説明

自動車燃料組成物

自動車燃料組成物を導入すべき内燃機関の加速性能を向上する目的で、自動車燃料組成物に粘度指数(VI)向上剤を使用する方法。この添加剤は該組成物の粘度を増大させるため、理論的に予測した量よりも多く使用してよい。該組成物はディーゼル燃料組成物に好適であり、該添加剤は好適にはエチレン、プロピレン、ブチレン、ブタジエン、イソプレン及びスチレンモノマーから選ばれた1種以上のモノマーブロックを有するブロック共重合体を含み、組成物に好ましくは0.5重量%以下の濃度で使用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動車燃料組成物、その製造方法及び使用方法(use)、並びに内燃機関、特にディーゼルエンジンの性能を向上する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの自動車エンジンは、燃焼シリンダーに入る空気量を増大して、動力出力を向上するターボ過給器を備えている。ターボ過給器の操作は、一般に自動車エンジンの管理システムにより調整される。
【0003】
余り高級ではないエンジンでは、導入すべき燃料の含有量及び/又は特性を最適化すれば、多くの場合、性能の向上が可能であったが、現代のターボ過給式エンジンでは燃料配合物により性能を向上するという選択は、一層制限される傾向がある。これはエンジン管理システムが燃料吸入の変化を補償するようにプログラムされていることが多いからである。
【0004】
WO−A−2005/054411には、自動車牽引力(VTE)及び/又はディーゼル燃料組成物を導入すべきディーゼルエンジンの加速性能を向上する目的で、該燃料組成物に増粘性(粘度増大性)成分を使用することが記載されている。この文献は、ターボ過給式及び非ターボ過給式の両エンジンについて、約1300rpmからそれ以上のエンジン速度範囲に亘る平均ワイドオープンスロットル(WOT)加速時間の向上、及び2000rpm以上の一定のエンジン速度で定常状態の自動車牽引力(VTE)試験の向上を例示している。燃料組成物の増粘に使用される成分としては、特にフィッシャー・トロプシュ誘導ディーゼル成分のような炭化水素ディーゼル燃料成分、及び鉱物源でも合成源であってもよく、またフィッシャー・トロプシュ誘導されてもよい油が含まれる。
【0005】
燃料の粘度、したがって、エンジン性能に著しい影響を与えるため、このような添加成分は、通常、少なくとも5重量%、多くの場合、それ以上の濃度で使用する必要がある。しかし、増粘成分の幾つかは、特に高温では他の燃料特性、例えば蒸留又は常温流れ特性に負の影響を与え、得られる燃料組成物を所望の規格内に保持することが困難になる可能性がある。
【0006】
自動車燃料組成物の増粘は些細な事ではない。WO−A−2005/054411に提案されているように、添加燃料成分を導入すると、製油所操作、並びに燃料の供給、貯蔵及び分配システムに影響を与える可能性がある。これにより、燃料供給コストが増大する可能性があり、幾つかの市場では、例えば生産者がベース燃料自体に対し殆ど制御しなければ、非常に達成困難になる可能性がある。また、この一層明確な増粘性成分は、利用可能性も制限されるかも知れない。
【0007】
WO−A−2005/054411は、低エンジン速度での加速性能の向上について特に言及していないことも注目される。運転者が加速応答の向上に一層気づき易い可能性があった場合、エンジンは、依然として低速度である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
自動車エンジン、特にターボ過給式エンジン自体を構造的又は操作的に変化させるよりも、該エンジンに導入すべき燃料の組成及び/又は特性を変化させる方が一層簡単で融通性があり、かつコスト効果的である道筋を提供することが期待できるので、このようなエンジンの性能を更に改良できることが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第一の局面では、自動車燃料組成物を導入すべきか、又は導入を意図した内燃機関、或いはこのような内燃機関を動力とする自動車の加速性能を向上する目的で、自動車燃料組成物に粘度指数向上剤を使用する方法が提供される。この燃料組成物は、好ましくはディーゼル燃料組成物であり、また内燃機関は好ましくはディーゼルエンジン、特にターボ過給式ディーゼルエンジンである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
“ディーゼルエンジン”とは、ディーゼル燃料で運行する(run)ように適応させた圧縮点火内燃機関を意味する。
“ターボ過給式ディーゼルエンジン”とは、通常、電子エンジン管理システムの制御下でターボ過給器を介して動力を供給する(powered)ディーゼルエンジンを意味する。
【0011】
“加速性能”は、一般にスロットルの増大に対するエンジンの応答性、例えばエンジンがいずれかの所定の速度から加速する割合(rate)を含む。いずれかの所定速度のエンジンにより発生する出力及び/又はトルク及び/又は自動車牽引力(VTE)のレベルを含む。こうして、加速性能の向上は、いずれかの所定速度での出力及び/又はトルク及び/又はVTEで表してよい。
【0012】
本発明は低エンジン速度での加速性能を向上するのに使用できる。“低エンジン速度”は、一般に2200rpm以下、特に2000rpm以下、例えば500〜2200rpm、或いは1200又は1400〜2200rpm、或いは1200又は1400〜2000rpmの速度を意味する。“低エンジン速度”は、ターボ過給器において、ターボ過給器の操作を制御するエンジン管理システムがターボ過給器によって付与された増幅(boost)を制限し始める、及び/又はエンジンの装入空気圧を調整し始めるレベルより低いエンジン速度であってよい。
【0013】
エンジン管理システムの制御下でさえ、粘度指数向上剤含有燃料はターボ過給式ディーゼルエンジンに性能上の利得(performance benefit)をもたらし、しかもこれらの利得は、低エンジン速度(例えば前述の範囲で)でも適用できることが意外にも見出された。これはWO−A−2005/054411の一般に高速度のデータからは決して予測できるものではない。これらのデータはVTE数値(figures)の場合、固定速度で得られ、またWOT加速時間の場合、3500rpm以下又はそれ以上のエンジン速度に亘って平均化されている。本発明で得られる性能上の利点は、ターボ過給器の立ち上げ(ramp−up)、即ち、低速度範囲で加速する際に観察される過渡的な効果に影響を与えることができるのに対し、WO−A−2005/054411に記載された研究は、定常状態のエンジン条件に多く向けたものである。
【0014】
高粘度燃料は、例えば噴射された燃料の噴霧に対し有害な影響を与え、これにより燃料の蒸発速度が低下し、更には出力低下(loss)が生じ、及び/又は燃料噴射装置においてポンプ損失が増大し、こうして、ディーゼルエンジンの性能が損なわれる可能性があることも予想できた。その代わり、自動車燃料に粘度指数向上剤を含有することの利得は、このような潜在的に有害な影響のいずれも蹂躙できることが見出された。
【0015】
引続く研究により、高粘度燃料はターボ過給器を一層速い回転速度に上げ、こうして低エンジン速度で過給器の最大速度に達するという推論が得られた。現代のターボ過給式ディーゼルエンジンでは、ターボ過給器の速度は、荷重及びエンジン速度の増大に応じて、所定の最大ターボ過給器速度に達するまで、加速する。低エンジン速度で更に迅速に増大するターボ過給器速度に従って、エンジンに“早めの”増幅を行うと、今度は低エンジン速度での加速性能に識別可能の向上が生じる可能性がある。この向上は、運転者が早い“吊上げ(pick−up)”又は加速応答として経験する。この効果は、本発明で製造される燃料組成物を使用した際、観察される加速性能の向上に部分的に寄与するかも知れない。
【0016】
エンジン管理システム(EMS)は、幾つかの場合、この効果を強化できることが見出された。完全荷重の加速下で高粘度燃料を使用すると、燃料の噴射量が増大し、したがって、ターボ過給器を駆動する排気ガス中に多くのエネルギーが保留される。その結果、次いでエンジンに高圧の空気が入り、したがって、空気吸入装入量が増大する。エンジン管理システムは、多くの燃料を噴射することにより、これに反応し易くなり、こうして、ターボ過給器をなお一層早く駆動する。この積極的なフィードバックループは、ターボ過給器がその最大速度に達すると、停止され、次いでエンジン管理システムは、増幅を制限すると共に、装入空気圧を調整するため、制御を行う。これらの効果は、高粘度の燃料を用いて観察された性能上の利得が低エンジン速度で拡大できる理由を説明するものと考えられる。
【0017】
高エンジン速度では装入空気圧は、EMSにより一層綿密に制御され、そうすると、高粘度燃料の性能上の利得は低下するかも知れない、及び/又は該利得の検出容易性は低下するかも知れない。しかし、粘度指数向上剤は高エンジン速度(例えば2000rpm以上、或いは2200、2500、更には3000、3200、3400又は3500以上)でも、また低エンジン速度でも性能向上効果を保持できることが見出された。
【0018】
こうして、本発明は、単に燃料組成物及びこれに使用される粘度指数向上剤の性能に基づいて予測できた性能よりも低エンジン速度でのターボ過給器の性能を通常、大幅に増幅するのに使用できる。しかし、本発明は、高速度で、理想的には全エンジン速度範囲に亘って、向上した性能を維持するためにも使用できる。
【0019】
本発明は、加速した際、ターボ過給器がその最大速度に達した時点のエンジン速度を低下させる目的で、ターボ過給器がその速度を上げた(特に低エンジン速度において)時点の速度(rate)を上げる目的で、或いはターボ過給器がその最大速度に達するのにかかる時間を短縮する目的で、粘度指数向上剤を使用する方法を含んでよい。粘度指数向上剤は、所定のエンジン速度、また特に低エンジン速度で装入空気圧(増幅圧)を上げるのに使用できる。
【0020】
エンジン速度は、制御下の加速試験中、エンジン管理システムの質問により都合良く測定できる。或いは動力計を用いて測定してもよい。加速性能試験は、通常、ワイドオープンスロットルで行われる。
【0021】
ターボ過給器の速度は、エンジンの空気吸入圧(即ち、ターボ過給器からの増幅圧)に関連し、慣用の圧力センサー(例えば試験下のエンジンを動力とする自動車の、ターボ過給器の直ぐ下流の吸入トラック中に配置される)を用いるか、或いは幾つかの場合は、エンジン管理システムの質問により測定できる。こうして、今度はターボ過給器がその最大速度に達した時点の測定が可能となるか、或いはターボ過給器の速度増大の割合(rate)の測定が可能となる。
【0022】
エンジントルクは、試験下のエンジンを動力とする自動車の車輪により動力計上に加えた力から誘導できる。好適には専用の器具(例えばKistlerTMRoaDynTM)を用いて、このような自動車の車輪から直接、測定してよい。エンジン出力は、当該技術分野で知られているように、エンジントルク測定値及びエンジン速度測定値から好適に誘導できる。自動車牽引力(VTE)は、エンジンで駆動される自動車の車輪により、例えば台車動力計のローラー上にかかる力を測定すれば、測定できる。
【0023】
本発明は、内燃機関又はこのような内燃機関を動力とする自動車の加速性能を向上するのに使用できる。加速性能はエンジンを加速し、エンジンの速度、出力、トルク及び/又はVTE、空気装入圧及び/又はターボ過給器速度の経時変化を監視することにより、評価できる。この評価は、好適には或る範囲のエンジン速度で行ってよく、低速度性能の向上を所望する場合、この評価は、例えば1200〜2000rpm又は1400〜1900rpmの速度範囲に亘って行ってよい。
【0024】
加速性能は、道路上で試験下のエンジンを動力とする自動車を、例えば0〜100km/時間に加速する、好適には経験のある運転者により評価してもよい。この自動車は、加速性能の変化をエンジン速度と関連可能にするため、エンジン速度計のような適当な器具を備えなければならない。
【0025】
一般に、加速性能の向上は、加速時間の短縮、及び/又は前述した効果のいずれか1つ以上、例えばターボ過給器速度の上昇の早さ、或いはいずれかの所定速度でのエンジンのトルク、出力又はVTEの増大により明示できる。
【0026】
本発明に関連して、加速性能の“向上(又は改良)”は、いかなる程度の向上(又は改良)も包含する、同様に、測定したパラメーター(例えばターボ過給器がその最大速度に達するのにかかる時間)の低下(又は減少又は短縮)或いは増大(又は上昇又は向上)は、場合によるが、いかなる程度の低下(又は減少又は短縮)或いは増大(又は上昇又は向上)も包含する。場合によるが、この向上、低下又は増大は、粘度指数向上剤を導入する前の燃料組成物を使用した場合、又は低粘度の他の類似の燃料組成物を用いた場合、の関連するパラメーターと比較してよい。この向上、低下又は増大は、内燃(通常はディーゼル)機関に使用することを意図した(例えば市販する)燃料組成物であって、粘度指数向上剤を添加する前の該燃料組成物で同じエンジンを操作(run)した場合に測定した関連パラメーターと比較してよい。
【0027】
本発明は例えば、所望の目標を満たすため、粘度指数向上剤により、ディーゼル燃料組成物の特性及び/又は性能及び/又は効果(又は影響)、特にターボ過給式ディーゼルエンジンの低速度加速性能に対する効果(又は影響)を調節する工程を含んでよい。
【0028】
WO−A−2005/054411(特に第3頁第22行〜第4頁第17行参照)に記載されるように、加速性能の向上は、他の原因、特に燃料組成物中に含まれる他の燃料成分又は添加剤による加速性能の低下を少なくとも或る程度まで、緩和することも包含してよい。一例として、燃料組成物は、組成物の燃焼時に発生する放出物のレベルが低下するよう、組成物全体の密度を低下させることを意図した1種以上の成分を含有してよい。密度の低下により、エンジンの出力低下が生じる可能性があるが、この影響は、本発明に従って粘度指数向上剤を使用すれば、克服できるか、或いは少なくとも緩和できる。
【0029】
低速度加速性能の向上は、酸素化成分含有燃料(例えば、いわゆる“バイオ燃料”)を使用するか、或いはエンジン中(通常は燃料噴射器中)に燃焼関連付着物を堆積する等、他の理由で低下した加速性能を、少なくとも部分的に、回復させることも包含してよい。
【0030】
通常、加速時間中、所定のエンジン速度でエンジントルクを増大させるために本発明を使用する場合、この増大は、粘度指数向上剤の導入前の燃料組成物でエンジンを操作した場合、及び/又は低粘度の他の類似の(通常、ディーゼル)燃料組成物でエンジンを操作した場合、に得られたトルクに比べて、0.1%以上、好ましくは0.2、0.3、0.4又は0.5%以上、幾つかの場合は0.6又は0.7%以上であってよい。この増大は、粘度指数向上剤を添加する前の、内燃(通常、ディーゼル)機関、特にターボ過給式エンジンに使用することを意図した(例えば市販する)他の類似の燃料組成物で同じエンジンを操作した場合の関連速度で得られたエンジントルクと比較してよい。
【0031】
通常、加速時間中、所定のエンジン速度でエンジン出力を増大させるために本発明を使用する場合、この増大は、粘度指数向上剤の導入前の燃料組成物でエンジンを操作した場合、及び/又は低粘度の他の類似の(通常、ディーゼル)燃料組成物でエンジンを操作した場合、に得られた出力に比べて、0.1%以上、好ましくは0.2、0.3、0.4又は0.5%以上、幾つかの場合は0.6又は0.7%以上であってよい。この増大は、粘度指数向上剤を添加する前の、内燃(通常、ディーゼル)機関、特にターボ過給式エンジンに使用することを意図した(例えば市販する)他の類似の燃料組成物で同じエンジンを操作した場合の関連速度で得られたエンジン出力と比較してよい。
【0032】
通常、加速時間中、所定のエンジン速度でエンジンVTEを増大させるために本発明を使用する場合、この増大は、粘度指数向上剤の導入前の燃料組成物でエンジンを操作した場合、及び/又は低粘度の他の類似の(通常、ディーゼル)燃料組成物でエンジンを操作した場合、に得られたVTEに比べて、0.1%以上、好ましくは0.2、0.3、0.4又は0.5%以上、幾つかの場合は0.6又は0.7%以上であってよい。この増大は、粘度指数向上剤を添加する前の、内燃(通常、ディーゼル)機関、特にターボ過給式エンジンに使用することを意図した(例えば市販する)他の類似の燃料組成物で同じエンジンを操作した場合の関連速度で得られたVTEと比較してよい。
【0033】
通常、加速時間中(即ち、ターボ過給器の立ち上げ中)、所定のエンジン速度でターボ過給器増幅圧を増大させるために本発明を使用する場合、この増大は、粘度指数向上剤の導入前の燃料組成物でエンジンを操作した場合、及び/又は低粘度の他の類似の(通常、ディーゼル)燃料組成物でエンジンを操作した場合、に得られたターボ過給器増幅圧に比べて、0.3%以上、好ましくは0.4又は0.5%以上であってよい。この増大は、粘度指数向上剤を添加する前の、内燃(通常、ディーゼル)機関、特にターボ過給式エンジンに使用することを意図した(例えば市販する)他の類似の燃料組成物で同じエンジンを操作した場合の関連速度で得られたターボ過給器増幅圧と比較してよい。
【0034】
エンジンが2つの所定エンジン速度間で加速するのにかかる時間を短縮するために本発明を使用する場合、この短縮は、粘度指数向上剤の導入前の燃料組成物でエンジンを操作した場合、及び/又は低粘度の他の類似の(通常、ディーゼル)燃料組成物でエンジンを操作した場合、に得られた加速時間に比べて、0.1%以上、好ましくは0.2、0.3、0.4又は0.5%以上、幾つかの場合は0.6、0.7、0.8又は0.9%以上であってよい。この短縮は、粘度指数向上剤を添加する前の、内燃(通常、ディーゼル)機関に使用することを意図した(例えば市販する)他の類似の燃料組成物で同じエンジンを操作した場合の関連速度で得られた加速時間と比較してよい。このような加速時間は、例えば300rpm以上、或いは400、500、600、700、800、900又は1000rpm以上、例えば1300〜1600rpm、1600〜2200rpm、2200〜3000rpm又は3000〜4000rpmのエンジン速度増大で測定してよい。
【0035】
粘度指数向上剤は、好ましくは40℃の中庸温度で使用される。更に粘度指数向上剤は、好ましくは250バールの最小圧力で使用される。
【0036】
本発明に従って粘度指数向上剤を使用する自動車燃料組成物は、特にディーゼルエンジンに使用するのに好適なディーゼル燃料組成物であってよい。この燃料組成物は、例えば後述するような、いかなる種類の圧縮点火エンジンにも使用してよい、及び/又は該エンジンの使用に好適であってよい、及び/又は適応してよい、及び/又は意図してよい。特にターボ過給器を備えたディーゼルエンジンに好適かも知れない。
【0037】
粘度指数向上剤を潤滑組成物に使用することは既に周知で、この場合、粘度指数向上剤は、高温で粘度を増大させることにより、所望温度範囲で組成物の粘度をできるだけ一定に維持するのに使用される。粘度指数向上剤は、団塊(conglomerate)及び/又はミセルを形成できる、通常、比較的高分子量の長鎖重合体分子をベースとしている。これらの分子系は高温で膨張し、こうして更に、互いに動きを制約し、今度は系の粘度を増大させる。
【0038】
粘度指数向上剤としては、ポリメチルメタクリレート(PMA)、ポリイソブチレン(PIB)、スチレン−ブタジエン/エチレンブロック共重合体、及び特定の他の共重合体、例えばポリスチレン−ポリイソプレン星形(stellate)(“星”)共重合体が含まれる。これらは通常、潤滑油配合物に1〜20重量%の濃度で含まれる。
【0039】
WO−A−01/48120には高温でのエンジンの始動能力を向上する目的で、燃料組成物、特にディーゼル燃料組成物にこれら種類の特定の添加剤を使用することが提案されている。しかし、我々の認識ではエンジンの加速性能の向上に使用するのに提案されたものではない。
【0040】
粘度指数向上剤は、比較的低濃度で使用しても自動車、特にディーゼル、燃料組成物の粘度を著しく増大でき、こうして、燃料組成物を導入すべきエンジンの性能を向上できることが見出された。このような性能向上は、以下、詳細に説明するように、低エンジン速度で特に目立つ可能性がある。この性能向上はターボ過給式エンジンに利用できる。
【0041】
したがって、本発明は、内燃機関に導入した燃料によって内燃機間の性能を効果的に向上する方法を提供できる。しかし、本発明は、WO−A−2005/054411に開示されたディーゼル燃料組成物とは逆に、追加成分を比較的低濃度で使用する燃料の最適化が可能である(即ち、WO−A−2005/054411において粘度増大に使用するような燃料成分よりも、むしろ燃料添加剤に使用する程度の濃度)。こうして、燃料製造方法のコスト及び複雑性を低減できる。例えば引続きエンジン性能を向上するため、ベース燃料の含有量をその製造場所(point)で変更するよりもむしろ製油所の下流に添加剤を導入することにより、燃料組成物を変更することができる。ベース燃料成分のブレンドは、あらゆる場所で可能かも知れないが、比較的低濃度での燃料添加剤の導入は、燃料貯蔵所、又は他の充填場所、例えば道路タンカー、はしけ又は列車充填場所、ディスペンサー、顧客のタンク及び車両で、更に容易に達成できる。その上、比較的低濃度で使用すべき添加剤は、数十重量%のオーダーの濃度で使用する必要がある燃料成分に比べて、コスト効果的に燃料組成物中に普段どおりに(naturally)輸送、貯蔵、導入できる。
【0042】
粘度指数向上剤を比較的低濃度で使用すると、いかなる望ましくない副作用、例えば燃料組成物の導入により生じる蒸留特性又は常温流れ特性に対する影響も低減する助けにもなり得る。
【0043】
粘度指数向上剤は合成的に製造し易く、したがって、通常は、十分に規定された構成及び品質で入手できる。これに対し、例えば鉱物誘導増粘性燃料成分(製油所流)は、バッチ毎に構成が変化し得る。粘度指数向上剤も潤滑剤用に広範に入手でき、本発明の提案による新規使用法の魅力的な成分となり得る。このような粘度指数向上剤は、特に必要とする低濃度の観点から、鉱物ベース油のような他の増粘性成分よりも安価であることが多い。
【0044】
本発明の別の利点は、粘度指数向上剤が特に高温で粘度を増大するように設計されていることである。高粘度燃料の使用によるエンジン出力の増大は、一般に高温で操作する燃料噴射システムの条件に連結しているので、粘度指数向上剤は他の多くの慣用の贈粘性成分よりも大きな性能上の利益を得ることができると考えられる。
【0045】
本発明に従って燃料組成物に使用される粘度指数向上剤は、本来、重合体であってよい。例えば、下記群から選択できる。
a)スチレン系共重合体、特にブロック共重合体、例えばKratonTMD又はKratonTMG添加剤(Kratonから)として、又はSVTM添加剤(Infineum、Multisol、その他から)として入手できる。特定の例としては、スチレン(styrenic)とエチレン/ブチレンモノマーとの共重合体、例えばポリスチレン−ポリイソプレン共重合体及びポリスチレン−ポリブタジエン共重合体が含まれる。このような共重合体は、例えばSVTM150(ポリスチレン−ポリイソプレンジブロック共重合体)又はKratonTM添加剤(スチレン−ブタジエン−スチレントリブロック共重合体又はスチレン−エチレン−ブチレンブロック共重合体)のようなブロック共重合体であってよい。これらはテーパー(tapered)共重合体、例えばスチレン−ブタジエン共重合体であってよい。これらは星形共重合体、例えばSVTM260(スチレン−ポリイソプレン星共重合体)であってよい;
b)エチレン、ブチレン、ブタジエン、イソプレン又は他のオレフィンモノマー系の他のブロック共重合体、例えばエチレン−プロピレン共重合体;
c)ポリイソブチレン(PIB);
d)ポリメタクリレート(PMA);
e)ポリα−オレフィン(PAO);及び
f)それらの混合物。
【0046】
粘度指数向上剤は1種以上の無機起源の化合物、例えばゼオライトを含有してよい。
好適な粘度指数向上剤の他の例は、日本特許第954077号、同第1031507号、同第1468752号、同第1764494号及び同第1751082号に開示されている。更に他の例としては、窒素及び酸素原子を含有する共重合化極性モノマーを含む分散性型粘度指数向上剤;アルキル芳香族型粘度指数向上剤;及び粘度指数向上剤としての用途が知られている或る種の流動点降下剤が含まれる。
【0047】
以上のうち、(a)型及び(b)型の添加剤、又はそれらの混合物、特に(a)型の添加剤が好ましいかも知れない。ブロック共重合体を含むか、理想的にはこれを必須成分とする粘度指数向上剤は、一般に付着物及び/又は泡形成の増大のような副作用を少なくできるので、このような粘度指数向上剤が好ましいかも知れない。
【0048】
粘度指数向上剤は、例えば通常、エチレン、プロピレン、ブチレン、ブタジエン、イソプレン及びスチレンモノマーから選ばれた1種以上のモノマーブロックを有するブロック共重合体を含有してよい。
【0049】
粘度指数向上剤の40℃での動粘度(VK 40、ASTM D−445又はEN ISO 3104で測定)は、好適には40mm/s以上、好ましくは100mm/s以上、更に好ましくは1000mm/s以上である。15℃での密度(ASTM D−4052又はEN ISO 3675で測定)は、好適には600kg/m以上、好ましくは800kg/m以上である。硫黄含有量(ASTM D−2622又はEN ISO 20846で測定)は、好適には1000mg/kg以下、好ましくは350mg/kg以下、更に好ましくは10mg/kg以下である。
【0050】
粘度指数向上(添加)剤は好適な溶剤、例えば鉱油又はフィッシャー・トロプシュ誘導炭化水素混合物のような油;該添加剤を使用すべき燃料組成物と相溶し得る燃料成分(鉱物系でもフィッシャー・トロプシュ誘導系でもよい)、(例えばディーゼル燃料組成物への使用を意図した際のガス油又はケロシンのような中間蒸留物燃料成分);ポリα−オレフィン;脂肪酸アルキルエステル(FAAE)、フィッシャー・トロプシュ誘導バイオマス−ツウ−液体(バイオマスから液体への)合成生成物、水素化植物油、廃油又は藻類油、或いはエタノールのようなアルコールのような、いわゆるバイオ燃料;芳香族溶剤;他の炭化水素又は有機溶剤;又はそれらの混合物;に予め溶解してよい。これに関連して使用される好ましい溶剤は、鉱油系ディーゼル燃料成分及び溶剤、並びに後述する“XTL”成分のようなフィッシャー・トロプシュ誘導成分である。
【0051】
燃料組成物中の粘度指数向上剤の濃度は1重量%(%w/w)以下、好適には0.5重量%以下、場合によっては0.4、0.3又は0.25重量%以下であってよい。この濃度は、0.001重量%以上、好ましくは0.01重量%以上、好適には0.02、0.03、0.04又は0.05重量%以上、場合によっては0.1又は0.2重量%以上である。好適な濃度は、例えば0.001〜1重量%、0.001〜0.5重量%、0.05〜0.5重量%又は0.05〜0.25重量%、例えば0.05〜0.25重量%又は0.1〜0.2重量%の範囲である。粘度指数向上剤の濃度が高い(例えば0.5重量%を超える)と、必ずしもエンジン性能の向上をもたらさず、また場合により、いかなる所定の添加剤についての最適濃度、例えば0.05〜0.5重量%、0.05〜0.25重量%又は0.1〜0.2重量%の範囲であってよいことが意外にも見出された。
【0052】
組成物の残部は、通常、任意に1種以上の燃料添加剤と組合わせた、例えば以下に詳細に説明するような1種以上の自動車ベース燃料で構成される。
【0053】
以上の濃度は粘度指数向上剤自体についてのもので、その有効成分を予め希釈した溶剤については考慮していない。前記濃度は燃料組成物全体の質量を基準とする。燃料組成物に2種以上の粘度指数向上剤を使用した場合、予備溶剤が存在すれば、これを引いた組成物全体に同じ濃度範囲を適用してよい。
【0054】
粘度指数向上剤の濃度は、該添加剤を導入する前の燃料組成物全体の所望粘度、該添加剤自体の粘度及び該添加剤に使用される溶剤の粘度に依存する。本発明で製造した自動車燃料組成物中の粘度指数向上剤、燃料成分、及びその他の成分又は添加剤の相対割合も他の所望特性、例えば密度、放出性能及びオクタン価、特に密度に依存する。
【0055】
粘度指数向上剤は、少なくとも本発明で使用するために提案した比較的低い濃度で燃料組成物、特にディーゼル燃料組成物の粘度を、個々の成分の粘度に基づいて理論的に予測した量よりも大きい量、増大できることが意外にも見出された。
【0056】
このような理論によれば、異なる粘度を有する2種以上の液体のブレンドの粘度は、3段階法を用いて計算できる(Hirshfelder等,“Molecular Theory of Gases and Liquids”,第1版,Wiley(ISBN 0−471−40065−3)及びMaples(2000),“Petroleum Refinery Process Economics”,第2版,Pennwell Books(ISBN 0−87814−779−9参照)。第一段階は、以下の式(Refutas式として知られている):
VBI=14.534×ln[ln(v+0.8)]+10.975 (1)、
(但し、vは関連成分の粘度cSt(mm/s)で、各成分について同じ温度で測定される)
を用いて、ブレンドの各成分について粘度ブレンド指数(VBI)の計算を必要とする。
【0057】
次の段階は、以下の式:
VBIブレンド=[W×VBIA]+[W×VBI]+ .. +[W×VBI] (2)
(但し、ブレンドは成分A、B...Xを含み、各Wはブレンド中の関連成分の重量分率(即ち、%w/w÷100)である)
を用いて、ブレンド全体についてVBIを計算することである。
【0058】
式(2)を用いてブレンドの粘度ブレンド指数を計算した後、最終段階は式(1)の逆:
V=eΛΛ
((VBIブレンド−10.975)÷14.534)−0.8 (3)
を用いてブレンドの粘度を求めることである。
【0059】
しかし、VK 40が2.75mm/sの、硫黄を含まないディーゼル燃料99重量%と、粘度指数向上剤SVTM261(VK40は16300mm/s)1重量%とのブレンドの全体で測定したVK 40は、3.19mm/sである。換言すれば、粘度指数向上剤の導入により、ディーゼル燃料のVK 40は0.44mm/s増大する。しかし、このようなブレンドの理論VKを上記式を用いて計算すると、2.84mm/sとなる。即ち、ディーゼル燃料単独のVK 40よりも、0.09mm/sしか増大しない。したがって、完全に理論を根拠にすれば、添加剤レベルの濃度で燃料組成物の粘度を顕著に増大させることは予測されない。
(SVTM261は、ブロック共重合体(例えばSVTM260、これもInfineumから)15重量%と鉱油85重量%との混合物である)
【0060】
粘度指数向上剤を含有することにより、本発明で製造される燃料組成物(特にディーゼル燃料組成物)のVK 40は、好適には2.7〜2.8mm/s以上、好ましくは2.9、3.0、3.1、3.2、3.3又は3.4mm/s以上、場合によっては3.5、3.6、3.7、3.8、3.9又は更には4mm/s以上である。このVK 40は、4.5、4.4又は4.3mm/s以下であってよい。特定の場合、例えば北極圏のディーゼル燃料では、本組成物のVK 40は好ましくは1.7又は2.0mm/s以上であるが、1.5mm/sのように低くてもよい。本明細書において、粘度とは、特に断らない限り、動粘度の意味であることを意図する。
【0061】
本組成物は、比較的高い密度を有することが好ましく、例えばディーゼル燃料組成物では15℃で830kg/m以上(ASTM D−4052又はEN ISO 3675)、好ましくは832kg/m以上、例えば832〜860kg/mである。好適には密度は15℃で845kg/m以下で、この値は現在のEN 590ディーゼル燃料規格の上限である。
本発明で製造される燃料組成物は、例えば自動車ガソリン又はディーゼル燃料組成物、特に後者であってよい。
【0062】
本発明で製造されるガソリン燃料組成物は、一般にスパーク点火(ガソリン)エンジンに使用するのに好適ないかなる種類のガソリン燃料組成物であってもよい。この組成物は、粘度指数向上剤の他、その他、標準のガソリン燃料成分を含有してよい。他の成分としては、例えば通常、沸点範囲(ASTM D−86又はEN ISO 3405)が20〜210℃のガソリンベース燃料を主要割合で含有する。これに関連して“主要割合”とは燃料組成物全体に対し通常、85重量%以上、更に好適には90又は95重量%以上、最も好ましくは98、99又は99.5重量%以上を意味する。
【0063】
本発明で製造されるディーゼル燃料組成物は、一般に圧縮点火(ディーゼル)エンジンに使用するのに好適ないかなる種類のディーゼル燃料組成物であってもよい。このディーゼル燃料組成物は、粘度指数向上剤の他に、他の標準的なディーゼル燃料成分を含有してよい。例えば後述する種類のゼルベース燃料を主要割合含有してよい。再び、“主要割合”とは燃料組成物全体に対し通常、85重量%以上、更に好適には90又は95重量%以上、最も好ましくは98、99又は99.5重量%以上を意味する。
【0064】
したがって、本発明で製造されるディーゼル燃料組成物は、粘度指数向上剤の他に、従来型のディーゼル燃料成分を1種以上含有してよい。このような成分は、通常、液体炭化水素中間蒸留物燃料油、例えば石油誘導ガス油を含有する。一般にこのような燃料成分は、有機的に又は合成的に誘導されてよく、好適には原油から所望範囲のフラクションを蒸留して得られる。これらのフラクションは、一般に150〜410℃又は170〜370℃の通常のディーゼル範囲内の沸点を有する。通常、燃料組成物は重質炭化水素を分割して得られる1種以上の分解生成物を含有する。
【0065】
石油誘導ガス油は、例えば原油源を精製し、任意に(水素化)処理して得られる。このガス油は、このような製油所プロセスで得られる単独ガス油流であってもよいし、製油所プロセスで異なる処理過程を経て得られる数種のガス油フラクションのブレンドであってもよい。このようなガス油フラクションの例は、直留ガス油、減圧ガス油、熱分解法で得られるようなガス油、流動接触分解ユニットで得られるような軽質及び重質循環油、及び水素化分解ユニットから得られるようなガス油である。任意に石油誘導ガス油は若干の石油誘導ケロシンフラクションを含有してよい。
【0066】
このようなガス油は、硫黄含有量をディーゼル燃料組成物中に含有するのに好適なレベルまで低下させるように、水素化脱硫(HDS)ユニット中で処理してよい。
【0067】
ディーゼルベース燃料はフィッシャー・トロプシュ誘導燃料成分、通常、フィッシャー・トロプシュ誘導ガス油であっても、或いは含有してもよい。本発明に関連して、用語“フィッシャー・トロプシュ誘導”とは、材料がフィッシャー・トロプシュ縮合法の合成生成物又はその誘導体であることを意味する。用語“非フィッシャー・トロプシュ誘導”は、これに従って解釈してよい。したがって、フィッシャー・トロプシュ誘導燃料又は燃料成分は、添加した水素を除く実質部分がフィッシャー・トロプシュ縮合法から直接又は間接的に誘導された炭化水素流である。
【0068】
フィッシャー・トロプシュ反応は、一酸化炭素及び水素を適当な触媒の存在下、通常、高温(例えば125〜300℃、好ましくは175〜250℃)及び/又は高圧(例えば0.5〜10MPa、好ましくは1.2〜5MPa)で長鎖の、通常、パラフィン系の、炭化水素:
n(CO+2H)=(−CH−)+nHO+熱
に転化させる。所望ならば、2:1以外の水素:一酸化炭素比を採用してよい。
【0069】
一酸化炭素及び水素自体は、有機又は無機、天然又は合成の供給源、通常、天然ガス又は有機的に誘導したメタンのいずれからも誘導できる。
【0070】
本発明で使用されるフィッシャー・トロプシュ誘導ディーゼル燃料成分は、精製又はフィッシャー・トロプシュ反応から直接得てもよいし、或いは例えば精製又は合成生成物を精留又は水素化処理して精留生成物又は水素化処理生成物を生成することにより、精製又はフィッシャー・トロプシュ反応から間接的に得てもよい。水素化処理は、沸点範囲を調節するため、水素化分解工程(例えばGB−B−2077289、EP−A−0147873参照)及び/又は分岐パラフィンの割合増大により常温流れ特性の向上が可能な水素化異性化工程を含むことができる。EP−A−0583836には2段階水素化処理法が記載されている。この方法は、まずフィッシャー・トロプシュ合成生成物に対し、実質的に異性化又は水素化分解(オレフィン性成分及び酸素含有成分を水素化する)を受けないような条件下で水素化転化を行ない、次いで得られた生成物の少なくとも一部を、水素化分解又は水素化異性化が起こって実質的にパラフィン系の炭化水素燃料が生成するような条件下で水素化転化するというものである。次に、所望のフラクション、通常、ガス油フラクションは、例えば蒸留により単離できる。
【0071】
フィッシャー・トロプシュ縮合生成物の特性を改質するため、例えばUS−A−4125566やUS−A−4478955に記載されるように、重合、アルキル化、蒸留、分解−脱カルボキシル化、異性化、水素化改質等、その他の後合成処理も採用できる。
【0072】
パラフィン性炭化水素のフィッシャー・トロプシュ合成用の一般的な触媒は、触媒活性成分として周期表第VIII族金属、特にルテニウム、鉄、コバルト又はニッケルを含有する。好適なこの種の触媒は、例えばEP−A−0583836に記載されている。
【0073】
フィッシャー・トロプシュの基本法の一例は、ShellTM“Gas−to−Liquid(ガス・ツウ・リキッド)”又は“GtL”技術(以前はSMDS(Shell Middle Distillate Synthesis(シェル中間蒸留物合成)として知られ、第5回Synfuels Worldwide Symposium,Washington DC、1985年11月での論文:van der Burgt等,“The Shell Middle Distillate Synthesis Process(シェル中間蒸留物合成法)”(Shell International Petroleum Company Ltd.,London,UKの同表題の1989年11月刊行物も参照)に記載されている。後者の場合、水素化転化法の好ましい特徴は、前記文献に開示されたとおりであってよい。この方法は、天然ガスを重質長鎖炭化水素(パラフィン)蝋に転化することにより、中間蒸留物範囲の生成物を生成する。転化後、炭化水素蝋は、引き続き水素化転化し、精留できる。
【0074】
本発明で使用されるフィッシャー・トロプシュ誘導燃料成分(以下、GtL成分)は、ガス・ツウ・リキッド合成から誘導されたいかなる好適な成分も、或いは例えばガス、バイオマス又は石炭を液体に転化する類似のフィッシャー・トロプシュ合成から誘導した成分(以下、XtL成分)も好ましい。フィッシャー・トロプシュ誘導成分はXtL成分が好ましい。XtL成分は、BtL(バイオマスから液体に)成分であってよい。一般に好適なXtL成分は、当該技術分野で知られているように、例えばケロシン、ディーゼル及びガス油フラクションから選ばれた中間蒸留物燃料成分であってよい。このような成分は、包括的に合成法燃料又は合成法油として分類してよい。好ましくは、ディーゼル燃料成分として使用されるXtL成分はガス油である。
【0075】
本発明で製造される組成物に含まれるディーゼル燃料成分、15℃での密度(ASTM D−4052又はEN ISO 3675で測定)が、通常、750〜900kg/m、好ましくは800〜860kg/mであり、及び/又はVK 40(ASTM D−445又はEN ISO 3104)が、1.5〜6.0mm/sである。
【0076】
本発明で製造されるディーゼル燃料組成物において、ベース燃料自体が前述のような種類のディーゼル燃料成分を2種以上、含有してよい。ベース燃料は、植物油、水素化植物油又は植物油誘導体(例えば脂肪酸エステル、特に脂肪酸メチルエステル)、或いは酸、ケトン又はエステルのような他の酸素化物のようないわゆる“バイオディーゼル”燃料成分であっても或いは含有してもよい。このような成分は必ずしもバイオ誘導されている必要はない。
【0077】
本発明では粘度指数向上剤は、燃料組成物の粘度を増大するのに使用してよい。こうして、本発明の第一局面で製造した組成物においては、ベース燃料は比較的低粘度であってよく、次いで粘度指数向上剤の導入により、“品質向上”してよい。これにより、エンジンの性能にとって本来、恐らく有利ではないベース燃料成分は、性能を増幅することができる。その代わり、又は更に、ベース燃料成分に対し予測された、エンジン性能に与えるいかなる有害な影響も粘度指数向上剤により少なくとも部分的に減殺される可能性がある。
【0078】
ディーゼル燃料組成物の場合、例えばベース燃料は、フィッシャー・トロプシュ又は鉱物誘導ナフサ成分、いわゆる“ウインターGtL”フィッシャー・トロプシュ誘導ガス油、低粘度鉱油ディーゼル成分又はバイオディーゼル成分のような比較的低粘度の成分であってよいか、或いは含有してよい。このようなベース燃料のVK 40(ASTM D−445又はEN ISO 3104)は、例えばヨーロッパディーゼル燃料規格EN 590で許容される最大値未満、例えば4.5mm/s未満、或いは3.5、3.2又は3mm/s未満であってよい。場合によっては、このVK 40は、EN 590で許容される最小値未満、例えば2mm/s未満又は更には1.5mm/s未満であってよい。粘度指数向上剤は、最終の自動車燃料組成物に導入する前に、1種以上のこのような燃料成分に予備希釈してよい。
【0079】
こうして、本発明の第一局面は、ベース燃料のような燃料成分又は該燃料成分を含有する自動車燃料組成物を導入すべきか、又は導入を意図した内燃機関、或いはこのような内燃機関を動力とする自動車の加速性能を向上する目的で、燃料成分に粘度指数向上剤を使用する方法を包含してよい。この第一局面は、燃料成分又は該燃料成分を含有する自動車燃料組成物を導入すべきか、又は導入を意図した内燃機関、或いはこのような内燃機関を動力とする自動車の加速性能に対し、該燃料成分による有害な影響を低減する目的で、燃料成分に粘度指数向上剤を使用する方法を包含してよい。
【0080】
加速性能に対する“有害な影響”とは、通常、加速の低下を意味する。
【0081】
本発明で製造される自動車ディーゼル燃料組成物は、好適には現在適用できる標準規格、例えばEN 590(ヨーロッパ向け)又はASTM D−975(米国向け)を満たす。例えば燃料組成物全体の15℃での密度(ASTM D−4052又はEN ISO 3675)は820〜845kg/m、T95沸点(ASTM D−86又はEN ISO 3405)は360℃以下、測定セタン価(ASTM D−613)は51以上、VK 40(ASTM D−445又はEN ISO 3104)は2〜4.5mm/s、硫黄含有量(ASTM D−2622又はEN ISO 20846)は50mg/kg以下、及び/又は多環式芳香族炭化水素(PAH)含有量(IP 391(mod))は11重量%(%w/w)未満であってよい。しかし、関連規格は国毎に、また年度毎に異なるかも知れないし、また燃料組成物の意図する用途に依存するかも知れない。
【0082】
本発明で製造されるディーゼル燃料組成物は、これら範囲外の特性を有する燃料成分を含有してよい。これは、ブレンド全体の特性が個々の構成成分の特性とは、多くの場合、著しく異なっていてもよいからである。
【0083】
本発明で製造されるディーゼル燃料組成物は、硫黄を好適には5000ppmw(100万重量部当たり重量部)以下、通常は2000〜5000ppmw、又は1000〜2000ppmw、或いは1000ppmw以下含有する。この組成物は、例えば低又は超低硫黄燃料、又は硫黄を含まない燃料、例えば硫黄含有量が500ppmw以下、好ましくは350ppmw以下、最も好ましくは100、50又は更には10ppmw以下であってよい。
【0084】
本発明で製造される自動車燃料組成物、又はこのような組成物に使用されるベース燃料は添加剤を含有してもよいし、或いは含有しなくてもよい。例えば製油所で添加剤を含有した場合、燃料組成物又はベース燃料は、帯電防止剤、パイプラインドラッグレデューサー(drag reducer)、流れ改良剤(例えばエチレン/酢酸ビニル共重合体又はアクリレート/無水マレイン酸共重合体)、潤滑剤、酸化防止剤及び蝋沈降防止剤から選択された1種以上の添加剤を少量含有する。したがって、この組成物は、粘度指数向上剤の他に、1種以上の燃料添加剤を小割合(好ましくは1重量%以下、更に好ましくは0.5重量%(5000ppmw)以下、最も好ましくは0.2重量%(2000ppmw)以下含有してよい。
【0085】
本組成物は、例えば洗浄剤を含有してよい。洗浄剤含有ディーゼル燃料添加剤は公知で、市販されている。このような添加剤は、エンジンの付着物の堆積を低減する、除去する、又は遅らせることを意図したレベルでディーゼル燃料に添加できる。
【0086】
この目的で燃料添加剤に使用するのに好適な洗浄剤の例としては、ポリオレフィン置換スクシンイミド又はポリアミンのスクシンアミド、例えばポリイソブチレンスクシンイミド又はポリイソブチレンアミンスクシンアミド;脂肪族アミン;マンニッヒ塩基又はアミン及びポリオレフィン(例えばポリイソブチレン)無水マレイン酸が含まれる。スクシンイミド分散剤は、例えばGB−A−960493、EP−A−0147240、EP−A−0482253、EP−A−0613938、EP−A−0557516及びWO−A−98/42808に記載されている。ポリイソプチレンスクシンイミドのようなポリオレフィン置換スクシンイミドが特に好ましい。
【0087】
本発明で製造される燃料組成物に使用できる燃料添加剤混合物は、洗浄剤の他に、他の成分を含有してよい。例えば滑性強化剤;霞み(曇り)防止剤、例えばアルコキシル化フェノールホルムアルデヒド重合体;消泡剤(例えばポリエーテル変性ポリシロキサン);点火向上剤(セタン向上剤)(例えば2−エチルヘキシルナイトレート(EHN)、シクロヘキシルナイトレート、ジ−tert−ブチルパーオキシド、及びUS−A−4208190第2欄27行〜第3欄21行に開示されるもの);防錆剤(例えばテトラプロペニル琥珀酸のプロパン−1,2−ジオール半エステル、琥珀酸誘導体の多価アルコールエステル(該琥珀酸誘導体は、α−炭素原子の少なくとも1つに炭素原子数20〜500の置換又は非置換の脂肪族炭化水素基を有する。例えばポリイソブチレン置換琥珀酸のペンタエリスリトールジエステル);腐食防止剤、付香剤、摩耗防止剤、酸化防止剤(例えば2,6−ジ−tert−ブチルフェノールのようなフェノール、又はN,N’−ジ−sec−ブチル−p−フェニレンジアミンのようなフェニレンジアミン);金属奪活剤;助燃剤;静電散逸剤(static dissipator additive);常温流れ改良剤;及び蝋沈降防止剤が含まれる。
【0088】
このような燃料添加剤混合物は、特に低硫黄含有量(例えば500ppmw以下)の燃料組成物の場合、潤滑性強化剤を含有できる。潤滑性強化剤は、添加剤含有燃料組成物中に、都合良くは1000ppmw未満、好ましくは50〜1000ppmw、更に好ましくは70〜1000ppmwの濃度で存在する。好適な市販の潤滑性強化剤は、エステル系及び酸系添加剤を含有する。他の潤滑性強化剤は、特に低硫黄含有量ディーゼル燃料への使用に関連して、下記文献に記載されている。
【0089】
・Danping Wei及びH.A.Spikesによる論文、“The Lubricity of Diesel Fuels”Wear,III(1986)217−235
・WO−A−95/33805:低硫黄燃料の潤滑性を強化するための常温流れ改良剤
・WO−A−94/17160:ディーゼルエンジン噴射システムの摩耗低下用燃料添加剤として、炭素原子数2〜50のカルボン酸と炭素原子数1以上のアルコールとの特定のエステル、特にグリセロールモノオレエート及びジイソデシルアジペート
・US−A−5490864:低硫黄ディーゼル燃料用耐摩耗潤滑性添加物として特定のジチオ燐酸ジエステル−ジアルコール
・WO−A−98/01516:特に低硫黄ディーゼル燃料に耐摩耗潤滑性効果を与えるための、芳香族核に結合した少なくとも1つのカルボキシル基を有する特定のアルキル芳香族化合物
【0090】
燃料組成物は消泡剤を含有することも好ましいかも知れないし、防錆剤及び/又は腐食防止剤及び/又は潤滑性強化剤と一緒に含有することが更に好ましいかも知れない。
【0091】
特に断らない限り、添加剤含有燃料組成物中の各添加剤の(活性分)濃度は、好ましくは10000ppmw以下、更に好ましくは0.1〜1000ppmw、有利には0.1〜300ppmw、例えば0.1〜150ppmwの範囲である。
【0092】
燃料組成物中の霞み(曇り)防止剤の(活性分)濃度は、好ましくは0.1〜20ppmw、更に好ましくは1〜15ppmw、なお更に好ましくは1〜10ppmw、有利には1〜5ppmwの範囲である。存在すれば転化向上剤の(活性分)濃度は、好ましくは2600ppmw以下、更に好ましくは2000ppmw以下、有利には300〜1500ppmwの範囲である。燃料組成物中の洗浄剤の(活性分)濃度は、好ましくは5〜1500ppmw以下、更に好ましくは10〜750ppmw、最も好ましくは20〜500ppmwの範囲である。
【0093】
所望ならば、前述のような1種以上の添加剤は、好ましくは好適な希釈剤と一緒に、添加剤濃厚物中に同時混合(co−mix)し、次いで燃料組成物を作るため、この添加剤濃厚物をディーゼルベース燃料又は燃料組成物中に分散してよい。粘度指数向上剤は、本発明に従って、このような添加剤配合物に取込んでよい。
【0094】
ディーゼル燃料組成物の場合、例えば燃料添加剤混合物は、任意に前述のような他の成分と一緒に、洗浄剤及びディーゼル燃料相溶性希釈剤を含有する。この種の希釈剤は鉱油、溶剤、例えばシェル社から商品名“SHELLSOL”で販売されている溶剤、極性溶剤、例えばエステル及び特にアルコール、例えばヘキサノール、2−エチルヘキサノール、デカノール、イソトリデカノール及びアルコール混合物、例えばシェル社から商品名“LINEVOL”で販売されているアルコール混合物、特にC〜Cのアルコール混合物からなるLINEVOL 79アルコール、又はC12〜C14のアルコール混合物(市販されている)であってよい。
【0095】
燃料組成物中の添加剤の合計含有量は、好適には0〜10000ppmw、好ましくは5000ppmw未満である。
明細書中、成分の量(濃度、容量%、ppmw、重量%)は活性分の量、即ち、揮発性溶剤/希釈剤材料を除いた量である。
【0096】
異なる種類及び/又は濃度の添加剤はガソリン燃料組成物に使用するのに適当かも知れない。例えばこのような組成物は、洗浄剤としてポリイソブチレン/アミン及び/又はポリイソブチレン/アミド共重合体を含有してよい。
【0097】
本発明では自動車燃料組成物の粘度を増大する目的で、該組成物に粘度指数向上剤を使用する方法が提供される。
【0098】
本発明に関連して、粘度の“増大”とは、いかなる増大の程度も包含する。この増大は、粘度指数向上剤を添加する前の燃料組成物の粘度と比較してよい。この増大は、内燃機関、特にディーゼルエンジンへの使用を意図した他の類似の燃料組成物に粘度指数向上剤を添加する前に、該燃料組成物の粘度と比較してよい。
【0099】
本発明は、所望の目標粘度を達成するため、粘度指数向上剤を使用して燃料組成物の粘度を調節する工程を含む。
【0100】
粘度指数向上剤は、燃料組成物のVK 40粘度を0.05mm/s以上、好ましくは0.1、0.2、0.3又は0.4mm/s以上、場合によっては0.5、0.6、0.7、0.8又は0.9mm/s以上、或いは更には1、1.5又は2mm/s以上増大するのに使用される。
【0101】
粘度指数向上剤及びこれを燃料組成物に使用する際の濃度は、組成物の15℃での密度を好適には5kg/m以下、好ましくは2kg/m以下低下させるような濃度である。この濃度は組成物の密度を低下させないような濃度が好ましい。場合によっては、組成物の密度を増大させるような濃度であってよいかも知れない。密度の低下は、粘度指数向上剤を導入する前の燃料組成物の密度と比較してよい。密度の低下は、内燃(特にディーゼル)機関への使用を意図する(例えば市販する)、粘度指数向上剤を添加する前の他の類似の燃料組成物の密度と比較してよい。密度は、標準的な試験方法であるASTM D−4052又はEN ISO 3675を用いて測定できる。
【0102】
粘度指数向上剤及びこれを燃料組成物に使用する際の濃度は、組成物の低温フィルター目詰まり点(CFPP)を、好適には10℃以下、好ましくは5、2又は1℃以下、上昇させるような濃度である。この濃度は組成物のCFPPを上昇させないような濃度が好ましい。場合によっては、組成物のCFPPを低下させるような濃度であってよいかも知れない。CFPPの上昇は、粘度指数向上剤を導入する前の燃料組成物のCFPPと比較してよい。CFPPの上昇は、内燃(特にディーゼル)機関への使用を意図する(例えば市販する)、粘度指数向上剤を添加する前の他の類似の燃料組成物のCFPPと比較してよい。CFPPは、標準的な試験方法であるEN 116を用いて測定できる。
【0103】
粘度指数向上剤及びこれを燃料組成物に使用する際の濃度は、組成物の曇り点を、好適には10℃以下、好ましくは5、2又は1℃以下、上昇させるような濃度である。この濃度は組成物の曇り点を上昇させないような濃度が好ましい。場合によっては、組成物の曇り点を低下させるような濃度であってよいかも知れない。曇り点の上昇は、粘度指数向上剤を導入する前の燃料組成物の曇り点と比較してよい。曇り点の上昇は、内燃(特にディーゼル)機関への使用を意図する(例えば市販する)、粘度指数向上剤を添加する前の他の類似の燃料組成物の曇り点と比較してよい。曇り点は、標準的な試験方法であるEN 23015を用いて測定できる。
【0104】
粘度指数向上剤及びこれを燃料組成物に使用する際の濃度は、組成物のT95沸点を、好適には5℃以下、好ましくは2又は1℃以下、上昇させるような濃度である。この濃度は組成物のT95沸点を上昇させないような濃度が好ましい。場合によっては、組成物のT95沸点を低下させるような濃度であってよいかも知れない。T95沸点の上昇は、粘度指数向上剤を導入する前の燃料組成物の曇り点と比較してよい。T95沸点の上昇は、内燃(特にディーゼル)機関への使用を意図する(例えば市販する)、粘度指数向上剤を添加する前の他の類似の燃料組成物のT95沸点と比較してよい。T95沸点は、標準的な試験方法であるASTM D−86又はEN ISO 3405を用いて測定できる。
【0105】
本発明の第一局面に関連して前述したように、粘度指数向上剤は、自動車燃料組成物の粘度を理論的に予測した量(値)よりも大きく増大できることが見出された。したがって、本発明の第二の局面では粘度指数向上剤は、所望の目標粘度を達成するのに必要があると理論的に予測した濃度よりも低い濃度で燃料組成物に使用できる。その代わりに又は更に、粘度指数向上剤は、同じ濃度の粘度指数向上剤を用いて達成できることを理論的に予測した粘度よりも高い粘度を達成する目的で使用できる。
【0106】
したがって、本発明の第三の局面は、自動車燃料組成物に濃度cの粘度指数向上剤を添加する工程であって、該濃度cは、該組成物に対する目標最小粘度X又はそれ以上を達成するため、該組成物に添加する必要があると理論的に予測した粘度指数向上剤の最小濃度c’よりも低い該工程を含む、目標最小粘度Xを達成するため、自動車燃料組成物の粘度を増大する方法を提供する。燃料組成物はディーゼル燃料組成物が好ましい。
【0107】
理論的に最小の粘度指数向上剤濃度c’、及びこれと、得られる組成物の粘度との関係は、組成物の個々の構成成分の粘度(即ち、通常は粘度指数向上剤及び組成物の残部を構成するベース燃料)に基づく、本発明の第一局面と関連して示した前記式を用いて好適に計算される。
【0108】
本発明の第四の局面は、自動車燃料組成物の粘度を、濃度cの粘度指数向上剤を使用して達成できることを理論的に予測した量(amount)よりも大きい量、増大させる目的で、自動車燃料組成物に粘度指数向上剤を濃度cで使用する方法を提供する。また前記式は、理論的に達成できる粘度増大を計算するのに使用できる。本発明を用いると、組成物の粘度は、同じ濃度cの粘度指数向上剤を用いて組成物の粘度を増大することを理論的に予測した量に対し、例えば150%以上、或いは場合によっては200、300、400又は450%以上増大できる。
【0109】
自動車燃料組成物の最大粘度は、関連する地域及び/又は商用規格により制限されることが多いかも知れない。例えばヨーロッパディーゼル燃料規格EN 590は最大VK 40を4.5mm/sと規定しているが、スウェーデン・クラス1ディーゼル燃料ではVK 40は4.0mm/s以下でなければならない。しかし、通常の商用自動車ディーゼル燃料は現在、これらの規格よりも遥かに低い粘度、例えば2〜3mm/s程度まで製造されている。したがって、本発明は、他の標準的規格の自動車燃料組成物を導入すべきか、又は導入を意図したエンジンの加速性能が向上するように該組成物の粘度を増大するため、粘度指数向上剤を用いて、このような燃料組成物を処理する方法を含む。
【0110】
本発明に関連して、燃料組成物に粘度指数向上剤を“使用すること”とは、該組成物に粘度指数向上剤を、通常、1種以上の燃料成分(通常、ディーゼルベース燃料)及び任意に1種以上の燃料添加剤とのブレンド(即ち、物理的混合物)として、該組成物に導入することを意味する。粘度指数向上剤は、燃料組成物を、該組成物で操作(run)すべきエンジンに導入する前に、導入することが都合良い。その代わりに又は更に、前記使用することは、通常、粘度指数向上剤含有燃料組成物をエンジンの燃焼室に導入することにより、エンジンを該燃料組成物で操作することを含んでよい。
【0111】
本発明に従って、粘度指数向上剤を“使用すること”とは、前述した目的の1つ以上を達成するため、特に燃料組成物を導入すべきか、又は導入を意図した内燃(通常、ディーゼル)機関の加速性能を向上するため、粘度指数向上剤を燃料組成物に使用するようにとの指令と一緒に、このような添加剤を供給することを包含してもよい。
【0112】
粘度指数向上剤自体は、燃料添加剤、特にディーゼル燃料添加剤として使用するのに好適である、及び/又は使用を意図した配合物の一成分として供給してよい。この場合、粘度指数向上剤は、自動車燃料組成物の粘度に対し該添加剤の効果を与える目的で、及び/又は燃料組成物を導入すべきか、又は導入を意図したエンジンの加速性能に対し該添加剤の効果を与える目的で、このような配合物に含有してよい。
【0113】
したがって、粘度指数向上剤は、他の1種以上の燃料添加剤と一緒に添加剤の配合物又はパッケージに取込んでよい。粘度指数向上剤は、例えば洗浄剤、腐食防止剤、エステル、ポリα−オレフィン、長鎖有機酸、アミン又はアミド活性中心を有する成分、及びそれらの混合物から選ばれた1種以上の燃料添加剤と一緒に添加剤配合物に配合してよい。特に粘度指数向上剤は、通常、少なくとも洗浄剤を含有する1種以上のいわゆる性能添加剤と配合してよい。
【0114】
粘度指数向上剤は、例えば製油所で燃料成分又は組成物に直接、添加してよい。粘度指数向上剤は、好適な燃料成分に予備希釈し、引続き、自動車燃料組成物全体の一部を形成してよい。
【0115】
本発明では前述の目的で自動車燃料組成物に2種以上の粘度指数向上剤を使用してよい。
【0116】
本発明の第五の局面では、自動車ベース燃料を粘度指数向上剤とブレンドする工程を含む自動車燃料組成物の製造方法が提供される。ブレンドは、本発明の第一〜第四局面に関連して前述した目的の1つ以上の目的で、特に、得られる燃料組成物の粘度に関連した目的及び/又は燃料組成物を導入すべきか、又は導入を意図した内燃機関の加速性能に対する粘度指数向上剤の効果に関連した目的で行ってよい。燃料組成物は、特にディーゼル燃料組成物であってよい。
【0117】
粘度指数向上剤は、例えば製油所で、組成物の他の成分、特にベース燃料とブレンドしてよい。或いは粘度指数向上剤は、製油所の下流で自動車燃料組成物に添加してよい。粘度指数向上剤は、1種以上の他の添加剤を含有する添加剤パッケージの一部として添加してよい。
【0118】
本発明の第六の局面は、本発明の第一〜第五局面のいずれか1つの局面に従って製造した燃料組成物を内燃機関の燃焼室に導入する工程を含む内燃機関及び/又はこのような内燃機関(エンジン)を動力とする自動車の操作方法を提供する。また燃料組成物は、本発明の第一〜第四局面に関連して前述した目的の1つ以上の目的で導入することが好ましい。したがって、エンジンは加速性能を向上する目的で操作することが好ましい。
【0119】
またエンジンは、特にディーゼルエンジンであってよい。ディーゼルエンジンはターボ過給式エンジンであってよい。ディーゼルエンジンは、直接噴射型、例えばロータリーポンプ、インラインポンプ、ユニットポンプ、電子ユニット噴射器又は共通レール型のもの、或いは間接噴射型であってもよい。ディーゼルエンジンは、重質又は軽質ディーゼルエンジンであってよい。ディーゼルエンジンは、特に電子ユニット直接噴射型エンジンであってよい。
【0120】
本明細書の説明及び特許請求の範囲を通じて語句“含む(又は含有する)(comprise)”及び“含有する(又は有する)(contain)”及び語句の変化、例えば“含むこと(comprising)”及び“含む(comprise)”は、“限定されるものではないが、‥‥を含むこと(including but not limited to)”を意味し、他の部分(moieties)、添加剤、成分、整数(integer)又は工程を除外しない。
【0121】
本明細書の説明及び特許請求の範囲を通じて、特に状況(context)が要求しない限り、単数は複数を包含する。特に不定冠詞(the indefinite article)を用いる場合、特に状況が要求しない限り、単数は勿論、複数も考慮すると理解すべきである。
本発明の各局面の好ましい特徴は、他の局面のいずれかと関連して説明したとおりであってよい。
【0122】
本発明の他の特徴は、以下の実施例から明らかとなろう。一般的に言えば、本発明は明細書(添付の特許請求の範囲及び図面を含む)に開示した複数の特徴のいずれかの新規な特徴、又はいずれかの新規な組み合わせに拡がる。こうして、本発明の特定の特徴、実施態様又は実施例と関連して説明した特徴、整数、特性、化合物、化学部分又は基は、これらと両立する限り、ここに記載したいずれの他の局面、実施態様又は実施例にも利用可能であると理解すべきである。
【0123】
更に特に言及しない限り、ここに開示したいずれの特徴も同じ又は類似の目的に役立つ代りの特徴で置き換えてよい。
以下の実施例は、本発明により製造した燃料組成物の特性を説明し、このような組成物のターボ過給式ディーゼルエンジンの性能に対する効果を評価する。
【実施例】
【0124】
実施例1〜5については、ディーゼル燃料組成物に3種の異なる粘度指数向上剤を取込んだ。これらの添加剤及びその特性を下記表1に示す。密度及び粘度値は、メーカーのデータシートから取った。
【0125】
【表1】

【0126】
SVTM 206は、スチレン−イソプレンモノマー系固体ブロック共重合体(SVTM 200)15重量%をポリα−オレフィンPAO6に予め希釈したもの(pre−dilution)である。SVTM 261は、同様な重合体(SVTM 260)15重量%を高度精製鉱油に予め希釈したものである。両添加剤とも潤滑剤に使用されている。
【0127】
KratonTM G1650Eはスチレン−エチレン−ブチレンブロック共重合体である。この重合体は40℃において固体で、現在、例えば化粧品及びローソクにゲルで使用されている。
【0128】
3種の添加剤はいずれも広く市販されている。
これらの添加剤を標準的な市販のディーゼル試験燃料(Shellから)に取り込んで、得られたブレンドの特性に対する効果を評価した。使用した3種の試験燃料F1〜F3の特性を下記表2に示す。いずれも硫黄を含有しない石油誘導燃料である。
【0129】
【表2】

【0130】
粘度指数向上剤を添加する前に、これら3種の燃料をフィッシャー・トロプシュ誘導ガス油(Shell Bintuluから)10容量%及び市販の脂肪酸メチルエステル(ADMから)5容量%と、DIN EN 14214に従ってブレンドした。得られたブレンドの特性を下記表3に示す。
【0131】
【表3】

【0132】
実施例1:粘度に対する粘度指数向上剤の影響
まず、これら添加剤のディーゼル燃料組成物の粘度増大能力を試験した。各添加剤はF1燃料ブレンドに対する濃度範囲で添加した。標準試験法EN ISO 3104を用いて40℃での動粘度として測定した結果を下記表4に示す。
【0133】
【表4】

【0134】
3種の添加剤は、いずれも比較的低濃度でも燃料粘度を著しく増大させるが判る。比較により、潤滑基油HNR 40D(ナフテン性基油、Shell Harburg製油所から;従来、レーシング用ディーゼル燃料の粘度及び密度を増大するために使用されているもので、VK 40は8.007mm/s、15℃での密度は879kg/mは、F1ブレンドに6重量%の濃度で取込むと、VK 40を僅か0.14mm/s増大させることが見出された。
【0135】
2種のSVTM添加剤をF2及びF3燃料ブレンド中で試験した。これら粘度指数向上剤のVK 40(EN ISO 3104)に対する効果を、それぞれF2及びF3ブレンドについて下記表5及び6に示す。
【0136】
これらのSVTM添加剤は、予め希釈された粘度指数向上性重合体を含有するので、これら添加剤を含む混合物の活性構成成分濃度は、実際には著しく低いことに注目すべきである。例えばSVTM添加剤を0.5重量%含む燃料組成物は、活性重合体を実際には僅か0.075重量%しか含まないし、またSVTM添加剤を1.0重量%含む燃料組成物は、活性重合体を実際には僅か0.150重量%しか含まない。
【0137】
【表5】

【0138】
【表6】


同様に、2種の粘度指数向上剤は非常に低い活性構成成分濃度でも粘度を著しく増大させることが判る。
【0139】
実施例2;密度に対する粘度指数向上剤の効果
燃料密度の低下は一般にエンジン性能に有害とみなされると言われているので、ディーゼル燃料成分に使用される添加剤は、確実に全体の密度を望ましくない程度まで低下させないことも重要である。更に、添加剤は理想的には燃料組成物を関連する規格外に取り出せる程度まで密度を増大させてはならない。
【0140】
実施例1で述べたF1ディーゼル燃料ブレンド及び3種の添加剤を含む混合物を製造した。次いで、これらブレンドの15℃での密度を標準試験法EN ISO 3675に従って測定した。結果を下記表7に示す。
【0141】
【表7】


F2及びF3ディーゼル燃料ブレントについて、密度に対するSVTM添加剤の効果も調べた。結果をそれぞれ表8、表9に示す。
【0142】
【表8】

【0143】
【表9】

【0144】
表7〜9から2種のSVTM添加剤は、2重量%以下の処理割合(rate)では多少の中和効果を示すのに対し、KratonTM添加剤は1重量%の濃度で僅かな密度増大を示すことが判る。
【0145】
実施例3:常温流れ特性に対する粘度指数向上剤の効果
燃料の常温流れ特性に対する2種のSVTM粘度指数向上剤の効果を多くの試験で調べた。
F1ディーゼル燃料ブレンド及び実施例1で述べたSVTM添加剤を含む燃料サンプルを製造した。これらブレンドの低温フィルター目詰まり点(CFPP)を標準試験法EN 116で測定した。結果を下記表10に示す。
【0146】
【表10】

【0147】
両添加剤は3種の試験燃料のCFPPに対し、小乃至中程度の影響を与えることが見出された。
別の試験では、いずれの添加剤も2重量%の濃度で試験燃料の曇り点(EN 23015)に対し顕著な影響を与えないことが見出された。
同様な結果は、KratonTM粘度指数向上剤に予想される。
【0148】
実施例4:蒸留特性に対する粘度指数向上剤の効果
ディーゼル燃料成分は地域及び/又は消費者規格の順守を要求されることが多い。例えばヨーロッパディーゼル燃料規格EN 590では自動車ディーゼル燃料のT95(燃料の95%が蒸留される温度)は、360℃以下でなければならない。また高沸点燃料成分はエンジンオイル中に容易に蓄積して、油量を増大させ、オーバーフローの問題を生じる可能性があるので、高沸点燃料成分を高濃度で含むことは望ましくない可能性がある。したがって、いずれの増粘性成分も、該成分が添加される燃料組成物よりも沸点範囲が高いようであるが、増粘性成分は、組成物全体のT95沸点に対する影響をできるだけ少なくすることが望ましい。
【0149】
この実験では、各種ディーゼル燃料/添加剤ブレンドのT95沸点を標準試験法EN ISO 3405で測定した。使用した添加剤は、前記表1に示した通りであり、F1ブレンドに4重量%未満の濃度で取込んだ。結果を下記表11に示す。
【0150】

【表11】


2種のSVTM添加剤をF2及びF3燃料ブレンド中で試験した。結果を下記表12に示す。
【0151】
【表12】

【0152】
本発明で提案した濃度では3種の添加剤のいずれも燃料組成物全体のT95沸点に対し、不当に有害な効果がないことが判る。他の増粘性成分、例えばHNR 40Dのような鉱物基油は濃度による沸点の変化割合を更に低くできるかも知れないが、このような成分は操作可能の(workable)粘度増大を達成するには、遙かに高いレベルで含有させる必要があり(例えばVK 40で0.2mm/sの粘度増大を達成するのに、KratonTM G1650Eでは僅か約0.2重量%でよいのに対し、実施例の粘度指数向上剤では約10重量%必要)、その結果、粘度指数向上剤の蒸留特性への影響は、更に慣用の増粘性成分よりも実際に低いかも知れない。例えば0.2重量%では、KratonTMはF1試験燃料ブレンドではT95沸点を1℃未満上昇させる。SVTM添加剤は、同様な処理割合で、3℃のオーダー上昇させる。この高い上昇は、これらの添加剤に希釈剤として使用した比較的高沸点の鉱油によるものである。
【0153】
したがって、粘度指数向上剤は、本発明で提案した濃度ではディーゼル燃料組成物に不当に有害な副作用を生じるとは思われない。同時に実施例1に示したように、これら添加剤の粘度に対する影響は、他の既知の増粘性成分よりも遙かに良好である。
【0154】
実施例5:エンジン性能(I)に対する粘度指数向上剤の効果
ディーゼル燃料組成物のディーゼル自動車エンジンの加速性能に対する効果を評価するため、粘度指数向上剤を含む本発明のディーゼル燃料組成物をディーゼル動力試験自動車に使用した。
【0155】
比較用として使用したベース燃料F4は、市販の石油誘導主グレード冬季グレードディーゼル燃料(Shell Harburg製油所から)である。この燃料は脂肪酸メチルエステル、洗浄剤及びフィッシャー・トロプシュ誘導燃料成分を含有しない。この燃料はヨーロッパディーゼル燃料規格EN 590に適合し、硫黄を10mg/kg未満含有する。
【0156】
本発明の燃料組成物F1はF4と実施例1〜4で使用したKratonTM G1650E 1重量%とのブレンドである。
ベース燃料F4の特性を下記表13に示す。F4/KratonTMブレンド(F1)のVK 40及び密度も同表に示す。
【0157】

【表13】

【0158】
表13は、粘度指数向上剤を1重量%の使用濃度で含有すると、VK 40を1.9cSt(mm/s)を超えて増大させることを示している。
【0159】
以下の実験ではターボ過給式ディーゼルエンジンのエンジン速度範囲に亘る加速性能に対する燃料粘度の増大効果を調べ、本発明が特に低エンジン速度での加速性能の向上にどのようにして使用できたかを示す。
【0160】
使用した試験自動車は、BoschTMユニット噴射システム付きVolkswagenTM PassatTM 2.0 Tdi(2006年登録)である。出力等級は4200rpmで125kW、圧縮比は18.5である。
【0161】
この自動車の性能を台車動力計により丸一日(on a single day)、連続的に測定した。ターボ過給器下流の圧力センサーを用いてターボ装入空気圧を測定し、一方、台車動力計からエンジン速度を記入した。1500、2500及び3500rpmで定速出力を測定した。各試験について、第四ギアでフルスロットル加速を7回繰り返し、定速度出力測定値を5秒間に亘って平均化した。
【0162】
燃料の試験順序はF4−FI−F4−FI−F4−FI−F4−FI−F4である。
下記表14〜16にそれぞれ1500、2500、3500rpmでのエンジン出力、トルク及び増幅圧の測定値を示す。
【0163】
【表14】

【0164】
【表15】

【0165】
【表16】

【0166】
出力データはいずれも周囲条件を理由とするため補正した。変数はいずれも5秒間の測定値に亘って平均化した。
表17に、試験した3つのエンジン速度における2種の試験燃料間のエンジン出力、トルク及び増幅圧力の平均差をまとめた。
【0167】
【表17】

【0168】
これらの結果は、本発明の燃料組成物では、1500rpmで明確に0.79%の出力利得のあることを示している。しかし、この差は更に高いエンジン速度ではもはや明確ではない。
下記表18は、両試験燃料について、第四ギアで加速中のエンジン速度によるエンジン出力の変化を示す。
【0169】
【表18】

【0170】
これらのデータは、本発明の燃料F1における粘度指数向上剤の存在が約1900rpmで1%の最大出力利得を与えることを示す。この場合、極めて低いエンジン速度(約1400rpm未満)では明確なエンジン利得はなく、また約3500rpmを超えても何らの利得も観察されない。しかし、広範囲のエンジン速度に亘って出力利得を拡大するため、粘度指数向上剤の性質及び濃度を合わせることは可能であると考えられる。例えば高圧(例えば3000バールまで)で使用するように設計した粘度指数向上剤は、例えば下記実施例6に示すように、特に最適濃度又はその付近の濃度では高エンジン速度で経験する高圧条件下でも性能の増進に使用できる。
【0171】
したがって、この実験から、自動車燃料組成物で特に低エンジン速度で操作するエンジンの加速性能を向上するために、本発明の燃料組成物には粘度指数向上剤を含有できることが確認される。これらの試験試験に使用される自動車については、例えばエンジン出力、エンジントルク及び増幅圧力の増大は、本発明の燃料組成物を用いた場合、粘度指数向上剤を含まない他の燃料組成物と比べると、約1400〜1900rpmのエンジン速度で明らかである。
【0172】
実施例6:エンジン性能(II)に対する粘度指数向上剤の効果
本発明に従って粘度指数向上剤KratonTM G1657(Kratonから)の濃度を変化させて4種の試験燃料を用いた他は実施例5を繰り返した。この添加剤は、高圧条件下で使用するのに一層好適であると考えられる。
【0173】
試験燃料F5〜F8の構成、密度(DIN EN ISO 3675)及び粘度(DIN EN ISO 3104)を下記表19に示す。使用したディーゼルベース燃料は、硫黄を10ppmw未満含有し、洗浄剤、脂肪酸メチルエステル又はフィッシャー・トロプシュ誘導燃料成分を含まない標準的な市販のディーゼルベース燃料(Shellから)である。
【0174】
【表19】

【0175】
試験自動車は実施例5で用いたのと同じである。自動車牽引力(tractive effort)(VTE)を3つの異なるエンジン速度で行い、試験燃料毎に2つの試験日数(two test days)毎に2回繰り返した。これらの試験は、ワイドオープンスロットル条件下で行った。加速時間は、第四ギアにおいて1200〜4500rpmで道路荷重条件下に測定した。
【0176】
VTEの結果を、試験日数:1日及び2日についてそれぞれ下記表20及び21に示し、また加速時間測定値を表22に示す。表23にこれら4種の試験燃料間の試験結果の差をまとめた。
【0177】
【表20】

【0178】
【表21】

【0179】
【表22】

【0180】
【表23】

【0181】
これらのデータから、粘度指数向上剤含有燃料組成物について、3つの試験したエンジン速度範囲のいずれでも出力利得が確認される。本発明の添加剤含有組成物について加速時間も短縮される。
【0182】
性能上の利得は添加剤の濃度に依存することが判る。しかし、高濃度の添加剤は必ずしも性能、特に高エンジン速度での性能を向上するのではなく、したがって、いかなる所定の粘度指数向上剤についての最適濃度もエンジン性能に対する効果を最大化するのに使用可能である。
【0183】
本実験では、例えば燃料F6(添加剤0.2重量%)及びF7(添加剤0.4重量%)は、全ての試験条件下で特に良好な性能を示すが、F8(添加剤0.8重量%)は、低エンジン速度範囲を除いて、F6及びF7よりも性能上の利得が少ない。したがって、この特定の粘度指数向上剤ではエンジンの速度範囲に亘って性能向上を達成するのに好適な処理割合は0.15〜0.5重量%の範囲かも知れないが、低エンジン速度での性能上の利得が目標の範囲ならば、更に高い添加剤濃度が適切かも知れない。
【0184】
本発明により製造した燃料配合物を用いた追加実験から、粘度指数向上剤は、燃料粘度のいかなる所定の増大に対しても、同じ粘度増大を達成するため、更に慣用の増粘性成分(例えば高粘度燃料成分)を用いて得られる場合よりも大きな性能上の利得を得ることが示された。これは、粘度指数向上剤が噴射条件下で高い粘度増大を与えるからで、実施例7で更に説明した。
【0185】
実施例7:噴射条件下での粘度増大
粘度指数向上剤の噴射条件下での粘度増大能力を、燃料噴射中に予測できる高圧、高温下での燃料粘度の測定により試験した。これらの実験で使用した燃料組成物を表24に示す。表中、ディーゼルはShellから入手でき、脂肪酸メチルエステルを含まず、芳香族溶剤PLUTOsolTMはOctel Deutschland GmbHから入手でき、ナフテン系基油HNR40Dは前述のとおりであり、GTLはShell Bintuluから得られるフィッシャー・トロプシュ誘導ガス油であり、また“SV200”は前述のとおりである。
【0186】
これらの燃料を、表25から判るように、類似の密度になるような方法でブレンドした。同表から、標準状態(40℃、1バール)での粘度増大は燃料F10では燃料9に比べて大きく、燃料F11では燃料9に比べて大きいことが判る。換言すれば、0.2%mの粘度指数向上剤の添加で生じた粘度増大は、燃料を更に慣用の成分と再配合して生じた粘度増大よりも小さかった。部分負荷条件を表し得る80℃、1000バールでは、F9と比べたF10及びF11の粘度増大は、ほぼ同等であった。更に完全な負荷条件を表す150℃、2000バールでは、F9と比べたF11の粘度増大は、F9と比べたF10の粘度増大よりも大きかった。これは、完全負荷噴射条件でのディーゼル粘度は、粘度指数向上剤により標準測定条件での粘度増大から予測できる量よりも遙かに多量増大できることを示している。したがって、粘度指数向上剤は、同じ標準的粘度増大について、燃料を更に慣用の成分と再配合する場合よりも大きな性能上の利得を与えることが予測される。
【0187】
【表24】

【0188】

【表25】

【0189】
前述の燃料を実施例5と同じ試験法に従ってトヨタアべンシス2.0D−Catで試験した。結果を表26に示す、2つの低エンジン速度で、粘度指数向上剤含有燃料F11は、高粘度用に、更に慣用の成分と配合した燃料よりも大きな利得を与えた。粘度指数向上剤を用いた標準(nomal)状態での粘度増大は僅か0.41mm/sであったとしても、またF10による標準状態での粘度増大は0.99mm/sであったが、F11による加速性の向上はF10による加速性の向上の75%であり、粘度指数向上剤の使用による性能向上は標準状態での粘度増大から予測できる性能向上よりも大きいことを示している。
【0190】
【表26】

【先行技術文献】
【特許文献】
【0191】
【特許文献1】WO−A−2005/054411
【特許文献2】WO−A−01/48120
【特許文献3】GB−B−2077289
【特許文献4】EP−A−0147873
【特許文献5】EP−A−0583836
【特許文献6】US−A−4125566
【特許文献7】US−A−4478955
【特許文献8】EP−A−0583836
【特許文献9】GB−A−960493
【特許文献10】EP−A−0147240
【特許文献11】EP−A−0482253
【特許文献12】EP−A−0613938
【特許文献13】EP−A−0557516
【特許文献14】WO−A−98/42808
【非特許文献】
【0192】
【非特許文献1】Hirshfelder等,“Molecular Theory of Gases and Liquids”,第1版,Wiley(ISBN 0−471−40065−3)
【非特許文献2】Maples(2000),“Petroleum Refinery Process Economics”,第2版,Pennwell Books(ISBN 0−87814−779−9
【非特許文献3】第5回Synfuels Worldwide Symposium,Washington DC、1985年11月での論文:van der Burgt等,“The Shell Middle Distillate Synthesis Process(シェル中間蒸留物合成法)”(Shell International Petroleum Company Ltd.,London

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車燃料組成物を導入すべきか、又は導入を意図した内燃機関、或いはこのような内燃機関を動力とする自動車の加速性能を向上する目的で、自動車燃料組成物に粘度指数向上剤を使用する方法。
【請求項2】
(i)燃料成分又は該燃料成分を含有する自動車燃料組成物を導入すべきか、又は導入を意図した内燃機関、或いはこのような内燃機関を動力とする自動車の加速性能を向上する目的で、及び/又は(ii)燃料成分又は該燃料成分を含有する自動車燃料組成物を導入すべきか、又は導入を意図した内燃機関、或いはこのような内燃機関を動力とする自動車の加速性能に対し、該燃料成分による有害な影響を低減する目的で、燃料成分に粘度指数向上剤を使用する方法。
【請求項3】
自動車燃料組成物に濃度cの粘度指数向上剤を添加する工程であって、該濃度cは、該組成物に対する目標最小粘度X又はそれ以上を達成するため、該組成物に添加する必要があると理論的に予測した粘度指数向上剤の最小濃度c’よりも低い該工程を含む、目標最小粘度Xを達成するため、自動車燃料組成物の粘度を増大する方法。
【請求項4】
前記燃料組成物がディーゼル燃料組成物である請求項1〜3のいずれか1項に記載の使用方法又は粘度増大方法。
【請求項5】
前記粘度指数向上剤が、エチレン、プロピレン、ブチレン、ブタジエン、イソプレン及びスチレンモノマーから選ばれた1種以上のモノマーブロックを有するブロック共重合体を含む請求項1〜4のいずれか1項に記載の使用方法又は粘度増大方法。
【請求項6】
前記共重合体がスチレン系である請求項5に記載の使用方法又は粘度増大方法。
【請求項7】
前記粘度指数向上剤が溶剤又は燃料成分に予備溶解される請求項1〜6のいずれか1項に記載の使用方法又は粘度増大方法。
【請求項8】
前記燃料組成物中の粘度指数向上剤の濃度が、0.001〜0.5重量%である請求項1〜7のいずれか1項に記載の使用方法又は粘度増大方法。
【請求項9】
前記燃料組成物中の粘度指数向上剤の濃度が、0.05〜0.25重量%である請求項8に記載の使用方法又は粘度増大方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法により製造した燃料組成物を内燃機関の燃焼室に導入する工程を含む、内燃機関及び/又はこのような内燃機関を動力とする自動車の操作方法。



【公表番号】特表2011−515550(P2011−515550A)
【公表日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−501195(P2011−501195)
【出願日】平成21年3月24日(2009.3.24)
【国際出願番号】PCT/EP2009/053416
【国際公開番号】WO2009/118302
【国際公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【出願人】(390023685)シエル・インターナシヨネイル・リサーチ・マーチヤツピイ・ベー・ウイ (411)
【氏名又は名称原語表記】SHELL INTERNATIONALE RESEARCH MAATSCHAPPIJ BESLOTEN VENNOOTSHAP
【Fターム(参考)】