説明

自動車用ガラスアンテナ

【課題】狭い領域であっても設置可能であり、AM/FM帯で充分なアンテナ利得の得られる自動車用ガラスアンテナを提供する。
【解決手段】給電部5は、窓ガラス1の側方の周縁部に設けられ、アンテナ導体4は、給電部5から窓ガラス1の側方の周縁部に沿って下方に延伸する垂直エレメント6と、垂直エレメント6から窓ガラス1の下方の周縁部に沿って水平方向に延伸する水平エレメント7とを有し、かつ窓ガラス1を車両に固定するためのフランジに沿って形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のフロントガラスに設けられる自動車用ガラスアンテナに関し、特にAM/FM用のガラスアンテナに関する。
【背景技術】
【0002】
AM/FM用のガラスアンテナは、AM帯の受信に適したガラスアンテナの形状とするとアンテナ素子が大きくなり、波長の違うFM帯の受信感度が低下することがある。その課題を解決する目的で、AM/FM帯の双方で高い受信感度を有するAM/FM用のガラスアンテナが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平10−4308号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1に記載の発明は、自動車のサイドガラス用のガラスアンテナに関する発明であり、2本の並行するアンテナ素子がサイドガラスの全周にわたって形成され、サイドガラスの周縁からある一定の幅を必要とするアンテナ形状であった。一方、フロントガラスにガラスアンテナを設ける場合は、可視領域などの法規制や運転席からの見栄えなどの問題があるため、特許文献1のような周縁からある一定の幅を必要とするガラスアンテナを設置することは難しかった。
【0004】
本発明は、上記課題に鑑み、狭い領域であっても設置可能であり、AM/FM帯で充分なアンテナ利得の得られる自動車用ガラスアンテナを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の自動車用ガラスアンテナは、窓ガラスに設けられた給電部と、該給電部から延伸したアンテナ導体とを備えた自動車用ガラスアンテナにおいて、前記給電部は、前記窓ガラスの側方の周縁部に設けられ、前記アンテナ導体は、前記給電部から前記窓ガラスの側方の周縁部に沿って下方に延伸する垂直エレメントと、前記垂直エレメントから前記窓ガラスの下方の周縁部に沿って水平方向に延伸する水平エレメントとを有し、かつ前記窓ガラスを車両に固定するためのフランジに沿って形成されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、狭い領域であっても設置可能であり、AM/FM帯で充分なアンテナ利得の得られる自動車用ガラスアンテナを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明に係る実施の形態における自動車用ガラスアンテナについて、図1に基づき説明する。図1は、本実施の形態における窓ガラス1に設けられた自動車用ガラスアンテナの構成図である。
本実施の形態における窓ガラス1は、自動車用のフロントガラスであり、車体の前部の窓枠に固定される。図1は車内側から見た図で、左側のみを図示しており、窓ガラス1は、台形を有している。本実施の形態ではフロントガラスの例を示しているが、本発明においては、フロントガラスに限定されず、サイドガラス、リアガラス、その他車体に固定される窓であればよい。
【0008】
本実施の形態における自動車用ガラスアンテナは、窓ガラス1の左側周縁部の上下方向における中央付近に設けられた給電部5と給電部5から延伸するアンテナ導体4とから構成される。アンテナ導体4は、給電部5から下方に延伸する垂直エレメント6と、垂直エレメント6の先端から水平方向に延伸する水平エレメント7とからなる。
【0009】
給電部5は、不図示のAVケーブルにより受信装置と接続されている。AVケーブルの一端に電気的に接続するためのコネクタのオス型を接続し、コネクタのメス型を給電部5に実装する構成にすることによって、AVケーブルを給電部5に取り付けしやすくなる。AVケーブルの他端が受信信号を増幅するための増幅回路に接続され、受信装置まで増幅された信号が伝達される。なお、コネクタに増幅回路を内蔵してもよい。
給電部5の形状は、取り付けられるAVケーブルの先端形状又はコネクタ等の接続部材の形状(例えば、コネクタの実装面や接触端子の形状)に応じて定められる。例えば、正方形又は長方形等の方形状や多角形状の導電性を有するパターンにより形成されている。なお、円、楕円等の円状でもよい。
【0010】
図1に示すフランジ端部8は、窓ガラス1を車両に取り付けた際に、車体の窓枠であるフランジの端部が位置する線であり、フランジ端部5より外側は窓ガラス1とフランジとが重なっていることになる。アンテナ導体4は、フランジ端部8に沿うように形成されている。
【0011】
また、窓ガラス1の周縁に黒セラと称される暗色セラミックペーストの焼成体が形成されており、図1では窓ガラス1の端部2と黒セラの境界線3との間に形成されている。黒セラは窓ガラス1とフランジとの接着部を隠蔽し、接着剤の劣化や見栄えを改善する役割がある。この黒セラが設けられた領域にアンテナ導体4と給電部5とを形成することが、車外からの見栄えの点で好ましい。
【0012】
垂直エレメント6は、給電部5からフランジ端部8に沿って下方に延伸し、さらにフランジ端部8の左側下方の角部の曲率に沿って曲線を描きながら、水平方向に向いたところまで延伸している。垂直エレメント6の先端からは、窓ガラス1の左右方向における中央部に向かって水平方向に延伸する水平エレメント7が接続されている。また、水平エレメント7もフランジ端部8に沿って延伸している。
【0013】
本発明においては、アンテナ導体4の寸法は、自動車用ガラスアンテナに受信させたい所望の周波数の中心周波数における空気中の波長λを考慮して決定することが好ましい。本発明では、所望の第1の放送周波数帯と第1の放送周波数帯より帯域が高い所望の第2の放送周波数帯とがあり、第2の放送周波数帯の中心周波数における空気中の波長をλ02として、λg2=λ02・kに換算する。ガラス波長短縮率は、k=0.64とした。
本実施の形態における自動車用ガラスアンテナにおいては、アンテナ導体4の全長(a+b)が、0.2・λg2以上、0.34・λg2以下であることが、FM放送帯のアンテナ利得を向上させる点から好ましく、さらに好ましくは、0.25・λg2以上、0.29・λg2以下である。
【0014】
本実施の形態における自動車用ガラスアンテナが、第1の放送周波数帯をAM放送とし、第2の放送周波数帯をFM放送(76〜90MHz)として、これらの周波数帯を受信するためのものである場合、FM放送帯の中心周波数は83MHzである。
このとき、アンテナ導体4の全長(a+b)が、480mm以上、780mm以下であることが、FM放送帯のアンテナ利得を向上させる点から好ましく、さらに好ましくは、580mm以上、680mm以下である。
また、垂直エレメント6の長さaが、0.013・λg2以上、0.25・λg2以下であるであることが、FM放送帯のアンテナ利得を向上させる点から好ましく、さらに好ましくは、0.12・λg2以上、0.25・λg2以下である。
【0015】
本実施の形態における自動車用ガラスアンテナが、第1の放送周波数帯をAM放送とし、第2の放送周波数帯をFM放送として、これらの周波数帯を受信するためのものである場合には、垂直エレメント6の長さaが、30mm以上580mm以下であることがFM放送帯のアンテナ利得を向上させる点から好ましく、さらに好ましくは、280mm以上、580mm以下である。
また、フランジ端部8と垂直エレメント6との平均距離cは、2mm以上8mm以下であることが、AM放送帯及びFM放送帯のアンテナ利得を向上させる点から好ましく、さらに好ましくは、6mm以上8mm以下である。
また、アンテナ導体4の導体幅は、アンテナとしての機能を有する範囲内において形成されていればよく、本実施の形態では、0.2mm以上、8mm以下で形成されている。
【0016】
次に、本実施の形態における自動車用ガラスアンテナの製造方法について説明する。本実施の形態における車両用ガラスアンテナは、窓ガラスとなるガラス板の室内側に銀ペースト等の導電性金属を含有するペーストをスクリーン印刷等の方法により印刷し、その後焼成させることにより形成される。しかし、この形成方法に限定されることなく、銅線や銅箔等の導電性物質を直接又は樹脂シートに形成した後、窓ガラスの表面に接着剤等により貼着してもよい。窓ガラスが合わせガラスであれば、窓ガラスの内部にこれらを封入してもよい。
本実施の形態における車両用ガラスアンテナを形成された窓ガラスは、自動車等の車体に設けられた窓枠フランジに接着剤等で固定される。フランジは金属材料により形成されており、車両に対する窓ガラスの取り付け角度は、水平方向に対し、15〜90°、更には、30〜90°であることが好ましい。
【実施例】
【0017】
〔例1〕(アンテナ導体の全長)
自動車に取り付けられたフロントガラスを用い、図1を車内側から見たものとして自動車用ガラスアンテナを製作し、アンテナ利得の測定を行った。図1において、aは、垂直エレメント6の長さであり、bは、水平エレメント7の長さである。cは、フランジ端部8と垂直エレメント6との距離を示している。例1のガラスアンテナの具体的な構成としては、垂直エレメント6の長さa=420mmとして、垂直エレメント6の上方の端部に25mm×10mmの長方形状を有した給電部5を設け、フランジ端部8と垂直エレメント6との距離c=2mmとして固定して、水平エレメント7の長さcを変化させることで、アンテナ導体4の全長(a+b)を変化させてアンテナ利得を測定した。アンテナ導体の全長(a+b)は380〜780mmまで、100mm毎に変化させた。アンテナ導体の導体幅は3mmとした。
【0018】
具体的な測定方法は以下のとおりである。自動車に対して水平偏波である電波を放射し、周波数を76〜108MHzの範囲(日米のFM放送帯)で1MHz毎に周波数を変化させてアンテナ利得を測定した。電波の発信位置とアンテナ導体4との仰角は水平方向(地面と平行な面を仰角=0°、天頂方向を仰角=90°とする場合、仰角=0°の方向)とした。このときの上記の自動車用ガラスアンテナの誘起電圧(単位:dBμV)とダイポールアンテナの誘起電圧(単位:dBμV)を測定し、その差分に60dBμVを加えた値を、その条件のときのアンテナ利得とした。この測定を自動車が360°回転させる間に角度1°毎に実施し、面積平均を算出した。
【0019】
上記結果よりアンテナ導体の全長(a+b)毎に平均値を算出し、図2に示す。この図より、アンテナ導体4の全長が、480〜780mmにおいて、良好なアンテナ利得が得られることがわかる。さらに、580〜680mmが良い結果となっている。
また、FM放送帯の中心周波数を83MHzとしたときの波長で換算した場合、ガラス波長短縮率kを考慮すると、上記のアンテナ導体の全長は、好ましくは、0.2・λ〜0.34・λであり、より好ましくは、0.25・λ〜0.29・λとなる。
【0020】
〔例2〕(垂直エレメントの長さ)
次に、図1に示す構成の自動車用ガラスアンテナにおいて、垂直エレメント6の長さaを変化させて、アンテナ利得を測定した。具体的な自動車用ガラスアンテナの構成としては、アンテナ導体の全長を680mmに固定して給電部5の位置を上下に移動させて垂直エレメント6の長さaを変化させた。垂直エレメント6の長さaは30、280、430、580及び660mmに変化させて測定した。その他の構成及び測定方法は例1と同じである。
【0021】
上記結果より垂直エレメント6の長さa毎に平均値を算出し、図3に示す。この図より、垂直エレメントの長さaが、30〜580mmにおいて、良好なアンテナ利得が得られていることがわかる。さらに、280〜580mmがよい結果となっている。
また、FM放送帯の中心周波数を83MHzとしたときの波長で換算した場合、ガラス波長短縮率kを考慮すると、上記の垂直エレメントの長さは、好ましくは、0.013・λ〜0.25・λであり、より好ましくは、0.12・λ〜0.25・λとなる。
【0022】
〔例3〕(フランジ端部と垂直エレメントとの距離)
次に、図1に示す構成の自動車用ガラスアンテナにおいて、フランジ端部8と垂直エレメント6との平均距離cを変化させて、アンテナ利得を測定した。具体的な自動車用ガラスアンテナの構成としては、アンテナ導体4の全長を680mm、垂直エレメント6の長さaを420mmに固定して、アンテナ導体4と給電部5を、垂直エレメント6がフランジ端部8から近づく、または離れる方向に移動させてフランジ端部と垂直エレメントとの距離cを変化させた。フランジ端部と垂直エレメントとの距離cは0〜8mmまで、2mm毎に変化させて測定した。なお、距離cが0mmとは、フランジ端部8と垂直エレメント6とは接触しておらず、平面視で重なった状態である。その他の構成及び測定方法は例1と同じである。
【0023】
上記結果よりフランジ端部と垂直エレメントとの距離c毎に平均値を算出し、図4に示す。この図より、フランジ端部と垂直エレメントとの距離cが、2〜8mmにおいて、良好なアンテナ利得が得られていることがわかる。さらに、6〜8mmがよい結果となっている。
また、上記の測定方法において、周波数を500〜1700kHzの範囲(日米のAM放送帯)で200kHz毎に周波数を変化させ、自動車用ガラスアンテナの誘起電圧とダイポールアンテナの誘起電圧を測定し、その差分をアンテナ利得とした場合の測定結果を図5に示す。この図より、フランジ端部と垂直エレメントとの距離cが、2〜8mmにおいて、良好なアンテナ利得が得られている。つまり、AM放送帯、FM放送帯の両方のアンテナ利得を向上させる点で、フランジ端部と垂直エレメントとの距離cを2〜8mmとすることが好ましいことがわかる。さらに、6〜8mmがよい結果となっている。
以上、本発明の実施に係る形態について説明したが、上記内容は、発明の内容を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本実施の形態における自動車用ガラスアンテナの構成図
【図2】アンテナ導体の全長とアンテナ利得との相関を示す特性図
【図3】垂直エレメントの長さとアンテナ利得との相関を示す特性図
【図4】フランジ端部と垂直エレメントとの距離とFM放送帯におけるアンテナ利得との相関を示す特性図
【図5】フランジ端部と垂直エレメントとの距離とAM放送帯におけるアンテナ利得との相関を示す特性図
【符号の説明】
【0025】
1:窓ガラス
4:アンテナ導体
5:給電部
6:垂直エレメント
7:水平エレメント
8:フランジの端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窓ガラスに設けられた給電部と、該給電部から延伸したアンテナ導体とを備えた自動車用ガラスアンテナにおいて、
前記給電部は、前記窓ガラスの側方の周縁部に設けられ、
前記アンテナ導体は、前記給電部から前記窓ガラスの側方の周縁部に沿って下方に延伸する垂直エレメントと、前記垂直エレメントから前記窓ガラスの下方の周縁部に沿って水平方向に延伸する水平エレメントとを有し、かつ前記窓ガラスを車両に固定するためのフランジに沿って形成されたことを特徴とする自動車用ガラスアンテナ。
【請求項2】
所望の第1の放送周波数帯と該第1の放送周波数帯より帯域が高い所望の第2の放送周波数帯とがあり、前記第2の放送周波数帯の中心周波数における空気中の波長をλ02といい、ガラス波長短縮率をk(ただしk=0.64)といい、λg2=λ02・kとするとき、
前記アンテナ導体の全長が、0.2・λg2以上、0.34・λg2以下である、請求項1に記載の自動車用ガラスアンテナ。
【請求項3】
前記アンテナ導体の全長が、480mm以上780mm以下である、請求項1に記載の自動車用ガラスアンテナ。
【請求項4】
所望の第1の放送周波数帯と該第1の放送周波数帯より帯域が高い所望の第2の放送周波数帯とがあり、前記第2の放送周波数帯の中心周波数における空気中の波長をλ02といい、ガラス波長短縮率をk(ただしk=0.64)といい、λg2=λ02・kとするとき、
前記垂直エレメントの長さが、0.013・λg2以上、0.25・λg2以下である、請求項1から3のいずれか一項に記載の自動車用ガラスアンテナ。
【請求項5】
前記垂直エレメントの長さが、30mm以上580mm以下である、請求項1から3のいずれか一項に記載の自動車用ガラスアンテナ。
【請求項6】
前記フランジの端部と前記垂直エレメントとの平均距離は、2mm以上8mm以下である請求項1から5のいずれか一項に記載の自動車用ガラスアンテナ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−136079(P2010−136079A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−309679(P2008−309679)
【出願日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】