説明

自動車用安全装置及びこれを備えた自動車

【課題】意識しない筋肉の緊張により運転者の脚が伸長状態となった場合でも、アクセルペダルへの過剰な踏み込みを防止して、ブレーキペダルの方向に足を誘導する。
【解決手段】案内部材3の支持部31は、アクセルペダル1の手前側に配置されており、これによって、運転者が、支持部31に足10を載せた状態でアクセルペダル1の操作が可能である。傾斜部32は、支持部31における、ブレーキペダル2側の端部からブレーキペダル2に向けて、運転者から離れる方向に傾斜するように配置されている。過度の緊張に起因して運転者の脚が伸長した状態においては、アクセルペダル1の手前側の位置からブレーキペダル2の踏み込み面に向けて、傾斜部32により足10が案内される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用安全装置及びこれを備えた自動車に関するものである。特に本発明は、意図しないアクセルペダルの踏み込みを防止するための技術に関連している。
【背景技術】
【0002】
アクセルペダルとブレーキペダルとの踏み間違いを防ぐ機構として、例えば下記特許文献1〜4に示されるものが存在する。これらは、ブレーキペダル又はアクセルペダルの操作性を妨げるような機構を付加することにより、これらについての誤操作を防ごうとしている。
【0003】
ところで、従前から、単なるペダルの誤操作とは考えがたい事例が散見される。例えば車庫入れにおいて、後進ギヤで後退するときに、壁などに衝突して運転者が動転してしまい、前進ギヤに入れ直した後にアクセルペダルを強く踏み込んだまま100メートルも自動車が暴走して、高速度のまま電柱に激突した事例が存在する。この場合、おそらく、運転者の意識としてはブレーキペダルを踏むつもりであったが、実際はアクセルペダルを強く踏んでしまったのであろうと推定される。
【0004】
本発明者の知見によれば、この状況は、以下のような機序によると考えられる。すなわち、人間は、過度の緊張状態に置かれると、無意識下で、筋肉が硬直し、関節が伸長状態となったまま動けなくなる。この現象は、例えば電撃を受けた人間において発生することが知られている。前記の例も、このような状況が発生していたと考えられる。そうでなければ、誤りに気づいた瞬間に、少なくとも、踏み込みをやめることだけはできたはずであり、それができれば、その後の加速を取りやめることが可能であったはずである。100メートルもの間、暴走を続けたということは、意識的には解除できない筋肉動作が生じていたと考えるべきである。
【0005】
アクセルペダルへの踏み込み操作後に、仮にこのような筋肉作用が発生してしまうと、前記の従来技術では、アクセルペダルへの過剰な踏み込みを防ぐことは難しいと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−164829号公報
【特許文献2】特開2010−269650号公報
【特許文献3】実開平5−86658号公報
【特許文献4】実開平7−22825号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記した状況に鑑みてなされたものである。本発明の主な目的は、意識しない筋肉の緊張により運転者の脚の関節が伸長状態となった場合でも、アクセルペダルへの過剰な踏み込みを防止して、ブレーキペダルの方向に足を誘導することが可能な技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の項目に記載の内容としてそれぞれ表現できる。
【0009】
(項目1)
アクセルペダルと、ブレーキペダルと、案内部材とを備えており、
前記アクセルペダル及び前記ブレーキペダルは、自動車の床面近傍に配置されて、運転者の足によって操作可能とされており、
前記案内部材は、支持部と、傾斜部とを備えており、
前記支持部は、前記アクセルペダルの手前側に配置されており、これによって、前記運転者が、前記支持部に前記足を載せた状態で前記アクセルペダルの操作が可能となっており、
前記傾斜部は、前記支持部における、前記ブレーキペダル側の端部から前記ブレーキペダルに向けて、前記運転者から離れる方向に傾斜するように配置されており、これによって、前記運転者の脚が伸長した状態においては、前記アクセルペダルの手前側の位置から前記ブレーキペダルの踏み込み面に向けて、前記足が案内されるように構成されている
自動車用安全装置。
【0010】
(項目2)
前記案内部材は、屈曲部をさらに備えており、
この屈曲部は、前記支持部と前記傾斜部との間に配置されており、
前記屈曲部は、前記アクセルペダルにおける踏み込み面の中央と前記ブレーキペダル側端部との間に相当する位置に配置されている
項目1に記載の自動車用安全装置。
【0011】
(項目3)
前記ブレーキペダルの踏み込み面は、前記アクセルペダルの踏み込み面よりも低い位置に設定されている
項目1又は2に記載の自動車用安全装置。
【0012】
(項目4)
さらにクラッチペダルを備えており、
前記ブレーキペダルと前記クラッチペダルとの間には、仕切り壁が設けられており、これによって、前記傾斜部に沿って移動する足が前記クラッチペダルに自動的に移動することを防止する構成となっている
項目1〜3のいずれか1項に記載の自動車用安全装置。
【0013】
(項目5)
前記案内部材の端部は、前記自動車の車体内面に取り付けられている
項目1〜4のいずれか1項に記載の自動車用安全装置。
【0014】
(項目6)
前記案内部材の全部又は一部は、前記運転者の脚の伸張によって湾曲可能な柔軟性のある材質から構成されており、これによって、前記アクセルペダルの手前側にある前記足が、その伸長時において、前記ブレーキペダルの方向に移動しやすくされている
項目1〜5のいずれか1項に記載の自動車用安全装置。
【0015】
(項目7)
項目1〜6のいずれか1項に記載の自動車用安全装置を備えた自動車。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、意識しない筋肉の緊張により運転者の脚が伸長状態となった場合でも、アクセルペダルへの過剰な踏み込みを防止して、ブレーキペダルの方向に足を誘導することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1実施形態に係る自動車用安全装置の平面図である。
【図2】図1のA方向矢視図である。
【図3】図1のB方向矢視図である。
【図4】本発明の第2実施形態に係る自動車用安全装置の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の第1実施形態に係る自動車用安全装置を、添付の図1〜図3を参照しながら説明する。
【0019】
(第1実施形態の構成)
本実施形態の自動車用安全装置は、アクセルペダル1と、ブレーキペダル2と、案内部材3とを備えている。本実施形態では、クラッチペダルは存在しない。つまり、本実施形態は、いわゆる自動変速の自動車を対象とするものである。
【0020】
アクセルペダル1及びブレーキペダル2は、自動車の床面4の近傍に配置されて、運転者の足10によって操作可能とされている。なお、通常、運転者の足10は右足である。
【0021】
本実施形態では、ブレーキペダル2の踏み込み面は、アクセルペダル1の踏み込み面よりも低い位置(運転者から離れた位置)に設定されている(図2参照)。なお、本実施形態のブレーキペダル2の踏み込み面は、通常よりもかなり大型とされている。このため、ブレーキペダル2の上端は、アクセルペダル1の上端よりも高い位置となっている(図3参照)。
【0022】
案内部材3は、支持部31と、傾斜部32と、屈曲部33とを備えている。
【0023】
支持部31は、アクセルペダル1の手前側(すなわち運転者側)に配置されている。本実施形態では、これによって、運転者が、支持部31に足10を載せた状態でアクセルペダル1の操作が可能となっている。すなわち、通常の運転姿勢においては、運転者は、右足の踵を床面4に置き、土踏まず近辺を支持部31に載せつつ、足先近辺によって、アクセルペダル1を操作することができる。このとき、足10は、支持部31を中心として回動することによって、アクセルペダル1を深く踏み込むことができる。支持部31の端部(図1において右端)、すなわち、案内部材3の端部は、自動車の車体内面5に取り付けられている。
【0024】
傾斜部32は、支持部31における、ブレーキペダル2側の端部(図1において左側の端部)からブレーキペダル2に向けて、運転者から離れる方向に傾斜するように配置されている。本実施形態では、これによって、運転者の脚が伸長した状態においては、アクセルペダル1の手前側の位置からブレーキペダル2の踏み込み面に向けて、足10が案内されるように構成されている。
【0025】
屈曲部33は、支持部31と傾斜部32との間に配置されている。より具体的には、本実施形態では、支持部31と、傾斜部32と、屈曲部33とは、一本の棒状部材あるいは細幅の板状部材により構成されている。そして、屈曲部33は、支持部31と傾斜部32との間に形成されている。
【0026】
屈曲部33は、アクセルペダル1における踏み込み面の中央11(図1参照)とブレーキペダル側の端部12との間に相当する位置に配置されている。より具体的には、図示例では、湾曲部33が、アクセルペダル1における踏み込み面の中央11に相当する位置に配置されている。
【0027】
自動車の床面4には、本実施形態では、段差41が形成されており、ブレーキペダル2の踏み込み面をアクセルペダル1の踏み込み面よりも低い位置に配置できるようになっている。
【0028】
(第1実施形態の動作)
次に、本実施形態の装置の動作を説明する。
【0029】
平常時には、既に説明した通り、運転者は、右足10の踵を床面4に置き、土踏まず近辺を支持部31に載せつつ、足先近辺によって、アクセルペダル1を操作することができる。このとき、本実施形態においては、右足裏の幅方向のほぼ中央近傍が、案内部材3の屈曲部33に載せられた状態となる(図1参照)。この状態では、足10を、案内部材3の支持部31によって支持することができ、足10が不意に移動することなく、アクセルペダル1を安定して操作することができる。また、この平常時には、通常、右足10は傾斜部32には接触しない。
【0030】
一方、ブレーキペダル2を踏もうと運転者が意図していたにも拘わらず、誤ってアクセルペダル1の踏み込み面(上面)に向けて脚(この例では右脚)を伸ばしてしまった場合は、以下の動作となる。すなわち、誤ってアクセルペダル1に向けて伸ばされた脚の足裏は、まず、案内部材3のいずれかの部分に当接する。ここで、案内部材3のどの部分に足10が当接するかにより、動作が若干異なると考えられるので、以下、場合を分けて説明する。
【0031】
(傾斜部32に当接した場合)
足10が傾斜部32に当接した場合は、足10は、傾斜部32の傾斜に従って、ブレーキペダル2へ案内される。このとき、運転者の意識として、意図しない動きであるために、過緊張状態を生じて、無意識のまま、脚を伸ばした状態となることがある。しかしながら、本実施形態によれば、この場合でも、足10は、強制的にブレーキペダル2へ案内されるので、ブレーキペダル2を足10で踏み込むことができる。したがって、本実施形態では、自動車の暴走を確実に防ぐことができるだけでなく、多くの場合では、安全に自動車を停止させることが可能になる。ここで、本実施形態では、ブレーキペダル2の踏み込み面を、アクセルペダル1の踏み込み面よりも低くしたので、ブレーキペダル2の踏み込み操作が一層確実になるという利点がある。
【0032】
(屈曲部33に当接した場合)
足10が屈曲部33に当接した場合は、前記した、傾斜部32に当接した場合とほぼ同様の動作となる。すなわち、運転者に過緊張状態を生じて、無意識のまま、脚を伸ばした状態となった場合には、足10の足裏は、足裏が当接した屈曲部33を支点として傾斜部32の方向にわずかに回動して傾斜する。このため、傾斜部32の方向への力のベクトル成分が生じて、傾斜部32へと足10が案内される。以降の動作は、前記と同様である。つまり、この場合でも、自動車の暴走を防止し、あるいは停止させることができる。
【0033】
ギヤの入れ違いにより誤ってアクセルペダル1を操作するときは、このような動作になる可能性が高いと考えられる。
【0034】
ここで、本実施形態では、屈曲部33を、アクセルペダル1における踏み込み面の中央11とブレーキペダル側の端部12との間に相当する位置に配置したので、前記した動作となる可能性を高めることができる。
【0035】
(支持部31に当接した場合)
運転者の足10が、支持部31のみに当接する状況も一応考えられる。しかしながら、運転者が、ブレーキペダル2を操作する意識を持っていたときには、このような状況が発生する確率は低い。また、本実施形態では、屈曲部33の位置を前記のように調整している。したがって、多くの場合は、前記した二つの場合のいずれかになると考えられる。
【0036】
仮に、運転者の足10が、支持部31のみに当接した場合であっても、本実施形態によれば、伸びようとする脚の足10の移動を、支持部31により停止させることができる。このため、運転者が過緊張状態にあったとしても、過剰にアクセルペダル1を踏み込んでしまう状態を避けることができる。また、本実施形態では、支持部31を支点として、足首の関節を動かしつつ足裏を回動させないと、アクセルペダル1を深く踏み込むことが難しいので、過緊張により筋肉が硬直した状態では、そもそもアクセルペダル1はほとんど踏み込まれない場合が多いと考えられる。したがって、本実施形態では、自動車の意図しない暴走を防ぐことが可能となる。
【0037】
また、案内部材3、特に支持部31を、ある程度柔軟性のある材質(例えば板状の鋼材など)とすれば、運転者の脚が伸びたときに、支持部31と自動車の内側面との接続部において支持部31が湾曲して傾斜できる。これにより、前記した傾斜部32の動作と同様にして、足10をブレーキペダル2に案内し、ブレーキを動作させて停止させることも可能となる。ただし、当然のことながら、案内部材3には、足10の移動を前記のように規制するための強度は必要となる。そのために選択すべき材質は特に制約されない。
【0038】
(第2実施形態)
次に、図4を参照して、本発明の第2実施形態に係る自動車用安全装置を説明する。この第2実施形態の説明においては、前記した第1実施形態の説明と基本的に共通する部材については、同一符号を用いることにより、説明の煩雑を避ける。
【0039】
第2実施形態においては、自動車の変速操作を行うためのクラッチペダル6がさらに配置されている。
【0040】
また、本実施形態では、ブレーキペダル2とクラッチペダル6との間に、仕切り壁7が設けられている。この仕切り壁7は、この例では、自動車の床面4の上面に立設されているが、設置場所は特に制約されない。また、仕切り壁7は、例えば鋼やアルミニウム製の板によって構成されるが、その材質及び形状は、必要な機能を満たす限り、特に制限されない。
【0041】
本実施形態では、傾斜部32に沿って移動する足10がクラッチペダル6に自動的に移動することを、仕切り壁7によって防止する構成となっている。
【0042】
第2実施形態における他の動作及び利点は、前記した第1実施形態と同様なので、これ以上の説明は省略する。
【0043】
なお、本発明は、前記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変更を加え得るものである。
【0044】
例えば、図示の例では、右ハンドルの自動車の例を示したが、左ハンドルの自動車に本発明を適用することは可能である。左ハンドルの場合も、各部品の配置関係は同じである。左ハンドルの場合、案内部材3の取り付け箇所は、例えば自動車のセンターコンソールの下方とすることができるが、特に制約されない。
【符号の説明】
【0045】
1 アクセルペダル
11 踏み込み面の中央
12 ブレーキペダル側端部
2 ブレーキペダル
3 案内部材
31 支持部
32 傾斜部
33 屈曲部
4 床面
5 車体内面
6 クラッチペダル
7 仕切り壁
10 足

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクセルペダルと、ブレーキペダルと、案内部材とを備えており、
前記アクセルペダル及び前記ブレーキペダルは、自動車の床面近傍に配置されて、運転者の足によって操作可能とされており、
前記案内部材は、支持部と、傾斜部とを備えており、
前記支持部は、前記アクセルペダルの手前側に配置されており、これによって、前記運転者が、前記支持部に前記足を載せた状態で前記アクセルペダルの操作が可能となっており、
前記傾斜部は、前記支持部における、前記ブレーキペダル側の端部から前記ブレーキペダルに向けて、前記運転者から離れる方向に傾斜するように配置されており、これによって、前記運転者の脚が伸長した状態においては、前記アクセルペダルの手前側の位置から前記ブレーキペダルの踏み込み面に向けて、前記足が案内されるように構成されている
自動車用安全装置。
【請求項2】
前記案内部材は、屈曲部をさらに備えており、
この屈曲部は、前記支持部と前記傾斜部との間に配置されており、
前記屈曲部は、前記アクセルペダルにおける踏み込み面の中央と前記ブレーキペダル側端部との間に相当する位置に配置されている
請求項1に記載の自動車用安全装置。
【請求項3】
前記ブレーキペダルの踏み込み面は、前記アクセルペダルの踏み込み面よりも低い位置に設定されている
請求項1又は2に記載の自動車用安全装置。
【請求項4】
さらにクラッチペダルを備えており、
前記ブレーキペダルと前記クラッチペダルとの間には、仕切り壁が設けられており、これによって、前記傾斜部に沿って移動する足が前記クラッチペダルに自動的に移動することを防止する構成となっている
請求項1〜3のいずれか1項に記載の自動車用安全装置。
【請求項5】
前記案内部材の端部は、前記自動車の車体内面に取り付けられている
請求項1〜4のいずれか1項に記載の自動車用安全装置。
【請求項6】
前記案内部材の全部又は一部は、前記運転者の脚の伸張によって湾曲可能な柔軟性のある材質から構成されており、これによって、前記アクセルペダルの手前側にある前記足が、その伸長時において、前記ブレーキペダルの方向に移動しやすくされている
請求項1〜5のいずれか1項に記載の自動車用安全装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の自動車用安全装置を備えた自動車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−65093(P2013−65093A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−202211(P2011−202211)
【出願日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【出願人】(505361163)有限会社グローバルリング (2)
【出願人】(510255509)株式会社セルフ (1)
【Fターム(参考)】