説明

膜電極複合体の製造方法

【課題】
作製直後の芳香族炭化水素系高分子電解質膜とアノードとカソードからなる膜電極複合体、または長時間未使用のまま放置した該膜電極複合体を使用した場合に、初回から該膜電極複合体本来の電池出力を得ることが可能でかつ耐久性の優れた膜電極複合体の製造方法を提供すること。
【解決手段】 芳香族炭化水素系高分子電解質膜とアノードとカソードからなる膜電極複合体の製造方法であって、アノードおよび/またはカソードを、大気圧の沸点が70℃以上の有機溶媒と酸を含む溶液に、70℃以上、該有機溶媒の沸点以下の温度で接触させることで解決できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜電極複合体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、排出物が少なく、かつエネルギー効率が高く、環境への負担の低い発電装置である。このため、近年の地球環境保護への高まりの中で再び脚光を浴びている。従来の大規模発電施設に比べ、比較的小規模の分散型発電施設、自動車や船舶など移動体の発電装置として、将来的にも期待されている発電装置である。また、小型移動機器、携帯機器の電源としても注目されており、ニッケル水素電池やリチウムイオン電池などの二次電池の代替として、あるいは二次電池の充電器として、またあるいは二次電池との併用(ハイブリッド)により、携帯電話などの携帯機器やパソコンなどへの搭載が期待されている。
【0003】
高分子電解質型燃料電池(Polymer Electrolyte Fuel Cell、以下PEFCと記載する場合がある)においては、水素ガスを燃料とする従来のPEFCに加えて、メタノールなどの燃料を直接供給する直接型燃料電池も注目されている。直接型燃料電池は、従来のPEFCに比べて出力が低いものの、燃料が液体で改質器を用いないために、エネルギー密度が高くなり、一充填あたりの携帯機器の使用時間が長時間になるという利点がある。
【0004】
PEFCは通常、発電を担う反応の起こるアノードとカソードの電極と、アノードとカソードとの間でプロトン伝導体となる高分子電解質膜とが、膜電極複合体(以下MEAと記載する場合がある)を構成し、このMEAがセパレーターによって挟まれたセルをユニットとして構成されている。ここで、電極は、ガス拡散の促進と集(給)電を行う電極基材(ガス拡散電極あるいは集電体とも云う)と、実際に電気化学的反応場となる触媒層とから構成されている。たとえばPEFCのアノード電極では、水素ガスなどの燃料がアノード電極の触媒層で反応してプロトンと電子を生じ、電子は電極基材に伝導し、プロトンは高分子電解質膜へと伝導する。このため、アノード電極には、ガスの拡散性、電子伝導性、プロトン伝導性が良好なことが要求される。一方、カソード電極では、酸素や空気などの酸化ガスがカソード電極の触媒層で、高分子電解質膜から伝導してきたプロトンと、電極基材から伝導してきた電子とが反応して水を生成する。このため、カソード電極においては、ガス拡散性、電子伝導性、プロトン伝導性とともに、生成した水を効率よく排出することも有効である。
【0005】
また、PEFCの中でも、メタノールなどを燃料とする直接型燃料電池においては、水素ガスを燃料とする従来のPEFCとは異なる性能が要求される。すなわち、直接型燃料電池においては、アノード電極ではメタノール水溶液などの燃料がアノード電極の触媒層で反応してプロトン、電子、二酸化炭素を生じ、電子は電極基材に伝導し、プロトンは高分子電解質に伝導し、二酸化炭素は電極基材を通過して系外へ放出される。このため、従来のPEFCのアノード電極の要求特性に加えて、メタノール水溶液などの燃料透過性や二酸化炭素の排出性も要求される。さらに、直接型燃料電池のカソード電極では、従来のPEFCと同様な反応に加えて、電解質膜を透過したメタノールなどの燃料と酸素あるいは空気などの酸化ガスがカソード電極の触媒層で、二酸化炭素と水を生成する反応も起こる。このため、従来のPEFCよりも生成水が多くなるため、さらに効率よく水を排出することが好ましい。
【0006】
このような燃料電池の本格的な普及にあたっては、性能向上、インフラ整備とともに製造コストの低減が重要である。製造コストに関しては材料やプロセスなどの低コスト化以外に、例えば、作製直後や長時間放置した膜電極複合体を使用し燃料電池として組み立てても直ぐに本来の性能が引き出せるようにすることも重要である。本来の電池性能を出すために長時間のエージング処理などを実施しなければならない場合はコストアップの要因となる。
【0007】
従来、特許文献1に記載されているように、パーフルオロカーボン系の電解質膜を使用した高分子電解質型燃料電池を、脱イオン水や弱酸性水で煮沸する、または、ガス供給路に温水を導入する、または、高分子電解質型燃料電池のガス供給路にアルコ−ルを導入した後脱イオン水や弱酸性水で洗浄する、または、高分子電解質型燃料電池を高酸素利用率で発電し低電位で保持することによって、短時間で本来電池が有している電池出力を引き出す方法が提案されている。
【0008】
また、特許文献2等ではパーフルオロカーボン系の電解質膜を沸騰する希硫酸溶液で電解質膜を処理する実施例が記載されている。
【特許文献1】特開2000-3718号公報
【特許文献2】特開2006-16294号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1の方法では比較的含水量の多い柔軟なパーフルオロカーボン系電解質膜を使用した電極複合体などには効果があるが、剛直な芳香族炭化水素系電解質膜を使用した電極複合体では効果が不十分である。
【0010】
また、特許文献2ではパーフルオロカーボン系電解質膜のみの処理であるため、触媒層の処理が不十分であり膜電極複合体として高い効果が得られない。
【0011】
本発明は、かかる背景技術に鑑み、芳香族炭化水素系電解質膜を使用した膜電極複合体でも、作製直後の膜電極複合体または長時間未使用のまま放置した膜電極複合体を使用した場合に、初回から膜電極複合体本来の電池出力を得ることが可能でかつ耐久性の優れた膜電極複合体の製造方法を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため本発明は、次のような手段を採用するものである。
【0013】
本発明の膜電極複合体の製造方法は、芳香族炭化水素系高分子電解質膜とアノードとカソードからなる膜電極複合体の製造方法であって、アノードおよび/またはカソードを、大気圧の沸点が70℃以上の有機溶媒と酸を含む溶液に、70℃以上、該有機溶媒の沸点以下の温度で接触させる活性化処理工程を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
そして本発明によれば、作製直後の膜電極複合体または長時間未使用のまま放置した膜電極複合体を使用した場合でも、初回から本来の電池出力を得ることが可能な膜電極複合体の製造方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の好ましい実施形態を説明する。
【0016】
本発明は、芳香族炭化水素系高分子電解質膜とアノードとカソードからなる膜電極複合体の製造方法であって、芳香族炭化水素系高分子電解質膜とアノードとカソードからなる膜電極複合体の製造方法であって、アノードおよび/またはカソードを、大気圧の沸点が70℃以上の有機溶媒と酸を含む溶液に、70℃以上、該有機溶媒の沸点以下の温度で接触させる活性化処理工程を有することを特徴とする膜電極複合体の製造方法である。
【0017】
本発明においては、大気圧の沸点が70℃以上の有機溶媒と酸を含む溶液(以後「処理液」と略することがある)を使用することが必須であるが、これらの要件の理由を説明する。
【0018】
まず、本発明の電解質膜は、詳細は後述するが、芳香族炭化水素系電解質膜(以後「電解質膜」と略することがある)である。
【0019】
そして、大気圧の沸点が70℃以上の有機溶媒(以後「有機溶媒」と略することがある)であるが、有機溶媒は電極全体に処理液を迅速に吸収もしくは浸透させるために必要である。また、大気圧の沸点が70℃以上であることが必須であるが、これは70℃以上、該有機溶媒の沸点以下の温度で、処理液とアノードおよび/またはカソードを接触させる必要があるため、沸点が70℃以上であれば有機溶媒の揮発量が少なく安定した活性化処理が可能である。処理液を70℃以上にすることにより吸水性が悪い芳香族炭化水素系電解質膜を使用した膜電極複合体でも十分な活性化処理が可能となる。
【0020】
大気圧の沸点が70℃以上の有機溶媒と酸を含む溶液は水溶液であることが好ましい。
【0021】
有機溶媒の大気圧中の沸点は、活性化処理の速度を高める理由で、80℃以上が好ましく、90℃以上がさらに好ましい。また、水溶液とした場合は、水の揮発を抑制する理由で、100℃以下が好ましい。また、オートクレーブなどで加圧し、処理温度を高めることも好ましい手段である。
【0022】
次に、例えば製造工程における不純物イオンの混入などでアノードおよび/またはカソードの電解質のイオン性基の一部が金属塩の状態になった、もしくは製造工程でのイオン性基の分解、製造装置の腐食防止の目的で、敢えて金属塩のまま製膜した場合であっても、処理液に含まれる酸によりプロトン交換可能であり、イオン伝導度を向上させることができ、また、触媒表面の酸化物の低減が可能となり触媒活性の向上が図れる場合もある。
【0023】
処理液との接触時間は、製造コストの低減の観点からできるだけ短いほうが好ましく、2時間以内、好ましくは1時間以内、さらに好ましくは30分以内の処理で活性化処理効果が得られることが好ましい。
【0024】
本発明において、大気圧の沸点が70℃以上の有機溶媒としては、電解質膜や触媒および膜電極複合体の性能に悪影響が無ければ特に限定されないが、作業環境や安全性の観点から水溶性の化合物が好ましい。例えば、エタノール(沸点78℃)、イソプロピルアルコール(沸点83℃)、1-ブタノール(沸点118℃)、2-メチル-1-プロパノール(沸点108℃)、2-ブタノール(沸点100℃)、2-メチル-2-プロパノール(沸点83℃)、ベンジルアルコール(沸点205℃)などのアルコール類、エチレングリコール(沸点198℃)、プロプピレングリコール(沸点187℃)、トリメチレングリコール(沸点208℃)、1,2-ブチレングリコール(分解温度191℃)、1,3-ブチレングリコール(分解温度208℃)、1,4-ブチレングリコール(分解温度229℃)、2,3-ブチレングリコール(分解温度182℃)、グリセリン(沸点290℃、分解温度171℃)、ペンタエリスリトールなどの多価アルコール類、炭酸ジエチル(沸点127℃)、プロピレンカーボネート(沸点242℃)、エチレンカーボネート(沸点238℃)、γ-ブチルラクトン(沸点204℃)、などのエステル類、N-メチル-2-ピロリドン(沸点202℃)、1.3-ジメチル-2-イミダゾリジノン(沸点225℃)、ピロール(沸点130℃)、チオフェン(沸点84℃)などの複素環式化合物、イオン性液体等があげられ、単独もしくは二種以上を混合して使用できる。中でも低揮発性、安全性の観点からはグリセリン、エチレングリコールなどの多価アルコールやγ-ブチルラクトンやプロピレンカーボネートなどのエステル類、N-メチル-2-ピロリドンなどの複素環式化合物が好ましく使用できる。
【0025】
これらの有機溶剤は作業性の観点から水などで希釈して使用することが好ましく、0.05mol/L〜10mol/Lとなるように調整して使用することが好ましい。
【0026】
また、本発明に使用する酸は無機酸でも有機酸でも差し支えない。
具体的には、塩酸、硫酸、硝酸、燐酸、蟻酸、酢酸、クエン酸、リンゴ酸などが挙げられ、単独もしくは二種以上を混合して使用できる。特に、スルホン酸基を有する電解質膜を使用した場合、硫酸が好ましい。
【0027】
これらの酸濃度も特に限定されず適宜実験的に決定する事でき、作業性の観点から0.05mol/L〜6.0mol/Lとなるように水で希釈して使用することが好ましい。
【0028】
本発明の膜電極複合体の製造方法は少なくともアノードおよびカソードのどちらか一方を前述の処理液に接触させる必要があるが、その方法は特に制限無く、処理液を膜電極複合体が浸る程度に容器に入れ、膜電極複合体を浸漬あるいは連続的にロールで送ったり、シャワーなどで吹き付けたりすることができる。また、濃度や種類の異なる処理液を複数槽の準備に順次接触させることも可能である。さらに、接触工程後は次工程に酸などの持ち込みを防止するため、水やアルコール水などで洗浄を行うことも有効である。
【0029】
本発明では処理液に接触させる工程(活性化処理工程)での被処理物として電解質膜とアノードとカソードからなる膜電極複合体の状態でもよいし、膜電極複合体を作成する前のアノード極およびカソードをそれぞれ単独で処理してもよいし、電解質膜上にアノードまたはカソードのいずれかを作製したものでもよい。ここで、活性化処理工程が芳香族炭化水素系高分子電解質膜上にアノードおよび/またはカソードを作製する工程の後であることが好ましい。アノード、カソードでだけでなく、電解質膜や電極と電解質膜界面などの処理も同時に可能であり、アノードおよび/またはカソードを活性化処理した後の電解質膜との接合工程における処理効果の低減を防止できるからである。
【0030】
次に、芳香族炭化水素系高分子電解質膜の具体例を説明する。基本骨格として、機械的強度、燃料耐久性、耐熱性などの観点から、ポリフェニレンオキシド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルスルホン、ポリエーテルホスフィンオキシド、ポリエーテルエーテルホスフィンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリイミダゾール、ポリオキサゾール、ポリフェニレンなどが挙げられる。2腫以上の共重合体、または、混合物であっても差し支えない。特に耐熱性や機械的強度の観点から芳香族炭化水素がポリエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリイミドであることが好ましい。
【0031】
また電解質膜にするには、これらのポリマーの一部にイオン性基を導入する必要があるが、これらの高分子材料にイオン性基を導入する方法については、重合体にイオン性基を導入してもよいし、イオン性基を有するモノマーを重合してもよい。このイオン性基は前記基本骨格に2種類以上含むことができ、組み合わせることにより好ましくなる場合がある。組み合わせはポリマーの構造などにより適宜決められる。中でも、高プロトン伝導度の点から少なくともスルホン酸基、スルホンイミド基、硫酸基のいずれかを有することがより好ましく、耐加水分解性の点から少なくともスルホン酸基を有することが最も好ましい。スルホン酸基を有する場合、そのスルホン酸基密度は、プロトン伝導性と耐水性の点から0.1〜5.0mmol/gが好ましく、より好ましくは0.5〜3.5mmol/g、さらに好ましくは1.0〜3.5mmol/gである。スルホン酸基密度を0.1mmol/g以上とすることにより、高出力な燃料電池を得ることができ、また5.0mmol/g以下とすることで、たとえば、直接メタノール型燃料電池など液体燃料が直接接触するような燃料電池に使用する際に、電解質膜が燃料により過度に膨潤し溶出したり流出したりするのを防ぐことができる。
【0032】
ここで、スルホン酸基密度とは、高分子材料の単位乾燥重量当たりに導入されたスルホン酸基のモル量であり、この値が大きいほどスルホン化の度合いが高いことを示す。使用する高分子材料のスルホン酸基密度は、元素分析、中和滴定あるいは核磁気共鳴スペクトル法等により測定が可能である。スルホン酸基密度測定の容易さや精度の点で、元素分析が好ましく、通常はこの方法で分析を行う。ただし、スルホン酸基以外に硫黄源を含む場合など元素分析法では正確なスルホン酸基密度の算出が困難な場合には中和滴定法を用いるものとする。さらに、これらの方法でもスルホン酸基密度の決定が困難な場合においては、核磁気共鳴スペクトル法を用いることが可能である。
【0033】
前記基本骨格を持つ重合体へのイオン性基の導入は、例えば、「ポリマー プレプリンツジャパン」(Polymer Preprints, Japan ), 51, 750 (2002). 等に記載の方法によって可能である。重合体へのリン酸基の導入は、例えば、ヒドロキシル基を有するポリマーのリン酸エステル化によって可能である。重合体へのカルボン酸基の導入は、例えば、アルキル基やヒドロキシアルキル基を有するポリマーを酸化することによって可能である。重合体へのスルホンイミド基の導入は、例えば、スルホン酸基を有するポリマーをアルキルスルホンアミドで処理するによって可能である。重合体への硫酸基の導入は、例えば、ヒドロキシル基を有するポリマーの硫酸エステル化によって可能である。重合体へのスルホン酸基の導入は例えば、重合体をクロロスルホン酸、濃硫酸、発煙硫酸と反応させる方法により行うことができる。これらの、イオン性基導入方法は、処理時間、濃度、温度などの条件を適宜選択することにより目的とするイオン性基密度に制御できる。
【0034】
また、イオン性基を有するモノマーを重合する方法としては、例えば、「ポリマー プレプリンツ」(Polymer Preprints), 41(1) (2000) 237. 等に記載の方法によって可能である。この方法により重合体を得る場合には、イオン性基の導入の度合いはイオン酸基を有するモノマーの仕込み比率により、容易に制御することができるため最も好ましい。
【0035】
また使用する芳香族炭化水素系電解質膜が非架橋構造を有する場合、重量平均分子量は1万〜500万が好ましく、より好ましくは3万〜100万である。重量平均分子量を1万以上とすることで、実用に供しうる機械的強度を得ることができる。該重量平均分子量はGPC法によって測定できる。
【0036】
特にイオン性基としては、前述のようにスルホン酸基を有する芳香族炭化水素系電解質膜が最も好ましいが、スルホン酸基を有する芳香族炭化水素系電解質膜を使用する一例として、−SOM基(Mは金属)含有のポリマーを溶液状態より製膜し、その後高温で熱処理し溶媒を除去し、プロトン置換して芳香族炭化水素系電解質膜とする方法が挙げられる。前記の金属Mはスルホン酸と塩を形成しうるものであればよいが、価格および環境負荷の点からはLi、Na、K、Rb、Cs、Mg、Ca、Sr、Ba、Ti、V、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Zr、Mo、Wなどが好ましく、これらの中でもLi、Na、K、Ca、Sr、Baがより好ましく、Li、Na、Kがさらに好ましい。これらの金属塩の状態で製膜することで高温での熱処理が可能となり、該方法は高ガラス転移点、低吸水率が得られる芳香族炭化水素系電解質膜には好適である。
【0037】
また、イオン性基を含有しない高分子材料や無機材料あるいはそれらのハイブリッド体からなる微粒子、繊維、多孔質基材などと複合しても特に問題なく、自動車用燃料電池などの過酷な使用条件によっては耐熱性、耐水性、耐寸法変化性の観点から好ましい場合もある。
【0038】
本発明のアノードおよびカソードの構成の一例としては、炭素繊維、金属繊維などの導電性繊維からなる不織布、抄紙、布帛、および、多孔質炭素シート、多孔質金属シート等の導電性ガス拡散体と触媒層が挙げられる。また、これらの間に炭素材と結着剤からなる多孔質層があってもよい。
【0039】
また、本発明における膜電極複合体の電極とは少なくとも電気化学的反応を行う触媒層を有し、本発明の膜電極複合体の製造工程時に上記導電性ガス拡散体や炭素材と結着剤からなる多孔質層の有無は問わない。つまり本発明の少なくとも膜電極複合体は、電解質膜を挟むように触媒層が積層されたものであり、導電性ガス拡散体、炭素材と結着剤からなる多孔質層つき導電性ガス拡散体は、本発明の製造工程の前に触媒層上に設けられていてもよいし、製造工程後に触媒層上にプレスなどで接合しても、セル組み時に触媒層上に積層するだけでもよいし、使用しなくてもよい。であるから、電解質膜にアノード(カソード)を作製する工程は、少なくとも触媒層が形成されれば該当する。
【0040】
また、電解質膜上への触媒層の形成は通常公知の方法が適用でき、平面またはロールプレス法、インクジェット印刷、グラビア印刷、スクリーン印刷、などの印刷方法、スプレー、ダイコーター、ナイフコーターによるコーティング法、電気泳動法、めっき法など適宜目的に応じて選択できる。平面またはロールプレス法を適用する場合、剛直な芳香族炭化水素系電解質膜を使用する場合は、触媒層と電解質膜の間にイオン伝導性の接着層などを使用することも好ましい。
【0041】
本発明の電極中の触媒は金属粒子および/または金属担持体粒子を含むことが好ましく、一般公知のものが使用できる。例えば、金属粒子としては、白金、パラジウム、ルテニウム、ロジウム、イリジウム、金などの貴金属が好ましく用いられる。これらの内の1種類を単独で用いてもよいし、合金、混合物など、2種類以上を併用してもよい。燃料電池の燃料の種類によって前述の金属種および付着量を適宜実験的に決定することができ、アノード、カソード同種の金属を使用した一対の電極を使用してもよいし、アノード、カソードで異なる金属を使用した電極を使用してもよい。例えば、アノードに水素、カソードに空気または酸素を使用する燃料電池は両極とも金属としてPtを使用することが好ましく、アノードにメタノール水、カソードに空気または酸素を使用する燃料電池の場合アノードはPtRu、カソードはPtを使用することが好ましい。
【0042】
また、上記金属を担持した粒子を使用することで、金属触媒の利用効率が向上し、電池性能の向上および低コスト化に寄与できることがある。担持体としては、炭素材料、SiO、TiO、ZrO、RuO、ゼオライトなどが使用できるが電子伝導性観点からの炭素材料が好ましい。
【0043】
特に、本発明の膜電極複合体の製造方法はアノードにRuを含む金属触媒が含有されている場合に効果が大きい。PtRu合金をアノードに使用する場合、酸化RuなどのRu化合物が混入すると燃料電池作動時にRuが溶出し、電解質膜のイオン伝導性を低下させたり、発電により生成した過酸化水素と接触することで化学的劣化を促進したりする場合がある。そのため、本発明により、発電前に可溶性のRu化合物を除去することは、膜電極複合体の耐久性を向上することができる。 炭素材料としては、非晶質、結晶質の炭素材料が挙げられる。例えば、チャネルブラック、サーマルブラック、ファーネスブラック、アセチレンブラックなどのカーボンブラックが電子伝導性と比表面積の大きさから好ましく用いられる。ファーネスブラックとしては、キャボット社製“バルカン(登録商標)XC−72”、“バルカン(登録商標)P”、“ブラックパールズ(登録商標)880”、“ブラックパールズ(登録商標)1100”、“ブラックパールズ(登録商標)1300”、“ブラックパールズ(登録商標)2000”、“リーガル(登録商標)400”、ケッチェンブラック・インターナショナル社製“ケッチェンブラック(登録商標)EC”、EC600JD、三菱化学社製#3150、#3250などが挙げられ、アセチレンブラックとしては電気化学工業社製“デンカブラック(登録商標)”などが挙げられる。またカーボンブラックのほか、天然の黒鉛、ピッチ、コークス、ポリアクリロニトリル、フェノール樹脂、フラン樹脂などの有機化合物から得られる人工黒鉛や炭素なども使用することができる。これらの炭素材料の形態としては、不定形粒子状のほか繊維状、鱗片状、チューブ状、円錐状、メガホン状のものも用いることができる。また、これら炭素材料を後処理加工したものを用いてもよい。これらは、前記、金属の担持体として使用しても、触媒層の電子伝導向上剤として単独で使用してもよい。
【0044】
本発明の電極中には、触媒粒子が滑落しないように触媒粒子同士が接触した状態で固定する役割と電解質膜などガス拡散層との接着性を向上させるために結着剤を使用することが好ましい。該結着剤としては、特に限定されず通常公知の材料が使用できる。特に液体燃料を使用する場合は、耐燃料性や生産性の観点から高分子材料が好ましく、使用する燃料によって適宜選択でき、イオン性基を含んでいる材料でも、含んでいない材料でもよい。該イオン性基としては、スルホン酸基( −SO(OH) )、硫酸基( −OSO(OH) )、スルホンイミド基( −SONHSOR(Rは有機基を表す。) )、ホスホン酸基( −PO(OH) )、リン酸基( −OPO(OH) )、カルボン酸基( −CO(OH) )、水酸基(−OH)およびこれらの塩等が挙げられる。また、これらのイオン性基は炭化水素系電解質中に2種類以上含むことができる。組み合わせはポリマーの構造などにより適宜決められる。これらのイオン性基のなかでもプロトン伝導性と生産性の観点からホスホン酸基、スルホン酸基が好ましく、これらのNa塩、Mg塩、Ca塩、アンモニウム塩などが含まれていてもよい。
【0045】
具体的には、ポリフェニレンオキシド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルスルホン、ポリエーテルホスフィンオキシド、ポリエーテルエーテルホスフィンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリイミダゾール、ポリオキサゾール、ポリフェニレン、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、非晶性ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリスチレンマレイミド共重合体、ポリメチルアクリレート等の(メタ)アクリル系共重合体およびポリウレタン等の高分子材料やこれらにイオン性基を導入した高分子材料などの炭化水素系高分子が挙げられる。
また、イオン性基の安定性の観点から、フルオロアルキルエーテル側鎖とフルオロアルキル主鎖とから構成されるパーフルオロ系イオン伝導性ポリマーも結着剤として使用できる。例えばデュポン社製の“ナフィオン(登録商標)”、旭化成社製の“Aciplex(登録商標)”、旭硝子社製“フレミオン(登録商標)”などが好ましく用いられる。
【0046】
さらに、燃料の種類や燃料濃度によっては、燃料耐久性をさらに向上させるために、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリヘキサフルオロプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリパーフルオロアルキルビニルエーテル、フッ素系ポリアクリレート、フッ素系ポリメタクリレートなどのフッ素原子を含むポリマーを使用することもでき、特に、メタノール水溶液を燃料とする場合、結着剤としては耐燃料性、生産性の観点からポリフッ化ビニリデンが好ましい。また、作業環境や、生産性、コスト等の観点からはカルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンなどの親水性高分子の選択も好ましく、金属カップリング剤やエポキシ樹脂、ウレタン樹脂、グルタルアルデヒドなどによる架橋で耐燃料性を向上できる。特に、メタノール水溶液を燃料とする場合、耐燃料性の付与の容易さの観点(生産性)の観点からカルボキシメチルセルロースがより好ましい。
【0047】
以上に例示した結着剤は、さらに、必要に応じて、放射線や金属アルコキシドなどを用いて架橋構造を導入してもよいし、多官能モノマーなどで架橋体のネットワークを形成されていてもよい。また、結着剤は一種でも二種以上の組み合わせで使用してもよい。
【0048】
また、電極に含まれる結着剤の量としては、特に限定されるものではないが、重量比で0.1%以上50%以下の範囲が好ましく、1%以上30%以下の範囲がさらに好ましい。0.1%以上であれば、金属粒子の滑落が防ぎやすく、50%未満であれば、燃料やガスの透過を阻害しにくく、燃料電池としての性能に対する悪影響が小さい。
【0049】
本発明の電極の作製方法としては、通常公知の方法が適用できる。例えば、結着剤を溶媒で溶解後、金属粒子および/または金属担持体と炭化水素系電解質の複合粒子を加え、撹拌混練することで電極ペーストを作製し、電極用基材や電解質膜上に前述した方法で塗工、乾燥し、必要によってはプレスを行うことで作製できる。
【0050】
使用できる溶媒としては特に制限はないが、例えば、水、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、ヘキサメチルホスホントリアミド等の非プロトン性極性溶媒、γ−ブチロラクトン、酢酸ブチルなどのエステル系溶媒、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどのカーボネート系溶媒、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテル、あるいはイソプロパノール、n−プロパノール、エタノール、メタノールなどのアルコール系溶媒、トルエン、キシレン等の芳香族系溶媒などが挙げられる。
【0051】
例えば、ポリフッ化ビニリデンやスルホン酸基を含有した芳香族炭化水素系高分子材料を結着剤に使用する場合は、電極ペースト安定性や作業性の観点からのN−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンが好ましく、コストなどの観点からカルボキシメチルセルロースなどを結着剤として使用する場合は、水または水とアルコールの混合溶液などが好ましい。この場合、電極ペーストの状態ではカルボキシメチルセルロースの金属塩やアンモニウム塩の状態で使用することが好ましく、塗工、乾燥後、塩酸や硫酸などの酸でプロトン置換を行って耐燃料性を向上できる。さらに、アンモニウム塩の場合は、加熱して除去することもできるので、生産性の観点から特に好ましい。
【0052】
また、本発明の電極は、前述のとおり燃料が液体や気体の場合には、該液体や気体が透過しやすい構造を有していることが好ましく、電極反応に伴う副生成物質の排出も促す構造が好ましい。
【0053】
特に、該基材としては、電気抵抗が低く、集電あるいは給電を行えるものを用いることが好ましい。たとえば、炭素質、導電性無機物質からなる基材が挙げられる。さらに、具体的には、ポリアクリロニトリルからの焼成体、ピッチからの焼成体、黒鉛及び膨張黒鉛などの炭素材、ステンレススチール、モリブデン、チタンなどが例示される。これらの、形態は特に限定されず、たとえば繊維状あるいは粒子状で用いられるが、燃料透過性の点から炭素繊維などの繊維状導電性物質(導電性繊維)が好ましい。導電性繊維を用いた電極基材としては、織布あるいは不織布いずれの構造も使用可能である。たとえば、東レ(株)製カーボンペーパーTGPシリーズ、SOシリーズ、E-TEK社製カーボンクロスなどが用いられる。かかる織布としては、平織、斜文織、朱子織、紋織、綴織など、特に限定されること無く用いられる。また、不織布としては、抄紙法、ニードルパンチ法、スパンボンド法、ウォータージェットパンチ法、メルトブロー法によるものなど特に限定されること無く用いられる。また編物であってもよい。
【0054】
これらの布帛において、特に炭素繊維を用いた場合、耐炎化紡績糸を用いた平織物を炭化あるいは黒鉛化した織布、耐炎化糸をニードルパンチ法やウォータージェットパンチ法などによる不織布加工した後に炭化あるいは黒鉛化した不織布、耐炎化糸あるいは炭化糸あるいは黒鉛化糸を用いた抄紙法によるマット不織布などが好ましく用いられる。特に、薄く強度のある布帛が得られる点から不織布、やクロスを用いるのが好ましい。
【0055】
かかる電極基材に用いられる炭素繊維としては、ポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維、フェノール系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維などがあげられる。
【0056】
また、かかる電極基材には、水の滞留によるガス拡散・透過性の低下を防ぐための撥水処理や、水の排出路を形成するための部分的撥水、親水処理や、抵抗を下げるための炭素粉末の添加等を行うこともできる。また、電極基材と触媒層の間に、少なくとも無機導電性物質と疎水性ポリマーを含む導電性中間層を設けることもできる。特に、電極基材が空隙率の大きい炭素繊維織物や不織布である場合、導電性中間層を設けることで、電極ペーストが電極基材にしみ込むことによる性能低下を抑えることができる。
【0057】
また、電解質膜上に電極を形成する場合でも、前記基材を電極上に重ねて使用し、集電効率や燃料や副生成物の拡散性の向上を促しても特に問題ない。また、前記基材を使用しなくてもよい。
【0058】
本発明の膜電極複合体の製造方法で得られた膜電極複合体を使用した燃料電池のアノード燃料としては、水素およびメタン、エタン、プロパン、ブタンメタノール、イソプロピルアルコール、アセトン、グリセリン、エチレングリコール、ギ酸、酢酸、ジメチルエーテル、ハイドロキノン、シクロヘキサンなどの炭素数1〜6の有機化合物およびこれらと水との混合物等が挙げられ、1種または2種以上の混合物でもよい。特に発電効率や電池全体のシステム簡素化の観点から水素、炭素数1〜6の有機化合物を含む燃料が好適に使用され、発電効率の点でとりわけ好ましいのは水素およびメタノール水溶液である。
【0059】
メタノール水溶液を用いる場合、メタノールの濃度としては、使用する燃料電池のシステムによって適宜選択されるが、できる限り高濃度のほうが長時間駆動の観点から好ましい。例えば、送液ポンプや送風ファンなど発電に必要な媒体を膜電極複合体に送るシステムや、冷却ファン、燃料希釈システム、生成物回収システムなどの補機を有するアクティブ型燃料電池はメタノールの濃度30〜100%以上の燃料を燃料タンクや燃料カセットにより注入し、0.5〜29%程度に希釈して、またはそのまま膜電極複合体に送ることが好ましく、補機がないパッシブ型の燃料電池はメタノールの濃度が10〜100%の範囲の燃料が好ましい。
【0060】
カソードは空気、酸素などが挙げられ、自然吸気でもポンプやブロワー、ファンなどで送ってもよい。
【0061】
また、膜電極複合体は複数枚のスタック状で使用しても並べた状態で使用してもよい。また、燃料電池は使用する機器に内蔵してもよいし、外付けのユニットとして使用してもよい。また、メンテナンスの観点から、燃料電池セルから膜電極複合体が脱着可能な構成であることも好ましい。
【0062】
また、水素などの気体を燃料とした携帯用機器用燃料電池はそれらのガスが外部に漏れ出さない構造が安全上および長時間駆動の観点から好ましく、少なくとも水素極であるアノード側は密閉状態で使用することが好ましい。カソードは周辺機器などを減らす目的で空気を自然吸気する構造が好ましい。アノード側は水素発生装置や水素ボンベ、水素吸蔵合金などの圧力で陽圧であることが好ましく、0.1MPa〜0.0001MPaが好ましい。好ましくは0.05MPa〜0.001Mpaである。取り出す電流によるが、自然対流による発電も好ましい。
【0063】
これら燃料電池の用途としては、移動体の電力供給源が好ましいものである。特に、携帯電話、パソコン、PDA、ビデオカメラ(カムコーダー)、デジタルカメラ、監視カメラ、ハンディターミナル、RFIDリーダー、各種ディスプレー類などの携帯機器、電動シェーバー、掃除機等の家電、電動工具、家庭用電力供給機、乗用車、バスおよびトラックなどの自動車、二輪車、電動アシスト付自転車、電動カート、電動車椅子や船舶および鉄道などの移動体の電力供給源として好ましく用いられる。特に携帯用機器では、電力供給源だけではなく、携帯機器に搭載した二次電池の充電用にも使用され、さらには二次電池や太陽電池と併用するハイブリッド型電力供給源としても好適に利用できる。
【実施例】
【0064】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、これらの例は本発明をよりよく理解するためのものであり、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0065】
(1)発電評価方法
膜電極複合体をその周囲にガスケットを配して、エレクトロケム社製単セル“EFC05−01SP”(電極面積5cm用セル)に組み込み、カソード集電板およびアノード集電板にリードを取り付け、セル温度を60℃とし、アノード側に燃料供給口から10%メタノール水溶液0.2ml/分の速度で供給し、カソード側に合成空気を50ml/分の速度で供給し、ポテンショスタットはsolartron製1470、周波数応答アナライザはsolartron製1255Bを用いて、電位差0.05Vまで電流−電圧特性(セルの電流−電圧特性)を測定した。
【0066】
表1に各実施例の膜電極複合体作製直後(初回)と10回目の200mA/cm2の電流密度時の電圧の値をまとめた。
【0067】
また、耐久性評価として、さらに発電を200回繰り返し200mA/cmの電流密度時の電圧保持率を測定した。
【0068】
(2)電極の作製例
炭素繊維の織物からなる米国イーテック(E-TEK)社製カーボンクロス“TL−1400W”上に、ジョンソン・マッセイ(Johson&Matthey)社製Pt−Ru担持カーボン触媒“HiSPEC(登録商標)”10000、“HiSPEC(登録商標)”6000、デュポン(DuPont)社製20%“ナフィオン(登録商標)”(“Nafion(登録商標)”)溶液およびN−メチル−2−ピロリドンからなる触媒塗液を塗工し、乾燥して電極Aを作製した。該カーボンクロスは、カーボンブラック分散液が塗工されており、触媒塗液の塗工はカーボンブラック分散液が塗工された面に行った。
【0069】
また、同様に、上記のカーボンクロス上に、田中貴金属工業社製Pt担持カーボン触媒TEC10V50E、デュポン(DuPont)社製20%“ナフィオン(登録商標)”(“Nafion(登録商標)”)溶液およびn−プロパノールからなるカソード触媒塗液を塗工し、乾燥して電極Bを作製した。
【0070】
電極Aは白金重量換算で2.0mg/cm、電極Bは白金重量換算で4.0mg/cmとなるように触媒付着量を調整した。
【0071】
(3)電極転写シートの作製例
東レ・デュポン社製ポリイミドフィルム“カプトン(登録商標)”上に、ジョンソン・マッセイ(Johson&Matthey)社製Pt−Ru担持カーボン触媒“HiSPEC(登録商標)”10000、“HiSPEC(登録商標)”6000、デュポン(DuPont)社製20%“ナフィオン(登録商標)”(“Nafion(登録商標)”)溶液およびN−メチル−2−ピロリドンからなる触媒塗液を塗工し、乾燥して触媒転写シートAを作製した。
【0072】
また、同様に、上記のポリイミドフィルム上に、田中貴金属工業社製Pt担持カーボン触媒TEC10V50E、デュポン(DuPont)社製20%“ナフィオン(登録商標)”(“Nafion(登録商標)”)溶液およびn−プロパノールからなるカソード触媒塗液を塗工し、乾燥して触媒転写シートBを作製した。
【0073】
電極転写シートAは白金重量換算で2.0mg/cm、電極転写シートBは白金重量換算で1.0mg/cmとなるように触媒付着量を調整した。
【0074】
(4)芳香族炭化水素系高分子電解質の合成例
4,4’−ジフルオロベンゾフェノン109.1gを発煙硫酸(50%SO)150mL中、100℃で10h反応させた。その後、多量の水中に少しずつ投入し、NaOHで中和した後、食塩200gを加え合成物を沈殿させた。得られた沈殿を濾別し、エタノール水溶液で再結晶し、ジソジウム 3,3’−ジスルホネート−4,4’−ジフルオロベンゾフェノンを得た。(収量181g、収率86%)。
【0075】
炭酸カリウムを6.9g、4,4'−(9H−フルオレン−9−イリデン)ビスフェノールを14g、および4,4'−ジフルオロベンゾフェノンを2.6g、および前記ジソジウム 3,3’−ジスルホネート−4,4’−ジフルオロベンゾフェノン12gを用いて、N−メチル−2−ピロリドン中、190℃で重合を行った。多量の水で再沈することで精製を行い、芳香族炭化水素系高分子電解質Aを得た。
【0076】
(5)芳香族炭化水素系高分子電解質膜の作製例
上記芳香族炭化水素系高分子電解質AをN−メチル−2−ピロリドンに溶解し固形分25%の塗液とした。当該塗液をガラス板上に流延塗布し、70℃にて30分さらに100℃にて1時間乾燥して30μmの芳香族炭化水素系高分子電解質膜Aを得た。
【0077】
さらに、芳香族炭化水素系高分子電解質膜Aを窒素ガス雰囲気下、200〜300℃まで1時間かけて昇温し、300℃で10分間加熱する条件で熱処理した後、放冷し、1N塩酸に12時間以上浸漬してプロトン置換した後に、大過剰量の純水に1日間以上浸漬して充分洗浄し芳香族炭化水素系高分子電解質膜Bを得た。
(実施例1)
電極A、Bの触媒層側に上記芳香族炭化水素系高分子電解質AとN−メチル−2−ピロリドン、グリセリンを均一混合した組成物を2mg/cmとなるように設けた。
【0078】
これらの電極を芳香族炭化水素系高分子電解質膜Bにお互いに対向するように重ね合わせ、100℃で1分間、5MPaの圧力で加熱プレスを行った。次に、100℃に加熱した1mol硫酸水溶液に0.5molのグリセリンと3molのイソプロピルアルコールを添加した処理液に1時間浸漬し、洗浄液が中性になるまで洗浄し膜電極複合体を得た。この膜電極複合体の発電評価結果を表1にまとめた。
(実施例2)
電極転写シートA、Bの触媒層側に上記芳香族炭化水素系高分子電解質AとN−メチル−2−ピロリドン、グリセリンを均一混合した組成物を1mg/cmとなるように設けた。
【0079】
これらの電極転写シートを芳香族炭化水素系高分子電解質膜Aにお互いに対向するように重ね合わせ、100℃で1分間、3MPaの圧力で加熱プレスを行った。次に、電極転写シートの東レ・デュポン社製ポリイミドフィルム“カプトン(登録商標)”のみを剥がしとった後、95℃に加熱した1mol硫酸水溶液に1molのプロピレンカーボネートを添加した処理液に1時間浸漬し、洗浄液が中性になるまで洗浄し、電極上に電極基材(東レ(株)製カーボンペーパーTGP−H−060)を重ね合わせ、100℃、5MPaで5分間プレスし一体化し膜電極複合体を得た。この膜電極複合体の発電評価結果を表1にまとめた。
(実施例3)
実施例1の処理液組成および処理条件を1mol硫酸水溶液に1molジメチルイミダゾリジノンを添加し90℃に変更した以外は実施例1と同様に実施した。これらの膜電極複合体の発電評価結果も表1にまとめた。
(実施例4)
実施例1の処理液組成および処理条件を2mol酢酸水溶液に3molイソプロピルアルコールを添加し70℃に変更した以外は実施例1と同様に実施した。これらの膜電極複合体の発電評価結果も表1にまとめた。
(実施例5)
実施例2の処理液組成および処理条件を1mol硫酸水溶液に1moln-ブタノールおよび0.5molのプロピレングリコールを添加し80℃に変更した以外は変更した以外は実施例2と同様に実施した。これらの膜電極複合体の発電評価結果も表1にまとめた。
(実施例6)
実施例2の処理液組成および処理条件を1mol硫酸水溶液に1molグリセリンおよび0.5molN-メチル-2-ピロリドンを添加し90℃に変更した以外は変更した以外は実施例2と同様に実施した。これらの膜電極複合体の発電評価結果も表1にまとめた。
(比較例1)
実施例1において処理液を使用しなかった以外は実施例1と同様に膜電極複合体を作製した。この膜電極複合体の発電評価結果を表1にまとめた。
(比較例2)
実施例1において処理液温度を50℃にした以外は実施例1と同様に膜電極複合体を作製した。この膜電極複合体の発電評価結果を表1にまとめた。
(比較例3)
実施例2において処理液を使用しなかった以外は実施例2と同様に膜電極複合体を作製した。この膜電極複合体の発電評価結果を表1にまとめた。
(実施例7)
電極A、Bを、95℃に加熱した1mol硫酸水溶液に0.5molのグリセリンと3molのイソプロピルアルコールを添加した処理液に1時間浸漬し、洗浄液が中性になるまで洗浄した。次に、それぞれの電極の触媒層側に上記芳香族炭化水素系高分子電解質AとN−メチル−2−ピロリドン、グリセリンを均一混合した組成物を2mg/cmとなるように設けた。
【0080】
これらの電極を芳香族炭化水素系高分子電解質膜Bにお互いに対向するように重ね合わせ、100℃で1分間、5MPaの圧力で加熱プレスを行ない膜電極複合体を得た。
この膜電極複合体の発電評価結果を表1にまとめた。
(実施例8)
電極転写シートA、Bを70℃に加熱した0.3molクロル硫酸、1,2−ジクロロエタン溶液に3分間浸漬し、洗浄液が中性になるまで洗浄した。次に、触媒層側に上記芳香族炭化水素系高分子電解質AとN−メチル−2−ピロリドン、グリセリンを均一混合した組成物を1mg/cmとなるように設けた。
【0081】
これらの電極転写シートを芳香族炭化水素系高分子電解質膜Aにお互いに対向するように重ね合わせ、100℃で1分間、3MPaの圧力で加熱プレスを行った。次に、電極転写シートの東レ・デュポン社製ポリイミドフィルム“カプトン(登録商標)”のみを剥がしとった後、95℃に加熱した1mol硫酸水溶液に1molのプロピレンカーボネートを添加した処理液に30分間浸漬し、洗浄液が中性になるまで洗浄し、電極上に電極基材(東レ(株)製カーボンペーパーTGP−H−060)を重ね合わせ、100℃、5MPaで5分間プレスし一体化し膜電極複合体を得た。この膜電極複合体の発電評価結果を表1にまとめた。
【0082】
【表1】

【0083】
表1から明らかなように実施例1〜8は発電初回と10回目の電圧の差が小さく、初回から膜電極複合体本来の性能が出ている。一方、比較例1〜3は初回と10回目の差が大きく、膜電極複合体本来の性能が出すために発電を繰り返す必要がある。
(実施例9)
電極転写シートBを2枚の触媒層側に上記芳香族炭化水素系高分子電解質AとN−メチル−2−ピロリドン、グリセリンを均一混合した組成物を1mg/cmとなるように設けた。これらの電極転写シートを芳香族炭化水素系高分子電解質膜Bにお互いに対向するように重ね合わせ、100℃で1分間、3MPaの圧力で加熱プレスを行った。次に、電極転写シートの東レ・デュポン社製ポリイミドフィルム“カプトン(登録商標)”のみを剥がしとった後、70℃に加熱した1mol硫酸水溶液に0.5molのグリセリンと、1molのエタノールを添加した処理液に1時間浸漬し、洗浄液が中性になるまで洗浄し、アノード側電極上に電極基材(東レ(株)製カーボンペーパーTGP−H−060)を重ね合わせ、カソード側電極に米国イーテック(E-TEK)社製カーボンクロス“TL−1400W”を重ね合わせ、100℃、5MPaで5分間プレスし一体化し膜電極複合体を得た。この膜電極複合体を英和(株)製 JARI標準セル“Ex−1”にセットしセル温度:80℃、燃料ガス:水素、酸化ガス:空気、ガス利用率:アノード70%/カソード40%において電流−電圧(I−V)測定を行ったところ、初回の最大出力は500mW/cmであった。
(比較例4)
実施例9において処理液を使用しなかった以外は実施例9と同様に膜電極複合体を作製し評価したところ、初回の最大出力は300mW/cmであった。
(実施例10)
実施例1の膜電極複合体の処理液をSII・ナノテクノロジー製シーケンシャル型ICP発光分光分析装置 SPS400で分析したところRu元素が確認でき、可溶なRu成分の少なくとも一部分が発電前に除去できていた。この膜電極複合体の電圧保持率は98%であり優れた耐久性を示した。
(比較例5)
比較例1の膜電極複合体の電圧保持率は80%であり実施例10より劣る耐久性を示した。この耐久性評価後の膜電極複合体のカソード電極触媒層を採取し加熱灰化し、硫酸、硝酸および過塩素酸で加熱分解した後、希王水で加熱溶解した液をSII・ナノテクノロジー製シーケンシャル型ICP発光分光分析装置SPS400で分析したところRu元素の存在が確認でき、アノードのRuの一部が発電中に溶解し対極まで透過することを確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明の膜電極複合体の製造方法は、燃料電池等に使用される膜電極複合体の製造に適用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族炭化水素系高分子電解質膜とアノードとカソードからなる膜電極複合体の製造方法であって、アノードおよび/またはカソードを、大気圧の沸点が70℃以上の有機溶媒と酸を含む溶液に、70℃以上、該有機溶媒の沸点以下の温度で接触させる活性化処理工程を有することを特徴とする膜電極複合体の製造方法。
【請求項2】
前記活性化処理工程が芳香族炭化水素系高分子電解質膜上にアノードおよび/またはカソードを作製する工程の後である請求項1記載の膜電極複合体の製造方法。
【請求項3】
前記大気圧の沸点が70℃以上の有機溶媒がアルコールおよび/または多価アルコールである請求項1または2記載の膜電極複合体の製造方法。
【請求項4】
前記大気圧の沸点70℃以上の有機溶媒が複素環式化合物である請求項1または2に記載の膜電極複合体の製造方法。
【請求項5】
前記酸が硫酸である請求項1〜4のいずれかに記載の膜電極複合体の製造方法。
【請求項6】
前記アノードにRuが含有されていることを特徴とする膜電極複合体の製造方法。

【公開番号】特開2008−226831(P2008−226831A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−27292(P2008−27292)
【出願日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 燃料電池・水素技術開発部委託研究「固体高分子形燃料電池実用化戦略的技術開発/要素技術開発/高性能炭化水素系電解質膜の研究開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】