説明

自己免疫疾患を予防および/または治療するワクチン

本発明は自己免疫疾患を予防および/または治療するワクチンを開示する。有効成分は、自己免疫疾患をもたらすタンパク質抗原またはそのエピトープポリペプチドと、自己タンパク質抗原またはそのエピトープポリペプチドのコード遺伝子がマルチクローニング部位に挿入された組換え真核細胞発現ベクターとからなる混合物であり、前記自己タンパク質抗原が、インスリン、グルタミン酸脱炭酸酵素、熱ショックタンパク質、ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質、2種のミエリン抗原、卵透明帯タンパク質3、ミオグロブリン、II型コラーゲン、サイログロブリン、細胞膜表面抗原、II型コロイド抗原、アセチルコリン受容体、甲状腺細胞表面抗原、唾液腺導管タンパク質、サイログロブリン、スーパー抗原または光受容体間レチノイド結合タンパク質である。前記ワクチンは、免疫動物および人体のT細胞増殖を抑制し、免疫抑制の生成を誘導することができ、自己免疫疾患を有効に予防および/または治療することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自己免疫疾患を予防および/または治療するワクチンに関する。
【背景技術】
【0002】
自己免疫疾患は、自己抗原に免疫反応が発生し、自己の組織に傷害を及ぼすことにより引き起こされる疾患である。自己免疫疾患は、I型糖尿病、多発性硬化症、関節リウマチ、卵巣炎、心筋炎、慢性甲状腺炎、重症筋無力症、全身性エリテマトーデス、バセドウ病(グレーブス病)、シェーグレン症候群、ブドウ膜網膜炎など、一般的な病気である。中国での有病率は5%を超える。この疾患を治療する際には、免疫抑制剤が第一選択の薬剤として用いられ、臨床上、通常使用される免疫抑制剤および方法は、プログラフ(FK506)、シクロスポリンA(CsA)、セルセプト(MMF)、アザチオプリン(Aza)、プレドニゾン(Pred)、メチルプレドニゾロン(MP)などの化学薬品としての利用、抗リンパ球グロブリン(ALG)、抗CD4モノクローナル抗体(OKT4)などの抗体としての利用の面がある。毎年の治療費用は数十億元ほどになっている。以上の免疫抑制剤は、いずれも毒性・副作用を有し、使用が適切でない場合、過度の抑制剤有機体免疫反応性により多種の合併症が引き起こされる可能性があり、それ自体の毒性・副作用により臓器の機能障害をもたらす可能性もある。そのため、現在、特効の治療手段はない。
【0003】
I型糖尿病は、CD4+T細胞、CD8+T細胞、マクロファージがランゲルハンス島に浸潤し、ランゲルハンス島の中でインスリンを生成する細胞が破壊されることを特徴とする自己免疫疾患で、糖尿病患者群の5〜10%ほどを占める(ADA[American Diabetes Association].1997.Report of the expert committee on the diagnosis and classification of diabetes mellitus.Diabetes Care 20:1183−1197;Atkinson MA,Leiter EH.1999.The NOD mouse model of type 1 diabetes:As good as it gets?Nature 5:601−604)。主な発病機序は、自己反応性T細胞が、膵臓の中でインスリンを生成する細胞を破壊することによって引き起こされる。CD4+T細胞、CD8+T細胞、マクロファージがランゲルハンス島に浸潤し、ランゲルハンス島の中でインスリンを生成する細胞が破壊されることを特徴とする自己免疫疾患である(Atkinson MA,Maclaren NK.1994.The pathogenesis of insulin−dependent diabetes mellitus.N Engl J Med 331:1428−1436;Benoist C, Mathis D.1997.Autoimmune diabetes:Retrovirus as trigger,precipitator or marker? Nature 388:833−834;Bjork S.2001.The cost of diabetes and diabetes care.Diabetes Res Clin Pract 54(Suppl1):13−18)。欧州系人種での罹患率が比較的高く、約200万人の患者がいる。罹患率には有意な地理的分布の特徴があり、フィンランドの小児におけるI型糖尿病の罹患率は、ベネズエラの小児の400倍となっている。報道によれば、I型糖尿病の全世界での罹患率は、2010年には1998年に比べ40%上昇する見込みである。この急速な増加スピードは、環境因子が疾患感受性遺伝子に作用し、I型糖尿病の罹患率の上昇を共同で引き起こしていることを示している。
【0004】
I型糖尿病の膵島炎現象、すなわちリンパ球がランゲルハンス島に浸潤することが発見されたことに続き、I型糖尿病患者において膵島細胞抗体(ICA)がインスリン、カルボキシペプチダーゼ、熱ショックタンパク質に対して自己反応性T細胞を生成することが発見された。1990年には、Beakkeskovが、I型糖尿病患者の血清中に存在する64K抗体がグルタミン酸脱炭酸酵素(GAD)自己抗体および自己反応性T細胞であることを証明し、GADがI型糖尿病の自己免疫反応の鍵となる抗原であると考えた(Immune modulation for prevention of type 1 diabetes mellitus.Itamar Razl,Roy Eldor2 and Yaakov Naparstek.TRENDS in Biotechnology 23:128,2005.龍秀栄,杜文斌,蘇鐘浦,魏慶瑶「小児糖尿病のグルタミン酸脱炭酸酵素抗体測定」『中華小児科雑誌』1998年第10期)。
【0005】
現在、臨床上、主にインスリン補償療法が採用されているが、発病を予防または遅延させることが可能なよい方法はまだない。I型糖尿病をめぐる研究の方向性は多く、自己免疫の発生に抵抗することを主要目的とし、晩期患者に対しては細胞再生誘導などの方法も採用される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、自己免疫疾患を予防および/または治療するワクチンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明で提供する自己免疫疾患を予防および/または治療するワクチンの有効成分は、自己免疫疾患をもたらすタンパク質抗原またはそのエピトープポリペプチドと、自己タンパク質抗原またはそのエピトープポリペプチドのコード遺伝子がマルチクローニング部位に挿入された組換え真核細胞発現ベクターとからなる混合物である。
【0008】
前記自己タンパク質抗原は、インスリン、グルタミン酸脱炭酸酵素、熱ショックタンパク質、ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(MOG)、2種のミエリン抗原(MBPおよびPLPプロテオリピドタンパク質)、卵透明帯タンパク質3(ZP3)、ミオグロブリン、II型コラーゲン、サイログロブリン、細胞膜表面抗原、II型コロイド抗原(CA2)、アセチルコリン受容体、甲状腺細胞表面抗原(TSH)、唾液腺導管タンパク質、サイログロブリン、スーパー抗原(S−Ag)または光受容体間レチノイド結合タンパク質である。
【0009】
前記自己免疫疾患を予防および/または治療するワクチンは、具体的には、I型糖尿病を予防および/または治療するワクチンとすることができる。
【0010】
前記I型糖尿病を予防および/または治療するワクチンの有効成分は、下記のいずれかの混合物である。
1)I型糖尿病自己タンパク質抗原と、前記I型糖尿病自己タンパク質抗原のコード遺伝子がマルチクローニング部位に挿入された組換え真核細胞発現ベクターとからなる混合物
2)I型糖尿病自己タンパク質抗原エピトープポリペプチドと、前記I型糖尿病自己タンパク質抗原エピトープポリペプチドのコード遺伝子がマルチクローニング部位に挿入された組換え真核細胞発現ベクターとからなる混合物
3)I型糖尿病自己タンパク質抗原と、前記I型糖尿病自己タンパク質抗原エピトープポリペプチドのコード遺伝子がマルチクローニング部位に挿入された組換え真核細胞発現ベクターとからなる混合物
4)I型糖尿病自己タンパク質抗原エピトープポリペプチドと、前記I型糖尿病自己タンパク質抗原のコード遺伝子がマルチクローニング部位に挿入された組換え真核細胞発現ベクターとからなる混合物
【0011】
前記I型糖尿病自己タンパク質抗原は、インスリン、グルタミン酸脱炭酸酵素または熱ショックタンパク質である。
【0012】
共免疫組成物においても、I型糖尿病自己タンパク質抗原と、前記I型糖尿病自己タンパク質抗原エピトープポリペプチドのコード遺伝子がマルチクローニング部位に挿入された組換え真核細胞発現ベクターとからなる混合物を採用することができる。この混合物は同様に、調節性T細胞を生成し、I型糖尿病の発生を抑制することができる。
【0013】
同様に、I型糖尿病自己タンパク質抗原エピトープポリペプチドと、前記I型糖尿病自己タンパク質抗原のコード遺伝子がマルチクローニング部位に挿入された組換え真核細胞発現ベクターとからなる混合物を採用することもできる。この混合物は同様に、調節性T細胞を生成し、I型糖尿病の発生を抑制することができる。
【0014】
上記2種の混合物を採用した免疫生成の効果は、I型糖尿病自己タンパク質抗原エピトープポリペプチドと、前記I型糖尿病自己タンパク質抗原エピトープポリペプチドのコード遺伝子がマルチクローニング部位に挿入された組換え真核細胞発現ベクターとからなる混合物が生成する効果と同じである。
【0015】
前記インスリンは、ヒト、イヌ、ネコ由来のものとすることができる。ヒトのインスリンは、マウスのI型糖尿病治療に用いることができる。ヒト、イヌ、ネコおよびマウスの遺伝子配列は非常に相似している。核酸配列レベルで、マウスとヒトのインスリンの相似性は95%であり、ネコとヒトの相似性は84%であり、ネコとヒトの相似性は89%である。
【0016】
前記グルタミン酸脱炭酸酵素は、ヒト、イヌ、ネコ由来のものとすることができる。ヒトのグルタミン酸脱炭酸酵素は、マウスのI型糖尿病治療に用いることができる。核酸配列レベルで、両者の配列の相似性は90%である。
【0017】
前記熱ショックタンパク質は、ヒト、イヌ、ネコ由来のものとすることができる。
【0018】
前記I型糖尿病自己タンパク質抗原は、具体的には、ヒトインスリンとすることができる。前記I型糖尿病自己タンパク質抗原エピトープポリペプチドのアミノ酸配列は、配列表における配列1であり、当該ポリペプチドの名称はB9−23である。前記I型糖尿病自己タンパク質抗原のコード遺伝子または前記I型糖尿病自己タンパク質抗原エピトープポリペプチドのコード遺伝子の挿入に用いる真核細胞発現ベクターは、pcDNA3.0またはpVAX1またはprovaxなどの哺乳動物の細胞発現ベクターとすることができる(塗亦嫻,金華利,張馨玉,楊若耶,楊富,張富春,王賓「豚コレラウイルスE2遺伝子真核発現ベクターの発現効率と免疫効果の比較」『中国農業大学学報』2005,10(6):37〜41)。
【0019】
前記I型糖尿病を予防および/または治療するワクチンの有効成分は、具体的には、ヒトインスリンタンパク質およびpVAX−insulinとすることができ、さらにB9−23およびpcDB9−23とすることができる。
【0020】
前記I型糖尿病を予防および/または治療するワクチンの有効成分のうち、1)I型糖尿病自己タンパク質抗原と、前記I型糖尿病自己タンパク質抗原のコード遺伝子がマルチクローニング部位に挿入された組換え真核細胞発現ベクターとの質量比は1:5〜5:1とし、1:1〜1:2であることが好ましい。
2)I型糖尿病自己タンパク質抗原エピトープポリペプチドと、前記I型糖尿病自己タンパク質抗原エピトープポリペプチドのコード遺伝子がマルチクローニング部位に挿入された組換え真核細胞発現ベクターとの質量比は1:5〜5:1とし、1:1〜1:2であることが好ましい。
3)I型糖尿病自己タンパク質抗原と、前記I型糖尿病自己タンパク質抗原エピトープポリペプチドのコード遺伝子がマルチクローニング部位に挿入された組換え真核細胞発現ベクターとの質量比は1:5〜5:1とし、1:1〜1:2であることが好ましい。
4)I型糖尿病自己タンパク質抗原エピトープポリペプチドと、前記I型糖尿病自己タンパク質抗原のコード遺伝子がマルチクローニング部位に挿入された組換え真核細胞発現ベクターとの質量比は1:5〜5:1とし、1:1〜1:2であることが好ましい。
【0021】
前記I型糖尿病を予防および/または治療するワクチンは、注射、スプレー、点鼻、点眼、浸透、吸収、物理的または化学的介在の方法を介して、筋肉、皮内、皮下、静脈、粘膜組織などの有機体に導入することができ、またはその他の物質で混合または被覆した後に有機体に導入することができる。
【0022】
前記I型糖尿病を予防および/または治療するワクチンの用量は、一般に、有効成分200μg〜10mg/体重kg/回とし、7〜30日に1回投与し、一般に計2〜5回必要である。
【0023】
マウスの実験によって、I型糖尿病自己タンパク質抗原と、前記I型糖尿病自己タンパク質抗原のコード遺伝子がマルチクローニング部位に挿入された組換え真核細胞発現ベクターとからなる混合物、およびI型糖尿病自己タンパク質抗原エピトープポリペプチドと、前記I型糖尿病自己タンパク質抗原エピトープポリペプチドのコード遺伝子がマルチクローニング部位に挿入された組換え真核細胞発現ベクターとからなる混合物は、免疫マウスのT細胞増殖を抑制し、免疫抑制の生成を誘導することができ、I型糖尿病の発生を有効に予防することができる。同様に、このワクチンの方法および手段は、自己抗原に誘発されるその他の自己免疫疾患にも採用できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1a】pVAX−insulinのEcoR IおよびXho I制限酵素切断法による同定結果である。
【図1b】pcDB9−23ベクターのEcoR IおよびXho I制限酵素切断法による同定結果である。
【図1c】RT−PCR方法でpVAX−insulinのBHK21細胞における発現を解析したものである。
【図2a】48時間刺激したpcDB9−23およびB9−23共免疫群のT細胞増殖の状況である。
【図2b】96時間刺激したpcDB9−23およびB9−23共免疫群のT細胞増殖の状況である。
【図3a】48時間刺激した各免疫群のT細胞増殖の状況である。
【図3b】図3aにおける各免疫群のT細胞増殖の状況の比較である。
【図3c】異なる共免疫群における異なる免疫投与量のT細胞増殖の状況の比較である。
【図4】NODマウス発病予防の比較試験である。
【図5】免疫のNODマウスの膵臓組織切片HE染色の結果である。
【図6a】マウスMZP3遺伝子配列と、マーモセット、ヒト、イヌ、ネコ、二花臉ブタおよびアジア原牛の核酸同源性分析である。MZP3:マウス、Marmosets:マーモセット、Human:ヒト、Canis familiaris:イヌ、felis catus:ネコ、Sus scrofa:二花臉ブタ、Bos taurus:アジア原牛。
【図6b】マウスMZP3遺伝子配列と、マーモセット、ヒト、イヌ、ネコ、二花臉ブタおよびアジア原牛のアミノ酸同源性分析である。MZP3:マウス、Marmosets:マーモセット、Human:ヒト、Canis familiaris:イヌ、felis catus:ネコ、Sus scrofa:二花臉ブタ、Bos taurus:アジア原牛。
【図7】真核細胞発現ベクターpcDmzp3の同定および発現分析である。(a)ベクターについてEcoR IおよびXho Iで制限酵素切断を行った。M:DNA標準分子量(2000bp、1000bp、750bp、500bp、250bpおよび100bp)、1,2:組換えプラスミドpcDmzp3についてEcoR IおよびXho Iで制限酵素切断を行った。(b)RT−PCR法でpcDmzp3のBHK21細胞における発現を分析した。M:DNA標準分子量(2000bp、1000bp、750bp、500bp、250bpおよび100bp)、1:pcDmzp3をトランスフェクションした細胞MZP3の発現。2:トランスフェクションしていない細胞の対照。
【図8】原核細胞発現ベクターpGEX−4T−1/MZP3の同定、タンパク質発現および純化である。(a)組換えプラスミドpGEX−4T−1/MZP3の制限酵素切断同定。M:DNA標準分子量(2000bp、1000bp、750bp、500bp、250bpおよび100bp)、1,2:組換えプラスミドpGEX−4T−1/MZP3についてEcoR IおよびXho Iで制限酵素切断を行った。(b)タンパク質の誘導発現。M:DNA標準分子量(2000bp、1000bp、750bp、500bp、250bpおよび100bp)、1:IPTGで誘導されていない全菌体タンパク質。2、IPTG誘導した全菌体タンパク質。3、超音波破砕した上清タンパク質。4、超音波破砕した沈殿タンパク質。(c)純化後のMZP3タンパク質。M:タンパク質標準分子量、1:純化後のタンパク質タンパク試料。矢印は標的バンドを指す。
【図9a】自己免疫疾患卵巣炎の罹患率および重篤度である。C57BL/6マウスは、PBS100μlを足底および筋肉注射したものを陰性対照群とし、フロイント完全アジュバント(CFA)100μlのみを注射したマウスをアジュバント群とし、MZP3タンパク質100μgを含むCFA乳化液100μlを注射した。
【図9b】注射後14日に卵巣の組織学的変化を測定したものである。C57BL/6マウスは、PBS100μlを足底および筋肉注射したものを陰性対照群とし、フロイント完全アジュバント(CFA)100μmのみを注射したマウスをアジュバント群とし、MZP3タンパク質100μgを含むCFA乳化液100μlを注射した。陰性対照群,正常な卵巣組織。CFA,CFAのみを注射したマウスの卵巣組織,卵巣に炎症反応がない。長い矢印は成長中の卵胞を示し、矢印は原始卵胞を示す(拡大倍率は100および400倍)。MZP3,卵巣に炎症細胞の浸潤が現れ、卵子を重篤に喪失した。
【図9c】抗体価(各群マウス3匹)である。C57BL/6マウスは、MZP3タンパク質100μgおよびCFAを足底および筋肉注射し、対照はCFAのみを注射したマウスである。注射の14日間後に、血清を収集し、ELISA法を介して抗体を測定し、抗体価はOD値に基づき計算した。
【図9d】足の湾曲箇所のリンパ節リンパ細胞からのMZP3タンパク質に対する特異性T細胞反応である。C57BL/6マウスは、PBS100μlを足底および筋肉注射したものを陰性対照群とし、フロイント完全アジュバント(CFA)100μlのみを注射したマウスをアジュバント群とし、MZP3タンパク質100μgを含むCFA乳化液100μlを注射した。T細胞をマウスの中から分離し(各群マウス3匹)、体外でMZP3タンパク質を特異性抗原として刺激し、かつ、CFSE法で測定した。図における百分比は増殖の幅である。数値が大きいほど増殖の幅が大きくなり、M1は細胞増殖の百分比を示す。
【図10a】サイトカインIL−2の発現である。C57BL/6マウスは、PBS100μlを足底および筋肉注射したものを陰性対照群(Naive)とし、CFA100μlのみを注射したマウスをアジュバント群とし、MZP3タンパク質100μgを含むCFA乳化液100μlを注射した。
【図10b】フローサイトメトリーでIFN −γの発現を分析したものである。注射14日後にT細胞はC57BL/6マウスの脾臓および足の湾曲箇所のリンパ節から分離し、MZP3タンパク質を用いて体外で8時間刺激した。細胞内染色法を用いてCD4+T細胞INF−γの発現および全細胞IL−12の発現を分析した。陽性細胞の百分比を図中に示した。a,リンパ節、b,脾臓。
【図10c】フローサイトメトリーで分析したIL−12の発現である。注射14日後にT細胞はC57BL/6マウスの脾臓および足の湾曲箇所のリンパ節を分離し、MZP3タンパク質を用いて体外で8時間刺激した。細胞内染色法を用いてCD4+細胞INF−γの発現および全細胞IL−12の発現を分析した。陽性細胞の百分比を図中に示した。a,リンパ節、b,脾臓。
【図11a】対照群に比べ、共免疫pcDmzp3およびMZP3タンパク質群のAODが軽減されたものである。
【図11b】2回目の免疫後7日目の卵巣の組織学的測定である。
【図11c】フローサイトメトリーでサイトカインIL−12の発現を測定したものである。A,リンパ節、B,脾臓。
【図11d】フローサイトメトリーでサイトカインINF−γの発現を測定したものである。A,リンパ節、B,脾臓。
【図11e】共免疫DNAおよびタンパク質が抗原特異性の免疫抑制を誘導したものである。抗原マッチ型および抗原ミスマッチ型DNAとタンパク質を同時免疫したマウスのT細胞増幅状況を比較した。2回目の免疫後7日目にT細胞を分離し、体外で特異性抗原MPZ3タンパク質で再刺激し、BSAを無関係タンパク質対照とし、Con Aを陽性対照とした。MTT法を用いて測定し、刺激指数の方式で示した。
【図11f】ELISA法で血清中の抗体レベルを測定したものである。
【図12a】共免疫誘導の調節性T細胞発現IL−10である。2回目の免疫後7日目にT細胞を分離し、フローサイトメーターを用いて、サイトカインIL−10およびFoxP3の発現を分析した。A,リンパ節、B,脾臓。
【図12b】共免疫誘導の調節性T細胞発現FoxP3である。2回目の免疫後7日目にT細胞を分離し、フローサイトメーターを用いて、サイトカインIL−10およびFoxP3の発現を分析した。A,リンパ節、B,脾臓。
【図13】共免疫でCD4+CD25+細胞が変更されていない数である。異なる免疫の組み合わせのマウスからT細胞を分離し、抗CD4および抗CD25モノクローナル抗体を染色して、フローサイトメトリーで分析した。A,リンパ節、B,脾臓。
【図14】プラスミドT−MOG352cの制限酵素切断法による同定結果である。
【図15】プラスミドpVAXMOG352cの制限酵素切断法による同定結果である。
【図16】プラスミドpVAXMOG352cのBHK21細胞の一過性発現結果である。
【図17】免疫誘導マウスEAEモデルの罹患状況である。縦軸は罹患指数、横軸は日数である。
【図18】陰性マウスに、罹患したマウスの脾臓由来のT細胞を養子移入した後、CFAアジュバント乳化したMOG抗原200μgを1回皮下免疫した後の罹患状況である。縦軸は罹患指数、横軸は日数である。
【図19】陰性マウスに、発病したマウスのリンパ節由来のT細胞を養子移入した後、CFAアジュバント乳化したMOG抗原200μgを1回皮下注射した後の罹患状況である。縦軸は罹患指数、横軸は日数である。
【図20】マウスの発病を誘導した後の自己MOG抗原に対するT細胞の増幅状況である。
【図21】マウスの発病を誘導した後の自己MOG抗原に対するT細胞内部のサイトカインを発現した状況である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
下記実施例における試験方法は、特別な説明がない場合、いずれもルーチンの方法である。
【実施例1】
【0026】
I型糖尿病を予防および/または治療するワクチン
【0027】
本実施例において、I型糖尿病を予防および/または治療するワクチンには、1)ヒトインスリンタンパク質(Sigma製,I−9278)およびpVAX−insulinからなる、2)ヒトインスリンにおけるB鎖上の9−23タンパク質(B9−23)およびpcDB9−23からなる、3)ヒトインスリンタンパク質(Sigma製,I−9278)およびpcDB9−23からなる、4)B29−23およびpVAX−insulinからなる、の4種がある。
【0028】
B29−23のアミノ酸配列は、SHLVEALYLVCGERG(配列1)である。インスリンにおけるB鎖上の9−23タンパク質(B9−23)は、北京aoke社が合成した。
【0029】
pVAX−insulinおよびpcDB9−23は、下記の方法で調製した。
ヒト膵臓組織を抽出し、タカラ製のRNA抽出試薬キットを用いて、TrizoL試薬において充分に研磨し、取扱説明書に基づき全RNAの抽出を行った。発表されている遺伝子配列に基づきプライマーを設計した。プライマーの配列は、下記のとおりである。
ヒトインスリンcDNA遺伝子を増幅するプライマー、
【化1】

ヒトインスリンのB鎖上のアミノ酸末端9〜23位のアミノ酸残基からなるポリペプチドB9−23を増幅するプライマー、
【化2】

B9−23のアミノ酸配列は、SHLVEALYLVCGERGである。
【0030】
タカラ社RNA PCRキットの操作マニュアルにより行い、逆転写はOligo(dT)を下流プライマーとした。反応条件:42℃30分間、99℃5分間、5℃5分間。PCR反応は、遺伝子配列を用いて特異性プライマーを設計した。増幅パラメータ:94℃2分間、94℃30秒間、55℃30秒間、72℃70秒間35サイクル、72℃10分間。反応生成物は、1%アガロースゲル電気泳動測定を行った。その結果、ヒトインスリンのRT−PCR生成物で約750bpのバンドが得られ、B9−23のRT−PCR生成物で約250bpのバンドが得られることが示された。
【0031】
タカラ社PCR Fragment Recovery Kitを用いて、取扱説明書に基づきPCR生成物の回収を行った。回収したcDNA断片とpMD 18−Tベクター(タカラ社製)は、T4DNAリガーゼの作用下16℃で1晩置き、ヒトインスリンのcDNAまたはB9−23のコード配列をpMD 18−Tのベクター上に結合した。結合生成物をコンピテントセルに形質転換し、コンピテントセルの調製および形質転換と、プラスミドの抽出は、参考文献(Sambrook J,Fritsch EF,Maniatis T.Molecular Cloning:A Laboratory Manual,(2nd ed).New York:Cold Spring Harbor Laboratory Press,1989.19―56)に基づいた。抽出後のプラスミドは、EcoR IおよびHind III 二重制限酵素切断を用いて組換えプラスミドの同定を行い、制限酵素切断反応の終了後にアガロースゲル電気泳動同定を行い、正確なクローンでプラスミドの大量抽出を行った。クローンのcDNA配列を同定するため、組換えプラスミドに対して純化を行い、BcaBEST primer RV−MおよびBcaBEST primer M13−47を用いてcDNAのPE377全自動シーケンサーで双方向DNAシークエンシングを行い、得られた配列を、PE社SeqEd v1.0.3ソフトウェアで分析した。制限酵素切断およびシークエンシング同定を経たヌクレオチド配列をGenBank Accession Number AY899304とする5´端第56位から388位までのデオキシリボヌクレオチドを含むヒトインスリンcDNA遺伝子のプラスミドをpMDインスリンと命名し、ヌクレオチド配列をGenBank Accession Number AY899304とする5´端第152位から196位までのデオキシリボヌクレオチドを含むB9−23のcDNA遺伝子のプラスミドをpMD−B9−23と命名した。
【0032】
EcoR IおよびXho Iを用いて、pMDインスリンおよびpMD−B9−23から、ヒトインスリン遺伝子断片およびB9−23断片をそれぞれ切り取った。ヒトインスリン遺伝子断片は、同様に制限酵素切断した真核細胞発現ベクターpVAX1(Invitrogen社製)上に結合し、B9−23断片は、同様に制限酵素切断した真核細胞発現ベクターpcDNA3.0(Invitrogen製)上に結合し、組換えプラスミドは、EcoR IおよびXho Iを用いて二重制限酵素切断同定およびシークエンシング同定を行った。制限酵素切断およびシークエンシング同定を経たヌクレオチド配列をGenBank Accession Number AY899304とする5´端第56位から388位までのデオキシリボヌクレオチドを含むヒトインスリンcDNA遺伝子のプラスミドをpVAX−insulinと命名し、ヌクレオチド配列をGenBank Accession Number AY899304とする5´端第152位から196位までのデオキシリボヌクレオチドを含むB9−23のcDNA遺伝子のプラスミドをpcDB9−23と命名した。
【0033】
pVAX−insulinのEcoR IおよびXho I制限酵素切断の同定結果は、図1aに示すとおりであり、0.7%アガロースゲル電気泳動によって、pVAX−insulinは、EcoR IおよびXho I制限酵素切断後に、約750bpのヒトインスリンcDNA遺伝子断片が得られることが示された。図1aにおいて、1:DNA標準分子量(10000bp、5000bp、2500bp、1000bpおよび250bp,タカラ製)、2,3:組換えプラスミドpVAX−insulinについてEcoR IおよびXho Iで制限酵素切断を行った。
【0034】
pcDB9−23ベクターのEcoR IおよびXho I制限酵素切断の同定結果は、図1bに示すとおりであり、0.7%アガロースゲル電気泳動によって、pcDB9−23は、EcoR IおよびXho I制限酵素切断後に、約250bpB9−23cDNA遺伝子断片が得られることが示された。図1bにおいて、3はDNA標準分子量(2000bp、1000bp、750bp、500bp、250bpおよび100bp,タカラ製)であり、2:組換えプラスミドpCDB9−23についてEcoR IおよびXho Iで制限酵素切断を行った。
【0035】
pVAX−insulinは、lipofectamineの製品マニュアルを参照し、リポソームトランスフェクション法でBHK21細胞(米ATCC社)をトランスフェクションした。細胞をトランスフェクションしてから48時間後に細胞を収集し、全RNAを抽出して、mInsulinp1およびmInsulinp2をプライマーとしてRT−PCR法を用いて標的遺伝子の発現を測定した。その結果は図1cに示すとおりであり、トランスフェクション細胞のうち、750bpのヒトインスリンcDNA断片があることを示し、pVAX−insulinはmRNAレベルで有効に体外で発現可能であることを説明している。1:DNA標準分子量(10000bp、5000bp、2500bp、1000bp、および250bp,タカラ製)、2,3:pVAX−insulinをトランスフェクションした細胞insulinの発現。2:トランスフェクションしていない細胞の対照。
【実施例2】
【0036】
I型糖尿病を予防および/または治療するワクチンの効果試験
【0037】
試験用のBalb/cマウスおよびNODマウスをそれぞれ免疫した。筋肉注射。Balb/cマウスは各群3匹。NODマウスは各群16匹。
一、Balb/cマウス試験
1、Balb/cマウス上の細胞免疫反応
【0038】
Balb/cマウス9匹を3群に均等に分け、各群3匹とした。第1群(pcDB9−23免疫群)は、1匹当たり、pcDB9−23を100mg含む0.9%NaCl水溶液100mlをそれぞれ免疫した。第2群(B9−23免疫群)は、1匹当たり、B9−23を100mg含む0.9%NaCl水溶液100mlをそれぞれ免疫した。第3群(pcDB9−23およびB9−23共免疫群)は、1匹当たり、pcDB9−23を100mgおよびB9−23を100mg含む0.9%NaCl水溶液100mlをそれぞれ免疫した。1回目の免疫後、14日目に同等の投与量で1回強化免疫し、2回目の免疫の後、以下の方法でT細胞増殖試験を行った。
【0039】
T細胞増殖試験、CFSE染色、フローサイトメトリー測定をすることによって、T細胞の特定抗原に対する増殖能力を反映した。体内のリンパ球は、抗原などの特異性または非特異性の刺激を受けた後、細胞の活性化、サイトカインの合成、サイトカイン受容体の発現をもたらし、細胞に増殖が発生した。細胞増殖反応は、細胞の機能状態をある程度反映することができる。
【0040】
具体的な方法は次のとおりである。1、マウスを頸椎脱臼で処分し、70%エタノールに15分間浸した。2、事前に20分間紫外滅菌したクリーンベンチにおいて、無菌条件下で、事前にRPMI1640培養液2mlを加えた細胞培養シャーレの中にマウスの脾臓を摘出した。3、銅金網を強熱した後、降温してシャーレの中に入れた。無菌注射器で脾臓を磨砕し、細胞浮遊液を調製し、13ml細胞遠心管内にろ過した。4、遠心管の口をシーリングフィルムで密封し、10分間で2000回転、遠心分離した。5、上層の培養液を捨て、赤血球溶解液2〜3mlを加え、細胞を懸濁し、2分間溶解した後、等体積のPRMI1640培地(またはウシ胎児血清)を加えて反応を停止し、遠心管の口をシーリングフィルムで密封し、10分間で2000回転、遠心分離した。6、上層の培養液を捨て、PRMI1640(2%ウシ胎児血清を含む)培地浮遊細胞3〜4mlを加え、細胞を懸濁した。7、グラスウールを用いて37℃で細胞をゆっくりとろ過し、細胞が充分にグラスウールと結合し、B細胞を除去することを保証した。8、血球計数板で細胞を計数した。9、PBSで培地を洗浄し、最後にPBS溶液1mlで2×107個の細胞を懸濁した。10、3μM CFSE貯蔵液を採集濃度が1.5μMになるまで加え、常温で8分間軽く振盪した。11、等体積のウシ胎児血清を加えて反応を停止し、細胞を入れて10分間水浴し、2000rpmで5分間遠心分離し、上清を棄てた。細胞を懸濁し、細胞106個当たりの含有PBS溶液1mlで細胞を洗い、遠心分離して上清を棄て、3回繰り返した。各群の細胞浮遊液を4部に分け、96ウェルプレートに添加した。うち1部はCon A(マイトジェン)100μlを添加して最終濃度を5μg/mlとし、1部は対応する特異性抗原(B9−23)を添加して刺激物とし、最終濃度を5μg/mlとし、1部は刺激物を加えず、1部はBSA100μlを添加して最終濃度を2μg/mlとし無関係抗原とした。同時に、刺激物を添加せず、およびCFSE染色を用いない細胞を設けて対照とした。13、細胞を細胞インキュベータに入れ、37℃、5%、CO2培養し、それぞれ48、96時間、フローサイトメトリーで細胞増殖状況を測定した。
【0041】
48時間および96時間の測定結果によって、pcDB9−23およびB9−23共免疫群のT細胞増殖の程度(0.08%増殖)が、pcDB9−23免疫群(22.32%)およびB9−23免疫群(8.94%増殖)よりも有意に低く、pcDB9−23およびB9−23共免疫群に免疫抑制現象が現れたことが証明された。図2aおよび図2bにおける百分比は増殖の程度であり、数値が大きいほど増殖の程度が高くなり、M1は細胞増殖の百分比を示す。
2、細胞免疫反応の特異性
【0042】
免疫抑制反応が特異性を有するか否か、すなわち、インスリン抗原を有するタンパク質とCNAとの間にしか抑制現象が発生しないかどうかをさらに研究した。Balb/cマウス21匹を7群に均等に分け、各群3匹とした。第1群(陰性対照群)は、1匹当たり、0.9%NaCl水溶液100mlをそれぞれ免疫した。第2群(pVAX−insulin免疫群)は、1匹当たり、pVAX−insulinを100mg含む0.9%NaCl水溶液100mlをそれぞれ免疫した。第3群(ヒトインスリンタンパク質免疫群)は、1匹当たり、ヒトインスリンタンパク質を100mg含む0.9%NaCl水溶液100mlをそれぞれ免疫した。第4群(pVAX1免疫群)は、1匹当たり、pVAX1を100mg含む0.9%NaCl水溶液100mlをそれぞれ免疫した。第5群(pVAX−insulinおよびVP1共免疫群)は、1匹当たり、pVAX−insulinを100mgおよび口蹄疫ウイルスVP1(金華利,張富春,単文娟,張愛蓮,李軼傑,王賓「口蹄疫VP1タンパク質の酵母における発現および免疫原性分析」『細胞と分子免疫学誌』2004年,20(5)513〜516に記載された方法に基づき調製した)を100mg含む0.9%NaCl水溶液100mlをそれぞれ免疫し、対照群とした。第6群(pVAX1およびヒトインスリンタンパク質共免疫群)は、1匹当たり、pVAX1を100mgおよびヒトインスリンタンパク質を100mg含む0.9%NaCl水溶液100mlをそれぞれ免疫した。第7群(pVAX−insulinおよびヒトインスリンタンパク質共免疫群)は、1匹当たり、pVAX−insulinを100mgおよびヒトインスリンタンパク質を100mg含む0.9%NaCl水溶液100mlをそれぞれ免疫した。1回目の免疫後、14日目に同等の投与量で1回強化免疫し、2回目の免疫の後、7日目に前記ステップ1の方法でT細胞増殖試験を行った。刺激後48時間の結果は、図3aおよび3bに示すとおりであり、インスリンタンパク質とその対応するDNAとを一緒に混合した場合(pVAX−insulinおよびヒトインスリンタンパク質共免疫群)にのみ、免疫抑制現象が現れ、その他の混合群は、対照群に比べ、T細胞活性に有意な降下が認められなかった。共免疫には、同種の抗原のタンパク質とDNAとの間に免疫抑制現象の特異的関係が存在していることを説明している。図3aにおける百分比は増殖の程度であり、数値が大きいほど増殖の程度が高くなり、M1は細胞増殖の百分比を示す。図3bにおいて、pIはpVAX−insulin免疫群を、Insulinはヒトインスリンタンパク質免疫群を、pVAXはpVAX1免疫群を、pI+VP1はpVAX−insulinおよびVP1共免疫群を、pVAX+InはpVAX1およびヒトインスリンタンパク質共免疫群を、pI+InはpVAX−insulinおよびヒトインスリンタンパク質共免疫群を表し、Naiveは陰性対照群を表す。
3、細胞免疫反応の用量関係試験
【0043】
現象の抑制で最適な効果が現れたときのタンパク質とDNAとの間の用量関係をさらに研究するために、Balb/cマウス24匹を8群に均等に分け、各群3匹とした。第1群(陰性対照群)は、1匹当たり、0.9%NaCl水溶液100mlをそれぞれ免疫した。第2群(pVAX−insulin免疫群)は、1匹当たり、pVAX−insulinを100mg含む0.9%NaCl水溶液100mlをそれぞれ免疫した。第3群(ヒトインスリンタンパク質免疫群)は、1匹当たり、ヒトインスリンタンパク質を100mg含む0.9%NaCl水溶液100mlをそれぞれ免疫した。第4群(pVAXおよびヒトインスリンタンパク質1:4共免疫群)は、1匹当たり、pVAX−insulinを25mgおよびヒトインスリンタンパク質を100mg含む0.9%NaCl水溶液100mlをそれぞれ免疫した。第5群(pVAX−insulinおよびヒトインスリンタンパク質1:2共免疫群)は、1匹当たり、pVAX−insulinを50mgおよびヒトインスリンタンパク質を100mg含む0.9%NaCl水溶液100mlをそれぞれ免疫した。第6群(pVAX−insulinおよびヒトインスリンタンパク質1:1共免疫群)は、1匹当たり、pVAX−insulinを100mgおよびヒトインスリンタンパク質を100mg含む0.9%NaCl水溶液100mlをそれぞれ免疫した。第7群(pVAX−insulinおよびヒトインスリンタンパク質2:1共免疫群)は、1匹当たり、pVAX−insulinを200mgおよびヒトインスリンタンパク質を100mg含む0.9%NaCl水溶液100mlをそれぞれ免疫した。第8群(pVAX−insulinおよびヒトインスリンタンパク質4:1共免疫群)は、1匹当たり、pVAX−insulinを400mgおよびヒトインスリンタンパク質を100mg含む0.9%NaCl水溶液100mlをそれぞれ免疫した。1回目の免疫後、14日目に同等の投与量で1回強化免疫し、2回目の免疫の後、7日目に前記ステップ1の方法でT細胞増殖試験を行った。刺激後48時間の結果は、図3cに示すとおりであり、プラスミドとタンパク質との間の比が2:1であるときに、抑制現象が最も顕著であった。図3cにおいて、Naiveは陰性対照群を、pIはpVAX−insulin免疫群を、Inはヒトインスリンタンパク質免疫群を、1:4、1:2、1:1、2:1、4:1はそれぞれpVAX−insulinおよびヒトインスリンタンパク質1:4共免疫群、pVAX−insulinおよびヒトインスリンタンパク質1:2共免疫群、pVAX−insulinおよびヒトインスリンタンパク質1:1共免疫群、pVAX−insulinおよびヒトインスリンタンパク質2:1共免疫群、並びにpVAX−insulinおよびヒトインスリンタンパク質4:1共免疫群を表す。
二、NODマウス上の共免疫予防試験
【0044】
雌性NODマウス64匹を4群に均等に分け、各群16匹とした。第1群(陰性対照群)は、1匹当たり、0.9%NaCl水溶液100mlをそれぞれ免疫した。第2群(pVAX−insulin免疫群)は、1匹当たり、pVAX−insulinを100mg含む0.9%NaCl水溶液100mlをそれぞれ免疫した。第3群(ヒトインスリンタンパク質免疫群)は、1匹当たり、ヒトインスリンタンパク質を100mg含む0.9%NaCl水溶液100mlをそれぞれ免疫した。第4群(pVAX−insulinおよびヒトインスリンタンパク質共免疫群)は、1匹当たり、pVAX−insulinを100mgおよびヒトインスリンタンパク質を100mg含む0.9%NaCl水溶液100mlをそれぞれ免疫した。1回目の免疫後、14日目に同等の投与量で1回強化免疫し、2回目の免疫の後、毎週血糖計(北京恰成公司製)でマウスの血糖の変化を測定し、記録した。2週間連続でマウスの血糖レベルが200ml/dlを超えた場合、このマウスは糖尿病であるとした。
【0045】
図4に示すとおり、各群のNODマウスの罹患率を統計し、正常な状況の下で、雌性NODマウスの糖尿病の罹患率は60%程度であった。pVAX−insulinおよびヒトインスリンタンパク質共免疫群において、雌性NODマウスの糖尿病の罹患率は有意に低下し、1匹のマウスが発病しただけであり、かつ発病の時間にも有意な遅延が認められた。pVAX−insulinおよびヒトインスリンタンパク質の共免疫によって、I型糖尿病を有効に予防できることを説明している。図4において、Naive NODは陰性対照群マウスを、Insulinはヒトインスリンタンパク質免疫群マウスを、pVAX−insulinはpVAX−insulin免疫群マウスを、Insulin+pVAX−insulinはpVAX−insulinおよびヒトインスリンタンパク質共免疫群マウスを表す。
【0046】
陰性対照群マウス、すでに糖尿病を罹患したマウスおよびpVAX−insulinおよびヒトインスリンタンパク質共免疫群の膵臓組織に対し、切片化し、HE染色を行い、その結果によっても、pVAX−insulinおよびヒトインスリンタンパク質共免疫群の膵臓組織において、リンパ球の浸潤比はその他の発病群の状況より軽微であり、正常な未発病NODマウス(陰性対照群マウス)に近いことが示された(図5)。
【0047】
この試験によって、インスリンDNAとタンパク質とを同時免疫することによって、I型糖尿病の発生を有効に予防できることが証明された。今回の試験において、共免疫現象の免疫抑制性が繰り返し検証された。特に、NODマウスにおいて、I型糖尿病の発生を予防することができた。
【0048】
総合すると、この試験によって、I型糖尿病の新しい予防方法が証明された。さらに、関連機序でヒトおよび動物の自己免疫疾患治療の新しい方法が開発される可能性が研究された。
【実施例3】
【0049】
共免疫の方法を採用して自己免疫性卵巣炎を治療/予防する
【0050】
要約
自己免疫性卵巣疾患(AOD:autoimmune ovarian disease)は、ヒトの早発卵巣不全(POF:premature ovarian failure)の誘引の1つである。AODの自己タンパク質抗原には、卵透明帯タンパク質3(ZP3)がある。
【0051】
MZP3タンパク質およびCFA誘導のAODマウスモデルを用いて、さらに実用的な卵巣炎治療技術を研究した。共免疫にマッチするDNAおよびタンパク質はT細胞反応の免疫抑制を誘導できるという以前観察された結果に基づき、共免疫の方法を採用してAODを改善した。その結果、MZP3 DNAおよびタンパク質の共免疫によって、AODが改善され、抗原特異性のT細胞反応が抑制され、炎症性サイトカインIL−12およびINF−γの発現レベルが下がることが認められた。これらの作用は、共免疫により特異性の調整性T細胞が誘導されたことにより起った可能性がある。これらの調整性T細胞の特徴は、CD4+/CD25-/FoxP3+であり、IL−10を発現することができる。我々は、DNAおよびタンパク質の共免疫の方法を用いて自己免疫疾患を治療することを初めて発表した。
【0052】
この100年、特に近年の研究において免疫系および生殖系との間に密接で複雑な関係が存在することが発見されていた[1,2]。この関係に基づき、新型免疫避妊技術が確立されている。この技術は、遺伝子組換えなどの分子生物学の技術に基づいて利用し、生殖プロセスにおける主要因子を標的抗原のワクチンとし、免疫系が追加された標的抗原に対して生成する対応免疫応答により、体内の標的生殖抗原に機能を喪失させ、過度の繁殖動物の生殖力を阻害し、過度の繁殖動物の正常な生殖プロセスを破壊し、生物種間およびその環境との間の動的均衡を維持する[3]。ネズミの卵膜外は、卵透明帯によって完全に包囲されている。卵透明帯は、一次卵母細胞の成熟プロセスの初期において、卵母細胞および一次卵母細胞が分泌し形成された糖タンパク質を含む好酸性膜であり、ZP1、ZP2、ZP3からなる[4]。卵透明帯は、受精プロセスにおいて2つの重要な作用を有する。1つは、精子を卵透明帯上に付着させることであり、もう1つは精子の結合後に精子の先体反応を誘導し、精子を卵中に入れることである[5]。ZP3はZPの主要糖タンパク質であり、精子の一次受容体として、精子と卵子の結合プロセスにおいてさらに重要であり、理想的な免疫避妊とみなされている[6]
【0053】
しかしながら、免疫避妊ワクチンの製造プロセスにおいて、卵巣炎の発生をよく伴うことが分かっており、Dumberら[7]は、天然のブタZP糖タンパク質および脱グリコシルしたZPタンパク質を用いて雌性個体を主体的に免疫し、受精の阻害をもたらした。しかしながら、研究によって、免疫後の動物の排卵周期、ホルモンレベルおよび卵巣における卵胞の発育の面で、一過性の変化が現れるものや、非可逆性の変化が現れることが認められている。
【0054】
女性の更年期の正常な年齢は50歳であり、40歳以前に卵胞の機能を喪失した場合、早発卵巣不全(POF:premature ovarian failure)に罹ったと考えられる。この疾患は、女性における罹患率は、一般に1〜2%であり、重篤な場合、十数歳でこの疾患に罹ることがある[8]。自己免疫性卵巣疾患(AOD:autoimmune ovarian disease)は、POFの主な誘引の1つであると考えられている[9-11]。Rhimらは、MZP3の短いペプチド(330〜340)を足底および皮下注射することを採用し、新しいマウス実験動物モデルを確立し、卵巣の自己免疫疾患の研究に用いた。このモデルは、女性の早発卵巣不全をある程度シミュレーションすることができる[12]。この自己免疫疾患はCD4+T細胞によって媒介され、Louらは、自己抗体の生成によって、T細胞が媒介する炎症反応の分布を変えることができ、標的臓器機能単位の喪失をもたらすことがあることを発見している[13]
【0055】
有機体免疫系の調節者として、調節性T細胞は、有機体の自己抗原に対する免疫反応を調節することができ、これによって有機体が自己免疫疾患の傷害を受けないようにする。天然の調節性T細胞は、一般にCD4+CD25+両陽性T細胞であり、この細胞は機能性転写因子FoxP3を発現することができる。この細胞因子は、正常な免疫系の重要な細胞構成成分である[14]。この細胞の存在によって、研究者は抗原特異性の調節性T細胞を使用して自己免疫疾患および同種異体移植拒絶を治療することができる[16-17]。Samyらは抗原依存性のCD4+CD25+両陽性調節T細胞を使用して自己免疫疾患−卵巣炎の発生を制御した[18]。Jinらは、タンパク質およびDNA共免疫の方法を採用して、抗原特異性の細胞反応を抑制可能であることを発見している[19]。この抑制機能は、抗原特異性を誘導した調節性T細胞に関連する可能性があるため、本発明はマウスを動物モデルとし、タンパク質およびDNA共免疫で細胞免疫反応を抑制する方法を利用して、自己免疫疾患−卵巣炎の治療方法および対応する機序を研究している。
1 材料と方法
1.1 材料と試薬
【0056】
pMD18−Tシークエンシングベクターはタカラ社から購入したものである。大腸菌DH5α菌株は、本試験所の貯蔵菌種である。RNA抽出試薬キット、PCR生成物回収試薬キット、DNAマーカー、制限性エンドヌクレアーゼ、exTaq酵素およびRT−PCRとPCRプライマーは、いずれもタカラ社から購入した。シークエンシング試薬キットは、米PE社から購入し、その他の試薬はいずれも分析用とした。
1.2 mzp3遺伝子のクローン
【0057】
性成熟マウスの卵巣を摘出し、Trizoにおいて充分に研磨し、取扱説明書に基づき全RNAの抽出を行った。すでに発表されている遺伝子配列(GenBank number:BC103585)に基づきプライマーを設計し、プライマーの配列は次のとおりとした。
【化3】

増幅断片はMZP3の核酸配列第63〜1143位塩基とした。
【0058】
タカラ RNA PCRキットの操作マニュアルに基づき行い、逆転写はOligo(dT)を下流プライマーとした。反応条件:42℃30分間、99℃5分間、5℃5分間。PCR反応は、mzp3遺伝子配列を用いて特異性プライマーを設計した。増幅パラメータ:94℃2分間、94℃30秒間、55℃30秒間、72℃70秒間35サイクル、72℃10分間。反応生成物は、アガロースゲル電気泳動測定を行った。タカラ社PCR Fragment Recovery Kitを用いて、取扱説明書に基づきPCR生成物の回収を行った。回収したmzp3 cDNA断片とpMD 18−Tベクターは、T4 DNAリガーゼの作用下16℃で1晩置き、mzp3 cDNAをpMD 18−Tのベクター上に結合した。結合生成物をコンピテントセルに形質転換し、コンピテントセルの調製および形質転換は、参考文献(Sambrook Jら1989)に基づいた[20]。関連する参考文献(Sambrook Jら1989)に基づきプラスミドDNAの小量抽出を行い、抽出後のプラスミドはBamH IおよびHind III 二重制限酵素切断を用いて組換えプラスミドの同定を行い、制限酵素切断反応の終了後にアガロースゲル電気泳動同定を行い、正確なクローンでプラスミドの大量抽出を行った。クローンのcDNA配列を同定するため、組換えプラスミドに対して純化を行い、BcaBEST primer RV−MおよびBcaBEST primer M13−47を用いてmzp3 cDNAのPE377全自動シーケンサーで双方向DNAシークエンシングを行い、得られた配列を、PE社SeqEd v1.0.3ソフトウェアで分析した。
1.3 真核細胞発現ベクターの構築および組換えプラスミドのBHK21細胞における一過性発現
【0059】
前記EcoR IおよびXho I二重制限酵素切断を経て、同様に制限酵素切断した真核細胞発現ベクターpcDNA3に結合し、前記ベクターをpcDmzp3と命名し、正確な組換えプラスミドの配列同定を経て、真核トランスフェクション試験を行った。具体的なトランスフェクション方法は、lipofectamineの製品取扱説明書を参照した。リポソームトランスフェクション法でpcDmzp3をBHK21細胞にトランスフェクションした。具体的な操作ステップは取扱説明書のとおりである。細胞をトランスフェクションしてから48時間後に細胞を収集し、全RNAを抽出して、MZP3 P1およびMZP3 P2をプライマーとしてRT−PCR法を用いて標的遺伝子の発現を測定した。
1.4 原核細胞発現ベクターの構築、タンパク質発現およびタンパク質純化
【0060】
組換えプラスミドpMD 18−T/MZP3は、EcoR IおよびXho I二重制限酵素切断を経て、同様に制限酵素切断した真核細胞発現ベクターpGEX−4T−1に結合し、正確な組換えプラスミドの配列同定を経て、タンパク質発現を行った。シングルのコロニーを選び、新鮮なLB(Amp+50mg/L)培地に接種し、37℃で培養し1晩置いた。翌日、1%の接種量を新鮮なLB(Amp+50mg/L)培地に移植した。A600が0.6〜0.8に達したときに、1.0 mmol/L IPTGの誘導下、37℃で5時間発現した。菌液1mLを抽出し、遠心分離して菌体を収集してから、二重蒸留水で1回洗い、1×SDS試料添加液の中に懸濁し、沸騰水浴中に入れ10分間煮沸した。12000gで2分間遠心分離し、上清液15μLを抽出し、100 g/L SDS−PAGEを行い、クマシーブルーで染色した。
【0061】
誘導後のE.coli BL21(DE3)菌体を遠心分離して収集し、PBSで洗浄した後、原培養体積の1/20の細胞溶解液L1(10 mmol/L Tris−HC1(pH 8.0)、1 mmol/L EDTAおよび200 mmol/L NaCl)で細胞を再懸濁して沈殿させ、15分間氷浴した後、菌液に粘性がなくなるまで細胞を超音波溶解した。その後、4℃、12000gで10分間遠心分離して上清を除去し、沈殿して得られた最初に調製されたMZP3封入体タンパク質を収集した。最初に調製された封入体タンパク質を、L1および4M尿素で洗浄し、70℃で10分間保温し、4℃、12000gで5分間遠心分離し、3回繰り返した。L3(10 mmol/L Tris−HC1、1 mmol/L NaCl、8M 尿素、5 mmol/L β−メルカプトエタノールおよび5 mmol/L DTT,pH10)で封入体タンパク質を溶解し、55℃で10分間保温し、4℃、12000gで5分間遠心分離し、沈殿を除去した。上清を透析チューブに入れ、4M尿素を含むL2(10 mmol/L Tris−HC1(pH 8.0)および1 mmol/L NaCl)の中で8時間透析した。その後、2M尿素を含むL2の中で8時間透析し、尿素がタンパク質溶液の中から除去されるまで尿素の濃度を徐々に逓減し、Bradfordを用いてタンパク質含量を測定した。
1.5 卵巣炎モデルの誘導
【0062】
6〜8週齢,雌性,C57BL/6マウスは、中国医科科学院実験動物研究所から購入した。濃度2mg/mlのタンパク質をフロイント完全アジュバント(CFA:Complete Freund’s Adjuvant)と1:1で混合し、乳化が完了した後、各マウスを足底および筋肉注射で100μl免疫し、各マウスを100μgタンパクで免疫した。CFAのみを注射したマウスを対照とした。14日後に採血し、血清を収集し、対応する抗体価を間接ELISA法で測定した。純化したGST−MZP3融合タンパク質を標準抗原とし、ELISA法で血清中のMZP3タンパク質の特異性抗体レベルを測定した。タンパク質を5μg/mlに希釈し、96ウェルELISAプレートは100μl/ウェルでコーティングし、4℃で1晩置いた。コーティングバッファーを棄て、PBSTで3回洗浄し、5%脱脂粉乳−PBSTは37℃で1時間遮断した。プレートの洗浄後、異なる希釈度のマウス血清を添加し、37℃で2時間インキュベートした。1:1000西洋わさびペルオキシダーゼヤギ抗ネズミ二次抗体(HRP−IgG)を添加し、50μl/ウェル、37℃で2時間インキュベートした後に棄てた。プレートを洗浄し、50μl/ウェルTMBを添加し、常温で光を避けて30分間呈色反応した。2mol/L硫酸で反応を停止し、ELISAリーダーでOD450/650の値を測定した。卵巣疾患の組織学的評価:卵巣は、ブアン固定液の中で24時間固定し、パラフィン包埋を行った後、連続切片(5μm)し、H.E.(Hematoxylin and eosin)染色を行った。重篤の程度に基づき、卵巣病理学について等級分けした。1 間質領域に炎症が現れた。2および3 増加した複数の部位の炎症反応または卵胞の間および内部の肉芽腫。4 卵胞消失および卵胞閉鎖。抗原特異性リンパ球増殖反応:免疫後14日目にマウスを処分し、無菌で足の湾曲箇所のリンパ節を摘出し、リンパ節を磨砕し、2000rpmで5分間遠心分離した後、上清を棄て、培地で細胞を再懸濁した。血球計数板で計数した後、細胞濃度を1×107/mLに調整した。細胞2×107個をとり、2000rpmで5分間遠心分離した後、上清を棄て、無菌PBSを用いて再懸濁し、CFSE(1mol/ml)1.5μlを添加し、37℃で10分間軽く振り、等体積のウシ血清を添加し反応を停止させる。2000rpmで5分間遠心分離した後、上清を棄て、PBSを用いて3回洗浄し、最後に1mlの培地で細胞を再懸濁した。各ウェルに100μl細胞を添加し、MZP3(10μg/ml)タンパク質でT細胞増殖を刺激し、BSA(2μg/ml)を非特異性抗原対照とし、ConA(10μg/ml)を陽性対照とし、フローサイトメトリーで増殖状況を検査した。細胞内染色法を採用してサイトカインIL−12およびINF−γを測定した。免疫後14日目にマウスを処分し、無菌で脾臓を摘出し、脾臓組織を磨砕し、2000rpmで5分間遠心分離した後、上清を棄て、赤血球溶解液1〜2mLで細胞を2〜3分間処理し、4%血清を含むRPMI 1640培地6〜12mLを加えて停止し、2000rpmで、5分間遠心分離した後、上清を棄て、培地で細胞を再懸濁した。血球計数板で計数した後、細胞濃度を2×106/mLに調整した。リンパ節単細胞浮遊液の調製は前記と同じであり、各ウェルに細胞2×106個(100μl)を添加し、10μg/mlのMZP3タンパク質で4〜6時間刺激し、モネンシン(monencin)を添加して1〜2時間抑制した。その後、細胞内染色を行い、フローサイトメトリーでサイトカインの発現状況を測定した。具体的なプロセスは次のとおり。(1)マウスを免疫後21日目に処分し、脾臓単細胞浮遊液を調製し、赤血球溶解液2mLを添加して赤血球を溶解し、洗浄液で1回洗浄し、細胞を遠心分離して再懸濁し、計数した。(2)抗Fcg抗体遮断:各群で細胞を1×106個取り、抗Fcg抗体を適量添加し(用量は試薬の取扱説明書を参照)、30分間遮断した。(3)洗浄液2〜3mlを添加し、2000rpmで5分間遠心分離し、上清を棄て、各管に蛍光標識抗体を適量添加し、充分に混ぜ、4℃で光を避けて30分間反応した。(4)洗浄液2〜3mlを添加し、2000rpmで5分間遠心分離し、上清を棄て、膜透過剤0.2mlを添加して細胞に穴をあけ、充分に混ぜ、常温で光を避けて15分間反応した。(6)洗浄液2〜3mlを添加し、充分に混ぜ、2000rpmで5分間遠心分離し、上清を棄て、各管に細胞内標識の蛍光標識モノクローナル抗体を適量添加し(用量は試薬の取扱説明書を参照して取る)、細胞内分析物の標識とした。(7)細胞内染色抗体と細胞を充分に混ぜ、常温で光を避けて30分間反応した。(8)洗浄液2〜3mlを添加し、充分に混ぜ、500×gで5分間遠心分離し、上清を棄て、各管に洗浄液300μlを添加し、細胞を再懸濁した。(9)フローサイトメトリー分析。RT−PCR法を採用してサイトカインIL−2を測定した。TRIZOL Reagent(Gibco)の取扱説明書に基づき、各群で細胞を107個取り、TRIZOL Reagent 1mlで溶解した後、クロロホルム200μlを加え、均一に混ぜた後、12000r/分で、4℃で15分間遠心分離した。上層の水相を取り、新しいEP管に移した。イソプロパノール500μlを加え、均一に混ぜた後、常温で10分間静置した。12000r/分、4℃で10分間遠心分離し、上清を棄て、RNAを沈殿させ、75%のエタノールで洗浄した後、DEPC処理した超純水20μlに溶かし、−80℃で保存した。RNA試料1μlを取り、超純水599μlを加え、紫外線分光光度計で比色し、A260およびA280のCD値を読み取った。試薬キットの操作説明に基づき、RT−PCRを行い、増幅後の生成物を1%アガロースゲル電気泳動で測定した。
1.6 共免疫による卵巣炎の治療
【0063】
濃度2mg/mlのタンパク質をCFAと1:1で混合し、乳化が完了した後、各マウスを足底および筋肉注射で100μl免疫し、14日後に筋肉注射を介してpcDmzp3+MZP3を各100μgタンパクで免疫し、pcDNA3、pcDNA3+MZP3、pcDmzp3、pcDmzp3+OVAおよびMZP3を免疫して対照群とした。14日後に強化免疫し、強化免疫の1週間後に、無菌でマウスの脾臓細胞を取り、MIT法を介してT細胞増幅試験を行った。MZP3タンパク質抗原でT細胞増幅を刺激し、BSAを非特異性抗原対照とし、ConAを陽性対照とした。具体的なプロセスは次のとおり。MTT法でマウスのT細胞体外増殖活性を測定する。(1)脾臓を摘出:強化免疫の7日後にマウスを処分し、無菌で脾臓を摘出した。(2)単細胞浮遊液の調製:脾臓組織を磨砕し、2000rpmで5分間遠心分離した後、上清を棄て、赤血球溶解液1〜2mLで細胞を2〜3分間処理し、4%血清を含むRPMI 1640培地6〜12mLを加えて停止し、2000rpmで、5分間遠心分離した後、上清を棄て、培地で細胞を再懸濁した。(3)細胞計数:血球計数板で計数した後、細胞濃度を3×106/mLに調整した。(4)細胞プレートに添加:各ウェルに細胞100μlを添加し、ConA(最終濃度10μg/ml)、MZP3タンパク質(最終濃度10μg/ml)、BSA(非特異性抗原,最終濃度2μg/ml)をそれぞれ添加し、48〜72時間刺激した。(5)呈色:各ウェルにMTT溶液20μlを添加し、37℃、5%CO2で3〜4時間培養し、2000rpmで、5分間遠心分離し、上清を棄て、各ウェルにジメチルスルホキシド100μlを加え、37℃で20〜30分間軽く振った。(6)数値読み取り:ELISAリーダー(Magellan,Tecan Austria GmbH)で595nmのOD値を測定した。(7)結果の計算:刺激指数
SI=(各刺激ウェルのOD値−培地のOD値)/(刺激していないウェルのOD値−培地のOD値)。
【0064】
リンパ球増幅試験:無菌条件下でマウスの足の湾曲箇所のリンパ節を摘出し、リンパ節を磨砕し、2000rpmで5分間遠心分離した後、上清を棄て、培地で細胞を再懸濁し、単細胞浮遊液を調製した。細胞濃度を3×106/mLに調整した。その他のプロセスは前記と同じとする。
【0065】
サイトカインIL−2、IL−12、INF−γ、IL−10、FoxP3およびCD25の検査および卵巣炎の評価は、前記と同じとする。
2.結果
2.1 遺伝子クローンおよび配列分析
【0066】
抽出した全RNAを採用し、オリゴデオキシチミンをプライマーとして逆転写を行い、単鎖cDNAを得てから、設計したPCRプライマーで増幅を行い、MZP3遺伝子断片を得た。RT−PCR生成物を1%アガロースゲル電気泳動で同定し、約1200bpのバンドが見られ、予測したものと一致した。RT−PCR生成物をクローンベクターpMD18−Tと結合し、組換えプラスミドpMD18−T/MZP3を作製した。組換えプラスミドはBam H I およびHind III で酵素切断し、1200bpのDNA断片で切断し、予想した結合断片と大きさが同じ。pMD18−T/MZP3組換えプラスミドに対して、BcaBESTprimer RV2MおよびBcaBESTprimer M13247で双方向シークエンシングを行った。シークエンシングの結果、すでに発表されている配列との同源性が99%であることが示された。DNAMANでマーモセット、ヒト、サル、イヌ、ネコ、ブタ、およびウシのMZP3遺伝子について同源性分析を行い、相同性は73%に達し(図6a)、アミノ酸配列の相同性は71%に達した(図6b)。
2.2 真核細胞発現ベクターの構築および組換えプラスミドのBHK21細胞における一過性発現
【0067】
組換えプラスミドpMD18−T/MZP3および真核細胞発現ベクターpcDNA3を、EcoR IおよびXho Iで二重制限酵素切断し、回収し純化した後で、結合した。MZP3遺伝子クローンを真核細胞発現ベクターpcDNA3の中に入れ、組換えベクターpcDmzp3を得た。組換えプラスミドをEcoR IおよびXho Iで二重制限酵素切断し、0.7%アガロースゲル電気泳動を経て約1200bpの箇所にバンドを示し(図7のうちa)、組換えプラスミドpcDmzp3の作製に成功したことを説明している。純化し、定量されたプラスミドをリポソームで成長状態が良好なBHK21細胞にトランスフェクションし、72時間細胞を収集した。MZP3plおよびMZP3p2をプライマーとしてRT−PCR法で標的遺伝子の発現状況を測定し、1200bpの箇所に図7のうちbに示す対応するバンドが現れ、組換えベクターがmRNAレベルで有効に体外で発現可能であることを示した。
2.3 原核細胞発現ベクターの構築、タンパク質発現およびタンパク質純化
【0068】
組換えプラスミドpMD18−T/MZP3および真核細胞発現ベクターpGEX4T−1を、EcoR IおよびXho Iで二重制限酵素切断し、回収し純化した後、結合した。MZP3遺伝子クローンを真核細胞発現ベクターpGEX4T−1の中に入れ、組換えベクターpGEX4T−1/MZP3を得た。組換えプラスミドをEcoR IおよびXho Iで二重制限酵素切断し、0.7%アガロースゲル電気泳動を経て約1200bpの箇所にバンドを示し(図8のうちa)、組換えプラスミドpGEX4T−1/MZP3の作製に成功したことを説明している。純化し、定量されたプラスミドがコンピテントセルE.Coli BL21(DE3)に形質転換し、作製されたE.Coli BL21(DE3)/MZP3形質転換体を新鮮なLB培地の中で培養し、IPTGで誘導した後、形質転換菌を収集した。その全菌体タンパク質を抽出し、SDS−PAGEを行った。タンパク質電気泳動の結果、MP3遺伝子はE.Coli BL21(DE3)の中で大量の発現が得られることが示された(図8のうちb)。発現を誘導した後の菌体を収集し、超音波で溶菌処理を行った。SDS−PAGEの結果、発現を誘導したタンパク質のバンドに細菌溶解物の沈殿が存在することが示され、タンパク質が封入体の方式で発現したものであることを説明している。本実施例は封入体を純化する方法を用いて、タンパク質を溶解、洗浄、復元し、純度が比較的高いタンパク質を得た(図8のうちc)。
2.4 自己免疫疾患−卵巣炎の誘導
【0069】
前記の純化したMZP3タンパク質の濃度を2mg/mlに調整し、等体積のフロイント完全アジュバント(CFA)と完全に乳化させ、足底および筋肉注射の方法で8〜10週齢の雌性C57BL/6マウスを免疫した。各マウス100μlとし、フロイント完全アジュバント(CFA)100μlを注射したマウスをアジュバント対照群とし、PBS100μlを注射したマウスを陰性対照群とした。14日後にマウスを処分し、卵巣を摘出し、ブアン固定液の中で24時間固定した後、パラフィンで包埋し、連続切片およびH.E.(Hematoxylin and eosin)染色を行った。その結果、MZP3タンパク質およびCFAを免疫したマウス8匹のうち、7匹に程度の異なる卵巣炎が現れ、罹患率は87.5%であった(図9a)。卵巣の間質、並びに成長中および成熟した卵胞の中で、いずれも炎症反応が認められた。卵胞は炎症細胞に浸潤され、卵子の喪失が重篤にもたらされた(図9b)。これに比べ、CFAのみを注射したマウスには卵巣炎が認められなかった。
【0070】
採集した血清について、抗MZP3の抗体をELISA法で測定した。14日間免疫した後、対照群と比較し、血清中にMZP3抗体が現れ、抗体価は25600に達した(図9c)。MZP3タンパク質およびCFAを免疫することによって、強烈なT細胞反応を引き起こし(図9d)、サイトカインIL−2(図10a)、INF−γ(図10b)およびIL−12(図10c)の発現レベルが向上した。このことは、ThI型の免疫反応が活性化されたことを示している。これらの結果は、卵巣炎の誘導に成功し、この方法の治療効果の評価に用いることができることを示している。
2.5 MZP3 DNAおよびタンパク質の共免疫によりAODの発生の抑制
【0071】
作製したAODモデルを用いて、共免疫の方法により卵巣炎を治療する能力を測定した。C57BL/6マウスは、MZP3タンパク質およびCFAを足底および筋肉注射し、14日後に、MZP3タンパク質およびプラスミドpcDmzp3を筋肉免疫し、2週間後に強化免疫した。2回の免疫の7日後に、卵巣炎の罹患状況を検査した。その結果、プラスミドpcDmzp3およびMZP3タンパク質を同時免疫した(pcDmzp3+MZP3と命名)マウスにのみAODの抑制現象が現れることが認められた(図11a)。プラスミドのバックボーン配列または無関係なタンパク質など、非特異性因子の影響を排除するため、emptyプラスミドpcDNA3およびMZP3タンパク質共免疫(pcDNA3+MZP3と命名)、プラスミドpcDmzp3およびOVAタンパク質共免疫(pcDmzp3+OVAと命名)を免疫した群を対照とした。その結果、対照群にはAODの抑制現象は現れておらず、pcDmzp3+MZP3を同時免疫したマウスにしかAODの抑制を発生することができないことが説明され、こうした抑制は抗原特異性のものであることが説明された。組織学的分析によっても、pcDNA3+MZP3またはpcDmzp3+OVAを免疫したマウスの卵巣に炎症細胞浸潤が現れ、pcDmzp3+MZP3を免疫したマウスの卵巣には炎症細胞浸潤が現れないことが示された(図11b)。
【0072】
IL−2、IL−12およびINF−γの高レベルの発現は、ThI型CD4+T細胞反応の特徴であり、これらの免疫調節因子は、数種の自己免疫疾患において重要な作用を起こす[21-26]。pcDmzp3+MZP3を同時免疫したマウスのこれらのサイトカインの発現に変化が発生したか否かを測定した。pcDNA3+MZP3またはpcDmzp3+OVAを免疫したマウスのIL−12およびINF−γの発現は抑制されていないが、pcDmzp3+MZP3を免疫したマウスのIL−12(図11c)およびINF−γ(図11d)の発現は抑制されている。これは、pcDmzp3+MZP3を同時免疫したマウスに抗炎症免疫調節の機能が現れたことを暗示している。
【0073】
T細胞反応は、AODの発生に関与していると考えられているため、我々はマウスの脾臓から分離したT細胞を測定した。これらのマウスは、まずMZP3タンパク質およびCFAを免疫され、14日後にpcDNA3、pcDNA3+MZP3、pcDmzp3、pcDmzp3+MZP3、pcDmzp3+OVAおよびMZP3を免疫し、2週間後に強化免疫し、2回の免疫の7日後に脾臓を摘出した。これらのT細胞は、MZP3タンパク質抗原の反応能力の分析に用いられた。pcDmzp3+MZP3を免疫したマウスから分離されたT細胞は、基本的に増幅能力がないが、その他の群から分離されたT細胞は強力な増幅能力が示された(図11e)。これらの結果は、pcDmzp3+MZP3を同時免疫したものに現れたAOD抑制現象が、抗原特異性を有さないT細胞反応に関連していることを示している。さらに、pcDmzp3+MZP3を同時免疫したものに現れたAOD抑制現象は、炎症抑制因子の発現とT細胞反応発生の抑制によるものであることが説明される。総合すると、AODの抑制は抗原特異性のものであり、ミスマッチの組み合わせのためにpcDmzp3+MZP3の共免疫と同様の結果が発生していない。
【0074】
MPZ3自己抗体は、自己免疫炎症反応の分布ガイドの面で重要な作用を起こしており、自己免疫疾患の重篤の程度を増強することができる[13]。そのため、次に、共免疫によって、抗MZP3抗体の生成が抑制されているか否かを検査した。しかしながら、その結果、自己抗体の抗体価は、免疫群pcDmzp3+MZP3、pcDNA3+MZP3またはMZP3の間で同じであることが示された(図11f)。この結果は、以前の研究と一致しており、T細胞反応がなければ、抗体を移すだけでは、自己免疫性卵巣炎疾患を誘導できない。
2.6 定性共免疫誘導の調節性T細胞の特徴
【0075】
調節性T細胞は、T細胞反応を抑制し、自己免疫疾患の発生を阻止することができる。サイトカインIL−10およびFOXP3は、T細胞反応の抑制プロセスにおいて重要な作用を起こす[27-29]。共免疫誘導の調節性T細胞が特徴的なサイトカインおよびマーカーを発現できるか否かを検査するため、それぞれpcDNA3、pcDNA3+MZP3、pcDmzp3、pcDmzp3+MZP3、pcDmzp3+OVAおよびMZP3を免疫したマウスからT細胞を分離した。これらのサイトカインまたはマーカーは、特異性の蛍光標識の抗体を用いて細胞内染色を行い、フローサイトメトリーで分析した。pcDmzp3+MZP3から分離されたT細胞は、IL−10(図12a)およびFoxP3(図12b)を高レベルで発現することができたが、逆に、対照群は低レベルのIL−10およびFoxP3しか発現できなかった。転写因子FoxP3は、調節性T細胞の特徴的因子である[30,31]ため、共免疫が調節性T細胞を誘導可能であると推測した。この調節性T細胞がCD4+CD25+両陽性に属すものか否かを検査し、CD25の発現状況を測定し、各群の間でCD25の発現は基本的に同じであることと示される(図13)。
【0076】
以上のデータを総合すると、同じ遺伝子のDNAおよびタンパク質の共免疫を採用することによって、CD4+CD25−調節性T細胞を誘導できる可能性がある。このT細胞は、抗原特異性のT細胞反応を抑制することができ、自己免疫疾患の発生を阻止することができる。
研究
【0077】
本実施例においてMPZ3 DNAおよびタンパク質によって調節性T細胞を誘導することを研究し、この調節性T細胞は自己免疫疾患の卵巣炎の発生を抑制することができることを証明した。この調節性T細胞の発現型は、CD4+CD25Foxp3+であり、IL−10を発現し、抗原特異性T細胞反応を抑制し、サイトカインIL−12およびINF−γの発現を減少することができる。
【0078】
卵透明帯タンパク質は、哺乳動物において非常に保守的であり、マウスにおいてAODモデルを確立し、その他の動物、特にヒトの自己免疫疾患、卵巣炎の発病機序をよりよく理解することができる。15のアミノ酸のZPP3の短いペプチド(328〜342)およびCFAを足底および皮下注射することを介して、B6AF1マウス[(C57BL/6 X A/J)F1]上に自己免疫疾患の卵巣炎を誘導したが[12,13]、C57BL/6マウスに卵巣炎の発生はなかった。MZP3タンパク質およびCFAを足底および筋肉注射することを介して、疾患の重篤の程度は以前発表されたものに及ばなかったが[13]、本実施例においてC57BL/6マウスに卵巣炎モデルを確立することに成功した。以下の2つの原因によってこの差がもたらされたことが推測される。(1)使用したMZP3タンパク質は、さらに多くのT細胞エピトープを含み、これらの細胞エピトープがさらに強力なT細胞免疫反応を引き起こし、AODはT細胞反応が引き起こしたものである。(2)皮下注射を筋肉注射に変更したことと、さらに多くのB細胞エピトープの誘導により、さらに高レベルの自己免疫抗体が生成された。自己免疫抗体は、T細胞媒介の炎症反応の分布を変えることができ、炎症反応を重くする。
【0079】
天然の調節性T細胞CD4+CD25+は、T細胞反応を抑制し、自己免疫耐性を維持することができる。調節性T細胞を除去すると疾患の発生を引き起こす[32,33,34]ため、これらの細胞は、自己免疫疾患の発生の阻止において重要な役割を果たす。これらの特徴によって、調節性T細胞は潜在的な自己免疫疾患の治療手段となっている[30]。最近のいくつかの研究の結果、調節性T細胞は自己免疫疾患を確実に治療することができ、これらの調節性T細胞は抗原非特異性のものであっても[36-38]、抗原特異性のものであっても[18,39]よいことが示されている。以前、pcD−VP1および146S抗原を同時免疫しT細胞反応免疫抑制を誘導したことを発表した[19]。この研究において、当該方法を用いてAODを抑制し、MZP DNAおよびタンパク質を同時免疫した。抗原特異性のT細胞反応が抑制され、サイトカインIL−12およびINF−γの発現も抑制された。しかし、IL−10およびFoxP3の発現レベルは上昇したため、抗原特異性の調節性T細胞を誘導した可能性があると推測された。CD25の染色の結果、誘導されたこの調節性T細胞はCD25−である可能性があることが示された。そのため、同時免疫によって抗原特異性の免疫抑制が誘導され、この免疫抑制はCD4+CD25−FoxP3+IL10+調節性T細胞媒介であるとの結論が得られた。
【0080】
総合すると、自己免疫疾患を改善する新しい方法が証明される。新しい調節性T細胞は、抗原特異性のT細胞免疫抑制によって誘導され媒介された可能性がある。そのため、関連する機序をさらに研究することによって、ヒトと動物の自己免疫疾患の治療について、新しい方法を開発できる可能性がある。
【0081】
この実施例における参考文献の出所は次のとおりである。
1 鄒邵林、郭聡、劉新平「洞庭湖地区中州の環境の変化の東側のノネズミの爆発的増加に対する影響」[J]『自然災害報』,第9巻2期2000年5月118−122。
2 包維楷ら「生態回復再建研究と発展の現状および存在する主な課題」[J]『世界科学技術の研究と発展』第23巻1期44−48。
【表1】

【表2】

【表3】

【表4】

【実施例4】
【0082】
共免疫の方法を採用して多発性硬化症を治療/予防する
【0083】
多発性硬化症(multiple sclerosis,MS)は、中枢神経系の炎症性脱髄疾患の代表であり、自己免疫疾患に属する。MSの研究で最もよく見られる動物モデルは「実験的アレルギー性脳脊髄炎」(experimental allergic encephalomyelitis,EAE)と呼ばれる。動物のEAEの臨床症状および病変は多発性硬化症に極めて相似しているため、EAE動物モデルの確立に成功することは、EAE研究の前提条件である。
【0084】
本試験の主題の目的は、併用免疫によって引き起こされる免疫抑制に基づき、マウスのEAEモデルに基づきEAEの治療または発生の予防を行い、研究プロセスにおいて、MS発病の関連免疫機序をさらに研究することである。
【0085】
多発性硬化症(multiple sclerosis,MS)の自己タンパク質抗原には、ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(MOG)と2種のミエリン抗原(MBPおよびPLPプロテオリピドタンパク質)がある。
【0086】
これまでの試験の結果は、EAEマウスモデルの誘導および関連MOG遺伝子DNAの作製に限り、さらなる展開を見せておらず、初歩的な結果は下記のとおりである。
1、MOG35−55 2コピーの遺伝子のクローンと発現
1.1 材料と試薬
【0087】
pMD18−Tシークエンシングベクターはタカラ社から購入し、大腸菌DH5α菌株は、我々の試験所の貯蔵菌種である。PCR生成物回収試薬キット、DNAマーカー、制限性エンドヌクレアーゼ、exTaq酵素およびRT−PCRとPCRプライマーは、いずれもタカラ社から購入した。シークエンシング試薬キットは、米PE社から購入し、その他の試薬はいずれも分析用とする。
1.2 方法
1.2.1 MOG35−55遺伝子のクローン
【0088】
動物のEAEモデルの誘導でよく用いられる自己抗原はMOG(Myelin Oligodendrocyte Glycoprotein)の35−55個のアミノ酸(アミノ酸配列は、MEVGWYRSPFSRVVHLYRNGK)であり、そのDNA配列は
【化4】

である。
【0089】
遺伝子配列に基づき、プライマーおよびDNA断片を設計して合成し、Overlap PCR法で2コピーのMOG35−55のプラスミドDNAを作製した。
【0090】
Overlap DNA断片の設計:
【化5】

プライマーの設計:
【化6】

【0091】
PCR反応は設計したDNAおよびプライマーを用い、増幅パラメータは、94℃2分間;94℃30秒間、60℃40秒間、72℃35秒間、35サイクル;72℃10分間とし、反応生成物にアガロースゲル電気泳動測定を行った。タカラ社PCR Fragment Recovery Kitの取扱説明書に基づきPCR生成物の回収を行った。回収したMOG35−55 2コピーの断片とpMD 18−Tベクターは、T4 DNAリガーゼの作用下16℃で1晩置き、pMD 18−Tのベクター上に結合した。作製したプラスミドをT−MOG352cと命名した。結合生成物をDH5α菌株のコンピテントセルに形質転換した。プラスミドを小量抽出し、EcoRI IおよびHind III 二重制限酵素切断を用いて組換えプラスミドの同定を行い、制限酵素切断反応の終了後にアガロースゲル電気泳動同定を行った。クローンのDNA配列を同定するため、組換えプラスミドに対して純化を行い、さらに配列分析した後、DNAMANソフトウェアで結果を分析した。
1.2.1 真核細胞発現ベクターの構築および組換えプラスミドのBHK21細胞における一過性発現
【0092】
配列分析が正確なプラスミドを、BamH IおよびHind III 二重制限酵素切断を経て、同様に制限酵素切断した真核発現ベクターpVAX1に結合し、前記ベクターをpVAXMOG352cと命名し、正確な組換えプラスミドの配列同定を経て、真核トランスフェクション試験を行った。具体的なトランスフェクション方法は、lipofectamineの製品取扱説明書を参照した。リポソームトランスフェクション法でpVAXMOG352cをBHK21細胞にトランスフェクションした。細胞をトランスフェクションしてから48時間後に細胞を収集し、全RNAを抽出して、MOG35 P1およびMOG35 P2をプライマーとしてRT−PCR法を用いて標的遺伝子の発現を測定した。
1.3 試験結果
【0093】
プラスミドT−MOG352cの制限酵素切断同定の結果は、図14に示すとおり。プラスミドpVAXMOG352cの制限酵素切断同定の結果は、図15に示すとおり。プラスミドpVAXMOG352cのBHK21細胞における一過性発現の結果は、図16に示すとおり。
2、EAE動物モデルの誘導および同定
2.1 直接免疫の方法:
【0094】
C57BL/6マウスは、フロイント完全アジュバントを用いて充分乳化した短いペプチドMOG35−55 200μg(1μg/μl,200μl,かつ結核菌BCG 750μgを含む)を背部に皮下免疫したとともに、免疫の0、2日後に百日咳菌(108-109個)を尾静脈注射し、7日後に1回MOG 200μgを強化免疫した。
評価基準:
0−いかなる臨床症状もない。
1−動物の尾部の脱力、麻痺
2−動物の尾部の脱力、前肢または後肢の中等度の脱力。
3−前肢または後肢の重篤な脱力、人為的に仰臥位にした後に元に戻ることができない
4−肢体の麻痺、人為的に仰臥位にした後に元に戻ることができない
5−瀕死状態。
【0095】
結果は図17のとおり(色の違いはマウスの固体の違いを表す):40日後の比較的重篤な罹患率(罹患指数>2)は70%に達した。
☆最後に免疫したロット(20匹)は、最初の免疫の後5週間で4まで罹患したものが4匹いた。
2.2 罹患したマウスのT細胞誘導モデルの養子移入
【0096】
図18は、陰性マウスに、罹患したマウスの脾臓由来のT細胞を養子移入した後、CFAアジュバント乳化したMOG抗原200μgを1回皮下免疫したものである。
【0097】
図19は、陰性マウスに、罹患したマウスのリンパ節由来のT細胞を養子移入した後、CFAアジュバント乳化したMOG抗原200μgを1回皮下免疫したものである。
【0098】
結論:リンパ節由来のT細胞を養子移入したものは、脾臓由来のT細胞のマウスに比べ罹患が早く、症状の変化が安定していた。しかしながら、脾臓T細胞を移入したマウスの罹患指数の方が高かった。
2.3 罹患したマウスの生理指標の測定
【0099】
図20は、マウスの発病を誘導した後の自己MOG抗原に対するT細胞の増幅状況である。
【0100】
結論:罹患したマウスの末梢免疫器官には、自己抗原MOGに対する強烈なT細胞増殖反応が認められた。
【0101】
図21は、マウスの発病を誘導した後の自己MOG抗原に対するT細胞内部のサイトカインを発現した状況である。
3、EAEマウスの併用免疫治療
3.1 起案
【0102】
2.1の方法に基づき、C57マウスを用いてEAEモデルを誘導し、すべてのマウスの臨床指数が3以上のレベルに達するまで臨床症状を記録した。罹患したマウスは次のとおり割付け、それぞれ免疫を行った。免疫方法は筋肉注射とした。
1、MOG35−55ペプチドl00μl(フロイント完全アジュバントと1:1で混合し、濃度1μg/μlまで完全に乳化させる)
2、pVAXMOG352cプラスミドDNAl00μl(濃度1μg/μl)
3、pVAXMOG352cMOG35−55ペプチド+pVAXMOG352cそれぞれl00μl(濃度は同上)
4、pVAXMOG352cMOG35−55ペプチド+pVAX−insulinそれぞれl00μl(濃度は同上)
5、不治療群
【0103】
14日後に1回強化免疫した。
【0104】
1回目の治療免疫から臨床発病症状を観察して記録し、採点した。強化免疫の7日後に、無菌で各試験群のマウスの脾臓を摘出し、MTT法でT細胞増幅試験を行った。同時にマウスの大脳、小脳、脊髄を抽出し、4%パラホルムアルデヒドで組織を固定し、組織切片の作製を行い、病変の状況を顕微鏡による検査した。
【0105】
IL−1、IL−2、INF−γ、IL−4、IL−10、FoxP3、IL−17、TGFなどのサイトカインの測定:脾臓細胞サイトカインの発現状況および脳脊髄液におけるサイトカインの発現状況の2種類に分けた。
【0106】
本試験に引き続いて行なわれるべき試験は、動物モデルにおいて、健全な基礎の上で免疫学的試験を行い、共免疫の応用を検証することである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自己免疫疾患を予防および/または治療するワクチンであって、有効成分が、自己免疫疾患をもたらすタンパク質抗原またはそのエピトープポリペプチドと、自己タンパク質抗原またはそのエピトープポリペプチドのコード遺伝子がマルチクローニング部位に挿入された組換え真核細胞発現ベクターとからなる混合物であり、前記自己タンパク質抗原が、インスリン、グルタミン酸脱炭酸酵素、熱ショックタンパク質、ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質、2種のミエリン抗原、卵透明帯タンパク質3、ミオグロブリン、II型コラーゲン、サイログロブリン、細胞膜表面抗原、II型コロイド抗原、アセチルコリン受容体、甲状腺細胞表面抗原、唾液腺導管タンパク質、サイログロブリン、スーパー抗原または光受容体間レチノイド結合タンパク質である、自己免疫疾患を予防および/または治療するワクチン。
【請求項2】
前記自己免疫疾患を予防および/または治療するワクチンが、I型糖尿病を予防および/または治療するワクチンであり、前記I型糖尿病を予防および/または治療するワクチンの有効成分が、
1)I型糖尿病自己タンパク質抗原と、前記I型糖尿病自己タンパク質抗原のコード遺伝子がマルチクローニング部位に挿入された組換え真核細胞発現ベクターとからなる混合物、
2)I型糖尿病自己タンパク質抗原エピトープポリペプチドと、前記I型糖尿病自己タンパク質抗原エピトープポリペプチドのコード遺伝子がマルチクローニング部位に挿入された組換え真核細胞発現ベクターとからなる混合物、
3)I型糖尿病自己タンパク質抗原と、前記I型糖尿病自己タンパク質抗原エピトープポリペプチドのコード遺伝子がマルチクローニング部位に挿入された組換え真核細胞発現ベクターとからなる混合物、
4)I型糖尿病自己タンパク質抗原エピトープポリペプチドと、前記I型糖尿病自己タンパク質抗原のコード遺伝子がマルチクローニング部位に挿入された組換え真核細胞発現ベクターとからなる混合物、
であり、
前記I型糖尿病自己タンパク質抗原がインスリン、グルタミン酸脱炭酸酵素(GAD)、又は熱ショックタンパク質であること、
を特徴とする請求項1に記載のワクチン。
【請求項3】
前記インスリンがヒト、イヌまたはネコ由来のものであり、前記グルタミン酸脱炭酸酵素がヒト、イヌまたはネコ由来のものであり、前記熱ショックタンパク質がヒト、イヌまたはネコ由来のものであることを特徴とする請求項2に記載のワクチン。
【請求項4】
前記I型糖尿病自己タンパク質抗原がヒトインスリンであることを特徴とする請求項3に記載のワクチン。
【請求項5】
前記I型糖尿病自己タンパク質抗原エピトープポリペプチドのアミノ酸配列が、配列表における配列1であることを特徴とする請求項3に記載のワクチン。
【請求項6】
前記I型糖尿病自己タンパク質抗原のコード遺伝子または前記I型糖尿病自己タンパク質抗原エピトープポリペプチドのコード遺伝子の挿入に用いる真核細胞発現ベクターが、哺乳動物の細胞発現ベクターであることを特徴とする請求項2に記載のワクチン。
【請求項7】
前記哺乳動物の細胞発現ベクターが、pcDNA3.0またはpVAX1またはprovaxであることを特徴とする請求項6に記載のワクチン。
【請求項8】
前記I型糖尿病を予防および/または治療するワクチンの有効成分が、ヒトインスリンタンパク質およびpVAX−insulinであることを特徴とする請求項7に記載のワクチン。
【請求項9】
前記I型糖尿病を予防および/または治療するワクチンの有効成分が、B9−23およびpcDB9−23であることを特徴とする請求項7に記載のワクチン。
【請求項10】
1)前記I型糖尿病自己タンパク質抗原と、前記I型糖尿病自己タンパク質抗原のコード遺伝子がマルチクローニング部位に挿入された組換え真核細胞発現ベクターとの質量比が1:5〜5:1であり、好ましくは1:1〜1:2であり、
2)前記I型糖尿病自己タンパク質抗原エピトープポリペプチドと、前記I型糖尿病自己タンパク質抗原エピトープポリペプチドのコード遺伝子がマルチクローニング部位に挿入された組換え真核細胞発現ベクターとの質量比が1:5〜5:1であり、好ましくは1:1〜1:2であり、
3)前記I型糖尿病自己タンパク質抗原と、前記I型糖尿病自己タンパク質抗原エピトープポリペプチドのコード遺伝子がマルチクローニング部位に挿入された組換え真核細胞発現ベクターとの質量比が1:5〜5:1であり、好ましくは1:1〜1:2であり、
4)前記I型糖尿病自己タンパク質抗原エピトープポリペプチドと、前記I型糖尿病自己タンパク質抗原のコード遺伝子がマルチクローニング部位に挿入された組換え真核細胞発現ベクターとの質量比が1:5〜5:1であり、好ましくは1:1〜1:2であることを特徴とする請求項2に記載のワクチン。

【図1a】
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【図1b】
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【図1c】
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【図2a】
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【図2b】
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【図3a】
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【図3b】
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【図3c】
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【図4】
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【図5】
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【図6a】
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【図6b】
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【図7】
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【図8】
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【図9a】
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【図9b】
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【図9c】
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【図9d】
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【図10a】
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【図10b】
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【図10c】
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【図11a】
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【図11b】
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【図11c】
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【図11d】
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【図11e】
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【図11f】
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【図12a】
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【図12b】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公表番号】特表2010−522220(P2010−522220A)
【公表日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−500051(P2010−500051)
【出願日】平成20年3月19日(2008.3.19)
【国際出願番号】PCT/CN2008/000540
【国際公開番号】WO2008/116380
【国際公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【出願人】(508189234)チャイナ アグリカルチュラル ユニバーシティ (2)
【Fターム(参考)】