説明

自動車排ガス浄化用触媒及びその製造方法

【課題】原子状態のルテニウムが十分に高度に分散された状態で担持されており、十分に高度な触媒活性を有する自動車排ガス浄化用触媒を提供すること。
【解決手段】担体と、カルボン酸ルテニウム二核錯体を用いて前記担体に原子状態で担持されたルテニウムとを備え、且つ、前記ルテニウムの50at%以上がルテニウムの2原子クラスターとして前記担体に担持されていることを特徴とする自動車排ガス浄化用触媒。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車排ガス浄化用触媒並びにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車の内燃機関から排出される排ガス中に含まれる一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)、窒素酸化物(NOx)等の成分を十分に浄化するために様々な触媒が用いられてきた。このような触媒の一つとして、γ−Al等からなる担体にルテニウム(Ru)を担持させた触媒が知られている。このような触媒の製造方法としては、RuClやRu(CO)12等を含有する溶液を担体に担持した後、これを焼成して担体に貴金属を担持して触媒を得る方法が開示されてきた。
【0003】
例えば、1995年発行の「Applied Catalysis A:General,vol.123(非特許文献1)」の145〜159頁においては、KOHを修飾したγ−Alに、ルテニウム前駆体としてのRu(CO)12又はRuClを含有する溶液を接触せしめて乾燥させた後、加熱してRuが担持されたγ−Alからなる触媒を得る方法が開示されている。また、2005年発行の「Applied Catalysis A: General,vol.283(非特許文献2)」の23〜32頁や、2007年発行の「Applied Catalysis A: General,vol.325(非特許文献3)」の57〜67頁においては、AlにRu(NO)(NO又はRuCl等を含有する水溶液を接触せしめて乾燥させた後、焼成してRuが担持されたAlからなる触媒を得る方法が開示されている。しかしながら、非特許文献1〜3に記載のような従来の触媒の製造方法においては、必ずしも十分な触媒活性を有する触媒を得ることができなかった。
【非特許文献1】Pietro Moggi,Giancarlo Albanesi,Giovanni Predieri,Giuseppe Spoto,“Ruthenium cluster−derived catalysts for ammonia synthesis”,Applied Catalysis A: General,vol.123,1995年,145〜159頁
【非特許文献2】A.Maroto−Valiente,M.Cerro−Alarcon,A.Guerrero−Ruiz,I.Rodriguez−Ramos,“Effect of the metal precursor on the surface site distribution of Al2O3−supported Ru catalysts: catalytic effects on the n−butane/H2 test”,Applied Catalysis A: General,vol.283,2005年,23〜32頁
【非特許文献3】R.Lanza,S.G.Jaras,P.Canu,“Partial oxidation of methane over supported ruthenium catalysts”,Applied Catalysis A: General,vol.325,2007年,57〜67頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、原子状態のルテニウムが十分に高度に分散された状態で担持されており、十分に高度な触媒活性を有する自動車排ガス浄化用触媒並びにその触媒を効率よく確実に製造することが可能な自動車排ガス浄化用触媒の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、担体にルテニウムを担持する際にカルボン酸ルテニウム二核錯体を用いることにより、ルテニウムを原子状態で十分に高度に分散して担持することが可能となり、得られた触媒が十分に高度な触媒活性を有するものとなることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明の自動車排ガス浄化用触媒は、担体と、カルボン酸ルテニウム二核錯体を用いて前記担体に原子状態で担持されたルテニウムとを備え、且つ、前記ルテニウムの50at%以上がルテニウムの2原子クラスターとして前記担体に担持されていることを特徴とするものである。
【0007】
また、本発明の自動車排ガス浄化用触媒の製造方法は、カルボン酸ルテニウム二核錯体を含有するルテニウム含有液を担体に接触せしめ、前記担体に前記カルボン酸ルテニウム二核錯体を担持し、焼成することにより、前記担体に原子状態でルテニウムを担持して自動車排ガス浄化用触媒を得ることを特徴とする方法である。
【0008】
このような本発明の自動車排ガス浄化用触媒の製造方法においては、前記カルボン酸ルテニウム二核錯体が、下記一般式(1):
Ru(R−COO)・X (1)
[式(1)中、Rは炭素数1〜5のアルキル基を示し、Xはカウンターアニオンを示し、mは前記カウンターアニオンのイオン価であって−1〜−4の数値を示し、nは前記mの値に応じて電気的中性原理に従って変化する数値を示す。]
で表される化合物及びその溶媒和物の中から選択される少なくとも1種の錯体であることが好ましい。
【0009】
更に、上記本発明の自動車排ガス浄化用触媒の製造方法においては、前記ルテニウム含有液の溶媒がアルコールであることが好ましい。
【0010】
なお、本発明の自動車排ガス浄化用触媒及び自動車排ガス浄化用触媒の製造方法によって、上記目的が達成される理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、先ず、従来の触媒の製造方法においては、ルテニウム塩化物等のルテニウムの塩を用いてルテニウムを担体に担持していた。このような従来の触媒の製造方法に用いられてきたルテニウム塩化物等は、担体と静電的な弱い結合を形成するものである。そのため、ルテニウム塩化物等を担体に担持した後に還元処理(焼成)を施すと、担体からルテニウム塩化物等が離れ易く、ルテニウム原子の凝集を十分に抑制できない。そのため、従来の触媒の製造方法においては、還元処理(焼成)により担体上でルテニウムの粒子が粒成長してしまい、ルテニウムを原子状態で十分に分散させて担持することができなかったものと推察される。実際に、例えば、上記非特許文献1においては、Ru(CO)12から調製した触媒に関して、担体に担持された金属粒子(Ru)は楕円形であること、その金属粒子の平均的な直径が約2nmであること、及び、その金属粒子は約50個のルテニウム原子の凝集体であること等が記載されている。また、上記非特許文献1においては、RuClから調製した触媒に関して、担体に担持された金属粒子(Ru)は不均一であること、その粒子サイズに幅があること、金属粒子の凝集体のサイズは10nm以上であること等が記載されている。
【0011】
これに対して、本発明においては、カルボン酸ルテニウム二核錯体を用いて前記担体にルテニウムを担持している。このようなカルボン酸ルテニウム二核錯体は、不飽和配位サイトを持っているため担体上の水酸基との間に配位結合を形成することが可能なものである。このような配位結合が形成されると、その強い結合力によって、安定性に優れた状態で錯体が担体に担持される。そして、このようなカルボン酸ルテニウム二核錯体を担体に担持した後に焼成すると、ルテニウムの凝集を十分に抑制しながら配位子を除去することが可能となる。そのため、このようなカルボン酸ルテニウム二核錯体を用いることによって、ルテニウムを原子状態で且つ十分に分散された状態で担体に担持することが可能となる。また、本発明においては、カルボン酸ルテニウム二核錯体の構造に応じて、ルテニウムは2原子クラスターとして担持される。このようにルテニウムが2原子クラスターとして担体に担持されているため、得られる触媒の活性点の数は十分なものとなる。また、2原子クラスターとして担持することで、単原子として担持させた場合と比較して質量が2倍となるため担体上でのルテニウム原子の熱安定性が向上し、触媒を繰り返し使用した場合においてもルテニウム原子の不要な凝集が十分に抑制される。このように、本発明の自動車排ガス浄化用触媒においては、ルテニウムが原子状態で且つ十分に分散された状態で安定して担体に担持されているため、十分な量の活性点を有し、優れた触媒活性を十分に発揮できるものと本発明者らは推察する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、原子状態のルテニウムが十分に高度に分散された状態で担持されており、十分に高度な触媒活性を有する自動車排ガス浄化用触媒並びにその触媒を効率よく確実に製造することが可能な自動車排ガス浄化用触媒の製造方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0014】
先ず、本発明の自動車排ガス浄化用触媒について説明する。すなわち、本発明の自動車排ガス浄化用触媒は、担体と、カルボン酸ルテニウム二核錯体を用いて前記担体に原子状態で担持されたルテニウムとを備え、且つ、前記ルテニウムの50at%以上がルテニウムの2原子クラスターとして前記担体に担持されていることを特徴とするものである。
【0015】
このような担体としては排ガス浄化用触媒に用いることが可能な担体であればよく特に制限されず、例えば、金属酸化物からなる担体を適宜用いることができる。このような金属酸化物としては、例えば、活性アルミナ、アルミナ−セリア−ジルコニア、セリア−ジルコニア、ジルコニア、ランタン安定化活性アルミナ等が挙げられる。また、このような金属酸化物としては、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)及びバナジウム(V)の酸化物、これらの固溶体、並びにこれらの複合酸化物からなる群から選択される少なくとも一種が好ましい。また、このような金属酸化物の中でも、より高い触媒活性が得られるという観点から、CeO、ZrO、Y、TiO、Al、これらの固溶体、及びこれらの複合酸化物からなる群から選択される少なくとも一種を含有するものがより好ましい。
【0016】
また、このような担体の形状は特に制限されないが、十分な比表面積が得られるという観点から粉末状であることが好ましい。また、このような担体の比表面積は特に制限されないが、より高い触媒活性を得るという観点からは、30m/g以上であることがより好ましい。
【0017】
また、前記担体に担持されたルテニウムは、前記カルボン酸ルテニウム二核錯体を用いて担体に原子状態で担持されたものである。本発明の自動車排ガス浄化用触媒においては、ルテニウムが前記カルボン酸ルテニウム二核錯体を用いて原子状態で担体に担持されているため、ルテニウム原子の分散性が十分に高度なものとなり、触媒の活性点の数が十分なものとなることから、十分に高度な触媒活性が得られる。このようなカルボン酸ルテニウム二核錯体は、後述する本発明の自動車排ガス浄化用触媒の製造方法に用いられるカルボン酸ルテニウム二核錯体と同様のものである。さらに、このようなルテニウムの担持状態(原子状態)は、後述する本発明の自動車排ガス浄化用触媒の製造方法を採用することにより達成できる。
【0018】
また、本発明においては、前記ルテニウムの50at%以上(より好ましくは70at%)がルテニウムの2原子クラスターとして前記担体に担持されている。ここにいう「2原子クラスター」とは、前駆体であるカルボン酸ルテニウム二核錯体中のRu−Ru結合の結合長とほぼ等しい距離(好ましくは2〜3Åの距離)でルテニウムの2原子が集積している集合体をいう。また、このような2原子クラスターは走査透過電子顕微鏡(STEM)によって観測することにより確認できる。このような2原子クラスターの状態で担持されたルテニウム原子の割合が前記範囲にあると、ルテニウムが十分に分散して担持された状態となるため、触媒の活性点の数が十分なものとなり、高度な触媒活性が得られる。一方、2原子クラスターとして存在するルテニウムの割合が前記下限未満では、十分に高い触媒活性が得られなくなる。このような2原子クラスターとして存在するルテニウム原子の割合(at%)を求める方法としては、自動車排ガス浄化用触媒の担体上の縦12nm、横12nmの任意の領域を、収束レンズに球面収差補正装置を備えた走査透過電子顕微鏡(STEM)により測定し、得られたSTEM像に基づいてその領域中に存在する全ルテニウムの原子数と、2原子クラスターとして存在するルテニウムの原子数とをそれぞれ求め、全ルテニウムの原子数に対する2原子クラスターとして存在する原子数の比を算出することにより求める方法を採用する。なお、前記走査透過電子顕微鏡(STEM)としては、例えば日本電子製の商品名「JEM−2100F」を用いることができる。
【0019】
さらに、このようなルテニウムの担持量としては特に制限されないが、担体とルテニウムとの総量に対して0.005〜5.000質量%であることが好ましく、0.008〜0.300質量%であることがより好ましい。このような担持量が前記下限未満では、十分な触媒活性を得ることが困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、性能が飽和する傾向にある。
【0020】
また、本発明の自動車排ガス浄化用触媒は、前記担体と、前記カルボン酸ルテニウム二核錯体を用いて担体に原子状態で担持されたルテニウムとを備えていればよく、その形態は特に制限されず、例えば、前記触媒を基材に担持したハニカム形状のモノリス触媒や、ペレット形状のペレット触媒の形態等としてもよい。ここで用いられる基材も特に制限されず、パティキュレートフィルタ基材(DPF基材)、モノリス状基材、ペレット状基材、プレート状基材等が好適に採用することができる。また、このような基材の材質も特に制限されないが、コーディエライト、炭化ケイ素、ムライト等のセラミックスからなる基材や、クロム及びアルミニウムを含むステンレススチール等の金属からなる基材を好適に採用することができる。また、このような基材に前記触媒を担持する方法も特に制限されず、公知の方法を適宜採用することができる。なお、このような自動車排ガス浄化用触媒においては、本発明の効果を損なわない範囲で排ガス浄化用触媒に用いることが可能な他の成分(例えばNOx吸蔵材等)を適宜担持してもよい。また、本発明の自動車排ガス浄化用触媒は、後述する本発明の自動車排ガス浄化用触媒の製造方法を採用することにより製造することができる。
【0021】
次に、上記本発明の自動車排ガス浄化用触媒を好適に製造することが可能な本発明の自動車排ガス浄化用触媒の製造方法について説明する。すなわち、本発明の自動車排ガス浄化用触媒の製造方法は、カルボン酸ルテニウム二核錯体を含有するルテニウム含有液を担体に接触せしめ、前記担体に前記カルボン酸ルテニウム二核錯体を担持し、焼成することにより、前記担体に原子状態でルテニウムを担持して自動車排ガス浄化用触媒を得ることを特徴とする方法である。
【0022】
このようなルテニウム含有液は、カルボン酸ルテニウム二核錯体を含有するものである。このようなカルボン酸ルテニウム二核錯体は、核としての2つのルテニウム原子にカルボキシル基を含む架橋型配位子が配位した二核の錯体である。このようなカルボン酸ルテニウム二核錯体を用いることで、錯体と担体との間で配位結合を形成させることが可能となり、熱安定性が十分に高い状態で前記錯体を担体に担持させることが可能となるとともに、前記錯体を担持した担体を焼成することによりルテニウムを2原子クラスターとして担体に担持することが可能となる。
【0023】
また、このようなカルボキシル基を含む架橋型配位子としては、一般式(i):
−COO (i)
[式中、Rはアルキル基を示す。]
で表される架橋型配位子が挙げられる。このような式(i)中のアルキル基としては炭素数が1〜5のものが好ましく、1〜3のものがより好ましい。このようなアルキル基の炭素数が前記上限を超えると、溶解度が不十分となり、担持効率が低下する傾向にある。
【0024】
また、このようなカルボン酸ルテニウム二核錯体としては、下記一般式(1):
Ru(R−COO)・X (1)
[式(1)中、Rは炭素数1〜5(より好ましくは1〜3)のアルキル基を示し、Xはカウンターアニオンを示し、mは前記カウンターアニオンのイオン価であって−1〜−4の数値を示し、nは前記mの値に応じて電気的中性原理に従って変化する数値を示す。]
で表される化合物及びその溶媒和物の中から選択される少なくとも1種の錯体が好ましい。
【0025】
このような式(i)及び(1)中においてR又はRで表されるアルキル基は、直鎖状のものであっても分岐鎖状のものであってもよく、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基等が挙げられる。また、前記アルキル基は置換基を有していてもよい。このような置換基としては、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、アシル基、アルデヒド基、カルボニル基、アミノ基、イミノ基、シアノ基、アゾ基、アジ基、チオール基、スルホ基、ニトロ基及びそれらの誘導体が挙げられる。また、このような置換基を有するアルキル基としては、例えば、トリフルオロメチル基、トリブロモメチル基、ジシアノメチル基、ジフルオロメチル基、ジブロモメチル基等が挙げられる。
【0026】
また、このような式(1)中においてXで表されるカウンターアニオンとしては特に制限されないが、−1の電荷を持つ(1価の負電荷を有する)ものが好ましく、例えば、BF、PO、SbCl、FeCl、AlCl、PF、F、Cl、Br、I等が挙げられる。また、前記式(1)中のmは前記カウンターアニオンのイオン価であって−1〜−4の数値を示す。また、前記式(1)中のnは前記mの値に応じて電気的中性原理に従って変化する数値を示であって前記カルボン酸ルテニウム二核錯体中のカウンターアニオンの数を示し、例えば、カウンターアニオンのイオン価が−1の場合において、ルテニウムの酸化数が便宜上+3の場合には2を示し、ルテニウムの酸化数が便宜上+2.5の場合には1を示し、ルテニウムの酸化数が+2の場合には0を示す。すなわち、ルテニウムの酸化数が+2の場合には前記カウンターアニオンは存在しない。
【0027】
また、前記一般式(1)で表される化合物の溶媒和物は、前記一般式(1)で表されるカルボン酸ルテニウム二核錯体の製造時、保存時、使用時等に用いられた溶媒により溶媒和されたものである。このような溶媒和物中の溶媒和分子としては特に制限されず、製造時、保存時、使用時等に用いた溶媒の種類に応じたHO、(CHO、CHOH等の各種分子が挙げられる。また、このようなカルボン酸ルテニウム二核錯体の溶媒和物としては、下記一般式(2):
[Ru(R−COO)(solv)]・X
[式中、R、X、m、nは上記式(1)中のR、X、m、nと同義であり、solvは溶媒分子を示し、lは0〜2のうちのいずれかの整数を示す。]
で表されるものが好ましい。
【0028】
また、このようなカルボン酸ルテニウム二核錯体及びその溶媒和物の合成方法は特に制限されず、公知の方法を適宜採用できる。さらに、このようなカルボン酸ルテニウム二核錯体としては市販のものを用いてもよい。
【0029】
また、また、前記ルテニウム含有液の溶媒としては特に制限されず、カルボン酸ルテニウム二核錯体を溶解させることが可能な水や有機溶媒等を適宜用いることができる。このようなルテニウム含有液の溶媒としては、溶媒中の錯体の安定度の観点から、有機溶媒を用いることが好ましく、アルコール及びアセトンからなる群から選択される少なくとも1種の有機溶媒を用いることがより好ましく、中でも、溶解度の観点から、アルコールを用いることが特に好ましい。また、このようなアルコールとしては、炭素数が1〜3のアルコールがより好ましい。このようなアルコールの炭素数が前記上限を超えると溶解度の低下や、粘度が高くなることで分散性が低下し、均一な担持ができなくなる傾向にある。また、このようなアルコールの中でも、より高い触媒活性を有する触媒が得られるという観点から、メタノールを用いることが特に好ましい。
【0030】
さらに、このようなルテニウム含有液中のルテニウム(金属)の含有比率としては特に制限されないが、金属換算で0.0001〜1質量%となるようにすることが好ましい。このようなルテニウムの含有比率が前記下限未満では、担体にカルボン酸ルテニウム二核錯体を効率よく担持することが困難となり、また性能が不十分となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、選択吸着されにくく、カルボン酸ルテニウム二核錯体を均一に担持することが困難となる傾向にある。なお、このようなルテニウム含有液の調製方法は特に制限されず、例えば、前記カルボン酸ルテニウム二核錯体を前記溶媒中に溶解することが可能な公知の方法を適宜採用することができる。
【0031】
また、本発明の自動車排ガス浄化用触媒の製造方法に用いる担体は、上記本発明の自動車排ガス浄化用触媒において説明した担体と同様のものである。
【0032】
さらに、前記ルテニウム含有液を前記担体に接触せしめ、前記担体に前記カルボン酸ルテニウム二核錯体を担持する方法としては特に制限されず、前記担体に前記カルボン酸ルテニウム二核錯体を担持させることが可能な公知の方法を適宜採用することができ、例えば、前記ルテニウム含有液中に前記担体を浸漬することにより前記担体に前記カルボン酸ルテニウム二核錯体を担持する方法を採用してもよい。また、前記ルテニウム含有液中に前記担体を浸漬することにより前記担体の表面に前記カルボン酸ルテニウム二核錯体を担持する場合には、1〜10atmの圧力、0℃以上で且つ前記ルテニウム含有液の溶媒の沸点以下(より好ましくは室温程度)の温度の条件下で0.5〜24時間程度撹拌することが好ましい。前記担体の表面に前記カルボン酸ルテニウム二核錯体を担持する際の圧力や温度の条件が前記下限未満では担持効率が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると余剰な撹拌を続けることにより製造コストが増加する傾向にある。
【0033】
また、前記担体に前記カルボン酸ルテニウム二核錯体を担持した後に焼成する方法としては、200〜600℃(更に好ましくは300〜500℃)の温度条件で1〜5時間程度焼成する方法を採用することが好ましい。このような焼成温度及び時間が前記下限未満では、配位子を効率よく且つ十分に除去することが困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、担体にルテニウムを担持させる際にルテニウム原子が凝集し易くなる傾向にある。
【0034】
なお、このような本発明の自動車排ガス浄化用触媒の製造方法によれば、ルテニウムを原子状態で且つ十分に高度に分散された状態で担体に担持することが可能である。このようにルテニウムを原子状態で且つ十分に高度に分散された状態で担持することが可能となる理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、先ず、前記ルテニウム含有液を前記担体に接触せしめると、カルボン酸ルテニウム二核錯体の配位サイトが担体上の水酸基と配位結合を形成する。そのため、カルボン酸ルテニウム二核錯体は十分に強い結合力で担体に担持される。また、このようにしてカルボン酸ルテニウム二核錯体が担体に担持されると、各錯体中の核は配位子の存在によりそれぞれ離間した状態で担体上に配置され、担体表面上に各錯体の核が島状に分散されて配置された状態が形成される。次いで、このようなカルボン酸ルテニウム二核錯体を担持した担体を焼成すると、担体と錯体との結合の熱安定性が高いため、錯体の核にある原子(ルテニウム原子)の凝集が十分に防止されつつ配位子が除去されていくため、ルテニウム原子は島状に分散された状態を十分に維持しながら担体に担持される。このようにして担体にルテニウムが担持されるため、ルテニウムが原子状態で且つ用いた錯体の核に含有されているルテニウム原子の数に応じて2原子クラスターの状態で担体に担持される。従って、本発明の自動車排ガス浄化用触媒の製造方法によれば、ルテニウム原子を十分に分散された状態で担持させることが可能となるものと推察される。
【実施例】
【0035】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0036】
(実施例1)
先ず、酢酸ルテニウム二核錯体([Ru(CHCO(HO)]・BF:83.9mg)をメタノール(1000mL)に溶解させてルテニウム含有液を調製した。次に、前記ルテニウム含有液中にγ−アルミナ(住友化学社製の商品名「AKP−G0−01」:10.0g)を加えて混合物を得た。次いで、前記混合物を30℃の温度条件下において12時間撹拌した後、蒸発乾固せしめ、得られた固形物を大気中、300℃の温度条件で3時間焼成し、自動車排ガス浄化用触媒を得た。なお、得られた触媒中のルテニウムの担持量は0.3質量%であった。
【0037】
(実施例2)
先ず、酢酸ルテニウム二核錯体([Ru(CHCO(HO)]・BF:83.9mg)をアセトン(1000mL)に溶解させてルテニウム含有液を調製した。次に、前記ルテニウム含有液中にγ−アルミナ(住友化学社製の商品名「AKP−G0−01」:10.0g)を加えて混合物を得た。次いで、前記混合物を30℃の温度条件下において12時間撹拌した後、蒸発乾固せしめ、得られた固形物を大気中、300℃の温度条件で3時間焼成し、自動車排ガス浄化用触媒を得た。なお、得られた触媒中のルテニウムの担持量は0.3質量%であった。
【0038】
(実施例3)
先ず、酢酸ルテニウム二核錯体([Ru(CHCO(HO)]・BF:83.9mg)をイオン交換水(1000mL)に溶解させてルテニウム含有液を調製した。次に、前記ルテニウム含有液中にγ−アルミナ(住友化学社製の商品名「AKP−G0−01」:10.0g)を加えて混合物を得た。次いで、前記混合物を30℃の温度条件下において12時間撹拌した後、蒸発乾固せしめ、得られた固形物を大気中、300℃の温度条件で3時間焼成し、自動車排ガス浄化用触媒を得た。なお、得られた触媒中のルテニウムの担持量は0.3質量%であった。
【0039】
(比較例1)
先ず、ルテニウムアンミン水酸塩溶液(田中貴金属社製,Lot# 9911−4273:Ru濃度0.647wt%,Ru重量5.00g/800ml,4.64mg)をイオン交換水(1000mL)に溶解させてルテニウム溶解液を調製した。次に、前記ルテニウム溶解液中にγ−アルミナ(住友化学社製の商品名「AKP−G0−01」:10.0g)を加えて混合物を得た。次いで、前記混合物を30℃の温度条件下において12時間撹拌した後、蒸発乾固せしめ、得られた固形物を大気中、300℃の温度条件で3時間焼成し、比較のための自動車排ガス浄化用触媒を得た。なお、得られた触媒中のルテニウムの担持量は0.3質量%であった。
【0040】
(比較例2)
Ru(III) nitrosyl nitrate,solution in dilute nitric acid RuHN10 (Aldrich,373567−25ML:2.00g)をイオン交換水(1000mL)に溶解させてルテニウム溶解液を調製した。次に、前記ルテニウム溶解液中にγ−アルミナ(住友化学社製の商品名「AKP−G0−01」:10.0g)を加えて混合物を得た。次いで、前記混合物を30℃の温度条件下において12時間撹拌した後、蒸発乾固せしめ、得られた固形物を大気中、300℃の温度条件で3時間焼成し、比較のための自動車排ガス浄化用触媒を得た。なお、得られた触媒中のルテニウムの担持量は0.3質量%であった。
【0041】
(比較例3)
塩化ルテニウムRuCl(東京化成工業株式会社製の商品名「R0074」:61.6mg)をアセトン(1000mL)に溶解させてルテニウム溶解液を調製した。次に、前記ルテニウム溶解液中にγ−アルミナ(住友化学社製の商品名「AKP−G0−01」:10.0g)を加えて混合物を得た。次いで、前記混合物を30℃の温度条件下において12時間撹拌した後、蒸発乾固せしめ、得られた固形物を大気中、300℃の温度条件で3時間焼成し、比較のための自動車排ガス浄化用触媒を得た。なお、得られた触媒中のルテニウムの担持量は0.3質量%であった。
【0042】
[実施例1〜3及び比較例1〜3で得られた自動車排ガス浄化用触媒等の特性評価]
<実施例1〜3で調整されたルテニウム含有液のESIMS測定>
実施例1〜3で調整されたルテニウム含有液に対して、測定装置としてQ−TOF(Micromass製)を用いて、それぞれESIMS測定を行った。このようなESIMS測定により得られた各ルテニウム含有液のマススペクトルのグラフを、それぞれ図1(実施例1)、図2(実施例2)、図3(実施例3)に示す。なお、このようなESIMS測定の測定条件を以下に示す。
〈測定条件〉
イオン化法:エレクトロスプレーイオン化法
イオン化モード:正イオンモード
キャピラリー電圧:3200V
コーン電圧:40V
脱溶媒温度:120℃
図1〜3に示す結果からも明らかなように、実施例1〜3で調整されたルテニウム含有液中においては、ルテニウムの二核錯体が溶解していることが確認された。
【0043】
<自動車排ガス浄化用触媒の走査透過型電子顕微鏡による測定>
実施例1〜3及び比較例1〜3で得られた自動車排ガス浄化用触媒の粉末の縦12nm、横12nmの領域を、それぞれ走査透過型電子顕微鏡(STEM:日本電子製の商品名「JEM−2100F」)により観測した。このような測定の結果、実施例1〜3で得られた自動車排ガス浄化用触媒においては、2原子クラスターとして担持されているルテニウム原子の割合がγ−アルミナに担持された全ルテニウム原子に対して50at%以上であることが確認された。これに対して、比較例1〜3で得られた自動車排ガス浄化用触媒においては、2原子クラスターとして担持されているルテニウム原子の割合がγ−アルミナに担持された全ルテニウム原子に対して50at%未満であることが確認された。
【0044】
<自動車排ガス浄化用触媒の触媒活性の評価>
実施例1〜3及び比較例1〜3で得られた自動車排ガス浄化用触媒の粉末0.5gをそれぞれ用い、各粉末をそれぞれ冷間静水圧法(CIP:1000kg/cm)により1分間成形した後、直径0.5〜1mmのペレット状に粉砕することにより、触媒活性試験用の試料をそれぞれ調製した。次に、得られた試料を固定床流通式評価装置にそれぞれ設置し、下記表1に示す排気モデルガスを、300℃の温度条件下、3.5L/分の流量で15分間供給した(前処理)。その後、各試料の温度が100℃になるまで冷却した後、前記排気モデルガスを3.5L/分の流量で供給しながら15℃/分の昇温速度で100℃から300℃まで加熱していき、供給された排気モデルガス中のCの浄化率が50%に到達する温度(50%浄化温度:以下、「T50」と表す。)を測定した。結果を図4に示す。
【0045】
【表1】

【0046】
図4に示す結果からも明らかなように、本発明の自動車排ガス浄化用触媒(実施例1〜3)は、比較のための自動車排ガス浄化用触媒(比較例1〜3)よりもT50が低い温度となっており、優れた触媒活性を有することが確認された。また、ルテニウム含有液の溶媒としてアルコールを用いた場合(実施例1)においてはT50が特に低い温度となっていることが確認され、前記溶媒としてアルコールを用いることによって、より高度な触媒活性を有する触媒が得られることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0047】
以上説明したように、本発明によれば、原子状態のルテニウムが十分に高度に分散された状態で担持されており、十分に高度な触媒活性を有する自動車排ガス浄化用触媒並びにその触媒を効率よく確実に製造することが可能な自動車排ガス浄化用触媒の製造方法を提供することが可能となる。このような本発明の自動車排ガス浄化用触媒は、自動車から排出される排ガスを浄化するために用いる三元触媒等として利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】実施例1で調整されたルテニウム含有液中のルテニウム錯体をESIMS測定して得られたマススペクトルのグラフである。
【図2】実施例2で調整されたルテニウム含有液中のルテニウム錯体をESIMS測定して得られたマススペクトルのグラフである。
【図3】実施例3で調整されたルテニウム含有液中のルテニウム錯体をESIMS測定して得られたマススペクトルのグラフである。
【図4】実施例1〜3及び比較例1〜3で得られた自動車排ガス浄化用触媒のCの50%浄化温度(T50)を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
担体と、カルボン酸ルテニウム二核錯体を用いて前記担体に原子状態で担持されたルテニウムとを備え、且つ、前記ルテニウムの50at%以上がルテニウムの2原子クラスターとして前記担体に担持されていることを特徴とする自動車排ガス浄化用触媒。
【請求項2】
カルボン酸ルテニウム二核錯体を含有するルテニウム含有液を担体に接触せしめ、前記担体に前記カルボン酸ルテニウム二核錯体を担持し、焼成することにより、前記担体に原子状態でルテニウムを担持して自動車排ガス浄化用触媒を得ることを特徴とする自動車排ガス浄化用触媒の製造方法。
【請求項3】
前記カルボン酸ルテニウム二核錯体が、下記一般式(1):
Ru(R−COO)・X (1)
[式(1)中、Rは炭素数1〜5のアルキル基を示し、Xはカウンターアニオンを示し、mは前記カウンターアニオンのイオン価であって−1〜−4の数値を示し、nは前記mの値に応じて電気的中性原理に従って変化する数値を示す。]
で表される化合物及びその溶媒和物の中から選択される少なくとも1種の錯体であることを特徴とする請求項2に記載の自動車排ガス浄化用触媒の製造方法。
【請求項4】
前記ルテニウム含有液の溶媒がアルコールであることを特徴とする請求項2又は3に記載の自動車排ガス浄化用触媒の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2010−5529(P2010−5529A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−167720(P2008−167720)
【出願日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】