説明

自己組織化式の可撓性かつ軽量のリチウム電池のためのウイルス骨格

金属酸化物を含む種々の組成物、その組成物の1種以上を含むフィルムおよび電池、ならびにそれらを作製する方法。本発明は、金属酸化物を含む種々の複合材料、フィルム、および、1種以上の複合材料を含む電池、ならびに、これらの作製方法を提供する。一局面において、本発明は、第一ペプチドに配位させた金属酸化物を提供し、この第一ペプチドは、金属の還元形態に対する親和性を示す。本発明の特定の実施形態において、金属は、遷移金属(例えば、コバルト、バナジウム、ニッケル、マンガン、鉄、カドミウム、タングステン、クロム、ジルコニウム、チタン、スカンジウム、イットリウム、銅、カルシウム、アルミニウム、バリウム、ベリリウム、マグネシウムおよびストロンチウム)を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2004年10月19日に出願された、米国仮出願第60/620,522号(この出願の全内容は、本明細書中に参考として援用される)に対する優先権を主張する。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、生物鋳型を用いた、充電式のリチウムイオン電池のための電極を生成することに関する。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
携帯用のデバイスに対する要求の増大が、エネルギー密度が高い小型の充電式電池の開発を駆動している。リチウムイオン電池は、他の型の電池と比べて、比エネルギーがより高く(100〜150Wh/kg)、比電力がより高く(150〜250W/kg)、そして、寿命がより長い(1000サイクルより長い)ので、最適なシステムである。これらの利点は、この電池の高い電圧(2.4〜4.6V)および、リチウムキャリアイオンの高い理論上の容量密度(3862 Ah/kg)から生じる。リチウムイオン電池の性能は、そのアノードおよびカソードにおいて使用されるインターカレーション材料によってひどく影響を受ける(非特許文献1)。インターカレーション材料の固有の特性は、セルの電圧、容量および安定性を決定し、これは次いで、個々のサイクル寿命と、電池の総寿命を決定する。
【0004】
炭素質の化合物(例えば、黒鉛およびコークス)は、リチウムイオン電池におけるアノード材料として広く使用されている。なぜならば、これらの電気化学ポテンシャルは、リチウム金属の電気化学ポテンシャルに類似しており、そして、リチウム金属のアノードとは異なり、これらは、樹枝状結晶を形成しないからである。公知のリチウム/遷移金属酸化物[LiMO(M:Co,Fe,Mn,Ni..)]の多くおよびナノチューブ(例えば、カーボンナノチューブおよびTiOナノチューブ(非特許文献2、非特許文献3))は、カソード材料としての使用について研究されている。
【0005】
層状のニッケル酸リチウム(LiNiO)は、その好都合の比容量に起因して、カソード材料として考えられる、最初のリチウム−金属酸化物の1つであった(非特許文献4)。しかし、脱リチウムされたLiNiOの層状の結晶構造は、有機電極の発熱性の酸化の後に崩壊することが分かった。層状構造の崩壊は、電極/電解質界面におけるリチウム原子の蓄積をもたらす。蓄積したリチウム原子は、樹枝状結晶を形成し、これは、分離帯に侵入して、電池内部で短絡を生じ、爆発を引き起こし得る。一方で、脱リチウムされたコバルト酸リチウム(LiCoO)の結晶構造は、LiNiOの結晶構造よりも安定である。LiCoOは、市販のリチウムイオン電池において広く使用されている;しかし、LiCoOの容量(約150mAh/g)は、LiNiOの容量(約250mAh/g)よりも小さい。
【0006】
インターカレーション材料の容量および安定性を改善するために、いくつかのルートが研究されている。例えば、リチウム−金属酸化物は、不活性な、二価、三価または四価のカチオン性元素(例えば、TiおよびMg)をドープされる。これらの元素は、NiまたはCoに取って代わり、そして、インターカレーション材料の層状構造を安定化させる。しかし、このLiM1−xTiMg(M:CoまたはNi)相(非特許文献5)は、合成が困難である。別のアプローチは、層状のマンガン酸リチウム(LiMnO)相を合成するために、ソフト化学(chimie douce(soft chemistry))を用いる。しかし、この層状の相は、構造的に不安定であり、そして、使用中に不安定なスピネルLiMnへと移行する(非特許文献6)。電気化学的には魅力的であるが、これらの材料は、限られたサイクル寿命と蓄積容量とを示す。
【0007】
リチウムがインターカレートした材料の形状または組織を調整して、多孔性の、表面積の大きい複合材料を生成することは、電極の容量および安定性を改善するための代替的な戦略を提供する。例えば、メソ多孔性の酸化バナジウム(V)から生成した電極は、多結晶の非孔性V粉末の電極よりも100%まで大きい容量を有することが報告された(非特許文献7)。
【非特許文献1】J.−M.Tarascon and M.Armand,「Issue and challenges facing rechargeable lithium batteries」,Nature 414,359−367(2001)
【非特許文献2】G.Che,B.B.Lakshmi,E.R.Fisher and C.R.Martin,「Carbon nanotuble membranes for electrochemical energy storage and production」,Nature 393,346−349(1998)
【非特許文献3】Y.Zhou,L.Cao,F.Zhang,B.He,H.Li,「Lithium insertion into TiO2 nanotube prepared by the hydrothermal process,J.Electrochem.Soc.150,A 1246−A1249(2003)
【非特許文献4】J.R.Dahn,U.Von Sacken,M.W.Juzkow,H.Al−Janaby,「Rechargeable LiNiO2/carbon cells」,J.Electrochem.Soc.138,2207−2211(1991)
【非特許文献5】G.Yuan,M.V.Yakovleva,W.B.Ebner,「Novel LiNi1−xTix/2Mgx/2O2 compounds as cathode materials for safer lithium ion batteries」,Electrochem.Solid State Lett.1,117−119(1998)
【非特許文献6】B.Ammundsen,et. al.,Proc.Int.Symp.Electrochem.Soc.Vol.99−24,57−67(ECS,Pennington,NJ,2000)
【非特許文献7】W.Donga,D.R.Rolison,B.Dunn,「Electrochemical properties of high surface area vanadium oxides aerogels」,Electrochem.Solid State Lett.3,457−459(2000)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
依然として、改善された容量および安定性を示すリチウムイオン電池のための電極材料を提供することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(発明の要旨)
本発明は、金属酸化物を含む種々の複合材料、フィルム、および、1種以上の複合材料を含む電池、ならびに、これらの作製方法を提供する。
【0010】
一局面において、本発明は、第一ペプチドに配位させた金属酸化物を提供し、この第一ペプチドは、金属の還元形態に対する親和性を示す。本発明の特定の実施形態において、金属は、遷移金属(例えば、コバルト、バナジウム、ニッケル、マンガン、鉄、カドミウム、タングステン、クロム、ジルコニウム、チタン、スカンジウム、イットリウム、銅、カルシウム、アルミニウム、バリウム、ベリリウム、マグネシウムおよびストロンチウム)を含む。本発明の特定の実施形態において、金属酸化物は、酸化された金属ナノ粒子である。本発明の特定の実施形態において、金属酸化物は、リチウムイオンをインターカレートし得る。
【0011】
本発明の特定の実施形態において、第一ペプチドは、カルボキシル化されたアミノ酸(carboxylated amino acid)を含む。特定の実施形態において、第一ペプチドの配列は、AEEEEDであり、そして、金属はコバルトである。ペプチドは、ウイルスの一部であり得る。
【0012】
本発明の特定の局面において、組成物は、さらに、銅、ニッケル、金、銀、白金およびパラジウムから選択される所定の金属に選択的に結合する、第二ペプチドを含む。本発明のこれらの局面の特定の実施形態において、第二ペプチドの配列は、LKAHLPPSRLPSであり得、そして、所定の金属は、金であり得る。
【0013】
所定の金属に選択的に結合する第二ペプチドを含む組成物は、さらに、所定の金属を含み得る。所定の金属は、例えば、約1%と約30%との間のウイルスのタンパク質被膜に配位させた金属であり得る。いくつかの実施形態において、所定の金属は、約15%と約30%との間のウイルスのタンパク質被膜に配位させた金属である。本発明の特定の実施形態において、ウイルス上の所定の被膜タンパク質の第一の部分は、第一ペプチドを含み、そして、所定の被膜タンパク質の第二の部分は、第二ペプチドを含む。第一ペプチドは、第一の所定の被膜タンパク質の一部であり得、そして、第二ペプチドは、第二の所定の被膜タンパク質の一部であり得る。
【0014】
別の局面において、本発明は、以下を含む工程によって生成される組成物を提供する:(i)金属イオンに対する親和性を示す第一ペプチドを提供する工程;(ii)第一ペプチドに金属を配位させる工程;および(iii)配位させた金属を酸化して、金属酸化物のクリスタライト(crystallite)を形成する工程。本発明の特定の実施形態において、クリスタライトは、2nmと1000nmとの間のサイズを有する。本発明のこの局面の特定の実施形態において、第一ペプチドを提供する工程は、第一ペプチドをディスプレイするウイルス集団を提供する工程を含む。本発明はさらに、上記組成物を提供し、この組成物において、実質的に全てのウイルスが組成物から除去されている。
【0015】
別の局面において、本発明は、上記組成物のいずれかを含むフィルムを提供する。このフィルムは、例えば、長距離秩序または短距離秩序を示し得る。本発明の特定の実施形態において、フィルムは、長距離秩序を示さない。本発明の特定の実施形態において、フィルムは、短距離秩序を示さない。フィルムは、約10nmと約10μmとの間の厚みであり得る。
【0016】
別の局面において、本発明は、(i)電解質;および(ii)電解質に隣接して配置されたリチウム蓄積層を備える、リチウムイオン電池を提供し、このリチウム蓄積層は、上記組成物のいずれかを含む。この電池は、さらに、リチウム蓄積層に隣接する電極材料を備え得、ここで、リチウム蓄積層は、電極材料と電解質との間に堆積される。電解質は、固体または流体であり得る。
【0017】
別の局面において、本発明は、薄膜の生成方法を提供し、この方法は、以下の工程を包含する:(i)複数のナノチューブを提供する工程であって、このナノチューブは、金属酸化物が配位されたウイルスを含む、工程;および(ii)複数のナノチューブをフィルムへと成型する工程。この方法の特定の実施形態において、複数のナノチューブを提供する工程は、(i)金属に対する親和性を示す第一ペプチドを含むウイルス集団を提供する工程;(ii)第一ペプチドに金属を配位させる工程;および(iii)配位させた金属を酸化して、ウイルスの周囲に堆積される金属酸化物のクリスタライトを形成する工程、を包含する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
(特定の好ましい実施形態の詳細な説明)
M13バクテリオファージは、約2700コピーの主要被膜タンパク質である、pVIIIタンパク質を含み、これは、ウイルスDNAに沿って長手軸方向に組織化される。さらに、数コピーの少数被膜タンパク質(pIIIタンパク質、pVIタンパク質、pVIIタンパク質およびPIXタンパク質)が、ウイルスの2つの末端において組織化される。この固有の断続的かつ均一な構造は、遺伝的に制御される。したがって、本発明者らは、M13バクテリオファージのこの特別の性質を使用して、改善された構造安定性とより高い容量を示す、用途に合わせたナノ構造の電極材料を作製し得る。
【0019】
一実施形態において、M13バクテリオファージの主要被膜タンパク質は、金属イオンまたはナノ粒子に特異的に結合するように、遺伝的に操作され得る。金属酸化物のナノチューブは、この操作されたウイルス鋳型を用いて合成される。バクテリオファージの異方性の構造に起因して、ウイルスベースの金属酸化物ナノチューブは、メソ多孔性のナノ結晶フィルムへと自己組織化する。ウイルスベースのナノチューブを通るリチウムのインターカレーション、ならびに、その高い比表面積は、フィルムの、リチウムイオンのための容量を大いに高め得る。さらに、M13ウイルスの高度に方向付けられた螺旋状の主要被膜タンパク質は、個々のウイルスベースのナノチューブの構造的安定性を促進し、そして、これのナノチューブを組み込むリチウムイオン電池の総寿命を延長する。fl、fdおよびタバコモザイクウイルス(TMV)のような他のウイルスもまた、本発明の実施形態において使用され得る。
【0020】
(リチウムイオン電池のためのメソ多孔性薄膜)
本発明の一実施形態にしたがって、ウイルスベースの金属/酸化物ナノチューブを用いて生成されたフィルムは、リチウムイオン電池のあらゆる部分に使用され得る。リチウムイオン電池は、電池内での電荷キャリアとしてリチウムイオンを採用し、電池から負荷装置(load)へと循環する電子によって横切られる回路を完成させる。いくつかの先行技術の電池において、リチウムイオンは、電池のアノードにおいて、インターカレーション層(例えば、黒鉛層)内に挿入される。電池が放電するとき、リチウムイオンは、カソードから離れ、そして、電解質を横切ってアノードへと戻る。電池が充電されるとき、リチウムイオンはアノードから離れ、そして、電解質を横切って、カソードへと戻る。
【0021】
電極の結晶の微細構造の安定性は、リチウムイオン電池の寿命を決定づける。ウイルスベースのナノチューブの長距離秩序およびバクテリオファージ自体の剛性は、ウイルスベースのフィルムに良好な機械的特性を与える。さらに、タンパク質およびナノチューブ自体の両方が、ウイルスベースの薄膜を疲労に対して安定化させる。上述のように、脱リチウムされたリチウム−遷移金属酸化物は、崩壊する可能性がある。金属酸化物中へのリチウムイオンのインターカレーションは、金属酸化物を膨張させ;逆サイクルの間に、酸化物からのリチウムイオンの拡散が、膨張した酸化物を弛緩および収縮させる。この繰り返しの容積の変化は、固体の酸化物材料に割れを生じ得る。
【0022】
対照的に、ナノチューブは、互いに固定されないので、これらは、電池の放電の間にカソードフィルム内に取り込まれるリチウムイオンを収容し、そして、電池を充電する際にこれらのリチウムイオンの駆出から生じる容積の変化に適応するために、フィルム内でシフトし得る。同様に、ウイルス被膜における可撓性のタンパク質鎖もまた、ナノチューブ内に永続的な亀裂を生じることなく、カソードフィルム内にリチウムイオンを収容するためにシフトし得る。さらに、タンパク質の可撓性およびフィルムの可鍛性もまた、フィルムを通るリチウムイオンの拡散を促進し得る。M13の高度に方向付けられた螺旋状のタンパク質は、タンパク質により調節される層状の結晶構造および金属酸化物に対するその強力な結合親和性に起因して、微小構造を安定化させ得る。
【0023】
(ウイルスベースの金属酸化物ナノチューブの合成)
M13は、カプシドが、数種のタンパク質(pI〜pVIII)を含む、糸状のファージ(約880nmの長さ、および6nmの直径)である。M13ウイルスの一方の端には、pIIおよびpIXが各々約5コピーある。もう一方の端には、pIIIおよびpVIが各々約5コピーある。野生型のM13ウイルス被膜は、約2700コピーの主要被膜タンパク質pVIIIを含み、これらは、螺旋状の列で5つの単位において積み重なっている。種々のタンパク質は、ナノ材料に結合し、そして組織化(organize)し得る特定のペプチドモチーフを有するように、遺伝的に修飾され得る。このモチーフのアミノ酸配列は、ウイルスDNAに遺伝的に連結され、そして、ウイルスキャプシド内に収容されるので、このウイルス骨格の正確な遺伝コピーが、感染によって、細菌宿主内へと容易かつ迅速に作製され得る。一実施形態において、カルボン酸側鎖を含むグルタミン酸およびアスパラギン酸は、pVIIIタンパク質において遺伝子発現され、そして、キレート化を介して、種々の金属イオンに結合するために使用される。1つの例示的なペプチド配列は、AEEEED(配列番号1)(「配列E4」)である。5〜25アミノ酸、またはこれ以上のアミノ酸を含む、より長い配列(例えば、5〜19アミノ酸、10〜15アミノ酸、15〜20アミノ酸、または20〜25アミノ酸)もまた使用され得る。ペプチドのいずれかの端部にある末端アミノ酸は、カルボキシル化されても、そうでなくてもよいが;このペプチドは、ペプチドおよび金属の相互作用を干渉するアミノ酸を含まないことが好ましくあり得る。ペプチドにおけるグルタミン酸のアスパラギン酸に対する比は、100%グルタミン酸から100%アスパラギン酸までの範囲であり得る。あるいは、または、これに加え、不活性なペプチド配列が、カルボキシル化されたペプチド(carboxylated peptide)配列に結合されても、いくつかの他の材料に対して選択的なペプチドが、カルボキシル化されたペプチドに結合され得る。カルボン酸の富化は、全てのpVIII鎖において発現されても(100%のディスプレイ)、当業者に周知のバクテリオファージゲノムを修飾するための種々の技術を用いて、部分的にディスプレイされてもよい(9)。あるいは、または、これに加え、カルボン酸の富化は、他の被膜タンパク質のうちの1つ(例えば、pIII)において発現され得る。
【0024】
カルボン酸発現の程度のバリエーションは、ウイルスベースのナノチューブの立体構造および結晶構造を変更し得る。さらに、カルボン酸基、または、アスパラギン酸とグルタミン酸との異なる混合物の数のバリエーションもまた、酸化物の微細構造に影響を及ぼし得る。修飾されたウイルスに対する所望の金属またはその酸化物の親和性は、2003年4月17日に公開されたUS20030073104(この内容は、本明細書中に参考として援用される)に記載されるファージディスプレイライブラリー技術を用いて最適化され得る。ファージディスプレイは、ウイルスの「ランダムライブラリー」が目的の基質に対して露出される、組み合わせの技術である。いくつかの実施形態において、ランダムライブラリーは、各々が固有に改変された、およそ1011ウイルス(約10のバリエーションを表す)を含む。改変は、ウイルス集合体の被膜タンパク質のうちの1つにおいて発現される、さらなるアミノ酸配列の形態をとり得る。種々の量のカルボン酸、および、アスパラギン酸とグルタミン酸との比を含むペプチドは、金属または酸化物の表面に対するその親和性について試験され得る。
【0025】
本明細書中で使用される場合、用語「ペプチド」は、ペプチド結合によって互いに連結された少なくとも2つのアミノ酸のストリング(string)を示す。ペプチドは、個々のペプチド、または、ペプチドのコレクションを指し得る。ペプチドは、天然のアミノ酸のみを含み得るが、非天然のアミノ酸(すなわち、天然には存在しないが、ポリペプチド鎖内に組み込まれ得る化合物、および/または、当該分野で公知のアミノ酸アナログが代替的に使用され得る。また、ペプチド中の1以上のアミノ酸が、例えば、化学的実体(例えば、炭化水素基、リン酸基、ファネシル基、イソファネシル基、脂肪酸基、結合体化、官能化または他の修飾のためのリンカー、など)を加えることによって、修飾され得る。一実施形態において、ペプチドの修飾は、より安定なペプチド(例えば、インビボにおける半減期がより長い)をもたらす。これらの修飾としては、ペプチドの環化、Dアミノ酸の組み込みなどが挙げられ得る。修飾のいずれもが、ペプチドの所望の活性と実質的に干渉しないはずである。
【0026】
リチウムイオン電池は、しばしば、繰り返しの充電サイクルの後に、電圧の遅れ(decay)を示す。これにより、電池の寿命が短くなる。というのも、特定の数の充電の後に、電池の容量は、妥当な電池の寿命または十分な電力を提供し得ないからである。この作用に対する1つの可能性のある寄与因子は、互いに対する、そして、電池のカソードおよびアノードにおける不純物に対する、リチウムイオンの不可逆的な結合である。いくつかの電池において、固体の電解質界面が、電極、特に、グラファイトアノードと、電解質との間に設けられ、電極へのリチウムイオンの移動を防止する。イオンがいかなる方法によっても電極に移動しない場合、回路は、電極から固体の電解質界面材料へと電子を伝導することによって維持され得る。
【0027】
ファージディスプレイの使用は、イオン伝導体および導電体の両方を同時に配置する方法を提供する。一実施形態において、導電体に選択的に結合するペプチド配列が、ウイルスのタンパク被膜へと組み込まれ得る。例えば、所望の触媒(例えば、銅、金、銀、ニッケル、白金、パラジウムなど)に選択的なペプチド配列を同定するために、バイオパニングが使用され得る。金に選択的に結合する例示的なペプチドは、LKAHLPPSRLPS(配列番号2)である。このペプチドは、金属酸化物に結合する修飾被膜タンパク質とは異なる被膜タンパク質において発現され得る。あるいは、または、これに加え、ペプチドは、金属酸化物のためのペプチドが発現される被膜タンパク質と同じ被膜タンパク質(例えば、pVIII)の一部分において発現され得る。いくつかの実施形態において、1つの被膜タンパク質におけるバリエーションのライブラリーを用いるバイオパニングが、ペプチドが異なる被膜タンパク質において発現されるようにポリヌクレオチドが操作されるペプチド配列を同定するために使用される。
【0028】
これは、金属酸化物に選択的なペプチド配列および伝導体に選択的なペプチド配列が、まさに同じタンパク質分子において発現されるということではなく、両方のペプチドが、特定の被膜タンパク質が見られるウイルスの領域において見られる、ということである。例えば、数コピーのpVIIIタンパク質は、導電体に対して選択的なペプチドを含み得、一方で、他のpVIIIタンパク質は、金属酸化物に対して選択的なペプチドを含み得る。2つの別々に操作されたペプチド配列を、同じウイルス上に発現させるための技術は、Namら,Nanoletters,2004,Vol.4(1):23−27(この全内容は、本明細書中に参考として援用される)において考察される。簡単に述べると、触媒選択的なペプチド−被膜タンパク質融合体を発現するように既に操作されたM13プラスミドとは別のプラスミドを用いる、ファージミド系(Kayら,Phage Display of Peptides and Proteins:A laboratory Manual;Academic Press:San Diego,1996(この全内容は、本明細書中に参考として援用される))が採用される。ファージミドに由来するDNAは、ウイルス、ならびに、操作されたM13プラスミド内へとパッケージ化され、所望される場合、さらなるコピーのウイルスが繁殖することを可能にする。いくつかの実施形態において、せいぜい約20〜30%の主要被膜タンパク質、または、0コピー〜5コピーの副被膜タンパク質(例えば、pIX)が、触媒選択的なペプチド配列を示す。
【0029】
修飾ペプチドのいずれか片方または2つの型を発現する、得られたウイルスは、次いで、導電体を有するかまたは有さないで、金属酸化物のナノ粒子を有核にする(nucleate)ために使用され得る。いくつかの従来技術に必要とされる高温(>150℃)とは対照的に、ナノ粒子およびナノ細管は、室温で生成され得る。一実施形態において、pVIII−操作されたM13ウイルスは、約1mM〜約5mMの濃度の金属塩前駆体(例えば、塩化コバルト)と共に、インキュベートされる。溶液中の金属イオンは、カルボン酸リガンドによってキレート化される。キレート化された金属イオンは、次いで、例えば、約10mM〜約100mMの、水酸化ナトリウム(NaOH)のような塩基溶液を加えることによって酸化される。あるいは、金属ナノ粒子は、ウイルスが懸濁された金属塩溶液に、約5mM〜約10mMの還元剤(例えば、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)またはヒドラジン(N))を加えることによって、ウイルスの主要被膜タンパク質において有核され、そして、この被膜タンパク質上で大きくされ得る。ウイルスは、ナノ粒子で完全に被覆され、金属ナノチューブを形成する。ナノ構造体における金属材料は、非常に反応性であるので、金属ナノチューブは、水溶液中で、または、空気中で容易に酸化され、結晶性金属酸化物ナノ粒子から構成されるナノチューブを生成する。別の実施形態において、ウイルス骨格は、例えば、セラミック相を邪魔することなく、ウイルスタンパク質を破壊または溶解する、酵素または溶媒を用いて、ナノチューブから除去され得る。
【0030】
生成条件は、酸化物ナノ粒子のナノ構造を修正するために変更され得る。ナノ粒子のサイズは、大まかに温度と共に変動する。温度を低下させることによって、より小さな粒子が生成され得、一方で、温度を上昇させることによって、より大きな粒子が生成され得る。ウイルスシステムは、約4℃〜約80℃で安定であり;他の鋳型(例えば、ペプチド、核酸など)は、異なる温度範囲において安定である。粒子は、直径約2nm〜約1μm(例えば、2nmと100nmとの間、100nmと500nmとの間、または、500nmと1000nmとの間)の範囲であり得る。
【0031】
単に、導電体の塩を溶液(この中で金属イオンがウイルスに結合される)に加えることによってか、または、別の溶液を使用することによって、導電体を操作されたウイルスにキレート化させるために、同じ化学が使用され得る。導電体は、必要に応じて還元され得る。あるいは、または、これに加え、ウイルスは、導電体のナノ粒子のコロイド溶液と共にインキュベートされ得る。ウイルスにおける適切なペプチドの比率にかかわらず、導電体の遷移金属酸化物に対する比率は、溶液中の導体、もしくは、その塩の濃度を調節することによってか、または、インキュベーション時間を変えることによって、調節され得る。
【0032】
いずれかの実施形態において、ナノチューブの直径は、被膜タンパク質において発現されるカルボキシル化されたアミノ酸の量、および/または、金属イオン前駆体の、塩基性反応物質もしくは還元剤に対するモル比を操作することによって調節され得る。この比率はまた、これらのナノチューブ上のナノ粒子の、均一性、サイズおよび結晶構造を決定する。
【0033】
別の実施形態において、代替的な金属酸化物(例えば、MnまたはV)が、本明細書中に記載される技術を用いて、ナノチューブへと形成され得る。本発明の実施形態に従ってナノチューブを生成するために使用され得る他の金属としては、遷移金属(例えば、ニッケル、鉄、カドミウム、タングステン、クロム、ジルコニウム、チタン、スカンジウム、イットリウム、銅など)が挙げられる。いくつかの実施形態において、非遷移金属酸化物が、ナノチューブへと形成され得る。本発明と共に使用するために開発(exploit)され得る例示的な金属としては、カルシウム、アルミニウム、バリウム、ベリリウム、マグネシウムおよびストロンチウムが挙げられるがこれらに限定されない。これらは全て、同じ操作されたウイルスを用いて生成されてもよいし、特定の金属もしくは金属酸化物についてなおより選択的なペプチドを同定するために、バイオパニングが使用されてもよい。あるいは、または、これに加え、2以上の金属の塩を含む溶液中で、操作されたファージをインキュベートすることによって、混合金属酸化物が生成され得る。
【0034】
図1は、実施例1に従って、室温にて、M13ウイルス骨格上で大きくしたCoナノチューブの透過電子顕微鏡画像を示す。この図面に示されるように、通常の酸化物ナノ粒子は、M13ウイルス上に均一に被覆されて、金属酸化物ナノチューブを生じる。この電子回折パターンは、酸化物の相がCoであることを示す。本発明の特定の実施形態に従って生成されたナノチューブは、わずか2〜3nm程度であり得る。Coナノチューブの例示的なサンプルは、約140m/gの表面積を示した。対照的に、いずれのウイルスも用いないか、または、野生型のM13ウイルスを用いて形成されたコバルト酸化物粒子は、不規則な形状であり、ナノチューブよりも有意に大きく、そして、Co、CoOおよびCoの混合物を含む。
【0035】
(ナノチューブのメソ多孔性薄膜への自己組織化)
上記ナノチューブは、リチウムイオン電池で使用するために、約10ナノメートル〜約100ミクロンの範囲(例えば、約10nmと約100nmとの間、約100nmと約1ミクロンとの間、約1ミクロンと約10ミクロンとの間、または約10ミクロンと約100ミクロンとの間)の薄膜として成型され得る。米国特許出願公開第20030073104号(その内容は参考として本明細書に援用される)は、フィルムを成型する例示的な方法を提供する。フィルムは、単にウイルスの溶液を乾燥させ、そのウイルスフィルムを放置することによって成型され得る。フィルムは、約1ミクロン〜約100ミクロンの厚みを有し得、この厚みは、所定の領域により多い量またはより少ない量のウイルス懸濁液を使用することによって制御され得る。ナノチューブは、原液(original solution)中のファージの濃度に依存して、例えば、液晶相として、フィルムにおいて短距離秩序または長距離秩序を示し得る。いくつかの実施形態において、約1014ファージ/mL〜約1014ファージ/μLの溶液が使用される。秩序の程度は、濃度とともに増加する。M13バクテリオファージは、その固有の異方性および単分散の特徴に起因して、液晶相で長距離秩序を示す。以前に、Belcherらは、pIIIを操作したウイルスをZnS前駆溶液に懸濁し、ウイルスZnSナノ結晶含有液晶懸濁液を形成したことを示している(8)。ZnSナノ結晶はウイルスの一端においてpIIIタンパク質に結合されるが、長い棒状のウイルスはその液晶挙動を維持し、制御された厚みでウイルスベースの薄膜に成型され得る。
【0036】
溶媒、ウイルス濃度、溶液のイオン強度に依存して、そして酸化コバルトおよび他の磁性材料、適用される外部磁場に対して、種々の液晶相(例えば、スメクチック相、コレステリック相およびネマチック相)が達成され得る。より低い濃度は、ネマチック相を生じるが、漸進的に濃度が高くなると、コレステリック相およびスメクチック相を生じる。溶液中のウイルスベースのナノチューブの濃度がネマチック相を形成するための臨界濃度より低い場合、ナノチューブは、成型フィルムにおいて液晶相を形成しない。ナノチューブ溶液の特定の液晶相は、その溶液から成型されたフィルムのメソ多孔性、メソ構造および機械的特性に影響する。これらすべてのパラメータは、ウイルスベースの薄膜電極の容量、寿命、エネルギー密度、および安定性に影響を与える。
【0037】
いくつかの実施形態において、ナノチューブが液晶に集合する必要はない。ランダムに配向したナノチューブの成型フィルムは、なお、強力で効率的な電池を製造するために必要な表面積および機械的特定を示し得る。操作されたウイルス上に特定の核生成によって集合されたナノチューブは、自発的に、自立ハイブリッドメソ多孔性薄膜に進化する。ナノチューブ間の間隔、微細構造、およびフィルムの厚みは、成型条件(例えば、濃度、温度、圧力および磁場)によって調節され得る。代替的な実施形態において、操作されたウイルスは、まずフィルムとして成型され、次いで、金属被覆(metallize)される。そのフィルムは、上記のように溶液に懸濁され、金属または金属ナノ粒子がウイルスに対してキレート化され、次いで酸化される。ファージの凝集(cohesion)は、フィルムが溶液に溶解することを防止し得る。フィルムは、そのフィルムがイオン電荷キャリアへの電子の移動およびイオン電荷キャリアからの電子の移動、ならびに電池の複数のセルにわたる電子の移動を妨げない限りは、任意の厚みであり得る。当業者は、フィルムの厚みが、フィルムを組み込む電池の内部抵抗を過度に増加することなくそのフィルムの物理的完全性を維持するように最適化され得ることを認識する。
【0038】
代替的な実施形態において、操作されたウイルスは、そのウイルスに金属酸化物および任意の伝導体を配位する前に、フィルムに集合される。この実施形態において、フィルムは、ウイルスの溶液を用いて成型され、その後、フィルムは、同じ条件化で加工され、そのウイルスに電子伝導体が結合され、金属酸化物が形成される。反応時間を改善するためにフィルムが浸される溶液の均一性を維持するために、穏やかな攪拌が使用され得る。
【0039】
(薄膜の使用)
上で議論されるように、本発明の実施形態に従って生成されるウイルスフィルムは、電池で使用され得る。Liイオン電池は、多くの場合、黒鉛アノード、液体もしくはポリマーの電解質、およびリチウムイオンを蓄積し得るカソード(例えば、遷移金属酸化物(例えば、酸化コバルト、酸化バナジウムまたは酸化ニッケル))を使用する。先行技術の電池では、リチウムイオンは、それ自体を酸化層の間にインターカレートする。本発明の種々の実施形態に従って生成された金属酸化物フィルムもまた、インターカレーションを通じてリチウムイオンを蓄積し得る。上記のように、フィルム内の粒子の移動性は、そのフィルムがクラッキングすることなくリチウムイオンを蓄積および放出することを可能にする。いかなる特定の仮説に制限されることなく、標準的な電気化学機構を通じて(例えば、フィルムにおけるリチウムの酸化、およびコバルトもしくは他の酸化金属の還元を通じて)、ナノチューブの表面に酸化リチウムが沈着することを介して、フィルムによって、リチウムイオンがさらに蓄積されることも考えられる。フィルム内のナノチューブの高い表面積は、リチウムイオンに対してさらなる反応部位を提供し、それによって、フィルムを含む電極の容量が増加する。
【0040】
当業者はまた、本発明の一実施形態に従う薄膜もまた、Liイオン電池のアノードで使用され得ることを認識する。別のウイルスベースの薄膜であろうと他の物質であろうと、カソードで使用される物質の電気化学ポテンシャルに関して、特定の金属酸化物の組成物が選択され得る。一般に、電池のアノードおよびカソード用の物質は、その電池が放電しているときにアノードでのリチウムの酸化およびカソードでのリチウムの還元がエネルギー的に好ましく、一方で、再充電中では逆の反応がエネルギー的に好ましいように、選択される。上記の遷移金属酸化物および非遷移金属酸化物のいずれかが、リチウムイオン電池のアノード側で使用するためにフィルムを形成するために使用され得る。いくつかの例示的な物質としては、コバルト、ニッケル、クロム、およびマンガンが挙げられる。当然のことながら、アノード材料およびカソード材料は、セルの2つの側の間の酸化還元電位において所望の差異を達成するように、互いに関して最適化され得る。
【0041】
ウイルスベースのフィルムが短距離秩序を示そうと長距離秩序を示そうと(あるいは何も示さなくても)、そのフィルムはまた、より高密度にパッケージされたウイルスの領域間の間隙によって規定されるメソ多孔性を示す。このメソ多孔性のメソ構造は、電池のエネルギー容量を改善し得る。ウイルスベースのナノチューブの内壁および外壁における大きい表面積は、リチウムの沈着およびインターカレーションを容易にし得、サイズの増加を必要とせずにその電池の容量を増加し得る。さらに、メソ多孔性は、電極の内部表面へのリチウムイオンのより速い輸送のための電解質チャネルとして機能し得、充電および放電の両方の動力学を改善し、そしてそのフィルムを使用する電池の内部抵抗を減少し得る。実際に、酸化物ナノチューブによるカチオンの効果的な取り込みおよび放出が研究され、高容量ナノチューブにおいてリチウムイオンのインターカレーションが報告された(3)。ウイルスベースのフィルムにおけるナノチューブ間の界面は、インターカレーション部位としても作用し得る。このメソ多孔性フィルムのこれらの固有の特徴は、電池容量を大きく改善し得る。
【0042】
本発明の一実施形態に従って生成される薄膜は、固形電解質および液体電解質の両方を組み込む電池とともに使用され得る。そのフィルムの可撓性および高い表面積/容積比はまた、異なる構成でのより小さい電池の製造を容易にし得る。上記フィルムは、種々の形状(例えば、シリンダ、ディスク、プリズムおよびベルト)で生成され得る。あるいは、またはさらに、本発明の一実施形態に従う薄膜は、電極材料(例えば、白金、銀または銅)に被覆され得、この材料は、回路の別の部分からその薄膜に電流を導くために使用され得る。電極材料基板は、固体またはメッシュ(特に、導電材料がフィルム中に含まれる場合)であり得る。ウイルスベースの薄膜電極は、可撓性かつ延性であり、高容量および特定のエネルギー密度を示す。携帯電話およびラップトップコンピュータの小型化が続いているにもかかわらず、携帯用デバイスの最も大きくかつ最も重い部品がその電池であり続けている。本発明の一実施形態に従う薄膜は、より小さいデバイスのためのより小さく、より可撓性で軽い電池を作製するために使用され得る。
【0043】
電池の電極によって果たされる2つの目的は、電子の伝導、およびイオン電荷キャリア(例えば、リチウム)の酸化または還元のための部位を提供することである。ナノチューブが酸化物および電子伝導体の両方を組み込んで生成される場合、フィルムは、固体電解質として使用するためにより伝統的な電極材料(例えば、黒鉛)に成型され得るか、またはそれ自体が電極として使用され得る。電池において種々のセルを接続するために、金属製のリードを使用することが望ましくあり得る。
【0044】
(Liイオン電池を作製するためのペプチドの使用)
別の実施形態において、ウイルスから分離したペプチドが、電池で使用するための金属酸化物層を生成するために使用され得る。例えば、カルボキシル化されたペプチド配列が電極材料に単層として固定され、金属酸化物層の形成を支持するために使用され得る。一実施形態において、カルボキシル化されたペプチドは、アルカンチオールまたはポリシステインペプチドに結合される。チオール化された(thiolated)分子は、多くの金属(金およびニッケルが挙げられる)に容易に結合する。Whitesides,Proceedings of the Robert A. Welch Foundation 39th Conference On Chemical Research Nanophase Chemistry,Houston,Tex.,109−121頁(1995)を参照のこと。あるいはカルボキシル化された配列および所望の基板に選択的に結合する配列を含むペプチドが、電極材料を被覆するために使用される。特定の基板に選択的であるいくつかの例示的な配列は、例えば、Sarikayaら、Nature Materials,(2003)Vol.2,pp577−585(その全体は参考として本明細書に援用される)に報告されている。その他のものは、上記のバイオパニングを使用して同定され得る。
【0045】
別の実施形態において、遊離のペプチドが、金属酸化物ナノ粒子を形成するために使用され得る。例えば、ペプチドは、Fmocベースの固相合成を用いて合成され得、そして電気化学技術が、その構造がペプチドによって調節される金属酸化物ナノ粒子を形成するために使用され得る。一実施形態において、電気化学セルは、その酸化物がガラスフリットによって電解質から分離されるアノード液およびカソード液区画でアノードおよびカソードとして形成される物質を用いて構成される。NaCl溶液(例えば、約1M
)が電解質として使用される。ペプチドは、低濃度(例えば、10nM〜15nM)で電解質に添加される。セルは、低い電流(例えば、約10mA)で、短時間(例えば、1分)、ガルバニ型で(galvanically)作動されて、金属イオンが生成される。Daiら、Electrochemical and Biomimetic Synthesis and Organization of Hybrid Protein−Inorganic Nanostructures,JACS,(2005)10.1021/ja055499h(その内容は参考として本明細書に援用される)を参照のこと。
【実施例】
【0046】
Coナノチューブを、塩化コバルト水溶液中のpVIII被膜で配列E4を発現するように操作したウイルスを30分間室温でインキュベートして、コバルトイオンをカルボキシル化されたペプチド融合体にキレート化することによって、調製した。ホウ化水素ナトリウムを使用して、コバルトイオンをコバルト金属に還元した。このコバルト金属は、水中で自発的に酸化して、単分散の結晶性酸化コバルトナノチューブを形成した。このナノチューブでフィルムを形成し、白金電極に配置した。この電極を使用して、アノードとしてリチウム金属箔を使用するLiイオン電池を調製した。炭酸エチレンと炭酸ジメチル(体積で1:1)における1M LiPF6で飽和したCelgard(登録商標)2400フィルムを、電解質として使用した。この電池を、MACCOR自動試験機器を用いて、3Vと0.01Vとの間でサイクルさせた。この電池の容量およびこの電池によって送達される電圧は、図2Aおよび2Bに示される。
【0047】
酸化コバルトおよび金の両方を組み込むナノチューブを、ファージミド系を用いてE4ファージで金結合ペプチド(LKAHLPPSRLPS)(配列番号2)をディスプレイすることによって調製した。この金結合ペプチドは、E4ファージのpVIIIタンパク質の約20%で存在した。5nmの金粒子n溶液を、Ted Pellaから入手し、操作したウイルスとともに約2時間インキュベートした。次いで、このファージを、上記のように加工して、金−酸化コバルトナノチューブを生成した。このファージを1014ファージ/mL溶液からフィルムに成型し、上記のような電池に形成した。得られたフィルムのTEM顕微鏡写真は、図3Aに示される。このフィルムを組み込むLiイオンセルについてのサイクリングによる容量の変化は、図3Bにプロットされる。
【0048】
(参考文献)
1) J.−M.Tarascon and M.Armand,「Issue and challenges facing rechargeable lithium batteries」,Nature 414,359−367(2001)
2) G.Che,B.B.Lakshmi,E.R.Fisher and C.R.Martin,「Carbon nanotuble membranes for electrochemical energy storage and production」,Nature 393,346−349(1998)
3) Y.Zhou,L.Cao,F.Zhang,B.He,H.Li,「Lithium insertion into TiO nanotube prepared by the hydrothermal process」,J.Electrochem.Soc.150,A 1246−A1249(2003)
4) J.R.Dahn,U.Von Sacken,M.W.Juzkow,H.Al−Janaby,「Rechargeable LiNiO/carbon cells」,J.Electrochem.Soc.138,2207−2211(1991)
5) G.Yuan,M.V.Yakovleva,W.B.Ebner,「Novel LiNi1−xTi/2Mg/2O compounds as cathode materials for safer lithium−ion batteries」,Electrochem.Solid State Lett.1,117−119(1998)
6) B.Ammundsen,et al.,Proc.Int.Symp.Electrochem.Soc.Vol.99−24,57−67(ECS,Pennington,NJ,2000)
7) W.Donga,D.R.Rolison,B.Dunn,「Electrochemical properties of high surface area vanadium oxides aerogels」,Electrochem.Solid State Lett.3,457−459(2000)
8) J.Ni,S.−W.Lee,J.M.White,A.M.Belcher,「Molecular orientation of a ZnS−nanocrystal−modified M13 virus on a silicon substrate」,J.Polym.Sci.part B:Polym.Phys.42,629−635(2004)
9) C.Mao,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.100,6946(2003)。
【0049】
本発明の他の実施形態は、本明細書の考慮、または本明細書に開示される本発明の実施から、当業者に明らかである。本明細書および実施例は、例示のみとして考えられ、本発明の真の範囲および精神が添付の特許請求の範囲によって示されることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0050】
本発明が、添付の図面の数種の図面を参照して記載される。
【図1】図1は、ウイルスベースのCO3O4ナノチューブの透過型電子顕微鏡画像である。
【図2A】図2Aは、本発明の一実施形態に従う酸化コバルトナノ粒子の薄膜を備える電気化学セルのサイクリングによる比容量の変化を示すグラフである。
【図2B】図2Bは、本発明の一実施形態に従う酸化コバルトナノ粒子の薄膜を備える電気化学セルのサイクリングによる電圧の変化を示すグラフである。
【図3A】図3Aは、本発明の一実施形態に従う酸化コバルト/金ナノ粒子の薄膜の透過型電子顕微鏡写真である。
【図3B】図3Bは、本発明の一実施形態に従う酸化コバルト/金ナノ粒子の薄膜を備える電気化学セルのサイクリングによる比容量の変化を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一ペプチドに配位した金属酸化物を含有する組成物であって、該第一ペプチドは、該金属の還元形態に対して親和性を示す、組成物。
【請求項2】
前記金属が、遷移金属を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記金属が、コバルト、バナジウム、ニッケル、マンガン、鉄、カドミウム、タングステン、クロム、ジルコニウム、チタン、スカンジウム、イットリウム、銅、カルシウム、アルミニウム、バリウム、ベリリウム、マグネシウムおよびストロンチウムから選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記金属酸化物が、酸化された金属ナノ粒子である、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記金属酸化物が、リチウムイオンをインターカレートし得る、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記第一ペプチドが、カルボキシル化されたアミノ酸を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
配列が、AEEEEDであり、そして、前記金属が、コバルトである、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
前記ペプチドが、ウイルスの一部である、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
さらに、第二ペプチドを含有し、該第二ペプチドが、銅、ニッケル、金、銀、白金およびパラジウムから選択される所定の金属に選択的に結合する、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
前記第二ペプチドが、LKAHLPPSRLPSであり、そして、前記所定の金属が、金である、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
前記所定の金属をさらに含有する、請求項9に記載の組成物。
【請求項12】
前記所定の金属が、前記ウイルスのタンパク質被膜に配位された金属の約1%と約30%との間である、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
前記所定の金属が、前記ウイルスのタンパク質被膜に配位された金属の約15%と約30%との間である、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
前記ウイルス上の所定の被膜タンパク質の第一部分が、前記第一ペプチドを含み、該所定の被膜タンパク質の第二部分が、前記第二ペプチドを含む、請求項9に記載の組成物。
【請求項15】
前記第一ペプチドが、第一の所定の被膜タンパク質の一部であり、前記第二ペプチドが、第二の所定の被膜タンパク質の一部である、請求項9に記載の組成物。
【請求項16】
金属イオンに対する親和性を示す第一ペプチドを提供する工程;
該第一ペプチドに金属を配位させる工程;および
該配位させた金属を酸化して、該金属酸化物のクリスタライトを形成する工程
によって生成される、組成物。
【請求項17】
前記金属が、遷移金属を含む、請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
前記金属が、コバルト、バナジウム、ニッケル、マンガン、鉄、カドミウム、タングステン、クロム、ジルコニウム、チタン、スカンジウム、イットリウム、銅、カルシウム、アルミニウム、ベリリウム、マグネシウムおよびストロンチウムのうちの1種以上である、請求項16に記載の組成物。
【請求項19】
前記クリスタライトが、2nmと1000nmとの間のサイズを有する、請求項16に記載の組成物。
【請求項20】
前記第一ペプチドを提供する工程が、該第一ペプチドをディスプレイするウイルス集団を提供する工程を含む、請求項16に記載の組成物。
【請求項21】
請求項20に記載の組成物であって、前記ウイルスの実質的に全てが、該組成物から除去される、組成物。
【請求項22】
前記ウイルス集団はまた、銅、ニッケル、金、銀、白金およびパラジウムのうちの1種以上と選択的に結合する第二ペプチドを含む、請求項20に記載の組成物。
【請求項23】
前記第二ペプチドが、LKAHLPPSRLPSであり、そして、該第二ペプチドが、金に選択的に結合する、請求項22に記載の組成物。
【請求項24】
銅、ニッケル、金、銀、白金およびパラジウムから選択される遷移金属を、前記第二ペプチドに配位させる工程をさらに包含する、請求項22に記載の組成物。
【請求項25】
請求項24に記載の組成物であって、銅、ニッケル、金、銀、白金およびパラジウムから選択される前記遷移金属が、該組成物中の金属の約1%と約30%との間である、組成物。
【請求項26】
前記第一ペプチドが、カルボキシル化されたアミノ酸を含む、請求項16に記載の組成物。
【請求項27】
前記配列が、AEEEEDであり、そして、前記遷移金属がコバルトである、請求項26に記載の組成物。
【請求項28】
請求項1または16に記載の組成物を含む、フィルム。
【請求項29】
長距離秩序または短距離秩序を示す、請求項28に記載のフィルム。
【請求項30】
長距離秩序を示さない、請求項28に記載のフィルム。
【請求項31】
短距離秩序を示さない、請求項28に記載のフィルム。
【請求項32】
請求項28に記載のフィルムであって、該フィルムが、約10nmと約10μmとの間の厚みである、フィルム。
【請求項33】
リチウムイオン電池であって、以下:
電極と;
該電極に隣接して配置されたリチウム蓄積層であって、該リチウム蓄積層は、請求項1または16に記載の組成物を含有する、リチウム蓄積層と
を備える、リチウムイオン電池。
【請求項34】
前記リチウム蓄積層に隣接した電極材料をさらに備え、該リチウム蓄積層は、該電極材料と前記電極との間に配置される、請求項33に記載の電池。
【請求項35】
前記電極が、固体または流体である、請求項33に記載の電池。
【請求項36】
薄膜の生成方法であって、該方法は、以下:
複数のナノチューブを提供する工程であって、該ナノチューブは、金属酸化物が配位されたウイルスを含む、工程;および
該複数のナノチューブをフィルムへと成型する工程
を包含する、方法。
【請求項37】
請求項36に記載の方法であって、前記複数のナノチューブを提供する工程が、以下:
金属に対する親和性を示す第一ペプチドを含むウイルス集団を提供する工程;
該第一ペプチドに金属を配位させる工程;および
該配位させた金属を酸化して、該ウイルスの周りに配置される該金属酸化物のクリスタライトを形成する工程
を包含する、方法。
【請求項38】
前記第一ペプチドが、カルボキシル化されたアミノ酸を含む、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記第一ペプチドが、AEEEEDであり、そして、前記遷移金属酸化物が、Coである、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記ウイルス集団が、さらに、銅、ニッケル、金、銀、白金およびパラジウムのうちの1種以上と選択的に結合する第二ペプチドを含み、そして、前記複数のナノチューブを提供する工程が、さらに、銅、ニッケル、金、銀、白金およびパラジウムのうちの1種以上を、該第二ペプチドに配位させる工程を包含する、請求項37に記載の方法。
【請求項41】
前記第二ペプチドが、LKAHLPPSRLPSであり、そして、該第二ペプチドが、金に選択的に結合する、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記ナノチューブから前記ウイルスの実質的に全てを除去する工程をさらに包含する、請求項37に記載の方法。
【請求項43】
前記フィルムが、約10nmと約10μmとの間の厚みである、請求項36に記載の方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【公表番号】特表2008−517070(P2008−517070A)
【公表日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−538090(P2007−538090)
【出願日】平成17年10月19日(2005.10.19)
【国際出願番号】PCT/US2005/037980
【国際公開番号】WO2006/045076
【国際公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【出願人】(504348998)マサチューセッツ インスティテュート オブ テクノロジー (10)
【Fターム(参考)】