説明

自動二輪車のスイングアーム

【課題】剛性向上を図りつつ、重量を軽量できるようにした自動二輪車のスイングアーム構造を提供する。
【解決手段】スイングアーム7は、メインフレーム等に支持される筒軸部30を有するスイングアーム基部31と、該スイングアーム基部31から後方に延びると共に後車軸を支持するアーム部32,33と、前記スイングアーム基部31の上面から前記アーム部32,33の上面に亘って形成されたスタイビラー34,35と、を有している。前記スイングアーム基部31は、車幅中心線から左右に広がると共に前記筒軸部30から後方に突出し、前記アーム部32,33は、垂直断面が閉断面構造となっている。前記スタビライザー34,35は、少なくとも一部が、車幅方向に開口する開断面構造となっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動二輪車の後車輪を上下方向揺動自在に支持するスイングアームに関する。
【背景技術】
【0002】
自動二輪車のスイングアームは、前端部が車体フレームに回動自在に支持されており、車体フレームと前記スイングアームとの間に、リヤサスペンションが介装され、スイングアームからの荷重をリヤサスペンションで減衰して車体フレームに伝達している。
【0003】
自動二輪車の各種仕様のうち、後車輪が頻繁に上下揺動するような走行に対応させた機種、たとえば、スポーツ用及びレース用の機種では、スイングアームの捩り剛性を向上させるため、スタビライザーを一体に形成しているものがある(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−1345号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述のように、スイングアームにスタビライザーを形成する構造では、捩り剛性が高くなる反面、スイングアームの重量が増加し、車輌全体の重量が増加すると共に、スイングアームの動き自体も鈍くなる。
【0006】
本発明の目的は、自動二輪車のスイングアームの剛性向上を図りつつ、スイングアームの重量を軽量できるようにすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明は、車体フレームに回動自在に支持される筒軸部を有するスイングアーム基部と、該スイングアーム基部から後方に延びると共に後車軸を支持するアーム部と、前記スイングアーム基部の上面から前記アーム部の上面に亘って形成されたスタイビライザーと、を有する自動二輪車のスイングアームにおいて、前記スイングアーム基部は、車幅中心線から左右に広がると共に前記筒軸部から後方に突出しており、
前記アーム部は、垂直断面が閉断面構造となっており、前記スタビライザーは、少なくとも一部の垂直断面が、車幅方向に開口を有する開断面構造となっている。
【0008】
本発明は、上記構成の自動二輪車において、好ましくは次の構成を適用することができる。
【0009】
(a)前記アーム部及び前記スタビライザーは、それぞれ左右一対設けられており、前記スイングアームは、前記スイングアーム基部及び左右の前記スタビライザーの前部からなる前側部材と、右側の前記アーム部及び右側の前記スタビライザーの後部からなる右側部材と、左側の前記アーム部及び左側の前記スタビライザーの後部からなる左側部材と、の3つの部材を接続しており、前記右側部材及び左側部材に、前記開口がそれぞれ形成されている。この場合、好ましくは、前記開口は、前記前側部材と、前記右側部材及び前記左側部材との接続部分よりも後方に形成されている。
【0010】
(b)前記アーム部及び前記スタビライザーは、それぞれ左右一対設けられており、前記スイングアーム基部の上側に、リヤサスペンションの一端部を支持する支持部が一体に形成され、前記左右のスタビライザーの少なくとも一方には、側面視で前記支持部に概ね対応する箇所に、作業用の側面窓孔が形成されている。この場合、好ましくは、前記支持部の後方には、前記左右のアーム部間の空間まで貫通する正面窓孔が形成されている。また、前記作業用の側面窓孔よりも後方位置に、後部側面窓孔が形成されている。
【発明の効果】
【0011】
(1)本発明によると、アーム部の閉断面構造及びスタビライザーにより、スイングアームの捩り剛性を高く維持しつつ、スタビライザーの開断面構造により、スイングアーム全体の軽量化を達成することができる。
【0012】
(2)構成(a)のように、スイングアームを3分割構造とすることにより、複雑な形状でも製作し易く、剛性も向上する。また、前記開口の位置を接続部より後方とすることにより、接続部を閉断面とすることができ、溶接により接合し易くなる。
【0013】
(3)構成(b)のように、スタビライザーが設けられていても、作業用の側面窓孔を形成することにより、リヤサスペンションの支持部まで工具等を容易に挿入でき、組立作業性を向上させることができると共に、スイングアームのさらなる軽量化を図ることができる。特に、リヤサスペンションが、本体(ショックアブソーバ)とリンク機構とを有する場合には、リンク機構のリンク部材等を、前記支持部へ容易に着脱することができる。さらに、後部側面窓孔あるいは正面窓孔を形成することにより、スイングアームのさらなる軽量化を図ることができ、また、前記、正面窓孔を形成することにより、リンク機構の後方と後車輪の前方のクリアランスを十分に確保するように、スペースを有効利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態に係る自動二輪車の左側面図である。
【図2】図1の自動二輪車のスイングアーム単体の平面図である。
【図3】図1の自動二輪車のスイングアーム単体の左側面図である。
【図4】図1の自動二輪車のスイングアーム単体の後面図である。
【図5】図1の自動二輪車のスイングアーム及びリヤサスペンションの平面図である。
【図6】図1の自動二輪車のスイングアーム及びリヤサスペンションの左側面図である。
【図7】図1の自動二輪車のスイングアームの分解平面図である。
【図8】図1の自動二輪車のスイングアームの分解左側面図である。
【図9】図1の自動二輪車のスイングアームの左側アーム部及び左側スタビライザーの右側面図(内面図)である。
【図10】図3のX-X断面図である。
【図11】図3のXI-XI断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1乃至図11は、本発明に係る自動二輪車及びスイングアームを示しており、これらの図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、説明の都合上、車輌の進行方向を車輌の「前方」とし、乗車したライダーから見た左右方向を、車輌の「左右方向」として、説明する。
【0016】
(車輌の全体構成)
図1は自動二輪車全体の左側面図であり、メインフレーム1の下側にエンジン2が配置され、メインフレーム1及び後部フレーム(シートレール)8の上側に、前側から順に、吸気ボックス3、燃料タンク4及びシート5が配置されている。メインフレーム1の後下端部に設けられたスイングアームブラケット1aに、ピボット部(揺動軸支部)6を介してスイングアーム7が回動可能に支持されている。リヤフレーム8内には、インナー形のリヤフェンダー9が固定され、該リヤフェンダー9の後端部にはフラップ10が設けられている。
【0017】
スイングアーム7は、前記ピボット部6から後方に延びると共に前記ピボット部6回りに上下方向揺動自在となっており、スイングアーム7の後端アジャスタ部7aに、後車輪11の後車軸が前後方向位置調節可能に支持されている。スイングアーム7の前上部は、後で詳細に説明するが、リヤサスペンション16を介してメインフレーム1のアッパークロス部材12に弾性支持されている。リヤサスペンション16は、前記クロス部材12から、後方に向かって少し下方に傾斜する状態で配置されている。本実施の形態のリヤサスペンション16は、本体(ショックアブソーバ)に加え、該ショックアブソーバの後端にアッパー式のリンク機構15を有しており、このアッパー式リンク機構15がスイングアーム7の前上部に連結されている。
【0018】
メインフレーム1の前端のヘッドパイプ20には、操舵軸(図示せず)が回動自在に支持され、該操軸には、上下一対のブラケット(図示せず)を介してフロントフォーク21が結合され、フロントフォーク21の下端部に、前車軸を介して前輪22が回転自在に支持されている。
【0019】
エンジン2のクランクケースの左側には出力スプロケット(図示せず)が設けられ、この出力スプロケットと、後車輪11の左側に設けられた後輪駆動用のスプロケット24との間に、駆動チェーン25が巻き掛けられている。
【0020】
(スイングアーム7、リヤサスペンション16及びリンク機構15の構成)
【0021】
図2はスイングアーム7の平面図、図3は同左側面図、図4は同後面図である。図2において、スイングアーム7は、前端に筒軸部30を一体に有するスイングアーム基部31と、該スイングアーム基部31の左右両端部から後方に延びる左側アーム部32及び右側アーム部33と、筒軸部30の左右両端部の上面から各アーム部32,33の後端部の上面に亘って形成された左側スタビライザー34及び右側スタビライザー35とを備えており、各アーム部32,33の後端部7aで、後車軸を支持している。
【0022】
前記スタビライザー34,35は、スイングアーム7の捩れ挙動を安定化させるために設けられる補強部材であって、各アーム部32,33にそれぞれ一体接続されてアーム部32,33から上下方向に延びている。このように前後方向に垂直な断面において、L字状またはU字状にスイングアーム7全体を形成するようにスタビライザー34,35が設けられる(図3参照)ことによって、スイングアーム7の捩れ剛性を高めて、スイングアーム7の捩れ量が急変することを防ぐことができる。
【0023】
前記スイングアーム基部31は、前記筒軸部30に加え、該筒軸部30の左右両端部から後方に延びる左右の筒部(アーム延長部)36、37と、左右の筒部36,37間を結合する平板状の連結部38と、を一体に有しており、連結部38の前側で筒軸部30の後側には、上下方向に貫通する矩形状の底面窓孔40が形成されている。連結部38の上面には、リンク機構連結用のボス部45が一体に形成されており、さらに、図3に示すように、スイングアーム基部31の後端部は、上方に立ち上がる縦壁部39を一体に有している。
【0024】
前記基部31の縦壁部39の上端部には左右方向に延びる橋架部100が一体に接続されており、図2のように、この橋架部100は、左右スタビライザー34,35の上端部を互いに連結している。縦壁部39とボス部45とは、それらの間にリンク機構15のリンク部材52が配置可能となるように車幅方向に間隔をあけて配置されている。本実施の形態では、縦壁部39およびボス部45は、車幅方向中心線C1に対して互いに左右反対方向に変位して配置される。具体的には、縦壁部39は、幅方向車体中心線C1に対して左側にずれて配置される。ボス部45は、幅方向車体中心線C1に対して右方向にずれて配置される。さらに本実施形態では、作業性向上のために、ボス部45に対して縦壁部39が前後方向にずれた位置に配置され、図6等に示すように、側面視において、ボス部45が縦壁部39で隠れることが防がれる。
【0025】
スイングアーム基部31の左右の筒部36、37は、前後方向に垂直な断面において、外周面が軸線まわりに一周する閉断面形状に形成されている。本実施の形態では、左右筒部36、37連結部38、縦壁部39および橋架部100は、内部空間が形成される中空筒形状に形成されている。
【0026】
図3において、左側アーム部32は、スイングアーム基部31の左側筒部36の後端に接続されている。左側スタビライザー34は、「へ」の字形(アーチ形状)に上方に突出しており、左側スタビライザー34の前部分(スイングアーム基部31に対応する部分)34aには、作業用の前部側面窓孔41が形成され、左側スタビライザー34の後部分(左側アーム部32に対応する部分)34bには、前記前部側面窓孔41から中間壁42を隔てて後部側面窓孔43が形成されている。具体的には、左側スタビライザー34の上面は、前端部から後方に進むに連れて上方に向かって傾斜して最上位置に達する。最上位置から後方に進むにつれて下方に向かって傾斜して後端部に達する。本実施の形態では、左側スタビライザー34の上面の最上位位置は、スイングアーム基部31の橋架部100付近に設定される。左側スタビライザー34は、上面視でスイングアーム基部31および左側アーム部32に重なる位置に配置される。
【0027】
左側スタビライザー34は、前端部がスイングアーム基部31の左筒部36の前端に接続され、下端部が左側アーム部32の後端に接続される。また本実施の形態では、左側スタビライザー34は、最上位置付近で、スイングアーム基部31の橋架部100に一体に接続される。このようにして左側スタビライザー34は、上方に湾曲したアーチ形状に形成される。左側スタビライザー34は、スイングアーム基部31の上方に配置される部分と、左側アーム部32の上方に配置される部分とで、前側部分34aと後側部分34bとに分けられる。言換えると、最上位置付近を境に、前側部分34aと後側部分34bとに分けられる。さらに言換えると、左側スタビライザー34は、橋架部100に接続される部分が前側部分34aの後端に設定される。
【0028】
前記前部側面窓孔41は、前記ボス部45が、側方から完全に視認でき、かつ、作業用の工具が挿入され、操作されることが可能な位置及び大きさに形成されている。
【0029】
具体的には、左側筒部36および左側スタビライザー34の前側部分34aが、それぞれ長手方向に断面形状がほぼ一様な棒状に形成される。前端部から後方に進むに連れて、左側スタビライザー34の前側部分34aが、左側筒部36に対して上方に離れる形状に形成される。このような左側スタビライザー34と左側筒部36との間に前部側面窓孔41が形成されることになる。したがって前部側面窓孔41は下方に進むにつれて前後方向寸法が大きくなる開口に形成される。本実施の形態では、中間壁42が、左側スタビライザー34の前後境界位置よりも後方に配置されることで、さらに前部側面窓孔41を後方に大きく形成することができる。前部側面窓孔41は、少なくともボス部45が側方に露出可能となるように形成される。
【0030】
左右のアーム部32,33は、前後方向に垂直な断面において外周面が軸線まわりに一周する閉断面形状に形成される。本実施形態では、各アーム部32,33は内部空間が形成される中空筒形状に形成される。
【0031】
図2において、右側アーム部33及び右側スタビライザー35等よりなる右側部分の形状も、前記左側アーム部32等の形状と基本的に同様であるが、平面視で、右側アーム部33が直線状に形成されているのに対し、前記左側アーム部32は、前記駆動チェーン25等の後輪動力伝達機構を配置するために、スイングアーム基部31の左端から湾曲状に左方に張り出す形状となっている。
【0032】
図4において、スイングアーム基部31の縦壁部39には、前後方向に貫通する略矩形状の正面窓孔47が形成されている。前述したように、前記ボス部45は、車幅中心線C1よりも右方に変位した位置に形成されている。また、左側アーム部32の前部側面窓孔41は、前記駆動チェーン25が前方から左右のアーム部32,33間に挿入できるように、左右方向に湾曲している。
【0033】
図9は、左側アーム部32及び左側スタビライザー34の後部の右側面図であり、左側アーム部32は、中空の角筒状に形成されている。すなわち、前後方向に垂直な断面が概ね矩形状の閉断面となっている。一方、左側スタビライザー34は、少なくとも一部が開断面に形成されている。具体的には、前記後部側面窓孔43の前端に対応する位置より前側は、中空の角筒状に形成されているが、前記後部側面窓孔43の前端に対応する位置から後端部に亘り、右側(車幅中心側)に向いた開口50を有している。該開口50は、後車軸を支持する後端部7aまで延びている。
【0034】
図10は、図3のX-X断面拡大図であり、左側スタビライザー34の後部34bが、車幅中心線側に前記開口50を有するC形あるいはコの字形の開断面であることを、明確に示している。また、図11は、図3のXI-XI断面であり、左側アーム部32の断面が、概ね矩形状の閉断面であることを明確に示している。
【0035】
スイングアーム7の上記各断面形状に関し、右側アーム部33及び右側スタビライザー部35も、左側アーム部32及び左側スタビライザー35と同様な断面形状となっている。すなわち、右側スタビライザー部35の後部35bは、左側(車幅中心側)に向いて開口するC形又はコの字形の開断面であり、右側アーム部33は矩形状の閉断面となっている。また、左右のスタビライザー34,35は、前側部分34a,35aと後側部分34b、35bとの境界付近は、いずれも閉断面となっている。
【0036】
なお、右側には、リヤサスペンション16が配置されるので、縦壁部39は、ボス部45のほか、リヤサスペンション16の調整機構から前後方向、具体的には後方にずれて配置されることで、調整機構に工具を配置させやすい。調整機構は、たとえばリヤサスペンションのバネ力および減衰力などを調整する機構であって、リヤサスペンション16の端部に設けられる。
【0037】
図5はリンク機構15及びリヤサスペンション16を装着した状態のスイングアーム7の平面図、図6は図5の左側面図である。図5において、リヤサスペンション16は、車幅中心線C1よりも右側に変位した位置に配置されており、リヤサスペンション16の左側には、ダンパー液用のリザーブタンク54が連結されている。
【0038】
図6において、リンク機構15は、ベル形リンク部材52及びタイロッド53を備えており、前記ボス部45に、前記ベル形リンク部材52の中央支点部52aが軸ボルト等により回動自在に支持されている。リンク部材52の一端部は後上方に延び、その上端連結部52bにリヤサスペンション16の後端クレビス部16bが軸ボルト等により回動自在に連結され、リンク部材52の他端部は前方に延び、その前端連結部52cは、タイロッド53の上端部に軸ボルト等により回動自在に連結されている。前記タイロッド53は、底面窓孔40(図2)を通って下方に延び、スイングアームブラケット1aに形成された支持ボス部58に回動自在に支持されている。
【0039】
リヤサスペンション16の前端クレビス部16aは、前述のように、メインフレーム1のクロス部材12に形成されたボス部12aに、回動自在に連結されている。
【0040】
(スイングアームの材質及び製造)
図7は、組立前のスイングアーム7の分解平面図、図8は同分解右側面図である。図7及び図8において、本実施の形態のスイングアーム7は、3分割構造となっており、鋳造成形された3つの鋳物製の部材A1、A2、A3を、溶接により一体に結合している。すなわち、スイングアーム基部31及び左右のスタビライザー34,35の前部34a、34bからなる前側部材A1、左側アーム部32及び左側スタビライザー34の後部34bからなる左側部材A2、及び右側アーム部33及び右側スタビライザー35の後部35bからなる右側部材A3の3つの鋳造成形部材を、互いに溶接により結合している。
【0041】
左側アーム部32の前端及び左側スタビライザー34の後部34bの前端は、スイングアーム基部31の左側筒部36の後端及び左側スタビライザー34の前部34aの後端に、それぞれいんろう嵌合し、右側アーム部33の前端及び右側スタビライザー35の後部35bの前端は、スイングアーム基部31の右側筒部36の後端及び右側スタビライザー35の前部35aの後端に、嵌め合わされ、そして、図2に示すように、左右の各接続部分は、全周溶接V1及びV2により、それぞれ結合されている。
【0042】
図9で説明したように、左側スタビライザー34の開口50は、後部側面窓孔43の前端よりも後方に形成されているので、後部側面窓孔43の前端から接続部分(溶接V1部分)までは、断面矩形状が閉断面となっており、これにより、各接続部分における全周溶接V1が可能となり、強固に接続できる。
【0043】
勿論、図2等に示す右側スタビライザー35の開口50(図示せず)も、左側スタビライザー32の開口50と同様な位置に形成されているので、後部側面窓孔43の前端から接続部分(図2の溶接V2部分)までは、断面矩形状が閉断面となっており、これにより、全周溶接V2が可能となり、強固の接続できる。
【0044】
(前側部材A1及び左右の部材A2、A3の成形方法)
図8において、前側部材A1を鋳造成形する場合には、抜き方向がX1及びX2となる上下の成形型(金型等)61,62により成形される。上下の成形型61,62の合わせ面は、仮想線X3で示すような折れ曲がり形状となっている。すなわち、抜き方向X1の一方の成形型61は、左右のスタビライザー33,34の前部分33a,34a、縦壁部39の下部及びボス部45の成形面を有し、抜き方向X2の他方の成形型62は、スイングアーム基部31と縦壁部39の上部の成形面を有している。そして、これらの成形型61,62に加え、左右の前部側面窓孔41を形成するためのスライドを使用して、前側部材A1を鋳造成形する。
【0045】
この成形方法によると、縦壁部39を抜き方向X1,X2と平行に横断する形状の合わせ面X3により、縦壁部39を2分割しているので、縦壁部39の正面窓孔47(図4)を形成するためのスライドが不要となり、鋳造が容易になる。
【0046】
なお、図7において、左側部材A2及び側部材A3は、車幅中心線C1と直交する抜き方向X5、X6を有する一対の型71,72及び73,74により、それぞれ鋳造成形される。
【0047】
(実施の形態の作用効果)
(1)左右のスタビライザー34,35を備えると共に、左右のアーム部32,33が、閉断面を有する中空形状となっており、しかも、左右のスタビライザー34,35の少なくとも一部は、開口50を有する中空状の開断面となっているので、左右のアーム部32,33の捩り剛性を高く維持しつつ、スイングアーム7全体の軽量化を達成することができる。
【0048】
(2)スイングアーム7の各部材(部材A1,A2,A3)を鋳造成形物としているので、板金製と比べ、設計の自由度が増え、複雑な形状を容易に形成できると共に、スイングアーム用の部品点数を削減できる。
【0049】
(3)スイングアーム7を、前側部材A1と、左右の部材A2,A3との3分割構造としているので、複雑な形状でも製作し易く、剛性も向上する。また、前記スタビライザー34,35の開口50の位置を、溶接接続部V1,V2より後方としているので、接続部を閉断面とすることができ、溶接V1,V2により接合し易く、且つ強固に接続できる。
【0050】
(4)側方から見て、リヤサスペンション連結用のボス部45を視認でき、かつ工具を側方から挿入して作業可能な作業用の前部側面窓孔41を形成しているので、肉抜きにより、スイングアーム7の軽量化を図りつつ、アッパー式のリンク機構15の着脱作業を、前部側面窓孔41を通して、側方から容易に行うことができる。
【0051】
(5)スイングアーム基部31の後部に形成した縦壁部39に正面窓孔40を形成しているので、肉抜きにより、さらなる軽量化を図ることができるのは勿論のこと、リンク機構15の後方及び後車輪11の前方に、それらの動作を許容しうるクリアランスを、十分に確保できる。すなわち、スイングアーム7内のスペースを、リンク機構15の作動及び後車輪11の作動を許すように、有効利用できる。
【0052】
(6)スイングアーム7を、図9で示すように、前側部材A1と、左右の部材A2、A3とに3分割構造としていると、前側部材A1を鋳造成形する場合に、合わせ面X3で示すように、縦壁部39を横断する合わせ面X2とすることにより、縦壁部39に形成する正面窓孔40を、上下の型のみで成形することができ、正面窓孔40の成形用のスライドを用いる必要がなくなる。これにより、前側部材A1の鋳造成形が容易になる。
【0053】
〔その他の実施の形態〕
(1)前記実施の形態のスイングアームは、左右にアーム部を備えた両持ちタイプであるが、本発明は、左右の一方のアーム部のみを備え、後車輪を片持ちで支持する片持ちタイプにも適用可能である。この場合、スタビライザーは、左右いずれか一方のみに形成されてもよい。
【0054】
(2)前記実施の形態では、スタビライザーの車幅方向の内面側に開口を形成して、開断面としているが、スタビライザーの車幅方向の外方、上方あるいは下方に向いて開口する開断面とすることも可能である。なお、車幅方向の内面側に開口を形成することで、美観を向上させることができる。
【0055】
(3)前記実施の形態では、スタビライザーの開口の位置を、前側部分と左右の部分との溶接接続部分(V1,V2)よりも後方位置から後側に形成しているが、開口を、スタビライザーの全長に亘るように形成したり、前後方向の別の位置に形成したり、することも可能である。また、開口形成部分に、前後、上下方向に延びるリブを適宜形成して、スイングアームの強度を向上させることも可能である。
【0056】
(4)前記実施の形態のスイングアームは、前側部分と、左右の部分との3分割構造とし、それらの部材を鋳造成形品として、溶接により接合しているが、その他の分割構造としたり、あるいは、ボルト等による接続構造としたり、あるいは板金で製造したりすることも可能である。
【0057】
(5)前記実施の形態では、アーム部等の閉断面が形成される部分について中空形状に形成されるとしたが、外周形状が閉断面であれば、中実形状に形成されてもよい。また前記実施の形態では、ボス部によってリヤサスペンションのリンク機構を支持するとしたが、リンク機構を有しないリヤサスペンションの場合には、リヤサスペンションの後端部(ショックアブソーバの後端部)を、直接にボス部によって支持する構造となる。このようにリンク機構を有しないリヤサスペンションの本体(ショックアブソーバ)の一端部、またはショックアブソーバとリンク機構を含むリヤサスペンションの前記リンク機構を、ボス部によって支持する構成であればよい。
【0058】
(6)側面窓孔、ボス部、縦壁部、橋架部、連結部等が設けられない構造も、当然に本発明に含まれる。またリヤサスペンションが前後方向に延びる場合に限らずに、上下方向に延びるように配置された構造も、本発明を適用可能である。
【0059】
(7)特許請求の範囲に記載された本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、各種変形及び変更を行うことも可能である。
【符号の説明】
【0060】
1 メインフレーム
1a スイングアームブラケット
7 スイングアーム
15 リンク機構
16 リヤサスペンション
30 筒軸部
31 基部
32 左側アーム部
33 右側アーム部
34 左側スタビライザー
34a、34b 左側スタビライザーの前部及び後部
35 右側スタビライザー
35a、35b 右側スタビライザーの前部及び後部
39 縦壁
40 底面窓孔
41 前部側面窓孔
43 後部側面窓孔
45 リヤサスペンション後端部連結用のボス部
47 正面窓孔
50 開口
A1 前側部材
A2 左側部材
A3 右側部材
V1,V2 溶接部(接続部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体フレームに回動自在に支持される筒軸部を有するスイングアーム基部と、該スイングアーム基部から後方に延びると共に後車軸を支持するアーム部と、前記スイングアーム基部の上面から前記アーム部の上面に亘って形成されたスタイビライザーと、を有する自動二輪車のスイングアームにおいて、
前記スイングアーム基部は、車幅中心線から左右に広がると共に前記筒軸部から後方に突出しており、
前記アーム部は、垂直断面が閉断面構造となっており、
前記スタビライザーは、少なくとも一部の垂直断面が、車幅方向に開口を有する開断面構造となっている、自動二輪車のスイングアーム。
【請求項2】
請求項1に記載の自動二輪車のスイングアームにおいて、
前記アーム部及び前記スタビライザーは、それぞれ左右一対設けられており、
前記スイングアームは、前記スイングアーム基部及び左右の前記スタビライザーの前部からなる前側部材と、右側の前記アーム部及び右側の前記スタビライザーの後部からなる右側部材と、左側の前記アーム部及び左側の前記スタビライザーの後部からなる左側部材と、の3つの部材を接続しており、
前記右側部材及び左側部材に、前記開口がそれぞれ形成されている、自動二輪車のスイングアーム。
【請求項3】
請求項2に記載の自動二輪車のスイングアームにおいて、
前記開口は、前記前側部材と、前記右側部材及び前記左側部材との接続部分よりも後方に形成されている、自動二輪車のスイングアーム。
【請求項4】
請求項3記載の自動二輪車のスイングアームにおいて、
前記スイングアーム基部の上側に、リヤサスペンションの一端部を支持する支持部が一体に形成され、
前記左右のスタビライザーの少なくとも一方には、側面視で前記支持部に概ね対応する箇所に、作業用の側面窓孔が形成されている、自動二輪車のスイングアーム。
【請求項5】
請求項4に記載の自動二輪車のスイングアームにおいて、
前記支持部の後方には、前記左右のアーム部間の空間まで貫通する正面窓孔が形成されている、自動二輪車のスイングアーム。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の自動二輪車のスイングアームにおいて、
前記スタビライザーには、前記作業用の側面窓孔よりも後方位置に、後部側面窓孔が形成されている、自動二輪車のスイングアーム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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