説明

自己免疫疾患予防・治療剤および食品

【課題】マツタケ(Tricholoma matsutake)を利用して、安全で、長期間投与・摂取可能な、自己免疫疾患(例えば全身性エリテマトーテス、多発性硬化症、等)の予防・治療剤および食品を提供する。
【解決手段】マツタケ(Tricholoma matsutake)、特にはマツタケFERM BP−7304株、の菌糸体、培養物(Broth)または子実体(胞子を含む)のいずれかをそのまま、あるいはその乾燥物、あるいはそれらの抽出物(例えば熱水抽出液、アルカリ溶液抽出液)を含有する、自己免疫疾患予防・治療剤および食品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動物やヒトにおける自己免疫疾患の予防・治療のための薬剤および食品に関する。本発明の薬剤および食品は、医薬品として投与することができるだけでなく、種々の形態、例えば、保健機能食品(特定保健用食品、栄養機能食品)やいわゆる健康食品(いずれも飲料を含む)、または飼料として飲食物の形で与えることも可能である。さらには、口中に一時的に含むものの、そのほとんどを口中より吐き出す形態、例えば、歯磨き剤、洗口剤、チューインガム、うがい剤などの形で与えることも、あるいは鼻から吸引させる吸入剤の形で与えることも可能である。
【背景技術】
【0002】
自己免疫疾患は、自己の細胞や臓器を免疫系が過剰に攻撃することで症状を来たす難治性疾患である。本疾患の国内患者数は10万人以上と推定されており、今後、さらなる増加が見込まれている。本症は、発症部位により、特定の臓器に発症するものと、発症が全身に及ぶものとに分類される。特定の臓器に発症するものとしては、赤血球が傷害される自己免疫性溶血性貧血、甲状腺が障害される橋本病、副腎皮質機能低下をきたすアジソン病などが挙げられる。発症が全身に及ぶものとしては、全身性エリテマトーテス(SLE;Systemic Lupus Erythematosus)、皮膚筋炎、慢性関節リウマチなどが代表例として挙げられる。症状からみた場合、はっきりとした重篤なものから、なんとなく疲れやすく食欲がない程度のものなど、多様である。例えばSLEでは、関節だけでなく腎臓や皮膚、時には肺にも障害がでて、幅広い臓器が同時に冒される。いったん発症すると、寛解と再燃を繰り返して慢性の経過をたどり、日常生活に大きな影響を及ぼす。
【0003】
自己免疫疾患の発症原因は複雑である。一般に、遺伝的素因をもつヒトにウイルス感染や紫外線照射、薬剤投与などの外的要因や、ホルモンなどの内分泌系が複雑に関与して、免疫機構が正常に作動しなくなり、その結果、T細胞機能異常とB細胞の活性化が起こり、多彩な自己抗体が大量に生成して免疫複合体を形成し、それが組織に沈着し、組織障害が起こると考えられている。
【0004】
全身性エリテマトーテス(SLE)を初めとする多くの自己免疫疾患の治療はステロイド療法(ステロイド剤投与)が中心であり、活動性の高い病期にはステロイド・パルス療法が適用され、ステロイド剤だけでは反応しない症例にはシクロホスファミド(Cyclophosphamide)などの免疫抑制剤が用いられる。ステロイド剤投与は病気の活動性を抑えるが、維持量を長期に使わなければならないため、感染症や骨粗鬆症など、様々な副作用が起こる。したがって、より効果的で安全に使用できる薬剤や機能性食品、ステロイド剤の副作用を軽減する薬剤(方法)が求められている。
【0005】
ところで、きのこ類は多用な生物活性を有することから、古くから日本人の健康に寄与してきた。例えばマツタケ〔Tricholoma matsutake(S. Ito & Imai)Sing.〕については、特公昭57−1230号公報(特許文献1)に、マツタケ菌糸体の液体培養物を熱水または希アルカリ溶液で抽出して得られる抽出液から分離精製されたエミタニン−5−A、エミタニン−5−B、エミタニン−5−C、およびエミタニン−5−Dに、サルコーマ180細胞の増殖阻止作用があることが開示され、特許第2767521号公報(特許文献2)には、マツタケ子実体の水抽出物から分離精製された分子量20〜21万のタンパク質(サブユニットの分子量10〜11万)が抗腫瘍活性を有することが開示されている。
【0006】
さらに、本発明者らにより、マツタケ熱水抽出液、マツタケアルカリ溶液抽出液、あるいはこれら抽出液の陰イオン交換樹脂吸着画分が免疫増強活性を有することが見出されている(国際公開第01/49308号パンフレット(特許文献3))。本発明者らはまた、マツタケの特定の菌糸体由来の部分精製画分にストレス負荷回復促進作用があることも見出した(特開2003−050227号公報(特許文献4))。
【0007】
【特許文献1】特公昭57−1230号公報
【特許文献2】特許第2767521号公報
【特許文献3】国際公開第01/49308号パンフレット
【特許文献4】特開2003−050227号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のようにマツタケには抗腫瘍活性、免疫増強活性、ストレス負荷回復促進作用などの種々の生理活性が含まれることが見出されている。しかしながら、本発明者の知る限りにおいて、マツタケが自己免疫疾患に対して優れた予防・治療効果を有するということについては、これまで報告がされていない。
【0009】
本発明者は、マツタケが自己免疫疾患に対し優れた予防・治療効果を有することを新たに見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明の課題は、マツタケを利用した自己免疫疾患の予防・治療剤および食品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、マツタケ(Tricholoma matsutake)またはその抽出物を含む、自己免疫疾患予防・治療剤および食品に関する。
【0012】
また本発明は、マツタケ(T. matsutake)が菌糸体、培養物(Broth)または子実体(胞子を含む)である、上記自己免疫疾患予防・治療剤および食品に関する。
【0013】
また本発明は、マツタケ(T. matsutake)がFERM BP−7304株である、上記自己免疫疾患予防・治療剤および食品に関する。
【0014】
また本発明は、マツタケ(T. matsutake)がFERM BP−7304株の菌糸体の乾燥粉末である、上記自己免疫疾患予防・治療剤および食品に関する。
【0015】
また本発明は、マツタケ抽出物が、FERM BP−7304株の菌糸体の熱水抽出液またはアルカリ溶液抽出液である、上記自己免疫疾患予防・治療剤および食品に関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、安全で、安定的に大量供給が可能な、自己免疫疾患予防・治療のための薬剤および食品が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の自己免疫疾患予防・治療剤および食品に用いられるマツタケ〔Tricholoma matsutake(S. Ito & Imai)Sing.〕は、菌糸体、培養物(Broth)、子実体のいずれの形態のものも用いることができ、生でも乾燥したものでもよい。本発明では子実体は胞子も含むものとする。これら菌糸体、培養物(Broth)、子実体の各抽出物も用いることができる。
【0018】
本発明では特にマツタケFERM BP−7304株が好ましく用いられる。
【0019】
マツタケFERM BP−7304株は、本出願人によって新規菌株として従前に出願され(国際公開第02/30440号パンフレット)、独立行政法人産業技術総合研究所((旧)工業技術院生命工学研究所)に平成12年9月14日に寄託されている。このマツタケFERM BP−7304株は、京都府亀岡市で採取したマツタケCM6271株から子実体組織を切り出し、試験管内で培養することにより菌糸体継代株を得たものであり、株式会社クレハ 生物医学研究所で維持している。
【0020】
マツタケFERM BP−7304株の子実体の形態は、「原色日本新菌類図鑑(1)」(今関六也・本郷次雄編、保育社、昭和32年発行)プレート(plate)9頁および26頁に記載のマツタケ子実体に合致するものであった。
【0021】
マツタケFERM BP−7304株の継代は、エビオス寒天斜面培地で実施することができる。マツタケFERM BP−7304株の菌糸体をエビオス寒天平板培地に接種すると、白色の菌糸が放射状に密に生育し、大きなコロニーを形成する。走査型電子顕微鏡で観察すると、太さ1〜2μmの枝状の菌糸体が無数に存在し、菌糸体側部に数μm程度の突起物が時々みられる。該菌株の菌糸体を大量培養する場合は、液体培地に接種し、静置培養、振盪培養、タンク培養等により行うことができる。
【0022】
なお、マツタケFERM BP−7304株は、もっぱら菌糸体の形状で継代維持または培養することが可能であるが、子実体の形状となることもある。
【0023】
マツタケFERM BP−7304株の菌学的性質は以下のとおりである。
【0024】
(1)麦芽エキス寒天培地における培養的・形態的性質
白色の菌糸が放射状に密に生育してコロニーを形成する。接種30日目のコロニー径は約4cmである。
【0025】
(2)ツアペック寒天培地、オートミール寒天培地、合成ムコール寒天培地、およびフェノールオキシダーゼ反応検定用培地における培養的・形態的性質
上記いずれの培地においても、接種後1ヶ月経過しても菌糸の発育はほとんどみられない。
【0026】
(3)YpSs寒天培地における培養的・形態的性質
白色の光沢を有し、マット状に生育する。接種30日目の生育距離は約5mmである。
【0027】
(4)グルコース・ドライイースト寒天培地における培養的・形態的性質
白色の光沢を有し、マット状に生育する。接種30日目の生育距離は約2mmである。
【0028】
(5)最適生育温度および生育範囲
滅菌処理した液体培地(3%グルコース、0.3%酵母エキス、pH7.0)10mLの入った100mL容三角フラスコに、マツタケFERM BP−7304株の種菌約2mgを接種し、5〜35℃の種々の温度でそれぞれ培養し、28日目にフラスコから菌体を取り出し、蒸留水でよく洗浄した後に乾燥させ、質量を測定した。その結果、菌体質量は5〜15℃の範囲で直線的に増加し、15〜25℃の範囲で緩やかに増加した。27.5℃以上ではほとんど増殖しなかった。最適生育温度は15〜25℃である。
【0029】
(6)最適生育pHおよび生育範囲
液体培地(3%グルコース、0.3%酵母エキス)のpHを1モル/L塩酸または1モル/L水酸化カリウムで調整し、pH3.0〜8.0の種々の培地を調製して菌体の生育pHを調べた。すなわち各培地をフィルター滅菌し、培地10mLを滅菌済100mL容三角フラスコに分注した。マツタケFERM BP−7304株の種菌約2mgを接種後、22℃で培養し、フラスコから菌体を取り出し、蒸留水でよく洗浄した後に乾燥させ、質量を測定した。その結果、菌体の生育限界はpH3.0〜7.0、最適生育pHは4.0〜6.0であった。
【0030】
(7)対峙培養による帯線形成の有無
エビオス寒天平板培地に、マツタケFERM BP−7304株のブロック(約3mm×3mm×3mm)と、公知の13種類のマツタケ株(例えば、IFO 6915株;(財)発酵研究所)の各ブロック(約3mm×3mm×3mm)とを、約2cm間隔に対峙して植菌し、22℃で3週間培養した後、両コロニー境界部に帯線が生じるか否かを判定した。
【0031】
その結果、マツタケFERM BP−7304株は、公知のマツタケ株(13種類)のいずれの株に対しても明確な帯線を形成しなかった。なお、マツタケでは異株間対峙培養で帯線は生じないとされており、公知のマツタケ株(13種類)間についても、明確な帯線を形成した組み合わせはなかった。
【0032】
(8)栄養要求性
滅菌処理した菌根菌用合成培地(「太田培地」。Ohtaら、"Trans. Mycol. Soc. Jpn.", 31, 323-334, 1990)10mLの入った100mL容三角フラスコに、マツタケFERM BP−7304株の種菌約2mgを接種し、22℃で培養し、42日目にフラスコから菌体を取り出し、蒸留水でよく洗浄した後に乾燥させ、質量を測定したところ、菌体441mgが得られた。
【0033】
上記菌根菌用合成培地中の炭素(C)源であるグルコースの代わりに、28種類の糖質関連物質のいずれか1つを加えた各培地に、マツタケFERM BP−7304株を接種して培養し、培養終了後、菌体質量を測定した。その結果、菌体質量が多かった糖質関連物質から菌体質量が少なかった糖質関連物質を順に示せば、以下のとおりである。
【0034】
小麦デンプン>トウモロコシデンプン>デキストリン>メチルβグルコシド>セロビオース>マンノース>フラクトース>アラビノース>ソルビトール>グルコース>ラクトース>グリコーゲン>マンニトール>リボース>マルトース>トレハロース>ガラクトース>ラフィノース>メリビオース>N−アセチルグルコサミン。
【0035】
なお、セルロース、ダルチトール、シュークロース、キシロース、メチルαグルコシド、イヌリン、イノシトール、およびソルボースでは、菌の発育はほとんどみられなかった。
【0036】
次に、上記菌根菌用合成培地中の窒素(N)源である酒石酸アンモニウムの代わりに、15種類の窒素関連物質のいずれか1つを加えた各培地に、マツタケFERM BP−7304株を接種して培養し、培養終了後、菌体質量を測定した。
【0037】
その結果、菌体質量が多かった窒素関連物質から菌体質量が少なかった窒素関連物質を順に示せば、以下のとおりである。
【0038】
コーンスティープリカー>大豆ペプトン>ミルクペプトン>硝酸アンモニウム>硫酸アンモニウム>酒石酸アンモニウム>炭酸アンモニウム>アスパラギン>リン酸アンモニウム>塩化アンモニウム>硝酸ナトリウム>肉エキス>酵母エキス>カザミノ酸>クロレラ>トリプトーン>硝酸カリウム。
【0039】
さらに、上記合成培地中のミネラルおよびビタミン類のうち、特定の1成分を除去した培地に、マツタケFERM BP−7304株を接種して培養し、培養終了後、菌体質量を測定した。
【0040】
その結果、塩化カルシウム・二水和物、硫酸マンガン(II)・五水和物、硫酸亜鉛・七水和物、硫酸コバルト・七水和物、硫酸銅・五水和物、硫酸ニッケル・六水和物、塩酸アミン、ニコチン酸、葉酸、ビオチン、塩酸ピリドキシン、塩化カーチニン、アデニン硫酸・二水和物、または塩酸コリンのいずれか1つを培地から除いても、菌体質量にほとんど影響がなかった。
【0041】
一方、硫酸マグネシウム・七水和物、塩化鉄(II)、またはリン酸二水素カリウムのいずれか1つを培地から除くと、菌体質量は顕著に減少した。すなわち、マグネシウム、鉄、リン、およびカリウムは、マツタケFERM BP−7304株の増殖に必須と考えられる。
【0042】
(9)DNA塩基組成(GC含量)
GC含量は49.9%である。
【0043】
(10)RAPD法により生成するDNAパターン
6種類の異なるPCR(Polymerase Chain Reaction)用プライマー(10mer)をそれぞれ単独で用いるRAPD(Random Amplified Polymorphic DNA)法により生成するDNAパターンについて、マツタケFERM BP−7304株と、公知の44種類のマツタケ株(例えば、IFO 6915株;(財)発酵研究所)とを比較したところ、マツタケFERM BP−7304株は、公知のマツタケ株(44種類)のいずれとも異なるDNAパターンを示した。
【0044】
本発明の自己免疫疾患予防・治療剤および食品は、有効成分として、(i)マツタケFERM BP−7304株(例えば、当該株の菌糸体、培養物(Broth)または子実体)の生のものをそのまま、あるいはこれを乾燥粉末としたもの、(ii)マツタケFERM BP−7304株の熱水抽出液(例えば、当該株の菌糸体、培養物(Broth)または子実体の、熱水抽出液)、(iii)マツタケFERM BP−7304株のアルカリ溶液抽出液(例えば、当該株の菌糸体、培養物(Broth)または子実体の、アルカリ溶液抽出液)などを含む態様が好ましく例示されるが、これら例示に限定されるものではない。
【0045】
本発明では上記(i)の態様が好ましい。
【0046】
本発明の自己免疫疾患予防・治療剤および食品における有効成分として用いられ得るマツタケFERM BP−7304株の菌糸体としては、例えば、培養により得られる菌糸体(すなわち培養菌糸体)と培地との混合物から適当な除去手段(例えば、濾過)により培地を除去しただけの状態で使用することもできるし、あるいは、培地を除去した後の菌糸体から適当な除去手段(例えば、凍結乾燥)により水分を除去した菌糸体乾燥物の状態で使用することもでき、さらには前記菌糸体乾燥物を粉砕した菌糸体乾燥物粉末の状態で使用することもできる。
【0047】
本発明の自己免疫疾患予防・治療剤および食品における有効成分として用いられ得るマツタケFERM BP−7304株の培養物(Broth)としては、例えば、培養により得られる菌糸体(すなわち培養菌糸体)と培地との混合物の状態で使用することもできるし、あるいは、前記混合物から適当な除去手段(例えば、凍結乾燥)により水分を除去した培養物(Broth)乾燥物の状態で使用することもでき、さらには前記培養物(Broth)乾燥物を粉砕した培養物(Broth)乾燥物粉末の状態で使用することもできる。
【0048】
上記培養工程は、特に限定されるものでなく、一般にマツタケ菌を培養する方法を任意に用いることができるが、例えば、マツタケFERM BP−7304株(「マツタケ菌I」)を固形培地または液体培地で培養または保存してマツタケ菌IIを得る工程、前記マツタケ菌IIを静置液体培養してマツタケ菌IIIを得る工程、前記マツタケ菌IIIを振盪培養してマツタケ菌IVを得る工程、前記マツタケ菌IVを100L未満の小型培養装置を用いて、培養液中に通気を行わない攪拌培養してマツタケ菌Vを得る工程、前記マツタケ菌Vを100L以上の中型・大型培養装置を用いて深部攪拌培養してマツタケ菌VIを得る工程、前記マツタケ菌VIを100L以上の中型・大型培養装置を用いて深部攪拌培養してマツタケ菌VIIを得る工程、および前記マツタケ菌VIIを100L以上の中型・大型培養装置を用いて深部撹拌培養してマツタケ菌VIIIを得る工程、からなる培養方法(国際公開第2004/038009号パンフレット)が、マツタケ菌の生理活性を損うことなく大量生産できるという点から好適に用いられる。
【0049】
〈マツタケ菌Iを培養または保存してマツタケ菌IIを得る工程〉
用いる培地としては、一般にマツタケ菌を培養する栄養源基質を有する培地であれば特に制限なく使用することができる。例えば、太田培地(Ohtaら、"Trans. Mycol. Soc. Jpn.", 31, 323-334, 1990)、MMN培地(Marx, D. H., "Phytopathology", 59:153-163, 1969)、浜田培地(浜田、"マツタケ", 97-100, 1964)等が挙げられるが、これら例示に限定されるものでない。
【0050】
固形培地用の固形化剤としては、カラギーナン、マンナン、ペクチン、寒天、カードラン、デンプン、アルギン酸等が好適例として挙げられる。これらのうち寒天が好ましい。
【0051】
使用可能な培地の栄養源基質には、炭素源、窒素源、無機元素源などが挙げられる。
【0052】
上記炭素源としては、米デンプン、小麦粉デンプン、バレイショデンプン、サツマイモデンプン等のデンプン類;デキストリン、アミロペクシン等の多糖類;マルトース、シュクロース等の少糖類;フラクトース、グルコース等の単糖類などが挙げられる。さらに麦芽エキスを挙げることができる。マツタケ菌の生長速度から、グルコースなどの単糖類が好ましい時期と、デンプン類が好ましい時期とがあるので、時期に応じた炭素源を選択し、必要に応じて組合せて使用する。
【0053】
上記窒素源としては、酵母エキス、乾燥酵母、コーンスティーブリカー、大豆粉、大豆ペプトンなどの天然由来物質や、硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、尿素などが挙げられる。これらは単独で、あるいは組合せて用いることができる。一般に生長速度を考慮すると、天然由来物質、特に酵母エキスが好ましい。
【0054】
上記無機元素源は、リン酸および微量元素を供給するために使用される。例を挙げると、リン酸塩のほか、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、マンガン、銅、鉄などの金属イオンの無機塩(例えば、硫酸塩、塩酸塩、硝酸塩、リン酸塩、等)があり、必要量を培地中に溶解する。
【0055】
また、培地にビタミンB1などのビタミン類、アミノ酸類を添加することもできる。
【0056】
さらに、使用するマツタケ菌の性質に応じて、植物抽出物、有機酸、核酸関連物質などを添加することができる。植物抽出物としては、果菜類、根菜類、葉菜類などの抽出物が例示される。有機酸としては、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、フマル酸、乳酸などが例示される。核酸関連物質としては、市販の核酸、核酸抽出物、酵母、酵母エキスなどが例示される。
【0057】
固形培地を調製する場合、炭素源の使用量は、好ましくは10〜100g/L、より好ましくは10〜50g/L、特に好ましくは20〜30g/Lである。
【0058】
窒素源の使用量は、窒素元素相当量で0.005〜0.1モル/Lが好ましく、より好ましくは0.007〜0.07モル/L、特に好ましくは0.01〜0.05モル/Lである。
【0059】
リン酸塩の使用量は、リン元素相当量で0.001〜0.05モル/Lが好ましく、より好ましくは0.005〜0.03モル/L、特に好ましくは0.01〜0.02モル/Lである。さらに他の無機塩、ビタミン類、植物抽出物、有機酸、核酸関連物質など、マツタケ菌の性質に応じて適宜添加することができる。また、調製した栄養源基質溶液のpHを、好ましくは4〜7、より好ましくは4.5〜6.0、特に好ましくは5.0〜5.5とする。
【0060】
〈静置液体培養〉
次に、マツタケ菌II(マツタケ菌Iを固形培地または液体培地で培養または保存したマツタケ菌)を静置液体培養してマツタケ菌IIIを製造する方法について記載する。
【0061】
通常、100mL〜2L容の三角フラスコを用いて行う。
【0062】
この静置液体培養は、液体培地にマツタケ菌IIを接種することにより開始する。
【0063】
接種したマツタケ菌IIを含有する培養液と液体培地とを合せた混合物と、接種したマツタケ菌IIを含有する培養液との体積比(「接種時拡大倍率」)が好ましくは2〜50倍、より好ましくは3〜30倍となる量の液体培地を使用する。
【0064】
接種したマツタケ菌IIを含有する培養液中のマツタケ菌IIの乾燥菌糸体質量と、接種したマツタケ菌IIを含有する培養液と液体培地とを合せた混合物の体積比(「初発菌糸体濃度」)を、好ましくは0.05〜3g/L、より好ましくは0.1〜2g/Lとなるように、液体培地にマツタケ菌IIを含有する培養液を接種する。
【0065】
該静置液体培養での培養温度は15〜30℃が好ましく、より好ましくは20〜25℃であり、培養期間は30〜400日間が好ましく、より好ましくは120〜240日間である。培養期間が30日未満、あるいは400日超では、大量培養に適した生育能を有するマツタケ菌IIIを得ることが困難となる。
【0066】
静置液体培養後の培養液中の乾燥菌糸体含有量(単位:g/L)を初発菌糸体濃度との比(「菌糸体増加率」)が、2〜25倍となるように培養することが、生育能の点から好ましい。
【0067】
静置液体培養に使用する液体培地は、その浸透圧を、好ましくは0.01〜0.8MPa、より好ましくは0.02〜0.7MPa、特に好ましくは0.03〜0.5MPaとなるように、栄養源基質を使用する。
【0068】
静置液体培養に用いる栄養源基質として、マツタケ菌Iを培養する固形培地と同じ炭素源、窒素源、無機元素源、ビタミンB1などのビタミン類、アミノ酸類等を使用することができる。
【0069】
炭素源の使用量は、好ましくは10〜100g/L、より好ましくは20〜60g/L、特に好ましくは25〜45g/Lである。通常、グルコース等の単糖類を使用する。
【0070】
窒素源の使用量は、窒素元素相当量で0.005〜0.1モル/Lが好ましく、より好ましくは0.007〜0.07モル/L、特に好ましくは0.01〜0.05モル/Lである。
【0071】
リン酸塩を使用する場合は、リン元素相当量で0.001〜0.05モル/Lが好ましく、より好ましくは0.005〜0.03モル/L、特に好ましくは0.01〜0.02モル/Lになるようにする。
【0072】
さらに、他の無機塩、ビタミン類、植物抽出物、有機酸、核酸関連物質など、マツタケ菌の性質に応じて適宜添加することができる。
【0073】
調製した栄養源基質溶液のpHを、好ましくは4〜7、より好ましくは4.5〜6.5、特に好ましくは5.0〜6.0とする。
【0074】
マツタケ菌IIIを含有する静置液体培養による培養液の一部若しくは全部を、マツタケ菌IIを含有する培養液(若しくは培養物)と同様に静置液体培養の接種源として、再度、静置液体培養工程で使用することもできる。
【0075】
〈振盪培養〉
次いで、マツタケ菌III(マツタケ菌IIを静置液体培養して得られたマツタケ菌)を振盪培養して、マツタケ菌IVを製造する方法について記載する。
通常、300mL〜5L容の三角フラスコを用いて行う。
【0076】
この振盪培養は、液体培地にマツタケ菌IIIを接種することにより開始する。
【0077】
接種したマツタケ菌IIIを含有する培養液と液体培地とを合せた混合物と、接種したマツタケ菌IIIを含有する培養液との体積比(「接種時拡大倍率」)が、好ましくは2〜50倍、より好ましくは3〜30倍、特に好ましくは5〜10倍となる量の液体培地を使用する。
【0078】
なお、接種時拡大倍率に見合う培養液の量を確保するために、静置液体培養を複数の培養装置を用いて製造することもできる。
【0079】
接種したマツタケ菌IIIを含有する培養液中のマツタケ菌IIIの乾燥菌糸体質量と、接種したマツタケ菌IIIを含有する培養液と液体培地とを合せた混合物の体積比(「初発菌糸体濃度」)を、好ましくは0.05〜3g/L、より好ましくは0.1〜2g/Lとなるように、液体培地にマツタケ菌IIIを含有する培養液を接種する。
【0080】
振盪培養では、培養温度は15〜30℃が好ましく、より好ましくは20〜25℃であり、培養期間は7〜50日間が好ましく、より好ましくは14〜28日間である。
【0081】
振盪培養に要する動力として、通常、三角フラスコ内の培養液単位体積あたりの攪拌所要動力0.05〜0.4kW/m3を用いる。
【0082】
静置液体培養後の培養液中の乾燥菌糸体含有量(単位:g/L)と初発菌糸体濃度との比(「菌糸体増加倍率」)が2〜25倍となるように培養することが、生育能の点で好ましい。
【0083】
振盪培養に使用する液体培地は、その浸透圧を、好ましくは0.01〜0.8MPa、より好ましくは0.02〜0.7MPa、特に好ましくは0.03〜0.5MPaとなるように、栄養源基質を使用する。
【0084】
振盪培養に用いられる栄養源基質として、マツタケ菌IIを培養する液体培地と同じ炭素源、窒素源、無機元素源、ビタミンB1などのビタミン類、アミノ酸類を使用することができる。
【0085】
炭素源の使用量は、好ましくは10〜100g/L、より好ましくは20〜60g/L、特に好ましくは25〜45g/Lである。通常、グルコース等の単糖類を使用する。
【0086】
窒素源の使用量は、窒素元素相当量で0.005〜0.1モル/Lが好ましく、より好ましくは0.007〜0.07モル/L、特に好ましくは0.01〜0.05モル/Lである。
【0087】
リン酸塩の使用量は、リン元素相当量で0.001〜0.05モル/Lが好ましく、より好ましくは0.005〜0.03モル/L、特に好ましくは0.01〜0.02モル/Lになるようにする。
【0088】
さらに、他の無機塩、ビタミン類、アミノ酸類、植物抽出物、有機酸、核酸関連物質など、マツタケ菌の性質に応じて適宜添加することができる。
【0089】
調製した栄養源基質溶液のpHを、好ましくは4〜7、より好ましくは4.5〜6.5、特に好ましくは5.0〜6.0とする。
【0090】
〈攪拌培養〉
次に、攪拌培養により、マツタケ菌V、マツタケ菌VI、マツタケ菌VII、マツタケ菌VIIIを製造する方法について記載する。
【0091】
この攪拌培養は、液体培地にマツタケ菌(IV〜VII)を接種することにより開始する。以下の説明において、マツタケ菌IVは、マツタケ菌IIIを振盪培養して得られるマツタケ菌をいい;マツタケ菌Vは、マツタケ菌IVを100L未満の小型培養装置を用いて培養液中に通気を行わない撹拌培養を行って得られたマツタケ菌をいい;マツタケ菌VIは、マツタケ菌Vを100L以上の中型・大型培養装置を用いて深部撹拌培養して得られたマツタケ菌をいい;マツタケ菌VIIは、マツタケ菌VIを100L以上の中型・大型培養装置を用いて深部撹拌培養して得られたマツタケ菌をいい;マツタケ菌VIIIは、マツタケ菌VIIを100L以上の中型・大型培養装置を用いて深部撹拌培養して得られたマツタケ菌をいう。
【0092】
攪拌培養で用いる液体培地は、次のようにして調製することができる。
【0093】
栄養源基質は、振盪培養で使用する、炭素源、窒素源、無機元素源、ビタミンB1などのビタミン類、アミノ酸類と同じものを使用することができる。
【0094】
炭素源の使用量は、好ましくは10〜100g/L、より好ましくは20〜60g/L、特に好ましくは25〜45g/Lである。デンプン類を好ましく使用できる。
【0095】
攪拌を行う培養液中の浸透圧に影響するグルコースなどの単糖類を併用する場合、その使用量は、好ましくは0.1〜60g/L、より好ましくは0.5〜40g/L、特に好ましくは0.7〜20g/Lである。
【0096】
窒素源の使用量は、窒素元素相当量で0.005〜0.1モル/Lが唖好ましく、より好ましくは0.007〜0.07モル/L、特に好ましくは0.01〜0.05モル/Lである。
【0097】
リン酸塩の使用量は、リン元素相当量で0.001〜0.05モル/Lが好ましく、より好ましくは0.005〜0.03モル/L、特に好ましくは0.01〜0.05モル/Lである。
【0098】
さらに、他の無機塩、ビタミン類、アミノ酸類、植物抽出物、有機酸、核酸関連物質など、マツタケ菌の性質に応じて適宜、添加することができる。
【0099】
調製した栄養源基質溶液のpHを、好ましくは4〜7、より好ましくは4.5〜6.5、特に好ましくは5.0〜6.0とする。
【0100】
攪拌培養に使用する液体培地は、その浸透圧を、好ましくは0.01〜0.8MPa、より好ましく0.02〜0.7MPa、特に好ましくは0.03〜0.5MPaとなるように、栄養源基質を使用する。
【0101】
攪拌培養の培養温度は、15〜30℃、好ましくは20〜25℃とする。
【0102】
接種したマツタケ菌(IV〜VII)を含有する培養液と液体培地とを合せた混合物と、接種したマツタケ菌(IV〜VII)を含有する培養液との体積比(「接種時拡大倍率」)が、好ましくは2〜50倍、より好ましくは3〜30倍、特に好ましくは5〜10倍となる量の液体培地を使用する。
【0103】
接種したマツタケ菌(IV〜VII)を含有する培養液中のマツタケ菌(IV〜VII)の乾燥菌糸体質量と、接種したマツタケ菌(IV〜VII)を含有する培養液と液体培地とを合せた混合物の体積比(「初発菌糸体濃度」)を、好ましくは0.01〜5g/L、より好ましくは0.05〜3g/L、特に好ましくは0.1〜2g/Lとなるように、液体培地にマツタケ菌(IV〜VII)を含有する培養液を接種する。
【0104】
攪拌培養で得られるマツタケ菌(V〜VII)を、さらに攪拌培養の母菌として用いる場合の培養日数は、3〜20日間が好ましく、特には5〜14日間である。
【0105】
これらの培養日数後に、マツタケ菌(V〜VII)の乾燥菌糸体含有量が、好ましくは0.5〜10g/L、より好ましくは1〜8g/L、特に好ましくは1〜6g/Lになっている培養液は、攪拌培養に適した生育能を有するマツタケ菌(V〜VII)を含有している。
【0106】
静置液体培養後の培養液中の乾燥菌糸体含有量(単位:g/L)と初発菌糸体濃度との比(「菌糸体増加率」)が2〜25倍となるように培養することが、生育能の点で好ましい。
【0107】
他方、攪拌培養で得られるマツタケ菌(V〜VIII)を、マツタケ菌糸体として分離する場合の培養日数は5〜30日間であり、好ましくは7〜20日間、特に好ましくは10〜15日間である。
【0108】
これらの培養日数から、炭素源の資化速度が著しく低下した時を培養終了とするのが好ましいが、適宜、製造サイクル、製造コスト等の製造形態に合せて決定することができる。
【0109】
静置液体培養後の培養液中の乾燥菌糸体含有量(単位:g/L)と初発菌糸体濃度との比(「菌糸体増加倍率」)が35〜100倍となるように培養することが、工業的な生産の点で好ましい。
【0110】
マツタケ菌IVを含有する振盪培養で製造した培養液を、100L以上の中型、および大型培養槽などの培養装置による攪拌培養工程で使用することもできる。
【0111】
攪拌培養に使用する培養装置は、通気攪拌ができ、無菌性が確保できれば特に制限なく使用することが可能で、必要に応じて通気することができ、または通気装置を装着できるものを使用する。したがって、通常の、小型、中型および大型の培養槽、またはジャーファーメンターを使用することができる。
【0112】
100L未満のジャーファーメンターまたは小型培養槽を用いて、マツタケ菌IVの培養を行いマツタケ菌Vを製造する場合、液体培地中に通気せずに、攪拌培養を行うのが好ましい。100L未満のジャーファーメンターまたは小型培養槽で通気を行って培養すると、菌糸が凝集し、成長点が欠失して母菌としての生育能が損われる場合があるからである。
【0113】
また、100L以上の中型、および大型培養槽などの培養装置により工業スケールで深部攪拌培養を行う場合、必要に応じて通気を行う。この場合の通気量は0.05〜1.0vvm、特には0.2〜0.5vvmとするのが好ましい。
【0114】
攪拌培養における攪拌は、培養初期では培養液単位体積あたりの所要攪拌動力で制御する。通常、0.01〜2kW/m3、好ましくは0.05〜1kW/m3の範囲で攪拌を行うことにより、マツタケ菌糸体が良好に生育する。培養初期を過ぎれば菌が生育を始め、酸素供給量が不足し、さらに、生育した菌糸体の分散が不十分になるので、適宜、攪拌の強度を大きくすることが必要になる。当該深部攪拌では、培養初期には低通気、低撹拌速度で培養し、培養後期には高通気、高攪拌速度で培養するのが好ましい。
【0115】
深部攪拌培養から得られたマツタケ菌糸体の分離・回収は、常法によって行うことができる。例えば、フィルタープレスなどによる濾過、遠心分離などである。
【0116】
得られた菌糸体は、例えば蒸留水により充分に洗浄してから、次の熱水抽出工程を実施するのが好ましい。また抽出効率が向上するように、破砕物または粉体の状態に加工するのが好ましい。
【0117】
本発明の自己免疫疾患予防・治療剤および食品における有効成分として用いられ得るマツタケFERM BP−7304株の子実体としては、例えば、子実体をそのままで、または子実体を破砕した状態で使用することもできるし、あるいは、子実体から適当な除去手段(例えば、凍結乾燥)により水分を除去した子実体乾燥物の状態で使用することもでき、さらには、前記子実体乾燥物を粉砕した子実体乾燥物粉末の状態で使用することもできる。
【0118】
本発明の自己免疫疾患予防・治療剤および食品における有効成分として用いられ得るマツタアケFERM BP−7304株の熱水抽出液は、例えば培養により得られるマツタケFERM BP−7304株の菌糸体(すなわち培養菌糸体)、培養物(Broth)、または子実体を熱水で抽出することにより得ることができる。
【0119】
熱水抽出に用いる熱水の温度は、マツタケFERM BP−7304株に含有される自己免疫疾患予防・治療効果を示す成分が、熱水抽出液中に充分に抽出される温度である限り特に限定されるものではないが、60〜100℃程度が好ましく、80〜98℃程度がより好ましい。
【0120】
菌糸体または子実体を熱水抽出に用いる場合には、抽出効率が向上するように、破砕物または粉体の状態に加工することが好ましい。
【0121】
また抽出の際には、抽出効率が向上するように、攪拌または振盪しながら実施するのが好ましい。抽出時間は、例えば、菌糸体の状態(例えば、破砕物または粉体の状態に加工した場合にはその加工状態)、熱水の温度、または攪拌若しくは振盪の有無若しくは条件に応じて、適宜決定することができるが、通常1〜6時間程度であり、2〜3時間程度が好ましい。
【0122】
得られた熱水抽出液は、不要物が混在する状態で、そのまま、本発明の自己免疫疾患予防・治療剤の有効成分として用いることもできるし、あるいは不溶物を除去してから、さらにはそこから抽出液中の低分子画分(好ましくは分子量3500以下の画分)を除去してから、本発明の自己免疫疾患予防・治療剤の有効成分として用いることもできる。
【0123】
本発明の自己免疫疾患予防・治療剤および食品における有効成分として用いられ得るマツタケFERM BP−7304株のアルカリ抽出液は、例えば、上述したマツタケFERM BP−7304株の熱水抽出液の製造方法において、熱水の代わりにアルカリ溶液を用いること以外は、上記熱水抽出液の製造方法に準じた方法により得ることができる。
【0124】
アルカリ溶液抽出に用いるアルカリ溶液としては、特に限定されるものではないが、例えば、アルカリ金属(ナトリウム、カリウムなど)の水酸化物、特には水酸化ナトリウムの水溶液を用いることができる。アルカリ溶液のpHは8〜13が好ましく、9〜12がより好ましい。アルカリ溶液抽出は0〜30℃程度で実施するのが好ましく、0〜25℃程度がより好ましい。抽出時間は、例えば、菌糸体残渣の状態(例えば、破砕物または粉体の状態に加工した場合にはその加工状態)、アルカリ溶液のpH若しくは温度、または攪拌若しくは振盪の有無若しくは条件に応じて、適宜決定することができるが、通常30分間〜5時間程度であり、1〜3時間程度が好ましい。得られたアルカリ溶液抽出液は、そのまま、あるいは所望により中和処理を実施してから、本発明の自己免疫疾患予防・治療剤および食品に用いる。
【0125】
本発明の自己免疫疾患予防・治療剤および食品は、有効成分であるマツタケ、特にはマツタケFERM BP−7304株、あるいはその抽出物を、単独で、あるいは所望により薬剤学的に許容し得る担体とともに、ヒトや動物に投与することができる。
【0126】
本発明において「自己免疫疾患予防・治療」とは、動物やヒトなどにおいて、自己免疫疾患発症の予防、自己免疫疾患発症後(病的状態)の治療を意味するが、自己免疫疾患の発症を遅延・抑制せしめる効果も含む。また自己免疫疾患により誘発され得る疾患の発症防止効果(自己免疫疾患付随して発生する各種症状の防止)も含む。したがって、本発明の自己免疫疾患予防・治療剤および食品の投与・摂取時期は、特に限定されるものではないが、日常的に継続投与・摂取するのが好ましい。
【0127】
本発明における自己免疫疾患予防・治療効果は、自己免疫疾患のタイプを問うものでなく、いずれのタイプの自己免疫疾患に対しても奏功し得るが、特には自己抗体やキラーT細胞が関与する自己免疫疾患の予防・治療効果に特に優れる。
【0128】
本発明の自己免疫疾患予防・治療剤および食品の投与・摂取剤型としては特に限定されるものでなく、例えば、散剤、細粒剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、懸濁液、エマルジョン剤、シロップ剤、エキス剤、若しくは丸剤等の経口剤、または注射剤、外用液剤、軟膏剤、座剤、局所投与のクリーム、点眼薬などの非経口剤を挙げることができる。
【0129】
経口剤は、例えば、ゼラチン、アルギン酸ナトリウム、澱粉コーンスターチ、白糖、乳糖、ぶどう糖、マンニット、カルボキシメチルセルロース、デキストリン、ポリビニルピロリドン、結晶セルロース、大豆レシチン、ショ糖、脂肪酸エステル、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ポリエチレングリコール、ケイ酸マグネシウム、無水ケイ酸、または合成ケイ酸アルミニウムなどの賦形剤、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、流動性促進剤、希釈剤、保存剤、着色剤、香料、矯味剤、安定化剤、保湿剤、防腐剤、または酸化防止剤等を用いて、常法により製造することができる。
【0130】
非経口投与方法としては、注射(皮下、静脈内など)等が例示される。なかでも注射剤が最も好適に用いられる。
【0131】
例えば、注射剤の調製においては、有効成分の他に生理食塩水若しくはリンゲル液等の水溶性溶剤、植物油若しくは脂肪酸エステル等の非水溶性溶剤、ブドウ糖若しくは塩化ナトリウム等の等張化剤、溶解補助剤、安定化剤、防腐剤、懸濁化剤、または乳化剤などを任意に用いることができる。
【0132】
また、本発明の自己免疫疾患予防・治療剤および食品は、徐放性ポリマーなどを用いた徐放性製剤の手法を用いて投与してもよい。例えば、本発明の自己免疫疾患予防・治療剤および食品をエチレンビニル酢酸ポリマーのペレットに取り込ませて、このペレットを治療すべき組織中に外科的に移植することができる。
【0133】
本発明の自己免疫疾患予防・治療剤および食品は、これに限定されるものではないが、マツタケFERM BP−7304株あるいはその抽出物等の有効成分を0.01〜99質量%、好ましくは0.1〜80質量%の量で含有することができる。
【0134】
本発明の自己免疫疾患予防・治療剤および食品を用いる場合の投与・摂取量は、被投与者の年齢、性別、体重、または投与・摂取方法などに応じて適宜決定することができ、経口的にまた非経口的に投与・摂取することが可能である。
【0135】
また、投与・摂取形態も医薬品に限定されるものではなく、種々の形態、例えば、保健機能食品(特定保健用食品、栄養機能食品)やいわゆる健康食品(いずれも飲料を含む)、または飼料として飲食物の形で与えることも可能である。さらには、口中に一時的に含むものの、そのほとんどを口中より吐き出す形態、例えば、歯磨き剤、洗口剤、チューインガム、うがい剤などの形で与えることも、あるいは鼻から吸引させる吸入剤の形で与えることも可能である。例えば、マツタケFERM BP−7304株あるいはその抽出物等の有効成分を、添加剤(食品添加剤など)として、所望の食品(飲料を含む)、飼料、歯磨剤、洗口剤、チューインガム、またはうがい剤等に添加することができる。
【0136】
なお、上記において、特定保健用食品は、その食品が持つ健康機能の表示が認められる食品(食品ごとに厚生労働省の許可を必要とする)をいい、栄養機能食品は栄養成分の機能を明記できる食品(厚生労働省が作成した規格基準を満たす必要あり)をいい、いわゆる健康食品とは上記保健機能食品以外の食品一般を広く意味するもので、健康補助食品等を含むものである。
【実施例】
【0137】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの実施例によってなんら限定されるものでない。
【0138】
(実施例1)
[マツタケ菌糸体粉末の調製]
株式会社クレハ 生物医学研究所で樹立および維持しているマツタケCM6271株(マツタケFERM BP−7304株)の菌糸体を、滅菌済み培地(3%グルコース、0.3%酵母エキス、pH6.0)100mLの入った500mL容三角フラスコ20本に接種し、22℃で250rpmの振盪培養機で4週間培養を行った。培養終了後、培養物(Broth)を濾紙濾過により菌糸体を分離し、蒸留水で充分に洗浄した後、凍結乾燥した。得られた乾燥物を粉砕して菌糸体粉末(以下、単に「CM6271」とも記す)20gを得た。
【0139】
(実施例2)
[自己免疫疾患自然発症モデルに対する作用]
New Zealand Black/White F1マウスは、免疫複合体に由来する糸球体腎炎や脈管炎、リンパ節症、脾腫を自然発症し、副腎皮質ホルモン剤や、免疫抑制剤であるシクロホスファミド(Cyclophosphamide)などの薬剤感受性が類似していることから、ヒトSLE(全身性エリテマトーテス)の動物モデルとして、自己免疫発症のメカニズム研究や治療方法開発に用いられている。そこで、このモデルマウスを用いて、CM6271の作用を調べた。
【0140】
(i)試験動物
日本エスエルシー(株)から、8週齢のSPFグレード雌性Slc:NZBWF1(以下、「NZB/W F1」と記す)マウスを購入し、予備飼育の後、試験に供した。滅菌おが屑を敷き詰めたKN−600ケージ((株)夏目製作所)に、1ケージあたり4匹のマウスを収容し、飼料CE−2(オリエンタル酵母工業(株))と飲料水を自由摂取させ、温度22±5℃、湿度50±10%、12時間明暗サイクルの環境下にある飼育室で飼育した。
【0141】
(ii)試験群構成および飼料の調製
マウスが12週齢に達した時点で、CM6271摂取群と対照群(CM6271非摂取群)の2群に無作為に分け、実験を開始した。
【0142】
CM6271摂取群には、動物用飼料CE−2(日本クレア(株))の粉末1kgに実施例1で調製したCM6271 20gを充分に混合し、2%CM6271含有飼料を調製し、試験開始日から、連日、自由摂取させた。
【0143】
一方、対照群には、飼料CE−2の粉末にCM6271の代わりにコーンスターチを添加した飼料(2%コーンスターチ含有飼料。対照飼料)を調製し、試験開始日から、連日、自由摂取させた。
【0144】
(iii)処置
〈実験I: 生存期間および尿タンパク質の経時的変化〉
実験Iでは、各群8匹とし、マウスの生存期間および尿タンパク質の経時的変動を検討した。実験期間中、マウス症状および生死の有無を毎日観察し、死亡マウスは剖検して原因を調べた。尿は4週の間隔でサンプリングし、「ヘマコンビスティックス」(登録商標。バイエルメディカル(株))を用い、添付文書の方法に準じて、呈色反応で生じた色調を、容器に貼付してある標準色と比較して、5段階判定した。すなわち、タンパク質量が検出限界以下のものをグレード0、タンパク質30〜99mg/dLの範囲をグレード1、タンパク質100〜299mg/dLの範囲をグレード2、タンパク質300〜999g/dLの範囲をグレード3、タンパク質1000mg/dL以上をグレード4とした。
【0145】
〈実験II: 血清の抗DNA抗体の測定、および脾のサイトカイン遺伝子発現測定〉
実験IIでは、各群4匹とし、マウスが8ヶ月齢に達した時点でエーテル麻酔死させ、採血して血清を得るとともに、脾を摘出した。抗DNA抗体価測定のために、血清は測定まで−80℃で凍結保存した。サイトカイン遺伝子発現測定のために、脾はただちに液体窒素中に入れて急速凍結し、その後、−80℃で凍結保存した。
【0146】
1.血清の抗DNA抗体の測定
血清の抗DNA抗体の測定は、ELISA法により行った。すなわち、96ウエルの平底培養用プレート(日本ベクトン・ディッキンソン(株))の各ウエルに、0.001%プロタミン硫酸(シグマアルドリッチジャパン(株))溶液を100μL分注し、25℃で90分間放置後、蒸留水で3回洗浄した。次いで、ウシ胸腺DNA(シグマアルドリッチジャパン(株))溶液(溶媒:pH8.0の0.015Mクエン酸ナトリウム)5μg/mLを、上記プレートの各ウエルに50μL分注し、37℃の恒温器に20時間おき、乾燥させた。次に、pH7.4のリン酸緩衝化生理食塩水(以下「PBS」と記す)にTween20(アマシャムバイオサイエンス(株))を溶解させた液(以下「洗浄液」と記す)で各ウエルを3回洗浄した。洗浄液と仔ウシ血清の等量液(「ブロッキング溶液」)を調製し、プレートの各ウエルに100μL分注し、25℃で60分間放置後、洗浄液でウエルを3回洗浄した。
【0147】
次に、上記凍結保存した検体(NZB/W F1マウス血清)を解凍し、1%ウシ血清アルブミン溶液(溶媒:PBS)で100倍に希釈後、上記プレートの各ウエルに100μL分注し、25℃で60分間放置後、洗浄液で3回洗浄した。西洋わさび由来パーオキシダーゼ(HRP;Horse Radish Peroxidase)標識ヤギ抗マウス全IgG、IgG1、IgG2a、IgG2bおよびIgG3抗体(Cappel社、米国)を1%ウシ血清アルブミン溶液で1000倍に希釈した液(「二次抗体液」)を各ウエルに50μL分注し、25℃で60分間放置後、洗浄液で3回洗浄した。他方、o−フェニレンジアミドジクロリド錠剤(和光純薬(株))10錠を、1Mクエン酸・リン酸ナトリウム溶液50mLに溶解させ、さらに過酸化水素水75μLを加えて発色液を調製した。次いで、この発色液を各ウエルに50μL分注し、25℃で10分間発色後、2N硫酸を50μL分注して反応を停止させ、プレートリーダーを用いて、波長492mnの吸光度を測定した。
【0148】
2.脾のサイトカイン遺伝子発現測定
脾のサイトカイン遺伝子発現はRT−PCR法により行った。すなわち、上記凍結保存した検体(脾)を、トリゾール(TRIzol)試薬(Life Technologies Inc., 米国)中でホモゲナイズし、チョムゼンスキーとサッチの方法(Chomczynski P & Sacchi N., Single-step method of RNA isolation by acid guanidium thiocyanate-phenol-chloroform extraction, "Anal. Biochem." 162: 156-159, 1987)に準じて、全RNAを調製した。スーパースクリプト逆転写酵素(Superscript reverse transcriptase)(Life Technologies Inc., 米国)、ランダム・ヘキサマー(random hexamers)、およびデオキシヌクレオチド三リン酸(deoxynucleotide triphosphate)存在下、メーカーの使用説明書に従って、RNAサンプルを逆転写させcDNAsを調製した。Taq DNAポリメラーゼ(Perkin Elmer Corp.,米国)、デオキシヌクレオチド三リン酸(deoxynucleotide triphosphate)およびプライマー対の存在下、PCR法により、cDNAs(25ng)を増幅させた。実験に用いたセンス・プライマーおよびアンチセンス・プライマーの塩基配列は次の通りである。β−アクチン(β-actin)のセンス・プライマー〔Harada M et al. : Role of the endogenous production of interleukin 12 in immunotherapy. "Cancer Res.", 58: 3073-3077, 1998〕:5'-TGGAATCCAGTGGCATCCATGAAAC-3';β−アクチン(β-actin)のアンチセンス・プライマー:5'-TAAAACGCAGCTCAGTAACAGTCCG-3';IL−10のセンス・プライマー〔Gajewski TF & Fitch FW: Anti-proliferative effect of IFN-γ in immune regulation. 1. IFN-γ inhibits the proliferation of Th2 but not Th1 murine helper T cell clones, "J. Immunol" 140: 4245-4252, 1988〕:5’−CATTTCCGATAAGGCTTGC−3’;IL−10のアンチセンス・プライマー:5’−CGGGAAGACAATAACTG−3’;IFN−γのセンス・プライマー〔Lee FF et al., : Isolation and characterization of a mouse interleukin cDNA clone that expresses B-cell stimulatory factor 1 activities and T-cell- and mast-cell-stimulating activities, "Proc. Natl. Acad. Sci.", USA 83: 2061-5, 1986〕:5’−GACTTCAAAGAGTCTGAGG−3’;IFN−γのアンチセンス・プライマー:5’−AACGCTACACACTGCATCTTGG−3’。
【0149】
次に、臭化エチジウム(EtBr)を含有する2%アガロース・ゲルを用いて、PCR産物を電気泳動し、Bio-Rad Multi-Analyst System(日本バイオ・ラッドラボラトリーズ(株))を用いてスポット度を測定した。PCRの条件とサイクル数は、個々のサイトカインプライマー対で厳密に管理し、インプットRNAとPCR最終産物との間に直線の関係が得られるようにした。さらに、cDNA増幅産物とゲノムDNAを識別できるように、プライマーは、エクソン(exons)部分に加え、ゲノムDNAイントロン(genomic DNA intorns)部分を増幅するように設計した。個々のアッセイでは、コンカナバリンA(ConcanavalinA)−またはLPS−刺激マウス脾細胞由来全RNAを同時測定し、cDNAのPCR産物のみを検知できるようにした。また、実験には、DNAの汚染のない試薬類を用いた。
【0150】
(iv)成績
〈実験I: 生存期間および尿タンパク質の経時的変化〉
生存期間に関しては、1群8匹のNZB/W F1マウスに、CM6271添加飼料またはコーンスターチ添加飼料(対照飼料)を与えて経過を観察した(図1)。図1に示すように、CM6271摂取群の生存期間はコーンスターチ添加飼料摂取群(対照群)に比べて有意に延長された。すなわち、実験開始10ヶ月の時点で、対照群の生存率25.0%(2/8)に比し、CM6271摂取群のそれは50%(4/8)であり、p値5%以下で有意差があった。
【0151】
尿タンパク質に関しては、コーンスターチ添加飼料摂取群(対照群)では4ヶ月齢時に陽性反応が検出され、10ヶ月齢時では陽性率は75%に達した(図2)。一方、CM6271摂取群では、7ヶ月齢時に陽性個体が現れたが、10ヶ月齢での陽性率は50%であり、統計学的に有意差が認められた。さらに、10ヶ月齢時点、CM6271摂取群の尿タンパク質グレードの平均値は2.3であり、対照群の3.3に比べて低値を示した(図3)。なお、死亡直前に尿検査を実施したところ、すべてのマウスで尿タンパク質はグレード4であり、腎不全状態と推定された。
【0152】
〈実験II: 血清の抗DNA抗体の測定、および脾のサイトカイン遺伝子発現測定〉
血清の抗DNA抗体に関しては、8ヶ月齢マウス血清の全IgGおよびIgG2a抗DNA抗体価はCM6271摂取群で低値を示したが(図4)、IgG1、IgG2bおよびIgG3抗体価は両群間でほとんど差がなかった。
【0153】
8ヶ月齢マウス脾のサイトカイン発現に関しては、CM6271摂取群でIFN−γ(Th1サイトカイン)遺伝子発現の促進とIL−10(Th2サイトカイン)遺伝子発現の低下を認めた(図5)。図5中、縦軸の「相対強度」は、β−アクチンのスポットの強さに対するサイトカインのスポットの強さを示す。
【0154】
以上の結果から明らかなように、CM6271は、NZB/W F1マウスの生存期間を延長するとともに、尿タンパク質の出現を遅らせ、抗DNA抗体を抑制し、Th2機能を抑制、Th1機能を促進することが示唆された。一般にTh1細胞よりTh2細胞が優位に働いている状態全身では、免疫グロブリンを主体とした液性免疫が主体であり、本実施例で示されるように自己抗体が顕著に現れる。ヒト全身性自己免疫疾患の多くはTh2介在性自己免疫疾患と考えられている。したがって図5に示す結果から、CM6271投与により自己免疫疾患に対する予防・治療効果が期待される。
【0155】
(実施例3)
[ミエリンタンパク質誘発自己免疫疾患モデルに対する作用]
マウスをミエリン抗原で免疫すると、エフェクターT細胞が誘導されて、中枢神経系が障害を受け、実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE;experimental autoimmune encephalomyelitus)を発症する。ヒト急性散在性脳脊髄炎(ADEM;acute disseminated encephalomyelitis)や多発性硬化症(MS;multiple sclerosis)の動物モデルであるEAEは、自己免疫発症のメカニズム研究や治療方法開発に汎用されている。そこで、本系を用いて、CM6271がEAEの発症および症状に及ぼす影響を検討した。
【0156】
(i)試験動物
日本チャールスリバー(株)から7週齢のSPFグレード雌性SPF/VAF SJL/JOrlCrlCrlj(SJL/J)を購入し、予備飼育の後、試験に供した。マウスの飼育条件と飼育環境は実施例2と同じである。
【0157】
(ii)マウスへのミエリン抗原免疫処置
PLP(タンパク脂質)は神経軸索を囲む髄鞘(ミエリン鞘)の主要成分で、PLP139-151は、自己免疫疾患モデル作成時の抗原として汎用されていることから、このPLP139-151をマウスに免疫した。
【0158】
すなわち、マウスが8週齢に達した時点で、マイクロホモゲナイザーにタンパク脂質PLP139-151(HGLGKWLGHPD KF、純度95%以上、Pepceuticals社、米国)300μg、フロイント不完全アジュバント(Freund Incomplete Adjuvant)(Difco社、米国)3.0mL、結核菌(Mycobacterium tuberculosis H37RA)(Difco社、米国)300mgを加えて全容量を3mLに調整した後、ホモゲナイズしてエマルジョン状態にし、マウスのフットパッド(foot pad。後肢足蹠部)に0.1mLずつ注射した。
【0159】
(iii)飼料の調製および試験群構成
次いで、上記免疫処置を施した処置マウスを2群(対照群とCM6271摂取群)に割り振った。
【0160】
CM6271摂取群には、動物用飼料CE−2(日本クレア(株))の粉末1kgに実施例1で調製したCM6271 20gを充分に混合し、2%CM6271含有飼料を調製し、試験開始翌日から、連日、自由摂取させた。
【0161】
一方、対照群には、飼料CE−2の粉末にCM6271の代わりにコーンスターチを添加した飼料(2%コーンスターチ含有飼料)を調製し、試験開始翌日から、連日、自由摂取させた。
【0162】
(iv)実験方法
〈実験III〉
実験IIIでは、各群8匹とし、生死およびEAE症状の有無を、2ヶ月間、毎日観察した。症状は6段階で判定した。すなわち、全く病変を認めないものをスコア0、元気なく、じっとしているが麻痺はない症状をスコア1、軽い麻痺があり、立ち直り反射に時間がかかる症状をスコア2、明らかに後肢麻痺があり、ヨタヨタと歩く症状をスコア3、完全に後肢麻痺があって後肢は動かないが、前肢は動く状態をスコア4、四肢が麻痺し、死戦期にあるスコア5、および死亡をスコア6とした。
〈実験IV〉
実験IVでは、各群4匹とし、PLP139-151処置21日目のマウス脾のIFN−γ遺伝子発現を、実施例2と同様の方法により、RT−PCR法を用いて検討した。
【0163】
(v)成績
〈実験III〉
1群8匹のPLP139-151処置マウスに、CM6271添加飼料またはコーンスターチ添加飼料(対照飼料)を与えて連日症状を観察したところ、処置11日目以降、対照群に症状が観察され、実験期間中、スコア値は2前後を経緯した。一方、CM6271摂取群では、症状の発生時期が遅れ、スコア値も1前後を経緯して低かった(図6)。
〈実験IV〉
次に、処置21日目のマウス脾IFN−γ遺伝子発現を調べたところ、CM6271摂取群では、対照群に比し、遺伝子発現の促進が認められた(図7)。図7中、縦軸の「相対強度」は、β−アクチンのスポットの強さに対するサイトカインのスポットの強さを示す。
【0164】
(まとめ)
2種類のマウス自己免疫疾患モデルを用いて、CM6271の作用を調べた。
【0165】
(1)SLEの自然発症モデルであるNZB/W F1マウスにおいては、CM6271は生存期間を延長するとともに、尿タンパク質の出現を遅らせ、血清の抗DNA抗体産生を抑制し、脾のIL−10遺伝子発現を抑制、IFN−γ遺伝子発現を促進した
【0166】
(2)ミエリン誘発のEAEモデルマウスにおいては、CM6271は症状を緩和するとともに、脾のIFN−γ遺伝子発現を促進した。
【0167】
以上の成績は、CM6271がTh1機能促進を介して、自己免疫疾患を改善することを示唆している。
【図面の簡単な説明】
【0168】
【図1】実施例2における、NZB/WF1マウスの生存期間に及ぼすCM6271投与の影響を示すグラフである。
【図2】実施例2における、NZB/WF1マウスの尿タンパク質発生頻度に及ぼすCM6271投与の影響を示すグラフである。
【図3】実施例2における、NZB/WF1マウスの尿タンパク質レベルに及ぼすCM6271投与の影響を示すグラフである。
【図4】実施例2における、NZB/WF1マウス血清の抗DNA抗体価(全IgG抗体、IgG2a抗体)に及ぼすCM6271投与の影響を示すグラフである。
【図5】実施例2における、NZB/WF1マウス脾のサイトカイン遺伝子発現(IFN−γ、IL−10)に及ぼすCM6271投与の影響を示すグラフである。
【図6】実施例3における、PLP免疫マウスのEAE症状に及ぼすCM6271投与の影響を示すグラフである。
【図7】実施例3における、PLP免疫マウス碑のIFN−γ遺伝子発現に及ぼすCM6271投与の影響を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マツタケ(Tricholoma matsutake)またはその抽出物を含む、自己免疫疾患予防・治療剤。
【請求項2】
マツタケ(T. matsutake)が菌糸体、培養物(Broth)または子実体(胞子を含む)である、請求項1記載の自己免疫疾患予防・治療剤。
【請求項3】
マツタケ(T. matsutake)がFERM BP−7304株である、請求項1または2記載の自己免疫疾患予防・治療剤。
【請求項4】
マツタケ(T. matsutake)がFERM BP−7304株の菌糸体の乾燥粉末である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の自己免疫疾患予防・治療剤。
【請求項5】
マツタケ抽出物が、FERM BP−7304株の菌糸体の熱水抽出液またはアルカリ溶液抽出液、である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の自己免疫疾患予防・治療剤。
【請求項6】
マツタケ(Tricholoma matsutake)またはその抽出物を含む、自己免疫疾患予防・治療のための食品。
【請求項7】
マツタケ(T. matsutake)が菌糸体、培養物(Broth)または子実体(胞子を含む)である、請求項6記載の食品。
【請求項8】
マツタケ(T. matsutake)がFERM BP−7304株である、請求項6または7記載の食品。
【請求項9】
マツタケ(T. matsutake)がFERM BP−7304株の菌糸体の乾燥粉末である、請求項6〜8のいずれか1項に記載の食品。
【請求項10】
マツタケ抽出物が、FERM BP−7304株の菌糸体の熱水抽出液またはアルカリ溶液抽出液、である、請求項6〜9のいずれか1項に記載の食品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−269703(P2007−269703A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−97822(P2006−97822)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(000001100)株式会社クレハ (477)
【Fターム(参考)】