説明

自己リン酸化受容体のアゴニスト、アンタゴニストのスクリーニング方法、遺伝子組換え酵母

【課題】スクリーニングの時間短縮および作業効率向上のために、酵母を利用したハイスループットスクリーニング系を提供する。
【解決手段】アゴニストのスクリーニング方法を提供し、該方法は、受容体を発現し、そしてランダム化したアゴニスト候補物質を細胞表層に提示する酵母を得る工程;および 発現した該アゴニスト候補物質が該受容体に結合している酵母を検出する工程、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、受容体にアゴニストが結合したときに自己リン酸化(プロテインキナーゼ)作用が活性化される受容体を酵母で発現させ、該受容体に結合する物質(アゴニスト、アンタゴニスト)をスクリーニングする方法、遺伝子組換え酵母、キット及びコンビネーションに関する。
【背景技術】
【0002】
受容体の多くは細胞膜に存在し、外部の刺激を認識して情報を伝達するための構造を有している。
【0003】
受容体として、Gタンパク質共役型受容体(GPCR)を酵母に組み込んだアゴニストのハイスループットスクリーニング系が知られている(特許文献1,2)。
【特許文献1】特開2005-176605
【特許文献2】WO2006/104254
【非特許文献1】Kim YS, Bhandari R, Cochran JR, Kuriyan J, Wittrup KD. Proteins. 2006 Mar 1;62(4):1026-35.
【非特許文献2】T Yi, A L Mui, G Krystal, and J N Ihle, Mol Cell Biol. 1993 December; 13(12): 7577-7586 (共通IL-3受容体ベータ鎖(IL-5受容体のベータ鎖)のリン酸化がアゴニストに依存して起こることを示す)。
【非特許文献3】Pratt JC, Weiss M, Sieff CA, Shoelson SE, Burakoff SJ, Ravichandran KS. J Biol. Chem. 1996 May 24;271(21):12137-40 (JAK2によりリン酸化されたベータ鎖が、Shcアダプタータンパク質と結合することを示す)
【非特許文献4】Giordano V, De Falco G, Chiari R, Quinto I, Pelicci PG, Bartholomew L, Delmastro P, Gadina M, Scala G. J Immunol. 1997 May 1;158(9):4097-4103 (JAK2によりリン酸化されたgp130が、Shcアダプタータンパクと結合することを示す。)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
EGF、IL-5などの自己リン酸化型受容体は生体の基礎的機能において重要であり、例えば抗がん剤としてEGF受容体の作用するゲフィチニブが上市されている。
【0005】
一方、自己リン酸化型受容体に対するアゴニスト/アンタゴニストのハイスループットスクリーニング系は確立されていなかった。
【0006】
本発明は、自己リン酸化型受容体に対するアゴニスト/アンタゴニストのハイスループットスクリーニング系を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
Gタンパク質共役型受容体(GPCR)は、本来酵母にも存在するものであり、哺乳類のGPCRを酵母で発現可能であると予測される。実際、特許文献1,2では、酵母に本来存在するGPCRの三量体Gタンパク質を利用し、GPCRに対するアゴニスト/アンタゴニストのスクリーニングを行っている。
【0008】
一方、自己リン酸化型受容体と該受容体のリン酸化部位を認識可能なアダプタータンパク質は酵母に存在しないため、これらを別々に発現させた場合に酵母において実際に機能するかは全く予測できなかった。哺乳類由来のEGF受容体のみを酵母で発現させ、その発現を抗体で確認したこと、酵母細胞で発現させた細胞外ドメインのみを有するEGF受容体の欠失変異体は、EGFと結合できることを報告している (非特許文献1)。しかしながら、該受容体が酵母で実際に機能することは確認されておらず、また、アダプタータンパク質は同時発現されていない。従って、非特許文献1では、アゴニスト/アンタゴニストのスクリーニングを行う方法は一切開示されていない。
【0009】
本発明では、上記の問題点を解決する手段として、哺乳類由来の自己リン酸化型受容体を発現した改変型酵母細胞を用いたスクリーニングシステムを提供する。
1. アゴニスト/アンタゴニストのスクリーニング方法であって、哺乳類の自己リン酸化型受容体と、リン酸化された該受容体を認識可能なアダプタータンパク質を共発現する酵母に前記受容体のアゴニスト/アンタゴニスト候補物質を作用させ、該アゴニスト/アンタゴニスト候補物質が該受容体に結合している酵母を検出する工程を含み、前記自己リン酸化型受容体がリガンドの結合により多量体化して、受容体自身のキナーゼ作用もしくは受容体に構成的に結合するチロシンキナーゼの作用により受容体自身および/または受容体に構成的に結合するチロシンキナーゼがリン酸化される、方法。
2. 前記自己リン酸化型受容体が、リガンドの結合により多量体化して、受容体自身のキナーゼ作用により受容体自身がリン酸化される、項1に記載の方法。
3. 前記自己リン酸化型受容体がリガンドの結合により多量体化して、受容体に構成的に結合するチロシンキナーゼの作用により受容体自身と受容体に構成的に結合するチロシンキナーゼの両方がリン酸化される、項1に記載の方法。
4. アゴニスト/アンタゴニストのスクリーニング方法であって、哺乳類の自己リン酸化型受容体を発現する酵母に前記受容体のアゴニスト/アンタゴニスト候補物質を作用させ、該アゴニスト/アンタゴニスト候補物質が該受容体に結合している酵母を検出する工程を含み、
前記自己リン酸化型受容体がアゴニストの結合により多量体化して、受容体自身のキナーゼ作用もしくは受容体に構成的に結合するチロシンキナーゼの作用により受容体自身もしくは受容体に構成的に結合するチロシンキナーゼがリン酸化され、
前記リン酸化の検出は、前記酵母の細胞壁を溶解し、細胞壁溶解酵母に前記リン酸化を検出可能な抗体を作用させることにより行なう、
方法。
5. 前記自己リン酸化型受容体がアゴニストの結合により多量体化して、受容体自身のキナーゼ作用により受容体自身がリン酸化される、項4に記載の方法。
6. 前記自己リン酸化型受容体がアゴニストの結合により多量体化して、受容体に構成的に結合するチロシンキナーゼの作用により受容体自身と受容体に構成的に結合するチロシンキナーゼの両方がリン酸化される、項4に記載の方法。
7. 哺乳類の自己リン酸化型受容体は、
(i)受容体自身が自己リン酸化作用を有するか、或いは、
(ii)gp130またはβcを共有し、かつ、チロシンキナーゼがgp130またはβcに構成的に結合し、該チロシンキナーゼの作用によりチロシンキナーゼ自身とgp130またはβcの両方をリン酸化する
受容体である、項1または4に記載の方法。
8. 受容体に構成的に結合するチロシンキナーゼがJAK1,JAK2またはJAK3である項1または4に記載の方法。
9. チロシンキナーゼが構成的に結合し、かつ、アゴニスト依存的に該チロシンキナーゼがリン酸化される受容体が、インターロイキン受容体のα鎖とβ鎖(βc)を含む、項1または4に記載の方法。
10. チロシンキナーゼが構成的に結合し、かつ、アゴニスト依存的に該チロシンキナーゼがリン酸化される受容体が、gp130を含む、項1または4に記載の方法。
11. アゴニストの結合により多量体化し、該アゴニストの受容体に構成的に結合するチロシンキナーゼ若しくは受容体自身が有するチロシンキナーゼの作用によりチロシンキナーゼおよび/または受容体自身がリン酸化を受ける哺乳類の自己リン酸化型受容体と、該リン酸化を酵母中で認識可能なアダプタータンパク質を共発現してなる、遺伝子組換え酵母。
12. チロシンキナーゼ作用を有し、かつ、アゴニストの結合により多量体化して自己リン酸化する哺乳類の受容体と、該受容体のリン酸化を認識可能なアダプタータンパク質を共発現する項11に記載の遺伝子組換え酵母。
13. アゴニストの結合により多量体化するβcまたはgp130を共有する受容体と、該受容体に構成的に結合するチロシンキナーゼ(該チロシンキナーゼはアゴニストの結合によりβcまたはgp130とチロシンキナーゼ自身をリン酸化する)と、βc、gp130またはチロシンキナーゼのリン酸化を認識可能なアダプタータンパク質を共発現する項11に記載の遺伝子組換え酵母。
14. アゴニストの結合により多量体化し、該アゴニストの受容体に構成的に結合するチロシンキナーゼ若しくは受容体自身が有するチロシンキナーゼの作用によりチロシンキナーゼおよび/または受容体自身がリン酸化を受ける哺乳類の自己リン酸化型受容体と、前記リン酸化を検出可能な抗体を含む、前記受容体に対するアゴニスト/アンタゴニストをスクリーニングするためのキット。
15. 酵母の細胞壁を溶解する酵素をさらに含む項14に記載のキット。
16. アゴニストの結合により多量体化し、該アゴニストの受容体に構成的に結合するチロシンキナーゼ若しくは受容体自身が有するチロシンキナーゼの作用によりチロシンキナーゼおよび/または受容体自身がリン酸化を受ける哺乳類の自己リン酸化型受容体と、前記リン酸化を検出可能な抗体のコンビネーション。
17. アゴニストの結合により多量体化し、該アゴニストの受容体に構成的に結合するチロシンキナーゼ若しくは受容体自身が有するチロシンキナーゼの作用によりチロシンキナーゼおよび/または受容体自身がリン酸化を受ける哺乳類の自己リン酸化型受容体と、酵母の細胞壁を溶解する酵素と、前記リン酸化を検出可能な抗体のコンビネーション。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本明細書において、自己リン酸化型受容体とは、以下の2つのタイプの受容体を含む:
(a) βcもしくはgp130を共有し、アゴニストの結合により受容体とβcもしくはgp130を含む多量体を形成し、且つ、βcもしくはgp130に構成的に結合したチロシンキナーゼを活性化してβcもしくはgp130とチロシンキナーゼをリン酸化する受容体。
【0011】
(b) 受容体自身がチロシンキナーゼ作用を有し、アゴニストの結合により受容体が多量体化し、且つ、多量体化した受容体がチロシンキナーゼ作用により自己リン酸化する受容体。
【0012】
上記(a)の場合には、リガンド(アゴニスト/アンタゴニスト)が結合可能な受容体部分はリン酸化されないが、該受容体部分はβcもしくはgp130とヘテロ多量体を形成し、βcもしくはgp130とチロシンキナーゼ(βcもしくはgp130に構成的に結合する)がリン酸化され、ヘテロ多量体(受容体複合体)がリン酸化されているため、本明細書では、このような受容体も自己リン酸化型受容体という。
【0013】
「構成的に結合する」とは、チロシンキナーゼとβcもしくはgp130を酵母で別々に(キメラタンパク質ではなく)発現させた場合にもチロシンキナーゼとβcもしくはgp130が酵母内で結合/会合することを意味し、これらは別々のタンパク質として酵母中で発現されてもよく、あるいはキメラタンパク質として発現させてもよい。
【0014】
本発明の特徴は、以下の2点にある:
第1は、酵母に存在しない哺乳類由来の受容体と酵母に存在しない(哺乳類由来が好ましい)アダプタータンパク質を酵母内で同時に発現させ、これにより、非酵母受容体システムにおいても該受容体に対するアゴニストの結合によるシグナルが酵母内で正しく伝達されることを確認したことである。
【0015】
第2は、酵母に存在しない哺乳類由来の自己リン酸化型受容体を酵母内で発現させ、該受容体に対するアゴニストの結合による自己リン酸化を抗体により確認したことである。特に、酵母内におけるリン酸化を、酵母を破砕することなく細胞壁を溶解することで確認することができ、アゴニスト/アンタゴニストを確実にスクリーニングできることを本発明者は初めて明らかにした。
【0016】
本発明では、アゴニストと受容体が結合したときに引き起こされる自己リン酸化型受容体のリン酸化反応と多量体形成を以下の2つの方法で検出することによりアゴニスト/アンタゴニストのスクリーニングを可能とする(図1、図6、図7参照)。ここで、リン酸化されるのは、受容体自身がチロシンキナーゼ作用を有する受容体(例えばEGF受容体)の場合には、受容体自身であり、受容体自身はチロシンキナーゼ作用を持たず、受容体に共有される(リガンドが結合した際の受容体複合体に含まれる)βcまたはgp130にチロシンキナーゼ(例えばJAK1、JAK2、JAK3などのヤヌスキナーゼ(JAK))が構成的に結合される受容体の場合には、βcまたはgp130とチロシンキナーゼの両方である。後者の場合には、アダプタータンパク質により認識されるリン酸化はβc/gp130のリン酸化とチロシンキナーゼ自身のリン酸化のいずれであってもよいが、好ましくはアダプタータンパク質はチロシンキナーゼのリン酸化を認識する。
第1の方法:リン酸化された受容体に特異的に結合するアダプタータンパク質を哺乳類(特にヒト)由来の受容体とともに酵母で同時に発現させ、アダプタータンパク質と受容体の結合をレポーター遺伝子の発現や細胞増殖により検出する方法。本明細書において、アダプタータンパク質とは、受容体に共有されるβcもしくはgp130のリン酸化、βcもしくはgp130に構成的に結合されるチロシンキナーゼのリン酸化、或いはチロシンキナーゼ作用を有する受容体自身のリン酸化を認識するタンパク質を意味する。
【0017】
アダプタータンパク質としては、例えばShc、Grb2が挙げられ、哺乳類由来のアダプタータンパク質が好ましい。
【0018】
Shc/Grb2は単独で酵母中に発現してもよく、GDP/GTP交換因子(例えばSos)に融合されていてもよい。本発明においては、酵母においてさらにGDP/GTP交換因子(例えばSos)を同時発現させるのが好ましい。GDP/GTP交換因子の由来は、哺乳類(特にヒト)が好ましいが、その他であってもよい。酵母としてCdc25熱感受性変異体を使用した場合には、37℃の培養条件においてGDP/GTP交換因子(例えばSos)は本来酵母で発現されているCdc25熱感受性変異体の機能を置き換えることができる。Shc/Grb2がリン酸化されたβcまたはリン酸化されたgp130に結合し、このShc/Grb2に必要に応じて融合されているGDP/GTP交換因子(例えばSos)が細胞内膜近傍へ濃縮されると、GDP/GTP交換因子(例えばSos)が酵母内在性のRas1/2に結合しているGDPをGTPに交換することを促進するため、酵母の増殖が促進される。これにより受容体へのアゴニストの結合を酵母の増殖を指標にスクリーニングすることもでき、或いは、GDP/GTP交換因子(例えばSos)の結合時におけるRas1/2を介した転写因子の活性化をレポータージーンアッセイにより検出することもできる(図1、図7参照)。
【0019】
本発明の特に好ましい実施形態では、アダプタータンパク質Shcまたはアダプタータンパク質Grb2が哺乳動物由来Sos(GDP/GTP交換因子)と融合したもの(Shc-Sosまたは、Grb2-Sos)を使用することができる。37℃のスクリーニング条件において、哺乳動物由来Sosは、酵母内在性のCdc25H(GDP/GTP交換因子であり、熱感受性)の代わりとして働き、細胞を増殖させるシグナル伝達を行う。本スクリーニングにおいては、以下のようなシグナル伝達となっている:アゴニストが受容体に結合→受容体の多量体化→受容体のチロシン残基のリン酸化→受容体のリン酸化チロシン残基をShcまたはGrb2が認識して結合することによりShc-Sosまたは、Grb2-Sosが酵母細胞膜近傍へ濃縮される→細胞膜近傍へ濃縮されたShc-Sosまたは、Grb2-Sosが酵母内在性Cdc25Hのかわりに働き、細胞が増殖する。
【0020】
第2の方法:リン酸化された受容体に特異的に結合する抗体により検出する方法。酵母の細胞壁を溶解させた後に抗体を作用させることで、抗体が酵母内に移行し、細胞膜表面に存在する自己リン酸化型受容体のリン酸化を検出することができる。理論により拘束されることを望むものではないが、抗体が酵母内に移行するのは、細胞壁を溶解させたときに細胞膜に小孔が開くか、あるいは細胞膜の一部又は全体の構造が弱くなり、抗体が入りやすくなるからであると本発明者は考えている。
【0021】
アンタゴニストのスクリーニングは、あらかじめ酵母の培地中に既知のアゴニストを添加するか、アゴニストを細胞壁に発現可能な酵母を使用し、この既知のアゴニストによるレポーター遺伝子の発現や細胞増殖が無効となるような化合物をスクリーニングすることにより行うことができる。
【0022】
酵母におけるアゴニストペプチド・タンパク質のコンビナトリアル・エンジニアリングにより、ランダムなペプチドを酵母細胞表層に発現させることができる。具体的には、ランダムなペプチドをシグナルペプチドと細胞壁表面に結合されるアンカーペプチドに連結させる。ランダムペプチドが細胞膜から分泌される際に、アンカーペプチドが細胞壁にひっかかり、ランダムなペプチドが細胞膜の受容体と結合することが可能になる。アンカータンパク質としては、以下のものが例示される:FLO42(FLO1タンパク質のC末側42個のペプチド)、α-アグルチニンのC末320アミノ酸、酵母凝集性タンパク質FLO1のC末42アミノ酸(FLO42)、C末102アミノ酸(FLO102)、C末146アミノ酸(FLO146)、C末318アミノ酸(FLO318)、エタノールアミンリン酸−6マンノースα1−2マンノースα1−6マンノースα1−4グルコサミンα1−6イノシトールリン脂質を基本構造とする糖脂質(GPIアンカー)。
【0023】
或いは、アゴニストの候補となるペプチドを糖鎖結合タンパク質ドメインと連結して酵母で発現させ、該ドメインの糖鎖部分が細胞壁中の糖鎖と相互作用又は絡み合うことによって、細胞表層にとどまり、受容体に結合させることもできる。
【0024】
本発明において、受容体を発現させるのに適当な酵母としては、S.cerevisiae BY4741、ATCC60715、MT8−1、W303a、IFO10150、YPH499、BJ5464などが挙げられる。シグナル伝達量が多い株が好ましいので、このような酵母株を選別するのがよい。
【0025】
本明細書において、チロシンキナーゼとしては、JAK(JAK1、JAK2、JAK3、特にJAK2)、Lyn, Yes, Fyn, Fes, Hckなどが好ましく例示され、好ましくはJAK2が例示される。自己リン酸化型受容体には、gp130やβc鎖のようにJAK(JAK1、JAK2、JAK3、特にJAK2)のようなチロシンキナーゼを構成的に結合するものと、EGF受容体(EGFR)のように、受容体(EGFR)自体にチロシンキナーゼ活性を有するものが挙げられる。具体的には:
(i) gp130を共有する受容体
IL-6R、IL-11R、LIFR、CNTFR、OSMR、CT-1Rなど。
(ii) βcを共有する受容体
IL-3R、IL-5R、GM-CSFRなど。
(iii) 自己リン酸化作用を有する受容体のリガンド
Alkを含むAlkRファミリー、Axlを含むAxlRファミリー、DDR1を含むDDRファミリー、EGFRを含むEphRファミリー、Eph A1を含むEphARファミリー、Eph B1を含むEphBRファミリー、FGFR1を含むFGFRファミリー、IFG-1Rを含むIRファミリー、Metを含むMetRファミリー、MuSKを含むMuSKRファミリー、TrkAを含むニューロトロフィンRファミリー、PDGFR-αを含むPDGFRファミリー、RETを含むRETRファミリー、Ror1を含むRorRファミリー、Rykを含むRykRファミリー、Sevを含むSevRファミリー、Tie1を含むTieRファミリー、VEGFR-1を含むVEGFRファミリーなど。
【0026】
ベータ鎖(βc)共有型受容体のスクリーニング系とgp130共有型の受容体のスクリーニングは同様に行うことができる。例えば、非特許文献2,3は、ベータ鎖がJAK2によりリン酸化されて、そのリン酸化部位へアダプタータンパク質Shcが結合することを示す。非特許文献4は、gp130がJAK2にリン酸化されて、そこへアダプタータンパク質Shcが結合することを示す。即ち、Shcは、ベータ鎖に対してもgp130に対しても、同様に受容体の細胞内ドメインのリン酸化部位に結合する挙動を示すことから、Shcを用いた検出系は、ベータ鎖共有型受容体(例えばIL-5)とgp130共有型受容体(例えばIL-6、LIFなど)の両方のスクリーニング系に使用可能であることが明らかである。
【0027】
本発明においてJAK(例えばJAK2)などのチロシンキナーゼとβc/gp130とは別個に発現させても、キメラタンパク質として発現させてもよい。JAKなどのチロシンキナーゼとβc/gp130を別々に発現させても「構成的」に結合することは、文献により知られている(Zhao Y, Wagner F, Frank SJ, Kraft AS. J Biol Chem. 1995 Jun 9;270(23):13814-8.)。
【0028】
本発明のスクリーニング方法は、上記の受容体に結合可能な物質をスクリーニングすることができる。アゴニストをスクリーニングする場合には、当該酵母にアゴニストの候補物質を作用させ、受容体への候補物質の結合の有無を検出すればよい。また、アンタゴニストを検出する場合には、適当な濃度のアゴニストの存在下にアンタゴニストの候補物質を作用させ、アゴニストの結合がどの程度低下したかを検出すればよい。本発明において、
「アゴニスト/アンタゴニスト候補物質が受容体に結合している酵母を検出する工程」には、酵母にアゴニストの候補物質を作用させ、受容体への候補物質の結合の有無を検出する場合と、適当な濃度のアゴニストの存在下にアンタゴニストの候補物質を作用させ、アゴニストの結合がどの程度低下したかを検出する場合の両方が含まれる。
【0029】
アゴニストの当該受容体への結合は、自己リン酸化されたgp130またはβcを酵母細胞の増殖や細胞内の伝達経路においてレポータータンパク質を発現させる方法、或いは抗体により検出するなどの方法を採用することができる。
【0030】
例えば図6に示したようにIL−5受容体は、IL−5受容体α鎖とβ鎖(βc)から構成されている。β鎖には構成的にチロシンキナーゼJAK2が結合しており、IL−5とIL−5受容体α鎖が結合することによりJAK2の自己リン酸化が引き起こされる。
【0031】
βcの代わりにgp130を有する受容体についても同様に、受容体にリガンドが結合することによりgp130に構成的に結合したJAK2による自己リン酸化が起こる。
【0032】
一方、図1に示されるように、EGF受容体などは、リガンド(EGF)の結合により受容体の2量体化/多量体化が起こり、これにより受容体の自己リン酸化が誘導される。
1.抗体を用いたアゴニスト・受容体反応の検出方法
受容体の自己リン酸化を抗リン酸化チロシンキナーゼ(例えばJAK2)特異的抗体により検出することにより、アゴニストのスクリーニングが可能となる。(図1)
抗リン酸化抗体が認識するリン酸化部位は、例えばJAK1、JAK2、EGF受容体では、以下の位置が例示される。但し、アミノ酸番号は、ヒト由来タンパク質におけるN末端のアミノ酸残基を1番とした番号である。
1.JAK2のリン酸化部位:Tyr221, Tyr813, Tyr1007/1008
2.JAK1のリン酸化部位:Tyr1022/1023,
3.EGF受容体のリン酸化部位:Tyr974, Tyr992, Tyr1045, Tyr1068, Tyr1086, Tyr1148, Tyr1173
上記のリン酸化部位を認識する抗体は知られており、公知の抗体を使用することにより、自己リン酸化された受容体を検出することができる。検出は、例えばリン酸化部位を特異的に認識する抗体と、該抗体を認識する標識二次抗体を酵母に作用させ、酵母の膜近傍における二次抗体標識の存在の検出に基づき行なうことができる。JAK1、JAK2以外のチロシンキナーゼ、EGF受容体以外のチロシンキナーゼ活性を有する受容体についても同様に抗体により自己リン酸化された受容体を検出することができる。
【0033】
2.酵母内シグナル伝達を用いる方法。
JAK2のリン酸化を検出するには、EGF受容体のスクリーニング方法と類似したヒト由来アダプタータンパク質と酵母内在性Ras1またはRas2へのシグナル伝達を利用する方法も使用できる(図7)。具体的には、アゴニスト依存的にリン酸化された受容体に特異的に結合するアダプタータンパク質Shcと融合したヒト由来Sosタンパク質がアゴニスト依存的に細胞質から細胞膜近傍に濃縮され、GDP結合型の酵母内在性Ras1または、Ras2をGTP結合型に変換することにより、酵母の細胞分裂が導かれることを利用したスクリーニング方法である。
【0034】
図6、図7で示したスクリーニング方法は、IL−5受容体と同様にβ鎖を共有する受容体群すなわち、IL−3受容体、GM−CSFに適用できる。また、IL−5受容体と類似の分子構成であり、gp130を共有するIL−6受容体、IL−11受容体、LIF受容体、CNTF受容体、OSM受容体、CT−1受容体のアゴニスト/アンタゴニストスクリーニング法としても適用できる。さらにIL−5受容体と類似の分子構成であり、γ鎖を共有するIL−2受容体、IL−4受容体、IL−7受容体、IL−9受容体、IL−15受容体にも適用できる。
【0035】
アンタゴニストをスクリーニングする場合には、あらかじめ酵母の培地中に既知のアゴニストを添加しておき、この既知のアゴニストによるJAK1または、JAK2の自己リン酸化が無効となるような化合物をスクリーニングすることにより行う。
【0036】
酵母内在性Rasタンパク質のシグナル伝達下流に位置して、 Rasの活性化に伴い発現が上昇するような酵母内在性遺伝子のプロモーターをレポーター遺伝子のプロモーターとして使用することにより、細胞増殖を指標とするスクリーニングだけでなく、レポーター遺伝子の発現を指標とするスクリーニングを行うことが出来る。レポーター遺伝子としては、GFPを含む蛍光タンパク質の遺伝子、βガラクトシダーゼやルシフェラーゼなどの発色、発光基質が開発されている酵素の遺伝子、栄養要求性マーカー遺伝子が挙げられる。酵母内在性Rasは、酵母内在性cAMP−dependentphosphodiesteraseであるPDE2を活性化する(Sass P, Field J, Nikawa J, Toda T, Wigler M.Proc Natl Acad Sci U S A. 1986 Dec;83(24):9303−7.)。また、このPDE2の発現により発現を誘導される遺伝子は網羅的に調べられている(Jones DL, Petty J, Hoyle DC, Hayes A, Ragni E, Popolo L, Oliver SG, Stateva LI. Physiol Genomics. 2003 Dec 16;16(1):107−18.)。よってPDE2により発現が誘導すると報告されている遺伝子のプロモーターは、本スクリーニング方法においてレポーター遺伝子のプロモーターとなり得る。
【0037】
本発明において、実際の薬物候補化合物のスクリーニング方法を以下に例示する。
I.低分子化合物ないしタンパク質を外部から培養液中に添加する場合
・96穴プレートに液体培地もしくは寒天培地をいれ、酵母を蒔く。そこに化合物ないしタンパク質を添加し、酵母の増殖や蛍光、発色を指標としてレポーター遺伝子の発現を観察する。この時、酵母において増殖やレポータ遺伝子の発現が検出されれば、その化合物はアゴニストである。
・96穴プレートに液体培地もしくは寒天培地をいれ、酵母を蒔く。そこに化合物ないしタンパク質を添加し、EGFRなどの受容体型チロシンキナーゼにおいては自己リン酸化を、そしてIL-5RやIL-6RなどのサイトカインレセプターなどにおいてはJAK1やJAK2の自己リン酸化を、それぞれのタンパク質特異的なリン酸化抗体を用いた免疫染色により検出する。この時、受容体型チロシンキナーゼの自己リン酸化や、JAK1やJAK2の自己リン酸化が見られれば、その化合物はアゴニストである。免疫染色には、酵母の細胞壁を除く処理を必要とする。
・96穴プレートにアゴニストを含ませた液体培地もしくは寒天培地をいれ、酵母を蒔く。そこに化合物ないしタンパク質を添加し、酵母の増殖や蛍光、発色を指標としてレポーター遺伝子の発現を観察する。この時、酵母がレポーター遺伝子が発現しなければ、その化合物はアンタゴニストである。
・96穴プレートにアゴニストを含ませた液体培地もしくは寒天培地をいれ、酵母を蒔く。そこに化合物ないしタンパク質を添加し、EGFRなどの受容体型チロシンキナーゼにおいては自己リン酸化を、そしてIL-5RやIL-6RなどのサイトカインレセプターにおいてはJAK1やJAK2の自己リン酸化を、それぞれのタンパク質特異的なリン酸化抗体を用いた免疫染色により検出する。この時、受容体型チロシンキナーゼの自己リン酸化や、JAK1やJAK2の自己リン酸化が見られなければ、その化合物はアンタゴニストである。免疫染色には、酵母の細胞壁を除く処理を必要とする。
【0038】
II.酵母自体にランダムなペプチドを組み込んだ場合
・ランダムなペプチドを発現する酵母を寒天培地に蒔き、酵母の増殖や蛍光、発色を指標としてレポーター遺伝子の発現を観察する。この時、酵母がレポーター遺伝子を発現すれば、その酵母はアゴニストとなるペプチドを発現する酵母である。後に、ペプチドを発現させる為に導入したプラスミドを酵母から抽出し、シークエンス解析を行えばペプチド配列を特定できる。
・ランダムなペプチドを発現する酵母を寒天培地に蒔き、EGFRなどの受容体型チロシンキナーゼにおいては自己リン酸化を、そしてIL-5RやIL-6RなどのサイトカインレセプターなどにおいてはJAK1やJAK2の自己リン酸化を、それぞれのタンパク質特異的なリン酸化抗体を用いた免疫染色により検出する。この時、受容体型チロシンキナーゼの自己リン酸化や、JAK1やJAK2の自己リン酸化が見られれば、その酵母はアゴニストとなるペプチドを発現する酵母である。免疫染色には、酵母の細胞壁を除く処理を必要とする。後に、ペプチドを発現させる為に導入したプラスミドを酵母から抽出し、シークエンス解析を行えばペプチド配列を特定できる。
・ランダムなペプチドを発現する酵母をアゴニストを含ませた寒天培地に蒔き、酵母の増殖や蛍光、発色を指標としてレポーター遺伝子の発現を観察する。この時、酵母がレポーター遺伝子を発現しなければ、その酵母はアンタゴニストとなるペプチドを発現する酵母である。後に、ペプチドを発現させる為に導入したプラスミドを酵母から抽出し、シークエンス解析を行えばペプチド配列を特定できる。
・ランダムなペプチドを発現する酵母をアゴニストを含ませた寒天培地に蒔き、EGFRなどの受容体型チロシンキナーゼにおいては自己リン酸化を、そしてIL-5RやIL-6RなどのサイトカインレセプターなどにおいてはJAK1やJAK2の自己リン酸化を、それぞれのタンパク質特異的なリン酸化抗体を用いた免疫染色により検出する。この時、受容体型チロシンキナーゼの自己リン酸化や、JAK1やJAK2の自己リン酸化が見られなければ、その酵母はアンタゴニストとなるペプチドを発現する酵母である。免疫染色には、酵母の細胞壁を除く処理を必要とする。後に、ペプチドを発現させる為に導入したプラスミドを酵母から抽出し、シークエンス解析を行えばペプチド配列を特定できる。
【0039】
本発明の実施例に示されるように、酵母の細胞壁を溶解させて抗体を作用させることで、酵母の形態を保持した状態で、抗体による検出を行なうことができる。酵母の形を壊さない免疫染色法の利点として、以下が例示される。
・免疫染色には、抗体を用いることが必要となることはいうまでもないが、酵母細胞壁は抗体が非特異的に吸着することが、実施する際に判明した。このことから、酵母細胞壁を除く処理が必要とされた。
・酵母細胞壁を除く処理を実施するとき、スクリーニング対象である化合物、タンパク質、あるいはペプチド依存的に、EGFRの自己リン酸化あるいはJAK1やJAK2など自己リン酸化が酵母細胞膜上で正確におこっているか観察すれば、擬陽性の排除が可能となり、より高精度なスクリーニングが可能となる。その為、酵母の形を壊さないことが好ましい。
・低分子化合物ないしタンパク質を外部から培養液中に添加する場合、自己リン酸化の有無が酵母細胞表層で正確におこっているかどうか観察することにより、使用した化合物依存的な自己リン酸化が、正確に酵母細胞膜上でおこっているかどうかが判明する。
・酵母自体にランダムなペプチドを組み込んだ場合、一細胞ハンドリング機器、具体的には、セルソーターを内蔵したFACSや、同等のシステムを内蔵する目的細胞分取装置を用いれば、自動的に目的細胞をハイスループットで単離することが可能である。この時、ペプチドを発現させる為に導入したプラスミドを酵母から抽出し、シークエンス解析によりペプチド配列を特定する必要があり、酵母の形を壊さないことが絶対条件となる。
・以上のことより、低分子化合物ないしタンパク質を外部から培養液中に添加する場合、また酵母自体にランダムなペプチドを組み込んだ場合のいずれにおいても、酵母細胞膜内近傍の蛍光を検出するのが好ましく、酵母の形を壊さないことが有利である。
【実施例】
【0040】
以下、本発明を実施例に従いより詳細に説明するが、本発明がこれら実施例に限定されないことはいうまでもない。
実施例1:酵母における上皮成長因子(EGF)シグナル伝達再構成用プラスミドの構築
1−1:EGF受容体発現プラスミドの構築
一回膜貫通型受容体であるヒト由来EGF受容体(EGFR)をコードする遺伝子を用いて、以下のようにpGMH20−MFα−FLAG−EGFRを構築した。
【0041】
1−1−1:pGMH20−MFα−FLAGの構築
酵母の分泌タンパク質MFα1のPrepro配列(J. Bacteriol., 903-906頁, 1983年)をコードする遺伝子を鋳型としたPCRにより、 Prepro配列をコードする遺伝子の3’側にFLAGタグ配列をコードする遺伝子および両末端に制限酵素部位を付加した増幅断片(a)を得た。増幅断片(a)を制限酵素にて消化し、pGMH20ベクターに挿入して、pGMH20−MFα−FLAGを得た。
【0042】
1−1−2:pGMH20−MFα−FLAG−EGFRの構築
EGFR遺伝子をコードするプラスミドを鋳型としたPCRにより、成熟型EGFRタンパク質をコードする遺伝子の両末端に制限酵素部位を付加した増幅断片を得た。この増幅断片を制限酵素にて消化し、pGMH20−MFα−FLAGに挿入して、pGMH20−MFα−FLAG−EGFRを得た。
【0043】
1−2:EGF表層提示用プラスミドの構築
ヒト由来のEGFをコードする遺伝子を用いて、以下のようにpYES2−MFα−HA−EGF−FLO42を構築した。
【0044】
1−2−1:pYES2−MFα−FLO42の構築
1−1−1で示したようにMFα1のPrepro配列をコードする遺伝子を鋳型としたPCRにより、Prepro配列をコードする遺伝子の3’側にHAタグ配列をコードする遺伝子および両末端に制限酵素部位を付加した増幅断片(a)を得た。酵母の凝集タンパク質FLO1遺伝子をコードするプラスミドを鋳型としたPCRにより、FLO1のC末端側42アミノ酸残基をコードする遺伝子の両末端に制限酵素部位を付加した増幅断片を得た。これらの増幅断片(a)および(b)を制限酵素にて消化し、pYES2ベクターに挿入して、タンパク質のN末端側にMFαとHA、およびC末端側にFLO42が融合して発現させるプラスミドpYES2−MFα−HA−FLO42を得た。
【0045】
1−2−2:pYES2−MFα−HA−EGF−FLO42の構築
EGF遺伝子をコードするプラスミドを鋳型としたPCRにより、成熟型EGFタンパク質をコードする遺伝子の両末端に制限酵素部位を付加した増幅断片を得た。この増幅断片を制限酵素にて消化し、pYES2−MFα−HA−FLO42に挿入して、pYES2−MFα−HA−EGF−FLO42を得た。
【0046】
1−3:Sos−Grb2発現プラスミドの構築
EGFの刺激を受けることにより自己リン酸化したEGFRのリン酸化部位と結合するアダプタータンパク質であるGrb2をコードする遺伝子を用いて、以下のようにpSos−Grb2を構築した。
【0047】
1−3−1:pSos−Grb2の構築
タンパク質のN末端側に哺乳動物由来のグアニン−ヌクレオチド交換タンパク質Sosを融合して発現させるプラスミドpSosベクターをStratagene社より購入した。Grb2遺伝子をコードするプラスミドを鋳型としたPCRにより、Grb2タンパク質をコードする遺伝子の両末端に制限酵素部位を付加した増幅断片を得た。この増幅断片を制限酵素にて消化し、pSosに挿入して、pSos−Grb2を得た。
【0048】
実施例2:酵母におけるEGFシグナル伝達再構成例
2−1:酵母形質転換体の作成
酵母Saccharomyces cerevisiae D1BR205a株(MATa, ura3, his3, ade2, lys2, trp1, leu2, cdc25−2, Gal)およびD1BR205α(MATa, ura3, His3, ade2, lys2, trp1, leu2, cdc25−2, Gal)をStratagene社より入手した。1のようにして得た各プラスミドpYES2、pYES2−MFα−HA−EGF−FLO42、pGMH20、pGMH20−MFα−FLAG−EGFR、およびpSos−Grb2を、酢酸リチウム法によりD1BR205株に導入し、酵母形質転換体D1BR205/pYES2/pGMH20/pSos、D1BR205/pYES2/pGMH20/pSos−Grb2、D1BR205/pYES2−MFα−HA−EGF−FLO42/pGMH20/pSos−Grb2、D1BR205/pYES2/pGMH20−MFα1−FLAG−EGFR/pSos−Grb2、およびD1BR205/pYES2−MFα−HA−EGF−FLO42/pGMH20−MFα−FLAG−EGFR/pSos−Grb2、のそれぞれを、SDΔUra/His/Leu寒天培地上に得た。
【0049】
2−2:酵母形質転換体の培養
上記の寒天培地上で、直径2〜3mmに生育した酵母形質転換体のコロニーを3mLのSDΔUra/His/Leu液体培地中で25℃、300rpmでOD600=1.0〜1.5まで培養した。菌体を回収・洗浄して、500μLの滅菌水に懸濁し、10mLのSRGΔUra/His/Leu液体培地に初期OD600=0.20になるよう植菌した後、25℃にて300rpmでOD600=1.00まで培養した。
【0050】
2−3:酵母形質転換体におけるEGF受容体タンパク質の発現および糖鎖修飾の有無の確認
2−2のように培養したD1BR205/pYES2−MFα−HA−EGF−FLO42/pGMH20−MFα−FLAG−EGFR/pSos−Grb2および陰性コントロールのD1BR205/pYES2/pGMH20/pSosを回収して、200μLの溶解液(50mM Tris−HCl (pH7.3),150mM NaCl,1% Triton X−100,1mM EGTA,2mM DTT,1個/10mL−溶解液)に懸濁し、グラスビーズで破砕して、酵母粗抽出液を得た。10分間遠心して上清画分および沈殿画分に分離し、上清画分にはSDSと2−メルカプトエタノールをそれぞれ最終濃度0.5%および1%となるよう添加した。沈殿画分には上清画分と等量のSDSと2−メルカプトエタノールをそれぞれ最終濃度0.5%および1%で含む溶解液に再懸濁して、100℃で15分間煮た後、10分間遠心して上清画分を分取した。200μLのサンプルに対して1μLのN−Glycosidaseおよび1μLのO−Glycosidaseを添加後、37℃にて0および30分間反応させ、それぞれの時間についてサンプリングして、SDS−PAGEおよび抗FLAGマウスモノクローナル抗体を用いたウェスタンブロットに供した。結果を図2に示す。酵母形質転換体において、脱糖鎖修飾処理前に見られなかったヒト由来EGFRのバンドが、処理後に計算分子量付近に確認された。このことから酵母において、EGFRタンパク質の発現および糖鎖修飾を受けることが確認された。
【0051】
2−4:酵母形質転換体における表層提示型EGF−FLO42タンパク質の発現および糖鎖修飾の有無の確認
2−3と同様の操作を行ってサンプルを得た後、SDS−PAGEおよび抗HAマウスモノクローナル抗体を用いたウェスタンブロットに供した。結果を図2に示す。酵母形質転換体において、EGF−FLO42のバンドが、不溶性画分において確認された。不溶性画分には細胞壁が含まれることが報告されており、酵母におけるEGF−FLO42タンパク質の表層提示に成功したことが示された。
【0052】
2−5:酵母形質転換体におけるSos−Grb2タンパク質の発現
2−3と同様の操作を行ってサンプルを得た後、SDS−PAGEおよび抗Sosマウスモノクローナル抗体を用いたウェスタンブロットに供した。結果を図2に示す。酵母形質転換体において、Sos−Grb2のバンドが可溶性画分において確認された。2−3および2−4と合わせて、EGF、EGFR、およびSos−Grb2の発現が酵母において確認された。
【0053】
2−6:酵母形質転換体におけるEGF受容体の局在の確認
2−2のように培養したD1BR205/pYES2−MFα−HA−EGF−FLO42/pGMH20−MFα−FLAG−EGFR/pSos−Grb2を回収して、4%パラホルムホルムアルデヒドで固定化した後、ソルビトールバッファー(40mM リン酸カリウム(pH6.5),0.5mM MgCl,1.2M ソルビトール)で2回洗浄した。固定化した酵母を500μLのソルビトールバッファーに再懸濁し、0.3mgのZymolyase 20Tを添加後、37℃にて10分間反応させ、ソルビトールバッファーで2回洗浄した。1次抗体として抗FLAGマウスモノクローナル抗体(クローン M2)を添加し、1時間反応後に洗浄した。さらに2次抗体としてCy3標識抗マウスIgGヤギポリクローナル抗体を添加し、1時間反応後に洗浄し、蛍光顕微鏡による観察を行った。結果を図3に示す。図3から酵母細胞膜にEGFRが局在することが確認された。
【0054】
2−7:EGF/EGFR/Sos−Grb2の熱感受性実験
図1に示したように酵母形質転換体に発現させたそれぞれのタンパク質が機能すれば、熱感受性酵母であるD1BR205株が37℃において増殖可能になると期待される。そこで2−2のように培養したD1BR205/pYES2/pGMH20/pSos−Grb2、D1BR205/pYES2−MFα−HA−EGF−FLO42/pGMH20/pSos−Grb2、D1BR205/pYES2/pGMH20−MFα1−FLAG−EGFR/pSos−Grb2、およびD1BR205/pYES2−MFα−HA−EGF−FLO42/pGMH20−MFα−FLAG−EGFR/pSos−Grb2を、培養液原液、10、100、および1000倍希釈してSRGΔUra/His/Leu寒天培地上に10μlずつ滴下し、37℃で14日間培養した。結果を図4に示す。
【0055】
熱感受性実験の結果、酵母においてEGFシグナル伝達再構成に必要と考えられるEGF−FLO42、EGFR、およびSos−Grb2を全て発現させた酵母形質転換体においてのみ、37℃における増殖が確認された。このことから、酵母において発現させた表層提示型EGFのシグナルをEGFRが受け、Sos−Grb2にシグナルが流れていると考えられた。Grb2がEGFRに結合するには、EGFRが自己リン酸化されている必要があり、本実験の結果から、EGFRの自己リン酸化も酵母内において哺乳動物と同様に生じていると思われた。そこで次に、EGFRの自己リン酸化を免疫染色により確かめた。
【0056】
2−7:EGFRの自己リン酸化の確認
2−2のように培養したD1BR205/pYES2/pGMH20/pSos−Grb2、D1BR205/pYES2/pGMH20−MFα1−FLAG−EGFR/pSos−Grb2、およびD1BR205/pYES2−MFα−HA−EGF−FLO42/pGMH20−MFα−FLAG−EGFR/pSos−Grb2を回収し、2−6のように細胞壁を除去した。1次抗体として抗リン酸化EGFRウサギポリクローナル抗体を添加し、1時間反応後に洗浄した。さらに2次抗体としてAlexa488標識抗ウサギIgGヤギポリクローナル抗体を添加し、1時間反応後に洗浄し、蛍光顕微鏡による観察を行った。結果を図5に示す。図5のように、D1BR205/pYES2/pGMH20−MFα1−FLAG−EGFR/pSos−Grb2では自己リン酸化は見られなかったが、D1BR205/pYES2−MFα−HA−EGF−FLO42/pGMH20−MFα−FLAG−EGFR/pSos−Grb2では自己リン酸化が確認された。この結果から、酵母においてEGFRの自己リン酸化がEGF依存的に生じていることが判明した。酵母においてEGF依存的なEGFRの自己リン酸化を検出したのは本実施例が初めてである。このことは、アゴニストによりひきおこされる受容体の自己リン酸化を抗体により検出することにより、アゴニストを化合物ライブラリーからスクリーニングすることが可能であることを示す。またpYES2−MFα−HA−EGF−FLO42に含まれるEGF遺伝子をコードする部位をペプチドにすれば、EGFRと親和性のあるペプチドのハイスループットスクリーニングが可能である。
【0057】
実施例3:酵母におけるIL−5シグナル伝達再構成用プラスミドの構築
3−1:IL−5受容体発現プラスミドの構築
一回膜貫通型サイトカイン受容体であるヒト由来IL−5受容体α鎖(IL−5Rα)遺伝子をコードするプラスミドpME18 Hyg−huIL−5R(J. Immunol., 6924-6932頁, 1993年)およびヒト由来IL−5受容体β鎖(βc)遺伝子をコードするプラスミドpME18−KH97(J. Biol. Chem., 28287-28293頁, 1996年)を用いて、以下のようにpGMH20−MFα−FLAG−IL5RαおよびpGMT20−MFα−HA−βcを構築した。
【0058】
3−1−1:pGMH20−MFα−FLAGおよびpGMT20−MFα−HAの構築
酵母の分泌タンパク質MFα1のPrepro配列(J. Bacteriol., 903−906頁, 1983年)をコードする遺伝子を鋳型としたPCRにより、Prepro配列をコードする遺伝子の3’側にFLAGタグ配列をコードする遺伝子および両末端に制限酵素部位を付加した増幅断片(a)を得た。同遺伝子を鋳型としたPCRにより、Prepro配列をコードする遺伝子の3’側にHAタグ配列をコードする遺伝子および両末端に制限酵素部位を付加した増幅断片(b)を得た。増幅断片(a)を制限酵素にて消化し、制限酵素にて消化したpGMH20ベクターに挿入して、pGMH20−MFα−FLAGを得た。増幅断片(b)を制限酵素にて消化し、制限酵素にて消化したpGMT20ベクターに挿入して、pGMT20−MFα−HAを得た。
【0059】
3−1−2:pGMH20−MFα−FLAG−IL5Rの構築
プラスミドpME18 Hyg−huIL−5Rを鋳型としたPCRにより、成熟型IL−5Rαタンパク質をコードする遺伝子の両末端に制限酵素部位を付加した増幅断片を得た。この増幅断片を制限酵素にて消化し、制限酵素にて消化したpGMH20−MFα−FLAGに挿入して、pGMH20−MFα−FLAG−IL5Rαを得た。
【0060】
3−1−3:pGMT20−MFα−HA−βcの構築
プラスミドpME18−KH97を鋳型としたPCRにより、成熟型βcタンパク質をコードする遺伝子の両末端に制限酵素部位を付加した増幅断片を得た。この増幅断片を制限酵素にて消化し、制限酵素にて消化したpGMT20−MFα−HAに挿入して、pGMH20−MFα−HA−βcを得た。
【0061】
3−2:JAK2発現プラスミドの構築
IL−5の刺激をうけて自己リン酸化するプロテインチロシンキナーゼであるマウス由来JAK2遺伝子をコードするプラスミドpSRα−JAK2(Genes to Cells, 431−441頁, 1998年)を用いて、以下のようにpAUR123−V5−JAK2およびpAURGAL1p−V5−JAK2を構築した。
【0062】
3−2−1:pAUR123−V5およびpAURGAL1p−V5の構築
ガラクトース誘導型プロモーターであるGAL1p遺伝子をコードするpYES2ベクターを鋳型としたPCRにより、GAL1p遺伝子をコードする増幅断片(a)を得た。非誘導型プロモーターであるADH1p遺伝子をコードするpAUR123ベクターを鋳型としたPCRにより、ADH1pを欠失した増幅断片(b)を得た。増幅断片(a)をKpnIにて消化し、KpnIにて消化した増幅断片(b)に挿入して、pAURGAL1pベクターを得た。KpnIおよびSalIにて消化したpAUR123ベクターおよびpAURGAL1pベクターに、V5タグ配列をコードする遺伝子を挿入して、それぞれpAUR123−V5およびpAURGAL1p−V5を得た。
【0063】
3−2−2:pGEM−JAK2の構築
プラスミドpSRα−JAK2を鋳型としたPCRにより、JAK2遺伝子をコードする増幅断片を得た。この増幅断片の3’側にTArget Clone(TOYOBO)を用いてアデニンを付加し、これをpGEM T−Easyベクターに挿入して、pGEM−JAK2を得た。
【0064】
3−2−3:pAUR123−V5−JAK2およびpAURGAL1p−V5−JAK2の構築
プラスミドpGEM−JAK2を鋳型としたPCRにより、JAK2タンパク質をコードする遺伝子の両末端に制限酵素部位を付加した増幅断片を得た。この増幅断片をSalIおよびSacIにて消化し、SalIおよびSacIにて消化したpAUR123−V5ベクターおよびpAURGAL1p−V5ベクターに挿入して、pAUR123−V5−JAK2およびpAURGAL1p−V5−JAK2を得た。
【0065】
実施例4:酵母におけるIL−5シグナル伝達再構成例
4−1:酵母形質転換体の作成
酵母Saccharomyces cerevisiae D1BR205a株(MATa ura3 His3 ade2 lys2 trp1 leu2 cdc25 Gal)およびD1BR205α(MATa ura3 His3 ade2 lys2 trp1 leu2 cdc25 Gal)をStratagene社より入手した。
【0066】
1のようにして得た各プラスミドpGMH20、pGMH20−MFα−FLAG−IL5Rα、pGMT20、pGMT20−MFα−HA−βc、pAUR123、pAUR123−V5−JAK2、pAURGAL1p、およびpAURGAL1p−V5−JAK2を、酢酸リチウム法によりD1BR205株に導入し、酵母形質転換体D1BR205/pGMH20/pGMT20/pAUR123、D1BR205/pGMH20/pGMT20/pAUR123−V5−JAK2、D1BR205/pGMH20−MFα1−FLAG−IL5Rα/pGMT20−MFα−HA−βc/pAUR123−V5−JAK2、D1BR205/pGMH20/pGMT20/pAURGAL1p、D1BR205/pGMH20/pGMT20/pAURGAL1p−V5−JAK2、およびD1BR205/pGMH20−MFα−FLAG−IL5Rα/pGMT20−MFα−HA−βc/pAURGAL1p−V5−JAK2のそれぞれを、0.5μg/mlのオーレオバシジンA(TaKaRa)を含むSDΔHis/Trp寒天培地上に得た。
【0067】
4−2:酵母形質転換体の培養
上記の寒天培地上で、直径2〜3mmに生育した酵母形質転換体のコロニーを0.5μg/mlのオーレオバシジンAを含む3mLのSDΔHis/Trp液体培地中で、25℃にて300rpmでOD600=1.0〜1.5まで培養した。菌体を回収・洗浄して、500μLの滅菌水に懸濁し、0.5μg/mlのオーレオバシジンAを含む10mLのSRGΔHis/Trp液体培地に初期OD600=0.20になるよう植菌した後、25℃にて300rpmでOD600=0.30〜2.00まで培養した。
【0068】
4−3:酵母形質転換体におけるIL−5Rαタンパク質の発現および糖鎖修飾の有無の確認
4−2のように培養したD1BR205/pGMH20−MFα1−FLAG−IL5Rα/pGMT20−MFα−HA−βc/pAUR123−V5−JAK2および陰性コントロールのD1BR205/pGMH20/pGMT20/pAUR123を回収して、200μLの溶解液(50mM Tris−HCl (pH7.3),150mM NaCl,0.1% Triton X−100,1mM EGTA,2mM DTT,1個/10mL−溶解液)に懸濁し、グラスビーズで破砕して、酵母粗抽出液を得た。10分間遠心して上清画分および沈殿画分に分離し、上清画分にはSDSと2−MEをそれぞれ0.5%(V/V)および1%(V/V)となるよう添加した。沈殿画分には上清画分と等量のSDSと2−MEをそれぞれ0.5%(V/V)および1%(V/V)で含む溶解液に再懸濁して、100℃で15分間煮た後、10分間遠心して上清画分を分取した。50μLのサンプルに対して50μLのO−グリコシダーゼおよび50μLのN−グリコシダーゼを添加後、37℃にて0、10、30、および60分間反応させ、それぞれの時間についてサンプリングして、SDS−PAGEおよび抗FLAGマウスモノクローナル抗体(クローン M2)を用いたウェスタンブロットに供した(図8)。これまでに酵母における一回膜貫通型サイトカイン受容体の発現に成功した例はない。本実施例において初めて、酵母でのヒト由来サイトカイン受容体IL−5Rαタンパク質の発現が確認された。また、脱糖鎖修飾処理により、IL−5Rαタンパク質の計算分子量より大きい位置に見られたバンドが、計算分子量付近の位置にシフトした。このことから酵母において、IL−5Rαタンパク質は酵母内において糖鎖修飾を受けることがわかった。
【0069】
4−4:酵母形質転換体におけるβcタンパク質の発現および糖鎖修飾の有無の確認
4−3と同様の操作を行ってサンプルを得た後、SDS−PAGEおよび抗HAマウスモノクローナル抗体(クローン 12CA5)を用いたウェスタンブロットに供した(図9)。酵母形質転換体において、脱糖鎖修飾処理前に見られなかったヒト由来βcのバンドが、処理後に計算分子量付近に確認された。このことから酵母において、βcタンパク質の発現および糖鎖修飾を受けることが確認された。2−3において、IL−5Rαの発現が確認されたこととあわせて、IL−5受容体の発現が酵母において確認された。
【0070】
4−5:酵母形質転換体におけるIL−5受容体の局在の確認
4−2のように培養したD1BR205/pGMH20−MFα−FLAG−IL5Rα/pGMT20−MFα−HA−βc/pAUR123−V5−JAK2および陰性コントロールのD1BR205/pGMH20/pGMT20/pAUR123を回収して、4%パラホルムホルムアルデヒドで固定化した後、ソルビトールバッファー(40mM リン酸カリウム(pH6.5),0.5mM MgCl,1.2M ソルビトール)で2回洗浄した。固定化した酵母を500μLのソルビトールバッファーに再懸濁し、0.3mgの細胞壁除去酵素Zymolyase 20Tを添加後、37℃にて30分間反応させ、ソルビトールバッファーで2回洗浄した。細胞壁を除去した酵母をソルビトールバッファーに懸濁し、1次抗体として抗FLAGマウスモノクローナル抗体(クローン M2)および抗HAラビットポリクローナル抗体を添加し、1時間反応後に洗浄した。さらに2次抗体としてCy3標識抗マウスIgGヤギポリクローナル抗体およびAlexa Fluor 430標識抗ラビットIgGヤギポリクローナル抗体を添加し、1時間反応後に洗浄し、蛍光顕微鏡による観察を行った。結果を図10に示す。
【0071】
細胞壁を除去したD1BR205/pGMH20−MFα−FLAG−IL5Rα/pGMT20−MFα−HA−βc/pAUR123−V5−JAK2において、IL−5Rαおよびβcは細胞膜に局在することが確認された。このことから、ヒト由来IL−5受容体の酵母細胞膜上への局在化が成功したと考えられる。
【0072】
4−6:酵母形質転換体におけるJAK2タンパク質の発現の確認
4−2のように培養したD1BR205/pGMH20/pGMT20/pAUR123−V5−JAK2、D1BR205/pGMH20/pGMT20/pAURGAL1p−V5−JAK2、陰性コントロールのD1BR205/pGMH20/pGMT20/pAUR123、およびD1BR205/pGMH20/pGMT20/pAURGAL1pを回収して、200μLの溶解液(50mM Tris−HCl (pH7.3),150mM NaCl,0.1% Triton X−100,1mM EGTA,2mM DTT,Complete protease inhibitor cocktail 1個/10mL−溶解液)に懸濁し、グラスビーズで破砕して、酵母粗抽出液を得た後、SDS−PAGEおよび抗V5マウスモノクローナル抗体(クローン V5−10)および抗リン酸化JAK2ラビットポクローナル抗体を用いたウェスタンブロットに供した(図11)。JAK2の発現は、D1BR205/pGMH20/pGMT20/pAUR123−V5−JAK2ではOD600=2.0で確認され、D1BR205/pGMH20/pGMT20/pAURGAL1p−V5−JAK2ではOD600=0.6で確認され、OD600=2.0で高発現することがわかった。
【0073】
4−7:IL−5依存的なJAK2の自己リン酸化亢進の確認
4−6で示したJAK2の自己リン酸化が、ヒト由来のリガンドであるIL−5依存的に酵母内で起こるかどうか以下のように実施した。4−2のように培養したD1BR205/pGMH20−MFα−FLAG−IL5Rα/pGMT20−MFα−HA−βc/pAUR123−V5−JAK2、D1BR205/pGMH20−MFα−FLAG−IL5Rα/pGMT20−MFα−HA−βc/pAURGAL1p−V5−JAK2、陰性コントロールのD1BR205/pGMH20/pGMT20/pAUR123、およびD1BR205/pGMH20/pGMT20/pAURGAL1pを回収・洗浄して、最終濃度20mMのHEPES(pH7.0)および最終濃度0.5μg/mlのオーレオバシジンAを含む1mLのSRGΔHis/Trp液体培地に置換し、IL−5を最終濃度4nMとなるよう添加して0h、1h反応させた。反応後、上記4%パラホルムアルデヒドで固定化後、細胞壁を除去したD1BR205/pGMH20−MFα−FLAG−IL5Rα/pGMT20−MFα−HA−βc/pAUR123−V5−JAK2、D1BR205/pGMH20−MFα−FLAG−IL5Rα/pGMT20−MFα−HA−βc/pAURGAL1p−V5−JAK2、陰性コントロールのD1BR205/pGMH20/pGMT20/pAUR123、およびD1BR205/pGMH20/pGMT20/pAURGAL1pをソルビトールバッファーに懸濁し、1次抗体として抗リン酸化JAK2ラビットポリクローナル抗体を添加し、1時間反応後に洗浄した。さらに2次抗体Alexa Fluor 488標識抗ラビットIgGヤギポリクローナル抗体を添加し、1時間反応後に洗浄し、蛍光顕微鏡による観察およびフローサイトメーター(FCM)による解析を行った。図12のように、OD600=2.0のD1BR205/pGMH20−MFα−FLAG−IL5Rα/pGMT20−MFα−HA−βc/pAUR123−V5−JAK2および陰性コントロールのD1BR205/pGMH20/pGMT20/pAUR123にIL−5を添加して1時間反応培養後にIL−5依存的な蛍光強度の亢進が確認された。以上の結果より、アゴニスト依存的なJAK2のリン酸化が酵母でおこることを示すことが出来た。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】酵母細胞シグナル伝達を応用したスクリーニング法
【図2】SDS−PAGEおよび抗FLAGマウスモノクローナル抗体を用いたウェスタンブロットの結果を示す。
【図3】酵母形質転換体におけるEGF受容体の局在の確認
【図4】酵母においてEGFシグナル伝達再構成に必要と考えられるEGF−FLO42、EGFR、およびSos−Grb2を全て発現させた酵母形質転換体においてのみ、37℃における増殖が確認されたことを示す。
【図5】EGFRの自己リン酸化の確認
【図6】抗リン酸化JAK2抗体を用いたリガンドスクリーニング法
【図7】酵母細胞シグナル伝達を応用したスクリーニング法、IL−5レセプター
【図8】SDS−PAGEおよび抗FLAGマウスモノクローナル抗体(クローン M2)を用いたウェスタンブロットの結果を示す。
【図9】SDS−PAGEおよび抗HAマウスモノクローナル抗体(クローン 12CA5)を用いたウェスタンブロットの結果を示す。
【図10】酵母形質転換体におけるIL−5受容体の局在の確認
【図11】酵母形質転換体におけるJAK2タンパク質の発現の確認
【図12】IL−5依存的なJAK2の自己リン酸化亢進の確認

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アゴニスト/アンタゴニストのスクリーニング方法であって、哺乳類の自己リン酸化型受容体と、リン酸化された該受容体を認識可能なアダプタータンパク質を共発現する酵母に前記受容体のアゴニスト/アンタゴニスト候補物質を作用させ、該アゴニスト/アンタゴニスト候補物質が該受容体に結合している酵母を検出する工程を含み、前記自己リン酸化型受容体がリガンドの結合により多量体化して、受容体自身のキナーゼ作用もしくは受容体に構成的に結合するチロシンキナーゼの作用により受容体自身および/または受容体に構成的に結合するチロシンキナーゼがリン酸化される、方法。
【請求項2】
前記自己リン酸化型受容体が、リガンドの結合により多量体化して、受容体自身のキナーゼ作用により受容体自身がリン酸化される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記自己リン酸化型受容体がリガンドの結合により多量体化して、受容体に構成的に結合するチロシンキナーゼの作用により受容体自身と受容体に構成的に結合するチロシンキナーゼの両方がリン酸化される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
アゴニスト/アンタゴニストのスクリーニング方法であって、哺乳類の自己リン酸化型受容体を発現する酵母に前記受容体のアゴニスト/アンタゴニスト候補物質を作用させ、該アゴニスト/アンタゴニスト候補物質が該受容体に結合している酵母を検出する工程を含み、
前記自己リン酸化型受容体がアゴニストの結合により多量体化して、受容体自身のキナーゼ作用もしくは受容体に構成的に結合するチロシンキナーゼの作用により受容体自身もしくは受容体に構成的に結合するチロシンキナーゼがリン酸化され、
前記リン酸化の検出は、前記酵母の細胞壁を溶解し、細胞壁溶解酵母に前記リン酸化を検出可能な抗体を作用させることにより行なう、
方法。
【請求項5】
前記自己リン酸化型受容体がアゴニストの結合により多量体化して、受容体自身のキナーゼ作用により受容体自身がリン酸化される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記自己リン酸化型受容体がアゴニストの結合により多量体化して、受容体に構成的に結合するチロシンキナーゼの作用により受容体自身と受容体に構成的に結合するチロシンキナーゼの両方がリン酸化される、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
哺乳類の自己リン酸化型受容体は、
(i)受容体自身が自己リン酸化作用を有するか、或いは、
(ii)gp130またはβcを共有し、かつ、チロシンキナーゼがgp130またはβcに構成的に結合し、該チロシンキナーゼの作用によりチロシンキナーゼ自身とgp130またはβcの両方をリン酸化する
受容体である、請求項1または4に記載の方法。
【請求項8】
受容体に構成的に結合するチロシンキナーゼがJAK1,JAK2またはJAK3である請求項1または4に記載の方法。
【請求項9】
チロシンキナーゼが構成的に結合し、かつ、アゴニスト依存的に該チロシンキナーゼがリン酸化される受容体が、インターロイキン受容体のα鎖とβ鎖(βc)を含む、請求項1または4に記載の方法。
【請求項10】
チロシンキナーゼが構成的に結合し、かつ、アゴニスト依存的に該チロシンキナーゼがリン酸化される受容体が、gp130を含む、請求項1または4に記載の方法。
【請求項11】
アゴニストの結合により多量体化し、該アゴニストの受容体に構成的に結合するチロシンキナーゼ若しくは受容体自身が有するチロシンキナーゼの作用によりチロシンキナーゼおよび/または受容体自身がリン酸化を受ける哺乳類の自己リン酸化型受容体と、該リン酸化を酵母中で認識可能なアダプタータンパク質を共発現してなる、遺伝子組換え酵母。
【請求項12】
チロシンキナーゼ作用を有し、かつ、アゴニストの結合により多量体化して自己リン酸化する哺乳類の受容体と、該受容体のリン酸化を認識可能なアダプタータンパク質を共発現する請求項11に記載の遺伝子組換え酵母。
【請求項13】
アゴニストの結合により多量体化するβcまたはgp130を共有する受容体と、該受容体に構成的に結合するチロシンキナーゼ(該チロシンキナーゼはアゴニストの結合によりβcまたはgp130とチロシンキナーゼ自身をリン酸化する)と、βc、gp130またはチロシンキナーゼのリン酸化を認識可能なアダプタータンパク質を共発現する請求項11に記載の遺伝子組換え酵母。
【請求項14】
アゴニストの結合により多量体化し、該アゴニストの受容体に構成的に結合するチロシンキナーゼ若しくは受容体自身が有するチロシンキナーゼの作用によりチロシンキナーゼおよび/または受容体自身がリン酸化を受ける哺乳類の自己リン酸化型受容体と、前記リン酸化を検出可能な抗体を含む、前記受容体に対するアゴニスト/アンタゴニストをスクリーニングするためのキット。
【請求項15】
酵母の細胞壁を溶解する酵素をさらに含む請求項14に記載のキット。
【請求項16】
アゴニストの結合により多量体化し、該アゴニストの受容体に構成的に結合するチロシンキナーゼ若しくは受容体自身が有するチロシンキナーゼの作用によりチロシンキナーゼおよび/または受容体自身がリン酸化を受ける哺乳類の自己リン酸化型受容体と、前記リン酸化を検出可能な抗体のコンビネーション。
【請求項17】
アゴニストの結合により多量体化し、該アゴニストの受容体に構成的に結合するチロシンキナーゼ若しくは受容体自身が有するチロシンキナーゼの作用によりチロシンキナーゼおよび/または受容体自身がリン酸化を受ける哺乳類の自己リン酸化型受容体と、酵母の細胞壁を溶解する酵素と、前記リン酸化を検出可能な抗体のコンビネーション。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−245592(P2008−245592A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−92492(P2007−92492)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(397069868)アズワン株式会社 (23)
【Fターム(参考)】