説明

自動車のペダル支持構造

【課題】複数の部品を必要とせずに、簡単な構造で、車両の前方衝突時にペダルレバーの突き上げを抑制することを実現するペダル支持構造を提供する。
【解決手段】ブレーキペダル1を支持するブラケット10Aを、ブレーキペダル1の前方のダッシュボードロア2に固定された第1ブラケット11と、ブレーキペダル1の上方に位置するダッシュボードアッパ3に固定された第2ブラケット12と、第1ブラケット11と第2ブラケット12とを接続する第3ブラケット13とから一体に形成し、第3ブラケット13を、車両前方から後方に行くにつれて徐々に上方に延びるように斜めに配置して、第1ブラケット11が後方に変位したときに、第1ブラケット11および第2ブラケット12との各接続部で変形するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動車のペダル支持構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のペダルを車体に支持させるペダル支持構造として、例えば特許文献1に開示されたものがある。
【特許文献1】特開平10−310036号公報
【0003】
特許文献1には、ブレーキペダルを支持するペダルブラケットの前端を、エンジン室と車室内とを区画するダッシュボードロアに固定して、ペダルブラケットをダッシュボードロアから後上方に延出配置させると共に、ペダルブラケットの後端を、ダッシュボードロアの上端から略水平方向に延びるように配置されたダッシュボードアッパの下端に当接させたペダル支持構造が開示されている。
このペダル支持構造では、後下がりに傾斜する傾斜面を有するブラケットが、ダッシュボードアッパの下端に設けられており、ペダルブラケットの後端は、傾斜面よりも車両の前方側に位置している。
これにより、車両の前方衝突時にダッシュボードロアが車両の後方に向けて後退しても、ペダルブラケットの後端が傾斜面に沿って下方向に押し下げられて、ブレーキペダルが、上方に突き上げることなく、後方下側に向けて移動するようにしている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に開示されたペダル支持構造では、ブレーキペダルの車体への支持に複数の部品が必要となり、また、ブレーキペダルの車体への組み付け時に組付精度を必要とするために製造コストが高くなるという問題があった。
【0005】
よって、本発明は、複数の部品を必要とせずに、簡単な構造で、車両の前方衝突時にペダルレバーの突き上げを抑制することを実現するペダル支持構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ペダルレバーを支持するブラケットを、ペダルレバーの前方の第1の車体構造部材に固定された第1ブラケットと、ペダルレバーの上方に位置する第2の車体構造部材に固定された第2ブラケットと、第1ブラケットと第2ブラケットとを接続する第3ブラケットとから一体に形成し、第3ブラケットは、車両前方から後方に行くにつれて徐々に上方に延びるように斜めに配置されて、第1ブラケットが後方に変位したときに、第1ブラケットおよび第2ブラケットとの各接続部で変形可能とした構成の自動車のペダル支持構造とした。
【0007】
ここで、上記した自動車のペダル支持構造において、第2ブラケットの第3ブラケットとの接続部、そして第1ブラケットの第3ブラケットとの接続部には、切り欠きが形成されている構成とした。
【0008】
さらに、第1ブラケットには、第3ブラケットとの接続部に向けてリブが形成され、第2ブラケットには、第3ブラケットとの接続部に向けてリブが形成され、第3ブラケットには、第1ブラケットとの接続部から第2ブラケットとの接続部に向けてリブが形成されており、これら各リブは互いに分断されている構成とした。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、第3ブラケットは、車両前方から後方に行くにつれて徐々に上方に延びるように斜めに配置されており、第3ブラケットと第1ブラケットとの接続部と、第3ブラケットと第2ブラケットとの接続部は、第1ブラケットが後方に変位したときに変形可能とされているので、車両の前方衝突時に第1ブラケットが後方に変位すると、第3ブラケットは、第2ブラケットとの接続部周りに回動して、当該第3ブラケットの第1ブラケット側が車両後方側に大きく変位する。
これにより、第1ブラケットは、回りながら変位させられるので、ブラケットに支持されたブレーキペダルの突き上げを抑制することができる。
ここで、ペダルレバーを支持するブラケットは、第1ブラケットと、第2ブラケットと、第3ブラケットとから一体に形成されているので、ペダルレバーの車体への支持に、複数の部品を必要としない。
よって、複数の部品を必要とせずに、簡単な構造で、車両の前方衝突時にペダルレバーを下方に変位させることを実現するペダル支持構造となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明にかかる自動車のペダル支持構造の実施例を、ブレーキペダル支持構造の場合を例に挙げて説明する。
図1は、実施例にかかるブレーキペダル支持構造の側面図であり、図2は、図1に示すブレーキペダル支持構造を車室側から見た図であり、図3は、図1のブラケットの拡大図である。
【0011】
図2に示すように、実施例にかかるブレーキペダル支持構造では、ブレーキペダル1は、ブラケット10A、10Bの間で、ボルト6およびナット7により、回転可能に支持されており、これらブラケット10A、10Bを介して車体構造部材に支持されている。
ここで、ブラケット10A、10Bは、ブレーキペダル1を挟んで対称となる形状を有しているので、以下のブラケットの説明は、ブラケット10Aについて行うものとする。
【0012】
図1に示すように、ブラケット10Aは、ブレーキペダル1の前方のエンジン室と車室とを区画するダッシュボードロア2に固定された第1ブラケット11と、ブレーキペダル1の上方に位置して、ダッシュボードロア2の図示しない上端から車両後方側に延びるように配置されたダッシュボードアッパ3に固定された第2ブラケット12と、第1ブラケット11と第2ブラケット12とを接続する第3ブラケット13とから一体に形成される。
【0013】
図2に示すように、第1ブラケット11の車両前方側の端部は、車両の幅方向における外側に向けて折り曲げられて取付部11aとされており、第1ブラケット11は、取付部11aのボルト挿通穴11bに挿通した図示しないボルトを介して、ダッシュボードロア2の車室側の面2aに固定される。
【0014】
図3に示すように、第1ブラケット11は、ダッシュボードロア2の車室側の面2aから車両後方側に延出しており、当該第1ブラケット11の車両後方側の上部には、第3ブラケット13が接続して形成されている。
第1ブラケット11の第3ブラケット13との接続部の車両前方側と車両後方側には、それぞれ切り欠き11c、11dが形成されている。
【0015】
第1ブラケット11の車両前方側から第3ブラケット13との接続部の近傍までの範囲には、第3ブラケット13に向けて延びるリブ11eが形成されており、リブ11eよりも車両上方側には、ブレーキペダル1を回転自在に支持するボルト6を挿通するボルト穴11fが形成されている。
図2に示すように、第1ブラケット11の第3ブラケット13との接続部よりも車両後方下側は、ブレーキペダル1側に向けて折り曲げられており、折り曲げられた先端部には、ブレーキペダル1の位置を検出する位置検出センサ4を支持する支持部11gが設けられている。
【0016】
第2ブラケット12の車両上方側の端部は、車両の幅方向における外側に折り曲げられて取付部12aとされており、第2ブラケット12は、取付部12aのボルト挿通穴12bに挿通した図示しないボルトを介して、ダッシュボードアッパ3の下面3aに固定されている。なお、第2ブラケット12の取付部12aは、車両の幅方向内側に折り曲げて形成しても良い。
図3に示すように、第2ブラケット12は、ダッシュボードアッパ3の下面から車両下方側に延出配置されており、当該第2ブラケット12の下端の車両前方側には、第3ブラケット13が接続して形成されている。
【0017】
第2ブラケット12の第3ブラケット13との接続部の車両前方側には、切り欠き12cが形成されており、この切り欠き12cの近傍には、第3ブラケット13との接続部に向けて延びるリブ12eが形成されている。
【0018】
第3ブラケット13は、第1ブラケット11の車両後方側の上部から、車両の後方に行くにつれて徐々に上方に延びるように斜めに配置されており、第3ブラケット13の延長上には、第2ブラケット12が位置している。
第3ブラケット13には、当該第3ブラケット13の延びる方向に沿ってリブ13eが形成されている。
【0019】
第3ブラケット13と第1ブラケット11との接続部と、第3ブラケット13と第2ブラケット12との接続部は、それぞれ折り曲げられており、図2に示すように、ブレーキペダル支持構造を車室側から見ると、第2ブラケット12は、第1ブラケット11よりもブレーキペダル1側に位置している。もっとも、第2ブラケット12は、図2の例と異なり、第1ブラケット11よりも外側に広がった形状であってもよい。
【0020】
次に、車両の前方衝突により、ダッシュボードロア2が車両後方側に変位した際のブレーキペダル支持構造におけるブラケット10Aの変形を説明する。
図4および図5は、ブレーキペダル支持構造におけるブラケットの変形を説明する図である。
【0021】
車両の前方衝突時に作用する力Fにより、ダッシュボードロア2が車両後方側に変位して、ダッシュボードロア2上の第1ブラケット11の位置Pが、図4(a)に示すX0の位置からX1で示す位置まで変位すると、図4(b)に示すように、第3ブラケット13は、第1ブラケット11により押されて、車両後方側に変位する。
しかし、第3ブラケット13の車両後方側の延長上には第2ブラケット12が位置しているので、第3ブラケットの車両後方側への変位が、第2ブラケット12により規制される。
【0022】
ここで、第1ブラケット11と第3ブラケット13との接続部(図中符号Aで示す領域)と、第2ブラケット12と第3ブラケット13との接続部(図中符号Bで示す領域)の剛性は、周囲に比べて弱いので、第3ブラケット13と第1ブラケット11との接続部と、第3ブラケット13と第2ブラケット12との接続部において、それぞれ変形が生じる。
【0023】
第3ブラケット13は、側面視において、車両後方側に行くにつれて徐々に上方に延びるように斜めに配置されているので、第1ブラケット11が車両後方側に変位すると、第3ブラケット13は、第2ブラケット12と第3ブラケット13との接続部周りに回動して、第3ブラケット13の第1ブラケット11側が車両後方側に大きく変位する。
その結果、第1ブラケット11と第3ブラケット13とが、それぞれ、図4(b)において矢印で示す方向に変位するので、ブレーキペダル1は、突き上げられず、車両下側および後方に変位し、車両後方への変位量は小さくなる。
【0024】
ダッシュボードロア2上の位置Pが、車両後方側にさらに変位して、図4(a)に示す位置X0から、符号X1、X2で示す位置(図4(b)、(c)を参照)を経て、図5に示すX3の位置まで変位すると、第3ブラケット13の、第2ブラケット12との接続部周りの回動がさらに進行して、第3ブラケット13の第1ブラケット11側が車両下側に大きく変位する。
これにより、図5に示すように、ダッシュボードロア2が車両後方側に大きく後退しても、ブレーキペダル1の位置は、ダッシュボードロア2が後退する前のブレーキペダル1の位置(図中において2点鎖線で示す)よりも車両下方側に変位し、突き上げは抑制される。
【0025】
以上の通り、本実施例では、ブレーキペダル1を支持するブラケット10A、10Bを、ブレーキペダル1の前方のダッシュボードロア2に固定された第1ブラケット11と、ブレーキペダル1の上方に位置するダッシュボードアッパ3に固定された第2ブラケット12と、第1ブラケット11と第2ブラケット12とを接続する第3ブラケット13とから一体に形成し、第3ブラケット13を、車両前方から後方に行くにつれて徐々に上方に延びるように斜めに配置して、第1ブラケット11が車両後方側に変位したときに、第3ブラケット13と第1ブラケット11との接続部、そして第3ブラケット13と第2ブラケット12との接続部が、変形するように構成した自動車のペダル支持構造とした。
【0026】
これにより、ダッシュボードロア2の車両後方側への変位により第1ブラケット11が車両後方側に変位すると、第3ブラケット13と第1ブラケット11との接続部(図4(a)において符号Aで示す領域)と、第3ブラケット13と第2ブラケット12との接続部(図4(a)において符号Bで示す領域)において、それぞれ変形が生じる。そして、第3ブラケット13が、第2ブラケット12と第3ブラケット13との接続部周りに回動して、第3ブラケット13の第1ブラケット11側が車両後方側に大きく変位するので、第1ブラケット11が車両後方の下側(車両下方側)に向けて変位させられる。
よって、第1ブラケット11に支持されたブレーキペダル1の突き上げを抑制し、車両後方側への変位を小さくすることができる。
また、ブレーキペダル1を支持するブラケット10A、10Bは、第1ブラケット11と、第2ブラケット12と、第3ブラケット13とから一体に形成されているので、複数の部品を必要とせずに、簡単な構造でブレーキペダル1を車体側に支持させることができる。
【0027】
さらに、第2ブラケット12の第3ブラケット13との接続部の車両前方側の位置に切り欠き12cが形成されている構成した。
これにより、第1ブラケット11が車両後方側に変位したときに、第3ブラケット13が、第2ブラケット12と第3ブラケット13との接続部周りに回動し、第3ブラケット13の第1ブラケット11側が車両後方側に大きく変位するので、第1ブラケット11の車両下方側に向けた変位を容易にする。よって、第1ブラケット11に支持されたブレーキペダル1の、突き上げを抑制することができる。
【0028】
また、第1ブラケット11の第3ブラケット13との接続部の車両前方側と車両後方側には、それぞれ切り欠き11c、11dが形成されている構成とした。
これにより、第1ブラケット11が車両後方側に変位したときに、第1ブラケット11と第3ブラケット13との接続部での変形が容易になるので、第1ブラケット11の車両下方側に向けた変位を容易にする。
よって、この場合もまた、第1ブラケット11に支持されたブレーキペダル1を、車両後方側ではなく、車両下方側に変位させることができる。
【0029】
さらに、第1ブラケット11には、第3ブラケット13との接続部に向けてリブ11eが形成され、第2ブラケット12には、第3ブラケット13との接続部に向けてリブ12eが形成され、第3ブラケット13には、第1ブラケット11との接続部から第2ブラケット12との接続部に向けてリブ13eが形成され、各リブ11e、12e、13eは互いに分断されている構成とした。
これにより、第1ブラケット11、第2ブラケット12、そして第3ブラケット13のリブ11e、12e、13eが形成されている部分の剛性が高くなる一方で、第1ブラケット11と第3ブラケット13との接続部や、第2ブラケット12と第3ブラケット13との接続部の剛性が、周囲に対して相対的に弱くなるので、接続部での変形が容易になる。
また、第1ブラケット11、第2ブラケット12、そして第3ブラケット13の座屈を防止しつつ、第1ブラケット11の車両下方側に向けた変位を容易にする。
【0030】
上記実施例では、自動車のブレーキペダルの場合を例に挙げて、本発明にかかる自動車のペダル支持構造を説明したが、本発明に係る自動車のペダル支持構造は、自動車のブレーキペダルのみならず、アクセルペダルやクラッチペダルなどにも好適に適用可能である。
【0031】
また、上記実施例では、理想的な形態として、車両の前方衝突時に、ブレーキペダルが下方へ移動する形態を示したが、車両の前方衝突時にブレーキペダルが後方へのみ移動するような形態であっても構わない。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】実施例にかかる自動車のペダル支持構造の側面図である。
【図2】実施例にかかる自動車のペダル支持構造を車両後方から見た図である。
【図3】実施例にかかる自動車のペダル支持構造のブラケットの拡大図である。
【図4】実施例にかかる自動車のペダル支持構造のブラケットの変形を説明する図である。
【図5】実施例にかかる自動車のペダル支持構造のブラケットの変形を説明する図である。
【符号の説明】
【0033】
1 ブレーキペダル(ペダルレバー)
2 ダッシュボートロア(第1の車体構造部材)
3 ダッシュボードアッパ(第2の車体構造部材)
4 位置検出センサ
10A、10B ブラケット
11 第1ブラケット
12 第2ブラケット
13 第3ブラケット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペダルレバーを支持するブラケットを、前記ペダルレバーの前方の第1の車体構造部材に固定された第1ブラケットと、前記ペダルレバーの上方に位置する第2の車体構造部材に固定された第2ブラケットと、第1ブラケットと第2ブラケットとを接続する第3ブラケットとから一体に形成し、
前記第3ブラケットは、車両前方から後方に行くにつれて徐々に上方に延びるように斜めに配置され、前記第1ブラケットが後方に変位したときに、前記第1ブラケットおよび前記第2ブラケットとの各接続部で変形可能に構成されたことを特徴とする自動車のペダル支持構造。
【請求項2】
前記第2ブラケットの前記第3ブラケットとの接続部には、切り欠きが形成されていることを特徴とする請求項1に記載の自動車のペダル支持構造。
【請求項3】
前記第1ブラケットの前記第3ブラケットとの接続部には、切り欠きが形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の自動車のペダル支持構造。
【請求項4】
前記第1ブラケットは、前記第3ブラケットとの接続部に向けてリブが形成され、
前記第2ブラケットは、前記第3ブラケットとの接続部に向けてリブが形成され、
前記第3ブラケットは、前記第1ブラケットとの接続部から前記第2ブラケットとの接続部に向けてリブが形成され、
前記各リブは互いに分断されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の自動車のペダル支持構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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