノマーを重合することで製造される。このため、多孔質膜の空孔内でネットワークが形成できていない部分が存在するような場合には、プロトン伝導性が低下する問題がある。また、モノマーの重合反応が多孔質膜上で均一に進行するとは限らないので、所望の厚みの電解質膜を製造できないといった歩留まりの問題もある。
【0007】
したがって、ホスホン酸基を側鎖に有するポリマーは、単独で電解質膜を形成できることがより望ましい。しかしながら、ホスホン酸基を側鎖に有するポリマーは、ホスホン酸基の吸水性が高いので、取り扱いが難しい。したがって、このようなポリマーを用いる場合、膜電極接合体の製造効率が低くなってしまう。
【0008】
この発明は、上述の課題を解決するためになされたもので、製造効率を向上できる膜電極接合体の製造方法及び取り扱いが容易な電解質用膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の発明は、上記の目的を達成するため、膜電極接合体の製造方法であって、
繰り返し単位内に下記式(1)で表される構造を少なくとも1つ有する芳香族ポリエーテルを成膜化する成膜化工程と、
前記芳香族ポリエーテルの膜を挟持するようにアノード電極触媒及びカソード電極触媒を配置する電極触媒配置工程と、
電極触媒配置工程後に、前記芳香族ポリエーテルの膜に含まれるホスホン酸エステルを加水分解する加水分解工程と、
を備えることを特徴とする。
【化1】

(式(1)中、Rは炭素数1〜3のパーフルオロアルキレン基を表し、R及びRは、炭素数1〜20の直鎖状又は分岐状のアルキル基、炭素数1〜20の直鎖状又は分岐状のアルキレン基、炭素数3〜20の脂環式有機基あるいは炭素数6〜20のアリール基を表し、Xは水素原子又は炭素数1〜3のパーフルオロアルキレンホスホン酸エステル基を表し、Yは−O−又は水素原子を表す。)
【0010】
また、第2の発明は、第1の発明において、
前記加水分解工程は、前記アノード触媒層及び前記カソード触媒層に反応ガスを供給する工程を備えることを特徴とする。
【0011】
また、第3の発明は、第1の発明において、
前記芳香族ポリエーテルが下記式(2)で表される繰り返し単位を有することを特徴とする。
【化2】

(式(2)中、R及びRは、炭素数1〜20の直鎖状又は分岐状のアルキル基、炭素数1〜20の直鎖状又は分岐状のアルキレン基、炭素数3〜20の脂環式有機基あるいは炭素数6〜20のアリール基を表す。)
【0012】
また、第4の発明は、第1の発明において、
前記芳香族ポリエーテルが下記式(3)で表される繰り返し単位を有することを特徴とする。
【化3】

(式(3)中、R及びRは、炭素数1〜20の直鎖状又は分岐状のアルキル基、炭素数1〜20の直鎖状又は分岐状のアルキレン基、炭素数3〜20の脂環式有機基あるいは炭素数6〜20のアリール基を表す。)
【0013】
また、第5の発明は、上記の目的を達成するため、電解質用膜であって、
繰り返し単位内に下記式(4)で表される構造を少なくとも1つ有する芳香族ポリエーテルを含むことを特徴とする。
【化4】

【0014】
また、第6の発明は、第5の発明において、
前記芳香族ポリエーテルが下記式(5)で表される繰り返し単位を有することを特徴とする。
【化5】

(式(5)中、R及びRは、炭素数1〜20の直鎖状又は分岐状のアルキル基、炭素数1〜20の直鎖状又は分岐状のアルキレン基、炭素数3〜20の脂環式有機基あるいは炭素数6〜20のアリール基を表す。)
【0015】
また、第7の発明は、第5の発明において、
前記芳香族ポリエーテルが下記式(6)で表される繰り返し単位を有することを特徴とする。
【化6】

(式(6)中、R及びRは、炭素数1〜20の直鎖状又は分岐状のアルキル基、炭素数1〜20の直鎖状又は分岐状のアルキレン基、炭素数3〜20の脂環式有機基あるいは炭素数6〜20のアリール基を表す。)
【発明の効果】
【0016】
第1〜第4の発明によれば、ホスホン酸由来の吸水性の影響を受けずに膜電極接合体を製造できる。したがって、膜電極接合体の製造効率を向上できる。また、第5〜第7の発明に拠れば、取り扱いが容易な電解質用の膜を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】成膜化工程から脱保護工程までの流れを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
実施の形態.
以下、本発明の電解質膜及び該電解質膜を用いた膜電極接合体の製造方法を開示しつつ説明する。本発明の電解質膜は、芳香族ポリエーテル、具体的には、下記式(7)に示す芳香族ポリエーテルエーテルスルホン又は(8)に示す芳香族ポリエーテルエーテルケトンを出発物質とする。
【化7】

【化8】

【0019】
(ヨードベンゾイル基導入工程)
上記出発物質に2−ヨード安息香酸を反応させ、上式(7)、(8)の芳香族ポリエーテルの主鎖を構成する芳香環にヨードベンゾイル基を導入させる。本工程によれば、位置選択性の高い反応を起こすことができるので、芳香環の特定の位置にヨードベンゾイル基を導入できる。
【0020】
導入されたヨードベンゾイル基は、パーフルオロアルキレンホスホン酸エステルをその芳香環上に導入するスペーサーとして機能する。なお、ヨード安息香酸の置換位置はこの位置に限られず、また、ヨード置換数は1以上でもよい。このような他のヨード安息香酸としては、例えば、4−ヨード安息香酸、2,4−ジヨード安息香酸、2,6−ジヨード安息香酸、2,4,6−トリヨード安息香酸が挙げられる。
【0021】
2−ヨード安息香酸の添加量は、繰り返し単位内に導入するヨードベンゾイル基の数に対応させて調製することができる。具体的に、上式(7)の芳香族ポリエーテルでは、繰り返し単位あたり1つのヨードベンゾイル基を導入することを目的とするため、物質量比が1:1〜1:2となるよう調製することが好ましい。同様に、上式(8)の芳香族ポリエーテルでは、繰り返し単位あたり4つのヨードベンゾイル基を導入することを目的とするため、物質量比が1:4〜1:6となるよう調製することが好ましい。
【0022】
本工程は、出発物質をトリフルオロメタンスルホン酸に溶解させ、その後ヨード安息香酸を加えることにより行われる。なお、この溶解には、トリフルオロメタンスルホン酸に限られず、例えば五酸化リン−メタンスルホン酸混合溶液(PPMA)、酢酸、メタンスルホン酸、トリフルオロ酢酸、硫酸、クロロ硫酸、フルオロ硫酸といった酸を用いてもよい。
【0023】
本工程は、2−ヨード安息香酸を加えた後、室温で3時間反応させることにより行われる。なお、反応時間は1〜48時間で調製できるが、2時間以上にすれば所望のポリマー中間体を得ることができる。また、反応温度は10℃〜120℃で調製できる。
【0024】
(エステル基置換工程)
続いて、上記ヨードベンゾイル基導入工程により得られたポリマー中間体に、下記式(9)で表されるモノブロモパーフルオロアルキレンホスホン酸エステルを反応させる。本工程によれば、導入したヨードベンゾイル基のベンゼン環上のヨード基を、パーフルオロアルキレンホスホン酸エステル基に置換できる。
【化9】

(式(9)中、Rは炭素数1〜3のパーフルオロアルキレン基を表し、R及びRはホスホン酸を構成する水酸基に対する保護基を表す。)
【0025】
及びRで表されるホスホン酸の保護基としては、共にエチル基を用いるが、ホスホン酸エステルとしての反応性を低下させず、また、ホスホン酸エステル置換後のポリマー中間体の物性を変化させない範囲において、他の保護基を用いることが可能である。このような他の保護基としては、炭素数1〜20の直鎖状又は分岐状のアルキル基、炭素数1〜20の直鎖状又は分岐状のアルキレン基、炭素数3〜20の脂環式有機基や炭素数6〜20のアリール基が挙げられる。
【0026】
炭素数1〜20の直鎖状又は分岐状のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基等を挙げることができる。
【0027】
また、炭素数1〜20の直鎖状又は分岐状のアルキレン基としては、例えば、ビニル基、1−メチルエテニル基、アリル基、3−ブテニル基、1-メチルアリル基、2-メチルアリル基、4−ペンテニル基、5−ヘキセニル基等を挙げることができる。
【0028】
また、炭素数3〜20の脂環式有機基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、ボルニル基、ノルボルニル基、アダマンチル基、ピナニル基、ツヨイル基、カンファニル基等を挙げることができる。
【0029】
また、炭素数6〜20のアリール基としては、例えば、フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、p−ヒドロキシフェニル基、1−ナフチル基、1−アントラセニル基、ベンジル基等を挙げることができる。
【0030】
また、これらアルキル基、アルケニル基、脂環式有機基やアリール基上の水素原子が、酸素原子を含む官能基で置換されていてもよい。酸素原子を含む官能基としては、ヒドロキシル基、ヒドロキシカルボニル基やアルコキシ基が挙げられる。
【0031】
上式(7)のホスホン酸エステルの添加量は、繰り返し単位内に導入されたヨードベンゾイル基の数に対応させて調製することができる。具体的に、上式(7)の芳香族ポリエーテル由来のポリマー中間体では、繰り返し単位あたり1つのヨードベンゾイル基を導入することを目的とするため、物質量比が1:1〜1:3となるよう調製することが好ましい。同様に、上式(8)の芳香族ポリエーテル由来のポリマー中間体では、繰り返し単位あたり4つのヨードベンゾイル基を導入することを目的とするため、物質量比が1:6〜1:10となるよう調製することが好ましい。
【0032】
本工程は、銅触媒を介在させたクロスカップリング反応により行われる。先ず、カップリング反応に用いる反応溶液を調製する。この反応溶液は、2段階の撹拌により調製される。先ず、溶剤に亜鉛粉末を加え、その後、上式(9)に示すホスホン酸エステルを加えて撹拌する(第1段階の撹拌)。ここで、溶剤にはN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)を用いるが、クロスカップリングの反応条件において分解等を起こさないものであればどのようなものであってもよく、例えばクロロホルム、ジクロロメタン、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン(THF)、メタノール、アセトン等の溶剤を用いてもよい。第1段階の撹拌は、室温で2時間行われるが、10℃〜120℃で1〜4時間の間で調製が可能である。
【0033】
続いて、反応溶液に銅触媒を加えて更に1時間程度撹拌する(第2段階の撹拌)。ここで、銅触媒は臭化銅(I)を用いるが、炭素−炭素生成のためのクロスカップリング反応において通常用いられる銅触媒を用いてもよい。このような他の銅触媒としては、例えば、臭化銅(II)、塩化銅(I)、塩化銅(II)、ヨウ化銅(I)、ヨウ化銅(II)等が挙げられる。
【0034】
このようにして調製した反応溶液に、上記第1工程により得られたポリマー中間体を加えて反応させる。なお、ポリマー中間体は、反応溶液を調製する際に用いた溶剤と同一の溶剤に溶かしてから加えることが溶解性の観点から好ましい。また、この反応は室温で24時間行われるが、10℃〜120℃で12〜48時間の間で調製が可能である。
【0035】
(成膜化工程及び脱保護工程)
続いて、パーフルオロアルキレンホスホン酸エステル基が導入されたポリマー中間体を成膜化する(成膜化工程)。そして、成膜化したポリマー中間体に対して加水分解を行う(脱保護工程)。加水分解工程によれば、ホスホン酸の保護基を脱離させてポリマーにイオン伝導性を付与できる。
【0036】
上記の成膜化工程から脱保護工程までの流れについて、図1を用いて説明する。図1(A)に示す工程の流れは、本発明の製造方法に関するものである。一方、図1(B)に示す工程の流れは、図1(A)の比較としての従来方法に関するものである。
【0037】
図1(A)に示すように、本発明においては、先ず、ポリマー中間体をフィルム化する。フィルム化は、図1(B)に示すように、ポリマー中間体から保護基を脱離させた後に行うこともできる。しかしながら、本発明の製造方法に用いられるポリマーは、側鎖にホスホン酸基が導入された構造であるため水和しやすい。故に、保護基を脱離させた状態でフィルム化すると、フィルムがベタベタしてしまい取り扱いが難しくなる。この点、ポリマー中間体の段階でフィルム化すると、フィルムの取り扱いが容易となる。したがって、膜電極接合体の製造に際し、フィルムを電極触媒層と効率的に接合できる。
【0038】
上記ポリマー中間体のフィルム化は、上記第2工程を経ることで側鎖にエステル基が導入されたポリマー中間体を、基体上に流延してフィルム状に成形するキャスティング法などにより可能である。上記基体としては、通常の溶液キャスティング法に用いられる基体であれば特に限定されず、例えば、ポリエチレンフィルムやポリエチレンテレフタレートフィルムなどの熱可塑性樹脂からなる基体が用いられる。
【0039】
そして、室温、好ましくは10〜60℃で10〜48時間、好ましくは10〜24時間真空乾燥することにより、ポリマー中間体のフィルムが得られる。乾燥時の温度や乾燥の時間といった各種乾燥条件は、ポリマー中間体の分子量や溶媒の沸点等によって適宜変更が可能である。
【0040】
なお、上記ポリマー中間体のフィルムには、ポリマーとしたときのイオン伝導性を損なわない範囲で、フェノール性水酸基含有化合物、アミン系化合物、有機リン化合物、有機硫黄化合物といった酸化防止剤等を添加させてもよい。
【0041】
また、図1(A)に示すように、本発明においては、フィルム化後、このフィルムにアノード電極触媒層、カソード電極触媒層をそれぞれ接合させて膜電極接合体とし、その後にホスホン酸の保護基を脱離させる。
【0042】
ここで用いるアノード及びカソード電極触媒層は、例えば、次のように製造できる。触媒粒子を担持するカーボン粒子を、適当な水及び溶剤中に分散させる。この分散溶媒に、プロトン伝導性を有するアイオノマーを含む電解質溶液を更に混合する。これにより、触媒担持カーボン、アイオノマー及び溶媒を含む触媒インクを調製する。この触媒インクを別途準備した基体上に塗布、乾燥することによりこれら電極触媒層が得られる。
【0043】
アノード及びカソード電極触媒層のフィルムへの接合は、例えばホットプレス等により行うことができる。具体的には、フィルムが分解しない温度まで加熱した状態で、これらの電極触媒層をフィルムに対向させて加圧接合する。その後、これら電極触媒層の基体を除去する。これにより、アノード及びカソード電極触媒層をフィルムに接合できる。
【0044】
また、図1(A)に示すように、本発明においては、フィルム化後にホスホン酸の保護基を脱離させる脱保護工程を行う。具体的には、フィルム化して電極触媒層と接合した後に、得られた膜電極接合体を酸やアルカリの溶液に浸漬する。これにより、ホスホン酸エステルを加水分解して保護基を脱離させる。ここで、加水分解には公知の酸、アルカリの溶液を用いることができる。ただし、一般に、固体高分子電解質型の燃料電池は酸性条件で運転されることから、アルカリの溶液を用いた場合には別途中和等の処理が必要となる。したがって、加水分解処理を簡素化する観点から、加水分解には酸の溶液を用いることが好ましい。このような酸として、硫酸、硝酸、塩酸、過塩素酸、フッ化水素酸、リン酸等の無機酸を好ましく用いることができる。
【0045】
また、ホスホン酸エステルの加水分解には、アノード電極触媒層由来のプロトンを利用できる。即ち、得られた膜電極接合体をセルに組み込み、両極側から水素ガス、酸素ガス(空気)といった反応ガスを供給すると、アノード電極触媒層において、水素分子からプロトンを生じる電気化学反応を起こすことができる。また、アノード電極触媒層で生じたプロトンは、カソード電極触媒層での電気化学反応に必要なため、ポリマー中間体のフィルム層を経由して、カソード電極触媒層側へ電気的に移動する。そこで、このプロトンを用いれば、ポリマー中間体のフィルム層において、ホスホン酸エステルの加水分解ができる。したがって、膜電極接合体をセルに組み込み、両極から反応ガスを供給すれば、運転と同時に加水分解を起こすことができるので、脱保護工程の簡素化を図ることが可能となる。
【0046】
以上、本発明の電解質膜は、ポリマー中間体の段階でフィルム化されたものであるため取り扱いが容易である。したがって、電極触媒層との接合に手間が掛からず、全体として製造工程の効率化が図られるので、膜電極接合体の生産性を向上できる。
【0047】
また、本発明の製造方法によれば、上記ポリマー中間体のフィルムを電極触媒層と接合させた膜電極接合体をセルに組み込み、両極から反応ガスを供給することで、製造工程上必須となる脱保護工程の簡素化を図ることが可能となる。
【0048】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0049】
[実施例1]
下記ポリマー(A)(0.97g,3.0mmol)をトリフルオロメタンスルホン酸(4.5ml)に溶解させ、そこに2−ヨード安息香酸(0.82g,3.3mmol)を加え、室温で3時間反応させた。反応終了後、水に再沈殿させ、繊維状のポリマーを得た。3重量%重曹水、熱水及び熱メタノールで洗浄後、80℃で減圧乾燥させることでポリマー(B)1.63g(収率98%)を得た。
【化10】

【0050】
【化11】

窒素雰囲気下、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)(3.5ml)に亜鉛粉末(0.33g,5.0mmol)を加え、そこにジエチル(ブロモジフルオロメチル)ホスホネート(1.34g,5.0mmol)をゆっくりと滴下した。室温で2時間撹拌後、臭化銅(I)(0.72g,5.0mmol)を加え、さらに30分間撹拌した。この反応溶液にポリマー(B)(1.39g,2.5mmol)のDMF(10ml)溶液を加え、室温で24時間反応後、希塩酸水に再沈殿させた。得られたポリマーをDMFに溶解させ、不溶部分をろ過により除去後、メタノールに再沈殿させた。メタノールで洗浄後、80℃で減圧乾燥させることで、目的とするポリマー(C)1.54g(収率100%)を得た。
【0051】
[実施例2]
【化12】

4,4’−ジフルオロベンゾフェノン(0.65g,3.0mmol)、化合物(D)及び炭酸カリウム(1.24g,9.0mmol)にシクロヘキサン(4ml)及びN,N−ジメチルアセトアミド(6ml)を加え、窒素雰囲気下100℃に加熱した。ディーンスターク装置を用いて水を除去後、シクロヘキサンを留去し、160℃で一晩撹拌した。反応終了後、水に再沈殿させ、繊維状のポリマーを得た。熱水及び熱メタノールで洗浄後、80℃で減圧乾燥させることでポリマー(E)1.71g(収率97%)を得た。
【0052】
【化13】

ポリマー(E)(0.84g,1.0mmol)をトリフルオロメタンスルホン酸(8ml)に溶解させ、そこに2−ヨード安息香酸(1.19g,4.8mmol)を加え、室温で3時間反応させた。反応終了後、水に再沈殿させ、繊維状のポリマーを得た。3重量%重曹水、熱水及び熱メタノールで洗浄後、80℃で減圧乾燥させることでポリマー(F)1.71g(収率97%)を得た。
【0053】
【化14】

窒素雰囲気下、DMF(4.8ml)に亜鉛粉末(0.21g,3.2mmol)を加え、そこにジエチル(ブロモジフルオロメチル)ホスホネート(0.85g,3.2mmol)をゆっくり滴下した。室温で2時間撹拌後、臭化銅(I)(0.46g,3.2mmol)を加え、さらに30分間撹拌した。この反応溶液にポリマー(F)(0.70g,0.4mmol)のDMF(5.3ml)溶液を加え、室温で24時間反応後、希塩酸水に再沈殿させた。得られたポリマーをDMFに溶解させ、不溶部分をろ過により除去後、メタノールに再沈殿させた。メタノールで洗浄後、80℃で減圧乾燥させることで、目的とするポリマー(G)0.74g(収率95%)を得た。
【0054】
[比較例1]
【化15】

ポリマー(C)(1.23g,2.0mmol)をクロロホルム(30ml)に溶解させ、そこにトリメチルシリルブロマイド(0.92g,6.0mmol)を5℃で滴下して加えた。反応溶液を40℃に加熱し、24時間反応させた後、メタノールに再沈殿させた。メタノールで洗浄後、80℃で減圧乾燥させることで、目的とするポリマー(H)1.04gを得た。
【0055】
[比較例2]
【化16】

ポリマー(G)(0.70g,0.36mmol)をクロロホルム(15ml)に溶解させ、そこにトリメチルシリルブロマイド(0.66g,4.3mmol)を5℃で滴下して加えた。反応溶液を40℃に加熱し、24時間反応させた後、メタノールに再沈殿させた。メタノールで洗浄後、80℃で減圧乾燥させることで目的とするポリマー(I)0.57g(収率92%)を得た。
【0056】
EW(ホスホン酸密度)の測定
実施例1、2及び比較例1、2で得られたポリマーについて、高須芳雄著、「燃料電池の解析手法」化学同人、p.145に従い、EWを測定した。測定の結果を下記表1に示す。
【0057】
【表1】

表1に示すように、ポリマー(C)及びポリマー(G)の変換率は、99%以上であり、それぞれポリマー(H)及びポリマー(I)の変換率と同等であることが分かった。したがって、ポリマー(C)やポリマー(G)は、イオン伝導率等に影響を及ぼすEW値といった膜本来の特性を損なうことなく、取り扱いの容易な電解質膜として用いることができることが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繰り返し単位内に下記式(1)で表される構造を少なくとも1つ有する芳香族ポリエーテルを成膜化する第1工程と、
前記芳香族ポリエーテルの膜を挟持するようにアノード電極触媒及びカソード電極触媒を配置する第2工程と、
第3工程後に、前記芳香族ポリエーテルの膜に含まれるホスホン酸エステルを加水分解する加水分解工程と、
を備えることを特徴とする膜電極接合体の製造方法。
【化1】

(式(1)中、Rは炭素数1〜3のパーフルオロアルキレン基を表し、R及びRは、炭素数1〜20の直鎖状又は分岐状のアルキル基、炭素数1〜20の直鎖状又は分岐状のアルキレン基、炭素数3〜20の脂環式有機基あるいは炭素数6〜20のアリール基を表し、Xは水素原子又は炭素数1〜3のパーフルオロアルキレンホスホン酸エステル基を表し、Yは−O−又は水素原子を表す。)
【請求項2】
前記第3工程は、前記アノード触媒層及び前記カソード触媒層に反応ガスを供給する工程を備えることを特徴とする請求項1に記載の膜電極接合体の製造方法。
【請求項3】
前記芳香族ポリエーテルが下記式(2)で表される繰り返し単位を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の膜電極接合体の製造方法。
【化2】

(式(2)中、R及びRは、炭素数1〜20の直鎖状又は分岐状のアルキル基、炭素数1〜20の直鎖状又は分岐状のアルキレン基、炭素数3〜20の脂環式有機基あるいは炭素数6〜20のアリール基を表す。)
【請求項4】
前記芳香族ポリエーテルが下記式(3)で表される繰り返し単位を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の膜電極接合体の製造方法。
【化3】

(式(3)中、R及びRは、炭素数1〜20の直鎖状又は分岐状のアルキル基、炭素数1〜20の直鎖状又は分岐状のアルキレン基、炭素数3〜20の脂環式有機基あるいは炭素数6〜20のアリール基を表す。)
【請求項5】
繰り返し単位内に下記式(4)で表される構造を少なくとも1つ有する芳香族ポリエーテルを含むことを特徴とする電解質用膜。
【化4】

(式(4)中、Rは炭素数1〜3のパーフルオロアルキレン基を表し、R及びRは、炭素数1〜20の直鎖状又は分岐状のアルキル基、炭素数1〜20の直鎖状又は分岐状のアルキレン基、炭素数3〜20の脂環式有機基あるいは炭素数6〜20のアリール基を表し、Xは水素原子又は炭素数1〜3のパーフルオロアルキレンホスホン酸エステル基を表し、Yは−O−又は水素原子を表す。)
【請求項6】
前記芳香族ポリエーテルが下記式(5)で表される繰り返し単位を有することを特徴とする請求項5に記載の電解質用膜。
【化5】

(式(5)中、R及びRは、炭素数1〜20の直鎖状又は分岐状のアルキル基、炭素数1〜20の直鎖状又は分岐状のアルキレン基、炭素数3〜20の脂環式有機基あるいは炭素数6〜20のアリール基を表す。)
【請求項7】
前記芳香族ポリエーテルが下記式(6)で表される繰り返し単位を有することを特徴とする請求項5に記載の電解質用膜。
【化6】

(式(6)中、R及びRは、炭素数1〜20の直鎖状又は分岐状のアルキル基、炭素数1〜20の直鎖状又は分岐状のアルキレン基、炭素数3〜20の脂環式有機基あるいは炭素数6〜20のアリール基を表す。)

【図1】
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【公開番号】特開2011−198556(P2011−198556A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−62540(P2010−62540)
【出願日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】