説明

自動車用電線の線材選択方法および自動車用電線

【課題】電線径に応じて適した特性を有するアルミニウムを選択し、電線径にかかわらず十分な強度を有するアルミニウム電線とする。
【解決手段】0.75sq〜1.5sqの範囲で閾値を設定し、該閾値以上の径の電線には線材として純アルミニウムを用いる一方、前記閾値より小径の電線には線材として引張強度が200MPa以上のアルミニウム合金(例えば、Al−Mg系アルミニウム合金(5000系アルミニウム)、Al−Mg−Si系アルミニウム合金(6000系アルミニウム)を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用電線の線材選択方法および自動車用電線に関し、詳しくは、自動車用電線の線材としてアルミニウムを用い、電線径に応じて適した特性を有するアルミニウムを選択するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車用のワイヤハーネスに用いられる電線は、線材として軟銅を用いているのが一般的である。
近年、自動車業界では環境対策の一環として自動車の燃費向上が図られており、自動車に配索されるワイヤハーネスの軽量化が強く求められている。
しかしながら、銅電線は重量が重く、自動車に求められる軽量化の要求に十分に対応することができないという問題がある。
そこで、銅電線に代えてアルミニウム電線を用いて軽量化を図ることが考えられているが、純アルミニウムは強度面で軟銅に劣り、アルミニウム合金は一般的に強度は優れているが導電率が軟銅に劣る問題がある。
【0003】
そこで、本出願人は、特開2006−12468号公報(特許文献1)において、アルミニウム合金線の周囲に純アルミニウム線を複数撚り合わせた複合構造を有するアルミニウム細物電線を提供している。
特許文献1で提供しているアルミニウム細物電線では、1本の電線に導電率に優れた純アルミニウム線と強度に優れたアルミニウム合金線を用いて、純アルミニウムとアルミニウム合金の互いの弱点を補って導電率と強度に優れたアルミニウム細物電線を実現している。
しかしながら、前記アルミニウム細物電線では、1本の電線に2種類の線材を用い、アルミニウム合金線の周囲に純アルミニウム線を撚り合わせているため、製造工程およびコストが増大し、この点で改善の余地がある。
【0004】
【特許文献1】特開2006−12468号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は前記問題に鑑みてなされたものであり、電線径に応じて適した特性を有するアルミニウムを選択し、電線径にかかわらず十分な強度を有するアルミニウム電線とすることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、本発明は、0.75sq〜1.5sqの範囲で閾値を設定し、該閾値以上の径の電線には線材として純アルミニウムを用いる一方、前記閾値より小径の電線には線材として引張強度が200MPa以上のアルミニウム合金を用いることを特徴とする自動車用電線の線材選択方法を提供している。
【0007】
自動車用ワイヤハーネスの電線の線材としてアルミニウムを用いる場合、電線の軽量化を図ると共に大径化を最小限に抑えるには、導電率の高い純アルミニウムを用いることが好ましい。しかしながら、純アルミニウムは強度で劣るため、大径の電線であれば純アルミニウムであっても十分な強度を得ることができるが、小径の電線であると純アルミニウムでは自動車で使用するには十分な強度が得られない問題がある。
そこで、本発明者は、鋭意研究の結果、1sq程度の純アルミニウム電線の引張強度が0.35sqの銅電線の引張強度に相当することを見出し、この点に着目した。0.35sqの銅電線は自動車用ワイヤハーネスとして実際に使用されており、これに相当する引張強度を有する電線であれば自動車用ワイヤハーネスとして用いることができる。
よって、本発明では、1sq程度の0.75sq〜1.5sqを純アルミニウムを用いる閾値とし、この閾値以上の径の電線には線材に純アルミニウムを用いる一方、この閾値より小径の電線には線材に純アルミニウムよりも強度に優れたアルミニウム合金を用いることとした。
【0008】
前記方法によれば、線材として純アルミニウムが選択された電線であっても必ず0.35sqの銅電線と同等以上の強度を持たせることができる一方、線材としてアルミニウム合金が選択された電線は引張強度が200MPa以上のアルミニウム合金としているため、十分な強度を得ることができる。また、強度面からみて可能な範囲では全て線材を純アルミニウムとしているため、効率良く軽量化することができると共に、電線の大径化を最小限に抑えることができる。
このように、前記方法に従って線材を選択すれば、電線径にかかわらず自動車で用いるのに十分な強度を有する電線とすることができ、線材として軟銅ではなくアルミニウムを用いているため、電線を軽量化することができる。
また、前記方法に従って線材を選択すれば、1本の電線に複数種類の線材を用いることなく、1種類の線材で十分な導電率と強度を有する電線を形成することができ、特許文献1と比較して製造工程およびコストを低減することができる。
なお、引張強度が200MPa以上のアルミニウム合金としているのは、軟銅の引張強度が230MPa程度であり、軟銅の代わりに用いるアルミニウム合金の引張強度が200MPa以上であれば、小径の電線であっても十分な強度が得られることによるものである。
【0009】
前記閾値は、0.75sq〜1.0sqの範囲で設定していることが好ましく、さらには、前記閾値を1.0sqとしていることが最も好ましい。
前記閾値を1.0sqとすると、全ての径の電線において純アルミニウムとアルミニウム合金のうち最適な線材を選択することができる。
【0010】
前記アルミニウム合金はAl−Mg系アルミニウム合金(5000系アルミニウム)またはAl−Mg−Si系アルミニウム合金(6000系アルミニウム)であることが好ましい。
前記5000系アルミニウムと6000系アルミニウムは、軟銅と略同程度の引張強度を有するため、0.75sq〜1.5sqの範囲で設定した閾値よりも小径の電線の線材として用いるのに好適である。
なお、アルミニウム合金は5000系アルミニウム、6000系アルミニウムに限らず、Al−Cu系アルミニウム合金(2000系アルミニウム)、Al−Zn−Mg系アルミニウム合金(7000系アルミニウム)であってもよいが、加工性の良さから5000系アルミニウム、6000系アルミニウムが適している。
【0011】
また、本発明は、前記線材選択方法により選択された線材を用いていることを特徴とする自動車用電線を提供している。
前記電線であれば、前記のように軽量化を図ることができると共に、該電線を自動車用ワイヤハーネスとして用いることにより、自動車に搭載する銅の量を低減でき、自動車廃棄時のリサイクル鉄鋼材の品質向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0012】
前述したように、本発明の方法に従って線材を選択することにより、電線径にかかわらず自動車で用いるのに十分な強度を有するアルミニウム電線とすることができ、線材として軟銅ではなくアルミニウムを用いているため、電線を軽量化することができる。
また、前記方法により線材が選択された電線を自動車用ワイヤハーネスとして用いることにより、自動車の軽量化が可能となり、自動車の燃費を向上させることができると共に、自動車に搭載する銅の量を低減でき、自動車廃棄時のリサイクル鉄鋼材の品質向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本実施形態では、自動車用のワイヤハーネスに用いる電線の線材を径に応じて選択している。選択される線材は、純アルミニウムまたはアルミニウム合金であり、1本の電線に純アルミニウムまたはアルミニウム合金のいずれか一方を選択し、1本の電線に純アルミニウムとアルミニウム合金を併用することはしない。
【0014】
電線の線材に純アルミニウムを選択するか、アルミニウム合金を選択するかの閾値を電線径1.0sqとし、電線径が1.0sq以上となる電線(例えば、1.0sq、1.5sq、2.0sq、3.0sqの電線)の線材には純アルミニウムを用いる一方、電線径が1.0sqよりも小径となる電線(例えば、0.35sq、0.5sq、0.75sqの電線)の線材にはアルミニウム合金を用いている。
【0015】
本実施形態では、アルミニウム合金として、5000系アルミニウム(Al−Mg系合金)を用いおり、該5000系アルミニウムは引張強度が200〜300MPaである。
【0016】
前記純アルミニウムを線材とした電線では、純アルミニウムからなる素線を撚り合わせて外周面に絶縁材を被覆する一方、前記アルミニウム合金を線材とした電線では、アルミニウム合金からなる素線を撚り合わせて外周面に絶縁材を被覆している。
【0017】
図1のグラフは、電線の導体断面積と強度(破断荷重)との関係を示す。
図1のグラフでは、本実施形態で用いた純アルミニウムを線材とした電線、本実施形態で用いた5000系アルミニウムを線材とした電線、参考例として6000系アルミニウムを線材とした電線の導体断面積と強度との関係をそれぞれ示している。
また、図1のグラフ中に、破線で示した横線は、0.35sqの銅電線の引張強度を示す。
なお、引張強度の測定は、JISZ2241あるいはJISC3002に準拠して実施した。
【0018】
図1のグラフより明らかなように、純アルミニウムを線材とした電線であっても、1.0sq以上であれば、0.35sqの銅電線と同等以上の強度を得ることができ、自動車用のワイヤハーネスとして用いることができる。
一方、アルミニウム合金を線材とした小径の電線も、いずれの径でも0.35sqの銅電線と同等以上の強度を得ることができ、自動車用のワイヤハーネスとして用いることができる。
【0019】
前記方法に従って線材を選択することにより、電線径にかかわらず自動車で用いるのに十分な強度を有するアルミニウム電線とすることができ、線材として軟銅ではなくアルミニウムを用いているため、電線を軽量化することができる。
また、前記方法により線材が選択された電線を自動車用ワイヤハーネスとして用いることにより、自動車を軽量化できると共に、自動車に搭載する銅の量を低減でき、自動車廃棄時のリサイクル鉄鋼材の品質向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】純アルミニウムおよびアルミニウム合金の導体断面積と強度の関係を示す図面である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.75sq〜1.5sqの範囲で閾値を設定し、該閾値以上の径の電線には線材として純アルミニウムを用いる一方、前記閾値より小径の電線には線材として引張強度が200MPa以上のアルミニウム合金を用いることを特徴とする自動車用電線の線材選択方法。
【請求項2】
前記閾値を1.0sqとしている請求項1に記載の自動車用電線の線材選択方法。
【請求項3】
前記アルミニウム合金はAl−Mg系アルミニウム合金(5000系アルミニウム)またはAl−Mg−Si系アルミニウム合金(6000系アルミニウム)である請求項1または請求項2に記載の自動車用電線の線材選択方法。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の線材選択方法により選択された線材を用いていることを特徴とする自動車用電線。

【図1】
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【公開番号】特開2009−26695(P2009−26695A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−191057(P2007−191057)
【出願日】平成19年7月23日(2007.7.23)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】