説明

自己免疫疾患に関連する自己及び非自己抗原の同定

【課題】ヒト自己免疫疾患に関係する自己及び非自己抗原を同定する方法を提供する。
【解決手段】自己免疫反応と関連するMHCクラスII分子を選択し、少なくとも2個の該分子の主要MHC結合ポケットを選択し、選択されたポケットのそれぞれに結合する一組のアミノ酸残基を同定し、これらの一組のアミノ酸が対応する位置に許容された該分子のための配列モチーフを明かにし、そしてペプチドのアミノ酸配列を配列モチーフと比較することからなる方法、及び該方法により単離、同定された尋常性天疱瘡及び多発性硬化症に関係する抗原ペプチド。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は免疫学の分野に関連し、特に、ヒト自己免疫疾患に関係する自己、及び非自己抗原の同定に関する。本発明はそのような自己及び非自己抗原を同定する方法に関し、多発性硬化症及び尋常性天疱瘡に関連するそのような抗原例を提供するものである。本発明は、また、in vitroのアッセー、動物モデル、治療剤及びワクチンにそれらの抗原を使用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒト自己免疫疾患は主要組織適合性複合体("MHC")クラスI、若しくはクラスII遺伝子の特定の対立遺伝子と著しい遺伝学的な関連がある。本分野は慢性炎症性の関節疾患である強直性脊椎炎に対するHLA−B27関連の感受性の発見により進展し、確立された(Brewerton et al.,1973;Schlosstein et al.,1973)。MHC関連感受性については、インスリン依存性糖尿病(IDDM)、関節リウマチ(RA)、尋常性天疱瘡(PV)、多発性硬化症(MS)や重症筋無力症を含む各種の自己免疫疾患について文献に記載されている(Todd et al.,1987;Ahmed et al.,1990;Ahmed et al.,1991;Lanchbury & Panayi,1991; Spielman & Nathenson,1982; Protti et al.,1993)。
【0003】
自己免疫疾患と最もよく関連するMHCクラスII遺伝子座はHLA−DRβ遺伝子座(DRB1としても知られている)であり、50以上の知られた対立遺伝子との高度な多形性の遺伝子座である。例えば、多くの疫学的研究によると関節リウマチとDR4(DRB1*0401,DRB1*0404)及びDR1(DRB1*0101)対立遺伝子と関連性があり、DR4対立遺伝子の方がDR1より高リスクであることが文献に記載されている(Lanchbury & Panayi,1991)。対象がDRB1*0401、及び/若しくはDRB1*0404に対してホモ接合、若しくはヘテロ接合であるとき、リスクは劇的に増加する。関節炎が構造上類似している3つのDR対立遺伝子と関連があるという結果からDRB1*0401,0404,0101がDRB67−71クラスターの重要な多形性の残基を共有しているような、共有エピトープ(抗原決定基)仮説に発展した(Gregerson et al.,1987;Lanchbury & Panayi,1991)。これらの残基(特にDRβ71)は疾患関連性分子と結合するペプチドの選択性を決定するのに重要なようである。
【0004】
尋常性天疱瘡は高力価の表皮細胞接着分子(デスモグレイン)に対する高力価の自己抗体の産生がケラチノサイト接着の損失(棘細胞離開)、重篤な疱疹の形成という結果になる皮膚の自己免疫疾患である(Amadai et al.,1991)。異なる人種の集団では、その病気はDR4対立遺伝子(DRB1*0402)若しくは希にDQ1対立遺伝子(DQB1*05032)のいずれかと関連する;ごく少数のPV患者はどちらの感受性遺伝子も持っていない(Ahmedet et al.,1991;Ahmedet et al.,1990;Scharf et al.,1988b)。天疱瘡に関連するDR4サブタイプはRAと関連するDR4サブタイプとDRβ67−71クラスターの3つの位置しか異ならない。PV関連分子は重要な位置(DRβ71)に陰性の電荷(Glu)を有している;隣接位置(DRβ70)も陰性に荷電している。PVと関連するDR4サブタイプはDRβ71に陰性の電荷を有する唯一のものである;RAと関連するDR4分子にはDRβ71に陽性の電荷(Arg)があることが分かっている。
【0005】
多発性硬化症については、最近の免疫学的研究によるとミエリン塩基性蛋白質(MBP)がこの病気の免疫病因の重要な標的抗原の一つである可能性を示唆している。いくつかの研究がMBPに特異なT細胞がMS患者、及び in vivoで活性化された状態でクローン的に拡がっていることが示されている(Allegretta et al.,1990; Wucherpfennig et al.,1994b;Zhang et al.,1994)。免疫優性のMBP(84−102)ペプチドとの反応性はMS感受性の遺伝子マーカーであるHLA−DR2(そのうち最も多いサブタイプはDRB1*1501である)を持っている対象によく発見される。MBP(84−102)エピトープはHLA−DQ1を含む他のMHCクラスII抗原により提示される(Ota et al.,1990; Martin et al.,1990; Pette et al.,1990; Wucherpfennig et al.,1994a)。in vivo でこのペプチドに対するT細胞の反応はいくつかの拡がったクローンに支配されているように思われる。
【0006】
MHC対立遺伝子と病状との関連性はこれらの疾患の病因として自己免疫と関係しているが、多くの臨床的、及び疫学的証拠は感染が自己免疫の誘導に重要である可能性があることを示唆している。例えば、特定のウイルス感染はしばしば自己免疫心筋炎やタイプI(IDDM)糖尿病に進行する(Rose et al.,1986; Ray et al.,1980)。環境物質も移動研究により、多発性硬化症の進行するリスクに影響することが分かっている。人生の初期に移動するヒトは彼らが移動する地理的な領域のリスクを獲得するが、15歳以降移動するヒトは地理的原因と関連するMSを進行させるリスクを抱えている(Kurtzke,1985)。これらの研究は特定の地理的領域に比較的遍在する一群の病原体が多発性硬化症(MS)の進行のリスクに影響するという仮説と一致する。MBP反応性T細胞のクローンの拡散に導かれるメカニズムはまだ確認されなければならないが、免疫優性のMBPペプチドに対する十分な構造上の類似性を有しているウイルスペプチドを認識しうるということである。そのようなメカニズムによる自己免疫の開始が他のCNS自己抗原に対する感作に決定基拡散によりつながる(Lehmann et al.,1992;Kaufmann et al.,1993;;Tisch et al.,1993)。この仮説と一致して、炎症性CNS疾患は、麻疹や風疹のような、多くの通常のウイルス性病原による感染に引き続いて起こりうることは注目に値する。一方、これらの患者のCNSにウイルスがいないことおよびこれらの患者のミエリン塩基性蛋白質に対する反応性は自己免疫のメカニズムを示唆している(Johnson et al.,1984)。
【0007】
そのために、自己免疫に関連すると思われる自己ペプチドエピトープと各種の細菌性及びウイルス性の病原体との配列のホモロジーについてを同定する努力がなされた。これらのホモロジー検索は配列同一性で並列配置させることに焦点をあてている。自己免疫疾患のヒト患者からの恐らく病原性のT細胞と交叉反応することが出来る病原体からのエピトープを同定するのにそのような並列配置を利用して成功した例は報告されていない(Oldstone, 1990)。最近コクサッキーウイルス蛋白質のエピトープと糖尿病で自己抗原と疑われているGAD65の間の配列同一性が発見された。これらのペプチドは相互作用しながら、他のペプチドと交叉反応をするマウスポリクロナルT細胞株を産生する(Tian et al.,1990)。しかしながら、これらのペプチドが糖尿病マウス(若しくはヒト)からのクローンを活性化することが出来るという証拠は今までになかった。
【0008】
この分野の最近の進展により、特に対立遺伝子特異ペプチドの結合モチーフの同定がこの分野を変えた(Madden et al.,1991; Rotschke & Falk,1991)。この知識に基づいて、自己免疫疾患に対するMHC関連感受性の構造的基礎は本分野の長年の問題を解決するのに十分詳細なレベルで再研究出来るようになった。数種のMHCクラスI及びクラスII分子に結合するペプチドのモチーフが天然に産生されるペプチドの配列分析と知られているエピトープの変異分析により特定された。MHCクラスI結合ペプチドは短く(一般的には8−10アミノ酸の長さ)そして二つの優性MHCアンカー残基を有していることが分かった;MHCクラスII結合ペプチドはより長く大きさも不均一であることが分かった(Madden et al.,1991; Rotschke & Falk,1991; Jardetzky et al.,1991; 非特許文献1(Chiez et al.,1992,1993))。しかしながら、大きさの不均一により、配列の並列配置を基礎にしてMHCクラスII結合モチーフを特定することがさらに難しいことが証明された。さらに、最近、HLA−DR1の結晶構造でペプチドのN末端の近くに大きな疎水性のアンカー残基があることと、2番目のアンカー残基がいくつかの他のペプチドの位置にあることが分かった(Brown et al.,1993)。しかしながら、この研究でもHLA−DR蛋白質の結合ポケット、これらのポケットの形成に関連する特定の残基、若しくは構造上の条件、若しくはMHC結合の抗原等について詳細に開示することが出来なかった。
【0009】
【非特許文献1】Chicz et al. Nature Vol.358, pages 764-768 (1992)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本開示において、HLA−DR抗原結合ポケットの詳細な説明がなされる(Stern et al.,1994)。この情報で、MHC結合とTCR接触に必要な自己、若しくは非自己の抗原のアミノ酸を特定する情報(Wucherpfenning et al. 1994, 1995)とともに、各種のHLA−DRアロタイプの結合モチーフが明らかにされ、自己免疫疾患と関連する自己のエピトープが同定される可能性がある。そして、ヒトの自己免疫反応を開始させる細菌性、及びウイルス性エピトープを同定する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、ひとつには、ヒトデスモグレイン3蛋白質由来で自己免疫疾患の尋常性天疱瘡(PV)の自己エピトープと考えられる7個の異なる単離されたポリペプチドを提供する。これらのペプチドは本質的に、本発明で開示され、配列番号1番から7番に示されている7個のアミノ酸配列からなる。特に、本発明は、これらの配列からなるペプチド、これらの配列の核となるMHC結合残基、若しくは内部の核になるこれらの配列のMHC結合残基を提供する。
【0012】
本発明は、さらに、ヒト病原由来であるが自己免疫疾患の多発性硬化症の病因と考えられる8個の異なる単離されたポリペプチドを提供する。これらのペプチドは、本質的に本発明で開示され、配列番号8番から15番に示されている8個のアミノ酸配列よりなる。特に本発明は、これらの配列からなる単離されたペプチド、これらの配列の核になるMHC結合残基、若しくは内部のこれらの配列の核になるMHC結合残基を提供する。
【0013】
他の実施の形態としては、本発明は自己抗原に対してヒトを寛容する(tolerizing)のに使用する製剤を提供する。この製剤は製剤学的に許容できる担体、及び、ヒト自己免疫疾患と関連するMHCクラスII蛋白質の配列モチーフに相当するアミノ酸配列を含む単離されたヒトポリペプチド含む。これらのペプチドは、その蛋白質に結合して、自己免疫疾患に罹っている患者の自己反応性のT細胞を活性化する複合体を形成することができる。本ペプチドはヒトコラーゲン若しくはヒトミエリン塩基性蛋白質由来ではない。本ペプチドは好ましくはHLA−DR蛋白質である。
【0014】
特定の実施の態様としては、そのような製剤がHLA−DR蛋白質がHLA−DR4、若しくはHLA−DQ1蛋白質であり、自己免疫疾患が尋常性天疱瘡である製剤を提供する。さらに、特定の配列モチーフが尋常性天疱瘡について提供され、このモチーフを有するペプチドを含有する製剤を提供する。製剤の特定の実施の態様として尋常性天疱瘡に関し、上記に開示されたポリペプチドのそれぞれを含有する。このようにヒトを尋常性天疱疹抗原に対して寛容にする方法を提供する。
【0015】
他の実施の態様としては、本発明はヒト自己免疫疾患で考えられるヒト病原体の抗原に対して対象を寛容するのに用いられる製剤を提供する。製剤は製剤学的に許容しうる担体、及びヒト自己免疫疾患と関連するHLA−DR蛋白質のようなMHCクラスII蛋白質の配列モチーフに相当するアミノ酸配列を含む単離されたヒト病原体ポリペプチドを含む。これらのポリペプチドは自己免疫疾患に罹っている対象で蛋白質と結合し自己反応するT細胞を活性化する複合体を形成することが出来る。
【0016】
特定の実施の態様としては、そのような製剤は蛋白質がHLA−DR2蛋白質で自己免疫疾患が多発性硬化症であるものに提供される。さらに、3個の特定の配列モチーフが多発性硬化症及びこれらのモチーフの内少なくとも一つのペプチドを含有する薬剤が提供される。薬剤の特定の実施の態様として、多発性硬化症に関して、上述されているポリペプチドのそれぞれを含む。このように、多発性硬化症外来抗原に対して対象を寛容にする方法が提供される。
【0017】
本発明の他の局面では、自己免疫病の病因と考えられている、ヒト病原体に対するワクチン化に薬剤が提供される。これらの製剤は製剤学的に許容しうる担体及びヒト病原体に対して免疫するのに有効な免疫学的製剤を含む。ヒト病原体は自己免疫疾患と関連するHLA−DRのようなMHCクラスII蛋白質の配列モチーフに相当するアミノ酸配列を有するポリペプチドを天然の形で含むものである。これらのポリペプチドは自己反応性になり自己免疫疾患を開始するT細胞を活性化する複合体を形成するよう蛋白質と結合することが出来る。本発明製剤は特にそれらのポリペプチドを含まないが、むしろ病原体からの他の抗原を含む。
【0018】
特定の実施の態様ではそのような製剤は蛋白質がHLA−DR4蛋白質で、自己免疫疾患が尋常性天疱瘡であるものが提供される。さらに、特定の配列モチーフが尋常性天疱瘡でこのモチーフを有するペプチドを欠いている製剤が提供される。薬剤の特定の実施の形態として、尋常性天疱瘡に関して上述するそれぞれのポリペプチドを欠いている製剤を含む。このように、尋常性天疱瘡の原因になる可能性のある病原体に対して対象を免疫する方法が提供される。
【0019】
同様に、蛋白質がHLA−DR2蛋白質で自己免疫疾患が多発性硬化症である製剤が提供される。3個の特定の配列モチーフが多発性硬化症に提供され、これらのモチーフを有するペプチドのいずれをも欠いている製剤が提供される。製剤の特定の実施の態様として、多発性硬化症に関して上述されたどのポリペプチドも欠いている製剤を含む。このように、多発性硬化症の原因になる可能性のある病原体に対し対象に免疫性を与える方法もまた提供される。
【0020】
多発性硬化症の原因になる可能性のある病原体に対する免疫性を与える製剤はモチーフに相当するポリペプチドが除去されていたり、遺伝子組み替えで変えられていたりする病原体の不活性型を特に含むことが出来る。このように、本発明は、病原体及びポリペプチドがそれぞれ、単純ヘルペスウイルスとUL15蛋白質、単純ヘルペスウイルスと配列番号8番、アデノウイルスとアデノウイルスORF蛋白質、アデノウイルスと配列番号9番、緑膿菌とフォスフォマンノムターゼ蛋白質、緑膿菌と配列番号10番、乳頭腫ウイルスとL2蛋白質、乳頭腫ウイルスと配列番号11番、エプシュタイン−バーウイルスとDNAポリメラーゼ蛋白質、エプシュタイン−バーウイルスと配列番号12番、インフルエンザウイルスとヘマグルチニン蛋白質、インフルエンザウイルスと配列番号13番、レオウイルスとシグマ2蛋白質、レオウイルスと配列番号14番、単純ヘルペスウイルスとDNAポリメラーゼ、単純ヘルペスウイルスと配列番号15番であるようなワクチンを提供する。
【0021】
本発明は、ペプチドが自己免疫反応を誘導する能力を有するかどうかを評価する一般的な方法を提供する。これらの方法は、自己免疫反応と関連するMHCクラスII分子を選択し、少なくとも2個の該分子の主要MHC結合ポケットを選択し、選択されたポケットのそれぞれに結合する一組のアミノ酸残基を同定し、その一組のアミノ酸が対応する位置に許容された該分子のための配列モチーフを明かにし、そしてペプチドのアミノ酸配列を配列モチーフと比較することからなる。モチーフと一致するペプチドは自己免疫疾患を誘導する可能性が非常に高い。さらに、疾患と関連する既知のエピトープがある場合、方法は、少なくとも一つのエピトープのTCR接触残基が選択され、TCR接触の役をする一連のアミノ酸残基を同定し、適切な位置でモチーフに一連のものを含むものである。好ましい実施の態様として、分子はHLA−DR蛋白質で、モチーフは少なくともP1MHC結合ポケット及びP4とP6ポケットの少なくとも一つに相当する位置の残基について限定される。
【0022】
本発明の他の実施の態様として、ヒト自己免疫疾患と関連する外来抗原を特に同定する方法を提供する。これらの方法は前述した方法と同じステップを含むが、さらに、得られたモチーフ配列をヒト病原体の一連のものと比較することからなる。好ましい実施の態様として、ヒト腸内菌叢からの一若しくはそれ以上の種からのペプチド配列は考慮から除かれる。他の好ましい実施の態様としては、疾患の頻度と相関のない病原体の一つ若しくはそれ以上からの配列は除かれる。最も好ましい実施の態様として、ヒト病原体ペプチドを検索し、モチーフを検索基準としてコンピュータデータベースで評価する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明はペプチドの自己免疫反応を誘導する若しくは自己免疫逸脱を引き起こす能力を同定、評価する方法に関する。特に、本発明は、(1)自己エピトープ、若しくは自己抗原が未知の場合、自己免疫疾患との関連性のポテンシャルについて自己ペプチドを評価し、および(2)外来抗原の自己免疫疾患との関連の可能性を評価する方法に関する。本発明は本発明の方法により同定され、尋常性天疱瘡及び多発性硬化症とそれぞれ関連する自己及び外来抗原を提示する特定のペプチドに関する。
【0024】
本方法はあり得る自己若しくは外来エピトープと比較されるアミノ酸配列モチーフを明確にすることに依存する。各モチーフは、各(相対的)位置での残基が(a)単一残基に限定され、(b)限られた一連の残基のなかから変わりうる、若しくは(c)全ての可能な残基の中で変わりうる、ある限られた一連のアミノ酸配列を開示している。本明細書では統一するために、しかし本発明をいかなるようにも限定するものでもなく、これらの配列モチーフは(a)単一残基に限定される位置はその残基の一文字略記で表し、(b)一連の残基のなかで変わりうる位置はそれらの残基を一行の一文字略記で表し、(c)全てのアミノ酸残基で変わりうる位置はXで表す文字列として符号化する。例としてのみであるが、モチーフは最初の位置の残基が、バリン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、若しくはフェニルアラニンのうちのいずれかであり、2番目のアミノ酸残基がヒスチジンであり、3番目の残基がいずれのアミノ酸でもよく、4番目のアミノ酸がバリン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、チロシン、若しくはトリプトファンのうちのいずれかであり、5番目の残基がリジンである場合はそのようなモチーフは以下のような文字列で表される。
【0025】

【0026】
本発明の一つの局面では、配列モチーフが主要組織適合性複合体HLA−DR蛋白質の結合ドメイン若しくは結合ポケット、及び/又はMHCクラスII分子に結合するエピトープのT細胞受容体("TCR")接触点の分析により明らかになる。MHCクラスII結合ポケットの形成に関連する残基の詳細な構造的な分析を提供することによりMHCクラスII蛋白質のいずれかに結合する配列モチーフの予測が可能になる。
【0027】
本発明の他の局面では、本発明で開示された方法で明らかになった配列モチーフは自己抗原が既知若しくは推測されるときは自己免疫反応に関連する自己ペプチドエピトープを同定するのに用いることが出来る。
【0028】
本発明の他の局面では、自己免疫疾患と関連する外来ペプチドエピトープを同定する方法を提供するものである。これらの方法はヒト自己免疫反応を開始させるある種類の生物体、若しくは病原体由来のペプチドを同定するMHC及び/若しくはTCR結合モチーフを利用することよりなる。この面では、モチーフは本発明の方法若しくは当業者で既知の他の方法により明らかにすることが出来る。これらの配列モチーフを検索、評価若しくはデザイン基準として用いて、特定のMHC分子に結合する、及び、T細胞及び/若しくは自己免疫反応を誘導するT細胞受容体と相互作用する可能性のかなり高い種類のペプチドを同定することが出来る。
【0029】
純粋の配列ホモロジー(抗原的には類似して配列は全く異なる多くのペプチドを除外する)、若しくは限定しない保存的な置換による配列ホモロジー(非常に高度に保存された部位で異なる多くのペプチドを許容する)に反して、これらのモチーフを使用すると自己免疫疾患と関連する可能性のある特定のペプチドの評価や、自己免疫反応に関連する自己及び外来ペプチドを同定するのにペプチド配列のコンピュータ検索が当業者が著しく優位にできるようになる。さらに、自己免疫疾患の病因と関連する外来ペプチドの限定されたデータベースを検索するためにMHCクラスII及び/若しくはTCR結合モチーフを利用することは結合モチーフの概念の新規な応用である。
【0030】
本発明の実施の詳細な実施例は以下に説明される。本発明の方法は、自己免疫疾患である尋常性天疱瘡と関連する従来未知であった自己ペプチドエピトープを同定するのに用いられてきた。さらに、本方法は、多発性硬化症(自己エピトープは以前に同定されている)の自己免疫反応の開始と関連する可能性のある一群の外来ペプチドを同定するのに用いられてきた。
【0031】
このように、本発明は、他の実施の態様では、以下に説明されるように各種の診断及び治療の方法、及び薬剤に利用されるこれらのペプチドを単離された形で提供する。
【0032】
I.MHCクラスIIHLA−DR分子擬似モチーフ
HLA−DR結合サイトは抗原のアミノ酸側鎖と結合する5個の主要なポケットにより特徴づけられている。(Stern et al.,1994、引用されることにより本発明に取り込まれる完全な開示) 図1参照。最初の主要なポケットで結合する抗原のアミノ酸残基はP1に示されている。残りの残基はP1に対する相対位置で番号づけされている(カルボキシ末端に向かって正の番号が増加し、アミノ末端に向かって負の番号が増加する):
P−i・・・P−1 P1 P2 P3 P4・・・Pj
【0033】
このように、HLA−DR分子の最初の主要なポケットは、定義により、抗原の残基P1の側鎖と結合する。残りの主要なポケットは残基P4,P6,P7およびP9と結合する。これらの残基は主要なMHC接触残基として定義される。
【0034】
残基P−1,P2,P3,P5、P8及びP11はHLA−DR結合サイトからは離れたところに向いているのでT細胞受容体(TCR)との接触残基として利用される。これらの残基の全てをTCR接触残基として定義する。
【0035】
A.MHC接触残基
HLA−DR分子の最初の主要なポケットは強い疎水性である。β鎖の85、86、89及び90の位置の一連の残基、α鎖の31、32及び34の位置の一連の残基及びα鎖の7及び43の位置の残基からの側鎖によりそれは形成されている。例えばHLA−DR1(DRA,DRB1・0101)では、最初のポケットは残基β85(Val)、β86(Gly)、β89(Phe)、β90(Thr)、α31(Ile)、α32(Phe)、α34(Phe)、α7(Ile)、α43(Trp)により形成されている。他のHLA−DR対立遺伝子に相当する残基は当業者には知られており(例えば、ここに引用によって組み込まれるMarsh 及びBodmer 1992 を参照)、遺伝子データベースを通じて利用できる。
【0036】
P1ポケットを形作る残基の殆どは高度に保存されたDRα鎖からのものであるが、このポケットの大きさや性質はポケットと関連するβ鎖残基の多形性により変化する。DRB1*0101蛋白質については、ポケットは大きく疎水性であり脂肪族若しくは芳香族残基のいずれでも収容できる。しかしながら、β鎖の多形性のためP1ポケットの結合能力は変化する。例えば、β86残基は多形性で知られている。殆ど通常の場合はこの部位はGly 若しくはVal で占められている。一般にGly がβ86(DRB1*0101におけるように)に存在する場合、脂肪族若しくは芳香族残基のいずれでもポケット内で結合する。しかしながら、Val の場合は、ポケットは小さくそしてTyr やTrp は収容できない。このように、β86がGly の場合、分子擬似モチーフのP1の位置がV,L,I,A,M,F,Y,Wから選ばれた残基からなり、β86がVal の場合は、モチーフのP1の位置はV,L,I,A,M,Fから選ばれた残基からなる。同様な考慮がP1ポケットの他のβ残基に応用できる。
【0037】
HLA−DR分子のP4ポケットもまた抗原結合サイトを横切って配向している比較的大きく、浅い、疎水性のポケットである。このポケットはポケットの側面とと底面に沿って疎水的相互作用することが出来る各種の脂肪族側鎖と結合することが出来る。このポケットはβ鎖の70、71、74及び78の位置の一連の残基と、β鎖の13の位置とα鎖の9の位置の残基の側鎖により形成される。例えば、HLA−DR1(DRA.DRB1*0101)では、P4ポケットは残基β70(Gly)、β71(Arg)、β74(Ala)、β78(Tyr)、β13(Phe)、α9(Gln)により形成されている。他のHLA−DR対立遺伝子に相当する残基は当業者に知られており(Marsh 及びBodmer,1992)、遺伝子データベースを利用できる。
【0038】
P1ポケットのように、P4ポケットは非常に疎水性であるが、結合能力はポケットと関連するβ残基での多形性により影響を受ける。例えば、異なるDR対立遺伝子はβ71の位置には異なる電荷の残基を有し、DRB1*0404ではβ71は正に荷電したArg残基により占められているが、DRB1*0402ではβ71は負に荷電しているGlu残基である。このように、このポケットは、一般に各種の脂肪族、若しくは芳香族側鎖(例えば、V,L,I,A,M,F,Y,W)と結合するが、正に荷電したP4抗原残基はβ71が正に荷電している場合は好ましくなく、負に荷電したP4残基はβ71残基が負に荷電したときは不都合である。同様な考慮がP4ポケットの他のβ残基にも応用できる。ある残基は二つの隣接するポケット(例えばP4及びP6ポケットのβ13)のいずれをも、形成するのに関連することに注目すべきで、それ故、特定のアミノ酸によるこれらのポケットの一つを占めることは他の占有にも影響する。
【0039】
HLA−DR分子のP6ポケットは小さい目のP6抗原残基(例えばA,G)に都合のいい比較的浅いポケットである。このポケットはHLA−DR蛋白質の高度に保存されたα11、α62、α65、α6残基と高度に多形性のβ11及びβ13により形成されている。例えば、HLA−DR1(DRA,DRB1*0101)では、P6ポケットは残基α1(Glu)、α2(Asn)、α5(Val)、α6(Asp)、β11(Leu)及びβ13(Phe)より形成されている。他のHLA−DR対立遺伝子の相当する残基は当業者に知られており(Marsh 及び Bodmer 1992,参照)、遺伝子データベースを利用できる。
【0040】
P6ポケットには、たった2個のβ鎖残基があるだけであるが、DR対立遺伝子のなかでは広く変化している。β13(DRB1*0101のように)の大きなPhe 残基とP6残基は小さい残基(例えばA,G)の一つが好ましい。しかしながら、他のDR対立遺伝子では、β13はDRB1*0401のβ13(His)のように、より小さいか、若しくは極性の残基により占有されている。そのような対立遺伝子では、P6モチーフは幾分より大きな若しくは極性の残基(例えばS,T,V)も含みうるが、それでも。最も大きく芳香族の残基は避けなければならない。最後に、いくつかの対立遺伝子では、β11、β13は両方ともセリン残基(例えばDRB1*1101)で、これらの場合はより親水性で水素結合する残基をモチーフに含むことが出来る。
【0041】
HLA−DR分子のP7ポケットは比較的浅いポケットである。このポケットはポケットはβ鎖の5個の残基β28、β47、β61、β67、β71により形成されている。例えばHLA−DR1(DRA,DRB・0101)では、P7ポケットはβ28(Glu)、β47(Tyr)、β61(Trp)、β67(Leu)、β71(Arg)により形成されている。他のHLA−DR対立遺伝子に相当する残基は当業者に知られており、遺伝子データベースより利用できる。このポケットはHLA−DR1の特異性に大きくは貢献していないようであるが、他の対立遺伝子では重要である。
【0042】
HLA−DR分子のP9ポケットは一般に小さい疎水性ポケットであり、それ故抗原のP9位置は小さい疎水性の残基が好ましい。このポケットは保存されたα鎖残基α69、α72、α73、及びα76及び多形性β鎖残基β9及びβ57によって形成されている。例えば、HLA−DR1(DRA,DRB1*0101)では、P9ポケットはα69(Asn)、α72(Ile)、α73(Met)、α76(Arg)、β(Trp)、β57(Asp)により形成された。他のHLA−DR対立遺伝子に相当する残基は当業者に知られており(Marsh及びBodmer,1992)、遺伝子データベースにより利用できる。
【0043】
P6,P7,P9ポケットはP1やP4ポケットと比較してDR分子への結合にはそれほど重要でないように考えられるが、他のイソタイプへの結合により重要である可能性がある(例えば、DQのP9ポケットは重要である)。
【0044】
B.TCR接触残基
自己免疫疾患と関連する既知の、若しくは推測されている抗原がない場合、TCR接触残基に相当する配列モチーフの位置は制限されない。即ち既知若しくは推測されている抗原がない場合、モチーフのTCR接触残基の位置は全てのアミノ酸のなかで変化しうるのが好ましい。
【0045】
一方、自己免疫疾患に関連する既知若しくは推測されている抗原が存在する場合、TCR接触残基に相当するモチーフ位置の少なくともいくつかは抗原の配列に従って限定される。このように、例えば、モチーフのP2及び/若しくはP3及び/若しくはP5位は抗原の相当する位置に存在する残基のみに限定される。また、モチーフのTCR接触残基の少なくともいくつか抗原の相当する残基にのみ限定されるものではないが、類似の電荷を持つもの、及び/若しくは構造的に類似した残基(例えばKとR)の中で変化しうる。しかしながら、モチーフのTCR接触残基に関する高度な保存性は既知の非特異的なMHC結合と比較して、TCR結合の高度な特異性により説明できる。
【0046】
C.HLA−DR配列モチーフの解明
P1,P4,P6,P7及びP9MHC結合ポケットの形成に関連する、HLA−DR残基が本発明で開示され、特定HLA−DR対立遺伝子のいずれのもののヌクレオチド若しくは相当するアミノ酸配列が与えられると、ペプチドのMHC蛋白質に対する結合能を評価、若しくは予測するのに有能な配列モチーフを解明することが出来る。特定の抗原がMHC蛋白質に結合することが既知、若しくはその可能性があるときは抗原のTCR接触残基もモチーフのなかに考慮される。
【0047】
本方法は、モチーフの相当する位置でペプチド残基の選択が限定されるMHC結合ポケットの二つ以上、最初に選択しなければならない。5個の全ての主要な結合ポケットを選択し、モチーフの5個の相当する位置が限定されるモチーフを解明するか、若しくはそのうちの少しを選択し、より限定されていないモチーフを明らかにする。当業者には明らかなようにより限定されたデータベース検索でより少ない数のペプチドを同定し、より限定されていないモチーフはより多くの数のペプチドを同定することになる。全ての場合、少なくとも2個の主要な結合ポケットが選択される。5個全部より少ないMHC結合ポケットを選択する場合、少なくとも一つはP1で、二つ目はP4,P6及びP9から選択するのが好ましい。
【0048】
モチーフにより限定されるポケットの選択する前か後にそれらのポケットのそれぞれの中で結合すると考えられる一組のアミノ酸側鎖、及びそれ故、モチーフの相当する位置を特定する一組のアミノ酸残基が決定されなければならない。これはポケットを形成するアミノ酸残基を考慮することにより、当業者により実行できる。上記A節で同定されたこれらの残基はポケット及び結果としてポケット内で結合する側鎖のサイズや性質(即ち、疎水性、親水性、正の電荷、負の電荷、荷電無し)を決めてしまう。これらを考慮するとき、図1が参考になるかも知れないが、ポケットの変化になれてくるに従って不必要になってくる。
【0049】
一般的なことで、本発明で開示されるHLA−DR蛋白質のMHC結合ポケットを形成する残基の同定に照らして、これらの残基が二つ以上の結合ポケットが既知である場合HLA−DR蛋白質の配列結合モチーフを容易に当業者であれば解明できる。主要な考慮事項はサイズ、疎水性及び電荷である。本発明では、これらの考慮事項については既知の原則に従って、言及されている。DRB1*0101対立遺伝子のそれぞれのポケットの基本的な説明が本明細書でなされている。HLA−DR蛋白質と比較して、他のHLA−DR対立遺伝子のモチーフを当業者であれば解明できる。このように、より大きな/より小さなポケットになる置換は相当するモチーフ位置がより小さな/より大きな残基を許容するように限定されることを示唆する。同様に、より疎水性の/より疎水的でないポケットであれば、相当するモチーフ位置はより疎水性の/より疎水性でない残基に限定されるべきである。最後に、正の/負の電荷を有するポケットは、相当するモチーフ位置には、正の/負の電荷を有する残基は除外され、負の/正の電荷を有する残基からなるべきである。上述の如く、本開示により、確立された原則を基礎にしてモチーフを当業者は解明することが出来る。
【0050】
例えば、限定する意味ではないが、HLA−DR蛋白質のP1ポケットを考えてみよう。DRB1*0101のこのポケットを形成する残基は上述されている。DRB1*0101としてP1ポケットは大きく疎水性で脂肪族、若しくは芳香族残基のいずれ(例えば、V,L,I,A,M,F,Y,W)をも収容しうる。DRB1*1602蛋白質では、同じことがいえる。一方、DRB1*1501蛋白質では、β86位置DRB1*0101やDRB1*1602ではGlyのところがValになっている。この置換はMHC蛋白質のP1ポケットのサイズを減少させている。結果として、Tyr 若しくはTrp 側鎖を容易には収容できない。このように、DRB1*1501ではP1位置の配列モチーフはV,L,I,A,M及びFから選択される残基に限定されるであろう。
【0051】
同様に、本発明によれば、当業者であれば、MHCクラスII結合ポケットのそれぞれを考え、ポケットを選ぶのみで、ポケット形成に関連する残基が既知であるいずれのMHCクラスII蛋白質に対する配列モチーフを解明することができる。これらの残基は、ポケットのサイズや性質を、従って、その中で結合する残基のサイズや性質を決定する。ポケットが比較的小さいとき、モチーフの相当する位置から最も大きなアミノ酸残基(例えばY,W)は除外され、ポケットが電荷を有していると、同じ電荷のアミノ酸残基は除外される。
【0052】
もし免疫反応に関連する自己若しくは外来エピトープが既知、若しくは推測されている場合、特にそのTCR接触残基が反応性T細胞クローンを利用することによって特定できる場合、エピトープのTCR接触残基が配列モチーフを解明するのに考慮される。MHC接触残基に関しては、TCR接触残基の全て若しくは単なるいくつかがモチーフの中で限定される。MHC位置に関しては、より多くの位置(若しくは、いずれかの一つの位置の高度の限定)の限定がデータベース検索でより少ないペプチドの同定という結果になる。MHC接触残基とは異なり、モチーフの少なくとも二つの位置が限定されるべきであるが、モチーフのTCR接触残基の全ての限定を解除することは許容できる。
【0053】
配列モチーフのなかで、いずれかのTCR接触残基位置が限定される場合、P2,P3,及びP5から位置が選択されるのが好ましい。MHCクラスII結合ポケットの比較的非特異的のことと比較して、TCR接触残基は高度の特異性を有し、モチーフで限定されているいずれのTCR接触残基位置はむしろ狭く限定される方が好ましい。即ち、そのような位置は、既知の抗原の相当する位置に存在する残基に、若しくは構造、及び電荷で高度に類似している残基に限定されるのが好ましい。
【0054】
例えば、以下にさらに詳細に開示するように、MBP(85−99)ペプチドは多発性硬化症と関連する自己抗原であることが知られている。このペプチドのP3残基はPhe(MBPの残基91)であり、P5残基はLys(MBPの残基93)である。このように、P3がモチーフで限定されている場合、それはF、若しくは可能ならF及びYに限定されるのが好ましい。同様にP5が限定されるのであれば、それはKのみ、若しくはK及び同様の電荷を有するRに限定されるのが好ましい。若しくは、P3及びP5は限定されないであろう。
【0055】
明らかに、限定するのに選択されなかったMHC及びTCR位置について、本開示の注釈で、Xで示される。同様に以下の例で示されるように、いくつかのモチーフが変化の程度を限定する位置の数を変えることで解明される。
【0056】
II.配列モチーフを利用して自己エピトープの同定
増加し続ける自己免疫疾患はMHCクラスIIHLA−DR遺伝子座の特定の対立遺伝子と関連する。これらの自己免疫疾患の殆どにとって、自己エピトープはまだ不明である。しかしながら、いくつかのものは、自己免疫疾患と関連する蛋白質が知られていたり、推測されている。
【0057】
本発明の一つの局面は、MHCクラスII対立遺伝子が関連する自己免疫疾患と関連する自己エピトープを同定する方法を提供する。即ち、ヒトペプチド配列と本発明の配列モチーフを比較することによって、疾患と関連する自己エピトープである可能性が最も高いこれらのペプチドを同定することが出来る。
【0058】
本方法は、特定のHLA−DR対立遺伝子との関連が知られており、対立遺伝子のMHC結合ポケット(主要ポケットの少なくとも二つ)を形成するアミノ酸残基が知られている自己免疫疾患のいずれにも応用できる。本発明で述べられている方法に従って、疾患と関連するHLA−DR蛋白質の一つ以上の配列モチーフを解明できる。当然に、疾患が二つ以上の対立遺伝子と関連していると、モチーフは二つ以上のHLA−DR蛋白質について解明され、特にこれらのモチーフにより共有される残基を使うことによりコンセンサスモチーフが解明できる。
【0059】
配列モチーフ若しくはこのように解明されたモチーフは適当な一組のヒトペプチド配列と比較される。ヒトペプチド配列は全て既知のヒト配列からなり、当業者に自明の方法で限定されるであろう。例えば、疾患が特定の組織に限定される場合、検索はこれらの組織に見られるペプチドに限定することが出来る。逆にいうと、影響しない組織に見られるペプチドが検索プールから除かれる。最も極端な場合、自己抗原は既知若しくは推測されているが、特定のエピトープが未知の場合、検索は自己抗原内の配列に限られる。(実施例1参照)
【0060】
本方法はモチーフと調和し、最も自己エピトープらしい一組のペプチドを同定するのに利用できる。モチーフにより限定される位置の数、及び/若しくは各位置での限定の程度、及び/若しくは検索プールの大きさを変えながら、一組のペプチドの数もまたおそらく変化させることが出来る。上述した如く、少なくとも二つのMHC接触位置(例えばP1とP4)は限定される。結果としてできた一組のペプチドの数により、多かれ少なかれ限定的なモチーフはその組を減少させたり、拡大したりするのに利用できる。結果として出来る組の望ましいサイズはもちろん、この方法の実行者のそのあとの意図に依存する。
【0061】
一度、一組のペプチドが同定できればこれらのペプチドは場合によっては活性のスクリーニングにかけられる。そのようなスクリーニングの選択は、やるヒトの裁量にまかされ、本発明の範囲を超えたものである。しかしながら、自己反応性のT細胞の増殖の誘導やこれらのT細胞からのリンフォカイン(サイトカイン)の分泌の誘導や殺細胞性のような他のエフェクター機能を誘導する能力をin vitroで試験するのが好ましい。ある状況では、ヒト in vitro の試験が適当で、他の状況ではヒト疾患の動物モデルが利用できる。
【0062】
III.ヒト自己免疫疾患と関連する外来エピトープの同定
背景の節で述べたように、疫学的証拠からは各種の細菌性及びウイルス性病原体がヒト自己免疫疾患と関連があり、分子擬似の概念は文献で広く知られている(Oldstone,1990にレビューされている)。しかしながら、ヒト自己免疫疾患に関連する特定の外来エピトープを同定する従来の試みは既知のヒトエピトープに直接的な配列類似性に依存してきた。現在までに良い結果は得られなかった。いずれの病原体も、いずれの病原体由来のペプチドもヒト自己免疫疾患の一番の原因にはなっていない。
【0063】
このように、本発明の他の局面では、ヒト自己免疫逸脱と関連する外来エピトープを同定する方法を提供する。即ち、そのような外来エピトープを同定する方法を始めて提供するもので、ヒト自己免疫疾患の病因に関連する可能性が最も高いと思われる外来ペプチドを同定する配列モチーフを用いる。
【0064】
この方法は、特定のMHCクラスII蛋白質との関連が知られ、(1)配列モチーフが従来技術の方法で解明でき他、若しくは(2)本発明による方法で解明できる自己免疫疾患のいずれにも適用できる。自己エピトープが既知若しくは推測されているときには、TCR接触残基はモチーフ内に含まれる。前述の如く、一つ以上のモチーフが用いられ、また由来の異なるモチーフをコンセンサスモチーフを解明するのに組み合わせることができる。
【0065】
配列モチーフ、若しくはこのように解明されたモチーフはそれから、ヒト病原体由来の適当な組のペプチド配列と比較される。これは当業者に広く利用しうる遺伝子データベースを利用して便利に実行できる。最も好ましい実施の態様は、検索プールが以下の方法の一つ以上に限定される:(1)ヒト細菌性若しくはウイルス性病原体からの配列のみ;(2)正常ヒト腸内菌叢(例えば大腸菌、若しくは他の腸内菌)からの配列は除く;(3)病原体からの配列は病原体の地理的、若しくは疫学的発生頻度と問題の自己免疫疾患との正若しくは負の相関があることにより含めたり除外したりする(実施例2参照)。
【0066】
この方法はモチーフと調和し、ヒト疾患との関連性の最も強い一組の外来ペプチド同定するのに利用される。前述の如く、その組のペプチドの数は多かれ少なかれ限定的なモチーフを用いたり、及び/若しくは検索プールを変えたりして変化させることが出来る。さらに、前述の如く、結果として出来る一組のペプチドはその後各種の既知の活性測定にかけることが出来る。
【0067】
IV.本発明の方法により同定された自己及び外来エピトープ
以下の実施例に詳細に説明してあるように、本発明の方法は、(1)尋常性天疱瘡に関連するデスモグレイン3の7個の自己エピトープを同定し、(2)多発性硬化症と関連するヒト病原体由来の8個の外来抗原を同定するのに利用される。
【0068】
これらのペプチドのそれぞれは、用いたコンピュータデータベース検索プログラム(遺伝子コンピュータグループプログラム"Fidpatterns")の結果と、MHCクラスII分子のポケットのサイズに相当する長さで15残基のものである。それぞれの5番目の位置が抗原のP1残基に相当する。このようにMHCクラスII結合ポケットに広がるP−2からP11残基がこれらの配列の3番目から15番目の残基に相当する。MHC及びTCR結合に重要なP−1からP9残基は4番目から13番目の位置に相当する。MHC及びTCR結合に最も重要な残基P1からP6はこれらの配列の4番目から10番目に相当する。
【0069】
配列番号1から配列番号7までがPVA1からPVA7までとして表1に示されており、ヒトデスモグレイン3の残基78−93、97−111、190−204、206−220、251−265、512−526及び762−786に相当する。これらのペプチドは尋常性天疱瘡の自己エピトープとして関連がある。実施例1で説明されているように既にこれらのうちのペプチドの2つは天疱瘡の二人の患者から単離したT細胞を増殖させたものである。
【0070】
表2に示されている配列番号8から配列番号15まではそれぞれ、単純ヘルペスウイルスUL15蛋白質、アデノウイルスタイプ12ORF、緑膿菌フォスフォマンノムターゼ、ヒト乳頭腫ウイルスタイプ7L2蛋白質、エプスタイン−バーウイルスDNAポリメラーゼ、インフルエンザタイプAヘマグルチニン蛋白質、レオウイルスタイプ3シグマ2蛋白質及び単純ヘルペスDNAポリメラーゼの内部フラグメントである。これらのペプチドは多発性硬化症の病因や軽減に関連する外来エピトープと関連する。後述の実施例2では、それぞれがヒト多発性硬化症の患者から単離された自己反応性のT細胞クローンの増殖を誘導することが出来ることが示されている。MBP(85−99)ペプチドの配列は配列番号16に開示されている。
【0071】
これらの蛋白質のそれぞれはいろいろ利用度があり、それ故他の局面では本発明は単離された形のこれらのペプチドを提供するものである。配列表や表に示されされている15残基の配列に加えて、本発明はMHC結合ドメインに相当するこれらのペプチドのフラグメントを含むものである。特に、本発明は配列番号1番から配列番号15までのそれぞれのP−2からP11,P−1からP9,及びP−1からP6の位置に相当するペプチドを提供するものである。当業者には自明のように、少なくともP1とP4,若しくはすくなくともP1とP6、若しくは少なくともP4,P6及びP7残基のどのフラグメントも用途があり、請求項の範囲に入るものである。これらのペプチド、若しくは、上述された少なくともMHC結合及びTCR接触残基を含むペプチドを含む長い目のペプチドは等価のものと考えられる。
【0072】
これらのペプチドの生産方法は重要ではないが、それらは天然の資源から単離することもでき、合成によってもできる。それらの比較的短い長さのために、それらは、今のところ、合成により産生されるべきである。そのようなペプチドの単離、精製及び合成の方法は、当業者に良く知られており、本明細書で引用する必要性はない。
【0073】
本発明は、本発明の方法により同定された他のペプチドを用いた生成物及び方法を提供するものである。これらのペプチドは、上述されたものと同様に以下の実施の態様で用いられる。
【0074】
本発明のペプチドは尋常性天疱瘡や多発性硬化症の診断や分類を支援するin vitroのアッセーに使用できる。例えば、PVやMS患者からの自己反応性のT細胞でこれらのペプチドの反応性について後述する方法や他の既知の方法で試験することが出来る。T細胞の増殖を引き起こすこれらのペプチドの能力、若しくは能力のなさは天疱瘡の場合、特定のデスモグレイン3エピトープによる診断の細かい区別が出来、多発性硬化症の場合は交叉反応性(自己及び外来エピトープ)タイプによる疾患の分類に使用できる。病気が発症する前のこれらのペプチドに対する免疫反応は自己抗原性反応を誘導しないような注意が必要であるが感受性、若しくは傾向の指標として使用することが出来る。
【0075】
本発明のペプチドはこれらのペプチドを動物(例えば、マウス、ウサギ、非ヒト霊長類)に免疫することによって動物モデルを開発するのに利用できる。ペプチドに対して反応を示すのみならず、ヒト病理に相当する自己免疫疾患の兆候を示す動物はヒト疾患モデルとして明らかな有用性を有する。相当する自己免疫疾患の兆候を示さないでペプチドに反応を示す動物はT細胞の選択的欠損若しくは脱感作若しくは寛容の他の形をからなる実験の対象として有用である。
【0076】
重要なことはこれらのペプチドやこれらのペプチドのアミノ酸アナログは治療剤や診断薬に有用である。それらが産生されてきた病原体ウイルスや細菌はワクチン化剤として有用である。これらの材料の有用性のいくつかの例が以下に述べられている。
【0077】
ペプチドは高用量寛容を作るために高用量投与される。この寛容のプロセスは例えばPCT特許出願US93/08456(国際公開番号WO94/06828)に記載されている。このように、一組の実施の態様で本発明は自己抗原に対して対象を寛容にするのに利用される製剤を提供するものである。製剤は製剤学的に許容できる担体及びHLA−DR蛋白質のようなMHCクラスII蛋白質の配列モチーフに相当するアミノ酸からなる、ヒト自己免疫疾患と関連する単離されたヒトポリペプチドからなる。これらのポリペプチドは自己免疫疾患の患者の自己反応性のT細胞を活性化する複合体を形成する蛋白質に結合することが出来る。本発明で開示された、若しくは本発明の方法で解明されたペプチドを利用してそのような製剤は自己免疫疾患と闘うのに用いることが出来る。ヒト自己免疫疾患に対するそのような寛容を利用することは当業者に知られており本明細書では詳述する必要はない。リウマチに対してコラーゲン及び多発性硬化症に対してミエリン塩基性蛋白質を寛容するのに利用される。それ故、本発明は特にこれらの蛋白質を含まない。しかしながら他のペプチドは本発明で解明され、同様に自己免疫疾患を処置するのに利用できる。
【0078】
特定の実施の態様で蛋白質がHLA−DR4、若しくはHLA−PQ1蛋白質で自己免疫疾患が尋常性天疱瘡であるそのような製剤が提供される。さらに、PVモチーフ井1を利用して、このモチーフを有するペプチドを含有する製剤が提供される。製剤は配列番号1から配列番号7まで少なくとも一つのポリペプチドを含むのが好ましい実施の態様である。この方法は尋常性天疱瘡自己抗原に対して患者を寛容させる方法も提供されるものである。
【0079】
同様な実施の態様では、本発明はヒト自己免疫疾患と関連するヒト病原体の抗原に対して患者を寛容させるのに使用される製剤を提供するものである。製剤は製剤学的に許容される担体及びヒト自己免疫疾患と関連するHLA−DR蛋白質のようなMHCクラスII蛋白質の配列モチーフに相当するアミノ酸配列を含むヒト病原体ポリペプチドからなる。これらのポリペプチドは自己免疫疾患の患者の自己反応性のT細胞を活性化する複合体を形成する蛋白質に結合することが出来る。このように、これらの抗原に対して患者を寛容することにより、自己抗原と交叉反応性のあるT細胞の反応性をなくし、若しくは不活化しこれらの疾患から保護される。
【0080】
特定の実施の態様では、蛋白質がHLA−DR2蛋白質で自己免疫疾患が多発性硬化症である製剤が提供される。さらに、本発明で開示される3個のMSモチーフを利用して、これらのモチーフの少なくとも一つを有するペプチドを含有する製剤が提供される。製剤の特定の実施の態様として配列番号8番から配列番号15番までで開示されているポリペプチドの少なくとも一つを含む。このように多発性硬化症外来抗原に対して患者を寛容する方法を提供するものである。
【0081】
ある実施例では、自己免疫疾患の病因と関連するヒト病原体に対してワクチン化する製剤を提供するものである。これらの製剤は製剤学的に許容できる担体及びヒト病原体に対して免疫するのに有効な免疫学的製剤からなる。ヒト病原体は、自己免疫疾患と関連するHLA−DR蛋白質のようなMHCクラスII蛋白質の配列モチーフに相当するアミノ酸配列をポリペプチドを天然の形で含有するものである。これらのポリペプチドは自己反応性で自己免疫疾患を引き起こすT細胞を活性化する複合体を形成する蛋白質に結合することが出来る。本発明の製剤は特にそのようなポリペプチドを含むものではなく、むしろ病原体からの他の抗原を含むものである。即ち、蛋白質、及びもし既知であれば、自己エピトープのTCR接触の配列モチーフに相当するポリペプチドを特異的に含まないワクチンが産生される。病原体はいろいろな抗原決定基を提示するので関連する配列モチーフに相当し、病原体に対して有効なしかし自己免疫疾患に関連するペプチドは含まないワクチンを産生するものを除くことが出来る。
【0082】
このようなワクチンは、本発明の配列モチーフに相当するペプチドを欠いており、当業者によりどのような都合の良い方法でも作ることが出来る。例えば、インフルエンザワクチンを作るときには、インフルエンザウイルスのペプチド配列を、本発明に従って解明された配列モチーフを比較することが出来る。ワクチンはモチーフ配列(例えば、ウイルスのフラグメントを利用して)を有する蛋白質を除いて作ることが出来る、若しくは遺伝子組み替え技術をモチーフに相当する配列がそれらがモチーフと一致しないように変化させられたウイルスを産生するのに利用できる。変化した残基はTCR接触残基で特にTCR接触残基の電荷が変わるような置換が好ましい実施の態様である。同様なワクチンがヒト自己免疫疾患と関連するモチーフを欠いている細菌の一部のみ(例えば細菌表面蛋白質若しくは膜関連蛋白質)を例えば利用して、若しくは遺伝子工学的に残基を変えるようにワクチン細菌を変えることで細菌病原体用に開発することが出来る。
【0083】
そのようなワクチンを作るときに考えられるモチーフはいくつかの観点から選択される。ワクチンの対象になっている病原体が自己免疫疾患と関連する場合、モチーフは疾患と関連するHLA−DR蛋白質で、本発明で開示される方法に従って解明される。既知、若しくは推測されている自己抗原が存在するのであれば、モチーフは自己エピトープのTCR接触残基からなる。病原体蛋白質の相手はモチーフと比較され、モチーフに相当するペプチドはワクチンから除外され、若しくはそのようなペプチドのないワクチンを産生する遺伝子組み替え手段によって変えることが出来る。一方、ワクチンは特定の集団に開発されることも記憶されるべきである。特定の自己免疫疾患に罹っている、若しくは進行の危険のある対象に特別のワクチンを開発することが出来る。この場合、モチーフは自己免疫疾患と関連するHLA−DR蛋白質を、既知の場合は、自己エピトープのTCR接触残基を基礎にして選択することが出来る。
【0084】
特定に実施の態様では、そのようなワクチンはHLA−DR蛋白質がHLA−DR4若しくはHLA−PQ1蛋白質であり、自己免疫疾患が尋常性天疱瘡であるワクチン製剤が提供される。そして、特に、本発明で開示されるPVモチーフ#1に相当するペプチドを欠いているワクチンを提供するものである。ワクチンの特定の実施の態様では、配列番号1番から配列番号7番までに開示されているペプチドの少なくとも一つを欠いているワクチンからなる。このように、尋常性天疱瘡を引き起こす病原体に対して対象を免疫する方法を提供するものでもある。
【0085】
同様に、HLA−DR蛋白質がHLA−DR2蛋白質であり、自己免疫疾患が多発性硬化症であるワクチン製剤を提供するものである。そして、特に、本発明で開示される3個のMSモチーフの少なくとも一つに相当するペプチドを欠いているワクチンを提供するものである。ワクチンの特定の実施の態様として、配列番号8番から配列番号15番までに開示されているペプチドの少なくとも一つを欠いているワクチンからなる。特に、表2に列記されているが、抗原として列記されている全蛋白質若しくは少なくとも相当する配列で同定されたペプチドのいずれかを欠いている病原体から明らかにされる。このように、多発性硬化症を引き起こす病原体に対して対象を免疫する方法を提供するものである。
【0086】
これらのペプチドは特定の患者では重要な病原体を分析するのに有用である。例えばある患者からのT細胞はこれらのペプチドの一つ若しくはいくつかと反応して増殖することができるが、他の患者からのものは異なるペプチド若しくは一組のペプチドと反応して増殖する。ペプチドのアナログがT細胞受容体接触残基の一つが置換されたものを合成することが出来る。例えば、MSの場合、MBP91Fの91Aによる置換、若しくはMBP93Kの93Aによる置換したペプチドが用いられる。そのようなアナログは、しかしながら、これらの重要なT細胞受容体接触残基の置換、若しくは、Aのような特定のアミノ酸による置換に限定されるものではない。これらのペプチドアナログは自己免疫患者に投与するときに自己反応性T細胞(例えば、Sloan-Lancaster et al.,1993 & 1994 を参照)をアネルギー化(不活化)するのに用いることが出来る。ウイルス性若しくは細菌性病原体は擬似エピトープを有さないウイルス種、若しくは細菌種を選択して、免疫するのに有用である。擬次エピトープを有しているものと違うこれらの病原体からの蛋白質は免疫するのに選択することが出来る。これらの治療は再感染を防ぎ、このように、病気を軽減し、特に感受性のある集団の初期感染を予防したりするのに有用である(患者の同一の双子で病気のないのが最もわかりやすい例であろう)。
【0087】
定義
解釈を明解にし、クレームしている本発明の主題を明確に区別可能に指摘するために、明細書に添付されているクレームで使用されているいくつかの言葉について、以下の定義を提示する。
【0088】
本明細書に記載されている"配列モチーフ"とはアミノ酸配列のある相対的な位置を占める残基について一連の限定を意味する。一つの配列モチーフはアミノ酸配列の少なくとも3つ、好ましくは4つか5つの位置を限定しなければならない。最初(N末端)と最後(C末端)の限定アミノ酸位置の相対的な位置は少なくとも二つ、しかし12のアミノ酸残基を越えることなく分離されていなければならない。例えば、P1とP4は最初と最後の限定残基でこれらの残基は二つの残基で分離されている。他の例として、P1とP11は最初と最後の限定残基でこれらは10の残基で分離されている。最初と最後の限定位置の間の位置は、限定されているか、全部で少なくとも3つのモチーフの位置が限定されなければならない例外により限定されなくてもよい。限定されなければいけない3つの位置の内、少なくとも2つは主要なMHC結合ポケットに相当する残基でなければならない。限定する残基の二つのみがMHC結合残基に相当する場合、3番目はTCR接触残基でなければならない。さらに、限定される位置の少なくとも一つはP1若しくはP4結合位置のいずれかでなければならない。"限定される"というのは少なくとも一つ、好ましくは10のアミノ酸残基が一つの位置から除外されなければならないことを意味する。
【0089】
もしそれが配列モチーフの位置と、モチーフの各限定される位置に、アミノ酸配列がモチーフを特定する限定によりその位置から除外されない一つの残基を含むように並列配置が出来る場合は、アミノ酸配列は配列モチーフに"相当する"。モチーフを特定する限定がMHCクラスII結合ポケット、場合によっては既知のエピトープのTCR接触残基のサイズや性質から派生するものなので、結合モチーフの限定位置はMHC結合ポケット及びTCR接触残基に相当すると云うこともできる。
【0090】
蛋白質やポリペプチドで使用されている"単離されている"という言葉は天然の若しくは自然の化学的微少環境から分離されたことを意味する。このように、細菌から単離されたポリペプチドはたいていの他の細菌性のポリペプチドが実質的にない製剤でなければならないし、同様に、単離されたウイルスポリペプチド製剤はウイルスを含む他のポリペプチドが実質的にないものでなければならない。
【0091】
特定のHLA−DR蛋白質、及び自己免疫疾患若しくは自己免疫反応と一緒に使用される"と関連する"という言葉は、蛋白質及び疾患/反応が臨床的若しくは疫学的研究により、疾患/反応が進行する可能性が蛋白質の存在により増加するように示され、正の相関がなければならない。
【0092】
"HLA−DR蛋白質"とは、MHCクラスIIHLA−DR遺伝子の特定の対立遺伝子の特定の蛋白質産物を意味する。HLA−DR蛋白質と関連する疾患はただ単なるHLA−DR遺伝子座との関連ではなく、そのような特定の蛋白質と関連するものである。
【0093】
"ヒト病原体"とは、ヒトに感染し、免疫反応を生じさせることが出来る、細菌、ウイルス、若しくは原生動物を意味する。この言葉は、正常なヒト腸内菌叢の一部を形成する細菌を特定的に除外するよう意図されている。"正常ヒト腸内菌叢"とは大腸菌のようにヒト腸管に正常に住んで、通常病気の原因にはならない細菌を意味する。
【0094】
T細胞に用いられている"自己反応的"とは、ヒト自己エピトープにより活性化されるヒトからのT細胞を意味する。T細胞の"活性化"とは、増殖し、リンフォカイン(サイトカイン)を分泌し、及び/若しくはエフェクター活性を開始すること(殺細胞性)を誘導することを云う。
【0095】
"自己抗原"とは、"自己エピトープ"を含む自己の蛋白質やポリペプチドを意味する。"自己エピトープ"とは、MHC分子に結合し、提示されたときにT細胞により認識される自己抗原のその部分を意味する。
【0096】
抗原に対して対象を寛容することに関する"有効な量"とは、MHC分子に結合し、提示されたときにT細胞を、言い換えれば抗原に特異的なものであるが、その抗原に対して反応性をなくさせるのに十分な抗原の量を云う。反応性のないT細胞はそれらが特異的である抗原に提示されたとき活性化しない。抗原に対して対象を免疫することに関する"有効な量"とは、免疫反応を誘導し、T細胞を抗原特異的にするのに十分な量を意味する。代表的な投与範囲は1ナノグラムから100ミリグラム/キログラム、若しくは500ミリグラム/キログラムに及ぶ。有効な量は年齢、性、抗原に対する感受性等の要因により変化する。
【0097】
"核MHC結合残基"とは、HLA−DR分子のようなMHCクラスII分子に結合したペプチドのP1からP9までの位置に相当するエピトープの残基を意味する。"内部核MHC結合残基"とは、HLA−DR分子のようなMHCクラスII分子に結合したペプチドのP1からP6までの位置に相当するエピトープのそれらの残基を意味する。
【実施例1】
【0098】
1.尋常性天疱瘡の自己エピトープの同定
上述の如く尋常性天疱瘡(PV)には、DR4対立遺伝子(DRB1*0402),若しくはまれにDQ1対立遺伝子(DQB1*05032)のいずれかと関連する異なる人種のグループがいる;PV患者のほんの僅かの人が感受性遺伝子も持っていない(Ahmed et al.,1991,Ahmed et al.,1990; Scharf et al.,1988b)。PV関連分子は重要な位置β71に負の電荷(Glu)を有し;隣接する(β70)も負の電荷を有する。PVと関連するDR4サブタイプはDRβ71で負の電荷を有する唯一のものである(RA関連DR4分子でDRβ71で正の電荷(Arg)がある)。多形性であるが、P7ポケット残基DRβ67(LEU/Ile)はペプチドとの結合に関連しないようであるが、おそらく、TCR接触残基として役割を果たしているのであろう(Stern et al.,1994)。
【0099】
DRβ71の多形性の残基の電荷は構造的に類似するDR4サブタイプと関連する二つの異なる自己免疫症候群に対する感受性の説明をすることが出来る。RAに対する感受性と関連するDR4対立遺伝子はDRβ71に正の荷電(Arg)を有し、一方尋常性天疱瘡に関連するDR4対立遺伝子はDRβ71には負の電荷(Glu)を有している。それ故、いずれのDR4分子を選択したかによりペプチドはP4で荷電が全く異なる。P4に負の電荷を有するペプチドは、RA関連分子に結合し、天疱瘡関連DR4分子には結合しないと考えられる。反対に4位に正の電荷は天疱瘡ペプチド用であることが期待される。これらの分子の保存される性質のために、他のアンカー残基(P1及びP6)はこれらのDR4サブタイプと異なるとは考えられないであろう。
【0100】
HLA−DR DRβ1*0402蛋白質に対する選択的結合の配列モチーフは、本明細書で開示される方法に従って解明される。この対立遺伝子のP1ポケットを形成するのに関連があるβ鎖残基はβ85(Val)、β86(Val)、β89(Phe)、β90(Thr)である。このように、β86にVal(DRβ1*0101のGly の代わりに)になっているとモチーフのP1位はV,L,I,MおよびFに限定される。アラニンも含まれるがこのこの例ではない。P6ポケットはDRβ1*0402蛋白質の一部にはβ11(Val)およびβ13(His)により形成される。DRβ1*0101対立遺伝子、ここではこれらの残基はそれぞれLeu とPhe であるが、と比較して、DRβ1*0402蛋白質のP6ポケットは幾分か大きくより極性である。このようにモチーフのP6位はS,T,N,及びVが許容できる。最後にこのDR蛋白質のP4ポケットは一部にはβ13(His)、β70(Asp)、β71(Glu)、β74(Ala)、及びβ78(Tyr)により形成されている。上述した如く、2個の負に荷電した残基β70及びβ71が正に荷電した抗原残基に親和性を示し、そのため、P4モチーフはK及びRに限定される。従って、尋常性天疱瘡自己抗原の配列モチーフは以下のように特定される。
【0101】

【0102】
尋常性天疱瘡の自己抗原は知られているが、自己抗原内の正確なエピトープは以前には知られていなかった。しかしながら、本発明の方法を用いて、自己抗原決定基として作用する可能性のある小さい組のペプチドを同定することが出来る。尋常性天疱瘡の標的抗原ははカドヘリンファミリーであるデスモグレイン3の上皮細胞接着分子である(Amagai et al.,1991)。デスモグレイン3はCa依存性のケラチノサイトとの接着を調節する。自己抗体は結果として出来る水疱形成との細胞接着を干渉する(Takeichi,1990)。自己抗体は、一時的な水疱病が母性イムノグロブリンの胎児への移行による障害を持っている母からの新生児にも見られることから、病原性と考えられている。血清若しくはデスモグレイン3特異的抗体のマウスへの移行は棘細胞離開を生じる(Amagai et al.,1991)。
【0103】
この大きな蛋白質(130kDa,999アミノ酸)からたった7個のペプチドがモチーフと調和する。これらの7個の尋常性天疱瘡抗原は(PVA1−PVA7)下の表1で下線の引いてあるMHC結合部位P1,P4及びP6に相当する残基とともに示されている。
【0104】
【表1】

【0105】
それ故、PV関連DRB1*0402分子によるこれらのペプチドの一つ若しくは数個の選択的なT細胞への提示がPVでの自己免疫を引き起こすのに重要である可能性がある。これを試験するのに、T細胞株は、7個の候補ペプチドによる活性化をした2人の患者の血液単核細胞から樹立された。T細胞株は組換IL−2で増殖され、増殖アッセーで候補ペプチドの認識の試験が行われた。両者の患者からのT細胞株は主要な自己抗体認識部位に近いところにあるデスモグレイン3の細胞外ドメインからの2個のペプチド(PVA3及びPVA4)を認識した。これらのT細胞株はT細胞増殖がHLA−DR特異モノクロナル抗体で阻止され、対照の抗体では抑制されないので、HLA−DRに限定される。これらのデスモグレイン3ペプチドはそれ故、T細胞依存性の尋常性天疱瘡の自己免疫の誘導する候補である。
【0106】
HLA−DR蛋白質に関連する本発明のモチーフはさらにもう一歩進められる。異なる人種の集団では、PVは通常のDQ1サブタイプとDQβ鎖の57位のみが異なるDQ1サブタイプ(DQB1*05032)と関連する(Sinha et al.,1988)。PV関連分子DQβ57は負の電荷(Asp)を有し、一方通常のDQ1サブタイプはそうではない。DQβ鎖の同じ位置は糖尿病感受性と関連する。しかしながら、糖尿病では、反対が正しい;糖尿病感受性と関連するDQ2及びDQ8分子はDQβ57に負の電荷を持っていない(Todd et al.,1987)。
【0107】
これらの結果を基にして、MHCクラスIIβ鎖の2個の多形性の位置(DRβの71位とDQβの57位)が選択的ペプチド結合及び自己免疫の進行に重要であることが明確になってきた。上述の基準を基にして糖尿病関連ペプチドは、そのようなペプチドがDQβ57と同じ電荷を有しないDQ分子と結合するのみであるから、P9位に負の電荷を有していることが期待される。反対に天疱瘡と関連するDQ1は、P9に正の電荷を有するペプチドはDQβ57に負の電荷を有する疾患関連の分子に対して選択的である。DR4関連自己免疫の場合、ペプチドの4位の荷電は疾患関連DR4分子に対する選択制を与えている;RAペプチドはP4に負の電荷を有し、PVペプチドはP4に正の電荷を有している。選択的ペプチド結合のモチーフはヒト自己免疫疾患を引き起こす主要なエピトープの同定に非常に有用であることが証明された。この方法はPV,RA若しくは糖尿病でペプチドを同定することのみならず、ペプチド結合に重要な残基が病気の感受性と関連する他の自己免疫疾患にも有用であることが期待される。
【実施例2】
【0108】
2.多発性硬化症MBP自己抗原の擬似の同定
MS感受性はHLA−DR2(DRA,DRB1*1501、DR2の最も通常のサブタイプ)と関連する(Spielmamm et al.,1982; Olerup et al.,1989)。このMHCクラスII分子は自己反応性のT細胞に対して免疫優性の自己ペプチドの提示によりMSの免疫病原性に重要な役割を果たしていると考えられている。実験動物でMBPの注射したあと、MBP免疫優性ペプチドに特異なT細胞が著しい脱ミエリン化がともなうこともある炎症反応を調節している(Zamvilと Steinman,1990,レビューしてある)。以前の研究では、ヒトMBPの2個の領域は免疫優性であることが分かっている(残基84ー102及び143−168)(Ota et al.,1990; Pette et al.,1990; Martin et al.,1990; Wucherpfennig et al.,1994a)。MBP(84−102)ペプチドに対する反応性は主として、HLA−DR2を有する対象に見られる。抗原提示細胞としてL細胞感染源を用いてHLA−DR2b(DRA,DRB1*1501)はT細胞クローンに特異なMBP(84−102)に制限的な要素として役割を果たしていることが分かった。
【0109】
MBP(84−102)ペプチドはアンカーP1(MBPのVal89)及びP4(MBPのPhe92)として作用する2個の疎水性の残基を有するHLA−DR2bに対して高度の親和性で結合する(Wucherpfennig et al.,1994a; Vogt et al.,1994)。P1位のVal89 が他の脂肪族アミノ酸(Leu,Ile)やメチオニン及びフェニルアラニンで置換することが出来る;アラニンはこの位置で許容されるが、HLA−DR2bのペプチド親和性を減少させる。P4位では、脂肪族及び芳香族残基は許容できる;再びアラニンは許容されるが結合親和性が低下する。
【0110】
推定上のTCR接触点の変異分析でP3(Phe91)およびP5((Lys93)がMBP(85ー99)特異クローンのTCR接触であることが確認された;P−1(Val88)やP2(His90)等の他の残基はいくつかのクローンでは重要であり、他ではそうでもないことも分かった。P3(Phe91)のアラニンによる置換は全てのクローンについてTCR認識ができなくなる;いくつかのクローンは保存的な置換(チロシン若しくは脂肪族アミノ酸)を許容するが、他のクローンはそうでもなかった。P5(Lys93)のアルギニンによる置換は殆どのT細胞クローンで許容されるが、しばしば劇的に変化しT細胞の活性が一部若しくは完全に喪失した。この分析で、P2(His90)、P3(Phe91)およびP5(Lys93)はMBPの主要なTCR接触残基であり、一方P1(Val89)およびP4(Phe92)はMBPの主要なMHC接触残基であることが分かった。この分析で、モチーフのTCR接触残基が、完全でなくとも高度に保存されていることが分かった。
【0111】
免疫優性MBP(85−99)ペプチドの構造的特徴化に基づいて、3つの配列モチーフはこれらの要件を満足するウイルス性及び細菌性のペプチドの蛋白質データベースを検索することにより明らかになった。ペプチドの核領域に焦点を当てたモチーフは、残基P1からP5(MBP蛋白質の88ー93)までであるが、全てのクローンに共通のMHC及びTCR接触点を有している。最初のモチーフには脂肪族アミノ酸が最初のMHCアンカー残基P1に許容できるが、一方、脂肪族及び芳香族残基が2番目のMHCアンカーP4に許容できる。TCR接触のために、P3位でのPhe91 は完全に保存され、P5位のLys93 はアルギニンのみで置換可能であるが、一方、P2のHIs90 及びP−1のVal88 はいくつかの構造的に関連するアミノ酸で置換可能である。このように、多発性硬化症抗原の最初のモチーフは以下のように特定される。
【0112】

【0113】
2番目のモチーフがTCR接触残基としてのP−1のVal88をはずしている(いくつかのクローンによってのみ使用される)、また最初のMHCアンカーP1(Val89)での芳香族アミノ酸を許容している。これはMBP(85−99)ペプチドが異なるHLA−DR2サブタイプで表現されているのでできた。DRB1*1501による表現ではこの位置で脂肪族アミノ酸かフェニルアラニンが要求されているが、この位置での脂肪族及び全ての芳香族アミノ酸残基はDRB1*1602のアンカーとして作用している。この差はこの疎水性の残基の結合する主要なポケットのサイズと関連して説明でき、DRβ86での2型性バリン/グリシンにより決定される(*1501のVal及び*1602のGly)(Busch et al.,1991)。従って、多発性硬化症抗原の2番目のモチーフは以下のように特定できる。
【0114】

【0115】
3番目の配列モチーフは好ましくはMBP(85−99)特異クローンのサブタイプによりTCR接触残基が修飾されているのを示した。これらのクローンは、P5(Lys93)は完全に保存されているが、一方P3(Phe91)はいくつかの芳香族若しくは脂肪族アミノ酸で置換することが出来る。多発性硬化症抗原の3番目のモチーフは以下のように特定される。
【0116】

【0117】
これらのHLA−DRモチーフはMBP(85−99)ペプチドの特異的なHLA−DQ1限定のクローンの構造的要件と良く一致する。このクローンはDR2限定クローン(残基87ー97)と同じように最小ペプチドセグメントを要求した。DR2限定クローンのように、P2(His90)、P3(Phe91)及びP5(Lys93)は主要なTCR接触残基と考えられる。これらの疎水性の位置をアスパラギン酸で置換するとペプチドの促進的能力が著しく減少するが、一方他の疎水性アミノ酸で置換した場合は許容される。これらのデータはMBP(85−99)ペプチドはHLA−DR2b及びHLA−DQ1に対して同様な様式で結合し、同じペプチド残基がTCRとの相互作用に重要であることを示唆している。
【0118】
これらのモチーフが遺伝子コンピュータグループソフトウエア(プログラム:Findpatterns)を利用した蛋白質データベース(PIR and SwissProt)の検索時に検索基準として用いられた。ウイルス及び細菌起源の600以上の配列がこれらの基準に合致した。これらから配列を以下の基準を基にして選択した:(1)ヒト病理を引き起こすことが知られているウイルス、(2)MSが最も頻繁に発生する北半球に多いウイルス、(3)炎症性CNS疾患(ボレリア属)及び侵襲的な感染(黄色ブドウ球菌、肺炎かん菌)と関連する選択された細菌の配列。局所的な国で感染を引き起こす殆どのウイルス、ワクシニアウイルス由来の配列及び多数の大腸菌(正常な腸内菌叢の一部)からの配列は含まれていない。多数の抗原性変異が存在するときはモチーフに最も良く合致する一つ若しくは数個の配列を選んだ。選択されたペプチドは1mgスケールでPinーテクノロジーにより合成される(カイロン ミモトープ、サンジエゴ)70個のペプチドがモチーフ#1、及び#2に合うように、及び59個のペプチドが#3にあうように作られた。
【0119】
これらのペプチドは二人の再発、軽快を繰り返していたMS患者からの血液T細胞から以前に樹立したヒトMBP(85−99)特異的T細胞クローンを活性化する能力について試験された(Wucherpfennig et al.,1994a; Wucherpfennig et al.,1994b)。DR2(DRB1*1501若しくはDRB1*1602)若しくはDQ1を発現するホモ接合のB細胞がこれらのT細胞増殖実験で、抗原提示細胞(APCs)として使用された(Wucherpfennig et al.,1994a)。陽性対照として、全てのクローンはMBP(85−99)ペプチドにより活性化された。7個のクローンは配列モチーフに従って選択されたウイルス/細菌性のペプチドと試験された。
【0120】
試験された7個のクローンのうち3個がいくつかのウイルス/細菌性ペプチドにより有効に活性化された。最初のクローン(HyIB11)はHLA−DQ1限定であったが他の二つのクローン(Hy2E11及びHy1G11)はHLA−DR2限定であった(Wucherpfennig et al.,1994a)。モチーフ#1及び#2に従って選択した70のペプチドの内、3個の擬似ペプチドがDQ1限定クローンを活性化し、二つのペプチドがDR2限定T細胞クローンを活性化した。モチーフ#3に従って選択した59のペプチドの集団の内一つのペプチドがDQ1限定クローンに、二つのDR2限定クローンに同定された。
【0121】
まとめると、DQ1限定クローンT細胞クローンは5個の構造類似したペプチドを認識し、免疫優性MBP(85−99)ペプチドは3個のウイルス性ペプチド(単純ヘルペス、アデノウイルスタイプ12、ヒト乳頭腫ウイルス)及び細菌性ペプチド(緑膿菌)を認識した。DR2限定クローンの二つは4つのペプチドにより活性化された。両方のクローンはMBP(85−99)ペプチド及びEBV及びインフルエンザウイルスからのウイルス性ペプチドを認識した。さらに、一つのクローンはレオウイルス(クローンHy2E11)からのウイルス性ペプチドを認識し、一つは単純ヘルペスウイルス(クローンHy1G11)からのペプチドを認識した。これらの結果、及びこれらのペプチドの配列を以下の表2にまとめられている。
【0122】
【表2】

【0123】
これらのウイルス性/細菌性のペプチドが自己免疫の惹起に関連があるためには、自己攻撃的なT細胞クローンの著しいクローンの繁殖につながるT細胞の活性化刺激をする能力がなければならない。そのために、これらのペプチドの活性化能力を力価実験でMBP(85−99)と比較した。ペプチドはMBP特異的T細胞クローンの有効な刺激因子であった。特にEBVペプチド(DR2限定クローン)及びアデノウイルスペプチド(DQ1限定クローン)はMBP(85−99)ペプチドと活性化能力では類似していた。これらの結果T細胞の活性化は僅かな程度の交叉反応性の結果ではなく、むしろT細胞活性化に十分な構造類似性の結果であることが分かった。
【0124】
同じTCRを活性化することが分かったペプチド配列の比較によりいくつかの興味深い点が明確になった。
(1)一つのペプチド(ヒト乳頭腫ウイルスL2蛋白質)のみがMBP(85−99)ペプチドを驚くほどの類似性を有していた。それは94位(Asn からAsp)以外はMBP(85−99)セグメントの全てのアミノ酸と同一であった(表2)。全ての他の配列は、単純な並列配置ではMBP(85−99)特異的T細胞クローンの有効な活性化因子とは予測できなかった。従って、本発明の方法がなければこれらのペプチドは同定できなかった。
(2)検索基準で特定されなかった位置で、特定のアミノ酸の選択はそれでも明確であった。例えば、DQ1限定クローンについて、アスパラギン酸が全ての4個のペプチドのP6の位置(MBPの残基94)、おそらくTCR接触残基であろうが、で選択された。この位置はMBPペプチド(ほぼ同じ大きさだが、負の電荷はない)ではアスパラギンである。MBPペプチドのAsn94をAspに置換するとDQ1限定クローンに対する活性化能は著しく上昇するが、DR2限定クローンではそれを減少させる。選択は隣のP7、MHC接触(Ile95)で、Ile、Val、若しくはPhe(全て疎水性)と置換される。
(3)DQ1及びDR2限定クローンについても異なる選択がされる。P6位(MBPの94位)で、DQ1ペプチドについて、アスパラギン酸(負の電荷)が選択され、DR2と表された3個のペプチドの内2個でリジン(正の電荷)が選択された。
(4)フランキングセグメント(残基85ー87及び97ー99)で、異なるサイズ及び電化を持っているアミノ酸を選べるようなことはなかった。
【0125】
これらの配列ペプチドが同定されたウイルスの大部分は通常のヒト病原体である:インフルエンザタイプAは、しばしば呼吸器系の感染を引き起こす;ヒト乳頭腫ウイルスは上皮細胞組織を感染し、子宮頚癌と関連する;エプスタイン−バーウイルス(EBV)は若い成人に急性ウイルス症候群(感染性単核細胞症)を引き起こす。ヒトヘルペスウイルスI(単純ヘルペス)、EBV及びヒト乳頭腫はニューロン(単純ヘルペス)、B細胞(EBV)及び上皮細胞(乳頭腫ウイルス)に、潜伏性若しくは持続性の感染をレザーバーとして働きながら引き起こす。ウイルスの発現はUV暴露やストレス(単純ヘルペス)やB細胞活性化(EBV)により再活性化される(Schwarz et al.,1985; Epstein et al.,1977; Spruance et al.,1985; Tovey et al.,1978)。自己免疫反応の誘導や維持のために、これらの持続性ウイルス感染は、それらが臨床病の慢性性及びMBP特異的T細胞クローン性の繁殖と維持を説明しうるので特に興味深い。ウイルス発現の再活性化は臨床的な再発を引き起こすのにも関連する。このメカニズムでウイルスペプチドは抹消で休止しているMBP特異的T細胞を活性化し、それらをCNSに侵入させることが出来る。
【0126】
これらの外来性エピトープはウイルス感染の間に、自己反応性T細胞に実際に提示するか。EBV、DNAポリメラーゼからのペプチドはこの問題について取り扱うのを許容する。EBV形質転換されたB細胞(T細胞アッセーでは抗原提示細胞として用いられた)では、溶解性ウイルスサイクルが抑制される。DNAポリメラーゼ遺伝子はこの潜伏状態では転写されない;しかしながら、B細胞活性化は溶解サイクルを活性化し、DNAポリメラーゼ遺伝子が発現される(Datta et al.,1980)。MHCクラスII限定のEBV、DNAポリメラーゼの提示を試験するために、HLA−DR2・EBV形質転換されたB細胞(MGAR)及びMHCミスマッチの対照(9001、HLA−DR1)をフォルボールエステルで36時間前処置し、T細胞とAPCと共培養する前にフォルボールエステルをしっかり洗浄して除去した。T細胞クローンHy,2E11及びHy,1G11、これはHLA−DR2により提示されたEBV−DNAポリメラーゼペプチドを認識するが、フォルボールエステルで前処置されたHLA−DR2EBVで形質転換されたB細胞により活性化される。MHCミスマッチB細胞がそのクローンを活性化せず;また、MBP(85−99)を認識するがEBVペプチドを認識しない対照クローン(Ob,1A12)が活性化されなかったのでこの効果は特異的である。異なる実験で、T細胞活性化はHLA−DR特異的なmAb(mAbI243)でブロックされ、HLA−DQ特異的なmAb(G2a,5)ではブロックされなかった。これらの結果MBP特異的T細胞クローンはウイルスペプチドのみならずウイルスに感染された抗原提示細胞も認識することを示している。in vivo でこの認識が、B細胞活性化がDNAポリメラーゼ遺伝子を含むEBV遺伝子の発現につながるように、MBP特異的T細胞の慢性抗原性の活性化を引き起こす。
【0127】
最後に、異なるDR2サブタイプによるウイルスペプチドの提示がそれらが疾患関連分子(DRB1*1501,最も普通のDR2サブタイプ)により、効率的に提示されているかどうかを決めるのに比較された。MBPペプチドは4個のDR2サブタイプの3個により提示された;ペプチドはDRB1*1602と一つのアミノ酸の置換(DRβ67、おそらくTCR接触)で異なるDRB1*1601により提示された。この二つのウイルスペプチドはDR15分子(DRβ86位のみ異なるDRB1*1501,及び1502)により、DRB1*1602より、ずっと良く提示された。DRB1*1602では提示されないが、DRB1*1501/1502により提示されたときにのみT細胞クローンを活性化するインフルエンザペプチドについても特に明らかである。これらの結果は本発明で同定されたウイルスペプチドが好ましくはMS関連DR2分子(DRB1*1501)により提示されることを示している。
【図面の簡単な説明】
【0128】
【図1】図1はHLA−DR1ペプチド結合のポケットを示している。右上の図は細線として示されているHLA−DR1のCαトレースとの結合サイトであるHLA−DR1ペプチドの分子表面(1.5オングストローム試料半径)の上から見たものである。抗原のペプチド側鎖を収容するポケット(この場合はインフルエンザウイルスヘマグルチニン)が周辺と詳細に示され、本明細書で説明されるように番号がつけられている。P1ポケットは抗原のTyr(308)を収容する。P4、P6、P7及びP9は、それぞれ抗原残基Gln(311)、Thr(313)、Leu(314)及びLeu(316)と結合する。抗原ペプチド側鎖及び近傍の主鎖がCPKモデルにより示され、ペプチドと接触しているHLA−DR側鎖はスチックモデルで示されている。ポケットはペプチド結合サイトの平面にペプチドのN末端(P1及びP6)の方向へ、ペプチドのC末端(P4)の方向へ、β1−ヘリックス領域(P7)の方向へ、若しくはα1−ヘリックス領域(P9)の方向へ描かれている。この図のカラー版は Stern et al.(1994)で見ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1番、配列番号2番、配列番号3番、配列番号4番、配列番号5番、配列番号6番及び配列番号7番からなる群より選択されるアミノ酸配列からなる単離されたポリペプチド。
【請求項2】
配列番号8番、配列番号9番、配列番号10番、配列番号11番、配列番号12番、配列番号13番、配列番号14番、及び配列番号15からなる群より選択されるアミノ酸配列からなる単離されたポリペプチド。
【請求項3】
尋常性天疱瘡の患者において尋常性天疱瘡自己抗原に対して免疫寛容化するための、下記を含んでなる医薬製剤:
(i) 製剤学的に許容できる担体、及び
(ii) PVモチーフ#1に相当するアミノ酸配列からなる単離されたポリペプチド、
ここで、該ポリペプチドは、HLA−DR4及びHLA−PQ1から選択されるMHCクラスII蛋白質に結合して、尋常性天疱瘡の患者の自己反応性T細胞を活性化することができる
ものであり、かつ該ポリペプチドは、コラーゲンもしくはミエリン塩基性蛋白質に由来するものではない。
【請求項4】
該アミノ酸配列が、配列番号1番、配列番号2番、配列番号3番、配列番号4番、配列番号5番、配列番号6番、及び配列番号7番からなる群より選択されるアミノ酸配列である、請求項3記載の製剤。
【請求項5】
多発性硬化症の患者において多発性硬化症自己抗原に対して免疫寛容化するための、下記を含んでなる医薬製剤:
(i) 製剤学的に許容できる担体、及び
(ii)MSモチーフ#1、#2または#3に相当するアミノ酸配列からなる単離されたポリペプチド、
ここで、該ポリペプチドは、HLA−DR2というMHCクラスII蛋白質に結合して、多発
性硬化症の患者の自己反応性T細胞を活性化することができるものであり、かつ該ポリペプチドは、コラーゲンもしくはミエリン塩基性蛋白質に由来するものではない。
【請求項6】
該アミノ酸配列が、配列番号8番、配列番号9番、配列番号10番、配列番号11番、配列番号12番、配列番号13番、配列番号14番、及び配列番号15からなる群より選択されるアミノ酸配列である、請求項5記載の製剤。
【請求項7】
以下のステップを含んでなる、試験ペプチドについてヒトにおける自己免疫反応を誘導する能力を評価する方法:
(1)HLA−DR2、HLA−DR4及びHLA−PQ1からなる群から1つのMHCクラスII蛋白質を選択すること、
ここで該MHC分子はP1,P4,P6,P7及びP9と名付けられた5つの主要なMHC結合ポケットを有し、該ポケットは、エピトープペプチド上の対応する相対的位置Pxのアミノ酸残基と結合するものである;
(2)エピトープペプチド上の位置P1において、該MHC分子のP1ポケットと結合する一群のアミノ酸残基を同定すること;
(3)エピトープペプチド上の位置P4またはP6において、該MHC分子のP4ポケットまたはP6ポケットと結合する一群のアミノ酸残基を同定すること;
(4)エピトープペプチド上の位置P−1,P2,P3,P5,P8及びP11のいずれかにおいて、TCRと結合する一群のアミノ酸残基を同定すること;
(5)(i) 試験ペプチドのアミノ酸配列と、(ii)ステップ2〜4において同定された各位置における一群のアミノ酸と、を比べること、
ここで、試験ペプチドが上記3つのアミノ酸を有する場合に、試験ペプチドはヒトにおける自己免疫誘導能があるとされる。
【請求項8】
ヒト自己免疫反応と関連する外来抗原を同定する方法であって、外来蛋白質に由来する試験ペプチドを用いて請求項7に記載の方法を行うことによる方法。
【請求項9】
該試験ペプチドが、正常ヒト腸内菌叢の種に由来するものではない、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
該試験ペプチドが、ヒト自己免疫反応の発生と負の相関関係にある病原体の種に由来するものではない、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
ステップ(5)が、検索基準として上記の3群のアミノ酸を用いてコンピュータデータベースを検索することを含む、請求項8に記載の方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−186508(P2007−186508A)
【公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−345359(P2006−345359)
【出願日】平成18年12月22日(2006.12.22)
【分割の表示】特願平8−527064の分割
【原出願日】平成8年3月7日(1996.3.7)
【出願人】(500382532)プレジデント アンド フェローズ オブ ハーバード カレッジ (1)
【Fターム(参考)】