説明

自動車用配管

【課題】低吸水性、耐熱性、摺動性、耐薬品性、ガソリンバリア性等の各種特性に優れるとともに、押出し成形法によっても発泡が生じない溶融安定性に優れるポリアミド組成物から形成され、長期の耐熱老化性にも優れる自動車用配管を提供すること。
【解決手段】濃硫酸中30℃で測定した極限粘度が0.6〜2.0dl/gであり、融点が260℃以上であるポリアミド(A)100質量部に対して、変性ポリオレフィン(B)を1〜30質量部、銅化合物(C)を銅原子換算で0.005〜0.025質量部、および有機系安定剤(D)を0.2〜10質量部含んでなるポリアミド組成物から形成される自動車用配管。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融安定性に優れるポリアミド組成物から形成されるとともに長期の耐熱老化性にも優れる燃料系配管や冷却系配管等の自動車用配管に関する。
【背景技術】
【0002】
耐熱性が要求される樹脂成形品を製造するための材料として、260℃以上の融点を有するポリアミドが従来より使用されている。また、耐熱老化性等の向上のため、例えば、半芳香族ポリアミドに銅化合物を配合したり、銅化合物とともにさらに有機系化合物や官能化ポリオレフィンを配合する技術が知られている(特許文献1〜3参照)。
【0003】
ポリアミドに対して、銅化合物、変性ポリオレフィンおよび有機系安定剤の3者を併用して配合する技術も知られている。例えば、280℃を超える高温下でも発泡や変色を生じることなく、耐熱老化性にも優れるポリアミド組成物として、特定の半芳香族ポリアミド、グラフト変性α−オレフィン重合体等のグラフト変性物ならびに銅化合物およびハロゲン化アルカリ金属を含む低融点ポリアミドからなるマスターバッチを含んでなるポリアミド組成物が知られている(特許文献4参照)。特許文献4には、熱安定性向上、酸化防止、光安定性向上などの目的で有機系安定剤を配合することができることが記載されている。
また、特定のポリアミド、変性ポリオレフィン、銅化合物、ハロゲン化アルカリ金属化合物および有機系安定剤を含有するポリアミド組成物が、耐熱老化性等に優れることが知られている(特許文献5および6参照)。
さらに、特定の部分芳香族ポリアミド、オレフィン族耐衝撃性改良剤、特定の銅含有熱安定剤、および二級アリールアミンとヒンダードフェノールとから選択された化合物を含む組成物が、射出成形時に、金型付着物の堆積率を減少させるとともに、優れた熱安定性を示すことによって、金型の洗浄間隔を延長させるとともに焼けや変色を起こした成形製品の発生を減少させることが知られている(特許文献7参照)。
【0004】
ところで、燃料系配管や冷却系配管等の自動車用配管は、通常、押出し成形法により製造される。ポリアミドを使用して押出し成形法により自動車用配管を製造する際には、成形性を確保するために溶融樹脂の溶融張力をある程度大きくする必要性から、溶融粘度の高いポリアミドを使用することが望まれる。しかしながら、溶融粘度の高いポリアミドを使用した場合には、溶融樹脂が押出し成形機内で剪断発熱を起こしやすく溶融樹脂の劣化が激しくなる。特に溶融樹脂に銅化合物が配合されている場合には、銅化合物がポリアミドの脱カルボキシル化剤として作用してポリアミドの劣化を促進するとともに溶融樹脂中に気泡を発生させ、これが最終製品である自動車用配管にも残存してしまう。そのような気泡が自動車用配管に残存すると、それを基点とする破壊が起こりやすく、力学強度が著しく低下した製品となることがある。したがって、押出し成形法によっても発泡が生じない溶融安定性に優れるポリアミド組成物から形成される自動車用配管が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭61−285252号公報
【特許文献2】特開昭63−105057号公報
【特許文献3】特表平8−503274号公報
【特許文献4】特開2000−239523号公報
【特許文献5】特開2000−319507号公報
【特許文献6】特開2000−319508号公報
【特許文献7】特表2003−503534号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、低吸水性、耐熱性、摺動性、耐薬品性、ガソリンバリア性等の各種特性に優れるとともに、押出し成形法によっても発泡が生じない溶融安定性に優れるポリアミド組成物から形成され、長期の耐熱老化性にも優れる自動車用配管を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、高い融点を有するポリアミドを使用して自動車用配管を製造する際に、当該ポリアミドに対して、変性ポリオレフィン、銅化合物、および有機系安定剤をそれぞれ特定量配合することによって得られるポリアミド組成物を用いると目的とする自動車用配管が得られることを見出し、さらに検討を重ねて本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、
[1]濃硫酸中30℃で測定した極限粘度が0.6〜2.0dl/gであり、融点が260℃以上であるポリアミド(A)100質量部に対して、変性ポリオレフィン(B)を1〜30質量部、銅化合物(C)を銅原子換算で0.005〜0.025質量部、および有機系安定剤(D)を0.2〜10質量部含んでなるポリアミド組成物から形成される自動車用配管、
[2]ポリアミド(A)の濃硫酸中30℃で測定した極限粘度が1.0〜2.0dl/gである上記[1]の自動車用配管、
[3]ポリアミド(A)が、テレフタル酸単位を30〜100モル%含有するジカルボン酸単位と炭素数6〜18の脂肪族ジアミン単位を50〜100モル%含有するジアミン単位とを有する上記[1]または[2]の自動車用配管、
[4]炭素数6〜18の脂肪族ジアミン単位が、1,9−ノナンジアミン単位および/または2−メチル−1,8−オクタンジアミン単位である上記[3]の自動車用配管、
[5]有機系安定剤(D)がヒンダードフェノール系安定剤である上記[1]〜[4]のいずれか1つの自動車用配管、
[6]上記ポリアミド組成物がハロゲン化アルカリ金属をさらに含む上記[1]〜[5]のいずれか1つの自動車用配管、
[7]自動車用配管が燃料系配管または冷却系配管である上記[1]〜[6]のいずれか1つの自動車用配管、
に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、低吸水性、耐熱性、摺動性、耐薬品性、ガソリンバリア性等の各種特性に優れるとともに、押出し成形法によっても発泡が生じない溶融安定性に優れるポリアミド組成物から形成され、長期の耐熱老化性にも優れる自動車用配管が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の自動車用配管は、濃硫酸中30℃で測定した極限粘度が0.6〜2.0dl/gであり、融点が260℃以上であるポリアミド(A)100質量部に対して、変性ポリオレフィン(B)を1〜30質量部、銅化合物(C)を銅原子換算で0.005〜0.025質量部、および有機系安定剤(D)を0.2〜10質量部含んでなるポリアミド組成物から形成される。
【0011】
本発明において使用されるポリアミド(A)は、濃硫酸中30℃で測定した極限粘度が0.6〜2.0dl/gであり、融点が260℃以上である。このようなポリアミド(A)としては、PA46、PA66等の脂肪族ポリアミドや、テレフタル酸単位を30〜100モル%含有するジカルボン酸単位と炭素数6〜18の脂肪族ジアミン単位を50〜100モル%含有するジアミン単位とを有するポリアミド(半芳香族ポリアミド)等が挙げられる。これらのうち、耐熱性、低吸水性の点で半芳香族ポリアミドが好ましい。
【0012】
上記の半芳香族ポリアミドにおけるジカルボン酸単位は、テレフタル酸単位を30〜100モル%、好ましくは60〜100モル%、より好ましくは75〜100モル%、さらに好ましくは90〜100モル%の範囲内で含有する。ジカルボン酸単位におけるテレフタル酸単位の含有率が上記範囲にあることにより、耐熱性により優れる自動車用配管を得ることができる。
【0013】
上記の半芳香族ポリアミドにおけるジカルボン酸単位は、70モル%以下、好ましくは40モル%以下、より好ましくは25モル%以下、さらに好ましくは10モル%以下の割合で、テレフタル酸単位以外の他のジカルボン酸単位を含んでいてもよい。かかる他のジカルボン酸単位としては、例えば、マロン酸、ジメチルマロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、2−メチルアジピン酸、トリメチルアジピン酸、ピメリン酸、2,2−ジメチルグルタル酸、2,2−ジエチルコハク酸、アゼライン酸、セバシン酸、スベリン酸等の脂肪族ジカルボン酸;1,3−シクロペンタンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸;イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,4−フェニレンジオキシジ酢酸、1,3−フェニレンジオキシジ酢酸、ジフェン酸、ジフェニルメタン−4,4’−ジカルボン酸、ジフェニルスルホン−4,4’−ジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸などから誘導される単位を挙げることができ、これらのうちの1種または2種以上を含むことができる。これらのなかでも芳香族ジカルボン酸から誘導される単位が好ましい。上記の半芳香族ポリアミドは、さらに、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸等の多価カルボン酸から誘導される単位を、溶融成形が可能な範囲内で含んでいてもよい。
【0014】
上記の半芳香族ポリアミドにおけるジアミン単位は、炭素数6〜18の脂肪族ジアミン単位を50〜100モル%、好ましくは60〜100モル%、より好ましくは75〜100モル%、さらに好ましくは90〜100モル%の範囲内で含有する。ジアミン単位における炭素数6〜18の脂肪族ジアミン単位の含有率が上記範囲にあることにより、耐熱性、低吸水性、耐薬品性等の諸物性により優れる自動車用配管を得ることができる。
【0015】
上記の炭素数6〜18の脂肪族ジアミン単位としては、例えば、1,6−ヘキサンジアミン、1,7−ヘプタンジアミン、1,8−オクタンジアミン、1,9−ノナンジアミン、1,10−デカンジアミン、1,11−ウンデカンジアミン、1,12−ドデカンジアミン等の直鎖状脂肪族ジアミン;1−ブチル−1,2−エタンジアミン、1,1−ジメチル−1,4−ブタンジアミン、1−エチル−1,4−ブタンジアミン、1,2−ジメチル−1,4−ブタンジアミン、1,3−ジメチル−1,4−ブタンジアミン、1,4−ジメチル−1,4−ブタンジアミン、2,3−ジメチル−1,4−ブタンジアミン、2−メチル−1,5−ペンタンジアミン、3−メチル−1,5−ペンタンジアミン、2,5−ジメチル−1,6−ヘキサンジアミン、2,4−ジメチル−1,6−ヘキサンジアミン、3,3−ジメチル−1,6−ヘキサンジアミン、2,2−ジメチル−1,6−ヘキサンジアミン、2,2,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジアミン、2,4,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジアミン、2,4−ジエチル−1,6−ヘキサンジアミン、2,2−ジメチル−1,7−ヘプタンジアミン、2,3−ジメチル−1,7−ヘプタンジアミン、2,4−ジメチル−1,7−ヘプタンジアミン、2,5−ジメチル−1,7−ヘプタンジアミン、2−メチル−1,8−オクタンジアミン、3−メチル−1,8−オクタンジアミン、4−メチル−1,8−オクタンジアミン、1,3−ジメチル−1,8−オクタンジアミン、1,4−ジメチル−1,8−オクタンジアミン、2,4−ジメチル−1,8−オクタンジアミン、3,4−ジメチル−1,8−オクタンジアミン、4,5−ジメチル−1,8−オクタンジアミン、2,2−ジメチル−1,8−オクタンジアミン、3,3−ジメチル−1,8−オクタンジアミン、4,4−ジメチル−1,8−オクタンジアミン、5−メチル−1,9−ノナンジアミン等の分岐鎖状脂肪族ジアミンなどから誘導される単位を挙げることができ、これらのうち1種または2種以上を含むことができる。
【0016】
上記の炭素数6〜18の脂肪族ジアミン単位は、靱性、摺動性、耐熱性、成形性、低吸水性、軽量性等に優れたポリアミド組成物、ひいては靱性、摺動性、耐熱性、低吸水性、軽量性等に優れた自動車用配管が得られることから、1,6−ヘキサンジアミン、1,8−オクタンジアミン、2−メチル−1,8−オクタンジアミン、1,9−ノナンジアミン、1,10−デカンジアミン、1,11−ウンデカンジアミンおよび1,12−ドデカンジアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種のジアミンから誘導される単位であることが好ましく、1,9−ノナンジアミン単位および/または2−メチル−1,8−オクタンジアミン単位であることがより好ましい。
【0017】
また、1,9−ノナンジアミン単位と2−メチル−1,8−オクタンジアミン単位を併用する場合には、1,9−ノナンジアミン単位と2−メチル−1,8−オクタンジアミン単位との間のモル比は、1,9−ノナンジアミン単位の含有率が多すぎると靱性が損なわれる場合があることから、1,9−ノナンジアミン単位:2−メチル−1,8−オクタンジアミン単位=30:70〜90:10の範囲内であることが好ましく、40:60〜70:30の範囲内であることがより好ましく、45:55〜60:40の範囲内であることがさらに好ましい。
【0018】
上記の半芳香族ポリアミドにおけるジアミン単位は、50モル%以下、好ましくは40モル%以下、より好ましくは25モル%以下、さらに好ましくは10モル%以下の割合で、炭素数6〜18の脂肪族ジアミン単位以外の他のジアミン単位を含んでいてもよい。かかる他のジアミン単位としては、例えば、エチレンジアミン、1,2−プロパンジアミン、1,3−プロパンジアミン、1,4−ブタンジアミン、1,5−ペンタンジアミン等の脂肪族ジアミン;シクロヘキサンジアミン、メチルシクロヘキサンジアミン、イソホロンジアミン等の脂環式ジアミン;p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、キシリレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル等の芳香族ジアミンなどから誘導される単位を挙げることができ、これらのうちの1種または2種以上を含むことができる。
【0019】
また、上記の半芳香族ポリアミドは、アミノカルボン酸単位を含んでもよい。当該アミノカルボン酸単位としては、例えば、カプロラクタム、ラウリルラクタム等のラクタム;11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸等のアミノカルボン酸などから誘導される単位を挙げることができる。半芳香族ポリアミドにおけるアミノカルボン酸単位の含有率は、半芳香族ポリアミドの全ジカルボン酸単位に基いて、40モル%以下であることが好ましく、20モル%以下であることがより好ましい。
【0020】
上記の半芳香族ポリアミドは、より良好な溶融安定性と耐熱水性をポリアミド組成物に付与するために、その分子鎖の末端基の10%以上、より好ましくは40%以上、さらに好ましくは60%以上が末端封止剤により封止されていることが好ましい。
【0021】
上記の半芳香族ポリアミドの末端封止率は、半芳香族ポリアミドに存在しているカルボキシル基末端の数、アミノ基末端の数および末端封止剤によって封止された末端基の数をそれぞれ測定し、下記の式に従って求めることができる。ここで、各末端基の数は、H−NMRにより、各末端基に対応する特性シグナルの積分値に基いて求めるのが精度、簡便さの点で好ましい。
【0022】
末端封止率(%)=[(A−B)/A]×100
[式中、Aは半芳香族ポリアミドの分子鎖の末端基の総数(これは通常、ポリアミド分子の数の2倍に等しい)を表し、Bは封止されずに残ったカルボキシル基末端およびアミノ基末端の合計数を表す。]
【0023】
末端封止剤としては、末端のアミノ基またはカルボキシル基との反応性を有する単官能性の化合物を使用することができるが、反応性および封止末端の安定性などの点から、モノカルボン酸またはモノアミンを好ましく使用することができる。中でも、取扱いの容易さなどの点から、モノカルボン酸をより好ましく使用することができる。その他、酸無水物、モノイソシアネート、モノ酸ハロゲン化物、モノエステル類、モノアルコール類なども、末端封止剤として使用することができる。
【0024】
末端封止剤として使用することができるモノカルボン酸としては、アミノ基との反応性を有するものであれば特に制限はなく、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ピバリン酸、イソ酪酸等の脂肪族モノカルボン酸;シクロヘキサンカルボン酸等の脂環式モノカルボン酸;安息香酸、トルイル酸、α−ナフタレンカルボン酸、β−ナフタレンカルボン酸、メチルナフタレンカルボン酸、フェニル酢酸等の芳香族モノカルボン酸;これらの任意の混合物などを挙げることができる。これらのなかでも、反応性、封止末端の安定性、価格などの点から、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、安息香酸が好ましい。
【0025】
末端封止剤として使用することができるモノアミンとしては、カルボキシル基との反応性を有するものであれば特に制限はなく、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ステアリルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン等の脂肪族モノアミン;シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン等の脂環式モノアミン;アニリン、トルイジン、ジフェニルアミン、ナフチルアミン等の芳香族モノアミン;これらの任意の混合物などを挙げることができる。これらのなかでも、反応性、沸点、封止末端の安定性、価格などの点から、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ステアリルアミン、シクロヘキシルアミン、アニリンが好ましい。
【0026】
本発明で使用するポリアミド(A)は、例えば、結晶性ポリアミドを製造する方法として知られている任意の方法を用いて製造することができる。具体的には、酸クロライドとジアミンを原料とする溶液重合法または界面重合法、ジカルボン酸とジアミンを原料とする溶融重合法、固相重合法、溶融押出し重合法などの方法により製造することができる。
【0027】
ポリアミド(A)を種々の重合方法で製造するに際して、前述の末端封止剤の他に、例えば、触媒として、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、それらの塩またはエステルなどを重合系に添加することができる。上記の塩またはエステルとしては、リン酸、亜リン酸または次亜リン酸と、カリウム、ナトリウム、マグネシウム、バナジウム、カルシウム、亜鉛、コバルト、マンガン、錫、タングステン、ゲルマニウム、チタン、アンチモン等の金属との塩;リン酸、亜リン酸または次亜リン酸のアンモニウム塩;リン酸、亜リン酸または次亜リン酸のエチルエステル、イソプロピルエステル、ブチルエステル、ヘキシルエステル、イソデシルエステル、オクタデシルエステル、デシルエステル、ステアリルエステル、フェニルエステルなどが挙げられる。
【0028】
本発明において使用されるポリアミド(A)の濃硫酸中30℃で測定した極限粘度〔η〕は0.6〜2.0dl/gの範囲内にある。当該極限粘度があまりに低すぎると、得られるポリアミド組成物、ひいてはそれから形成される自動車用配管の機械的性質が過度に低下し、また、溶融張力が低いため自動車用配管の製造が困難となる。一方、極限粘度があまりに高すぎると、得られるポリアミド組成物の流動性が過度に低下し、成形性が悪化する傾向がある。得られる自動車用配管の機械的性質および自動車用配管を製造する際の成形性の観点から、ポリアミド(A)の濃硫酸中30℃で測定した極限粘度は1.0〜2.0dl/gの範囲内にあることが好ましく、1.0〜1.8dl/gの範囲内にあることがより好ましい。
【0029】
また、本発明において使用されるポリアミド(A)の融点は260℃以上であり、260〜340℃の範囲内であることが好ましく、260〜320℃の範囲内であることがより好ましく、260〜290℃の範囲内であることがさらに好ましい。ポリアミド(A)が上記範囲の融点を有することにより、耐熱性の高い自動車用配管を製造することができる。一方、ポリアミド(A)の融点が高すぎると、加工温度を高くする必要があり、ポリアミドの熱劣化による発泡が起こり易くなる。なお、本明細書における融点とは、実施例において後述するように、示差走査熱量分析装置(DSC)により測定された値である。
【0030】
本発明の自動車用配管を形成するポリアミド組成物は変性ポリオレフィン(B)を含む。ポリアミド組成物が変性ポリオレフィン(B)を含むことにより、ポリアミド組成物に含まれるポリアミド(A)の溶融安定性が向上する。変性ポリオレフィン(B)としては、ポリオレフィンをα,β−不飽和カルボン酸、またはそのエステル、酸無水物もしくは金属塩等のα,β−不飽和カルボン酸誘導体により改質した変性ポリオレフィンを使用することができ、中でも、ポリオレフィンを製造する際にα,β−不飽和カルボン酸またはα,β−不飽和カルボン酸誘導体を共重合することにより製造された変性ポリオレフィンや、α,β−不飽和カルボン酸またはα,β−不飽和カルボン酸誘導体をポリオレフィンにグラフト導入することにより製造された変性ポリオレフィンを好ましく使用することができる。これらの変性ポリオレフィンの基本骨格を構成するポリオレフィンの具体例としては、例えば、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・1−ブテン共重合体、エチレン・4−メチル−1−ペンテン共重合体、エチレン・1−へキセン共重合体、エチレン・1−オクテン共重合体、エチレン・1−デセン共重合体、プロピレン・1−ブテン共重合体、プロピレン・4−メチル−1−ペンテン共重合体、プロピレン・1−へキセン共重合体、プロピレン・1−オクテン共重合体、プロピレン・1−デセン共重合体、プロピレン・1−ドデセン共重合体、エチレン・プロピレン・1,4−ヘキサジエン共重合体、エチレン・プロピレン・ジシクロペンタジエン共重合体、エチレン・1−ブテン・1,4−ヘキサジエン共重合体、エチレン・1−ブテン・5−エチリデン−2−ノルボルネン共重合体などを挙げることができる。また、上記α,β−不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、α−エチルアクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、テトラヒドロフタル酸、メチルテトラヒドロフタル酸、エンドシス−ビシクロ[2.2.1]へプト−5−エン−2,3−ジカルボン酸(ナジック酸(商品名))およびメチル−エンドシス−ビシクロ[2.2.1]へプト−5−エン−2,3−ジカルボン酸(メチルナジック酸(商品名))等が挙げられる。変性ポリオレフィン(B)は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0031】
前述の変性ポリオレフィン(B)の中でも、得られるポリアミド組成物、ひいてはそれから形成される自動車用配管の耐衝撃性がより優れたものになることから、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・1−ブテン共重合体、エチレン・4−メチル−1−ペンテン共重合体等のエチレン・α−オレフィン共重合体を基本骨格とする変性ポリオレフィンを使用することが好ましく、エチレン・α−オレフィン共重合体を無水マレイン酸により改質した変性ポリオレフィンを使用することがより好ましい。
【0032】
本発明の自動車用配管を形成するポリアミド組成物に含まれる変性ポリオレフィン(B)の含有率は、少なすぎるとポリアミド(A)の溶融安定性の向上効果が十分でなく、多すぎると得られる自動車用配管の機械的強度が低下することから、ポリアミド(A)100質量部に対して、1〜30質量部の範囲内であり、1〜20質量部の範囲内であることが好ましく、3〜20質量部の範囲内であることがより好ましく、3〜15質量部の範囲内であることがさらに好ましい。
【0033】
本発明の自動車用配管を形成するポリアミド組成物は、銅化合物(C)を含む。ポリアミド組成物が銅化合物(C)を含むことにより、長時間の耐熱老化性が向上した自動車用配管を得ることができる。
【0034】
銅化合物(C)としては、例えば、塩化第一銅、臭化第一銅、ヨウ化第一銅、塩化第二銅、臭化第二銅、ヨウ化第二銅、リン酸第二銅、ピロリン酸第二銅、硫化銅、硝酸銅等の無機の銅化合物;酢酸銅等の有機カルボン酸の銅塩などを用いることができる。これらの銅化合物(C)は1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0035】
ポリアミド組成物に含まれる銅化合物(C)の含有率は、少なすぎると得られる自動車用配管の耐熱老化性を確保することが困難となり、多すぎると成形時の発泡が顕著となり、そのような気泡が得られる自動車用配管に残存して自動車用配管の力学強度が低下することから、ポリアミド(A)100質量部に対して、銅原子換算で0.005〜0.025質量部の範囲内であり、0.010〜0.025質量部の範囲内であることが好ましく、0.010〜0.020質量部の範囲内であることがより好ましい。
【0036】
また、ポリアミド組成物は、耐熱性に一層優れる自動車用配管が得られることから、ハロゲン化アルカリ金属を含むことが好ましい。ハロゲン化アルカリ金属の具体例としては、例えば、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム、フッ化リチウム、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、フッ化ナトリウム、塩化カリウム、臭化カリウム、ヨウ化カリウム、フッ化カリウムなどが挙げられる。これらのうち、特にヨウ化カリウムが好ましい。これらのハロゲン化アルカリ金属は1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
ポリアミド組成物におけるハロゲン化アルカリ金属の含有率としては、ポリアミド(A)100質量部に対して0.25〜1質量部の範囲内であることが好ましく、0.25〜0.8質量部の範囲内であることがより好ましい。
【0037】
本発明の自動車用配管を形成するポリアミド組成物は、有機系安定剤(D)を含む。ポリアミド組成物が有機系安定剤(D)を含むことにより、自動車用配管の耐熱老化性が向上するだけでなく、ポリアミド(A)の溶融安定性が向上する。
【0038】
有機系安定剤(D)としては、例えば、ヒンダードフェノール系安定剤、アミン系安定剤、リン系安定剤、チオエーテル系安定剤等を挙げることができ、これらのうちの1種または2種以上を用いることができる。
上記ヒンダードフェノール系安定剤としては、例えば、オクタデシル3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、3,9−ビス[2−〔3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニロキシ〕−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、1,3,5−トリス〔エチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕−s−トリアジン−2,4,6−(1H,3H,5H)トリオン、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン、4,4’−メチレン−ビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、ヘキサメチレングリコール−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、ビス[2−〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニロキシ〕エチル]スルフィド、2,2’−メチレン−ビス(4−メチル−6−t−ノニルフェノール)等が挙げられる。
上記アミン系安定剤としては、例えば、1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジルステアレート、2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルベンゾエート、N−〔12−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)〕ドデシルコハク酸イミド、1−〔(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシエチル〕−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル (3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、テトラ(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)ブタンテトラカルボキシレート、テトラ(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)ブタンテトラカルボキシレート、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル) ジトリデシル ブタンテトラカルボキシレート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル) ジトリデシル ブタンテトラカルボキシレート等が挙げられる。
上記リン系安定剤としては、例えば、トリフェニルホスファイト、ジフェニルホスファイト、ジデシルフェニルホスファイト、トリデシルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリドデシルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、トリノニルフェニルホスファイト、トリドデシルトリチオホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェニル)ビス(ジトリデシルホスファイト)、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、4,4’−イソプロピリデンジフェニルテトラアルキルジホスファイト(アルキル基の炭素数は12〜15)等のホスファイト;テトラキス(2,4−ジアルキルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト(アルキル基の炭素数は1〜30)等のホスホナイト;4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルベンジルホスホン酸、O−エチル−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルベンジル)ホスホン酸、O−(2−エチルヘキシル)−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルベンジル)ホスホン酸、O−エチル−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルベンジル)ホスホン酸のカルシウム塩等のホスホン酸誘導体などが挙げられる。
上記チオエーテル系安定剤としては、例えば、ビス[2−メチル−4−(3−n−アルキルチオプロピオニルオキシ)−5−t−ブチルフェニル]スルフィド等が挙げられる。これらの有機系安定剤の中でもヒンダードフェノール系安定剤が好ましい。
【0039】
ポリアミド組成物に含まれる有機系安定剤(D)の含有率は、少なすぎると自動車用配管の耐熱老化性やポリアミド(A)の溶融安定性の向上効果が小さく、多すぎると得られる自動車用配管表面への有機系安定剤(D)のブリードアウトや製造コストアップに繋がることから、ポリアミド(A)100質量部に対して0.2〜10質量部の範囲内であり、0.4〜8質量部の範囲内であることが好ましい。
【0040】
ポリアミド組成物は、上記したポリアミド(A)、変性ポリオレフィン(B)、銅化合物(C)および有機系安定剤(D)のみ、または、ポリアミド(A)、変性ポリオレフィン(B)、銅化合物(C)、ハロゲン化アルカリ金属および有機系安定剤(D)のみからなっていてもよいが、機械的強度などを向上させるために、前記した成分以外に必要に応じて種々の充填剤を含んでいてもよい。このような充填剤としては、例えば、シリカ、アルミナ、タルク、カオリン、石英、ガラス、マイカ、グラファイト等の無機の粉末状充填剤;ガラス繊維、カーボン繊維、セラミック繊維、石綿繊維等の無機の繊維状充填剤などがあり、これらの充填剤は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。ポリアミド組成物に含まれる充填剤の含有率は、ポリアミド(A)100質量部に対して0.1〜20質量部の範囲内であることが好ましく、1〜10質量部の範囲内であることがより好ましい。
【0041】
また、上記のポリアミド組成物は、PA612(ポリヘキサメチレンドデカミド)、PA12(ポリドデカンアミド)等の脂肪族ポリアミドのうち上記ポリアミド(A)に該当しないもの;PA6T(ポリヘキサメチレンテレフタラミド)、PA66T(ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸およびテレフタル酸よりなるポリアミド)等の半芳香族ポリアミドのうち上記ポリアミド(A)に該当しないもの;ポリエチレン、ポリプロピレン、EPDM等のポリオレフィンのうち上記変性ポリオレフィン(B)に該当しないもの;ポリスチレン、ブタジエン−スチレン共重合体、スチレン−エチレン/ブテン−スチレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)等のスチレン系重合体;(メタ)アクリル系樹脂;ポリエステル;ポリカーボネート;ポリスルホン;ポリエーテルスルホン;ポリイミド;ポリエーテルエーテルケトン;ポリオキシメチレン;ポリフェニレンスルフィド;ポリフェニレンエーテル;ポリアリレートなどの他種ポリマーの1種または2種以上を含むことができる。ポリアミド組成物に含まれる他種ポリマーの含有率は、ポリアミド(A)100質量部に対して1〜20質量部の範囲内であることが好ましく、3〜10質量部の範囲内であることがより好ましい。
【0042】
さらに、上記のポリアミド組成物は、必要に応じて前記した成分以外に、耐熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、可塑剤、滑剤、結晶核剤、帯電防止剤、難燃剤、顔料、染料等の他の成分の1種または2種以上を含むことができる。ポリアミド組成物に含まれる当該他の成分の含有率は、ポリアミド(A)100質量部に対して0.01〜5質量部の範囲内であることが好ましく、0.05〜3質量部の範囲内であることがより好ましい。
【0043】
ポリアミド組成物において、ポリアミド(A)、変性ポリオレフィン(B)、銅化合物(C)および有機系安定剤(D)の各質量の合計の占める割合としては、50〜100質量%の範囲内であることが好ましく、80〜100質量%の範囲内であることがより好ましく、95〜100質量%の範囲内であることがさらに好ましい。
【0044】
上記のポリアミド組成物は、ポリアミド(A)、変性ポリオレフィン(B)、銅化合物(C)、有機系安定剤(D)、および、必要に応じてさらに上記したハロゲン化アルカリ金属、充填剤、他種ポリマー、他の成分等を、溶融混練等の公知の方法により均一に混合することによって製造することができる。溶融混練は、単軸押出し機、二軸押出し機、ニーダー、バンバリーミキサー等の混練機を使用して行うことができ、その際に使用する装置の種類や溶融混練条件などは特に限定されないが、例えば、約280〜350℃の範囲内の温度で1〜30分間混練することにより、上記のポリアミド組成物を得ることができる。
【0045】
本発明の自動車用配管は、上記したポリアミド組成物から形成される。本発明の自動車用配管の形状は、目的とする用途に合わせて適宜設定することができるが、例えば、外径が4〜40mmの範囲内にあり、内径が3〜39mmの範囲内にある管状とすることができる。また、本発明の自動車用配管の管壁は、波形領域の無いストレート形状であってもよいし、波形領域を有するものであってもよい。波形領域は、自動車用配管の全長にわたり形成されていても、途中の適宜の領域に部分的に形成されていてもよい。波形領域とは、波形形状、蛇腹形状、アコーディオン形状、コルゲート形状等に形成した領域である。かかる波形領域を有することにより、衝撃吸収性が向上し、取り付け性が容易となる。また本発明の自動車用配管は、例えば、コネクター等の必要な部品を付加したり、曲げ加工によりL字、U字の形状等にすることが可能である。
本発明の自動車用配管は、上記のポリアミド組成物からなる単層構造を有していてもよいが、上記のポリアミド組成物からなる層に、他種材料からなる層が積層された積層構造を有していてもよい。その場合の他種材料としては、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリチオエーテル系樹脂、ポリケトン系樹脂、ポリニトリル系樹脂、ポリメタクリレート系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、セルロース系樹脂、フッ素系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、熱可塑性ポリウレタン樹脂、ポリアミド系樹脂などを挙げることができる。これらの中でも、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリチオエーテル系樹脂、フッ素系樹脂、ポリアミド系樹脂が好ましく使用される。
【0046】
本発明の自動車用配管の製造方法は、特に制限されないが、押出し成形機を使用して、上記したポリアミド組成物を管状に押出す方法を好ましく採用することができる。押出し機のシリンダー温度は、ポリアミドの融点よりも10〜60℃高い温度であることが好ましい。
【0047】
本発明の自動車用配管は、自動車の各種配管用途に使用することができるが、低吸水性、耐熱性、摺動性、耐薬品性、ガソリンバリア性等の各種特性に優れるとともに、押出し成形法によっても発泡を生じない溶融安定性に優れるポリアミド組成物から形成されることにより成形時の発泡に由来する気泡に基く力学強度の低下がなく、また、耐熱老化性にも優れることから、特に、使用環境温度が高温となりやすい自動車の冷却系配管や、ガソリンバリア性が要求される燃料系配管をはじめ、エンジンオイル、ブレーキオイル、パワーステアリング用オイル等の各種オイルを輸送するために使用されるオイル系配管や、エアコン系配管などとして好ましく使用することができる。
【実施例】
【0048】
以下に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例および比較例において、ポリアミド(A)の融点の測定、ポリアミド(A)の極限粘度の測定、試験片の作製、耐熱老化性の評価、押出し成形性の評価は以下に説明するように行った。
【0049】
ポリアミド(A)の融点の測定
示差走査熱量分析装置(DSC)を使用して、ポリアミド(A)(試料質量10mg)をDSCの炉の中で、窒素雰囲気下、330℃で2分間加熱して完全に融解させた後、−50℃/分の速度で50℃まで冷却し、再び10℃/分の速度で昇温した時に現れる結晶の融解ピークの位置を測定し、これを融点とした。ピークが複数ある場合は高温側の融点を採用した。
【0050】
ポリアミド(A)の極限粘度の測定
濃度が0.05g/dl、0.1g/dl、0.2g/dlおよび0.4g/dlであるポリアミド(A)の濃硫酸溶液を調製し、それぞれの濃硫酸溶液について、ウベローデ粘度計を使用して30℃における溶液粘度を測定した。得られた濃度と溶液粘度の関係から濃度0g/dlに外挿した際の溶液粘度を求めて、これを極限粘度〔η〕とした。
【0051】
試験片の作製
下記の実施例または比較例で得られたポリアミド組成物のペレットを用いて、日精樹脂工業株式会社製の80トン射出成形機を使用して、シリンダー温度300℃および金型温度150℃の条件下で、耐熱老化性評価用のISO多目的試験片Aを作製した。
【0052】
耐熱老化性の評価
上述のように作製した試験片を、170℃の温度の熱風乾燥機に500時間熱処理した後、ISO527−1に従って、23℃の温度でオートグラフ(株式会社島津製作所製)を使用して引張り降伏強さを測定し、熱処理前の試験片の引張り降伏強さに対する保持率(引張り強さ保持率)を算出し、耐熱老化性の指標とした。
【0053】
押出し成形性の評価
下記の実施例または比較例で得られたポリアミド組成物のペレットを用いて、株式会社プラ技研製の押出し成形機を使用して、シリンダー温度300℃の条件下で、ポリアミド組成物からなる単層構造の配管(外径:14mm、内径:13mm)を成形し、配管の管壁内部に気泡が認められない場合には「○」、配管の管壁内部に気泡が確認された場合には「×」として押出し成形性を評価した。
【0054】
以下の実施例および比較例では、下記のポリアミド(A)、変性ポリオレフィン(B)、銅化合物(C)、有機系安定剤(D)、ハロゲン化アルカリ金属および充填剤を使用した。
【0055】
〔ポリアミド(A)〕
テレフタル酸単位と、1,9−ノナンジアミン単位および2−メチル−1,8−オクタンジアミン単位(1,9−ノナンジアミン単位:2−メチル−1,8−オクタンジアミン単位=50:50(モル比))とからなり、極限粘度〔η〕(濃硫酸中、30℃で測定)が1.60dl/g、融点が265℃、末端封止率が90%以上(末端封止剤:安息香酸)のポリアミド。
〔変性ポリオレフィン(B)〕
三井化学株式会社製:「タフマー MH7020」(商品名)、無水マレイン酸変性エチレン−ブテン共重合体
〔銅化合物(C)〕
和光純薬工業株式会社製:ヨウ化第一銅
〔有機系安定剤(D)〕
住友化学株式会社製:「Sumilizer GA−80」(商品名)、3,9−ビス[2−〔3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニロキシ〕−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン(ヒンダードフェノール系安定剤)
〔ハロゲン化アルカリ金属〕
和光純薬工業株式会社製:ヨウ化カリウム
〔充填剤〕
富士タルク工業株式会社製:「PKP−80」(商品名)、タルク
【0056】
[実施例1〜6および比較例1〜5]
ポリアミド(A)、変性ポリオレフィン(B)、銅化合物(C)、有機系安定剤(D)、ハロゲン化アルカリ金属および充填剤を表1および2に示す割合で予備混合した後、得られた混合物を二軸押出し成形機(株式会社プラ技研製)に供給し、シリンダー温度300〜320℃の条件下で溶融混練することによりポリアミド組成物をペレットとして得た。得られたポリアミド組成物について、耐熱老化性、押出し成形性を上記方法で評価した。得られた結果を表1および2に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
【表2】

【0059】
表1から分かるように、実施例1〜6では引張り強さ保持率が高くて優れた耐熱老化性を有し、また押出し成形機により配管を成形した際に配管の管壁内部に気泡が認められず押出し成形性も良好であった。これに対し、表2に示されているとおり、比較例1および2では変性ポリオレフィン(B)を使用していないので、耐熱老化性が悪く、押出し成形機により成形された配管の管壁内部に気泡が確認され押出し成形性が悪かった。また、銅化合物(C)の配合量を増やした比較例3では、耐熱老化性は優れるものの、押出し成形性が依然として悪かった。比較例4では変性ポリオレフィン(B)および銅化合物(C)を所定量含有しており、押出し成形性は良好であったが、有機系安定剤を含まないため、耐熱老化性に劣っていた。比較例5では変性ポリオレフィン(B)、銅化合物(C)および有機系安定剤(D)を含有するものの、銅化合物(C)の含有率が多すぎるため、押出し成形機により成形された配管の管壁内部に気泡が確認され押出し成形性が悪かった。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の自動車用配管は、低吸水性、耐熱性、摺動性、耐薬品性、ガソリンバリア性等の各種特性に優れるとともに、押出し成形法によっても発泡を生じない溶融安定性に優れるポリアミド組成物から形成されることにより成形時の発泡に由来する気泡に基く力学強度の低下がなく、また、耐熱老化性にも優れることから、特に、使用環境温度が高温となりやすい自動車の冷却系配管、または、ガソリンバリア性が要求される燃料系配管等への利用に適している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
濃硫酸中30℃で測定した極限粘度が0.6〜2.0dl/gであり、融点が260℃以上であるポリアミド(A)100質量部に対して、変性ポリオレフィン(B)を1〜30質量部、銅化合物(C)を銅原子換算で0.005〜0.025質量部、および有機系安定剤(D)を0.2〜10質量部含んでなるポリアミド組成物から形成される自動車用配管。
【請求項2】
ポリアミド(A)の濃硫酸中30℃で測定した極限粘度が1.0〜2.0dl/gである請求項1に記載の自動車用配管。
【請求項3】
ポリアミド(A)が、テレフタル酸単位を30〜100モル%含有するジカルボン酸単位と炭素数6〜18の脂肪族ジアミン単位を50〜100モル%含有するジアミン単位とを有する請求項1または2に記載の自動車用配管。
【請求項4】
炭素数6〜18の脂肪族ジアミン単位が、1,9−ノナンジアミン単位および/または2−メチル−1,8−オクタンジアミン単位である請求項3に記載の自動車用配管。
【請求項5】
有機系安定剤(D)がヒンダードフェノール系安定剤である請求項1〜4のいずれか1項に記載の自動車用配管。
【請求項6】
上記ポリアミド組成物がハロゲン化アルカリ金属をさらに含む請求項1〜5のいずれか1項に記載の自動車用配管。
【請求項7】
自動車用配管が燃料系配管または冷却系配管である請求項1〜6のいずれか1項に記載の自動車用配管。

【公開番号】特開2010−202724(P2010−202724A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−47697(P2009−47697)
【出願日】平成21年3月2日(2009.3.2)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】