説明

自動車冷却空調部品用ポリアミド樹脂組成物

【課題】ガラス繊維強化ポリアミド樹脂の優れた特徴を損なわずに高温下での不凍液に対する耐久性、耐塩化カルシウム性の著しく改善された自動車冷却空調部品用ポリアミド樹脂組成物を提供する。
【解決手段】(A)アミノ末端基が60m当量/kg以上のポリアミド樹脂、(B)JIS K7112により測定された密度が0.906g/cm以上のポリプロピレン系樹脂、(C)無水マレイン酸を0.5〜2重量%グラフトした変性ポリプロピレン系樹脂、(D)ガラス繊維、および(E)熱安定剤からなり、(B)と(C)の合計量が(A)と(B)と(C)の合計量に対して10〜40重量%、(D)の配合量が(A)と(B)と(C)と(D)の合計量に対して20〜40重量%、(E)の配合量が(A)と(B)と(C)と(D)の合計量100重量部に対して0.1〜3.0重量部であることを特徴とする自動車冷却空調部品用ポリアミド樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動車冷却空調部品用ポリアミド樹脂組成物に関する。更に詳しくは機械的特性に優れ、且つ耐熱エージング性、100℃〜150℃での自動車不凍液に対する耐久性および耐塩化カルシウム性に優れた自動車冷却空調部品用ポリアミド樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車分野において、軽量化、組み立て合理化から、金属部品を樹脂化することが行われてきた。なかでもガラス繊維で強化されたポリアミド樹脂は、機械的特性、耐熱性、耐油性、靭性に優れることからラジエータータンク、ウォーターバルブ等の不凍液と接触する自動車部品の素材として注目され、長期の使用実績がある。
しかしながら、従来のガラス繊維強化ポリアミド樹脂は、高温雰囲気化での長時間の不凍液との接触により強度が低下してしまう欠点があり、今後さらに冷却水の高温度化が加速される傾向にある自動車冷却空調部品材料に使用するには問題があった。この欠点を改善するために、ガラス繊維強化ポリアミド樹脂のガラス繊維濃度を高めて、初期の機械的特性を向上させることで不凍液に対する劣化寿命を延長させようとする試みがなされているが、この技術ではガラス繊維増量に伴う部品重量の増大をきたし、自動車軽量化の動きに逆行するばかりか、成形品とした場合に外観も悪くなるため後加工工程が増えるといった問題が新たに発生する欠点があり、必ずしも満足できる素材ではなかった。
【0003】
また、特許文献1〜5には耐不凍液性または吸水時の物性に優れた冷却空調部品用ポリアミド材料を得ることを目的とし、ポリアミド樹脂に変性ポリプロピレン樹脂を配合し、これをガラス繊維で強化したポリアミド樹脂組成物が提案されているが、これらの提案は確かに耐不凍液性改善に効果が認められるものの、機械的特性、特に熱時剛性が十分ではなく、自動車エンジンルーム内に搭載される冷却空調部品用ポリアミド樹脂材料としては必ずしも満足のいく素材ではなかった。
【0004】
【特許文献1】特公昭61−026939号公報
【特許文献2】特許第2678615号公報
【特許文献3】特許第2630799号公報
【特許文献4】特許第2649406号公報
【特許文献5】特許第2695490号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、ガラス繊維強化ポリアミド樹脂の優れた特性を損なわずに100℃〜150℃での不凍液に対する耐久性および耐塩化カルシウム性の著しく改善された自動車冷却空調部品用ポリアミド樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討した結果、アミノ基濃度の高いポリアミド樹脂に高密度のポリプロピレン樹脂、無水マレイン酸をグラフトした変性ポリプロピレン樹脂、ガラス繊維および熱安定剤を配合してなる樹脂組成物が、上記課題を達成し得ることを見いだし、本発明に至った。
【0007】
すなわち、本発明は、
[1] (A)アミノ末端基が60m当量/kg以上のポリアミド樹脂、
(B)JIS K7112により測定された密度が0.906g/cm以上のポリプロピレン系樹脂、
(C)無水マレイン酸を0.5〜2重量%グラフトした変性ポリプロピレン系樹脂、
(D)ガラス繊維、および
(E)熱安定剤からなるポリアミド樹脂組成物であって、
(B)と(C)の合計量が(A)と(B)と(C)の合計量に対して10〜40重量%、(D)の配合量が(A)と(B)と(C)と(D)の合計量に対して20〜40重量%、(E)の配合量が(A)と(B)と(C)と(D)の合計量100重量部に対して0.1〜3.0重量部、且つ、
(C)の配合量が(B)と(C)の合計量に対して、10〜40重量%であることを特徴とする自動車冷却空調部品用ポリアミド樹脂組成物、
【0008】
[2] (A)ポリアミド樹脂のアミノ末端基が70m当量/kg以上である[1]に記載の自動車冷却空調部品用ポリアミド樹脂組成物、
[3] (B)ポリプロピレン系樹脂のJIS K6758により測定された曲げ弾性率が1500MPa以上である[1]または[2]に記載の自動車冷却空調部品用ポリアミド樹脂組成物、
[4] (E)熱安定剤がヒンダードフェノール系熱安定剤、イオウ系熱安定剤およびヒンダードアミン系熱安定剤から選ばれる1種または2種以上である[1]〜[3]のいずれかに記載の自動車冷却空調部品用ポリアミド樹脂組成物、
である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の自動車冷却空調部品用ポリアミド樹脂組成物を成形して得られる成形品は、ガラス繊維強化ポリアミド樹脂の引張り強度や曲げ弾性率などの機械的特性を損なわずに100℃〜150℃の高温下での自動車不凍液に対する耐久性および耐塩化カルシウム性に優れ、さらには耐熱エージング性が改善された成形品である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明を以下詳細に説明する。
本発明の(A)ポリアミド樹脂としては、ヘキサメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4−または2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、1,3−または1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、ビス(p−アミノシクロヘキシルメタン)、m−またはp−キシリレンジアミンのような脂肪族、脂環族または芳香族のジアミンと、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸のような脂肪族、脂環族または芳香族のジカルボン酸とから製造されるポリアミド樹脂、6−アミノカプロン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸から製造されるポリアミド樹脂、ε−カプロラクタム、ω−ドデカラクタムのようなラクタムから製造されるポリアミド樹脂およびこれらの成分からなる共重合ポリアミド樹脂、並びにこれらのポリアミド樹脂の混合物が挙げられる。具体的なポリアミド樹脂としてはポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド612等が挙げられる。これらの中で、耐塩化カルシウム性、高温下での剛性に優れる点からポリアミド66およびポリアミド66とポリアミド612の混合物が好ましい。
【0011】
本発明に使用するポリアミド樹脂は、該樹脂のアミノ末端基の濃度が60m当量/kg以上のポリアミド樹脂であり、好ましくは70〜130m当量/kgの範囲である。ポリアミド樹脂のアミノ末端基は、例えば、フェノールに溶解したポリアミド溶液を塩酸で電位差滴定する方法にて測定することができる。アミノ末端基が60m当量/kg以上のポリアミド樹脂を用いることにより、高温の不凍液に対する分子量低下を著しく抑制し、且
つ、ポリプロピレンにグラフトした不飽和カルボン酸またはその無水物およびガラス繊維に表面処理された酸無水物を含むようなカップリング剤と強固に結合することではじめて材料の耐不凍液性(不凍液浸漬後引張り強度、分子量低下の抑制)、耐塩化カルシウム性および機械的特性を高めることが可能となる。
【0012】
また、ポリアミド樹脂のカルボキシル基は特に限定されないが、通常120m当量/kg以下の範囲のものを使用することができ、より好ましい範囲は、30〜60m当量/kgである。
本発明のポリアミド樹脂は、JIS K6810に従って、98%硫酸で測定した相対粘度が1.0以上のものが好ましく、中でも2.0〜4.0の範囲のものが機械的特性に優れる点で好ましい。
【0013】
本発明におけるポリアミド樹脂の製造は、例えば、溶融重合法、固相重合法、塊状重合法、溶液重合法、またはこれらを組み合わせた方法等によって、重縮合を行う方法を利用することができる。また、溶液重合、界面重合等の方法によってもよい。これらの中で溶融重合もしくは溶融重合と固相重合の組み合わせによる方法が、経済上の観点から好ましく用いられる。アミノ末端基の濃度の高い本発明のポリアミド樹脂を得るには、これらの公知の重合法において、ポリアミド樹脂の重合時にジアミン化合物を添加し、カルボン酸に対するアミンの比率を高くする方法を利用することができる。
【0014】
本発明のポリアミド樹脂は、耐熱劣化防止のため銅元素を含有するものが好ましい。銅元素を含む化合物(以後、銅化合物と称す。)は本発明の樹脂組成物を製造する過程のいずれにおいても添加することができるが、効率よく銅化合物をポリアミド樹脂相に存在させるためにはポリアミドの重合工程における添加が好ましい。ポリアミド樹脂に添加する銅化合物としては、例えば、塩化銅、臭化銅、フッ化銅、ヨウ化銅、チオシアン酸銅、硝酸銅、酢酸銅、ナフテン銅、カプリン酸銅、ラウリン酸銅、ステアリン酸銅、アセチルアセトン銅、酸化銅(I)、及び酸化銅(II)等が挙げられ、本発明で特に好ましいのは、ヨウ化銅等のハロゲン化銅、及び酢酸銅である。
【0015】
上記銅化合物の添加量は、ポリアミド樹脂に対して銅化合物中の銅元素を基準として5ppm以上が好ましく、さらに好ましくは10〜5000ppmの範囲である。
また、銅化合物は、ヨウ素化合物と併用して用いることがより好ましい。ヨウ素化合物としては、例えば、ヨウ化カリウム、ヨウ化マグネシウム、ヨウ化アンモニウムなどを例示でき、ヨウ素単体でも良いが、より好ましくはヨウ化カリウムである。ヨウ素化合物は、ヨウ素元素と銅元素のグラム原子比率([ヨウ素]/[銅])が5〜30が好ましく、10〜25となる範囲で添加することがより好ましい。
【0016】
次に本発明において使用される(B)成分であるポリプロピレン系樹脂としては、プロピレンの単独重合体以外にも、プロピレンを50モル%以上、好ましくは80%以上含むものであれば、エチレン、ブテン−1、ペンテン−1、ヘキセン−1、4−メチルペンテン−1等の他のα−オレフィンとのランダムもしくはブロック共重合体であってもよい。また、共重合体とする場合、プロピレンに共重合するα−オレフィンとしては特にエチレンが好ましいが、機械的特性、熱的特性、耐久性に優れる単独重合体を用いることが最も好ましい。
【0017】
ポリプロピレン系樹脂の密度は、JIS K−7112による測定で、0.906g/cm以上であり、好ましくは0.908〜0.920g/cmの範囲である。密度が0.906g/cm以上のポリプロピレン系樹脂を配合することにより不凍液浸漬後の引張り強度、引張り強度や曲げ弾性率等の機械的特性が良好な組成物が得られる。このようなポリプロピレン系樹脂を製造する方法としては、重合によって上記の範囲の密度を有
するポリプロピレン系樹脂を得る方法や、0.906g/cm未満のポリプロピレン系樹脂に核剤を添加することによって密度を向上させ、上記範囲の密度のポリプロピレン系樹脂を得る方法などが挙げられる。
【0018】
核剤としては、ポリプロピレン系樹脂の結晶化度を向上させるものであればなんでもよく、核剤の代表的なものとしては、芳香族カルボン酸の金属塩、ソルビトール系誘導体、有機リン酸塩、芳香族アミド化合物等の有機核剤やタルク、ボロンナイトライド等の無機核剤を挙げることができるが、特にこれらに限定されるものではない。
ポリプロピレン系樹脂は、通常、三塩化チタン触媒または塩化マグネシウム等の担体に担持したハロゲン化チタン触媒等とアルキルアルミニウム化合物との存在下に、重合温度0〜l00℃の範囲で、重合圧力100気圧以下の範囲で重合を行うことにより得られる。このとき、重合体の分子量を調整するために水素等の連鎖移動剤を添加することもできる。また重合方法としてバッチ式又は連続式のいずれも用いることができ、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の溶媒下での溶液重合、スラリー重合、無溶媒下モノマー中での塊状重合及び、ガス状モノマー中での気相重合方法などが適用できる。
【0019】
また、上記した重合触媒の他に、得られるポリプロピレン系樹脂のアイソタクティシティ及び重合活性を高めるため、第三成分として電子供与性化合物を内部ドナー成分又は外部ドナー成分として用いることができる。これらの電子供与性化合物としては公知のものを使用することができ、例えば、ε−カプロラクトン・メタクリル酸メチル、安息香酸エチル、トルイル酸メチルなどのエステル化合物、亜リン酸トリフェニル、亜リン酸トリブチルなどの亜リン酸エステル、ヘキサメチルホスホリックトリアミドなどのリン酸誘導体等や、アルコキシジエステル化合物、芳香族モノカルボン酸エステル、芳香族アルキルアルコキシシラン、脂肪族炭化水素アルコキシシラン、各種エーテル化合物、各種アルコール類、及び各種フェノール類などが挙げられる。
【0020】
ポリプロピレン系樹脂は、密度が、JIS K−7112による測定で、0.906g/cm以上であり、好ましくは0.908〜0.920g/cmの範囲であれば、いかなる融点を有するものであっても本発明において用いることができるが、得られる樹脂組成物が耐熱材料として耐久性を発揮することを考慮すると、融点が155℃以上のポリプロビレン系樹脂を用いることが好ましい。
本発明のポリプロピレン系樹脂の結晶性はパルスNMRの自由誘導減衰(FID)より求めたプロピレンホモポリマー部分からなる結晶相の割合が90%以上である高結晶ポリプロピレン樹脂が好ましく用いられる。
【0021】
本発明におけるプロピレンホモポリマー部分の結晶相の割合は、公知のパルスNMR法により、結晶部と非晶部の異なる運動性を利用し、スピンースピン緩和に基づく90度パルス印加後の磁化変化である自由誘導減衰(FID)より求めることができる。具体的には、固体状態のポリプロピレン樹脂をパルスNMR(Bruker社製PC−120)を用いて、温度40℃、プロトン共鳴周波数20Hz、パルス時間4μ秒、積算3回で測定し、ソリッドエコー法でピークを緩和時間の短いほうから結晶相、非晶相とを帰属し、結晶相をガウス型曲線で回帰させ、非晶相をローレンツ型曲線で回帰させ、各々のピーク高さをSA1、SA2とし、式R12={100×(SA1−SA2)×F}÷{(SA1−SA2)×F+SA2}より、結晶相の比率を求めることができる。尚、ここでR12は測定したプロピレンホモポリマー部分の結晶相の割合であり、Fは標準サンプルとしてサラダオイル及びポリメチルメタクリレートを用いた場合の強度比から求まる補正係数である。
【0022】
本発明のポリプロピレン系樹脂のJIS K7210により測定された試験温度230℃、試験荷重21.2Nでのメルトフローレートは、0.1〜60g/10minが好ま
しく、さらに好ましくは10〜50g/10minである。メルトフローレートがこの範囲であれば流動性と機械的特性のバランスが優れる組成物を得ることができる。
本発明で用いるポリプロピレン系樹脂は、JIS K6758により測定された曲げ弾性率が1500MPa〜2200MPaが好ましく、より好ましくは1800MPa〜2200MPaである。この範囲のポリプロピレン系樹脂を用いることで良好な強度、弾性率の組成物を得ることができる。
【0023】
次に本発明の(C)成分である無水マレイン酸を0.5〜2重量%グラフトした変性ポリプロピレン系樹脂に用いるポリプロピレン系樹脂は、本発明の(B)成分である未変性のポリプロピレン系樹脂と同様の共重合体や単独重合体を変性したものでもかまわないし、(B)成分以外のポリプロピレン系樹脂を変性したものでもかまわない。(C)成分に用いるポリプロピレン系樹脂の密度、結晶化度およびメルトフローレートは特に限定されないが、それぞれJIS K−7112により測定される密度が0.860〜0.920g/cm、パルスNMRの自由誘導減衰(FID)より求めたプロピレンホモポリマー分からなる結晶相の割合が80%以上、JIS K7210により測定された試験温度230℃、試験荷重21.2Nでのメルトフローレートが0.1〜200g/10minの範囲のポリプロピレン樹脂が好ましい。
【0024】
本発明の変性ポリプロピレン樹脂の変性は溶液法又は溶融混練法のいずれでも行うことができる。溶融混練法の場合、ポリプロピレン樹脂、無水マレイン酸及び触媒を押出機や二軸混練機等に投入し、150〜250℃の温度に加熱して溶融、脱気しながら混練する。また溶液法の場合、キシレン等の有機溶剤に上記出発物資を溶解し、80〜140℃の温度で撹絆しながら行う。いずれの場合にも、触媒として通常のラジカル重合用触媒を用いることができ、例えば過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、過酸化ジターシャリーブチル、過酸化アセチル、ターシャリーブチルペルオキシ安息香酸、過酸化ジクミル、ペルオキシ安息香酸、ペルオキシ酢酸、ターシャリーブチルペルオキシピバレート等の過酸化物類や、アゾビスイソブチロニトリル等のジアゾ化合物類等が好ましい。触媒の添加量は無水マレイン酸100重量部に対して1〜10重量部程度である。
本発明の変性ポリプロピレン樹脂の無水マレイン酸グラフト量は、0.5〜2重量%であることが必要であり、好ましくは、0.8〜1.2重量%である。グラフト量がこの範囲であれば組成物の相溶性が良好であり、且つ機械的特性に優れる。
【0025】
本発明に用いる(D)成分であるガラス繊維はポリアミド樹脂の補強材として用いるものであれば如何なるものを用いても良いが、ガラス繊維をポリアミド樹脂と溶融混合する際のハンドリング性の観点からガラス繊維長さ1〜10mm、平均ガラス繊維直径8〜25μmのチョップドタイプの短繊維が好ましい。特に好ましいガラス繊維の形状は補強効果とガラス繊維分散性の点から、繊維長さ2〜7mm、平均繊維直径8〜15μmのガラス繊維である。この範囲のガラス繊維を用いることにより、本発明の効果である機械的特性と成形品の外観がバランスよく優れた組成物を得ることができる。
【0026】
また、ポリアミド樹脂中に含有されるガラス繊維のアスペクト比は10〜50が好ましく、更に好ましくは20〜40である。含有されるガラス繊維のアスペクト比が10未満では機械的特性の改善割合があまり期待できないし、50を越えるとガラス繊維が成形品表面に現れ易くなり成形品外観を悪化させる恐れがある。尚、ここでいうガラス繊維のアスペクト比とはガラス繊維の重量平均繊維長さを繊維直径で除した値である。
更に、ガラス繊維はポリアミド樹脂用の集束剤(これはいわゆるサイジングを目的とした集束成分とポリアミド樹脂との接着性を目的とした表面処理成分を含む。)で表面処理されているものが好ましい。ここで用いる集束剤としては、無水マレイン酸と不飽和単量体との共重合体及びシラン系カップリング剤を主たる構成成分とするものであるが、特に振動疲労特性への改善効果から無水マレイン酸と不飽和単量体との共重合体及びアミノ基
含有シランカップリング剤を主たる構成成分とするものが最も好ましい。また、アクリル酸系共重合体やウレタン系ポリマーを併用して用いても何ら差し支えない。
【0027】
集束剤を構成する無水マレイン酸と不飽和単量体との共重合体として具体的には、スチレン、α−メチルスチレン、ブタジエン、イソプレン、クロロプレン、2,3−ジクロロブタジエン、1,3−ペンタジエン、シクロオクタジエン等の不飽和単量体と無水マレイン酸との共重合体が挙げられ、その中でもブタジエンやスチレンと無水マレイン酸との共重合体が特に好ましい。更にこれら単量体は2種以上併用してもよいし、例えば、無水マレイン酸とブタジエンの共重合体と無水マレイン酸とスチレンの共重合体を混合して使用する等のブレンドによって使用してもかまわない。上記無水マレイン酸と不飽和単量体との共重合体は平均分子量2,000以上であることが好ましい。又、無水マレイン酸と不飽和単量体との割合は特に制限されない。更に無水マレイン酸と不飽和単量体との共重合体に加えてアクリル酸系共重合体やウレタン系ポリマーを併用して用いても何ら差し支えない。
【0028】
本発明の集束剤を構成するもう一つの成分であるシラン系カップリング剤としては通常ガラス繊維の表面処理に用いられるシラン系カップリング剤がいずれも使用できる。具体的には、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリエトキシシラン等のアミノシラン系カップリング剤;γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等のエポキシシラン系カップリング剤;γ−メタクリロキプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メタクリロキプロピルトリエトキシシラン等のメタクロキシシラン系カップリング剤;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(βメトキシエトキシ)シラン等のビニルシラン系カップリング剤などが挙げられる。
【0029】
これらカップリング剤は2種以上併用して用いることもできる。これらの中で特にポリアミド樹脂との親和性からアミノシラン系カップリング剤が最も好ましく、その中でもγ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリエトキシシランが最も好ましい。上記無水マレイン酸共重合体とシラン系カップリング剤との使用割合は比較的良好な物性バランスを与える前者100重量部に対して後者0.01〜20重量部の割合が好ましい。通常、無水マレイン酸共重合体とシラン系カップリング剤は水溶媒中で混和して集束剤として用いられるが、更に必要に応じて界面活性剤、滑剤、柔軟剤、帯電防止剤などを加えても良い。
【0030】
集束剤はガラスを繊維状に加工する工程、あるいは加工された後の工程でガラス繊維表面に付着させて用いるが、これを乾燥させると、上記共重合体とカップリング剤からなる被膜がガラス繊維表面に形成される。この時の集束剤の乾燥後の最終付着量は、ガラス繊維の集束性の観点からガラス繊維100重量部当たり0.1〜2重量部の範囲にあることが好ましい。この範囲内であればポリアミド樹脂に配合する際、ガラス繊維同士が絡み合った、いわゆる毛玉が生じることもなく、またガラス繊維同士が強固に集束されるために生じる成形品外観が不良となることもない。より好ましい集束剤の付着量はガラス繊維100重量部当たり0.2〜1.0重量部の範囲である。ここで、集束剤付着量とはガラス繊維の60分間の灼熱後の強熱減量として計測されるものでありJIS R3420に準拠して求められる。
【0031】
本発明の(E)成分である熱安定剤は、通常、ポリプロピレン系樹脂に使用されるリン
系熱安定剤、ヒンダードフェノール系熱安定剤、イオウ系熱安定剤、ラクトン系熱安定剤、ヒンダードアミン系熱安定剤等を使用することができる。
ヒンダードフェノール系熱安定剤としては、例えば、3,9−ビス{2−[3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]−1,1−ジメチルエチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、p−クレゾールとイソブチレンの反応生成物、3−(4’−ヒドロキシ−3’−5’−ジ−tert−ブチルフェニル)プロピオン酸−n−オクタデシル、4,4’−チオビス(6−tert−ブチル−3−メチルフェノール)、テトラキス[メチレン−3−(3’,5’−ジ−tert−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,2−チオ[ジエチルビス−3(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ジエチル[〔3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキフェニル〕メチル]ホスホネート、2,4−ジクロロベンズアルデヒド、3,6−ジオキサオクタメチレン=ビス[3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオナート]、o−クレゾール・1−オクタンチオール・パラホルムアルデヒドの反応生成物、6−メチルヘプチル=3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオナート、ジクロロビス(η(5)−シクロペンタジエニル)チタン(IV)、2,2’−メチレンビス(6−tert−ブチル)−p−クレゾール、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、スチレネーティッドフェノール、4,4’−ブチリデンビス(6−tert−ブチル−3−メチルフェノール)、メチレンビス(ノニルクレゾール)、2−tert−ブチル−6−(3−tert−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニル=アクリラート、1,3,5−トリス(3’,5’−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌル酸、6−(4−ヒドロキシ−3−5−ジ−tert−ブチルアニリノ)−2,4−ビスオクチルチオ−1,3,5−トリアジン、1,3,5−トリス(4−tert−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−ジメチルベンジル)イソシアヌル酸、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ブタン、N,N’−ビス3−(3’5’ジ−tert−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオニルヘキサメチレンジアミン等を挙げることができ、この中で好ましいヒンダードフェノール系熱安定剤は、3,9−ビス{2−[3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]−1,1−ジメチルエチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカンである。
【0032】
イオウ系熱安定剤としては、例えば、ペンタエイリスリトールテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)、チオジプロピオン酸ジラウリル、チオジプロピオン酸ジステアリル、2,2−ビス({[3−(ドデシルチオ)プロパノイル]オキシ}メチル)プロパン−1,3−ジイル=ビス[3−(ドデシルチオ)プロパノアート]、2−メルカプトベンゾイミダゾール、ビス[2−メチル−4−{3−n−アルキル(C12又はC14)チオプロピオニルオキシ}−5−tert−ブチルフエニル]スルフイド等を挙げることができ、この中で好ましいイオウ系安定剤はペンタエイリスリトールテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)である。
【0033】
またヒンダードアミン系熱安定剤としては、例えば、アルドール−α−ナフチルアミン、フェニル−β−ナフチルアミン、フェニル−α−ナフチルアミン、アルキル化ジフェニルアミン、オクチル化ジフェニルアミン、アセトン,ジフェニルアミン反応物、N・N−ジフェニル−P−フェニレンジアミン、N.N−ジ−βナフチル−P−フェニレンジアミン、フェニル・シクロヘキシル−P−フェニレンジアミン、N−フェニル−N‘−(1−メチルへブチル)−P−フェニレンジアミン、N−フェニル−N’−(1,3,ジメチルブチル)−P−フェニレンジアミン、N−N‘ジ(1,4,ジメチルベンチル)−P−フ
ェニルジアミン、ジアリル−P−フェニレンジアミン、ジアリル−P−フェニレンジアミン、4,4’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン等を挙げることができ、この中で好ましいヒンダードアミン系熱安定剤は、4,4’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミンである。
【0034】
特に好ましくは、ヒンダードフェノール系熱安定剤、イオウ系熱安定剤およびヒンダードアミン系熱安定剤を併用して用いることであり、ヒンダードフェノール系熱安定剤5〜20重量%、イオウ系熱安定剤30〜40重量%およびヒンダードアミン系熱安定剤40〜65重量%の組成比で併用して用いることが最も好ましい。
また、本発明の(B)成分であるポリプロピレン系樹脂と(C)成分である変性プロピレン系樹脂の合計した配合割合は、(A)ポリアミド樹脂と(B)と(C)の合計量に対して10〜40重量%であり、好ましくは15〜35重量%である。(B)成分と(C)成分の合計した配合割合がこの範囲であれば引張り強度や曲げ弾性率等の機械的特性を損なわずに本発明の100℃〜150℃の高温下での耐不凍液性改良効果や耐塩化カルシウム性改良効果を十分発揮できる。
さらに本発明の(D)成分であるガラス繊維は、(A)と(B)と(C)と(D)成分の合計量に対して20〜40重量%であり、好ましくは、25〜35重量%である。(D)成分の配合割合がこの範囲であれば、成形品の機械的特性を損なわず、十分なガラス繊維強化樹脂組成物の成形流動性が確保でき良好な成形品外観が得られる。
【0035】
本発明の(E)成分である熱安定剤は、(A)と(B)と(C)と(D)成分の合計量100重量部に対して0.1〜3.0重量部の範囲であり、好ましくは、0.3〜1.5重量部である。(E)成分の配合割合がこの範囲であれば、良好な成形時に熱安定剤がブリードアウトすることなく、良好な耐熱エージング性を得ることができる。
さらに、(B)成分と(C)成分の合計に対する(C)成分の割合は、10〜40重量%であり、好ましくは、15〜35重量%である。(C)成分の配合割合が10重量%以上であれば、変性プロピレンにグラフトされた、ポリアミド樹脂と反応可能な無水マレイン酸が十分に確保できるため成形品の剥離を生じることも無く、また成形流動性が損なわれないため良好な成形品外観を得ることができる。(C)成分の配合割合が40重量%以下であれば機械的特性を損なわずに良好な耐塩化カルシウム性を得ることができる。
【0036】
本発明で言う自動車冷却空調部品とは、エチレングリコールを主成分とする不凍液と接触する自動車部品であり、例えばラジエータータンク、ウォーターポンプハウジング、ウォーターポンプインペラ、ウォーターバルブ、ラジエーターパイプ、ヒータータンク等の自動車アンダーフード部品が挙げられる。
本発明の自動車冷却空調部品用ポリアミド樹脂組成物を得る際、配合、混合、及び混練方法やそれらの順序には特に制限はなく、通常用いられる混合機、例えばヘンシェルミキサー、タンブラー、リボンブレンダー等で混合すればよい。混練機としては、通常、単軸又は2軸の押出機が用いられる。溶融混練する方法としては、例えば各成分を一括して混練する方法、一部の成分を溶融混練後、更に残りの成分と溶融混練する方法等が挙げられる。また、一部の成分を溶融混練してペレットとし、残りの成分を溶融混練してペレットとし、それらをブレンドする方法も可能である。中でも、樹脂成分が溶融した状態でガラス繊維をフィードする方法がガラス繊維長を組成物中に長い状態で残す意味において好ましい。本発明の樹脂組成物による成形品は、押出機により、通常まず上記本発明の樹脂組成物からなるペレットを製造し、このペレットを圧縮成形、射出成形、押出成形等により任意の形状に成形して所望の樹脂製品とすることによって得られる。
本発明からなる成形品を射出成形する場合には、例えば、成形温度が250℃〜310℃、金型温度が40℃〜120℃で成形することが好ましい。
【実施例】
【0037】
次に実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はそれに限定されるものではない。
実施例に用いた原料と略称および試験方法は以下の通りである。
[1]原料
PA(A):製造例1で製造したポリアミド66
PA(B):製造例2で製造したポリアミド66
PA(C):製造例3で製造したポリアミド612
【0038】
PP(A):ポリプロピレン樹脂
密度(JIS K7112) 0.908[g/cm
MFR 12[g/10min]
曲げ弾性率 2060[MPa]
PP(B):ポリプロピレン樹脂
密度(JIS K7112) 0.901[g/cm
MFR 12[g/10min]
曲げ弾性率 1400[MPa]
PP(C):ポリプロピレン樹脂
密度(JIS K7112) 0.908[g/cm
MFR 40[g/10min]
曲げ弾性率 2080[MPa]
【0039】
mPP(A):製造例4で製造した無水マレイン酸変性ポリプロピレン
mPP(B):製造例5で製造した無水マレイン酸変性ポリプロピレン
GF :表面処理ガラス繊維
日本電気硝子製ECS03T275H
10μmφ、3mmカット長
TS1 :ヒンダードフェノール系熱安定剤
3,9−ビス{2−[3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]−1,1−ジメチルエチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン
住友化学製 GA−80
TS2 :イオウ系熱安定剤
ペンタエイリスリトールテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)
住友化学製 TP−D
TS3 :ヒンダードアミン系熱安定剤
4,4’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン
大内新興化学工業製 ノクラックCD
【0040】
[2]評価方法
(1)ポリアミド原料のアミノ末端基
原料に用いたポリアミドペレット3gを0.1mgまで正確に秤量瓶に計量し、予め200mlビーカーに測り取った100mlの90%フェノール水溶液に約2時間かけて攪拌しながら溶解させた。次いでこの溶液を1/40規定の塩酸水溶液にて電位差滴定を実施し中和点を求め、これに要した1/40規定塩酸水溶液の量(X)[ml]を求める。更に、ペレットを溶解させないフェノール水溶液のみで上記と同様に滴定を行い、中和点を求め、これに要した1/40規定の塩酸水溶液の量(Y)[ml]を求め、以下の式によりアミノ末端基を計算した。
アミノ末端基[m当量/kg]=((f×(X−Y))/G)×100/4
ここでfはN/40の塩酸水溶液のファクター、Gは試料無水重量(単位はg)を表す。
【0041】
(2)引張り強度および曲げ弾性率
日精樹脂製PS40E射出成形機を用いて、スクリュー回転数200rpm、樹脂温度290℃の成形条件にて、厚さ3mmのASTMタイプ1を成形し、この成形片を物性測定用試料とし、ASTM D638及びD790に従ってそれぞれ引張強度、及び曲げ弾性率を測定した。
(3)不凍液浸漬後の引張り強度
東芝機械製IS150E射出成形機を用いて、スクリュー回転数200rpm、樹脂温度290℃、金型温度80℃の成形条件にて、図1に示す厚さ3mm、幅130mm、長さ130mmでゲート部が平板の一片に存在する成形品を成形し、樹脂の流動方向と直角方向がダンベル片の長手方向となるように図2に示した形状のダンベル型試験片を切り出した。平板と切り出し試験片の位置を図3に示した。エチレングリコールが主成分である不凍液(トヨタ純正Long Life Coolant)の50%水溶液を130℃に加熱し、この試験片を400時間浸漬、取り出した後、引張り強度試験を実施した。
【0042】
(4)耐塩化カルシウム性
不凍液浸漬後の引張り強度を測定した試験片と同一形状の平板切り出しダンベル型試験片を用いて、不凍液(トヨタ純正Long Life Coolant)の50%水溶液を80℃に加熱し、これに1時間浸漬、80℃水中に4時間浸漬、80℃、60%RH雰囲気下に185時間放置後、塩化カルシウムサイクル試験を開始した。塩化カルシウムサイクル試験は試験片の標線部にガーゼを巻き、35wt%塩化カルシウム水溶液を浸透させた。この後、試験片をクリープ試験機(安田精機製作所製;形式145−PC 6連クリープ試験機)に取り付け、100℃での引張り破断応力の60%を負荷し、100℃雰囲気下にて1時間乾燥させた。乾燥後、クリープ試験機より試験片を取り出し、水洗した後、80℃水中25分間浸漬した。この操作を30回繰り返した後の試験片に生じた亀裂を目視にて観察した。これを以下の基準にて評価した。
○:クラックの発生無し
×:クラックが発生
【0043】
(5)成形品外観
東芝機械製IS150E成形機を用いて、スクリュー回転数200rpm、樹脂温度290℃の成形条件にて、130mm×130mm×3mmの平板金型を用いて、計量ストローク62mm、クッションストローク10mm、一次圧切り替え位置15mm、金型温度80℃で一次圧時間1.2秒で成形した試験片の中央部の表面外観をJIS−K7105に準じて堀場製作所製ハンディ光沢計IG−320を用いて光沢度を測定した。
(6)耐熱エージング性
不凍液浸漬後の引張り強度を測定した試験片と同一形状の平板切り出しダンベル型試験片を用いて、150℃のオーブン中に1000時間暴露した後の引張り強度を測定し、0(ゼロ)時間で測定した引張り強度を100%とした際の強度保持率を求めた。
【0044】
[製造例1]
・PA(A):ポリアミド66の製造
アジピン酸とヘキサメチレンジアミンの等モル塩2.50kg、ヘキサメチレンジアミン21.5g、ヨウ化銅9g、ヨウ化カリウム150g及び純水2.5kgを5Lのオートクレーブの中に仕込みよく攪拌した。充分N置換した後、攪拌しながら温度を室温から220℃まで約1時間かけて昇温した。この際、オートクレーブ内の水蒸気による自然圧で内圧は18kg/cm−Gになるが、18kg/cm−G以上の圧力にならないよう水を反応系外に除去しながらさらに加熱を続けた。さらに2時間後内温が260℃に到達したら加熱を止め、オートクレーブの排出バルブを閉止し、約8時間かけて室温まで冷却した。冷却後オートクレーブを開け、約2kgのポリマーを取り出し粉砕した。得られた粉砕ポリマーを、10Lのエバポレーターに入れN気流下、200℃で10時間固
相重合した。固相重合によって得られたポリアミドの末端アミノ基濃度はポリマー1kg当たり80ミリ当量、98%硫酸を用いてJIS K6810に従って測定した硫酸粘度は2.8であった。このポリアミドには銅元素を30ppm含み、また、ヨウ素元素と銅元素のグラム原子比率([ヨウ素/銅])は19であった。
【0045】
[製造例2]
・PA(B):ポリアミド66の製造
アジピン酸とヘキサメチレンジアミンの等モル塩2.50kg、ヨウ化銅9g、ヨウ化カリウム150g及び純水2.5kgを5Lのオートクレーブの中に仕込みよく攪拌した。充分N置換した後、攪拌しながら温度を室温から220℃まで約1時間かけて昇温した。この際、オートクレーブ内の水蒸気による自然圧で内圧は18kg/cm−Gになるが、18kg/cm−G以上の圧力にならないよう水を反応系外に除去しながらさらに加熱を続けた。さらに2時間後内温が260℃に到達したら加熱を止め、オートクレーブの排出バルブを閉止し、約8時間かけて室温まで冷却した。冷却後オートクレーブを開け、約2kgのポリマーを取り出し粉砕した。得られた粉砕ポリマーを、10Lのエバポレーターに入れN気流下、200℃で10時間固相重合した。固相重合によって得られたポリアミドの末端アミノ基濃度はポリマー1kg当たり45ミリ当量、98%硫酸を用いてJIS K6810に従って測定した硫酸粘度は2.8であった。このポリアミドには銅元素を30ppm含み、また、ヨウ素元素と銅元素のグラム原子比率([ヨウ素/銅])は19であった。
【0046】
[製造例3]
・PA(C):ポリアミド612の製造
ドデカン二酸とヘキサメチレンジアミンの等モル塩2.50kg、ヨウ化銅9g、ヨウ化カリウム150g及び純水2.5kgを5Lのオートクレーブの中に仕込みよく攪拌した。充分N置換した後、攪拌しながら温度を室温から220℃まで約1時間かけて昇温した。この際、オートクレーブ内の水蒸気による自然圧で内圧は18kg/cm−Gになるが、18kg/cm−G以上の圧力にならないよう水を反応系外に除去しながらさらに加熱を続けた。さらに2時間後内温が260℃に到達したら加熱を止め、オートクレーブの排出バルブを閉止し、約8時間かけて室温まで冷却した。冷却後オートクレーブを開け、約2kgのポリマーを取り出し粉砕した。得られた粉砕ポリマーを、10Lのエバポレーターに入れN気流下、200℃で10時間固相重合した。固相重合によって得られたポリアミドの末端アミノ基濃度はポリマー1kg当たり65ミリ当量、98%硫酸を用いてJIS K6810に従って測定した硫酸粘度は2.1であった。このポリアミドには銅元素を30ppm含み、また、ヨウ素元素と銅元素のグラム原子比率([ヨウ素/銅])は19であった。
【0047】
[製造例4]
・mPP(A):変性ポリプロピレンの製造
ポリプロピレン(日本ポリプロ製 ノバテックPP MA3)100重量部に対して、無水マレイン酸1.3重量部、少量のアセトンに溶解させたα,α‘−ビス−t−ブチルパーオキサイド−p−ジイソプロピルベンゼン0.065重量部をヘンシェルミキサー中でブレンドした。このブレンド物をTEM35押出機を用いて230℃で押出しペレット化して変性ポリプロピレンを得た。このペレットを粉砕後、アセトンで12時間ソックスレー抽出した。これを乾燥後、プレスし、赤外線吸収スペクトルにて無水マレイン酸を定量したところ1.0重量%の無水マレイン酸が付加していることが判った。
【0048】
[製造例5]
・mPP(B):変性ポリプロピレンの製造
ポリプロピレン(日本ポリプロ製ノバテックPP MA3)100重量部に対して、無
水マレイン酸0.35重量部、少量のアセトンに溶解させたα,α‘−ビス−t−ブチルパーオキサイド−p−ジイソプロピルベンゼン0.013重量部をヘンシェルミキサー中でブレンドした。このブレンド物をTEM35押出機を用いて230℃で押出しペレット化して変性ポリプロピレンを得た。このペレットを粉砕後、アセトンで12時間ソックスレー抽出した。これを乾燥後、プレスし、赤外線吸収スペクトルにて無水マレイン酸を定量したところ0.3重量%の無水マレイン酸が付加していることが判った。
【0049】
[実施例1〜2及び比較例1〜2]
東芝機械(株)製TEM35φ2軸押出機(設定温度290℃、スクリュー回転数300rpm)を用い、押出し機最上流部に設けられたトップフィード口より表1に示した種類のポリアミド樹脂と熱安定剤とを所定量ブレンドしたものを重量フィーダーで所定の割合となるよう供給、表1に示したポリプロピレン樹脂と変性ポリプロピレン樹脂とを所定量ブレンドしたものを別の重量フィーダーを用いて所定の配合割合となるよう供給、押出し機下流側(トップフィード口より供給された樹脂が十分溶融している状態)のサイドフィード口よりガラス繊維を供給し、ダイヘッドより押し出された溶融混練物をストランド状で冷却し、ペレタイズしてポリアミド樹脂組成物ペレットを得た。得られた組成物ペレットを前記の方法にて成形および評価した。その組成及び評価結果を表1に示す。
【0050】
[実施例3]
(A)成分であるポリアミド樹脂として、表1に示した割合でPA(A)とPA(C)をあらかじめブレンドした後、フィードした以外は実施例1と同様にポリアミド樹脂組成物ペレットを得た。得られた組成物ペレットを前記の方法にて成形および評価した。その組成及び評価結果を表1に示す。
[比較例3]
(B)成分であるポリプロピレン樹脂と(C)成分である変性ポリプロピレン樹脂を配合しなかった以外は実施例1と同様にして組成物を得た。得られた組成物ペレットを前記の方法にて成形および評価した。その組成及び評価結果を表2に示す。
【0051】
[実施例4〜5及び比較例4〜7]
表1又は表2に記載の配合割合で(A)〜(E)成分を供給した以外は、実施例1と同様にして組成物を得た。得られた組成物ペレットを前記の方法にて成形および評価した。その組成及び評価結果を実施例4〜5は表1に、比較例4〜7は表2に示す。
この結果からポリプロピレン樹脂および変性ポリプロピレン樹脂を特定割合配合することで不凍液浸漬後の引張り強度および耐塩化カルシウム性が大幅に改善されることがわかる。
【0052】
[比較例8]
(E)成分である熱安定剤を配合しない以外は実施例1と同様に組成物を得、評価を実施した。その組成および評価結果を表2に示す。
この結果により熱安定剤を添加することで耐熱エージング性が著しく向上することがわかる。
[比較例9]
(C)成分である変性ポリプロピレンの種類を変更し、(B)成分であるポリプロピレン樹脂を配合しなかった以外は実施例1と同様に組成物を得、評価を実施した。その組成および評価結果を表2に示す。
この結果により変性ポリプロピレンの変性率が低く、高密度ポリプロピレンを配合しないことにより機械的特性、不凍液浸漬後の引張り強度、耐塩化カルシウム性、成形品外観が低いものとなってしまうことが判る。
【0053】
【表1】

【0054】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の自動車冷却空調部品用ポリアミド樹脂組成物を成形して得られる成形品は、機械的特性に優れ、且つ耐熱エージング性、100℃〜150℃での自動車不凍液に対する耐久性、耐塩化カルシウム性に優れているため、厳しい信頼性が要求されるラジエータータンク、ウォーターポンプハイジング、ウォーターポンプインペラ、ウォーターバルブ、ラジエーターパイプ、ヒータータンク等の高温不凍液と接する自動車部品材料として最適な素材である。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】不凍液浸漬後の強度、耐塩化カルシウム性、耐熱エージング性の評価に用いるダンベル型試験片を切り出す平板状成形品の(a)正面図、(b)側面図である。
【図2】不凍液浸漬後の強度、耐塩化カルシウム性、耐熱エージング性の評価に用いるダンベル型試験片の(a)正面図、(b)側面図である。
【図3】図1の平板状成形体からダンベル型試験片を取り出す説明図である。
【符号の説明】
【0057】
1 平板状成形品
2 ゲート
3 ダンベル型試験片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)アミノ末端基が60m当量/kg以上のポリアミド樹脂、
(B)JIS K7112により測定された密度が0.906g/cm以上のポリプロピレン系樹脂、
(C)無水マレイン酸を0.5〜2重量%グラフトした変性ポリプロピレン系樹脂、
(D)ガラス繊維、および
(E)熱安定剤からなるポリアミド樹脂組成物であって、
(B)と(C)の合計量が(A)と(B)と(C)の合計量に対して10〜40重量%、(D)の配合量が(A)と(B)と(C)と(D)の合計量に対して20〜40重量%、(E)の配合量が(A)と(B)と(C)と(D)の合計量100重量部に対して0.1〜3.0重量部、且つ、
(C)の配合量が(B)と(C)の合計量に対して、10〜40重量%であることを特徴とする自動車冷却空調部品用ポリアミド樹脂組成物。
【請求項2】
(A)ポリアミド樹脂のアミノ末端基が70m当量/kg以上であることを特徴とする請求項1記載の自動車冷却空調部品用ポリアミド樹脂組成物。
【請求項3】
(B)ポリプロピレン系樹脂のJIS K6758により測定された曲げ弾性率が1500MPa以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の自動車冷却空調部品用ポリアミド樹脂組成物。
【請求項4】
(E)熱安定剤がヒンダードフェノール系熱安定剤、イオウ系熱安定剤およびヒンダードアミン系熱安定剤から選ばれる1種または2種以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の自動車冷却空調部品用ポリアミド樹脂組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−291118(P2006−291118A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−116640(P2005−116640)
【出願日】平成17年4月14日(2005.4.14)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】