説明

自己保存性水性医薬品組成物

本発明は、塩化ベンザルコニウム、ポリクオタニウム−1、過酸化水素(例えば、過ホウ酸ナトリウム)、または塩素含有薬剤などの通常の抗菌性防腐剤を必要とせずに、米国薬局方(「USP」)および他国における類似の指針の保存効果に関する要件を満たすために十分な抗菌活性を有するように処方されたマルチドーズ型の水性医薬品組成物の提供に関する。マルチドーズ型の医薬品組成物の抗菌活性を高めるためにホウ酸塩/ポリオールと亜鉛とからなる系の使用について記載する。該組成物は、通常の抗菌性防腐剤を必要とせず、したがって、「自己保存性」であると呼ばれる。該組成物は、十分な抗菌活性を有し、水性点眼薬組成物に関するUSPの防腐効果に関する要件を満たす。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
本発明は、自己保存性医薬品組成物に関する。より詳細に述べると、本発明は、塩化ベンザルコニウム、ポリクオタニウム−1、過酸化水素(例えば、過ホウ酸ナトリウム)、または塩素含有薬剤などの通常の抗菌性防腐剤を必要とせずに、米国薬局方(「USP」)および他国における類似の指針の保存効果に関する要件を満たすために十分な抗菌活性を有するように処方されたマルチドーズ型の水性医薬品組成物の提供に関する。自己保存を達成する能力は、製剤成分の独特の配合および基準に基づいている。
【0002】
医薬品組成物は、大抵が無菌(すなわち、細菌、真菌類および他の病原微生物を含まない)であることが必要である。この種の組成物の例には、ヒトまたは他の哺乳類の体内に注入される溶液および懸濁液;創傷、擦過傷、火傷、発疹、外科的切開、または皮膚が無傷ではない他の状態に局所的に塗布されるクリーム、ローション、溶液または他の製剤;および眼に直接塗布されるか(例えば、人工涙液、洗浄液および製剤)、または眼に接触するおそれがある医療用具(例えば、コンタクト・レンズ)に塗布される種々の型の組成物がある。
【0003】
前述の型の組成物は、当業者に周知の操作により無菌条件下で製造することができる。しかし、容器に充填した製品を、容器内の組成物が、一旦開放されると、他の潜在的な菌の汚染源(例えば、患者の手)にさらされ前記製品の無菌性は損なわれるおそれがある。この種の製品は、通常、特定の患者が複数回使用するので、「マルチドーズ型」であると呼ばれることが多い。
【0004】
マルチドーズ型の製品は、菌に汚染するリスクに頻繁にさらされるので、この種の汚染の発生を防止する手段を用いる必要がある。用いる手段は、(i)本明細書では「抗菌性防腐剤」と呼ばれる組成物内で微生物の増殖を防止する化学薬剤、または(ii)容器内の医薬組成物に到達する微生物のリスクを防止または低減するパッケージ・システムでよい。
【0005】
細菌、真菌類および他の微生物の増殖を防止するために、マルチドーズ型の点眼薬組成物は、一般に、1つ以上の抗菌性防腐剤を事前に含んでいる。この種の組成物は、直接または間接に、角膜と接触する可能性がある。角膜は、外来性の化学薬剤に対して特に敏感である。その結果、角膜に対する有害な作用を引き起こす可能性を最小限にするためには、角膜に対して比較的毒性のない抗菌性防腐剤を用い、且つこの種の防腐剤を最低の濃度(すなわち、この種の防腐剤の抗菌性機能を発揮させるために必要な最低量)で用いるのが好ましい。
【0006】
抗菌剤の抗菌効果と潜在的な中毒作用のバランスをとることが困難な場合がある。より詳細に述べると、菌の汚染から点眼用製剤を保存するために必要な抗菌剤の濃度により、角膜および/または他の眼科組織に対する中毒作用の潜在的能力が創り出されるかもしれない。低濃度の抗菌剤を用いると、一般に、この種の中毒作用の潜在的能力を低減するのに役立つが、濃度が低いと、必要なレベルの殺菌効果(すなわち、抗菌性の保存)を達成するのに不十分になるかもしれない。
【0007】
抗菌性防腐剤を不十分なレベルで使用すると、前記組成物が菌により汚染する可能性があり、該汚染により眼の感染が引き起こされることがある。Pseudomonas aeruginosaまたは他の病原性微生物を含む眼の感染症は、視覚機能が失われたり、または失明につながることさえありうるので、菌による汚染も重大な問題である。
【0008】
したがって、潜在的に中毒性効果を高めることなく、あるいは患者が微生物汚染の容認できないリスクにさらされやすくなり、その結果眼の感染症にかかることなく、非常に低濃度の薬剤を利用できるように抗菌剤の活性を高める手段が必要である。
【0009】
点眼用組成物は、一般に、等張性緩衝溶液として処方される。この種の組成物の抗菌活性を高める1つの方法は、該組成物に多機能性成分を含めることである。これらの主要な機能を発揮することに加えて、これらの多機能性成分は該組成物の全体的な抗菌活性を高めることにも役立つ。
【0010】
点眼用組成物の抗菌活性を高めるために、多機能性成分の使用に関する背景技術として、さらに次のような刊行物を参照できる:
1.特許文献1(Mowrey−McKee,et al;トロメタミン);
2.特許文献2(Chowhan,et al.;ホウ酸塩/ポリオール複合体);
3.特許文献3(Chowhan,et al.;グリシンなどの低分子量アミノ酸);
4.特許文献4(Asgharian;低分子量アミノアルコール);および
5.特許文献5(Mowrey−McKee,et al.;ビス−アミノポリオール)。
【0011】
本発明は、本明細書で説明した型のホウ酸塩/ポリオール複合体を含む点眼用組成物の抗菌活性を、亜鉛がさらに高めることを見出したことにもある程度基づいている。点眼液を含む医薬組成物の抗菌活性を高めるために亜鉛を使用することは周知である。例えば、次の論文および特許刊行物、並びに上で引用した特許文献6および特許文献7を参照のこと:
非特許文献1;
非特許文献2;
非特許文献3;
非特許文献4;
特許文献8(Tuse,et al.);
特許文献9(Raheja,et al.);
特許文献10(Berkowitz,et al.);
特許文献11(Fujiwara,et al.);
特許文献12(Muhlemann,et al.);
特許文献13(Fujiwara,et al.);
特許文献14(Nair,et al.)。
しかし、本明細書で説明したホウ酸塩/ポリオール複合体と亜鉛イオンの併用は、先行技術では開示も示唆もされていない。
【0012】
本発明の組成物は、通常の抗菌性防腐剤(例えば、塩化ベンザルコニウム)を含まないが、菌による汚染から保存される、マルチドーズ型の製品である。この種の組成物は、「防腐剤を含まない組成物」であると当該分野では呼ばれている(例えば、Olejnikらの特許文献15を参照のこと)。該組成物の1つ以上の成分の固有の抗菌活性の結果として菌による汚染から保存される組成物は、当該分野では「自己保存性」であるとも呼ばれる(例えば、Mullerらの特許文献16)。
【0013】
以下の刊行物は、「防腐剤が含まれていない」または「自己保存性」である医薬組成物に関する背景技術として、さらに参照してよい:非特許文献5。
【0014】
通常の抗菌性防腐剤を含まない本発明のマルチドーズ型の組成物は、本明細書では「自己保存性」であると呼ばれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】米国特許第5,817,277号明細書
【特許文献2】米国特許第6,503,497号明細書
【特許文献3】米国特許第5,741,817号明細書
【特許文献4】米国特許第6,319,464号明細書
【特許文献5】米国特許出願公開第2002/0122831号明細書
【特許文献6】米国特許第6,348,190号明細書
【特許文献7】特開2003−104870号明細書
【特許文献8】米国特許第6,482,799号明細書
【特許文献9】米国特許第5,320,843号明細書
【特許文献10】米国特許第5,221,664号明細書
【特許文献11】米国特許第6,034,043号明細書
【特許文献12】米国特許第4,522,806号明細書
【特許文献13】米国特許第6,017,861号明細書
【特許文献14】米国特許第6,121,315号明細書
【特許文献15】米国特許第5,597,559号明細書
【特許文献16】米国特許第6,492,361号明細書
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】McCarthy,“Metal Ions and Microbial Inhibitors”,Cosmetic & Toiletries,100:69−72(Feb.1985)
【非特許文献2】Zeelie,et al.,“The Effects of Selected Metal Salts on the Microbial Activities of Agents used in the Pharmaceutical and Related Industries”,Metal Compounds in Environment and Life,4:193−200(1992)
【非特許文献3】Zeelie,et al.,“Effects of Copper and Zinc Ions on the Germicidal Properties of Two Popular Pharmaceutical Antiseptic Agents,Cetylpyridinium Chloride and Povidone−iodine”,Analyst,123:503−507(March 1998)
【非特許文献4】McCarthy,et al.,“The Effects of Zinc Ions on the Antimicrobial Activity of Selected Preservatives”,Journal of Pharmacy and Pharmacology,Vol.41(1989)
【非特許文献5】Kabara,et al.,Preservative−Free and Self−Preserving Cosmetics and Drugs−Principles and Practice,Chapter1,pages 1−14,Marcel Dekker,Inc.(1997)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、本明細書で説明したとおりに使用した場合、ホウ酸塩/ポリオール複合体を含む水性医薬用組成物の抗菌活性を亜鉛が高めうるという知見に基づいており、通常の抗菌性防腐剤を使わずにUSPの防腐効果に関する要件を満たす水性のマルチドーズ型組成物を作ることができる。
【0018】
本発明の自己保存性でマルチドーズ型の組成物は、(i)抗菌性防腐剤(例えば、Alcon Laboratories,Inc.により市販されている、BION(登録商標)TEARS Lubricant Eye Drops)の包含を回避するように「単一用量」または「単位使用」として包装されるか、または(ii)米国特許第5,424,078、5,736,165、6,024,954および5,858,346号に記載された亜塩素酸をベースとした系(例えば、Allerganにより市販されている人口涙液製品「REFRESH(商標)Tears」)または米国特許第5,607,698、5,683,993、5,725,887、および5,858,996号に記載された過酸化物含有系(例えば、CIBAVisionにより市販されている人口涙液製品「GenTeal(商標)Tears」)などのいわゆる「消失」防腐剤により保存される既存の点眼液よりいくつかの利点がある。
【0019】
これらの既存製品とは異なり、本発明のマルチドーズ型の点眼液組成物は、亜塩素酸塩または過酸化水素などの通常の抗菌性防腐剤を用いることなくUSPの防腐効果に関する要件を満たすことができる。
【0020】
亜鉛に関する上述の知見は、種々の型の医薬品組成物の抗菌活性の向上に適用することができる。しかし、本発明は、特に、塩化ベンザルコニウム(「BAC」)、ポリクオタニウム−1、亜塩素酸塩または過酸化水素などの通常の抗菌性防腐剤を使用しなくても菌の汚染防止に効果のある水性点眼液の提供に関する。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の医薬品組成物は、該組成物の抗菌活性を高めるのに十分な量のホウ酸塩/ポリオール複合体および亜鉛イオンを含んでいるので、通常の抗菌性防腐剤は必要ではない。
【0022】
本明細書で使われている用語「ホウ酸塩」には、ホウ酸、ホウ酸の塩類、他の医薬品として許容できるホウ酸塩類、およびこれらの配合物がある。次のホウ酸塩類、すなわち、ホウ酸、ホウ酸ナトリウム、ホウ酸カリウムおよびこれらの配合物は特に好ましい。2価カチオン(例えば、ホウ酸カルシウム)を含むホウ酸塩を使用すると、細菌および他の微生物の細胞壁上の結合部位の亜鉛と競合することにより、亜鉛イオンの抗菌作用に不利な影響があり、したがって、好ましくない。同じ理由で、本発明の自己保存性組成物は、塩化カルシウムなどの2価カチオンの他の供給源を含まないか、または実質的に含まない方が好ましい。
【0023】
本明細書で使われている用語「ポリオール」には、互いに関連したトランス構造にはない、2つの隣接した炭素原子の各々に少なくとも1つのヒドロキシル基を有する化合物がある。該ポリオールが、直鎖または環状、置換または非置換、またはこれらの混合物である限りは、得られる複合体は水溶性であり、医薬品として容認できる。この種の化合物の例には、糖、糖アルコール、糖酸およびウロン酸がある。好ましいポリオールには、マニトール、グリセリン、キシリトール、ソルビトールおよびプロピレングリコールを含む糖、糖アルコールおよび糖酸があるが、これらに限定されない。ソルビトール、プロピレングリコール、またはこれらの配合物の使用が特に好ましい。
【0024】
本発明の自己保存性組成物は、約0.1〜約2.0%w/vの量のホウ酸塩を含むのが好ましく、0.3〜1.5%w/vの範囲がより好ましく、0.5〜1.2%w/vの範囲が最も好ましい。本発明の組成物は、好ましくは約0.01〜約5.0%w/v、より好ましくは0.6〜2.0%w/vの範囲の量の1つ以上のポリオールを含む。
【0025】
抗菌活性を高めるためにホウ酸塩−ポリオール複合体を使用することは、米国特許第6,503,497号(Chowhan,et al.)に記載されており、該特許の内容全体は、引用により本明細書に組み込まれている。上述のホウ酸塩−ポリオール複合体は、該組成物の抗菌活性を高めるのに有効な量にて本発明の組成物において利用される。ホウ酸塩/ポリオール複合体の総濃度は、通常、0.5〜6.0重量%(「wt.%」)の範囲にあるであろう。
【0026】
亜鉛は、塩化亜鉛、硫酸亜鉛、酢酸亜鉛または炭酸亜鉛などの種々の形態で提供される。塩化亜鉛を使用することが好ましい。この効果を達成するために必要な塩化亜鉛の量は、選択された特定のホウ酸塩/ポリオール複合体により、製剤毎にいく分変動するが、一般に、約0.0005%〜約0.005%w/v、好ましくは0.00075〜0.0025%w/vになるであろう。
【0027】
一般に、本発明の自己保存性組成物は、0.000017モル/リットル〜0.00017モル/リットル、好ましくは0.000026モル/リットル〜0.00009モル/リットルのモル濃度にて塩化亜鉛または他の亜鉛塩の形態で亜鉛を含むのが好ましい。しかし、亜鉛の濃度は、0.0035モル/リットルくらいがよい。
【0028】
本発明の組成物において亜鉛が抗菌活性を高める仕組みは完全には分かっていない。しかし、亜鉛原子は、ホウ酸塩基の間に橋を形成することによりホウ酸塩の抗菌活性を高めていると考えられている。
【0029】
本発明は、特に、該組成物がUSPの防腐効果に関する要件、並びに通常の抗菌性防腐剤なしに、水性医薬品組成物の他の効果基準を満たすのに十分な量の亜鉛およびホウ酸塩を含む、マルチドーズ型の自己保存性点眼液組成物の提供に関する。
【0030】
バクテリアに関するUSP27抗菌効率のテストでは、マルチドーズ型の点眼液組成物は、約10〜10個のバクテリアの初期接種菌液を7日間で1ログ(すなわち、微生物集団が90%低減)および14日間で3ログ(すなわち、微生物集団が99.9%低減)低減するのに十分な抗菌活性を有する必要があり、且つ14日間の結果に従って微生物集団を増加させてはならないことを必要とする。真菌類に関するUSP基準は、該組成物が、28日の全テスト期間をとおして初期の接種菌液の集団に関してうっ滞(すなわち、成長なし)を維持する必要がある。微生物の集団を計算する場合の誤差の範囲は、一般に、0.5ログであると容認される。したがって、上で述べたUSP基準に関して利用した擁護「うっ滞」は、初期の真菌類の集団が、初期の集団に比べて、0.5ログオーダー以上は増加できないことを意味している。
【0031】
アメリカおよび他の国/地域におけるマルチドーズ型の点眼液の防腐効果基準は、次の表に記載する:
【0032】
【化1】

USP27について上で同定された基準は、USPの前の版、特にUSP24、USP25およびUSP26に記載された要件とほぼ同一である。
【0033】
本発明の組成物は、1つ以上の低分子量アミノアルコール類を含んでもよい。本発明において使用できるアミノアルコール類は、水溶性で、約60〜約200の範囲の分子量を有する。本発明で使用することができる低分子量アミノアルコール類の代表的な化合物は、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール(AMP)、2−ジメチルアミノ−メチル−1−プロパノール(DMAMP)、2−アミノ−2−エチル−1,3−プロパンジオール(AEPD)、2−アミノ−2−メチル−1,3−プロパンジオール(AMPD)、2−アミノ−1−ブタノール(AB)である。95%純度のAMPと5%の水とを意味している「AMP(95%)」は、本発明の最も好ましい低分子量アミノアルコールである。これらのアルコール類は、Angus Chemical Company(イリノイ州Buffalo Grove)から市販されている。
【0034】
アミノアルコールの使用量は、選択されたアミノアルコールの分子量、組成物中の他の成分(例えば、キレート化剤、緩衝剤および/または等張化剤)の有無に左右される。該組成物中に存在するアミノアルコールの量は、一般に、本明細書に記載した型の水性自己保存性医薬品組成物の抗菌活性を高めるのに必要な量である。特定の組成物に必要なアミノアルコールの量は、本明細書の実施例6に記載したテストなどの比較テストにより測定することができる。上述のアミノアルコール類は、ホウ酸塩またはホウ酸塩/ポリオール複合体のpHを中和、または該組成物を所望のpHレベルに調整するために本発明の組成物においても利用される。この目的に必要なアミノアルコールの量は、選択された特定のホウ酸塩またはホウ酸塩/ポリオール混合物およびこれらの濃度の関数である。一般に、本発明の自己保存性組成物は、約0.01〜約2.0重量%/容量%(「%w/v」)の総濃度、好ましくは0.1〜1.0%w/vの1つ以上のアミノアルコール類を含むであろう。
【0035】
本明細書に記載した亜鉛およびホウ酸塩/ポリオール防腐剤系は、点眼液、耳、鼻および皮膚各部の処置組成物などの抗菌活性および自己保存性を高めるために種々の型の医薬組成物に添加してよいが、点眼液組成物において特に有効である。この種の組成物の例には、緑内障、感染症、アレルギーまたは炎症の処置に使われる局所的組成物、コンタクトレンズを着けている患者の視覚の快適さを高める洗浄製品などのコンタクトレンズを処置する組成物、および視覚潤滑製品、人工涙液、アストリンジェントなどの他の型の種々の点眼液組成物がある。これらの組成物は、水性でも非水性でもよいが、一般には、水性が使われている。
【0036】
本発明の点眼液医薬組成物には、種々の型の治療薬がある。可能な治療薬の例には、ベータ−遮断薬(例えば、チモロール、ベタキソロール、レボベタキソロール、カルテオロール、レボブノロール、およびプロプラノロール)、カルボニック・アンヒドラーゼ阻害剤(例えば、ブリンゾールアミドおよびドルゾールアミド)、アルファ−1拮抗薬(例えば、ニプラドロール)、アルファ−2刺激薬(例えば、アイオピジンおよびブリモニジン)、縮瞳薬(例えば、ピロカルピンおよびエピネフリン)、プロスタグランジン類似体(例えば、ラタノプロスト、トラボプロストおよびウノプロストン)、降圧脂質(例えば、ビマトプロストおよび米国特許第5,352,708号に記載されている化合物)、神経保護薬(例えば、メマンチン)、セロトネルジクス[例えば、S−(+)−1−(2−アミノプロピル)−インダゾール−6−オールなどの5−HT刺激薬]、抗血管新生薬(例えば、酢酸アネコルタブ)、抗感染症薬(例えば、モキシフロキサシンおよびガチフロキサシンなどのキノロン類、およびトブラマイシンおよびゲンタマイシンなどのアミノグリコシド類)、非ステロイド系およびステロイド系の抗炎症薬(例えば、プレドニゾロン、デキサメタゾン、ロトプレドノール、スプロフェン、ジクロフェナクおよびケトロラク)、増殖因子(例えば、EGF)、免疫抑制剤(例えば、シクロスポリン)、および抗アレルギー薬(例えば、オロパタジン)がある。点眼薬は、マレイン酸チモロール、酒石酸ブリモニジンまたはジクロフェナク・ナトリウムなどの医薬品として容認できる塩の形態で存在することができる。本発明の組成物は、(i)ベータキソロールおよびチモロールからなる群から選択されるβ遮断薬、および(ii)ラタノプロスト、1,5−ケト・ラタノプロスト、トラボプロスト、ビマトプロスト、およびウノプロストン・イソプロピルからなる群から選択されるプロスタグランジン類似体の配合物などの点眼薬の配合物も含むことができる。結局、選択された治療薬は、点眼液として許容できるpHレベルの水溶液においてアニオン性であり、この種の組成物を自己保持するのに必要な亜鉛およびホウ酸塩またはホウ酸塩/ポリオール緩衝液の量は、治療薬と亜鉛イオンとの間の相互作用によりいく分多くする必要がある。
【0037】
本発明は、特に、角膜または隣接視覚組織が刺激を受ける状態、またはドライアイ患者の処置におけるように組成物の塗布を頻繁に必要とする状態の処置と関連した自己保持性で、マルチドーズ型の点眼液組成物の提供に関する。本発明の自己保持性組成物は、したがって、ドライアイ状態、並びに視覚炎症または視覚の不快感を含む他の状態の処置に使われる人工涙液、眼の潤滑剤、および他の組成物の分野において特に有効である。
【0038】
本発明の点眼薬組成物は、視覚の快適さおよび/または局所塗布後の眼上に組成物の保持性を高めるために1つ以上の薬剤を含むように処方することができる。利用できる薬剤の型には、ヒドロキシプロピル・メチルセルロース(「HPMC」)などのセルロース誘導体、デキストラン70、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、カルボキシビニルポリマー、ポリビニルアルコールポリマーまたはコポリマー、および多糖類がある。好ましい多糖類は、米国特許第6,583,125号(Asgharian)に記載されている、ヒドロキシプロピル・グアルおよび他のガラクトマンナン・ポリマーである。’125特許のすべての内容は、引用により本明細書に組み込まれている。
【0039】
先行パラグラフに記載されている一部の薬剤(例えば、ヒドロキシプロピル・グアル、これは以後「hp−グアル」と呼ぶことにする)は、ホウ酸塩と複合体を形成することができる。この種の複合体の形成は、本明細書に記載したホウ酸塩/アミノアルコール系の抗菌活性を妨げる可能性がある。結局、この種の干渉に遭遇した場合は、該系の調節が必要になる。例えば、ホウ酸塩濃度は上げることができるが、これは、組成物の粘度を上げる結果になり、望ましくない。本発明は、ホウ酸塩/アミノアルコール系の抗菌活性に対するこの種のポリマーの有害な影響は、該組成物に亜鉛を添加することにより解決することができるという知見にある程度基づいている。
【0040】
本発明の組成物は、一般に、無菌の水溶液として処方されることになる。本発明の組成物は、眼および/または該組成物で処置する他の組織に適合するように処方する必要がある。眼に直接塗布するための点眼液組成物は、眼と適合性のあるpHおよび浸透圧を有するように処方する。該組成物のpHを6.0〜8.5の範囲に維持できるような緩衝液が必要になり、該組成物の重量モル浸透圧濃度をキログラムあたり210〜350ミリオスモル(mOsm/kg)付近に調節する浸透圧調節剤を必要とする。
【0041】
1つ以上の通常の抗菌性防腐剤(例えば、塩化ベンザルコニウムおよびポリクオタニウム−1)は、望ましいならば、本発明の組成物中に存在させられるが、該組成物は通常の抗菌性防腐剤は含まない方が好ましい。利用するならば、この種の防腐剤は、通常の量は存在してもよいが、本発明の組成物の自己保持特性に鑑みて、この種の通常の抗菌性防腐剤は、通常の抗菌性防腐剤のみが通常より少ない量にて存在するならば、防腐効果に関する要件を満たすのに必要な量よりもかなり低い濃度にて利用することもできる。該組成物は、抗菌性防腐剤が選択肢として存在するならば、自己保持性組成物でよいので、該防腐剤の量は、抗菌性防腐剤として単独では有効量未満でよい。しかし、全体の組成物は、USP/FDA/ISO防腐効果の要件を満たすために十分な抗菌活性を有するであろう。
【0042】
通常の抗菌性防腐剤が存在するならば、アニオン性でない方が好ましく、アニオン性ならば、その量は、本明細書で説明した防腐系の抗菌活性を実質的に妨害しないほど十分少なくするのが好ましい。
【0043】
出願人は、すべての引用文献の内容全体を本明細書に明確に組み込んでいる。さらに、量、濃度、または他の値またはパラメータが、範囲、好ましい範囲、または好ましい上限値と好ましい下限値のリストとして提示されている場合は、これは、範囲が個別に開示されているか否かとは無関係に、上の領域限界または好ましい値と下の領域限界または好ましい値とのペアから形成されたすべての範囲を明確に開示しているものと解釈すべきである。本明細書においてある範囲の数値が列挙されている場合は、特に明記しない限り、該範囲は、その終点、およびその範囲内のすべての整数および有理数を含んでいる。本発明の範囲は、ある範囲を規定している場合、列挙された特定の値に限定される。
【0044】
本発明の他の実施形態は、本明細書の考察および本明細書で開示された本発明の実行法から当業者には明らかになるであろう。本明細書および実施例は、次の特許請求の範囲およびその等価物によって示されている本発明の真の範囲および意図の場合のみ典型的であると考えられる。
【0045】
次の実施例は、本発明の特定の実施形態を詳しく説明するために提示する。
【実施例】
【0046】
(実施例1)
下の表1に示した製剤は、抗菌活性に対するpH7.9の影響を調べるために調製した。
【0047】
【表1】

表1に記載した製剤は、次のようにして調製した:
HPMC溶液:
1.250mLのパイレックス(登録商標)ガラス製のびんに、正確な量の2%HPMC原液を入れる。
2.121℃で30分間加圧滅菌処理する。
3.加圧滅菌処理した溶液は保存し、後に調合に使用する。
緩衝媒体:
1.250mLのビーカーに、150mLのみの精製水を用いて200mLのバッチについて残りの製剤用化学物質を添加する。
2.pHを測定し、NaOH/HClを用いて7.9に調節する。
3.精製水を用いて100%(150mL)へ適量にする。
4.0.2μmのCAろ過装置を用いて該溶液をろ過する。
最終製剤:
1.加圧滅菌したHPMC原液に、ろ過した緩衝媒体を少しずつ添加する。
2.該溶液をよく混合する。
【0048】
上記溶液の抗菌活性は、標準微生物分析(すなわち、USP26有効抗菌性テスト)により調べた。テスト試料は、5つの微生物の標準懸濁液を用いて厳密に調べ残存微生物の数を、7日、14日および28日に測定した。結果は、下の表2に示す:
【0049】
【表2】

これらの結果は、テストした微生物に対する全体の防腐効果を実証している。
【0050】
(実施例2)
上で説明したように、ホウ酸塩と複合体を形成しうるポリマー(例えば、グアルまたはhp−グアル)は、本明細書に記載したホウ酸塩/アミノアルコール系の抗菌活性を低減することを見出した。下の表3に示した製剤は、デキストラン70およびHPMCがhp−グアルにより置換されたことを除いて、実施例1において記載した製剤に類似している。
【0051】
表3に示した製剤とほとんど同一の製剤は、USP防腐効果の要件を満たすために十分な抗菌活性を有するか否かを決めるために調べた。hp−グアルを添加すると、該製剤がUSP防腐効果の要件を一貫して満たすことができなくなることが判明した。しかし、この問題は、塩化亜鉛の濃度を10倍上げる(すなわち、0.00015から0.0015w/v%へ)ことにより解決できそうなことが見出された。この比較的高濃度の塩化亜鉛を含む表3に示した製剤は、USPの防腐効果の要件を一貫して満たしている。防腐効果テスト(「PET」)の結果を4種類のロットについて下に提示する:
【0052】
【表3】

(実施例3)
下の表4および5に示した製剤は、該組成物の抗菌活性に対するpHのわずかな変動の影響を調べるために調製し、テストした。
【0053】
【表4】

表4に提示した結果は、処方箋のpHが上がると、テスト微生物に対する活性は一貫して改善されることを示している。pH7.9では、該組成物はUSP26の防腐効果の要件を満たしている。しかし、7.9未満のpHを有する組成物は、USPの要件を満たすための十分な抗菌活性を有していない。
【0054】
pHを除いて同一であった2つの製剤の抗菌活性も比較した。下の表5に示したように、7.7のpHを有する製剤は、USP26の防腐効果の要件を満たしていないが、7.9のpHを有する製剤は、これらの要件を満たしている。
【0055】
【表5】

(実施例4)
下の表6に示した製剤は、抗菌活性に対する塩化亜鉛の効果を調べるために調製した。最初の2つの溶液は、それぞれ、亜鉛を含まない溶液と1.5ppmの塩化亜鉛を含む溶液であったが、USP26の防腐効果の要件を満たさず、15ppmの塩化亜鉛を含む第3の溶液はこれらの要件を満たした。
【0056】
【表6】

(実施例5)
抗菌活性に対する塩化亜鉛の影響は、下の表7に示した溶液の防腐効果を調べることによりさらに詳しく調べた。調べた塩化亜鉛濃度は、それぞれ、1.5ppm、3.0ppm、3.5ppm、7.5ppmおよび15ppmであった。表7の下部に提示した結果は、塩化亜鉛の濃度の上がると抗菌活性が向上することを示している。15ppmでは、2つのテスト微生物は全部排除された(すなわち、全滅した)。
【0057】
【表7】

(実施例6)
抗菌活性に関するアミノアルコールの濃度の役割についても調べた。この調査研究では、アミノアルコールAMP(95%)の濃度を除いて同一である、下の表8に示した製剤を用いた。表8の下部に示したように、濃度0.2および0.4w/v%のAMP(95%)を含む溶液は、緑膿菌に対してUSP26の防腐効果の要件を満たさなかったが、濃度0.6w/v%のAMP(95%)を含む溶液はこれらの要件を満たしている。
【0058】
【表8】

(実施例7)
上述の防腐剤系は、治療薬として、それぞれ、トラボプロストおよびパタノールを含む点眼薬についても調べた。結果は、これらの組成物が、保存効果の要件を満たすことを企図していることを示している。
【0059】
【表9】

(実施例8)
下に示す製剤について得られた結果は、亜鉛濃度の効果を示している。
【0060】
【表10】

(実施例9)
次の製剤は、亜鉛およびホウ酸塩/ポリオール複合体を含む防腐剤系の効果をさらに説明している。
【0061】
【表11】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
自己保存性のマルチドーズ型点眼用組成物であって、前記組成物が、0.5〜6.0wt.%のホウ酸塩/ポリオール複合体および0.000017〜0.00017モル/リットルの濃度の亜鉛イオンを含む抗菌有効量の防腐系を含む組成物。
【請求項2】
前記亜鉛イオンが、0.0005〜0.005w/v%の濃度において塩化亜鉛の形態で提供される請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記組成物が、USP(米国薬局方)の防腐効果に関する要件を満たすのに十分な抗菌活性を有する水性点眼液である請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記組成物が、通常の抗菌性防腐剤を含まない請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記組成物が、少なくとも1つの、治療上活性な薬剤を、さらに含む請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
水性点眼薬組成物の抗菌活性を高める方法であって、0.5〜6.0wt.%のホウ酸塩/ポリオール複合体および0.000017〜0.00017モル/リットルの濃度の亜鉛イオンを含む抗菌有効量の防腐系を含めることを含む方法。
【請求項7】
前記亜鉛イオンが、0.0005〜0.005w/v%の濃度の塩化亜鉛の形態で提供される請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記組成物が、USPの防腐効果に関する要件を満たすのに十分な抗菌活性を有する自己保存性のマルチドーズ型点眼液である請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記組成物が、通常の抗菌剤を含まない請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記組成物が、少なくとも1つの、治療上活性な薬剤を含む請求項6に記載の方法。

【公表番号】特表2010−504990(P2010−504990A)
【公表日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−530535(P2009−530535)
【出願日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際出願番号】PCT/US2007/079094
【国際公開番号】WO2008/042619
【国際公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【出願人】(508185074)アルコン リサーチ, リミテッド (160)
【Fターム(参考)】