説明

自動食器洗い機用洗浄剤組成物

【課題】 本発明は、食器表面にこびりついた卵由来の頑固なタンパク汚れに対しても優れた洗浄力を発揮するとともに、保存安定性に優れ、水溶液にして使用した場合に各種金属に対する腐食性が低く、しかも高濃度水溶液にしても刺激臭を発生しない自動食器洗い機用洗浄剤組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】 ジクロロイソシアヌル酸塩と粒子表面のみを低水和化処理したメタケイ酸ナトリウム五水和物とを必須成分として含有する自動食器洗い機用洗浄剤組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
自動食器洗い機用の洗浄剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、一般家庭等にも自動食器洗い機が急速に普及してきており、これに伴い自動食器洗い機専用の洗浄剤組成物の開発も盛んに行われるようになってきている。
最近の自動食器洗い機用の洗浄剤組成物には、過炭酸塩、過ホウ酸塩が用いられている。これらの過炭酸塩、過ホウ酸塩は、衣料、食器に対して有効な漂白効果を発揮する酸素系漂白剤として知られており(例えば、特許文献1参照。)、また、義歯についた歯石を効果的に除去する義歯洗浄剤としても応用されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0003】
しかしながら、上記文献1〜2に記載される洗浄剤組成物等は、食器表面にこびり付いた、卵由来の頑固なタンパク汚れに対しては、その洗浄効果は未だ十分とはいえない点に課題があり、頑固なタンパク汚れに対しても優れた洗浄力を発揮する自動食器洗い機用洗浄剤組成物の出現が切望されているのが現状である。
【特許文献1】特開昭61−213299号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開2001−288062号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明に使用されているジクロロイソシアヌル酸塩を水に溶かした液の性能面における長所は、各種細菌類に対する除菌力が確実なことである。その反面、欠点としては反応性が著しいため、保存安定性が低いとともに、金属に対する腐食性が激しく、金属類が多く存在する条件での除菌には利用しにくい点が挙げられる。また、水溶液濃度を高くした場合に、強い刺激臭を発生するといった使用場面における環境面での欠点も挙げられる。よって、保存安定性が高いとともに、腐食抑制能力を確保すること、及び水溶液濃度を高くしても刺激臭を発生しないことが、実用化のための必須条件である。
【0005】
本発明は、上記従来技術の課題及び現状等に鑑み、これを解消しようとするものであり、食器表面にこびりついた卵由来の頑固なタンパク汚れに対しても優れた洗浄力を発揮するとともに、保存安定性に優れ、水溶液にして使用した場合に各種金属に対する腐食性が低く、しかも高濃度水溶液にしても刺激臭を発生しない自動食器洗い機用洗浄剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ジクロロイソシアヌル酸塩と粒子表面のみを低水和化処理したメタケイ酸ナトリウム五水和物とを必須成分として含有する、自動食器洗い機用洗浄剤組成物である。
【0007】
好ましい形態は、以下の通りである。
【0008】
ジクロロイソシアヌル酸塩がジクロロイソシアヌル酸ナトリウムであること。 ジクロロイソシアヌル酸塩100質量部に対して、メタケイ酸ナトリウム五水和物の配合量が、150質量部以上であること。
【0009】
ジクロロイソシアヌル酸塩100質量部に対して、メタケイ酸ナトリウム五水和物の配合量が、150質量部以上、かつ2000質量部以下であること。
【0010】
組成物の1質量%水溶液のpHが11以上であること。
【0011】
組成物中のジクロロイソシアヌル酸塩の配合量が、0.5〜40質量%であること。
【0012】
組成物中のジクロロイソシアヌル酸塩の配合量が、3〜40質量%であること。
【発明の効果】
【0013】
本発明の組成物は、食器表面にこびりついた卵由来の頑固なタンパク汚れに対して優れた洗浄力を発揮するとともに、水に溶かして使用した場合の金属腐食性及び刺激臭の発生が極めて少なく、保存安定性に優れている。
【0014】
ジクロロイソシアヌル酸塩を水に溶かした液の除菌力については、十分な効果があることは知られている。しかし金属腐食性及び高濃度水溶液からの刺激臭の発生については、これまで十分な対策がなかったことから、利用できる範囲が限定されていた。本発明により、従来の常識は変更されることになり、ジクロロイソシアヌル酸塩の殺菌力を高濃度水溶液のかたちでも、幅広く有効に利用できることになった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明について、以下に説明する。
【0016】
ジクロロイソシアヌル酸塩を水に溶かして使用した場合の金属防錆及び、高濃度水溶液からの刺激臭発生防止を目的として、組成物中に必須成分として、ジクロロイソシアヌル酸塩と粒子表面のみを低水和化処理したメタケイ酸ナトリウム五水和物(メタケイ酸ナトリウム5H2O:Na2O・SiO2・5H2O)とを必須成分として含有させる。
【0017】
ここで、従来のメタケイ酸ナトリウム五水和物と粒子表面のみを低水和化処理したメタケイ酸ナトリウム五水和物とは、下記の付着水分量の測定方法により識別することができる。
【0018】
付着水分量の測定方法は、日本薬局方一般試験法強熱減量試験法を参考にして、アルミナ坩堝を用いて800℃、2時間強熱乾燥した後、次式(式1)によって付着水分量(水和物水分量)を算出する。
【0019】
付着水分量(%)=[1−A×(W3−W1)/(W2−W1)]×100 (式1)
上記式1の記号については、下記の通りに定める。
【0020】
A:1.7377(係数) [=212(分子質量Na2O・SiO2・5H2O)/122(分子質量Na2O・SiO2)]
W1:坩堝質量(g)
W2:強熱乾燥前のW1と試料精秤量との合計質量(g)
W3:強熱乾燥後のW1と試料精秤量との合計質量(g)
前記式1による、本発明に使用される粒子表面のみを低水和化処理したメタケイ酸ナトリウム五水和物の付着水分量測定値は、−0.01〜−1.00質量%となる。
【0021】
この−0.01〜−1.00質量%は、低水和化処理によりメタケイ酸ナトリウム五水和物の粒子表面から水和物としての水が粒子表面から離脱した水分量比率に対応する。
【0022】
メタケイ酸ナトリウム五水和物の粒子表面のみを低水和化処理する方法としては、流動層式乾燥、気流式乾燥などの通気流熱風乾燥方式による乾燥方法が採用される。
【0023】
本発明の好ましい形態について、説明する。
【0024】
本発明で使用するジクロロイソシアヌル酸塩としては、例えばジクロロイソシアヌル酸のナトリウム塩、カリウム塩等が挙げられるが、好ましいものはジクロロイソシアヌル酸ナトリウムである。
【0025】
金属腐食抑制効果を確実にするとともに、高濃度水溶液からの刺激臭発生を防止するために、ジクロロイソシアヌル酸塩100質量部に対して、粒子表面のみを低水和化処理したメタケイ酸ナトリウム五水和物の配合量を、150質量部以上にして、組成物の1質量%水溶液のpHを11以上にする。また、メタケイ酸ナトリウム五水和物の配合量の上限としては、ジクロロイソシアヌル酸塩100質量部に対して、2000質量部である。
【0026】
組成物の1質量%水溶液のpHを11以上にすることにより、金属腐食抑制効果を確実にするとともに、高濃度水溶液からの刺激臭発生を防止する。
【0027】
組成物の保存安定性を高めるために、組成物中のジクロロイソシアヌル酸塩の配合量を0.5〜40質量%又は3〜40質量%にする。
【0028】
ジクロロイソシアヌル酸塩100質量部に対して、粒子表面のみを低水和化処理したメタケイ酸ナトリウム五水和物の配合量を、150質量部以上にすることにより、鉄、ステンレス、銅、真鍮、アルミニウム等の金属表面に、ケイ酸陰イオンの特異吸着が起こり、生成された吸着膜が金属表面の保護膜となることによって、金属腐食因子のアタックを防止しているものと考える。これは金属と溶液界面の電気二重層の電位に関するものである。更に、粒子表面のみを低水和化処理したメタケイ酸ナトリウム五水和物中のアルカリ分が水溶液中でジクロロイソシアヌル酸塩の有効成分である次亜塩素酸をイオン化することにより、刺激臭の発生を抑制しているものと考える。また、ジクロロイソシアヌル酸塩とメタケイ酸ナトリウム五水和物を配合した組成物は、保存安定性が決して良くない為、比較的高い温度条件で保存された場合、急激にケーキング(固結)してしまう傾向が認められるが、粒子表面のみを低水和化処理したメタケイ酸ナトリウム五水和物を使用し、ジクロロイソシアヌル酸塩配合量を3〜40質量%にすることにより、これを抑えることができる。粒子表面のみを低水和化処理したメタケイ酸ナトリウム五水和物は、市販品として容易に入手できる。
【実施例】
【0029】
以下、実施例及び比較例を挙げて更に詳しく本発明を説明するが、本発明の技術的範囲はこれによって制限されるものではない。
【0030】
ここでは、メタケイ酸ナトリウム五水和物(未処理品)として、商品名「メタ珪酸ソーダ5水塩」(三宝化学工業株式会社製)を使用した。一方、粒子表面のみを低水和化処理したメタケイ酸ナトリウム五水和物(乾燥処理品)として、商品名「メタエース5(高流動性5水和物)」(三宝化学工業株式会社製)を使用した。前記の付着水分量の測定方法では、使用した「メタ珪酸ソーダ5水塩」(三宝化学工業株式会社製)の付着水分量は、1.09質量%を示した。また、使用した「メタエース5(高流動性5水和物)」(三宝化学工業株式会社製)の付着水分量は、−0.51質量%を示した。
【0031】
実施例1〜7及び比較例1〜2では、表1に示す配合の組成物を作成し、以下の評価を行った。
【0032】
[金属腐食試験]
有効塩素濃度が1000ppmになるように、表1に示す実施例1〜7及び比較例1〜2の組成物をそれぞれ蒸留水に溶解し、この溶解液をポリ容器に入れ、各種金属のテストピースを浸漬した状態で密閉し、40℃、24時間保存する。保存後の腐食度を測定し、腐食度の格付けを決定した。結果を表1に示す。
【0033】
腐食度:腐食によるテストピースの減少質量(mdd:mg/dm2・d)
腐食度は次の基準(格付け)で分類した。
【0034】
A(優良):0〜10、B(可)10〜50、C(否)>100。
【0035】
[1%水溶液のpH測定]
表1に示す実施例1〜7及び比較例1〜2の組成物をそれぞれ蒸留水に溶解し、1%水溶液を作成後、pHを測定した。結果を表1に示す。
【0036】
[刺激臭確認試験]
有効塩素濃度が1000ppmになるように、表1に示す実施例1〜7及び比較例1〜2の組成物をそれぞれ蒸留水に溶解し、この溶解液をポリ容器に入れ、密閉した状態で温度40℃にて、それぞれ2時間、4時間、6時間保存後の刺激臭発生量を塩素ガス検知管にて測定した。結果を表1に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
実施例8〜9及び比較例3〜4では、表2に示す配合の組成物を作成し、以下の評価を行った。
【0039】
[安定性試験]
表2に示す実施例8〜9の組成物及び比較例3〜4の組成物を、それぞれアルミ袋(15cm×10cm)に100g充填し、ヒートシールした後、55℃条件で密閉保存し、それぞれ24時間、48時間保存後にケーキングの有無を確認した。結果を表2に示す。
【0040】
【表2】

【0041】
表3に示す実施例10の組成物及び、比較例5として、界面活性剤(ポリオキシアルキレンアルキルエーテル)、アルカリ剤(炭酸塩)、水軟化剤(クエン酸塩)、工程剤(芒硝)、漂白剤、酵素が配合されている市販の自動食器洗い機用洗浄剤を用いて、以下の評価を行った。
【0042】
[洗浄力評価]
食器汚れの代表であるタンパク(卵)、デンプン(白米)、ラード(牛脂)を、それぞれ約0.2gスライドガラス(76mm×26mm)に塗り、乾燥させたものを被洗浄体のサンプルとした。試験液は、蒸留水1リットル当たり実施例10及び比較例5をそれぞれ1.5g溶解させ、60℃に温めたものを使用した。各試験液にスライドガラスを浸漬し、15分間撹拌(240rpm)後、蒸留水の入ったビーカー中で、スライドガラスを軽く洗浄し室温で乾燥する。洗浄力効果を下記の判定基準で評価するとともに、試験前後のスライドガラスの重量を測定し、下記の計算式により、汚れ除去率を算出した。結果を表3に示す。
【0043】
判定基準:
○…大半の汚れが除去されていた △…半分程度の汚れが除去されていた ×…大半の汚れが除去されずに残っていた
汚れ除去率(%)=(W1−W2)/(W1−W3) × 100 (式2)
上記式2の記号については、下記の通りに定める。
【0044】
W1:各汚れ成分を塗った試験前のスライドガラスの重量(g)
W2:試験後のスライドガラスの重量(g)
W3:各汚れ成分を塗る前のスライドガラスの重量(g)
[漂白力評価]
5cm角の紅茶汚染布(EMPA165) を被漂白体のサンプルとした。試験液は、蒸留水1リットル当たり実施例10及び比較例5をそれぞれ1.5g溶解させ、60℃に温めたものを使用した。各試験液に汚染布を浸漬し15分間撹拌(240rpm)後、蒸留水の入ったビーカー中で汚染布を軽く濯ぎ、室温で乾燥する。漂白力効果を下記の判定基準で評価するとともに、汚染布の白色度を色差計(東京電飾製カラーアナライザーTC−1800MKII)で測定する。結果を表3に示す。
【0045】
判定基準:
○…充分漂白されていた △…半分程度漂白されていた ×…僅かに漂白されていた
【0046】
【表3】

【0047】
表1〜表3に示すように、本発明の組成物は、食器表面にこびりついた卵由来の頑固なタンパク汚れに対して優れた洗浄力を発揮するとともに、水に溶かして使用した場合の金属腐食性及び刺激臭の発生が極めて少なく、保存安定性に優れている。
【0048】
従前より、ジクロロイソシアヌル酸塩を水に溶かした液の除菌力については、十分な効果があることは知られていた。しかしながら、金属腐食性及び高濃度水溶液からの刺激臭の発生については、これまで十分な対策法がなかったことから、利用できる範囲が限定されていた。本発明により、食器表面にこびりついた卵由来の頑固なタンパク汚れに対して優れた洗浄力を発揮するとともに、保存安定性に優れ、水溶液にして使用した場合に各種金属に対する腐食性が低く、しかも高濃度水溶液にしても刺激臭を発生しない自動食器洗い機用洗浄剤組成物の提供が可能となった。これにより、特定用途のみに利用範囲が限定されていたジクロロイソシアヌル酸塩の水溶液が有する殺菌力を、金属類が多く存在する条件下や、高濃度水溶液形態などにおいても、幅広く有効に利用できることとなり、該水溶液の用途の拡大が期待できることとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジクロロイソシアヌル酸塩と粒子表面のみを低水和化処理したメタケイ酸ナトリウム五水和物とを必須成分として含有する、自動食器洗い機用洗浄剤組成物。
【請求項2】
ジクロロイソシアヌル酸塩がジクロロイソシアヌル酸ナトリウムである、請求項1に記載の自動食器洗い機用洗浄剤組成物。
【請求項3】
ジクロロイソシアヌル酸塩100質量部に対して、メタケイ酸ナトリウム五水和物の配合量が、150質量部以上である、請求項1に記載の自動食器洗い機用洗浄剤組成物。
【請求項4】
ジクロロイソシアヌル酸塩100質量部に対して、メタケイ酸ナトリウム五水和物の配合量が、150質量部以上、かつ2000質量部以下である、請求項1に記載の自動食器洗い機用洗浄剤組成物。
【請求項5】
組成物の1質量%水溶液のpHが11以上である、請求項1に記載の自動食器洗い機用洗浄剤組成物。
【請求項6】
組成物中のジクロロイソシアヌル酸塩の配合量が、0.5〜40質量%である、請求項1に記載の自動食器洗い機用洗浄剤組成物。

【公開番号】特開2007−217568(P2007−217568A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−40167(P2006−40167)
【出願日】平成18年2月17日(2006.2.17)
【出願人】(000003986)日産化学工業株式会社 (510)
【Fターム(参考)】