説明

膨張弁

【課題】2つの弁を有する膨張弁において、エバポレータから戻ってくる2つの冷媒の状態が大きく異なることに起因して2つの弁にハンチング現象が生じるのを抑制できるようにする。
【解決手段】第1の弁3aおよび第2の弁3bにて断熱膨張された冷媒が第1の低圧出口ポート13および第2の低圧出口ポート14からエバポレータの第1および第2の熱交換器に送られ、第1および第2の熱交換器で蒸発された冷媒は、途中で合流されて戻り冷媒入口ポート15に戻される。その戻された冷媒は、戻り冷媒入口ポート15と冷媒戻り通路32との間に形成された絞り通路40を通過する。第1および第2の熱交換器からの冷媒が気体と液体が混合した状態のままであっても、絞り通路40を通過して攪拌されることで冷媒の状態は均一化される。パワーエレメント17は、その均一化された状態の冷媒を感知するので、安定した状態で制御できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は膨張弁に関し、特に自動車用エアコンシステムの冷凍サイクルにおいて液冷媒を断熱膨張させて低温・低圧の蒸気冷媒にしながらエバポレータに送り込む蒸気冷媒の流量をエバポレータ出口の冷媒が所定の過熱度を維持するよう制御する膨張弁に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用エアコンシステムでは、冷媒を圧縮するコンプレッサと、冷媒を凝縮するコンデンサと、気液混合冷媒を分離するレシーバと、冷媒を断熱膨張させる膨張弁と、冷媒を蒸発させるエバポレータとを環状に配管して冷凍サイクルが構成されている。冷媒を膨張させる膨張弁としては、エバポレータ出口の冷媒の温度および圧力、すなわち過熱度に応じてエバポレータへ供給する冷媒の流量を制御するようにした温度式膨張弁が一般に用いられている。
【0003】
車室内の空気と熱交換するエバポレータは、車室内に設置されるため、コンパクトであることが要求されている。このため、空気を通過させる方向に薄型化された2つの熱交換器を積層配置し、冷媒は、それらの熱交換器を直列に流すようにしたエバポレータが一般的に使用されている。
【0004】
このようなエバポレータは、熱交換器が薄型化されていることによって、冷媒が通過する通路が狭くなっており、しかも、その通路が2つの熱交換器で直列に繋がっていて長くなっている。そのため、上記構成のエバポレータは、冷媒が通過する通路での圧力損失が大きくなり、その分、冷凍サイクルの効率が低下することになる。
【0005】
これに対し、2つの熱交換器を独立させてそれぞれの熱交換器に冷媒を並列に供給する構成のエバポレータを使用した冷凍サイクルが提案されている(たとえば、特許文献1参照)。この冷凍サイクルによれば、膨張弁は、2つの弁を有し、エバポレータも、2つの熱交換器を有し、膨張弁の弁とエバポレータの熱交換器とを直列接続したものを2組並列に接続した構成にしている。これにより、熱交換器を冷媒が通過するときの圧力損失が低下し、冷凍サイクルをトータルで見たときの正味の損失が低下し、冷力を向上させることができる。
【0006】
ここで、空気を通過させる方向に2つの熱交換器を重ねて配置したエバポレータは、高温の空気が直接吹き付けられる上流側の熱交換器とこの上流側の熱交換器で冷やされた空気が吹き付けられる下流側の熱交換器とで熱交換の条件が大きく異なっている。そのため、膨張弁が有する2つの弁の一方は、上流側の熱交換器に対して冷媒流量を多く、他方の弁は、下流側の熱交換器に対して冷媒流量を少なく供給するようにしている。その冷媒流量の分配比を膨張弁側で適切に設定することによって、冷凍サイクルが安定動作しているときは、エバポレータの熱交換器からは、それぞれ熱交換により蒸発された冷媒が導出され、その後、合流された冷媒は、膨張弁を介してコンプレッサに戻される。このとき、膨張弁は、エバポレータ出口の冷媒の過熱度を感知し、その過熱度が所定の値を維持するように2つの弁の流量制御を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−38455号公報、図6
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、冷媒が液体の状態で膨張弁に導入されて安定動作していた冷凍サイクルが低負荷・低流量で動作するようになった場合、膨張弁には液体と気体が混在した状態の冷媒が導入されることがあり、冷凍サイクルの動作が不安定になるという問題点があった。すなわち、膨張弁の2つの弁が気液混合状態の冷媒を膨張させた場合、液体の状態の冷媒を膨張した場合に比較して冷媒流量の分配比が変化してしまい、エバポレータの2つの熱交換器から導出される冷媒の状態が大きく変化することがある。たとえば、エバポレータの上流側の熱交換器に気体の多い状態の冷媒が供給され、下流側の熱交換器に液体の多い状態の冷媒が供給されると、上流側の熱交換器は、過熱度の大きな冷媒を導出し、下流側の熱交換器は、蒸発し切れていない冷媒を導出することがある。状態が大きく異なる状態でエバポレータから導出された冷媒は、途中で合流して膨張弁に導入され、そこで、戻ってきた冷媒の温度および圧力が感知される。膨張弁は、エバポレータに近接配置されていて2つの熱交換器から導出された冷媒が十分に混合されることなく導入されるので、上流側の熱交換器から導出された高温の冷媒を感知したり、下流側の熱交換器から導出された低温の冷媒を感知したりすることになる。すると、膨張弁は、どの冷媒の状態を感知しているか分からなくなるため、制御が不安定となり、2つの弁が安定しないで閉じたり開いたりするハンチング現象を自ら生じさせてしまうことになっていた。
【0009】
本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり、エバポレータから戻ってくる2つの冷媒の状態が大きく異なることに起因して2つの弁にハンチング現象が生じるのを抑制できる膨張弁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明では上記の課題を解決するために、第1の弁と、第2の弁と、前記第1の弁および前記第2の弁のリフトを制御するパワーエレメントとを備えた膨張弁であって、前記パワーエレメントによって温度および圧力が感知される冷媒を導入する戻り冷媒入口ポートに配置されて前記戻り冷媒入口ポートに導入された冷媒を均一の状態にする冷媒攪拌手段を備えていることを特徴とする膨張弁が提供される。
【0011】
このような膨張弁によれば、冷媒攪拌手段がエバポレータから戻り冷媒入口ポートに導入された冷媒を攪拌するようにした。これにより、エバポレータから過熱状態にない冷媒が混在した状態のままの冷媒が導入されたとしても、パワーエレメントは、冷媒攪拌手段で攪拌されて均一な状態になった冷媒を感知するので、ハンチング現象の発生が抑えられる。
【発明の効果】
【0012】
上記構成の膨張弁は、エバポレータから戻ってくる冷媒が均一でない状態のままであっても、冷媒攪拌手段が攪拌して均一な状態にすることで、パワーエレメントの誤感知による第1の弁および第2の弁のハンチング現象を抑制できるという利点がある。また、パワーエレメントが安定した動作をすることで、冷凍サイクルの効率がよくなり、冷房効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の膨張弁を適用した冷凍サイクルを示す図である。
【図2】エバポレータとの間の配管が接続される側から見た第1の実施の形態に係る膨張弁の側面図である。
【図3】第1の実施の形態に係る膨張弁の中央縦断面図である。
【図4】図3の面に対して直角方向の面で見た第1の実施の形態に係る膨張弁の中央縦断面図である。
【図5】エバポレータとの間の配管が接続される側から見た第2の実施の形態に係る膨張弁の側面図である。
【図6】第2の実施の形態に係る膨張弁の中央縦断面図である。
【図7】エバポレータとの間の配管が接続される側から見た第3の実施の形態に係る膨張弁の側面図である。
【図8】第3の実施の形態に係る膨張弁の中央縦断面図である。
【図9】図8のA−A矢視断面図である。
【図10】エバポレータとの間の配管が接続される側から見た第4の実施の形態に係る膨張弁の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
図1は本発明の膨張弁を適用した冷凍サイクルを示す図である。
自動車用エアコンシステムの冷凍サイクルは、コンプレッサ1と、コンデンサ2と、膨張弁3と、エバポレータ4とを環状に配管して構成されている。コンプレッサ1は、循環する冷媒を圧縮してコンデンサ2に送る。コンデンサ2は、冷却ファン5によって外気が強制的に通過するよう構成され、コンプレッサ1によって高温・高圧となった冷媒を外気と熱交換することにより凝縮する。コンデンサ2の出口には、凝縮された冷媒を溜めておくレシーバが備えており、そこで気液分離された液冷媒が膨張弁3に供給される。
【0015】
膨張弁3は、液冷媒を断熱膨張させる第1の弁3aおよび第2の弁3bを備え、これらの開度がエバポレータ4を出た冷媒の温度および圧力によって帰還制御される温度式膨張弁である。エバポレータ4は、ファン6の下流側送風路に空気の流れ方向に積層配置された第1の熱交換器4aおよび第2の熱交換器4bを備えている。ファン6側の第1の熱交換器4aは、膨張弁3の第1の弁3aから断熱膨張された蒸気冷媒が供給され、吹出口側の第2の熱交換器4bは、第2の弁3bから断熱膨張された蒸気冷媒が供給され、ファン6により送風された空気との熱交換により冷媒を蒸発させる。第1の熱交換器4aおよび第2の熱交換器4bを出た冷媒は合流され、その後、膨張弁3を介してコンプレッサ1に戻される。エバポレータ4から戻ってきた冷媒が膨張弁3を通過するとき、膨張弁3は、冷媒の温度および圧力、すなわち、エバポレータ出口冷媒の過熱度を監視し、その過熱度に応じて第1の弁3aおよび第2の弁3bの流量制御をしている。
【0016】
エバポレータ4においては、ファン6側の第1の熱交換器4aは、より高温の空気によって熱交換を行い、吹出口側の第2の熱交換器4bは、第1の熱交換器4aによって冷やされた空気によって熱交換を行う。このため、第1の弁3aから第1の熱交換器4aに供給される冷媒の流量は、第2の弁3bから第2の熱交換器4bに供給される冷媒の流量よりも多くなるよう設定され、本実施の形態では、第1の弁3aと第2の弁3bとの流量比を2:1にしている。
【0017】
図2はエバポレータとの間の配管が接続される側から見た第1の実施の形態に係る膨張弁の側面図、図3は第1の実施の形態に係る膨張弁の中央縦断面図、図4は図3の面に対して垂直方向の面で見た第1の実施の形態に係る膨張弁の中央縦断面図である。
【0018】
この第1の実施の形態に係る膨張弁は、直方体のボディ11を有し、その一側面(図4の右側面)の図の下方に高圧の液冷媒が導入される高圧入口ポート12が設けられている。ボディ11の高圧入口ポート12が設けられた側面に隣接する側面(図2の正面および図3の左側面)の中央には、エバポレータ4のファン6側の第1の熱交換器4aに配管される第1の低圧出口ポート13が設けられている。ボディ11は、また、第1の低圧出口ポート13の図の下方に、吹出口側の第2の熱交換器4bに配管される第2の低圧出口ポート14が設けられ、第1の低圧出口ポート13の図の上方に、戻り冷媒入口ポート15が設けられている。ボディ11は、さらに、高圧入口ポート12が設けられた側面の図の上方には、コンプレッサ1に配管される戻り冷媒出口ポート16が設けられている。
【0019】
ボディ11の図の上端面には、エバポレータ4から戻った冷媒の過熱度を感知するパワーエレメント17が螺着されている。このパワーエレメント17の直下のボディ11内には、シャフト18、第1の弁3a、第2の弁3b、圧縮コイルスプリング19およびアジャストねじ20が同軸上に配置されている。これらシャフト18、第1の弁3aおよび第2の弁3bは、互いに独立して動くよう分離されており、軸中心が微少にずれて配置されても、軸方向にスムーズに動くことができるようにしている。
【0020】
第1の弁3aは、第1の弁体21と、ボディ11に形成された第1の弁座22とを有し、この第1の弁座22には、第1の低圧出口ポート13に連通する第1の弁孔23が穿設されている。第2の弁3bは、第2の弁体24と、ボディ11に圧入して固定される第2の弁座25とを有し、この第2の弁座25には、第1の弁孔23よりもポート径の小さな第2の弁孔26が穿設されている。
【0021】
第1の弁3aの第1の弁体21は、高圧入口ポート12に連通されている弁室27の中に第1の弁座22に対して接離自在に配置されている。そのために、第1の弁体21は、第1の弁座22の側および第2の弁3bの側のそれぞれに弁室27の内壁を摺動する2つのガイド28が一体に形成されている。
【0022】
ガイド28には、弁室27に導入された液冷媒を第1の弁座22および第2の弁3bの側へ導く連通路29が複数形成されている。この連通路29は、たとえばガイド28に同心円上に均等配置された3つの円弧状開口部とすることができる。ガイド28は、また、その軸方向の長さを第1の弁座22の側と第2の弁3bの側とで変更して、連通路29を液冷媒が流れるときに冷媒の粘度によって第1の弁体21が第1の弁座22と第2の弁3bとに引っ張られる力をキャンセルしている。本実施の形態では、第1の弁3aが流す流量と第2の弁3bが流す流量との分配比を2:1にしたので、第1の弁座22の側にあるガイド28の軸方向長さと第2の弁3bの側にあるガイド28の軸方向長さとの比は、1:2にしている。
【0023】
第1の弁3aは、また、その第1の弁体21が第1の弁座22の上流側に配置されて、高圧の液冷媒が第1の弁体21を閉弁側に作用する構造になっている。これにより、第1の弁3aは、全開時、一次側の液冷媒の圧力と二次側の蒸気冷媒の圧力とは比例関係にあるが、弁開度がある開度より小さくなると、一次側の圧力が高くなるに従って二次側の圧力が低くなるという高圧依存特性を有している。
【0024】
第2の弁3bは、ボディ11内にて、弁室27から第2の低圧出口ポート14へ連通する弁室27と同軸の空間に配置されている。第2の弁座25は、ボディ11に圧入により固定され、この第2の弁座25に対して接離自在に第2の弁体24が配置されている。第2の弁体24は、第2の弁3bの方向に第2の弁座25の第2の弁孔26を介して延出された軸方向延出部30が一体に形成されている。その軸方向延出部30の端面は、第2の弁体24が圧縮コイルスプリング19による付勢力によって第1の弁体21に常時当接されている。
【0025】
第2の弁3bは、また、その第2の弁体24が第2の弁座25の下流側に配置されて、高圧の液冷媒が第2の弁体24を開弁側に作用する構造になっている。したがって、この膨張弁は、第1の弁孔23のポート径と第2の弁孔26のポート径とのバランスで閉弁方向に作用する高圧依存特性を設定している。
【0026】
圧縮コイルスプリング19は、ボディ11に螺着されたアジャストねじ20によって受けられている。圧縮コイルスプリング19の荷重は、アジャストねじ20の螺入量を調節することによって調整される。この調整は、この膨張弁が制御しようとする過熱度の設定に相当する。アジャストねじ20のボディ11への螺着部は、Oリング31によって気密にシールされている。
【0027】
パワーエレメント17は、ボディ11の図の上方の面に開けられた取付穴に螺着されている。パワーエレメント17の取付穴は、戻り冷媒入口ポート15と戻り冷媒出口ポート16との間に形成された冷媒戻り通路32に連通していて、冷媒戻り通路32を通過する冷媒をパワーエレメント17に導入できるようにしている。
【0028】
パワーエレメント17は、ダイヤフラム33をアッパーハウジング34とロアハウジング35とで挟持し、これらの外周を共に溶接することによって形成されている。ダイヤフラム33とアッパーハウジング34とによって囲まれた密閉空間には、冷媒に似た特性のガスが充填されており、感温室を構成している。ロアハウジング35には、ダイヤフラム33の変位を第1の弁3aおよび第2の弁3bに伝えるディスク36が配置されている。ディスク36は、ホルダ37によって保持されたシャフト18の上端部と嵌合され、ロアハウジング35の中でシャフト18によって心決めされている。
【0029】
ホルダ37は、その上部がパワーエレメント17の取付穴に設置され、その上部には、図4に示したように、シャフト18に対して横荷重を付与するように圧縮コイルスプリング38が収容されている。シャフト18は、横荷重が付与されることで軸方向の運動が制約されるので、高圧入口ポート12に導入される液冷媒が圧力変動を起こしたとしても、第1の弁体21が軸線方向に振動して異音を発生することが抑制される。ホルダ37は、また、冷媒戻り通路32を貫通して垂下されており、その下端部は、第1の低圧出口ポート13と冷媒戻り通路32との間でシャフト18に周設されたOリング39を押さえている。このOリング39は、エバポレータ4の第1の熱交換器4aへ行かずに第1の低圧出口ポート13から冷媒戻り通路32へ冷媒が漏れてしまうのを阻止している。
【0030】
この膨張弁は、戻り冷媒入口ポート15と冷媒戻り通路32との間に戻り冷媒入口ポート15に導入された冷媒の状態を均一化する冷媒攪拌手段を備えている。この冷媒攪拌手段は、第1の実施の形態に係る膨張弁では、冷媒戻り通路32の内径よりも小さな内径を有する絞り通路40を形成することによって実現している。この絞り通路40は、好ましくは、戻り冷媒入口ポート15および冷媒戻り通路32の流れ方向に延びる中心軸よりもパワーエレメント17から離れる方向にオフセットされた位置に形成されている。これで、この冷媒攪拌手段は、戻り冷媒入口ポート15に導入された冷媒に対し、絞り通路40を通過するときの流速を増加させ、冷媒戻り通路32にその中心軸より偏倚された位置から導入されたときに旋回流を与える構成となる。これにより、戻り冷媒入口ポート15に導入された冷媒は、攪拌されて冷媒の状態が均質になるとともにパワーエレメント17へ向かう方向の流れが生じてパワーエレメント17に行き易くなり、パワーエレメント17の感温性能を向上させることができる。この特性は、絞り通路40の径の大きさおよび形成位置を変更することによって調整することができる。
【0031】
この膨張弁は、また、パワーエレメント17にキャップ41が被せられており、この膨張弁が設置される環境の温度の影響を受けないよう周囲から断熱されている。そして、第1の低圧出口ポート13には、リング状の絞り部材42が嵌められている。この絞り部材42は、その中央に所定の開口面積を有する貫通孔が設けられ、第1の低圧出口ポート13から流出する冷媒の流量を絞ることにより、気泡の発生を抑制し、膨張弁の冷媒通過音を低減している。
【0032】
以上の構成の膨張弁によれば、コンプレッサ1が停止または最少容量運転をしているとき、冷媒戻り通路32の圧力が高くなっており、この圧力を感知したパワーエレメント17では、ダイヤフラム33が感温室側に変位している。これにより、第1の弁体21および第2の弁体24は、圧縮コイルスプリング19によって閉弁方向に付勢されているので、第1の弁3aおよび第2の弁3bは、閉弁状態になっている。
【0033】
コンプレッサ1が冷媒の圧縮を開始すると、冷媒戻り通路32の圧力が低下してパワーエレメント17のダイヤフラム33が第1の弁3aおよび第2の弁3bの側へ変位するようになり、高圧入口ポート12には、高圧の冷媒が導入されるようになる。やがて、第1の弁3aおよび第2の弁3bがパワーエレメント17によって開弁され、高圧入口ポート12にコンデンサ2で凝縮された液冷媒が導入されるようになる。弁室27に導入された液冷媒は、第1の弁3aで断熱膨張されて低温・低圧の蒸気冷媒となり、第1の低圧出口ポート13からエバポレータ4の第1の熱交換器4aに送られる。弁室27の液冷媒は、また、第2の弁3bで断熱膨張されて低温・低圧の蒸気冷媒となり、第2の低圧出口ポート14からエバポレータ4の第2の熱交換器4bに送られる。
【0034】
エバポレータ4では、第1の熱交換器4aおよび第2の熱交換器4bに導入された蒸気冷媒は、ファン6によって送風された空気との熱交換により蒸発され、その後合流されて戻り冷媒入口ポート15に戻される。エバポレータ4を通過した空気は、除湿されて冷やされ、その後、適当に温度調整されてから車室内に吹き出される。
【0035】
戻り冷媒入口ポート15に導入された冷媒は、冷媒戻り通路32を通過し、戻り冷媒出口ポート16からコンプレッサ1に戻される。エバポレータ4からの冷媒が冷媒戻り通路32を通過するとき、その冷媒の過熱度がパワーエレメント17によって感知され、その過熱度に応じて第1の弁3aおよび第2の弁3bの弁リフトが制御される。これにより、第1の弁3aおよび第2の弁3bにて冷媒の流量がそれぞれ制御され、所定の分配比でエバポレータ4の第1の熱交換器4aおよび第2の熱交換器4bに供給される。第1の弁3aおよび第2の弁3bをエバポレータ出口の冷媒の過熱度で帰還制御しているので、この膨張弁は、エバポレータ4に送り込む蒸気冷媒の流量をエバポレータ出口の冷媒が圧縮コイルスプリング19により設定された過熱度を維持するよう制御している。
【0036】
一方、冷凍サイクルが低負荷・低流量で動作しているとき、膨張弁には十分に過冷却されないで液体と気体が混在した状態の冷媒が導入される可能性が高くなる。このような冷媒が高圧入口ポート12から弁室27に導入されると、気体の状態の冷媒が弁室27の上部に行き、液体の状態の冷媒が弁室27の下部に行くことになる。したがって、第1の弁3aは、エバポレータ4のファン6側の第1の熱交換器4aに気体の多い状態の冷媒を供給し、第2の弁3bは、吹出口側の第2の熱交換器4bには液体の多い状態の冷媒を供給する。このような状態の冷媒の供給を受けたエバポレータ4は、ファン6側の第1の熱交換器4aから非常に高い過熱度の冷媒を導出し、吹出口側の第2の熱交換器4bから十分に蒸発していない冷媒を導出する。第1の熱交換器4aおよび第2の熱交換器4bを出たこれらの冷媒は、途中で合流されて膨張弁の戻り冷媒入口ポート15に導入される。戻り冷媒入口ポート15に導入された冷媒は、絞り通路40を通過することにより攪拌されて均一化され、冷媒戻り通路32内で旋回される。旋回された冷媒は、その一部がパワーエレメント17に向かい、残りが冷媒戻り通路32内で直角方向に向きを変えて戻り冷媒出口ポート16からコンプレッサ1へ向かう。このとき、パワーエレメント17は、攪拌されて均一の状態になった冷媒の温度および圧力を感知するので、膨張弁3の第1の弁3aおよび第2の弁3bを頻繁に開閉制御することがない。これにより、膨張弁3は、ハンチング現象を発生することがなく、安定した制御をすることになる。
【0037】
図5はエバポレータとの間の配管が接続される側から見た第2の実施の形態に係る膨張弁の側面図、図6は第2の実施の形態に係る膨張弁の中央縦断面図である。なお、この図5および図6において、図2ないし図4に示した構成要素と同じ構成要素については同じ符号を付してその詳細な説明は省略する。
【0038】
この第2の実施の形態に係る膨張弁は、冷媒攪拌手段として、戻り冷媒入口ポート15に絞り通路部材43を嵌め込んでいる。この絞り通路部材43は、中央に絞り通路を有し、その内側に突出するように複数の整流羽根43aが設けられている。これらの整流羽根43aは、それぞれ同じ方向にねじられていて、絞り通路を通過する冷媒に対して旋回流を付与する機能を有している。
【0039】
この膨張弁は、戻り冷媒入口ポート15に絞り通路部材43を設けたことにより、エバポレータ4の第1の熱交換器4aおよび第2の熱交換器4bに気体および液体の混合バランスが大きく崩れた冷媒を供給したとしても安定した制御を可能にしている。すなわち、エバポレータ4の第1の熱交換器4aおよび第2の熱交換器4bから過熱状態の大きく異なる状態の冷媒が十分に混合されることなく戻り冷媒入口ポート15に導入されたとしても、絞り通路部材43の整流羽根43aで攪拌されて均一に混合される。さらに、整流羽根43aで旋回された冷媒は、パワーエレメント17に向かって強制的に送られるので、パワーエレメント17の感温性能を大きく向上させることができる。
【0040】
この膨張弁の冷媒攪拌手段以外の構成は、第1の実施の形態に係る膨張弁とその絞り通路40を除いて同じ構成を有している。したがって、この膨張弁の動作は、第1の実施の形態に係る膨張弁の上記した動作と同じであるので、動作の説明は省略する。
【0041】
図7はエバポレータとの間の配管が接続される側から見た第3の実施の形態に係る膨張弁の側面図、図8は第3の実施の形態に係る膨張弁の中央縦断面図、図9は図8のA−A矢視断面図である。なお、この図7ないし図9において、図2ないし図6に示した構成要素と同じ構成要素については同じ符号を付してその詳細な説明は省略する。
【0042】
この第3の実施の形態に係る膨張弁は、冷媒攪拌手段として、冷媒戻り通路32を貫通するように配置されたホルダ37に邪魔板44を備えている。この邪魔板44は、ホルダ37の軸方向に長い長方形を有し、ホルダ37の外表面に戻り冷媒入口ポート15の軸線に対して直交する方向に突出するように取り付けられている。邪魔板44は、図示の例では、戻り冷媒入口ポート15から見てホルダ37の両側にホルダ37と一体に形成されている。邪魔板44は、また、ホルダ37の中心から外側の長辺までの長さは、ボディ11に形成されたパワーエレメント17の取付穴の半径より若干短く形成され、頂部がパワーエレメント17の取付穴に侵入した状態で設置されている。
【0043】
冷媒戻り通路32内に邪魔板44があることにより、戻り冷媒入口ポート15に導入された冷媒は、邪魔板44に衝突して上下左右に分流し、そのときに攪拌されて均一な状態にされる。邪魔板44は、パワーエレメント17の取付穴に突入しているので、邪魔板44に衝突してパワーエレメント17の方向に分流された冷媒は、邪魔板44に案内されてパワーエレメント17に直接導かれるようになり、パワーエレメント17の感温性能が向上する。
【0044】
なお、この第3の実施の形態に係る膨張弁では、ホルダ37の両側に2つの邪魔板44を設けているが、いずれか一方だけでもよい。この場合、この膨張弁の冷媒戻り通路32が内部で直角に曲がっているので、邪魔板44は、流速が早くなるコーナー外側にのみ配置される。また、この膨張弁では、冷媒戻り通路32内にて戻り冷媒入口ポート15の軸線に対して直交する方向に邪魔板44を設置してある。しかし、邪魔板44の取り付けの方向は、図示のような戻り冷媒入口ポート15の軸線に対して直交する方向と戻り冷媒出口ポート16の軸線に対して直交する方向との間で任意に設定することができる。
【0045】
図10はエバポレータとの間の配管が接続される側から見た第4の実施の形態に係る膨張弁の側面図である。なお、この図10において、図2および図5に示した構成要素と同じ構成要素については同じ符号を付してその詳細な説明は省略する。
【0046】
この第4の実施の形態に係る膨張弁は、冷媒攪拌手段として、戻り冷媒入口ポート15に嵌め込まれたメッシュ部材45を備えている。これにより、エバポレータ4から均一に混合されていない冷媒が戻ってきて戻り冷媒入口ポート15に導入された場合、その冷媒は、メッシュ部材45を通過して細分化される。したがって、このメッシュ部材45の下流側の冷媒戻り通路32には、メッシュ部材45により攪拌混合されて、均一な状態にされた冷媒が通過することになり、パワーエレメント17は、その均一な状態に攪拌された冷媒の温度および圧力を感知する。
【0047】
以上の第1ないし第4の実施の形態では、冷媒戻り通路32が内部で直角に曲がっている膨張弁について説明したが、冷媒戻り通路32が内部でストレートに形成されている膨張弁でも同じように適用することができる。また、冷媒攪拌手段、第1の実施の形態の絞り通路40、第2の実施の形態の絞り通路部材43、第3の実施の形態の邪魔板44および第4の実施の形態のメッシュ部材45を組み合わせて構成することもできる。
【符号の説明】
【0048】
1 コンプレッサ
2 コンデンサ
3 膨張弁
3a 第1の弁
3b 第2の弁
4 エバポレータ
4a 第1の熱交換器
4b 第2の熱交換器
5 冷却ファン
6 ファン
11 ボディ
12 高圧入口ポート
13 第1の低圧出口ポート
14 第2の低圧出口ポート
15 戻り冷媒入口ポート
16 戻り冷媒出口ポート
17 パワーエレメント
18 シャフト
19 圧縮コイルスプリング
20 アジャストねじ
21 第1の弁体
22 第1の弁座
23 第1の弁孔
24 第2の弁体
25 第2の弁座
26 第2の弁孔
27 弁室
28 ガイド
29 連通路
30 軸方向延出部
31 Oリング
32 冷媒戻り通路
33 ダイヤフラム
34 アッパーハウジング
35 ロアハウジング
36 ディスク
37 ホルダ
38 圧縮コイルスプリング
39 Oリング
40 絞り通路
41 キャップ
42 絞り部材
43 絞り通路部材
43a 整流羽根
44 邪魔板
45 メッシュ部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の弁と、第2の弁と、前記第1の弁および前記第2の弁のリフトを制御するパワーエレメントとを備えた膨張弁であって、
前記パワーエレメントによって温度および圧力が感知される冷媒を導入する戻り冷媒入口ポートに配置されて前記戻り冷媒入口ポートに導入された冷媒を均一の状態にする冷媒攪拌手段を備えていることを特徴とする膨張弁。
【請求項2】
前記冷媒攪拌手段は、前記戻り冷媒入口ポートと前記パワーエレメントに連通する冷媒戻り通路との間に配置され前記冷媒戻り通路の内径よりも小さな内径を有する絞り通路であることを特徴とする請求項1記載の膨張弁。
【請求項3】
前記絞り通路は、前記冷媒戻り通路の流れ方向に延びる中心軸よりも前記パワーエレメントから離れる方向にオフセットされた位置に形成されていることを特徴とする請求項2記載の膨張弁。
【請求項4】
前記冷媒攪拌手段は、前記戻り冷媒入口ポートに嵌め込まれて中央に絞り通路を有する絞り通路部材であることを特徴とする請求項1記載の膨張弁。
【請求項5】
前記絞り通路部材は、前記絞り通路の内側に突設された複数の整流羽根を有していることを特徴とする請求項4記載の膨張弁。
【請求項6】
前記整流羽根は、前記絞り通路を通過する冷媒に対して同じ方向の旋回流を付与する機能を有していることを特徴とする請求項5記載の膨張弁。
【請求項7】
前記冷媒攪拌手段は、前記パワーエレメントに連通する冷媒戻り通路に配置された邪魔板であることを特徴とする請求項1記載の膨張弁。
【請求項8】
前記邪魔板は、前記冷媒戻り通路を貫通して配置され前記パワーエレメントの駆動力を前記第1の弁および前記第2の弁に伝達するシャフトを保持するホルダに取り付けられ、前記パワーエレメントの側の先端が前記冷媒戻り通路から前記パワーエレメントに連通するパワーエレメント取付穴に侵入した状態で設置されていることを特徴とする請求項7記載の膨張弁。
【請求項9】
前記邪魔板は、前記ホルダの両側に突出するよう前記ホルダと一体に形成されていることを特徴とする請求項8記載の膨張弁。
【請求項10】
前記冷媒攪拌手段は、前記戻り冷媒入口ポートに嵌め込まれたメッシュ部材であることを特徴とする請求項1記載の膨張弁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−220142(P2012−220142A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−88492(P2011−88492)
【出願日】平成23年4月12日(2011.4.12)
【出願人】(000133652)株式会社テージーケー (280)
【Fターム(参考)】