説明

膨化ライ麦及びパンの製造法

【課題】形状、大きさが揃っていて、表面が平滑であり、パンの生地に均一に分散させて、焼成しても、食感が硬くならずに美味しく賞味できる膨化ライ麦を得る。
【解決手段】粒状の膨化ライ麦を、連続した流れの中で回転する歯で衝打し、課題の膨化ライ麦を得る。ここに用いる装置は、一方に投入口1、他方に排出口2を有する円筒缶3と、該円筒缶3内を前記投入口1から排出口2に向かって原料を移送するスクリューコンベア4とからなり、該スクリューコンベアの羽根4bは、途中に切欠溝5を有し、また該切欠溝5の中又はその近傍に突出歯6を有する破砕装置が好ましい。また、ここで得られた膨化ライ麦を、パンの生地に分散させ、焼成し、粒状ライ麦の食感が良好な、粒状ライ麦入りパンを得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒状ライ麦入りパンのライ麦として好適な膨化ライ麦及びこの膨化ライ麦を用いる粒状ライ麦入りパンの製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
通常のライ麦パンは、ライ麦粉のみ、または、ライ麦粉と小麦粉とを混合して作られ、小麦粉のみで作られるパンと比べて、食物繊維などの栄養成分や風味が異なるパンが得られる。しかし、小麦粉のみで作られるパンに比べると、ふくらみが少なく、どっしりと重い食感で硬いため、やや食べにくい。粒状のライ麦を、小麦粉のパン生地に分散させた粒状ライ麦入りパンであれば、生地の部分がふっくらとして食べやすいライ麦パンが得られる。しかし、一般にライ麦は表面が硬いため、ライ麦を、パンの生地に分散させ、焼成すると、粒状ライ麦は食感が硬いという問題を有する。
そこで、ライ麦を膨化させて硬い組織を破壊し多孔質にした膨化ライ麦(例えば、特許文献1参照)を利用することが検討されているが、この膨化ライ麦も、パンの生地に均一に分散させて、焼成すると、依然として食感が硬いという問題点を有する。
【0003】
【特許文献1】特開2006−25678号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、パンの生地に均一に分散させて、焼成しても、食感が硬くない膨化ライ麦を得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、このような課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、粒状の膨化ライ麦を、連続した流れの中で回転する歯で衝打するときは、原形を損なうことなく、しかも形状が揃っていて、表面が平滑である膨化ライ麦を得ることができ、またこの膨化ライ麦は、パンの生地に均一に分散させて、焼成しても、食感が硬くならないことを知り、この知見に基づいて本発明を完成した。なお、本発明で言う連続した流れとは、気流の中で滞留することなく流れていることを意味する。
【0006】
すなわち、本発明は以下の膨化ライ麦及びこのライ麦を用いたパンの製造法である。
(1)粒状の膨化ライ麦を、連続した流れの中で回転する歯で衝打して得られる膨化ライ麦。
(2)粒状の膨化ライ麦が、生のライ麦を過熱水蒸気で加圧加熱した後、大気圧下に放出して得たものである、前記(1)に記載の膨化ライ麦。
(3)回転する歯で衝打する手段が、一方に投入口1、他方に排出口2を有する円筒缶3と、該円筒缶3内を前記投入口1から排出口2に向かって原料を移送するスクリューコンベア4とからなり、該スクリューコンベアの羽根4bは、途中に切欠溝5を有し、また該切欠溝5の中又はその近傍に突出歯6を有する破砕装置である前記(1)に記載の膨化ライ麦。
(4)前記(1)で得られた膨化ライ麦を、パンの生地に分散させ、焼成することを特徴とする粒状ライ麦入りパンの製造法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、形状が揃っていて、表面が平滑である膨化ライ麦を得ることができる。またパンの生地に均一に分散させて、焼成しても、食感が硬くならずに美味しく賞味できる膨化ライ麦を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の膨化ライ麦及びパンの製造法について詳述する。
【0009】
先ず、精白していない生のライ麦を、過熱水蒸気で加圧加熱した後、大気圧下に放出して粒状の膨化ライ麦を得る。処理手段としては、回分式、連続式のいずれを用いてもよいが、連続式は効率がよいので好ましい。この装置としては、例えば特公昭46−34747号公報に記載された、気流加熱方式に依る膨化食品製造方法及び装置が挙げられる。
【0010】
過熱水蒸気による加圧加熱条件としては、0.3〜0.9Mpa(ゲージ圧)、温度230〜280℃、処理時間2〜10秒が好ましい。
【0011】
次いで、粒状の膨化ライ麦を、連続した流れの中で回転する歯で衝打する。
【0012】
そのような手段としては、任意の手段が採用可能であるが、例えば、図1に示すごとき、一方に投入口1、他方に排出口2を有する円筒缶3と、該円筒缶3内を前記投入口1から排出口2に向かって原料を移送するスクリューコンベア4とからなり、該スクリューコンベアの羽根4bは、途中に切欠溝5を有し、また該切欠溝5の中又はその近傍に突出歯6を有する破砕装置が好ましい。なお、図1は、その概略説明図である。なお、スクリューの回転速度は、500〜3,000rpmが好ましく、1,000〜2,000rpmがより好ましい。
【0013】
図2はスクリュー羽根の要部説明図である。すなわちスクリュー羽根4bが、切欠溝5を有し、また該切欠溝5の中又はその近傍に突出歯6を有している状態の説明図である。突出歯6は、スクリュー羽根に設けた切欠き溝5の、該溝の中(図面簡略のため図示なし)、該溝から真横方向に若干外れた位置(図2参照)、該溝から真横方向にさらに外れた位置(即ち、隣合う2つのスクリュー羽根の中間付近)(図面簡略のため図示なし)が挙げられる。
【0014】
図3は、切欠溝5の中に突出歯6を有するスクリュー羽根4bの縦断面概略説明図である。突出歯の高さは、任意であるが、スクリュー羽根4bの至端面と同程度のものあるいは、図3に示す如くこれよりも若干(例えば2〜3mm)突出させたものが好ましい。
また、突出歯の先端は、膨化ライ麦に対して直角、あるいは鋭角部が対面する形のものが好ましい(図2及び3では、上面が将棋の駒の形をした五角形で、縦断面は先端が鋭角の楔型をしている)。
【0015】
本発明において、粒状の膨化ライ麦を、連続した流れの中で回転する歯で衝打することは極めて重要である。
この手段を採用するときは、元来、形状が良好な膨化ライ麦にあっては、そのまま形状を損なうことなく、また形状が、不良の、あるいは不揃いの膨化ライ麦(組織の一部が膨化して亀裂があるもの、表皮の一部が突出したもの、扁平なもの、細長いもの、あるいは表面が凹凸を有するものなど)にあっては、上記不都合な部分が解消され、その結果、平滑な表面を有し、卵形をしていて、見た目が非常に美しい膨化ライ麦に成形することが可能となる。
【0016】
粒状の膨化ライ麦は、連続した流れの中で、先ず回転するスクリュー羽根、切欠き溝、突出歯で衝打(衝撃で打つ)され、撥ね返えされ、次いで円筒缶3の内周壁に激しくぶつかり、そこでも再び衝打される。
連続した流れの中で、これらの衝打が限りなく繰り返される。
一方、この衝打は、連続した流れの中で行われるので、膨化ライ麦は衝打される都度、流路内の空間、あるいは隙間に容易に逃げることができるため、押し潰されたり、あるいは破壊されたりすることが回避される。
【0017】
このようにして得られる膨化ライ麦は、粒状ライ麦入りパンのライ麦として好適なものである。よって通常のパンの製造法に従い、パンの生地に分散させ、焼成することにより、良好な食感を有する粒状ライ麦入りパンを容易に得ることができる。
【0018】
以下実施例を示して本発明をより具体的に説明する。
【実施例1】
【0019】
(ライ麦の膨化処理)
生のライ麦(嵩密度0.75g/ml)を気流加熱方式に依る膨化食品製造装置(特公昭46−34747号公報)を用いて、細長い流路内を高速で流れる、0.6Mpa(ゲージ圧)、温度250℃の過熱水蒸気の流れに3秒間流動させながら加圧加熱し、加熱されたライ麦を過熱水蒸気の流れから分離して捕集し、その補集されたライ麦を大気圧下に放出して膨化させ、粒状の膨化ライ麦(嵩密度0.25g/ml)(以下、従来の膨化ライ麦という)を得た。
【0020】
(膨化ライ麦を回転する歯で衝打する手段)
(岩井機械工業社製「コールドクラッシャー」)
図1において、円筒缶3の内径を200mm、同長さを480mmとし、スクリューコンベア4外径を190mm、同ピッチ(隣合うスクリューの山と山の間隔)を55mm、円筒缶の内周壁とスクリューコンベア回転軸の外周壁4aとの距離を15mmとし、スクリューの回転速度を1,800rpmとし、投入口1に対して送給される原料をスクリューコンベアの移送量に見合う量として、図1に示すごとくセットした。
また、図3において、スクリュー羽根4bを、至端部(外周端部)が平坦で、厚さ(巾)10mm、高さ10mmとし、また該スクリュー羽根に、一周当り、切欠き部5、突出歯6(高さ13mm)及び切欠き部5からなる衝打部分を、等間隔で4箇所設置して、図1に示すごとくセットした。
【0021】
(本発明の膨化ライ麦の製造)
上記コールドクラッシャーの投入口1から、上記で得られた「従来の膨化ライ麦」を投入し、連続した流れの中で回転する歯で衝打して、本発明の膨化ライ麦を得た。
【実施例2】
【0022】
(粒状ライ麦入りパンの製造)
上記実施例1で得られた本発明の膨化ライ麦を、3容量倍の水道水に入れ、5分間茹でた後水切りし、食感の良好な吸水膨化ライ麦を得た。
次いで、通常の食パンの製造法に基づき、パン生地に対し8%(w/w)の吸水膨化ライ麦を添加し、均一に分散させ、常法により焼成して、硬くない食感を有する粒状ライ麦の入った、粒状ライ麦入りパンを得た。
【0023】
(比較例1)
上記「従来の膨化ライ麦」を3容量倍の水道水に入れ、5分間茹でた後水切りし、比較例1の「吸水膨化ライ麦」を得た。
次いで、通常の食パンの製造法に基づき、パン生地に対し8%(w/w)の、比較例1の吸水膨化ライ麦を添加し、均一に分散させ、常法により焼成して、比較例1の粒状ライ麦の入った、粒状ライ麦入りパンを得た。
【0024】
(官能試験)
上記2種類の吸水膨化ライ麦の形状を観察し、また粒状ライ麦入りパンの該ライ麦の食感について官能検査を実施した。
結果を表1に示す。
【0025】
【表1】

【0026】
表1の結果から、比較例1の吸水膨化ライ麦は、形状が不揃いのものが多い。表面がザラザラである。また、粒状ライ麦入りパンの該ライ麦は、食感が硬いことが判る。これに対し、本発明の吸水膨化ライ麦は、形状が揃っていて、表面が滑らかである。また、粒状ライ麦入りパンの該ライ麦は、食感が硬くなく好適であることが判る。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】膨化ライ麦を、連続した流れの中で回転する歯で衝打する装置の概略説明図。
【図2】スクリュー羽根の要部説明図。
【図3】切欠溝5と突出歯6を有するスクリュー羽根4bの縦断面概略説明図。
【符号の説明】
【0028】
1・・・投入口、2・・・排出口、3・・・円筒缶、4・・・スクリューコンベア、4a・・・スクリューコンベア回転軸の外周壁、4b・・・スクリュー羽根、5・・・切欠き部、6・・・突出歯

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒状の膨化ライ麦を、連続した流れの中で回転する歯で衝打して得られる膨化ライ麦。
【請求項2】
粒状の膨化ライ麦が、生のライ麦を過熱水蒸気で加圧加熱した後、大気圧下に放出して得たものである、請求項1に記載の膨化ライ麦。
【請求項3】
回転する歯で衝打する手段が、一方に投入口1、他方に排出口2を有する円筒缶3と、該円筒缶3内を前記投入口1から排出口2に向かって原料を移送するスクリューコンベア4とからなり、該スクリューコンベアの羽根4bは、途中に切欠溝5を有し、また該切欠溝5の中又はその近傍に突出歯6を有する破砕装置である請求項1に記載の膨化ライ麦。
【請求項4】
請求項1で得た膨化ライ麦を、パンの生地に分散させ、焼成することを特徴とする粒状ライ麦入りパンの製造法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−154817(P2010−154817A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−335621(P2008−335621)
【出願日】平成20年12月29日(2008.12.29)
【出願人】(000004477)キッコーマン株式会社 (212)
【Fターム(参考)】