説明

臓器の機能の増強

【課題】臓器の一部のみが損傷を受けたのに、臓器全体が置換される必要は無いという多くの状況が存在する。従って、臓器全体の成長又は置換を必要としない様式にて臓器の機能を増強するための良好な方法及び組成物に関する要求が存在する。
【解決手段】ミニマトリックス材料及び腎臓細胞を含む、天然腎臓の増強のための移植用材料であって、腎臓細胞はミニマトリックス材料に付着しており、そして移植用材料がヒトの天然腎臓に移植されることを特徴とする、移植用材料が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願に対するレファレンス
この出願は、2001年11月16日に出願された米国仮出願連続番号60/331,500の優先権を主張する。この出願は、1999年12月29日に出願された米国特許出願連続番号09/474,525の一部継続出願でもある。両関連出願の内容は、引用により表現上編入される。
【背景技術】
【0002】
この発明の技術分野は、培養された細胞集団の移植による、臓器の機能の増強である。典型的には、顕著なパーセンテージのあらゆる臓器の機能は、患者が臓器不全を完全に患う前に喪失されるかもしれない。例えば、90から95パーセントほどの腎臓機能が、腎不全が顕在化する前に喪失され得る。これは、迅速な自己再生の圧倒的な能力を示す(Cuppageet al.,(1969)Lab.Invest.21:449−459;Humeset al.,(1989.Clin.Invest.84:1757−1761;及びWitzgallet al.(1994)J.Clin.Invest.93:2175−2188)。この再生能力は、腎臓が数日又は数週間以内で正常な機能を回復することを可能にさせる。
【0003】
正常な腎臓の機能及び能力の破壊は、感染、循環器不全(ショック)、血管封鎖、腎糸球体炎、尿流障害、外傷、敗血症、術後の癒着又は医薬、例えば抗生物質に付随する腎不全等の過多な機構(a plethora of mechanisms)のために起こるのかもしれない。これらの理由のほとんどは腎機能の能力を低下させることにつながる。
【0004】
これらの病気のいくつかの治療は、典型的には、血管系から無駄な生成物及び化学物質を除去する透析又は移植を含む。透析は、ほとんどの患者にとって顕著な不便さを呈する。通常、治療の管理は、患者が透析ユニットに拘束される長い時間を含む。透析の手続は1週間の間に複数回も繰り返される。多くの場合、患者は副作用、例えば患者の血流の素早い変化に付随した筋肉痙攣及び高血圧を経験する。
【0005】
腎臓移植の場合の主な危険は、良好な組織適合性の場合であっても、腎臓の拒絶である。免役抑圧剤、例えばシクロスポリン及びFK506が、通常、患者に投与されて拒絶を防止する。しかしながら、これらの免役抑圧剤は、十分な免役抑圧と毒性の間の狭い治療ウインドウを有する。延期された免役抑圧は免役系を弱くし、そして感染の発症の脅威を導き得る。いくつかの例においては、免役抑圧剤でさえ、腎臓の拒絶を防止するには十分でない。
これらの問題を回避する試みにおいて、患者自身の腎細胞をインビトロにおいて培養する、様々な方法が報告された。例えば、米国特許番号5,429,938がHumesに付与され、培養した腎細胞を用いた腎臓細管の再生方法を記載する。再生された腎臓細管は、患者に移植することができる。
Naughtonらは、ストロマ細胞がポリマー支持体系の上に撒かれ(米国特許5,863,531を参照)、そして柔組織細胞をストロママトリックス上で培養する、三次元組織培養系を開示する。Vacantiらは、生物により分解可能なポリマーから作成された三次元マトリックス中で細胞を培養する方法も開示した。上記の方法は、支持体の構造を完全な臓器の所望の外形に成型することに依存し、この人工の臓器が置換物として体の空洞に移植され得るようにする。しかしながら、臓器の一部のみが損傷を受けたのに、臓器全体が置換される必要は無いという多くの状況が存在する。
従って、臓器全体の成長又は置換を必要としない様式にて臓器の機能を増強するための良好な方法及び組成物に関する要求が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許番号5,429,938
【特許文献2】米国特許5,863,531
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Cuppage et al.,(1969)Lab.Invest.21:449−459
【非特許文献2】Humes et al.,(1989.Clin.Invest.84:1757−1761
【非特許文献3】Witzgall et al.(1994)J.Clin.Invest.93:2175−2188
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、組織特異的な細胞又は未分化の細胞をマトリックス材料(例えば、ウエファー、スポンジ、又はヒドロゲル)に植えることにより生成した小スケールのマトリックス移植物を用いて、臓器の機能を増強させるための方法及び組成物を提供する。新しい形態形質(neomophic)の臓器増強構造に分化することのできる組織層を提供するために細胞を生育させるように、上記の植えられたマトリックス組成物を次にインビトロにて培養して、三次元バイオマトリックスを形成させることができる。一度移植されたなら、上記三次元バイオマトリックスは、臓器中の一つ又は複数の標的部位において分化して増殖することにより、当該部位において臓器の機能を増強させる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明は、一部、植えられたミニマトリックスが追加の細胞集団の活性な増殖を維持することになるとの発見に基づく。これは、一部には、新規な細胞の活性な増殖の延期された期間を許容するマトリックス構造の表面の面積の増加によるかもしれない。延期された増殖は、細胞が、新しい形態形質の臓器増強構造に分化することを可能にさせ、それ自身は臓器増強ユニットに分化し得るか、又は臓器増強構造に分化する他の細胞集団の生育及び分化のサポートを提供し得る。さらに、上記マトリックスは、インビボの条件を模倣する空間的分配を可能にさせ、即ち、細胞の成熟及び移動を補助するマイクロな環境の形成を可能にさせる。これは、細胞−細胞の相互作用が生じることを可能にさせる正確な空間的距離を提供する。このマトリックスの存在下での細胞の生育は、蛋白質、糖蛋白質、グリコサミノグリカン及び細胞マトリックスを添加することにより、さらに増強してよい。
【0010】
発明の一つの側面において、細胞がマトリックス材料に付着して臓器機能を増強できる組織の層を生成して、例えば、心臓、腎臓、肝臓、膵臓、脾臓、膀胱、尿管又は尿道を増強するように、培養された細胞の少なくとも一つの集団によりマトリックス材料を潅流すること(perfusing)により形成された三次元バイオマトリックスを含む、臓器の機能を増強することに関して、人工臓器構築物が開示される。
【0011】
上記構築物は、ミニマトリックス材料、例えば脱細胞化組織、ヒドロゲル又は合成ポリマー又は天然ポリマー上に細胞を植えることにより形成できる。好ましくは、当該マトリックスは、「ミニマトリックス」であって、そのもっとも大きな面積は約50ミリメートルよりも狭い。一つの好ましい態様において、当該マトリックスは、そのもっとも大きな面積のその厚さに対する比が5:1である実質上平坦な構造である。
【0012】
発明の別の側面において、臓器増強構造は腎臓機能増強構造であって、腎細胞がマトリックスに付着してネフロン構造又はネフロン構造の一部へ分化する組織の層を生成して、それにより腎臓機能を増強するように、腎細胞の集団によりマトリックス材料を潅流すること(perfusing)により形成された三次元バイオマトリックスを含む。
【0013】
発明のさらに別の側面において、上記マトリックスは、内皮細胞がマトリックスに付着して血管系を含む組織の層を生成して、次に細胞の第2集団を植えるようにし、そのような第2細胞集団が血管系を含む内皮組織層に付着して、臓器の機能を増強するように分化するように、内皮細胞の集団によりマトリックス材料を最初に潅流した(perfused)。
【0014】
一つの側面において、発明は、臓器全体を置換するか又は臓器全体を再生することなく、臓器の機能を増強することに近づく。例えば、腎臓機能を増強するため、小さな検体を腎臓及び腎細胞から取り出してインビトロにおいて増やすことができる。損傷した細胞を除去するための細胞の分画(sorting)後に、正常な細胞をマトリックスの(例えば、EGAウエファー、スポンジ、ヒドロゲル)上に置いて、培養することができる。マトリックスは、次に、新しい形態形質(neomophic)の組織構造に分化してバイオマトリックスを生成することができる腎組織層を細胞が生成するまで、培養される。当該バイオマトリックスは、次に、腎臓内の所望の場所か又は尿管の近傍の何れかにて(例えば、尿管又は膀胱の近傍)、患者へ移植により戻される。
【0015】
全ての腎細胞種を、即ち、近位曲細管、糸球体、遠位細管及び集合細管(collecting duct)を、単離することができる。当該細胞は別々にか又は共に植えることができる。細胞を共に植える場合には、異なる種類の細胞を連続してマトリックス上に植えるか、又は別の例においては、様々な細胞種を共に植えることができる。細胞の混合物は、移植後数週間にて腎臓組織へ再生する。発明の一つの態様において、腎細胞は、ポリマー材料、例えば酢酸エチルグリコール(EGA)のウエファー又は細胞除去された組織の上に置くことができる。当該ウエファーは、局在化された領域への移植に適したあらゆる形態にて配置することができ、例えば、丸めることができるし、平坦にすることができる等である。一つの態様において、当該ウエファーは、臓器、例えば腎臓の一カ所に配置することができる。別の態様において、多数のウエファーを臓器中の異なる位置に配置することができる。一つの好ましい態様において、マトリックスは、移植の苦痛を最大に楽にさせるため最小化される。多くの応用において、小さなマトリックスが好ましく、最大面積が50ミリメートル又はそれ未満、好ましくは23ミリメートル又はそれ未満、そしてもっとも好ましくは10ミリメートル又はそれ未満のオーダーであるサイズを有する。例えば、ポリマーウエファーは、約2−5mm、好ましくは約2−3mmを有し得る。当該ウエファーは、ウエファー上の細胞と周囲の細胞の間に脈管質(vascularity)を生じさせることを可能にするのに十分薄いことが好ましい。一つの態様において、マトリックスは、成長因子、例えばVEGFにより処理することができる。
【0016】
インビトロの成長の間、細胞は分化して、マトリックス材料を包囲する組織層を生成する。当該組織層は、新しい形態形質(neomophic)の臓器増強構造に分化することができて、且つ、追加の培養された細胞集団の生育及び分化をサポートする。一つの態様において、当該組織層は、腎細胞に由来することができる。別の態様において、当該組織層は、原始脈管系を生じるように分化する内皮細胞に由来することができる。この原始脈管系は、生育及び分化を続け、そしてさらに、他の柔組織細胞の生育を支持する。一つの態様において、増強の標的は、心臓、腎臓、肝臓、膵臓、脾臓、膀胱、尿管又は尿道からなる群から選択される臓器である。別の態様において、増強の標的は、心臓、腎臓、肝臓、膵臓、脾臓、膀胱、尿管又は尿道からなる群から選択される臓器の一部である。好ましい態様において、標的臓器は腎臓である。
【0017】
別の側面において、発明は、臓器不全の患者を治療する方法を特徴とし、マトリックス材料を植えることにより形成されたバイオマトリックスに細胞集団を移植するが、当該細胞がマトリックスに付着することにより、新しい形態形質(neomophic)の臓器増強構造に分化することができる、原始脈管系を含む組織を生成するようにし;そして臓器不全における変調に関して対象(subject)を監視することを含む。
【0018】
別の側面において、発明は、人工臓器構築物を特徴とし、マトリックス材料を植えることにより形成されたバイオマトリックスを細胞集団と共に含み、当該細胞がマトリックスに付着することにより、新しい形態形質(neomophic)の臓器増強構造に分化することができるようにする。
【0019】
別の側面において、発明は、人工腎臓構築物を再生するための方法を特徴とし、組織特異性細胞又は未分化の細胞をマトリックス材料、例えばウエファー、スポンジ、又はヒドロゲルの上に植えるが、当該細胞がマトリックスに付着するようにし;細胞が組織構造を生成するまで細胞をマトリックスの中及び上で培養し;そしてインビボにおいて臓器の増強に関して標的部位において植えられたマトリックスを移植することを含む。
【0020】
別の側面において、発明は、腎不全の対象を治療する方法を特徴とし、マトリックス材料を植えることにより形成されたバイオマトリックスを細胞集団と共に含み、当該細胞がマトリックスに付着することにより、新しい形態形質(neomophic)の臓器増強構造に分化することができる原始脈管系を含む組織を生成するようにし、そして、腎不全における変調に関して対象を監視することを含む。
【0021】
別の側面において、発明は、人工腎臓構築物を特徴とし、マトリックス材料を植えることにより形成されたバイオマトリックスを細胞集団と共に含み、当該細胞がマトリックスに付着することにより、新しい形態形質(neomophic)の臓器増強構造に分化することができる原始脈管系を含む原始組織(proto-tissue)を生成するようにすることを含む。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、バイオマトリックスを使用した腎臓の増強を示す模式的図表である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
詳細な説明
本発明の実施は、他に示さない限り、当業者の範囲内の、微生物学、分子生物学及び組換えDNA技術の慣用の方法を用いる。そのような技術は、文献中に完全に説明されている。(例えば、Sambrook,etal.Molecular Cloning:ALaboratory Manual(最新版);DNACloning:A Practical Approach,Vol.I & II(D.Glover,編纂);Oligonucleotide Synthesis(N.Gait,編纂、最新版);NucleicAcid Hybridization(B.Hames& S.Higgins,編纂、最新版);Transcriptionand Translation(B.Hames& S.Higgins,編纂、最新版);PCRHandbook of Parvoviruses,Vol.I & II(P.Tijessen,編纂);Fundamental Virology,第2版、Vol.I& II(B.N.Fieldsand D.M.Knipe,編纂)を参照。)発明は、組織工学の文献に記載された技術も用いる(例えば、Lanzaらによる、Principlesof Tissue Engineering(参照)を参照)。発明をより容易に理解する目的で、最初に用語を定義する:
本明細書にて使用される句「臓器機能を増強する」又は「臓器の機能を増強する」は、最適に満たない能力にて機能している臓器の機能を、増大させ(increasing)、向上させ(enhancing)、改善する(improving)ことを意味する。当該用語は、その対象にとって生理学上受容可能な能力にて臓器が機能しているような機能上の利益を意味するのに使用される。例えば、子供由来の臓器、例えば腎臓又は心臓に関しての生理学上受容可能な能力は、成人又は年配の患者の生理学上受容可能な能力とは異なるはずである。臓器全体又は臓器の一部が増強できる。好ましくは、当該増強が本来の臓器と同じ生理学上の応答性を伴う臓器をもたらす。好ましい態様においては、その本来の能力の少なくとも10%までそれが機能する場合の能力に、臓器が増強される。
【0024】
本明細書にて使用される句「三次元バイオマトリックス」又は「増強構築物」又は「新しい形態形質(neomophic)の臓器増強構造」は、細胞で潅流されて(perfused)、細胞が組織層を形成するまで培養されたミニマトリックスを意味する。当該組織層は、単一の単層又は複数の層であり得る。組織特異性細胞は、増強を必要とする特定の臓器に由来する細胞を意味し、例えば、臓器の増強のための腎臓臓器に由来する細胞、及び心臓の臓器増強のための心臓由来の細胞を意味する。三次元バイオマトリックス中の細胞は「組織様の」組織構造を確立し、組織様構造を再生することができ、そして真の臓器又は臓器の一部に事実上分化することができる。三次元バイオマトリックスは人工の臓器であるか、又は臓器の一部が本来の臓器の「機能上の均等物」であり、即ち本来の臓器と同じか又は類似の様式で挙動し、例えば、人工の腎臓は生体内の腎臓と同じ機能上の特性を有する。例えば、腎臓増強構造は、ネフロン構造又はネフロン構造の一部に分化することが可能な組織の層を有するものであり得る。腎臓の増強に関しては、組織特異的細胞は、遠位細管、近位曲細管、糸球体細胞、ボーマン嚢細胞、及びヘンレ係蹄細胞のループからなる群から選択される、単離集団の細胞であり得る。或いは、上記組織特異性細胞は、遠位細管、近位曲細管、糸球体細胞、ボーマン嚢細胞、及びヘンレ係蹄細胞のループを含む、混合された集団の細胞であり得る。特定の疾患又は異常(disorder)を扱う様々な三次元バイオマトリックスが創製され得る。例えば、三次元バイオマトリックスは、マトリックス材料を潅流するために使用される糸球体細胞の均質な集団を用いることにより、糸球体に関連した異常を改善するために、特別に創製され得る。或いは、上記三次元バイオマトリックスは、腎細胞の混合された集団を用いて創製された遺伝子構築物であり得る。
三次元バイオマトリックスを臓器内の標的部位にて宿主組織と接触させる場合、当該標的部位内で生育及び増殖し、そしてその部位において臓器の奪われた活性を補充するか又は増強することができる。増強構築物は臓器内の一カ所に加えることができる。或いは、多数の増強構築物を創製して、臓器の複数の部位に加えることができる。
【0025】
本明細書において使用される「腎細胞(renal cells)」なる句は、腎臓のあらゆる領域に由来する細胞、例えば、遠位細管、近位曲細管、糸球体細胞、ボーマン嚢細胞、又はヘンレ係蹄細胞のループ由来の細胞を意味する。当該用語は、腎臓からの全ての細胞を含む細胞の混合物を意味するのに使用される。当該用語は、ネフロンの領域由来の細胞の単離された亜集団、例えば糸球体細胞のみの単一集団を意味するのにも使用される。腎臓由来の細胞は、対象から検体を採取することにより得ることができる。細胞分類技術は、疾患細胞から健常細胞を単離するのに使用することができる。細胞分類技術は、細胞の亜集団を単離するのに使用することもできる。
【0026】
本明細書において使用される用語「ネフロン構造」は、血液から老廃物及び過剰な物質を除去して尿を生成する腎臓の全機能ユニットを意味する。各腎臓内の百万ばかりのネフロンの各々は管で1.2−2.2インチ(30−55mm)の長さである。一方の末端が、閉じており、伸長し、そして「ボーマン嚢」と呼ばれる二重壁のカップ様構造にフォールドされ、「糸球体」と呼ばれる毛細血管の束を封入する。血液から押しやられた流体(fluids)は、糸球体の毛細血管の壁を通り、隣接する腎臓細管に流れ、そこでは、当該流体から水と栄養物が選択的に血液に再吸収され、電解質、例えばナトリウム及びカリウムがヘンレ係蹄細胞のループ及び近位曲細管にてバランスをとられる。最終的に濃縮された生成物が集合細管(collecting duct)において尿として回収される。
【0027】
本明細書において使用される用語「ネフロン構造の一部」は、ネフロンのあらゆるセクションを意味する。例えば、細胞集団は、糸球体細胞のみの単離集団を生成するように分類することができる。この単離された糸球体細胞の集団を用いることにより、ミニマトリックス材料を植えることができ、そして培養することにより、糸球体に分化する糸球体組織層を有する三次元ミニバイオマトリックスを生成することができる。同じ方法論を適用することにより、ネフロンの異なる領域に由来する特定の細胞を伴う三次元ミニバイオマトリックスを生成することができ、ネフロンの別の部分、例えば遠位細管に分化する。ネフロンの特定の領域に関連する他の腎臓疾患は、管状細胞に関連する病状を含む。
【0028】
本明細書において使用される用語「標的部位」は、増強を必要とする臓器内の領域を意味する。標的部位は、臓器内の単一の領域であり得るか、又は臓器内の複数の領域であり得る。臓器全体、又は臓器の一部を増強することができる。好ましくは、増強が正常な臓器と同じ生理学上の応答を有する臓器をもたらす。臓器全体は、臓器全体に沿って、或いは腎臓の縦の全切片に沿って、適切な距離で複数のバイオマトリックスを配置することにより、増強することができる。或いは、臓器の一部は、臓器の一つの標的部位、例えば腎臓の上部に、少なくとも一つのバイオマトリックスを配置することにより、増強することができる。
【0029】
本明細書において使用される用語「付着する(attach又はattaches)」は、マトリックスに直接接着させた(adhered)細胞又は他の細胞に付着させた細胞自体にあてはまる。
本明細書において使用される「ミニマトリックス材料」なる句は、細胞が付着することを可能にさせる支持フレームワークを意味する。好ましくは、「ミニマトリックス」は、約50ミリメートルを超えない最大寸法を有する。一つの好ましい態様において、当該マトリックスは、その最大寸法のその厚さに対する比が5:1を超える実質上平坦な構造である。ミニマトリックス材料は、細胞がそれに付着するか又はその中に付着することを許容し(又は、細胞がそれに付着するか又はその中に付着することを許容するように修飾され得る);かつ細胞が少なくとも一つの単層の中又は少なくとも一つの組織層の中に成長することを許容する、あらゆる材料及び/又は形態から構成される。培養された細胞集団は、次に、マトリックス上、又はマトリックス内で成長させることができる。一つの態様において、マトリックス材料は、細胞−細胞相互作用に要求される所望の間隙距離を提供するポリマー性マトリックスである。別の態様において、マトリックス材料は、典型的には水に不溶性であるか又はほとんど溶解しないが、過剰の水の存在下で安定したサイズに膨張し得る、架橋されたポリマーネットワークから構成されるヒドロゲルである。ヒドロゲルの独特の特性及び制御されたドラッグデリバリーのようなエリアにおける有力な応用性のため、様々な種類のヒドロゲルが合成されて特性決定されている。
【0030】
ミニマトリックス材料のサイズも、増強される臓器の面積に応じて変更される。好ましくは、マトリックスの容積は、約1mmから臓器のサイズまで変動し得る。もっとも好ましくは、容積のサイズは約0.01mmから約30mmであり、より好ましくは約0.1mmから約20mmであり、さらにより好ましくは約1mm,2mm,3mm,4mm,5mm,6mm,7mm,8mm,9mm、そして10mmの容積である。伸長したか又は平坦なマトリックスは、好ましくは多数の応用性がある。好ましくは、マトリックスの最大寸法の長さは、0.2mmを超え、100mm未満であり、より好ましくは約0.50mmから約30mmまでで変動する。好ましい態様において、ミニマトリックスの形態は、実質上平坦であり、そしてその最大寸法のその厚さに対する比が5:1を超え、より好ましくは10:1を超える。
【0031】
ミニマトリックス材料の形態及び寸法は、増強される臓器、及びミニバイオマトリックスを創製するのに使用されるミニマトリックス材料の種類に基づいて決定される。例えば、ポリマー性材料を腎臓の増強に用いるなら、ポリマー性材料の寸法は当該ポリマー性材料の幅及び長さの点から変更することができ、例えば、上記寸法は約1mm幅x 1mm長 x 1mm高から約10mm幅 x 20mm長 x1mm高であり得る。当業者は、ポリマー性材料のサイズ及び寸法が増強される臓器の面積並びに増強される実際の臓器の面積に基づいて決定されることを認識する。
【0032】
或いは、マトリックス材料が腎臓を増強するために使用されるヒドロゲルであるなら、ヒドロゲルの容積は腎臓内で増強されるエリアのサイズに基づいて決定することができる。例えば、細胞の集団が約1mm,2mm,3mm,4mm,5mm,6mm,7mm,8mm,9mm、そして10mmの容積に培養される。一つの態様において、ヒドロゲルは臓器内の一つ又は複数の部位において注射できる。ヒドロゲルの容積は、臓器及び増強される臓器の面積に基づいて変更可能である。例えば、臓器が心臓であり、そして心臓の梗塞のエリアを増強するならば、ヒドロゲルの容積は梗塞のサイズより小さな容積から梗塞の実際のサイズの容積まで変動し得る。
【0033】
本明細書において使用される用語「バイオ構造(biostructure)」は、臓器の一部から全細胞及び組織含有物を除去することにより脱細胞化された臓器の一部を意味する。
本明細書において使用される用語「脱細胞化された(decellularized)」又は「脱細胞化(decellularization)」は、細胞及び組織含有物が除去されて完全な無細胞下部構造(infra-structure)を後に残すバイオ構造(例えば、臓器、又は臓器の一部)を意味する。臓器、例えば、腎臓は、様々な特化された組織から構成される。特化された組織構造の臓器、又は柔組織は、臓器に関連する特定の機能を提供する。臓器の支持性繊維状ネットワークは、ストロマである。ほとんどの臓器は、特化された組織を支持する非特化結合組織からなるストロマネットワークを有する。脱細胞化のプロセスは特化された組織を除去し、結合組織の複合三次元ネットワークを後に残す。結合組織下部構造は主にコラーゲンからなる。脱細胞化された構造は、異なる細胞集団が注入され得るマトリックス材料を提供する。脱細胞化されたバイオ構造は剛性であるか、又は半剛性であり、それらの形態を変更する可能性を有する。本発明に有用な脱細胞化された臓器の例は、限定ではないが、心臓、腎臓、肝臓、膵臓、脾臓、膀胱、輸尿管及び尿道を含む。
【0034】
本明細書において使用される「三次元骨格(scaffold)」なる句は、天然のバイオ構造、例えば臓器が脱細胞化される場合に形成される残りの下部構造を意味する。この複雑な三次元の骨格は、細胞がそれに付着するか又はその上で生育することを許容する支持性フレームワークを提供する。培養された細胞の集団は、次に、三次元骨格上で成長することができ、細胞−細胞相互作用に要求される正確な間隙距離を提供する。これは、天然の生体内の臓器を模倣した再構成臓器を提供する。この三次元骨格は、成熟脈管系に分化することができる原始脈管系を含む内皮組織層を提供するように生育及び分化する培養された内皮細胞の集団により潅流される。当該内皮組織層及び原始脈管系は、少なくとも一つの追加の培養細胞集団の生育及び分化を支持することもできる。
【0035】
本明細書にて使用される用語「原始脈管系(primitive vascular system)」は、血液を組織構造に供給する血管を含む脈管系の分化の初期段階を意味する。
本明細書にて使用される用語「対象(subject)」は、免役応答を導き出すことができるあらゆる生物体を意味する。用語対象は、限定ではないが、ヒト、非ヒト霊長類、例えばチンパンジー及び他の無尾類(apes)及びサル種;農場の動物、例えば畜牛、ヒツジ、ブタ、ヤギ及びウマ;飼育動物、例えばイヌ及びネコ;実験動物、齧歯類、例えばマウス、ラット及びモルモットを含む;等々を含む。当該用語は特定の年齢及び性別を意味しない。すなわち、成体及び生まれたばかりの対象、並びに胎児、オス又はメスが包含されることを意図する。
細胞の単離及び培養
細胞は、多数の供給源、例えば検体、又は検屍、所望の臓器に分化するようにプログラムされた幹細胞集団、非免疫性にさせるように被包された(encapsulated)異種(heterologous)細胞集団、異種(xenogenic)細胞及び同種異系(allogenic)細胞から単離することができる。また、発明の範囲に含まれるのは、組織の形成を改善する成長因子のような因子により細胞集団をトランスフェクトすることを含む方法である。
【0036】
単離された細胞は、好ましくは、同種異系(allogenic)、自己由来細胞であり、対象からの検体から得られる。例えば、腎細胞は、対象の機能不全の腎臓から得て、インビトロにおいて培養することもできる。検体は、検体針又は手続を素早く且つ単純にさせる高速作動性針を用いて、得ることができる。検体のためのエリアは、少量のリドカインを皮下注射することにより局所麻酔して処理することができる。臓器、例えば腎臓の小さな検体のコアは、次に、展開してインビトロにおいて培養することができ、Atala,etal.,(1992)J.Urol.148,658−62;Atala,et al.(1993)J.Urol.150:608−12に記載されているとおりである。同じ種の親戚(relatives)ドナー又は他のドナーからの細胞も、適切な免疫抑圧により使用することができる。
【0037】
細胞の単離及び培養の方法は、Fauza et al.(1998)J.Ped.Surg.33,7−12及びFreshney,Cultureof Animal Cells,A Manual ofBasic Techniques,第2版、A.R.Liss,Inc.,NewYork,1987,第9章、pp.107−126に論じられており、引用により本明細書に編入される。細胞は、当業者に周知の技術を用いて単離してよい。例えば、組織又は臓器は、機械的にバラバラにするか、及び/又は、消化酵素及び/又は隣接細胞との間の結合を弱くするキレート剤により処理して、細胞を相当破壊すること無しに個々の細胞の懸濁液に組織を分散させることを可能にする。酵素による解離は、組織をミンスし、そして多数の消化酵素の何れかの単独又は組み合わせによりミンスされた組織を処理することにより達成することができる。これは、限定ではないが、トリプシン、キモトリプシン、コラゲナーゼ、エラスターゼ及び/又はヒアルウロニダーゼ、DNase、プロナーゼ及びディスパーゼを含む。或いは、機械的な破壊を使用することができ、これは限定ではないが、臓器の表面を解体すること、グラインダー、ウレンダー、篩、ホモジェナイザー、プレッシャーセルズ(pressure cells)、又は音波処理機の使用を含む多数の方法により達成することができる。組織をバラバラにする技術の総説は、Freshney,(1987)Cultureof Animal Cells.A Manual ofBasic Techniquies,第2版、A.R.Liss,Inc.,NewYork,第9章、pp.107−126を参照されたい。
【0038】
好ましい細胞の種類は、限定ではないが、腎臓細胞、内皮細胞、心臓細胞、肝臓細胞、膵臓細胞、脾臓細胞、尿路上皮細胞、間組織細胞、平滑筋又は骨格筋細胞、筋細胞(筋肉幹細胞)、繊維芽細胞、軟骨細胞、含脂肪細胞、筋結合細胞(fibromyoblasts)、及び外胚葉細胞を含み、延性(ductile)及び皮膚細胞、肝細胞、島細胞、腸に存在する細胞、及び他の柔細胞、骨芽細胞及び骨及び軟骨を形成する他の細胞を含む。いくつかの場合、神経細胞を含むことが望まれてもよい。好ましい態様においては、腎臓細胞を単離する。全ての発生段階、例えば、胎児、新生児、若年から成体に由来する腎臓細胞を使用してよい。別の好ましい態様においては、内皮細胞を単離する。
【0039】
組織が個々の細胞の懸濁液にまでされたなら、当該懸濁液を細胞要素が得られ得る亜集団に分画することができる。これは、特定の細胞種のクローン化及び選択、不所望な細胞の選択的破壊(ネガティブ選択)、混合された集団内の細胞の凝集力の相違に基づく分離、凍結溶解手法、混合された集団内の細胞の接着特性の相違、濾過、慣用のゾーン遠心分離、遠心分離による傾瀉(カウンターストリーミング遠心分離)、単位重力分離(unit gravity separation)、逆電流分配(countercurrent distribution)、電気泳動及び蛍光活性化細胞分類を含む細胞分離のための標準技術を用いて達成してもよい。クローン化による分離及び細胞分離技術に関する総説は、Freshney,(1987)Cultureof Animal Cells.A Manual ofBasic Techniques,第2版、A.R.Liss,Inc.,NewYork,第11及び12章、pp.137−168を参照されたい。例えば、腎臓の腎細胞は、蛍光活性化細胞分類により富裕化してよい。また、腎細胞の異なる領域を別の亜集団に分類してもよい。例えば、糸球体細胞、ボーマン嚢細胞、遠位細管、近位曲細管、ヘンレ係蹄細胞のループ及び集合管細胞の亜集団の分類である。
【0040】
細胞の分画は、疾患細胞から謙譲細胞を分類することを望んでも良く、例えばドナーが疾患、例えば癌又は腫瘍の転移を有する場合である。細胞集団を分類することにより、悪性腫瘍細胞又は他の腫瘍細胞を正常の非癌細胞から分離してよい。一つ又は複数の細胞分類技術により単離された正常な非癌細胞は、のちに臓器の増強に使用してよい。
【0041】
単離された細胞はインビトロにて培養されることにより、マトリックス材料をコートするのに利用可能な細胞の数を増加させることができる。同種異系(allogenic)細胞、好ましくは自己細胞の使用は、組織の拒絶を避けるのに好ましい。しかしながら、免疫性の応答が人工臓器の移植後に対象に起こったなら、対象は免疫抑圧剤、例えばシクロスポリン又はFK506により処理されて、拒絶の起こり得る可能性を低下させてよい。特定の態様においては、キメラ細胞又はトランスジェニック動物由来の細胞をマトリックス材料にコートすることができる。或いは、幹細胞を使用してよい。
【0042】
幹細胞は、発明の新しい形態形質(neomophic)の臓器増強構造を生じさせるのに使用することもできる。幹細胞は、ヒトドナー、例えば多能性(pluripotent)造血幹細胞、胚性幹細胞、成人の体細胞の幹細胞及び等々から得ることができる。上記幹細胞は、ポリペプチド、組換えヒト成長因子及び成熟促進因子、例えばサイトカイン、リンフォカイン、コロニー刺激因子、マイトジェン、成長因子、及び成熟因子の組み合わせの存在下で培養することにより、所望の細胞種、例えば腎細胞、又は心臓細胞に分化させることができる。成人骨髄幹細胞(BMSCs)からの腎臓及び肝臓細胞への幹細胞分化の方法は、例えば、Forbeset al.(2002)GeneTher 9:625−30により記載されている。胚性幹細胞の、心臓の特化された細胞種、例えば心房様細胞、心室様細胞、静脈洞(sinus)様細胞、及びプルキニエ様細胞の全ての代表である心筋細胞のような細胞へのインビトロの分化のプロトコルは、確立されている(例えば、Boheleret al.(2002)CircRes 91:189−201を参照されたい)。後腎の間組織由来の多分化能(multipotent)の幹細胞は少なくとも3つの細胞種;糸球体、近位及び遠位の上皮を生成させることができ、即ち、単一のネフロンセグメントに分化する(例えば、Herzlingeret al.(1992)Development114:565−72を参照されたい)。
【0043】
臓器の細胞、例えば腎臓の細胞は、マトリックス材料をコーティングする前に、特定の遺伝子によりトランスフェクトすることができる。新しい形態形質の臓器増強構造は、増強される宿主又は臓器の長期間の生存に必要な遺伝子情報を運ぶことができる。
【0044】
単離された細胞は、正常であり得るか、又は追加の機能又は通常の機能を提供するように遺伝子操作され得る。例えば、細胞は、臓器内の標的部位において疾患のプログラムを低下させる化合物によりトランスフェクトされ得る。細胞は、宿主において免疫を低下させるか又は排除するように操作してもよい。例えば、細胞表面抗原、例えばクラスI及びIIの組織適合抗原の発現を抑圧してよい。これは、トランスフェクト細胞が、宿主による拒絶のチャンスを減らすようにさせるかもしれない。さらに、トランスフェクションは遺伝子送達のために使用することもできる。レトロウイルスベクター、ポリエチレングリコールにより遺伝子操作する方法、又は当業者に周知の他の方法を使用することができる。これらは、細胞内で核酸分子を輸送及び発現する発現ベクターを用いることを含む(Goeddel;GeneExpression Technology:Methodsin Enzymology 185,Academic Press,San Diego,CA(1990)を参照されたい)。
【0045】
マトリックス上で生育させた細胞は、遺伝子操作されることにより、移植に有益な遺伝子産物、例えば、抗−炎症因子、例えば、抗−GM−CSF,抗−TNF,抗−IL−1,及び抗−IL−2を生成してよい。或いは、内皮細胞を遺伝子操作することにより、炎症を助長する天然遺伝子産物、例えば、GM−CSF,TNF,IL−1,IL−2の発現を「ノックアウトする」か、又は拒絶の危険性を低下させるためにMHCの発現を「ノックアウトする」こともよい。さらに、細胞は、組織の移植の結果を補助するか又は改善するために、患者の遺伝子活性のレベルを調節するように、遺伝子治療の用途において遺伝子操作してよい。
【0046】
レトロウイルス、ポリエチレングリコールにより細胞を遺伝子操作する方法、又は当業者に周知の他の方法を使用することができる。これらは、細胞において核酸分子を輸送及び発現する発現ベクターを用いることを含む(Goeddel;GeneExpression Technology:Methodsin Enzymology 185,Academic Press,San Diego,CA(1990)を参照されたい)。
【0047】
ベクターDNAは、慣用の形質転換又はトランスフェクションの技術により原核又は真核細胞に導入される。宿主細胞を形質転換又はトランスフェクトするための適切な方法は、Sambrooket al.MolecularCloning:A Laboratory Manual,第2版、Cold Spring Harbor Laboratory press(1989)及び他の実験室のテキスト本に見出すことができる。植えられた細胞は、細胞を形質転換又はトランスフェクトする目的遺伝子を含む組換えDNA構築物を用いて操作することができる。トランスフェクトされた細胞を含む、植えられたマトリックスは、活性な遺伝子産物を発現し、その産物を欠損する個体に移植することができる。例えば、血管、尿生殖器系、ヘルニア、胃腸疾患、又は腎臓疾患の様々な種類の兆候を改善する遺伝子を、予防するか又は、疾患症状下にて発現不足にするか又はダウン制御してよい。遺伝子活性のレベルは、存在する遺伝子産物のレベルを増加させるか又はマトリックス材料及び組織、例えば内皮組織層又は腎組織層を含むバイオマトリックス内に存在する活性な遺伝子産物のレベルを増加させるかの何れかにより、増加させてよい。バイオマトリックス培養物は、活性な標的遺伝子産物を発現することができ、のちに、その産物を欠損する個体に移植することができる。
【0048】
そのような遺伝子操作された細胞を含むバイオマトリックス培養物は、のちに、疾患の兆候の改善を可能にさせるために、対象に移植することができる。遺伝子発現は、非誘導(即ち、構成的)又は誘導プロモーターの制御下であってよい。遺伝子発現のレベル及び制御される遺伝子の種類は、個々の患者に関して後に続く治療様式に依存して、制御することができる。
IIマトリックス材料
本発明の方法及び組成物は、細胞が被覆され、そして生育して接着する基体としてマトリックス材料を使用して創製される。増強に関して標的とされる特定の臓器に関してインビトロにおいて見出された細胞内微小環境を培養において再創製することが重要である。生体内の臓器と類似又は同じ下部構造を保持することは、細胞−細胞相互作用、細胞集団の発生及び分化のための最適な環境を創製する。生体内での使用の前に細胞及び組織の層を生育させる程度は、増強される臓器の種類に依存して変更してよい。
【0049】
発明は、それらの生体内対照物に類似の成体組織の構成要素を形成させるため、インビトロにおいてさらに培養された細胞の成熟、発生及び分化を支持するマトリックス材料を用いて臓器の機能を増強する方法を提供する。当該マトリックスは、最適な細胞−細胞相互作用を許容し、それにより、細胞の表現型及び組織の微小環境のより自然な形成を許容する。当該マトリックスは、細胞が活動的に生育し、増殖し、そして分化することを許容することにより、さらに培養された細胞集団の生育、増殖及び分化を支持することもできる新しい形態形質の臓器増強構造も生じさせる。
【0050】
本発明に従いマトリックス材料上で生育した細胞は、複数の層に生育し、生体内で見出される生理条件に似た細胞構造を形成する。当該マトリックスは、異なる種類の細胞の増殖及び多数の異なる組織の形成を支持できる。例は、限定ではないが、腎臓、心臓、皮膚、肝臓、膵臓、副腎及び神経組織、並びに胃腸系及び尿生殖器系、及び循環系を含む。
【0051】
発明の植えられたマトリックスは様々な応用において使用することができる。例えば、マトリックスを対象に移植することができる。発明による移植物は、存在する組織を置き換えるか又は増強するために使用することができる。例えば、自然のままの腎臓を増強することにより、腎不全の対象を治療する。対象は腎不全の改善のために、マトリックス移植物の移植後に、諌止することができる。
【0052】
また、培養細胞1集団と共に、新しい形態形質の臓器増強構造を用いて単一集団から組織層を生じさせるための方法及び組成物も、発明の範囲内にある。或いは、新しい形態形質の臓器増強構造は、少なくとも2つの異なる細胞集団、例えば平滑筋細胞集団と尿路上皮細胞集団に由来する複数の層を含むことができる。好ましい態様において、新しい形態形質の臓器増強構造は、原始脈管系を伴う内皮層、及び柔組織細胞に由来する少なくとも一つの他の組織層を含む。
【0053】
マトリックス材料上に潅流されたら、内皮細胞はポリマーマトリックス上で増殖して発生することにより、内皮組織層を生じさせることになる。インビトロ培養の間、内皮細胞は発生及び分化することにより、成熟脈管系に発生することができ且つさらに発生でき、そしてマトリックス材料に潅流される柔組織細胞の生育を支持することができる原始脈管系を生じさせる。重要なのは、培養媒体が内皮組織層と柔組織の細胞に届くことを許容する下部構造をポリマーマトリックスが有するため、異なる細胞集団が生育し、分割し、そして機能上活性なままでい続ける。柔組織細胞は増殖し、そして生体内の類似構造に似た形態を有する新しい形態形質の臓器増強構造に分化する。内皮細胞及び柔組織細胞を生体内の使用の前に生育させる程度は、増強される臓器の種類に依存して変更してよい。増強できる臓器は、限定ではないが、心臓、腎臓、肝臓、膵臓、脾臓、輸尿管及び尿道を含む。
(i)ポリマーマトリックス
好ましい態様において、マトリックス材料は、ポリマー材料である。適当なポリマーの例は、限定ではないが、コラーゲン、ポリ(アルファエステル)、例えばポリ(乳酸エステル)、ポリ(グリコール酸エステル)、ポリオルトエステル及びポリ無水物及びそれらのコポリマー、セルロースエーテル、セルロース、セルロースでできたエステル(cellulosic ester)、フッ素化されたポリエチレン、フェノール類(phenolic)、ポリ−4−メチルペンテン、ポリアクリロニトリル、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリアクリレート、ポリベンゾキサゾール、ポリカーボネート、ポリシアノアリールエーテル、ポリエステルカーボネート、ポリエーテル、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルフォン、ポリエチレン、ポリフルオロオレフィン、ポリルミド(polylmide)、ポリオレフィン、ポリオキサジアゾール、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレン、スルフィド、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリスルフィド、ポリスルフォン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリチオエーテル、ポリトリアゾール、ポリウレタン、ポリビニリデンフルオリド、再生セルロース、尿素−フォルムアミド、又はこれらの物質のコポリマー又は自然の(physical)ブレンドを含む。
【0054】
ポリグリコール酸のようなポリマーは臓器増強構造を生じさせるのに適した生物適合性構造である。生物適合性ポリマーは、溶剤キャスティング、加圧モールディング、フィラメントドローイング、メッシング、リーチング、ウイービング及びコーティングのような方法を用いて成型してよい。
【0055】
溶剤キャスティングにおいては、適切な溶剤、例えばメチレンクロリド中の一つ又は複数のポリマーの溶液を、分枝したパターンのレリーフ構造として型にとり、溶剤を蒸発させたあと、薄いフィルムが得られる。
【0056】
加圧モールディングにおいては、ポリマーを面積あたり30,000パウンドまでの圧力にて圧縮して適切なパターンにする。フィラメントドローイングは融解したポリマーからのドローイングを含み、そしてメッシングは繊維をフエルト様の材料に圧縮することによりメッシュを形成することを含む。
【0057】
リーチングにおいては、2つの材料を含む溶液を臓器の最終形態に似た形態に広げる。次に、溶液を成分の一つと離して溶解するのに使用し、孔形成をもたらす(Mikos,米国特許第5,514,378号、引用により編入される)。
【0058】
核形成(nucleation)においては、臓器の形態の薄いフィルムを、放射線により損傷を受けた材料のトラックを創製する放射性分裂生成物に暴露する。次に、ポリカーボネートシートを酸又は塩基によりエッチングし、放射性により損傷を受けた材料のトラックに孔を描く(turning)。最後に、レーザーを使用することにより、多くの材料を通してここの穴を形成して焼くことにより、均一な孔サイズの臓器構造を形成させてよい。
【0059】
ポリマー性マトリックスは、培養培地からの栄養が堆積された細胞集団に到達するのを許容するが、しかし培養された細胞が孔を通って移動することを防ぐ、制御された孔構造を有するように製作され得る。インビトロにおいては、細胞の付着及び細胞の生存性は、スキャニング電子顕微鏡、組織学及び放射性同位体を用いた定量性評価を用いて評価することができる。
【0060】
ポリマー性マトリックスは、如何なる数の包括系、幾何学上、又は空間的制約をも満たす如何なる数の所望の配置にも成型され得る。ポリマー性マトリックスは、異なるサイズの患者の臓器に適合させるように異なるサイズに成型することができる。ポリマー性マトリックスは、特定の患者の要求、例えば、別の腹腔を有するかもしれない、空洞に適合するように適応するように再構成された臓器又は臓器の一部を必要とするかもしれない、身体障害の患者の特定の要求を容易にするように成型してもよい。
【0061】
他の態様において、ポリマー性マトリックスは、体内の薄層(laminar)構造、例えば尿道、精管、輸卵管、涙管の治療に使用される。それらの応用においては、ポリマー性基板(substrate)を中空構造として成型することができる。
【0062】
臓器を増強するように機能する、発明の新しい形態形質の臓器増強構造は、平坦、管状、又は複雑な幾何学のものであり得る。臓器の形態はその意図された用途により決定されることになる。人工臓器は、疾患又は損傷を受けた臓器の一部を修復するか、増強するか、又は置き換えるように移植することができる。平坦なシート又はウエファーを使用してよい。平坦なシートは、所望の形態及び幾何学に成型することにより、臓器の標的部位内に適合させることができ、例えば、円筒状にシリンダー又は管にすることができる。管の移植物は、例えば、管状の臓器、例えば、食道、気管、腸、及び輸卵管の断面を置き換えるのに使用してよい。これらの臓器は、外部表面及び層状表面を伴う基本的な管形態を有する。
【0063】
ポリマー性マトリックスは、材料、例えば液体化されたコポリマー(ポリ−DL−ラクチドコ-グリコライド50:50 80mg/mlメチレンクロリド)を浸透させることにより、その機械的特性を変更することができる。これは、所望の機械的特性が達成されるまで、一つの層又は複数の層をコーティングすることにより実施できる。ポリマー性マトリックスのサイズは、必要とされる臓器の増強の程度に基づいて決定される。例えば、当該マトリックスは約1mmの長さx 1mmの幅 x 1mmの深さの寸法であり得る。マトリックスの形態及びサイズは増強される臓器の領域に依存する。
【0064】
一つの態様においては、増強される臓器は、腎臓であり、そしてマトリックスは約1cm x 1cm及び約1mm未満の厚さの寸法の平坦な断片(piece)であり得る。好ましくは、マトリックスの最大寸法の長さは、0.2mmより長くて100mm未満、より好ましくは約0.50mmから約30mmの範囲である。好ましい態様において、ミニマトリックスの形態は、実質上平坦であって、その最大寸法のその厚さに対する比が5:1を超え、より好ましくは10:1を超える。
【0065】
別の態様において、ポリマー性マトリックスは、細胞が植えられることにより大きな容積の臓器構造を提供したあとに、円筒状にして管にすることができる。ポリマー性マトリックスのサイズ及び形態は、円盤状、ウエファー、円盤状ウエファー、四角、長方形等であり得る。ポリマー性マトリックスの外形は、増強されるエリア及び増強される臓器に基づいて決定される。ポリマー性マトリックスのサイズ及び形態は、生じさせる新しい形態形質の臓器増強構造が、その最大寸法のその厚さに対する比が5:1を超え、より好ましくは10:1を超えるように選択される。
【0066】
一つの態様において、上記臓器増強構造は、複数の層を含む臓器、例えば膀胱を増強するのに使用することができる。これは、ポリマー性マトリックスの一方の側面を用いることにより、第1の均質な細胞集団、例えば腎細胞の懸濁液でポリマー性マトリックスの一方の側面をコーティングすることにより、組織の層を創製して実施することができる。第1の均質な細胞集団は、細胞が発生して増殖することにより単層を生成し、そして当該単層の細胞がポリマー性マトリックスに付着するまで、培養培地内でインキュベートされる。単層が確立されたなら、第1の均質な細胞懸濁液を第1の層の上に堆積させ、そして細胞が発生及び増殖することにより第1の単層の上に第2の細胞単層を生成するまで培養され、それにより二層を生成する。上記のプロセスは、第1の均質な細胞集団の複数の層を含む多数層が生成されるまで、繰り返される。当該多数層を培養することにより、臓器増強構造に分化することを許容する形態学上及び機能上の特性を伴う組織層を生成する。
【0067】
別の態様においては、ポリマー性マトリックスの両方の側面を使用して、均質な細胞集団の多数層を創製する。これは、均質な細胞集団、例えば腎細胞の懸濁液によりポリマー性マトリックスの一方の側面をコーティングし、そして細胞が単層に発生するまで細胞を培養することにより、実施される。上記手法をポリマー性マトリックスの反対の側面に繰り返す。均質な細胞集団の複数の層を含む多数層がマトリックスの両方の側面上に生成されるまで、上記のプロセスをポリマー性マトリックスの両側面に繰り返す。両側面に多数層を含むポリマー性マトリックスを培養することにより、臓器増強構造へ分化することを許容する形態学上及び機能上の特性を伴う組織層を生成する。また別の態様においては、ポリマー性マトリックスの両側面を使用して、別の細胞集団の多数層を創製することができる。これは、第1の均質細胞集団、例えば、内皮細胞の懸濁液によりポリマー性マトリックスの一方の側面をコーティングし、そして細胞が単層に発生するまで上記細胞を培養することにより、実施される。上記の手法をポリマー性マトリックスの他方の側面に対して、別の細胞集団、例えば腎細胞を用いて繰り返す。
【0068】
一つの態様において、増強される臓器は腎臓である。臓器増強構造は、マトリックス材料の中又は上に植えられた、腎細胞、又は遠位細管、近位曲細管、又は糸球体細胞の単離集団を使用することにより、創製される。腎臓はその長軸に沿って外科手術により開かれ、そして新しい形態形質の臓器増強構造を腎臓の少なくとも一つの標的部位に置く。別の態様においては、複数の新しい形態形質の臓器増強構造を創製して、腎臓内の複数の標的部位に加えることができる。加えられる新しい形態形質の臓器増強構造の数は、腎臓に対する損傷の程度に依存する。例えば、腎臓の上半分の半分が損傷を受けていたら、ウエファーの形態の約1から約10の増強構築物が腎臓の上半分に沿って等しく配置され得る。移植される増強構築物の数も、それらを創製するのに使用されるウエファーのサイズに依存する。ウエファーが長い寸法、例えば1cmx 1cm x 1cmならば、そのときは、わずかな数のウエファーで腎臓の上半分を増強する必要がある。或いは、ウエファーが小さい、例えば、1mmx 1mm 1mmならば、そのときは、多数のこれらで腎臓の同じ上半分を増強する必要がある。
(ii)ヒドロゲル
一つの態様において、マトリックス性材料は、典型的に水に不溶性か又はほとんど溶解しないが過剰な水の存在下で平衡サイズに膨潤できる架橋されたポリマーのネットワークにより構成されるヒドロゲルである。例えば、細胞をヒドロゲル内に置いて、当該ヒドロゲルを臓器内の所望の位置に注射する。一つの態様においては、細胞にコラーゲンのみを注射できる。別の態様においては、細胞にコラーゲン及び他のヒドロゲルを注射することができる。ヒドロゲル組成物は、限定ではないが、例えば、ポリ(エステル)、ポリ(ヒドロキシ酸)、ポリ(ラクトン)、ポリ(アミド)、ポリ(エステル−アミド)、ポリ(アミノ酸)、ポリ(無水物)、ポリ(オルト−エステル)、ポリ(カーボネート)、ポリ(ホスファジン)、ポリ(チオエステル)、ポリサッカライド及びそれの混合物を含む。さらに、上記組成物は、例えば、ポリ(アルファ−ヒドロキシ)酸及びポリ(ベータ−ヒドロキシ)酸を含むポリ(ヒドロキシ)酸も含み得る。そのようなポリ(ヒドロキシ)酸は、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロン酸、ポリブチル酸、ポリ吉草酸及びそれらの混合物を含む。ヒドロゲル及びドラッグデリバリーのようなそれらの有力な応用の独特な特性のために、様々な種類のヒドロゲルが合成されて特性決定された。この研究のほとんどは光架橋された均質なホモポリマー及びコポリマーに焦点を合わせた。
【0069】
大量の重合、即ち、均質なヒドロゲルを作成するための添加溶剤不在下でのモノマーの重合は、極めて堅いガラス状の透明なポリマーマトリックスを生じる。水に浸潤すると、上記ガラス状のマトリックスは膨張して柔らかくそして柔軟になる。孔性ヒドロゲルは、通常、適当な溶剤中でモノマーを重合させることを必然的に伴う、溶液重合技術により製造される。合成されたヒドロゲルの性質は、コンパクトなゲルかルーズなポリマーネットワークかに拘わらず、モノマーの種類、モノマー混合物中の希釈剤の量、及び架橋剤の量に依存する。モノマー混合物中の希釈剤(通常は水)の量が増加するにつれ、孔のサイズもミクロン範囲まで増加する。10−100nm範囲及び10nm−1マイクロメートル範囲の有効な孔サイズのヒドロゲルをそれぞれ「マイクロ孔性(microporous)」及び「マクロ孔性(macroporous)」と呼ぶ。ヒドロゲルのマイクロ孔性及びマクロ孔性の構造は、非ヒドロゲル孔性材料、例えば孔性ポリウレタンの泡とは区別され得る。プラスチックの泡のエリアにおいては、マイクロ孔性及びマクロ孔性は、それぞれ、50マイクロメートル未満の孔及び100−300マイクロメートルの範囲の孔を有するとして示される。この相違の理由の一つは、10マイクロメートル未満の孔のヒドロゲルが一般的でないのに対して、100−300マイクロメートルの範囲の孔を有するヒドロゲルが極めて一般的だからである。
【0070】
マイクロ孔性ヒドロゲル及びマクロ孔子性ヒドロゲルは、しばしば、ポリマー「スポンジ」と呼ばれる。モノマー、例えばヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)を水中の初期モノマー濃度45(w/w)%又はそれ以上にて重合する場合、ヒドロキシエチルメタクリレートは均質なヒドロキシエチルメタクリレートよりも高い孔度で生成される。本発明のマトリックス材料は、慣用の泡又はスポンジ及びいわゆる「ヒドロゲルスポンジ」の両方を包含する。ヒドロゲルのさらなる記載に関しては、米国特許第5,451,613号(Smithらに発行)を参照されたい。
(iii)バイオ構造の脱細胞部分
また別の態様において、新しい形態形質の臓器増強構造は、天然の脱細胞された臓器の一部を用いて創製することができる。バイオ構造、又は臓器の一部は、臓器から全細胞及び組織含有物を除去することにより、脱細胞化することができる。脱細胞のプロセスは、一連の連続する抽出を含む。この抽出のプロセスの一つの鍵となる特徴は、バイオ構造の複雑な下部構造を妨害するか又は破壊するかもしれない苛酷な(harsh)抽出が避けられることである。第1工程は、細胞残渣の除去と細胞膜の可溶化を含む。これに、核成分における核細胞質成分の可溶化が続く。
【0071】
好ましくは、バイオ構造、例えば、臓器の一部を、温和な機械的破壊法を用いて臓器の一部の周囲の細胞膜及び細胞残渣を除去することにより脱細胞化する。上記の温和な機械的破壊法は、細胞膜を破壊するのに十分でなければならない。しかしながら、脱細胞のプロセスが、バイオ構造の複雑な下部構造に損傷を与えるか又は妨害することは避けるべきである。温和な機械的破壊法は、臓器の一部の表面を解体すること、臓器の一部を振動させること(agitating)、又は適度な容量の液体、例えば蒸留水中での臓器の撹拌を含む。一つの好ましい態様において、上記の温和な機械的破壊法は、細胞膜が破壊されて細胞残渣が臓器から除去されるまで、適度な容量の蒸留水中で臓器の一部を撹拌することを含む。
【0072】
細胞膜が除去され後は、バイオ構造の核及び細胞質の成分を除去する。これは、下部構造を破壊することなく、細胞成分及び核成分を溶解することにより実施することができる。核成分を溶解するためには、非イオン性洗浄剤又は界面活性剤を使用してよい。非イオン性性又は界面活性剤の例は、限定ではないが、トライトン(Triton)シリーズ、フィラデルフィアのロームアンドハースから利用可能であり、トライトンX−100,トライトンN−101,トライトンX−114、トライトンX−405,トライトンX−705,及びトライトンDF−16を含み、多数の売り主により市販されており;ツイーン(Tween)シリーズ、例えばモノラウレート(ツイーン20)、モノパルミテート(ツイーン40)、モノオリエート(ツイーン80)、及びポリオキシエチレン−23−ラウリルエーテル(Brij.35),ポリオキシエチレネーテルW−1(Polyox)等、コール酸ナトリウム、デオキシコレート、CHAPS,サポニン、n−デシルβ−D−グルコプラノシド、n−ヘプチルβ−Dグルコピラノシド、n−オクチルα−D−グルコピラノシド及びノニデットP−40を含む。
【0073】
当業者は、前記の分類に属する化合物及び売り主の記載が商業的に得られ、そして「ChemicalClassification,Emulsifiers and Detergent」、McCutchon’s,Emulsifiers and Detergent,1986,North American and InternationalEditions,McCutcheon Division,MC Publishing Co.,Glen Rock,N.J.,U.S.A.及びJudith Neugebauer,A Guide to the Propertiesand Uses of Detergents in Biology andBiochemistry,Calbiochem.R.,Hoechst Celanese Corp.,1987に見出される。一つの好ましい態様において、非イオン性界面活性剤はトライトンシリーズであり、好ましくはトライトンX−100である。
【0074】
非イオン性洗浄剤の濃度は、脱細胞化されるバイオ構造の種類に依存して変更してよい。例えば、繊細な組織、例えば、血管に関しては、洗浄剤の濃度を低下させるべきである。好ましい濃度範囲として、非イオン性洗浄剤は約0.001から約2.0%(w/v)であり得る。より好ましくは、約0.05から約1.0%(w/v)である。さらにより好ましくは、約0.1%(w/v)から約0.8%(w/v)である。これらの好ましい濃度は約0.001から約0.2%(w/v)の範囲で、約0.05から約0.1%(w/v)が特に好ましい。
【0075】
稠密な細胞質繊維ネットワーク、細胞間複合体及び先端マイクロ細胞構造からなる細胞骨格構造を、アルカリ溶液、例えば水酸化アンモニウムを用いて可溶化してよい。アンモニウム塩又はそれらの誘導体からなる他のアルカリ溶液も、細胞骨格成分を可溶化するのに使用してよい。他の適当なアンモニウム塩の例は、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム及び水酸化アンモニウムを含む。好ましい態様においては、水酸化アンモニウムを使用する。
【0076】
アルカリ溶液、例えば水酸化アンモニウムの濃度は、脱細胞化されるバイオ構造の種類に依存して変更してよい。例えば、繊細な組織、例えば血管に関しては、洗浄剤の濃度を低下させるべきである。好ましい濃度範囲は、約0.001から約2.0%(w/v)であり得る。より好ましくは、約0.005から約0.1%(w/v)である。さらにより好ましくは、約0.01%(w/v)から約0.08%(w/v)である。
【0077】
脱細胞化されて凍結乾燥された構造は、使用に必要なまで、適当な温度に保存してよい。使用の前に、脱細胞化された構造を、適当な等張バッファー又は細胞培養媒体中で平衡化することができる。適当な媒体は、限定ではないが、リン酸緩衝塩溶液(PBS)、塩溶液、MOPS,HEPES,ハンクスバランスド塩溶液、等を含む。適当な細胞培養培地は、限定ではないが、RPMI1640,フィッシャーズ、イスコブズ、マッコイズ、ダルベッコ培地等を含む。
III 細胞接着
いくつかの態様において、細胞のマトリックス材料への接着は、マトリックス材料を化合物、例えば基底膜成分、寒天、アガロース、ゼラチン、アラビアゴム、コラーゲンタイプI,II,III,IV及びV、フィブロネクチン、ラミニン、グリコースアミノグリカン、それの混合物及び細胞培養の当業者には周知の他の親水性且つペプチド接着性の物質をコーティングすることにより増強される。マトリックス材料をコーティングするのに好ましい物質はコラーゲンである。
【0078】
他の態様において、マトリックス材料は、移植前に、マトリックス材料が培養細胞によりコートされる前又は後に、因子又は薬剤により処理されることにより、例えば移植後の新組織の形成を提供することができる。薬剤を含む因子は、マトリックス材料内に取り込まれる得るか又はマトリックス材料と共に提供され得る。そのような因子は、通常、再構成されるか又は増強される組織又は臓器に従い選択されることにより、適当な新規な組織が植えられた臓器又は組織の中で形成されることを保証する(骨の治癒を促進させることにおける使用のためのそのような添加物の例は、例えば、Kirker−Head,(1995)Vet.Surg.24:408−19を参照されたい)。例えば、マトリックス材料が脈管組織を増強するために使用される場合、脈管内皮成長因子(VEGF)を用いることにより、新規な脈管組織の形成を促進することができる(例えば、Galloらに発行された米国特許第5,654,273号を参照されたい)。他の有用な添加物は、抗細菌剤、例えば抗生物質を含む。
IV内皮組織層の確立
一つの側面において、発明は、内皮細胞が生育及び発生して原始脈管系を生じさせるように、ポリマー性マトリックス材料或いは脱細胞化された臓器の一部の上又は中に潅流された内皮細胞の培養された集団を使用することに関する。当該内皮細胞は、臓器、例えば皮膚、肝臓及び膵臓に由来してよく、生検によるか(適当な場所)又は解剖に際して得ることができる。内皮細胞は、あらゆる適当な死体の臓器から得ることもできる。当該内皮細胞は、マトリックス材料への注入の前に、所望の細胞密度までインビトロにてそれらを培養することにより増殖させることができる。
【0079】
内皮細胞は、適当な臓器、又は細胞源となる臓器又は組織の一部をバラバラにすることにより、容易に単離してよい。これは、当業者に知られた技術を使用して達成してよい。例えば、組織又は臓器は、機械的にバラバラにされるか、又は隣接する細胞との間の結合を弱くする消化酵素及び/又はキレート剤により処理されることができ、それにより感知されるほどの細胞の破壊を伴わずに、個々の細胞の懸濁液に組織を分散させることを可能にする。酵素による解離は、組織をミンスして、ミンスされた組織を多数の消化酵素の何れかを単独又は組み合わせにより処理することにより達成することができる。これらは、限定ではないが、トリプシン、キモトリプシン、コラーゲナーゼ、エラスターゼ及び/又はヒアルウロニダーゼ、DNase,プロナーゼ、及びディスパーゼを含む。機械的な破壊は、限定ではないが、ほんの2−3例を挙げると、グラインダー、ブレンダー、篩、ホモジェナイザー、プレッシャーセルズ(pressure cells)、又は音波処理機の使用を含む多数の方法により達成することもできる。(例えば、Freshney,(1987)Cultureof Animal Cells.A Manual ofBasic Techniquies,第2版、A.R.Liss,Inc.,NewYork,第9章、pp.107−126を参照されたい。)
組織を個々の細胞の懸濁液に変えた後、当該懸濁液を、内皮細胞が得られ得る亜集団に分画することができる。これは、限定ではないが、特定の細胞種のクローン化及び選択、不所望な細胞の選択的破壊(ネガティブ選択)、混合された集団内の細胞の凝集力の相違に基づく分離、凍結溶解手法、混合された集団内の細胞の接着特性の相違、濾過、慣用のゾーン遠心分離、遠心分離による傾瀉(カウンターストリーミング遠心分離)、単位重力分離(unit gravity separation)、逆電流分配(countercurrent distribution)、電気泳動及び蛍光活性化細胞分類を含む細胞分離のための標準技術を用いて達成してもよい。(例えば、Freshney,(1987)Cultureof Animal Cells.A Manual ofBasic Techniques,第2版、A.R.Liss,Inc.,NewYork,第11及び12章、pp.137−168を参照されたい。)
ポリマー性マトリックスのようなマトリックス材料の中の細胞の生育は、蛋白質(例えば、コラーゲン、弾力性繊維、細網繊維)糖蛋白質、グリコサミノグリカン(例えば、硫酸ヘパラン、4−硫酸コンドロイチン、6−硫酸コンドロイチン、硫酸デルマタン、硫酸ケラチン、等)、細胞マトリックス、及び/又は他の材料を、マトリックス材料に添加するか又は又は材料にコーティングすることにより、増強してよい。
【0080】
内皮細胞の潅流の後に、マトリックス材料を適当な栄養培地中でインキュベートするべきである。多くの市販の培地、例えばRPMI1640,フィッシャーズ、イスコブズ、マッコイズ、ダルベッコ培地等は使用のために適しているかもしれない。当該培養培地を定期的に交換することにより、使用された培地を除去し、放出された細胞を減らし、そして新鮮な培地を添加するべきでもある。内皮組織層の柔組織細胞による潅流の前に、原始脈管系を含む内皮組織層が発生する段階にまで、内皮細胞を生育させることが重要である。
V.マトリックス材料内皮層上への柔組織細胞の潅流
内皮組織層が適当な生育程度に達し、そして発生することにより、原始脈管系を生じたなら、培養された細胞、例えば柔組織細胞の追加の集団を内皮組織層上に潅流することができる。内皮組織上に潅流された柔組織細胞をインキュベートすることにより、細胞が内皮組織層に接着することを可能にさせることができる。柔組織細胞をインビトロにて培養培地中で培養することにより、細胞が天然組織に類似した形態及び構造になるまで、細胞が生育及び発生することを可能にさせることができる。内皮組織層上での柔組織細胞の生育は、適当な新しい形態形質の臓器増強構造への柔組織細胞の分化をもたらす。
【0081】
或いは、柔組織細胞の潅流の後に、柔組織細胞のインビトロの前培養無しに、生体内に移植することができる。潅流に関して選択された柔組織細胞は、増強される臓器に依存することになる。例えば、腎臓の増強は、マトリックス材料内又は上への培養された内皮細胞への注入を含み、それらが原始脈管系を含む内皮組織層へ発生するまで培養される。当該内皮組織は、次に、培養された腎細胞を潅流されて、当該腎細胞がネフロン構造を形成するように分化し始めるまで、インビトロにて培養される。
【0082】
柔組織細胞は、上記の標準技術を用いて所望の組織をバラバラにすることにより調製された細胞懸濁液から得てよい。当該細胞を、次に、インビトロにて所望の密度にまで培養してよい。所望の密度を達成した後に、培養された細胞を使用して、内皮組織層によりマトリックス材料を潅流することができる。細胞は、内皮組織層の上で、増殖し、成熟し、そして分化することになる。柔組織細胞の選択は増強される臓器に依存し、例えば、腎臓を増強する場合、マトリックス材料、例えばポリマー性マトリックス及び内皮組織層を培養された腎細胞で潅流する。肝臓を増強する場合、ポリマー性マトリックス及び内皮組織層を培養された肝細胞で潅流する。膵臓を増強する場合、ポリマー性マトリックス及び内皮組織層を培養された膵臓細胞で潅流する。膵臓を増強する場合、ポリマー性マトリックス及び内皮組織層を培養された膵臓細胞で潅流する。心臓を増強する場合、ポリマー性マトリックス及び内皮組織層を培養された心臓細胞で潅流する。様々な組織から柔組織細胞を得るために利用してよい方法の総説に関しては、Freshney,(1987)Cultureof Animal Cells,A Manual ofBasic Techniques,第2版、A.R.Liss,Inc.,NewYork,1987,第20章、pp.257−288を参照されたい。細胞は、細胞が分化して天然の生体内の組織の形態に似た新しい形態形質の臓器増強構造を生じるまで、培養される。
【0083】
成長因子及び制御因子を培地に添加することにより、培養物中の増殖及び細胞の成熟及び分化を増強するか、変更するか、又は変調させることができる。培養している細胞の生育及び活性は、様々な成長因子、例えばインスリン、成長ホルモン、ソマトスタチン、コロニー刺激因子、エリスロポエチン、表皮成長因子、肝臓赤血球生成因子(ヘパトポエチン)及び肝臓細胞成長因子により影響され得る。増殖及び/又は分化を制御する他の因子は、プラスタグランジン、インターロイキン、及び天然に生じるカローン(chalones)を含む。
VI三次元バイオマトリックスの創製
一つの側面において、発明は、三次元バイオマトリックス、又は臓器増強構造/構築物を創製することに関する。一つの態様において、臓器増強構造は、特定の疾患に接近するか又は臓器の機能を破壊するために創製される。例えば、臓器増強構造は、異常な糸球体機能(例えば、糸球体症、例えば糸球体濾過の機能の障害に付随した第一期の糸球体症(例えば、急性腎臓症候群、高速進行性糸球体腎炎(RPGN)、糸球体硬化症、ネフローゼ症候群、泌尿器の堆積物の無症候性の異常(ヘパツリア(hepaturia)、蛋白尿)、及び慢性糸球体腎炎)、又は二次的な糸球体症、全身性疾患に付随した(例えば、糖尿病性腎障害及び免役媒介性複数系疾患)、を増強し、それにより改善するために創製された特定の増強構造であり得る。臓器増強構造は、組織層に生育される糸球体細胞の単離された集団を用いて創製することができ、そして次に構築物は糸球体硬化症を治療するために移植される。別の例においては、臓器増強構造が管細胞の単離された集団を用いて創製されることにより、管の疾患、例えば近位曲細管の機能不全副腎管酸血症を増強して、それにより改善することができる。これは、発明の方法及び組成物が、ネフロンの特定の領域に関連した特定の障害及び病理に用いられることを可能にさせる。近位曲細管の機能不全は選択性再吸収欠損を表すかもしれず、低カリウム血症、アミノ酸尿症、糖尿、燐酸塩尿症、尿酸排泄(uricosuria)又は重炭酸尿症(bicarbonaturia)を導く。腎臓管酸血症(RTA)は欠損のために濾過されたHCOの再吸収、Hの排泄又は両方をもたらす。腎臓の管の酸血症は過塩酸症及び正常な糸球体機能に関連することを特徴とする。RTAは遠位RTA(RTA−1),近位RTA(RTA−2)及び高カリウム血症RTA(RTA−4)に分類することができる。最後の一つは多くの高カリウム血症の状態において観察され、そして欠損は管が十分なNHをKの細胞内貯蔵の増加の直接の結果として排泄することの不能により特徴付けられる。
【0084】
別の態様において、臓器増強構造は、増強される臓器から単離された細胞の混合物を用いて創製された、一般的な増強構造であり得る。例えば、遠位細管細胞、近位曲細管細胞、ヘンレ係蹄細胞のループ、及び糸球体細胞を植えられた新しい形態形質の臓器増強構造である。
【0085】
別の態様において、増強構造を用いて、心臓機能を増強することができる。この例においては、心筋細胞の集団をマトリックス材料に植えることにより、新しい形態形質の臓器増強構造が創製できる。
【0086】
別の態様において、増強構造を用いて、膀胱の機能を増強することができる。この例においては、尿道内皮細胞(urothelial)の単離された集団、又は平滑筋細胞及び尿道内皮細胞の混合物の単離された集団をマトリックス材料に植えることにより、新しい形態形質の臓器増強構造が創製できる。
【0087】
バイオマトリックスは、少なくとも一つの培養された細胞集団により潅流されたマトリックス材料を含み、分散した細胞集団が単層を形成するまでインキュベートされ、そしてさらに細胞の複数の層、結果としては組織層、例えば、原始脈管系を伴う、腎臓組織の層、又は内皮細胞の層、から形成される多数層をそれらが形成するまで培養された細胞をインキュベートする。
【0088】
組織の層の保持された活性な増殖は、結局、生体内の臓器の均等な柔組織に似た組織の層を導く。これは、一部、多数の層を生成する方法によるかもしれない。多数の層は、各層の細胞が活性に増殖するまで、マトリックス材料上で一度に第1の均質な細胞集団の一つの層を培養することにより、生成される。当該多数層は、細胞が発生して増殖することにより、生体の臓器の均等な柔組織の構造及び形態に似るまで、インキュベートされる。
【0089】
発明の方法により発生した多数層は、よって、均質な細胞集団の長期の増殖を支持するのに必要な、蛋白質、成長因子及び制御因子を生産する。第1の多数層が確立された後に、これは、第2の多数層を生成するための表面を提供する。第2の多数層は、第1の均質細胞集団とは異なる第2の均質な細胞集団を含む。第2の多数層は、各層の細胞が活性に増殖することにより細胞の多数層を生産し、そして結局は組織層を生産するまで、一度に第2の均質な細胞集団の一つの層を培養することにより、発生する。
【0090】
この組織の層は、さらなるインビトロインキュベーション又は生体内インキュベーションにより臓器増強構造に分化することができる。組織層内での細胞の生育は、因子、例えば、栄養、成長因子、サイトカイン、細胞外マトリックス成分、分化の誘導剤、分泌産物、免役変調剤、細胞ネットワークの成長を増強又は許容する生物学上活性な化合物又は神経繊維因子、糖蛋白質、及びグリコサミノグリカンを添加することにより、さらに増強してよい。
【0091】
一つの態様において、上記バイオマトリックスを創製するために使用されるマトリックス材料は、ポリマー性マトリックスである。上記組織層は、上記ポリマー性材料の一方の側面、又はポリマー性材料の両方の側面上に、臓器増強構造への分化を許容する形態及び組織構造の組織層が生成されるまで、創製することができる。別の態様において、当該ポリマー性マトリックスは、培養された細胞集団が混合されるヒドロゲルである。上記細胞が臓器増強構造に分化し得る組織を形成するまで、ヒドロゲル中でインキュベートされる。
VII 三次元バイオマトリックスの移植
三次元バイオマトリックス又は臓器増強構造は、標準の外科手術の手法を用いて増強を必要とする臓器に移植することができる。これらの外科手術の手法は、増強される臓器に従い変更してよい。腎臓移植に関しては、腎臓の無血管の面、又は臓器の最少の血管領域に沿って形成された切り口に一連の三次元バイオマトリックスを移植することが望ましいかもしれない。別の応用において、発明の構築物は、最少の侵入手法、例えばカニューラ、針、トロカール又はカテーテルタイプの装置により導入することができる。
VIII 用途
発明の方法及び組成物は様々な臓器において臓器の機能を増強するのに使用することができる。
(i)腎臓
一つの態様において、発明は、腎臓の機能を増強するための方法及び組成物に関する。理想的には全ての腎臓疾患が腎不全を導き得るため、ほとんどの場合の主要な処置の焦点は、腎臓の機能を保護することである。対象は、典型的には、必要以上の腎機能を有し、そしてほとんどの腎臓疾患は90パーセントの腎機能が失われるまで注目すべき問題又は兆候を引き起こさない。従って、発明の方法及び組成物は、少なくとも約2%の機能、好ましくは約5%の機能、より好ましくは約10%の機能、よりさらに好ましくは約15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90%の機能の腎臓の腎機能を増強するために使用することができる。発明の方法及び組成物は、急性及び慢性の腎不全の両方の兆候を改善させるために使用することができる。増強され得る腎臓の疾患は、限定ではないが、(例えば、糸球体症、例えば、糸球体濾過の機能の障害に付随した第一期の糸球体症(例えば、急性腎臓症候群、高速進行性糸球体腎炎(RPGN)、糸球体硬化症、ネフローゼ症候群、泌尿器の堆積物の無症候性の異常(ヘパツリア(hepaturia)、蛋白尿)、及び慢性糸球体腎炎)、又は二次的な糸球体症、全身性疾患に付随した(例えば、糖尿病性腎障害及び免役媒介性複数系疾患)を含む。これは、ネフロンの特定の領域に関連した特定の障害及び病理に対して、発明の方法及び組成物が使用されることを許容する。近位曲細管の機能不全は、低カリウム症、アミノ酸尿症、糖尿、リン酸塩尿症、尿酸排泄症(uricosuria)、又は重炭酸塩尿症を導く、選択的な再吸収欠損を顕在化させるかもしれない。腎臓管酸血症(renal tubular acidosis)(RTA)は、欠損のために、濾過されたHCOの再吸収、Hの排泄又は両方をもたらす。腎臓管酸血症は、過塩酸症及び正常な糸球体機能に特徴的に付随する。RTAは、遠位RTA(RTA−1)、近位RTA(RTA−2)及び低カリウム症として分類され得る。最後の一つは多くの過塩酸症において観察され、そして欠損は管が十分なNHをKの細胞内保存量の直接の結果として排泄する能力の欠如により特徴付けられる。
(ii)心臓疾患
別の態様において、発明の方法及び組成物は、心臓疾患又は心臓障害の対象において心臓機能を増強するために使用することができる。心不全は、合衆国において罹患率及び死亡率を導く原因の一つである。心不全は、心臓が血液をポンピングする能力を低下させるあらゆる症状からもたらされ得る。もっとも頻繁には、心不全は心筋の収縮性の低下により引き起こされ、心臓の血流の低下によりもたらされる。他の多くの因子が心不全をもたらすかもしれず、心臓の弁への障害、ビタミンの欠乏、及び根本的な心筋疾患を含む(Guyton(1982)HumanPhysiology and Mechanisms of Disease,第3版、W.B.SaundersCo.,フィラデルフィア、Pa.,p.205)。心不全は、心筋梗塞に付随して共通に顕在化する(Manualof Medical Therapeutics(1989)26版、Little,Brown &Co.,ボストン(W.C.Dunagan and M.L.Rinder,編纂)pp.106−09)。
【0092】
ヒトの心不全は心筋の収縮の低下により始まり、心臓の出力の低下を導く。発明の方法及び組成物は心臓機能を増強するために使用してよい。例えば、新しい形態形質の臓器増強構造を創製することにより、損傷を受けたか又は梗塞されたか又は局所的に血液不足になった心臓のエリアである。
【0093】
心臓疾患は、限定ではないが、狭心症、心筋梗塞及び慢性虚血性心臓疾患を含む。
(iii)尿生殖器の障害
別の態様において、発明の方法及び組成物は、尿生殖器の臓器疾患又は障害の対象において尿生殖器の機能を増強するために使用することができる。尿生殖器の障害の例は、限定ではないが、膀胱、尿道及び輸尿管に関連した障害を含む。
(iv)脾臓の障害
脾臓はリンパ系の一部の腹部に隣接した小さな臓器であり、脾臓は体を感染から防御することを補助し、そして血液を濾過する。脾臓が除去された患者は、特定の種類の感染に対して、より敏感である。従って、発明の方法及び組成物は、例えば、上記疾患又は障害を制御する作用因子を発現するように組換えにより修飾された細胞を用いて、脾臓の障害を改善又は制御することができる。脾臓の疾患の例は、限定ではないが、特発性紫斑症、フェルティー症候群、ホジキン病、及び免役媒介性の脾臓の破壊を含む。
【0094】
発明の他の態様及び用途は、本明細書に開示された発明の詳述及び実行の考察から、当業者には明らかとなる。如何なる理由の本明細書に引用された全ての米国特許及び文献も、引用により本明細書に編入される。
【実施例】
【0095】
実施例1:腎細胞の単離
例えば1週齢のC7ブラックマウスからの小さな腎臓を、被膜を剥ぎ、切片化し、ミンスし、そして15mMHepes,pH7.4及び0.5μg/mlインスリン、1.0mg/ml コラーゲナーゼ及び0.5mg/mlディスパーゼ、バチルスポリミクサル(Bacillus polymyxal)由来の天然プロテアーゼ(ベーリンガーマンハイム、インディアナポリス、IN)を含むダルベッコ修飾イーグル培地(DMEM;シグマ、セントルイス、ミズーリ)に懸濁した。
【0096】
大きな腎臓、例えばブタの腎臓を、37℃において19分間、カルシウム不含イーグル最少必須培地により、3時間以内の抽出にて、動脈潅流した。腎臓を、次に、1.5mMMgCl及び1.5mM CaClを付加した同じバッファー中の0.5mg/mlコラーゲナーゼ(タイプIV,シグマ、セントルイス、ミズーリ)により潅流した。腎臓を次に、被膜を剥ぎ、切片化し、ミンスし、そして15mMHepes,pH7.4及び0.5μg/mlインスリン、1.0mg/ml コラーゲナーゼ及び0.5mg/mlディスパーゼ、バチルスポリミクサル(Bacillus polymyxal)由来の天然プロテアーゼ(ベーリンガーマンハイム、インディアナポリス、インディアナ)を含むダルベッコ修飾イーグル培地(DMEM;シグマ、セントルイス、ミズーリ)に懸濁した。
【0097】
大きな腎臓又は小さな腎臓の何れかからの腎臓懸濁液を、穏やかに水浴槽中で30分間37℃におい撹拌した。細胞及び断片を50gにて5分間の遠心分離により回収した。沈殿物を、10%ウシ胎児血清(バイオホイッテカー、ウオークスビル、メリーランド)を含むDMEMに懸濁することにより、蛋白質分解を停止させ、そして濁った溶液を滅菌した80メッシュのナイロンスクリーンに通して、大きな断片を除去した。細胞を遠心分離により回収し、そしてカルシウムフリーのダルベッコイーグル培地により2回洗浄した。
【0098】
実施例2:腎細胞のインビトロ培養
(i) ラット尾部のコラーゲンの単離
ラットの尾部から鍵を剥ぎ、50mlチューブ中の脱イオン水中の0.12M酢酸中に保存した。
均一のサイズの孔及び重金属の除去を確実にするために、透析バッグを前処理した。簡単に言えば、透析バッグを2%重炭酸ナトリウム及び0.05%EDTAを含む溶液中に沈め、10分間沸騰させた。蒸留水の複数の洗浄を用いて、重炭酸ナトリウムと0.05%EDTAを除去した。
【0099】
ラットの鍵を含む0.12M酢酸溶液を、処理された透析バッグに入れて、2又は3日間透析することにより酢酸を除去した。透析溶液は3から4時間ごとに交換した。
(ii)織培養プレートのコーティング:
75cmの培養フラスコを約30μg/mlのコラーゲン(ビトロジェン又はラット尾部コラーゲン)、約10μg/mlのヒトフィブロネクチン(シグマ、セントルイス、ミズーリ)及び約10μg/mlのウシ血清アルブミン(シグマ、セントルイス、ミズーリ)を、約2mlの付加媒体の全容量中に含む溶液により、37℃、3時間のインキュベーションによりコートした。
(iii) 細胞培養
消化した一つの懸濁腎細胞を、約10%のウシ胎児血清、約5μg/mlのウシインスリン、約10μg/mlのトランスフェリン、約10μg/mlの亜セレン酸ナトリウム、約5μMのヒドロコルチゾン、約10ng/mlのプロスタグランジンE、約100ユニット/mlのペニシリンG、約100μg/mlのストレプトマイシン(シグマ、セントルイス、ミズーリ)の濃度にて、5%COインキュベーター中で、約37℃において、修飾されたコラーゲンマトリックス上に置いた。
芝生状の単層を、カルシウムフリーリン酸緩衝塩溶液(PBS)(約1.51mlのKHPO,約155.17mMのNaCl,約2.8mMのNaHPO.HO)中の約0.05%トリプシン、約0.53mMEDTA(ギブコBRL,グランドアイランド、ニューヨーク)により処理することにより、継代培養した。細胞は液体培地での凍結及び保存のための培養培地中の約10%DMSO中での懸濁により第1代の継代から何れの時間に培養してもよい。
【0100】
実施例3:内皮細胞の単離及び培養.
内皮細胞は解剖された血管から単離した。静脈周囲の(perivenous)ヘパリン/パパベリン溶液(3mgパパベリンを25mlハンクスバランス塩溶液(HBSS)に希釈、100ユニットのヘパリンを含む(最終濃度4μ/ml))を用いて、内皮細胞の保存状態を改善した。近位シルクループ(proximal silk loop)を脈の周囲に置いて、結び目によりしっかりと留めた。小規模の静脈切開術を結び目の近くに施し、そして血管のカニューラのチップを挿入して、第2の結び目により適所にしっかりと留めた。第2の小規模の静脈切開術を近位の結び目を超えたところに施し、そして血液及び血液クロットを除去するため、20%ウシ胎児血清、ECGF(100mg/ml),L−グルタミン、ヘパリン(シグマ、17.5μ/ml)及び抗生物質−抗真菌薬を付加したMedium 199/ヘパリン溶液Medium 199(M−199)を脈に穏やかに流した。約1mlのコラーゲナーゼ溶液(98mlのM−199、mlのFBS,1mlのPSFに37℃において15−30分間溶解して、フィルターにより殺菌した0.2%のワージントンタイプIコラーゲナーゼ)を、切り離した脈に流した。当該コラーゲナーゼ溶液は脈を穏やかに膨張させるのにも使用し、そして膨張させた脈は、ハンクスバランスド塩溶液(HBSS)を含む50mlのチューブに入れた。コラーゲナーゼにより膨張させた脈を含むチューブを12分間37℃においてインキュベートすることにより、脈の内部の内面を消化した。消化後に、内皮細胞を含む脈の含有物を、滅菌した15mlチューブに取り出した。内皮細胞懸濁液を125xgにて10分間遠心分離した。内皮細胞を、10%のFBS及びペニシリン/ストレプトマイシンを含む2mlのダルベッコ修飾イーグル培地(DMEM/10%FBS)に懸濁し、そして1%のディフコゼラチン(difcogelatin)をコートされた24ウエルのプレートの中に入れた。
一晩のインキュベーションの後に、細胞をHBSSにより洗浄し、そして1mlの新鮮なDMEM/10%FBSの中に入れた。当該培地は1週間あたり3回代えた。培養物が芝生状に到達したら(3−7日後)、芝生状の単層を細胞が分散するまで3−5日間、0.05%トリプシン、0.53mMEDTAの処理により、継代培養した。分散した細胞を0.1%ディフコゼラチンをコートした培養皿上に、1:4から1:6の分割比にて入れた。十分な細胞寮に達するまで、内皮細胞を増殖させた。細胞をトリプシン処理し、回収し、洗浄し、そして撒くためにカウントした。
【0101】
実施例4:尿道内皮細胞及び平滑筋細胞の単離及び培養
引用により本明細書に特別に編入される、Atala et al.,(1993)J.Urol.150:608,Cilento et al.,(1994)J.Urol.152:655、Fauza et al.,(1998)J.Ped.Surg,33,7−12の、以前に公表されたプロトコルに従い、回収された細胞を培養した。
a)尿道内皮細胞集団の培養
膀胱の検体を得て、培養のために調製した。細胞の損傷を最少にするため、電気メスによる切断よりも鋭く切り出した。漿膜表面を縫合によりマークすることにより、どちらの側が尿道内皮表面かを表すことに関して不明瞭にならないようにした。
【0102】
上記検体は、滅菌した装置を用いて、薄層フローセル培養フードの中で加工した。ケラチノサイト−SFM(ギブコBRL(カタログ番号17005)),ウシ下垂体抽出物(カタログ番号13028、25mg/500ml培地)及び組換え表皮成長因子(カタログ番号13029、2.5μg/500ml培地)をサプリメントとして伴う培養培地を調製した。4℃の10mlの培養培地を2つの10cmの細胞培養皿の各々に入れ、そして3.5mlを第3の皿に入れた。検体を第1の皿に入れて、それを後方と前方に穏やかに動かすことにより検体から血液を除去した。上記のプロセスを第2の皿にて繰り返し、最後に検体を第3の皿に移した。尿道内皮表面は、検体に切断すること無しに、10番のメスの刃により穏やかに押し潰した。尿道内皮細胞は小さな不透明な物質として培地中に分散して見えた。尿道内皮細胞/培地懸濁液を吸引して、各ウエル約0.5から1mlの培地を含む24ウエル細胞培養プレートの6ウエルに植えて、ウエルあたり1から1.5mlの全量とした。細胞を37℃において5%COと共にインキュベートした。
【0103】
次の日に(1日後の採取)、培地を6つのウエルから吸引し、そして新鮮な培地を加えた。細胞は、1000rpmにて4分間遠心分離して、上清を除去した。細胞を、24ウエルプレート中で37℃に温めた3−4.5mlの新鮮な培地に懸濁した。
【0104】
培養培地を除去し、PBS/EDTA(37℃、pH7.2,0.53mM EDTA(0.53mlの0.5M EDTA,pH8.0、500mlのPBS中))を24ウエルプレートの各ウエルに加えるか、又は10mlを各10cmの皿に加えた。次に、細胞を2つの10cmの皿に継代した。以後、細胞は、80から90%芝生状に到達したら、細胞が100%芝生状に到達することを許容すること無しに、継代した。
【0105】
細胞を位相差顕微鏡下で観察した。細胞と細胞のつながりが大多数の細胞で分離されたとき(約5から15分)、PBS/EDTAを除去し、そして300μlのトリプシン/EDTA(37℃、GIBCO BRL,カタログ番号、25300−054)を24ウエルプレートの各ウエル似加えるか、又は7mlを各10cm皿に加えた。プレート/皿を定期的に振動させた。80から90%の細胞がプレートから脱離して浮遊し始めたら(約3から10分)、30μlのダイズトリプシン阻害剤(ギブコBRL,カタログ番号、17075−029、20mlのPBSに対して294mgの阻害剤)を24ウエルプレートの各ウエルに加えるか、又は700μlを各10cm皿に加えることにより、EDTAの作用を停止させて、トリプシンの作用を停止させた。0.5mlの培養培地を24ウエルプレートの各ウエルに加えるか又は3mlの培養培地を各10cm皿に加えた。PBS/EDTA及びトリプシン/EDTAのインキュベーションは、室温において実施したが、プレートを37℃においてインキュベートしたならば、より一層効果的であった。
【0106】
1000rpmにて4分間遠心分離することにより細胞を回収し、そして上清を除去した。細胞を5mlの培養培地に懸濁し、そして血球計測器により細胞の数を測定した。細胞の生存は標準のトリパンブルー染色試験により決定した。100mm培養プレートの最適な播種の密度は約1x10細胞/プレートであった。所望の数の細胞を皿に等分にして、培地の容量を、約10ml/プレートの全部に加えた。
b)膀胱の平滑筋細胞の培養
上記のとおりに膀胱の検体からの尿道内皮細胞層を除去した後、残りの筋肉を2−3mmの筋肉セグメントに切り裂いた。各筋肉セグメントを100mm細胞培養皿の上に等間隔に置いた、筋肉セグメントを乾燥させ、そして皿に接着するのを許容した(約10分間)。20mlの10%FCS含有ダルベッコ修飾イーグル培地を乾燥した筋肉セグメントに加えた。筋肉セグメントを5日間インキュベートし、37℃において5%COにて平静にした。培養培地を6日目に代えて、全ての非接着セグメント除去した。残りのセグメントを全部で10日間培養し、その後、全ての筋肉セグメントを除去した。皿に接着した筋肉セグメントからの細胞を、細胞の小さな島が出現するまで、インキュベートした。これらの細胞をトリプシン処理し、計数し、そしてT75培養フラスコ内に植えた。
細胞密度に従い3日毎に細胞に給餌し、そして細胞含有80−90%芝生状に達したら継代した。
【0107】
実施例5:心臓細胞の単離と培養
この実施例は、心臓細胞を培養する一つの方法を記載する。心臓細胞、例えば心房組織からの心臓細胞を哺乳類から得ることができる。心房組織は、例えば心臓−肺バイパスを必要とする手法を受けた心臓血管系外科手術患者から採取した右心房付加物(appendages)から得ることができる。当該付加物は、除去されて、ゆすぎのために氷−塩水スラッシュ中に入れた。なかなか切れない心外膜外皮は、外科用メスを用いて除去することにより、細胞採取物に含まれる結合組織の量を減らすことができる。残りの心房の筋肉を小さな(0.5−1.0mm)断片にして、カルシウム又はマグネシウムを含まない冷やしたハンクスバランス塩溶液(HBSS)中に入れた(ホイッテカー、ウオーカービル、マサチューセッツ)。ミンスした心房組織は0.14%コラーゲナーゼ溶液(ワージングトン、フリーホールソ、ニュージャージー)中で、1.43mg/mlの濃度にて消化することができる。当該断片は、この溶液35ml中に入れて、シェーカー中で37℃において125RPMにて1時間消化することができる。上清は心房組織から取り出して、3500RPMにて10分間、37℃にて遠心分離することができる。別の35mlのコラーゲナーゼ溶液を除去し、そして第3の消化における使用のために取って置くことができる。細胞沈殿物は、30%の新生ウシ血清(ホイテッカー)及び0.1%抗生物質溶液−10,000ユニット/ccペニシリンG,10,000μg/ccストレプトマイシン及び25μg/ccアンフォテリシンB(ギブコ、グランドアイランド、ニューヨーク)を含むアールズ塩(Earle's Salts)(ホイテッカー)を含むイーグルズ最少必須培地(EMEM)2ml中に懸濁することができる。このプロセスは、さらなる消化のために続けることができる。
【0108】
様々な消化物をプールすることができ、そして細胞濃縮物を血球計数系を用いてチェックすることができ、そして1X10細胞/mlにEMEMを用いて調節することができる。細胞は35mmゼラチンコート皿(コーニング、コーニング、ニューヨーク)上に置いて、5%CO雰囲気中にて37℃にてインキュベートすることができる。最初の2週間の生育の期間は3日毎に、次に後は5から7日毎に培地を交換することができる。培養物を広げて芝生状に近付いたら、トリプシンにより処理して、60mmのゼラチンコート皿(コーニング)のEMEMに移すことができる。細胞が芝生状に近付いたら、トリプシン処理して、T−75フラスコ(コーニング)のMCDB107(シグマ、セントルイス、Mo.)に移すことができる。
【0109】
MCDB 107中で生育させた細胞の一部を4つの区画のゼラチンコートスライド培養プレート(ラブテック、ナパービル、イリノイ)上にプレートすることができる。対照の細胞は、ヒトの臍帯内皮細胞及びヒトの皮膚繊維芽細胞培養物(ビューモントリサートインスティチュート、ローヤルオーク、ミシガン)であることができ、20%ウシ胎児血清、1%L−グルタミン、0.1%の5mg/mlインスリン−5mg/mlトランスフェリン−5μg/ml亜セレン酸(コラボレイティブリサーチ社)、0.6mlヘパリン(0.015%、M199中)、0.1%抗生物質−抗真菌剤(ギブコラボラトリーズ:10,000ユニット/mlペニシリンナトリウムG,100,000mcg/ml硫酸ストレプトマイシン及び25mcg/mlアンフォテリシンB)、及び300μg/mlのバイオテクノロジーリサーチ社、ロックビル、メリーランドからの内皮細胞成長添加物(ECGS)を含むM199中で生育させることができる。対照の細胞及び採収された細胞を広げて芝生状に近づいたとき、HBSSにより洗浄して、ホルマリンにより10分間固定することができる。区画は取り出すことができ、そしてプレート上に残る細胞はイムノペルオキシダーゼ染色により平滑筋アルファ−アクチン(リップショウ、デトロイト、ミシガン)、横紋筋に特定のミオシン(シグマ、セントルイス、ミズーリ)、ミオグロビン(ダコ、カーピンテリア、カリフォルニア)、因子VIII(リップショウ、デトロイト、ミシガン)、及び心房ナトリウム尿排泄因子ペプチド(リサーチアンドダイアグノスティックアンチボディーズ、バークレイ、カリフォルニア)に関して染色することができる。プレートは、次に、光学顕微鏡を用いて試験することができる。
MCDB 107内で生育させた細胞の一部を、96−ウエルのゼラチンコートしたプレート上にプレートすることができる。それらを広げて芝生状に近づいたら、それらをHBSSによりリンスして、2.5%グルタルアルデヒド、0.2Mカコジル酸バッファー,pH7.4(ポリサイエンス社、ワーリントン、ペンシルバニア)により固定化し、エポンLX−112樹脂(ラダスリサーチ、バーリントン、バージニア)内に埋設し、0.03%クエン酸鉛(イーストマンコダック、ロチェスター、ニューヨーク)により染色し、そして50%エチルアルコール中の酢酸ウラニル(ペルコ社、タスティン、カリフォルニア)により飽和して、次に、透過電子顕微鏡下で検査することができる。
【0110】
実施例6:脱細胞化した臓器、又は臓器の一部の調製
以下の方法は、臓器又は組織の複雑な三次元下部構造を破壊することなく、臓器又は組織の全細胞含有物を除去する方法を記載する。腎臓を、C7ブラックマウスから、組織除去の標準技術を用いて外科的に取り出した。腎臓を適当な容量の蒸留水を含むフラスコに入れることにより、単離した腎臓をカバーした。磁気撹拌プレート及び磁気スターラーを用いることにより、蒸留水中で適当な速度にて24−48時間、4℃にて、単離した腎臓を回転させた。このプロセスは、単離された腎臓を取り巻く細胞残渣及び細胞膜を除去する。
【0111】
この第1の除去工程の後に、蒸留水を0.5%トライトンX−100を含む0.05%水酸化アンモニウムに置き換えた。腎臓をこの溶液中で72時間4℃において磁気撹拌プレート及び磁気スターラーを用いて回転させた。このアルカリ溶液は、単離された腎臓の核成分及び細胞質成分を可溶化させた。洗浄剤トライトンX−100を用いることにより腎臓の核成分を除去する一方、水酸化アンモニウムを用いて単離された腎臓の細胞膜及び細胞質蛋白質を溶解した。
【0112】
単離された腎臓を、次に、蒸留水を用いて24−48時間、4℃において、磁気撹拌プレート及び磁気スターラーを用いて洗浄した。この洗浄工程の後に、単離物からの細胞成分の除去を腎臓の小片の組織分析により確認した。必要であれば、単離された腎臓の全細胞成分が除去されるまで、単離された腎臓を再びトライトンX−100を含む水酸化アンモニウムにより処理した。可溶化された成分の除去の後に、単離された腎臓のコラーゲン三次元フレームワークを生じた。
この脱細胞化された腎臓を、磁気撹拌プレート及び磁気スターラーを用いて4℃において一晩脱細胞化腎臓を回転させることにより、1xリン酸バッファー溶液(PBS)を用いて平衡化した。平衡化の後に、脱細胞化腎臓を一晩真空下で凍結乾燥させた。凍結乾燥させた腎臓を72時間エチレンオキシドガスを用いて滅菌した。滅菌後に、脱細胞化された腎臓を、すぐに使用するか、又は4℃あるいは室温において必要なときまで保存した。保存された臓器は、培養された細胞による播種(seeding)の前に、一晩4℃において組織培養培地中で平衡化した。
【0113】
実施例7:臓器構造を増強する腎臓の調製
この実施例は、臓器、例えば腎臓の一つ又は複数の領域への移植のためのウエファーの調製を記載する。腎臓の柔組織内に配置させるための腎組織マトリックス(ウエファー)のサイズ及び形態を決定する。例えば、1mm厚、約2cm長及び幅のマトリックスである。単一の懸濁された腎細胞を腎臓組織マトリックス上に約細胞10x10細胞cmの濃度にて植える。マトリックスの壁の上で約2時間37℃において細胞が付着するのを許容させた。次に、マトリックスは、次に反対側に向きを代え、そして懸濁した腎細胞は腎臓組織マトリックス上に植えられた。マトリックスの壁の上で約2時間37℃において細胞が付着するのを許容させた。インキュベーションが完了した後に、培養培地をゆっくりとフラスコに加えることにより、全腎臓マトリックスをカバーした。マトリックス内で細胞を妨害しないように注意を払った。マトリックスを37℃においてインキュベーター中でCOと共にインキュベートした。培養培地は、生成される乳酸のレベルに依存して、毎日代えるか、又はしばしば代えた。最初の播種から4日目に、細胞マトリックス系を回転バイオリアクター系中に皿に3日間置くことにより、均一な細胞の分配及び成長を達成した。
【0114】
実施例8:臓器構造を増強する腎臓の移植
腎臓増強臓器ウエファーを臓器、例えば腎臓の一つ又は複数の領域の中に置いた。レシピエントの腎臓の表面を露出させた。腎臓の脈管は、出血を最少にするために血管クランプにより一時的に締め付けた。腎臓の柔組織を評価するために腎臓の被膜(capsule)上に切り口を入れた。被膜は柔組織から注意深く突き動かす(pushed)べきである。腎組織マトリックスのサイズ及び形態に関して類似の腎臓柔組織を、除去の間、集合系(collecting system)を破壊する事なく、除去した。細胞を植えた組織マトリックスを腎臓の柔組織内に入れ、そして腎臓被膜を、移植された腎臓組織マトリックス上で縫合した。血管クランプを再循環のために除去した。止血は数分間の移植物への優しい加圧により達成された。止血後、傷を閉じた。移植後、臓器構造を増強する腎臓内での細胞の生育及び発生を検査した。移植後1週間の腎臓マトリックスの写真は、細胞が生存しており、脂肪親和性赤色蛍光トレーサーカーボシアニンを用いたX100拡大により試験は陽性であることを示す(写真は示さず)。移植の4週間後に、管及び糸球体様構造の形成が観察される(H&Ex200、写真は示さず)。これらの管構造の発生は移植の8週目に続く(写真は示さず)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミニマトリックス材料及び腎臓細胞を含む、天然腎臓の増強のための移植用材料であって、腎臓細胞はミニマトリックス材料に付着しており、そして移植用材料がヒトの天然腎臓に移植されることを特徴とする、移植用材料。
【請求項2】
腎細胞の集団が、糸球体細胞、近位曲細管細胞、遠位細管細胞、ヘンレ係蹄細胞のループ、及び集合細管細胞からなる群から選択される、単離された集団であるか、又は混合集団である、請求項1記載の移植用材料
【請求項3】
ミニマトリックス材料の横幅、長さ及び高さが何れも100mm未満である、請求項1記載の移植用材料
【請求項4】
ミニマトリックス材料の横幅、長さ及び高さが何れも50mm未満である、請求項1記載の移植用材料
【請求項5】
ミニマトリックス材料の横幅、長さ及び高さが何れも25mm未満である、請求項1記載の移植用材料
【請求項6】
ミニマトリックス材料の横幅、長さ及び高さが何れも10mm未満である、請求項1記載の移植用材料
【請求項7】
ミニマトリックス材料の横幅、長さ及び高さが何れも5mm未満である、請求項1記載の移植用材料
【請求項8】
ミニマトリックス材料の横幅、長さ及び高さが何れも3mm未満である、請求項1記載の移植用材料
【請求項9】
ミニマトリックス材料が0.01mmから30mmの容積を有する、請求項1記載の移植用材料
【請求項10】
ミニマトリックス材料のサイズが増強される天然腎臓のサイズよりも小さい、請求項1記載の移植用材料
【請求項11】
ミニマトリックス材料が脱細胞化された腎臓組織である、請求項1記載の移植用材料
【請求項12】
ミニマトリックス材料がヒドロゲルである、請求項1記載の移植用材料
【請求項13】
ミニマトリックス材料がポリマーである、請求項1記載の移植用材料
【請求項14】
ポリマーが、コラーゲン、ポリ(アルファエステル)、ポリ(乳酸エステル)、ポリ(グリコール酸エステル)、ポリオルトエステル、ポリ無水物、セルロース、セルロースエーテル、フッ素化されたポリエチレン、フェノール類(phenolic)、ポリ−4−メチルペンテン、ポリアクリロニトリル、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリアクリレート、ポリベンゾキサゾル、ポリカーボネート、ポリシアノアリルエーテル、ポリエステルカーボネート、ポリエーテル、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルフォン、ポリエチレン、ポリフルオロオレフィン、ポリルミド(polylmide)、ポリオレフィン、ポリオキサジアゾル、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレン、スルフィド、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリスルフィド、ポリスルフォン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリチオエーテル、ポリトリアゾール、ポリウレタン、ポリビニリデンフルオリド、再生セルロース、酢酸エチルグリコール、及び尿素−フォルムアミドからなる群から選択される、請求項13に記載の移植用材料

【図1】
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【公開番号】特開2010−63910(P2010−63910A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−286549(P2009−286549)
【出願日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【分割の表示】特願2003−545352(P2003−545352)の分割
【原出願日】平成14年11月12日(2002.11.12)
【出願人】(596115687)チルドレンズ メディカル センター コーポレーション (25)
【Fターム(参考)】