説明

膜電極複合体ならびにそれの製造方法および高分子電解質型燃料電池

【課題】本発明は、特にアノード電極に用いられる電極基材構造に着目し、多孔質炭素シートの構造および貫通孔の孔径、貫通孔の密度を制御することにより、物質の移動性とメタノールクロスオーバー抑制を両立させ、良好な電池性能を実現させる膜電極複合体ならびにそれの製造方法および高分子電解質型燃料電池を提供せんとするものである。
【解決手段】アノード電極、電解質膜、カソード電極を具備する膜電極複合体であって、該アノード電極と電解質膜との間およびカソード電極と電解質膜との間に炭化水素系高分子被膜を有する膜電極複合体において、アノード電極およびカソード電極はそれぞれ電極基材と触媒層からなり、アノード電極に用いられる電極基材が多孔質炭素シートからなり、該多孔質炭素シートがシートの表裏を貫く複数の貫通孔を有し、多孔質炭素シートにおける貫通孔の直径が100〜400μmであり、かつ貫通孔の密度が25〜500個/cmであることを特徴とする膜電極複合体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子電解質型燃料電池に用いたときにアノード電極の燃料移動性を格段に向上させることが可能となり、かつ低濃度燃料の使用が可能となり高出力、高エネルギー容量を達成することができる膜電極複合体ならびにそれの製造方法および高分子電解質型燃料電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、排出物が少なく、かつエネルギー効率が高く、環境への負担の低い発電装置である。このため、近年の地球環境保護への高まりの中で再び脚光を浴びている。従来の大規模発電施設に比べ、比較的小規模の分散型発電施設、自動車や船舶など移動体の発電装置として、将来的にも期待されている発電装置である。また、小型移動機器、携帯機器の電源としても注目されており、ニッケル水素電池やリチウムイオン電池などの二次電池の代替として、あるいは二次電池の充電器として、またあるいは二次電池との併用(ハイブリッド)により、携帯電話などの携帯機器やパソコンなどへの搭載が期待されている。
【0003】
高分子電解質型燃料電池(Polymer Electrolyte Fuel Cell。以下、PEFCと記載する場合がある)においては、水素ガスを燃料とする従来の高分子電解質型燃料電池に加えて、メタノールなどの燃料を直接供給する直接型燃料電池も注目されている。直接型燃料電池は、従来のPEFCに比べて出力が低いものの、燃料が液体で改質器を用いないために、エネルギー密度が高くなり、一充填あたりの携帯機器の使用時間が長時間になるという利点がある。
【0004】
PEFCは通常、発電を担う反応の起こるアノードとカソードの電極と、アノードとカソードとの間でプロトン伝導体となる高分子電解質膜とが、膜電極複合体(以下MEAと記載する場合がある)を構成し、このMEAがセパレーターによって挟まれたセルをユニットとして構成されている。ここで、電極は、通常はガス拡散の促進と集(給)電を行う電極基材(ガス拡散電極あるいは集電体とも云う)と、実際に電気化学的反応場となる触媒層とから構成されている。たとえばPEFCのアノード電極では、水素ガスなどの燃料がアノード電極の触媒層で反応してプロトンと電子を生じ、電子は電極基材に伝導し、プロトンは高分子電解質膜へと伝導する。このため、アノード電極には、ガスの拡散性、電子伝導性、プロトン伝導性が良好なことが要求される。
【0005】
一方、カソード電極では、酸素や空気などの酸化ガスがカソード電極の触媒層で、高分子電解質膜から伝導してきたプロトンと、電極基材から伝導してきた電子とが反応して水を生成する。このため、カソード電極においては、ガス拡散性、電子伝導性、プロトン伝導性とともに、生成した水を効率よく排出することも必要となる。
【0006】
たとえば、特許文献1ではリン酸型燃料電池の電極基材として、特許文献2では固体高分子型燃料電池用のカソード電極の電極基材として、物質移動性を向上させるために貫通孔を有する多孔質炭素シートが提案されている。特許文献1や特許文献2で対象としている燃料電池は、PEFCであり燃料として気体である水素を用いているため、前記文献で開示されている技術でも十分な物質移動性を確保することができている。
【0007】
しかし、近年PEFCの中でもメタノールなどを燃料とする直接型燃料電池が小型化、軽量化が比較的に容易となるためパソコンや携帯電話用の電源として注目されている。メタノールなどを燃料とする直接型燃料電池においては、水素ガスを燃料とする従来のPEFCとは異なる性能が要求される。すなわち、直接型燃料電池においては、アノード電極ではメタノール水溶液などの燃料がアノード電極の触媒層で反応してプロトン、電子、二酸化炭素を生じ、電子は電極基材に伝導し、プロトンは高分子電解質膜に伝導し、二酸化炭素は電極基材を通過して系外へ放出される。このため、従来のPEFCのアノード電極の要求特性に加えて、メタノール水溶液などの燃料透過性や二酸化炭素の排出性も要求される。さらに、直接型燃料電池のカソード電極では、従来のPEFCと同様な反応に加えて、電解質膜を透過したメタノールなどの燃料と酸素あるいは空気などの酸化ガスがカソード電極の触媒層で二酸化炭素と水を生成する反応も起こる。このため、従来のPEFCよりも生成水が多くなるため、さらに効率よく水を排出することが好ましい。また、燃料として液体であるメタノール水溶液が直接アノード電極に投入されるため、アノード電極に供給されたメタノール水溶液が電解質膜を透過し、かつプロトン伝導とともにカソード電極側に透過し、カソード電極で酸化されて電池性能低下を引き起こす現象、いわゆるメタノールクロスオーバー(燃料クロスオーバーと記載する場合がある)という特有の問題が発生する場合がある。
【0008】
メタノールなどを燃料とする直接型燃料電池においても特許文献3で複数個の貫通孔を有する多孔質炭素シートが提案されているが、特許文献3では平均直径が1〜100μm程度の貫通孔が良いとの記載があり、また実施例では25μm程度の貫通孔が採用されており、アノード電極の燃料透過性および反応生成物である二酸化炭素の排出性は不十分である。また、メタノールなどを燃料とする直接型燃料電池において特にアノード電極の電極基材として、単に前記貫通孔の平均直径よりも大きい直径の貫通孔を有する多孔質炭素シートを用いた場合、アノード電極反応により生成する二酸化炭素の排出性は向上するが、アノード電極の燃料透過性も増大しそれに伴ってメタノールクロスオーバーも増大することによる電池性能低下が促進される。
【0009】
すなわち、従来技術ではアノード電極の燃料透過性向上とメタノールクロスオーバー抑制を両立させるような、優れた電池性能を有する電極基材は見出されていなかった。
【特許文献1】特許第2820492号公報
【特許文献2】特開平8−111226号公報
【特許文献3】特開2005−174621号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、かかる背景技術に鑑み、アノード電極の物質移動性向上とメタノールクロスオーバー抑制の両立が可能となる膜電極複合体を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、かかる課題を解決するために、次のような手段を採用する物である。すなわち、アノード電極、電解質膜、カソード電極を具備する膜電極複合体であって、該アノード電極と電解質膜との間およびカソード電極と電解質膜との間に炭化水素系高分子被膜を有する膜電極複合体において、アノード電極およびカソード電極はそれぞれ電極基材と触媒層からなり、アノード電極に用いられる電極基材が多孔質炭素シートからなり、該多孔質炭素シートがシートの表裏を貫く複数の貫通孔を有し、多孔質炭素シートにおける貫通孔の直径が100〜400μmであり、かつ貫通孔の密度が25〜500個/cmであることを特徴とする膜電極複合体であって、高分子電解質型燃料電池は該膜電極複合体を用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、特に高耐熱性、高強度、高引っ張り弾性率および低含水率の電解質膜を使用した場合にアノード電極の物質移動性向上とメタノールクロスオーバー抑制を両立し、かつ膜電極複合体のアノードおよびカソード電極と電解質膜界面との界面抵抗の低減および密着性が向上した膜電極複合体が可能であり、かかる膜電極複合体を用いることによって、高出力、高エネルギー容量を達成し、さらには高耐久性を達成した高分子電解質型燃料電池を提供でき、燃料電池の普及に貢献できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の好ましい実施形態を説明する。
【0014】
本発明の膜電極複合体ならびにそれの製造方法および高分子電解質型燃料電池は、アノード電極、電解質膜、カソード電極を具備する膜電極複合体であって、該アノード電極と電解質膜との間およびカソード電極と電解質膜との間に炭化水素系高分子被膜を有する膜電極複合体において、アノード電極およびカソード電極はそれぞれ電極基材と触媒層からなり、アノード電極に用いられる電極基材が多孔質炭素シートからなり、該多孔質炭素シートがシートの表裏を貫く複数の貫通孔を有し、多孔質炭素シートにおける貫通孔の直径が100〜400μmであり、貫通孔の密度が25〜500個/cmであることを特徴とする膜電極複合体であって、高分子電解質型燃料電池は該膜電極複合体を用いることを特徴とする。
【0015】
発明者らは、使用する電極および電極基材、電解質膜の個々の部材が優れていても、複合化した場合にたとえば燃料および反応生成物質の移動性不足、メタノールクロスオーバーの増大、電極と電解質膜間との界面抵抗の増大などが原因で結果として膜電極複合体の性能が不十分となることを突き止め、本発明に至った。
【0016】
本発明における膜電極複合体に好適な電極の例を説明する。かかる電極は、触媒層および電極基材からなるものである。ここでいう電極基材の構成材料としては、例えば炭素質、導電性無機物質が挙げられ、具体的にはポリアクリロニトリルからの焼成体、ピッチからの焼成体、黒鉛及び膨張黒鉛などの炭素材、ステンレススチール、モリブデン、チタンなどが例示される。これらの形態は特に限定されず、例えば繊維状あるいは粒子状で用いられるが燃料透過性の点から炭素繊維などの繊維状導電性物質(導電性繊維)が好ましい。
【0017】
導電性繊維を用いた電極基材としては、織布あるいは不織布いずれの構造も使用可能である。例えば、東レ(株)製カーボンペーパーTGPシリーズ、SOシリーズ、E-TEK社製カーボンクロスなどが用いられる。かかる織布としては、平織、斜文織、朱子織、紋織、綴織など特に限定されることなく用いられる。また、不織布としては抄紙法、ニードルパンチ法、スパンボンド法、ウォータージェットパンチ法、メルトブロー法によるものなど特に限定されることなく用いられる。また、編物であってもよい。これらの布帛において特に炭素繊維を用いた場合、耐炎化紡績糸を用いた平織物を炭化あるいは黒鉛化した織布、耐炎化糸をニードルパンチ法やウォータージェットパンチ法などによる不織布加工した後に炭化あるいは黒鉛化した不織布、耐炎化糸あるいは炭化糸あるいは黒鉛化糸を用いた抄紙法によるマット不織布などが好ましく用いられる。特に、薄く強度のある布帛が得られる点から不織布やクロスを用いるのが好ましい。かかる電極基材に用いられる炭素繊維としては、ポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維、フェノール系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維などが挙げられる。また、かかる電極基材には水の滞留によるガス拡散・透過性の低下を防ぐための撥水処理や水の排出路を形成するための部分的撥水、親水処理、抵抗を下げるための炭素粉末の添加などを行うこともできる。また、電極基材と触媒層の間に少なくとも無機導電性物質と疎水性ポリマーを含む導電性中間層を設けることもできる。特に電極基材が空隙率の大きい炭素繊維織物や不織布である場合、導電性中間層を設けることで触媒層が電極基材にしみ込むことによる性能低下を抑えることができる。
【0018】
本発明のアノード電極に用いられる電極基材の多孔質炭素シートについて、図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る多孔質炭素シート1の表面を示す光学顕微鏡写真である。図1において多孔質炭素シート1は、線状に見える炭素短繊維3が分散しており、炭素短繊維3が樹脂炭化物4で結着されている。ここで分散した状態とは、炭素短繊維がシート面内において顕著な配向を持たず概ねランダムに、例えば、無作為な方向に存在している状態であることが多い。具体的には、後述する抄造法により短繊維が分散した状態である。そして多孔質炭素シート1はシートの表裏を貫く複数の貫通孔2を有している(図1では、1つの貫通孔を示している)。貫通孔2は、シートの面に垂直な方向に貫通している。
【0019】
本発明の多孔質炭素シート1は、貫通孔の直径が100〜400μmの範囲内、好ましくは120〜350μmの範囲内、より好ましくは150〜300μmの範囲内にある。本発明の多孔質炭素シートは、貫通孔の直径を前記範囲内に制御することにより、それをメタノールを燃料とする直接型燃料電池のアノード電極基材として用いたときに、アノード電極での物質移動性と、メタノールクロスオーバーの抑制を両立させることができ、得られるメタノールを燃料とする直接型燃料電池は高い電池性能を示す。貫通孔の直径が小さすぎると、アノード電極反応により生成する二酸化炭素ガスの排出性が低下し、滞留したガスが反応に必要なメタノールの供給を阻害して電池の性能低下を引き起こす。逆に貫通孔の直径が大きすぎると二酸化炭素ガスの排出性は向上するが、アノード電極の触媒層へのメタノールの供給が過剰となり、メタノールクロスオーバーにより電池性能が低下する。
【0020】
尚、貫通孔の直径は多孔質炭素シートの表面を光学顕微鏡により100倍の倍率で撮影した写真から測定して求めることができる。貫通孔が円形でない場合は、孔の長径と短径の平均値を直径とみなす。測定は、多孔質炭素シートの両面のそれぞれ20ヶ所の孔で行いそれらの平均値をシートにおける貫通孔の直径とする。アノード電極の触媒層へのメタノール供給と発電反応で生成した二酸化炭素ガスの排出を安定して行うためには、光学顕微鏡で撮影した個々の貫通孔の直径が前記貫通孔の直径の平均値の0.5〜2倍の範囲内にあることが好ましい。
【0021】
本発明の多孔質炭素シートにおける貫通孔の密度は、25〜500個/cm、好ましくは35〜400個/cm、より好ましくは50〜250個/cmの範囲内にあるのが良い。該シートにおける貫通孔の密度が小さすぎると、貫通孔による二酸化炭素ガスの排出性向上の効果が低下することがある。一方、逆に大きすぎるとアノード電極の触媒層へのメタノールの供給が過剰となり、メタノールクロスオーバーにより電池性能が低下することがあり、また、多孔質炭素シートの強度が低下して割れやすくなるため製造時および撥水処理等の高次加工時の工程通過性が悪くなることがある。尚、多孔質炭素シートにおける貫通孔の密度は、多孔質炭素シートの表面を光学顕微鏡により25倍の倍率で撮影した写真から孔数を数え、孔数と写真の撮影面積から算出することができる。
【0022】
本発明の多孔質炭素シート1の厚さは、50〜300μm、好ましくは70〜270μm、より好ましくは100〜250μmの範囲内であるのが良い。多孔質炭素シートの厚さが薄すぎると、多孔質炭素シートが容易に割れ、製造時および高次加工時の工程通過性が悪くなることがある。一方、厚すぎると多孔質炭素シートの柔軟性が低下し、ロール状へ巻き取りができなくなることがある。多孔質炭素シートをロール状へ巻き取りができない場合は、連続プロセスでの製造、高次加工ができず、生産性が低下する。尚、多孔質炭素シートの厚さは測定子の断面が直径5mmの円形であるマイクロメーターを用いてシートの厚さ方向に0.15MPaの面圧を付与して測定することができる。測定は、1.5cm間隔の格子状の20点以上で行いその平均値を厚さとする。
【0023】
本発明の多孔質炭素シート1の空隙率は、70〜90%、好ましくは73〜87%、より好ましくは75〜85%の範囲内にあるのが良い。多孔質炭素シートの空隙率が小さすぎると、シートのうち貫通孔以外の多孔質部分の物質移動性が低下し、アノード電極反応により生成する二酸化炭素ガスの排出不足、または、アノード電極の触媒層へのメタノール供給不足により電池性能が低下することがある。一方、逆に大きすぎると多孔質炭素シートのうち貫通孔以外の多孔質部分の物質移動性は向上するがアノードの触媒層へのメタノール供給が過剰となり、メタノールクロスオーバーにより電池性能が低下することがある。尚、多孔質炭素シートの空隙率は多孔質炭素シートの真密度と見掛密度とから算出することができる。真密度は、よく知られた浮遊法やピクノメータ法等により得ることができる。また、見掛密度は多孔質炭素シートの厚さと目付とから得ることができる。多孔質炭素シートの厚さは、上述のとおりに測定して得られ、多孔質炭素シートの目付(単位面積当たりの重さ)は、10cm×10cm角の多孔質炭素シートの重さを10枚分測定し、その平均値として得られる。
【0024】
本発明の多孔質炭素シートは、抄紙工程、樹脂含浸工程、圧縮工程、炭化工程、貫通孔加工工程を経て好適に製造することができる。まず、抄紙工程において炭素短繊維を水を抄造媒体として連続的に抄造し、さらにポリビニルアルコールなどのバインダーを付与して炭素繊維紙を得る。次に、樹脂含浸工程において得られた炭素繊維紙にフェノール樹脂などの樹脂を含浸し、樹脂含浸炭素繊維紙を得る。次に、圧縮工程で樹脂含浸炭素繊維紙を圧縮する。次に、炭化工程において圧縮工程を経た炭素繊維紙を前駆体繊維シートとして窒素などの不活性ガス雰囲気で炭化して、貫通孔のない多孔質炭素シートを得る。炭化工程で樹脂が炭化され樹脂炭化物となって炭素短繊維は樹脂炭化物で結着された状態となる。次に、貫通孔加工工程において貫通孔のない多孔質炭素シートに適切な直径を有する針を適切な密度で植えた治具を用いて、シートに複数の孔を開け貫通孔を有する多孔質炭素シートを得る。針の直径を調節することにより貫通孔の直径を制御することができ、針の植え付け密度を調節することにより貫通孔の密度を制御することができる。
【0025】
本発明のアノード電極の電極基材である多孔質炭素シートは、撥水性物質が付与されてなる(撥水処理されてなる)のが好ましい。電極基材の表面が撥水性を有するとメタノールを燃料とする直接型燃料電池を構成した場合にアノード電極に供給されるメタノール水溶液が適度にはじかれ、アノード電極反応により生成する二酸化炭素ガスの排出がメタノール水溶液の目詰まりにより阻害されるのを抑制することができる。アノード電極の触媒層へのメタノール供給とアノードの触媒層からの二酸化炭素ガスの排出のバランスをとることにより、発電反応に関する物質の移動性を十分に確保でき、電池性能が向上する。
【0026】
撥水性物質としてはフッ素樹脂が好ましい。撥水処理は、多孔質炭素シート100重量部に対して撥水性物質を下限として1重量部以上、好ましくは5重量部以上、より好ましくは10重量部以上、上限として70重量部以下、好ましくは50重量部以下、より好ましくは30重量部以下の割合で付着させることによって行うことができる。ここでフッ素樹脂とは、テトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)、パーフルオロアルコキシ樹脂(PFA)、フッ化エチレンプロピレン樹脂(FEP)、フッ化エチレンテトラフルオロエチレン樹脂(ETFE)などその構造中にフッ素原子を含む樹脂のことをいう。
【0027】
本発明のアノード電極の電極基材は、多孔質炭素シートの少なくとも片側の表面に導電性を有するガス拡散層を形成してなることが好ましい。ガス拡散層は、フッ素樹脂と導電性を有するカーボンブラックなどにより形成することができる。アノード電極の電極基材が多孔質炭素シートの少なくとも片側の表面にガス拡散層を設けられてなることにより、多孔質炭素シートの貫通孔による凹凸が覆われ、アノード電極の電極基材においてガス拡散層を有する面は平滑となるため、膜電極接合体を構成したとき触媒層との電気的接触を確保しやすくなり、また、多孔質炭素シートと電解質膜との短絡を抑制できるという効果を有する。
【0028】
本発明のカソード電極の電極基材としては、前述の繊維状あるいは粒子状で用いられるが燃料透過性の点から炭素繊維などの繊維状導電性物質(導電性繊維)が好ましく、導電性繊維を用いた電極基材としては、織布あるいは不織布いずれの構造も使用可能であり、たとえば東レ(株)製カーボンペーパーTGPシリーズ、SOシリーズ、E-TEK社製カーボンクロスなどが好ましく用いられる。また、カソード電極の電極基材もアノード電極の電極基材と同様に撥水処理およびガス拡散層を形成してなることが好ましいが、そこに多孔質炭素シートを用いる場合には、本発明のアノード電極の電極基材である多孔質炭素シートのような貫通孔を有する多孔質炭素シートを用いても良いが、貫通孔を設けた際の電池性能向上の効果がアノード電極と比べて小さいため、貫通孔を有さないものを用いたほうが、貫通孔加工工程を省略でき製造コスト削減の点では好ましい。また、本発明のカソード電極の電極基材は、前記アノード電極の電極基材である多孔質炭素シートと同様な目的において、フッ素樹脂と導電性を有するカーボンブラックなどから形成されるガス拡散層を形成してなることが好ましい。
【0029】
次にここでいう電極の触媒層は、電極反応を促進する触媒、電子伝導体、イオン伝導体などを含む層である。かかる触媒層に含まれる触媒としては金属粒子および金属担持であり、金属として、例えば、白金、ルテニウム、金、イリジウム、ロジウム、パラジウム、銀、コバルト、オスミウム、ニッケル、銅および亜鉛からなる群から選ばれる少なくとも1種などの貴金属触媒が好ましく用いられる。これらの内の1種類を単独で用いてもよいし、合金、混合物など、2種類以上を併用してもよい。また、触媒層に電子伝導体(導電材)を使用する場合は、電子伝導性や化学的な安定性の点から炭素材料、無機導電材料が好ましく用いられる。なかでも、非晶質、結晶質の炭素材料が挙げられる。例えば、チャネルブラック、サーマルブラック、ファーネスブラック、アセチレンブラックなどのカーボンブラックが電子伝導性と比表面積の大きさから好ましく用いられる。
【0030】
ファーネスブラックとしては、キャボット社製“バルカン(登録商標)XC−72”、“バルカン(登録商標)P”、“ブラックパールズ(登録商標)880”、“ブラックパールズ(登録商標)1100”、“ブラックパールズ(登録商標)1300”、“ブラックパールズ(登録商標)2000”、“リーガル(登録商標)400”、ケッチェンブラック・インターナショナル社製“ケッチェンブラック(登録商標)”EC、EC600JD、三菱化学社製#3150、#3250などが挙げられ、アセチレンブラックとしては電気化学工業社製“デンカブラック(登録商標)”などが挙げられる。またカーボンブラックのほか、天然の黒鉛、ピッチ、コークス、ポリアクリロニトリル、フェノール樹脂、フラン樹脂などの有機化合物から得られる人工黒鉛や炭素なども使用することができる。これらの炭素材料の形態としては、不定形粒子状のほか繊維状、鱗片状、チューブ状、円錐状、メガホン状のものも用いることができる。また、これら炭素材料を後処理加工したものを用いてもよい。また、電子伝導体を使用する場合は、触媒粒子と均一に分散していることが電極性能の点で好ましい。このため、触媒粒子と電子伝導体は予め塗液として良く分散しておくことが好ましい。さらに、触媒層としては触媒と電子伝導体とが一体化した触媒担持カーボン等を用いることも好ましい実施態様である。この触媒担持カーボンを用いることにより、触媒の利用効率が向上し電池性能の向上および低コスト化に寄与できる。ここで、触媒層に触媒担持カーボンを用いた場合においても、電子伝導性をさらに高めるために導電剤を添加することも可能である。このような導電剤としては、前述のカーボンブラックなどが好ましく用いられる。
【0031】
触媒層に用いられるイオン伝導性を有する物質(イオン伝導体)としては、一般的に種々の有機、無機材料が公知であるが燃料電池に用いる場合には、イオン伝導性を向上するスルホン酸基、カルボン酸基、リン酸基などのイオン性基を有するポリマー(イオン伝導性ポリマー)が好ましく用いられる。なかでもイオン性基の安定性の観点から、フルオロアルキルエーテル側鎖とフルオロアルキル主鎖とから構成されるイオン伝導性を有するポリマーあるいは本発明の高分子電解質材料が好ましく用いられる。パーフルオロ系イオン伝導性ポリマーとしては、例えばデュポン社製の“ナフィオン(登録商標)”、旭化成社製の“Aciplex(登録商標)”、旭硝子社製“フレミオン(登録商標)”などが好ましく用いられる。
【0032】
これらのイオン伝導性ポリマーは、溶液または分散液の状態で触媒層中に設ける。この際にポリマーを溶解あるいは分散化する溶媒は特に限定されるものではないが、イオン伝導性ポリマーの溶解性の点から極性溶媒が好ましい。また、後述する電解質膜として好ましい炭化水素系高分子材料も触媒層中のイオン伝導性を有する物質(イオン伝導体)に好適に使用できる。特にメタノール水溶液やメタノールを燃料にするダイレクトメタノール型燃料電池の場合は、耐メタノール性の観点から後述の炭化水素系高分子材料が耐久性などに効果的な場合がある。
【0033】
前述の触媒と電子伝導体類は通常粉体であるのでイオン伝導体は、これらを固める役割を担うことが通常である。イオン伝導体は、触媒層を作製する際に触媒粒子と電子伝導体とを主たる構成物質とする塗液に予め添加し均一に分散した状態で塗布することが電極性能の点から好ましいものである。
【0034】
触媒層に含まれるイオン伝導体の量としては、要求される電極特性や用いられるイオン伝導体の伝導度などに応じて適宜決められるべきものであり、特に限定されるものではないが、重量比で1〜80%の範囲が好ましく、5〜50%の範囲がさらに好ましい。イオン伝導体が少な過ぎる場合は、イオン伝導度が低くかつ結着性が不良となり、多過ぎる場合は反応生成物の水やガス透過性の拡散を阻害する点でいずれも電極性能を低下させることがある。
【0035】
かかる触媒層には、前述の触媒、電子伝導体、イオン伝導体の他に種々の物質を含んでいてもよい。特に、触媒層中に含まれる物質の結着性を高めるために前述のイオン伝導性ポリマー以外のポリマーを含んでもよい。このようなポリマーとしては、例えばポリフッ化ビニル(PVF)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリヘキサフルオロプロピレン(FEP)およびその共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、ポリパーフルオロアルキルビニルエーテル(PFA)およびその共重合体などのフッ素原子を含むポリマー、これらの共重合体、これらのポリマーを構成するモノマー単位とエチレンやスチレンなどの他のモノマーとの共重合体、あるいはブレンドポリマーなどを用いることができる。これらポリマーの触媒層中の含有量としては、重量比で5〜40%の範囲が好ましい。ポリマー含有量が多すぎる場合、電子およびイオン抵抗が増大し電極性能が低下する傾向がある。また、触媒層は燃料が液体や気体の場合には、その液体や気体が透過しやすい構造を有していることが好ましく、電極反応に伴う反応生成物質の排出を促す構造が好ましい。
【0036】
本発明におけるアノード電極の触媒層の白金付量としては、蛍光X線による白金強度換算や重量換算等の手法によって求められるが、要求される電極特性や用いられるイオン伝導体の伝導度、金属粒子および/または金属担持粒子の組成比などに応じて適宜決められるべきものであるが、例えばメタノール水溶液を燃料とする燃料電池の場合は0.1〜7mg/cmが好ましい。一方、カソード電極の触媒層の白金付量としては、蛍光X線による白金強度換算や重量換算等の手法によって求められるが、要求される電極特性や用いられるイオン伝導体の伝導度、金属粒子および/または金属担持粒子の組成比などに応じて適宜決められるべきものであるが、例えばメタノール水溶液を燃料とする燃料電池の場合は0.1〜10mg/cmが好ましい。さらに、アノード電極の触媒層の白金付量とカソード電極の触媒層の白金付量比は要求される電極特性や用いられるイオン伝導体の伝導度、金属粒子および/または金属担持粒子の組成比、使用条件などに応じて実験的に適宜決められるべきものである。また、アノード電極の白金付量とカソード電極の白金付量比は要求される電極特性や用いられるイオン伝導体の伝導度、金属粒子および金属担持粒子の組成比、使用条件などに応じて実験的に適宜決められるべきものである。
【0037】
本発明の電極触媒層の作製方法としては、ポリマーバインダー、金属粒子および金属担持粒子と溶媒からなる触媒塗液を前記電極基材または後述するフィルム支持体上に後述する適当なコーティング法で塗布し、溶媒を除去する方法を例示することができる。
【0038】
本発明における膜電極複合体ならびにその製造方法は、“ナフィオン(登録商標)”(デュポン社製)に代表されるパーフルオロ系電解質膜や炭化水素系電解質膜などすべての電解質膜に適用できるが、特に、前述した高耐熱性、高強度、高引っ張り弾性率および低含水率の電解質膜を使用した膜電極複合体の製造に好適である。具体的にはガラス転移温度130℃以上引っ張り弾性率100MPa以上、含水率40重量%以下などの電解質膜が挙げられ、イオン性基含有ポリフェニレンオキシド、イオン性基含有ポリエーテルケトン、イオン性基含有ポリエーテルエーテルケトン、イオン性基含有ポリエーテルスルホン、イオン性基含有ポリエーテルエーテルスルホン、イオン性基含有ポリエーテルホスフィンオキシド、イオン性基含有ポリエーテルエーテルホスフィンオキシド、イオン性基含有ポリフェニレンスルフィド、イオン性基含有ポリアミド、イオン性基含有ポリイミド、イオン性基含有ポリエーテルイミド、イオン性基含有ポリイミダゾール、イオン性基含有ポリオキサゾール、イオン性基含有ポリフェニレン、イオン性基含有ポリアゾメチン、イオン性基含有ポリイミドアゾメチン、イオン性基含有ポリスチレンおよびイオン性基含有スチレン−マレイド系架橋共重合体などのイオン性基含有ポリオレフィン系高分子およびその架橋体などのイオン性基を有する芳香族炭化水素系高分子が挙げられる。
【0039】
これらの高分子材料は単独、あるいは二種以上併用して使用でき、ポリマーブレンド、ポリマーアロイ、また2層以上の積層膜として使用できる。また、イオン性基を有するモノマーを重合する方法としては、例えば、「ポリマープレプリンツ」(Polymer Preprints),41(1)(2000)237.等に記載の方法によって可能である。この方法により重合体を得る場合には、イオン性基の導入の度合いはイオン性基を有するモノマーの仕込み比率により、容易に制御することができる。また、使用するイオン性基を有した高分子材料が非架橋構造を有する場合、重量平均分子量は1〜500万が好ましく、より好ましくは3〜100万である。該重量平均分子量はGPC法によって測定できる。
【0040】
特にイオン性基としては、前述のようにスルホン酸基を有する高分子材料が最も好ましいが、スルホン酸基を有する高分子材料を使用する一例として、−SOM基(Mは金属)含有のポリマーを溶液状態により製膜し、その後高温での熱処理により溶媒を除去し、プロトン置換して電解質膜とする方法が挙げられる。
【0041】
前記の金属Mはスルホン酸と塩を形成しうるものであればいいが、価格および環境負荷の点からはLi、Na、K、Rb、Cs、Mg、Ca、Sr、Ba、Ti、V、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Zr、Mo、Wなどが好ましく、これらの中でもLi、Na、K、Ca、Sr、Baがより好ましく、Li、Na、Kがさらに好ましい。これらの金属塩の状態で製膜することで高温での熱処理が可能となり、該方法は高ガラス転移点、低含水率が得られる高分子材料系には好適である。
【0042】
本発明における電解質膜の熱処理の温度としては、得られる電解質膜の含水率の観点から100〜500℃が好ましく、200〜450℃がより好ましく、250〜400℃がさらに好ましい。100℃以上とするのは、低含水率を得る上で好ましい。一方、500℃以下とすることで高分子材料の分解を防ぐことができる。また、熱処理時間としては生産性の点で10秒〜24時間が好ましく、30秒〜1時間がより好ましく、45秒〜30分がさらに好ましい。熱処理時間を10秒以上とすることで十分な溶媒除去が可能となり、その結果として燃料クロスオーバー制御効果に優れる電解質膜が得られる。また、24時間以下とすることでポリマーの分解を防止かつプロトン伝導性を維持し、その結果として工業的生産性も高くなる。
【0043】
本発明における電解質膜の作製方法としては、ポリマー溶液を適当なコーティング法で塗布し、溶媒を除去し、高温で処理後、酸処理する方法を例示することができる。例えばコーティング法としては、スプレーコート、刷毛塗り、ディップコート、ダイコート、カーテンコート、フローコート、スピンコート、スクリーン印刷などの手法が適用できる。溶媒を用いたコーティング法では、熱による溶媒の乾燥、ポリマーを溶解しないで溶媒での湿式凝固法などで製膜でき、無溶媒では、光、熱、湿気などで硬化させる方法、ポリマーを加熱溶融させ、膜状に製膜後冷却する方法などが適用できる。
【0044】
電解質膜の製膜に用いる溶媒としては、例えばN,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、ヘキサメチルホスホントリアミド等の非プロトン性極性溶媒、γ−ブチロラクトン、酢酸ブチルなどのエステル系溶媒、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどのカーボネート系溶媒、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテル、あるいはイソプロパノールなどのアルコール系溶媒が好適に用いられる。電解質膜の膜厚としては、通常3〜2000μmのものが好適に使用される。
【0045】
実用に耐える膜の強度を得るには3μmより厚い方が好ましく、膜抵抗の低減つまり発電性能向上のためには2000μmより薄い方が好ましい。膜厚のより好ましい範囲は5〜1000μm、さらに好ましい範囲は10〜500μmである。
【0046】
膜厚は種々の方法で制御できる。例えば、溶媒キャスト法で製膜する場合は、溶液濃度あるいは支持体上への塗布厚により制御することができるし、また、例えばキャスト重合法で製膜する場合は、板間のスペーサー厚みによって調整することもできる。
【0047】
また、本発明の電解質膜は、必要に応じて放射線照射などの手段によって高分子構造全体あるいは一部を架橋せしめることもできる。架橋せしめることにより、燃料クロスオーバーおよび燃料に対する膨潤をさらに抑制する効果が期待でき、機械的強度が向上し、より好ましくなる場合がある。放射線照射の種類としては例えば、電子線照射やγ線照射を挙げることができる。架橋構造を有することにより、水分や燃料の浸入に対する高分子鎖間の広がりを抑えることができる。含水率を低く抑えることができ、また、燃料に対する膨潤も抑制できることから、その結果として燃料クロスオーバーを低減することができる。また、高分子鎖を拘束できるため耐熱性や剛性も付与できる。ここでの架橋は、化学架橋であっても物理架橋であってもよい。
【0048】
この架橋構造は通常公知の方法で形成でき、例えば多官能単量体の共重合や電子線照射によって形成できる。特に、多官能単量体による架橋が経済的観点から好ましく、単官能ビニル単量体と多官能単量体の共重合体やビニル基やアリル基を有する高分子を多官能単量体で架橋したものが挙げられる。ここでの架橋構造とは、熱に対しての流動性が実質的に無い状態か溶剤に対して実質的に不溶の状態を意味する。また、本発明の電解質膜中には、イオン伝導性や燃料クロスオーバーの制御効果を阻害しない範囲内において機械的強度の向上、イオン性基の熱安定性向上、加工性の向上などの観点かフィラーや無機微粒子を含有しても、ポリマーや金属酸化物からなるネットワークや微粒子を形成させても構わないし、さらに多孔質の支持体などに含浸した膜でも差し支えない。
【0049】
特に、前述の高耐熱性、高強度、高引っ張り弾性率および低含水率の電解質膜を使用する場合は、膜電極複合体の電極と電解質膜間との界面抵抗の低減および密着性を向上させる目的において電解質膜とアノードおよびカソード電極間に炭化水素系高分子被膜を介在させることが有効であり、かかる膜電極複合体を用いることによって、高出力、高エネルギー容量を達成し、さらには高耐久性を達成した高分子電解質型燃料電池を提供することが可能となる。該炭化水素系高分子被膜は、イオン伝導性があること、少なくとも電極と電解質膜の複合化時に流動性または塑性変形が可能であること、電極内の空隙を埋め過ぎて燃料や空気の進入と拡散および発生する水、二酸化炭素の排出と拡散を阻害しないこと、電解質膜との密着性が良好なこと、触媒性能に悪影響を与えないこと、膜電極複合体となり少なくとも発電する際には流動しないこと、つまり、燃料による過度の膨潤や溶出がないこと、例えばメタノール水溶液やメタノールを燃料にする場合、使用する電解質膜と同等以上の耐メタノール性、強度を有することなどの条件を満たすものが好ましい。
【0050】
本発明における該炭化水素系高分子被膜は、イオン伝導性を付与するためにイオン性基を有した高分子材料を含むことが好ましい。イオン性基としては、負電荷を有する原子団が好ましく、プロトン交換能を有するものが好ましい。このような官能基としては、スルホン酸基(−SO2(OH))、硫酸基(−OSO2(OH))、スルホンイミド基(−SO2NHSO2R(Rは有機基を表す。))、ホスホン酸基(−PO(OH)2)、リン酸基(−OPO(OH)2)、カルボン酸基(−CO(OH))、およびこれらの塩等を好ましく採用することができる。これらのイオン性基は前記高分子材料中に2種類以上含むことができ、組み合わせることにより好ましくなる場合がある。その組み合わせはポリマーの構造などにより適宜決められる。中でも、高プロトン伝導度の点から少なくともスルホン酸基、スルホンイミド基、硫酸基のいずれかを有することがより好ましく、耐加水分解性の点から少なくともスルホン酸基を有することが最も好ましい。
【0051】
スルホン酸基を有する場合、そのスルホン酸基密度は、プロトン伝導性および燃料クロスオーバー抑制の点から0.1〜5.0mmol/gが好ましく、より好ましくは0.5〜3.5mmol/g、さらに好ましくは1.0〜3.5mmol/gである。スルホン酸基密度を0.1mmol/g以上とすることにより、イオン伝導度すなわち膜電極複合体の低界面抵抗を維持することができ、また5.0mmol/g以下とすることで、たとえば、直接メタノール型燃料電池など液体燃料が直接接触するような高分子電解質型燃料電池に使用する際に、該炭化水素系高分子被膜が燃料により過度に膨潤し溶出したり流出したりするのを防ぐことができる。
【0052】
ここで、スルホン酸基密度とは、高分子材料の単位乾燥重量当たりに導入されたスルホン酸基のモル量であり、この値が大きいほどスルホン化の度合いが高いことを意味する。使用する高分子材料のスルホン酸基密度は、元素分析、中和滴定あるいは核磁気共鳴スペクトル法等により測定が可能である。スルホン酸基密度測定の容易さや精度の点で、元素分析が好ましく、通常はこの方法で分析を行う。ただし、スルホン酸基以外に硫黄源を含む場合など元素分析法では正確なスルホン酸基密度の算出が困難な場合には中和滴定法を用いるものとする。さらに、これらの方法でもスルホン酸基密度の決定が困難な場合においては、核磁気共鳴スペクトル法を用いることが可能である。
【0053】
イオン性基を有する高分子材料の具体例としては、界面抵抗低減性層の機械的強度、燃料耐久性、耐熱性などの観点から、主鎖に芳香環を有する高分子電解質材料が好ましく、イオン性基含有ポリフェニレンオキシド、イオン性基含有ポリエーテルケトン、イオン性基含有ポリエーテルエーテルケトン、イオン性基含有ポリエーテルスルホン、イオン性基含有ポリエーテルエーテルスルホン、イオン性基含有ポリエーテルホスフィンオキシド、イオン性基含有ポリエーテルエーテルホスフィンオキシド、イオン性基含有ポリフェニレンスルフィド、イオン性基含有ポリアミド、イオン性基含有ポリイミド、イオン性基含有ポリエーテルイミド、イオン性基含有ポリイミダゾール、イオン性基含有ポリオキサゾール、イオン性基含有ポリフェニレンなどの、イオン性基を有する芳香族炭化水素系ポリマーが挙げられる。ここで、イオン性基については前述のとおりである。
【0054】
これらの高分子材料にイオン性基を導入する方法については、重合体にイオン性基を導入してもよいし、イオン性基を有するモノマーを重合してもよい。重合体へのホスホン酸基の導入は、例えば、「ポリマープレプリンツジャパン」(Polymer Preprints, Japan ), 51, 750 (2002). 等に記載の方法によって可能である。重合体へのリン酸基の導入は、例えば、ヒドロキシル基を有するポリマーのリン酸エステル化によって可能である。重合体へのカルボン酸基の導入は、例えば、アルキル基やヒドロキシアルキル基を有するポリマーを酸化することによって可能である。重合体へのスルホンイミド基の導入は、例えば、スルホン酸基を有するポリマーをアルキルスルホンアミドで処理するによって可能である。重合体への硫酸基の導入は、例えば、ヒドロキシル基を有するポリマーの硫酸エステル化によって可能である。重合体へのスルホン酸基の導入は例えば、重合体をクロロスルホン酸、濃硫酸、発煙硫酸と反応させる方法により行うことができる。これらの、イオン性基導入方法は、処理時間、濃度、温度などの条件を適宜選択することにより目的とするイオン性基密度に制御できる。
【0055】
また、イオン性基を有するモノマーを重合する方法としては、例えば、「ポリマー プレプリンツ」(Polymer Preprints), 41(1) (2000) 237. 等に記載の方法によって可能である。この方法により重合体を得る場合には、イオン性基の導入の度合いはイオン酸基を有するモノマーの仕込み比率により、容易に制御することができる。
【0056】
また、使用するイオン性基を有した高分子材料が非架橋構造を有する場合、重量平均分子量は1〜500万が好ましく、より好ましくは3〜100万である。重量平均分子量を1万以上とすることで、該イオン性基を有する炭化水素系高分子被膜として実用に供しうる機械的強度を得ることができる。一方、500万以下とすることで、取り扱いの容易な該イオン性基を有する炭化水素系高分子被膜を得ることができ、良好な加工性を維持することができる。該重量平均分子量はGPC法によって測定できる。
【0057】
また、本発明の該炭化水素系高分子被膜中には可塑剤を含有させることも可能である。可塑剤としては、前述の該炭化水素系高分子被膜としての条件を満足できるものが選ばれる。可塑剤を含有させることにより、前記イオン性基を有した高分子材料の分解温度以下かつ使用する材料の分解および変形などの悪影響が発生しない温度以下で該炭化水素系高分子被膜を流動させることが可能となる点が挙げられる。可塑剤を含有させない場合、上記高分子電解質の軟化点以上に温度を高める必要があり、その他の使用する材料に悪影響を及ぼすことがある。その結果として、膜電極複合体および高分子電解質型燃料電池としての性能が不十分となる場合がある。
【0058】
本発明でいう可塑剤とは、前記イオン性基を有した高分子材料と混合し、該高分子材料の本来の軟化点より低温で軟化できるようにする材料である。つまり、成形、製膜、コーティングなどの加工を行い易くする材料である。また、前記イオン性基を有する炭化水素系高分子被膜の条件が達成できれば、常温において液体でも固体でも気体でもよいが通常は液体または固体が好ましい。また、高分子でもオリゴマーでもペースト状でもゾル状でもオイル状でもエマルジョン状でもその性状や形状に関係なく利用でき、単に混合されていても一部が反応してイオン性基を有した高分子材料と結合あるいは強固に吸着してもよい。
【0059】
ここで可塑剤の具体例としては、アクリル酸イソボニル、アクリル酸4-ヒドロキシブチル、アクリロイルモルホリン、12-アミノドデカン酸、アリルグリコール、アルキルフェノール、アルミニウムキレート、イソフタル酸、イソフタル酸ジアリル、イソプロピルアクリルアミド、p-イソプロペニルフェノール誘導体、イタコン酸、イミノジ酢酸、インデン、エチルセルロース、エチレンイミン、n-オクチルアルコール、キシレノール、グリシジルエーテル類、クロトン酸、2-クロロエチルビニルエーテル、p-クロロスチレンとその誘導体、2-ジアゾ-1-ナフトール-5-スルホン酸ソーダ、シアノ酢酸エステル、ジアミノジフェニルエーテル、N,N-ジエチルアクリルアミド、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート、N,N-ジ(グリシジル)-o-トルイジン、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ジシクロペンタジエン、ジヒドロキシジフェニルメタン、4、4’-ジヒドロキシビフェニール、ジフェニルメタンジイソシアネート、ジプロピレングリコール、ジペンタエリスリトールヘキサ(ペンタ)アクリレート、N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、水素化ビスフェノールA、セラック、ダイアセトンアクリルアミド、ダイマージオール、チオグリセロール、テトラシアノキノジメタン、テルペンジフェノール、テレフタル酸ジアリル、ドデカン二酸、トリグリコールジメルカプタン、o-トリジン、o-トリジンジイソシアネート、トリス(エポキシプロピル)イソシアヌレート、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレート、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、2,6-ナフタレンジカルボン酸ジメチル、ナフチレン-1,5-ジイソシアネート、ネオペンチルグリコール、ノルボルナンジイソシアナート、パラヒドロキシビフェニルカルボン酸、ビスアシッドA2、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、ビス[4-(1-ヒドロキシエトキシ)フェニル]スルホン、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、N-ビニルアセトアミド、ビニルスルホン酸ナトリウム、ビニルトルエン、2-ビニルピリジン、4-ビニルピリジン、N-ビニルホルムアミド、ピバリン酸ビニル、ビフェノール、フェニルホスホン酸とその誘導体、n-フェニルマレイミド、1,3-ブタンジオール、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸、ブチルヘミホルマール、n-ブチルメタクリレート、フマル酸、フルフラール、フルフリルアルコール、1,6-ヘキサンジオール、ベンゾグアナミン、ペンタエリスリトール、ポリカーボネートジオール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、1,2-ポリブタジエン、無水イタコン酸、無水エンドメチレンテトラヒドロフタル酸、無水テトラヒドロフタル酸、無水ピロメリット酸、メタキシレンジアミン、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジル、α-メチルスチレン、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、α-メチレンスチレンダイマー、アセチルリシノール酸メチル、アゼライン酸、イソデシルアルコール、オクチルジフェニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、ジ-2-エチルヘキシルアゼレート、セバシン酸、セバシン酸ジオクチル、セバシン酸ジブチル、トリフェニルホスフェート、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールジイソブチレート、ノニルアルコール、1,2-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、無水トリメリット酸、リン酸トリクレジル、レオフォス、p-エチルフェノール、n-オクタデシル-3(3’,5’-ジ-t-ブチル-4'-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、ジフェニルイソオクチルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、ジミリスチル-3,3’-チオジプロピオネート、チオジプロピオン酸、テトラキス[メチレン-3(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)ブタン、トリフェニルホスファイト、4,4’-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、エチル-2-シアノ-3,3’-ジフェニルアクリレート、2-(3,5-ジ-t-ブチル-2-ヒドロキシフェニル)-5-クロロベンゾトリアリゾール、チヌビン318、チヌビン622LD、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジン)セバケイト、2-ヒドロキシ-4-n-オクトキシベンゾフェノン、2(2’-ヒドロキシ-3’-t-ブチル-5’-メチルフェニル-5-クロロベンゾトリアリゾール、2(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアリゾール、2-ヒドロキシ-4-n-メトキシベンゾフェノン、ベンゾフェノン、三酸化アンチモン、ジエチル-n,n-ビス(1-ヒドロキシエチル)アミノメチルホスホネート、シクロドデカトリエン、ジブロモクレジルグリシジルエーテル、スルファミン酸グアニジン、デカブロモジフェニルエーテル、デクロランプラス、テトラブロモビスフェノールA、トリス(β-クロロエチル)ホスフェート、トリス(2,3-ジブロモプロピル)イソシアヌレート、2,4,6-トリブロモフェノール、1,2-ビス(2,4,6-トリブロモフェノキシ)エタン、ヘキサブロモシクロドデカン、ヘキサブロモベンゼン、アゾジカルボンアミド、1-アミノエチルピペラジン、β-アミノクロトン酸エステル、アリルメタクリレート、アルケニルコハク酸無水物、イミダゾール類、ウロトロピン、エチレン・ビス・ステアロアマイド、エルカ酸アミド、n-オクチルメルカプタン、オレイン酸アマイド、過酢酸、m-キシリレンジアミン、1,8-ジアザ-ビシクロ(5,4,0)ウンデセン-7、1,5-ジアザ-ビシクロ(4,3,0)ノネン-5、4,4’-ジアミノ-3,3’-ジエチルジフェニルメタン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、ジ(2-エチルヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジクミルパーオキサイド、N,N-ジ(グリシジル)アニリン、ジクロロジアミノジフェニルメタン、N,N-ジニトロペンタメチレンテトラミン、9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナンスレン-10-オキサイド、ジビニルベンゼン、ジフェニルジサルファイド、2-ジ-n-ブチルアミノ-4,6-ジメルカプト-s-トリアジン、ジベンジリデンソルビトール、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、ジメチルチオトルエンジアミン、ステアリン酸アマイド、ステアリン酸アルミニウム、スピロアセタール化合物、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ダイマー酸、超微粒子状無水シリカ、t-ドデシルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、トリアリルイソシアヌレート、トリエチルアミン、2,4,6-トリ(ジメチルアミノメチル)フェノール、トリプロピレングリコールジアクリレート、α,α,α-トリブロモメチルフェニルスルホン、トリメタアリルイソシアヌレート、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールモノイソブチレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ノルボルナンジアミン、ビス(ジチオベンジル)ニッケル、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-ヘキサフルオロプロパン、ビス[2-メチル-4-(3-n-アルキルチオプロピオニロキシ)-5-t-ブチルフェニル]スルファイド、2-(2’-ヒドロキシ-5’-メタクリルオキシエチルフェニル-2H-ベンゾトリアゾール、ピバリン酸、フェノールアラルキル樹脂、フェノチアジン、p-t-ブチル安息香酸、4-t-ブチルカテコール、t-ブチルパーオキシベンゾエート、N-(n-ブトキシメチル)アクリルアマイド、ヘキサメチレンジイソシアネート、ベンジル、1-ベンジル-2 -エチルイミダゾール、p-ベンゾキノン、ホウ酸アルミニウムウイスカー、無水クロレンド酸,クロレンド酸、無水ヘキサヒドロフタル酸、無水メチルエンドメチレンテトラヒドロフタル酸、メチルエチルケトキシム、N,N’-メチレンビスアクリルアミド、メチレンビスステアルアミド、N-メチロールアクリルアミド、2-メルカプトエタノール、β-メルカプトプロピオン酸、モノクロロ酢酸ビニル、流動パラフィン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、ヘキサメチルホスホントリアミド等の非プロトン性極性溶媒類、γ−ブチロラクトン、酢酸ブチルなどのエステル類、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどのカーボネート類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、等のアルキレングリコールモノアルキルエーテル類、あるいはベンジルアルコール、イソプロパノールなどのアルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、トリメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール、グリセリン、ジエチレングリコール、ペンタエリスリトール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどの多価アルコール類、酢酸、リン酸、硫酸、フタル酸トリオクチル、リン酸トリオクチル、デカン、デカリン、水、アセトニトリル、イソキノリン、イソドデカン、イソプロピルエーテル、イソホロン、o-クロロアニリン、酢酸イソプロピル、1,4-ジアミノアントラキノン、ジイソアミルエーテル、シクロヘキサノール、2-(1-シクロヘキセニル)シクロヘキサノン、ジクロロエチルエーテル、1,4-ジクロロブタン、ジブチルエーテル、ジメチルアセトアマイド、ジメチルスルフォキサイド、チオジグリコール、テトラヒドロフラン、テトラヒドロフルフリルアルコール、トリグリコールジクロライド、乳酸エチル、2-フェノキシエタノール、ヘキシレングリコール、メチルイソプロピルケトン、3-メチル-3-メトキシブタノール、メトキシブタノール、メトキシブチルアセテート、イミダゾリウム塩系、ピリジニウム塩系、四級アンモニウム塩系などのイオン性液体など多種多様が挙げられる。
【0060】
これらは、単独でも二種以上の混合物でも使用できる。使用するイオン性基を有した高分子材料や電極材料、混練方法、条件などにより適宜選択できる。また、塗工性や製膜性、保存安定性、作業環境などの観点から、揮発しにくい可塑剤が好ましい。例えば沸点を指標にした場合、100℃以上の可塑剤が挙げられ、好ましくは150℃以上、200℃以上がさらに好ましい。また、大気圧下で実質的に沸点を有さない化合物がさらに好適である。また、後述するように可塑剤は少なくとも膜電極複合化後に除去されることが好ましく、この際、水および/または有機溶剤での抽出除去が好ましい。すなわち水溶性の可塑剤が特に好ましい。中でも主鎖に芳香環を有するイオン性基を有した高分子材料との相溶性に優れ、室温では形状保持が可能で、かつ、ホットメルト性も良好な該炭化水素系高分子被膜を与える、揮発性の少ないアルコール類が特に好ましく、多価アルコール類がさらに好ましい。本発明での可塑剤は、前述のように該炭化水素系高分子被膜を使用する際に揮発しにくく、保存安定性が良いものが作業性、工業的生産の観点から好ましい。
【0061】
例えば、本発明において好適な可塑剤としては該炭化水素系高分子被膜を20〜100μmのシート状に製膜加工して100℃で1時間熱風乾燥した後の試料の熱重量減量分析(TG−DTA)を行い、100〜300℃間(昇温速度10℃/分、N2雰囲気下)の熱重量減量率が5%以上90%以下の範囲であること、または室温でヘキサン、トルエン、メタノール、水のいずれかに24時間浸漬し、重量減量率が浸漬前の5%以上90%以下の範囲であることのいずれかに該当する該炭化水素系高分子被膜を与えるものが好ましい。これらの測定方法での重量減量率が5%以上であれば、電解質膜と電極の複合化時の流動性、塑性変形性を有することができ、優れた性能の膜電極複合体を得ることができる。また、90%以下であれば、電極内の空隙を該炭化水素系高分子被膜で埋めてしまう可能性が低くなり優れた性能の膜電極複合体を得ることができる。また、保存安定性も向上し、コスト的な観点からも好ましい。より好ましくは10%以上85%以下、さらに好ましくは、20%以上80%以下である。
【0062】
本発明における電解質膜と該炭化水素系高分子被膜の界面抵抗の低減および相互進入構造の制御の観点からできる限り密着性を強固にすることが好ましいため、該炭化水素系高分子被膜には膜電極複合体に使用する電解質膜を溶解または膨潤可能な溶媒を含有および残存させてもよい。この含有量および残存量は密着性や電解質膜性能への影響の観点から適宜実験的に決めることができる。該溶媒を含有および残存させることにより、電解質膜と該炭化水素系高分子被膜との間の相互進入構造により密着性が向上し、これらの界面でのイオン伝導性の低下度合いを抑えることができる場合がある。逆に、多過ぎると電解質膜内部に浸透し電解質膜の燃料遮断性を低下させたり膜電極複合体が短絡したりする傾向がある。この成分を含有および残存させる場合は、該炭化水素系高分子被膜中の1%以上、50%以下が好ましい。
【0063】
本発明における該炭化水素系高分子被膜の作製方法は通常公知の方法が選択でき、例えば、イオン性基を有した高分子材料とその溶剤、可塑剤を適当な容器に投入し撹拌可能な温度で混練する方法、イオン性基を有した高分子材料と可塑剤を押出機やニーダーなどに投入し溶融混練する方法などが挙げられる。また、この際、必要に応じて加熱しても差し支えない。
【0064】
該炭化水素系高分子被膜中には、上記以外に被膜の強度や密着性、耐燃料性などを高める目的で高分子電解質以外の高分子材料、無機材料、塩類などを添加してもよく、モンモリロナイトやガラス繊維などの各種無機フィラー、炭素繊維やカーボンナノチューブなどのカーボン材料、後述する触媒に用いる各種の金属微粒子材料、シリカやアルミナ、ジルコニア、チタニア、ポリシルセスキオキサンなどの各種微粒子状物を添加しても、該炭化水素系高分子被膜の機能に悪影響しなければ差し支えない。
【0065】
本発明の該炭化水素系高分子被膜を電解質膜とアノードおよびカソード電極との間に設ける方法としては特に限定されない。例えば、該炭化水素系高分子被膜を電解質膜上に設けおよび/または該炭化水素系高分子被膜を電極触媒層上に設けその後、該炭化水素系高分子被膜を設けた電解質膜と電極を貼り合わせる、または該炭化水素系高分子被膜を設けた電極と電解質膜を貼り合わせる、または該炭化水素系高分子被膜を設けた電解質膜と該炭化水素系高分子被膜を設けた電極を貼り合わせて、該炭化水素系高分子被膜を電極と電解質膜との間に介在させることができる。さらには、該炭化水素系高分子被膜単独からなるフィルムを電極と電解質膜との間に積層して複合化する工程、あらかじめ電極と電解質膜を一定の間隔に保ちその隙間に該炭化水素系高分子被膜の前駆体である塗液を注入し、その後に被膜にする工程などが例として挙げられる。
【0066】
工業的な製造の観点からは電極触媒層上および/または電解質膜上に設けて貼り合わせる工程が好ましい。該炭化水素系高分子被膜を電極上や電解質膜上に設ける方法としては、電極触媒面上や電解質膜上に直接塗工する方法や該炭化水素系高分子被膜の前駆体である塗液を別の基材に塗布後、被膜化し電極や電解質膜と貼り合わせて基材を取り除く方法などが挙げられる。本発明においては、これらの設ける方法において特に初期発電特性および高耐久性の高分子電解質型燃料電池が得られる観点で電極触媒層上に該炭化水素系高分子被膜を設ける方法が特に好ましい。
【0067】
該炭化水素系高分子被膜を設ける方法としては、通常は炭化水素系高分子材料を塗液として塗工することが一般的であり、塗工方法としては、通常公知の方法が使用でき、スプレーコート、刷毛塗り、ディップコート、スリットダイコート、カーテンコート、フローコート、スピンコート、スクリーン印刷などの手法が適用できる。また、炭化水素系高分子材料の塗液が常温では塗工できない場合は加熱溶融させて上記方法で塗工後に冷却するホットメルトコーティング方法などが適用できる。また、該炭化水素系高分子被膜を電極や電解質膜上に設けたのち、互いに複合化するために貼り合わせるが、この際、該炭化水素系高分子被膜が流動しないような粘度に調整することが好ましく、また、可塑剤が電極や電解質膜へ悪影響を及ぼさないように、炭化水素系高分子材料の塗液を塗工後、該炭化水素系高分子被膜中の可塑剤の一部を乾燥して調整することができる。
【0068】
本発明における該炭化水素系高分子被膜の膜厚は、例えばダイレクトメタノール型燃料電池の場合、アノード電極側と電解質膜との間の該炭化水素系高分子被膜の膜厚は、電解質膜との密着性、生成した炭酸ガスの排出および耐久性の観点から0.2〜30μmであることが好ましく、好ましくは0.2〜20μmであり、さらに好ましくは0.2〜15μmである。0.2μm以上であれば電解質膜と電極触媒層との空隙や触媒層のクラックを埋めることができ界面抵抗の低減を達成できる。30μm以下であれば、電解質膜と電極触媒層との空隙以外の燃料や炭酸ガスの拡散に必要な空隙を埋めてしまう可能性が低減し、また、該炭化水素系高分子被膜に含まれる可塑剤の悪影響が低減される。0.2μm未満では該炭化水素系高分子被膜を設ける効果が認められず、電解質膜との密着性、界面抵抗、耐久性等に問題が生じ、さらには、30μmを越えると燃料の侵入・拡散、炭酸ガスの排出等に問題が生じる。
【0069】
一方、カソード電極側と電解質膜との間の該炭化水素系高分子被膜の膜厚は、電解質膜との密着性、生成した水の排出および耐久性の観点から0.1〜20μmであることが好ましく、好ましくは0.1〜15μm、さらに好ましくは0.1〜10μmである。0.1μm未満では該炭化水素系高分子被膜を設ける効果が認められず、電解質膜との密着性、界面抵抗、耐久性等に問題が生じ、さらには、20μmを越えると特に生成した水の排出に問題が生じる。また、本発明におけるアノード電極側と電解質膜との間の該炭化水素系高分子被膜の膜厚とカソード電極側と電解質膜との間の該炭化水素系高分子被膜の膜厚は、発電特性に係わる燃料の進入、拡散および反応生成物の排出、拡散、電解質膜と電極触媒層との相互進入構造の制御による密着性向上および耐久性向上の観点から、カソード電極側と電解質膜との間の該炭化水素系高分子被膜の膜厚よりもアノード電極側と電解質膜との間の該炭化水素系高分子被膜の膜厚を厚くすることが有効である。その膜厚比としては例えばダイレクトメタノール燃料電池のアノードおよびカソード電極の触媒付量、発電時の燃料濃度、流速および温度などの運転状況によって特に限定されないが1.1〜100倍が好ましく、より好ましくは1.1〜50倍、さらに好ましくは1.1〜10倍である。本発明における該炭化水素系高分子被膜の膜厚は、膜電極複合体接合状態におけるものである。
【0070】
かかる各層の膜厚測定は、例えば電子顕微鏡や後述するEPMA(電子線マイクロアナライザー)が挙げられる。また、前述のEPMA(電子線マイクロアナライザー)は、イオン性基密度の高低についても膜断面の所定の部分を回収して前述した方法でスルホン酸基密度を測定したり、日本電子社製電子線マイクロアナライザー(EPMA)JXA−8621MXにより測定できる。例えば、イオン性基としてスルホン酸基を有する高分子材料を用いた場合、下記条件にて電解質膜断面または電解質面の硫黄元素の分布を、EPMA像を目視で観察することにより該炭化水素系高分子被膜が膜電極複合体の電解質膜と触媒表面に介在する膜厚が判断できる。
二次電子像、反射電子像観察条件
加速電圧 15kV
元素分布分析(波長分散法)
加速電圧 15kV
照射電流 50nA
計測時間 30msec
画素数・画素長 256×256pixel・0.336μm/pixel
分析ビーム径 〜1μmφ
分析X線・分光結晶 SKα(5.373オングストローム)・PET
試料調製 ミクロトームにより断面試料作製後、カーボン蒸着。
【0071】
尚、本発明における該炭化水素系高分子被膜の膜厚は、ミツトヨ製グラナイトコンパレータスタンドBSG−20にセットしたミツトヨ製ID−C112型を用い、電極触媒層および電極触媒層上に設けられた該炭化水素系高分子被膜を後述の実施例記載の膜電極複合体接合時のプレス条件に合わせて電解質膜の代わりにカプトンフィルムを用いてダミープレスした後に数式(S1)で測定した値である。
【0072】
炭化水素系高分子被膜の膜厚(μm)=T1−T2 (S1)
T1:電極触媒層と電極触媒層上に設けられた炭化水素系高分子被膜との膜厚
T2:電極触媒層の膜厚
本発明における該炭化水素系高分子被膜の目付量は、例えばダイレクトメタノール型燃料電池の場合、アノード電極側と電解質膜との間の該炭化水素系高分子被膜の目付量は、電解質膜との密着性、生成した炭酸ガスの排出および耐久性の観点から0.1〜50mg/cmであることが好ましく、好ましくは0.2〜30mg/cmであり、さらに好ましくは0.5〜15mg/cmである。0.1mg/cm以上であれば電解質膜と電極触媒層との空隙や触媒層のクラックを埋めることができ界面抵抗の低減を達成できる。50mg/cm以下であれば、電解質膜と電極触媒層との空隙以外の燃料や炭酸ガスの拡散に必要な空隙を埋めてしまう可能性が低減し、また、該炭化水素系高分子被膜に含まれる可塑剤の悪影響が低減される。一方、カソード電極側と電解質膜との間の該炭化水素系高分子被膜の目付量は、電解質膜との密着性、生成した水の排出および耐久性の観点から0.01〜25mg/cmであることが好ましく、好ましくは0.03〜20mg/cm、さらに好ましくは0.05〜15mg/cmである。
【0073】
また、本発明におけるアノード電極側と電解質膜との間の該炭化水素系高分子被膜の目付量とカソード電極側と電解質膜との間の該炭化水素系高分子被膜の目付量は、アノードおよびカソード電極の触媒層の白金付量、発電特性に係わる燃料の進入、拡散および反応生成物の排出、拡散、電解質膜と電極触媒層との相互進入構造の制御による密着性向上および耐久性向上の観点から、カソード電極側と電解質膜との間の該炭化水素系高分子被膜の目付量よりもアノード電極側と電解質膜との間の該炭化水素系高分子被膜の目付量を多くすることが前記初期発電特性向上および耐久性向上の観点から好ましい。その目付量比としては、例えばダイレクトメタノール燃料電池の発電時の燃料濃度、流速および温度などの運転状況によって特に限定されないが1.1〜100倍が好ましく、より好ましくは1.1〜50倍、さらに好ましくは1.1〜10倍である。尚、本発明の目付量は該炭化水素系高分子被膜を両電極触媒層上に設けた状態におけるものである。
【0074】
また、ここでのイオン性基をもつ物質とは、イオン性基を有する高分子材料と溶媒や可塑剤などの添加剤を含んだ物質のことであり、該物質を紙、フィルム、布帛、金属箔および前記電解質膜などに設けたものが好ましく使用される。また、紙、フィルム、布帛、金属箔に設けたイオン性基をもつ物質は、後工程で紙、フィルム、布帛、金属箔から電解質膜に転写する工程を含むことが好ましい。また、その後に膜電極複合体として特に残存価値のない溶媒や可塑剤などの添加剤を除去する工程を有することが好ましい。
【0075】
電極と電解質膜の複合化は、通常公知の方法(例えば、「電気化学」1985, 53, 269.記載の化学メッキ法、「ジャーナル オブ エレクトロケミカル サイエンス」(J. Electrochem. Soc.): Electrochemical Science and Technology, 1988, 135(9), 2209. 記載のガス拡散電極の加熱プレス接合法など)を適用することが可能である。加熱プレスにより複合化することは好ましい方法であるが温度、圧力および時間は、電解質膜の耐熱性、機械的強度、膜厚、含水率、触媒層や電極基材により適宜選択すればよい。また、本発明では電解質膜が乾燥した状態または吸水した状態でもプレスによる複合化が可能である。特に、本発明の方法では、通常、電解質膜が含水状態でなければ、電極と電解質膜の接合状態の良好な膜電極複合体を得ることができないような電解質膜においても、電解質膜が乾燥した状態でプレスできるため電解質膜と触媒層の実質的な接触面積を大きくでき、さらには加熱プレス時の水分揮発による電解質膜の実質的な収縮がないことから、強固な密着性を有する極めて優れた品位の膜電極複合体を得ることができる。その結果として、高性能な高分子電解質型燃料電池が得られる。ここで具体的なプレス方法としては、圧力やクリアランスを規定したロールプレス、圧力を規定した平板プレスなどが挙げられ、加熱温度は該イオン性基を有する炭化水素系高分子被膜の流動性に応じて適宜選択でき、工業的生産性の観点から室温〜130℃の範囲で行うことが好ましい。また、加圧は電解質膜や触媒層の保護の観点からできる限り弱い方が好ましく、平板プレスの場合は0.1〜10MPaの範囲が好ましい。
【0076】
触媒層を電極基材上またはフィルム上に形成する方法としては、触媒塗液を適当なコーティング法で塗布し、溶媒を除去する方法を例示することができる。コーティング法として例えば、スプレーコート、刷毛塗り、ディップコート、ダイコート、カーテンコート、フローコート、スピンコート、スクリーン印刷などの手法が適用できる。また、膜電極複合体を製造する方法として、予めポリテトラエチレンフロライドやポリプロピレンなどのフィルム(支持体)上に触媒層を塗布し乾燥させることで、支持体上に触媒層を形成させたものを加熱プレスまたは熱ロールによって電解質膜に転写する方法も可能である。ここでいう支持体としては、例えば、前述したポリテトラエチレンフロライドやポリプロピレンなどのフィルムに加え、オレフィン系フィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ウレタンフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリエステルフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリビニルアルコールフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリイミドフィルム、フッ素樹脂フィルムなどが挙げられるが、耐熱性および耐薬品性に優れるフィルム例えば、“カプトン(登録商標)”(デュポン社製)などが好ましく用いられる。また、触媒層を支持体上に形成する方法としては、前述の各種のコーティング法が例示できる。
【0077】
本発明の膜電極複合体ならびにそれの製造方法を使用した高分子電解質型燃料電池の燃料としては、酸素、水素、メタン、エタン、プロパン、ブタン、メタノール、イソプロピルアルコール、アセトン、グリセリン、エチレングリコール、ギ酸、酢酸、ジメチルエーテル、ハイドロキノン、シクロヘキサンなどの炭素数1〜6の有機化合物およびこれらと水との混合物などが挙げられ、1種または2種以上の混合物でもよい。特に、発電効率や電池全体のシステム簡素化の観点から水素、炭素数1〜6の有機化合物を含む燃料が好適に使用され、発電効率の点でとりわけ好ましいのはメタノール水溶液である。
【0078】
メタノール水溶液を用いる場合は、メタノールの濃度としては、使用する燃料電池のシステムによって適宜選択されるができる限り高濃度のほうが長時間駆動の観点から好ましい。例えば、送液ポンプや送風ファンなど発電に必要な媒体を膜電極複合体に送るシステム、冷却ファン、燃料希釈システム、生成物回収システムなどの補機を有するアクティブ型燃料電池は、メタノールの濃度30〜100%の燃料を燃料タンクや燃料カセットにより注入し、0.5〜20%程度に希釈して膜電極複合体に送ることが好ましく、また補機が無いパッシブ型の燃料電池はメタノールの濃度が10〜100%の範囲の燃料が好ましい。
【0079】
本発明の膜電極複合体は、燃料および反応生成物の物質移動性に優れていることからメタノール濃度が0.5〜6.4%程度の燃料を膜電極複合体に送ることがより好ましく前記アクティブ型燃料電池に好ましく用いられる。また、本発明の膜電極複合体は複数枚のスタック状で使用しても並べた状態で使用してもよい。また、燃料電池は使用する機器に内蔵してもよいし、外付けのユニットとして使用してもよい。また、メンテナンスの観点から燃料電池セルから膜電極複合体が脱着可能な構成であることが好適である。
【実施例】
【0080】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。尚、各物性の測定条件は次の通りである。
(測定方法)
実施例中の物性は下記に示す方法で測定した。
【0081】
1.スルホン酸基密度
25℃の純水中で24時間以上撹拌洗浄したのち、100℃で24時間真空乾燥した後精製、乾燥後のポリマーについて、元素分析により測定した。C、H、Nの分析は、全自動元素分析装置varioELで、また、Sの分析はフラスコ燃焼法・酢酸バリウム滴定、Pの分析についてはフラスコ燃焼法・リンバナドモリブデン酸比色法で実施した。それぞれのポリマーの組成比から単位グラムあたりのスルホン酸基密度mmol/gを算出した。
【0082】
2.重量平均分子量
ポリマーの重量平均分子量をGPCにより測定した。紫外検出器と示差屈折計の一体型装置として東ソー製HLC−8022GPCを、またGPCカラムとして東ソー製TSK gel SuperHM−H(内径6.0mm、長さ15cm)を2本を用い、N−メチル−2−ピロリドン溶媒(臭化リチウムを10mmol/Lを含有するN−メチル−2−ピロリドン溶媒)にて、流量0.2mL/minで測定し、標準ポリスチレン換算により重量平均分子量を求めた。試料溶液中のポリマー濃度は0.1重量%とし、カラム温度は40℃とした。
【0083】
3.膜厚
ミツトヨ製グラナイトコンパレータスタンドBSG−20にセットしたミツトヨ製ID−C112型を用いて測定した。試料の4隅付近と中心部を5ポイント測定し、その平均値で表した。
【0084】
4.白金付量
白金付量は、セイコーインスツルメンツ社製卓上蛍光X線分析計“SEA2120”を使用して測定した。測定条件を下記する。
【0085】
測定時間:90sec
有効時間:52sec
試料雰囲気:大気中
コリメータ:φ10.0mm
励起電圧:50kV
管電流:5μA
フィルター:なし
マイラー:off
5.高分子電解質型燃料電池の発電性能評価
膜電極複合体(MEA)をエレクトロケム社製セルにセットし、アノード電極側に3.2%メタノール水溶液を1ml/minで供給し、カソード電極側に空気を50ml/minで流し発電評価を行った。また、セパレーターの裏側に温調水を流し60℃に調整した。評価は、MEAに定電流を流しその時の電圧を測定した。電流を順次増加させ電圧が10mV以下になるまで測定を行った。各測定点での電流と電圧の積が出力となるがその最大値(MEAの単位面積あたり)を出力(mW/cm2)とした。前述の発電評価を繰り返し安定な出力が得られるまでエージングし、エージング中の最高出力(mW/cm)を発電出力とした。
【0086】
また、MEAでのメタノール透過量はカソードからの排出ガスを捕集管でサンプリングした。これを全有機炭素計TOC-VCSH(島津製作所製測定器)、あるいはメタノール透過量測定装置Micro GC CP-4900(ジ−エルサイエンス製ガスクロマトグラフ)を用い評価した。尚、メタノール透過量は、サンプリングガス中のメタノールと二酸化炭素の合計を測定して算出した。
【0087】
また、MEAの直流成分抵抗は、電流ImA、振幅I/10mAを印加し、50kHz〜10mHzの周波数範囲で測定を行い、インピーダンスを測定する(Iは、最高出力時の電流値)。測定したインピーダンスを複素平面グラフにし、得られた円弧あるいはそれが歪んだ形のものの大きさを抵抗Rr(Rr=X軸切片の右端−左端)とした。このとき得られるX軸切片の右端および左端は、複素平面グラフから得られる半円のX軸との交点のそれぞれ右端および左端となる。半円にならない場合はナイキストプロットから、“Zview Electrochemical Impedance Sofware”(Scribner Associates,Inc.社製)の円形フィットより半円を推定し、そのX軸切片の左端および右端を用いる。尚、MEAの直流成分抵抗R1は、X軸切片の左端とした。
【0088】
[合成例1]
4,4’−ジフルオロベンゾフェノン109.1gを発煙硫酸(50%SO)150mL中、100℃で10h反応させた。その後、多量の水中に少しずつ投入し、NaOHで中和した後、食塩200gを加え合成物を沈殿させた。得られた沈殿を濾別し、エタノール水溶液で再結晶し、ジソジウム3,3’−ジスルホネート−4,4’−ジフルオロベンゾフェノンを得た。
【0089】
[合成例2]
炭酸カリウム6.9g、4,4'−(9H−フルオレン−9−イリデン)ビスフェノール14.0g、4,4'−ジフルオロベンゾフェノン4.4g、および上記合成例1で得たジソジウム3,3’−ジスルホネート−4,4’−ジフルオロベンゾフェノンを8.4g用いて、N−メチルピロリドン(NMP)中、190℃で重合を行った。多量の水で再沈することで精製を行いポリマーAを得た。得られたポリマーAのプロトン置換膜のスルホン酸基密度は、元素分析より1.8mmol/g、重量平均分子量20.7万であった。
【0090】
[合成例3]
4,4'−(9H−フルオレン−9−イリデン)ビスフェノール14.0gを4,4'−ジヒドロキシテトラフェニルメタン14.1gに変更した以外は合成例2と同様に行い、ポリマーBを得た。得られたポリマーBのプロトン置換膜のスルホン酸基密度は、元素分析より1.8mmol/g、重量平均分子量20.4万であった。
【0091】
[電解質膜の作製例1]
ポリマーA10gを、N−メチル−2−ピロリドン30gに溶解させ25%の塗液とした。当該塗液をガラス基板上にアプリケーターを用いて流延塗布し、窒素雰囲気下、60℃にて15分間、60〜350℃まで58分間昇温し、350℃で10分間乾燥する条件で熱処理を行った後に放冷し、精製水中でガラス基板から離型した。その後、1N−塩酸水溶液に1日以上浸漬しプロトン置換を行い、精製水に1日浸漬して洗浄を行い膜厚51(μm)の電解質膜MAを得た。
【0092】
[電解質膜の作製例2]
上記ポリマーBを9g、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン31gに溶解させ、22.5%の塗液とした。該塗液をガラス基板上にアプリケーターを用いて流延塗布し、窒素雰囲気下、60℃にて15分間、60〜300℃まで50分間昇温し、さらに300℃で10分間乾燥する条件で熱処理を行った後に放冷し、精製水中でガラス基板から離型した。その後、1N−塩酸水溶液に1日以上浸漬しプロトン置換を行い、精製水に1日浸漬して洗浄を行い膜厚35μmの電解質膜MBを得た。
【0093】
[炭化水素系高分子材料の作製例]
粉砕器で粉状にしたポリマーAを大過剰量の2N−塩酸水溶液60℃で24時間以上撹拌しプロトン置換を行った。多量の精製水で中性になるまで洗浄、ろ過を繰り返した後に60℃で24時間以上乾燥を行い、さらに真空雰囲気下80℃で24時間以上乾燥を行いプロトン交換されたポリマーHAを得た。
【0094】
[炭化水素系高分子材料からなる塗液の作製例]
ポリマーHAを9g、N−メチル−2−ピロリドン55gに溶解させ、20%の塗液とした。この塗液を撹拌しながら90℃の水浴で加温し、36gのグリセリンを1g/分の速度で滴下した。滴下終了後、1時間撹拌を継続し、炭化水素系高分子材料からなる塗液PHAを得た。
【0095】
[炭化水素系高分子材料からなる膜の作製例]
該PHA溶液を100℃に加温し、剥離紙状にアプリケーターを用いて塗工を行った。その後、100℃で5分間乾燥しイオン性基をもつ物質からなる炭化水素系高分子被膜PHAMを得た。尚、炭化水素系高分子被膜の目付量は、アノード電極側を4.5mg/cmとし、カソード電極側を3.5mg/cmとした。
【0096】
[アノード電極の電極基材作製例]
抄紙工程において、東レ株式会社製ポリアクリロニトリル系炭素繊維“トレカ (登録商標) ”T300−6K(平均単繊維径:7μm、単繊維数:6,000本)を12mmの長さにカットし、水を抄造媒体として連続的に抄造し、さらにポリビニルアルコールの10重量%水溶液に浸漬し、乾燥して、炭素短繊維3の目付が約26g/mの長尺の炭素繊維紙を得てロール状に巻き取った。ポリビニルアルコールの付着量は、炭素繊維紙100重量部に対して20重量部に相当する。
【0097】
次に、樹脂含浸工程において、得られた炭素繊維紙を、中越黒鉛工業所社製鱗片状黒鉛BF−5A(平均粒径5μm)、フェノール樹脂およびメタノールを2:3:24の重量比で混合した分散液に、炭素短繊維100重量部に対してフェノール樹脂が125重量部になるように、連続的に含浸し、90℃の温度で3分間乾燥することにより樹脂含浸炭素繊維紙を得てロール状に巻き取った。フェノール樹脂には、レゾール型フェノール樹脂とノボラック型フェノール樹脂とを1:1の重量比で混合した樹脂を用いた。
【0098】
次に、圧縮工程において、株式会社カワジリ社製100tホットプレスに上熱板と下熱板が互いに平行となるようセットし、下熱板上にスペーサーを配置して、熱板温度170℃、面圧0.8MPaで、プレスの開閉を繰り返しながら上下から離型紙で挟み込んだ樹脂含浸炭素繊維紙を間欠的に搬送しつつ、同じ箇所がのべ6分間加熱加圧されるよう圧縮処理した。離型紙の厚さを除いた、樹脂含浸炭素繊維紙の成形のために設けられた実質的なクリアランスは0.30mmであった。また、熱板の有効加圧長LPは1200mmで、間欠的に搬送する際の前駆体繊維シートの1回あたりの送り量LFを100mmとし、LF/LP=0.08とした。すなわち、30秒の加熱加圧、型開き、炭素繊維紙の送り(100mm)、を繰り返すことによって圧縮処理を行い、前駆体繊維シートを得てロール状に巻き取った。
【0099】
次に、炭化工程において、得られた前駆体繊維シートを、窒素ガス雰囲気に保たれた、最高温度が2,500℃の加熱炉に導入し、加熱炉内を連続的に走行させながら、約500℃/分(650℃までは400℃/分、650℃を超える温度では600℃/分)の昇温速度で焼成し、貫通孔のない多孔質炭素シートを得てロール状に巻き取った。
【0100】
次に、貫通孔加工工程において、貫通孔のない多孔質炭素シートに、直径150μmの針を240本/cmの密度で植えた治具を用いて、複数の貫通孔を開け、貫通孔を有する多孔質炭素シートを得た。
【0101】
このような製造工程を経て得られた多孔質炭素シートをPTFE水系ディスパージョンに浸漬後引き上げて乾燥して、シート100重量部に対してPTFEを25重量部付着させて後、その片面に、カーボンブラックとPTFEとを重量比2:1で含む混合物をシートの単位面積あたり約2mg/cm塗布し、380℃で熱処理することによってガス拡散層を形成して電極基材を得た。
【0102】
得られた多孔質炭素シートの貫通孔の直径は154μm、貫通孔の密度は240個/cmであり、また多孔質炭素シートの厚さは202μm、多孔質炭素シートの空隙率は84%であった。
【0103】
[アノード電極またはアノード触媒付きフィルム作製例1]
前記、多孔質炭素シートをアノード電極基材とし、ガス拡散層付き面上に、まずジョンソンマッセイ(Johson&Matthey)社製Pt−Ru触媒“HiSPEC(登録商標)”6000を24g、Pt−Ru担持カーボン触媒“HiSPEC(登録商標)”10000を1.2g、デュポン(DuPont)社製20%“ナフィオン(登録商標)”溶液の溶媒を全てN−メチル−2−ピロリドンに置換した溶液を33.5gからなるアノード触媒塗液をスリットダイ塗工し、100℃で30分間熱処理してアノード電極CA1を得た。尚、該CA1の金属粒子と金属担持粒子の含量は、79.0重量%である。また、該CA1の白金付量は3.0mg/cmであった。次に該アノード電極CA1の触媒付き面上にジョンソンマッセイ(Johson&Matthey)社製Pt−Ru触媒“HiSPEC(登録商標)”6000を1.5g、デュポン(DuPont)社製20%“ナフィオン(登録商標)”溶液を0.6gからなる触媒塗液をペンシル型ハンディースプレーガンでスプレー塗工し、100℃で10分間熱処理してアノード電極CAS1を得た。尚、該CAS1の金属粒子の含量は、92.6重量%である。該CA1上のCAS1の白金付量は0.5mg/cmであった。尚、CA1およびCAS1で積層された電極はCAM1と表記する。
【0104】
[アノード電極またはアノード触媒付きフィルム作製例2]
前記アノード電極またはアノード触媒付きフィルム作製例1において金属粒子と金属担持粒子の含量を87.5重量%に変更し、デュポン社製“カプトン(登録商標)”のフィルム上に塗工する以外は、同様に行いアノード触媒付きフィルムCA2を得た。該CA2の白金付量は、3.0mg/cmであった。
【0105】
[カノード電極またはカソード触媒付きファイルム作製例1]
炭素繊維の織物からなる米国E−TEK社製カーボン付きクロスLT−1400W電極基材のカーボン付き面上に、田中貴金属工業社製Pt担持カーボン触媒TEC10V50Eを6g、ジョンソンマッセイ(Johson&Matthey)社製Pt触媒HiSPEC(登録商標)”1000を12g、デュポン(DuPont)社製20%“ナフィオン(登録商標)”溶液を10.8gなるカソード触媒塗液をスリットダイ塗工し、100℃で30分間熱処理してカソード電極CC1を得た。尚、該CC1の金属粒子と金属担持粒子の含量は、89.3重量%である。該CC1の白金付量は、6.5mg/cmであった。
【0106】
[カノード電極またはカソード触媒付きファイルム作製例1]
前記カソード電極またはカソード触媒付きフィルム作製例1において金属粒子と金属担持粒子の含量を85.0重量%に変更し、デュポン社製“カプトン(登録商標)”のフィルム上に塗工する以外は、同様に行いカソード触媒付きフィルムCC2を得た。該CC2の白金付量は、6.5mg/cmであった。
【0107】
[実施例1]
該アノード電極CAM1と該カソード電極CC1の触媒層上に該PHAMを1MPaの圧力で100℃5分間加熱プレスを行い、ICAM1およびICC1を得た。前記ICAM1およびICC1を電極面積5cmとなるようにカットした。電解質膜として前記MAを用い、前記ICAM1およびICC1を積層し3MPaの圧力で100℃8分間加熱プレスを行い膜電極複合体MEA−1を得た。その後、膜電極複合体MEA−1を50mlの純水に30分間浸漬し、該PHAMに残存している可塑剤を抽出洗浄し、発電評価用セルに組み込み、3.2%メタノール水溶液を充填し高分子電解質型燃料電池とした。発電出力、メタノール透過量およびMEAセル内の直流成分抵抗を表1にまとめた。
【0108】
【表1】

【0109】
[実施例2]
該アノード触媒付きフィルムCA2と該カソード触媒付きフィルムCC2の触媒層に該PHAMを100℃で5分間、1MPaの圧力で加熱プレスを行いICA2およびICC2を得た。前記ICA2およびICC2電極を電極面積が5cmとなるようにカットした。
【0110】
次に、該ICA2およびICC2をを前記電解質膜MAに積層し3MPaの圧力で100℃8分間加熱プレスを行い膜電極複合体MEA−2を得た。次に、精製水中に膜電極複合体MEA−2を浸漬しフィルムを剥離した。その後、アノード電極の電極基材として前記多孔質炭素シートをMEA−2上に設け、カソード電極の電極基材として米国E−TEK社製カーボン付きクロスLT−1400WをMEA−2上に張り合わせて発電用セルに組み込み高分子電解質型燃料電池とし、その後、膜電極複合体MEA−2を10%メタノール100mlで該炭化水素系高分子被膜中に残存している可塑剤を抽出洗浄した。初期発電出力およびMEAセル内の直流成分抵抗を表1にまとめた。
【0111】
[実施例3]
実施例2において、アノード電極の電極基材として前記多孔質炭素シートのガス拡散層を設けない以外は全て同様に行いMEA−3を得た。初期発電出力およびMEAセル内の直流成分抵抗を表1にまとめた。また、発電性能評価においてメタノール水溶液の濃度を1.6%、2ml/minで供給し、発電出力、メタノール透過量およびMEAセル内の直流成分抵抗を表2にまとめた。
【0112】
[実施例4]
実施例2において、アノード電極の電極基材として前記多孔質炭素シートのガス拡散層のカーボンブラックを配合しない以外は全て同様に行いMEA−4を得た。初期発電出力およびMEAセル内の直流成分抵抗を表1にまとめた。
【0113】
[実施例5]
実施例2において、アノード電極の電極基材として貫通孔の直径が252μm、貫通孔の密度が120個/cmであり、また多孔質炭素シートの厚さが198μm、多孔質炭素シートの空隙率が83%である多孔質炭素シートを用いる以外は全て同様に行いMEA−5を得た。初期発電出力およびMEAセル内の直流成分抵抗を表1にまとめた。
【0114】
[実施例6]
実施例2において、アノード電極の電極基材として貫通孔の直径が350μm、貫通孔の密度が50個/cmであり、また多孔質炭素シートの厚さが140μm、多孔質炭素シートの空隙率が82%である多孔質炭素シートを用いる以外は全て同様に行いMEA−6を得た。初期発電出力およびMEAセル内の直流成分抵抗を表1にまとめた。
【0115】
[実施例7]
実施例2において、電解質膜MBを用いる以外は全て同様に行いMEA−7を得た。初期発電出力およびMEAセル内の直流成分抵抗を表1にまとめた。
【0116】
[実施例8]
実施例7において、該CA2の白金付量を2.0mg/cmに変更し、該CC2の白金付量を2.0mg/cmに変更する以外は全て同様に行いMEA−8を得た。初期発電出力およびMEAセル内の直流成分抵抗を表1にまとめた。
【0117】
[比較例1]
実施例2において、アノード電極の電極基材として貫通孔の直径が51μm、貫通孔の密度が600個/cmであり、また多孔質炭素シートの厚さが198μm、多孔質炭素シートの空隙率が80%である多孔質炭素シートを用いる以外は全て同様に行いMEA−9を得た。初期発電出力およびMEAセル内の直流成分抵抗を表1にまとめた。
【0118】
[比較例2]
実施例2において、アノード電極の電極基材として貫通孔の直径が503μm、貫通孔の密度が60個/cmであり、また多孔質炭素シートの厚さが196μm、多孔質炭素シートの空隙率が85%である多孔質炭素シートを用いる以外は全て同様に行いMEA−10を得た。初期発電出力およびMEAセル内の直流成分抵抗を表1にまとめた。
【0119】
[比較例3]
実施例2において、電解質膜として膜厚210μmの“ナフィオン(登録商標)117”(デュポン社製)を用い、該CA2と該CC2を積層し20MPaの圧力で100℃20分間加熱プレスを行い膜電極複合体MEA−11を得た。発電評価用セルに組み込み、3.2%メタノール水溶液を充填し高分子電解質型燃料電池とした。発電出力、メタノール透過量およびMEAセル内の直流成分抵抗を表1にまとめた。
【産業上の利用可能性】
【0120】
本発明の膜電極複合体の製造方法は、種々の電気化学装置(例えば、燃料電池、水電解装置、クロロアルカリ電解装置等)の膜電極複合体の製造に適用可能である。これら装置の中でも、燃料電池用に好適であり、特にメタノール水溶液を燃料とする燃料電池に好適である。
【0121】
本発明の高分子電解質型燃料電池の用途としては、特に限定されないが、携帯電話、パソコン、PDA、ビデオカメラ(カムコーダー)、デジタルカメラなどの携帯機器、電動シェーバー、掃除機などの家電、電動工具、玩具類、電動カート、電動車椅子、電動アシスト付き自転車、自動二輪車、乗用車、バス、トラックなどの自動車や船舶、鉄道などの移動体の電力供給源、据え置き型の発電機、二次電池の充電器など従来の一次電池、二次電池、太陽電池の代替もしくはこれらとのハイブリッド電源として好ましく用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0122】
【図1】本発明の一形態に係る多孔質炭素シートの表面を示す光学顕微鏡写真(50倍)である。
【符号の説明】
【0123】
1:多孔質炭素シート
2:貫通孔
3:炭素短繊維
4:樹脂炭化物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノード電極、電解質膜、カソード電極を具備する膜電極複合体であって、該アノード電極と電解質膜との間およびカソード電極と電解質膜との間に炭化水素系高分子被膜を有する膜電極複合体において、アノード電極およびカソード電極はそれぞれ電極基材と触媒層からなり、アノード電極に用いられる電極基材が多孔質炭素シートからなり、該多孔質炭素シートがシートの表裏を貫く複数の貫通孔を有し、多孔質炭素シートにおける貫通孔の直径が100〜400μmであり、かつ貫通孔の密度が25〜500個/cmであることを特徴とする膜電極複合体。
【請求項2】
該多孔質炭素シートの厚さが50〜300μmであることを特徴とする請求項1に記載の膜電極複合体。
【請求項3】
該多孔質炭素シートの空隙率が70〜90%であることを特徴とする請求項1または2に記載の膜電極複合体。
【請求項4】
請求項1記載の膜電極複合体の製造方法であって、(1)アノードおよびカソード触媒層をフィルム上に設ける工程、(2)可塑剤を含有した炭化水素系高分子被膜をアノードおよびカソード触媒層上に設ける工程、(3)フィルム上に設けられたアノード触媒層と該炭化水素系高分子被膜およびカソード触媒層と該炭化水素系高分子被膜を電解質膜に転写する工程、(4)アノード触媒層上に前記多孔質炭素シートからなる電極基材およびカソード触媒層上に電極基材を張り合わせる工程および(5)該炭化水素系高分子被膜から可塑剤を除去する工程からなることを特徴とする膜電極複合体の製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載の膜電極複合体を用いて構成されることを特徴とする高分子電解質型燃料電池。
【請求項6】
請求項5に記載の高分子電解質型燃料電池の燃料がメタノールであることを特徴とするダイレクトメタノール型燃料電池。

【図1】
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【公開番号】特開2008−234968(P2008−234968A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−72217(P2007−72217)
【出願日】平成19年3月20日(2007.3.20)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 燃料電池・水素技術開発部 共同研究「固体高分子形燃料電池実用化戦略的技術開発 炭化水素系電解質膜およびMEAの量産化技術開発」、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】