説明

自動車前照灯用メタルハライドランプ

【課題】
6000K以上の色温度を有し、発光効率が改善され、雨天等の悪天候時の視認性を向上させたメタルハライドランプを提供する。
【解決手段】
石英ガラスからなり一対の電極を具えた発光管内に、水銀及びバッファーガスと共にガドリニウムハロゲン化物を重量にて金属ハロゲン化物の総量に対して5%以上60%以下含み、かつセリウム、ネオジウム、プラセオジウム、ディスプロシウム、ホルミウム、ツリウム、ルテチウムからなる希土類金属のハロゲン化物を少なくとも1種以上含み、かつナトリウムハロゲン化物を前記金属ハロゲン化物の総量に対して25%未満含むように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は自動車前照灯に用いられる高い色温度(例えば6000K以上)を得ることができるメタルハラドランプに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の自動車前照灯には、高効率などの理由からメタルハライドランプが採用されつつある。このメタルハライドランプは、一対の電極を具えた発光管中に水銀やバッファーガスと各波長の発光を有するハロゲン化金属が封入されている。このハロゲン化金属にはナトリウム、スカンジウム或いはタリウム、インジウム、ナトリウムなどがヨウ化物として封入される。このメタルハライドランプの発光色(色温度)はハロゲン化金属の種類及びこれらの混合比率によって決められる。
【0003】
近年、特に若年層ユーザを主に従来のメタルハライドランプ(色温度4000K前後)より、ファッション性がより高い、これ以上の色温度(6000K以上)を有するメタルランプの要求が強まっている。
【0004】
従来の自動車前照灯に用いられるメタルハライドランプは、図1に示すように石英ガラスにより発光管1が形成され、この発光管1内にはタングステンからなる電極2が対をなして配置してあり、電極2の発光管1と反対側の端部にはモリブデンからなる金属箔3が溶接され、この金属箔3が石英ガラスに溶着されることで発光管1内の気密が保たれている。また発光管1の外周にはシュラウドチューブ4が装着してある。
【0005】
ここで、従来の6000K以上の発光色を有するメタルハライドランプは主なメタルハライドとして、ナトリウムヨウ化物、タリウムヨウ化物、インジウムヨウ化物の3種が封入される(以下三種封入ランプという)。各ヨウ化物はそれぞれが赤、緑、青の発光を担っている(例えば特開2003−16998号)。
【0006】
しかし、三種封入ランプは、従来からあるナトリウムヨウ化物、スカンジウムヨウ化物を封入したランプに比べて、発光効率が低く、雨天等の悪天候時の運転には適さないという問題がある。
【0007】
又、上記三種封入ランプにセリウムヨウ化物を付加したメタルハライドランプが公知である(例えば特開2003−16998号)。しかし、このようなランプは、上記三種封入ランプに明るさを担う成分を付加する事により発光効率の向上を狙ったものであり、高い色温度を得ることを目的としたものではなく、自動車前照灯に使用するためには更に別の条件を解決する必要があった。
【0008】
前記のナトリウムヨウ化物、スカンジウムヨウ化物を封入したランプ、及び三種封入ランプの他に、光学装置や一般照明用途として希土類金属ハロゲン化物を主な封入物としたメタルハライドランプがある(例えば特開平6-168700号)。 しかし、このようなランプは演色性の向上やアークの色むら抑制を主に狙ったものであり、高い色温度を得ることを目的としたものではなく、自動車前照灯に使用するためには更に別の条件を解決する必要があった。
【0009】
自動車用途としてこれらを採用するには、JIS規格で定められる自動車前照灯白色範囲に発光色の色度座標を収める必要があるが、前記のような従来のメタルハライドランプは赤色発光が乏しい為、発光色は青色が強く、白色範囲に収めるのは不可能であった。
【0010】
【特許文献1】特開2003−16998号
【特許文献2】特開平6-168700号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
この発明が解決しようとする問題は、6000K以上の発光を有する自動車前照灯用メタルハライドランプにおいて、発光効率を改善し、雨天等の悪天候時の視認性を向上させる事である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明では、前記の問題を解決するために次のような手段を採用する。
【0013】
まず、石英ガラスからなり一対の電極を具えた発光管内に、水銀及びバッファーガスと共に金属ハロゲン化物を封入してなる自動車前照灯用メタルハライドランプにおいて、ガドリニウムハロゲン化物を重量比にて前記金属ハロゲン化物の総量に対して5%以上60%以下含み、かつセリウム、ネオジウム、プラセオジウム、ディスプロシウム、ホルミウム、ツリウム、ルテチウムからなる希土類金属のハロゲン化物を少なくとも1種以上含み、かつナトリウムハロゲン化物を前記金属ハロゲン化物の総量に対して25%以下含むように構成することを特徴とする。
【0014】
また、前記発光管内に、水銀及びバッファーガスと共にガドリニウム、ネオジウム、ナトリウムのハロゲン化物を、前記金属ハロゲン化物の総量に対してそれぞれ重量比にて20±5%、30±5%、20±5%封入したことを特徴とする。
【0015】
さらに、前記電極は酸化トリウムを0.5〜4wt%含有するタングステンからなる直径φ0.25〜0.3mm、全長6〜7.5mmの電極であり、かかる電極を有するランプは、管電力35±3W、管電圧85±17Vで点灯することを特徴とする。
【0016】
さらに、前記発光管は、その外周にシュラウドチューブを具えていることを特徴とする。
【0017】
さらに、前記のような構成に加えて、緑色光を調節して所望の発光色を得るために、セリウム、ネオジウム、プラセオジウム、ディスプロシウム、ホルミウム、ツリウム、ルテチウムのハロゲン化物の1種または複数種を発光管に封入したことを特徴とする。
【0018】
さらに、発光管内に実質的に水銀を含まないことを特徴とする
【発明の効果】
【0019】
この発明によれば、6000K以上の発光を有する自動車前照灯用メタルハライドランプであって、発光効率が改善され、雨天等の悪天候時の視認性を向上させたメタルハライドランプが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
つぎに、本発明を実施例に基づいて詳細に説明する。本発明の実施例には、管電力35±3W(管電圧85±17V)のメタルハライドランプを使用した。このランプは図1の従来の自動車前照灯用メタルハライドランプと同様に、石英ガラス製の発光管1を具えており、発光管1の内部の放電空間の容積は28μlであり、該発光管1は、酸化トリウムを1wt%含有するタングステンからなる直径φ0.25、全長7mmの電極2を一対有し、それらの一端はモリブデンからなる金属箔3に接続されており電極2の他端は石英ガラスからなる発光管1内に突出している。発光管1の外周には石英ガラスからなるシュラウドチューブ4を有する。発光管1内には0.5mgの水銀、8気圧のキセノンガスからなるバッファーガスと共にガドリニウム、ネオジウム、ナトリウムのヨウ化物が前記金属ハロゲン化物の総量に対してそれぞれ重量比に対して20%、30%、20%封入されている。
【0021】
また、前記実施例との比較品(従来品)として、発光管1の内部の放電空間の容積は28μl、発光管1内には0.5mgの水銀、8気圧のキセノンガスからなるバッファーガスと共に金属ハロゲン化物が、ナトリウム、タリウム、インジウムのヨウ化物からなり、それぞれ重量比にて35%、15%、50%封入したメタルハライドランプを作成し、特性の比較試験を行った。これらの特性を表1に示す。
【表1】

【0022】
前記の本発明品と従来品を雨天等の悪天候の条件の下で点灯して視認性の比較を行ったが、表1の特性から明らかなように、本発明品による視認性の方がはるかに優れていた。
【0023】
本発明において、かかる効果が得られる理由として、ヨウ化ガドリニウムは他の希土類金属ヨウ化物と比べて蒸気圧特性が異なる為、自動車用メタルハライドランプの発光管寸法(管壁負荷)に起因するエネルギー受容が他の希土類金属ヨウ化物より効率がよく、その結果、発光効率増大に寄与していると考えられる。
【0024】
なお、ヨウ化ガドリニウムは主に青発光を賄うので、5%未満であると青発光が不十分である為ファッション性が低下し、61%以上であると発光管を白濁させるので、5%以上60%以下が好ましい。
【0025】
また、緑発光を賄うものとしてセリウム、ネオジウム、プラセオジウム、ディスプロシウム、ホルミウム、ツリウム、ルテチウムからなる希土類金属ハロゲン化物を少なくとも1種含み且つナトリウムハロゲン化物をハロゲン化物総量に対して25%未満とする事で、JIS規格で定められる自動車前照灯白色範囲に収める事ができ且つファッション性の高い6000K以上の発光を有する事ができる。なお、希土類金属以外の緑発光を賄うスカンジウム等を封入すると各発光物質の発光バランスが大きく変化し、色温度が低くなってしまうので緑発光は希土類金属ハロゲン化物で賄うのが好ましい。
【0026】
また、ナトリウムハロゲン化物は25%以下とする事でファッション性に優れた清涼感のある発光色とする事が可能であり、25%以上では発光色が赤くなり商品価値を大きく低下させる。
【0027】
また、本発明において最も大きな効果が得られるメタルハライドランプの実施例は、石英ガラスからなり一対の電極を具えた発光管を具えており、前記電極は酸化トリウムを1wt%含有するタングステンからなる直径φ0.25mm、全長7mmの電極であり、管電力35w、管電圧85v、(管電流0.41A)で点灯するように設計された自動車前照灯用メタルハライドランプである。前記発光管の外周にシュラウドチューブを取り付けることにより、点灯時の特性をより安定させることができる。
【0028】
尚、自動車前照灯用メタルハライドランプの場合、発光管1の内部の放電空間の容積は20μl〜35μlが望ましく、発光管1内には0.25mg〜0.7mgの水銀、公知技術に基づく任意の気圧のキセノンガスからなるバッファーガスと共にガドリニウム、ネオジウム、ナトリウムのヨウ化物がそれぞれ金属ハロゲン化物の総量に対して重量比にて20±5%、30±5%、20±5%の範囲内で且つ、前記電極は、酸化トリウムを0.5〜4wt%含有するタングステンからなる直径φ0.25〜0.3mm、全長6〜7.5mmの電極を用い、管電力35±3W、管電圧85±17Vで点灯する事によっても本発明の効果を得る事が出来る。
【0029】
なお、本発明は、近年環境保全の点から注目されている水銀フリー(発光管内部に実質的に水銀を封入しない)型の自動車前照灯用メタルハライドランプに前記実施例(水銀の封入量以外)を適用した場合においてもと良好な結果が得る事が出来る。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、発光効率が改善され、雨天等の悪天候時の視認性を向上させた自動車前照灯用メタルハライドランプとして、広く利用する事が出来る。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】自動車前照灯用メタルハライドランプの断面図である。
【符号の説明】
【0032】
1:発光管
2:電極
3:金属箔
4:シュラウドチューブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
石英ガラスからなり一対の電極を具えた発光管内に、水銀及びバッファーガスと共に金属ハロゲン化物を封入してなる自動車前照灯用メタルハライドランプにおいて、ガドリニウムハロゲン化物を重量比にて前記金属ハロゲン化物の総量に対して5%以上60%以下含み、かつセリウム、ネオジウム、プラセオジウム、ディスプロシウム、ホルミウム、ツリウム、ルテチウムからなる希土類金属のハロゲン化物を少なくとも1種以上含み、かつナトリウムハロゲン化物を前記金属ハロゲン化物の総量に対して25%以下含むことを特徴とする自動車前照灯用メタルハライドランプ。
【請求項2】
前記発光管内に、水銀及びバッファーガスと共にガドリニウム、ネオジウム、ナトリウムのハロゲン化物を、前記金属ハロゲン化物の総量に対してそれぞれ重量比にて20±5%、30±5%、20±5%封入したことを特徴とする請求項1記載の自動車前照灯用メタルハライドランプ。
【請求項3】
前記電極は酸化トリウムを0.5〜4wt%含有するタングステンからなる直径φ0.25〜0.3mm、全長6〜7.5mmの電極であり、かかる電極を有するランプは、管電力35±3W、管電圧85±17Vで点灯することを特徴とする請求項1〜請求項2の何れか1項に記載の自動車前照灯用メタルハライドランプ。
【請求項4】
前記発光管は、その外周にシュラウドチューブを具えていることを特徴とする請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の自動車前照灯用メタルハライドランプ。
【請求項5】
所望の発光色を得るためにセリウム、ネオジウム、プラセオジウム、ディスプロシウム、ホルミウム、ツリウム、ツリウムのハロゲン化物の1種または複数種を発光管に封入したことを特徴とする請求項1〜請求項4の何れか1項に記載の自動車前照灯用メタルハライドランプ。
【請求項6】
発光管内に実質的に水銀を含まない、請求項1〜請求項5の何れか1項に記載の自動車前照灯用メタルハライドランプ。

【図1】
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【公開番号】特開2009−272092(P2009−272092A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−120288(P2008−120288)
【出願日】平成20年5月2日(2008.5.2)
【出願人】(391021226)株式会社カーメイト (100)
【Fターム(参考)】