説明

自動車用または産業資材用の植物由来ニードルパンチ不織布

【課題】 PLA短繊維を含みながら、耐摩耗性および成型性を改善した地球環境に優しいカーペットを提供すること。
【解決手段】 植物由来成分を一部使用した原料からなるPTT短繊維(PTT短繊維)及びPLA短繊維(PLA短繊維)を全重量に対しそれぞれ5重量%以上含み、全体で植物由来成分を全重量に対して7%以上含むことを特徴とする自動車用及び産業資材用ニードルパンチ不織布。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用及び産業資材用の植物由来ニードルパンチ不織布に係り、より詳細には、植物由来成分を含む原料からなるポリトリメチレンテレフタレート短繊維と、植物由来のポリ乳酸短繊維とを含む、ニードルパンチ不織布に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、生産性と加工性および製造コストに優れたニードルパンチ不織布を使用したカーペットが、自動車用としてカーマットをはじめトランクマット、ドアトリムなどに使用されている。また、住宅用としては電気カーペットなどに使用されている。このように、自動車用及び産業資材用としてニードルパンチ不織布が広く使用されているが、従来はその大半が石油系合成繊維を原料として製造されていた。
【0003】
ところが、近年、石油資源の枯渇や温暖化ガス(二酸化炭素)の増加など、資源環境問題が深刻化しており、環境負荷低減の対策が必要となっている。すなわち、石油資源への依存を低減し、温暖化ガスの増加を防止するため、植物由来の原料で製造された商品の普及を推進していくことが求められている。植物由来原料は、燃やしても、元々空気中にあったCOを再び空気中に戻すだけである、いわゆるカーボンニュートラルであるから、地球温暖化の影響はない。このように、植物由来原料の利用・活用を図ることは、石油由来のエネルギーや製品の代替につながり、化石資源由来のCO2の発生を抑制できることから、地球温暖化の防止の観点からその推進が重要となっている。
【0004】
植物由来の繊維として、従来、ポリ乳酸短繊維(PLA短繊維)が知られ、地球環境に優しい素材として広く使用されようとしている(特許文献1参照)。このポリ乳酸短繊維は農産物を原料とするため資源的に有利であり、また生分解性にも優れている。
【0005】
一方、ポリトリメチレンテレフタレート短繊維(PTT短繊維)も、新たな素材として着目されている(特許文献2参照)。PTT短繊維は、テレフタル酸と1.3プロパンジオール(PDC)とのエステル単位を質量比で85%以上含む長鎖状合成高分子からなる繊維である。PTTはPETに比べて分子構造が緻密で滑らかなためソフトな肌触りであり、かつ、延伸性、復元性、柔軟性、形状安定性、かさ高性、染色性、防汚性に優れている。このため、PTTから作られた製品は優れた耐久性を有する。PTTの原料たるテレフタル酸とプロパンジオールは本来石油由来であるが、近年のバイオテクノロジーの発達によって、プロパンジオールについてはこれをトウモロコシから製造することが可能となった。
【特許文献1】特開2005−245706号公報
【特許文献2】特開2001−288660号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような最近の環境問題を背景として、特許文献1のようにポリ乳酸短繊維をニードルパンチ不織布に使用することが提案されている。ところが、カーペット用途のニードルパンチ不織布では耐摩耗性が必須要件であり、さらに自動車用及び産業資材用では一般に耐熱性と成型性も不可欠である。ポリ乳酸短繊維はこれら諸特性に難点があり、用途によっては、単独では勿論のこと、天然繊維や石油系合成繊維などと混合してニードルパンチ不織布用基材として使用する場合でも、混合割合を高くすることができなかった。
【0007】
本発明の目的は、ポリ乳酸短繊維を含みながら、植物由来成分を一部使用した原料からなるPTT短繊維も併用することで、耐摩耗性、耐熱性および成型性を改善し、しかも植物由来の原料比率を上げることで石油由来のエネルギーや製品の消費を減らし、環境負荷を低減する地球環境に優しいニードルパンチ不織布を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記問題点を解決するために、請求項1のニードルパンチ不織布の発明は、植物由来成分を少なくとも一部使用した原料からなるポリトリメチレンテレフタレート短繊維(PTT短繊維)と、ポリ乳酸短繊維(PLA短繊維)を、全重量に対しそれぞれ5重量%以上含み、全体として植物由来成分を全重量に対して7%以上含むことを特徴とする。
【0009】
PTT短繊維のうち、植物由来のプロパンジオールの重量%は40%であるから、PTT短繊維とPLA短繊維を各5重量%ずつ使用した場合、植物由来の重量%は全体の7重量%となる。
【0010】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、ポリトリメチレンテレフタレート短繊維にポリ乳酸短繊維を含むバインダー繊維を混合し、加熱成形したことを特徴とする。
【0011】
PLA短繊維は脆弱であるため単独では耐光性、耐摩耗性、成型性等の性能を満足させることが困難であるが、PTT短繊維を主素材とし、PLA短繊維をバインダー繊維とすることにより耐光性、耐摩耗性、成型性、寸法安定性、剛性、強伸度等の性能を満足したニードルパンチ不織布を得ることができる。
【0012】
請求項3の発明は、請求項1または2の発明において、意匠層、接着層および成型・保形層を有し、前記接着層にポリ乳酸、ポリエチレン(PE)またはポリプロピレン(PP)を主成分とする繊維状、パウダー状またはフィルム状のバインダーを使用したことを特徴とする。
【0013】
請求項4の発明は、自動車内装材用のニードルパンチ不織布とするため、請求項3の発明において、前記接着層100重量%のうち、ポリ乳酸を90重量%以下とし、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)またはポリエチレンテレフタレート(PET)を10重量%以上としたことを特徴とする。これにより、80〜90℃の耐熱性を満足することができる。接合層に使用する樹脂は、繊維状、パウダー状またはフィルム状のいずれでもよい。
【0014】
ポリ乳酸は透明性と弾力性に優れ、バインダー繊維として好適に使用可能である。このポリ乳酸はとうもろこしなどの植物澱粉を原料として、乳酸発酵による乳酸の重合により生成される(でんぷん→グルコース→乳酸→PLA)。ポリ乳酸の融点は160℃であり、160℃を越えると溶融しはじめる。
【0015】
PLA短繊維およびPTT短繊維に、必要に応じて、天然繊維、石油系合成繊維、半合成繊維、再生繊維などを所定重量%混合してもよい。
【0016】
天然繊維としては、例えば、羊毛、獣毛のような動物繊維や、絹、木綿、麻、木材パルプ等の植物繊維を挙げることができる。
【0017】
石油系合成繊維としては、例えば、ナイロン繊維、PET(ポリエチレンテレフタレート)繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維、ビニロン繊維、ポリエチレン繊維等を挙げることができる。
【0018】
半合成繊維としては、アセテート等がある。又、再生繊維としては、レーヨン、ポリノジツク、リヨセル、テンセルなどがある。
【0019】
これら繊維の単糸繊度の範囲は、1〜60dtexが好ましい。1dtex以下では張り腰がなくなるため好ましくない。60dtexを超えると張り腰が強すぎてやはり好ましくない。3〜15dtexがほどよい張り腰で好ましい。
【0020】
PLA短繊維およびPTT短繊維によりニードルパンチ用不織布基材を成型するには、前述した天然繊維、石油系合成繊維、半合成繊維、再生繊維などに、PLA短繊維およびPTT短繊維を少なくとも各5重量%以上混合し、160°以上220°未満に加熱してPLA短繊維を全溶融する。PLA短繊維の融点は160°であるが、PTT短繊維の融点は220°〜230°である。このため、160°以上220°未満に加熱すると、PLA短繊維のみが全溶融し、このPLA短繊維がバインダーとなって、PTT短繊維同士、PLA短繊維同士、PTT短繊維とPLA短繊維、および、PTT短繊維と天然繊維、石油系合成繊維、半合成繊維、再生繊維などを結合する。PLA短繊維自体は脆弱であるが、溶融することによって良好なバインダー機能を発揮する。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、PTT短繊維とPLA短繊維をそれぞれ5重量%以上含み、かつ、全体で7重量%以上の植物由来成分を含むようにしたニードルパンチ不織布であるから、PLA短繊維の弱点である耐摩耗性および成型性をPTT短繊維で改善し、かつ、7重量%以上の植物由来成分を使用することで、温暖化ガスの排出抑制に貢献する地球環境に優しいニードルパンチ不織布とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に本発明の実施形態を図に基づき説明する。図1は第1実施形態に係るニードルパンチ不織布1である。このニードルパンチ不織布1はPTT短繊維とPLA短繊維を混合してニードルパンチを施した後、加熱・成形したものである。PTT短繊維とPLA短繊維の混合割合は、例えばニードルパンチ不織布1の全重量に対して、PTT短繊維を60〜70重量%、PLA短繊維を40〜30重量%とする。
【0023】
図2のニードルパンチ不織布2は、PTT短繊維とPLA短繊維に対して、PET、PP、PE、ナイロンなどの石油由来の原料からなる繊維を混合し、加熱・成形したものである。PET、PP、PE、ナイロンなどの混合割合によって、ニードルパンチ不織布2の用途に適した特性を実現することができる。例えば、PTT短繊維とPLA短繊維を各30重量%、PET繊維を40重量%の比率で混合することにより、比較的硬いニードルパンチ不織布が得られる。このような硬いニードルパンチ不織布は、次に述べる図3のような複合層のニードルパンチ不織布における最下層の成型・保形層として好適である。
【0024】
図3のニードルパンチ不織布は、図1の不織布1を最下層の成型・保形層として利用したものである。意匠層3にはPTT短繊維90重量%に対しPLA短繊維を10重量%混合したものを使用する。PTT繊維はPET繊維に比べて分子構造が緻密で滑らかなためソフトな肌触りであり、かつ、延伸性、復元性、柔軟性、形状安定性、かさ高性、染色性、防汚性に優れている。このため、PTT短繊維は意匠層3として好適である。
【0025】
成型・保形層1と意匠層3との間に接着層4を介在させる。接着層4にはPLAを主体とするバインダー樹脂を使用する。バインダー樹脂の形態は、用途製法に応じて、短繊維状、パウダー状またはフィルム状の任意形態とすることができる。バインダー樹脂の成分配合割合は、用途を度外視して植物由来樹脂を可及的に多く使用することだけを考えれば100%PLAを使用することも考えられる。しかし、PLA100%では多くの用途で耐熱性を満足しない。例えば自動車の内装材用途としては80〜90℃の耐熱性が要求されるが、PLA100%ではこの耐熱性を満足しない。
【0026】
自動車内装材用のニードルパンチ不織布として図3のニードルパンチ不織布を使用する場合、接着層4の成分割合としては、好ましくはPLA90重量%以下に対し、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)またはポリエチレンテレフタレート(PET)を10重量%以上とする。なお、ポリエチレンテレフタレート(PET)に代えて、芯鞘構造をもった結晶性低融点ポリエチレンテレフタレート(PET)を使用してもよい。このような結晶性低融点ポリエチレンテレフタレート(PET)は、例えば、商品名「キャスベン(Casven)」の名称でユニチカ株式会社から入手可能である。
【0027】
PLAが90重量%を越えると、自動車内装材一般に要求される80〜90℃の耐熱性を到底満足しない。PLAは融点が170℃(ガラス転移点Tgは57℃)であるが、軟化曲線が比較的早くから(約50℃未満から)立ち上がってしまう。このため、PLAの使用量が90重量%よりも多いと、残りの重量%分を結晶性のPEや低融点PET等を如何なる割合で混合しても80〜90℃の耐熱性を満足することは困難である。結晶性のPE等は軟化曲線が比較的高温までフラットであり、少量の混合割合で耐熱性を効果的に向上させるのに役立つ。このため、80〜90℃の耐熱性を満足しつつPLAを可及的に多く使用するには、PLAと共にPE、PPまたは低融点PETを所定混合割合で使用するのがよい。
【0028】
成型・保形層1には図1の不織布1を利用するとよいが、この場合、不織布1は所定の硬さが必要であるから、好ましくはPTT短繊維60〜90重量%に対してPLA短繊維を10〜40重量%混合する。PLA短繊維を10重量%未満にすると、PTT繊維相互のバインダー機能が不十分になり、十分な成型・保形機能が得られない。
【0029】
図3の複合層ニードルパンチ不織布は、成型・保形層1に接着層4を重ねてニードルパンチ処理を施し、その後、意匠層を重ねて加熱・成型する。なお、図3の複合層ニードルパンチ不織布は三層で構成したが、用途に応じて成型・保形層1の下面にさらにフィルム等を貼付して四層ないし四層以上のニードルパンチ不織布としてもよい。なお、図3で接着層4を省略して成型・保形層1と意匠層3だけのニードルパンチ不織布としてもよい。の場合は成型・保形層1と意匠層3を重ねた状態でニードルパンチ処理を行い、その後、加熱・成型する。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明に係るニードルパンチ不織布は、自動車用または産業資材用として利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の第1実施形態に係るニードルパンチ不織布の断面図である。
【図2】本発明の第2実施形態に係るニードルパンチ不織布の断面図である。
【図3】本発明の第3実施形態に係るニードルパンチ不織布の断面図である。
【符号の説明】
【0032】
1 ニードルパンチ不織布
2 ニードルパンチ不織布
3 意匠層
4 接着層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物由来成分を含む原料からなるポリトリメチレンテレフタレート短繊維(PTT短繊維)と、ポリ乳酸短繊維(PLA短繊維)を、全重量に対しそれぞれ5重量%以上含み、全体として植物由来成分を全重量に対して7%以上含むことを特徴とする自動車用または産業資材用の植物由来ニードルパンチ不織布。
【請求項2】
ポリトリメチレンテレフタレート短繊維に、ポリ乳酸短繊維を含むバインダー繊維を混合し、加熱成形したことを特徴とする請求項1記載の植物由来ニードルパンチ不織布。
【請求項3】
表面側から順に意匠層、接着層および成型・保形層を少なくとも有し、請求項1または2の植物由来ニードルパンチ不織布を前記意匠層と成型・保形層に使用すると共に、前記接着層にポリ乳酸、ポリエチレン(PE)またはポリプロピレン(PP)を主成分とする繊維状、パウダー状またはフィルム状のバインダーを使用したことを特徴とする請求項1又は2に記載の植物由来ニードルパンチ不織布。
【請求項4】
前記接着層100重量%のうち、ポリ乳酸を90重量%以下とし、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)またはポリエチレンテレフタレート(PET)を10重量%以上としたことを特徴とする請求項3に記載の植物由来ニードルパンチ不織布。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−314913(P2007−314913A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−145756(P2006−145756)
【出願日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【出願人】(504240326)トーア紡マテリアル株式会社 (9)
【Fターム(参考)】