説明

膜電極複合体の製造方法

【課題】触媒スラリー塗布後の乾燥工程を不要とすることで、触媒層のひび割れおよび剥離を防ぎ、高品質な膜電極複合体を得ることが可能な膜電極複合体の製造方法を提供する。
【解決手段】電解質膜の上に触媒層を積層してなる膜電極複合体の製造方法であって、触媒と、電解質と、溶媒とを含むスラリーを調製するスラリー調製工程と、スラリー中の溶媒を除去して触媒粉末を調製する触媒粉末調製工程と、触媒粉末を型によって圧縮成形し、触媒層を形成する触媒層形成工程と、触媒層または触媒層の構成材料を電解質膜と接合する接合工程とを含む、膜電極複合体の製造方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば燃料電池等に対して好適に用いることが可能な膜電極複合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電子機器等の電源として燃料電池に対する期待が高まっている。燃料電池においては、燃料極において燃料を、空気極において空気を、それぞれ電気化学的に酸化・還元することにより発電させる。固体高分子型燃料電池に使用することが可能な膜電極複合体の製造方法としては、従来、間接コーティング方法、直接コーティング方法等が用いられている。これらの方法のいずれにおいても、触媒層構成物質として、触媒粒子、水、溶媒、電解質溶液等が分散された触媒層製造用スラリーを用い、当該触媒層製造用スラリーを、基材としての固体高分子電解質膜に塗工するのが一般的である。
【0003】
ここで、間接コーティング方法とは、フッ素樹脂等の離型性に優れる離型シート上に、触媒層スラリーをスクリーン印刷等でコーティングして電極を形成し、該電極を該離型シートと共に高分子電解質膜に密着させて積層し、その後、ホットプレス等によって、離型シート上の電極を高分子電解質膜に転写させる方法である。また、離型シートの代わりにカーボンペーパー等の拡散層を用い、拡散層ごと電極を固体高分子電解質膜に接合する方法も含まれる。一方、直接コーティング方法とは、エアーブラシ、スプレーガン等で、触媒層製造用スラリーを高分子電解質膜に直接塗工する方法である。
【0004】
従来の燃料電池用電極触媒層を製造する方法で製造した燃料電池用電極触媒層においては、ひび割れや亀裂が発生することが多く、この傾向は、燃料電池用電極触媒層の厚みが大きくなるにつれてより顕著となる。このひび割れ等は、触媒担持カーボン微粒子等からなる触媒粒子を分散させたスラリーを塗工した後に溶媒が乾燥する際に発生する。
【0005】
特許文献1では、乾燥した触媒担持カーボン微粒子を分散させるときに用いる水の表面張力が大きいことで、溶媒乾燥時の乾燥収縮力が大きいことと、汎用されるエタノール溶媒や1−プロパノール溶媒と電解質との相互作用(すなわち分子間力)が大きくなりすぎることの2点によってひび割れが生じることを見出し、乾燥した触媒担持カーボン微粒子を濡れさせる液体媒体として、水に代えて3級アルコールを採用し、固体高分子電解質を溶解させる液体溶媒として、一般的なアルコールに代えて誘電率20以下の有機溶媒を採用することで、ひび割れ等の発生を効果的に抑制できる旨提案されている。
【0006】
しかしながら、上記の技術においても、触媒層の作製工程は、依然として触媒層製造用スラリーに含まれる水および有機溶媒を塗布後に乾燥させる工程を有しており、一度に多量のスラリーを積層すると乾燥の工程においてひび割れ等が発生する。一方、少量ずつ多段に分けてスラリーを積層する場合、前段で塗布し乾燥させた触媒層中の電解質が後段のスラリー中の溶媒を吸い込むため、外表面から距離が遠くなることによって乾燥しにくくなり、触媒層の強度が弱くなることで剥離が生じてしまうという課題を有している。
【特許文献1】特開2003−208903号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記の課題を解決し、触媒スラリー塗布後の乾燥工程を不要とすることで、触媒層のひび割れおよび剥離を防ぎ、高品質な膜電極複合体を得ることが可能な膜電極複合体の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、電解質膜の上に触媒層を積層してなる膜電極複合体の製造方法であって、触媒と、電解質と、溶媒とを含むスラリーを調製するスラリー調製工程と、スラリー中の溶媒を除去して触媒粉末を調製する触媒粉末調製工程と、触媒粉末を型によって圧縮成形し、触媒層を形成する触媒層形成工程と、触媒層または触媒層の構成材料を電解質膜と接合する接合工程とを含む、膜電極複合体の製造方法に関する。
【0009】
本発明の膜電極複合体の製造方法において、触媒粉末調製工程における溶媒の除去は、スラリーを混練しながら行なわれることが好ましい。
【0010】
本発明の膜電極複合体の製造方法においては、型が多孔質金属であることが好ましい。この場合、接合工程において電解質膜と接合される触媒層の構成材料が該多孔質金属であることが好ましい。
【0011】
本発明の膜電極複合体の製造方法においては、スラリーが導電性繊維をさらに含むことが好ましい。
【0012】
本発明の膜電極複合体の製造方法においては、触媒層が燃料電池の燃料極触媒層であることが好ましい。この場合、触媒層の厚みが50μm以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の膜電極複合体の製造方法においては、触媒を含むスラリーの溶媒を乾燥させて得た触媒粉末を型で圧縮成形することによって触媒層を形成するため、触媒層のひび割れおよび剥離が防止され、高品質な膜電極複合体を得ることが可能である。
【0014】
また本発明によれば、従来の方法では作製が難しかった厚みが大きくかつ高品質である触媒層を少ない工程によって低コストで形成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明は、電解質膜の上に触媒層を積層してなる膜電極複合体の製造方法に関し、該製造方法は、触媒と電解質と溶媒とを含むスラリーを調製するスラリー調製工程と、スラリー中の溶媒を除去して触媒粉末を調製する触媒粉末調製工程と、触媒粉末を型によって圧縮成形し、触媒層を形成する触媒層形成工程と、触媒層または触媒層の構成材料を電解質膜と接合する接合工程とを含む。本発明で製造される膜電極複合体は、典型的には、電解質膜の両面に触媒層を積層した構成を有する。
【0016】
[実施の形態1]
以下、図面を参照しながら本発明の典型的な実施の態様につき説明する。
【0017】
<スラリー調製工程>
スラリー調製工程においては、触媒と電解質と溶媒とを含むスラリーを調製する。スラリーは、たとえば、触媒、電解質および溶媒を攪拌下で混合することにより調製できる。本発明において、触媒は単独でスラリー中に含有されても良いが、触媒微粒子を用い、たとえば導電性粉末からなる担体に担持された状態で用いられることが好ましい。
【0018】
触媒としては、たとえば、Pt、Ru、Au、Ag、Rh、Pd、Os、Irなどの貴金属や、Ni、V、Ti、Co、Mo、Fe、Cu、Znなどの卑金属を好ましく使用できる。これらは、単独もしくは2種類以上の組み合わせで使用できる。
【0019】
また、触媒を担持するための担体として用いられる導電性粉末としては、たとえば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、フラーレンなどの炭素粉末を好ましく使用できる。
【0020】
電解質としては、たとえば、ナフィオン(登録商標)(デュポン社製)、フレミオン(登録商標)(旭硝子社製)などの高分子電解質を好ましく使用できる。スラリー調製工程において、これらはたとえば溶液の状態で好ましく使用できる。溶媒としては、たとえば、エチレングリコールジメチルエーテル、n-酢酸ブチル、イソプロパノールおよびその他の低級アルコール、などを好ましく用いることができる。
【0021】
スラリーは触媒、電解質、溶媒のみで構成されても良いが、他の成分を含有しても良い。たとえば、電解質の溶液に対し、撥水性付与剤として、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)を添加したカーボン粉末等を添加したり、粘度調整剤としてエチレングリコール等を添加しても良い。またスラリーに水等を含有させても良い。
【0022】
また、本発明においては、スラリーが導電性繊維をさらに含むことが好ましい。この場合、触媒層の空隙率を所望の範囲内に調整して、触媒層への燃料の供給、および触媒層からの生成物の排出を効率良く行なわせることが可能となる。導電性繊維としては、たとえば、カーボンファイバー(例えば、昭和電工製VGCF)、カーボンナノチューブなどを例示できる。
【0023】
スラリーのより具体的な組成としては、特に制限されるものではないが、貴金属触媒を担持した炭素粉末としてPt/Cを、高分子電解質溶液としてナフィオン(登録商標)溶液を、希釈用溶媒として有機溶媒を、それぞれ使用する場合、作製される電極の面積に対して、Pt/Cを、1〜30mgPt/cm2の範囲内で含有し、ナフィオン(登録商標)溶液を、0.5〜15mg/cm2の範囲内で含有し、有機溶媒を、30〜900mg/cm2の範囲内で含有する組成のスラリーが好ましい。
【0024】
より典型的には、Pt/Cを2mgPt/cm2、ナフィオン(登録商標)溶液を1.0mg/cm2、有機溶媒を60mg/cm2で含有する塗布状態を形成できる組成のスラリーを例示できる。スラリーを構成する各々の物質を均一に混合、分散させるための手法としては、ビーズミルや超音波ホモジナイザーなどを用いる方法を好ましく採用できる。
【0025】
<触媒粉末形成工程>
触媒粉末形成工程では、上記で得たスラリー中の溶媒を除去して触媒粉末を調製する。溶媒は、たとえば乾燥等により除去できる。溶媒の除去は、スラリーを混練しながら行なうことが好ましく、この場合、スラリーに外力が働くことによってスラリー中の構成物質の凝集が抑制されるため、溶媒の揮発速度を向上させることができるとともに、粒子径が小さく均一な触媒粉末を得ることができる。混練の手法としては、たとえば乳鉢ですりつぶす方法等を好ましく採用できる。
【0026】
<触媒層形成工程>
触媒層形成工程においては、上記で得た触媒粉末を型によって圧縮成形し、触媒層を形成する。図1は、本発明に係る膜電極複合体の製造方法の好ましい一態様について説明する模式図である。図1においては、簡略化のため、電解質膜の一方の表面上に積層される触媒層を代表して示している。
【0027】
まず、基材1の上に、触媒粉末充填スペース31が形成された型30を重ね(図1(A))、基材1と型30とを固定する。基材1としては、たとえば燃料電池において用いられる燃料および燃料電池における生成物の拡散性に優れた、カーボンペーパーに代表される拡散層、離型性の優れたテフロン(登録商標)シート、高濃度燃料の燃料供給量を制御する透過制御膜、などを用いることが可能である。触媒粉末充填スペース31の大きさを変えることによって、所望の触媒層の面積を実現することができる。また、型30の厚みを変えることによって、所望の触媒層の厚みを実現することができる。
【0028】
次に、触媒粉末充填スペースに触媒粉末を充填し、好ましくはスペーサを介して基材1と型30との積層物の上下からプレス機を用いて圧縮することによって圧縮成形を行ない、触媒層2を形成する(図1(B))。圧縮成形の終了後には、型30を外す(図1(C))。圧縮成形によって、より均一で密な触媒層を作製することが可能となる。また、触媒がたとえば導電性粉末からなる担体に担持されている場合には、圧縮成形によって導電性粉末同士の接点が増加し、触媒層のオーミック抵抗を低減することが可能となる。
【0029】
型30は、プレスした際に大きく変形しないようにある程度の剛性と耐熱性とを有するものが好ましい。型30の好ましい材質としては、たとえば、アクリル、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、PI(ポリイミド)等を例示できる。
【0030】
また、スペーサを用いることによって基材1が潰れ過ぎることを防止できる。スペーサの厚みは、基材1の厚みと型の厚みとの合計よりも薄いことが好ましい。この場合圧縮成形によって均一で密な触媒層を作製することが可能である。また、プレス圧としては特に限定されるものでは無いが、5〜20kgf/cm2であることが好ましい。
【0031】
圧縮成形において、型30に充填される触媒粉末の固形分の充填率(以下、単に充填率とも記載する)は、例えば20%以上であることが好ましい。充填率が大きいほど触媒層の単位体積あたりの触媒表面積が増加し、反応サイトが増加するため、膜電極複合体の特性および該特性の安定性が向上する。該充填率が20%以上である場合、膜電極複合体の特性および該特性の安定性の向上効果が特に良好である。また、触媒層の該充填率は、80%以下であることが好ましい。該充填率が小さいほど、たとえば燃料電池における副生成物を排出する経路を確保できるため、膜電極複合体の特性の安定性が向上し、また、触媒層中の圧力が上がることにより生じる液漏れや部材間の剥離を良好に防止できる。該充填率が80%以下である場合、膜電極複合体における特性の安定性の向上効果および液漏れや剥離の防止効果が特に良好である。触媒層の該充填率は、25〜70%の範囲内であることがより好ましく、30〜60%の範囲内であることがさらに好ましい。
【0032】
ここで、触媒層の該充填率は、
充填率=(充填される触媒粉末の固形分の体積)/(型の触媒粉末充填スペースの体積)×100
という式で求めることができる。充填される触媒粉末の固形分の体積は、型に充填した触媒粉末の質量と、触媒粉末への各固形分の仕込み質量と、各固形分の密度とから求めることが可能である。
【0033】
<接合工程>
接合工程においては、上記で得た触媒層、または触媒層の構成材料を電解質膜と接合する。本発明においては、触媒層を形成する前に溶媒を除去しているため、触媒層を作製した後に溶媒を乾燥させる場合に生じるひび割れや剥離を防ぐことが可能である。なお、図1では、型30を用いて触媒層2を形成した後、該触媒層2を電解質膜と接合する場合について説明するが、本発明においては、たとえば後述するような多孔質金属を触媒層の構成材料として用い、多孔質金属のみをあらかじめ電解質膜と接合する方法のように、接合工程において、触媒層の構成材料を電解質膜と接合しても良い。この場合には、触媒層形成工程よりも前に接合工程を行なうこととなる。
【0034】
接合工程は、たとえば図1に示すように、基材1上に形成された触媒層2の上に電解質膜3を重ね合わせ(図1(D))、触媒層2と電解質膜3とをプレス等により接合することにより行なうことができる(図1(E))。本発明において触媒層または触媒層の構成材料を電解質膜に接合する手法としては、ホットプレス法等を例示できる。ホットプレス時の条件は、触媒層および電解質膜の材質に応じて選択されるが、たとえば電解質膜や触媒層に含まれる高分子電解質の軟化温度またはガラス転移温度を超える温度とすることが好ましい。具体的には、たとえば、高分子電解質としてナフィオン(登録商標)を用いる場合、ホットプレスの条件としては、たとえば、温度135℃、10kgf/cm2、時間5分(予熱2分、プレス3分)を採用できる。ホットプレスにより、電解質膜と触媒層との界面が電解質によって融合するとともに、触媒層中の電解質同士の界面も融合するため、膜電極複合体のプロトン伝導抵抗を低減すると共に、電解質膜と触媒層との接着強度を向上させることが可能となる。
【0035】
本発明の膜電極複合体が燃料電池に用いられる場合、電解質膜3は、燃料極触媒層から空気極触媒層へプロトンを伝達する機能と、燃料極触媒層と空気極触媒層との電気的絶縁性を保ち短絡を防止する機能とを有する。電解質膜の材質は、プロトン伝導性を有しかつ電気的絶縁性を有する材質であれば特に限定されず、高分子膜、無機膜、コンポジット膜を用いることができる。
【0036】
高分子膜としては、たとえばパーフルオロスルホン酸系電解質膜である、ナフィオン(登録商標)(デュポン社製)、ダウ膜(ダウ・ケミカル社)、アシプレックス(旭化成社製)、フレミオン(登録商標)(旭硝子社製)などが挙げられ、また、ポリスチレンスルホン酸、スルホン化ポリエーテルエーテルケトンなどの炭化水素系電解質膜なども挙げられる。
【0037】
無機膜としては、たとえばリン酸ガラス、硫酸水素セシウム、ポリタングストリン酸、ポリリン酸アンモニウムなどが挙げられる。
【0038】
コンポジット膜としては、スルフォン化ポリイミド系ポリマー、タングステン酸等の無機物とポリイミド等の有機物とのコンポジットなどが挙げられ、具体的にはゴアセレクト膜(ゴア社製)や細孔フィリング電解質膜などが挙げられる。
【0039】
本発明の製造方法で得られる膜電極複合体は、燃料電池に用いられる膜電極複合体であることが好ましい。この場合、本発明の製造方法によって形成される触媒層は、燃料極触媒層および空気極触媒層のうち少なくともいずれかであれば良いが、燃料極触媒層であることがより好ましい。メタノールから直接プロトンを取り出すことにより発電を行なう、直接メタノール型燃料電池(Direct Methanol Fuel Cell、以下「DMFC」とも記載する)においては、燃料極に供給されたメタノールを酸化する際の活性化過電圧が大きいことと、燃料極に投入したメタノール燃料が電解質膜を介して空気極に透過してしまい、発電に寄与せず燃焼してしまうメタノールクロスオーバーが大きいこととが課題となっている。
【0040】
本発明の製造方法を用いる場合、従来の方法では剥離が生じ作製できなかった厚みの大きな燃料極触媒層を、比較的短時間で作製することが可能となる。よって、触媒層の単位面積あたりの触媒量を増やすことで触媒層中の触媒表面積を増加させ、メタノール酸化をより効率よく行なうことが可能となる。また、触媒層の厚みを大きくすることで、投入された燃料が電解質膜に到達するまでの移動距離を長くすることが可能となり、燃料が反応に使用される頻度が向上するため、クロスオーバーによる燃料効率の低下を軽減することが可能となる。
【0041】
燃料極触媒層の厚みは、50μm以上であることが好ましく、200μm以上であることがより好ましい。この場合、メタノールの酸化効率、およびクロスオーバーによって生じる燃料効率の低下の軽減効果が特に良好となる。燃料極触媒層の厚みは、製造コストの点でたとえば1000μm以下であることが好ましい。
【0042】
[実施の形態2]
図2は、本発明に係る膜電極複合体の製造方法の好ましい別の態様について説明する模式図である。図2においても、簡略化のため、電解質膜の一方の表面上に積層される触媒層を代表して示している。なお以下で特に説明しない操作については実施の形態1と同様の操作を好ましく採用できる。図1と同様の機能を有する要素には同一の参照符号を付している。
【0043】
本実施の形態では、触媒層形成工程において、多孔質金属4に基材1を重ねて(図2(A))基材1と多孔質金属4とをあらかじめ固定し、基材1と多孔質金属4とが積層されている部分において、基材1の積層面と反対の面から多孔質金属4の空隙に触媒粉末を充填し、触媒粉末と多孔質金属とで構成される触媒層2を形成する(図2(B))。
【0044】
本実施の形態では、触媒層形成工程において、型として触媒層の構成材料でもある多孔質金属4を用い、該多孔質金属4の空隙に触媒粉末を充填することで、触媒粉末と多孔質金属とで構成される触媒層2を形成する。また、図2(B)に示すように、触媒粉末を充填しない部分を多孔質金属4の一部に設ける場合、該多孔質金属4からなる燃料電池の取り出し電極5を形成することができる。
【0045】
型として用いられる多孔質金属4は触媒層2の芯の役割を果たすため、本実施の形態によれば触媒層の強度をさらに向上させることが可能となる。また、多孔質金属4を燃料電池の取り出し電極として用いることができる。この場合、触媒層2中で発生もしくは供給される電子が、触媒粉末に由来する部分よりも抵抗の小さい多孔質金属の部分を通ることにより、オーミックロスをさらに低減することが可能となる。従来の製造方法では、触媒スラリーを多孔質金属に充填した後で溶媒を揮発させる際に、触媒スラリー由来部分が収縮してプロトン伝導パスが分断されてしまうが、本発明においては、あらかじめ乾燥させた電解質でコーティングされた状態で触媒を充填するため、プロトン伝導パスを確保した触媒層を作製することが可能となる。
【0046】
なお本発明においては、基材1を用い、多孔質金属4を基材1に固定した後に触媒粉末の充填を行なうことが好ましいが、基材1を用いることなく多孔質金属4に触媒粉末を充填しても構わない。
【0047】
多孔質金属4の材質としては、比抵抗が小さく、燃料電池において層厚方向に電流を取り出しても電圧の低下が抑制される点で金属が好ましく、電子伝導性を有し、酸性雰囲気下で耐腐食性を有する金属であればより好ましい。具体的には、Au、Pt、Pd等の貴金属、Ti、Ta、W、Nb、Ni、Al、Cr、Ag、Cu、Zn、Su等の金属の他、C、Si等を例示でき、ステンレス、Ti−Pt等の合金も好ましい。またこれらの窒化物、炭化物等も使用できる。中でも、Ti、Au、Cu、Ni、Wからなる群より選ばれる少なくとも一つの元素を含むことがより好ましい。
【0048】
また、Cu、Ag、Zn等の、酸性雰囲気下で耐腐食性に乏しい金属を用いる場合には、Au、Ag、Pt等の耐腐食性を有する材質や、導電性高分子、導電性酸化物等を表面コーティングとして用いることができる。この場合膜電極複合体の寿命をさらに延ばすことができる。
【0049】
多孔質金属4の形状は、たとえば燃料電池の用途において燃料および空気を供給できるとともに燃料極で生成した排ガスや空気極で生成した水の排出効率が良好である点で、たとえば、板や箔に複数の穴を開けた多孔質層の形状とされることが好ましい。さらには、燃料極で生成した排ガスの排出を促進させるために、たとえば、発泡体、不織布、線を編んだメッシュ等の多孔質層であることがより好ましい。
【0050】
接合工程においては、電解質膜3、触媒層2、基材1の順に重ね、実施の形態1と同様の手法で接合する(図2(C))。上記の方法により、膜電極複合体を形成することができる。
【0051】
[実施の形態3]
本実施の形態においては、触媒層の構成材料と電解質膜とを接合した後、触媒粉末を該多孔質金属中に充填することによって触媒層を形成する態様について説明する。
【0052】
図3は、本発明に係る膜電極複合体の製造方法の好ましい別の態様について説明する模式図である。図3においても、簡略化のため、電解質膜の一方の表面上に積層される触媒層を代表して示している。なお以下で特に説明しない操作については実施の形態1または2と同様の操作を好ましく採用できる。図1および図2と同様の機能を有する要素には同一の参照符号を付している。
【0053】
図3に示す方法においては、実施の形態2で説明したのと同様の多孔質金属4を型として用いる(図3(A))。多孔質金属4を電解質膜3に接合し(接合工程)(図3(B))、その後、該多孔質金属4に実施の形態2で説明したのと同様の方法で、電解質膜3との接合面と反対側の表面から多孔質金属4中に触媒粉末を充填し、触媒層2を形成する(図3(C))(触媒層形成工程)。このとき、電解質膜3と多孔質金属4との界面においては、電子もプロトンも授受されないため、電子伝導性およびプロトン伝導性を有さない接着剤を用いて電解質膜3と多孔質金属4とを接合することも可能である。この場合、より安価な接着剤を用いることが可能となり、また部材間の接合力が向上することでより安定な膜電極複合体を提供することが可能となる。
【0054】
[実施例]
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0055】
<実施例1>
(スラリー調製工程)
Pt粒子とRu粒子とカーボン粒子とからなる、Pt担持量が32.5wt%、Ru担持量が16.9wt%の触媒担持カーボン粒子(TEC66E50、田中貴金属社製)と、20wt%のナフィオン(登録商標)のアルコール溶液(アルドリッチ社製)と、イソプロパノールと、ジルコニアビーズとを、所定の割合でPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)製の容器に入れ、攪拌機を用いて500rpmで50分間混合し、燃料極用の触媒スラリーを作製した。また、Pt粒子とカーボン粒子とからなるPt担持量が46.8wt%の触媒担持カーボン粒子(TEC10E50E、田中貴金属社製)を用いて、燃料極用の触媒スラリーと同様の作製条件で、空気極用の触媒スラリーを作製した。
【0056】
(触媒粉末調製工程)
作製した燃料極用の触媒スラリーを乳鉢に入れ、25℃雰囲気下で、乳棒で混練しながら溶媒を乾燥させ、触媒粉末を作製した。なお、触媒粉末調製工程には3時間を要した。
【0057】
(触媒層形成工程)
次に、図1に示す方法で、燃料極の触媒層を形成した。燃料極用の基材1として、厚さ0.32mmのカーボンペーパー(GDL35BC,SGLカーボン社製)を用い、23×23mmの触媒粉末充填スペース31を設けた0.6mm厚アクリルマスクを型30として、触媒粉末を充填した後、基材1が潰れ過ぎないようにスペーサを入れ、厚み方向に圧力をかける工程を3回繰り返し、最後に型30を外すことで、基材1上に触媒層2として燃料極触媒層を作製した。スペーサとしては、厚み0.8mmの額縁状のテフロン(登録商標)シートを用いた。触媒粉末の充填された型30を額縁状テフロン(登録商標)シートの中央開口部に設置し、額縁状のテフロン(登録商標)シートと外形サイズが等しいPETフィルムを基材1と型30との積層物の上下に配置し、プレス圧10kgf/cm2で1分間プレスを行なった。上記で燃料極触媒層を形成する触媒形成工程には0.5時間を要した。
【0058】
一方、上記と異なる方法で空気極触媒層も形成した。空気極用の基材1として、厚さ0.32mmのカーボンペーパー(GDL35BC,SGLカーボン社製)を用い、23×23mmのサイズに切り出し、触媒Pt担持量が1mg/cm2となるように、空気極用の触媒スラリーをスクリーン印刷法にて塗布することで空気極触媒層を作成した。
【0059】
(接合工程)
上記で形成した燃料極触媒層および空気極触媒層を、膜厚175ミクロンのナフィオン(登録商標)膜(デュポン社製)の両面に温度135℃、圧力10kgf/cm2で5分間(予熱2分、プレス3分)ホットプレスした。
【0060】
以上の方法により、膜電極複合体を作製した。膜電極複合体において、燃料極触媒層の厚みは600μm、空気極触媒層の厚みは20μmであった。該膜電極複合体を、特性評価セル(FC05−01SP−REF、エレクトロケム社製)に挟み込むような形で組み込み、3Mメタノール水溶液を流量5.0ml/分でアノード流路に送り、200ml/分の流量で水素をカソード流路に送り、測定環境40℃において30mA/cm2負荷条件下で燃料極の発電を行ったところ、出力電圧は0.36Vとなった。
【0061】
<比較例1>
燃料極の基材として、厚さ0.32mmのカーボンペーパー(GDL35BC,SGLカーボン社製)を用い、23×23mmのサイズに切り出し、触媒PtRu担持量が3mg/cm2となるように燃料極用の触媒スラリーをスクリーン印刷法にて塗布することで燃料極触媒層を作製した以外は実施例1と同様にして膜電極複合体を作製した。得られた膜電極複合体において、燃料極触媒層の厚みは42μm、空気極触媒層の厚みは実施例1と同様20μmであった。実施例1と同様の手法にて、得られた膜電極複合体の特性を評価したところ、出力電圧は0.37Vとなった。
【0062】
上記の結果から、本発明の製造方法によれば、過電圧を低減させることが可能な触媒層を形成できることが分かる。
【0063】
<比較例2>
燃料極のPtRu担持量を30mg/cm2とした以外は比較例1と同様にして膜電極複合体を作製したところ、厚み600μmの燃料極触媒層を形成するためには、スクリーン印刷で燃料極用の触媒スラリーを塗布し、乾燥する工程を150回繰り返す必要があり、燃料極触媒層を形成するための工程に25時間かかった。
【0064】
上記の結果から、本発明の製造方法においては触媒層を形成するための時間を大幅に短縮できることが分かる。
【0065】
<実施例2>
燃料極用の触媒スラリー中に、VGCF(昭和電工製)を触媒担持カーボンに対して10質量%となるようにさらに含有させた以外は実施例1と同様にして作製した膜電極複合体を、実施例1と同様の手法にて評価したところ、出力電圧は0.35Vとなった。
【0066】
上記の結果から、本発明の製造方法において導電性繊維をスラリー中に含有させ、該スラリーを用いて膜電極複合体を作製した場合、燃料電池特性をさらに向上させることが可能であることが確認された。
【0067】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の製造方法によって作製される膜電極複合体は、たとえば燃料電池等に対して好適に適用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明に係る膜電極複合体の製造方法の好ましい一態様について説明する模式図である。
【図2】本発明に係る膜電極複合体の製造方法の好ましい別の態様について説明する模式図である。
【図3】本発明に係る膜電極複合体の製造方法の好ましい別の態様について説明する模式図である。
【符号の説明】
【0070】
1 基材、2 触媒層、3 電解質膜、4 多孔質金属、5 取り出し電極、30 型、31 触媒粉末充填スペース。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜の上に触媒層を積層してなる膜電極複合体の製造方法であって、
触媒と、電解質と、溶媒とを含むスラリーを調製するスラリー調製工程と、
前記スラリー中の前記溶媒を除去して触媒粉末を調製する触媒粉末調製工程と、
前記触媒粉末を型によって圧縮成形し、触媒層を形成する触媒層形成工程と、
前記触媒層または前記触媒層の構成材料を電解質膜と接合する接合工程と、
を含む、膜電極複合体の製造方法。
【請求項2】
前記触媒粉末調製工程における前記溶媒の除去は、前記スラリーを混練しながら行なわれる、請求項1に記載の膜電極複合体の製造方法。
【請求項3】
前記型が多孔質金属である、請求項1または2に記載の膜電極複合体の製造方法。
【請求項4】
前記接合工程において前記電解質膜と接合される前記構成材料が前記多孔質金属である、請求項3に記載の膜電極複合体の製造方法。
【請求項5】
前記スラリーが導電性繊維をさらに含む、請求項1〜4のいずれかに記載の膜電極複合体の製造方法。
【請求項6】
前記触媒層が燃料電池の燃料極触媒層である、請求項1〜5のいずれかに記載の膜電極複合体の製造方法。
【請求項7】
前記触媒層の厚みが50μm以上である、請求項6に記載の膜電極複合体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−147031(P2008−147031A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−333138(P2006−333138)
【出願日】平成18年12月11日(2006.12.11)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】